(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するための低分子化合物の組み合わせ、初期化方法および適用
(51)【国際特許分類】
C12N 5/074 20100101AFI20220114BHJP
C12N 5/071 20100101ALI20220114BHJP
【FI】
C12N5/074 ZNA
C12N5/071
(21)【出願番号】P 2018563588
(86)(22)【出願日】2017-05-27
(86)【国際出願番号】 CN2017086336
(87)【国際公開番号】W WO2017206837
(87)【国際公開日】2017-12-07
【審査請求日】2020-05-25
(31)【優先権主張番号】201610391309.7
(32)【優先日】2016-06-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
(73)【特許権者】
【識別番号】512149813
【氏名又は名称】中国人民解放軍軍事医学科学院野戦輸血研究所
【氏名又は名称原語表記】INSTITUTE OF TRANSFUSION MEDICINE, ACADEMY OF MILITARY MEDICAL SCIENCES, PEOPLE’S LIBRATION ARMY OF CHINA
【住所又は居所原語表記】No.27, Taiping Road, Haidian District, Beijing 100850, P.R.China
(74)【代理人】
【識別番号】110000796
【氏名又は名称】特許業務法人三枝国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】王▲ユン▼芳
(72)【発明者】
【氏名】王術勇
(72)【発明者】
【氏名】張文成
(72)【発明者】
【氏名】覃金華
(72)【発明者】
【氏名】王▲シュアン▼
(72)【発明者】
【氏名】常銘洋
(72)【発明者】
【氏名】閻舫
(72)【発明者】
【氏名】裴雪涛
【審査官】藤澤 雅樹
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2015/0322405(US,A1)
【文献】特表2011-517560(JP,A)
【文献】特表2013-509159(JP,A)
【文献】特表2013-509864(JP,A)
【文献】国際公開第2009/096049(WO,A1)
【文献】Nature (2014) Vol.508, pp.93-97, METHODS, Extended Data Figure 1-10
【文献】Front. Med. (2016) Vol.10, No.2, pp.152-165
【文献】Cell Reasearch (2016) Vol.26, pp.34-45
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 5/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/WPIDS(STN)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するための低分子化合物の組み合わせ
物であって、前記低分子化合物が、TGF-βシグナル伝達経路、エピジェネティック修飾因子、Ca
2+チャネル活性化因子および代謝調節因子からなる機能的な群から選択され;低分子化合物の組み合わせ
物は、FBP、Bay K 8644(Bay)、Bix01294(Bix)、SB431542(SB)若しくはA83-01(A83)、VPA、RG108(RG)、PD0325901、およびPS48の全てを含む、8個の低分子化合物(8M);又は、BBRS組み合わせ
物と呼ばれる、Bix01294(Bix)、Bay K 8644(Bay)、RG108(RG)およびSB431542(SB)を含有する、4個の低分子化合物(4M)、若しくはBBRA組み合わせ
物と呼ばれる、Bix01294(Bix)、Bay K 8644(Bay)、RG108(RG)、および83-01(A83)を含有する、4個の低分子化合物(4M)である、低分子化合物の組み合わせ
物。
【請求項2】
8個の低分子化合物を含む前記組み合わせ
物が、50:12500:12.5:1:12.5:50:125:87500のモル比のSB43154
2:VPA:PD0325901:RG108:Bix01294:Bay K 8644:PS48:FBPの組み合わせ
物;または12.5:12500:12.5:1:12.5:50:125:87500のモル比のA83:VPA:PD0325901:RG108:Bix01294:Bay K 8644:PS48:FBPの組み合わせ
物である、請求項1に記載の低分子化合物の組み合わせ
物。
【請求項3】
前記BBRS又はBBRA組み合わせ
物中の各化合物が、1~10μMのSB4315
42、0.4~1μMのA83、0.01~1μMのRG108、0.1~2μMのBix01294、1~4μMのBay K 8644の濃度で使用される、請求項1に記載の低分子化合物の組み合わせ
物。
【請求項4】
前記BBRS組み合わせ
物が、50:1:12.5:50のモル比のSB:RG:Bix:Bayの各化合物の組み合わせ
物であり、前記BBRA組み合わせ
物が、12.5:1:12.5:50のモル比のA83:RG:Bix:Bayの各化合物の組み合わせ
物で
ある、請求項1または3に記載の低分子化合物の組み合わせ
物。
【請求項5】
各化合物が、2μMのSB431542、0.5μMのA83、0.04MのRG108、0.5μMのBix01294および2μMのBay K 8644の濃度で使用される、請求項4に記載の低分子化合物の組み合わせ物。
【請求項6】
消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するための初期化キットであって、請求項1~
5の何れか1項に記載の低分子化合物の組み合わせ
物および前記化合物の使用のための説明書を含み;各化合物が個別に包装されるか、または各化合物が、8M組み合わせ
物もしくはBBRS組み合わせ
物もしくはBBRA組み合わせ
物で混合および包装され、使用される各化合物の濃度が前記説明書に記載される、初期化キット
であって、フィーダー細胞および
フィーダー細胞の使用のための説明書をさらに含み、前記フィーダー細胞が、胃上皮下筋線維芽細胞または腸上皮下筋線維芽細胞
を包含する消化管由来間質細胞である、初期化キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は細胞工学技術の分野に属し、特異的な低分子化合物の組み合わせ、初期化キット、初期化で使用される初期化方法および実質細胞への分化をさらに誘導するための内胚葉幹細胞/前駆細胞の適用を含む、消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するための技術に関する。
【背景技術】
【0002】
幹細胞技術は、雑誌「Nature」および「Science」により21世紀のライフサイエンスにおける最も有望な技術と評価されている。これは、従来からの医学的処置では力の及ばない重篤な疾患を克服する新しい医療技術である。幹細胞の自己再生および多能性分化の潜在力ゆえに、これは臓器再生、疾患モデリング、発生生物学および創薬の分野で広く使用される。幹細胞理論および技術研究は、この10年間にわたり急速な発展を達成しており、これは、新しい疾患処置法となり、医学的処置のパラダイムシフトを促進し、新しい医学的革命につながると予想される。幹細胞に対しては多くの異なる分類法がある。発生学の視点から、幹細胞は大まかに2つのカテゴリー:胚性幹細胞(ESC)および成体幹細胞(ASC)に分類される。ESCは、胚盤胞期の内部細胞塊(ICM)に由来し、無限に自己再生し、ヒト身体の全ての細胞型へ分化する多能性幹細胞である。1998年に、Thomsonは、世界で初めてヒト胚性幹細胞株(hESC)を樹立した[Thomson JA,Itskovitz-Eldor J,Shapiro SS,Waknitz MA,Swiergiel JJ,Marshall VSら、Embryonic Stem Cell Lines Derived from Human Blastocysts Science.1998;282:1145-7]。これは成体における全ての細胞型を生成させ得るので、理論的には、基礎研究、疾患処置および創薬のための理想的な細胞供給源を提供し得る。ここ数年間にわたるESCの使用によって、心筋細胞、神経細胞、血液細胞および肝臓細胞を含め、様々な機能的細胞が生み出されてきた[Murry CE,Keller G.Differentiation of Embryonic Stem Cells to Clinically Relevant Populations:Lessons from Embryonic Development.Cell.132:661-80]。しかし、ESCの使用により直面する国際的な倫理的問題およびESC由来細胞により生じる移植後の免疫拒絶および未分化ESCにより形成される奇形腫などの多くの問題により、ESCの臨床応用は大きく制限される。造血幹細胞、間葉系幹細胞、肝臓幹細胞および神経幹細胞などの成体幹細胞は、出生後の様々な段階で様々な組織に存在する。ASCは、ある一定の自己再生能を有し、それらの起源の組織に関連する成熟細胞に分化し得る。これらは成体組織に由来し、特異的な系列にのみ分化し得、これらは奇形腫のリスクがなく、倫理的問題がないので、これらは臨床疾患処置のための良好なシード細胞である。しかし、ヒト組織からのみ単離され得るASCの細胞供給源の欠乏およびそれらの系列中の1つまたはいくつかの成熟細胞型しか生成させ得ないASCの分化能の制限およびASCのインビトロでの増殖能が限定的であることから、ASCの臨床応用は大きく妨げられている。ここ数年にわたり、多くの研究が、疾患処置、創薬および機序研究のためのより望ましい細胞型の発見に焦点を当ててきた。
【0003】
従来のエピジェネティックな観点は、細胞の系列特定化および分化は一方向性であり、不可逆的な過程であり、多能性細胞の細胞運命は最終的な成熟細胞にのみ特異化され得るという考え方を有する(Waddingtonのエピジェネティック・ランドスケープ)。誘導多能性幹細胞(iPSC)の出現はこの概念を大きく変化させた。2006年に、山中らは、4個の多能性関連転写因子OCT4、SOX2、KLF4およびc-MYC(OSKM)を使用して線維芽細胞をESC様多能性幹細胞iPSCに変換することに成功したが、これにより、多能性関連転写因子の作用下で最終分化した細胞が多分化能を回復し得ることが初めて明らかになった。これは古典的な初期化技術である。[Takahashi K,Yamanaka S.Induction of Pluripotent Stem Cells from Mouse Embryonic and Adult Fibroblast Cultures by Defined Factors.Cell.126:663-76.Takahashi K,Tanabe K,Ohnuki M,Narita M,Ichisaka T,Tomoda Kら、Induction of Pluripotent Stem Cells from Adult Human Fibroblasts by Defined Factors.Cell.131:861-72]。iPSCの出現は、節目の意義を有し:第1に、これは古典的なエピジェネティックの概観的モードを打ち破り、細胞運命変換の理論を大きく補強し、細胞運命コバージョン(coversion)研究および幹細胞研究のパラダイムシフトにつながり、再生医療における基礎研究および臨床応用の新時代を開いた。第2に、iPSCは、ESCの研究および応用における倫理的な論争を回避しながら、無限に自己再生し、ESCも有する身体の全ての細胞型に分化する潜在力を有する。第3に、線維芽細胞は患者自身の身体から得られ得るので、身体へのESC分化により生じる最終的細胞の移植により引き起こされる免疫拒絶の問題も回避され得る。最後に、患者由来のiPSCは、個人化された疾患細胞モデルおよび個別化された薬物スクリーニングプラットフォームを確立し得る。iPSCの出現は基礎研究、薬物スクリーニングのための新しい研究モデルをもたらすだけでなく、多能性幹細胞(PSC)の臨床応用も促進する。iPSCは、様々な機能的な細胞型を生成させるために首尾よく使用されており、失明に至る眼疾患の処置のためのiPSC由来網膜色素上皮の臨床試験が進行中である。山中は、この技術に対して2012年にノーベル医学生理学賞も受賞した。
【0004】
iPSCは多くの長所があり、非常に有望な細胞型であるにもかかわらず、ESCの同様の多能性ゆえに奇形腫のリスクを回避するのは依然として困難である。さらに、機能的細胞へのiPSCの分化中のランダムな分化の問題ゆえに、様々な望ましくない細胞型が生じる。これらの問題は、iPSCの大規模臨床用途において安全性の問題を引き起こす。この欠点を補うために、近年、iPSCの技術および原理に基づく系列初期化技術が注目されることが増加している。系列初期化は主に、創始細胞を関心のある細胞に直接変換するために、創始細胞、主に皮膚線維芽細胞または血液細胞において、多能性転写因子(OSKM)ではなく系列特異的な転写因子の過剰発現を含む。系列初期化の出現は、幹細胞分野のマイルストーンでもある。第1に、系列初期化は、多能期を迂回することによってiPSCの奇形腫リスクを回避する。第2に、系列初期化は、転写因子および培養条件に依存して、増殖能がある成熟機能的細胞または成体幹細胞を直接得ることができ、得られた標的細胞型は比較的均一である。第3に、系列初期化は、免疫学的拒絶がないiPSCの長所も有し、個別化処置も達成し得、したがって幹細胞および再生医療研究および疾患処置において幅広い応用展望を示す[Sancho-Martinez I,Baek SH,Izpisua Belmonte JC Lineage conversion methodologies meet the reprogramming toolbox.Nat Cell Biol.2012;14:892-9]。最後に、系列初期化は、細胞運命変換および細胞初期化の理論を大きく補強しており、細胞運命の特殊化および制御を理解することを促し、この概念をより幅広い展望に生かす。
【0005】
系列初期化の分野で多くのブレークスルーが達成されている。膵臓外分泌細胞から内分泌ベータ細胞への系列初期化は2008年に最初に実現され、ここで2個の細胞が同じ胚葉由来であった[ZHOU Q,Brown J,Kanarek A,Rajagopal J,Melton DA.In vivo reprogramming of adult pancreatic exocrine cells to beta-cells.Nature.2008;455:627-32]。そして、胚葉を越える線維芽細胞から神経芽細胞への変換は2010年に達成された[Vierbuchen T,Ostermeier A,Pang ZP,Kokubu Y,Sudhof TC,Wernig M.Direct conversion of fibroblasts.Nature.2010;463:1035-41]。現在、体細胞におけるウイルス介在性転写因子過剰発現を使用することによって、3つの胚葉全ての様々な細胞型における細胞運命コバージョン(coversion)が実現され得る。外胚葉において、線維芽細胞がニューロン、神経幹細胞などに変換されており;中胚葉において、心筋細胞、心筋前駆細胞および造血幹細胞/前駆細胞が誘導されており;内胚葉において、膵臓細胞、肝細胞および肝臓幹細胞も得られている。中国人科学者は、肝臓細胞の系列初期化において大きなブレークスルーを成し遂げた。2011年に、Lijian Huiおよび共同研究者は、肝細胞特異的な転写因子の組み合わせを使用してマウス線維芽細胞を肝細胞に変換することに成功した[HUANG P,He Z,Ji S,Sun H,Xiang D,Liu Cら、Induction of functional hepatocyte-like cells from mouse fibroblasts by defined factors.Nature.2011;475:386-9]。2013年には、Yiping Huらが、増殖能を有し、肝細胞および胆管細胞の両方に分化し得るマウス肝臓幹細胞を得るために、転写因子の組み合わせを使用した[Yu B,He ZY,You P,Han QW,Xiang D,Chen Fら、Reprogramming fibroblasts into bipotential hepatic stem cells by defined factors.Cell Stem Cell.2013;13:328-40]。2015年に、Hui研究室およびDeng研究室が独立に、異なる転写因子の組み合わせを用いて、機能的肝細胞へのヒト線維芽細胞の変換の成功を報告し、肝臓疾患処置および薬物スクリーニングのための良好な細胞供給源をもたらした[Du Y,Wang J,Jia J,Song N,Xiang C,Xu Jら、Human hepatocytes with drug metabolic function induced from fibroblasts by lineage reprogramming.Cell Stem Cell.2014;14:394-403.Huang P,Zhang L,Gao Y,He Z,Yao D,Wu Zら、Direct reprogramming of human fibroblasts to functional and expandable hepatocytes.Cell Stem Cell.2014;14:370-84]。ここ数年にわたり系列初期化によって多くのヒトまたはマウス細胞型が誘導されており、系列初期化がiPSCの複数の欠点を補っているにもかかわらず、現在の系列初期化研究の殆どがレンチウイルスまたはレトロウイルス介在性の転写因子過剰発現に依存する。これらのウイルスベクターは、それらが標的細胞に侵入した後、宿主ゲノムに組み込まれ、これは宿主ゲノムの不安定性につながり得、したがって将来的な臨床応用に対する安全性の問題を引き起こし得る。さらに、転写因子は、研究室間で変動する複雑な手順であり、効率が低いがゆえに大規模化しにくい。したがって、多くの研究は、現在、転写因子を置き換えるためのより安全でより効率的な方法を探している。
【0006】
