(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】触媒
(51)【国際特許分類】
H01M 4/90 20060101AFI20220128BHJP
H01M 4/86 20060101ALI20220128BHJP
H01M 4/88 20060101ALI20220128BHJP
H01M 4/92 20060101ALI20220128BHJP
B01J 23/89 20060101ALI20220128BHJP
B01J 37/02 20060101ALI20220128BHJP
B01J 37/06 20060101ALI20220128BHJP
H01M 8/10 20160101ALN20220128BHJP
【FI】
H01M4/90 B
H01M4/86 B
H01M4/88 K
H01M4/90 M
H01M4/90 X
H01M4/92
B01J23/89 M
B01J37/02 101D
B01J37/06
H01M8/10 101
(21)【出願番号】P 2018560937
(86)(22)【出願日】2017-05-25
(86)【国際出願番号】 GB2017051476
(87)【国際公開番号】W WO2017203257
(87)【国際公開日】2017-11-30
【審査請求日】2020-05-15
(32)【優先日】2016-05-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】GB
(73)【特許権者】
【識別番号】512269535
【氏名又は名称】ジョンソン、マッセイ、フュエル、セルズ、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】JOHNSON MATTHEY FUEL CELLS LIMITED
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】シャーマン, ジョナサン デーヴィッド ブレレトン
(72)【発明者】
【氏名】マルティネス ボナストレ, アレハンドロ
(72)【発明者】
【氏名】スパイクス, ジェフリー
【審査官】山本 雄一
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-152143(JP,A)
【文献】国際公開第2007/116924(WO,A1)
【文献】Rongfang Wang et al.,Pt decorating of PdNi/C as electrocatalysts for oxygen reduction,Electrochimica Acta,Elsevier Ltd.,2010年02月01日,vol.55 no.5,pages.1519-1522
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/86- 4/98
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(i)複数の個別の担持粒子又はアグリゲートを有する担持材料、
(ii)第一の金属及び合金金属を含有する第一の粒子、及び
(iii)白金又はイリジウムである第二の金属又は第二の金属の酸化物から成る第二の粒子、
を備える電極触媒材料であって、
個別の担持粒子又はアグリゲートはそれぞれ、それ自体の上に分散された第一の粒子及び第二の粒子を有し、
第二の粒子の平均粒径は、第一の粒子の平均粒径よりも小さいことを特徴と
し、
第一の金属が白金族金属であり、電気触媒材料中の白金族金属の20~80%が、第一の粒子に含まれている、電極触媒材料。
【請求項2】
第一の金属が白金である、請求項
1に記載の電極触媒材料。
【請求項3】
合金金属が、ニッケル、コバルト、クロム、銅、アルミニウム、イットリウム、スカンジウム、ガドリニウム、ランタン、鉄、亜鉛、チタン、ニオブ、又はタンタルから成る群から選択される一又は複数のものである、請求項1
又は2に記載の電極触媒材料。
【請求項4】
第一の金属の、合金金属に対する比が、3:1から1:3である、請求項1から
3のいずれか一項に記載の電極触媒材料。
【請求項5】
第一の粒子が、2~14nmの範囲にある平均粒径を有する、請求項1から
4のいずれか一項に記載の電極触媒材料。
【請求項6】
白金から成る第二の粒子を含有する、請求項1から
5のいずれか一項に記載の電極触媒材料。
【請求項7】
イリジウム又は酸化イリジウムから成る第二の粒子を含有する、請求項1から
5のいずれか一項に記載の電極触媒材料。
【請求項8】
白金から成る第二の粒子と、イリジウム又は酸化イリジウムから成る第二の粒子とを含有する、請求項1から
5のいずれか一項に記載の電極触媒材料。
【請求項9】
第二の粒子が、0.5~10nmの範囲にある平均粒径を有する、請求項1から
8のいずれか一項に記載の電極触媒材料。
【請求項10】
電気触媒材料における白金族金属の合計担持量が、電気触媒材料の合計重量を基準として20~70重量%である、請求項1から
9のいずれか一項に記載の電極触媒材料。
【請求項11】
(i)第一の金属を担持材料に堆積させて、第一の前駆体を形成する工程、
(ii)合金金属を第一の前駆体に堆積させて、第二の前駆体を形成する工程、
