(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】ガス処理装置およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
B01J 35/04 20060101AFI20220114BHJP
B01D 53/86 20060101ALI20220114BHJP
B01J 23/30 20060101ALI20220114BHJP
B01J 35/06 20060101ALI20220114BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20220114BHJP
B01J 19/24 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
B01J35/04 311A
B01D53/86 222
B01J23/30 A ZAB
B01J35/04 301L
B01J35/06 K
B01J37/02 301D
B01J19/24 B
(21)【出願番号】P 2018162849
(22)【出願日】2018-08-31
【審査請求日】2020-12-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000005119
【氏名又は名称】日立造船株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100106091
【氏名又は名称】松村 直都
(74)【代理人】
【識別番号】100079038
【氏名又は名称】渡邉 彰
(74)【代理人】
【識別番号】100060874
【氏名又は名称】岸本 瑛之助
(72)【発明者】
【氏名】日数谷 進
(72)【発明者】
【氏名】日野 なおえ
(72)【発明者】
【氏名】土井 佑太
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-124574(JP,A)
【文献】特開2013-169526(JP,A)
【文献】特開2001-000867(JP,A)
【文献】特開平03-127631(JP,A)
【文献】特開平03-038256(JP,A)
【文献】特開平03-131347(JP,A)
【文献】特開平03-127630(JP,A)
【文献】特開2001-137713(JP,A)
【文献】特開平03-016646(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 21/00 - 38/74
B01J 19/24
B01D 53/86 - 53/94
F01N 3/00 - 3/38
F01N 9/00 - 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
無機繊維シートに機能性触媒が担持されたシート体を組み立てたハニカム構造体を備えるガス処理装置であって、
前記機能性触媒は、前記無機繊維シートの両端部の領域の内、少なくともガスを導入する側の端から所定の範囲の端部領域には担持されておらず、
前記機能性触媒が担持されていない前記端部領域に、前記シート体の耐摩耗性を向上させる耐摩耗剤がコートされていることを特徴とするガス処理装置。
【請求項2】
前記無機繊維シートがガラスペーパーであることを特徴とする請求項1に記載のガス処理装置。
【請求項3】
前記耐摩耗剤がガラスであることを特徴とする請求項1または2に記載のガス処理装置。
【請求項4】
前記機能性触媒が脱硝触媒であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載のガス処理装置。
【請求項5】
無機繊維シートに機能性触媒が担持されたシート体を組み立てたハニカム構造体を備えるガス処理装置の製造方法であって、
前記無機繊維シートのガスを導入する側の端から所定の範囲の端部領域を除く領域または無機繊維シートの両端から所定の範囲の端部領域を除く領域に前記機能性触媒を塗布する工程と、
前記機能性触媒が塗布されていない領域に前記シート体の耐摩耗性を向上させる耐摩耗剤を塗布する工程と、
前記機能性触媒および耐摩耗剤が塗布された無機繊維シートを乾燥する工程と、