転写因子と比較して、低分子化合物は多くの長所を有する。低分子化合物は細胞浸透性であり、合成し易く、廉価で非免疫原性である。これらは、ゲノム組み込みなくタンパク質レベルで作用し、作製について標準化し、大規模化し得る。タンパク質の時空間的および強度制御は、低分子処理の濃度および持続時間を変化させることによって比較的容易に達成される。近年、多くの研究者が、iPSCの作製効率を向上させ、iPSCの作製時間を短縮し、転写因子の使用を減少させるために低分子を熱心にスクリーニングしている。究極的なゴールは、古典的な山中の4因子を低分子に完全に置き換えて、宿主細胞におけるウイルス組み込みを回避することである[Li W,Li K,Wei W,Ding S.Chemical approaches to stem cell biology and therapeutics.Cell Stem Cell.2013;13:270-83]。2013年に、Deng研究室は、この領域においてブレークスルーとなる進歩を遂げた。複数のスクリーニングを通じて、このチームは、全く外因性転写因子に依存することなくiPSCへのマウス線維芽細胞の初期化を達成するための低分子化合物の適切な組み合わせを発見した。0.2%の初期化効率および複雑な過程にもかかわらず、この発見によって、低分子に基づく初期化および系列初期化に対する理論的で実際的な基礎がもたらされた[Hou P,Li Y,Zhang X,Liu C,Guan J,Li Hら、Pluripotent Stem Cells Induced from Mouse Somatic Cells by Small-Molecule Compounds.Science.2013;341:651-4]。低分子化合物によるiPSCの作製を研究する一方で、安全で効率的で調節可能な標的細胞を作製するために、研究者らは、系列初期化を促進するかまたは系列特異的な転写因子を置き換えるために低分子をスクリーニングすることに多大な努力を払ってきた[Li K,Zhu S,Russ HA,Xu S,Xu T,Zhang Yら、Small molecules facilitate the reprogramming of mouse fibroblasts into pancreatic lineages.Cell Stem Cell.2014;14:228-36.Zhu S,Rezvani M,Harbell J,Mattis AN,Wolfe AR,Benet LZら、Mouse liver repopulation with hepatocytes generated from human fibroblasts.Nature.2014;508:93-7.Zhu S,Russ HA,Wang X,Zhang M,Ma T,Xu Tら、Human pancreatic beta-like cells converted from fibroblasts.Nat Commun.2016;7:10080]。中国人科学者は、この分野でも目覚ましい業績を上げている。最近、Pei研究室は、アルツハイマー病患者由来の線維芽細胞を成熟機能的ニューロンに初期化するために使用した低分子の組み合わせを報告した[Hu W,Qiu B,Guan W,Wang Q,Wang M,Li Wら、Direct Conversion of Normal and Alzheimer’s Disease Human Fibroblasts into Neuronal Cells by Small Molecules.Cell Stem Cell.2015;17:204-12]。Deng研究室は、低分子の組み合わせを用いてマウス線維芽細胞をニューロンに変換することに成功した[Li X,Zuo X,Jing J,Ma Y,Wang J,Liu Dら、Small-Molecule-Driven Direct Reprogramming of Mouse Fibroblasts into Functional Neurons.Cell Stem Cell.2015;17:195-203]。Lei Zhangらは、低分子を用いた、機能的ニューロンへのヒト星状膠細胞の系列初期化を報告した[Zhang L,Yin JC,Yeh H,Ma NX,Lee G,Chen XAら、Small Molecules Efficiently Reprogram Human Astroglial Cells Into Functional Neurons.Cell Stem Cell.2015;17:735-47]。これらのブレークスルーにより、確かな理論的基礎が確立され、成体細胞を他の型の機能的細胞または幹細胞へ変換するための低分子の完全な使用が極めて有望になった。「Basic Research on the Application of Somatic Cell Reprogramming Technology in Liver Regeneration」[Wencheng Zhang,2012 Ph.D Thesis]は、低分子化合物による、胃腸細胞から誘導性内胚葉多能性幹細胞(iEMSC)への系列初期化を報告した。SB431542、VPA、Y27632の低分子化合物および未公表の低分子の1#-6#の組み合わせを使用して、初期化効率を比較した。
【0007】
内胚葉幹細胞/前駆細胞は、肝臓、膵臓、胃および腸などの内臓の細胞を生じさせる。内胚葉幹細胞/前駆細胞を得て、大規模に増殖させ、次いで分化するように誘導し、多数の機能的な肝細胞、膵臓細胞または腸上皮細胞を得るが、これは様々なタイプの内胚葉器官障害の処置に対して大きな意義がある。誰もが知るとおり、中国は深刻な肝臓疾患の脅威にさらされている。現在、中国には9,700万人のB型肝炎ウイルス保有者および1,000万人のC型肝炎ウイルス保有者が存在する。近年、中国におけるアルコール性脂肪肝疾患および非アルコール性脂肪肝疾患の発生率も顕著に増加している。薬物誘発性の肝臓損傷および免疫肝臓疾患を含む他の肝臓疾患は、国民の健康を著しく脅かしている[Wang FS,Fan JG,Zhang Z,Gao B,Wang HY.The global burden of liver disease:the major impact of China.Hepatology.2014;60:2099-108]。多くの肝臓疾患は、時宜を得た有効な処置がなければ、肝硬変、肝不全および肝臓癌により代表される末期肝疾患(ESLD)へと進行する。毎年、数十万の中国人がESLDに罹患する。現在、ESLDに対する処置は、依然として非常に限られている。人工肝臓は大規模に実行するには十分に成熟しておらず、一方で医療は保存的および対症療法的なアプローチしか採用し得ない。ESLDに対する最も有効な処置は、同所性肝臓移植である。しかし、ドナー肝臓の不足によりこれは著しく限定される。380,000人を超える者が中国において毎年ESLDで死亡していると推定され、これにより、数千の家族が甚だしい苦痛を受け、社会に対して重い医学的負担がもたらされる。機能的肝細胞移植は肝臓移植に対する良好な代替物と考えられるが、これもその供給源によって限定される。さらに、世界中の他の国のように、中国でも糖尿病患者数が多く、年々一定して増加する傾向がある。International Diabetes Federationは、糖尿病について、来たる将来、世界的に患者が30億人を超えることを示唆している。糖尿病の最新の処置も限定的であり、転帰は様々である。特に、I型糖尿病(T1DM)患者の場合、生涯にわたる外因性インスリンの注射が現在のところ唯一の処置である。インスリンの長期注射は高額であり、インスリン耐性の傾向があり、感染、低血糖およびアレルギー反応など、一連の共通する慢性合併症がある。T1DMを治癒させるために、膵島ベータ細胞の外因性移植を使用して、注目すべき進歩がなされてきた。[Bellin MD,Barton FB,Heitman A,Alejandro R,Hering BJ.Potent induction immunotherapy promotes long-term insulin independence after islet transplantation in type 1 diabetes.American Journal of Transplantation.2012;12:1576-83]。しかし、外因性膵島またはベータ細胞の欠如によって、この処置の適用が大きく妨げられる。内胚葉幹細胞/前駆細胞を得ることができ、大幅に増殖させ得、次いで多数の機能的肝細胞、膵臓ベータ細胞または腸上皮細胞を得るために分化を誘導し得れば、これは、肝臓疾患の細胞処置、糖尿病の細胞処置、および腸疾患の処置に対してさえも大きな希望をもたらす。
【0008】
多くの研究から、多能性幹細胞(ESCまたはiPSC)から内胚葉幹細胞/前駆細胞を得たことおよび肝細胞および膵臓細胞へのこれらの細胞の分化が報告されている。[Sneddon JB,Borowiak M,Melton DA.Self-renewal of embryonic-stem-cell-derived progenitors by organ-matched mesenchyme.Nature.2012;491:765-8.Cheng X,Ying L,Lu L,Galvao AM,Mills JA,Lin HCら、Self-renewing endodermal progenitor lines generated from human pluripotent.Cell stem cell.2012;10:371-84]。しかし、これらの細胞は全て多能性幹細胞由来であるので、多能性幹細胞適用に関連する上述の問題を回避することは難しい。現在、多くの国際的研究がヒト成体細胞を、それらが由来する内胚葉前駆細胞または肝臓細胞および膵臓細胞に初期化するための低分子の使用をテーマにしている。2014年に、Sheng Dingらは、山中の4因子OSKMを使用してヒト線維芽細胞において一過性に過剰発現させ、低分子を組み合わせて、ESCまたはiPSCの多能性状態とは異なった多能性中間状態に最初に入り、次いで内胚葉の誘導状態を与え、線維芽細胞を内胚葉前駆細胞(EP)状態に初期化し、続いて肝細胞の連続的誘導を行って肝細胞様細胞を得た[Zhu S,Rezvani M,Harbell J,Mattis AN,Wolfe AR,Benet LZら、Mouse liver repopulation with hepatocytes generated from human fibroblasts.Nature.2014;508:93-7]。最近、同様のストラテジーを使用して、Dingのチームが、ヒト線維芽細胞を内胚葉前駆細胞状態に初期化し、次いで、膵臓への分化を誘導して機能的ベータ細胞を得ることができた[Zhu S,Russ HA,Wang X,Zhang M,Ma T,Xu Tら、Human pancreatic beta-like cells converted from fibroblasts.Nat Commun.2016;7:10080]。このストラテジーは、多能性状態を通過しないので、多能性幹細胞の催奇形性を回避するが、依然としてOSKMの4因子の最初の推進を必要とするので、これは、依然として部分的に転写因子に依存するストラテジーである。これは、低分子の役割に完全には依存していない。最新の初期化分野が内胚葉前駆細胞、肝細胞または膵臓細胞を含む上皮由来内胚葉系列細胞型を得るための系列初期化を媒介するための低分子の使用をまだ達成していない原因を分析して、発明者らは、以下に列挙するものが最も重要な科学的疑問であると考える:
【0009】
1.創始細胞に伴う問題:第1に、これがiPSCの古典的な初期化であるかまたは系列初期化であるかにかかわらず、それらの殆どが線維芽細胞を用いて開始する。線維芽細胞は、他の成体細胞よりも比較的容易に得られ、皮膚生検により得ることができる。したがって、これらは臨床応用において大きな長所でもある。しかし、内胚葉前駆細胞、肝細胞または膵臓細胞などの所望の標的細胞に対して、線維芽細胞で始まるエピジェネティックな障壁がある。線維芽細胞は中胚葉由来細胞であり、一方で標的である内胚葉前駆細胞は内胚葉に属する。中胚葉から内胚葉への移行は、特により穏やかに作用する低分子の場合は大きな障害である。第2に、線維芽細胞は、組織学的分類においては間葉系細胞に属し、一方で内胚葉前駆細胞は上皮細胞に属する。線維芽細胞から内胚葉前駆細胞への移行は、間質上皮移行(MET)の過程を必要とする。METは、iPSCを作製するための重要度の高い障壁であることが証明されており[Li R,Liang J,Ni S,Zhou T,Qing X,Li Hら、A mesenchymal-to-epithelial transition initiates and is required For the nuclear reprogramming of mouse fibroblasts.Cell Stem Cell.2010;7:51-63]、これは系列初期化に対する重要な障害物でもある。
【0010】
2.低分子の選択に伴う問題。低分子の選択は創始細胞の特徴に密接に関連し、異なる創始細胞は、内胚葉前駆細胞への移行に必要とされる低分子の組み合わせを決定する。対照として、内胚葉の何らかの細胞型を得るための低分子の完全な使用についての報告はないので、低分子の選択には詳細な研究およびスクリーニングが必要とされる。
【0011】
3.栄養膜細胞の使用に伴う問題:栄養膜細胞は、様々なサイトカイン、可溶性細胞外マトリクスまたはマイクロRNAを分泌し得、培養される細胞と密接に接触して細胞成長および生存に対する適切な細胞外微小環境をもたらす。栄養膜細胞は、幹細胞/前駆細胞の培養および初期化に必要であることが多く、最も一般的に使用される栄養膜細胞は、初期化であれ、または系列初期化であれ、マウス胚性線維芽細胞(MEF)、ヒト包皮線維芽細胞(HFF)または間葉系幹細胞(MSC)などであり、これらは基礎的な幹細胞成長環境のみをもたらし、系列特異的な支持および誘導はない。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の目的は、消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化するための低分子化合物の組み合わせおよび消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化するための初期化キットおよび初期化方法を提供することである。
【0013】
幹細胞および前駆細胞の定義は依然として論争となっている問題であり、幹細胞および前駆細胞の名称も統一されていないので、幹細胞/前駆細胞は、本発明において幹細胞または前駆細胞を指す。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明により提供される低分子化合物の組み合わせは、消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化し得る。ここで、本低分子化合物は、TGF-βシグナル伝達経路、エピジェネティック修飾因子、Ca2+チャネル活性化因子および代謝経路制御因子および同様の機能的な群、一般的には、FBP、Bay K 8644(Bay)、Bix01294(Bix)、SB431542(SB)またはA83-01(A83)、VPA、RG108(RG)、PD0325901およびPS48(SBまたはA83を含む)の全てまたは複数の組み合わせを含む、8個の低分子化合物(8M)を含む組み合わせからなる群から選択される。
【0015】
ここで、8個の低分子化合物を含む組み合わせ(8Mと略称)は、50:12500:12.5:1:12.5:50:125:87500のモル比のSB43154:VPA:PD0325901:RG108:Bix01294:Bay K 8644:PS48:FBPの組み合わせ;または12.5:12500:12.5:1:12.5:50:125:87500のモル比のA83:VPA:PD0325901:RG108:Bix01294:Bay K 8644:PS48:FBPの組み合わせである。上記の比率に従う8M組み合わせを使用する場合、RG作業濃度は、0.01~1μM、好ましくは0.04μMであることが必要である。
【0016】
好ましくは消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化するための低分子化合物の組み合わせは、4個の低分子化合物、例えばBBRS組み合わせと呼ばれるBix01294(Bix)、Bay K 8644(Bay)、RG108(RG)およびSB431542(SB)、またはBBRA組み合わせと呼ばれるA83-01(A83)、Bay K 8644(Bay)、RG108(RG)およびSB431542(SB)などを含む組み合わせである。
【0017】
低分子化合物の組み合わせ中の各化合物は、それぞれ1~10μM SB43152、0.4~1μM A83、0.01~1μM RG108、0.1~2μM Bix01294、1~4μM Bay K 8644の濃度で使用される。
【0018】
ここで、BBRS組み合わせは、50:1:12.5:50のモル比のSB:RG:Bix:Bayの各化合物の組み合わせであり、BBRA組み合わせは、12.5:1:12.5:50のモル比のA83:RG:Bix:Bayの各化合物の組み合わせである。好ましくは各化合物は、2μM SB43152、0.5μM A83、0.04M RG108、0.5μM Bix01294および2μM Bay K 8644の濃度で使用される。
【0019】
本発明において、低分子化合物の組み合わせは、栄養膜細胞としての胃上皮下筋線維芽細胞(GSEMF)または腸上皮下筋線維芽細胞(ISEMF)の支持を受けて消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化し得る。
【0020】
本発明により提供される消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化するための初期化キットは、消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化するための上記の低分子化合物の組み合わせおよび化合物の使用のための説明書を含む。各化合物は、個別に包装されるか、または各化合物が混合され、8Mの組み合わせまたはBBRS組み合わせまたはBBRA組み合わせにおいて包装され、使用される各化合物の濃度範囲または具体的な濃度は説明書に記載される。
【0021】
本初期化キットは、栄養膜細胞およびその使用のための説明書をさらに含み、この栄養膜細胞は、胃上皮下筋線維芽細胞または腸上皮下筋線維芽細胞などの消化管由来間質細胞である。
【0022】
本初期化キットは、基本培地、Advanced DMEM/F12、細胞培養のための基本的なさらなる構成成分、グルタミン(Glutamax)および抗生物質(SP)およびその使用のための説明書をさらに含み、ここでグルタミンは、Advanced DMEM/F12基本培地に対して2mM(1x)の濃度で使用され、抗生物質はペニシリンおよびストレプトマイシンであり、Advanced DMEM/F12基本培地に対して、ペニシリンは100U/mLの濃度で使用され、ストレプトマイシンは0.1mg/mLの濃度で使用され、各物質は個別に包装されるか、または挙げられた濃度に従い基本培地と混合される。
【0023】
本発明は、消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化するための初期化培地も提供する。初期化培地は、低分子化合物の組み合わせを基本培地および細胞培養のための基本のさらなる構成成分とブレンドすることによって調製される。
【0024】
最適化初期化培地は、2mM グルタミン(Glutamax)、ペニシリンおよびストレプトマイシン(100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシン)、2μM SB43154、0.5mM VPA、0.5μM PD0325901、0.04μM RG108、0.5μM Bix01294、2μM Bay K 8644、5μM PS48、3.5mM FBPを含有するAdvanced DMEM/F12として処方される。挙げられる濃度は、使用される濃度、すなわちAdvanced DMEM/F12(溶媒)中の構成成分の濃度である。
【0025】
より好ましい初期化培地は、2mMグルタミン(Glutamax)、ペニシリンおよびストレプトマイシン(100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシン)、1~10μM SB43152、0.01~1μM RG108、0.1~2μM Bix01294、1~4μM Bay K 8644を含有するAdvanced DMEM/F12として処方され;本明細書中の最も好ましい初期化培地は、2mMグルタミン(Glutamax)、ペニシリンおよびストレプトマイシン(100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシン)、2μM SB43152、0.04μM RG108、0.5M Bix01294、2μM Bay K 8644を含有するAdvanced DMEM/F12として処方される。
【0026】
