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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】電解水生成装置
(51)【国際特許分類】
   C25B 11/093 20210101AFI20220114BHJP
   C25B 1/26 20060101ALI20220114BHJP
   C25B 9/00 20210101ALI20220114BHJP
   C02F 1/461 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
C25B11/093
C25B1/26
C25B9/00
C02F1/461 Z
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018559587
(86)(22)【出願日】2017-12-27
(86)【国際出願番号】 JP2017046950
(87)【国際公開番号】W WO2018124195
(87)【国際公開日】2018-07-05
【審査請求日】2020-10-01
(31)【優先権主張番号】P 2016254719
(32)【優先日】2016-12-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000010087
【氏名又は名称】TOTO株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】390014579
【氏名又は名称】デノラ・ペルメレック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108062
【弁理士】
【氏名又は名称】日向寺 雅彦
(72)【発明者】
【氏名】原 知弘
(72)【発明者】
【氏名】雨森 博彰
(72)【発明者】
【氏名】中野 雄介
【審査官】坂本 薫昭
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-163180(JP,A)
【文献】特開2013-142166(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C25B 1/26,9/00,11/04
C02F 1/46
E03D 9/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
塩化物イオンを含む水を電解し、次亜塩素酸を含む電解水を生成する電解水生成装置であって、
前記水が通過する電解槽と、
前記電解槽内に設けられる電極と、
を備え、
前記電極は、酸化イリジウムと、酸化タンタルと、酸化ロジウムと、を含む触媒層を有し、
前記触媒層において、前記酸化イリジウムに含まれるイリジウムの原子数と、前記酸化タンタルに含まれるタンタルの原子数と、前記酸化ロジウムに含まれるロジウムの原子数と、の和に対する、前記ロジウムの原子数の割合は、31%以上60%以下である電解水生成装置。
【請求項2】
前記イリジウムの原子数に対する、前記タンタルの原子数の比は、0.3以上1.8以下である請求項1記載の電解水生成装置。
【請求項3】
前記イリジウムの原子数に対する、前記タンタルの原子数の比は、0.4以上1.1以下である請求項1または2記載の電解水生成装置。
【請求項4】
前記イリジウムの原子数に対する、前記タンタルの原子数の比は、0.3以上1.2以下である請求項1または2記載の電解水生成装置。
【請求項5】
前記比は、0.6以上1.2以下である請求項4記載の電解水生成装置。
【請求項6】
前記ロジウムの原子数の前記割合は、31.5%以上50%以下である請求項1~5のいずれか1つに記載の電解水生成装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の態様は、一般的に、電解水生成装置に関する。
【背景技術】
【0002】
特許文献1には、電解槽内で塩化物イオン含む水を電解し、これにより発生した次亜塩素酸を含む殺菌水を便器に噴霧し、菌の繁殖を抑制する技術が開示されている。
