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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】液体封入マウント装置
(51)【国際特許分類】
   F16F 13/10 20060101AFI20220114BHJP
【FI】
F16F13/10 K
F16F13/10 J
【請求項の数】 1
(21)【出願番号】P 2018013628
(22)【出願日】2018-01-30
(65)【公開番号】P2019132320
(43)【公開日】2019-08-08
【審査請求日】2020-12-01
(73)【特許権者】
【識別番号】000005348
【氏名又は名称】株式会社SUBARU
(74)【代理人】
【識別番号】100100354
【弁理士】
【氏名又は名称】江藤 聡明
(72)【発明者】
【氏名】平尾 敏廣
(72)【発明者】
【氏名】矢吹 直人
(72)【発明者】
【氏名】莊司 武
(72)【発明者】
【氏名】小暮 勝
(72)【発明者】
【氏名】齊藤 正容
(72)【発明者】
【氏名】中野 真介
【審査官】鵜飼 博人
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-205606(JP,A)
【文献】特開2013-256980(JP,A)
【文献】特開2013-148192(JP,A)
【文献】特開2016-138615(JP,A)
【文献】特開昭61-062632(JP,A)
【文献】特開2016-003665(JP,A)
【文献】実開平03-001341(JP,U)
【文献】米国特許出願公開第2009/0140476(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 11/00- 13/30
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
減衰流路を介して連結され、夫々液体が封入された第1液室及び第2液室を有し、それら液室の少なくとも一方が弾性変形可能に構成された液体封入マウント装置において、
前記第1液室及び第2液室の間に両液室を仕切るように形成され且つ第1液室とも第2液室とも区画された中間室と、
前記中間室と第1液室との区画部に形成され、該中間室と第1液室とを連通する第1連通開口部と、
前記中間室と第2液室との区画部に形成され、該中間室と第2液室とを連通する第2連通開口部と、
前記中間室の内部に設けられ、前記第1連通開口部及び第2連通開口部から流入する前記液体によって揺動し、前記第1連通開口部からの液体流入時には前記第2連通開口部の少なくとも一部及び前記第2連通開口部からの液体流入時には前記第1連通開口部の少なくとも一部の少なくとも一方を閉塞する揺動部材とを備え
前記揺動部材は、自体が前記揺動時に第1連通開口部及び第2連通開口部を閉塞する膜体であり、
前記膜体又は区画部に設けられ、前記第1連通開口部から流入する液体によって前記膜体が揺動する場合と前記第2連通開口部から流入する液体によって前記膜体が揺動する場合との何れか一方の場合にのみ区画部又は膜体に当接して該区画部と膜体との間に隙間を形成せしめ、双方の場合における該膜体による前記第1連通開口部の閉塞面積と前記第2連通開口部の閉塞面積とが異なるように前記膜体の揺動動作を規制する規制部を備えたことを特徴とする液体封入マウント装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体封入マウント装置、特に、車両用エンジンを車体に搭載するのに好適な液体封入マウント装置に関する。
【背景技術】
【0002】
車両用エンジンと車体の間に介装される液体封入マウント装置では、区画された第1液室及び第2液室に液体を封入すると共に、第1液室と第2液室の間に減衰流路を形成して構成される。これら第1液室及び第2液室の少なくとも一方は弾性変形可能な構成とされ、エンジンと車体が相対変位を生じた場合に、封入された液体が減衰流路を流動する際、振動入力が減衰されるようになっている。こうした液体封入マウント装置は、実に多様なものが開発されている中で、エンジンマウント用の液体封入マウント装置としては、例えば、下記特許文献1に記載されるものがある。この液体封入マウント装置では、第1液室と第2液室の間の仕切り板に両液室を連通する開口を形成し、この開口内に弾性変形可能な弾性板を配設し、この弾性板と開口の内縁の間に減衰流路を形成している。