別のより好ましい初期化培地は、2mMグルタミン(Glutamax)、ペニシリンおよびストレプトマイシン(100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシン)、0.4~1μM A83-01、0.01~1μM RG108、0.1~2μM Bix01294、1~4μM Bay K 8644を含有するAdvanced DMEM/F12として処方され;本明細書中の最も好ましい初期化培地は、2mMグルタミン(Glutamax)、ペニシリンおよびストレプトマイシン(100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシン)、0.5μM A83-01、0.04μM RG108、0.5M Bix01294、2μM Bay K 8644を含有するAdvanced DMEM/F12として処方される。
【0027】
本発明は、上記の低分子化合物の組み合わせまたはキットまたは初期化培地の適用も提供するが、これは、栄養膜細胞として消化管由来間質細胞に基づく、上記の低分子化合物の組み合わせまたはキットまたは初期化培地を使用して消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化することである。
【0028】
本発明により提供される消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化するための初期化法は、次の工程を含む: 1)創始細胞として単離初代消化管由来上皮細胞を使用して、前記消化管由来上皮細胞を増殖させ、培養する工程; 2)栄養膜細胞をマイトマイシン-Cで処理し、洗浄し、後で使用するために酵素で細胞を消化する工程; 3)工程2)で調製した栄養膜細胞を、工程1)で増殖させ、培養した消化管由来上皮細胞に添加し、一晩同時培養を継続する工程; 4)第2日に初期化培地に交換し、2~3日ごとに培地を交換し、7~15日間培養して、誘導性内胚葉幹細胞/前駆細胞(hiEndoPC)のクローンを得る工程。
【0029】
上記の方法において、工程1)における創始細胞は、胃上皮細胞および十二指腸上皮細胞を含む消化管由来上皮細胞である。胃上皮細胞は、臨床的な収集が容易であるという観点からより容易に得られ、したがって創始細胞は好ましくは胃上皮細胞(hGEC)および特に好ましくはNCAM(神経細胞接着分子)陽性胃上皮細胞(hGEC)である。工程1)において、NCAM陽性胃上皮細胞は好ましくは創始細胞として使用され、5%CO2インキュベーター中で5日間、37℃にてKubota培地中で培養される。
【0030】
工程2)における栄養膜細胞は、胃上皮下筋線維芽細胞または腸上皮下筋線維芽細胞を含む消化管由来間質細胞、好ましくはヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)である。工程2)において、ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)を好ましくはマイトマイシン-Cで2~3時間処理し、次いで細胞をPBSで洗浄し、次いで細胞をTrypLE酵素で消化する。
【0031】
工程3)において、工程2)で調製した栄養膜細胞を好ましくは1~3x105個/cm2の密度で、工程1)で5日間にわたり培養した消化管由来上皮細胞に添加し、5%CO2インキュベーター中で一晩(12~16時間)37℃にて培養する。
【0032】
工程4)中の初期化培地は、基本培地および細胞培養のための基本的なさらなる構成成分との低分子化合物の組み合わせの混合物であり、その具体的な組成は上記のとおりである。
【0033】
具体的に、消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化するための方法は以下の工程を含む: 1)創始細胞として単離初代消化管由来上皮細胞を使用し、5%CO2インキュベーター中で5日間、37℃にて血清不含Kubota培地中で培養する工程; 2)栄養膜細胞をマイトマイシン-Cで2~3時間処理し、細胞をPBSで洗浄し、細胞をTrypLE酵素で消化する工程; 3)1~3x105個/cm2の密度で、工程2)で調製した栄養膜細胞を工程1)で4~5日間培養した始原上皮細胞に添加し、5%CO2インキュベーター中で一晩(12~16時間)37℃にて同時培養する工程; 4)第2日に初期化培地に交換し、2~3日ごとに培地を交換し、7~15日間培養して、ヒト誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)のクローンを得る工程。
【0034】
上記の初期化法により得た内胚葉幹細胞/前駆細胞(hiEndoPC)も本発明に組み込まれる。
【0035】
本発明は、以下の工程を含む、内胚葉幹細胞/前駆細胞(hiEndoPC)の継代のための方法も提供する: 1)継代前の準備:ウェルプレート中でマイトマイシン-C(10μg/mL)で処理した成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)を播種するか、または約3時間前にウェルプレートにおいてフィブロネクチン(FN)、Cell-TAK(CT、細胞組織接着)グルーをコーティングし、室温で乾燥させる工程; 2)継代用の培地の調製:Advanced DMEM/DF12+AWF(A83-01 0.5μM+Wnt3a 50ng/mL+bFGF 10ng/mL)またはAdvanced DMEM/DF12+A(A83-01、0.5μM); 3)内胚葉幹細胞/前駆細胞(hiEndoPC)のクローンを手作業で拾い、それらを約1:3~の比率で小片に分割し、それらを、5%CO2インキュベーター中、37℃のFN+AWF、CT+AWFまたは栄養膜[栄養膜細胞、マイトマイシン-C(10μg/mL)で処理した成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)]+A培地中に入れ、継代した内胚葉幹細胞/前駆細胞を得るために継代培養する工程。
【0036】
肝臓細胞、膵臓β細胞および腸細胞への分化誘導のための、内胚葉幹細胞/前駆細胞(hiEndoPC)または上記で得られた継代内胚葉幹細胞/前駆細胞の適用も本発明に組み込まれる。
【発明の効果】
【0037】
本発明は、消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化するための低分子化合物の組み合わせ、初期化キット、初期化培地および消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞へと初期化するための方法を提供する。本発明において、ヒト胃上皮細胞(hGEC)を創始細胞として使用し、ヒト胃組織の筋肉層を単離し、栄養膜細胞として成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)を得るために培養し、栄養膜細胞の支持とともに、低分子化合物の組み合わせを用いてヒト胃上皮細胞系列を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化し、これをさらに継代培養し、増殖させ得る。成熟肝臓細胞、膵臓β細胞および腸細胞を得るために対応する誘導分化系と組み合わせて、本発明またはその継代細胞により得られる内胚葉幹細胞/前駆細胞を使用し得、肝臓疾患、糖尿病および腸疾患に対する細胞療法に対する理想的なシードの供給源を提供すると予想され、これは幅広い応用展望を有する。
【0038】
本明細書中で以後、具体的な実施形態と組み合わせて詳細に本発明をさらに記載する。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【
図1】
図1は、創始細胞、最初の低分子および栄養膜細胞を決定した後の本発明の技術的ロードマップである。
【
図2】
図2は、位相差顕微鏡(スケール:100μm)下での、4~5日間培養した胃上皮細胞(hGEC)および十二指腸上皮細胞(hDEC)の形態学的マップである。
【
図3】
図3は、位相差顕微鏡(スケール:100μm)下での、継代培養した胃筋肉線維芽細胞の形態学的マップである。
【
図4】
図4は、胃上皮細胞における胃特異的および内胚葉前駆細胞特異的なタンパク質の発現を示す。
【
図5】
図5は、内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)へと初期化されたヒト胃上皮細胞(hGEC)の動的過程の細胞形態学的マップである(スケール:100μm)。
【
図6】
図6は、ヒト十二指腸上皮細胞(hDEC)およびそれら由来の内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)の形態学的マップを示す(スケール:100μm)。
【
図7】
図7は、それぞれ、初期化過程の、創始細胞、ヒト胃上皮細胞(hGEC)(A)および胃腸筋線維芽細胞(GSEMF)(B)の細胞形態学的マップである(スケール:100μm)。
【
図8】
図8は、第7日(A)および第15日(B)の異なるクローンを示すクローンの形態のパノラマスキャンであり(点線で輪郭を描く)、C、D、E、Fは、代表的なクローンの特異的形態である。
【
図9】
図9は、クローン化面積の計算における異なるサイズのクローンのグリッドの模式図である(スケール:250μm)。
【
図10】
図10は、様々な栄養膜細胞、細胞外マトリクスまたは馴化培地を用いた、低分子化合物(8M)のクローン形成の効率の棒グラフである(異なる支持条件下での初期化効率)。
【
図11】
図11は、MSC、MEFおよびaGSEMF-CMにより支持される細胞形態学的マップを示す(スケール:100μm)。
【
図12】
図12は、8個の低分子化合物(8M)から1つずつ差し引いたクローン形成効率の棒グラフである。
【
図13】
図13は、Bix01294(Bix)、Bay K 8644(Bay)、RG108(RG)およびSB431542(SB)の4個の低分子化合物から1つずつ差し引いたクローン形成効率の棒グラフである。
【
図14】
図14は、Bix01294(Bix)、Bay K 8644(Bay)、RG108(RG)およびSB431542(SB)の4個の低分子から1つずつ差し引いたクローン形態学的マップである(スケール:100μm)。
【
図15A】
図15Aは、SB431542に基づき、他の3個の低分子化合物と組み合わせたクローン形成効率の棒グラフである。
【
図15B】
図15Bは、A83-01に基づき、他の3個の低分子化合物と組み合わせたクローン形成効率の棒グラフである。
【
図16】
図16は、SB431542に基づき、他の3個の低分子化合物と組み合わせたクローン形態学的マップである。
【
図17】
図17は、低分子化合物最適化過程のフローチャートである。
【
図18】
図18は、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)による蛍光in situ創始細胞の予備的マッピング染色である(A:雄由来hGECの初期化後のFISH染色;B:雌由来hGECの初期化後のFISH染色)。
【
図19】
図19は、胃前庭部組織におけるCD56(NCAM)の免疫蛍光染色である(スケール:50μm)。
【
図20】
図20は、創始細胞-ヒト胃上皮細胞(hGEC)のNCAMフローソーティングおよび対応するサブ集団の初期化を示す模式図である(線は異なるクローンの輪郭を縁取る)。
【
図21】
図21は、誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)における内胚葉前駆細胞特異的なタンパク質のフローレベル検出マップである。
【
図22】
図22は、誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)における胃特異的および内胚葉前駆細胞特異的なタンパク質発現の発現を示す染色の図表である。
【
図23】
図23は、誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)における内胚葉前駆細胞マーカー遺伝子発現分析の結果(A)および胃特異的な遺伝子の発現分析の結果(B)を示す棒グラフである。
【
図24】
図24は、DNAメチル化マイクロアレイによる初期化前後の全ゲノムDNAにおけるエピジェネティックな変化を示す(A:hGECおよびhiEndoPCのクラスター分析;B:hGEC低メチル化遺伝子と比較したhiEndoPCのGO分析)。
【
図25A】
図25Aは、hGECと比較してプロモーターメチル化レベルがhiEndoPCにおいて変化する遺伝子の数を示すボルカノプロットである。
【
図25B】
図25Bは、FOXA2およびGATA4遺伝子のプロモーター領域におけるhiEndoPCおよびhGECのメチル化レベルの比較である。
【
図26】
図26は、hiEdoPとESC由来DE、PGTおよびPFGとの間の関係を示すRNAディープシーケンシングの相関分析である。
【
図27】
図27は、遺伝子発現プロファイル全体における、hGEC、hDEC、hGEC由来のhiEndoPC、hDEC由来のhiEndoPC、DEおよび、ESC由来のGSEMFの位置関係を示すPCA分析プロットである。
【
図28】
図28は、hGECおよびhiEndoPCの顕微鏡的形態学的マップである(スケール:2μm(A~D)、100nm(E))。
【
図29】
図29は、初期化中のhiEndoPCの動態を示す。Aは、hiEndoPCの初期化過程中の時間の軸線マップであり、Bは様々な時間の増殖速度曲線であり、Cは、第II相および第III相の細胞形態のダイナミクス変化マップである。
【
図30】
図30は、様々な支持環境下での継代後のhiEndoPCの細胞形態学的マップである(スケール:100μm)。
【
図31】
図31は、継代中のhiEndoPCの細胞形態学的マップである(スケール:200μm)。
【
図32】
図32は、hiEndoPCの継代数および1世代あたりの細胞数のヒストグラムである。
【
図33】
図33は、膵臓へのhiEndoPCの分化の結果を示し、Aは、hiEndoPC-Panの三次元形態学的マップであり;Bは、histioPC-Pan DTZ染色マップであり;CおよびDは、hiEndoPC-Pan膵臓特異的タンパク質発現マップであり(スケール:50μm);Eは、hiEndoPC-Panの膵臓特異的遺伝子発現マップであり;Fは、hiEndoPC-Panのインスリン放出反応マップである。
【
図34】
図34は、腸へのhiEndoPCsの分化の結果を示し、AはhiEndoPC-Intsの形態学的マップであり;Bは、hiEndoPC-Intの腸特異的な遺伝子発現マップであり;Cは、hiEndoPC-Intの腸特異的なタンパク質染色マップである(スケール:50μm)。
【
図35】
図35は、肝臓へのhiEndoPCの分化誘導の結果を示し、Aは、hiEndoPC-Hepの肝臓特異的遺伝子発現マップであり;Bは、hiEndoPC-HepのAFPおよびCK18染色マップであり(スケール:50μm);Cは、hiEndoPC-HepのALBおよびAFPフローレベル検出マップである。
【
図36】
図36は、甲状腺(A)および肺(B)へのhiEndoPC分化誘導の遺伝子発現レベルを示す棒グラフである。
【発明を実施するための形態】
【0040】
創始細胞、最初の低分子および栄養膜細胞を決定した後、本発明の技術経路(1で示す)は:創始細胞としてヒト胃上皮細胞(hGEC)を得て、胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)を栄養膜細胞としてヒト胃組織の筋肉層から単離し、適切な低分子の組み合わせをスクリーニングし、aGSEMFの支持を用いてhGECを内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化することである。
【0041】
最初に、ヒト胃上皮細胞(hGEC)を単離し、系列初期化のための創始細胞として培養し、8個の低分子の組み合わせを予備的スクリーニングによって決定した:SB431542+VPA+PD0325901+RG108+Bix01294+Bay K 8644+PS48+FBP。栄養膜細胞としてのaGSEMFの条件下で低分子によって誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)様クローンへとhGECを初期化し得た。内胚葉前駆細胞様クローンを発生させる能力に基づき、低分子化合物および栄養膜細胞を含む初期化系を最適化し、最終的に、Bix01294+Bay K 8644+RG108+SB431542(BBRS)の組み合わせを最適の低分子化合物の組み合わせとして決定した。そして、成功した初期化を保証した必要な低分子化合物はSB431542であった。栄養膜細胞としてのヒト胃上皮下筋線維芽細胞(GSEMF)は最も入手し易く、したがって最適な初期化系はBBRS+GSEMFの組み合わせであった。そしてこの条件下での初期化効率は4%~6%であった。さらに、本発明は、誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)がNCAM-陽性hGEC由来であったことも確認し、創始細胞の的確な局在が達成された。
【0042】
第2に、遺伝子エクスプレション(expresion)、タンパク質エクスプレション(expresion)、エピジェネティックレベル、ゲノムワイド発現レベルおよび細胞微細形態学、細胞増殖および内胚葉分化能の展望から見たhiEndoPCの内胚葉特異的マーカーを包括的に分析した。一般的な内胚葉前駆細胞特異的な転写因子FOXA2、SOX9、HNF1B、PDX1、GATA4、他の幹細胞/前駆細胞特異的なタンパク質CXCR4、EPCAM、LGR5、CK19および胃上皮特異的なマーカーMMC6、GASTRINのhiEndoPCにおける発現を最初に検出した。hGECと比較した場合、内胚葉マーカー遺伝子がhiEndoPCにおいて顕著に上方制御され、一方で胃特異的な遺伝子が発現されなかったことが分かり、これにより、内胚葉前駆細胞へのhGECの初期化の成功が確認された。エピジェネティック分析からも初期化後の細胞における顕著な変化が示され、内胚葉前駆細胞の分子的特性を獲得していた。ディープシーケンシング分析から、hiEndoPCの的確な発生ステージがhESC由来の元の消化管(PGT)および後方前腸(PFG)の内胚葉発生段階の間に位置し、PFGにより近いことが明らかになった。さらに、hiEndoPCは、幹細胞の顕微鏡的特性の特徴を有し、4~6回継代し得た。hiEndoPCの増殖能はESCまたはiPSCと比較した場合に限定的であるにもかかわらず、限定された継代数内での細胞のゲノムは比較的安定で、より安全で、将来的に細胞療法により貢献する。理論的に、初期化および4~6倍の増幅を介して106個の創始細胞から109個の細胞を得ることができたが、これは1人分の細胞療法に十分である。発生中、インビボでの内胚葉前駆細胞は膵臓、肝臓、腸、肺および甲状腺への分化能を有するので、hiEndoPCを試験し、発明者らは、対応して誘導性分化状態を使用した場合、hiEndoPCが機能的な膵臓ベータ細胞、肝細胞および腸細胞を形成する能力を有することを確認した。
【0043】
以下の実施例において使用される方法は、別段の指定がない限り、従来の方法である。具体的な工程については、「MolecuLar Cloning:A Laboratory Manual」(Sambrook,J.,Russell,David W.,MolecuLar Cloning:A Laboratory Manual,3rd edition,2001,NY,Cold Spring Harbor)を参照のこと。
【0044】
パーセンテージ濃度は、別段の指定がない限り、質量/質量(W/W、g/100gの単位)パーセント濃度、質量/体積(W/V、g/100mLの単位)パーセント濃度または体積/体積(V/V、mL/100mLの単位)パーセント濃度である。
【0045】
実施例に記載の様々な生体物質の利用は、具体的な開示の目的のための実験における利用を単に提供し、本発明の生体物質の供給源における限定とみなされるべきものではない。実際に、使用される生体物質の供給源は広く利用可能であり、法的および倫理的侵害なく利用可能であるあらゆる生体物質を実施例中の説明に従い、置き換え、使用し得る。
【0046】
実施例は、本発明の技術的な解決を前提として実行され、詳細な実施形態および具体的な操作過程が与えられる。実施例は本発明を理解するための助けとなるものの、本発明における保護の範囲は以下の実施例に限定されない。
