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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】癌のための動物試験モデル
(51)【国際特許分類】
   A01K 67/027 20060101AFI20220114BHJP
   C12N 5/073 20100101ALI20220114BHJP
   G01N 33/50 20060101ALI20220114BHJP
   G01N 33/15 20060101ALI20220114BHJP
   C12N 5/09 20100101ALI20220114BHJP
【FI】
A01K67/027
C12N5/073
G01N33/50 Z
G01N33/15 Z
C12N5/09
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2018531467
(86)(22)【出願日】2016-12-15
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-02-28
(86)【国際出願番号】 EP2016081316
(87)【国際公開番号】W WO2017103025
(87)【国際公開日】2017-06-22
【審査請求日】2019-11-25
(31)【優先権主張番号】1562693
(32)【優先日】2015-12-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】596096180
【氏名又は名称】ユニベルシテ・クロード・ベルナール・リヨン・プルミエ
(73)【特許権者】
【識別番号】595040744
【氏名又は名称】サントル・ナショナル・ドゥ・ラ・ルシェルシュ・シャンティフィク
【氏名又は名称原語表記】CENTRE NATIONAL DE LA RECHERCHE SCIENTIFIQUE
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】カステラーニ-ランコンタン,ヴァレリー
(72)【発明者】
【氏名】デロワ-ブルジョワ,セリーヌ
【審査官】鈴木 崇之
(56)【参考文献】
【文献】Frontiers in oncology,2015年02月,Vol. 5, Article 36,pp. 1-7
【文献】Experimental dermatology,2012年,Vol. 21,pp. 944-947
【文献】PloS ONE,2013年,Vol. 8, Issue 1,e53970, pp. 1-9
【文献】Clinical and Experimental Metastasis,2005年,Vol. 22,pp. 225-236
【文献】Clinical and Experimental Metastasis,2012年,Vol. 29,pp. 371-380
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01K 67/027
C12N 1/00-7/08
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
胚が移植の時点で段階HH10と段階HH25の間の発生段階にあり、癌細胞が神経管の内腔に導入されないことを特徴とする、癌細胞が胚の組織内に移植されたキジ目の鳥胚であって、前記癌細胞は神経芽腫細胞でもメラノーマ細胞なく、前記癌細胞は移植部位とは異なる胚内の移植部位で腫瘍を再生及び形成する、キジ目の鳥胚。
【請求項2】
胚が、移植の時点で段階HH10と段階HH18との間、又は移植の時点で段階HH12と段階HH16の間、又は移植の時点で段階HH13と段階HH15の間の発生段階にあることを特徴とする、請求項1記載のキジ目の鳥胚。
【請求項3】
胚が、移植後少なくとも24時間にわたりインキュベートされることを特徴とする、請求項1~2のいずれか一項記載のキジ目の鳥胚。
【請求項4】
癌細胞が、移植片当たり少なくとも1,000個の細胞の量で移植されることを特徴とする、請求項1~3のいずれか一項記載のキジ目の鳥胚。
【請求項5】
移植された癌細胞が、患者からの腫瘍に由来するヒト細胞であることを特徴とする、請求項1~4のいずれか一項記載のキジ目の鳥胚。
【請求項6】
移植された癌細胞は、色素で標識されるか、又はマーカータンパク質を発現することを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項記載のキジ目の鳥胚。
【請求項7】
癌細胞が、腫瘍が形成される組織とは異なる第1の組織中に移植され、第1の組織中への移植によって、移植された癌細胞が、腫瘍が形成し、そして発生する組織に向けられることを特徴とする、請求項1~6のいずれか一項記載のキジ目の鳥胚。
【請求項8】
癌細胞が、体節1と24の間の神経管中に、及び/又は脳組織中に移植されることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項記載のキジ目の鳥胚。
【請求項9】
癌細胞が、脳組織中に移植されることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項記載のキジ目の鳥胚。
【請求項10】
移植された癌細胞が、原発性又は二次性脳腫瘍に由来する細胞、肺癌細胞、及び乳癌細胞からなる群より選択されることを特徴とする、請求項1~9のいずれか一項記載のキジ目の鳥胚。
【請求項11】
移植された癌細胞が、原発性又は二次性脳腫瘍に由来し、体節1と4の間の神経管中に、及び/又は脳組織中に移植されることを特徴とする、請求項8記載のキジ目の鳥胚。
【請求項12】
癌細胞が移植され、そして胚内に腫瘍が形成されたキジ目の鳥胚を調製するための方法であって、以下の工程:
・キジ目の鳥胚の組織内における癌細胞の移植、ここで癌細胞は神経管の内腔に導入されない、及び
・少なくとも24時間にわたる移植胚のインキュベーション、ここで癌細胞は移植部位とは異なる胚内の移植部位で腫瘍を再生及び形成する
を含み、胚は移植の時点で段階HH10と段階HH25の間の発生段階にあることを特徴とし、前記癌細胞は神経芽腫細胞でもメラノーマ細胞ない、方法。
【請求項13】
腫瘍を伴う患者をモニタリングするためのデータを提供する方法であって、以下:
a)時間Tでの前記患者からの癌細胞を用いた、請求項1記載の方法に従った第1の移植胚の調製、及びこの第1の胚において発生する腫瘍の腫瘍形成の評価、
b)時間Tでの前記患者からの癌細胞を用いた、請求項12記載の方法に従った第2の移植胚の調製、及びこの第2の胚において発生する腫瘍の腫瘍形成の評価、
c)第1の移植胚中及び第2の移植胚中で発生する腫瘍の腫瘍形成の比較、
を含む、方法。
【請求項14】
癌の処置について意図した治療用分子をスクリーニングするためのデータを提供する方法であって、以下の工程:
a)請求項1記載の方法に従った移植胚の調製;
b)この移植胚への候補治療用分子の投与;
c)前記候補分子の投与後、この移植胚中に存在する癌細胞の悪性度の評価、
