(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】メタメリックセキュリティデバイス
(51)【国際特許分類】
B42D 25/378 20140101AFI20220114BHJP
G02B 5/26 20060101ALI20220114BHJP
B42D 25/369 20140101ALI20220114BHJP
【FI】
B42D25/378
G02B5/26
B42D25/369
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019008519
(22)【出願日】2019-01-22
【審査請求日】2019-03-18
(32)【優先日】2018-01-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】502151820
【氏名又は名称】ヴァイアヴィ・ソリューションズ・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】Viavi Solutions Inc.
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100173794
【氏名又は名称】色部 暁義
(72)【発明者】
【氏名】ポール トーマス コールマン
(72)【発明者】
【氏名】コルネリス ジャン デルスト
【審査官】藤井 達也
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-231608(JP,A)
【文献】特表2005-513207(JP,A)
【文献】特表2017-521281(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B42D 25/00-25/485
G02B 5/26- 5/28
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の第1の領域上に設け
られ、5層構造である第1の色変化顔料と、
前記基板の第2の領域上に設けられ、
7層構造であり少なくとも3つの高屈折率誘電体層
及び反射体層を含む第2の顔料と、
を備えるセキュリティデバイスであって、
前記第1の色変化顔料と前記第2の顔料とは、第1の視野角において等色
し、
前記第1の色変化顔料は、前記第2の顔料中の誘電体材料とは異なる誘電体材料を含む、セキュリティデバイス。
【請求項2】
前記第1の色変化顔料は、低屈折率材料を有する誘電体層を含む、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項3】
前記第1の色変化顔料の光学厚みは、前記第2の顔料の光学厚みとは異なる、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項4】
前記第1の色変化顔料の光学厚みは、前記第2の顔料の光学厚みよりも厚い、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項5】
前記第1の色変化顔料は、以下の構造、吸収層/誘電体層/反射体層/誘電体層/吸収層の構造を有する、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項6】
前記第2の顔料は、以下の構造、誘電体層/吸収層/誘電体層/反射体層/誘電体層/吸収層/誘電体層の構造を有する、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項7】
前記第1の色変化顔料はフッ化マグネシウム層を含む、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項8】
前記第2の顔料は硫化亜鉛層を含む、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項9】
前記第2の顔料は、視野角の変化に伴いゆっくり色変化する、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項10】
前記第1の色変化顔料は、視野角の変化に伴い色変化する、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項11】
前記第1の色変化顔料は磁気層を含む、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項12】