【実施例1】
【0047】
低分子化合物による内胚葉前駆細胞へのヒト胃上皮細胞の変換を誘導するための系の確立
【0048】
本発明における初期化の標的細胞は、内胚葉前駆細胞であり、肝臓、膵臓、胆道、胃、腸などは全て内胚葉由来である。同じ胚葉起源であり、エピジェネティックな類似性があり、初期化障壁がより少ないことを考慮して、発明者らは、胃細胞が適切な創始細胞型であると考えた。さらに、一部の正常な胃または十二指腸組織が医療廃棄物として必然的に捨てられる場合、大きな胃切除術または胃癌摘出などの胃腸手術から正常な胃組織を容易に得ることができた。そして、正常な胃または十二指腸組織は、胃潰瘍または十二指腸潰瘍の処置後のフォローアップ生検による胃内視鏡検査によっても入手可能であった。一般に、正常な胃組織からの創始細胞としての胃上皮細胞は実現可能なものであった。本発明において、発明者らは、胃上皮細胞および栄養膜細胞に対する培養系を確立し、次いで、栄養膜細胞としての消化管筋線維芽細胞とともに4つの主要なクラスから選択される全部で8個の低分子を使用して初期化を行った。これらの条件下で、胃上皮または十二指腸上皮細胞から内胚葉幹細胞/前駆細胞様のクローンを作製することに成功した。初期化が成功した後、低分子の最適な組み合わせおよび必須の低分子を見出すために、初期化系をさらに最適化した。最後に、創始細胞の不均一性ゆえに、発明者らは、異なるセクションに創始細胞を分離し、うまく初期化され得る創始細胞のサブセットを同定した。
【0049】
消化管(GI管)由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するための一般的なストラテジーは以下のとおりであった:
【0050】
1.創始細胞の選択において、肝臓、膵臓、GI管および他の内臓が全て内胚葉前駆細胞由来であるので、したがって、これらは同じ起源であり、他の胚葉由来の細胞と比較した場合、より密な親和性があり、よりエピジェネティックな類似性がある。さらに、それらは全て上皮細胞型に属し、したがって、MET障壁が取り除かれ得、それらの間の細胞変換は、変換過程中に比較的容易である。さらに、GI管組織の細胞は頻繁に再生され、多数の細胞が活発に増殖し、増殖細胞または前駆細胞はより容易に初期化される。内臓の様々な器官を連結するチャネルとして、胃腸手術および胃十二指腸生検後に多数のGI管組織を入手可能である。したがって、創始細胞としてのGI管由来ヒト胃上皮細胞(hGEC)は、エピジェネティックの類似性、上皮特性、増殖前駆細胞の数および臨床操作の実現可能性において、内胚葉前駆細胞に初期化するために広く使用される線維芽細胞を超える長所がある。
【0051】
2.低分子の選択において、初期化を正の方向に制御可能なよく分かっている低分子の4つの群をスクリーニングする:
【0052】
(1)シグナル伝達経路阻害剤:SB431542(SB)またはA83-01(A83)は、TGF-βシグナル伝達経路阻害剤である。SBまたはA83は、転写因子、Oct4、Klf4、c-Mycと組み合わせた場合、iPSCを作製するためのSox2に取って代わり得る。他の低分子は、MAPK ERKシグナル伝達経路阻害剤、PD0325901(PD)であり、PDおよびSB(またはA83)の組み合わせは、初期化効率を100倍超に上昇させ得、初期化時間を大きく短縮し得る;
【0053】
(2)エピジェネティック修飾因子:ヒストン脱アセチル化酵素阻害剤VPA、VPAは、Klf4、c-Mycにさえ取って代わり得、Oct4、Sox2と組み合わせた場合、iPSCの形成を促進し得る。ヒストンメチルトランスフェラーゼ阻害剤Bix01294(BIX)およびDNAメチルトランスフェラーゼ阻害剤RG108(RG)も初期化効率を顕著に改善し得る;
【0054】
(3)カルシウムチャネルアゴニスト:Bay K 8644(Bay)、BayおよびBixの組み合わせは、Sox2およびc-Myc取って代わり得る;
【0055】
(4)代謝経路制御因子:ホスホイノシチド依存性タンパク質キナーゼ1アゴニストPS48およびホスホフルクトキナーゼアゴニストFBPは、成熟細胞のエネルギー代謝のエネルギー代謝酸化的リン酸化から、幹細胞の嫌気的解糖への移行を促進し得、それにより初期化効率が改善される。
【0056】
3.栄養膜細胞の選択において、内胚葉前駆細胞の作製および維持を促進するために、内胚葉器官と密接に関連するGI管筋線維芽細胞を栄養膜細胞として選択した。これらの細胞は、内胚葉器官の発生に影響を及ぼし得、発生のより初期の段階でパラ分泌により内胚葉前駆細胞の増大を支持し得る。
【0057】
I.胃上皮細胞の単離、培養および表現型同定
材料および方法
列挙される材料および下記方法は、原実験記録由来のものである。本発明の実際的な適用において、これは、列挙される実験により限定されることなく、産業的適用に適切な市販の材料および方法を使用して実行され得る。
【0058】
(I)実験材料
(1)実験組織
外科手術または生検からの胃および十二指腸組織は、Department of general surgery of the General Hospital of the Chinese People’s Liberation Armyおよび307 Hospital of the Chinese People’s Liberation Armyにより提供された。中絶胎児組織はGeneral Hospital of the People’s Liberation Armyにより提供された。組織を提供した全患者に情報を与え、インフォームドコンセントに署名させた。組織検体の使用は、General Hospital of the People’s Liberation Armyおよび307 Hospitalの倫理委員会により承認された。
【0059】
(2)実験装置
レーザー共焦点顕微鏡(Zeiss)、サーモスタット水浴(長風)、冷却遠心機(Eppendorf)、倒立位相差顕微鏡(Leica)、手術用器具(手術用シャンク、ブレード、眼科用ストレート鉗子、湾曲鉗子、ハサミ)およびレーザーフォーカス用小皿(NEST)。
【0060】
(3)主な試薬および調製
1.Kubota培地(KM)培地の調製:1袋のRPMI 1640(Gibco)粉末を1Lの脱イオン水中で溶解させ、1xペニシリン-ストレプトマイシン、10-9M硫酸亜鉛七水和物(Sigma)、0.54gニコチンアミド(Sigma)、5mgインスリン(Sigma)、10-6Mヒドロコルチゾン(Sigma)、2gのNaHCO3(Sigma)、5x10-5M β-メルカプトエタノール(Sigma)、30nMセレン(Sigma))、遊離脂肪酸(Sigma)、10μg/mL高密度リポタンパク質(Sigma)、1gウシ血清アルブミン(Gibcoより購入)、5mgトランスフェリン(Sigma)、2mM Glutamax(Gibcoより購入)を添加した。
【0061】
2.Ca2+およびMg2+不含PBSの調製:0.24gのKH2PO4、8.0gのNaCl、0.2gのKClおよび1.44gのNa2HPO4を1Lの脱イオン水中で溶解させた。試薬は、調製した体積に応じて等しい割合で添加し得る。調製終了後、溶液を0.45μMろ過膜でろ過し、次いで使用のために、オートクレーブ処理するか、または0.22ろ過膜を通じて直接ろ過した。
【0062】
3.主な抗体
【0063】
【0064】
【0065】
4.0.075mg/mLのIV型コラゲナーゼの調製:20mgのIV型コラゲナーゼ(Sigma)および6mgのDNase Aを200mLのAdvanced RPMI 1640培地(Gibcoより購入)に添加した。
【0066】
5.他の試薬および材料:TrypLE消化酵素(Invitrogenより購入)、4%(V/V)パラホルムアルデヒド(Sigmaより購入)、DNaseA(Invitrogen)、0.2%(V/V)Triton X-100(ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、Sigmaより購入)、ウシ胎児血清(FBS、Gibco)、クエン酸ナトリウム緩衝液(Sigmaより購入)、DAPI(4’,6-ジアミジノ-2-フェニルインドール、Sigma)、免疫組織化学キット(Vector lab)。
【0067】
(2)実験方法および結果
(1)胃上皮細胞の取得
胃上皮細胞は直接購入し得;胃前庭部、幽門または十二指腸粘膜上皮細胞は、以下のように単離および培養することによっても得られ得る:
【0068】
1)調製したIV型コラゲナーゼを平衡化のために予め室温または37℃に置き、PBSを氷上に置いて予備冷却し、1000xペニシリン-ストレプトマイシンを調製し、手術器具を75%(V/V)アルコールで滅菌した。
【0069】
2)病院から胃手術後に新鮮な胃前庭部、幽門または十二指腸組織検体を入手し、それらを30分以内にアイスボックスに入れて実験室に輸送した。
【0070】
3)5xペニシリン-ストレプトマイシンを予備冷却したPBSに添加して、得られた組織検体を4~5回洗浄し、残留血液を完全に洗い流した。
【0071】
4)洗浄後、鈍的切開を用いて胃組織の粘膜層および筋肉層を分離し、粘膜層および筋肉層をまたそれぞれ5xペニシリン-ストレプトマイシンを含有する冷PBSで洗浄し、次いで異なる処理を施した。
【0072】
5)メスと組み合わせて1対のハサミを用いて粘膜層を切るかまたはすり潰し、適量のIV型コラゲナーゼ(0.075mg/mL)をそこに添加し、2~3分ごとに振盪しながら37℃水浴中で消化した。氷上で2~3分間静置しながら、8~10分ごとに単離物の沈降を行った。次に上清をスポイトにより慎重に回収し、残りを適量の酵素で継続的に消化した。
【0073】
6)著しいバルク組織なく終了するまで工程5を繰り返した。
【0074】
7)予備冷却したPBSを回収した上清に添加し、4℃、1200rpm(回転/分)で5分間遠心分離し、3~4回洗浄して、細胞中の残留消化酵素を完全に除去した。
【0075】
8)8%(V/V)ウシ胎児血清(FBS)および1xペニシリン-ストレプトマイシンを含有するKM培地とともに細胞を適切な密度で播種して一晩付着させ、翌日無血清KM培地とともに培養した。
【0076】
9)培養過程中、培地を2~3日ごとに交換し、初期化を培養の4~5日後に開始した。
【0077】
結果:粘膜層および筋肉層は、臨床的に得られた胃または十二指腸組織を分離することによって得ることができた。胃または十二指腸上皮細胞を分離するために粘膜層を使用し、栄養膜細胞-筋線維芽細胞を分離するために筋肉層を使用した。実験手順における胃または十二指腸上皮の組織分離の方法に従って、陰窩に近い細胞が一般的に得られた。無血清上皮細胞スクリーニング培地、クボタ培地、ヒト胃上皮細胞(hGEC)および十二指腸上皮細胞(hDEC)中で培養すると、培養において典型的なダンス様(dance-like)上皮形態を示した(
図2参照)。細胞数は4~5日後に最大に到達し、次いで細胞が漸進的なアポトーシスの状態に入ったことが観察された。したがって、内胚葉前駆細胞への初期化のために創始細胞として、4~5日間培養した細胞を通常は使用した。さらに、胃および十二指腸の数十の異なる部分における細胞の単離および培養に関する観察および分析から、胃前庭部、幽門または十二指腸由来の組織が細胞接着および増殖に関して最良であることが分かった。胃体部または胃底の組織および噴門部は殆ど付着していなかったかまたは培養が困難であった。十二指腸組織の起源は比較的少なかったので、別段の記載がない限り、胃前庭部または胃幽門の組織に由来する胃上皮細胞を単離し、続く実験において初期化創始細胞として使用した。
【0078】
(2)筋線維芽細胞の取得
筋線維芽細胞は直接購入し得;胃腸上皮下筋線維芽細胞は、以下の付着方法によって単離および培養することもできる:
【0079】
1)上記のようにして得られた胃または十二指腸の筋肉層を、外科用の刃を用いて小さな組織片になるように完全に潰した。小さな組織片は可能な限り小さくすべきである。15%(V/V)のウシ胎児血清(FBS)を含有する少量の高糖濃度培地またはKM培地の少量を添加して組織片を湿らせ、1mLの小さなスポイトを用いて組織片を10cmの培養皿に均一にコーティングし、インキュベーター中で37℃にて30分間逆さにして置いた。残存する間質細胞を単離し、上記のように培養した。
【0080】
2)30分間付着させた後、間質細胞増殖培地を培養皿の端に沿って添加し、細胞を5%CO2インキュベーター中、37℃で培養した。
【0081】
3)5~7日の培養後、紡錘細胞が組織片から脱出したのが観察された。2週間後、多数の細胞が脱出し、増殖した。この時点で、細胞を継代し、凍結した。このようにして、胎児胃上皮下筋線維芽細胞(fGSEMF)、成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)、胎児腸上皮下筋線維芽細胞(fISEMF)および胎児横隔膜間質細胞(fDC)を得た。凍結細胞は、後の初期化のために栄養膜細胞を提供し得る。
【0082】
結果:得られた胃または十二指腸の筋肉層を機械的に小片になるようにすり潰した。筋線維芽細胞(GSEMF)を単離し、組織接着法を用いて培養した。組織は約4~7日間接着し、紡錘細胞の組織片からの脱出が見られ、10~14日中に継代を行った。継代培養した筋線維芽細胞は、(
図3で示されるように)長い紡錘状線維芽細胞の典型的な形態を示した。
【0083】
(3)胃上皮細胞の免疫蛍光検出
以下の操作を含む、ヒト胃上皮細胞(hGEC)のチャリクティゼーション(charictization)の免疫蛍光同定を行った(一次抗体および二次抗体をそれぞれ表1および2で示した):
【0084】
1)細胞を4%(V/V)のパラホルムアルデヒドで10~15分間固定し、PBSで2回洗浄した。
【0085】
2)0.2%(V/V)のTriton X-100で10分間膜を破砕し、再度PBSで洗浄した。
【0086】
3)二次抗体属由来の血清で1時間ブロッキング処理し、再度PBSで洗浄した。
【0087】
4)対応する一次抗体と共に4℃で一晩温置し、PBSで2~3回洗浄した。
【0088】
5)対応する二次抗体と共に暗所にて室温で1時間温置し、PBSで2~3回洗浄した。
【0089】
6)暗所にて室温で15分間、DAPIとともに温置した。
【0090】
7)レーザー共焦点蛍光顕微鏡下で観察および撮像した。
【0091】
結果:
図4で示されるように、免疫蛍光染色から、ヒト胃上皮細胞(hGEC)が、CK19、FOXA2、CXCR4、SOX9、LGR5、EPCAMなどの内胚葉前駆細胞マーカーを低レベルで発現し、一方で、胃の特徴的なマーカーMUC6およびGASTを高度に発現することが分かった。
【0092】
第1部「胃上皮細胞の単離、培養および表現型同定」は、胃前庭部または幽門における胃上皮細胞および筋線維芽細胞に対する単離および培養系を確立することに成功した。インビトロで培養したヒト胃上皮細胞(hGEC)は典型的な類上皮形態を示した。陰窩における細胞は通常(成熟胃細胞型と比較して)原始的であるので、ある程度の増殖が達成され得た。ヒト胃上皮細胞(hGEC)は、胃特異的マーカーを高度に発現し、初期内胚葉前駆細胞マーカーを低レベルで発現したが、これは、発明者の以前の推測と一致した。これらは内胚葉前駆細胞においてある一定のマーカーを部分的に発現するので、内胚葉前駆細胞への初期化中の初期化障害は比較的小さく;したがって、それらは内胚葉前駆細胞への形質転換のための創始細胞の優れた供給源であった。しかし、ヒト胃上皮細胞(hGEC)の胃上皮に特徴的なマーカーは、初期化中に失われなければならなかった。創始細胞の供給源および培養の問題が解決され、その特徴も予備的に決定された。次の工程は、創始細胞としてそれらを用いて内胚葉前駆細胞に初期化することであった。
【0093】
II.低分子化合物および栄養膜細胞により誘導される、胃上皮細胞から内胚葉前駆細胞への変換
材料および方法
(I)実験材料
(1)実験用細胞
ヒト胃上皮細胞(hGEC)および成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)を調製し、工程Iで保存した。
【0094】
(2)実験装置
倒立位相差顕微鏡(Leica)、顕微鏡グリッド、冷却遠心機(Eppendorf)、12ウェルプレート。
【0095】
(3)主な試薬および調製
1.基本試薬
Advanced DMEM/F-12培地、Advanced RPMI 1640培地、NEAA(非必須アミノ酸)、TrypLE消化酵素、グルタミン(Glutamax)、ディスパーゼは全てGibco社より購入、ペニシリン-ストレプトマイシンおよびマイトマイシン-C(Sigma)。
【0096】
2.低分子化合物
【0097】
【0098】
「使用濃度」は、溶媒としてのAdvanced DMEM/F-12培地中の各化合物の濃度を意味する。
【0099】
3.8M初期化培地の調製
処方:Advanced DMEM/F12+2mMグルタミン(Glutamax)+ペニシリン-ストレプトマイシン(100U/mLペニシリン+0.1mg/mLストレプトマイシン)+SB43154(2μM)+VPA(0.5mM)+PD0325901(0.5μM))+RG108(0.04μM)+Bix01294(0.5μM)+Bay K 8644(2μM)+PS48(5μM)+FBP(3.5mM)。
【0100】
処方物中の各成分の濃度は、溶媒としてのAdvanced DMEM/F-12培地中のその濃度である。
【0101】
(2)実験方法および結果
(1)低分子化合物が介在するヒト胃上皮細胞(hGEC)または十二指腸上皮細胞(hDEC)から誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)への変換
【0102】
具体的な方法は以下の工程を含んだ:
1.創始細胞の増殖:初代単離ヒト胃上皮細胞(hGEC)または十二指腸上皮細胞(hDEC)を創始細胞として使用し、Kubta培地(文献に従って調製、文献出典:Kubota,H.およびReid,L.M.(2000).Clonogenic hepatoblasts,common precursors for hepatocytic and biliary lineages,are lacking classical major histocompatibility complex class I antigen.Proc.Natl.Acad.Sci.USA 97,12132-12137)中で37℃にて5%CO2インキュベーター中で4~5日間培養し、創始細胞を増殖させた。
【0103】
2.栄養膜細胞の調製:栄養膜細胞としての成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF、細胞を胃組織マトリクス層の分離によって得て、培養および増殖後に大量に凍結し、必要に応じて前もって蘇生させた)をマイトマイシン-Cで2~3時間処理し(栄養膜細胞の有糸分裂を喪失させる目的で10μg/mL)、PBSで3~4回洗浄し、細胞をTrypLE酵素により消化し、次いで細胞を洗浄した;
【0104】
3.ヒト胃上皮細胞(hGEC)または十二指腸上皮細胞(hDEC)を第5~6日まで培養したとき、処理した胃上皮下筋線維芽細胞を適切な密度(一般に1~3x105個/cm2の密度)で培養しているヒト胃上皮細胞(hGEC)または十二指腸上皮細胞(hDEC)に添加し、5%CO2インキュベーター中で37℃に一晩(12~16時間)置いた;
【0105】
4.初期化培養:胃上皮下筋線維芽細胞添加後第2日に、培地を8M初期化培地に交換し、2~3日ごとに交換し、連続的な観察を行った。一般に、誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)は、1週間または2週間以上(7~15日)培養後に得られた。
【0106】
結果:
(1.1)ヒト胃上皮細胞(hGEC)から誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)への変換