からなる、方法。
【請求項15】
癌細胞で構成される腫瘍を調製するための方法であって、以下の工程:
・移植の時点で段階HH10と段階HH25の間の発生段階でのキジ目の鳥胚の組織内における癌細胞の移植、ここで前記癌細胞は神経芽腫細胞でもメラノーマ細胞なく、癌細胞は神経管の内腔に導入されない、
・少なくとも24時間にわたる移植胚のインキュベーション、ここで前記癌細胞は移植部位とは異なる胚内の移植部位で腫瘍を再生及び形成する及び
・胚内で形成された前記腫瘍のサンプリング、
を含む、方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
発明の分野
本発明は、とりわけヒト固形腫瘍に、特にメラノーマ、原発性及び二次性脳腫瘍、肺腫瘍、及び乳房腫瘍に由来する癌細胞の試験のための動物モデルに関する。
【0002】
序論
実験動物におけるヒト癌のモデル化は、新たな抗癌療法の開発に伴う前臨床検査での中心的な問題である。その効果に対して開発された動物モデルについての主な基準は、モデルの信頼性ならびにその実行のスピード及びコストである。
【0003】
腫瘍試験のために開発され、現在使用されている動物モデルは、主にマウスモデルである。これらのモデルの調製には、比較的長い実行時間及び高いコストが含まれる。また、特定の型の癌細胞はマウス動物モデル中に移植することはできない。
【0004】
キジ目の鳥胚、特にニワトリ胚又はウズラ胚は、エクスビボ実験を実施するための、特に胚発生の試験のための及び異種移植実験のための魅力的なモデルである。それは実際に安価で、非常に利用しやすく、取り扱いも簡単である。それは、細胞増殖、分化、及び移動の試験のための選択モデルである。この動物モデルはまた、腫瘍を試験するために使用することができる。
【0005】
キジ目の鳥胚を使用した古典的な試験モデルは、胚体外構造での、より正確には絨毛尿膜(CAM)への外因性細胞の移植である。腫瘍細胞をニワトリ胚膜に移植する。約2日間にわたるインキュベーション後、腫瘍が形成される。この腫瘍では、成長させるために特に開発された胚膜脈管構造を利用する。そのようなシステムによって、インビボで腫瘍において観察されるものと同様の細胞及び分子の特色を有するインビボヒト腫瘍、とりわけ神経膠芽腫を再現することが可能になった(Hagedorn et al., 2005)。
【0006】
絨毛尿膜上での癌細胞のこれらの移植片は、とりわけ、前記癌細胞の転移能を決定するために使用されているのに対し、膜を横切る移植細胞は転移する可能性が最も高いと考えられている(米国特許第6,228,345号)。
【0007】
この絨毛尿膜移植モデルは、治療用分子、とりわけ、腫瘍血管形成を阻害するための分子をスクリーニングするためにも広く使用されている(例えば、国際公開第2015/074050号を参照のこと)。
【0008】
米国特許出願公開第2013/0171680号には、他の胚体外構造中への悪性ヒト造血細胞の異種移植が記載されている:癌細胞は、羊水嚢、卵黄嚢、又はCAMの血管中に注入する。
【0009】
これまで、癌細胞が胚の組織内に移植され、その胚体外構造中には移植されていないキジ目の鳥胚モデルについては、ほとんど研究は行われていない。
【0010】
Carterら(Oncogenesis, 2012)は、発生段階の3日目と6日目の間にニワトリ胚の血管中にヒト神経芽腫細胞を注入した。胚微小環境と接触すると、細胞は、特にニューロン組織中に組み込まれると、より良性の表現型に初期化される。
【0011】
Kulesaら(PNAS, 2006)は、「6~8体節」(参照命名法に従いHH8.5とHH9.5の間の段階に相当する)として示される発生段階での、ニワトリ胚の神経堤中へのヒトメラノーマ細胞の移植を記載した。胚のこの発生段階では、移植細胞は腫瘍を形成せず、良性細胞に初期化され、メラノサイト移動パターンに従って組織中に組み込まれる。
【0012】
これらの2つのモデルでは、移植された癌細胞は腫瘍を再生することができず、腫瘍が由来する組織と同種の組織において腫瘍を再生することは尚更できない。
【0013】
従って、キジ目の鳥胚は、ヒト腫瘍のエクスビボ試験のための選択された動物モデルであるが、これまで開発されたモデルでは、生体内において癌細胞の移動を試験することも、インビボの腫瘍と同種の組織微小環境中で腫瘍を試験することも可能にはならない。
【0014】
本発明は、癌、とりわけヒト癌の試験のための動物モデルの開発に関し、それにおいて、キジ目の鳥胚内に移植された癌細胞は、癌細胞が由来する組織に対応する胚の組織(同所移植)、又は他の組織(異所移植)に移動して癌病巣を作る。
【0015】
発明の概要
本発明は、癌細胞が胚の組織内の特定部位に移植されたキジ目の鳥胚、好ましくはニワトリ胚又はウズラ胚に関連し、それにおいて、前記癌細胞は神経芽腫細胞ではなく、それにおいて、前記細胞は胚内で腫瘍を形成する。
【0016】
移植は、それが胚発生の定義された点、すなわち段階HH10とHH25の間、特に段階HH13とHH15の間の点で行われることを特徴とする。
【0017】
そのような移植胚は、癌の試験のための動物モデルであって、それによって、癌細胞が由来する、及び/又はこれらの癌細胞が二次性癌病巣を作る傾向がある、即ち、転移する傾向がある組織と同種の組織内での癌細胞の移動及び腫瘍の発生を追跡することが可能になる。
【0018】
そのような移植胚はまた、胚の種々の組織において異所性に移植及び/又は発生することができる癌の試験のための動物モデルでもある。
【0019】
従って、本発明は、胚が移植の時点で段階HH10と段階HH25の間の発生段階にあることを特徴とする、癌細胞が胚の組織内に移植されているキジ目の鳥胚に関し、それにおいて、前記癌細胞は神経芽腫細胞ではない。
【0020】
換言すると、本発明は、胚が移植の時点で段階HH10と段階HH25の間の発生段階にあることを特徴とする、胚の組織内に移植された癌細胞からなる少なくとも1つの腫瘍を含むキジ目の鳥胚に関し、それにおいて、前記癌細胞は神経芽腫細胞ではない。
【0021】
本発明はまた、癌細胞が移植され、次に胚内に腫瘍を形成したキジ目の鳥胚を調製するための方法に関し、以下の工程を含む:
・前記胚の組織内での癌細胞の移植、及び
・少なくとも24時間にわたる移植胚のインキュベーション、
胚が移植の時点で段階HH10と段階HH25の間の発生段階にあることを特徴とし、それにおいて、前記癌細胞は神経芽腫細胞ではない。
【0022】
本発明はまた、腫瘍を伴う患者をモニタリングするための方法に関し、以下を含む:
a)時間Tでの前記患者からの癌細胞を用いた、上に記載する方法に従った第1の移植胚の調製、及びこの第1の胚において発生する腫瘍の腫瘍形成の評価、
b)時間Tでの前記患者からの癌細胞を用いた、上に記載する方法に従った第2の移植胚の調製、及びこの第2の胚において発生する腫瘍の腫瘍形成の評価、
c)第1の移植胚中で及び第2の移植胚中で発生する腫瘍の腫瘍形成の比較。
【0023】
本発明はまた、癌の処置について意図した治療用分子をスクリーニングするための方法に関し、以下の工程からなる:
a)上に記載する方法に従った移植胚の調製;
b)この移植胚への候補治療用分子の投与;
c)前記候補分子の投与後、この移植胚中に存在する癌細胞の悪性度の評価。
【0024】
本発明はまた、癌細胞で構成される腫瘍を調製するための方法に関し、以下の工程を含む:
i.移植の時点で段階HH10と段階HH25の間の発生段階でのキジ目の鳥胚の組織内における癌細胞の移植(それにおいて、前記癌細胞は神経芽腫細胞ではない)、
ii.少なくとも24時間にわたる移植胚のインキュベーション、及び
iii.胚内で形成された前記腫瘍のサンプリング。
胚中で産生されたこれらの腫瘍は、例えば、細胞培養のために、癌の別の動物モデル中での移植のために、あるいは前記腫瘍の生化学的及び/又は分子生物学的分析のために、初期腫瘍サンプルとして再利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1図1.HH12(14体節)からHH25(52~54体節)へのニワトリ胚の発生の初期段階の描写。
図2図2.受精以降の経過時間の関数としてのウズラ(二ホンウズラ)及びニワトリ(ニワトリ)胚の発生の初期段階の対応表。
図3図3.28体節段階又は段階HH16のニワトリ胚の縦断面図。各々の癌細胞型についての好ましい移植部位の範囲を図の右に示す。
図4図4.移植胚の縦断面図。ヒトメラノーマ細胞の移植48時間後での癌病巣の位置:18~24体節の間の神経管の背側天蓋中に移植された細胞は、腫瘍クラスターを皮下、ならびに神経管に接する間葉に形成する(破線円)。
図5図5.移植胚の縦断面図。頸部神経堤(反対側の体節1~4)から種々の脳領域の脳室に接する組織中に伸展する帯域へのヒト神経膠腫細胞又は髄芽腫細胞の移植48時間後での癌病巣の位置:移植細胞は脳組織中に腫瘍クラスターを形成する。
図6図6.移植胚の断面図。ヒト肺腫瘍細胞の移植48時間後での癌病巣の位置:迷走神経及び体幹部神経堤(体節4~24)の反対側の外側間葉中に移植された細胞は、神経管の腹角及び外側間葉において腫瘍クラスターを形成する(破線円)。
図7図7.ヒト肺癌細胞の移植後での移植胚の縦断面図。A.頸部神経堤(反対側の体節1~4)から種々の脳領域の脳室に接する組織中に伸展する帯域へのヒト肺癌細胞の移植48時間後での癌病巣の脳内位置:移植細胞は、ヒトにおける脳肺転移と同様に、脳組織中で腫瘍クラスターを形成する。B.ヒト肺癌転移の主要な予定部位をカバーする帯域(眼窩周囲組織、第一鰓弓、肝臓原基、四肢原基-硬節/真皮性筋節)中へのヒト肺癌細胞の移植後48時間での癌病巣の脳外位置:移植細胞は、軟骨及び顔面の骨(眼窩周囲移植及び第一鰓弓中への移植)中、胚性肝臓(肝臓原基中への移植)中、及び体節に由来する組織(例えば骨組織など)(硬節/真皮性筋節中への移植)中に腫瘍クラスターを形成する。
図8図8.ヒト乳癌細胞の移植後での移植胚の縦断面図。A.頸部神経堤(反対側の体節1~4)から種々の脳領域の脳室に接する組織中に伸展する帯域へのヒト乳癌細胞の移植48時間後での癌病巣の脳内位置:移植細胞は大脳組織中に腫瘍クラスターを形成する。B.ヒト乳腺癌転移の主要な予定部位をカバーする帯域(眼窩周囲組織、第一鰓弓、肝臓原基、四肢原基-硬節/真皮性筋節)中へのヒト乳癌細胞の移植後48時間での癌病巣の脳外位置:移植細胞は、軟骨及び顔面の骨(眼窩周囲移植及び第一鰓弓中への移植)中、胚性肝臓(肝臓原基中への移植)中、及び体節に由来する組織(例えば骨組織など)(硬節/真皮性筋節中への移植)中に腫瘍クラスターを形成する。
【0026】
発明の詳細な説明
以下の用語を、本発明のより良い理解のために定義する。
【0027】
用語「キジ目の鳥」は、ニワトリ、ウズラ、シチメンチョウ、キジ、クジャク、ホロホロチョウ、及び他の農場動物を含むキジ目(又はキジ類の鳥)の鳥を指す。好ましくは、胚はニワトリ(ガルス・ガルス)又はウズラ(二ホンウズラ)(実験室で一般に使用される2種)からである。
【0028】
用語「キジ目の鳥胚」は、胚が適切な条件下で、とりわけ37℃~39℃の温度に加熱されたインキュベーター中に置かれることにより胚が正常に発生するキジ目の鳥受精卵を指す。卵が孵化するために必要とされるインキュベーション時間は21日間である。
【0029】
本発明の文脈内において、「レシピエント」又は「受容」胚は、移植工程前のキジ目の鳥胚である。
【0030】
本発明の文脈内において、表現「移植」胚又は「癌細胞が移植された」胚は、移植工程後のキジ目の鳥胚を指し、特に、少なくとも24時間のインキュベーション後の移植胚を指し、それにおいて、移植された癌細胞からなる少なくとも1つの腫瘍が発生している。この移植胚は、本発明の主題であり、癌の試験のための動物モデルである。
【0031】
用語「癌」は、この病理により罹患した生物の最初に正常であった細胞の形質転換から、変異又は遺伝的不安定性により形成された悪性細胞の生物内における存在により特徴付けられる病理を指す。
【0032】
表現「移植胚」又は「癌細胞が移植された胚」は、本発明の意味内において、「キメラ胚」、即ち、少なくとも2つの異なる生物からの細胞(キジ目の鳥細胞及び別の生物からの癌細胞)を有する胚、移植片としてのその受容に続き胚の不可欠な部分になり、1つ以上の充実性腫瘍を形成することにより、及び/又は細胞分裂の正常な制御により調節されない様式に従って発生を継続することにより、レシピエントであるキジ目の鳥胚の組織内においてその発生を継続する。
【0033】
移植胚は、2つの異なる生物からの2つの細胞型を含むため、キメラ胚であることが理解される;しかし、胚は、成体生物を作製するように十分に発生することを意図せず、しかし、短期間に癌細胞を支持するためだけ使用されるため、厳密な意味において「キメラ」ではない。任意の事象において、このキジ目の鳥胚はキメラ生体を産生しないが、しかし、移植された癌細胞の進化の試験が完了するとすぐに破壊されることが理解される。
【0034】
本発明の意味内において、用語「移植する」又は「移植」は、胚の組織内におけるレシピエント生物中への外因性細胞の導入を指す。
【0035】
特に、この用語は、胚外構造(例えば絨毛尿膜、卵黄嚢、又は羊膜嚢など)への外因性細胞の導入を指すものではない。さらに、この用語は、胚の血流中への細胞の注入を指すものではない。
【0036】
本願は特に異種移植に関するものであり、この用語は、レシピエント胚中に導入された細胞がレシピエント胚の種とは異なる種の生物からであるとの事実を指す。
【0037】
癌細胞の移植は適切な条件下で行い、前記細胞が、その組織起源に従って、又はこの癌細胞型により通常コロニー形成される組織とは異なる組織において、関連部位で、レシピエント胚内において腫瘍を再生、移動、及び形成することを可能にする。
【0038】
これらの「適切な条件」によって、動物モデル内において、「癌」と呼ばれる疾患の特定の態様の再現、とりわけ、腫瘍の形成が可能になる。
【0039】
これらの「適切な条件」は、移植が行われた時点でのレシピエント胚の発生段階及び移植部位に基づく。
【0040】
移植部位の選択によって、とりわけ、その中で癌病巣を形成するための癌細胞の移動及び種々の組織中での移植を確認することが可能になる。好ましくは、これらの癌病巣は固形腫瘍である。