前記第2の顔料は磁気層を含む、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項13】
前記等色は、隣接する前記第1の色変化顔料および第2の顔料間がシームレス分離して見える約0ΔE~約2.0ΔEの最小知覚色差を含む、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項14】
前記等色は、隣接する前記第1の色変化顔料および第2の顔料間が毛線分離して見える約0ΔE~約5.0ΔEの最小知覚色差を含む、請求項1に記載のセキュリティデバイス。
【請求項15】
基板の第1の領域に
5層構造を含む第1の色変化顔料を塗布することと、
前記基板の前記第1の領域に隣接する第2の領域に少なくとも3つの高屈折率誘電体層
及び反射体層を
有する7層構造を含む第2の顔料を塗布してセキュリティデバイスを形成することと、を含む、セキュリティデバイスを作成する方法。
【請求項16】
請求項1に記載のセキュリティデバイスを、第1の視野角においてスペクトル計測することと、
前記セキュリティデバイスを、第2の視野角においてスペクトル計測することと、を含むセキュリティデバイスの自動認証の方法であって、
前記セキュリティデバイスの第1の色変化顔料と前記セキュリティデバイスの第2の顔料とは、前記第1の視野角において等色し、前記第2の視野角において等色しない、方法。
【発明の詳細な説明】
【関連出願】
【0001】
本願は、2018年1月22日出願の米国特許仮出願第62/620,294号についての優先権を主張するものであり、その開示は援用により本明細書に援用する。
【技術分野】
【0002】
本願は、広範な照明条件下にわたって、第1の視野角において等色し、第2の視野角において等色しない1対の顔料を備えるセキュリティシステムに関する。当該1対の顔料は、異なるコーティング構造を用いることにより作成することができる。セキュリティデバイスの作成方法も開示する。
【背景技術】
【0003】
所定の視野角において等色する2つの印刷領域を含むセキュリティデバイスを提供することが目標とされてきた。この目標を達成するため、従来より、異なる誘電体材料(例えば、4×1/4波長のMgF2シフターおよび4×1/4波長のZnS非シフター)を有する1対の類似する顔料デザインを用いて、または同じ顔料デザインおよび類似する誘電体材料(例えば、2×1/4波長のMgF2および4×1/4波長のMgF2設計)を用いて、狭い照明条件範囲内で等色させるか、または全く等色させないことが行われてきた。この従来の取り組みでは、誘電体層干渉顔料と濃い誘電体層干渉顔料との組み合わせを用いた。これら2つの顔料のスペクトル結果はあまり一致しなかった。これらの顔料の反射スペクトルにおける反射のピーク・バレーの間隔および幅が異なっていたからである。スペクトルは非常に異なる。第2の取り組みでは、低指数誘電体層干渉顔料と高指数誘電体干渉顔料との組み合わせを用いた。これら2つの顔料のスペクトル結果はあまり一致しなかった。高指数誘電体層干渉顔料の反射スペクトルにおける反射のピーク・バレーの間隔および幅が、低指数誘電体層干渉顔料のものとは異なっていたからである。その結果、一定の照明条件下において良く等色したが、多くの他の照明条件下ではやはり等色しなかった。
【0004】
例えば、他の顔料対は、広い照明条件範囲にわたって等色したが、当該顔料の彩度が低い場合(例えば、2×1/4波長MgF2シフターおよび2×1/4波長ZnS非シフター)に限られていた。色性能があまりにも低くセキュリティデバイスとして実効的ではなかった。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0005】
一態様において、基板と、前記基板の第1の領域上に設けた第1の色変化顔料と、前記基板の第2の領域上に設けた第2の顔料であって、少なくとも3つの誘電体層を含む第2の顔料と、を備えるセキュリティデバイスであって、前記第1の色変化顔料および前記第2の顔料は、第1の視野角において等色する、セキュリティデバイスを開示する。
【0006】
別の態様において、セキュリティデバイスを形成する方法であって、基板の第1の領域に第1の色変化顔料を塗布することと、前記基板の前記第1の領域に隣接する第2の領域に第2の顔料を塗布してセキュリティデバイスを形成することと、を含む方法を開示する。
【0007】