(iii)第二の前駆体をアニール処理して、第一の金属と合金金属とを合金化し、担持材料及び第一の粒子を備える第三の前駆体を形成する工程、
(iv)第二の金属又は第二の金属の酸化物を第三の前駆体に堆積させて、電極触媒材料を形成する工程
を含む、請求項1から
10のいずれか一項に記載の電極触媒材料の製造方法。
【請求項12】
工程(iv)が、予備成形された金属又は金属酸化物ナノ粒子を溶液中に懸濁させたものを用いて、第二の金属を堆積させることを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
工程(iii)の後であって、工程(iv)の前に、第三の前駆体を酸洗浄にかけるさらなる工程を含む、請求項
11又は
12に記載の方法。
【請求項14】
工程(iv)で堆積させたものとは異なる第二の金属又は第二の金属の酸化物を、第三の前駆体に堆積させることを含むさらなる工程(v)を含む、請求項
11から
13のいずれか一項に記載の方法。
【請求項15】
請求項1から
10のいずれか一項に記載の電極触媒材料を含有する触媒層。
【請求項16】
前記触媒層がカソード触媒層である、請求項
15に記載の触媒層。
【請求項17】
ガス拡散層と、請求項
15又は
16に記載の触媒層とを備える、ガス拡散電極。
【請求項18】
イオン伝導性膜と、請求項
15又は
16に記載の触媒層とを備える、触媒コーティングされたイオン伝導性膜。
【請求項19】
電気化学セルにおける、請求項1から
10のいずれか一項に記載の
電極触媒材料の使用。
【請求項20】
前記電気化学セルが燃料電池である、請求項
19に記載の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の電極触媒、特に酸素還元反応を容易にする燃料電池のカソードで使用するための電極触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
燃料電池とは、電解質により分離される2つの電極を備える電気化学セルである。燃料(例えば水素)、アルコール(例えばメタノール若しくはエタノール)、又はギ酸は、アノードに供給され、酸化剤(例えば酸素又は空気)は、カソードに供給される。電気化学反応は電極で起こり、燃料及び酸化剤の化学エネルギーは、電気エネルギー及び熱に変換される。電極触媒は、アノードにおける燃料の電気化学的酸化、及びカソードにおける酸素の電気化学的還元を促進するために使用される。
【0003】
燃料電池は通常、使用する電解質の性質に従って分類される。電解質はしばしば、固体高分子膜であり、ここでこの膜は電子絶縁性だが、イオン伝導性である。プロトン交換膜式燃料電池(PEMFC)において、この膜はプロトン伝導性であり、アノードで生成されるプロトンは、この膜を通じてカソードに運ばれ、そこで酸素と結合して水が生じる。
【0004】
PEMFCの主要な構成要素は膜電極接合体(MEA)であり、これは基本的に5つの層から構成される。中心層は、イオン伝導性高分子膜である。イオン伝導性膜のどちらの面にも、特定の電極触媒反応用に設計された電極触媒を備えた電極触媒層が存在する。最後に、各電極触媒層に隣接してガス拡散層が存在する。ガス拡散層は、反応物質が電極触媒層に到達できるようにしなければならず、また電気化学反応によって生じる電流を伝導しなければならない。このためガス拡散層は、多孔性でなければならず、また電気伝導性でなければならない。
【0005】
MEAは一般的に、以下で概略を述べるような多くの方法によって構築することができる:
(i)電極触媒層をガス拡散層に施与して、ガス拡散電極を形成することができる。ガス拡散電極をイオン伝導性膜のいずれの側にも配置し、一緒に積層化して、5層のMEAを形成することができる。
(ii)電極触媒層をイオン伝導性膜の両側に施与して、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を形成することができる。引き続きガス拡散層を、触媒コーティングされたイオン伝導性膜の両面側に施与する。
(iii)MEAは、一方の側が電極触媒層でコーティングされたイオン伝導性膜、電極触媒層に隣接するガス拡散層、及びイオン伝導性膜のもう一方の側にあるガス拡散電極から形成することができる。
【0006】
大抵の用途にとって充分な電力を供給するためには通常、数十の又は数百ものMEAが必要とされ、そのため、燃料電池スタックを作製するためには多数のMEAが接合される。フローフィールドプレートは、MEAを分離するために使用される。このプレートは、MEAへの反応物質の供給、生成物の取り出し、電気的接続の提供、及び物理的な支持体の提供という複数の機能を果たす。
【0007】
燃料の酸化反応及び酸素の還元反応のための電極触媒は一般に、白金、又は一種又は複数種の金属により合金化された白金を基礎とする。白金触媒又は白金合金触媒は、ナノメートルサイズの非担持粒子(例えばメタルブラック)の形態であってよく、又は非常に表面積が大きい別個のナノ粒子として担持材料上に堆積させることができる(担持触媒)。電極触媒はまた、担持材料に堆積されたコーティング又は延伸フィルムの形態であり得る。触媒、特に酸化還元反応触媒については継続的な調査が行われており、これによって活性及び/又は安定性が向上しているため、高価な白金触媒をより効率的に利用できる。これによってMEA膜の性能を向上させるか、又はMEAで用いる触媒の担持量(ひいてはそのコスト)を削減することができるか、又はこれら両方の利点を組み合わせることができる。
