(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】耐久性-光重合性架橋-防汚コーティング
(51)【国際特許分類】
A61L 27/34 20060101AFI20220128BHJP
A61L 27/44 20060101ALI20220128BHJP
A61L 29/08 20060101ALI20220128BHJP
A61L 29/12 20060101ALI20220128BHJP
A61L 31/10 20060101ALI20220128BHJP
A61L 31/12 20060101ALI20220128BHJP
A61L 33/06 20060101ALI20220128BHJP
A61L 27/52 20060101ALI20220128BHJP
A61L 29/14 20060101ALI20220128BHJP
A61L 31/14 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
A61L27/34
A61L27/44
A61L29/08 100
A61L29/12 100
A61L31/10
A61L31/12 100
A61L33/06 200
A61L33/06 300
A61L27/52
A61L29/14 300
A61L31/14 300
(21)【出願番号】P 2018567579
(86)(22)【出願日】2017-06-24
(86)【国際出願番号】 US2017039153
(87)【国際公開番号】W WO2017223544
(87)【国際公開日】2017-12-28
【審査請求日】2020-06-08
(32)【優先日】2016-06-24
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514191759
【氏名又は名称】ユニバーシティー オブ アイオワ リサーチ ファンデーション
(74)【代理人】
【識別番号】100140109
【氏名又は名称】小野 新次郎
(74)【代理人】
【識別番号】100118902
【氏名又は名称】山本 修
(74)【代理人】
【識別番号】100106208
【氏名又は名称】宮前 徹
(74)【代理人】
【識別番号】100120112
【氏名又は名称】中西 基晴
(74)【代理人】
【識別番号】100129458
【氏名又は名称】梶田 剛
(72)【発明者】
【氏名】チェン,エリーゼ・リン
(72)【発明者】
【氏名】ガイモン,シー・アラン
(72)【発明者】
【氏名】ハンセン,マーラン・アール
(72)【発明者】
【氏名】リー,ブレイデン
【審査官】福山 則明
(56)【参考文献】
【文献】特表2013-510179(JP,A)
【文献】国際公開第2016/067795(WO,A1)
【文献】特表2013-528114(JP,A)
【文献】特表2009-508542(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L 27/00-27/60
A61L 29/00-29/18
A61L 31/00-31/18
A61L 33/00-33/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
システムであって:
ポリジメチルシロキサン(PDMS)基材;
双性イオン性ポリマーを含む架橋コーティングであって、
当該双性イオン性ポリマーが架橋剤を含み、当該架橋コーティングは、当該
PDMS基材の少なくとも1つの表面に共有結合しており、そして生体分子、細胞、組織または細菌による付着に抵抗するように構成されている、架橋コーティング;
を含
み、
当該双性イオン性ポリマーが、水素引抜き型光開始剤で当該PDMS基材に共有結合されており、かつ追加の光開始剤で架橋されている、当該システム。
【請求項2】
当該
PDMS基材が医療用デバイスの構成素子である、請求項1に記載のシステム。
【請求項3】
当該双性イオン性ポリマーが双性イオン性モノマー単位を含む、請求項1または2に記載のシステム。
【請求項4】
当該双性イオン性モノマー単位が、ホスホリルコリン部分、スルホベタイン部分、カルボキシベタイン部分、またはその組合わせを含む、請求項3に記載のシステム。
【請求項5】
当該双性イオン性モノマー単位が、カルボキシベタイン(メタ)アクリレート、ホスホリルコリン(メタ)アクリレート、スルホベタイン(メタ)アクリレート、カルボキシベタインアクリルアミド、及びスルホベタインアクリルアミドからなる群から選択される、請求項4に記載のシステム。
【請求項6】
当該医療用デバイスが、カテーテル、脈管ステント、歯科インプラント、コンタクトレンズ、人工内耳、外科用器具、検査鏡、プローブ、脈管内カテーテル
、IV
チュービング、動脈
チュービングライン、中枢
チュービングライ
ン、鼓膜チューブ
、ロッド、能動型または受動型能の人工中耳、人工椎間板、気管内または気管切開チューブ、脳脊髄液シャント、外科用ドレーン、胸腔チューブおよびドレーン、気管支内ステント、尿ステント、胆汁ステント、涙ステント、ペースメーカー、除細動器、神経刺激装置、脊髄刺激装置、脳深部刺激装置
、埋込み女性泌尿器メッシュ、眼内レンズ、美容乳房インプラント、美容殿部インプラント、美容オトガイインプラント、美容頬インプラント、受胎調節デバイス、薬物送達デバイス、医療用装置または機器、および整形外科インプラントからなる群から選択される、請求項2に記載のシステム。
【請求項7】
当該架橋剤が、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート(PEGD(M)A)、プロピレングリコールジアクリレート、ビスフェノールA エトキシレートジアクリレート、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート(BGDMA)、1,4-ブタンジオールジアクリレート(BDDA)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)、1-カルボキシ-N-メチル-N-ジ(2-メタクリロイルオキシ-エチル)メタナミニウム分子内塩(CBMX)、(メタ)アクリルアミド、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)、およびトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)からなる群から選択される、請求項1に記載のシステム。
【請求項8】
当該架橋コーティングがヒドロゲルである、請求項1~
7のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項9】
当該架橋コーティングが、選択された重合領域を含むパターンを形成している、請求項1~
8のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項10】
当該架橋コーティングが、少なくとも約100nmの厚さを有する、請求項1~
9のいずれか1項に記載のシステム。
【請求項11】
医療用システムの
ポリジメチルシロキサン(PDMS)構成素子の少なくとも1つの表面に
架橋防汚コーティングを作成するための、下記を含む方法:
当該コーティングの接着を増進するための
水素引抜き型光開始剤で当該表面を前処理する;
双性イオン性モノマー
、架橋剤、及び追加の光開始剤を含有する
溶液を
当該医療用システムの
当該PDMS構成素子の表面に適用する;
及び
光源下で当該溶液を照射して、当該水素引抜き型光開始剤及び当該追加の光開始剤を同時に光活性化させて、架橋双性イオン性ポリマーコーティングと当該架橋双性イオン性ポリマーコーティングの当該表面への共有結合とを同時に形成する。
【請求項12】
当該双性イオン性モノマーが、ホスホリルコリン部分、スルホベタイン部分、カルボキシベタイン部分、またはその組合わせを含む、請求項
11に記載の方法。
【請求項13】
当該双性イオン性モノマーが、カルボキシベタインメタクリレート及びスルホベタインメタクリレートからなる群から選択される、請求項
12に記載の方法。
【請求項14】
当該光源が紫外(UV)線である、請求項
11~
13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
当該架橋剤が、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート(PEGD(M)A)、プロピレングリコールジアクリレート、ビスフェノールA エトキシレートジアクリレート、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート(BGDMA)、1,4-ブタンジオールジアクリレート(BDDA)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)、およびトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)からなる群から選択される、請求項
11~
14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
当該水素引抜き型光開始剤が、カンファーキノン、ベンゾフェノン、チオキサントン、6,7-ジクロロ-5,8-キノリンジオン、1,4-ナフトキノン、ナフトジオキシノン-1,3-ベンゾジオキソール、その誘導体、およびその混合物からなる群から選択される、請求項
11~15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
さらに、フォトマスクを用いて
当該医療用システムの
当該構成素子の表面の一部分を覆い、当該表面のその部分における重合反応を阻止することを含む、請求項
11~
16のいずれか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願
[0001] 本出願は、United States Provisional Application No. 62/354,527, 2016年6月24日出願に基づく優先権を主張し、それを全体として本明細書に援用する。
【0002】
政府支援による研究または開発
[0002] この研究は政府の支援で一部はNIH助成金NIDCD R01 DC012578-01およびT32DC000040による助成下に行われた。政府は本発明に一定の権利をもつ。
【0003】
発明の分野
[0003] 本発明の態様は、ポリマーおよび金属上の、たとえば医療用その他のデバイスに用いられるもの上の、防汚表面コーティングの光グラフティングおよび光重合に関するものであり、具体的にはそのようなデバイス上の耐久性-光重合性架橋-防汚表面コーティングに関する。
【背景技術】
【0004】
[0004] 生物汚損(biofouling)の現象は、表面への生体分子、微生物(たとえば、細菌)、細胞、および/または組織の吸着によって起きる。
[0005] 生物汚損は多段階プロセスである。表面または構造物が生体の表面、体液または組織に曝露されると、溶存している有機物質、たとえばタンパク質の膜の吸着が生じる。その後、微生物、細胞、または組織はより速やかに表面に付着でき、炎症、瘢痕形成、線維形成または感染をもたらす。汚損しやすい表面の細菌感染の場合、細菌のコロニーが出現し、バイオフィルムを形成する。付着した細菌細胞が増殖し始めるのに伴なって、バイオフィルムは肥厚する。そのプロセスが持続するのに伴なって、バイオフィルム被覆された表面で生物コロニーがさらに拡大し、疎水性糖タンパク質系の生体接着物質と考えられる化合物を分泌し、それによってこれらの微生物コロニーは表面に堅牢に付着してほとんどの抗微生物薬に対して抵抗性の状態になる。
【0005】
[0006] 生物汚損は多くの表面および構造物にとって重大な問題であり、表面または構造物の正常な使用および状態を妨げる結果になる可能性がある。汚損はデバイスの機能または寿命を低下させる可能性がある。たとえば、コンタクトレンズ上または髄液シャント内のタンパク質沈着はデバイスの機能または寿命を制限する可能性がある。内視鏡、プローブ、および他のデバイスの汚損は、頻繁な清浄化および滅菌を必要とする。汚損は細菌、酵母その他の微生物による感染に対する感受性も高める。たとえば、体内に設置される多くの材料、たとえば数ある中でも特に整形外科インプラント、脈管アクセスライン、尿道カテーテルは、細菌感染しやすい。これらの感染により、しばしば修正外科処置、長期間の抗生物質使用、およびそのデバイスの永久除去すら必要となる。
【0006】
[0007] さらに、埋め込まれた生体材料に応答した線維形成、炎症および瘢痕形成は、多くの医療用インプラントに対する重大な欠点となる。一例として、人工内耳(蝸牛インプラント)(cochlear implant)電極アレイに対する線維形成は電極抵抗およびチャンネル相互作用を高め、電池寿命を短縮させ、蝸牛組織に対する外傷の増大、およびインプラントの性能低下をもたらす。現在のインプラントはすべて、ある程度の瘢痕組織形成を示している。残存聴力を保存できる人工内耳電極アレイの大衆性の高まりによって、最近では部分難聴を伴なう患者にとってこれらの神経プロテーゼが選択肢となった。しかし、人工内耳埋込み後の瘢痕組織形成は残存聴力にとって有害である可能性がある。人工内耳を装着し、最初は若干の自然聴力を保持している患者において、その後の聴力損失は少なくとも一部はインプラント周囲の著しい瘢痕形成によるものである可能性がある。他の例として、動脈内ステント設置後の線維形成および瘢痕形成は再狭窄をもたらす可能性がある。
【0007】
[0008] 動脈内および静脈内に設置したステントおよびカテーテルの汚損は、血栓形成および血小板付着の増大につながる可能性がある。血液産物を血管外で処理する必要がある医療用デバイスおよびチュービング(たとえば、透析機器および心肺バイパス機器)におけるタンパク質および細胞の付着も、血栓形成、血小板付着、および血球の異常な活性化または死につながる可能性がある。
【0008】
[0009] したがって、基材の汚損、たとえば医療用デバイスまたは医療用デバイス構成素子への生体分子、細菌、細胞、または組織の付着に対処する必要がある。医療用デバイス以外に、他の物品も生物汚損を受け、その結果、機能もしくは寿命の低下、または微生物付着が生じる可能性がある。これらのデバイスには、家庭用品または工業用品、たとえば食事用具、液体容器、および貯蔵容器を含めることができる。実験器具、たとえばピペットおよびティップ、貯蔵容器、およびチューブ(たとえば、遠心および微量遠心)、ならびにプレートも含めることができる。
【0009】
[0010] 埋込み用バイオメディカルデバイス、たとえば埋込み用の電極および電気プロテーゼを体内に埋め込んで、内臓および組織に電気刺激を与えることができる。たとえば、蝸牛内電極は電極接点付近の神経組織の直接電気刺激によって聴覚を再建する。現在市販されている大部分の人工内耳電極アレイについて、挿入には電極アレイが蝸牛内の繊細な組織に損傷を与える可能性があるのに十分なほどの力が必要である。埋込み電極を挿入するのに必要な力は、電極接点のサイズ、幾何学的形状および数、内部構造、ならびにそのデバイスの作成に用いた材料を含めた、さまざまな要因に関係する。そのようなデバイスに用いられる材料には、ワイヤー、接点、機能性金属またはポリマーセグメントのための材料、およびバルク材料が含まれる。埋込み電極のサイズ、用いた材料の剛性、電極材料の外殻の疎水性、電極デバイスに蓄積されたエネルギー、およびデバイスの挿入プロセスが、電極設置に際して組織に生じる損傷の量および位置に影響を及ぼす。さらに、システムまたはそのシステムの特定の部品の取出しおよび交換も、生体組織に外傷および損傷を引き起こす可能性がある。組織損傷を最小限に抑え、なおかつ防汚性および線維形成防止性をもつためには、柔軟で耐久性のある埋込み電極材料を得ることが望ましいであろう。
【0010】
[0011] ポリエチレングリコールおよびその誘導体は防汚剤として用いられている。しかし、最近の結果は、ポリエチレングリコールネットワークは生体不活性ではあるけれども、なおある程度の汚損、線維形成および感染の可能性があることを立証している。近年、双性イオン性ポリマー(zwitterionic polymer)が防汚材料として用いられている。分子内に正電荷および負電荷をもつ双性イオン性材料は、タンパク質吸着および汚損に抵抗することが示された。作用の推定メカニズムは、分子内の正電荷と負電荷の近接が水素結合ネットワークにおける表面水分子の組織化に強い影響を及ぼして、生体分子の吸着をエネルギー的に好ましくないものにするというものである。
【0011】
[0012] 双性イオン性材料は最初は工業用として開発されたが、これらの材料が組織線維形成を低減することが最近見出された。マウスモデルにおける試験は、皮下双性イオン性バルクヒドロゲルインプラントの周囲における線維被膜(fibrotic capsule)形成の低減を示した。したがって、尿道カテーテルおよび脈管内デバイスを含めた埋込みおよび挿入用のデバイスに双性イオン性材料を使用することに大きな関心がもたれている。しかし、バルク材料として用いた双性イオン性ヒドロゲルは脆く、多くの用途に適さない。
【0012】
[0013] 双性イオンは表面コーティングとしても用いられ、それらは細菌付着およびバイオフィルム形成に抵抗することが示された。1つのアプローチは、グラフトしていない双性イオン性ヒドロゲルで基材をコーティングするものであった。これらのヒドロゲルは基材に共有結合しておらず、離層しやすい。第2のアプローチは、表面開始法(たとえば、表面開始原子移動ラジカル重合(surface initiated atom transfer radical polymerization))を用いて、基材に双性イオン性ポリマーブラシを共有結合グラフティングさせることにより基材をコーティングするものであった。これらの双性イオン性ブラシのコーティングはきわめて薄く(たとえば、100nm未満)かつ脆く、容易に裂け落ちる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
[0014] したがって、以上を考慮すると、長期使用のために耐久性である有効な生物汚損防止ポリマーコーティングを提供することに対するニーズが依然としてある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