種々の実施形態のさらなる特徴および利点は、以下の明細書において部分的に開示され、また当該明細書から部分的に明らかとなり、種々の実施形態を実施することにより理解されよう。種々の実施形態の目的およびその他の利点は、本明細書における記載において特に示すような各要素および組み合わせによって理解され達成されることとなる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【
図1A】比較例1による完全白色光下でのセキュリティデバイスの反射率を示すスペクトル計測のグラフである。
【
図1B】比較例1によるCIE-D65(昼光)下でのセキュリティデバイスの反射率を示すスペクトル計測のグラフである。
【
図1C】比較例1によるCIE-A(白熱光)下でのセキュリティデバイスの反射率を示すスペクトル計測のグラフである。
【
図1D】比較例1によるCIE-F2(白色蛍光)下でのセキュリティデバイスの反射率を示すスペクトル計測のグラフである。
【
図2A】比較例2による完全白色光下でのセキュリティデバイスの反射率を示すスペクトル計測のグラフである。
【
図2B】比較例2によるCIE-D65(昼光)下でのセキュリティデバイスの反射率を示すスペクトル計測のグラフである。
【
図2C】比較例2によるCIE-A(白熱光)下でのセキュリティデバイスの反射率を示すスペクトル計測のグラフである。
【
図2D】比較例2によるCIE-F2(白色蛍光)下でのセキュリティデバイスの反射率を示すスペクトル計測のグラフである。
【
図3A】実施例1による完全白色光下でのセキュリティデバイスの反射率を示すスペクトル計測のグラフである。
【
図3B】実施例1によるCIE-D65(昼光)下でのセキュリティデバイスの反射率を示すスペクトル計測のグラフである。
【
図3C】実施例1によるCIE-A(白熱光)下でのセキュリティデバイスの反射率を示すスペクトル計測のグラフである。
【
図3D】実施例1によるCIE-F2(白色蛍光)下でのセキュリティデバイスの反射率を示すスペクトル計測のグラフである。
【
図4】視野角が10度から30度に変化したときの実施例1の各顔料のスペクトル計測のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
いくつかの態様および実施形態における本開示の内容は、発明の詳細な説明および添付の図面からさらによく理解することができる。
【0010】
本明細書および図面を通して、同一の素子には同一の参照番号を付して示す。
【0011】
上記の概括的な記載と以下の詳細な説明は単なる具体例であって例示だけを目的としており、本明細書において教示する種々の実施形態についての説明を提供することを意図していることが理解されよう。各図面において示す各層/各成分を特定の図面に関連して説明する場合があるが、特定の層/成分についての説明は、他の図面における同等の層/成分に適用可能でありうることを理解されたい。
【0012】
基板と、前記基板の第1の領域上に設けた第1の色変化顔料と、前記基板の第2の領域上に設けた第2の顔料であって、少なくとも3つの誘電体層を含む第2の顔料と、を備えるセキュリティデバイスであって、前記第1の色変化顔料と前記第2の顔料とは第1の視野角において等色し、前記第1の色変化顔料と前記第2の顔料とは第2の視野角において等色しないことを特徴とするセキュリティデバイスを、その広範かつ種々の実施形態において開示する。特に、第2の顔料は、各オーダの間隔を調整して第1の色変化顔料の設計に適合させることができるように設計することができる。このようにして、所定の角度においては、照明条件にかかわらず、スペクトルを非常に近く一致させること、例えば等色させることができる。セキュリティデバイスにおいて使用するこれらの顔料は高性能顔料である。
【0013】
第1の色変化顔料を、例えば溶媒または水等の担体とともに含ませて、第1の塗料またはインクを形成することができる。同様に、第2の顔料を、例えば溶媒または水等の担体とともに含ませて、第2の塗料またはインクを形成することができる。このような塗料またはインクを、装飾目的で、または偽造防止手段として、基板に塗布し、セキュリティデバイスを形成することができる。セキュリティデバイスの非限定的な例としては、紙幣、クレジットカード、株券、ソフトウエア媒体、その他高価値を有する文書等を挙げることができる
【0014】
セキュリティデバイスは基板を含むことができる。基板の非限定的な例としては、紙、ガラス、ポリマー(例えば、プラスチック)、金属、およびそれらの組み合わせが挙げられる。各基板の大きさおよび形状は、セキュリティデバイスの需要および種類に応じて変化させることができる。
【0015】