【0008】
酸素還元活性を改善するため、触媒について幅広い設計思想が、過去15年にわたり調査されてきた。Ptを卑金属、例えばCo、Ni、Cu、Cr及びTiで合金化することにより、活性Pt触媒箇所の比表面活性が向上することが実証されているが、それはPt-Pt相互原子距離の変化、又はdバンド位置にシフトをもたらす格子ひずみが原因である。しかしながら、このような金属合金触媒は、MEAにした場合、従来の白金のみの触媒に比較して、低電流密度では改善されたセル電圧性能を示すものの、高電流密度における性能は、白金のみの触媒に比較して必ず低く、このため商業的な用途にとっては充分ではない。
【0009】
高電流密度における燃料電池性能は、特に水素及び空気という反応物質(H2/空気)による実際の稼働において、様々な要因によって制限されることがあり、それは例えば、プロトン伝導性、層構造、又はとりわけ触媒表面積である。近年の文献では、カソード触媒層におけるPt担持量をPt0.15mg/cm2に減少させると、さらなる損失が観察され、これは予測困難なことが論じられている(Grestzler et al, J. Electrochem.Soc.2012 volume 159, issue 12, F831-F840)。Grestzlerらは、担持量が少ないカソード層についてH2/空気及び高電流密度のもとでのさらなる損失は、抗酸素輸送作用に起因するとしている。この作用は、カソード触媒層の粗さ係数(roughness factor)と相関関係にあり得る。この粗さ係数は、Pt担持量(形状的な電極面積のmgPt/cm2)と、触媒のPt質量比電気化学表面積(m2Pt/gPt)との積として計算される。このような作用は、Pt合金触媒によって悪化するが、それは合金化相互作用をもたらすために使用する熱アニール処理が原因であり、この触媒は従来の白金のみの触媒よりも大きなナノ粒子サイズを有し、このためより小さな質量比表面積を有し、電極1cm2あたり同じPt担持量でより小さな粗さ係数を有するものである。これによって、Pt合金触媒材料により供給される動的活性が本来的に高いにも拘わらず、高い電流密度で性能はより低くなる。
【0010】
米国特許出願第2013/0022891号は、二層カソードの構築によりこの問題を解決しようしており、ここでは貴金属/非貴金属の合金層が、カソードガス拡散層に隣接して位置しており、貴金属層は、膜電解質に対して隣接して位置している。
【0011】
国際公開第2014/105407号も、Pt-Co/C触媒を用意し、これを単層内で別個のPt/C触媒と混合することによって、この問題に取り組んでいる。
【0012】
よって本発明の目的は、燃料電池のカソードで用いる際に、H2/空気を含む条件の範囲のもと低電流密度及び高電流密度で、異なる湿度及び圧力稼働条件で、特にカソード上で少ない白金族金属担持量で、燃料電池性能において利点をもたらす電極触媒を提供することである。
【0013】
よって本発明の第一の態様は、
(i)複数の個別の担持粒子又はアグリゲートを有する担持材料、
(ii)第一の金属及び合金金属を含有する第一の粒子、及び
(iii)白金又はイリジウムである第二の金属又は第二の金属の酸化物から成る第二の粒子、
を備える電極触媒材料をもたらし、
個別の担持粒子又はアグリゲートはそれぞれ、それ自体の上に分散された第一の粒子及び第二の粒子を有し、
第二の粒子の平均粒径は、第一の粒子の平均粒径よりも小さいことを特徴とする。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】Aは、本発明の電極触媒材料の概略図である。Bは、従来技術の電極触媒の概略図である。
【
図2】A及びBは、実施例1についての透過型電子顕微鏡(TEM)撮像及び粒径分布グラフである。
【
図3】H
2/空気及び完全湿潤条件で、電圧を、実施例1の触媒、並びに比較例1及び2の触媒を含有するMEAの電流密度に対して座標化したものである。
【
図4】H
2/空気及び比較的乾燥した条件で、電圧を、実施例1の触媒、並びに比較例1及び2の触媒を含有するMEAの電流密度に対して座標化したものである。
【0015】
本発明の好ましい及び/又は任意選択的な特徴を、以下に説明する。文脈上、特に除外する必要がなければ、本発明のあらゆる態様を、本発明のあらゆる他の態様と組み合わせることができる。文脈上、特に除外する必要がなければ、あらゆる態様の好ましい又は任意選択的な特徴のいずれかを、単独で又は組み合わせで、本発明のあらゆる態様と組み合わせることができる。
【0016】
担持材料
担持材料は、複数の個別の担持粒子又はアグリゲートを有する。「個別の担持粒子又はアグリゲート」という表現は、2つ以上のより小さい要素に分解できない、最小の単一の要素を意味する。「アグリゲート」という用語は、会合して2つ以上の一次粒子から構成されるクラスターになっている一次粒子であって、相互に恒久的に結合している一次粒子を指すために用いる。アグリゲートの合計比表面積は、アグリゲート化する前の一次粒子の表面積の合計よりも小さい。2つ以上の個別の担持粒子又はアグリゲートは、一緒になってアグロメレートになり得る。アグロメレートは、ゆるく保持された個別粒子、又は弱い力により保持されたアグリゲートを有し、低エネルギーで撹拌にかけると、個別の担持粒子又はアグリゲートにすぐに分解することができる。