ヒト胃上皮細胞(hGEC)の形態は、8個の低分子化合物(表3で示すとおりの8M)を用いた栄養膜細胞として8M初期化培地および単離培養胃腸上皮下筋線維芽細胞(GSEMF)の条件下で、絶えず明らかな変化が起こった。より大きな形態を持つダンス様(dance-like)または多数の角がある上皮の始まりから、より明確な境界を持つ小細胞クローンが第7日に出現し始めた。第15日に、
図5で示されるように、ヒト胃上皮細胞(hGEC)は、境界が明確で、小さくて締まった細胞があり、比較的均一な形態であり、大きな核細胞質を有する典型的な内胚葉幹細胞/前駆細胞様クローン(G-hiEndoPC)に初期化されていた(
図5の下の写真は上の写真のボックスの拡大部分であった)。
【0107】
(1.2)ヒト十二指腸上皮細胞(hDEC)から内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)への変換
同様に、ヒト十二指腸上皮細胞(hDEC)から開始して、8M初期化培地および栄養膜細胞としての単離培養胃腸上皮下筋線維芽細胞(GSEMF)の作用下で、典型的な内胚葉幹細胞/前駆細胞クローン(D-hiEndoPC)も15日間にわたる誘導後に形成された(
図6で示されるように、十二指腸上皮細胞(hDEC)の左の写真、および十二指腸上皮細胞の初期化によって生じた内胚葉幹細胞/前駆細胞(D-hiEndoPC)の右の写真は、G-hiEndoPCと同様の形態を有する(
図5))。十二指腸組織の供給源が限られているため、通常、ヒト胃上皮細胞(hGEC)を初期化のための創始細胞として使用した。
【0108】
(1.3)創始細胞としてのヒト胃上皮細胞(hGEC)または胃腸上皮下筋線維芽細胞(GSEMF)のみの内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)への変換
内胚葉幹細胞/前駆細胞様クローンは、低分子化合物を使用せずに形成し得なかった。しかし、ヒト胃上皮細胞(hGEC)または胃腸上皮下筋線維芽細胞(GSEMF)のみをそれぞれ創始細胞として使用し、それらは8M初期化培地中で15日間培養した後に内胚葉幹細胞/前駆細胞様クローンを形成させ得ず(
図7で示されるとおり)、このことから、低分子化合物(8M)、ヒト胃上皮細胞(hGEC)および胃腸上皮下筋線維芽細胞(GSEMF)の組み合わせが内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)の形成において不可欠な因子であったことが示された。
【0109】
(2)クローン形成効率の計算
具体的な方法は以下の工程を含んだ:
1.クローン総数の計算
【0110】
2.顕微鏡格子を用いた異なるクローンの面積の計算:各顕微鏡マイクロ格子の面積は0.0625mm2であり、クローンによって占有される格子数に0.0625mm2を乗じたものが各クローンの面積であった。
【0111】
3.初期化効率の評価は、クローン数およびクローンの面積を組み合わせることによって行われる。
【0112】
結果:前述の観察において、初期化第7日に小さな細胞クローンが出現し始め、ウェルプレートのパノラマスキャンから、このような小さなクローンが明確な境界を有し、小さなクローンの数が非常に多かったこが示され(
図8A)、これは、古典的内胚葉幹細胞/前駆細胞クローンの形態に既に近い形態であった(
図8Cおよび8D)ことが分かった。初期化第15日に生じたクローン形態は最も典型的であったので(
図8Eおよび8F)、コロニー形成効率は通常、この時点で計算した。しかし、クローンの増殖速度は第7日~第15日まではより速く、計算の時点で多くのクローンが一緒に融合して大きなクローンを形成したので(
図8B)、計算時にクローン数はより少なかったが、総面積は増加していた。初期化効果をより客観的に反映させるために、本実験では初期化効率の計算方法として、総クローン数と、異なる面積下でのクローン数およびクローン面積を組み合わせた。顕微鏡格子を用いた異なるクローンの面積の計算:各顕微鏡マイクロ格子の面積は0.0625mm
2であり、クローンによって占有される格子数に0.0625mm
2を乗じたものが各クローンの面積であった。異なるサイズのクローン化面積に対する計算方法を
図9で示し、計算結果を表4で示した。
【0113】
【0114】
第2部では、最初に選択された8個の低分子(8M)および栄養膜細胞としての成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)の条件下で、ヒト胃上皮細胞(hGEC)を内胚葉幹細胞/前駆細胞(hiEndoPC)の相に初期化することに成功した。初期化過程中に発生した最初の意義のある変化は細胞形態であったので、幹細胞/前駆細胞クローンの出現を初期化の成功のための初期判断として使用した。ヒト十二指腸上皮細胞(hDEC)も、同じ方法を用いて内胚葉幹細胞/前駆細胞(hiEndoPC)に初期化し得た。低分子化合物および栄養膜細胞は、初期化過程の間に必須の要素であった。発明者らは最初に発明者らの展望を実現したものの、発明者らは依然として、最良の初期化スキームを見出し、可能な限り初期化効率を改善し、低分子化合物の数を減少させる必要がある。さらに、重要な低分子の発見は、初期化機序の解析において非常に重要な役割がある。
【0115】
III.低分子化合物および栄養膜細胞の初期化系の最適化
材料および方法
(I)実験材料
(1)実験用細胞
工程Iで、ヒト胃上皮細胞(hGEC)、胎児胃上皮下筋線維芽細胞(fGSEMF)、成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)、胎児腸上皮下筋線維芽細胞(fISEMF)、胎児横隔膜間質細胞(fDC)を調製し;間葉系幹細胞(MSC)、マウス胚性線維芽細胞(MEF)および成体ヒト皮膚線維芽細胞(HFF)は包皮組織に由来し、発明者らの研究室で単離および培養した。
【0116】
(2)実験装置
倒立位相差顕微鏡(Leica)、顕微鏡グリッド、12ウェルプレート。
【0117】
(3)主な試薬
1.基本試薬:Advanced DMEM/F-12培地、Advanced RPMI 1640培地、NEAA(非必須アミノ酸)、グルタミン(Glutamax)はギブコより購入し;ペニシリン-ストレプトマイシン、マイトマイシン-CはSigmaより購入し;TrypLE、ディスパーゼ消化酵素はInvitrogenより購入し;マトリゲルゲルはBDより購入し;ゼラチンはSigmaより購入した。
【0118】
2.低分子化合物の組み合わせ(8M):使用したタイプおよび濃度は、第2部と同じであった(表3参照)。
【0119】
(2)実験方法および結果
(1)胎児腸上皮下筋線維芽細胞(fISEMF)または成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)のための馴化培地の調製:fISEMF細胞またはaGSEMF細胞を10μg/mLの濃度のマイトマイシンCで2~3時間処理し、PBSで3~4回洗浄し、次いでAdvanced DMEM/F-12培地を添加して培養し、培地を毎日回収し、0.22μMフィルターに通してろ過し、-80℃で保存した。
【0120】
(2)異なる栄養膜細胞により支持される、ヒト胃上皮細胞(hGEC)から内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)への初期化
【0121】
具体的な方法は以下の工程を含んだ:
1)創始細胞(hGEC)としてのヒト胃上皮細胞の処理は工程IIと同じであった。
【0122】
2)様々な栄養膜細胞の調製は、第2部と同じであった。
【0123】
3)初期化法は、第2部の方法と同じであった。
【0124】
4)低分子化合物(8M)および様々な栄養膜細胞、細胞外マトリクスまたは馴化培地の支持下でのコロニー形成効率を初期化第15日に計算し、それによって適切な栄養膜細胞を見出した。
【0125】
結果:以前の実験において、ヒト胃上皮細胞(hGEC)から内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)への変換は、8個の低分子化合物(8M)および成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)を用いて達成された。次に、より良好な栄養膜細胞を決定したか、または栄養膜細胞なしの初期化を達成した。胎児胃上皮下筋線維芽細胞(fGSEMF)、胎児腸上皮下筋線維芽細胞(fISEMF)、胎児横隔膜間質細胞(fDC)を含む様々な消化管由来間質細胞および間葉系幹細胞(MSC)などの他の一般的に使用される栄養膜細胞、マウス胚線維芽細胞(MEF)、成体ヒト皮膚線維芽細胞(HFF)などを使用し、また、マトリゲルのゲル、ゼラチンなどの様々な細胞外マトリクス、ならびに胎児腸上皮下筋線維芽細胞(fISEMF)および成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)由来の馴化培地も試験して、初期化についてそれぞれ比較した。8M初期化培地の条件下で、fISEMF、fGSEMF、aGSEMFなどの消化管間質細胞および横隔膜間質細胞は、hiEndoPCを生成させるためにhGECをうまく支持し得、胎児腸上皮下筋線維芽細胞(fISEMF)の初期化効率が最大であったことが分かった。MEF、HFF、MSC、マトリゲル、ゼラチンおよび馴化培地などの他の支持媒体は、殆どまたは全く初期化支持を有さなかった(
図10参照)。支持細胞としてのMSCまたはMEFの使用によって、少量の異型の上皮様細胞クローンが生じた。成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)由来の馴化培地(aGSEMF-CM)中で、培養時間が長くなるにつれて細胞が連続的にアポトーシスを起こした(
図11に示されるように、右上または左上の写真は小さいボックスに対する拡大図であった)。胎児組織の供給源が限られているため、臨床的にヒト胃手術における検体が最も容易に入手可能であり、十分な成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)が得られ得、aGSEMFは高い初期化効率を維持し得、したがってaGSEMFは初期化栄養膜細胞の良好なクラスであり、これは、その後の実験において栄養膜細胞として初期化される。
【0126】
(3)低分子の組み合わせの最適化-初期化に必要な低分子のスクリーニング
1)第2部でスクリーニングした栄養膜細胞を支持細胞として使用し、上記の8個の低分子化合物(8M)に対する培養条件に基づいて低分子を1個ずつ除去し、不可欠な低分子を最初にスクリーニングした。
【0127】
2)工程1)でスクリーニングした低分子化合物の組み合わせに基づいて、低分子化合物を1個ずつうまく取り除いて、(最高の初期化効率を有する)最良の低分子化合物の組み合わせおよび(クローン形成を保証する)最少の低分子化合物との組み合わせを最終的に発見した。
【0128】
(4)統計学的解析
全てのデータは3回以上の独立した実験から得ており、データは、別段の記述がない限り、平均±標準偏差として記載した。両側t検定のためのSPSSソフトウェアを使用して、2群のデータ間の統計学的解析を行った。2群間の差は、P<0.05で統計学的に有意とみなした。
【0129】
結果:工程(2)において、最も合理的な栄養膜細胞-成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)が、低分子の組み合わせの最適化のための支持細胞として同定された。8個の低分子化合物の組み合わせ(8M)に基づいて、分子を1個ずつ取り除いた。PD0325901、PS48およびFBPを取り除いた場合、クローン形成効率が上昇し、これらの低分子化合物が初期化において一定の抑制的役割を果たし、取り除かれるべきであることが示され;VPAを取り除いた場合、クローン形成効率は有意には変化せず、VPAが任意選択であり、単純化原理に基づいて取り除かれるべきであることが示されるが;Bix01294、Bay K 8644、RG108を取り除いた場合、クローン形成効率は明らかに低下し、特にSB431542を取り除いた場合、(
図12で示されるように)クローンは生成されず、これら4個の低分子が必要であることが示された。
【0130】
誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)はまた、Bix01294、Bay K 8644、RG108、SB431542の上記4個の低分子化合物の組み合わせ(略してBBRS組み合わせ)に基づいて作製され得、効率が8個の低分子化合物(8M)よりも高かった。次に、Bix01294、Bay K 8644、RG108、SB431542(BBRS組み合わせ)に基づいて最適化を行った。Bix01294(Bix)、Bay K 8644(Bay)、RG108(RG)の何れかの低分子を取り除く場合、(
図13で示されるように)クローン形成効率は有意に低下するであろうが、クローンの形態は、BBRS群の場合と顕著には異ならず、SB431542(SB)を取り除いた場合、(
図14で示されるように)クローンは形成されなかった。したがって、初期化の最良の組み合わせは、Bix01294、Bay K 8644、RG108、SB431542(BBRS)の組み合わせであることが決定され、BBRS組み合わせの条件下での初期化の効率は、(
図13で示されるように)約4%~6%であった。
【0131】
SB431542が最も重要であったので、SB431542に基づいて、他の3つの低分子(Bix01294(Bix)、Bay K 8644(Bay)、RG108(RG))の何れかと組み合わせて、SB431542が、最少の低分子の組成物とともにクローンを形成可能であったことが分かり、効率は(
図15Aで示されるように)BBRSの最適な組み合わせほど良くはなかったが、(
図16で示されるように)形態は顕著な差を示さなかった。SB431542の不可欠な役割は、初期化中の低分子化合物の作用機序において重要な役割を果たした。
【0132】
(5)初期化に必要な低分子化合物の最適化
SB431542(SB)が初期化系において初期化可能な低分子化合物の最少の組み合わせであることを確認した後、SB431542はTGF-βシグナル伝達経路の阻害剤であるので、発明者らはTGF-βシグナル伝達経路の別の阻害剤A83-01(A83)を用いることによりSBを置き換えることを試みて、低分子化合物の組み合わせの最適化実験を繰り返し、その結果から、A83(0.5μMの使用濃度)が単独または他の低分子と組み合わせる(BBRAと呼ぶ)かの何れかで初期化の同様の、またはより良好な効果を生じさせ得ることが示された。結果を
図15Bで示し、BBRはそれぞれBix01294(B)、Bay K 8644(B)、RG108(R)の他の3つの低分子を表した。
【0133】
第3部では、栄養膜細胞のスクリーニングを通じて、様々な消化管由来の上皮下筋線維芽細胞が、ヒト胃上皮細胞(hGEC)から内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)への変換を支持し得ることが決定され、特に胎児由来間質細胞はより強力な支持の役割を有し、このことから、内胚葉前駆細胞の初期化のための消化管に関連した栄養膜細胞の特有の支持的役割が示唆された。十分な細胞供給源を考慮して、成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)は栄養膜細胞であることが決定された。支持細胞としてのaGSEMFに基づいて、初期化のための最良の低分子の組み合わせ、Bix01294、Bay K 8644、RG108、SB431542(BBRS)またはBix01294、Bay K 8644、RG108、A83-01(BBRA)および必要な低分子SB431542またはA83-01(A83)を低分子についての3ラウンドの最適化によってスクリーニングした。スクリーニング過程を
図17で示した。以下の実施例3において、発明者らは、一例として、初期化の条件としてBBRS+aGSEMFを使用して、ヒト胃上皮細胞(hGEC)を内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)に初期化することについて詳細に記載した。
【0134】
IV.初期化のための創始細胞の正確な位置決め
材料および方法
(I)実験材料
(1)実験用細胞、組織
ヒト胃上皮細胞(hGEC)、成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)、成体ヒト胃前庭部組織(General Hospital of the People’s Liberation Armyにより提供)。
【0135】
(2)実験装置
フローサイトメトリー(BD)、レーザー共焦点顕微鏡(Zeiss)、倒立位相差顕微鏡(Leica)。
【0136】
(3)主な試薬
基本試薬:Advanced DMEM/F-12培地、NEAA(非必須アミノ酸)、グルタミン(Glutamax)はGibco社より購入し;ペニシリン-ストレプトマイシン、Accutase、マイトマイシン-CはSigma社より購入し;TrypLE消化酵素はInvitrogen社より購入した。
【0137】
低分子化合物:SB431542、Bix01294、RG108、Bay K 8644は全てStemgent社より購入した。
【0138】
抗体:CD56-PE(eBioscience)、ウサギ抗ヒトCD56(NCAM)(Abeam)、マウス抗ヒトIgG1 MUC5AC(Abeam);Alexa Fluor(登録商標)647ヤギ抗マウスIgG2b(γ2b)、Alexa Fluor(登録商標)568ヤギ抗マウスIgG1(γ1)は全てInvitrogen社より購入した。
【0139】
(2)実験方法および結果
(1)蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)-創始細胞の初期の位置
具体的な方法は以下の工程を含んだ:
1)初期化は、男性由来の胃上皮細胞を女性由来の栄養膜細胞に、またはその逆で接種することにより行った。
【0140】
2)初期化成功後、元のウェル中の細胞をメタノールおよび氷酢酸(3:1)の混合物で20分間固定し、会社に送付後、XおよびY染色体に対するin situハイブリダイゼーションを行った。
【0141】
3)処理した細胞を、それぞれhiEndoPCおよび栄養膜細胞における性染色体の染色について共焦点顕微鏡下で観察した。
【0142】
結果:2つのタイプの細胞、創始細胞-ヒト胃上皮細胞(hGEC)および栄養膜細胞-成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)が初期化系に含まれたので、それらのみでは誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)に初期化され得ず、初期化がBBRS初期化培地中での培養において上記の両方の組み合わせでのみ成功し得ることが確認された。hiEndoPCが実際に栄養膜細胞ではなく胃上皮細胞に由来したことをさらに確認するために、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)実験と組み合わせた性別不一致実験を行った:創始細胞としての男性由来hGECおよび栄養膜細胞としての女性由来胃腸上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)を使用して初期化を行い、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)の結果から、初期化により得られたhiEndoPCのXおよびY染色体が陽性であることが示され、これにより、それらが実際に男性起源であったことが示唆され、一方で栄養膜細胞はX染色体に対してのみ陽性であり、これによってそれが女性起源であったことが示唆された(