【0041】
従って、本発明の一実施形態に従い、組織(移植部位)中に移植された癌細胞は、この移植部位の機能として移植胚中で移動し、移植部位とは異なる第2の組織(以後「移植組織」又は「移植部位」と呼ぶ)中に移植されて、少なくとも1つの腫瘍を形成することができる。特定の領域中で、細胞は非常に局所的に移動し、移植部位の近くに移植される。
【0042】
いくつかの場合を考慮する必要がある:
-関連する癌細胞が、それらが由来する生物において原発性癌病巣を形成する組織と同種の組織中での癌病巣の確立に対応する、いわゆる「同所性」移植を実施することが望ましいであろう。これらの癌病巣は、標的領域中への直接移植、又はこの領域中に細胞を導く移動経路中への移植のいずれかからもたらされうる。特定の移植部位の選択によって、本願に例示するように、癌細胞を移植組織に向ける方向付けが可能になる。
-癌細胞が転移する傾向がある組織内において二次性癌病巣を再生することも望ましいであろう;ここでもまた、これらの二次性癌病巣は、標的領域中への直接移植、又はこの領域(移植領域)中に細胞を導く移動経路中への移植のいずれかを実施することにより得ることができる。
-最終的には、癌細胞が由来する組織型以外の組織型において移植及び発生する癌病巣を作製することが単に望まれうる。これらの「異所性」移植は、(転移からもたらされる)原発性腫瘍又は二次性腫瘍に由来するかを問わず、それらが由来する生物において癌細胞を宿す組織とは異なる組織における癌病巣の移植に対応する。
【0043】
そのような動物モデルによって、このように、癌細胞の移動及び特定の組織内でのその移植の両方を試験すること、又は異種組織内に形成された癌病巣を試験することが可能になる。
【0044】
この動物モデルの主な利点は、癌病巣移植部位の特異性に加えて、その低コスト及びその調製スピードである。
【0045】
さらに、この動物モデルによって、サンプリングして、別の動物モデル、例えばマウス中に移植する、又は鳥類胚中に再移植する、又は培養物及びエクスビボ3Dモデルを作製するために使用する、又は生化学的及び分子的分析を実施することができうる特定の腫瘍の発生を開始することが可能になる。
【0046】
レシピエント胚の発生段階
キジ目の鳥胚のいくつかの発生段階を定義し、図1及び2に示す。これらの段階は、受精後のインキュベーション時間の関数として定義し、Hamburger及びHamilton(1951, J Morphol.)により定義される基準に従って決定されている。さらに、体節が、発生が進行するにつれて現れるため、各々の段階を、存在する体節の数によっても特徴付ける。
【0047】
胚の発生は、胚が適切な条件下、とりわけ37℃~39℃の温度でインキュベートされた場合だけで開始することが理解される。従って、「48時間と55時間の間」の発生段階は、卵がその発生のための最適な条件下でこの期間中維持されたことを意味する。受精卵は、その発生のための最適な条件下に置かれる前に14℃に保つことができる;14℃でのこの待機期間は、下に示された期間において考慮すべきでない。
【0048】
本発明に従い、移植の時点で、キジ目の鳥胚、特にニワトリ胚又はウズラ胚は、段階HH10と段階HH25の間の発生段階にある。
【0049】
段階HH10は約33~38時間のインキュベーションで観察され、10体節の存在により特徴付けられる。
【0050】
段階HH25は102~108時間のインキュベーションの間に観察され、52~54体節の存在により特徴付けられる(図1を参照のこと)。
【0051】
これらの2つの段階の間で、重要な事象は胚の湾曲である。実際に、第19体節(段階HH13)の出現、即ち、約48時間の受精後インキュベーション後に、胚の頭部が、器官形成の間に胚の後端に伝播する左へのねじれ運動を開始する。この運動の進行は、55~68時間のインキュベーションの間に明確に知覚できる。
【0052】
好ましくは、移植の時点で、キジ目の鳥胚、特にニワトリ胚又はウズラ胚は、段階HH12と段階HH25の間の発生段階、即ち、図1に提示する段階の1つにある。
【0053】
この胚の発生段階は、受精後40時間から4.5日の間に起こり、胚形成の多くの重要な事象により特徴付けられ、その中には体節の出現、大脳領域の細分化、胚の種々の領域の湾曲、及び多数の器官の形成がある。
【0054】
別の好ましい態様に従い、移植の時点で、キジ目の鳥胚、特にニワトリ胚又はウズラ胚は、段階HH10と段階HH18の間、段階HH10と段階HH15の間、又は段階HH12と段階HH16の間の発生段階にある。
【0055】
好ましくは、癌細胞の移植は、段階HH13と段階HH15の間の発生段階、即ち、受精後48~55時間の間、好ましくは受精後50~53時間の間(段階HH14)にレシピエントであるキジ目の鳥胚で実施する。
【0056】
この発生段階HH13~HH15では、ニワトリ胚又はウズラ胚は19~27の間の体節を含む。
【0057】
癌細胞
本発明の意味内において、用語「癌細胞」は、悪性細胞、即ち、細胞分裂を調節する正常な制御に供されることなく分裂することが可能な細胞を指す。大半の癌細胞は、「悪性の細胞学的特色」として公知である異常な特色を有する。
【0058】
これらの細胞は、本願において、「腫瘍」、「新腫瘍」、「腫瘍病巣」、「癌病巣」、「腫瘍クラスター」、又は「腫瘍塊」として等しく言及する1つ以上の増殖物を形成することができ、1つ以上の組織を発生する。
【0059】
用語「腫瘍」は、持続し成長する傾向を有する組織塊に導く過剰な細胞増殖を指し、その生物学的自律性を証明する。本発明は、特に悪性腫瘍に関する。悪性腫瘍は通常急速に成長し、局所的な根絶後に再発する傾向がある。悪性腫瘍は不十分に区切られており、被包されていない;その境界は不規則である。
【0060】
循環癌細胞、とりわけ血液細胞は、無秩序で、制御されない成長及び分裂のための能力により特徴付けられる。
【0061】
そのような癌細胞を有する生体は、癌を有すると診断する。
【0062】
本発明の意味内において、レシピエント胚の組織中に移植されることが意図される癌細胞は、悪性固形腫瘍からであるか、又は造血性癌細胞である。
【0063】
本発明の好ましい態様に従い、それらは悪性固形腫瘍に由来する癌細胞である。
【0064】
本発明の意味内において、神経芽腫細胞を除く全ての癌細胞が関係することが理解される。
【0065】
本発明の好ましい態様に従い、移植された癌細胞は、非小児固形腫瘍に由来する。
【0066】
本発明の一態様に従い、移植された癌細胞は、成人個体において発生するヒト悪性腫瘍に由来する。
【0067】
本発明は、好ましくは、ヒト腫瘍の試験のためを意図した動物モデルに関する;細胞は、従って、好ましくはヒト癌細胞である。それは、それにもかかわらず、非ヒト動物腫瘍の試験のために、とりわけ、ヒト以外の哺乳動物において発生する腫瘍の試験のために本発明の動物モデルを使用することが可能である。
【0068】
本発明の一態様に従い、移植された癌細胞は、メラノーマ細胞、原発性又は二次性脳腫瘍に由来する細胞、肺癌細胞、及び乳癌細胞からなる群より選択される。