乾燥工程を経た無機繊維シートを成形する工程と、
成形された無機繊維シートを焼成してシート体とする工程と、
前記シート体をケーシングに組み込む工程と、を有するガス処理装置の製造方法。
【請求項6】
前記無機繊維シートがガラスペーパーであり、前記耐摩耗剤がガラスであることを特徴とする請求項5に記載のガス処理装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高濃度のダスト、石炭アッシュなどの固体粒子を含む石炭焚きボイラ等の排ガス浄化に用いられるガス処理装置およびこのガス処理装置の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
例えば、火力発電所等で使用されている石炭焚きボイラや重油焚きボイラから排出される排ガスには大量のNOxが含まれているため、脱硝装置によるNOxの除去が行われている。
【0003】
脱硝装置等のガス処理装置は、ガス導入口と排出口を有し、内部に平板状のシート体とコルゲート状のシート体を組み合わせたハニカム状の構造体を有するものが一般に使用され、これらのシート体の表面および内部には排ガス処理用の脱硝触媒が担持されている。
【0004】
このような排ガス中には、処理すべきNOx以外に燃料由来の高濃度の固体粒子を含むダストが含まれており、これらのダストはガスの流れとともに高速でガス処理装置の導入口からガス処理装置に流入して、処理後のガスは排出口より流出する。
【0005】
排ガス処理装置は、長時間にわたってこのようなダストを高濃度に含む高速ガスに晒されるため、特に導入口側のシート体端部が物理的に摩耗し、ガス処理装置の寿命を短くする大きな原因の1つとなっている。
【0006】
このような課題を解決するために、特許文献1に記載の発明においては、シート体全面に触媒を担持させた後、ガス処理装置の開口側の端部領域に耐摩耗性被膜を形成し、シート体の入口側端部の摩耗を抑えるようにしている。
【0007】
特許文献2に記載の発明においても、ダスト粒子による摩耗を受けやすいハニカム構造体のガス入口側の端部を、シリカゾルと、チタニア粒子またはカオリン粒子と、メタタングステン酸アンモニウムよりなる端部処理用脱硝触媒含有スラリーに浸漬して、ハニカム構造体の端部に該脱硝触媒含有スラリーのコーティング層を形成し、これを乾燥した後、焼成することにより、端部2次脱硝触媒層を形成し、ハニカム構造体端部の耐摩耗強度を上げている。
【0008】
しかしながら、特許文献1および2に記載の発明のガス処理装置を用いても、特に石炭火力発電所等に用いられるガス処理装置においては、排ガス中のダスト濃度が非常に高いため、摩耗の程度が高く、さらなるガス処理装置の長寿命化が求められてきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2001-867号公報
【文献】特開2013-169526号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、耐摩耗性が高いガス処理装置およびその製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決すべく、本発明(1)は、無機繊維シートに機能性触媒が担持されたシート体を組み立てたハニカム構造体を備えるガス処理装置であって、前記機能性触媒は、前記無機繊維シートの両端部の領域の内、少なくともガスを導入する側の端から所定の範囲の端部領域には担持されておらず、前記機能性触媒が担持されていない前記端部領域に、前記シート体の耐摩耗性を向上させる耐摩耗剤がコートされていることを特徴とするガス処理装置である。
【0012】
従来の端面強化されたガス処理装置においては、ガス処理装置を構成するシート体の基板である無機繊維シートの表裏面とシートの内部に、ガス流入側と流出側の一端側から他端側に渡って無機繊維シート全体に機能性触媒が担持され、その後に耐摩耗剤を無機繊維シートの両端部にコートして、シート体の耐摩耗性の向上を図っている。
【0013】