図18A)。創始細胞としての女性由来hGECおよび栄養膜細胞としての男性由来胃腸上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)を使用して初期化を行った場合、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)の結果から、hiEndoPCがX染色体に対してのみ陽性であったことが示され、これにより、それが女性起源であったことが示唆され、一方で栄養膜細胞中でXおよびY染色体が陽性であり、これにより、それらが男性起源であったことが示唆された(
図18B)。この実験から、hiEndoPCが栄養膜細胞ではなく胃上皮細胞に由来することが十分に実証された。
【0143】
(2)創始細胞としてのヒト胃上皮細胞(hGEC)の表面マーカーの決定-フローソーティング、接種およびCD56マーカーの初期化
具体的な方法は以下の工程を含んだ:
【0144】
1)ヒト胃上皮細胞(hGEC)をAccutase(細胞解離溶液)で単一細胞になるように消化し、これを1000rpmで5分間遠心分離し、上清を廃棄した。
【0145】
2)細胞をPBSで1回洗浄した。
【0146】
3)細胞をPBS中で再懸濁し、適量のCD56-PEを添加し、対照群については、PE(PE、蛍光標識色素)アイソタイプ対照抗体を添加した。
【0147】
4)4℃の振盪機に45分間置いた。
【0148】
5)細胞をPBSで3回洗浄した。
【0149】
6)細胞を適量のPBS中で再懸濁した。
【0150】
7)フローサイトメトリーにより分析およびスクリーニングを行い、CD56陽性細胞および陰性細胞がそれぞれ保持された(全過程中の無菌状態に注意を払う)。
【0151】
8)CD56陽性細胞および陰性細胞を予めマイトマイシンC処理した成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)に同量接種し、一晩(12~16時間)細胞を接着させた後に培地をBBRS初期化培地に交換した。
【0152】
胃前庭部組織のCD56(NCAM、神経細胞接着分子、細胞膜上で発現される表面タンパク質)について免疫蛍光染色を行い、細胞免疫蛍光染色法は第1部と同じであった。
【0153】
結果:創始細胞が栄養膜細胞ではなく胃上皮細胞由来であったことが、FISH実験によって明確に確認された。胃上皮細胞は初代細胞に属し、細胞の種類は混合されていたので、創始細胞のどのサブグループがhiEndoPCに変換されたかをさらに明らかにするために、創始細胞を細分する必要があった。最初に、hGECの表面マーカーを明らかにすることが必要であった。単離hGECは主に胃前庭部の陰窩に由来したので、NCAMは様々な内胚葉由来組織、特に原始細胞上に発現される表面マーカーであったことが報告された。したがって、胃前庭部組織のNCAM in situ染色から、NCAM(CD56)が主に深部胃組織(すなわち陰窩部分)上で異なる程度で発現されたことが明らかになり(
図19の左側部分の赤色蛍光によって示されるとおり)、表層の胃組織では殆ど発現されなかった。表層組織は主にMUC5ACを発現した(
図19の中央部において緑色蛍光で示され、
図19の右側はNCAM染色およびMUC5AC染色についての合わせた図面であった)。したがって、NCAMは、創始細胞に対するグループ分けのための信頼できるマーカーとして使用し得ると考えられた。
【0154】
選別マーカーとしてNCAMを用いて培養hGECをフロー分類し、NCAM陽性細胞およびNCAM陰性細胞の2つの群に分けた。次にそれぞれ創始細胞としてNCAM陽性細胞および陰性細胞を用いて初期化を行った。結果から、創始細胞としてのNCAM陽性細胞は初期化に成功したが、(
図20で示されるように)陰性細胞は殆ど不可能であったことが示された。
【0155】
第4部では、創始細胞が栄養膜細胞ではなく胃上皮細胞由来であったことが、性別不一致実験によって確認された。創始細胞をサブクラス分類することによって、NCAM陰性ではなくNCAM陽性の胃上皮細胞が初期化中に細胞型の変換を受け、それによって創始細胞の的確な局在化を達成したことがさらに確認された。
【実施例2】
【0156】
誘導性内胚葉前駆細胞の表現型同定および分化能
【0157】
内胚葉前駆細胞は、肝臓、膵臓、腸、胃、肺、甲状腺および他の内臓の起源であると考えられ、増殖能を有し、したがって、機能的肝細胞、膵臓細胞、腸細胞、肺および甲状腺細胞を得るための理想的なシード細胞であった。以前の研究は、胚性幹細胞(ESC)または誘導多能性幹細胞(iPSC)から内胚葉前駆細胞を得ることが報告されており、これにより、この例における初期化された内胚葉前駆細胞の同定のための優れた基礎が構築される。実施例1において、発明者らは、BBRSおよび成体胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)の組み合わせを使用して、ヒト胃上皮細胞(hGEC)から内胚葉幹細胞/前駆細胞様クローン(hiEndoPC)を生成させるのに成功した。しかし、これは単なる予備的な形態変化であり、内胚葉前駆細胞の特性をさらに確認する必要がある。したがって、PCR、hiEndoPCの特徴的なマーカーを同定するために使用される免疫タンパク質染色および遺伝子チップによって検出される全ゲノム発現、メチル化チップによるエピジェネティック分析、その増殖能および電子顕微鏡によって観察される微細構造を全て行った。さらに、肝臓、膵臓、腸、肺および甲状腺への分化に対するhiEndoPCの可能性を試験して、hiEndoPCが実際に内胚葉前駆細胞であったことを確認し、hiEndoPC細胞の特有の特性を同定した。
【0158】
I.誘導性内胚葉前駆細胞におけるマーカー遺伝子の発現
材料および方法
(I)実験材料
(1)実験用細胞
成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)、ヒト胃上皮細胞(hGEC)、誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)およびH9ヒト胚性幹細胞(ESC)は、Wicell社より購入した。
【0159】
(2)実験装置
リアルタイム蛍光定量PCR装置(Bio-Rad)、通常のPCR装置(Eppendorf)、倒立位相差顕微鏡(Leica)、リアルタイム定量96ウェルプレートおよびブロッキング膜(Bio-Rad)、12ウェルプレート、レーザー共焦点蛍光顕微鏡(Zeiss)、細胞免疫コンフォーカス用の小皿(NEST)。
【0160】
(3)主な試薬
抗体は実施例1の第1部と同じであり、免疫組織化学キット(Vector Lab)、RAおよびLDN193189はSigma社より購入し;A83-01はStemgent社より購入し;b-FGF、Wnt3a、アクチビンA、FGF10は、R&D社より購入した。
【0161】
(4)プライマー配列
【0162】
【0163】
(2)実験方法および結果
(1)誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)における特徴的タンパク質の発現の分析
タンパク質免疫蛍光染色法は実施例1と同じであった。
【0164】
(2)誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)における特異的遺伝子の発現の分析
初期化されたクローンのRNAを抽出し、逆転写し、リアルタイム蛍光定量的PCRを行い、具体的な方法は以下の工程を含んだ:
【0165】
1)初期化によって作製された細胞クローンを、栄養膜細胞の組み込みを回避するようにして手作業で拾い、次いでRNA抽出キット(QIAGENより購入)を用いて、説明書に従って、拾った細胞に適切な溶解緩衝液RLTを添加し、細胞を完全に溶解させた。そして、以下の工程に従ってRNAを抽出し続けた:
【0166】
2)等体積の70%(V/V)エタノールを溶解液に添加し、ピペッティングにより混合した。
【0167】
3)沈殿物を含む混合溶液をスピンカラム(スピンカラム、QIAGENより購入)に添加し、2mLの回収チューブに入れ、12000rpmで30秒間遠心分離し、ろ液を廃棄した。
【0168】
4)700μLの緩衝液RW1(QIAGENより購入したRNA抽出キットにより提供)をスピンカラムに添加し、12000rpmで30秒間遠心分離し、ろ液を廃棄した。
【0169】
5)500μLの緩衝液RPE(QIAGENより購入したRNA抽出キットにより提供)をスピンカラムに添加し、12000rpmで30秒間遠心分離し、ろ液を廃棄した。
【0170】
6)500μLの緩衝液RPEをスピンカラムに添加し、12000rpmで2分間遠心分離し、ろ液を廃棄し、次いでスピンカラムを1分間、空にした。
【0171】
7)スピンカラムを新しい1.5mLの回収チューブに移し、30μLのRNeasy不含水(リボヌクレアーゼ不含水)をスピンカラムの膜の中央に添加し、スピンカラムを12000rpmで1分間遠心分離し、スピンカラムを廃棄し、抽出したRNA溶液を回収チューブ中で得た。
【0172】
8)分光光度計を用いて、溶出RNA試料の濃度を決定した。
【0173】
9)対応する体積のRNAを1gのRNAの総量に従って採取し、RNA不含水(リボヌクレアーゼ不含水)を16μLまで添加し、65℃で5分間加熱し、次いで遠心チューブを素早く氷に移し、チューブを氷上で遠心し、氷浴を2分間行った。
【0174】
10)氷浴終了後、RNA逆転写キット中の5xRT逆転写試薬4μLを添加し、通常のPCR装置を37℃で15分、50℃で5分、98℃で5分、終了のために4℃の逆転写プログラムで使用した。
【0175】
11)検出用プライマーを予め96ウェルプレートに添加し、必要に応じて、逆転写により得られたcDNA、3回蒸留水、SYBRを吸収させた。系を調製した後(具体的に:合計9μLのcDNAおよび水、10μLのSYBR、1μLのプライマー)、プレート中のウェルをブロッキング処理し、プレートをリアルタイム蛍光定量的PCR装置に入れた。手順:95℃で3分、95℃で10秒、60℃で35秒、65℃で5秒、95℃で5秒、合計45サイクル。
【0176】
(3)特有の型を有する内胚葉(figurate endoderm)(DE)への胚性幹細胞(ESC)の誘導および分化の指示
良好な増殖状態にあるヒト胚性幹細胞H9を、予めマトリゲルのゲルでコーティングしたウェルプレートに適切な密度で播種し、翌日、培地をDE誘導培地:Advanced RPMI 1640+1%(W/V)B27(無血清神経細胞添加物)+アクチビンA(100ng/mL)+CHIR99021(3μM、Stemgentより購入)に交換し、1日培養し、第2日および第3日に、培地をAdvanced RPMI 1640+1%B27+アクチビンA(100ng/mL)に交換した。
【0177】
(4)原腸(PGT)への胚性幹細胞(ESC)の分化誘導の指示
特有の型を有する内胚葉(figurate endoderm)(DE)への誘導後、培地をPGT誘導培地:Advanced RPMI 1640+2%(V/V)FBS+50ng/mLのFGF10(線維形成性増殖因子10)+シクロパミン(0.25μM)に交換し、3日内にPGTが得られた。
【0178】
(5)前腸後部(PFG)への胚性幹細胞(ESC)の分化誘導の指示
特有の型を有する内胚葉(figurate endoderm)(DE)への誘導後、培地をPFG誘導培地:Advanced RPMI 1640+RA(レチノイン酸、2μM)+LDN193189(0.25μM、Sigmaより購入)に交換し、PFGを3日内に得た。
【0179】
(III)統計学的解析
全てのデータは3回以上の独立した実験から得ており、データは、別段の記述がない限り、平均±標準偏差として記載した。両側t検定のためのSPSSソフトウェアを使用して、2群のデータ間の統計学的解析を行った。2群間の差は、P<0.05で統計学的に有意とみなした。
【0180】
結果:
(1)誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)における特徴的タンパク質の発現の分析
フローサイトメトリーによる初期化されたクローンにおける内胚葉特異的タンパク質の分析によって、
図21で示されるように、hiEndoPCが相同的に高度にFOXA2(フォークヘッドコーディングボックスタンパク質A2)、SOX9(性決定領域Y遺伝子9)、SOX17(性決定領域Y遺伝子17)、LGR5(反復ロイシンリッチGタンパク質共役型受容体5)、EPCAM(上皮細胞接着分子)を発現することが明らかになった(アイソタイプはアイソタイプである)。hiEndoPCの免疫蛍光染色から、
図22で示されるように、hiEndoPCがもはや胃特異的マーカーであるMUC6(粘膜タンパク質-6)およびGAST(ガストリン)を発現せず、胃の特性を喪失し、内胚葉幹細胞/前駆細胞特異的な転写因子FOXA2(赤色蛍光、96±2.6%の発現レベル)、SOX9(赤色蛍光、97±1.18%の発現レベル)および他の内胚葉幹細胞/前駆細胞関連マーカー、例えばCXCR4(緑色蛍光、98±0.56%の発現レベル)、EPCAM(赤色蛍光、97±2.7%の発現レベル)、LGR5(緑色蛍光、92±4.3%の発現レベル)、CK19(緑色蛍光、91±4.2%の発現レベルで)を発現し始めることが明らかになった。フローレベルでの検出は、免疫タンパク質染色と一致し、内胚葉前駆細胞としてのhiEndoPCの特徴がさらに確認された。
【0181】
(2)誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)における特異的遺伝子の発現の分析
転写レベルでの結果からまた、ヒト胃上皮細胞(hGEC)と比較して、FOXA2(フォークヘッドコーディングボックスタンパク質A2)、SOX9(性決定領域Y遺伝子9)、GATA4(GATA結合タンパク質4)、HNF1B(肝細胞核因子ホメオボックスタンパク質B)、PDX1(膵臓十二指腸ホメオボックス遺伝子1)、ONECUT2(1つの切除ドメインタンパク質ファミリー2(one excised domain protein family 2))、HOXA3(ホメオボックスタンパク質A3)などの内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)における内胚葉初期発生関連遺伝子の発現が顕著に上方制御され、胚性幹細胞(ESC)に特有の型を有する内胚葉(figurate endoderm)(DE)、原腸(PGT)および前腸後部(PFG)由来の内胚葉の初期発生段階における初期内胚葉遺伝子の発現とさえも同等であり、特にPFGの発現パターンに最も類似していたことも示された(
図23A、
図23Aの列群は左から右に連続して、hEC、DE、PGT、PFG、hiEndoPC、P1、hiEndoPC、P4およびhGECであった)。さらに、hiEndoPCは、MUC6、PGC、GIFおよびGASTなどの胃特異的マーカーをもはや発現しなかった(
図23B、
図23Bの縦列群は、左から右に連続して、hGEC、hiEndoPCおよびヒト胃組織であった)。
【0182】
要約:創始細胞としてヒト胃上皮細胞(hGEC)を初期化することによって得られた誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)は、MUC6、GIF、PGC、GASTなどの胃に特徴的なマーカーを喪失し、内胚葉初期前駆細胞における転写因子、FOXA2、SOX9、HNF1B、GATA4、PDX1、HOXA3などのマーカー、および他の内胚葉前駆細胞におけるCXCR4、CK19、LGR5、EPCAMなどのマーカーの遺伝子を高度に発現し始めた。転写レベルおよびタンパク質発現レベルの両方が、内胚葉前駆細胞としてのhiEndoPCの特徴を示した。しかし、hiEndoPCの、分子的な特徴、発生段階における特徴および時空間的局在を完全に理解するためには、遺伝子全体に対する発現またはエピジェネティック発現に対するプロファイルを分析することが必要であった。
【0183】
II.誘導性内胚葉前駆細胞に対する発生段階のエピジェネティック分析および局在
材料および方法
(I)実験材料
(1)実験用細胞
成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)、ヒト胃上皮細胞(hGEC)、十二指腸上皮細胞(hDEC)、誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)、特有の型を有する内胚葉(figurate endoderm)(DE)、原腸(PGT)、前腸後部(PFG)。
【0184】
(2)実験装置
通常のPCR装置(Eppendorf)。
【0185】
(3)主な試薬
Illumina TotalPrepキット(Ambion)、Sentrix Chip Array(ヒトHT-12)、QIAamp DNA Micro Kit(Qiagen)、EZ DNA Methylation-Goldキット(Zymo Research)。
【0186】
(2)実験方法および結果
(1)hGEC、hiEndoPC、PGTおよびPFGに対するRNA抽出および逆転写の方法は本実施例の工程Iと同じであった。
【0187】
(2)ディープシーケンス処理および分析(Beijing Institute of Genomics,Chinese Academy of Sciencesの協力を得て完遂)
抽出したhGEC、hiEndoPC、PGTおよびPFG RNAを最初に増幅し、Illumina TotalPrepキットによって提供される手順に従って全RNAからバイオアシル化(bioacylated)cRNAを作製し、次いで、Sentrix Chip Arrayを使用してcRNAをハイブリダイゼーションさせ、イルミナ社により提供される方法に従ってハイブリダイゼーション後の処理を行った。Illumina BeadStudioソフトウェアを用いてデータを処理し、生データをGene Expression Omnibusデータベースにアップロードした(受入番号GSE69706)。
【0188】
(3)DNAメチル化処理および分析(Beijing Institute of Genomics,Chinese Academy of Sciencesの協力を得て完遂)
最初に、DNAライブラリ構築、シーケンシングおよびデータ分析を実施した。2つの異なる検体および2つの対応するhiEndoPCの単クローンからのhGECを回収し、ゲノムDNAをQIAamp DNA Micro Kitで抽出し、EZ DNA Methylation-Goldキット(Zymo Research、商品番号D5005)を用いて亜硫酸変換を行い、次いでハイスループットシーケンシングプラットフォームHiSeq 2500(Illumina)を用いてシーケンシングを実施した。生データをGene Expression Omnibusデータベースにアップロードした(受入番号GSE69706)。
【0189】
結果:
(1)誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)における全ゲノムDNAのエピジェネティック解析
工程Iにおいて、hiEndoPCの同定は、内胚葉幹細胞/前駆細胞のある種の特徴的マーカーに限定された。hiEndoPCおよびhGECが実際に2つの異なるタイプの細胞であったことを確認するために、発明者らは、全ゲノムDNAメチル化チップ検出を使用することによって、エピジェネティック修飾の観点からhiEndoPCおよびhGECを分析した。クラスター分析の結果から、hiEndoPCおよびhGECが異なるエピジェネティックパターンを有することが示され(
図24A)、これによって、細胞が初期化後に顕著に変化したことが明確に確認された。ジーンオントロジー(GO)分析から、低メチル化状態の遺伝子、すなわちhiEndoPCにおける活性状態の遺伝子の分類が、hGECと比較して、主に胚発生または幹細胞発生に関連していることが示された(
図24B)。これは、hiEndoPCの初期内胚葉特性および幹細胞/前駆細胞特性と一致した。
【0190】
(2)誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)における特徴的遺伝子のプロモーター領域のエピジェネティック修飾