このような電解には、主に水道水が使用される。このため、水道水に含まれるナトリウム、カルシウム、カリウム、マグネシウム等を主成分とするスケールが、陰極表面に付着する。電極に付着するスケールの量が多くなると、電解性能が低下し、殺菌水生成能力が低下する可能性がある。
【0003】
そこで、スケールの付着を抑制するために、陰極と陽極の極性を定期的に切替える「ポールチェンジ」を行って陰極に付着したスケールを除去することが行われている。ただし、ポールチェンジを行うことで電極へのスケールの付着を抑制できるものの、電極の寿命が短くなることが知られている。そのため、特許文献2では、ポールチェンジを行った場合でも、電極の寿命を延ばし、殺菌水の生成能力を向上させるための技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第5029930号公報
【文献】特許第5646677号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、電解水生成装置については、さらなる長寿命化が望まれている。電極の寿命を延ばすためには、電解槽内に設けられる電極の触媒層を厚く形成する方法や、電極を大型化する方法もあるが、この場合、電解水生成装置の大型化やコストの増加といった課題が生じる。
本発明は、かかる課題の認識に基づいてなされたものであり、大型化やコストの増加を抑制しつつ、電極の寿命をさらに延ばすことが可能な電解水生成装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1の発明は、塩化物イオンを含む水を電解し、次亜塩素酸を含む電解水を生成する電解水生成装置であって、前記水が通過する電解槽と、前記電解槽内に設けられる電極と、を備え、前記電極は、酸化イリジウムと、酸化タンタルと、酸化ロジウムと、を含む触媒層を有し、前記触媒層において、前記酸化イリジウムに含まれるイリジウムの原子数と、前記酸化タンタルに含まれるタンタルの原子数と、前記酸化ロジウムに含まれるロジウムの原子数と、の和に対する、前記ロジウムの原子数の割合は、31%以上60%以下である電解水生成装置である。
【0007】
この電解水生成装置によれば、大型化やコストの増加を抑えつつ、耐久寿命を延ばすことが可能となる。
【0008】
第2の発明は、第1の発明において、前記イリジウムの原子数に対する、前記タンタルの原子数の比は、0.3以上1.8以下である請求項1記載の電解水生成装置である。
【0009】
この電解水生成装置によれば、耐久寿命をさらに延ばすことが可能となる。
【0010】
第3の発明は、第1の発明において、前記イリジウムの原子数に対する、前記タンタルの原子数の比は、0.4以上1.1以下である電解水生成装置である。
【0011】
この電解水生成装置によれば、耐久寿命をさらに延ばすことが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の態様によれば、電極の寿命をさらに延ばすことが可能な電解水生成装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】実施形態に係る電解水生成装置を有するトイレ装置の斜視図である。
図2】実施形態に係る電解水生成装置を含む水路系の要部構成を表すブロック図である。
図3】実施形態による電解水生成装置を表す断面図である。
図4】実施形態に係る電解水生成装置に含まれる電極の構成を表す断面図である。
図5】電極の触媒層におけるロジウムの含有率を変化させた際の、耐久寿命の変化を表すグラフである。
図6】電極の触媒層におけるロジウムの含有率を変化させた際の、耐久寿命の変化を表すグラフである。
図7】電極の触媒層におけるタンタルの含有率を変化させた際の、耐久寿命の変化を表すグラフである。
図8】電極の触媒層におけるTa/Ir比率を変化させた際の、耐久寿命の変化を表すグラフである。
図9】電極の組成分析の結果を表すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。なお、各図面中、同様の構成要素には同一の符号を付して詳細な説明は適宜省略する。
【0015】
図1は、実施形態に係る電解水生成装置を有するトイレ装置の斜視図である。
図1に表したトイレ装置は、洋式腰掛便器(以下説明の便宜上、単に「便器」と称する)80と、その上に設けられた衛生洗浄装置10と、を備える。衛生洗浄装置10は、ケーシング40と、便座20と、便蓋30と、を有する。便座20と便蓋30とは、ケーシング40に対して開閉自在にそれぞれ軸支されている。