[0015] 本発明の技術は、基材の表面に共有結合によりグラフトしている耐久性架橋型双性イオン性コーティングに関する。ある態様において、双性イオン性モノマーは光源に曝露されると基材表面で架橋剤および活性化されたラジカルと反応して、架橋した双性イオン性コーティングを形成し、同時にそれを基材に繋ぎ留める。光重合によるこのコーティング形成は、フォトマスキングを用いて精確にマイクロパターン化した双性イオン性コーティングを形成する可能性を与える。
【0015】
[0016] したがって、一態様において、基材および基材上の架橋コーティングをもつシステムが提供される。この架橋コーティングは双性イオン性ポリマーまたはポリ(エチレン)グリコールを含有することができる。架橋コーティングは、基材の少なくとも1つの表面に共有結合し、生体分子(たとえば、タンパク質、核酸、糖類、脂質)、細胞、組織、または細菌が基材表面に付着するのに抵抗するように構成することができる。
【0016】
[0017] 他の側面において、本開示は基材の少なくとも1つの表面に共有結合したコポリマーを有する基材を提供する。コポリマーは、下記の構造を有する反復単位を含むことができる。
【0017】
【0018】
[0018] R1は、双性イオン基を含むペンダント基であり;R2、R3は、それぞれ独立して水素、置換もしくは非置換アルキル、またはアルキルオキシであり;L1は、連結基であり;nおよびmは、同一でも異なってもよく、それぞれ整数であり;L2は架橋基である。
【0019】
[0019] さらなる態様において、本開示はコポリマーを開示する。このコポリマーは反復単位を含むことができる。反復単位下記の構造をもつことができる。
【0020】
【0021】
[0020] R1は、双性イオン基を含むペンダント基であり;R2、R3は、それぞれ独立して水素、置換もしくは非置換アルキル、またはアルキルオキシであり;L1は、連結基であり;nおよびmは、同一でも異なってもよく、それぞれ整数であり;L2は架橋基である。
【0022】
[0021] さらに他の態様において、本開示は、生体分子、細胞、組織または細菌の付着を防止するために基材上にコーティングを作成する方法を提供する。基材は医療用システムの構成素子であってもよい。本方法は、基材へのコーティングの接着を促進するために基材の表面をある方法(たとえば、プラズマ処理)または物質(たとえば、カップリング剤)で前処理することを含む。次いで、双性イオン性モノマーを含有する液体を基材の表面に適用する。双性イオン性モノマーは架橋剤の存在下で光源下において重合して、基材表面に共有結合した架橋型双性イオン性ポリマーコーティングを形成する。
【0023】
[0022] さらに他の態様において、本開示は、生体分子、細胞、組織または細菌の付着を防止するために基材上にコーティングを作成する方法を提供する。基材は医療用システムの構成素子であってもよい。本方法は、基材へのコーティングの共有結合を促進するために基材の表面をII型の水素引抜き型開始剤(hydrogen abstraction initiator) で前処理することを含む。次いで、双性イオン性モノマーを含有する液体を基材の表面に適用する。双性イオン性モノマーは架橋剤の存在下で光源下において重合して、双性イオン性ポリマーコーティングを形成する。
【0024】
[0023] 本発明技術のさらに他の特徴および利点は以下の詳細な記載に述べられ、一部はその記載から当業者に明らかであり、あるいは詳細な記載、特許請求の範囲、および添付した図面を含めて記載した態様を実施することによって認識される。
【0025】
[0024] 以上の全般的記載および以下の詳細な記載は共に、特許請求の範囲に記載する事項を理解するために種々の態様を記載し、概要または枠組みを提示するものと解釈すべきである。添付の図面はそれらの態様のさらなる理解を提供するために含めたものであり、本明細書に含まれ、その一部を構成する。図面は記載した態様を図示し、明細書と共に特許請求の範囲に記載する対象の原理および操作を説明する。
【図面の簡単な説明】
【0026】
[0025] 以下は添付する図面中の図の記載である。図面は必ずしも一定の比率で縮小されてはおらず、明確化または簡潔化のために図面の特定の造作および特定の図が尺度を誇張して、または模式的に示されている場合がある。
【
図1】[0026]
図1は、耐久性防汚双性イオン性コーティングをPDMS基材の表面に形成するための光化学的プロセスの一態様を表わした模式図である。
【
図2】[0027]
図2は、光化学的プロセス、たとえば
図1のプロセスによりPDMS基材の表面に形成した耐久性防汚双性イオン性コーティングの一態様を表わした模式図である。
【
図3】[0028]
図3は、フォトマスキングを用いて基材の表面にパターン形成した双性イオン性コーティングを作成するプロセスの一態様を表わした模式図である。
【
図4A】[0029]
図4Aは、カルボキシベタインメタクリレート(CBMA)、スルホベタインメタクリレート(SBMA)およびポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)の構造を表わす。
【
図4B】[0030]
図4Bは、コーティング無し(uncoated)ガラス対照表面と対比した蛍光強度により示した、双性イオン性CBMAおよびSBMAコーティングならびにポリエチレングリコールアクリレート(PEGA)コーティングを備えたガラス表面におけるタンパク質吸着のグラフである。
【
図5A】[0031]
図5Aは、コーティング無しガラス上で48時間培養した後のシュワン細胞密度を表わす。
【
図5B】[0032]
図5Bは、CBMAコーティング付き(coated)ガラス上で48時間培養した後のシュワン細胞密度を表わす。
【
図5C】[0033]
図5Cは、CBMAコーティングおよびSBMAコーティングの両方がシュワン細胞付着を有意に低減することを示す核数を表わす。
【
図5D】[0034]
図5Dは、コーティング無しガラス上の線維芽細胞を表わす。
【
図5E】[0035]
図5Eは、CBMAコーティング付きガラス上の線維芽細胞を表わす。
【
図5F】[0036]
図5Fは、CBMAおよびSBMAコーティングが線維芽細胞付着を有意に低減することを示す核密度を表わす。
【
図6A】[0037]
図6Aは、ガラス基材上に光パターン形成した双性イオン性コーティングが、コーティングされた領域においてシュワン細胞付着に対する抵抗性を示すことを表わす。
【
図6B】[0038]
図6Bは、ガラス基材上に光パターン形成した双性イオン性コーティングが、コーティング付き領域において48時間培養後に線維芽細胞付着に対する抵抗性を示していることを表わす。
【
図6C】[0039]
図6Cは、光パターン形成ガラス基材上の核密度を表わし、第1基材上のCBMAコーティングを備えた領域においてその第1基材上のコーティング無し領域と比較して統計的に有意にシュワン細胞付着が低減したこと、および第2基材上のSBMAコーティングを備えた領域においてその第2基材上のコーティング無し領域と比較して統計的に有意にシュワン細胞付着が低減したことが明らかである。
【
図6D】[0040]
図6Dは、光パターン形成ガラス基材上の線維芽細胞密度を表わし、第1基材上のCBMAコーティングを備えた領域においてその第1基材上のコーティング無し領域と比較して統計的に有意に線維芽細胞付着が低減したこと、および第2基材上のSBMAコーティングを備えた領域においてその第2基材上のコーティング無し領域と比較して統計的に有意に線維芽細胞付着が低減したことが明らかである。
【
図7A】[0041]
図7Aは、コーティング無しガラス上で培養した初代の蝸牛神経節細胞(spiral ganglion cell)を表わす。
【
図7B】[0042]
図7Bは、非パターン形成CBMAコーティングを備えたガラス上で培養した初代の蝸牛神経節細胞を表わす。
【
図7C】[0043]
図7Cは、パターン形成CBMAコーティングを備えたガラス上で培養した初代の蝸牛神経節細胞を表わす。
【
図8A】[0044]
図8Aは、総神経突起長(total neurite length)(T
L)の測定値および神経突起整列長(neurite aligned length)(A
L)(すなわち、パターン方向に整列(アライン)した神経突起の長さ)の測定値を表わす模式図である。
【
図8B】[0045]
図8Bは、パターンに対する細胞の主軸に当てはめた楕円の角度(θ)を測定することにより決定したパターン形成コーティングとのシュワン細胞アラインメントを表わす。
【
図8C】[0046]
図8Cは、プレーンなコーティング無しガラス、パターン形成SBMAコーティングを備えたガラス、およびパターン形成CBMAコーティングを備えたガラス上における、蝸牛神経節細胞のアラインメント比を示すグラフである。
【
図8D】[0047]
図8Dは、プレーンなコーティング無しガラス、パターン形成SBMAコーティングを備えたガラス、およびパターン形成CBMAコーティングを備えたガラス上における、パターンに対するシュワン細胞配向の平均角度を示すグラフである。
【
図9】[0048]
図9は、PDMS埋込み後のマウス鼓室階(scala tympani)の基底回転(basal turn)の断面図であり、22週目の有意の瘢痕組織形成を明らかに示す。
【
図10】[0049]
図10A~10Eは、20×倍率の代表的な組織切片によるコルチ器官順序グレーディングシステム(ordinal grading system)を表わす。
【
図11】[0050]
図11は、本発明の双性イオン性コーティングが、ウシ胎仔血清(FBS)と共にプレインキュベートした場合およびプレインキュベートしなかった場合に、PDMS基材上における線維芽細胞付着を低減することを表わす。
【
図12】[0051]
図12は、PDMS基材上の本発明の双性イオン性CBMAおよびSBMAコーティングが、コーティング無しPDMS基材およびメタクリル酸ヒドロキシエチル(HEMA)コーティング付きPDMS基材と比較して、湿潤表面における黄色ブドウ球菌(S. aureus)および表皮ブドウ球菌(S. epidermis)の付着を低減することを表わす。
【
図13】[0052]
図13は、PDMS基材上の本発明の双性イオン性CBMAおよびSBMAコーティングが、コーティング無しPDMS基材およびHEMAコーティング付きPDMS基材と比較して、乾燥表面における黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌の付着を低減することを表わす。
【
図14】[0053]
図14は、PDMS基材上の本発明の双性イオン性CBMAおよびSBMAコーティングが、ウシ胎仔血清(FBS)と共にプレインキュベートした場合およびプレインキュベートしなかった場合に、コーティング無しPDMS基材およびHEMAコーティング付きPDMS基材と比較して、インビトロで24時間目に黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌の付着を低減していることを表わす。
【
図15】[0054]
図15は、PDMS基材上の本発明の双性イオン性CBMAおよびSBMAコーティングが、ウシ胎仔血清(FBS)と共にプレインキュベートした場合およびプレインキュベートしなかった場合に、コーティング無しPDMS基材およびHEMAコーティング付きPDMS基材と比較して、インビトロで48時間目に黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌の付着を低減していることを表わす。
【
図16】[0055]
図16は、本発明に従った皮下および経皮用のCBMAコーティング付きPDMSインプラントについて、皮下および経皮用のコーティング無しPDMSインプラントと比較した、ラットにおける黄色ブドウ球菌コロニー形成の量を示すグラフである。
【
図17】[0056]
図17は、本発明に従った皮下用のCBMAコーティング付きPDMSインプラントについて、皮下用のコーティング無しPDMSインプラントと比較した、取出し後の黄色ブドウ球菌付着量のグラフである。
【
図18】[0057]
図18は、本発明に従った皮下用のCBMAコーティング付きPDMSについて、コーティング無しPDMSと比較した、取出し時点の皮下インプラントから培養した黄色ブドウ球菌コロニー量のグラフである。
【
図19】[0058]
図19は、本発明に従ったCBMAコーティング付きおよびSBMAコーティング付きPDMSについて、コーティング無しPDMSと比較した、血小板付着量のグラフである。
【
図20A】[0059]
図20Aは、ラット大腿静脈内のCBMAコーティング付きPDMSインプラント上における血栓形成についてのインビボ実験を表わす。
【
図20B】[0060]
図20Bは、ラット大腿静脈内のコーティング無しPDMSインプラント上における血栓形成についてのインビボ実験を表わす。
【
図21】[0061]
図21は、PDMSポリマー基材への双性イオン性架橋SBMAヒドロゲルポリマーの接着度(剪断接着試験で測定したもの)を、コーティングプロセスで用いたベンゾフェノン溶液の濃度の関数として表わしたグラフである。
【
図22】[0062]
図22は、ビニルホスホン酸(VA)を用いて基材表面を活性化した、および活性化していないステンレススチール基材への、双性イオン性架橋SBMAヒドロゲルポリマー(膨潤したもの(すなわち、水に24時間浸漬した後)および膨潤していないもの(すなわち、重合後に直接))の接着度(剪断接着試験で測定したもの)をグラフで表わしたものである。
【
図23】[0063]
図23は、コーティング無しPDMS対照表面と対比した蛍光強度により示した、本発明による双性イオン性CBMAおよびSBMAコーティングならびにPEGDAコーティングを備えたPDMS表面におけるタンパク質吸着のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
[0064] 本開示は、以下の詳細な記載、図面、実施例、および特許請求の範囲、ならびに以上および以下のそれらの記載を参照することによってより容易に理解できる。しかし本発明の組成物、物品、デバイス、および方法を開示および記載する前に、別に特定しない限り、この開示は開示された組成物、物品、デバイス、および方法に限定されず、変更できることを理解すべきである。用いる用語は特定の側面を記載するためのものにすぎず、限定のためのものではないことも理解すべきである。
【0028】
[0065] 以下の本開示の記載は、その開示内容をそれの既知の態様で教示することを可能にするものとして提示されている。本開示の有益な結果をなお保持しながら、記載した本開示の側面に対して多数の変更をなしうることを、当業者は認知および認識するであろう。他の特徴を採用することなく本開示のある特徴を選択することにより本開示のある望ましい有益性を得ることができるのも自明であろう。本開示に対する多数の改変および適応が可能であり、特定の状況では望ましくすらあり、それらが本開示の一部であることを当業者は認識するであろう。以下の記載は本開示の原理の説明として提示され、それの限定においてではない。
【0029】
[0066] 本発明の好ましい態様(単数または複数)を以下において参照し、それの例を添付の図面に示す。各図における特定の参照記号の使用は同一または類似のパーツであることを示す。
【0030】
[0067] 別に指示しない限り、本明細書および特許請求の範囲で用いる、成分の量、特性、たとえばサイズ、重量、反応条件などを表わすすべての数字は、すべての場合に用語“約(about)”により修飾されていると解釈すべきである。そうではないと指示しない限り、以下の本明細書および付随する特許請求の範囲における数字パラメーターは、本発明によって得ようとする目的特性に応じて変動する可能性のある概数である。少なくとも、特許請求の範囲に対する均等論の適用を制限することを意図してではなく、各数字パラメーターはレポートした有効数字の数字を考慮して通常の四捨五入法の適用により解釈されるべきであり、すべての要素が一定の比率に縮尺されていると解釈すべきではない。
【0031】
[0068] 以下に種々の発明的特徴を記載する;それらはそれぞれ互いに独立して、または他の特徴と組み合わせて採用できる。
定義:
[0069] “双性イオン(zwitterion)”または“双性イオン性材料(zwitterionic material)”は、カチオン基およびアニオン基の両方をもつ高分子、材料、または部分を表わす。これらの荷電基はバランスが保たれており、その結果、ゼロ正味電荷の材料となる。双性イオン性ポリマーには、両性高分子電解質(polyampholyte)(たとえば、異なるモノマー単位上に荷電基をもつポリマー)およびポリベタイン(同じモノマー単位上にアニオン基およびカチオン基をもつポリマー)の両方を含めることができる。
【0032】
[0070] 本明細書中で用いる“ポリマー”には、ホモポリマーまたはコポリマーが含まれる。
[0071] 本明細書中で用いる“コポリマー”は、2以上の異なるモノマーから構成されるいずれかのポリマーを表わす。
【0033】
[0072] 本明細書中で用いる用語“ヒドロゲル”は、水を膨潤媒体とするポリマーネットワークである材料を表わす。
[0073] 本明細書中で用いる“抗微生物剤”は、細菌、酵母、真菌、マイコプラズマ、ウイルス、またはウイルス感染細胞、癌細胞、および/または原生動物を含めた微生物による増殖を阻害する(すなわち、殺微生物剤)、および/または汚損を防止する、分子および/または組成物を表わす。
【0034】
[0074] 本明細書中で用いる“抗血栓形成性”は、材料が血栓形成に抵抗する能力を表わす。
[0075] 本明細書中で用いる“付着(adhesion)”は、表面へのポリマー、タンパク質、細胞、または他の物質の非共有結合または共有結合を表わす。
【0035】
[0076] “生物活性物質”または“活性物質”または“バイオモレキュール(生体分子)”は、本明細書中で同義的に用いられ、能動的または受動的に生体系に影響を及ぼすいずれかの有機物質または無機物質を表わす。たとえば、生物活性物質はアミノ酸、ペプチド、抗微生物性ペプチド、免疫グロブリン、活性化分子、シグナル伝達分子またはシグナル増幅分子であってもよく、下記のものを含むが、それらに限定されない:プロテインキナーゼ、サイトカイン、ケモカイン、インターフェロン、腫瘍壊死因子、増殖因子、増殖因子阻害剤、ホルモン、酵素、受容体ターゲティングリガンド、遺伝子サイレンシング剤、アンビセンス(ambisense)、アンチセンス、RNA、生細胞、コヒーシン(cohesin)、ラミニン、フィブロネクチン、フィブリノーゲン、オステオカルシン、オステオポンチン、またはオステオプロテゲリン(osteoprotegerin)。生物活性物質は、タンパク質、糖タンパク質、ペプチド、オリゴペプチド、ポリペプチド、無機化合物、有機金属化合物、有機化合物、または合成もしくは天然の化学物質もしくは生体化合物であってもよい。
