(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】遠心血液ポンプシステム及び血管の陥没を回避する方法
(51)【国際特許分類】
A61M 60/232 20210101AFI20220114BHJP
A61M 60/104 20210101ALI20220114BHJP
A61M 60/34 20210101ALI20220114BHJP
A61M 60/35 20210101ALI20220114BHJP
A61M 60/419 20210101ALI20220114BHJP
A61M 60/523 20210101ALI20220114BHJP
A61M 60/804 20210101ALI20220114BHJP
F04D 7/02 20060101ALI20220114BHJP
F04D 29/02 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
A61M60/232
A61M60/104
A61M60/34
A61M60/35
A61M60/419
A61M60/523
A61M60/804
F04D7/02 Z
F04D29/02
(21)【出願番号】P 2019026200
(22)【出願日】2019-02-18
(62)【分割の表示】P 2017120522の分割
【原出願日】2012-08-15
【審査請求日】2019-02-18
(32)【優先日】2011-08-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(32)【優先日】2011-11-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】515041295
【氏名又は名称】フロウ・フォワード・メディカル・インコーポレイテッド
【氏名又は名称原語表記】FLOW FORWARD MEDICAL, INC.
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】フラナノ エム.ディ. エフ. ニコラス
【審査官】安田 昌司
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-502560(JP,A)
【文献】国際公開第2011/103356(WO,A1)
【文献】特開2005-058617(JP,A)
【文献】特開2007-222670(JP,A)
【文献】特表2007-510520(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2003/0233144(US,A1)
【文献】特開平04-224760(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61M 60/00-60/90
F04D 7/02
F04D 29/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
動静脈フィステルまたは動静脈グラフの作成前に末梢静脈の全直径および内腔直径を持続的に増加させると共に前記末梢静脈に血液を送り込むように構成される遠心血液ポンプシステムであり、前記遠心血液ポンプシステムが作動する際には、前記末梢静脈の平均壁剪断応力が2.5~10.0Paの範囲内にあり且つ前記末梢静脈の脈圧が供与動脈の脈圧よりも低い、前記遠心血液ポンプシステムであって、
a)入口及び出口と、
筐体内の前記入口と前記出口との間に配置されたインペラであって、頂部ピボットベアリング及び底部ピボットベアリングを係合させるように構成されたインペラピボットシャフトを備えるインペラと、
前記インペラの頂部表面にあって前記インペラの中心から放射状に延伸する複数のブレードであって、前記入口で受け取った血液を、前記筐体を通して前記出口に向けるブレードと、
前記インペラと機械的に係合した少なくとも1つの磁石と、
前記少なくとも1つの磁石と磁気的に係合し且つ前記少なくとも1つの磁石と前記インペラとを回転させる電気モータと、
を含む遠心血液ポンプと、
b)第1の端と第2の端とを有する流入導管であって、前記流入導管内の流路への制御されたアクセスを提供する少なくとも1つの側部ポートを更に含む流入導管と、
c)第1の端と第2の端とを有する流出導管であって、前記流出導管内の流路への制御されたアクセスを提供する少なくとも1つの側部ポートを更に含む流出導管と、
d)前記インペラの速度を制御するための粘度計、流速センサ、及び半径測定手段を有する制御装置と、
を含む、遠心血液ポンプシステム。
【請求項2】
前記遠心血液ポンプシステムは、作動する際に、平均壁剪断応力を、前記流出導管に流動的に接続された静脈内で0.76~23Paの範囲で維持するように、構成される請求項1の遠心血液ポンプシステム。
【請求項3】
前記インペラのシャフトの端部が凸状であり且つピボットベアリングが凹状であるか、または
前記インペラのシャフトの端部が凹状であり且つ前記ピボットベアリングが凸である、
請求項1の遠心血液ポンプシステム。
【請求項4】
