(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】表面汚染密度測定システム
(51)【国際特許分類】
G01T 1/169 20060101AFI20220114BHJP
G05D 1/02 20200101ALI20220114BHJP
【FI】
G01T1/169 C
G05D1/02 H
(21)【出願番号】P 2018228846
(22)【出願日】2018-12-06
【審査請求日】2020-12-16
(73)【特許権者】
【識別番号】507250427
【氏名又は名称】日立GEニュークリア・エナジー株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】高橋 篤史
【審査官】中尾 太郎
(56)【参考文献】
【文献】実開昭59-108286(JP,U)
【文献】特開昭60-063499(JP,A)
【文献】特開平06-027243(JP,A)
【文献】特開平09-096676(JP,A)
【文献】特開2001-305283(JP,A)
【文献】特開2015-219066(JP,A)
【文献】特開2016-024020(JP,A)
【文献】米国特許第04736826(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01T 1/169
G05D 1/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
地図情報に基づいて管理区域内を自律移動し、所定の場所で試料採取する自走式試料採取装置と、
測定エリア外に設置され、前記自走式試料採取装置が採取した試料の表面汚染密度を測定する表面汚染密度測定装置と、
を備え、
前記自走式試料採取装置は、
試料採取が完了した後、前記表面汚染密度測定装置に自律移動し、採取した試料を前記表面汚染密度測定装置に移送することを特徴とする表面汚染密度測定システム。
【請求項2】
地図情報に基づいて管理区域内を自律移動し、所定の場所で試料採取する自走式試料採取装置と、
測定エリア外に設置され、前記自走式試料採取装置が採取した試料の表面汚染密度を測定する表面汚染密度測定装置と、
を備え、
前記自走式試料採取装置は、
車輪と駆動機構からなる移動装置と、
前記車輪の表面を拭き取る除染装置と、
を備えたことを特徴とする表面汚染密度測定システム。
【請求項3】
地図情報に基づいて管理区域内を自律移動し、所定の場所で試料採取する自走式試料採取装置と、
測定エリア外に設置され、前記自走式試料採取装置が採取した試料の表面汚染密度を測定する表面汚染密度測定装置と、
を備え、
前記表面汚染密度測定装置は、
前記試料の表面汚染密度の測定が完了した後、前記自走式試料採取装置から送信された前記試料の採取場所と、前記試料の測定結果を、前記管理区域の地図に反映させた測定記録を作成するものであり、
前記地図情報と、前記自走式試料採取装置が観測した実環境と、の誤差を、前記管理区域の地図に反映させた測定記録を作成することを特徴とする表面汚染密度測定システム。
【請求項4】
地図情報に基づいて管理区域内を自律移動し、所定の場所で試料採取する自走式試料採取装置と、
測定エリア外に設置され、前記自走式試料採取装置が採取した試料の表面汚染密度を測定する表面汚染密度測定装置と、
を備え、
前記表面汚染密度測定装置は、
前記自走式試料採取装置から
の試料が搬入される試料搬入部と、
空の試料皿が格納される分析前試料皿格納部と、
前記試料皿に載せられた前
記試料の表面汚染密度を分析する分析装置と、
分析後の試料皿が格納される分析後試料皿格納部と、
これらの間で前記試料皿を移送する移送部と、
を備えたことを特徴とする表面汚染密度測定システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、放射線関連施設の表面汚染密度を計測する表面汚染密度測定システムに関する。
【背景技術】
【0002】