基板には、第1の領域および第2の領域等、1つまたは複数の領域を設けることができる。第1の領域は第2の領域に隣接させることができる。別の態様において、第1の領域は部分的にまたは完全に第2の領域と重複することができる。この部分的または完全な重複は、第1の色変化顔料を用いて形成することもできる。一態様において、第1の色変化顔料は、基板の第1の領域上に設けることができる。第2の顔料は、基板の第2の領域上に設けることができる。第1の領域および第2の領域は、形状、画像、記号、模様、単語等を創出するように配置することができる。
【0016】
セキュリティデバイスは、第1の色変化顔料を含むことができる。第1の色変化顔料は、溶媒または水等の担体と組み合わせて、第1の視野角において第2の顔料と等色する第1のインクまたは塗料を構成することができる。一態様において、第1の色変化顔料は、視野角が例えば第1の視野角から第2の視野角等へ変化するのに伴って、色変化しうる。第1の色変化顔料は、第2の視野角において第2の顔料と等色しないようにすることができる。
【0017】
本明細書において使用する用語「等色する」は、同一の照明条件および視野角下での最小知覚色差(a minimum perceptible color difference)が約0ΔE~約2.0ΔEであり、例えば約1.5ΔE~約2.0ΔEであり、隣接する顔料対がシームレスに見えることを意味すると理解される。別の態様において、等色は、隣接する顔料対間が毛線分離(a hairline separation)して見える約0ΔE~約5.0ΔEの最小知覚色差、例えば約2.0ΔE~約5.0ΔEの最小知覚色差を有することができる。スペクトル計測を用いてΔEを測定することができる。用語「等色しない」は、同一の照明条件および視野角下で、ΔEが、顔料対がシームレス分離または毛線分離して見える上記値の範囲外にあることを意味すると理解される。
【0018】
第1の色変化顔料は、5層構造等の多層構造を含むことができる。一態様において、第1の色変化顔料は、以下の構造、すなわち、吸収層/誘電体層/反射体層/誘電体層/吸収層の構造を有することができる。別の態様において、第1の色変化顔料は、反射体層を、以下の構造、すなわち、反射体層/磁気層/反射体層または反射体層/磁気層の構造を有するコアで置き換えた構造を有することができる。第1の色変化顔料は磁気層を含むことができる。第1の色変化顔料の多層構造の各層のそれぞれに存し得る各材料の非限定的な例は、本明細書においてさらに詳細に説明する。
【0019】
第1の色変化顔料は、第2の顔料中の誘電体材料とは異なる誘電体材料を含むことができる。しかしながら、第1の色変化顔料の各誘電体層中の誘電体材料は同じであっても異なってもよい。一態様において、第1の色変化顔料は、例えばフッ化マグネシウム等の低屈折率材料を有する誘電体層を含むことができるだけでなく、または追加で、本明細書において開示する任意の他の低屈折率材料を含むことができる。低屈折率(LoRI)材料を使用することで、第1の色変化顔料の色変化量を増加させることができる。
【0020】
別の態様において、第1の色変化顔料の光学厚みは、第2の顔料の光学厚みと同じとすることも異ならせることもできる。例えば、第1の色変化顔料の光学厚みは、第1の視野角において第2の顔料と等色するのに最適化した厚みとすることができる。この光学厚みは、第2の顔料の光学厚みよりも小さくすることができる。このようにして、第1の色変化顔料は、第2の顔料よりも速く色変化することができる。例えば、垂直方向からさらに高視野角へと傾斜するとき、第1の色変化顔料の角度における色の色相角が、第2の顔料の角度における色の色相角を通過する。
【0021】
セキュリティデバイスは、第2の顔料を含むこともできる。第2の顔料は、例えば媒体または水等の担体と組み合わせて、第1の視野角において第1の色を呈する第2のインクまたは塗料を構成することもできる。一態様において、第2の顔料は、第1の視野角において第1の色変化顔料と等色することができる。一態様において、第2の顔料は、第1の色変化顔料よりもゆっくり色変化することができる。このようにして、第2の顔料は、第2の視野角においては等色しないようにすることができる。
【0022】
第2の顔料は、例えば7層構造等の多層構造を含むことができる。一態様において、第2の顔料は、以下の構造、すなわち、誘電体層/吸収層/誘電体層/反射体層/誘電体層/吸収層/誘電体層の構造を含むことができる。別の態様において、第2の顔料は、反射体層を、以下の構造、すなわち、反射体層/磁気層/反射体層または反射体層/磁気層の構造を有するコアで置き換えた構造を有することができる。別の態様において、第2の顔料は磁気層を含むことができる。別の態様において、第2の顔料は、例えば高屈折率(HiRI)材料の層を少なくとも3層等、少なくとも3つの誘電体層を含むことができる。第2の顔料の多層構造の各層のそれぞれに存し得る材料の非限定的な例は、本明細書においてさらに詳細に説明する。さらに多くの層を追加することにより、第2の顔料の反射スペクトルをチューニングして第1の色変化顔料の反射スペクトルと同様にする自由度が増加する。