【0036】
[0077] 本明細書中で用いる“防汚(anti-fouling)”は、その組成物が、コーティング無しポリウレタン表面などの基準基材への付着量と対比して基材への血液タンパク質、血漿、細胞、組織および/または微生物を含めた生体分子の付着量を低減または防止することを意味する。好ましくは、デバイス表面は人血の存在下で実質的に防汚性である。好ましくは、付着量が基準ポリマーと対比して少なくとも20%、25%、30%、35%、40%、45%、50%、55%、60%、65%、70%、75%、80%、85%、90%、95%、99%、99.5%、または99.9%減少する。混合タンパク質溶液、たとえば全血漿について、表面プラズモン共鳴(SPR)または光導波路光モード分光法(optical waveguide light mode spectroscopy)(OWLS)を利用して、溶液中に存在する各タンパク質に対する個々の抗原を用いる必要なしに表面タンパク質吸着を測定することができる。さらに、1種類のタンパク質または複雑な混合物のいずれかから吸着した後の表面において、放射性標識タンパク質を定量することができる。
【0037】
[0078] “ブラシ”または“ポリマーブラシ”は、本明細書中で同義的に用いられ、一般に単一の結合点により表面に結合している個々のポリマー鎖を表わす。これらのポリマーは末端グラフト(末端基を介して結合)することができ、あるいは側鎖を介して、またはポリマー鎖中の末端位置以外の位置を介して結合することができる。ポリマーは線状または分枝状であってよい。たとえば、本明細書に記載するポリマー鎖は、防汚基を含む複数の側鎖を含むことができる。側鎖は、単一の防汚性部分もしくはモノマー、および/または防汚性オリゴマー(たとえば、2~10のモノマー)もしくはポリマー(たとえば、>10のモノマー)からなることができる。
【0038】
[0079] 本明細書中で用いる“密度”は、基材の表面積当たりの固定化された物質(防汚性物質および生物活性物質が含まれるが、これらに限定されない)の質量を表わす。
[0080] 本明細書中で用いる用語‘約(about)’は、当業者に理解されており、それが用いられる状況においてある程度変動するであろう。その用語の使用が当業者に明らかでない場合、その用語が用いられている状況を考慮して、‘約’は最大でその用語の±20%を意味するであろう。
【0039】
[0081] “親水性物質”は、水に対する親和性をもつポリマー、材料、または官能基を表わす。そのような材料は、一般に1以上の親水性官能基、たとえばヒドロキシル、双性イオン性、カルボキシル、アミノ、アミド、ホスフェート、水素結合形成性の基、および/または他の基を含む。
【0040】
[0082] 用語“アルキル”は、下記のものを含めた飽和または不飽和脂肪族基のラジカルを表わす:直鎖アルキル、アルケン、およびアルキン基、分枝アルキル、アルケン、またはアルキン基、シクロアルキル(脂環式)、シクロアルケン、およびシクロアルキン基、アルキル、アルケン、またはアルキン置換されたシクロアルキル、シクロアルケン、またはシクロアルキン基、ならびにシクロアルキル置換されたアルキル、アルケン、またはアルキン基。好ましい態様において、直鎖または分枝鎖アルキルはそれの主鎖中に30個以下の炭素原子(たとえば、直鎖についてはC1-C30、分枝鎖についてはC3-C30)、好ましくは20個以下の炭素原子、より好ましくは10個未満の炭素原子、最も好ましくは7個未満の炭素原子をもつ。同様に、好ましいシクロアルキルはそれらの環構造中に3~10個の炭素原子をもち、より好ましくは環構造中に5、6または7個の炭素をもつ。
【0041】
[0083] 用語“アルコキシ”または“アルキルオキシ”は、酸素に単結合したアルキル基を表わす。
[0084] “置換”または“置換された”は、そのような置換がその置換された原子および置換基の許容原子価に従うという暗黙の条件を含むこと、およびその置換の結果として、安定な化合物、たとえば再配列、環化、脱離などによって自然に変換することがない化合物が生成することを理解すべきである。
【0042】
[0085] 許容できる置換基は、適宜な有機化合物について1以上であってよく、同一でも異なってもよい。本発明の目的について、ヘテロ原子、たとえば窒素は、水素置換基、および/またはヘテロ原子の原子価を満たす本明細書に記載するいずれか許容できる有機化合物の置換基をもつことができる。本明細書に記載するポリマーは許容できる有機化合物の置換基によって決して限定されないものとする。
【0043】
[0086] 本明細書中で用いる用語“置換された”は、許容できる有機化合物の置換基すべてを含むものとする。広い側面において、許容できる置換基には非環式および環式、分枝鎖および非分枝鎖、炭素環式およびヘテロ環式、芳香族および非芳香族の有機化合物の置換基が含まれる。具体的な置換基には下記のものが含まれるが、それらに限定されない:アリール、ヘテロアリール、ヒドロキシル、ハロゲン、アルコキシ、ニトロ、スルフヒドリル、スルホニル、アミノ(置換および非置換)、アシルアミノ、アミド、アルキルチオ、カルボニル基、たとえばエステル、ケトン類、アルデヒド類、およびカルボン酸;チオールカルボニル基、スルホネート、スルフェート、スルフィニルアミノ、スルファモイル、およびスルホキシド。
【0044】
[0087] “ポリペプチド”、“ペプチド”“オリゴペプチド”には、天然、合成またはその混合物のいずれであっても、ペプチド結合によって互いに化学結合したアミノ酸から構成される有機化合物が含まれる。ペプチドは一般に3以上のアミノ酸、好ましくは9より多く、150未満、より好ましくは100未満、最も好ましくは9~51のアミノ酸を含む。ポリペプチドは“外因性”または“ヘテロロガス”、すなわちその生物または細胞にとって自然ではない生物または細胞におけるペプチド産生によるもの、たとえば細菌細胞により産生されたヒトポリペプチドであってもよい。外因性とは、その細胞により産生される内因性物質と比較して、その細胞にとって自然ではなくその細胞に添加された物質をも表わす。ペプチド結合は、1つのアミノ酸のカルボキシル基(酸素を保有する炭素)と第2アミノ酸のアミノ窒素との間の共有単結合を伴なう。約10未満の構成アミノ酸をもつ小型のペプチドは一般にオリゴペプチドと呼ばれ、10より多いアミノ酸をもつペプチドはポリペプチドと呼ばれる。10,000ダルトンより大きい分子量をもつ化合物(50~100のアミノ酸)は、通常はタンパク質と呼ばれる。
【0045】
[0088] 本開示は、防汚架橋ポリマーコーティング、ならびにそれらを作成するための方法、およびそのようなコーティングを基材に適用するための方法に関する。本開示は、基材を非汚損性(nonfouling)ポリマーでコーティングするための方法を提供する。基材は家庭用品、および工業用品、または医療用デバイスの表面であってもよい。医療用デバイスは多種多様なデバイスであってよい;たとえば、尿道カテーテル、神経プロテーゼ、ステント用デバイス、外科用器具、検査鏡(scope)、プローブ(探査子)、腹腔内インプラント、透析機器、心肺バイパス機器、チュービング、脈管ステント、歯科インプラント、コンタクトレンズ、人工内耳、脈管内カテーテル、チュービング(IV、動脈ライン、中枢ライン)、鼓膜チューブ(ear tube)、プレート、スクリュー、ピン、ロッド、能動型または受動型の人工中耳(中耳インプラント)(middle ear implant)、人工椎間板(artificial spine disc)、気管内または気管切開チューブ、脳脊髄液シャント、外科用ドレーン、胸腔チューブおよびドレーン、気管支内ステント、尿ステント(urinary stent)、胆汁ステント(bile stent)、涙ステント(lacrimal stent)、ペースメーカー、除細動器、神経刺激装置、脊髄刺激装置、脳深部刺激装置、埋込みヘルニアメッシュ、埋込み女性泌尿器メッシュ、眼内レンズ、美容乳房インプラント、美容殿部インプラント、美容オトガイ(頤)(chin)インプラント、美容頬インプラント、受胎調節デバイス、薬物送達デバイス、機器または装置(たとえば、透析機器または心肺バイパス機器)、および整形外科インプラント。家庭用品は多種多様な用品であってよい;たとえば、双性イオン性コーティングで細菌付着に抵抗できるレストラン用具、ベビー用スプーン、およびコップ。防汚ポリマーは医療用デバイスの埋込み後の瘢痕形成および細菌付着に抵抗することができ、それにより挿入に伴なう合併症を低減できる;それにはデバイス排出、デバイス関連感染症、神経プロテーゼについてのインピーダンス上昇、狭窄(stricture)、ステント再狭窄(restenosis)、および腹腔内癒着が含まれるが、これらに限定されない。本発明の技術は、炎症、感染、および蝸牛に埋め込まれた電極アレイの線維形成を低減する。
【0046】
[0089] 一態様において、本開示はあるシステムを教示する。このシステムは、固体基材に共有結合した架橋コーティングを含むことができる。一態様において、架橋コーティングは双性イオン性ポリマーの層をもつことができる。他の態様において、架橋コーティングはポリ(エチレン)グリコールの層をもつことができる。架橋コーティングはヒドロゲルであってもよい。架橋コーティングは、マイクロパターンを示すように、かつ固体基材の表面上の生体分子、組織、または細菌の付着に抵抗するように構成することができる。双性イオン性ポリマーコーティングは、双性イオン性モノマー、たとえばカルボキシベタイン(メタ)アクリレート、カルボキシベタイン(メタ)アクリルアミド、スルホベタイン(メタ)アクリレート、スルホベタイン(メタ)アクリルアミド、ホスホリルコリン(メタ)アクリレート、またはホスホリルコリン(メタ)アクリルアミドを光重合させることにより形成できる。あるいは、ポリ(エチレン)グリコールポリマー層はエチレングリコールモノマー単位を含むことができる。
【0047】
[0090] 一態様において,本開示は表面に共有結合したコポリマー層をもつことができる基材を開示する。コポリマーは反復単位を含むことができる。反復単位は下記の構造をもつことができる:
【0048】
【0049】
[0091] R1は、双性イオン基を含むペンダント基である;R2、R3は、それぞれ独立して水素、置換または非置換アルキル、アルキルオキシである;L1は連結基である;nおよびmは同一でも異なってもよく、それぞれ整数である;L2は架橋基である。一態様において、コポリマーは反復単位を含むことができる。反復単位は下記の構造をもつことができる:
【0050】
【0051】
[0092] R1、R2、R3、L1、L2、およびn、mは前記に定めたものである。L3は連結基である。一態様において、L3は-(CH2)x-であり、式中のxは約1から約20までの整数である。
【0052】
[0093] ある態様において、コポリマーは下記の構造をもつ反復単位を含むことができる:
【0053】
【0054】
[0094] R1、R2、R3、およびn、mは前記に定めたものである。L3は(CH2)x-であり、式中のxは約1から約20までの整数であり、pおよびqは同一でも異なってもよく、それぞれ整数である。他の態様において、コポリマーは下記の構造をもつ反復単位を含むことができる:
【0055】
【0056】
[0095] R1、R2、R3、L1、L2、n、m、p、およびよqは前記に定めたものである。L4は-(O-CH2-CH2-)y-Oであり、式中のyは約1から約20までの整数である。
【0057】
[0096] 他の態様において、基材は合成ポリマー系基材であってもよく、それはポリジメチルシロキサン(PDMS))、ポリプロピレン、ポリウレタン、ポリテトラフルオロエチレン、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリケトン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリウレタン、ポリラクチド、ポリエステル、およびポリエーテルエーテルケトン(PEEK)からなる群から選択できる。一態様において、ポリエチレンは、超高分子量ポリエチレン(ultra-high-molecular-weight polyethylene)(UHMWPE)および架橋UHMWPEからなる群から選択できる。
【0058】
[0097] 双性イオンは、同一分子内の非隣接原子上に正および負の形式(formal)電荷を保有する分子である。双性イオン性官能基を含む天然および合成ポリマーが共にタンパク質付着に抵抗することが示された。一態様において、双性イオン性モノマーはホスホリルコリン部分、スルホベタイン部分、カルボキシベタイン部分、その誘導体、またはその組合わせを含む。天然の双性イオン性分子であるホスホリルコリン(PC)で処理した基材表面は、非処理基材表面と比較した場合、タンパク質吸着の減少を示すだけでなく、血液適合性の増大をも示す。ホスホリルコリンから作成したポリマーは、前記に述べた特性を示すほかに、バイオミメティックでもあるとみなされる。
【0059】
[0098] スルホベタインは、動物にみられる最も多量に存在する低分子量有機化合物の1つである2-アミノエタンスルホン酸に近似する。スルホベタインモノマーは、対応するカルボキシベタインアナログより一般に合成しやすい。
【0060】
[0099] ポリカルボキシベタインは天然の双性イオンであるグリシンベタインのポリマーアナログである。ポリホスホリルコリンおよびポリスルホベタインと同様に、ポリカルボキシベタインは生物汚損に対する異例の抵抗性を備えた他のクラスの双性イオン性バイオミメティックポリマーである。これらのポリマーは、カルボキシベタインに特有の抗血栓形成性および抗凝固性のため、血液接触適用に特に好適である。これらの特性のほかに、得られるポリマーが生物活性分子を固定化するための反応性官能基を含むようにカルボキシベタインモノマーをデザインすることができる。
【0061】
[00100] ポリスルホ-およびポリカルボキシベタインはバイオミメティックであり、かつ細菌付着、バイオフィルム形成、ならびに血清および血漿からの非特異的なタンパク質付着に対して高度に抵抗性であるだけでなく、それらは無毒性、生体適合性でもあり、分解される可能性があるポリホスホリルコリンおよびポリ(エチレングリコール)の両方と比較した場合、一般に複雑な媒体中またはインビボにおいてより大きな安定性を示す。これらの材料およびコーティングの適用は、生物活性物質、たとえばペプチドを用いてさらに拡張できる。他の天然および合成の双性イオン性化学物質を用いて、本明細書に記載する生物医療適用のための防汚材料をデザインすることができる。
【0062】
[00101] 防汚材料に使用できる天然の双性イオン性化学物質の若干例には、アミノ酸、ペプチド、下記のものを含む(それらに限定されない)天然の小分子が含まれるが、それらに限定されない:N,N,N-トリメチルグリシン(グリシンベタイン)、トリメチルアミンオキシド(TMAO)、ジメチルスルホニオプロピオネートサルコシン(dimethylsulfoniopropionate sarcosine)、リゼルグ酸(lysergic acid)、およびシロシビン(psilocybin)。防汚材料を作成するために使用できるさらに他の合成双性イオンには、アミノ-カルボン酸(カルボキシベタイン)、アミノ-スルホン酸(スルホベタイン)、コカミドプロピルベタイン、キノノイド(quinonoid)ベースの双性イオン、デカフェニルフェロセン、および非天然アミノ酸が含まれるが、これらに限定されない。天然および合成のポリマーには、ペンダント基上に、主鎖中に、末端基に、または別個の反復単位上に正電荷部分と負電荷部分の両方を備えた混合電荷構造体も含まれる。他の態様において、ポリマー系基材に共有結合した双性イオン性ポリマーを含むポリマー組成物が提供され、その組成物は基材に結合した線状の双性イオン性ポリマー鎖(ブラシ)と比較して改善された防汚、抗微生物、および/または抗血栓形成活性を示す。
【0063】
[00102] ある態様において、双性イオン性ポリマーはコポリマーであってもよい。適切なコモノマーには(メタ)アクリレート、(メタ)アクリルアミド、ビニル化合物、および多官能性分子が含まれるが、これらに限定されない。モノマー例を以下に挙げる。
【0064】
[00103] 荷電したメタクリレートまたは第一級、第二級もしくは第三級アミン基をもつメタクリレートには、たとえば下記のものが含まれる:3-メタクリル酸スルホプロピルカリウム塩、(2-ジメチルアミノ)エチルメタクリレート)メチルクロリド第四級塩、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]トリメチル-アンモニウムクロリド、[3-(メタクリロイルアミノ)プロピル]-トリメチルアンモニウムクロリド)、メタクリル酸2-アミノエチル塩酸塩、メタクリル酸2-(ジエチルアミノ)エチル、メタクリル酸2-(ジメチルアミノ)エチル、メタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ)エチル、およびメタクリル酸2-(tert-ブチルアミノ-エチル。
【0065】
[00104] 他のモノマーには、たとえば下記のものが含まれる:エチレングリコールメチルエーテルメタクリレート、ジ(エチレングリコール)メチルエーテルメタクリレート、エチレングリコールフェニルエーテルメタクリレート、メタクリル酸2-ブトキシエチル、メタクリル酸2-エトキシエチル、およびエチレングリコールジシクロペンテニルエーテルメタクリレート。上記に挙げたモノマーのアクリルアミドおよび/またはメタクリルアミド誘導体、ならびに不飽和結合をもつ他のモノマーも使用できる。多官能性モノマー、たとえばジ、トリ、またはテトラ(メタ)アクリレートおよび(メタ)アクリルアミドを用いて高架橋構造体を形成することができ、それらはより耐久性の防汚膜を提供できる。
【0066】