原子力発電所をはじめとする放射線関連施設は定期的に管理区域内の汚染状況を測定することが法律で義務付けられている。しかし、この法定測定を有人で行う場合、高線量の作業場所で試料採取を行う際に測定者が被ばくするリスクがあった。また、測定記録の作成までには、試料採取、表面汚染密度測定、測定結果の入力と複数の作業ステップがあるが、試料採取と表面汚染密度測定の作業は巧拙の個人差が大きく、測定結果に誤差が発生しやすかった。
【0003】
これらの問題を解決する省人化システムとしては、特許文献1や特許文献2が知られている。
【0004】
特許文献1は、要約書の解決手段欄で「測定エリア内を自走しながら、表面汚染測定用プローブを床面に下降近接させて行う直接法による床面汚染計測と同一プローブでのスミヤ濾紙を用いた間接法による床面汚染計測との2通りの床面Fに対する放射線計測が行えるばかりでなく、所定測定点での放射線計測後は、サーベイエリアへの自走と共に車輪に対する車輪汚染検知プローブによる放射線サーベイと除染水ノズルから除染水を噴射させることによる放射性物質の除染が行えるので、人的作業を要することなく、管理レベルの異なる複数の測定エリアに渡って放射線計測を実施できるようになる。」と記載されるように、走行ルート上の床面の汚染状況を直接法と間接法の2通りで測定する、走行式放射線モニタを開示する。この走行式放射線モニタは、同文献の段落0018等で説明されるように、カメラによる状況監視を行いながら移動する。
【0005】
また、特許文献2は、要約書の解決手段欄で「床面汚染測定ロボットは、本体部と、本体部に設けられて本体部を床面上で走行させる移動手段と、本体部の下面側に設けられて床面の放射線を検出する放射線検出手段とを備えている。本体部は上面視で円形に形成されている。放射線検出手段及び移動手段は、上面視で本体部の外周面より内側に取り付けられ、本体部の外周面からはみ出ないように設けられている。」と記載されるように、床面の汚染状況を直接法により測定する、床面汚染測定ロボットを開示する。この床面汚染測定ロボットは、各部を上記の配置とすることで、同文献の段落0020等で説明されるように、障害物との衝突によって移動不能となることを防止する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-24345号公報
【文献】特開2016-148585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
放射線関連施設において表面汚染密度を測定する際は、専門知識を有する測定者が測定場所を選定し汚染検査を行う。施設の床面などの汚染状況を調べる場合にはスミア濾紙を用いた間接法により測定を行う場合が多い。直接法による汚染検査を行う場合には測定場所において測定に影響のないバックグラウンド値が得られることが前提条件であり、バックグラウンド値が確保できない場合には遮へい物を必要とする。また、有人での測定では高線量の作業場所に立入る際に被ばくするリスクがあり、表面汚染密度の測定においても身体汚染につながる可能性がある。
【0008】
この課題に対し、特許文献1は走行ルートを記憶させた自走式放射線モニタを用いることで、表面汚染密度測定を無人化することを可能としている。しかし、この方法ではあらかじめ走行ルートを記憶する必要があり、作業場所の状況と記憶させた走行ルートに差異が生じた場合には、カメラを用いた有人の遠隔操作も必要であるため、省人効果が薄れてしまう。また、本体のタイヤ部分が汚染した際の除染機構を備えているが、散水による除染であるため専用の場所に移動する必要があり、移動中に汚染を伝播させる可能性がある。
【0009】
また、特許文献2の床面汚染測定システムにおいては、特許文献1と同様にあらかじめ移動ルートを記憶させることにより自走して表面汚染密度の測定を行う。測定方法は直接法であり、汚染の程度を閾値で評価して分布図を作成することができる。しかし、遮へい物が搭載されていないことから放射線量のある作業環境ではバックグランウンドの影響により検出限界値が大きくなるため、汚染の有無を判定できない。また、直接法の測定においてはGM管式サーベイメーターを例に挙げると、検出部の移動速度は数cm/秒程度が推奨されており、広いフロア全体を測定しようとした場合に時間を要してしまう。