前記入口は、血液を受け且つ当該血液を前記インペラに向ける流入ディフューザを含む、
請求項1に記載の遠心血液ポンプシステム。
【請求項5】
前記入口は、前記流入ディフューザの領域において円形の孔から矩形の孔に移行する、
請求項4に記載の遠心血液ポンプシステム。
【請求項6】
前記流入ディフューザは弓形である、
請求項4に記載の遠心血液ポンプシステム。
【請求項7】
前記流入ディフューザの長軸と前記インペラピボットシャフトの長軸との間の角度は5度よりも大きい、
請求項4に記載の遠心血液ポンプシステム。
【請求項8】
前記インペラピボットシャフトの一部及び前記頂部ピボットベアリングの一部は、前記入口の中へ延び且つ前記遠心血液ポンプの運転時に流れる血液によって洗浄される、
請求項1に記載の遠心血液ポンプシステム。
【請求項9】
前記インペラには、前記インペラの中心軸に平行に底面から前記インペラを通って頂部面に延びる複数の穴が形成される、
請求項1に記載の遠心血液ポンプシステム。
【請求項10】
前記遠心血液ポンプの運転時、前記インペラの周り及び下を流れ、前記穴を貫通して頂部面へ流れる血液は、前記インペラの底面及び下部ベアリング面の部分を洗浄する、
請求項9に記載の遠心血液ポンプシステム。
【請求項11】
前記遠心血液ポンプの運転時、前記インペラの周り及び下を流れ、前記穴を貫通して頂部面へ流れる血液は、上部ベアリング面の部分を洗浄する、
請求項9に記載の遠心血液ポンプシステム。
【請求項12】
側部ポートが血液透析装置との流体接続を可能にするように構成されており、
前記遠心血液ポンプシステムは、血液透析中に血管アクセスを提供するように構成されている、
請求項1に記載の遠心血液ポンプシステム。
【請求項13】
請求項1の遠心血液ポンプシステムに流体接続された供与動脈の陥没を回避するための、前記遠心血液ポンプシステムの前記制御装置が動作する方法であって、
前記方法は、センサを利用せず、
前記方法は、
a)
前記制御装置が、血液ポンプのモータ電流を測定するステップと、
b)
前記制御装置が、フーリエ級数の形で前記血液ポンプのモータ電流のスペクトル解析表示を連続的に決定するステップと、
c)
前記制御装置が、前記フーリエ級数の第2高調波項の振幅が参照値を超えた場合に、検出指示を提供するステップと、
d)
前記制御装置が、前記フーリエ級数の前記第2高調波項の振幅が前記参照値を超えた場合、ポンプ速度を減少させるステップと、
e)
前記制御装置が、前記フーリエ級数の前記第2高調波項の振幅が前記参照値を下回るまで、ステップa)~d)を繰り返すステップと、
を含む方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
【0002】
本出願は、2011年11月29日に出願された“血液ポンプシステムと方法(Blood Pump Systems and Methods)”と題する米国特許出願第61/564,671号の優先権を主張し、また2011年8月17日に出願された“血液ポンプシステムと方法(Blood Pump Systems and Methods)”と題する米国特許出願第61/524,761号(米国特許出願第13/030,054号の一部継続出願である)の優先権を主張する。これは2010年2月17日に出願された“静脈の全体直径を増大させるシステム及び方法(System and Method to Increase the Overall Diameter of Veins)”と題する米国仮特許出願第61/305,508号の優先権を主張し、かつ、同時係属、同時出願の2012年8月15日出願の“静脈及び動脈の全体直径を増大させるシステム及び方法(“System and Method to Increase the Overall Diameter of Veins and Arteries)”と題する国際特許出願第PCT/US12/50978号に関係し、かつ同時係属中の2011年8月17日に出願された“静脈及び動脈の全体直径を増大させるシステム及び方法(System and Method to Increase the Overall Diameter of Veins and Arteries)”と題する米国特許出願第61/524,759号、及び2011年11月19日出願の“静脈及び動脈の全体直径を増大させるシステム及び方法(System and Method to Increase the Overall Diameter of Veins and Arteries)”と題する米国特許出願第61/561,859号に関係する。これらはすべて参照によりその全体が援用される。
【0003】
本発明は、ポンプと導管と制御ユニットと電源とを含む血液ポンプシステムに関し、本システムは患者の動脈及び静脈中の局所的血流を持続的に上昇させるために使用することができる。具体的には本発明は、血液透析のバスキュラーアクセス部位やバイパスグラフト、又はより大きな直径の静脈や動脈が望まれるその他の手術や処置を必要とする患者において、静脈と動脈の全体直径と内腔直径とを持続的に増大させるために有用である。本発明はまた、末梢動脈疾患(PAD)を有する患者の下肢などのそれを必要とする器官及び組織へ局所的血流上昇を与えることにも有用である。