[00105] 双性イオン性ポリマーはさらに架橋剤を含むことができ、それは下記のものからなる群から選択できる:エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、ポリ(エチレングリコール)ジ(メタ)アクリレート(PEGD(M)A)および誘導体、プロピレングリコールジアクリレート、1,3-ブチレングリコールジメタクリレート(BGDMA)、1,4-ブタンジオールジアクリレート(BDDA)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ビスアクリルアミド、ビスフェノールA、エトキシレートジアクリレート、N,N’-メチレンビス(アクリルアミド)、1-カルボキシ-N-メチル-N-ジ(2-メタクリロイルオキシ-エチル)メタナミニウム分子内塩、ペンタエリトリトールテトラアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、he1,6-ヘキサンジオールジメタクリレート(HDDMA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)およびトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)。
【0067】
[00106] 架橋剤がなければ、ポリマーは表面から直鎖を形成し、それは隣接鎖間に共有結合を形成しないであろう。架橋剤を導入することにより、その系はより耐久性になり、より厚いポリマー膜を達成できる。厚さの増大によって、摩耗および損耗に対してより抵抗性にすることができる。現在用いられているスルホベタインメタクリレート(SBMA)またはカルボキシベタインメタクリレート(CBMA)-ベースのポリマーがタンパク質吸着および細胞付着において卓越した抵抗性を示した。
【0068】
[00107] ポリマー材料、たとえば生物医療インプラントに用いるものをコーティングするためのプロセススキームを、
図1および2に示す。II型(水素引抜き型)光開始剤、たとえばベンゾフェノンの溶液をポリマー表面に適用する。あるいは、水素引抜き型光開始剤は、最初に、光開始剤を含有する溶液中にポリマー表面を沈めることによりポリマー表面に吸着させることができる。このプロセスに使用できるII型光開始剤には、カンファーキノンおよび誘導体、ベンゾフェノンおよび誘導体、チオキサントンおよび誘導体、6,7-ジクロロ-5,8-キノリンジオンおよび誘導体、1,4-ナフトキノンおよび誘導体、ならびにナフトジオキシノン-1,3-ベンゾジオキソールおよび誘導体が含まれる。次いでポリマー材料を乾燥させ、双性イオン含有モノマーおよび架橋剤の溶液(追加の光開始剤を含むもの、または含まないもの)を表面に適用する。1種類以上の光開始剤を溶液に添加すると、重合をその溶液中で開始することができる。溶液に添加できる適切な光開始剤には、前記に述べたII型光開始剤、および多様なI型光開始剤が含まれる。適切なI型光開始剤の代表例には、ベンゾインエーテル類、ベンジルケタール類、アシルホスフィンオキシド類、アルファ-ジアルキルオキシアセトフェノン、アルファ-ヒドロキシアルキルフェノン類、およびアルファ-アミノアルキルフェノン類が含まれる。
【0069】
[00108] ポリマー材料を照射してモノマー系の重合を開始し、架橋型双性イオン性ネットワークをポリマー表面にグラフトさせる。照射源は、光開始剤を活性化させることができるいかなる光源であってもよい。代表的な光源はUV線および可視光線を発する。照射すると、II型光開始剤が励起されて反応性の高いジラジカル(diradical)状態になり、それはポリマーから水素を引き抜いて表面にラジカルを発生させるか、あるいはモノマーと反応して溶液中で重合を開始することができる。表面のラジカルもモノマーの二重結合と反応するか、あるいは他の生長しつつあるラジカルポリマー鎖で終止して、コーティングを効果的にポリマー材料表面に繋ぎ留めるであろう。照射すると、溶液中のさらに他の光開始剤が溶液中でさらに重合を開始して、材料表面で発生したラジカルと溶液中のラジカルの両方から架橋を起こさせることができる。表面および溶液中での反応の後、生長しつつあるポリマー鎖は双性イオン性コーティングのネットワーク中へ共有結合により取り込まれる。この共有結合は、架橋型双性イオン性薄膜とポリマー系基材の間に強力な耐久性接着をもたらす。
【0070】
[00109] II型光開始剤はこのプロセスの重要な側面であり、それが無ければ双性イオン性薄膜は表面に接着できず、化学結合できない。本発明技術の双性イオン性コーティングは基材に化学結合するので,それらは、基材に共有結合していないため離層しやすい双性イオン性ヒドロゲルコーティングに優る顕著な利点を備えている。さらに、双性イオン性モノマーの重合は基材の表面と同様に溶液中でも起きるので、本発明技術の双性イオン性コーティングは架橋しており、したがって表面開始法のみを用いて基材に共有結合グラフトさせる先行技術の双性イオン性ブラシ型コーティングより耐久性であり、かつより厚い。
【0071】
[00110] マイクロパターン形成した双性イオン性コーティングは、このコーティングプロセスのユニークな特徴であるフォトマスキングを用いて作成することができ、それは双性イオン性コーティングのためのこれまでに記載されている方法では不可能であった。コーティングプロセスに際しての光重合は、双性イオン性薄膜を高精度でパターン形成する能力を備えている。双性イオン性薄膜パターンから構成されたマイクロパターンは、多数の細胞タイプにとって生物学的に適切な手がかりとなる可能性がある。パターン形成したコーティングは、細胞または組織の増殖を望ましい配置に方向づけるように作成することができる。双性イオン性基材のパターンは、
図3に示すように、フォトマスクを用いて平行なバンド状のコーティングをもつように作成できる。これらのパターンは、シュワン細胞および神経突起にとって蝸牛神経節ニューロン(spiral ganglion neuron)(SGN)からの強い方向誘導の手がかりを提供する(詳細は後記を参照)。これらのマイクロパターン形成した双性イオン性コーティングは、蝸牛神経節神経突起伸長を人工内耳電極アレイの方向へ誘導するインプラント設計のための基礎となることができる。
【0072】
[00111] 双性イオン性ポリマーをPDMSまたは他のシリコーンベース化学的表面にグラフトさせるための別法には、シランカップリング剤化学の使用を含めることができる。このプロセスはPDMS試料を酸素プラズマに曝露することにより進行する。この工程によりPDMSの表面のアルキル基が酸化されて、ヒドロキシル官能基が形成される。次いで試料をメタクリレートまたは他の反応性基、たとえばメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピルを含有するシランカップリング剤溶液に曝露することができる。シランカップリング剤を適用することにより、表面のヒドロキシル基とシランカップリング剤の間に共有結合を形成させることができる。次いで基材と接触している双性イオン溶液を光重合させることにより、モノマーを表面に共有結合グラフトさせることができる。双性イオン性溶液の重合はPDMS基材に埋め込まれている酸素により阻害される可能性があった。したがって、UV線照射した際に架橋ポリマーを形成できなかった。
【0073】
[00112] PDMSまたは他のポリマー基材の表面に双性イオン性架橋膜をコーティングすることは、プラズマ処理によっても達成できた。重合のために、PDMSをまずプラズマまたはUV/オゾンに曝露して湿潤性を高め、より親水性の基材を生成させる。次いで双性イオン性モノマーを表面に適用し、照射して、試料を重合させることができる。しかし、このコーティング方法は基材と架橋薄膜の間に共有結合を形成しない。その結果、膜は共有結合グラフティング法を用いて作成された膜より離層しやすく、耐久性がより低い可能性がある。
【0074】
[00113] PDMSポリマーと同様に、金属系基材、およびガラスを含めた他の材料に、カスタマイズした双性イオン性モノマーを薄膜としてグラフトさせることができる。双性イオン性コーティングを表面にグラフトさせるための方法は材料によって異なる。シランをベースとするリンカーは、ガラス表面を活性化するために使用できる。メタクリル酸は金属表面のための活性化剤として使用できる。
【0075】
[00114] 高密度の防汚コーティングによるチタン基材のコーティングは、チタン表面に官能基を導入してコーティングを共有結合させるための表面修飾を含むことができる。たとえば、酸化的ピラニア(piranha)溶液を用いてヒドロキシル基を基材表面に形成することができる。次いでこれらの基を用いて、有機官能性部分を提示するアンカー形成分子を共有結合させることができる。あるいは、ピラニア処理の前に、空気中においてきわめて高い温度、たとえば773~1073°Kで加熱することにより、チタンの表面に酸化チタン層を生長させることができる。
【0076】
[00115] チタンにアンダーコーティングを繋ぎ止めるための官能基にはシラン、ホスホン酸、およびカテコール基が含まれるが、これらに限定されない。たとえばトリメトキシシランおよびトリクロロシランは、基材をそのシランの溶液に曝露することによりチタン基材の表面に導入することができる。官能基は小分子、オリゴマー、および/またはポリマー(コポリマーを含む)の形態であってもよい。ポリマーブラシ、コーム(櫛)、線状および分枝状のコポリマー、デンドリマー、テザー(tether)、およびヒドロゲルを既知の合成手段で形成することができ、それには下記のものが含まれるが、それらに限定されない:フリーラジカル重合、イオン重合、原子移動ラジカル重合(atom transfer radical polymerization)(ATRP)、ニトロキシド仲介重合(nitroxide mediated polymerization)(NMP)、可逆的付加-開裂重合(reversible addition-fragmentation polymerization)(RAFT)、開環メタセシス重合(ring opening metathesis polymerization)(ROMP)、テルル化物仲介重合(telluride mediated polymerization)(TERP)、または非環式ジエンメタセシス重合(acyclic diene metathesis polymerization)(ADMET)、およびUV、熱、またはレドックスフリーラジカル重合。好ましい態様において、ポリマーは光重合法を用いて形成される。
【0077】
[00116] 生体適合性を改善し、血栓形成(たとえば、ステントまたは人工弁の表面における)を低減し、かつ溶液中に存在するタンパク質または細菌による生物汚損を低減するために、これらの天然または合成の双性イオンを含むか、またはそれから構成される材料を、表面、特に医療用デバイスの表面に適用することができる。これは特に、溶液中のタンパク質の非特異的結合がデバイスの目的とするまたは必要な力学的作用に負の影響を及ぼす可能性がある表面について適用できる。
【0078】
[00117] 本開示はさらに、ステンレススチール、コバルト、クロム、タンタル、マグネシウム、チタン、ニッケル、ニチノール(nitinol)(ニッケルとチタンの合金)、白金、イリジウム、およびその合金からなる群から選択される金属系基材をコーティングするための方法を含む。これらの多様な表面を双性イオン性架橋薄膜でコーティングする。
【0079】
[00118] 金属系基材は医療用デバイスであってもよい。医療用デバイスは下記のものからなる群から選択できる:カテーテル、脈管ステント、歯科インプラント、人工内耳、外科用器具、検査鏡、プローブ、脈管内カテーテル、チュービング(IV、動脈ライン、中枢ライン)、鼓膜チューブ、プレート、スクリュー、ピン、ロッド、能動型または受動型の人工中耳、人工椎間板、気管内または気管切開チューブ、脳脊髄液シャント、外科用ドレーン、胸腔チューブおよびドレーン、気管支内ステント、尿ステント、胆汁ステント、涙ステント、ペースメーカー、除細動器、神経刺激装置、脊髄刺激装置、脳深部刺激装置、埋込みヘルニアメッシュ、埋込み女性泌尿器メッシュ、眼内レンズ、美容乳房インプラント、美容殿部インプラント、美容オトガイインプラント、美容頬インプラント、受胎調節デバイス、薬物送達用のデバイス、機器または装置(たとえば、透析機器または心肺バイパス機器)、および整形外科インプラント。
【0080】
[00119] 整形外科インプラントは、人工膝関節全置換術(total knee replacement)(TKR)、人工股関節全置換術(total hip replacement)(THR)、人工肩関節全置換術(total shoulder replacement)(TSR)、人工肘関節全置換術(total elbow replacement)(TER)、人工手関節全置換術(total wrist replacement)(TWR)、人工足関節全置換術(total ankle replacement)(TAR)のためのインプラント、およびその構成素子からなる群から選択できる。
【0081】
[00120] 光重合(重合プロセスを推進および制御するために光を使用)の空間精度に影響を与え、PDMSおよび金属表面にマイクロスケールの解像度で耐久性コーティングを付与するための方法を開発した。これらの新規な光重合法で作成したインプラント材料の双性イオン性ポリマー薄膜コーティングは、タンパク質および細胞の付着ならびに組織の線維形成を有意に低減できる。
【0082】
[00121] この技術の適用のひとつは、人工内耳の領域においてである。
[00122] 鼓室階における線維性組織形成は人工内耳埋込みに予想される結果であり、利用者の聴力にとって有害である。インプラントを挿入すると初期炎症反応が生じ、それが次いでインプラントを包み込む線維形成反応に進行する。電極アレイ周囲の線維被膜は電気的インピーダンスを増大させ、より高い電流レベルの使用が必要になり、結果的に電流拡散が増大する。電流拡散は知覚的に分離できる刺激チャンネル数を減少させる。最新の電極アレイは12~22の電極接点を含むが、平均的な人工内耳利用者は6~8の個別刺激チャンネルをもつにすぎない可能性があると推定される。電極数を増加し、信号処理を改善しても、粗い歪んだ表象(representation)を上回るほど人工内耳利用者の音知覚(sound perception)を改善するのは難しかった。線維形成は聴力保存手術に伴なう続発性の聴力損失にも関与する可能性がある。先に聴力保存手術を受け、後に残存聴力損失が生じた者の組織学的検査は、鼓室階を埋める頑強な線維形成反応を示し、これは線維形成反応が後の聴力損失に関係していたことを示唆した。蝸牛の深さ全体より浅く埋め込まれていた聴力保存用の人工内耳がより広く埋め込まれるようになるのに伴なって、線維形成反応を最小限に抑えることがよりいっそう重要になるであろう。ある程度の異物反応はほとんどすべての人工内耳利用者の死亡後検査で確認されていた。これらの検死によってさらに、インプラントの排出または位置不良の原因の可能性としてインプラントに対する異物反応が確認され、炎症から生じる新生骨形成がより劣悪な聴力転帰と相関することが見出された。小パーセントの人工内耳装着者には、インプラント材料に対する有害反応、たとえばシリコーンアレルギー、肉芽形成性迷路炎(granulating labyrinthitis)、骨化、および骨侵食も生じた。残念ながらこれらの免疫反応は依然として予測困難であり、したがって一部の人工内耳装着者に有害な作用を及ぼし続け、時には修正外科処置の必要性が生じる。炎症および結果的な線維形成はこれらの合併症の多くの根源であるので、蝸牛内炎症および線維形成反応は重要な療法標的である。
【0083】
[00123] 最終的に、線維形成反応は、インプラントを用いて薬物を送達し、またはインプラントへ向けて神経成長を誘引しようとする戦略に対する妨害となる。人工内耳とそれらの標的である蝸牛神経節神経線維の間の統合は依然として乏しいので、インプラントを蝸牛神経節へ接近させることだけでなく蝸牛神経節線維を刺激して刺激電極近くまで伸長させることにも関心がもたれている。しかし、蝸牛神経節神経突起は線維被膜を横切ることができない。したがって、蝸牛神経節神経線維と人工内耳電極アレイとの統合の改善は線維形成反応を最小限に抑える性能に依存する。したがって、線維形成は次世代人工内耳開発に対する障壁となる。UVベースの光重合法は、双性イオン性薄膜を備えた精確に制御できる人工内耳材料用の耐久性コーティングを可能にすることができる。インビトロ研究のためにカルボキシベタインメタクリレート(CBMA)およびスルホベタインメタクリレート(SBMA)を用いて双性イオン性コーティングを開発した。ポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)を比較として用いる。PEGDAは無電荷の低汚損生体材料であり、ある程度は細胞付着に抵抗する。それに対し、PDMSは機械的に柔軟で耐久性であり、卓越した取扱い適性をもつが、残念ながら活発な線維形成反応を生じる。この欠点にもかかわらず、それは依然として人工内耳ハウジング材料のためのゴールドスタンダードである。本発明技術により提供される耐久性コーティング法は、双性イオン性ヒドロゲルの抗-線維形成性を利用し、一方でPDMS構造の取扱い適性を維持した、魅力的な解決策である。
【実施例】
【0084】
材料および合成
[00124] メタクリル酸2-(N,N’-ジメチルアミノ)エチル(DMAEM)、(3-プロピオラクトン、トリエチルアミン、ヒドロキノン、[2-(メタクリロイルオキシ)エチル]ジメチル-(3-スルホプロピル)アンモニウムヒドロキシド(SBMA)、マウス抗CD20抗体、ウサギ抗S 10013抗体、マウス抗NF200抗体、メタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル、パラホルムアルデヒド、コラゲナーゼ、ダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)、インスリン、ヒトフィブリノーゲン、ヒト抗フィブリノーゲン、およびすべての有機溶媒を、Sigma Aldrichから購入した。ウサギ抗ビメンチンおよびウサギ抗-グリア線維性酸性タンパク質(glial fibrillary acidic protein)(GFAP)抗体を、Abcam(メリーランド州ケンブリッジ)から購入した。ハンクス平衡塩類溶液(Hank's balanced salt solution)(HBS)、ウシ胎仔血清(FBS)、ポリ-L-オルニチン、トリプシン-EDTA解離試薬、DAPI含有マウンティング媒体を、Gibco(カリフォルニア州カールズバッド)から購入した。ラミニンをLabtek(カリフォルニア州キャンベル)から購入した。脳由来神経栄養因子(brain derived neurotrophic factor)(BDNF)およびニューロトロフィン-3(neurotrophin-3)(NT-3)をR&D Systems(ミネソタ州ミネアポリス)から購入した。