【0010】
このように、特許文献1、特許文献2は何れも、本体部に表面汚染密度を測定する手段を備えているが、遮へい物は設けられておらず、放射線量のある作業場所においては測定手段の使用が制限される。また、特許文献1、特許文献2は何れも、移動ルートを事前に記憶させることにより、自走を可能としているが、作業場所の状況と記憶させた走行ルートに差異が生じた際に移動経路を修正する機構はなく、正しい測定ポイントでの測定が行えない可能性がある。
【0011】
そこで、本発明は、試料採取と表面汚染密度測定の各作業を、高線量の管理区域内を自律走行する自走式試料採取装置と、低線量の測定エリア外に設置した表面汚染密度測定装置と、に分担させ、測定者の管理区域への立ち入りを不要とすることで、測定者の被ばくリスクを抑制するだけではなく、試料採取と表面汚染密度測定の各作業を無人化することで、測定者に拘わらず高精度の表面汚染密度測定を実現できる表面汚染密度測定システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために、本発明の表面汚染密度測定システムは、地図情報に基づいて管理区域内を自律移動し、所定の場所で試料採取する自走式試料採取装置と、測定エリア外に設置され、前記自走式試料採取装置が採取した前記採取試料の表面汚染密度を測定する表面汚染密度測定装置と、を備えたものとした。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、測定者が管理区域に立入ることなく、正確な測定点で試料採取を行うことができ、測定記録の作成までを無人化できる。これにより、被ばく低減、身体汚染防止につながるとともに、作業効率向上につながる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施例に係る自走式試料採取器の概略斜視図。
【
図3】
図1の自走式試料採取器の試料採取部の側面図。
【
図4】
図1の自走式試料採取器の試料採取部の上面図。
【
図6】一実施例に係る表面汚染密度測定装置の概略斜視図。
【
図8】一実施例に係る表面汚染密度測定システムの概略斜視図。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明の一実施例に係る表面汚染密度測定システム100を、図面を用いて説明する。
【0016】
図8は、原子力発電所をはじめとする放射線関連施設の表面汚染密度を測定する、本実施例の表面汚染密度測定システム100の概略斜視図である。この表面汚染密度測定システム100は、試料採取と表面汚染密度測定の各作業を、試料採取装置と試料分析装置に分担したシステムであり、具体的には、高線量の管理区域内を自律走行しながら、指定された場所で試料採取する自走式試料採取装置1と、測定に影響のないバックグラウンド値が得られる、低線量の測定エリア外で採取試料の表面汚染密度を測定する表面汚染密度測定装置30からなるシステムである。以下では、自走式試料採取装置1と表面汚染密度測定装置30を個々に説明した後、両者を併せた表面汚染密度測定システム100の運用方法を説明する。
<自走式試料採取装置1>
図1は、本実施例の表面汚染密度測定システム100を構成する、自走式試料採取装置1の概略斜視図である。この自走式試料採取装置1は、市販されている多くのロボット掃除機のように、上面視で円形形成された本体2を備えており、その内部に後述する各種機器が設けられている。
【0017】
本体2の外周面には、外部環境を観測し、壁や障害物との衝突を防止するための、環境センサ3(赤外線センサ3a、超音波センサ3b、カメラセンサ3c)が設けられている。なお、
図1では、環境センサとして、本体2の前面に一対の赤外線センサ3a、超音波センサ3b、カメラセンサ3cを設けた構成を例示しているが、本体2の後面にも同様にセンサを設けてもよく、また、環境センサ3として、ジャイロセンサー、距離サンサーなどを組み合わせて使用してもよい。
【0018】