この液体封入マウント装置では、第1液室と第2液室間の差圧が大きくなると、弾性板の端部が仕切り板の開口から何れかの液室側に突出し、これにより弾性板と開口の間の減衰流路の断面積が著しく拡大するので、大振動(大荷重)入力時の内圧低下に伴うキャビテーションパルスの発生を防止することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2010-112458号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記特許文献1に記載される液体封入マウント装置は、大振動入力時のキャビテーションパルスの発生を防止することを主眼とするものであるのに対し、実際のエンジンマウント用の液体封入マウント装置では、走行速度や路面状態により、バネ定数とエンジン重量で決まる固有振動数でエンジンが共振することによる特定の振動ピークを低減することが重要である。そのためには、液体封入マウント装置による振動入力に対する減衰特性を細かく設定できる構造が必要となるが、そうした構造を有する液体封入マウント装置は未だ十分に開発されていない。
【0005】
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的は、減衰特性を細かく設定することが可能な液体封入マウント装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための液体封入マウント装置は、
減衰流路を介して連結され、夫々液体が封入された第1液室及び第2液室を有し、それら液室の少なくとも一方が弾性変形可能に構成された液体封入マウント装置において、前記第1液室及び第2液室の間に両液室を仕切るように形成され且つ第1液室とも第2液室とも区画された中間室と、前記中間室と第1液室との区画部に形成され、該中間室と第1液室とを連通する第1連通開口部と、前記中間室と第2液室との区画部に形成され、該中間室と第2液室とを連通する第2連通開口部と、前記中間室の内部に設けられ、前記第1連通開口部及び第2連通開口部から流入する前記液体によって揺動し、前記第1連通開口部からの液体流入時には前記第2連通開口部の少なくとも一部及び前記第2連通開口部からの液体流入時には前記第1連通開口部の少なくとも一部の少なくとも一方を閉塞する揺動部材とを備えたことを特徴とする。
【0007】
この構成によれば、第1連通開口部及び第2連通開口部の形成位置や大きさといった開口状態、或いは揺動部材の揺動動作の規制状態を種々に変更することによって、揺動部材による第2連通開口部閉塞状態及び第1連通開口部閉塞状態を種々に調整することができ、これにより第1連通開口部又は第2連通開口部から中間室を経て第2連通開口部又は第1連通開口部に流動する液体の流動状態、即ち減衰特性を種々に設定することができるので、例えば圧縮方向と伸長方向とで振動入力に対する減衰特性を変えることができるといったように、マウント装置の減衰特性を細かく設定することが可能となる。
【0008】
また、前記揺動部材が膜体であり、前記第1連通開口部から流入する液体によって前記膜体が揺動する場合と前記第2連通開口部から流入する液体によって前記膜体が揺動する場合とで、該膜体による前記第1連通開口部の閉塞面積と前記第2連通開口部の閉塞面積とが異なるように前記第1連通開口部及び第2連通開口部の開口状態が設定されて構成されたことを特徴とする。
【0009】
この構成によれば、揺動部材が膜体からなり、第1連通開口部及び第2連通開口部の形成位置及び大きさといった開口状態を適宜設定することにより、第1連通開口部から液体が流入する場合と第2連通開口部から液体が流入する場合とで膜体による第1連通開口部閉塞面積と第2連通開口部閉塞面積とが異なるものとしたので、例えば圧縮方向と伸長方向とで振動入力に対する減衰特性を変えることができ、これによりマウント装置の減衰特性を細かく設定することができる。
【0010】
また、前記揺動部材が膜体であり、前記第1連通開口部から流入する液体によって前記膜体が揺動する場合と前記第2連通開口部から流入する液体によって前記膜体が揺動する場合とで、該膜体による前記第1連通開口部の閉塞面積と前記第2連通開口部の閉塞面積とが異なるように前記膜体の揺動動作を規制する規制部を備えたことを特徴とする。
【0011】