【背景技術】
【0004】
米国には50万人以上の慢性腎疾患(CKD)患者がおり、新規のCKD患者は毎年10万人以上である。例えば高血圧、糖尿病及び老齢人口などを駆動要因として、予想有病人口は年率4%で増加している。
【0005】
血液透析はCKD患者の92%が選択する処置である。それは血液透析又は他の何らかの処置を施さない限り、これらのCKD患者は死ぬことになるからである。血液透析処置を受ける典型的なCKD患者は、1週間に2~3回は自分の血管系を血液透析器に接続させなければならない。血液透析には、一般的なバスキュラーアクセス部位の選択肢が3つある。推奨されるアクセス部位としては、動静脈フィステル(AVF)があり、これは、好ましくは手首、あるいは前腕、上腕、脚又は鼠蹊部に、手術で形成する動脈と静脈との間の直接接続部である。別のアクセス部位の選択肢としては動静脈グラフト(AVG)があり、これは手術で合成導管を介して形成する動脈と静脈との間の接続部である。主要なアクセス部位の最後の選択肢は、首、胸、脚又はその他の解剖学的位置にある大きな静脈中へ挿入されるカテーテルである。
【0006】
AVFを利用する患者は、AVGやカテーテルを利用する患者に比べて罹病率が低く、死亡率も低く、また処置コストも低い。従って、手首へのAVFが血液透析のためのバスキュラーアクセスとして推奨される形態である。AVG又はカテーテルを利用する患者は、AVF利用患者に比べると感染及び死亡の比率が実質的に高く、カテーテルを利用する患者は最も悪い結果となっている。さらに、AVG又はカテーテルを利用する患者は処置の平均コストが高く、カテーテル利用患者のコストが最も高い。患者がAVFに適格である場合、通常手首又は前腕が上腕でのAVFよりも推奨される。これは、上腕では手虚血の率が高くかつ上腕の静脈部分は一般に短く、しかも深い場所にあるからである。
【0007】
不幸なことに、患者の約85%は、主として静脈と動脈の直径が小さすぎるために、手首でのAVFに不適格である。更には、形成された全AVFの約60%は、静脈と動脈の直径が小さいことに関係する、一般に“成熟不全”と呼ばれる症状の発生により、更なる手術とインターベンション処置なしでは利用することができない。より大きな直径の静脈と動脈が得られることは、AVFの適格性が上がり、成熟不全の比率が下がることに相関する。
【0008】
現在のところ、静脈又は動脈の直径を永久的、かつ持続的に増大させる方法は少ない。現行方法のすべては、バルーン血管形成などのような機械的な拡張方法であり、静脈または動脈の損傷をもたらす可能性がある。医師がAVFを形成するために、患者はある寸法の末梢の静脈と動脈を持つ必要があるので、末梢静脈又は動脈の寸法又は直径を持続的かつ恒久的に増大させる方法とシステムが要望される。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
現在のところ、小さな心臓ポンプは存在する。しかしそのようなポンプは高価であり、四肢での使用の設計及び寸法とはなっていない。従って本分野においては、末梢の静脈と動脈の直径を安いコストで増大させるシステム、部品及び方法が必要とされている。更には、末梢の静脈と動脈の直径を増大させることのできるポンプ装置に対する必要性もある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本出願は、静脈と静脈、好ましくは末梢の静脈と動脈の直径を増大させるために使用する血液ポンプシステムに関する。このシステムは、静脈又は動脈の直径を増大させるような方法で血液を移動させる機能がある。これは静脈又は動脈内に血液を放出(“押し込む”)か又は静脈又は動脈から血液を取り去る(“引き出す”)ことによって実行できる。いずれの方法によってもシステムは血管内の血流を増大させ、これが結局は血管直径の持続的増大をもたらす。そうして、システムと、より具体的にはポンプが機械的手段を利用して生物学的応答経路を活性化させて、静脈又は動脈の拡大又は“再形成”をもたらす。このシステムは、血液ポンプ、血液ポンプとの間で血液をやり取りする導管、血液ポンプをモニタして血液ポンプの運転を調整する制御システム及び電源を持っている。こうして、システムは例えば、一端を動脈中に、そして他端を静脈中に挿入することができる一群の部材を備え、それを作動させて血液がある速度でポンプ輸送されて、静脈又は動脈又はその両方の内皮にかかる壁剪断応力(WSS)が、静脈又は動脈に持続的な拡大を起こさせるのに十分な期間に亘り上昇させられる。所望の血管直径の増大をもたらすように制御することができさえすれば、任意の種類のポンプが使用可能である。
【0011】
容積式ポンプと回転式ポンプを含む様々な種類の血液ポンプを利用できるが、回転式のポンプが好適である。一実施形態では、回転式血液ポンプシステムに血液を受け取る入口と血液を放出する出口を画定する筐体を持ったポンプが含まれる。ポンプ筐体は、ベアリング上に懸吊された回転インペラを収納する大きさに設計されている。ポンプ筐体は、筐体の入口部分にある第1ベアリングと筐体の出口部分にある第2ベアリングとを持つことができる。血液は回転インペラに入りそこから出て行くが、その際インペラが血液の出て行く速度を上昇させる。上昇した速度は、ポンプ出口につながるポンプディフューザ内で血液が減速される際に圧力上昇として回復ないしは変換される。