しかしこの方法では、耐摩耗剤の材料の一部が摩耗すると、端部領域にある機能性触媒の摩耗が始まるため、一定程度の耐摩耗性の向上を図ることができるが、非常に高い濃度のダストを含む高速排ガス流に対しては、耐摩耗性能は十分とはいえない。特許文献1および2に記載のガス処理装置は、本来であれば、排ガスの導入側端部に対しては徹底して耐摩耗性の向上を図る必要がある所、機能性触媒の混在ゆえに耐摩耗性の低下をきたしているといえる。
【0014】
このような摩耗のメカニズムを解明して、本発明(1)においては、無機繊維シートの両端部の内、少なくともガス導入側端部領域に機能性触媒は担持されておらず、耐摩耗剤は、無機繊維シートの少なくともガス導入側端部領域の表面および内部にコートされている。
【0015】
無機繊維シートの両端部の内、少なくともガス導入側端部領域には、耐摩耗剤のみがコートされているため、ガス流に含まれるダストは、この耐摩耗剤のみがコートされた無機繊維シートの端部に衝突することとなる。無機繊維シートの端部の本発明(1)に備えられているシート体は、耐摩耗剤による効果によって、従来のシート体に比べて耐摩耗性が向上する。
【0016】
本発明(2)は、前記無機繊維シートがガラスペーパーであることを特徴とする本発明(1)に記載のガス処理装置である。
【0017】
ガス処理装置用シート体の基材である無機繊維シートがガラスペーパーであることによって、ガラスペーパー内部に多くの機能性触媒の担持が可能であり、かつ、ハニカム状等の触媒担持構造体を安定的に保持することができ、さらにこのハニカム構造体を製造するコストの低コスト化も実現することができる。
【0018】
本発明(3)は、前記耐摩耗剤がガラスであることを特徴とする本発明(1)または(2)に記載のガス処理装置である。
【0019】
耐摩耗剤をガラスとすることによって、その後の触媒の焼成時にガラスを溶融させ、基材のガラス繊維等の無機繊維に直接に耐摩耗のためのガラスを溶融付着コートさせて、シート体の耐摩耗性を大幅に向上させることができる。
【0020】
本発明(4)は、前記機能性触媒が脱硝触媒であることを特徴とする本発明(1)~(3)のいずれかに記載のガス処理装置である。
【0021】
機能性触媒を脱硝触媒とすることによって、石炭火力発電所等から排出される排ガス等に含まれる非常に高濃度のNOxガスを無害な窒素ガスと水蒸気に転換させることができる。
【0022】
本発明(5)は、無機繊維シートに機能性触媒が担持されたシート体を組み立てたハニカム構造体を備えるガス処理装置の製造方法であって、前記無機繊維シートのガスを導入する側の端から所定の範囲の端部領域を除く領域または無機繊維シートの両端から所定の範囲の端部領域を除く領域に前記機能性触媒を塗布する工程と、前記機能性触媒が塗布されていない領域に前記シート体の耐摩耗性を向上させる耐摩耗剤を塗布する工程と、前記機能性触媒および耐摩耗剤が塗布された無機繊維シートを乾燥する工程と、乾燥工程を経た無機繊維シートを成形する工程と、成形された無機繊維シートを焼成してシート体とする工程と、前記シート体をケーシングに組み込む工程と、を有するガス処理装置の製造方法である。
【0023】
本発明(5)の製造方法は、無機繊維シートに機能性触媒を塗布する際に、耐摩耗剤を塗布する領域に機能性触媒が塗布されないようにすることに特徴を有している。機能性触媒が機能する領域と、耐摩耗剤が機能する領域を分けることによって、シート体の耐摩耗性の大幅な改善を達成することができる。
【0024】
本発明(6)は、前記無機繊維シートがガラスペーパーであり、前記耐摩耗剤がガラスであることを特徴とする本発明(5)に記載のガス処理装置の製造方法である。
【0025】
本発明(6)の製造方法では、塗布した機能性触媒の焼成工程と塗布した耐摩耗剤であるガラスの溶融を、ガラスの種類を適宜選択することによって同一焼成工程で行うことができるので、製造工程数の低減、ひいては製造コストの低減を図ることができる。
【発明の効果】
【0026】
本発明は、高濃度のダストを含むガス等を処理するためのガス処理装置であって、耐摩耗性にすぐれたガス処理装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明のガス処理装置の実施形態を示す斜視図である。
【
図2】
図1のガス処理装置のシート体からなるハニカム構造体部分の要部拡大正面図である。
【
図3】
図1のガス処理装置のハニカム構造体部分の平板状のシート体の実施形態を示す斜視図である。