【0017】
個別の担持粒子又はアグリゲートは好適には、5nm~500nmの平均粒径又はアグリゲートサイズを有し、アグリゲートが会合して形成されるアグロメレートは、BET窒素吸着法により測定した場合、20m2/g超の表面積を有する。
【0018】
担持材料は、炭素、例えば市販のカーボンブラック(Cabot Corp(Vulcan XC72R)及びAkzo Nobel(例えばKetjen black series)から購入可能)、又はこれらのカーボンブラックのグラファイト版、又は他の市販のカーボンブラック、例えばアセチレンブラック(Denkaから入手可能)であり得る。炭素は、燃料電池に使用するために特に設計されるものであってよく、これは例えば国際公開2013/045894号に記載されている。あるいは担持材料は、金属酸化物(例えば、チタニア、ジルコニア、シリカ、又は混合酸化物、特に導電性混合酸化物、例えばニオブドープチタニア、リンドープ酸化スズ、及び白金族金属混合酸化物又は混合金属酸化物、例えば国際公開2012/080726号に記載のもの)、炭化物(例えば炭化タングステン、炭化モリブデン、又は炭化チタン、好適には炭化タングステン又は炭化チタン)、窒化物、特に導電性窒化物(例えば窒化チタン又は窒化チタンアルミニウム)であり得る。
【0019】
第一の粒子
第一の粒子は、第一の金属及び合金金属を含有する。
【0020】
第一の金属は、白金族金属(白金、パラジウム、イリジウム、オスミウム、ルテニウム又はロジウム)である。
【0021】
第一の金属は好適には、白金、パラジウム又はイリジウムであり、より好適には白金又はパラジウムであり、好ましくは白金である。
【0022】
合金金属は好適には、ニッケル、コバルト、クロム、銅、アルミニウム、イットリウム、スカンジウム、ガドリニウム、ランタン、鉄、亜鉛、チタン、ニオブ、又はタンタルから成る群から選択される一又は複数のものである。
【0023】
合金金属はより好適には、ニッケル、コバルト、クロム、銅、アルミニウム、イットリウム、スカンジウム、ランタン、鉄、亜鉛、チタン、ニオブ、又はタンタルから成る群から選択される一又は複数のものである。
【0024】
合金金属は好ましくは、ニッケル、コバルト、又はクロムから成る群から選択される一又は複数のものである。
【0025】
あるいは合金金属は、チタン、ニオブ、又はタンタルから成る群から選択される一又は複数のものである。
【0026】
好適には、第一の金属の、合金金属に対する原子比は、3:1から1:3である。
【0027】
第一の粒子は好適には、2~14nm、好ましくは3~9nmの範囲にある平均粒径を有する。
【0028】
平均粒径は、透過型電子顕微鏡(TEM)での試験によって、金属粒子のサイズを直接測定することにより特定する。通常はこの方法で、100~200個の粒子を測定する。
【0029】
第一の粒子が、実質的に2種の金属の合金として存在する一方、粒子上における表面酸化が、ある程度あり得る。
【0030】
第二の粒子
第二の粒子は、第二の金属又は第二の金属の酸化物から成り、ここで第二の金属は、白金又はイリジウムである。
【0031】
1つの実施態様において、電極触媒材料は、白金から成る第二の粒子を含有する。
【0032】
さらなる実施態様において、電極触媒材料は、イリジウム又は酸化イリジウムから成る第二の粒子を含有する。
【0033】
さらに別の実施態様において、電極触媒材料は、白金から成る第二の粒子と、イリジウム又は酸化イリジウムから成る第二の粒子とを含有する。すなわち、白金から成る粒子と、イリジウム又は酸化イリジウムから成る粒子とが、同一の個別の粒子又はアグリゲート上に、ともに存在する。
【0034】
第二の粒子は、第一の粒子に比べて小さな平均粒径を有し、好適には0.5~10nm、好ましくは1~6nmの範囲にある平均粒径を有する。平均粒径は、前述の方法を用いて特定する。
【0035】
第二の粒子が実質的に金属として存在する場合、粒子上における表面酸化が、ある程度あり得る。
【0036】
電極触媒材料
電極触媒材料は、担持材料を備え、ここで担持材料の個別の担持粒子又はアグリゲートはそれぞれ、それ自体の上に分散された第一の粒子及び第二の粒子を有する。好適には、第一の粒子及び第二の粒子はすべて、担持材料の個別の粒子又はアグリゲートと直接接触している。
図1Aは、担持材料の個別の粒子又はアグリゲートにそれぞれ担持された、第一の粒子及び第二の粒子の双方を示す概略図である。
【0037】
電極触媒材料における白金族金属の合計担持量は、電極触媒材料の合計重量を基準として、好適には20~70重量%、好ましくは30~60重量%である。
【0038】
好適には、20~80重量%、好ましくは40~60重量%という白金族金属の合計含有率が、第一の粒子に含まれている(つまり、第一の粒子:第二の粒子における白金族金属の重量比が1:4から4:1、好ましくは2:3から3:2)。
【0039】
本発明はさらに、本発明による電極触媒材料の製造方法をもたらす。この方法は、以下の工程:
(i)第一の金属を担持材料に堆積させて、第一の前駆体を形成する工程、
(ii)合金金属を第一の前駆体に堆積させて、第二の前駆体を形成する工程、
(iii)第二の前駆体をアニール処理して、第一の金属と合金金属とを合金化し、担持材料及び第一の粒子を備える第三の前駆体を形成する工程、