メチル化分析から、hGECと比較して、hiEndoPCではプロモーター領域におけるメチル化の上方制御および下方制御のための519個および857個の遺伝子があり(
図25A)、内胚葉特異的転写因子FOXA2(フォークヘッドコーディングボックスタンパク質A2)およびGATA4(GATA結合タンパク質4)におけるプロモーター領域でのメチル化レベルがhiEndoPCにおいて有意に減少している(
図25B)ことが示され、このことから、FOXA2およびGATA4の遺伝子発現が転写的に活性化されたことが示唆されるが、これはhiEndoPCにおけるFOXA2およびGATA4遺伝子の高発現と一致した。
【0191】
(3)誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)の発生段階の局在化
複数レベルから内胚葉幹細胞/前駆細胞としてのhiEndoPCの特徴を確認した後、さらにその特性を明確にするためにhiEndoPCの発生段階を位置づけることも必要であった。天然状態でのhiEndoPCの陽性対照は得ることができなかったので、胚性幹細胞(ESC)に由来し、発生過程に従って誘導された、よく認められている特有の型を有する内胚葉(figurate endoderm)(DE)、原腸(PGT)、前腸後部(PFG)およびこのような初期内胚葉段階を陽性対照として使用して、全ゲノム発現のプロファイルを初期化によって得られたhiEndoPCと比較した。RNAディープシーケンシングから、hiEndoPCがPGTとPFGとの間にあり、PFGにより近いことが明らかになった(
図26)。さらに、PCA主成分分析から、胃上皮細胞由来のhiEndoPCおよび十二指腸上皮細胞由来のhiEndoPCが全遺伝子発現プロファイルにおいて非常に類似していることが示され(PCA主成分分析は、より少数の重要な可変要素を選択するための複数の可変要素の線形変換による多変量統計解析法を指す)、これは、それらの細胞形態が以前に見出されたものと最も類似していることと一致し、それらの創始細胞とは異なり、またESC由来の特有の型を有する内胚葉(DE)、栄養膜細胞(GSEMF)とも顕著に異なった(
図27)。
【0192】
要約:全ゲノムDNAのメチル化レベルの分析により、hGECがhiEndoPCと顕著に異なることがさらに確認された。初期化後、hiEndoPCは内胚葉幹細胞/前駆細胞の分子的特徴を得たので、hGECからhiEndoPCへの変換は実際に初期化過程であった。さらに、RNAディープシーケンシングによって、hiEndoPCが発生段階でPGTとPFGとの間にあり、PFGにより近いことが確認され、したがってhiEndoPCの時間的および空間的局在化が実現された。
【0193】
III.誘導性内胚葉前駆細胞の顕微鏡的特徴
材料および方法
(I)実験材料
(1)実験用細胞
ヒト胃上皮細胞(hGEC)、誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)。
【0194】
(2)実験装置
H7650透過型電子顕微鏡(HITACHI)、H7650電子顕微鏡、AMT XR16M CCDデジタルカメラ(デジタルカメラの電子カプラー、AMT)、AMTキャプチャエンジンソフトウェアバージョン600.259(キャプチャエンジニアリングソフトウェア(capture engineering software))、取り外し可能な96ウェルプレート(Corning)。
【0195】
(3)主な試薬
Polybed 812エポキシ樹脂は、Polysciences,Inc.,Warrington,PAより購入、レイノルドのクエン酸鉛(National Instrument Analysis and Testing Center,Academy of Military Medical Sciencesにより提供)、水性酢酸ウラニル(National Instrument Analysis and Testing Center,Academy of Military Medical Sciencesにより提供)。
【0196】
(2)実験方法および結果
具体的な方法は以下の工程を含んだ:
【0197】
1.hiEndoPCおよびhGECを取り外し可能な96ウェルプレートに播種した。
【0198】
2.細胞をPBSで洗浄し、3%グルタルアルデヒドおよび0.1Mカコジル酸ナトリウム(Sigmaより購入)の固定溶液中、pH7.4で一晩(12~16時間)固定した。
【0199】
3.細胞をカコジル酸ナトリウム緩衝液(Sigmaより購入)で3回洗浄し、次いで1%四酸化オスミウム(Sigmaより購入)および0.1カコジル酸ナトリウム緩衝液(Sigmaより購入)の混合物で1時間固定した。
【0200】
4.脱イオン水で洗浄した後、脱水し、Polybed 812エポキシ樹脂に包埋した。
【0201】
5.組織を70nmの切片に切り、4%水性酢酸ウラニル(National Instrument Analysis and Testing Center,Academy of Military Medical Sciencesにより提供)で15分間染色し、次にレイノルドのクエン酸鉛(National Instrument Analysis and Testing Center,Academy of Military Medical Sciencesにより提供)で7分間染色した。
【0202】
6.染色した切片をH7650透過型電子顕微鏡により観察した。
【0203】
7.AMT XR16M CCDおよびAMT 600.259(キャプチャエンジニアリングソフトウェア(capture engineering software))を使用することによってイメージングを行った。
【0204】
結果:
図28で示されるように(図面中、微絨毛(Mv)、アクチンマイクロフィラメントの繊維網(AM)、ミトコンドリア(Mi)、液胞(V)、小胞体(ER)、核(N)、核小体(Nu))、電子顕微鏡レベルでのhGECおよびhiEndoPCの観察から、hGECが、細胞が比較的大きいこと、細胞間密着結合、核質が比較的小さいこと、およびアクチン繊維ネットワークが多いこと(
図28A)、細胞質内容物が豊富であること、大量のミトコンドリアが含有されること、微絨毛および液胞(
図28B)を含む成熟細胞の特徴を示したことが分かった。hiEndoPCの細胞はより小さく、接合部はより狭く、核小体はより鮮明であり、核質比はより大きく(
図28C)、細胞質含有量はより少なく、含有されるミトコンドリアはより少なく、少量のミトコンドリアおよび小胞体が核膜周辺に分布し(
図28D)、細胞接合部に未成熟細胞の指状の突出した接合部があった(
図28E)。したがって、顕微鏡分析から、hiEndoPCがhGECと顕著に異なることが示され、hiEndoPCは幹細胞の顕微鏡的特徴を示し、一方でhGECは最終分化成熟細胞の特徴を示した。
【0205】
要約:電子顕微鏡のレベルでの分析によって、hiEndoPCの特徴は幹細胞/前駆細胞の特徴に属し、一方でhGECが成熟細胞の特徴を有することがさらに確認された。hGECからhiEndoPCへの変換は、成熟細胞から幹細胞/前駆細胞への変換であった。
【0206】
4.誘導性内胚葉前駆細胞の増殖および継代増殖の特徴
材料および方法
(I)実験材料
(1)実験用細胞
成体ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)、誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)。
【0207】
(2)実験装置
倒立位相差顕微鏡(Leica)、MltraVIEW(Perspective,PerkinElmer)。
【0208】
(3)主な試薬
フィブロネクチン(FN)、Cell-TAKゲル(CT)はBDより購入し;無血清細胞凍結培地(Bio-Tool);A83-01(Stemgent);bFGF(塩基性線維芽細胞増殖因子b)、Wnt3aは全てR&Dより購入し;マイトマイシン-C(Sigma);Advanced DMEM/F12、ディスパーゼはGibcoより購入した。
【0209】
(2)実験方法および結果
(1)hiEndoPCの継代
1.継代前の準備:マイトマイシン-Cで処理したaGSEMFを予めウェルプレートに適切な密度で播種したか、または約3時間前に、ウェルプレートにおいてフィブロネクチン(FN)、Cell-TAK(CT)ゲルでコーティングして室温で乾燥させた;
【0210】
2.継代用の培地の調製:Advanced DMEM/DF12+AWF(処方:A83-01 0.5μM+Wnt3a 50ng/mL+bFGF 10ng/mL)またはAdvanced DMEM/DF12+A(A83-01、0.5μM);
【0211】
3.クローンを継代時に手作業で拾い上げ、約1:3~4の比で小片に分割し、5%CO2インキュベーター中、37℃で、FN+AWF、CT+AWFまたは栄養膜(栄養膜細胞)+A培地中に入れて、継代培養した。
【0212】
(2)hiEndoPCCの凍結および蘇生
1.凍結:手作業で拾い上げたクローンを5mg/mLのディスパーゼ酵素により37℃で5分間消化し、小片にブローした(blown)。細胞を培地で2回洗浄し、次いで細胞を適量の無血清細胞凍結培地で再懸濁し、クライオチューブに入れ、直接-80℃で保存した。
【0213】
2.蘇生:凍結細胞を42℃で急速に解凍し、10体積の培地で洗浄し、遠心分離し、次いでAdvanced DMEM/DF12+A(A83-01 0.5μM)培地中で再懸濁し、上記で調製した栄養膜細胞上に接種し、培養した。
【0214】
結果:
(1)初期化中のhiEndoPCの増殖の特徴
内胚葉前駆細胞としてのhiEndoPCの分子的特徴を確認した後、増殖の特徴を分析した。初期化中のhiEndoPCの動態を慎重に観察し、3つの相に分けた:第0~7日のいくつかの密で鋭い縁は細胞クローンの段階的な出現の特徴であり(第I相);第7~10日にクローンについて増殖がより遅くなる過程があり(第II相)、クローンが小型から大型に成長し;第10~15日はクローンについて急速に増殖する段階であり(第III相)、多くの小型のクローンが急速に凝集してより大型のクローンになり、細胞の倍加時間はこの段階で36.1±4.7時間であった(
図29参照)。
【0215】
(2)hiEndoPCに対する継代培養条件のスクリーニング
hiEndoPCは内胚葉前駆細胞であったので、継代増殖に対するある一定の可能性があることはやむを得なかった。発明者らは継代条件について繰り返しスクリーニングし、最終的に、Advanced DMEM/DF12+AWF(A83-01 0.5μM+Wnt3a 50ng/mL bFGF 10ng/mL)、すなわちFN+AWF(
図30A)またはCT+AWF(
図30B)と組み合わせて細胞外マトリクスとしてフィブロネクチン(FN)ゲルまたはBD Cell-TAK(CT)ゲルの条件下および栄養膜細胞不含の同様の条件下で継代した後、クローンがよく増殖し、元のクローンの状態で維持されたと判断した。幹細胞/前駆細胞クローンの元の形態は、Advanced DMEM/DF12+A(A83-01 0.5μM)と組み合わせた栄養膜細胞としてのaGSEMFの条件下、すなわち栄養膜細胞+Aで維持された(
図30C)。hiEndoPCも凍結し得、クローンの元の形態は、クローンの蘇生後に栄養膜細胞+Aの条件下で維持し得た(
図30D、解凍後の細胞、凍結後に蘇生)。
【0216】
(3)hiEndoPCの継代増殖の特徴
hiEndoPCは上記継代培養条件下で約4~6世代増殖させ得、細胞形態は継代中、基本的に変化しないままであった(
図31、下段の写真は上段の写真のボックスの拡大部分であった)。4世代後、細胞増殖速度は遅くなり、第6世代の細胞数がピークに達し、このことから、その増殖能が限定的であったことが示される。初期化およびおよそ4~6回の増幅後、毎回利用可能なおよそ10
6個のヒト胃上皮細胞(hGEC)で開始して、およそ10
9個の幹細胞/前駆細胞(hiEndoPC)を得た(
図32)。
【0217】
要約:hiEndoPCは、対応する継代条件を使用して4~6世代増殖させ得た。
【0218】
V.誘導性内胚葉前駆細胞の分化能の同定
材料および方法
(I)実験材料
(1)実験用細胞
ヒト胃上皮細胞(hGEC)、誘導性内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)およびH9ヒト胚性幹細胞(ESC)は、Wicell社より購入した。
【0219】
(2)実験装置
リアルタイム蛍光定量PCR装置(Bio-Rad)、通常のPCR装置(Eppendorf)、正立蛍光顕微鏡(Leica)、リアルタイム定量96ウェルプレートおよびブロッキング膜(Bio-Rad)、12ウェルプレート、レーザー共焦点蛍光顕微鏡(Zeiss)、倒立位相差顕微鏡(Leica)、細胞免疫コンフォーカス(cellular immunoconfocus)用の小皿(NEST)。
【0220】
(3)主な試薬
1.主な抗体
【0221】
【0222】
【0223】
2.主な培地、添加物およびマトリゲル:Advanced DMEM/DF12、MCDB131(低タンパク質、無血清培地131)、CMRL 1066、Advanced RPMI 1640、GlutaMax(グルタミン)、NEAA(非必須アミノ酸)、N2(無血清神経細胞添加物N2)、B27(無血清神経細胞添加物B27)は全てGibcoより購入し;ITS-X(インスリン-トランスフェリン-セレン-エタノールアミン複合溶液、Life Technologies);T3、アスコルビン酸(ビタミンC、Sigma);HM(肝細胞培養培地、Sciencell);ラミニン、フィブロネクチン(FN)、コラーゲンIVはBDより購入した。
【0224】
3.サイトカイン:b-FGF(塩基性線維芽細胞増殖因子b)、Wnt3a、アクチビンA、FGF4(線維芽細胞増殖因子4)、HGF(肝細胞増殖因子)、OSM(オストマリンM)、FGF10(線維芽細胞増殖因子10)、FGF7(線維芽細胞増殖因子7)、EGF(上皮増殖因子)、ノギン、BMP4(骨形成タンパク質4)、IGF(インスリン様増殖因子)、TSH(甲状腺刺激ホルモン)、インスリンはR&D社より購入;NaI(ヨウ化ナトリウム、Sigma)。
【0225】
4.低分子化合物:DEX(デキサメタゾン)、RA(レチノイン酸)、LDN193189、SANT-1はSigmaより購入し;TPBはEMD MilliPoreより購入し;ALK5阻害剤IIはEnzo Life Sciencesより購入し;γ-セクレターゼ阻害剤XXはEMD MilliPoreより購入し;R428はSelleckChemより購入し;Chir99021はStemgentより購入した。
【0226】
5.キット:ヒトアルブミンELISAキット(ヒトアルブミンアッセイキット、Bethylより購入)。
【0227】
6.他の試薬:1mg/mL ICG(インドシアニングリーン)溶液、ヘマトキシリン、過ヨウ素酸、Triton X-100、シッフ(ポリエチレングリコールオクチルフェニルエーテル、Sigma)、クエン酸ナトリウム緩衝液、4%パラホルムアルデヒド。
【0228】
(4)プライマー配列
【0229】
【0230】
(2)実験方法および結果
(1)免疫蛍光染色法は上記と同じであった。
【0231】
(2)Q-PCR法は上記と同じであった。
【0232】
(3)肝細胞への分化誘導
具体的な方法は以下の工程を含んだ:
【0233】
1.コラーゲンIV/マトリゲル/ラミニン/KMを1:3:1:5の比で混合し、次いで適切な体積の混合ゲル溶液でウェルプレートを均一にコーティングし、これを室温で3~5時間乾燥させた。
【0234】
2.hiEndoPCを手作業で拾い、適切な大きさの小片に分け、上記の処理済み培養プレートに播種し、8%(V/V)FBSおよび10μM Y27632を補充したヒト胃上皮細胞(hGEC)用の初期化培地を用いて一晩培養した(処方:Advanced DMEM/F12+2mMグルタミン+ペニシリン-ストレプトマイシン+SB43154(2μM)+RG108(0.04μM)+BIX01294(0.5μM)+Bay K 8644(2μM))。
【0235】
3.細胞塊が完全に接着した後、段階的方法によってhiEndoPCを分化誘導した。第1段階:KM(処方は、実施例の最初の第1部のものを参照)+25ng/mL BMP4+25ng/mL FGF4+50ng/mL Wnt3aとともに3日間培養し;第2段階:HM(市販培地、ScienCellより購入)+20ng/mL HGF+10ng/mL OSM+1μMのDexとともに10~15日間培養した。
【0236】
(4)膵島β細胞への分化誘導
具体的な方法は以下の工程を含んだ:
【0237】
1.マトリゲル/KMを1:1の比で混合し、次いで適切な体積の混合ゲル溶液でウェルプレートを均一にコーティングし、これを室温で3~5時間乾燥させた。細胞接着方法は上記と同じであった。
【0238】
2.接着した細胞を4段階で膵臓に分化させるために誘導した。
【0239】
2.1 MCDB131培地(Gibcoより購入)+1.5g/Lの重炭酸ナトリウム+2mM(濃度)2mM Glutamax(グルタミン)+10mM最終グルコース濃度(グルコース)+2% BSA(ウシ血清アルブミン)+0.25mMアスコルビン酸(ビタミンC)+50ng/mL FGF7(線維芽細胞増殖因子7)+0.25μM SANT-1+1μMレチノイン酸(RA)+100nM LDN193189+1:200 ITS-X(インスリン-トランスフェリン-セレン-エタノールアミン複合溶液)+200nM TPB、2日間培養。
【0240】
2.2 MCDB131培地+1.5g/L重炭酸ナトリウム+2mM Glutamax+10mM最終グルコース濃度+2% BSA+0.25mMアスコルビン酸+2ng/mL FGF7+0.25μM SANT-1+0.1μMレチノイン酸+200nM LDN193189+1:200 ITS-X+100nM TPB、2日間培養。
【0241】
2.3 2日後、第2段階の細胞を5mg/mLディスパーゼで37℃で5分間消化し、次いで機械的に小片にブロー(blow)し、培地を交換して低吸着ウェルプレートに移した:MCDB131培地+1.5g/L重炭酸ナトリウム+2mM Glutamax+20mM最終グルコース濃度+2%BSA+0.25μM SANT-1+0.05μMレチノイン酸+100nM LDN193189+1:200 ITS-X+1μM T3(インスリン-トランスフェリン-セレン-エタノールアミン複合体溶液)+10μM ALK5阻害剤II+10μM硫酸亜鉛+10μg/mLヘパリン、3日間培養。
【0242】
2.4 CMRL1066+2mM Glutamax+2%BSA+100nM LDN193189+1:200 ITS-X+1μM T3+10μM ALK5阻害剤II+10μM硫酸亜鉛+100nM γ-セクレターゼ阻害剤XX+2μM R428、7日間以上培養。
【0243】
(5)腸細胞への分化誘導
具体的な方法は以下の工程を含んだ:
【0244】
1.RPMI 1640培地+2mM Glutama+100U/mLペニシリン+0.1mg/mLストレプトマイシン+500ng/mL FGF4(線維芽細胞増殖因子4)+500ng/mL Wnt3a(WNTシグナル伝達経路タンパク質リガンド3A)+100ng/mL EGF(上皮増殖因子)+3μM CHIR99021(Stemgent)、3日間培養。
【0245】
2.第1段階の細胞を手作業で拾い、機械的に小片にブローし(blown)、次いで37℃で7~10分間マトリゲル(人工基底膜)に包埋した。凝固後にそこに培地を添加した:Advanced DMED/F12+2mM Glutamax+100U/mLペニシリン+0.1mg/mLストレプトマイシン+1%N2(無血清神経細胞添加物N2)+1%B27(無血清神経細胞添加物B27)+100ng/mL EGF(上皮増殖因子)+100ng/mLノギン、1週間を超える培養。
【0246】
(6)甲状腺への分化誘導
具体的な方法は以下の工程を含んだ:
【0247】
1.Advanced DMEM/F12+L-Glutamax+B27(1%)+N2(1%)+ノギン(200ng/mL)+SB431542(10μM)、3日間。