【0023】
第2の顔料は、第1の色変化顔料中の誘電体材料とは異なる誘電体材料を含むことができる。しかしながら、第2の顔料の各誘電体層中の誘電体材料は同一であっても異なっていてもよい。一態様において、第2の顔料は、例えば硫化亜鉛等、高屈折率を有する誘電体材料を含むことができるが、本明細書に開示する任意の他の高屈折率を有する材料を含むことができる。高屈折率材料を使用することで、第2の顔料の色変化量を減少させることができる。
【0024】
別の態様において、第2の顔料の光学厚みは、第1の色変化顔料の光学厚みと同じとすることも異ならせることもできる。例えば、第2の化顔料の光学厚みは、第1の視野角において第1の色変化顔料と等色するのに最適化した厚みとすることができる。例えば、第2の顔料の光学厚みは、第1の色変化顔料の光学厚みよりも小さくすることができる。このようにして、第2の顔料は、第1の色変化顔料よりも色変化が遅い。
【0025】
第1の色変化顔料の多層構造は、以下の各段落において述べる材料から形成することができる。なお、第1の顔料および第2の顔料のそれぞれにおいて用いられる各材料は、すなわち、各顔料内において、または各顔料間において、同じとすることも異ならせることもできる。追加的に、第1の顔料および第2の顔料それぞれの多層構造は、第1の顔料および第2の顔料が第1の視野角において等色することができ第2の視野角において等色しない限りにおいて、上述した層以外の層を含むことができる。
【0026】
反射体層は、顔料の用途に適した反射特性を有する材料で構成することができる。例えば、反射体材料はアルミニウムとすることができる。アルミニウムは、良好な反射特性を有する一方、安価であり、また薄層に形成しやすいからである。しかしながら、本明細書の教示に鑑みれば、アルミニウムに代えてその他の反射体材料を用いることができることが理解されよう。反射体材料としては、例えば、銅、銀、金、白金、パラジウム、ニッケル、コバルト、ニオブ、クロム、錫、チタン、鉄、およびこれらの組み合わせまたは合金、またはその他の金属を使用可能である。他の有用な反射体材料の例としては、限定はしないが、ランタノイド金属をはじめとする他の遷移金属、およびそれらの組み合わせが挙げられる。加えて、反射体材料としては、炭化金属、酸化金属、窒化金属、硫化金属、それらの組み合わせ、または金属および1つまたは複数のこれらの材料の混合物も用いることができる。
【0027】
反射体層の厚みは約10nm~約150nmの範囲内とすることができるが、この範囲は限定的なものではないと解すべきである。例えば、下限値を約10nmとすれば、反射体層を半透明とすることができる。反射体層の厚みを増加させると、反射体層をさらに不透明にすることができる。上限値を約150nmとすれば、主に、顔料において直径と厚みとの高アスペクト比を維持することができる。目的によっては、さらに厚みを大きくすることも許容される。別の態様において、反射体層の厚みを約60nm~約150nmとすることができる。下限値を約60nmとしたことについて、この下限値を選択することにより、反射率を促進することを目的としてアルミニウム層が実質的に不透明となる厚みとすることができる。
【0028】
誘電体層は、「低」屈折率を有する材料で構成することができ、本明細書において、低屈折率は約1.65以下の屈折率として規定している。低屈折率材料の非限定的な例としては、二酸化ケイ素(SiO2)、酸化アルミニウム(Al2O3)、例えばフッ化マグネシウム(MgF2)、フッ化アルミニウム(AlF3)、フッ化セリウム(CeF3)、フッ化ランタン(LaF3)、フッ化アルミニウムナトリウム類(例えば、Na3AlF6またはNa5Al3F14)、フッ化ネオジウム(NdF3)、フッ化サマリウム(SmF3)、フッ化バリウム(BaF2)、フッ化カルシウム(CaF2)、フッ化リチウム(LiF)等の金属フッ化物、それらの組み合わせ、または、屈折率が約1.65以下である任意の他の低屈折率材料が挙げられる。例えば、低屈折率材料としてジエンまたはアルケンをはじめとする有機モノマーおよびポリマーを用いることができ、例として、アクリレート類(例えば、メタクリレート)、パーフルオロアルケン類、ポリテトラフルオロエチレン(TEFLON(登録商標))、フッ素化エチレンプロピレン(FEP)、その組み合わせ等を挙げることができる。誘電体層は、特定の設計波長における複数の半波長の最適化厚みを有するように形成することができ、その物理的な厚みは約50nm~約800nmの範囲内とすることができ、例えば、約72nm~約760nmの範囲内とすることができ、さらなる例としては約200nm~約600nmの範囲内とすることができる。