【0085】
[00125] 2-カルボキシ-N,N-ジメチル-N-(2’-(メタクリロイルオキシ)エチル)エタナミニウム分子内塩(カルボキシベタインメタクリレート,CBMA)を下記に従って合成した。DMAEMをアセトンに溶解し、0℃に冷却した。3-プロピオラクトンをアセトンに溶解し、DMAEM溶液に不活性雰囲気下で滴加した。反応物を一夜撹拌した後、10mgのヒドロキノン阻害剤を添加し、溶媒を除去した。残留する油をメタノールに溶解し、トリメチルアミンを添加して副反応を抑えた。次いでこの溶液を冷却ジエチルエーテル中へ沈降させ、濾過すると白色固体が得られた。生成物を真空乾燥し、さらに精製せずに使用した。NMRスペクトルをBucker分光計(Avance 300)で記録した。1H NMR (D2O, 300 MHz), 6 6.06 (s, 1H, =CH), 6 5.68 (s, 1H, =CH), 6 4.55 (t, 2H, OCH3), 6 3.70 (t, 2H, NCH2), 6 3.59 (t, 2H, NCH2), 6 3.10 (s, 6H, NCH3), 6 2.64 (t, 2H CH2COO), 6 1.84 (s, 3H =CCH3)。
【0086】
[00126] 双性イオン官能化ガラス基材の作成および特性分析
[00127] 光子誘起重合(photon-induced polymerization)によって得られる固有の空間制御のため、共有結合グラフティングが望ましくない領域の光を遮断することにより双性イオン性ポリマーをパターン化することができる。これらのパターンは線維性組織が形成される場所を精確に制御し、望ましい領域に線維形成させることができる。
【0087】
[00128] 双性イオン性ポリマーをガラス基材表面にグラフトさせるための一般的スキームを
図3に示す。
[00129] 標準的な2.54×7.62cmの顕微鏡スライドガラスをメタクリル酸3-(トリメトキシシリル)プロピル(シランカップリング剤)で官能化して、双性イオン性ポリマーがガラス表面に共有結合グラフトできるようにした。
図3に模式的に示すように、双性イオン性ポリマーがガラス表面からグラフトした。0.05wt% 1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン(HEPK,光開始剤)を含有するリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の双性イオンの水性モノマー混合物(CBMAまたはSBMA,0.1~20wt%)を、活性化した官能化ガラス表面にピペッティングした。次いで、均一試料を得るために、パターン形成試料用の2.54×2.54cmガラス-クロムRonchi ruleフォトマスクまたは切断した同じ寸法のスライドガラスを用いて、液体を試料上に均等に分散させた。続いて365nmの波長で測定して16mW/cm
2で10分間、水銀蒸気アーク灯(Omnicure S 1500,Lumen Dynamics,カナダ、オンタリオ州)を用いて基材を照射した。次いで試料を蒸留水で十分に洗浄し、窒素流を用いて乾燥させ、次いで使用するまで密封容器に保存した。
【0088】
[00130] Rame-Hart Model 190ゴニオメーターで静滴法(sessile drop method)を用いて接触角を測定した。それぞれの基材の5つの領域を三重試験し、15すべての測定値の平均として平均接触角を求めた。
【0089】
タンパク質吸着
[00131] 免疫蛍光を用いて基材へのタンパク質吸着を測定した。タンパク質に曝露する前にガラス試料をまずリン酸緩衝化生理食塩水(PBS)(室温)中で30分間インキュベートした。ヒトフィブリノーゲン(1mg/mL)を基材上へピペッティングし、カバーガラスを溶液に乗せることによって分散させ、続いて室温で1時間インキュベートした。次いでPBSを1時間毎に交換しながら試料をPBSに少なくとも3時間浸漬した。すすぎ工程の後、基材をパラホルムアルデヒド(4%)中で15分間、2℃においてインキュベートした。次いで試料をPBSで3回すすぎ、続いてフィブリノーゲンにより占有されていない領域をブロックするためにブロッキング緩衝液を室温で30分間、適用した。抗フィブリノーゲン抗体を試料に2℃で一夜、適用した。次いで基材をPBSで3回すすぎ、蛍光タグ付き二次抗体を室温で1時間、適用した。試料をPBSで3回洗浄し、落射蛍光イメージング(epifluorescent imaging)前にカバーガラスを適用した。Leica DFC350FXデジタルカメラおよびMetamorphソフトウェア(Molecular Devices,カリフォルニア州シリコンバレー)を備えたLeica DMIRE2顕微鏡(Leica Microsystems,イリノイ州バンノックバーン)でデジタル落射蛍光イメージを捕捉した。それぞれの試料条件でイメージを取得し、グレースケール測定値を用いてImage Jソフトウェア(NIH,メリーランド州ベセスダ)で相対蛍光強度を評価した。すべての試料を三重に作成し、それぞれの条件について5つの代表的イメージを取得した。
【0090】
細胞培養および免疫蛍光法
[00132] P4-7周産期ラット蝸牛から解離した蝸牛神経節(spiral ganglion)(SG)の培養を実施した。P4-7周産期ラット皮膚から解離した線維芽細胞の培養物を得た。組織から皮下脂肪を掻き落とし、0.125%トリプシン(EDTA含有)および0.2%コラゲナーゼ中において37℃で1時間消化し、続いて穏やかに摩砕処理した。アストロサイトおよびシュワン細胞の培養物をそれぞれP4-7周産期ラット大脳皮質および坐骨神経から調製して維持した。すべての細胞を予めタンパク質がコーティングされていないガラス基材上に播種した。
【0091】
[00133] SGN培養物は、N2添加剤、10%ウシ胎仔血清(FBS)、NT-3(50ng/ml)、およびBDNF(50ng/ml)を補足したダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中に維持された。線維芽細胞、シュワン細胞、およびアストロサイトの培養物は、10%のFBSを含むDMEM中に維持された。免疫染色前にすべての培養物をPBS中の4%パラホルムアルデヒドで固定した。
【0092】
[00134] 蝸牛神経節培養物を抗-神経フィラメント200(neurofilament 200)(NF200)抗体で免疫染色して、ニューロンおよびそれらの神経突起を標識した。アストロサイトおよびシュワン細胞培養物を、それぞれ抗GFAPまたは抗S100抗体で免疫染色した。線維芽細胞培養物を抗ビメンチン(vimentin)抗体で免疫染色した。DAPI含有マウンティング媒体を含むカバーガラスを染色した培養物に乗せて核を標識した。
【0093】
細胞密度およびマイクロパターンへのアラインメントの定量
[00135] 細胞密度は、MetaMorphソフトウェアパッケージの細胞計数フィーチャーを用いて20×顕微鏡視野のデジタルイメージからランダムに選択したそれぞれの細胞タイプ(前記の免疫染色により同定)の総数をカウントすることにより決定された。それぞれの培養物について少なくとも10の視野を採用し、先にそれぞれの培養物を実験当たり少なくとも3つの基材に乗せた。実験を少なくとも3回繰り返した。
【0094】
[00136] SGN総神経突起長は、MetaMorphのスキャンスライドフィーチャーを用いて取得したデジタルイメージから、Image J(NTH,メリーランド州ベセスダ)の測定ツールを用いてそれぞれの条件からランダムに選択した神経突起の最長突起を測定することにより決定された。神経突起アラインメントを計算した。要約すると、パターンへのアラインメントを、アラインした長さ(整列長)に対する総長の比と定義した。この比は[TL/AL]と表わされ、ここでTLは総神経突起長であり、ALはパターン方向にアラインした長さを表わす。アラインした長さ(AL)は、神経細胞本体から神経突起末端までの距離をマイクロパターン方向に直線で測定することにより決定された。測定前にパターン方向を常に水平に設定した。本明細書全体を通して、総長とアラインした長さとの比をアラインメント比と呼ぶ。1に近い比は、それの全長にわたってパターンに密接に従った神経突起を表わす。パターンに強くアラインすることなく迷走している神経突は高いアラインメント比により表わされるであろう。パターンに対するシュワン細胞の配向は、先の記載に従ってImage Jソフトウェアを用いて細胞のアウトラインを描き、細胞のアウトラインに楕円を当てはめることにより決定された。Image Jで、楕円の主軸とパターンの(θ)の間に生じる角度をシュワン細胞アラインメントとして測定した。
【0095】
統計処理
[00137] Graphpad Prism 7.01ソフトウェアを用いて統計解析を実施した。コーティング無し、CBMAコーティング付き、およびSBMAコーティング付きグループ間の、ならびにパターン形成基材上におけるストライプ形成グループ間の細胞密度を比較するために、テューキーの事後検定(post hoc Tukey test)付き一元配置分散分析(one-way ANOVA)を用いた。両側t検定(two-tailed t-test)を用いて、ストライプ形成基材上におけるコーティング付き領域とコーティング無し領域との細胞密度を比較した。シュワン細胞およびSGN神経突起のアラインメントの解析を、クラスカル-ウォリスの順位に基づく事後分散分析(post hoc Kuskal-Wallis analysis of variance on ranks)による一元配置分散分析およびダン検定(Dunn's test)を用いて実施した。
【0096】
結果および考察
双性イオン官能化基材の作成および特性分析
基材として用いたガラス
[00138] 表面はホストの体液、血液タンパク質、および他の免疫原因子と直接接触するので、表面特性は低汚損性材料を作成する際の重要な要素である。これらの生体分子およびインプラント表面へのそれらの非特異的な吸着は、線維性組織形成において不可欠な役割を果たす。非汚損性を達成するための一般的なアプローチは官能基を表面上に導入することを伴ない、それらが次いでポリマー生長のアンカーとして作用する。
【0097】
[00139] ガラスはシランカップリング化学を用いて多様な官能基で容易に修飾できるので、それをコンセプト基材の証拠として用いた。この方式は、双性イオン性ポリマーを表面に共有結合グラフトさせ、パターン化するための簡単な方法として、光重合を用いる。この方式を用いて、線維性組織形成に重要な線維芽細胞に加えて、双性イオン性ポリマー薄膜についてはこれまで調べられていなかった神経再生に関連する細胞タイプ(シュワン細胞、および蝸牛神経節ニューロン)の付着を調べた。これらの基材を作成するために、ガラス試料をまず酸素プラズマに曝露してヒドロキシル表面基を発生させ、続いて反応性メタクリレート基を含むシラン含有カップリング剤と反応させた。次いで、基材と接触したモノマー-および光開始剤を含有する溶液を照射することにより、双性イオン性メタクリレートをガラス表面のメタクリレートに共有結合させた。UV線を用いて重合反応を誘導し、基材からグラフトした双性イオン性ポリマーを共有結合構築した(
図3)。
【0098】
[00140] UV照射に際して、光を吸収する光開始分子(解離して開始種になる)からラジカルが溶液中に発生する。これらの開始ラジカルは次いで表面上および溶液中のメタクリレートと反応して生長種を発生し、それがスライドガラスの表面から双性イオン性ポリマーを構築する。実験のために、官能化ガラス基材の表面特性を変化させるための双性イオン性モノマーとしてSBMAおよびCBMA(
図4A)を用いた。溶液中の双性イオン性モノマーの濃度を0.1wt%~20wt%で変化させて表面被覆率を変化させ、防汚ポリマーグラフト表面の物理化学的特性を調べた。
【0099】
[00141] ポリマーまたは他の分子の表面グラフティングには表面エネルギーを含めた対応する表面特性の変化が伴ない、それを水接触角測定により評価することができる。より高い接触角は、水が表面との接触を避けるのでより疎水性である表面の指標となる。逆に、低い接触角は、水が拡散して基材との相互作用が最大になるので親水性表面の指標となる。ガラス基材を官能化するのに用いたカップリング剤の非極性を考慮して予想されたように、シラン化ガラスは57度を超える接触角で比較的疎水性であった。逆に、双性イオン性ポリマーは荷電原子がポリマー側鎖に沿って存在するため親水性であり、接触角を低下させると予想される。
【0100】
[00142] 双性イオン性薄膜でコーティングしたスライドガラスはフィブリノーゲン吸着に抵抗できる。双性イオン性薄膜がタンパク質吸着に抵抗する能力を評価するために、コーティング付きおよびコーティング無しスライドガラスへのフィブリノーゲン吸着のレベルを調べた。
図4Aは、カルボキシベタインメタクリレート(CBMA)、スルホベタインメタクリレート(SBMA)およびポリエチレングリコールアクリレート(PEGA)のモノマーの化学構造を示す。スライドをフィブリノーゲン溶液(1mg/ml)中で1時間インキュベートし、リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)で3回すすぎ、4%パラホルムアルデヒドで固定した。スライドを抗フィブリノーゲン抗体、次いで蛍光タグ付き二次抗体で免疫染色した。スライドを、Metamorphソフトウェア操作するDMIREII Leica落射蛍光顕微鏡でイメージングした。バックグラウンド蛍光を差し引いた後、次いでコーティング無し対照ガラスに対比した蛍光強度を計算した。
図4Bは、コーティング無しガラス対照に対比した相対蛍光強度を示し、誤差バーは標準偏差を表わす(n=3のスライド,スライド当たり10のイメージを含む)。CBMA、SBMA、およびPEGAの薄膜コーティングは、コーティング無しガラスと比較してフィブリノーゲン吸着を有意に低減し、CBMAが最強の効果を示した(
図4B)。
【0101】
シュワン細胞および線維芽細胞の付着
[00143] シュワン細胞は末梢神経系の主要なミエリン形成細胞タイプであり、ニューロンの成長および発達を支持する機能をもつ。したがって、特に神経プロテーゼ適用の可能性について、これらの細胞が潜在的に双性イオン性コーティング付き基材とどのように相互作用するかを理解することは重要である。シュワン細胞は、コーティング無しガラスと比較してSBMAおよびCBMAコーティング付きガラス基材に対する付着低減を示す。コーティング無しおよびCBMAコーティング付きガラス表面で培養したシュワン細胞を、それぞれ
図5Aおよび5Bに示す。シュワン細胞についての細胞核数を5Cに示す。SBMAおよびCBMAコーティング付きガラスには、コーティング無しガラスと比較して有意の核数低減がみられた。これらのデータは、双性イオン性薄膜が効果的にシュワン細胞付着を防止することを示唆する。
【0102】
[00144] 線維芽細胞は埋め込まれたデバイスの表面上の線維形成に関与する主な細胞タイプである。したがって、線維芽細胞の吸着防止におけるこれらの双性イオン性コーティング付き基材の有効性を判定することは、これらの材料が線維形成に抵抗する能力の有効なインビトロ尺度として役立つ可能性がある。よって、線維芽細胞をSBMA、CBMAコーティング付き基材上で培養し、ガラス対照と比較した。双性イオン性コーティング付き基材上で培養した線維芽細胞の形態は、コーティング無しガラスからのものとは顕著に異なっていた(
図5E)。線維芽細胞は双性イオン性コーティング付き基材上ではより少ない細胞質拡張子(cytoplasmic extension)を示し、丸い形態を呈したが、それらはコーティング無しガラス上では特徴的な伸長した多極形状を示した(
図5D)。さらに、SBMAコーティング付き基材と比較してCBMAコーティング付き基材に付着した細胞は顕著に少なかった。ランダムなイメージを解析し、細胞核計数を行なって、細胞密度を決定した。均一な基材上の線維芽細胞密度の解析によってSBMAコーティング付き表面に付着した細胞の統計的に有意の低減が明らかであり、コーティング無しガラスと比較すると半分未満の細胞密度であった(
図5F)。CBMAコーティング付き表情には、コーティング無しガラスと比較して1パーセント未満の細胞密度でごく少数の線維芽細胞が付着した。
【0103】
[00145] 次いで、100μmの周期性パターンを備えたSBMAおよびCBMAパターン形成表面上でシュワン細胞および線維芽細胞を培養した。
[00146] これらのパターン形成基材上の細胞密度の解析は、隣接するSBMA-またはCBMA-コーティング付きストライプと比較してコーティング無しガラスへの細胞付着の顕著な優先性を示した。
図6Aは、CBMAパターン形成基材上で培養したシュワン細胞を示す。シュワン細胞は、隣接するCBMAコーティング付きバンドとの相互作用を避けてコーティング無し領域の長手に沿って伸長しているのが観察される。SBMAおよびCBMAパターン形成基材上のシュワン細胞密度の解析を
図6Cに示す。CBMAおよびSBMAコーティング付き領域は、隣接するコーティング無しバンドと比較してシュワン細胞付着を有意に低減することが示された。
【0104】
[00147] 初代線維芽細胞もSBMAおよびCBMAストライプ形成基材上で培養した際に類似の結果を示した。
図6Bは、100μmのCBMAストライプのパターンを形成したガラス基材上のコーティング無し領域上のみで増殖している線維芽細胞を描いている。線維芽細胞はコーティング無しストライプ内に留まっているだけでなく、それらの細胞質拡張子も非コーテッ領域の縁に沿って伸長し、コーティング付き領域内へ伸長することはほとんどない(
図6B)。
【0105】
[00148] 双性イオンパターン形成ガラス上で増殖した線維芽細胞の定量は、SBMAおよびCBMAパターン形成基材について、コーティング付き領域と隣接するコーティング無し領域との間で細胞密度において統計的に有意の差を示した(
図6D)。明らかに、CBMAストライプに付着しているのが観察された線維芽細胞はゼロであり、一方、コーティング無し領域はSBMAストライプ形成した基材のコーティング無し領域と類似の細胞密度をもっていた。SBMAストライプとCBMAストライプの間には細胞密度に有意差がみられ、線維芽細胞付着の防止におけるSBMA膜に勝るCBMAの有効性がさらに確証された。