(iv)第二の金属又は第二の金属の酸化物を第三の前駆体に堆積させて、電極触媒材料を形成する工程
を含む。
【0040】
工程(i)~(iii)は、担持材料上に貴金属/非貴金属合金触媒を製造するために、当業者に知られた慣用の処理工程である。さらなる詳細は例えば、国際公開第2013/045894号及び国際公開第2014/184546号に見られる。
【0041】
工程(iv)は、堆積させるべき第二の金属に応じて、複数の処理によって行うことができる。例えば、第二の金属は、予備成形された金属又は金属酸化物ナノ粒子を溶液中に懸濁させたものを用いて堆積させることができ、例えば国際公開第2005/123255号に記載された方法と同様に、白金族金属酸化物のコロイド溶液を、担持された合金材料と接触させ、それから還元工程を行う。予備成形された粒子を用いることによって、後続の高温熱処理工程に対する必要性が回避される。これはつまり、これらの粒子は、第一の金属及び合金金属により形成される第一の合金粒子とは相互作用を起こさないということである。
【0042】
任意選択的に、工程(iii)の後であって、工程(iv)の前に、第三の前駆体を酸洗浄にかけて、あらゆる過剰な/合金化されていない金属を除去するさらなる工程を行うことができる。酸洗浄の例は、当業者によく知られている。例えば、第三の前駆体は、0.5Mの硫酸によって最大24時間、処理することができる。さらに、又は代替的に、この任意選択的な工程によって、合金金属の一部が、合金の表面から除去(リーチング)され、第一の金属が豊富なナノ粒子(いわゆる「脱合金化(de-alloyd)」粒子)の表面がもたらされる。
【0043】
白金の第二の粒子、及びイリジウム又は酸化イリジウムの第二の粒子が、担持材料上にともに存在する場合、白金又はイリジウムのいずれか一方から成る第二の粒子をまず、担持材料に堆積させ、それから白金又はイリジウム若しくは酸化イリジウムのもう一方から成る第二の粒子を堆積させる。よって本方法は、任意選択的な工程(v):工程(iv)で堆積させたものとは異なる第二の金属又は第二の金属の酸化物を第三の前駆体に堆積させて、電極触媒材料を形成する工程を含む。
【0044】
本発明はさらに、本発明による方法によって得られる電極触媒材料を提供する。
【0045】
本発明の電極触媒材料は、担持材料の単一の個別の担持粒子又はアグリゲートに配置された第一の粒子及び第二の粒子を有するため、第一の粒子及び第二の粒子は、互いに非常に近接している。意外なことに、本発明の発明者らは、こうした構成により、国際公開第2014/105407号に記載され、その
図1Bに概略的に示されたこととは対照的に、このような電極触媒材料がカソードに組み込まれた膜電極接合体(MEA)について、改善された性能メリットが得られることを発見した。このようなメリットは特に、MEAを高電流密度で稼働させる場合に見られる。
【0046】
よって本発明による触媒は、触媒層で特に使用され、特にカソード触媒層、例えば電気化学セル、例えば燃料電池、特にPEMFCのガス拡散電極で、又はPEMFCの触媒コーティングされたイオン伝導性膜で使用される。よって、本発明の電極触媒材料を含有する触媒層が、さらに提供される。さらに、燃料電池のカソード又はアノード、好適にはカソードにおける、本発明による電極触媒材料の使用が提供される。
【0047】
触媒層は、さらなる成分を含有することができる。このような成分には、以下のものが含まれるが、これらに限られるわけではない:イオン伝導性ポリマー、例えばプロトン伝導性ポリマー(層内でイオン伝導性を改善させるものを含む)、酸素放出触媒、過酸化水素分解触媒、反応物質及び水輸送特性を制御するための、疎水性添加剤(例えばポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、又は表面処理された、若しくは表面処理されていない無機固体)、又は親水性添加剤(例えば無機固体のポリマー、例えば酸化物)。さらなる成分の選択は、当業者の能力の範囲内で決められる。
【0048】
触媒層を製造するために、本発明の電極触媒材料及びさらなる成分を、水性溶媒及び/又は有機溶媒中に分散させて、触媒インクを製造する。必要であれば、当技術分野で知られた方法、例えば高剪断混合、ミリング、ボールミル、マイクロフルイダイザーへの通過など、又はそれらの組み合わせによってアグロメレート粒子をほぐして、電極触媒の粒径分布を適切にする。
【0049】
触媒インクの製造後、インクを基材(例えばガス拡散層、イオン伝導性膜又は担体/転写基材)上に堆積させて、触媒層を形成する。インクは、当技術分野で知られたあらゆる適切な技術によって堆積させることができ、これには以下のものが含まれるが、これらに限られるわけではない:グラビアコーティング、スロットダイ(スロット、押出成形)コーティング、スクリーン印刷、回転スクリーン印刷、インクジェット印刷、噴霧、塗布、バーコーティング、パッドコーティング、ギャップコーティング技術、例えばナイフ若しくはドクターブレードによるオーバーロール、及びメータリングロッドによる施与(metering rod application)。
【0050】
触媒層の特性、例えば厚さ、電極触媒の担持量、多孔性、細孔分布、平均細孔、及び疎水性は、その用途による。
【0051】