【0029】
誘電体層は、「高」屈折率を有する材料で構成することができ、本明細書において、高屈折率は約1.65超の屈折率として規定している。高屈折率材料の非限定的な例としては、硫化亜鉛(ZnS)、酸化亜鉛(ZnO)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、二酸化チタン(TiO2)、炭素、酸化インジウム(In2O3)、酸化インジウム錫(ITO)、五酸化タンタル(Ta2O5)、酸化セリウム(CeO2)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化ユーロピウム(Eu2O3)、四酸化三鉄(酸化鉄(II,III))(Fe3O4)および三酸化二鉄(Fe2O3)等の酸化鉄、窒化ハフニウム(HfN)、炭化ハフニウム(HfC)、酸化ハフニウム(HfO2)、酸化ランタン(La2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化ネオジム(Nd2O3)、酸化プラセオジム(Pr6O11)、酸化サマリウム(Sm2O3)、三酸化アンチモン(Sb2O3)、炭化ケイ素(SiC)、窒化ケイ素(Si3N4)、一酸化ケイ素(SiO)、三酸化セレン(Se2O3)、酸化錫(SnO2)、三酸化タングステン(WO3)、それらの組み合わせ等が挙げられる。誘電体の物理的厚みは、約50nm~約800nmの範囲内とすることができ、例えば、約72nm~約760nmの範囲内とすることができる。
【0030】
吸収層は、可視スペクトルにおいて均一吸収率または選択的吸収率を有する、あらゆる金属類または金属組成物類を含むことができる。そのような材料の非限定的な例としては、クロム、ニッケル、鉄、チタン、アルミニウム、タングステン、モリブデン、ニオブ、炭素、およびケイ素;金属の硫化物類、窒化物類、リン化物類、および酸化物類;それらの各組み合わせまたは合金類、例えばインコネル(Ni-Cr-Fe)等;誘電体マトリクス中に混合した金属類;酸化鉄(例えば、Fe2O3)、一酸化ケイ素(SiO)、酸化クロム(Cr2O3)、炭素、窒化チタン(TiN)、亜酸化チタン(TiOx、xは2.0未満)、それらの組み合わせ等の吸収誘電体材料;または可視スペクトルにおいて均一または選択的体として作用可能な他の物質が挙げられる。これらの吸収物質における実成分の屈折率(n)と虚数成分の屈折率、吸光係数(extinction coefficient)(k)との比は0.1<n/k<10の関係を満たす。吸収層の物理的厚みは、約2nm~約80nmの範囲内とすることができ、例えば、約3nm~約30nmとすることができる。
【0031】
本明細書において説明するように、第1の色変化顔料および第2の顔料の多層構造中の反射体層は、以下の構造、すなわち、反射体層/磁気層/反射体層または反射体層/磁気層の構造を有するコアで置き換えることができ、ここで、磁気層は磁性材料を含む。磁気層を用いることにより磁性色変化顔料を生成することができ、これは、例えば、クレジットカード、小切手、またはバーコードパターン等の用途において有用である。この用途の各目的のため、「磁性」材料は強磁性またはフェリ磁性とすることができる。磁気層において用いるのに好適な材料の非限定的な例として、ニッケル、コバルト、鉄、ガドリニウム、テルビウム、ジスプロシウム、エルビウム、及びそれらの合金類および酸化物類、Fe/Si、Fe/Ni、Fe/Co、Fe/Ni/Mo、SmCo5、NdCo5、Sm2Co17、Nd2Fe14B、TbFe2、Fe3O4、NiFe2O4、およびCoFe2O4、並びにこれらの組み合わせが挙げられる。磁気層、または磁気層の磁性物質は永久に帯磁可能である必要はないが、永久に帯磁可能としてもかまわない。
【0032】
セキュリティデバイスを作成する方法であって、基板の第1の領域に第1の色変化顔料を塗布することと、前記基板の前記第1の領域に隣接するかまたは一部または全部が前記第1の領域に重なる第2の領域に第2の顔料を塗布してセキュリティデバイスを形成することと、を含む方法も開示する。基板、第1の色変化顔料、第2の顔料、およびセキュリティデバイスは本明細書に開示した通りである。