この構成によれば、揺動部材が膜体からなり、膜体の揺動動作を規制する規制部により、第1連通開口部から液体が流入する場合と第2連通開口部から液体が流入する場合とで膜体による第1連通開口部閉塞面積と第2連通開口部閉塞面積とが異なるものとしたので、例えば圧縮方向と伸長方向とで振動入力に対する減衰特性を変えることができ、これによりマウント装置の減衰特性を細かく設定することができる。
【0012】
また、前記膜体は、前記第1連通開口部及び第2連通開口部の何れか一方からの液体流入時に前記第2連通開口部又は第1連通開口部を完全に閉塞することを特徴とする。
【0013】
この構成によれば、膜体によって第2連通開口部又は第1連通開口部が完全に閉塞されるときに大きな減衰力を発現することが可能となり、その分だけ、マウント装置の減衰特性を細かく設定することができる。
【発明の効果】
【0014】
以上説明したように、本発明によれば、第1連通開口部及び第2連通開口部の開口状態、或いは揺動部材の揺動動作の揺動規制状態を種々に変更することによって、閉塞構造における第2開口部閉塞状態及び第1開口部閉塞状態を種々に調整することができ、これにより第1連通開口部又は第2連通開口部から中間室を経て第2連通開口部又は第1連通開口部に流動する液体の流動状態、即ち減衰特性を種々に設定することができるので、例えば圧縮方向と伸長方向とで振動入力に対する減衰特性を変えることができるといったように、マウント装置の減衰特性を細かく設定することが可能となる。従って、エンジンを車体にマウントする場合には、エンジンの固有振動数に伴う振動ピークを低減することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の液体封入マウント装置の第1の実施の形態を示す断面図である。
図2図1の液体封入マウント装置の閉塞構造の説明図である。
図3図1の液体封入マウント装置の閉塞構造の変形例の説明図である。
図4】本発明の液体封入マウント装置の第2の実施の形態を示す断面図である。
図5図4の液体封入マウント装置の閉塞構造の説明図である。
図6】本発明の液体封入マウント装置の第3の実施の形態を示す断面図である。
図7図6の液体封入マウント装置の閉塞構造の説明図である。
図8図6の液体封入マウント装置の閉塞構造の変形例の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下に、本発明の液体封入マウント装置の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。図1は、本発明の液体封入マウント装置の第1の実施の形態を示す断面図である。この液体封入マウント装置は、例えば、振動源となるエンジンに連結される例えば略逆円錐台形状の第1取付部材10と、車体に連結される略円筒形状の第2取付部材12を有する。これら第1取付部材10及び第2取付部材12は、例えば共に金属製であり、第1取付部材10は図の上方に、第2取付部材12は、第1取付部材10と同心状態で図の下方に配置される。この第1取付部材10と第2取付部材12は、第2取付部材12の第1取付部材10側開口部、つまり図示上側開口部を閉塞するようにして、内部が中空の円錐台形状のインシュレータ14によって連結されている。このインシュレータ14は、例えばゴムなどの弾性材料で構成され、第1取付部材10及び第2取付部材12を液密に連結している。また、第2取付部材12の第1取付部材10と反対側の開口部、つまり図示下側開口部は、比較的薄膜のダイヤフラム16で閉塞されている。このダイヤフラム16も、例えばゴムなどの弾性材料で構成され、第2取付部材12の図示下方開口部を液密に閉塞している。なお、ダイヤフラム16の外周には金属製のリング部材18が取付けられており、第2取付部材12の下端部をリング部材18側に加締めることでダイヤフラム16が第2取付部材12の図示下側開口部を閉塞している。
【0017】
これにより、インシュレータ14とダイヤフラム16の間には、内部空間が形成されるが、この内部空間は例えば樹脂製又は金属製円形厚板状の仕切り部材20によって図示上下に仕切られ、仕切り部材20より図の上方に第1液室22が、図の下方に第2液室24が、夫々、区画形成されている。これら区画された第1液室22及び第2液室24には液体が封入され、円形厚板形状の仕切り部材20の外周部には、第1液室22及び第2液室24に連通するオリフィスなどの減衰流路26が形成されている。この実施の形態では、弾性材料からなるインシュレータ14によって第1液室22が囲繞され、同じく弾性材料からなるダイヤフラム16によって第2液室24が囲繞されているため、第1液室22及び第2液室24が共に弾性変形する。従って、例えば第1取付部材10がエンジンに連結され、第2取付部材12が車体に連結され、振動入力によってエンジンと車体に相対変位が生じると、内部に封入された液体が減衰流路26を流動し、その流動に伴って振動入力が減衰される。この減衰流路26は、例えば突起乗り越え時などの大振動入力に対して、主要な減衰特性を発現するためのものである。ここでは、第1液室22内から第2液室24側に液体が流動する場合を圧縮側、第2液室24内から第1液室22側に液体が流動する場合を伸長側とも示す。