【0016】
ケーシング40の内部には、便座20に座った使用者の「おしり」などの洗浄を実現する身体洗浄機能部が内蔵されている。また、ケーシング40の内部には、使用者のトイレ装置への接近および離反を検知する人体検知センサや、使用者が便座20に座ったことを検知する着座検知センサなどが適宜設けられる。
【0017】
使用者は、例えばリモコン50を操作することで、洗浄ノズル44を便器80のボウル81内に進出させたり、洗浄ノズル44をケーシング40の内部に後退させたりすることができる。なお、図1に表した衛生洗浄装置10では、洗浄ノズル44がボウル81内に進出した状態を表している。
【0018】
洗浄ノズル44の先端部には、複数の吐水口(噴出孔)45が設けられている。洗浄ノズル44は、その先端部に設けられた吐水口45から水を噴射して、便座20に座った使用者の「おしり」などを洗浄することができる。
【0019】
なお、本願明細書においては、便座20に座った使用者からみて上方を「上方」とし、便座20に座った使用者からみて下方を「下方」とする。また、便座20に座った使用者からみて前方を「前方」とし、便座20に座った使用者からみて後方を「後方」とする。便座20に座った使用者からみて右側を「右側方」とし、便座20に座った使用者からみて左側を「左側方」とする。
【0020】
図2は、実施形態に係る電解水生成装置を含む水路系の要部構成を表すブロック図である。
【0021】
衛生洗浄装置10は、水道や貯水タンクなどの給水源から供給された水道水を、洗浄ノズル44の吐水口45に導く流路(配管)40aを有する。流路40aの上流側には、電磁弁などのバルブ42が設けられている。バルブ42は、ケーシング40の内部に設けられる制御部41からの指令に基づいて、流路40aへの水道水の供給を制御する。
【0022】
バルブ42の下流には、実施形態に係る電解水生成装置1が設けられる。なお、バルブ42と電解水生成装置1との間には、安全弁や、流路40aを流れる水の圧力を調整する調圧弁、水の流速を変化させるポンプ、水を加温する熱交換器などが適宜設けられていてもよい。
【0023】
電解水生成装置1は、その内部に一対の電極を有し、制御部41からの通電の制御によって、内部を流れる水道水を電気分解する。水道水は、塩化物イオンを含んでいるため、塩化物イオンを電気分解することにより次亜塩素酸が生成される。その結果、電解水生成装置1において電気分解された水(電解水)は、次亜塩素酸を含む液に変化する。
【0024】
次亜塩素酸は、殺菌成分として機能する。その次亜塩素酸を含む電解水は、洗浄ノズル44の吐水口45から噴射されたり、洗浄ノズル44の外周表面(胴体)や吐水口45へ向かって噴射される。これにより、電解水生成装置1よりも下流側の流路や、洗浄ノズル44の外周表面および吐水口45が、電解水により殺菌される。
【0025】
電解水生成装置1の下流には、流路切替弁43が設けられている。流路切替弁43は、バキュームブレーカ(大気開放ポート)431と、流量調整弁432と、を有する。バキュームブレーカ431は、電解水生成装置1から供給された水あるいは電解水を洗浄ノズル44の吐水口45へ導く流路の途中に配置され、水あるいは電解水が逆流することを防止する。あるいは、バキュームブレーカ431は、空気を取り込むことにより、流路40a内の水抜きを促進させる。
【0026】
バキュームブレーカ431の下流(大気開放側)には、流量調整弁432が設けられている。流量調整弁432は、おしり洗浄用の吐水口45に洗浄水を導く流路や、ビデ洗浄用の吐水口に洗浄水を導く流路、ノズル洗浄室47に洗浄水を導く流路などへの給水の開閉や切替を行う。つまり、流量調整弁432は、複数の吐水口45に選択的に連通可能な複数のポートを有する。
【0027】
流量調整弁432の下流には、洗浄ノズル44が設けられている。洗浄ノズル44は、ノズルモータ46からの駆動力を受け、ケーシング40の内部から便器80のボウル81内へ向かって進出したり、ケーシング40の内部へ後退することができる。つまり、ノズルモータ46は、制御部41からの指令に基づいて洗浄ノズル44を進退させることができる。流量調整弁432は、洗浄ノズル44の進退動作に伴って移動する。つまり、流量調整弁432は、洗浄ノズル44と共に移動する。