本体2の上面には、測定者が操作するためのボタンや液晶画面を備えた操作パネル4が設けられている。さらに、本体2の内部には制御装置5が設けられている。この制御装置5は、半導体メモリなどの記憶装置と、この記憶装置に読み込まれたプログラムを実行することで所望の機能を実現するCPU等の演算装置と、を備えた計算機である。そして、この制御装置5により、後述する駆動機構6bの制御や、各センサから得られるデータを逐次重ね合わせていき、重ね合わせの際のスキャンデータの移動量から本体2の自己位置と移動量を逐次推定する、マッピングAIを実現する。
【0019】
図2は、自走式試料採取装置1の底面図である。ここに示すように、自走式試料採取装置1は、本体2の底面の左右両側に設けられた車輪6aと、本体2の内部に設けられた駆動機構6bからなる移動装置6を備えている。駆動機構6bは、モータ、変速機器等を組み合わせたものであり、制御装置5が駆動機構6bを介して左右の車輪6aの回転速度を変化させることで前後左右への自律移動が可能となる。
【0020】
また、本体2の底面には、自走中の走行不能を検知する走行センサ3dとしても機能する補助輪や、表面汚染密度測定装置30と電気的に接続するための接続部7が設けられている。そして、この接続部7を介して、制御装置5は表面汚染密度測定装置30との通信が可能となり、また、本体2の内部の図示しない充電池は表面汚染密度測定装置30からの給電により充電が可能となる。
【0021】
さらに、本体2の内部には、放射線関連施設の表面汚染密度を間接法により測定するための試料採取部10が設けられている。この試料採取部10は、スミア濾紙11を取り付けた濾紙圧着具12を本体2の底部から突出させ、作業場所の床面にスミア濾紙11を圧着する機構を持つ。
【0022】
図3は、自走式試料採取装置1の試料採取部10の側面図である。ここに示すように、試料採取部10は、採取前濾紙格納部10a、濾紙圧着部10b、採取後濾紙格納部10cの三領域に区画されている。採取前濾紙格納部10aは、専用ホルダーに装着した未使用のスミア濾紙11aを複数格納できる領域である。濾紙圧着部10bは、濾紙圧着具12と圧着用モータ12aを備えた領域であり、圧着用モータ12aの回転力を濾紙圧着具12の上下運動に変換し、濾紙圧着具12を突出させてスミア濾紙11bを床面に圧着し、その場所の試料を採取する。採取後濾紙格納部10cは、試料採取済みのスミア濾紙11cを複数格納できる領域である。
【0023】
図4は、自走式試料採取装置1の試料採取部10の上面図であり、専用ホルダーに装着したスミア濾紙11を、採取前濾紙格納部10aから濾紙圧着部10bに、さらに、濾紙圧着部10bから採取後濾紙格納部10cに順次移送する様子を示している。スミア濾紙11の移送は、濾紙圧着具12を引き上げた状態で、試料採取部10の下部に設けた回転機構13を所望の方向に回転させることで実行する。より具体的には、採取前濾紙格納部10aから濾紙圧着部10bへの移送は、両領域の境界に回転軸を持つ回転機構13aを時計方向に回転させることで実行され、濾紙圧着部10bから採取後濾紙格納部10cへの移送は、両領域の境界に回転軸を持つ回転機構13bを反時計回りに回転させることで実行される。
【0024】
なお、
図3に示したように、採取前濾紙格納部10aには未使用のスミア濾紙11aが多数格納されているため、濾紙圧着部10bのスミア濾紙11bが採取後濾紙格納部10cに格納された後、採取前濾紙格納部10aから濾紙圧着部10bに未使用のスミア濾紙11aを補充することができる。
【0025】
図5は、自走式試料採取装置1の側面図であり、車輪6aと補助輪(走行センサ3d)の除染のための構成を説明するものである。ここに示すように、車輪6aと補助輪は本体2の底面から露出するように設けられており、この結果、床面と本体2の底面との間には数十mm程度の間隔がある。本体2の内部には、車輪6aと補助輪に付着した汚染を除去する除染装置8を設けており、除染装置8を車輪6aや補助輪に押し当て表面を拭き取ることで両者を除染することができる。除染装置8による除染は、例えば、巻き取り式の化学雑巾(レーヨン不織布等の静電気によって除染効果をもつ布)等を用いた乾式にて行う。試料採取後に車輪6aに一定時間押し当てられ、移動しながら車輪6aと補助輪を除染する。除染後は化学雑巾等の使用部が巻き取られる。