【0018】
この仕切り部材20の径方向中央部で且つ厚さ方向中央部、つまり第1液室22と第2液室24の間には、第1液室22とも第2液室24とも区画された例えば四角柱空間形状の中間室28が形成されている。この中間室28は、高さ(厚さ)が比較的小さい。ここでは、中間室28よりも図示上側に形成された仕切り部材20の第1区画壁31が第1液室22と中間室28の区画部を構成し、中間室28よりも図示下側に形成された仕切り部材20の第2区画壁33が第2液室24と中間室28の区画部を構成する。また、この中間室28の高さ(厚さ)方向中央部には、揺動部材を構成する膜体(メンブレン)30が図の右壁部から突設されている。この実施の形態の揺動部材は、例えば中間室28の図示左右方向寸法の半分よりも少し長い長さを有する例えば平面視方形の膜体30で構成される。この膜体30は、例えばゴムなどの弾性及び可撓性を有する材料からなり、揺動部材として、主として図の上下方向に揺動する。
【0019】
そして、中間室28を第1液室22から区画する第1区画壁31には、第1液室22と中間室28を連通する第1連通開口部32が形成され、中間室28と第2液室24から区画する第2区画壁33には、第2液室24と中間室28を連通する第2連通開口部34が形成されている。この第1連通開口部32及び第2連通開口部34の開口状態、つまり形成位置や大きさ、形状は、後述するように、種々に設定することが可能であるが、原則として、第1液室22内の液体が第1連通開口部32から中間室28に流れ込んだ場合には膜体30からなる揺動部材が第2区画壁33側、つまり第2連通開口部34側に揺動し、第2液室24内の液体が第2連通開口部34から中間室28に流れ込んだ場合には膜体30からなる揺動部材が第1区画壁31側、つまり第1連通開口部32側に揺動するように設定する。この実施の形態では、第1区画壁31の図示右寄りに比較的開口面積の小さい第1連通開口部32を2個開設し、第2区画壁33の図示左寄りに比較的開口面積の大きい第2連通開口部34を1個開設している。後述するように、これら第1連通開口部32及び第2連通開口部34は、膜体30からなる揺動部材が第2連通開口部34又は第1連通開口部32から流れ込む液体によって揺動することで少なくとも一部が閉塞される(閉塞されない場合もある)。
【0020】
図2は、図1の中間室28、膜体(揺動部材)30、第1連通開口部32(第1区画壁31)、第2連通開口部34(第2区画壁33)を抽出した作用の説明図である。何れも、図の上方が第1液室22、図の下方が第2液室24に相当する。第1液室22と第2液室24の液体に差圧がない場合、つまり第1液室22及び第2液室24間で液体の流動がない場合、図2(A)に示すように、膜体30からなる揺動部材は自己復元力によって中間室28の高さ(厚さ)方向中央部に浮いた状態となり、第1区画壁31の第1連通開口部32も第2区画壁33の第2連通開口部34も全開口面積が開口している。
【0021】
この状態から、エンジン-車体間が伸長して第2連通開口部34から中間室28に第2液室24内の液体が流れ込むと、その液体に押されて、膜体30からなる揺動部材が中間室28内を図示上方、つまり第1区画壁31側に揺動する。その結果、第1区画壁31の第1連通開口部32は、図2(B)に示すように、2個とも、膜体30からなる揺動部材によって完全に閉塞される。従って、特に第1連通開口部32が閉塞されるときに、第2連通開口部34から中間室28を経て第1液室22に流れようとする液体の流れが抑止され、エンジン-車体間の伸長に伴う振動入力が大きく減衰される(大きな減衰力が発現される)。
【0022】