【
図4】
図1のガス処理装置のハニカム構造体部分の波板状のシート体の実施形態を示す斜視図である。
【
図5】
図3の平板状のシート体を製造する際の塗布工程の概略を示す模式図である。
【
図6】耐摩耗強度測定試験装置の概略を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
つぎに、本発明の実施の形態を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
図1は、本発明の機能性触媒を担持したシート体をハニカム状に組み立てたハニカム構造体を具備するガス処理装置の実施形態を示す斜視図である。
図2は、
図1のガス処理装置のハニカム状のハニカム構造体部分の要部拡大正面図である。
【0030】
図1と
図2を参照すると、本発明による機能性触媒を担持したハニカム状のハニカム構造体(10)を具備するガス処理装置(1)は、機能性触媒を担持した平板状のシート体(11)と、機能性触媒を担持した波板状のシート体(12)とが交互に積層されて、ハニカム構造体(10)が形成され、このハニカム構造体(10)がケーシング(20)内に充填されていることを特徴としている。
【0031】
本発明によるハニカム構造体(10)を備えるガス処理装置(1)において、機能性触媒は、好ましくは脱硝触媒であり、また、還元剤となるアンモニアを脱硝触媒に供給するための尿素分解触媒である。その他の機能性触媒としては、脱硫触媒、ダイオキシン類分解触媒又はアンモニア分解触媒等、ダストの多い排ガスの浄化処理に用いられる種々の機能を有する触媒を挙げることができる。なお、脱硝触媒としては、バナジウムが含まれている触媒を使用するのが好ましく、アンモニア分解触媒としては、ルテニウムが含まれている触媒を使用するのが好ましい。
【0032】
図3は、ガス処理装置(1)のハニカム構造体(10)部分の平板状のシート体(11)の斜視図を示している。平板状のシート体(11)は、基材として無機繊維シート(11a)を用いている。無機繊維としては、例えば、ガラスウール等のガラス繊維、人造鉱物繊維であるロックウール、アルミナ・シリカを主成分としたセラミック繊維、アクリル繊維等を高温で炭化して作った炭素繊維などが用いられうる。繊維長さは3~10mm、繊維径は3~15μmの範囲のものが好ましい。
【0033】
平板状のシート体(11)の両端の端部領域(11b)と(11c)には、耐摩耗剤のみがコートされており、端部領域(11b)と(11c)の間の触媒担持領域(11d)には機能性触媒が担持されている。
図3では、両方の端に端部領域(11b)と(11c)が設けられているが、ガス導入側のみに端部領域を設けても良い。両方の端の端部領域(11b)と(11c)に耐摩耗剤がコートされていると、ハニカム構造体(10)を組み立てる際の方向誤りの組み立てミスを防止できる。ハニカム構造体(10)のガス導入側の摩耗が進んだときに、ハニカム構造体(10)のケーシング(20)への装填方向を反対にすることによって、ガス処理装置(1)の寿命をさらに長くすることもできる。
【0034】
本発明の特徴は、端部領域(11b)と(11c)のうち少なくともガス導入側の端部領域には機能性触媒は担持されていないことである。これによって、ガス導入側の端部領域には耐摩耗剤のみがコートされているので、ダストによる摩耗を大幅に低減することができる。
【0035】
このような平板上のシート体(11)は、無機繊維シート(11a)の触媒担持領域(11d)のみに機能性触媒を含有するスラリーを、コーター機などを用いて定量塗布し、その後機能性触媒が塗布されていない端部領域(11b)と(11c)に耐摩耗剤を同じくコーター機などを用いて定量塗布することができる。定量塗布する方法としては、液膜転写法や噴霧法などを利用することができる。液膜転写法としてはロールコーター法やカーテンフローコーター法などを好適に用いることができる。噴霧法としてはエアスプレー法やエアレススプレー法を好適に用いることができる。
【0036】