【0028】
流量調整弁432の下流には、ノズル洗浄室47が設けられている。ノズル洗浄室47は、ケーシング40の内部に固定され、ケーシング40の内部に後退した待機状態の洗浄ノズル44を洗浄することができる。あるいは、ノズル洗浄室47は、進退動作中の洗浄ノズル44の外周表面を洗浄することができる。具体的には、ノズル洗浄室47は、その内部に設けられた図示しない吐水部から電解水あるいは水を噴射することにより、洗浄ノズル44の外周表面を殺菌あるいは洗浄することができる。
【0029】
図3は、実施形態による電解水生成装置を表す断面図である。
図3に表したように、電解水生成装置1は、電解槽2と、一対の電極3および4と、を有する。電極3および4は、電解槽2の内部に設けられ、電源に接続されている。電極3および4に電圧が印加されることで、電解槽2の内部を通過する水道水が電気分解される。なお、図3(a)は、電極3が陰極となり、電極4が陽極となるように電圧が印加された状態を表し、図3(b)は、電極3が陽極となり、電極4が陰極となるように電圧が印加された状態を表している。
【0030】
図3(a)に表したように、水道水を電気分解すると、陽極側の電極4では塩化物イオンから塩素が生成される。そして、発生した塩素が水に溶解し、次亜塩素酸が生成される。このとき、陰極側の電極3では、水道水中に含まれるカルシウム等のイオンからスケールが生成され、電極3の表面に付着する。このため、制御部41は、所定のタイミングで、図3(a)に表す状態から図3(b)に表す状態へとポールチェンジを行い、電極3と4に印加する電圧の極性を反転させる。
【0031】
ポールチェンジを行うことで、陰極として機能していた電極3が陽極となり、陽極として機能していた電極4が陰極となる。スケールが付着していた電極3において酸が生成され、この酸によりスケールが溶解されるため、電極3に付着していたスケールを剥離させることができる。
【0032】
制御部41は、例えば、直前のポールチェンジの後に電解水生成装置1で電解を行った時間の累積を計測する。また、制御部41には、予め、ポールチェンジを行う累積時間が設定されている。制御部41は、電解を行った時間の累積が、予め設定された累積時間に達した際に、電源を制御してポールチェンジを行う。例えば、電極3と4の間に印加される電圧が5Vの場合、ポールチェンジは60秒ごとに行われる。
【0033】
図4は、実施形態に係る電解水生成装置に含まれる電極の構成を表す断面図である。
図4に表したように、電極3は、基体3aと、その上に設けられた触媒層3bと、を有する。なお、図4では、電極3の構成を例示しているが、電極4も同様の構成を有する。
【0034】
基体3aは、例えば、チタンまたはチタン基合金から構成される。チタン基合金としては、チタンを主体とする耐食性のある導電性の合金が使用される。例えば、Ti-Ta-Nb、Ti-Pd、Ti-Zr、Ti-Alなどを用いることができる。
【0035】
触媒層3bは、酸化イリジウム、酸化タンタル、および酸化ロジウムを含む。触媒層3bは、例えば、図4に表したように複数の層から構成され、それぞれの層が、酸化イリジウム、酸化タンタル、および酸化ロジウムを含む。また、基体3aと触媒層3bとの間に、他の中間層が設けられていてもよい。
【0036】
酸化イリジウムは、塩素が生成される際に触媒として作用し、塩素の生成を促進させると考えられている。一方、酸化ロジウムは水素が生成される際に触媒として作用し、水素の生成を促進させると考えられている。酸化タンタルは、酸化イリジウムおよび酸化ロジウムを担持している。
【0037】
電極3および4は、例えば、以下の方法で製造される。
まず、基体3aを用意し、基体3aの表面をブラスト処理などで粗面化する。さらに、処理後の基体3aを大気中で焼成することにより、基体の表面を酸化してもよい。
【0038】
その後、基体3aの表面上に、例えば、イリジウム化合物、タンタル化合物、およびロジウム化合物が溶解された溶液を塗布する。そして、溶液が塗布された基体3aを焼成することで、イリジウム化合物、タンタル化合物、およびロジウム化合物が、それぞれ、酸化イリジウム、酸化タンタル、および酸化ロジウムに転化し、触媒層3bが形成される。1回の塗布および焼成では触媒層3bの所望の厚みが得られない場合、塗布および焼成を繰り返し行ってもよい。