カソードで使用するためには、触媒層の厚さは、好適には≧2μm、好ましくは≧5μm、好適には≦20μm、より好適には≦15μmである。
【0052】
カソードで使用するためには、触媒層における第一の金属及び第二の金属(以下では単に「金属」と言う)の合計担持量は、金属0.05mg/cm2~金属0.4mg/cm2、好適には金属0.05mg/cm2~金属0.2mg/cm2、好ましくは金属0.05mg/cm2~金属0.15mg/cm2である。合金金属の担持量は、この触媒層担持量を特定するに際して含まれていないことに留意されたい。
【0053】
触媒層をガス拡散層に堆積させて、ガス拡散電極、好適にはカソードを形成することができる。よって、本発明の第二の態様は、ガス拡散層及び本発明による触媒を備えるガス拡散電極を提供する。ガス拡散層は好適には、慣用のガス拡散基材に基づく。典型的な基材には、炭素繊維ネットワーク及び熱硬化樹脂結合剤を含有する不織紙又はウェブ(例えば日本国の東レ株式会社から入手可能なTGP-Hシリーズの炭素繊維紙、又はドイツ国のFreudenberg FCCT KGから入手可能なH2315シリーズ、又はドイツ国のSGL Technologies GmbHから入手可能なSigracet(登録商標)シリーズ、又はAvCarb Material SolutionsからのAvCarb(登録商標)シリーズ)、又は炭素織布が含まれる。カーボン紙、ウェブ又は布は、電極を作成する前、及び組み込んでMEAにする前に、より濡れ性(親水性)にするため、又はより耐水性(疎水性)にするために、前処理することが意図されていてよい。何らかの処理の性質は、用いられる燃料電池の種類及び稼働条件に応じて決まる。基材は、液状懸濁液から含侵させることにより、材料、例えば非晶質カーボンブラックを組み込むことによって、より濡れ性にすることができるか、又は基材の多孔質構造にポリマー、例えばPTFEまたはポリフルオロエチレンプロピレン(FEP)のコロイド状懸濁液を含侵させ、引き続き乾燥させ、ポリマーの融点を上回る温度に加熱することにより、より疎水性にすることができる。PEMFCなどの用途では、微多孔性層も、ガス拡散基材に、電極触媒層と接触する面で施与することができる。微多孔性層は通常、カーボンブラックと、ポリマー(例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE))との混合物を含有する。
【0054】
代替的には触媒層を、触媒インクを膜にコーティングすることによって直接、又は担体若しくは転写基材からの転写によって間接的に、イオン伝導性膜に堆積させて、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を形成する。よって本発明のさらなる態様は、イオン伝導性膜と本発明による触媒層とを備える、触媒コーティングされたイオン伝導性膜を提供する。イオン伝導性膜は、PEMFCでの使用に適したあらゆる膜であってよく、膜は例えば、ペルフルオロ化スルホン酸材料、例えばNafion(登録商標)(Chemours Company)、Aquivion(登録商標)(Solvay Specialty Polymers)、Flemion(登録商標)(旭硝子)、及びAciplex(登録商標)(旭化成)に基づくものであり得る。あるいは膜は、スルホン化炭化水素膜に基づくもの、例えばfumapem(登録商標)P、E又はKシリーズ製品としてFuMA-Tech GmbHから、JSR社、東洋紡社等から入手可能なものなどであり得る。あるいは膜は、120℃~180℃の範囲で稼働する、リン酸をドープしたポリベンゾイミダゾールに基づくものであり得る。
【0055】
イオン伝導性膜要素は、イオン伝導性膜要素に機械的な強度をもたらす一種又は複数種の材料を有することができる。例えば、イオン伝導性膜要素は、多孔質強化材料、例えば発泡させたPTFE材料、又はナノファイバーネットワークを有することができる。
【0056】
イオン伝導性膜は、一種又は複数種の過酸化水素分解触媒を、膜の片面若しくは両面に層として、又は膜内に埋め込まれた形で、有することができる。使用に適した過酸化水素分解触媒の例は、当業者に知られており、これには金属酸化物、例えば酸化セリウム、酸化マンガン、酸化チタン、酸化ベリリウム、酸化ビスマス、酸化タンタル、酸化ニオブ、酸化ハフニウム、酸化バナジウム及び酸化ランタンが含まれ、好適には酸化セリウム、酸化マンガン又は酸化チタンであり、好ましくは二酸化セリウム(セリア)である。
【0057】
イオン伝導性膜要素は任意選択的に、再結合触媒、特に未反応のH2及びO2(これらのガスはアノード及びカソードのそれぞれから膜内へと拡散し得る)を再結合させて、水を生成するための触媒を備えることができる。好適な再結合触媒は、金属(白金など)を、高表面積の酸化物担持材料(例えばシリカ、チタニア、ジルコニア)の上に含む。再結合触媒のさらなる例は、欧州特許第0631337号及び国際公開第00/24074号に開示されている。
【0058】
あるいは、触媒インクを担体/転写基材に直接コーティングすることによって、触媒層を担体/転写基材に堆積させ、触媒化された担体/転写基材を形成する。よって、本発明の代替的な態様は、担体/転写基材と本発明による触媒層とを備える、触媒化された担体/転写基材を提供する。担体/転写基材は、後続の工程で層から取り除くことが意図されている。例えば、触媒層をデカール転写によって、ガス拡散層又はイオン伝導性膜に転写することができ、転写プロセスの直後に、又は転写プロセスに続くいずれかの時点で、担体/転写基材を除去する。