【0069】
それらはまた、HER2+/ER+乳房腫瘍細胞、前立腺癌細胞、肉腫細胞、小児神経膠腫細胞、及び「EGFR変異体」肺癌細胞より選択される癌細胞でありうる。
【0070】
本発明の態様に従い、移植された癌細胞はメラノーマ細胞ではない。
【0071】
本発明のさらに別の態様に従い、移植された癌細胞は、原発性又は二次性脳腫瘍に由来する細胞、肺癌細胞、及び乳癌細胞からなる群より選択される。
【0072】
移植されたキジ目の鳥胚の調製のために、癌細胞を以下の形態で移植することができる:
-標的組織中に注入した懸濁細胞;
-腫瘍組織の固体片(ブロック);
-単離した癌細胞の凝集体/ホモジネート。
【0073】
用語「移植片」は、以下に使用する通り、レシピエント胚中に群として導入された癌細胞の集まりを指す。
【0074】
レシピエントであるキジ目の鳥胚中への癌細胞の移植は、当業者に周知の方法に従って実施する。キジ目の鳥胚は、卵殻中に小さな開口部を作った後、実際に簡単にアクセス可能である。特に、癌細胞の移植は、空気圧マイクロインジェクター(Picopump PV830、World Precision Instruments)を使用して実施する。キジ目の鳥胚内に細胞を移植するための他の技術が、先行技術において、例えば、Kulesaら(PNAS, 2006)又はBoullandら(JVE, 2010)により記載されている。
【0075】
本発明の好ましい実施形態に従い、癌細胞は移植片当たり少なくとも約1,000個の細胞の量で移植する。
【0076】
あるいは、移植片は、移植片当たり少なくとも5,000個、10,000個、又は15,000個の癌細胞の量を含む。
【0077】
別の代替法に従い、移植片は、移植片当たり約5,000個~約75,000個の細胞、移植片当たり約10,000個~約75,000個の細胞、又は移植片当たり約15,000個の細胞~約75,000個の細胞の範囲の量の癌細胞を含む。
【0078】
特に、移植片は約15,000個、約20,000個、約25,000個、約30,000個、約35,000個、約40,000個、約45,000個、約50,000個、約55,000個、約60,000個、約65,000個、約70,000個、又は約75,000個の癌細胞を含む。
【0079】
細胞を計数するための方法は、当業者に周知である。特に、マイクロインジェクターを用いて移植された細胞の数は、一定時間の間に、所与の圧力で、マラセッツ計数チャンバーを使用し、毛細管から排出された細胞の数を計数することにより、移植に先立ち決定する。
【0080】
本発明の特定の実施形態に従い、いくつかの移植片(各々が少なくとも1,000個の癌細胞を含む)を単一のレシピエント胚に移植する。特に、少なくとも2つ、3つ、4つ、5つ、又は6つの移植片を、適切な部位で単一のレシピエント胚に移植する。
【0081】
本発明の好ましい実施形態に従い、移植された癌細胞はヒト癌細胞である。
【0082】
本発明の特定の実施形態に従い、移植された癌細胞は、患者からの、即ち、癌を伴うヒト個体からの腫瘍に由来するヒト細胞である。
【0083】
癌細胞は、当業者に周知の技術(例えば生検及び顕微手術など)により採取されている。
【0084】
キジ目の鳥胚内に移植された癌細胞を区別し、とりわけ、その分散及び増殖能力に従うために、移植細胞は、有利には、色素を用いて標識するか、又はマーカータンパク質を発現する。
【0085】
そのような標識は色素を使用して実施することができる。細胞は、特に、生体色素(例えばカルボシアニドなど)を使用して標識することができ、それらは細胞膜について親和性を有し、その中に取り込まれて、細胞に赤色蛍光を与える。カルボキシフルオレセインスクシンイミジルエステル(CFSE)色素(細胞内タンパク質と反応する際に緑色蛍光を発する)も使用することができる。
【0086】
本発明の特定の態様に従い、移植された癌細胞はマーカータンパク質を発現する。
【0087】
マーカータンパク質は、従来の遺伝子工学的方法により細胞中に導入された外因性遺伝子によりコードされるタンパク質であり、前記遺伝子の発現は、前記細胞において活性なプロモーターの制御下にあり、前記タンパク質は目に見えるか、又は化学試薬と反応して目に見えるようにすることが可能である。多くのマーカータンパク質(例えば緑色蛍光タンパク質(GFP)など)が公知である。
【0088】
移植胚のインキュベーション
移植に続いて、キジ目の鳥胚を、湿度飽和インキュベーター中で、37℃~39℃の温度、好ましくは約38.5℃の温度で、標準技術に従って少なくとも24時間にわたりインキュベートする。
【0089】
24時間のインキュベーションの時点で、移植された癌細胞で構成される最初の腫瘍が移植胚内で観察される。
【0090】
本発明の特定の態様に従い、胚は、移植された胚内で腫瘍を形成するためにゆっくりと移動する及び/又はより長い動態を有する癌細胞の試験の場合において、癌細胞の移植後、少なくとも36時間、少なくとも48時間、少なくとも60時間、少なくとも72時間、少なくとも4日間、少なくとも5日間、少なくとも6日間、少なくとも7日間、少なくとも8日間、及び最大20日間にわたりインキュベートする。
【0091】
本発明の好ましい態様に従い、胚は、移植後、約48~52時間にわたり、好ましくは37℃~39℃の温度でインキュベートする。
【0092】
移植部位
本発明の好ましい態様に従い、癌細胞は、体節1~24の間の神経管でレシピエント胚中に、及び/又は脳組織中に移植する。
【0093】
神経管は胚の原始神経系を含む。体節は、神経管及び脊髄の各々の側に位置付けられる胚構造であり、胚の前後軸に沿った繰り返し単位からなる。受精後48~55時間の間、即ち、段階HH13とHH15の間の発生段階では、キジ目の鳥胚は19~27体節を含む。発生の種々の段階でのニワトリ胚の描写(14~54体節の範囲)を図1に示す。
【0094】
本発明の意味内において、表現「神経管中に」又は「神経管で」は同義であり、癌細胞が神経管を構成する組織内に導入され、神経管の内腔(脳脊髄液が循環する脳室及び脊髄の中心溝を含む)中にはないことを意味する。
【0095】
本発明の第1の態様に従い、癌細胞を、体節1と24の間で神経管を構成する組織内に移植する。
【0096】
本発明の第2の態様に従い、癌細胞を脳組織中に移植する。用語「脳組織」は、ニューロン、ニューロンが生じる心室に接する帯域、外部から脳を単離する脈絡叢及び外部膜(例えば軟膜及びくも膜など)で構成される組織層を指す。
【0097】
脳組織は、種々の脳領域(例えば終脳、間脳、中脳、間葉、及び脳幹など)を含む。
【0098】
本発明の第3の態様に従い、癌細胞を、神経管を構成する組織内において体節1~24の間にレシピエント胚中に移植し、また、脳組織中にも移植する。
【0099】
本発明に従い、癌細胞を用いて移植したキジ目の鳥胚からなる動物モデルは、任意の癌細胞型の試験のために適切である。動物モデルは、しかし、主にヒトの悪性固形腫瘍の試験用が意図されている。
【0100】
本発明の意味内において、用語「癌細胞」は、神経芽腫細胞を除く任意の癌細胞型を指し、造血性癌細胞を含むことを想起すべきである。