一方、図2(A)の状態から、エンジン-車体間が圧縮して第1連通開口部32から中間室28に第1液室22内の液体が流れ込むと、その液体に押されて、膜体30からなる揺動部材が中間室28内を図示下方、つまり第2区画壁33側に揺動する。その結果、第2区画壁33の第2連通開口部34は、図2(C)に示すように、膜体30からなる揺動部材によって図示右方端部のみが少し閉塞される。従って、第1連通開口部32から中間室28に流れ込んだ液体は、ほぼそのまま第2連通開口部34から第2液室24内に流れ、エンジン-車体間の圧縮に伴う振動入力は、減衰されないか、又は少し減衰される。
【0023】
周知のように、例えば区画壁に形成された比較的面積の小さい連通開口部を液体が流動すると、その流動に伴って流動抵抗が生じる。従って、振動入力によって液体が連通開口部を流動する場合には、振動入力に対して幾らか減衰が生じる。このことから、例えば図2(C)に示すように、第1連通開口部32から中間室28に流れ込んだ液体がほぼそのまま第2連通開口部34から第2液室24内に流れるような場合であっても、例えば第1連通開口部32の開口面積や開口形状などの開口状態によって振動入力を減衰することもできる。同様に、膜体30からなる揺動部材による第2連通開口部34の閉塞状態、或いは膜体30からなる揺動部材の剛性や可撓性などによっても、振動入力に対する減衰が生じる。また、液体の粘性・慣性によっても減衰特性が変わる。こうした減衰特性は、例えば周知の解析ソフトウエアによって、比較的簡易に求めることができるので、所望する減衰特性が発生されるように、例えば連通開口部の開口状態や閉塞状態、揺動部材の材料特性、液体の特性を設定することができる。
【0024】
図3は、図1の閉塞構造の変形例を示す作用の説明図である。この変形例では、第1区画壁31の図示右寄りに比較的開口面積の小さい第1連通開口部32を1個開設し、第2区画壁33の図示左寄りに比較的開口面積の小さい第2連通開口部34を1個開設している。この変形例でも、第1液室22と第2液室24の液体に差圧がない場合、つまり第1液室22及び第2液室24間で液体の流動がない場合、図3(A)に示すように、膜体30からなる揺動部材は自己復元力によって中間室28の高さ(厚さ)方向中央部に浮いた状態となり、第1区画壁31の第1連通開口部32も第2区画壁33の第2連通開口部34も全開口面積が開口している。
【0025】
この状態から、エンジン-車体間が伸長して第2連通開口部34から中間室28に第2液室24内の液体が流れ込むと、その液体に押されて、膜体30からなる揺動部材が中間室28内を図示上方、つまり第1区画壁31側に揺動する。その結果、第1区画壁31の第1連通開口部32は、図3(B)に示すように、膜体30からなる揺動部材によって完全に閉塞される。従って、特に第1連通開口部32が閉塞されるときに、第2連通開口部34から中間室28を経て第1液室22に流れようとする液体の流れが抑止され、エンジン-車体間の伸長に伴う振動入力が大きく減衰される(大きな減衰力が発現される)。
【0026】
一方、図3(A)の状態から、エンジン-車体間が圧縮して第1連通開口部32から中間室28に第1液室22内の液体が流れ込むと、その液体に押されて、膜体30からなる揺動部材が中間室28内を図示下方、つまり第2区画壁33側に揺動する。しかしながら、中間室28内を下方に揺動した膜体30からなる揺動部材が第2区画壁33に当接しても、図3(C)に示すように、揺動部材を構成する膜体30は第2連通開口部34に届かず、第2連通開口部34は全開口面積が開口し続ける。従って、第1連通開口部32から中間室28に流れ込んだ液体は、そのまま第2連通開口部34から第2液室24内に流れ、エンジン-車体間の圧縮に伴う振動入力は、図2(C)の説明と同様に、減衰されないか、又は少し減衰される。
【0027】
図4は、本発明の液体封入マウント装置の第2の実施の形態を示す断面図である。この実施の形態の液体封入マウント装置は、上記第1の実施の形態の液体封入マウント装置と類似している。具体的には、膜体(揺動部材)30、第1連通開口部32(第1区画壁31)、第2連通開口部34(第2区画壁33)などを含む中間室28の構造が異なるだけで、他は同等である。そこで、同等の構成には同等の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0028】
この実施の形態の中間室28は、図1の中間室28よりも、図示左右方向の寸法が大きく、その左右両壁部から中央部に向けて、夫々1つずつ、同形状の膜体30からなる揺動部材が突設されている。揺動部材を構成する膜体30の図示左右方向の長さは、中間室28の図示左右方向の寸法の半分未満である。また、第1区画壁31には、図示左右両側寄りと中央部に、計3個の第1連通開口部32が開設され、第2区画壁33には、図示左右両側寄りに、夫々1個ずつ、第2連通開口部34が開設されている。第1連通開口部32の開口面積は、全て同等で且つ比較的小さく、第2連通開口部34の開口面積は、2個とも同等で且つ第1連通開口部32の開口面積よりもやや大きい。