【0026】
特許文献1では、車輪を除染するために除染水を用いていたため、除染可能な場所が限定されていたが、本実施例の自走式試料採取装置1では、上記の除染装置8を用いることで、任意の場所で車輪を除染することができる。
<表面汚染密度測定装置30>
図6は、本実施例の表面汚染密度測定システム100を構成する、表面汚染密度測定装置30の概略斜視図である。この表面汚染密度測定装置30は、測定者の被ばくリスクが低い低線量の管理区域外に商用電源と接続した状態で設置されるものであり、主に、中央の本体31と、その左右の分析前試料皿格納部32aと分析後試料皿格納部32cで構成される。
【0027】
本体31の前面には、測定者が操作するボタンや液晶画面からなる操作パネル39と、自走式試料採取装置1の接続部7と電気的に接続するための接続部34が設けられている。また、本体31の前面には、自走式試料採取装置1が接続部34に近づく際の経路となるスロープ38が設けられており、接続部34とスロープ38の間の台上には、開閉式の開口機構を備えた試料搬入部37が設けられている。そして、自走式試料採取装置1と接続された表面汚染密度測定装置30には、試料搬入部37を介して試料採取済のスミア濾紙11cが搬入され、また、接続部34を介してマッピングAIによる推定採取場所が入力される。
【0028】
また、本体31の内部には、分析装置35と、分析装置35の分析結果を記録する記録作成部36が設けられている。分析装置35は、搬入されたスミア濾紙11cから、表面汚染密度を測定する装置であり、例えば、ガスフローカウンター、プラスチックシンチレーター、ZnSシンチレーター等を組み合わせて使用する。一方、記録作成部36は、分析装置35の分析結果を、採取試料の推定採取場所と併せて記録する。なお、汚染密度測定装置30の本体31は、外部PCやタブレット端末と有線または無線で接続でき、相互に情報通信することができる。
【0029】
図7は、汚染密度測定装置30の上面図である。ここに示すように、表面汚染密度測定装置30の本体31の内部には、正逆双方向に回転する移送部32bが設けられている。この移送部32bは外周部に試料皿を移送するためのくぼみを複数持ち、自走式試料採取装置1から試料搬入部37を介して搬入されたスミア濾紙11cを、試料皿に載せた状態で所望の位置に移送することができる。
<表面汚染密度測定システム100>
上記した自走式試料採取装置1と表面汚染密度測定装置30からなる本実施例の表面汚染密度測定システム100の具体的な運用方法を、以下で順次詳細に説明する。
<自走式試料採取装置1の測定地点への自律移動>
まず、
図8のように、自走式試料採取装置1と表面汚染密度測定装置30の接続部同士を接続させた状態で、外部PC等から表面汚染密度測定装置30に、表面汚染密度測定に必要な情報(放射線関連施設の地図情報や試料採取地点情報)を入力する。これにより、自走式試料採取装置1は、表面汚染密度測定装置30を介して、測定範囲や試料採取場所を認識することができる。
【0030】
測定範囲や試料採取場所を認識すると、自走式試料採取装置1の制御装置5は、移動装置6を制御して試料採取場所への自律移動を開始する。自律移動時には、赤外線センサ3a、超音波センサ3b、カメラセンサ3c、走行センサ3dから得た情報を制御装置5で統合し、障害物の回避と、マッピングAIによる自己位置推定を並列処理する。これにより、周辺環境に変化があった場合でも、障害物などを回避しつつ、目的地に移動することができる。なお、制御装置5は、自走式試料採取装置1の推定自己位置を連続的に記録した移動経路を記憶しており、万が一、車輪6a等で汚染を伝播させた場合にも除染の必要な範囲を絞り込むことができる。
<自走式試料採取装置1による試料採取>
自走式試料採取装置1が試料採取場所へ到着すると、