【0059】
さらなる層は、担体/転写基材を除去する前に、触媒層の露出面に堆積させることができる。例えば、イオン伝導性イオノマー層は、触媒層の堆積との関連で前述した既知のあらゆる適切な堆積技術を用いて、イオノマーの分散液から施与することができる。追加のさらなる層を、必要に応じて追加することができ、それは例えば、英国特許出願第1405210.4号に記載されている。担体/転写基材は、適切な時点で触媒層から取り除く。担体/転写基材は、触媒層に損傷を与えることなく触媒層を取り外し可能なあらゆる適切な材料から形成されていてよい。適切な材料の例には、フルオロポリマー、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、エチレンテトラフルオロエチレン(ETFE)、ペルフルオロアルコキシポリマー(PFA)、フッ化エチレンプロピレン(FEP:ヘキサフルオロプロピレンとテトラフルオロエチレンとのコポリマー)、及びポリオレフィン、例えば二軸延伸ポリプロピレン(BOPP)が含まれる。
【0060】
本発明はさらに、触媒層、本発明によるガス拡散電極又は本発明による触媒でコーティングされたイオン伝導性膜を備えるMEA、並びにMEA、触媒層、発明によるガス拡散電極又は本発明による触媒化膜を備える電気化学デバイス、例えば燃料電池を提供する。本発明は特に、カソード触媒層を備えるMEAを提供し、このカソード触媒層は、本発明による電極触媒材料、プロトン交換膜、及びアノード触媒層を備えるものであり、ここでプロトン交換膜は、カソード触媒層と、アノード触媒層との間に挟まれている。アノード触媒層は、アノードで使用することが(慣用の、又はさもなくば)知られているあらゆる触媒層であり得る。
【0061】
本発明の電極触媒材料は一義的には、燃料電池のカソードで使用するために記載されているものの、特定の触媒組成物はまた、アノードでも利用でき、それは例えば(i)第一の粒子が、チタン又はニオブで合金化された白金を含有し、かつ第二の粒子が、イリジウム又は酸化イリジウムから成るか、或いは(ii)第一の粒子がタンタルで合金化されたイリジウムを含有し、かつ第二の粒子が、白金から成る場合である。よって本発明はさらに、本発明による電極触媒材料を含有するアノード触媒層(ここで第一の粒子は、チタン又はニオブで合金化された白金を含有し、かつ第二の粒子は、イリジウム又は酸化イリジウムから成るか、或いは第一の粒子が、タンタルで合金化されたイリジウムを含有し、かつ第二の粒子が白金から成る)、プロトン交換膜、及びカソード触媒層を備えるMEAを提供し、ここでプロトン交換膜は、アノード触媒層とカソード触媒層との間に挟まれている。カソード触媒層は、カソードで使用することが(慣用の、又はさもなくば)知られているあらゆる触媒層であり得る。
【0062】
本発明は、PEMFCでの使用を参照して記載されているものの、本発明による電極触媒材料は、本発明による電極触媒材料の特性が、燃料電池の性能及び/又は安定性を改善可能なその他の種類の燃料電池でも適用されると理解できる。さらに、本発明による電極触媒材料は、その他の電気化学デバイスでも適用でき、特に、酸素放出反応がアノードにおける一義的な反応である水電気分解電池において、適用できる。さらに、本発明による電極触媒材料は、非電気化学デバイスにおいて適用できる。
【実施例】
【0063】
本発明を、以下の実施例を参照してさらに説明するが、これらは例示に過ぎず、本発明を制限するものではない。
【0064】
実施例1:(PtNi合金+Pt)/C
Ptが20重量%のPtNi/Cの製造
微粒子状カーボンブラックに担持されたナノ粒子状白金(Pt/C)触媒材料前駆体を、国際公開第2013/045894号に記載の炭素担持型白金触媒の一般的な製造方法と同様の方法を用いて製造した。硝酸ニッケル水溶液(10.66g;Niは3.43g、0.0585mol)を、乾燥したPt/C触媒(19.0g;Ptは3.8g、0.0195mol)にアリコートで添加し(C1gあたり3ml)、均質な分散を保証するために混合した。堆積が完了したら、PtNi/C材料を回収し、乾燥し、5%のH
2/N
2還元雰囲気で1000℃にて1時間アニール処理して、白金とニッケルを合金化する。それから、合金化されたPtNi/C材料を、水溶液で、引き続きH
2SO
4アルコール溶液で(材料1gあたり20ml)洗浄して、Niの少なくとも一部を溶出させる。これら2つの洗浄工程は、ともに80℃で24時間行った。
図2Aは、製造したPtNi/C材料についての透過型電子顕微鏡(TEM)撮像、及びPtNi粒子(第一の粒子)の粒径分布を示す。
【0065】
Ptの添加
先に製造し、酸によるリーチングを行ったPtNi/C材料19.0gを、水1000ml中でスラリー化し、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(1.50g、0.0101mol)で安定化された水酸化Pt(Ptは2.75g、0.0141mol)を400mlの水に入れた分散液(国際公開第2005/123255号に記載されたのと同様の方法を用いて製造)を添加した。この混合物を60℃に加熱し、1%のホルムアルデヒド溶液(この工程でPt1gあたり28mlを添加)を添加し、それから、添加されたPtを還元するために、温度を10分で80℃に上げた。(PtNi+Pt)/C材料を回収し、乾燥させた。