【0248】
2.Advanced DMEM/F12+L-Glutamax+B27(1%)+N2(1%)+Wnt3a(100ng/mL)+EGF(20ng/mL)+BMP4(10ng/mL)+FGF10(10ng/mL)+FGF7(10ng/mL)+TSH(1μg/mL)、3日間。
【0249】
3.Advanced DMEM/F12+L-Glutamax+B27(1%)+N2(1%)+TSH(1μg/mL)+IGF(50ng/mL)+インスリン(5mg/mL)+NaI(100μM)、4日間。
【0250】
(7)肺への分化誘導
具体的な方法は以下の工程を含んだ:
【0251】
1.Advanced DMEM/F12+L-Glutamax+B27(1%)+N2(1%)+ノギン(200ng/mL)+SB431542(10μM)、4日間。
【0252】
2.Advanced DMEM/F12+L-Glutamax+B27(1%)+N2(1%)+Wnt3a(100ng/mL)+EGF(20ng/mL)+BMP4(10ng/mL)+FGF10(10ng/mL)+FGF7(10ng/mL)、3日間。
【0253】
3.Advanced DMEM/F12+L-Glutamax+B27(1%)+N2(1%)+Wnt3a(100ng/mL)+FGF10(10ng/mL)+FGF7(10ng/mL)+デキサメタゾン(50nM)、3日間。
【0254】
(8)Cペプチド含量のELISA検出
プロトコールは、C-ペプチドELISAキットの要件に従って実施した。具体的な方法は以下の工程を含んだ:
【0255】
1.作業溶液の調製:キット中の試薬を予め説明書に従って作業溶液に希釈し、室温で20分間平衡化した。
【0256】
2.標準試料の調製:5つの標準試料のそれぞれに1mLの脱イオン水を添加し、よく混合し、少量の試料に包装し、冷蔵庫中で-20℃にて保存した。
【0257】
3.標準試料および試験しようとする細胞上清試料をそれぞれ、各ウェル25μLである、c-ペプチド抗体でコーティングした96ウェルプレートに、各試料に対して3つ組で添加した。
【0258】
4.50μLの緩衝液を各ウェルに添加した。
【0259】
5.96ウェルプレートをミクロポア付きの振盪機に置き、800rpmで1時間温置した。
【0260】
6.96ウェルプレート中の液体を廃棄し、350μLの洗浄緩衝液を各ウェルに添加し、次に洗浄溶液を捨て、ろ紙で吸い取り、4~5回繰り返した。
【0261】
7.200μLの酵素複合溶液を各ウェルに添加した。
【0262】
8.ウェルプレートをミクロポア付きの振盪機に置き、800rpmで室温にて1時間温置した。
【0263】
9.液体を廃棄し、350μLの洗浄緩衝液を各ウェルに添加し、工程6を繰り返した。
【0264】
10.200μLの基質TMB(テトラメチルベンジジン)を各ウェルに添加した。
【0265】
11.ウェルプレートを振盪機上に置き、暗所で室温にて30分間温置した。
【0266】
12.50μLの停止溶液を各ウェルに添加し、暗所で5秒間振盪機上で振盪した。
【0267】
13.30分以内にマイクロプレートリーダー上で450nmの波長でOD値を測定し、結果を計算した。
【0268】
9)ジチゾン(DTZ)染色
具体的な方法は以下の工程を含んだ:
【0269】
1.DTZ保存溶液(Sigmaより購入)を1:20の比で希釈し、次いで0.45μmのフィルター膜に通してろ過して作業溶液を調製した。
【0270】
2.染色しようとする細胞をPBSで洗浄した。
【0271】
3.調製したDTZ作業溶液を染色しようとする細胞に添加し、細胞を37℃で10分間温置し、顕微鏡下で観察および撮像した。
【0272】
(10)統計学的解析
全てのデータは3回以上の独立した実験から得ており、データは、別段の記述がない限り、平均±標準偏差として記載した。両側t検定のためのSPSSソフトウェアを使用して、2群のデータ間の統計学的解析を行った。2群間の差は、P<0.05で統計学的に有意とみなした。
【0273】
結果:内胚葉前駆細胞は最終的にインビボで膵臓、肝臓、腸、肺および甲状腺などの器官に発生した。hiEndoPCが内胚葉前駆細胞であることを確認するために、本発明はそれらが多方向に分化誘導される可能性を試験した。
【0274】
(1)内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)の膵臓への分化誘導
古典的膵臓分化誘導プロトコール[Pagliuca Felicia W,Millman Jeffrey R,Guertler M,Segel M,Van Dervort A,Ryu Jennifer Hら、Generation of Functional Human Pancreatic β Cells In Vitro.Cell.2014;159:428-39.Rezania A,Bruin JE,Arora P,Rubin A,Batushansky I,Asadi Aら、Reversal of diabetes with insuLin-producing cells derived in vitro from human pluripotent stem cells.Nat Biotechnol.2014;32:1121-33]に従い、hiEndoPCを膵臓へと分化誘導した。誘導の2週間後、hiEndoPC由来膵臓細胞(hiEndoPC-Pans)は、インビボで膵島の三次元出芽形態を示した(
図33A)。DTZ(ジチゾン)染色から、hiEndoPC-Panが赤色に見えたことが示され、このことから細胞の細胞質が膵島β細胞に特徴的な亜鉛イオンを含有していたことが示唆された(
図33B)。hiEndoPC-Panの膵臓特異的タンパク質染色は、膵臓特異的転写因子PDX1およびNKX6.1、膵島α細胞マーカーGCG、膵島β細胞マーカーC-PEPおよびPRO-INSおよび膵島δ細胞マーカーSSTの顕著な発現を示した(
図33Cおよび33D)。転写レベルの分析から、様々な膵臓の特徴的な遺伝子が誘導後に上方制御されることが明らかになったが(
図33E)、これは免疫染色の結果と一致した。hiEndoPC-Panが膵島β細胞からインスリンを合成および放出する最も重要な能力を有するか否かを確認するために、様々な刺激条件下でhiEndoPC-PanのC-ペプチド放出能を調べた。高グルコースで刺激した場合、C-ペプチドの放出は低糖群と比較して顕著に増加した。他のインスリン分泌促進剤KCLおよびトルブタミドを使用した場合、Cペプチドの放出がまた顕著に増加した。さらに、刺激に対するhiEndoPC-Panのインスリン放出反応は、ESC由来の膵島細胞と同等であった(
図33F)。hiEndoPC-Panの糖刺激反応性は、将来の糖尿病性高血糖症の処置にとって意義のある重要な臨床応用性があった。
【0275】
(2)hiEndoPCの腸細胞への分化誘導
古典的な腸細胞誘導プロトコール[Spence JR,Mayhew CN,Rankin SA,Kuar MF,Vallance JE,Tolle Kら、Directed differentiation of human pluripotent stem cells into intestinal tissue in vitro.Nature.2010;470:105-9.Watson CL,Mahe MM,Munera J,Howell JC,Sundaram N,Poling HMら、An in vivo model of human small intestine using pluripotent stem cells.Nature Medicine.2014;20:1310-4]に従い、hiEndoPCの腸管への分化を検出した。誘導の2週間後、hiEndoPC由来腸オルガノイド(hiEndoPC-Int)は、インビトロで初代腸培養の形態学的特徴を呈することが分かった(
図34A)。hiEndoPC-Intにおける腸特異的転写因子CDX2、小腸細胞マーカーVIL1、杯細胞マーカーMUC2、小腸内分泌細胞マーカーCHGAおよび小腸パネート細胞マーカーLYSOの発現は、誘導後に顕著に上方制御された(
図34B)。さらに、タンパク質レベルで、腸の特徴的なマーカーであるVIL1、MUC2、CDX2、LGR5およびECADも顕著に発現され(
図34C)、これによりhiEndoPC-Intが当初腸の特徴を有していたことが確認された。
【0276】
(3)hiEndoPCの肝細胞への分化誘導
古典的な肝臓誘導プロトコール[Gouon-Evans V,Boussemart L,Gadμe P,Nierhoff D,Koehler CI,Kubo Aら、BMP-4 is required for hepatic specification of mouse embryonic stem cell-derived definitive endoderm.Nat Biotechnol.2006;24:1402-11]を使用して、hiEndoPCを肝細胞に分化するように誘導し、hiEndoPC由来の肝細胞(hiEndoPC-Hep)は、HNF4A、CEBPA、CEBPB、TF、AATGGT、G6PC、CYP1A1、CYP3A4、CYP3A7、MGT1A1、MGT1A3などを含む初代肝細胞の特徴を有する複数の機能的遺伝子を発現し始めることが分かった(
図35A)。同時に、AFP(アルファ-フェトプロテイン)およびCK18(サイトケラチン18)の染色は、hiEndoPC-Hepにおいて陽性であり(
図35B);フローレベルでのALB(アルブミン)陽性細胞の割合は90%以上と高く(
図35C)、これにより、hiEndoPC-Hepが最初に肝細胞の特徴を保持していたことが示された。
【0277】
(4)hiEndoPCの甲状腺および肺への分化誘導
hiEndoPCの甲状腺への分化誘導後[Longmire TA,Ikonomou L,Hawkins F,ChristodouLou C,Cao Y,Jean JCら、Efficient derivation of purified lung and thyroid progenitors from embryonic stem cells.Cell Stem Cell.2012;10:398-411]、hiEndoPC由来甲状腺細胞(hiEndoPC-Thyroid)における甲状腺および肺により共有される特異的転写因子NKX2.1、甲状腺特異的転写因子Pax8、サイログロブリン(Tg)および甲状腺刺激ホルモン受容体(TSHR)の発現レベルは誘導前と比較して非常に顕著に向上した(
図36A)。hiEndoPC由来肺細胞(hiEndoPC-Lung)における、肺特異的転写因子NKX2.1、肺クララ細胞マーカーCC-10、I型肺胞細胞のマーカーとしてのアクアポリンAQP5およびII型肺胞細胞のマーカーとしての界面活性タンパク質SPA、SPBおよびSPCの発現が顕著に上方制御された(
図36B)。
【0278】
hiEndoPCのエンドサイトーシス性の分化能が、膵臓、肝臓、腸、甲状腺および肺への分化促進のストラテジーによって同定された。その結果から、5方向のhiEndoPCの分化後に、関連遺伝子の発現および蛋白質発現が顕著に向上することが示された。部分的な機能も出現し、hiEndoPCが内胚葉前駆細胞であることがより明確に確認され、hiEndoPCが糖尿病、肝疾患および腸疾患などの細胞療法に理想的なシード細胞を提供し得ることが示唆された。
【実施例3】
【0279】
消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するための低分子化合物の組み合わせ
【0280】
誘導性内胚葉前駆細胞の生成に対する低分子組み合わせ4M中の個々の低分子濃度の変化の効果:上述のように、4個の低分子化合物のBBRS低分子組み合わせにおいて、SB43152(SB、2μM)、RG108(RG、0.04μM)、Bix01294(Bix、0.5μM)、Bay K 8644(Bay、2μM)の使用濃度での4個の低分子の条件下で、4~6%の効率で初期化することによって内胚葉前駆細胞(hiEndoPC)が得られ得た。この実施例において、同じ方法を用いて、SB43152(1~10μM)、RG108(0.01~1μM)、Bix01294(0.1~2μM)、Bay K 8644(1~4μM)の異なる濃度範囲での4個の低分子の条件下で、hiEndoPCの生成が確認され(表9参照)、同時に、A83-01(A83、0.4~1μM)でSBを置き換えた後、RG108(0.01~1μM)、Bix01294(0.1~2μM)、Bay K 8644(1~4μM)の異なる濃度での他の3つの低分子と組み合わせたA83-01(A83、0.4~1μM)の条件下で、hiEndoPCの生成が確認された(表10)。
【0281】
【0282】
表9および表10の組み合わせで得られた内胚葉前駆細胞の内胚葉関連遺伝子、タンパク質、エピジェネティック修飾および分化機能を実施例2の方法により調べた。この結果から、上記組み合わせにより得られた誘導性内胚葉は内胚葉前駆細胞の特徴的なマーカーFOXA2、SOX9、GATA4、HNF1B、HOXA3、PDX1、CXCR4、EPCAM、CK19およびLGR5を高度に発現し、胃細胞特徴的マーカーMUC6およびGASTを発現しないことが示された。これは、上皮性修飾の内胚葉前駆細胞の特徴を有し、肝細胞への分化後に肝細胞特異的マーカーAFP、ALB、HNF4A、CK18、CYP3A4などを発現し得;NKX6.1、PDX1、GCG、SSTおよびINSなどの膵臓特異的マーカーは、膵臓β細胞への分化後 に発現され、刺激条件下でインスリンが放出され得;CDX2、MUC2、VIL1、CHGAおよびLYSOなどの腸特異的マーカーは、腸細胞への分化誘導後に発現され;肺および甲状腺細胞への分化後、それらはそれぞれの細胞特異的マーカーを発現した。表9~表10で挙げられた濃度範囲の低分子によっても内胚葉前駆細胞が得られることが確認された。
【実施例4】
【0283】
消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するための初期化キットの調製
【0284】
本発明は、消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するための低分子化合物の組み合わせ、具体的には8個の低分子化合物(8M)、それぞれFBP(フルクトースジホスフェート)、Bay K 8644、Bix01294、SB431542またはA83-01、バルプロ酸(VPA)、RG108、PD0325901およびPS48からなる低分子化合物の組み合わせ、を含む、消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するための初期化キットを提供する。
【0285】
消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するための好ましい低分子化合物の組み合わせは、以下の4個の低分子化合物を含み、ここでBBRS組み合わせはBix01294(Bix)、Bay K 8644(Bay)、RG108(RG)およびSB431542(SB)であり、BBRA組み合わせはBix01294(Bix)、Bay K 8644(Bay)、RG108(RG)およびA83-01(A83)であった。
【0286】
本キットにおいて、各化合物を個別に包装し得るか、または各化合物を、8M組み合わせまたはBBRS組み合わせまたはBBRA組み合わせに従って混合して包装し得;化合物を別々に包装した場合、各化合物の使用濃度はキットの説明書に記載されており、濃度の具体的な値は実施例1および実施例3を参照し得た。
【0287】
本キットは、基本培地、Advanced DMEM/F12、細胞培養のための基本的なさらなる構成成分、グルタミン(Glutamax)および抗生物質SPおよびその使用のための説明書をさらに含み、ここでグルタミンは、Advanced DMEM/F12基本培地に対して2mM(1x)の濃度で使用され、抗生物質(例えばペニシリン-ストレプトマイシン)は、100U/mLペニシリン+0.1mg/mLストレプトマイシンの濃度で使用され、本成分は個別に包装されるか、または挙げられた濃度に従い混合された。
【0288】
初期化培地を形成させるために、このキットを、低分子化合物の組み合わせおよび基本培地および細胞培養用の基本的な添加成分とさらに組み合わせ得、初期化培地は以下のように処方した:Advanced DMEM/F12+2mMグルタミン(Glutamax)+ペニシリン-ストレプトマイシン(100U/mLペニシリン+0.1mg/mLストレプトマイシン)+SB43154(2μM)またはA83-01(0.5μM)+VPA(0.5mM)+PD0325901(0.5μM)+RG108(0.04μM)+Bix01294(0.5μM)+Bay K 8644(2μM)+PS48(5μM)+FBP(3.5mM)。
【0289】
好ましい初期化培地は、2mMグルタミン(Glutamax)、ペニシリン-ストレプトマイシン(100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシン)、1~10μM SB43152、0.01~1μM RG108、0.1~2μM Bix01294、1~4μM Bay K 8644を含有するAdvanced DMEM/F12;より好ましくは、2mMグルタミン(Glutamax)、ペニシリン-ストレプトマイシン(100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシン)、2μM SB43152、0.04μM RG108、0.5M Bix01294、2μM Bay K 8644を含有するAdvanced DMEM/F12として処方された。
【0290】
別の好ましい初期化培地は、2mMグルタミン(Glutamax)、ペニシリン-ストレプトマイシン(100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシン)、0.4~1μM A83-01、0.01~1μM RG108、0.1~2μM Bix01294、1~4μM Bay K 8644を含有するAdvanced DMEM/F12;より好ましくは、2mM グルタミン(Glutamax)、ペニシリン-ストレプトマイシン(100U/mLペニシリンおよび0.1mg/mLストレプトマイシン)、0.5μM A83-01、0.04μM RG108、0.5M Bix01294、2μM Bay K 8644を含有するAdvanced DMEM/F12として処方された。
【0291】
本キットは、栄養膜細胞およびその使用のための説明書をさらに含み得、この栄養膜細胞は、胃上皮下筋線維芽細胞または腸上皮下筋線維芽細胞などの消化管由来間質細胞であった。
【0292】
本キット中の細胞、化合物および試薬は全て、前の実施例で示した供給元から市販されていた。
【0293】
本キットはさらに使用説明書を含み、これには、関連試薬を用いて消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するための初期化方法を含む本キットの実際の組成および使用方法が記載されており、その内容は、実施例での記載を指した。
【産業上の利用可能性】
【0294】
本発明は、消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するための低分子化合物の組み合わせ、初期化方法および適用を提供する。ヒト胃上皮細胞(hGEC)は創始細胞として使用され、ヒト胃上皮下筋線維芽細胞(aGSEMF)は栄養膜細胞として使用され、FBP、Bay K 8644、Bix01294、SB431542またはA83-01、VPA、RG108、PD0325901およびPS48(SBまたはA83を含む)の全てまたは複数を有する化合物の組み合わせが、消化管由来上皮細胞を内胚葉幹細胞/前駆細胞に初期化するために使用され、内胚葉幹細胞/前駆細胞は、肝細胞、膵臓ベータ細胞および腸細胞への分化を誘導するために使用され得る。本発明は産業上利用可能であり得る。
【配列表】