【0033】
セキュリティデバイスを第1の視野角においてスペクトル計測することと、セキュリティデバイスを第2の視野角においてスペクトル計測することと、を含むセキュリティデバイスの自動認証の方法であって、セキュリティデバイスの第1の色変化顔料は、第1の視野角において、セキュリティデバイスの第2の顔料と等色する、方法も開示する。第1の色変化顔料は、第2の視野角において、第2の顔料と等色しない。
【0034】
複合コーティングデザインを用いて生成した標本(exemplars)は、観察条件に左右されない等色を達成した。これにより、鮮やかな顔料のうちの一方によるパターンを他方の顔料上に印刷することが可能となった。この所定の視野角において、これら2つの顔料は等色し、パターンは見えない。このサンプルを傾けると、目を引く方法でパターンが浮かび上がる。これは、セキュリティ物品を白熱光下、蛍光下、または昼光下で観察したかにかかわりなく起こる。
【0035】
<比較例1>
1対の顔料を形成した。第1の色変化顔料の構造は、以下の通りであった。すなわち、吸収層/誘電体層/反射体層/誘電体層/吸収層の構造を有していた。第1の色変化顔料内の各誘電体層は、それぞれ、光学厚みが2QWOT(1/4波長光学厚み)であった。第2の顔料は第1の色変化顔料と同じ構造を有していた;しかしながら、各誘電体層の光学厚みは4QWOTであった。第1の色変化顔料において用いた誘電体材料は、第2の顔料において用いた誘電体材料と同じであった。特に、誘電体材料は、低屈折率材料、すなわち、MgF2であった。第1の色変化顔料および第2の顔料はいずれも色変化顔料であった;しかしながら、第2の顔料は第1の色変化顔料よりも色変化が速かった。
【0036】
第1の色変化顔料を、基板の第1の領域に塗布した。第2の顔料を、基板の、第1の領域に隣接する第2の領域に塗布してセキュリティデバイスを作成した。この顔料対の反射率を、例えば、完全白色光、CIE-D65(昼光)、CIE-A(白熱光)、CIE-F2(白色蛍光)等の種々の照明条件下で測定した。
【0037】
図1A~
図1Dに、第1の視野角における4つの異なる照明条件下での2つの顔料のスペクトル計測を示す。各図に示すように、これら2つの顔料のスペクトル結果はあまり一致しなかった。これらの顔料の反射スペクトルにおける反射のピーク・バレーの間隔および幅が異なっていたからである。
【0038】
以下の表1に、種々の照明条件下における第1の顔料および第2の顔料についてのΔE値を示す。
【0039】
【0040】
表1のスペクトルデータから、2つの顔料は色相(hue)については一致するが、明度および彩度において顕著な差異があることがわかる。このような差異がある結果、等色不良となった。等色により顔料対間がシームレスに見える最小知覚色差は約0ΔE~約2.0ΔEであり、例えば、約1.5ΔE~約2.0ΔEである。さらに、顔料対間が毛線分離して見える最小知覚色差は約0ΔE~約5.0ΔEであり、例えば約2.0ΔE~約5.0ΔEである。
【0041】
<比較例2>
1対の顔料を形成した。第1の色変化顔料の構造は以下の通りであった。すなわち、吸収層/誘電体層/反射体層/誘電体層/吸収層の構造を有していた。第1の色変化顔料内の各誘電体層は、それぞれ、光学厚みが4QWOT(1/4波長光学厚み)であった。第1の色変化顔料における誘電体材料は高屈折率材料(HiRI)、すなわち、ZnSであり、色変化が遅かった。第2の顔料における誘電体材料は、低屈折率材料(LoRI)、すなわち、MgF2であり、第1の色変化顔料よりも色変化が速かった。
【0042】
第1の色変化顔料を、基板の第1の領域に塗布した。第2の顔料を、基板の、第1の領域に隣接する第2の領域に塗布してセキュリティデバイスを作成した。顔料対の反射率を、比較例1と同様に、種々の照明条件下で測定した。
【0043】
図2A~
図2Dに、4つの異なる照明条件下での第1の視野角における2つの顔料のスペクトル計測を示す。各図に示すように、スペクトル計測はあまり一致しなかった。反射のピーク・バレーの間隔および幅が異なっていたからである。表2に、種々の照明条件下における第1の顔料および第2の顔料についてのΔE値を示す。
【0044】
表2に、種々の照明条件下における第1の顔料および第2の顔料についてのΔE値を示す。
【0045】
【0046】