このようにして、触媒担持領域(11d)には機能性触媒が、端部領域(11b)と(11c)には耐摩耗剤が含侵させられ、その後、乾燥、焼成工程等を経て平板状のシート体(11)が完成する。耐摩耗剤がガラスであると、ガラスの軟化温度が機能性触媒の焼成温度よりも低い特性を有するガラスを選択することによって、機能性触媒の焼成とガラスの溶融を同時に行うことができるので、平板状のシート体(11)の製造工程を短くすることができる。
【0037】
図4は、ガス処理装置(1)のハニカム構造体(10)の波板状のシート体(12)の斜視図を示している。波板状のシート体(12)は、平板状のシート体(11)と同じく、基材として、無機繊維シート(12a)を用いている。波板状のシート体(12)の両端の端部領域(12b)と(12c)には、耐摩耗剤が含侵されており、端部領域(12b)と(12c)の間の触媒担持領域(12d)には機能性触媒が担持されている。
図4では、両方の端に端部領域(12b)と(12c)が設けられているが、ガス導入側のみに端部領域を設けても良い。
【0038】
このような波板状のシート体(12)は、平板状のシート体(11)と平板状シートを波形状に成形する以外は同じ製造工程で製造される。波板状のシート体(12)を製造する際、機能性触媒と耐摩耗剤を塗布、乾燥の後に、平板状のシートを、加熱コルゲーターを用いて波形状に成形する。成形後に焼成して完成する。
【0039】
図5は、無機繊維シート(11a)に機能性触媒や耐摩耗剤を塗布する工程の概略を模式的に示すものである。左から、無機繊維シートが右方向に送り出されている。(矢印方向)
図5は、塗布工程の製造過程を上から見たときの模式図で、無機繊維シート(11a)の上方に備えられた2つのコーター機である、第1コーター機(30)と第2コーター機(40)の下方を無機繊維シート(11a)は矢印方向に送られる。
図5では無機繊維シート(11a)はロール状のシート材料が繰り出された状態を示すが、
図3において付している符号の箇所に相当する箇所には、
図3で付した符号と同一の符号を付している。
【0040】
第1コーター機(30)の3箇所のマスク部(31)においては吐出孔が塞がれており、機能性触媒を含むスラリーは吐出部(32)から塗布される。無機繊維シート(11a)の端部領域(11b)と(11c)には何も塗布されず、触媒担持領域(11d)にのみ機能性触媒は定量塗布される。
【0041】
続いて、機能性触媒が塗布された無機繊維シート(11a)は、第2コーター機(40)によって耐摩耗剤が定量塗布される。第2コーター機(40)のマスク部(41)は吐出孔が塞がれており、耐摩耗剤を含むスラリーは3ヶ所の吐出部(42)から定量塗布される。
【0042】
図5に示す塗布工程によって、無機繊維シート(11a)は、両端の端部領域(11b)と中央の端部領域(11c)には耐摩耗剤を含むスラリーが塗布され、触媒担持領域(11d)には機能性触媒を含むスラリーが塗布される。この例では、端部領域(11c)の中央を水平にカットすることによって、2つの無機繊維シート(11a)のロールを得ることができる。
【0043】
無機繊維シート(11a)の端部領域に耐摩耗剤のみをコートし、それ以外は機能性触媒を担持したシート体(実施例1)を製造し、このシート体の摩耗加速試験を行った。また、端部領域を含めて無機繊維シート(11a)全体に機能性材料を塗布し、その後で端部領域に耐摩耗剤を塗布して製作したシート体(比較例1)を製作し、このシート体の摩耗加速試験を行った。さらに、端部領域を含めて無機繊維シート(11a)全体に機能性材料を塗布し、耐摩耗剤をコートしていないシート体(比較例2)を製作し、このシート体の摩耗加速試験を行った。以下、本発明の実施例を説明するが、本発明はこれに限られるものではない。
【0044】
(実施例1のシート体の製作)
無機繊維シート(11a)は、市販のガラスペーパーであって、繊維量100g/m2のガラス繊維と、ポリビニルアルコール系樹脂有機バインダー10質量%からなる平板状ガラスペーパーを使用した。
【0045】
機能性触媒としては脱硝触媒を使用した。すなわちシリカゾルにチタニア微粒子を懸濁させたスラリーにメタバナジン酸アンモニウムを添加し、全体を撹拌してからメタタングステン酸アンモニウムを加えて脱硝触媒スラリーを調製した。
【0046】