図2Bは、(PtNi+Pt)/C材料のTEM撮像、並びにPtNi(第一の粒子)及びPt(第二の粒子)の累積的な粒径分布を示す。
図2Aと比較すると、比較的小さなPtのみの第二粒子を添加したことが原因で、炭素の担体上で2~3nmの粒子割合が大きく増加していることが明らかに分かる。
【0066】
触媒粉末0.8gと、Nafion(登録商標)1100 EWイオノマー懸濁液3.5g(固形分11.90重量%)とを、高剪断速度(3000rpm)で混合することによって、実施例1を含有するインクを製造した(炭素の、イオノマーに対する比率は80%)。5種類の安定化されたジルコニアビーズをインクに添加し、3~5μmのd50値、及び15~20μmのd90値が得られるまで、インクを10分間、混合した。
【0067】
比較例1:PtNi/C
実施例1について前述したのと同様の手順に従い、Ptが30重量%のPtNi/C試料を製造した。
Pt/C触媒(200.0g;Ptは58.08g、0.2977mol)
硝酸ニッケル(162.79g;Niは52.42g、0.8931mol)
【0068】
比較例1を含有するインクを、実施例1と同様の方法を用いて製造した。
【0069】
比較例2:PtNi/C+Pt/C
実施例1について前述したのと同様の手順に従い、Ptが40重量%のPtNi/C試料を製造した。
Pt/C触媒(20.0g;Ptは8.00g、0.0410mol)
硝酸ニッケル(22.42g;Niは7.22g、0.1230mol)
【0070】
実施例1について前述したPt添加と同様の手順に従い(詳細は国際公開第2005/123255号参照)、Ptが20重量%のPt/C試料を製造した。炭素(20g)を水中でスラリー化し、テトラエチルアンモニウムヒドロキシド(2.73g、0.0186mol)で安定化された水酸化Pt(5.00g、Ptは0.0256mol)を水に入れた分散液を添加した。この混合物を60℃に加熱し、1%のホルムアルデヒド溶液(Pt1gあたり28mlを添加)を添加し、それから、添加されたPtを還元するために、温度を10分で80℃に上げた。Pt/C材料を回収し、乾燥させた。
【0071】
比較例2の触媒2種を混合したものを含有するインクを、実施例1と同様の方法を用いて製造したのだが、ただし、PtNi/C:Pt/Cの比は、合計触媒重量(すなわち、炭素の担体を含む各触媒の重量)に対して1:1である。
【0072】
【0073】
MEAの作製
アノード及びカソード触媒層をPTFEシートに堆積させ、適切な層を、PFSA強化膜(厚さ20μm)の片側に、150~200℃の温度で転写することによって、触媒コーティングされたイオン伝導性膜(CCM、活性面積は50cm2)を製造した。本発明による実施例1及び比較例を使用して、カソード触媒層を形成した(カソード触媒担持量は、表2に示した通り)。それぞれのCCMにおいてアノード触媒層は、市販で手に入るアノード触媒(HiSPEC(登録商標)9100、Pt担持量は、炭素担体上に公称でPt60重量%)を、Pt0.1mg/cm2の担持量で含有していた。
【0074】
製造したCCMの概要は、表2に示してある。
【0075】
ガス拡散層を各CCMのそれぞれの面に施与して、MEAを完成させた。使用したガス拡散層は、疎水性微多孔性層を備える炭素繊維紙(炭素と、CCMとの接触面に施与されたPTFEとを含有するもの)であった。
【0076】
触媒質量活性測定
触媒質量あたりの動的活性は、50cm2のMEAで、純粋な水素及び酸素をそれぞれアノード及びカソード反応物質として、80℃で完全湿潤し、加圧したアノード及びカソード(RH(相対湿度)100%、ゲージ圧50kPa)という条件で、測定した。触媒質量あたりの活性(表2に示す)は、0.9Vでの抵抗修正(iR修正)電流を測定することによって算出し、カソード触媒層における白金の質量により正規化した。
【0077】
MEA性能試験
50cm
2のMEAの極性(電流対電圧)性能を、H
2/空気中で、完全湿潤し、加圧された(RH100%、ゲージ圧100kPa)カソードという条件、及び湿潤度の低い(RH30%、ゲージ圧50kPa)カソードという条件で測定した。全ての測定において、セル湿度(RH)及び圧力は、アノード及びカソードの入口で制御した。1.6A/cm
2(完全湿潤条件)、及び1.0A/cm
2(低下させた相対湿度条件)でのセル電圧性能が表2にまとめてあり、
図3及び
図4にそれぞれ示されている。
【0078】
本発明による触媒の利点は特に、H2/空気でのMEA性能試験に見られ、とりわけ湿潤条件(RH100%)、及び低下させた相対湿度(RH30%)における高い電流密度で見られる。表2は、CCM1についてのH2/空気下での性能が、同じ酸処理を行った比較例CCM1の性能よりも高いことを示しており、この有利な作用が、触媒担体での酸処理作用を原因とするものではないことを示している。これらの条件下での性能はまた、混合触媒粉末を用いた比較例CCM2よりも高い。よって本発明による実施例は、より少ないPt担持量でも、より高い性能を示す(このため、コストが比較的低い)。比較例のCCMと比べると、性能による利点が、比較的低い湿度(すなわちRH30%)において特に高いことは、特筆に値する。