【0101】
本発明の別の態様に従い、用語「癌細胞」は、神経芽腫細胞及びメラノーマ細胞を除く任意の癌細胞型を指し、造血性癌細胞を含む。
【0102】
本発明のさらに別の態様に従い、癌細胞は、原発性又は二次性脳腫瘍に由来する細胞、肺癌細胞、及び乳癌細胞からなる群より選択する。
【0103】
各々の癌細胞型について、当業者は、癌細胞の移動を、関連する細胞型に適当な腫瘍発生部位に向けるために、又は癌細胞が由来する組織とは異なる組織中で発生する異所性新腫瘍を得るために、最適な移植部位を決定することができる。
【0104】
特に、癌細胞は、特定の胚組織に特異的に「対処する」ために、特定の十分に定義された部位に移植することができ、そこでは、癌細胞は、それらが由来する組織と同等の組織中に、又は転移性二次性腫瘍が出現する傾向がある組織中に腫瘍を移植して形成する。
【0105】
本発明の一態様に従い、癌細胞は、1つ以上の腫瘍が形成される移植組織とは異なる第1の組織中に移植され、第1の組織中への移植によって、移植された癌細胞は、それらが1つ以上の腫瘍を構成する、即ち、1つ以上の腫瘍が発生する移植組織に向けられる。
【0106】
いくつかの細胞型、とりわけ、メラノーマ細胞、原発性又は二次性脳腫瘍に由来する細胞、肺癌細胞、及び乳癌細胞からなる群より選択される癌細胞が、本願に記載する方法に従って、レシピエントであるキジ目の鳥胚中に移植されている。
【0107】
従って:
本発明の第1の態様に従い、移植された癌細胞はメラノーマ細胞であり、体節18と24の間の神経管の背側天蓋中に、又はその近位中に移植される。
【0108】
図4に示すように、この特定の移植部位によって、少なくとも24時間のインキュベーション後、移植細胞で構成される腫瘍が移動し、次に皮膚の下で特異的に発生して、このように、それらがその最初の生物にある場合にメラノーマ細胞の組織環境を再現する移植胚を得ることが可能になる。
【0109】
従って、移植された癌細胞は、それが由来するヒト組織と同等の組織中で新腫瘍を形成するために、レシピエント胚内を移動する。
【0110】
本発明の第2の態様に従い、癌細胞は、原発性又は二次性脳腫瘍に由来し、体節1と4の間の神経管中に、及び/又は脳組織中に移植する。
【0111】
この特定の実施形態において、原発性又は二次性脳腫瘍に由来する癌細胞は、体節1と4の間の神経管中に、又は脳組織の厚さ内で、もしくは脳室の境界で脳組織中に移植する。
【0112】
用語「脳組織」は、ニューロン、ニューロンが生じる心室に接する帯域、外部から脳を単離する脈絡叢及び外部膜(例えば軟膜及びくも膜など)で構成される組織層を指す。
【0113】
特定の実施形態において、原発性又は二次性脳腫瘍に由来する癌細胞の少なくとも2つの移植片を、体節1と4の間の神経管中に移植し、他方を脳組織中に移植する。
【0114】
表現「原発性脳腫瘍」は、特に、腫瘍、例えば神経膠腫、神経膠芽腫、又は髄芽腫中で観察される腫瘍などを指す。
【0115】
表現「二次性脳腫瘍」は、「原発性」腫瘍に由来する転移性癌細胞の伝播に続いて、脳において形成される腫瘍を指す。この原発性腫瘍は種々の臓器において見出すことができる。以下の癌は、脳、肺、乳房、メラノーマ、腎臓、精巣、結腸直腸、気管支、リンパ腫(特に非ホジキンリンパ腫)、及び白血病に最も頻繁に伝播するものである。
【0116】
図5に示すように、これらの2つの特異的な移植部位によって、少なくとも24時間のインキュベーション後、移植細胞で構成される腫瘍が脳組織において特異的に発生し、このように、それらがその最初の生物中にある場合に神経膠腫、神経膠芽腫、又は髄芽腫細胞の組織環境を再現する移植胚を得ることが可能になる。
【0117】
本発明の第3の態様に従い、癌細胞は肺腫瘍に由来し、体節4と24の間で神経管中に移植される。
【0118】
図6及び図7Aに示すように、この特異的な移植部位によって、少なくとも24時間のインキュベーション後、移植細胞で構成される腫瘍が、神経管の腹角及び隣接する間葉において特異的に発生する移植胚を得ることが可能になる。この形成部位は、中枢神経系の領域に対応し、脳転移の形成部位の代替物である。それは、このように、神経系における二次性癌腫瘍の移植を表している。
【0119】
本発明の第4の態様に従い、癌細胞は乳房腫瘍(乳癌)に由来し、体節4と24の間で神経管中に移植される。
【0120】
図7Bに示すように、この特異的な移植部位によって、少なくとも24時間のインキュベーション後、移植細胞で構成される腫瘍が脳組織中、とりわけ、皮膚層に近接して特異的に発現する移植胚を得ることが可能になる。
【0121】
方法
本発明はまた、癌細胞が移植され、次に前記胚内に腫瘍を形成したキジ目の鳥胚を調製するための方法に関し、以下の工程を含む:
・キジ目の鳥胚の組織内における癌細胞の移植、及び
・少なくとも24時間にわたる移植胚のインキュベーション、
胚は移植の時点で段階HH10と段階HH25の間の発生段階にあることにより特徴付けられ、前記癌細胞は神経芽腫細胞ではない。
【0122】
有利には、移植は、体節1~24の間の神経管中及び/又は脳組織中で実施する。
【0123】
有利には、移植片胚を、移植後約48~52時間にわたり、37℃~39℃の温度でインキュベートする。
【0124】
有利には、癌細胞は、患者から採取された腫瘍に由来し、少なくとも1,000個細胞/移植片の量で移植する。
【0125】
有利には、移植は、上に詳述する特定条件に従って実施する。
【0126】
本発明はまた、癌患者をモニタリングするための方法に関し、以下を含む:
a)時間Tでの前記患者からの癌細胞を用いた、上に記載する方法に従った第1の移植胚の調製、及びこの第1の胚において発生する癌細胞の悪性度指数の評価、
b)時間Tでの前記患者からの癌細胞を用いた、上に記載する方法に従った第2の移植胚の調製、及びこの第2の胚において発生する癌細胞の悪性度指数の評価、
c)第1の胚及び第2の胚中で発生する癌細胞の悪性度指数の比較。
【0127】
「悪性度指数の評価」は、いくつかの補完的なアプローチにより実施する;移植胚において発生する癌細胞のサンプリング後、それらを種々の分析に供する:
-生化学試験及びトランスクリプトーム試験、ならびに
-その再培養によるインビトロ試験。
【0128】
これらの種々の分析によって、特に以下の因子に関連する悪性度指数を決定することが可能になる:
・マーカーKi67の検出による癌細胞の増殖指数の決定;
・細胞死事象(DNA断片化、壊死、シトクロムc放出、プロアポトーシスプロテアーゼ活性化)の検出による細胞の細胞死指数の決定;
・トランスクリプトーム及び細胞のプロテオームの分析;
・再培養後の細胞挙動の試験。
【0129】
全てのこれらの因子の組み合わせ分析は当業者に周知であり、「悪性度指数」を決定することを可能にし、癌の重症度及び悪性度の定量化を可能にする。実際に、全てのこれらのパラメータは、癌細胞の分化状態及びまた、生物中で増殖及び伝播するその能力の評価を可能にする。これらのパラメータは、臨床医が治療管理を指示するための基礎として使用する、癌細胞の解剖病理学的分類の不可欠な部分である。