【0106】
双性イオン性マイクロパターンへのSGN神経突起アラインメント
[00149] 蝸牛神経節ニューロン(SGN)は、聴覚活動中の耳のコルチ器官の有毛細胞を神経支配する、内耳の求心ニューロンである。人工内耳を装着した聴力喪失蝸牛において、SGNは人工内耳電極により刺激される標的神経要素である。しかし、人工内耳が自然聴力を模倣する忠実度(fidelity)は、多数の要因(瘢痕組織形成、およびSGNと人工内耳電極の距離を含む)によって損なわれる。パターン形成コーティングはSGN神経突起のアラインメントに影響を与え、標的神経要素とのインターフェースが改善されたインプラントの基礎となる可能性がある。したがって、新生仔ラット蝸牛神経節をプレーンガラスと双性イオン-パターン形成基材の両方に直接播種した。マイクロパターン形成した双性イオン性コーティングは蝸牛神経節神経突起の伸長を方向づけることができた。p4-7ラットから前記に従って初代の混合蝸牛神経節細胞培養物を調製し、双性イオン性薄膜コーティング付きまたはコーティング無しスライドガラスに播種した。48時間後、それらを固定し、抗NF-200抗体を用いて免疫染色して、蝸牛神経節ニューロンを同定し、細胞体(soma)から伸長している神経突起を視覚化した。コーティング無し基材上におけるSGN神経突起生長(
図7A)は、ランダム生長を示す。予想どおり、SBMAまたはCBMAでコーティングした場合には
図7BにみられるようにSGN神経突起密度が大幅に低減している(CBMAを示す)。CBMAコーティング付き基材に沿ったSGN神経突起のアラインメントは、コーティング無し領域上での生長に優先性を示す(
図7C)。時にはSBMAコーティング付きストライプを越える神経突起の伸長とは対照的に、CBMAコーティング付きパターンに対するSGN神経突起のアラインメントはコーティング無しバンドの中央に沿って伸長し、一般に平行パターンから逸脱しない神経突起セグメントを明らかに示した。
【0107】
[00150] 重要なことに、SGNがマイクロパターン形成基材上で神経突起を伸長させるのに伴なって、これらの神経突起はほとんど例外なくコーティング無し領域上に留まり、その結果、ストライプ状パターンに平行な強い配向が生じた(
図7C)。マイクロパターン形成した双性イオン性コーティングは、シュワン細胞アラインメント(
図6A)および神経突起生長(
図7C)の両方を強く方向づけると思われる。これらのデータは、光重合法が双性イオン性薄膜コーティングの沈着を精確に制御する能力を立証する。そのような空間制御に影響力を及ぼして、特定の細胞応答、たとえば神経突起またはシュワン細胞の指向性増殖を指令することができる。
【0108】
双性イオン性パターンへの細胞アラインメント
[00151]
図8Aは、神経突起長の測定、およびパターンに平行な、細胞体から神経末端までの測定の模式図を示す。
図8Bは、パターンに対する細胞の主軸に当てはめた楕円の角度(θ)を測定することにより決定したシュワン細胞アラインメントを示す。予備試験により、マイクロパターン形成した双性イオン性コーティングはSGN神経突起伸長に強く影響することが示唆されている。双性イオン性コーティングがストライプ状にパターン形成された基材においては、神経突起はこれらのストライプに平行にアラインする可能性がある。
【0109】
[00152] コーティング無しガラス基材上で増殖したシュワン細胞は、約42度の平均角度でランダムに配向した(
図8C)。これと比較して、SBMA-パターン形成基材では6度未満の平均角度でストライプに平行にアラインした。CBMA基材上の細胞は、わずか2度未満の平均角度でよりいっそう密接にストライプにアラインした。シュワン細胞のアラインメントが起きたのは、細胞が双性イオン性ストライプによって退けられたからであると思われる。CBMAストライプ形成基材上で培養されたシュワン細胞が双性イオン性領域内へ越えることはほとんどなく、コーティング付き領域とコーティング無し領域の間に顕著な境界が形成される。
【0110】
[00153] 双性イオン性パターンへのSGN神経突起のアラインメントを定量するために、Image Jのトレースツールを用いて測定した神経突起の経路に沿った全長をアラインした長さで割ることによりアラインメント比(T
L/A
L)を計算した:その際、アラインした長さ(A
L)は神経突起がパターンの方向に走行した距離である。したがって、アラインメント1は完全アラインメントの指標となり、一方、これより大きい数値は平行路からの逸脱がより大きいことの指標となる。
図8Dに示すように、ガラス上で評価したSGN神経突起は2.2を超えるアラインメント比を示し、これに対しSBMAストライプ形成基材上の神経突起は、おおよそ1.5のアラインメント比を示した。CBMAストライプ形成基材上の神経突起は、1.09の驚異的に低いアラインメント比を示した。すべての試料グループ間に統計的に有意の差がみられた。CBMA試料はパターンに対してほぼ完全にアラインメントを方向づけ、一方、SBMAストライプも神経突起アラインメントに対する顕著な効果を示した。これらの結果は、双性イオン性コーティングは望ましくない細胞付着を低減するために使用できるだけでなく、神経プロテーゼデバイスなどの標的へ向けて神経突起伸長を誘導するためにも使用できることを示唆する。光パターン形成は、線維芽細胞またはグリア細胞のパターン形成が望ましい状況ではこれらの細胞の付着および増殖を方向づけることもできる。
【0111】
[00154] 事後ダン検定法付き一元配置分散分析を用いて、種々の表面間のタンパク質吸着、細胞付着、および細胞アラインメントを比較することができる。正規分布しない傾向がある神経突起アラインメントについては、順位に基づく一元配置分散分析、続いて前記のクラスカル-ウォリスの事後分散分析を使用できる。予備試験および前試験に基づけば、おおよそ100の神経突起およびシュワン細胞の解析によって統計的に有意の結果が確実に得られるはずである。
【0112】
[00155] フィブリノーゲン、アルブミン、およびフィブロネクチンは、コーティング付きのPDMSおよび白金-イリジウムには、それらがコーティング無し基材に吸着するより有意に少なく吸着する可能性がある。双性イオン性コーティング付きPDMS基材上の細胞付着は、非処理基材上より有意に少ない可能性がある。したがって、双性イオン性薄膜コーティングは人工内耳技術に採用するための有力な候補となる可能性がある。シュワン細胞および蝸牛神経節神経突起は、PDMSおよび白金-イリジウム基材上のマイクロパターンに強くアラインする可能性がある。双性イオン性パターンを三次元骨格に取り込ませることができ、線維形成を防止する一方で蝸牛神経節神経突起および/またはシュワン細胞を誘導することにより、最終的に神経とプロテーゼのインターフェースの改善における次世代人工内耳デザインの情報を提供できる。
【0113】
[00156] 前記の実験と同様に、コーティング無し、非パターン形成SBMA-およCBMA-コーティング付き、ならびに100μm周期性(SBMAおよびCBMAの両方)のガラス基材を、シュワン細胞増殖について試験した。コーティング無し基材上の細胞形態はSBMAおよびCBMAコーティング付き表面のものと視覚的に明らかなほど異なり、細胞が伸展して隣接細胞と相互作用していた。逆に、SBMA官能化基材上で増殖したシュワン細胞はより密度が低いように見え、丸味を帯びた形態を示していた。CBMAコーティング付き基材にはごくわずかに伸展した少数の細胞が見られた。均一にSBMAコーティングした基材上の細胞の定量により、コーティング無し基材と比較して40倍を超えるシュワン細胞密度低下、すなわち線維芽細胞またはアストロサイトについてみられたものより大きい効果が明らかになった。線維芽細胞およびアストロサイトについての所見と同様に、CBMAコーティング付き表面では2倍を超える細胞密度低下が生じ、CBMAコーティング付き基材上ではコーティング無し対照と比較して80倍を超えるシュワン細胞密低下を伴なった。
【0114】
[00157] パターン形成基材上でのシュワン細胞増殖の解析は類似の結果を示し、コーティング無し領域と対照的にコーティング付き領域では細胞付着の反発を伴なった。SBMAおよびCBMA両方のストライプ形成ガラス基材上で増殖したシュワン細胞は、双性イオン性バンドに平行に伸長した。SBMAストライプ上の細胞密度の定量は、コーティング無しバンドと比較してコーティング付きバンド上の細胞密度が比較的中等度の13倍低下を示した;これは均一にコーティングした基材のものより有意に小さいが、それでもなお他の大部分の細胞のものよりはるかに大きい。逆に、CBMAストライプ形成基材上では、シュワン細密度がコーティング無し領域と比較してコーティング付き領域で150倍を上回るほど低下した。この反発は均一にコーティングした表面について観察されたものよりいっそう大きかった。CBMAコーティング付き基材はより大きい細胞密度低下を生じたが、SBMAおよびCBMAポリマーブラシは両方とも、隣接するコーティング無しバンドと比較した場合、有意の低下を示した(p<0.001,t検定)。
【0115】
[00158] シュワン細胞は、末梢神経が破断した場合にニューロン、有髄神経軸索、および誘導軸索(guide axon)の再生に対する栄養支持を提供する。再生しつつある神経細胞はシュワン細胞と緊密にアラインすることが培養において示され、これは基材がシュワン細胞をアラインさせる能力によって軸索路形成(axonal pathfinding)を制御できる可能性があることを示唆する。
【0116】
基材としてのPDMSポリマー
[00159] 人工内耳に一般的に使用される材料(PDMS、白金-イリジウム)の双性イオン性コーティングを、コーティング付き基材およびコーティング無し基材上のタンパク質付着および細胞付着を比較することにより、それらがタンパク質および細胞の付着に抵抗する能力についてインビトロ試験することができる。
【0117】
[00160] タンパク質の吸着は、埋め込まれた異物の表面に暫定マトリックスが形成されるために必要な最初のステップであり、それが次いで免疫細胞および線維芽細胞の付着を容易にする。したがって、タンパク質吸着を防止または低減すると、免疫応答および線維性組織形成は阻止されるであろう。したがって、タンパク質吸着レベルの定量は双性イオン性薄膜が異物反応に抵抗する能力を予測するために有用である。薄いシート状の無菌の外科用PDMSおよび白金-イリジウムスパッターコーティング付きスライドガラスを、CBMAまたはSBMAでコーティングすることができる。対照スライドにはポリマー薄膜コーティングが無い。埋め込まれた基材に吸着して初期の異物応答に関与することが知られている幾つかの構造的に異なるタンパク質を用いて、これらの表面へのタンパク質吸着を調べた。これらには、アルブミン、フィブリノーゲン、およびフィブロネクチンが含まれる。タンパク質の付着は先にガラス基材について述べた免疫蛍光法により測定できる(
図4C)。
【0118】
[00161] 細胞付着アッセイは、前記のように線維芽細胞、シュワン細胞、およびSGNを含めた多様なラット由来初代細胞タイプを用いて行なうことができる。基材に付着する細胞を計数することにより、細胞付着を定量した。線維芽細胞、シュワン細胞、およびSGNの初代培養物を調製することができる。線維芽細胞およびシュワン細胞の培養物については、それぞれ皮膚および坐骨神経をp4-7ラットから分離し、初代細胞株として維持した後、基材上に播種した。ニューロンは一般にいったん播種すると継代生存しないので、蝸牛神経節培養物については蝸牛神経節をp4-7ラットから分離し、解離し、基材に直接播種することができる。6、24、または48時間後に培養物を4%パラホルムアルデヒドで固定し、続いて細胞タイプ特異的マーカー(線維芽細胞についてはビメンチン、シュワン細胞についてはS100、およびニューロンについてはNF200)について免疫染色する。6時間目に固定した細胞は初期付着における相違をより反映しやすく、これに対し48時間目に固定した細胞は細胞付着に加えて細胞生存における相違を反映することができる。
【0119】
[00162]
図9は、PDMS埋込み後のマウス鼓室階の基底回転を通る断面図を示し、22週目の有意の瘢痕組織形成が明らかになる(赤で輪郭を描く)。PDMSトラックを星印でマークした。2つの異なるPDMS材料に対する聴覚応答および組織学的応答をマウス蝸牛において比較した。両方のPDMS材料とも埋め込まれた耳の鼓室階において有意の線維形成を誘導した(
図9);これはヒトおよび他のげっ歯類モデルにおける人工内耳に対する応答と類似していた。同様なラットモデルを用いて、コーティング付きおよびコーティング無しPDMSインプラントに対する蝸牛組織の応答を比較した。PDMSはベンゾフェノン-アセトン浸漬を用いて活性化することができ、白金はメタクリル酸洗浄を用いて活性化することができ、次いで両タイプの基材をCBMAモノマー溶液に浸漬し、コーティングを重合させるためにすべての側を乾燥窒素下で均一にUV照射することができる。次いで基材を無菌生理食塩水中ですすぎ、使用時まで湿潤状態のままにしておくことができる。
【0120】
[00163] 埋め込む前に、インプラントを殺菌灯下でUV照射して滅菌することができる。コーティング付きまたはコーティング無しの、約3mm長さ×0.5mm幅のPDMSスリップ、または約0.5mmの直径をもつ約3mm長さの白金-イリジウムワイヤを、背側進入路を用いて正円窓(蝸牛窓)(round window)を通して左蝸牛に埋め込むことができる。動物を表1に記載するように6匹の4グループに分けた。
【0121】
【0122】
[00164] 各試験前の中耳滲出を除外するために、約1ヶ月目、そして再び約3ヶ月目に、耳鏡検査(otomicroscopy)を用い、聴性脳幹反応(Auditory brainstem response)(ABR)および歪成分耳音響放射(distortion product otoacoustic emission)(DPOAE)を利用して埋込み前聴力(hearing preimplantation)を評価することができる。4、8、16、および32kHzにおけるABR閾値、ならびにDPOAE応答を測定して、蝸牛機能に対する双性イオン性コーティング付き基材の効果、したがってそれらが聴力保存手術(hearing preservation surgery)に使用するのに安全であるかどうかを判定することができる。
【0123】
[00165] 3ヶ月目の聴力測定検査の後、動物をと殺し、両方の蝸牛を採取し、組織検査のために処理することができる。簡単に述べると、4%パラホルムアルデヒドで経心腔的潅流(transcardial perfusion)した後に迷路骨包(otic capsule)を側頭骨から摘出し、4%パラホルムアルデヒ中で24時間、後固定することができる。次いでそれらをPBS中の500mMエチレンジアミン四酢酸(EDTA)で7日間、または骨組織が適度に軟化するまで、脱灰することができる。脱灰後に卵円窓(前庭窓)(oval window)および尖端(apex)を切開して、粘稠な樹脂が蝸牛液腔(cochlear fluid space)中へ適切に浸潤するのを確実にし、かつインプラントをさらに加工する前に蝸牛から取り出すことができるようにした。試料をエタノール勾配、続いてプロピレンオキシド中で脱水し、Spurr樹脂へ移すことができる。100% Spurr樹脂に入れた時点で、試料を包埋ブロック内に適正に配向させ、60℃に一夜加熱して重合させた。包埋した後、正円窓を通る中蝸牛軸面(mid-modiolar plane)でそれらを2等分し、次いで再包埋し、ガラスまたはダイヤモンドナイフを用いて切片にした。
【0124】
[00166] コーティング付きおよびコーティング無しインプラントの周囲の炎症は、免疫組織化学的方法により評価することができる。ヒト側頭骨において先に記載されたように、CD-68はマクロファージを同定することができ、CD20はB細胞を同定することができ、CD3はT細胞を同定することができる。鼓室階の線維性組織が占有する断面積パーセントを決定することができ、免疫応答の規模は線維性組織内の染色されたすべての細胞を計数することにより定量できる。免疫細胞密度は、線維性組織中の細胞の総数を線維性組織が占める面積で割ることにより計算できる。蝸牛内線維形成がどこでどのようにして展開するかを理解するために、正円窓から約2mm(インプラントの中心点)、および正円窓から約5mm(インプラントのわずかに先)の線維形成を測定することができる。最後に、先にマウスおよびネコに用いられた人工内耳モデルに用いた形態学に基づくグレーディングシステムを用いてコルチ器官の完全性を評価し(
図10A~10E)、前記に従ってニューロン生存を定量した。
図10A~10Eに示すように、代表的組織切片について20×倍率でコルチ器官(organ of Corti)(OC)順序グレーディングシステムを示す。スケールバー=100μm。5=正常なOC構造、内有毛細胞および外有毛細胞が存在、内有毛細胞(inner hair cell)(IHC)毛様体(cilia)を目視できる。4=正常なOC構造、IHCおよび外有毛細胞(outer hair cell)(OHC)が存在、IHC毛様体は目視できない。3=異常なIHCおよび/またはOHC、コルチトンネル(tunnel of Corti)開存。2=コルチトンネル崩壊。1=細胞単層。
【0125】
[00167]
図11に示すように、PDMS材料の双性イオン性コーティング(SBMAおよCBMA)はPDMS上の線維芽細胞付着を有意に低減した。ウシ胎仔血清(FBS)を用いると、SBMAコーティングはFBSを用いない場合よりさらに線維芽細胞付着を低減できる。逆に、CBMAコーティングはFBSを用いた場合より用いない場合の方がさらに線維芽細胞付着を低減できる。ウシ胎仔血清は、真核細胞のインビトロ細胞培養のために最も広く用いられている補足血清である。これは、それが含有する抗体のレベルがきわめて低く、より多くの増殖因子を含有し、多種多様な細胞培養用途に汎用できるためである。
【0126】
抗細菌性:湿式試験