【0029】
図5は、図4の中間室28、膜体(揺動部材)30、第1連通開口部32(第1区画壁31)、第2連通開口部34(第2区画壁33)を抽出した作用の説明図である。何れも、図の上方が第1液室22、図の下方が第2液室24に相当する。第1液室22と第2液室24の液体に差圧がない場合、つまり第1液室22及び第2液室24間で液体の流動がない場合、図5(A)に示すように、膜体30からなる2つの揺動部材は自己復元力によって中間室28の高さ(厚さ)方向中央部に浮いた状態となり、第1区画壁31の第1連通開口部32も第2区画壁33の第2連通開口部34も全開口面積が開口している。
【0030】
この状態から、エンジン-車体間が伸長して第2連通開口部34から中間室28に第2液室24内の液体が流れ込むと、その液体に押されて、膜体30からなる揺動部材が中間室28内を図示上方、つまり第1区画壁31側に揺動する。その結果、第1区画壁31の第1連通開口部32のうち、図示左右寄りの第1連通開口部32は、図5(B)に示すように、膜体30からなる揺動部材によって完全に閉塞されるが、図示中央部の第1連通開口部32は開口したままである。従って、図示中央部の第1連通開口部32から中間室28に流れ込んだ液体は、そのまま第2連通開口部34から第2液室24内に流れ、エンジン-車体間の伸長に伴う振動入力は、図2(C)の説明と同様に、減衰されないか、又は少し減衰される。
【0031】
一方、図5(A)の状態から、エンジン-車体間が圧縮して第1連通開口部32から中間室28に第1液室22内の液体が流れ込むと、その液体に押されて、膜体30からなる揺動部材が中間室28内を図示下方、つまり第2区画壁33側に揺動する。その結果、第2区画壁33の第2連通開口部34は、図5(C)に示すように、2個とも、膜体30からなる揺動部材によって完全に閉塞される。従って、特に第2連通開口部34が閉塞されるときに、第1連通開口部32から中間室28を経て第2液室24に流れようとする液体の流れが抑止され、エンジン-車体間の圧縮に伴う振動入力が大きく減衰される(大きな減衰力が発現される)。
【0032】
このように、これらの実施の形態では、第1液室22とも第2液室24とも区画された中間室28を第1液室22及び第2液室24の間に形成し、中間室28と第1液室22を連通する第1連通開口部32を中間室28と第1液室22の第1区画壁31に形成すると共に、中間室28と第2液室24を連通する第2連通開口部34を中間室28と第2液室24との第2区画壁33に形成し、第1連通開口部32又は第2連通開口部34から流入する液体によって揺動する膜体(揺動部材)30を中間室28の内部に設ける。
【0033】
従って、第1連通開口部32及び第2連通開口部34の開口状態や膜体(揺動部材)30の揺動規制状態を種々に変更することによって、膜体(揺動部材)30による第2連通開口部34閉塞状態及び第1連通開口部32閉塞状態を種々に調整することができる。これにより、第1連通開口部32又は第2連通開口部34から中間室28を経て第2連通開口部34又は第1連通開口部32に流動する液体の流動状態、即ち減衰特性を種々に設定することができるので、圧縮方向と伸長方向とで振動入力に対する減衰特性を変えることができるといったように、マウント装置の減衰特性を細かく設定することが可能となる。
【0034】
また、揺動部材を膜体30で構成し、第1連通開口部32及び第2連通開口部34の形成位置や大きさ、形状といった開口状態を適宜設定することにより、第1連通開口部32から液体が流入する場合と第2連通開口部34から液体が流入する場合とで膜体30による第1連通開口部32閉塞面積と第2連通開口部34閉塞面積とが異なるものとしたので、圧縮方向と伸長方向とで振動入力に対する減衰特性を変えることができ、これによりマウント装置の減衰特性を細かく設定することができる。
【0035】
また、揺動部材を構成する膜体30によって第1連通開口部32又は第2連通開口部34が完全に閉塞されるときに大きな減衰力を発現することが可能となり、その分だけ、マウント装置の減衰特性を細かく設定することができる。
【0036】