【0130】
本発明はまた、腫瘍、とりわけ、悪性固形腫瘍を伴う患者をモニターするための方法に関し、以下を含む:
a)時間Tでの前記患者からの癌細胞を用いた、上に記載する方法に従った第1の移植胚の調製、及びこの第1の胚において発生する腫瘍の腫瘍形成の評価、
b)時間Tでの前記患者からの癌細胞を用いた、上に記載する方法に従った第2の移植胚の調製、及びこの第2の胚において発生する腫瘍の腫瘍形成の評価、
c)第1の胚及び第2の胚中で発生する腫瘍の腫瘍形成の比較。
【0131】
表現「腫瘍を伴う患者」は、癌を患っており、所与の器官に固形腫瘍を有するヒトを指す。
【0132】
「腫瘍の腫瘍形成の評価」は、いくつかの補完的なアプローチにより実施する;顕微解剖により移植胚において現れる腫瘍のサンプリング後、それらを種々の分析に供する:
-生化学試験及びトランスクリプトーム試験、ならびに
-その再培養によるインビトロ試験。
【0133】
これらの種々の分析によって、特に以下の「腫瘍形成因子」を決定することが可能になる:
・組織学的分析による腫瘍病巣の位置;
・3次元再構成画像からの腫瘍容積の測定;
・マーカーKi67の検出による腫瘍病巣内の増殖指数の決定;
・血管新生のマーカーの検出による腫瘍病巣の血管新生指数の決定;
・細胞死事象(DNA断片化、壊死、シトクロムc放出、プロアポトーシスプロテアーゼ活性化)の検出による腫瘍病巣内の細胞死指数の決定;
・インサイチュで抽出された腫瘍のトランスクリプトーム及びプロテオームの分析;
・再培養後の細胞挙動の試験。
【0134】
全てのこれらの因子の組み合わせ分析は、当業者に周知であり、「腫瘍形成指数」を決定することを可能にし、腫瘍の重症度及び悪性度の定量化を可能にする。実際に、全てのこれらのパラメータは、癌細胞の分化状態及びまた、生物中で増殖及び伝播するその能力の評価を可能にする。これらのパラメータは、臨床医が治療管理を指示するための基礎として使用する、腫瘍の解剖病理学的分類の不可欠な部分である。
【0135】
従って、以下を区別することが可能である:
-キジ目の鳥胚における、時間Tでの患者からの癌細胞の移植に続き発生する腫瘍、及び
-キジ目の鳥胚における、時間Tでの患者からの癌細胞の移植に続いて発生する腫瘍。
【0136】
そのような方法によって、時間T(例、処置の開始前)及び時間T、T、T(例、患者の処置開始後数ヶ月)での、患者の固形腫瘍の発生、特にそれらの癌細胞の腫瘍形成指数をエクスビボでモニターすることが可能になる。
【0137】
この方法は、所与の患者において腫瘍の進行をモニターするために要求される回数だけ自然に繰り返してもよい。
本発明はまた、癌の処置について意図した治療用分子をスクリーニングするための方法に関し、以下の工程からなる:
a)上に記載する方法に従った移植胚の調製;
b)この移植胚への候補治療用分子の投与;
c)前記候補分子の投与後、この移植胚中に存在する癌細胞の悪性度の評価。
【0138】
用語「候補治療用分子」は、関係する癌を処置するために潜在的に有効である化学的又は生物学的分子を指す。
【0139】
工程b)は、いくつかの方法で実施することができる:分子を、癌細胞の移植前又は後に胚へ投与することができる。特に、治療用分子は、胚の脈管構造中に注入することができ、卵黄嚢中に組み込むことができ、又は移植を実施する前又はその時に移植片に使用することができる。
【0140】
本発明のこの態様に従い、レシピエント胚に移植されることが意図される癌細胞を、レシピエント胚への移植前/移植中に治療用分子とインキュベートする。
【0141】
癌細胞の悪性度の評価を、移植胚において発生する癌細胞のサンプリング後、上に記載するアプローチにより実施する。時間Tでの癌細胞と、テストした分子の投与の少なくとも24時間後、特に1(T)、2(T)、又は3(T)日後の癌細胞の悪性度の比較によって、投与される治療用分子の効果を決定することが可能になる。
【0142】
当然、この分子の投与は、腫瘍が依然としてキジ目の鳥胚中に存在するという条件で、種々の時間、とりわけ、少なくとも24時間、48時間、72時間、96時間にわたり、及び5日間、6日間、7日間、8日間、9日間、10日間、11日間、12日間、13日間、14日間、15日間、16日間、17日間、18日間、19日間、20日間、21日間まで又は卵の孵化までに行うことができる。
【0143】
種々のテストを実施した後、胚は有効な倫理規則に従って犠牲にされることが理解される。
【0144】
本発明はまた、癌細胞で構成される腫瘍の発生を可能にするための、本発明に従ったキジ目の鳥胚の使用に関する。
【0145】
特に、本発明に従ったキジ目の鳥胚において癌細胞で構成される腫瘍のインビボでの発生を得ることが可能であるのに対し、これらの癌細胞は、哺乳動物モデルにおいて、例えばマウスにおいて腫瘍を移植し形成する困難を有する。
【0146】
特に、以下の癌細胞は、哺乳類動物組織中での移植後、移植することが困難であることが観察されている:肝臓癌細胞、前立腺癌細胞、及び低増殖性癌に由来する細胞(例えばHER2+/ER+乳腺腫瘍細胞、肉腫細胞、及び小児脳腫瘍細胞など)。
【0147】
本動物モデルによって、有利には、癌細胞で構成される腫瘍の発生が可能になり、前記癌細胞は、一般的には、哺乳類動物モデル中に移植された後には移植が困難である。
【0148】
本発明はこのように、癌細胞で構成される腫瘍を調製するための方法に関し、以下の工程を含む:
・移植の時点で段階HH10と段階HH25の間の発生段階でのキジ目の鳥胚の組織内における癌細胞の移植(それにおいて、前記癌細胞は神経芽腫細胞ではない)、
・少なくとも24時間にわたる移植胚のインキュベーション、及び
・胚内で形成された前記腫瘍のサンプリング。
【0149】
このようにサンプリングした腫瘍は次に、例えば、細胞培養物の調製のために、別の動物モデル中に移植するために、あるいは前記腫瘍の生化学的及び/又は分子生物学的分析を実施するために、初期腫瘍サンプルと同様に使用してもよい。
【0150】
本発明のこの方法の一実施形態に従い、移植された癌細胞は、神経芽腫細胞でもメラノーマ細胞でもない。
【0151】
本発明の方法のさらに別の実施形態に従い、移植された癌細胞は、原発性又は二次性脳腫瘍に由来する細胞、肺癌細胞、及び乳癌細胞からなる群より選択する。
【0152】
本発明の方法のさらに別の実施形態に従い、移植された癌細胞は、HER2+/ER+乳腺腫瘍細胞、前立腺癌細胞、肉腫細胞、小児神経膠腫細胞、及び「EGFR変異体」肺癌細胞より選択する。
【0153】
上に記載するように、本発明に従った種々の方法を実施した後、キジ目の鳥胚は有効な倫理規則に従って犠牲にされることが理解される。
【0154】
実施例
以下の実施例の唯一の目的は、本発明を例証することであり、いかなる場合でも、本発明を以下に記載する特定の実施形態に限定することはない。
【0155】
材料及び方法
ヒト癌細胞株
ヒト肺癌(A549株)細胞、メラノーマ(A375P株)細胞、神経膠芽腫(U251株)細胞、髄芽腫(DEV株)細胞、及び乳癌(MDA MB 436株)細胞を遺伝子操作して緑色蛍光タンパク質(GFP)を安定に発現させた。