図3の破線で示したように、試料採取部10から床面に向けて濾紙圧着具12を突出させる。そして、濾紙圧着具12によりスミア濾紙11bを床面に圧着した状態で、自走式試料採取装置1を同心円状に移動させることで、この試料採取場所での試料採取を行う。一定範囲での試料採取が完了すると(例えば、100cm
2程度移動が完了した後に)、濾紙圧着具12を本体部に格納する。そして、試料採取部10内では、
図4に示したように、試料採取に使用したスミア濾紙11bを採取後濾紙格納部10cに移送するとともに、採取前濾紙格納部10aから移送された未使用のスミア濾紙11aが濾紙圧着具12に取り付けられる。スミア濾紙11の交換作業が完了すると、自走式試料採取装置1は次の試料採取場所へ自律移動し、上記の試料採取作業を再び実行する。
<表面汚染密度測定装置30による表面汚染密度測定>
測定者等により指定された全ての場所での試料採取が完了すると、自走式試料採取装置1は、管理区域外に設置された表面汚染密度測定装置30のスロープ38を登り、自身の接続部7を表面汚染密度測定装置30の接続部34に自ら接続する。接続部が相互に接続されると、表面汚染密度測定装置30の試料搬入部37が開き、試料採取済みのスミア濾紙11cが自走式試料採取装置1から本体31の内部に移送される。
【0031】
図7に示したように、表面汚染密度測定装置30の内部の移送部32bは、左右双方向に回転する機構を持つため、これによって空の試料皿と、分析前後のスミア濾紙11cを載せた試料皿の移送が行われる。具体的には、まず、
図7の左側の分析前試料皿格納部32aから供給された空の試料皿が、移送部32bによって、
図7の下側の試料搬入部37の下方に移送される。そして、スミア濾紙11cを載せた試料皿は、移送部32bによって、
図7の上側の分析装置35の近傍へ移送される。分析装置35によるスミア濾紙11cの分析が完了すると、スミア濾紙11cを載せた試料皿は、移送部32bによって、分析後試料皿格納部32cへと移送される。この一連の動作を、自走式試料採取装置1内の全ての試料(スミア濾紙11c)に対し実行する。
<測定記録作成>
自走式試料採取装置1と表面汚染密度測定装置30の接続部が接続されたときには、自走式試料採取装置1の制御装置5から表面汚染密度測定装置30の記録作成部36へ、外部PC等から入力された地図情報とマッピングAIが検知した実環境との誤差や、試料採取地点の情報が送信される。
【0032】
また、分析装置35による表面汚染密度の測定が完了したときには、その測定結果は記録作成部36に記憶される。そして、記録作成部36では、事前に入力された管理区域の地図に、実環境との誤差や、管理区域の各所の測定結果を反映させた、測定記録を作成する。ここで作成された測定記録は、表面汚染密度測定装置30と接続された外部PC等に出力され、測定者は外部PCのモニタ等を介して、管理区域の各所の表面汚染密度等を確認することが可能となる。
【0033】
以上で説明したように、本実施例の表面汚染密度測定システムによれば、試料採取と表面汚染密度測定の各作業を、高線量の管理区域内を自律走行する自走式試料採取装置と、低線量の測定エリア外に設置した表面汚染密度測定装置と、に分担させ、測定者の管理区域への立ち入りを不要とすることで、測定者の被ばくリスクを抑制するだけではなく、試料採取と表面汚染密度測定の各作業を無人化することで、測定者に拘わらず高精度の表面汚染密度測定を実現することができる。
【符号の説明】
【0034】
100:表面汚染密度測定システム
1:自走式試料採取装置
2:本体
3:環境センサ
3a:赤外線センサ
3b:超音波センサ
3c:カメラセンサ
3d:走行センサ
4:操作パネル
5:制御装置
6:移動装置
6a:車輪
6b:駆動機構
7:接続部
8:除染装置
10:試料採取部
10a:採取前濾紙格納部
10b:濾紙圧着部
10c:採取後濾紙格納部
11、11a、11b、11c:スミア濾紙
12:濾紙圧着具
12a:圧着用モータ
13、13a、13b:回転機構
30:表面汚染密度測定装置
31:本体
32a:分析前試料皿格納部
32b:移送部
32c:分析後試料皿格納部
34:接続部
35:分析装置
36:記録作成部
37:試料搬入部
38:スロープ
39:操作パネル