【0039】
電極3および4を用いて電解水の生成を繰り返し行うと、時間の経過とともに生成される次亜塩素酸の濃度が低下し、いずれ次亜塩素酸が生成されなくなってしまう。これは、触媒層3bに含まれる酸化イリジウムが触媒層3bから脱離したり、触媒層3bが基体3aから剥離したりするためと考えられる。
【0040】
本願発明者は、触媒層3bに含まれる酸化ロジウムの割合を変化させながら、電解水生成装置1において次亜塩素酸を生成可能な累積時間(耐久寿命)を調べた。表1および図5図6に、触媒層3bにおけるロジウムの含有率を変化させた際の、耐久寿命の変化を表す。
【0041】
【表1】
【0042】
表1は、触媒層3bに含まれるイリジウム(Ir)、タンタル(Ta)、およびロジウム(Rh)の各金属元素の含有率(モル%)と、そのときの耐久寿命を表している。図5図6において、横軸は、ロジウムの含有率を表し、縦軸は、耐久寿命を表している。また、図6図5に更に、横軸の点線と縦軸の点線を追加した図である。図6において、横軸の点線は、耐久寿命500hrを示すラインであり、縦軸の点線は、Rh含有率60mol%を示すラインである。
この実験において、触媒層3bの厚みは、いずれも3.6μmとした。また、ロジウム以外のタンタルとイリジウムについては、イリジウムの含有率に対するタンタルの含有率の比を、0.6とした。
【0043】
なお、各金属元素の含有率とは、酸化イリジウムに含まれるイリジウムの原子数と、酸化タンタルに含まれるタンタルの原子数と、酸化ロジウムに含まれるロジウムの原子数と、の和に対する、各金属元素の原子数の割合を意味している。
【0044】
この実験から、本願発明者は、以下のことを発見した。
ロジウムが含まれていない場合、耐久寿命は著しく短い。ロジウムの含有率が3モル%または10モル%の場合、ロジウムが含まれていない場合に比べて、耐久寿命が延びた。そして、ロジウムの含有率が31モル%以上となったところで、さらに耐久寿命が延びた。一方、ロジウムの含有率が50モル%を超えて70モル%になると、耐久寿命は短くなった。
また、製品の一般的な耐久寿命は、10年である。衛生洗浄装置10が10年間使用される場合、平均的に、電極3及び4には、累計で500hr通電される。ロジウムの含有率が60モル%を超えて70モル%になると、耐久寿命は、10年の耐久寿命である通電時間500hrより短くなった。
【0045】
すなわち、本願発明者は、特許文献2に開示のロジウムの含有率を含まないロジウムの含有率が31モル%以上60モル%以下の範囲において、10年の耐久寿命である通電時間500hr以上である好適な長い耐久寿命が得られることを発見した。特に、ロジウムの含有率が50モル%のときに、最も長い耐久寿命が得られることを発見した。すなわち、触媒層において、酸化イリジウムに含まれるイリジウムの原子数と、酸化タンタルに含まれるタンタルの原子数と、酸化ロジウムに含まれるロジウムの原子数と、の和に対する、ロジウムの原子数の割合は、31%以上60%以下であることが好ましい。特に、当該割合は、50%以下であることがより好ましい。
【0046】
上述したように、酸化ロジウムは、水から水素が生成される際の触媒として機能すると考えられている。すなわち、酸化ロジウムは、塩素の生成には直接寄与しない。このため、従来、特許文献2に開示のように、触媒層における酸化ロジウムの含有率は、イリジウム等の含有率よりも低い30モル%以下に設定されていた。しかし、本願発明者は、実験の結果から、酸化ロジウムの含有率を従来よりも高い31モル%以上に設定することで、耐久寿命を向上できることを発見した。
【0047】
表2および図7は、触媒層3bにおけるロジウムの含有率をほぼ一定とし、イリジウムおよびタンタルの含有率を変化させた際の、耐久寿命の変化を表す。この実験において、触媒層3bの厚みは、いずれも3.6μmとした。
【0048】
【表2】
【0049】
表2および図7に表した結果から、イリジウムの含有率が0モル%の場合、耐久寿命が大きく低下していることがわかる。一方で、タンタルについても、触媒層3bにおける酸化タンタルの割合が低いと、酸化イリジウムおよび酸化ロジウムを十分に担持できず、これらの成分が脱離し易くなり、耐久寿命が短くなると考えられる。従って、触媒層3bには、少なくとも、酸化イリジウム、酸化タンタル、および酸化ロジウムが含まれていることが望ましい。