図6は、本発明の液体封入マウント装置の第3の実施の形態を示す断面図である。この実施の形態の液体封入マウント装置は、上記第1の実施の形態の液体封入マウント装置と類似している。具体的には、膜体(揺動部材)30、第1連通開口部32(第1区画壁31)、第2連通開口部34(第2区画壁33)などを含む中間室28の構造が異なるだけで、他は同等である。そこで、同等の構成には同等の符号を付して、その詳細な説明を省略する。
【0037】
この実施の形態の中間室28は、図1の中間室28と同等であり、揺動部材を構成する膜体30も、図1の膜体30と同等であり、且つ図1の膜体30と同様に、中間室28の高さ(厚さ)方向中央部において、図の右壁部から突設されている。一方、この実施の形態では、第1区画壁31の図示右寄りに比較的開口面積の小さい第1連通開口部32を2個開設し、第2区画壁33にも同様に、図示右寄りに比較的開口面積の小さい第2連通開口部34を2個開設している。従って、この実施の形態における第1連通開口部32及び第2連通開口部34の開口状態は同等である。
【0038】
この実施の形態では、膜体30からなる揺動部材の突出方向先端部下面、即ち第2区画壁33側に、膜体30からなる揺動部材の揺動動作を規制する規制部材36が設けられている。図7(D)は、後述するように、膜体30からなる揺動部材を突出方向先方から見た断面図である。この規制部材36は、比較的小さな直方体又は立方体を形成し、例えば図7(D)に示すように、膜体30からなる揺動部材の突出方向先端部下面のうち、膜体30の突出方向と直交する幅方向両端部にのみ、一体的に設けられている。この規制部材36は、例えば樹脂や膜体30と同等の材料で構成される。この規制部材36は、図では、膜体30と別体に示されているが、膜体30と一体形成されてもよい。この規制部材36が、本発明の規制部を構成する。
【0039】
図7は、図4の中間室28、膜体(揺動部材)30、第1連通開口部32(第1区画壁31)、第2連通開口部34(第2区画壁33)を抽出した作用の説明図である。図7(A)~(C)は、何れも、図の上方が第1液室22、図の下方が第2液室24に相当する。また、図7(D)は、図7(C)の状態において、膜体30からなる揺動部材を突出方向先方から見た断面図である。第1液室22と第2液室24の液体に差圧がない場合、つまり第1液室22及び第2液室24間で液体の流動がない場合、図7(A)に示すように、膜体30からなる2つの揺動部材は自己復元力によって中間室28の高さ(厚さ)方向中央部に浮いた状態となり、第1区画壁31の第1連通開口部32も第2区画壁33の第2連通開口部34も全開口面積が開口している。
【0040】
この状態から、エンジン-車体間が伸長して第2連通開口部34から中間室28に第2液室24内の液体が流れ込むと、その液体に押されて、膜体30からなる揺動部材が中間室28内を図示上方、つまり第1区画壁31側に揺動する。その結果、第1区画壁31の第1連通開口部32は、図7(B)に示すように、2個とも、膜体30からなる揺動部材によって完全に閉塞される。従って、特に第1連通開口部32が閉塞されるときに、第2連通開口部34から中間室28を経て第1液室22に流れようとする液体の流れが抑止され、エンジン-車体間の伸長に伴う振動入力が大きく減衰される(大きな減衰力が発現される)。
【0041】
一方、図7(A)の状態から、エンジン-車体間が圧縮して第1連通開口部32から中間室28に第1液室22内の液体が流れ込むと、その液体に押されて、膜体30からなる揺動部材が中間室28内を図示下方、つまり第2区画壁33側に揺動する。しかしながら、この膜体30の突出方向先端部下面、即ち第2区画壁33側には規制部材36が設けられており、膜体30の図示下方への移動に伴い、膜体30が第2区画壁33に当接する以前に規制部材36が第2区画壁33に当接する。そのため、図7(C)に示すように、膜体30は、第2区画壁33の上面、即ち中間室28側面に完全に当接せず、膜体30と第2区画壁33の間に隙間ができる。その結果、第2区画壁33の第2連通開口部34は完全に閉塞されることなく、中間室28と第2液室24の間で少し開口している。従って、第1連通開口部32から中間室28に流れ込んだ液体は、第2連通開口部34から第2液室24内に流れ、エンジン-車体間の圧縮に伴う振動入力は、図2(C)の説明と同様に、減衰されないか、又は少し減衰される。
【0042】