[00168] 細菌に関する抗微生物活性は、50%ウシ胎仔血清と共に18~20時間、120RPM、37℃でプレインキュベーションするコロニー形成アッセイを用いて定量でき、これが好ましい。プレインキュベーションの後、一夜培養物から1%トリプトンソイブロス(tryptone soy broth)(TSB)中に浮遊菌濃度1~3×105 CFU/mLになるまで希釈した黄色ブドウ球菌(Staphylococcus aureus) (S. aureus,ATCC 25923)に試料を入れる。試料を細菌と共に24~26時間、撹拌しながら(120rpm)37℃でインキュベートする。TSBの濃度は使用する生物に応じて異なる。インキュベーションの後、緊密に付着していない細菌を除去するために、試料を240RPM、37℃で5分間、3mlのPBS中に入れておく。次いで、材料上に蓄積した細菌を音波処理によって新たなPBS溶液中に分離し、細菌細胞の総数を希釈プレーティングにより定量する。好ましくは、対照におけるコロニー形成と対比して少なくとも1、2、3または4 logの細菌数減少が起きる。表面への血小板、細胞、または他の物質の付着を評価するために、同様な付着アッセイが当技術分野で知られている。基準ポリマーと比較してより少ない細菌数をもつ表面は微生物コロニー形成を低減すると言うことができる。
【0127】
[00169] SBMAおよびCBMA双性イオン性コーティングでコーティングしたPDMS基材について、抗細菌-湿式試験を実施した。細菌は緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現し、37℃で一夜培養された。リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の細菌懸濁液を試料と共に室温で1時間インキュベートした。PDMS基材をPBSで3回洗浄し、落射蛍光顕微鏡でイメージングした。緑色蛍光タンパク質を発現する細菌を計数した。
【0128】
[00170]
図12に示すように、PDMSのCBMAおよびSBMAコーティングは湿潤基材における黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌の付着を有意に低減した。HEMAはメタクリル酸2-ヒドロキシエチルを表わす。Nは実施した実験の回数を表わす。
【0129】
抗細菌性:乾式試験
[00171] SBMAおよびCBMA双性イオン性コーティングでコーティングしたPDMS基材について、抗細菌-乾式試験を実施した。緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するように工学処理した細菌を37℃で一夜培養した。リン酸緩衝化生理食塩水(PBS)中の細菌懸濁液を、試料表面に室温で1時間吹き付けた。試料を室温で1時間インキュベートし、PBSで3回洗浄した。試料を落射蛍光顕微鏡でイメージングした。緑色蛍光タンパク質を発現する細菌を計数した。
【0130】
[00172]
図13は、PDMSのCBMAおよびSBMAコーティングが乾燥基材における黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌の付着を有意に低減したことを示す。
抗細菌性:24時間インキュベーション
[00173] SBMAおよびCBMA双性イオン性コーティングでコーティングしたPDMS基材について、抗細菌、24時間インキュベーション試験を実施した。緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するように工学処理した細菌を37℃で一夜培養した。試料表面をFBSにより37℃で1時間ブロックした。試料をPBSで3回洗浄した。PBS中の細菌懸濁液を試料と共に37℃で24時間インキュベートした。試料をPBSで3回洗浄し、落射蛍光顕微鏡でイメージングした。緑色蛍光タンパク質を発現する細菌を計数した。
【0131】
[00174]
図14は、PDMSポリマーのCBMAおよびSBMAコーティングが24時間インキュベーション下で黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌の付着を有意に低減したことを示す。SBMAおよびCBMAコーティング付き表面は、コーティング無し表面と比較して乾燥表面における黄色ブドウ球菌の付着を低減した。しかし、HEMAは、コーティング無し表面と比較して乾燥表面上の黄色ブドウ球菌の付着を低減しなかった。
【0132】
抗細菌性:48時間インキュベーション
[00175] 緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するように工学処理した細菌を37℃で一夜培養した。試料表面をFBSにより37℃で1時間ブロックした。試料をFBSで3回洗浄した。PBS中の細菌懸濁液を試料と共に37℃で48時間インキュベートした。試料をPBSで3回洗浄した。試料を落射蛍光顕微鏡でイメージングした。緑色蛍光タンパク質を発現する細菌を計数した。
【0133】
[00176]
図15は、PDMSのCBMAおよびSBMAコーティングが48時間インキュベーション下でプレーンな表面と比較して黄色ブドウ球菌および表皮ブドウ球菌の付着を有意に低減したことを示す。
【0134】
経皮および皮下PDMSインプラントの抗-細菌コロニー形成についてのインビボ実験
[00177] SBMAおよびCBMA双性イオン性コーティングでコーティングしたPDMS基材について、経皮および皮下PDMSインプラントの細菌コロニー形成試験を実施した。緑色蛍光タンパク質(GFP)を発現するように工学処理した細菌(黄色ブドウ球菌)を37℃で一夜培養した。約10
8/mlの濃度の細菌を、皮下または経皮のいずれかで設置したCBMAコーティング付きまたはコーティング無しPDMSインプラントに近接して注入した(ライブイメージ)。ライブイメージングシステムを用いてGFP信号を検出した。
図16に示すように、0日目には放射効率の単位はP>0.05ですべて同じであった。その後、CBMAコーティング付きPDMSインプラントはコーティング無しPDMSインプラントと比較して細菌性蛍光信号の低減を示した。
【0135】
細菌計数およびバイオフィルム査定
[00178] Leica DFC350FXデジタルカメラおよびMetamorphソフトウェア(Molecular Devices,カリフォルニア州シリコンバレー)を備えたLeica DMIRE2顕微鏡(Leica Microsystems,イリノイ州バンノックバーン)でデジタル落射蛍光イメージを取得した。バイオフィルム付着アッセイの共焦点レーザー走査型顕微鏡検査の画像結果も得た。
図17は、皮下PDMSインプラントのCBMAコーティングが黄色ブドウ球菌コロニー形成を低減することを示した。コーティング無し基材のGFP発現黄色ブドウ球菌が1,000に近いのと比較して、CBMAコーティングについてのカウントはGFP発現黄色ブドウ球菌が250未満であった。
【0136】
[00179]
図18は、皮下PDMSインプラントのCBMAコーティングが、埋込みから取り出した後の黄色ブドウ球菌コロニー形成を低減したことを示した。GFP発現黄色ブドウ球菌が700に近いコーティング無し基材と比較して、CBMAコーティングについてのカウントはGFP発現黄色ブドウ球菌が100未満であった。
【0137】
血小板付着についてのインビトロ実験
[00180] 新鮮なラット血液を採取し、3.8wt%クエン酸ナトリウム溶液と9:1(v/v)の希釈比で混合した。多血小板血漿(platelet-rich plasma)(PRP)を全血から1000rpm/3500rpmでそれぞれ15分間の遠心により分離した。PRP溶液をSBMAおよびCBMA双性イオン性コーティングでコーティングしたPDMS基材、またはコーティング無しPDMS基材と共に、37℃で60分間インキュベートした。PDMS基材をPBSにより洗浄し、4% PFAで30分間固定した。試料を再びPBSで洗浄した。試料をAlexa Fluor 488 Phallodin(1:250)で60分間染色した。落射蛍光顕微鏡を用いてイメージを取得した。
【0138】
[00181]
図19は、プレーンなコーティング無し基材と比較してCBMAおよびSBMAコーティングが有意に血小板付着を低減することを示した。
血小板付着/血栓形成についてのインビボ実験
[00182]
図20Bは、ラットの大腿静脈に設置した一般的なPDMSインプラントを示す。
図20Aは、この場合は本発明のコーティングでコーティングされた、同じインプラントを示す。架橋コーティングは高度に吸水性の双性イオン性ヒドロゲルを形成し、それは膨潤してつるつるしたゼラチン質の被膜を形成する。それにもかかわらず、PDMS基材へのこのコーティング結合方法は、コーティングをインプラントから剥離しないほど耐久性にする。さらに、結合の剪断強さはコーティング自体の剪断強さより大きく、したがってコーティングは剪断応力下で剥離しないであろう。
図20Aは誇張した厚さのコーティングを示す。実際には、コーティングは実質的にこれより薄くてもなお本発明の有利な特性を保持できる。ある態様において、架橋コーティングの厚さは少なくとも約100nmであってもよい。他の態様において、架橋コーティンの厚さは、たとえば少なくとも約150nm、約200nm、約250nm、約260nm、約270nm、約280nm、約2900nm、約300nm、約330nmであってもよい。ある態様において、架橋コーティングは少なくとも約1ミクロンであってもよい。他の態様において、架橋コーティングは少なくとも約1mmであってもよい。
【0139】
[00183]
図21には、付着(面積当たり最大力)に対するベンゾフェノン濃度(ベンゾフェノンを表面に適用するために用いたアセトンに溶解したベンゾフェノンの濃度)の強い依存性があることを示した。低濃度のベンゾフェノンではPDMS基材への接着が弱く、基材を破断するために必要な面積当たり最大力がより低くなる。溶液濃度が高くなるのに伴なって接着はより強くなり、これは試料を破断するのに必要な面積当たり最大力が増大することにより証明される。より高い濃度のベンゾフェノンはより多数の共有結合を双性イオン性ネットワークとPDMS基材間に形成することができ、その結果、PDMSへのグラフティングがより強くなる。
【0140】
[00184]
図22に示すように、SBMA架橋膜は非活性化(裸の金属)試料と比較してビニルホスホン酸(VA)活性化した膨潤前ステンレススチール基材へのより強い接着を示すことが剪断接着試験により示された。
【0141】
[00185]
図23に示すように、SBMAおよびCBMA双性イオン性コーティングでコーティングしたPDMS基材について、タンパク質付着試験を実施した。SBMAおよびCBMAコーティング付きPDMS表面は、コーティング無しPDMSおよびポリエチレングリコールジアクリレート(PEGDA)と比較して、非特異的なタンパク質付着を有意に低減した。コーティング無しPDMSをベースライン対照として用いた。SBMAコーティング付き表面は最少量の非特異的タンパク質を吸着した。CBMAコーティング付き表面は2番目に少ない量の非特異的タンパク質を吸着した。PEGDAコーティング付き表面は、SBMAまたはCBMAのいずれかをコーティングした表面より多量を吸着した。
【0142】
[00186] 双性イオン性コーティングのインビボ耐久性は、3か月目にインプラント上に残留するコーティングの量を測定することにより評価することができる。埋込み後のインプラント上に残留するコーティングの量を定量するためには、双性イオン性コーティングが水を保持する能力を利用できる。組織学的検査のために処理する前にインプラントを取り出し、水溶性色素吸収アッセイを採用した。埋め込まれていなかった、コーティング付きおよびコーティング無しのPDMSおよび白金片を、対照として使用できる。インプラントを水溶性色素の溶液中でインキュベートし、速やかにすすぎ、次いで少量の溶液で平衡化することができる。次いで分光測光により溶液中の色素の濃度を決定し、それをインプラント上に残留するコーティングの量の間接的な尺度として採用することができる。色素インキュベーション後にインプラントを視覚検査して、コーティングの均一性を評価することもできる。これらの試験のこれらの結果は、インプラント材料上の双性イオン性薄膜コーティングの耐久性、およびそれらが蝸牛内線維形成を有意に低減する能力を確証する。
【0143】
[00187] 双性イオン性コーティング付きのPDMSおよび白金基材は、コーティング無しのPDMSおよび白金基材と比較して線維形成および聴力損失を低減でき、埋め込まれた蝸牛の組織学的検査によって、コーティング無しインプラントよりコーティング付きインプラントの周囲における線維形成の方がかなり少ないのを示すことができる。マウスにおいて行われた先の試験からのデータに基づけば、裸の白金線が生じる線維形成はPDMSより少ない可能性がある。鼓室階内の線維性組織の断面積の閾値低減は生物学的には意味があるであろうが、双性イオン性ヒドロゲルの皮下バルク埋込みからの結果に基づけば、それよりはるかに大きい2~3桁の範囲の差を予想できる。聴力閾値および組織学的状態が保存されていることに反映されるように、コルチ構造の器官がインプラント近接部で有意に歪む可能性はない。最後に、同様な方法で作成された他の薄膜コーティングの耐久性に基づけば、双性イオン性コーティングは無傷のまま基材上に留まることができる。これらの結果は、これらのインプラントが聴力保存人工内耳に使用するために安全、耐久性、かつ有益であることを示し、この技術を人工内耳電極アレイに適用することによって前進させるための強い根拠を提供する。
【0144】
[00188] さらに、双性イオン性ポリマーを金属に接着する方法も立証された。金属表面をまず高温に加熱して、金属酸化物層を表面に形成する。次いで試料を酸素プラズマに曝露して、残存する有機物があればそれらを酸化する。重合性二重結合(たとえば、ビニル基またはメタクリレート基)を備えたモノマーを含有するリン酸(または他の適切な酸)を表面に適用する。酸基がモノマーを表面に化学的結合させる。適切なモノマーの例には、ビニルホスホン酸またはいずれかのホスホン酸(メタ)アクリレートが含まれる。次いで試料をエタノールですすいで、残存する非結合モノマーを除去する。次いで光開始剤を含む双性イオン性モノマー溶液を表面に適用し、光重合させて、架橋膜を金属表面にグラフトさせる。
【0145】
[00189] この技術の適用のひとつは人工内耳材料の薄いコーティングであるが、それらの結果は、特に他の神経プロテーゼ、脈管内ステント、留置カテーテル、美容インプラントを含めた多種多様な非埋込み型および埋込み型の医療用デバイスに全般的に適用できる。多くの医療用インプラントが、炎症、線維形成、血栓形成、および細菌付着を含めた同様な問題に直面している。本発明の技術は、医療用デバイスの開発および使用に著しい効果をもたらす。
【0146】
[00190] 以上の記載は本発明の例示態様に関するものであり、以下の特許請求の範囲に述べる本発明の精神および範囲から逸脱することなく改変できることを理解すべきである。特許請求の範囲に定める本発明の範囲から逸脱することなく改変および変更を行なうことができる。本開示のある側面を本明細書において好ましいかまたは特に有利なものと定めるが、本開示は必ずしもこれらの側面に限定されないものとする。
【0147】
[00191] 以下の1以上の請求項で用語“wherein”を移行句(transitional phrase)として用いる。本開示を規定する目的で、この用語はオープンエンド(非限定)移行句(open-ended transitional phrase)として請求項に導入され、それは一連の特徴または要素の列記を導入するために用いられ、より一般的に用いられるオープンエンドプリアンブル用語(open-ended preamble term)“含む(comprising)”と同様に解釈すべきであることを明記する。
【0148】
[00192] “少なくとも1つの”成分、要素などの引用は、代わりに用いる冠詞“a”または“an”を単一の成分、要素などに限定すべきであるという推論をなすために使用すべきではない。
【0149】
[00193] “好ましくは(preferably)”、“普通は(commonly)”、“有意に(significantly)”、“一般に(typically)”、などの用語を用いる場合、それらは特許請求される発明の範囲を限定するために、あるいは特定の特徴が特許請求される発明の構造または機能にとって必須、本質的、さらには重要であることを暗示するために用いられるのではない。むしろ、これらの用語は、本開示の態様の特定の側面を確認し、あるいは本開示の特定の態様に利用できるかまたは利用できない別のまたは追加の特徴を強調するためのものにすぎない。
【0150】
[00194] 本開示において、用語“実質的に(substantially)”および“おおよそ(approximately)”は、いずれかの量的な比較、数値、測定値、または他の表記に関与する可能性がある固有の不確実性を表わすために用いられる。これらの用語“実質的に”および“おおよそ”は、量的表記が、問題となっている対象の基本的機能に変化を生じることなく、表示した参考値から変動する可能性の程度を表わすためにも用いられる。
【0151】
[00195] 本発明を幾つかの態様に関して記載したが、本明細書に開示した発明の範囲
から逸脱することなく他の態様を考案できることは本開示が有益である当業者らには
認識されるであろう。
以下に、出願時の特許請求の範囲の記載を示す。
[請求項1]
基材;
双性イオン性ポリマーを含む架橋コーティングであって、当該架橋コーティングは、当
該基材の少なくとも1つの表面に共有結合しており、そして当該基材の表面上への生体分
子、細胞、組織または細菌による付着に抵抗するように構成されている、架橋コーティン
グ;
を含むシステム。
[請求項2]
当該基剤が医療用デバイスの構成素子である、請求項1に記載のシステム。
[請求項3]
双性イオン性ポリマーが双性イオン性モノマー単位を含む、請求項1または2に記載の
システム。
[請求項4]
双性イオン性モノマーが、メタクリレート、アクリレート、アクリルアミド、メタクリ
ルアミド、その誘導体、およびその混合物からなる群から選択される、請求項3に記載の
システム。
[請求項5]
メタクリレート誘導体が、カルボキシベタインメタクリレート、ホスホリルコリン(メ
タ)アクリレートおよびスルホベタインメタクリレートからなる群から選択される、請求
項4に記載のシステム。
[請求項6]
当該基剤が金属系基材である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシステム。
[請求項7]
金属系基材が、ステンレススチール、コバルト、クロム、タンタル、マグネシウム、ニ
ッケル、ニチノール、白金、イリジウム、チタン、およびその合金からなる群から選択さ
れる、請求項6に記載のシステム。
[請求項8]
当該基剤が合成ポリマー系基材である、請求項1~5のいずれか1項に記載のシステム