ガラスペーパーの端から10mm幅の領域だけを残して、それ以外の触媒担持領域となるガラスペーパー上に脱硝触媒スラリーを刷毛で塗布した。脱硝触媒スラリーを塗布しなかった領域には、ガラスフリットを水に分散させたガラスフリットスラリー(50質量%)を刷毛で塗布した。このガラスフリットは、旭硝子株式会社製ASF-1097(軟化温度Ts=605℃)とした。このガラスフリットの主成分は、Bi2O3、B2O3、Al2O3である。
【0047】
その後、熱風乾燥炉にて脱硝触媒スラリーとガラスフリットスラリーを塗布したガラスペーパーを110℃で1時間加熱し、水分を乾燥除去した。
【0048】
乾燥後の脱硝触媒担持ガラスペーパーを焼成温度650℃、キープ時間2.5分で焼成を行った。この焼成条件は、用いたガラスフリットを溶融してガラスペーパーのガラス繊維に溶融付着させることができる条件でもあり、脱硝触媒の焼成とガラスの溶融コートを同時に行うことができるので工程を短縮することができる。
【0049】
(比較例1のシート体の製作)
比較例1に使用した無機繊維シート(11a)、機能性触媒およびガラスフリットは、実施例1で使用したものと同じものを使用した。また、乾燥、焼成の方法も実施例1と同じ方法で行った。実施例1と異なる点は、脱硝触媒スラリーをガラスペーパー全面に塗布したことと、脱硝触媒スラリーを塗布した後にガラスフリットスラリーをガラスペーパーの端から10mm幅の領域に塗布したことである。これによって、ガラスペーパーの端から10mm幅の領域は、脱硝触媒とガラスフリットが混在する領域となった。
【0050】
(比較例2のシート体の製作)
比較例2に使用した無機繊維シート(11a)および機能性触媒は、実施例1で使用したものと同じものを使用した。比較例2は、ガラスフリットを塗布しないものとした。乾燥、焼成の方法も実施例1と同じ方法で行った。
【0051】
(耐摩耗試験)
実施例1、比較例1および比較例2で製作したサンプルの摩耗加速試験を行った。この摩耗加速試験は、実際の高濃度ダストを含む排ガスによる摩耗を想定したもので、
図6に示す耐摩耗強度測定試験装置を用いて行った。
【0052】
この耐摩耗強度測定試験装置により、石炭燃焼ダスト量1050g/h、ガス量60L/分間(ダスト濃度292g/m
3、ガス流速40m/s)の条件で、60分間、測定試験を実施し、得られた結果を下記の表1及び表2に示した。なお、
図6の耐摩耗強度測定試験装置による試験結果を実機(ダスト濃度6.3g/m
3、ガス流速5.5m/s)に相当する時間を表す評価を行っており、本耐摩耗強度測定試験は、実機では17388倍相当の加速試験が行われていることが分かっている。
【0053】
本試験では、1時間の試験時間で行ったので、この試験に供した試験サンプルは、17388時間、即ち約2年間の実機試験に相当すると推定される。表1は、摩耗加速試験を実施した結果の端部がシート体の端から軸方向(ガス流方向)にどの程度摩耗したかを示す。表2は、摩耗加速試験を実施した結果のシート体の端部の厚み方向にどの程度摩耗したかを示す。
【0054】
【0055】
【0056】
表1を見ると、ガラスコートを行っていない比較例2では、端から4.0mmも摩耗しており、大きな摩耗量となっていた。比較例1の従来の方法で耐摩耗剤であるガラスをコートした場合、0.5mm摩耗していたのに対して、本発明の実施例1では、摩耗量が40%減の0.3mmとなっていた。
【0057】
表2を見ると、ガラスコートを行っていない比較例2では、厚みが0.31mmも摩耗しており、大きな摩耗量となっていた。比較例1の従来の方法で耐摩耗剤であるガラスをコートすると、0.21mm摩耗していたのに対して、本発明の実施例1では、全く摩耗は見られなかった。
【0058】
この表1及び表2の結果から、本発明による端部が強化されたシート体は、従来技術により端部が強化されたシート体と比較して、軸方向(ガス流方向)の摩耗が40%減となり、厚み方向では確実に摩耗を防止できることが確認できた。
【符号の説明】
【0059】
1;ガス処理装置
10;ハニカム構造体
11;平板状のシート体
11a;無機繊維シート
11b、11c;端部領域
11d;触媒担持領域
12;波板状のシート体
12a;無機繊維シート
12b、12c;端部領域
12d;触媒担持領域
20;ケーシング
30;第1コーター機
31;マスク部
32;吐出部
40;第2コーター機
41;マスク部
42;吐出部