更に、この実施の形態では、揺動部材を構成する膜体30の幅方向両端部下面、即ち第2区画壁33側にのみ、規制部材36が設けられているので、図7(D)に示すように、第2連通開口部34の開口幅が膜体30の幅より小さい場合、この規制部材36で浮いている膜体30の部分で第2区画壁33との隙間が大きくなり、この隙間を通じて中間室28内の液体が第2連通開口部34から第2液室24に流れる。従って、規制部材36による膜体30の幅方向の第2区画壁33との隙間によっても、エンジン-車体間の圧縮時の減衰特性を調整することができる。
【0043】
図8は、図6の閉塞構造の変形例を示す作用の説明図である。この変形例では、膜体30で構成される揺動部材の揺動動作を規制する規制部材36が、膜体30ではなく、中間室28と第2液室24の区画部、即ち中間室構成部材に設けられている。具体的には、第2区画壁33の上面、即ち膜体30側面において、中間室28の図示左壁部から膜体30の突出方向先端部直下まで一連の規制部材36が第2区画壁33と一体的に設けられている。この規制部材36の断面形状は、例えば図7(D)に示すような形状であってもよい。この規制部材36が、本発明の規制部を構成する。この変形例でも、第1液室22と第2液室24の液体に差圧がない場合、つまり第1液室22及び第2液室24間で液体の流動がない場合、図8(A)に示すように、膜体30からなる揺動部材は自己復元力によって中間室28の高さ(厚さ)方向中央部に浮いた状態となり、第1区画壁31の第1連通開口部32も第2区画壁33の第2連通開口部34も全開口面積が開口している。
【0044】
この状態から、エンジン-車体間が伸長して第2連通開口部34から中間室28に第2液室24内の液体が流れ込むと、その液体に押されて、膜体30からなる揺動部材が中間室28内を図示上方、つまり第1区画壁31側に揺動する。その結果、第1区画壁31の第1連通開口部32は、図8(B)に示すように、2個とも、膜体30からなる揺動部材によって完全に閉塞される。従って、特に第1連通開口部32が閉塞されるときに、第2連通開口部34から中間室28を経て第1液室22に流れようとする液体の流れが抑止され、エンジン-車体間の伸長に伴う振動入力が大きく減衰される(大きな減衰力が発現される)。
【0045】
一方、図8(A)の状態から、エンジン-車体間が圧縮して第1連通開口部32から中間室28に第1液室22内の液体が流れ込むと、その液体に押されて、膜体30からなる揺動部材が中間室28内を図示下方、つまり第2区画壁33側に揺動する。しかしながら、第2区画壁33の上面のうち、膜体30の突出方向先端部下方には規制部材36が設けられており、膜体30の図示下方への移動に伴い、膜体30が第2区画壁33に当接する以前に規制部材36が膜体30に当接する。そのため、図8(C)に示すように、膜体30は、第2区画壁33の上面、即ち中間室28側面に完全に当接せず、膜体30と第2区画壁33の間に隙間ができる。その結果、第2区画壁33の第2連通開口部34は完全に閉塞されることなく、中間室28と第2液室24の間で少し開口している。従って、第1連通開口部32から中間室28に流れ込んだ液体は、第2連通開口部34から第2液室24内に流れ、エンジン-車体間の圧縮に伴う振動入力は、図2(C)の説明と同様に、減衰されないか、又は少し減衰される。
【0046】
このように、これらの実施の形態では、上記第1及び第2の実施の形態の効果に加えて又はそれに代えて、揺動部材を膜体30で構成し、膜体30の揺動動作を規制する規制部材36により、第1連通開口部32から液体が流入する場合と第2連通開口部34から液体が流入する場合とで膜体30による第1連通開口部32閉塞面積と第2連通開口部34閉塞面積とが異なるものとしたので、例えば圧縮方向と伸長方向とで振動入力に対する減衰特性を変えることができ、これによりマウント装置の減衰特性を細かく設定することができる。
【0047】
なお、上記実施の形態では、閉塞構造又は規制部の何れか一方のみを適用したものについて説明したが、本発明では、液体封入マウント装置に上記閉塞構造と規制部を同時に適用することも可能である。
【0048】
本発明が上記していない様々な実施の形態等を含むことは勿論である。従って、本発明の技術的範囲は上記の説明から妥当とされる特許請求の範囲に記載された発明特定事項によってのみ定められるものである。
【符号の説明】
【0049】
22 第1液室
24 第2液室
26 減衰流路
28 中間室
30 膜体(揺動部材)
31 第1区画壁(区画部)
32 第1連通開口部
33 第2区画壁(区画部)
34 第2連通開口部
36 規制部材(規制部)
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8