。
[請求項9]
合成ポリマー系基材が、PDMS(ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS))、ポリ
プロピレン、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ
エチレン、ポリケトン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリレート、ポ
リ(メタ)アクリルアミド、ポリラクチド、ポリエステル、およびポリエーテルエーテル
ケトン(PEEK)からなる群から選択される、請求項8に記載のシステム。
[請求項10]
ポリエチレンが、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、架橋UHMWPE、低密
度ポリエチレン(LDPE)および高密度ポリエチレン(HDPE)からなる群から選択
される、請求項9に記載のシステム。
[請求項11]
医療用デバイスが、カテーテル、脈管ステント、歯科インプラント、コンタクトレンズ
、人工内耳、外科用器具、検査鏡、プローブ、脈管内カテーテル、チュービング(IV、
動脈ライン、中枢ライン)、鼓膜チューブ、プレート、スクリュー、ピン、ロッド、能動
型または受動型能の人工中耳、人工椎間板、気管内または気管切開チューブ、脳脊髄液シ
ャント、外科用ドレーン、胸腔チューブおよびドレーン、気管支内ステント、尿ステント
、胆汁ステント、涙ステント、ペースメーカー、除細動器、神経刺激装置、脊髄刺激装置
、脳深部刺激装置、埋込みヘルニアメッシュ、埋込み女性泌尿器メッシュ、眼内レンズ、
美容乳房インプラント、美容殿部インプラント、美容オトガイインプラント、美容頬イン
プラント、受胎調節デバイス、薬物送達デバイス、医療用装置または機器(たとえば、透
析機器または心肺バイパス機器)、および整形外科インプラントからなる群から選択され
る、請求項2に記載のシステム。
[請求項12]
整形外科インプラントが、人工膝関節全置換術(TKR)、人工股関節全置換術(TH
R)、人工肩関節全置換術(TSR)、人工肘関節全置換術(TER)、人工手関節全置
換術(TWR)、人工足関節全置換術(TAR)のためのインプラント、およびその構成
素子からなる群から選択される、請求項11に記載のシステム。
[請求項13]
アクリレート誘導体が、カルボキシベタインアクリレートおよびスルホベタインアクリ
レートからなる群から選択される、請求項4に記載のシステム。
[請求項14]
双性イオン性ポリマーがコポリマーである、請求項1~13のいずれか1項に記載のシ
ステム。
[請求項15]
当該基剤が、ガラス、ガラスセラミックス、およびセラミックスからなる群から選択さ
れる、請求項1~14のいずれか1項に記載のシステム。
[請求項16]
アクリルアミド誘導体が、カルボキシベタインアクリルアミドおよびスルホベタインア
クリルアミドからなる群から選択される、請求項4に記載のシステム。
[請求項17]
双性イオン性ポリマーが架橋剤を含む、請求項1~16のいずれか1項に記載のシステ
ム。
[請求項18]
架橋剤が、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、1,3-ブチレング
リコールジメタクリレート(BGDMA)、1,4-ブタンジオールジアクリレート(B
DDA)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ヘキサンジオールジ
メタクリレート(HDDMA)、1-カルボキシ-N-メチル-N-ジ(2-メタクリロ
イルオキシ-エチル)メタナミニウム分子内塩(CBMX)、(メタ)アクリルアミド、
ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)、およびトリメチロールプロパン
トリアクリレート(TMPTA)からなる群から選択される、請求項17に記載のシステ
ム。
[請求項19]
架橋コーティングがヒドロゲルである、請求項1~18のいずれか1項に記載のシステ
ム。
[請求項20]
当該コポリマーが、下記の構造を有する反復単位:
【化1】
[式中:
R
1は、双性イオン基を含むペンダント基であり;
R
2、R
3は、それぞれ独立して水素、置換もしくは非置換アルキル、またはアルキル
オキシであり;
L
1は、連結基であり;
Nnおよびmは、同一でも異なってもよく、それぞれ整数であり;
L
2は連結基である]
を含む、請求項14に記載のシステム。
[請求項21]
架橋コーティングが、選択された重合領域を含むパターンを形成している、請求項1~
20のいずれか1項に記載のシステム。
[請求項22]
架橋コーティングが、少なくとも約100nmの厚さを有する、請求項1~21のいず
れか1項に記載のシステム。
[請求項23]
基材の少なくとも1つの表面に共有結合したコポリマーを有する基材であって、コポリ
マーが下記の構造を有する反復単位:
【化2】
[式中:
R
1は、双性イオン基を含むペンダント基であり;
R
2、R
3は、それぞれ独立して水素、置換もしくは非置換アルキル、またはアルキル
オキシであり;
L
1は、連結基であり;
Nおよびmは、同一でも異なってもよく、それぞれ整数であり;
L
2は連結基である]
を含む基材。
[請求項24]
当該コポリマーが、下記の構造を有する反復単位:
【化3】
[式中、L
3は連結基である]
を含む、請求項23に記載の基材。
[請求項25]
L
3は-(CH
2)
x-であり、式中のxは約1から約20までの整数である、請求項
24に記載の基材。
[請求項26]
当該基剤が医療用デバイスの構成素子である、請求項23に記載の基材。
[請求項27]
L
3は-(-CH
2-O-CH
2)
x-であり、式中のxは約1から約20までの整数
である、請求項24に記載の基材。
[請求項28]
当該基剤が金属系基材である、請求項23に記載の基材。
[請求項29]
金属系基材が、ステンレススチール、コバルト、クロム、タンタル、マグネシウム、ニ
ッケル、ニチノール、白金、イリジウム、チタン、およびその合金からなる群から選択さ
れる、請求項28に記載の基材。
[請求項30]
双性イオン基が、スルホベタイン, カルボキシベタイン, およびその組合わせからなる
群から選択される、請求項23~29のいずれか1項に記載の基材。
[請求項31]
当該基剤が合成ポリマー系基材である、請求項23に記載の基材。
[請求項32]
合成ポリマー系基材が、PDMS(ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS))、ポリ
プロピレン、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ
エチレン、ポリケトン、ポリスチレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリ
ルアミド、ポリウレタン、ポリラクチド、ポリエステル、およびポリエーテルエーテルケ
トン(PEEK)からなる群から選択される、請求項31に記載の基材。
[請求項33]
ポリエチレンが、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)および架橋UHMWPEか
らなる群から選択される、請求項32に記載の基材。
[請求項34]
医療用デバイスが、カテーテル、脈管ステント、歯科インプラント、コンタクトレンズ
、人工内耳、外科用器具、検査鏡、プローブ、脈管内カテーテル、チュービング(IV、
動脈ライン、中枢ライン)、鼓膜チューブ、プレート、スクリュー、ピン、ロッド、能動
型または受動型の人工中耳、人工椎間板、気管内または気管切開チューブ、脳脊髄液シャ
ント、外科用ドレーン、胸腔チューブおよびドレーン、気管支内ステント、尿ステント、
胆汁ステント、涙ステント、ペースメーカー、除細動器、神経刺激装置、脊髄刺激装置、
脳深部刺激装置、埋込みヘルニアメッシュ、埋込み女性泌尿器メッシュ、眼内レンズ、美
容乳房インプラント、美容殿部インプラント、美容オトガイインプラント、美容頬インプ
ラント、受胎調節デバイス、薬物送達デバイス、医療用装置または機器(たとえば、透析
機器または心肺バイパス機器)、および整形外科インプラントからなる群から選択される
、請求項26に記載の基材。
[請求項35]
整形外科インプラントが、人工膝関節全置換術(TKR)、人工股関節全置換術(TH
R)、人工肩関節全置換術(TSR)、人工肘関節全置換術(TER)、人工手関節全置
換術(TWR)、人工足関節全置換術(TAR)のためのインプラント、およびその構成
素子からなる群から選択される、請求項34に記載の基材。
[請求項36]
当該基剤が、ガラス、ガラスセラミックス、およびセラミックスからなる群から選択さ
れる、請求項23に記載の基材。
[請求項37]
L
3は-(-CH
2-CH
2-O)
x-であり、式中のxは約1から約20までの整数
である、請求項24に記載の基材。
[請求項38]
連結基が、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、1,3-ブチレング
リコールジメタクリレート(BGDMA)、1,4-ブタンジオールジアクリレート(B
DDA)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ヘキサンジオールジ
メタクリレート(HDDMA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)
、およびトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)からなる群から選択さ
れる、請求項23に記載の基材。
[請求項39]
当該コポリマーが、下記の構造を有する反復単位:
【化4】
[式中、L
3は連結基であり;pおよびqは同一でも異なってもよく、それぞれ整数であ
る]を含む、請求項23に記載の基材。
[請求項40]
L
3は-(CH
2)
x-であり、式中のxは約1から約20までの整数である、請求項
39に記載の基材。
[請求項41]
コポリマーが、少なくとも約100nmより大きい厚さを有する、請求項23に記載の
基材。
[請求項42]
下記の構造を有する反復単位を含むコポリマー:
【化5】
[式中:
R
1は、双性イオン基を含むペンダント基であり;
R
2、R
3は、それぞれ独立して水素、置換もしくは非置換アルキル、またはアルキル
オキシであり;
L
1は、連結基であり;
nおよびmは、同一でも異なってもよく、それぞれ整数であり;
L
2は連結基である]。
[請求項43]
当該コポリマーが、下記の構造を有する反復単位:
【化6】
[式中、L
3は連結基である]
を含む、請求項42に記載のコポリマー。
[請求項44]
L
3は-(CH
2)
x-であり、式中のxは約1から約20までの整数である、請求項
43に記載のコポリマー。
[請求項45]
L
3は-(-CH
2-CH
2-O)
x-であり、式中のxは約1から約20までの整数
である、請求項43に記載のコポリマー。
[請求項46]
双性イオン基が、スルホベタインおよびカルボキシベタインからなる群から選択される
、請求項42に記載のコポリマー。
[請求項47]
医療用システムの構成素子の少なくとも1つの表面に組織または防汚コーティングを作
成するための、下記を含む方法:
当該コーティングの接着を増進するための物質で当該表面を前処理する;
双性イオン性モノマーを含有する液体を医療用システムの構成素子の表面に適用する;
及び
双性イオン性モノマーを架橋剤の存在下において光源下で重合させて、双性イオン性ポ
リマーコーティングを形成する。
[請求項48]
双性イオン性モノマーがメタクリレート誘導体を含む、請求項47に記載の方法。
[請求項49]
メタクリレート誘導体が、カルボキシベタインメタクリレートまたはスルホベタインメ
タクリレートからなる群から選択される、請求項48に記載の方法。
[請求項50]
光源が紫外(UV)線である、請求項47~49のいずれか1項に記載の方法。
[請求項51]
さらに、未反応の双性イオン性モノマーを医療用システムの構成素子から洗浄除去する
ことを含む、請求項47~50のいずれか1項に記載の方法。
[請求項52]
架橋剤が、エチレングリコールジメタクリレート(EGDMA)、1,3-ブチレング
リコールジメタクリレート(BGDMA)、1,4-ブタンジオールジアクリレート(B
DDA)、1,6-ヘキサンジオールジアクリレート(HDDA)、ヘキサンジオールジ
メタクリレート(HDDMA)、ネオペンチルグリコールジアクリレート(NPGDA)
、およびトリメチロールプロパントリアクリレート(TMPTA)からなる群から選択さ
れる、請求項47~51のいずれか1項に記載の方法。
[請求項53]
当該表面を水素引抜き型光開始剤で前処理する、請求項47~52のいずれか1項に記
載の方法。
[請求項54]
水素引抜き型光開始剤が、カンファーキノン、ベンゾフェノン、チオキサントン、6,
7-ジクロロ-5,8-キノリンジオン、1,4-ナフトキノン、ナフトジオキシノン-
1,3-ベンゾジオキソール、その誘導体、およびその混合物からなる群から選択される
、請求項53に記載の方法。
[請求項55]
光源が、水素引抜き型光開始剤を光活性化し、同時に双性イオン性モノマーを重合させ
て、双性イオン性ポリマーコーティングを基材に共有結合させる、請求項53に記載の方
法。
[請求項56]
表面をオゾン、酸素プラズマ、または紫外線で前処理する、請求項47に記載の方法。
[請求項57]
さらに、フォトマスクを用いて医療用システムの構成素子の表面の一部分を覆い、当該
表面のその部分における重合反応を阻止することを含む、請求項53~55のいずれか1
項に記載の方法。
[請求項58]
i.基材;
ii.ポリ(エチレン)グリコールの層を含む架橋コーティングであって、当該架橋コ
ーティングは、当該基材の少なくとも1つの表面に共有結合しており、そして当該基材の
表面上への生体分子、細胞、組織または細菌の付着に抵抗するように構成されている、架
橋コーティング;
を含むシステム。
[請求項59]
当該基材が医療用デバイスの構成素子である、請求項58に記載のシステム。
[請求項60]
ポリ(エチレン)グリコールポリマー層がエチレングリコールモノマー単位を含む、請
求項58に記載のシステム。
[請求項61]
当該基材が金属系基材である、請求項58に記載のシステム。
[請求項62]
金属系基材が、ステンレススチール、コバルト、クロム、タンタル、マグネシウム、ニ
ッケル、ニチノール、白金、イリジウム、チタン、およびその合金からなる群から選択さ
れる、請求項61に記載のシステム。
[請求項63]
当該基材が合成ポリマー系基材である、請求項58に記載のシステム。
[請求項64]
合成ポリマー系基材が、PDMS(ポリ(ジメチルシロキサン)(PDMS))、ポリ
プロピレン、ポリウレタン、ポリフッ化ビニリデン、ポリエチレンテレフタレート、ポリ
エチレン、ポリケトン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリ(メタ)アクリレート、ポ
リ(メタ)アクリルアミド、ポリラクチド、ポリエステル、およびポリエーテルエーテル
ケトン(PEEK)からなる群から選択される、請求項63に記載のシステム。
[請求項65]
ポリエチレンが、超高分子量ポリエチレン(UHMWPE)、架橋UHMWPE、低密
度ポリエチレン(LDPE)、および高密度ポリエチレン(HDPE)からなる群から選
択される、請求項64に記載のシステム。
[請求項66]
医療用デバイスが、カテーテル、脈管ステント、歯科インプラント、コンタクトレンズ
、人工内耳、外科用器具、検査鏡、プローブ、脈管内カテーテル、チュービング(IV、
動脈ライン、中枢ライン)、鼓膜チューブ、プレート、スクリュー、ピン、ロッド、能動
型または受動型の人工中耳、人工椎間板、気管内または気管切開チューブ、脳脊髄液シャ
ント、外科用ドレーン、胸腔チューブおよびドレーン、気管支内ステント、尿ステント、
胆汁ステント、涙ステント、ペースメーカー、除細動器、神経刺激装置、脊髄刺激装置、
脳深部刺激装置、埋込みヘルニアメッシュ、埋込み女性泌尿器メッシュ、眼内レンズ、美
容乳房インプラント、美容殿部インプラント、美容オトガイインプラント、美容頬インプ
ラント、受胎調節デバイス、薬物送達デバイス、医療用装置または機器(たとえば、透析
機器または心肺バイパス機器)、および整形外科インプラントからなる群から選択される
、請求項59に記載のシステム。
[請求項67]
整形外科インプラントが、人工膝関節全置換術(TKR)、人工股関節全置換術(TH
R)、人工肩関節全置換術(TSR)、人工肘関節全置換術(TER)、人工手関節全置
換術(TWR)、人工足関節全置換術(TAR)のためのインプラント、およびその構成
素子からなる群から選択される、請求項66に記載のシステム。
[請求項68]
当該基剤が、ガラス、ガラスセラミックス、およびセラミックスからなる群から選択さ
れる、請求項58に記載のシステム。
[請求項69]
架橋コーティングがヒドロゲルである、請求項58に記載のシステム。
[請求項70]
架橋コーティングが、選択された重合領域を含むパターンを形成している、請求項58
に記載のシステム。
[請求項71]
架橋コーティングが少なくとも100nmの厚さを有する、請求項58に記載のシステ
ム。
[請求項72]
i.基材;
ii.双性イオン性ポリマーを含む架橋コーティングであって、当該架橋コーティング
は当該基材の少なくとも1つの表面に共有結合している、架橋コーティング;
を含むシステム。
[請求項73]
当該基材が医療用デバイスの構成素子である、請求項72に記載のシステム。
[請求項74]
架橋コーティングがカルボキシベタインメタクリレート(CBMA)またはスルホベタ
インメタクリレート(SBMA)を含む、請求項72または73に記載のシステム。
[請求項75]
当該基剤が金属系基材である、請求項72に記載のシステム。
[請求項76]
当該基剤がポリマー系基材である、請求項72に記載のシステム。
[請求項77]
双性イオン性ポリマーが第1光開始剤で架橋され、第2光開始剤で当該基材の少なくと
も1つの表面に共有結合された、請求項72~76のいずれか1項に記載のシステム。
[請求項78]
それらの光開始剤が、光源によって同時に光活性化された、請求項77に記載のシステ
ム。
[請求項79]
当該表面が、フォトマスクを用いて、当該表面上にコーティング付き領域とコーティン
グ無し領域のパターンが生成するように調製された、請求項77に記載のシステム。