【0050】
表3は、表2および図7と同様に、触媒層3bにおけるロジウムの含有率をほぼ一定とし、実験条件を更に変更した際の耐久寿命の変化を表す。
図8は、電極の触媒層におけるTa/Ir比率を変化させた際の、耐久寿命の変化を表すグラフである。この実験において、触媒層3bの厚みは、いずれも3.6μmとした。
【0051】
【表3】
【0052】
表3及び図8に表した結果から、Ta/Ir比率が、0.3以上になると、製品の耐久寿命として、一般的な10年の耐久寿命である通電時間500hr以上である好適な長い耐久寿命になることがわかる。また、Ta/Ir比率が、1.1以上になると耐久寿命も短くなることがわかる。さらに、Ta/Ir比率が、1.8より大きくなると、10年の耐久寿命である通電時間500hr以下の短い耐久寿命になることがとがわかる。
【0053】
すなわち、触媒層3bにおいて、酸化イリジウムに含まれるイリジウムの原子数に対する、酸化タンタルに含まれるタンタルの原子数の割合は、0.3以上1.8以下が望ましく、さらに、触媒層3bにおいて、酸化イリジウムに含まれるイリジウムの原子数に対する、酸化タンタルに含まれるタンタルの原子数の割合は、0.4以上1.1以下であることがさらに望ましい。
【0054】
図9は、電極の組成分析の結果を表すグラフである。
図9(a)は、電解水生成装置1を使用する前の結果を表し、図9(b)は、電解水生成装置1で730時間電解を行った後の結果を表している。組成分析は、ロジウムの含有率が31モル%の触媒層を有する電極を用いて、エネルギー分散型X線分光法(SEM-EDX)により行った。
【0055】
図9(a)と図9(b)の比較から、イリジウム(Ir)のピーク強度は、電解水生成装置1の使用後においても、ほとんど低下していないことがわかる。すなわち、実施形態に係る電解水生成装置1によれば、電解水の生成に伴う触媒層からのイリジウムの脱離や、触媒層の基体からの剥離を抑制できていることがわかる。
【0056】
以上の通り、本実施形態によれば、触媒層を厚膜化や大型化させずに、電極の耐久寿命を延ばすことが可能となる。すなわち、本実施形態によれば、電解水生成装置の大型化やコストの増加を抑えつつ、電解水生成装置の耐久寿命を延ばすことが可能となる。例えば、耐久寿命が長い電解水生成装置1をトイレ装置に用いることで、電解水の生成に伴う次亜塩素酸の濃度の低下を抑制でき、殺菌作用の低下を抑制することができる。また、電解水生成装置1の交換周期を長くすることができ、トイレ装置をより長期間連続して使用することが可能となる。
【0057】
なお、ここでは、電解水生成装置1をトイレ装置に適用した場合について説明した。しかし、本実施形態に係る電解水生成装置1は、トイレ装置以外にも適用することが可能である。例えば、電解水生成装置1で生成された電解水を、小便器のボウル面や、浴室の洗い場床、手洗い器などのボウル面へ散布することで、これらの場所の菌の繁殖を抑制することができる。
【0058】
以上、本発明の実施の形態について説明した。しかし、本発明はこれらの記述に限定されるものではない。前述の実施の形態に関して、当業者が適宜設計変更を加えたものも、本発明の特徴を備えている限り、本発明の範囲に包含される。例えば、電解水生成装置1が備える各要素の形状、寸法、配置、設置形態などは、例示したものに限定されるわけではなく適宜変更することができる。
また、前述した各実施の形態が備える各要素は、技術的に可能な限りにおいて組み合わせることができ、これらを組み合わせたものも本発明の特徴を含む限り本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0059】
1 電解水生成装置、 2 電解槽、 3、4 電極、 3a 基体、 3b 触媒層、 10 衛生洗浄装置、 20 便座、 30 便蓋、 40 ケーシング、 40a 流路、 41 制御部、 42 バルブ、 43 流路切替弁、 431 バキュームブレーカ、 432 流量調整弁、 44 洗浄ノズル、 45 吐水口、 46 ノズルモータ、 47 ノズル洗浄室、 50 リモコン、 80 便器、 81 ボウル
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9