【0156】
ニワトリ胚
受精卵(ガルス・ガルス)は供給業者(EARL Morizeau、フランス、ダンジェ)から購入し、使用まで14℃に保った。卵を発育段階HH14で胚を得るように、飽和湿度インキュベーター中で、38.5℃で52時間にわたりインキュベートした。
【0157】
ニワトリ胚におけるヒト癌細胞移植
5×10個の癌細胞を収集し、次に30μLの培地中に再懸濁した。
【0158】
38.5℃で52時間のインキュベーション後、胚を視覚化し、それにアクセスするために、殻に窓を開けた。卵黄膜を神経管で切断し、反対側の体節20及び21の神経管の天蓋において創傷を作製した。
【0159】
細胞懸濁液をガラスマイクロキャピラリーチューブ中に挿入し、空気圧マイクロインジェクター(Picopump PV830、World Precision Instruments)を使用して各々の胚中に細胞を沈着させた。
【0160】
卵を次に、38.5℃のインキュベーターに48時間戻した。
【0161】
他の条件
胚中に移植されたいくつかの量の癌細胞を、移植を実施するためにテストした:1,000個の細胞、3,000個の細胞、10,000個(10個)の細胞、及び5×10個の細胞。
【0162】
レシピエント胚の異なる発生段階もまた、移植の時点についてテストした:段階HH10(10体節)、HH11(13体節)、及びHH14(22体節)。
【0163】
ニワトリ胚切片
胚を収集し、4%パラホルムアルデヒド中で、4℃で一晩固定した。所望の分析の型に応じて、胚を切断し、横方向及び縦方向の矢状断面を作製した。切片を使用まで4℃の暗所でPBS中に保った。腫瘍位置を、緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するように事前に形質転換した癌細胞の種々の標識及び/又は蛍光検出により試験した。
【0164】
標識は、移植に先立つ、重要な蛍光色素CFSE中で細胞をインキュベートすることからなる。この重要な色素のいくつかの濃度をテストし、移植後の胚において形成された腫瘍塊の検出の最適化を可能にした。
【0165】
インサイチュでの腫瘍サンプリング及び分析
腫瘍を顕微解剖によりサンプリングし、種々の分析に供する:
・生化学試験及びトランスクリプトーム試験(公知の又は新規の分子マーカーの特徴付け及び検索)、及び
・その再培養によるインビトロ試験。
【0166】
画像撮影及び加工
切片を、共焦点顕微鏡(Olympus IX81)を使用して分析した。切片の完全なイメージを、XuvToolsソフトウェアを使用して再構成した。
【0167】
腫瘍形成を種々の分析により評価した:
・組織学的分析による腫瘍病巣の位置の決定;
・3次元再構成画像からの腫瘍容積の測定;
・マーカーKi67の検出による腫瘍病巣内の増殖指数の決定;
・血管新生のマーカーの検出による腫瘍病巣の血管新生指数の決定;
・細胞死事象(DNA断片化、壊死、シトクロムc放出、プロアポトーシスプロテアーゼ活性化)の検出による腫瘍病巣内の細胞死指数の決定;
・インサイチュで抽出された腫瘍のトランスクリプトーム及びプロテオームの分析;
・再培養後の細胞挙動の試験。
【0168】
胚を、LaVision Biotec限外顕微鏡を使用して分析した。胚をスキャンし、腫瘍を3Dで再現し、容積及び解剖学的位置の分析を可能にした。
【0169】
結果
上に記載する実験プロトコルに従い、ヒト肺癌(A549株)細胞、メラノーマ(A375P株)細胞、神経膠芽腫(U251株)細胞、髄芽腫(DEV株)細胞、及び乳癌(MDA MB 436株)細胞(GFPを発現する又は重要な色素で標識した)を、段階HH14でニワトリ胚中に移植した。さらなる実験を、より早い段階、HH10、HH11、及びHH13で実施した。
【0170】
メラノーマ細胞を、体節18と24の間の神経管の背側天蓋に移植した。
【0171】
移植48時間後、メラノーマ細胞は、皮下及び神経管に接する間葉中に腫瘍クラスターを形成する(図4)。
【0172】
神経膠芽腫細胞及び髄芽腫細胞を、種々の脳領域の脳室に接する脳組織に、頸部神経堤(反対側の体節1~4)から伸展する帯域に移植した。
【0173】
移植48時間後、神経膠芽腫細胞及び髄芽腫細胞は、脳及び脳室に接する組織に腫瘍クラスターを形成する。これらの腫瘍は、患者において観察される腫瘍と同等の方法で脳において発生する(図5)。癌細胞は脳に移動して新たな病巣を確立する。
【0174】
肺癌細胞を、脳領域中の種々の位置で脳中に移植した。これらの細胞はまた、迷走神経及び幹神経堤(体節4~24)の反対側の外側間葉中に移植した。
【0175】
移植48時間後、体節に移植された肺癌細胞は、神経管の腹角及びその隣接側方領域において腫瘍クラスターを形成する(図6及び図7A)。脳組織中に移植された癌細胞は、脳において腫瘍塊を確立し、そこから、新たな脳領域ならびに胚の吻側領域にコロニー形成する転移を発生する。
【0176】
図7Bは、ヒト肺癌転移の主要な予定部位をカバーする帯域中への肺腫瘍細胞の移植を示す:
-眼窩周囲組織、
-第一鰓弓、
-肝臓原基、及び
-四肢原基-硬節/真皮性筋節。
【0177】
このようにして移植された細胞は、軟骨及び顔面の骨(眼窩移植及び第一鰓弓中への移植)中で、胚性肝臓(肝臓原基中への移植)中で、及び体節に由来する組織、例えば骨組織(硬節/真皮性筋節中への移植)中などで腫瘍クラスターを形成する。これらの移植は、それらが由来する組織とは異なる組織中で腫瘍が形成されるため、「異所性」として言及する。
【0178】
乳癌細胞を種々の位置で脳中に移植した。移植48時間後、腫瘍クラスターが脳組織において形成される。移植部位よりも吻側の移動の第2の病巣が、皮膚層に近接した脳表面に存在する(図8A)。
【0179】
乳癌細胞を、発生の種々の段階で胚の脳中に移植した:HH10、HH13、及びHH14。腫瘍病巣が、移植の約48時間後に各々の移植胚の脳組織において観察された。
【0180】
図8Bは、ヒト乳癌転移の主要な予定部位をカバーする帯域中への乳房腫瘍細胞の移植を示す:
-眼窩周囲組織、
-第一鰓弓、
-肝臓原基、及び
-四肢原基-硬節/真皮性筋節。
【0181】
移植細胞は、軟骨及び顔面の骨(眼窩周囲移植及び第一鰓弓中への移植)中で、胚性肝臓(肝臓原基への移植)中で、及び体節に由来する組織、例えば骨組織(硬節/真皮性筋節中への移植)中などで腫瘍クラスターを形成する。これらの移植は、それらが由来する組織とは異なる組織中で腫瘍が形成されるため、「異所性」として言及する。
【0182】
各々の癌細胞型について、いくつかの量の移植された癌細胞、とりわけ、移植片当たり1,000個の細胞、3,000個の細胞、及び10,000個の細胞の量をテストした。腫瘍の形成が、移植後の卵子における移植胚の発生の24及び48時間後、これらの濃度の各々で観察された。
【0183】
参考文献
米国特許6,228,345号
国際公開第2015/074050号
米国特許出願公開第2013/0171680号
【表1】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8