表2のスペクトルデータから、2つの顔料は色相については一致するが、明度および彩度において顕著な差異があることがわかる。この結果、やはり等色不良となった。等色により顔料対間がシームレスに見える最小知覚色差は約0ΔE~約2.0ΔEであり、例えば、約1.5ΔE~約2.0ΔEである。加えて、顔料対間が毛線分離して見る最小知覚色差は約0ΔE~約5.0ΔEであり、例えば約2.0ΔE~約5.0ΔEである。
【0047】
<実施例1>
1対の顔料を形成した。第1の色変化顔料の構造は以下の通りであった。すなわち、吸収層/誘電体層/反射体層/誘電体層/吸収層の構造を有していた。第1の色変化顔料においては、第2の顔料において用いた誘電体材料とは異なる誘電体材料を用いた。特に、第1の色変化顔料において用いた誘電体材料は、低屈折率材料(LoRI)、すなわち、MgF2であり、第2の顔料よりも色変化が速い。第2の顔料の構造は以下の通りであった。すなわち、誘電体層/吸収層/誘電体層/反射体層/誘電体層/吸収層/誘電体層の構造を有していた。第2の顔料において用いた誘電体材料は、高屈折率材料(HiRI)、すなわち、ZnSであり、第1の色変化顔料よりも色変化が遅い。第2の顔料(HiRI)の誘電体層の厚みは、例えば異なる光学厚みの組み合わせを用いて最適化し、第1の顔料(LoRI)と等色するようにした。
【0048】
第1の色変化顔料を、基板の第1の領域に塗布した。第2の顔料を、基板の、第1の領域に隣接する第2の領域に塗布してセキュリティデバイスを作成した。顔料対の反射率を種々の照明条件下で測定した。
【0049】
図3A~
図3Dに、4つの異なる照明条件下での第1の視野角における2つの顔料のスペクトル計測を示す。各図に示すように、各ピークの大きさおよび形状が実質的に同様に整合していることからも明らかなように、第1の色変化顔料と第2の顔料は等色する。
【0050】
以下の表3に、種々の照明条件下における第1の顔料および第2の顔料についてのΔE値を示す。
【0051】
【0052】
表3のスペクトルデータから、2つの顔料は色相(hue)、明度、および彩度について一致し、結果強度に等色した。顔料対間をシームレスに見るための最小知覚色差についての等色は約0ΔE~約2.0ΔEであり、例えば、約1.5ΔE~約2.0ΔEである。加えて、顔料対間を毛線分離して見るための最小知覚色差は約0ΔE~約5.0ΔEであり、例えば約2.0ΔE~約5.0ΔEである。
【0053】
図4に、実施例1において用いた顔料のスペクトル結果を示すが、視野角を第1の視野角である10度から第2の視野角である30度に変化させている。当該図から、第1の視野角において等色(ピーク・バレーが整合して幅および間隔が一致)し、第2の視野角において等色しない(ピーク・バレーが整合していない)ことがわかる。
【0054】
以下の表4に、完全白色光下での、第1の視野角である10度および第2の視野角である30度における第1の顔料および第2の顔料についてのΔE値を示す。
【0055】
【0056】
表4におけるスペクトルデータから、第1の顔料および第2の顔料は第1の視野角(LoRI10およびHiRI10)において等色するが、第2の視野角(LoRI30およびHiRI30)において等色しないことがわかる。
【0057】
上記の記載から、当業者は、本願明細書の教示内容が種々の形態において実施可能であることを理解しうる。したがって、これらの教示内容を特定の実施形態と関連して記載してきたが、本願の教示内容の真の範囲は限定されるべきものではない。本明細書における開示の範囲を逸脱することなく種々の変更および改変が可能である。
【0058】
本開示の範囲は広義に解釈すべきである。本開示は、本明細書において開示したデバイス、機能、および機械的作用を達成するための均等物、手段、システム、および方法を開示することを意図している。開示されたデバイス、物品、方法、手段、機械的素子または機構のそれぞれについて、本開示は、本明細書に開示した多くの態様、機構、およびデバイスを実施するための均等物、手段、システム、および方法をその開示において包含し、教示することも意図している。加えて、本開示は、コーティングおよびその多くの態様、特長、および素子に関する。そのようなデバイスは、使用および操作においてダイナミックなものとすることができ、本開示は、本明細書に開示された記載、動作および機能の主旨と一致するデバイスの使用方法および/または製品およびその多くの態様を包含することを意図している。本願の特許請求の範囲も同様に広く解釈されるべきである。
【0059】
本明細書における発明の多くの実施形態の記載は本質的に例示的に過ぎず、したがって、本発明の主旨を逸脱しない各種変更例は本発明の範囲内であることを意図している。このような変更例は、本発明の精神および範囲を逸脱するものとはみなされない。