【0012】
別の実施形態では様々な種類の回転式血液ポンプが使用されてもよい。例えば、軸流ポンプ、斜流ポンプ又は好ましくは遠心血液ポンプを使用し得る。更に、様々なポンプインペラのベアリングを使用することができ、その中には、これに限定するものではないが、磁気ベアリング、流体潤滑ベアリング及び好ましくはピボット(接触)式のものが含まれる。同様に、これに限るものではないが、コレクタディフューザ又は好ましくは渦巻きディフューザを含む、様々な種類のポンプディフューザが使用されてもよい。
【0013】
一実施形態において、ピボットベアリングを有する遠心血液ポンプが、血液を受け取ってインペラ上に向かわせる流入ディフューザのあるポンプ入口を画定するポンプ筐体を含む。このポンプ筐体は頂部ベゼルと筐体頂部から入口の中へ延びる頂部ピボットベアリングと、底部ベゼルと筐体底部から筐体の内部空間へ延びる底部ピボットベアリングとを備えている。ポンプはまた筐体内に懸吊されたインペラを含み、このインペラは更にインペラピボットを受けるベアリング孔を持っている。インペラピボットは入口部(頂部)ピボットベアリングと係合する第1端部と出口部(底部)ピボットベアリングと係合する第2端部を持っている。一実施形態において、インペラピボットの端部は凸型であり、各ピボットベアリングの少なくとも1端部は凹型である。別の実施形態において、インペラピボットの端部は凹型であり、ピボットベアリングが凸型である。インペラは、血液に接触して渦形室内部へ加速するように設計された、種々のフィン又はブレード構造を含むこともできる。例えば、インペラがインペラの頂部表面上にあって、インペラ中心からインペラの外部端部へ放射状に延びる複数のブレードを画定する。ブレードは血液をインペラの中央入口から外周出口へ向けて加速する。別の選択肢では、インペラにはブレードもフィンもなく、血液を移動又は推進する手段が含まれる。インペラは任意選択により、少なくとも1つの洗い流し孔、切欠き又は底面からインペラの中を通って頂面までインペラの中心軸と平行に延びる孔を含んでいる。孔はインペラの下及び底部ピボットベアリングの周りでの血液の滞留を防止するために設計されている。
【0014】
血液ポンプは、インペラを作動させるように設計されたモータ、好ましくは電気モータを含む。一実施形態において、血液ポンプは、インペラに機械的に取り付けられた少なくとも1つの磁石と、筐体に機械的に取り付けられた少なくとも1つの電機子とを有する駆動モータを含んでいる。電機子は、インペラに取り付けられた少なくとも1つの磁石に起電力を誘起する。ポンプモータは、センサレスの逆起電力(back emf)整流を有する、軸方向空隙型ブラシレス直流(DC)トルクモータであってもよい。モータは、回転子の磁石にネオジウム鉄ボロン(NdFeB)の焼結合金と、固定子に3層プレーナ“レーストラック”コイル構造とを用いる。モータは、直径に比べて軸方向の長さが非常に短い、パンケーキのようなアスペクト比を持つ。
【0015】
血液ポンプシステムは、血管系のある位置に流体接続されてその位置から血液を受け取る第1端部と、ポンプに流体接続される第2端部との2つの端部を有する第1(流入)導管を含む、一つ又は複数の導管を有する。流入導管は血液をポンプへ送達する。血液ポンプシステムには、ポンプに流体接続されてポンプからの血液を受け取る第1端部と、血管系内のある位置に流体接続される第2端部との、2つの端部を有する第2(流出)導管がある。流出流は血液を血管系内のある位置へ送達する。
【0016】
様々な実施形態において、血液ポンプシステムの導管は個別に2cm~110cmの間の長さがあり、合わせた長さが4cm~220cmの間であり、ポンプシステムの移植時を含めて、外科医又は他の医師によって所望の長さに切られてもよい。それぞれの導管は2mm~10mmの間で、好ましくは4mm~6mmの間の内径を持っている。導管は少なくともその一部が、ポリウレタン(Pellethane(登録商標)又はCarbothane(登録商標)など)、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、シリコーンエラストマー、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)、ポリエチレンテレフタレート(PET、例えばダクロン)及びそれらの組み合わせで形成されていてもよい。導管は更に弾性液溜を含んでいてもよい。
【0017】
導管の一部又は全部は、編み込まれるか螺旋コイル形となったニチノールなどの形状記憶材料又はその他の自己拡張性材料か放射方向拡張性材料で強化されていてもよい。導管は、血管系と流体接続される面取りされた端部を持っていてもよい。端部は10度~80度の間の角度で面取りされていてもよい。一つ又は複数の導管は、血管の内腔内又はその他の血管内の位置に配置されるように構成されている場合には、遠位端の壁に複数の孔や開口があってもよい。導管は半径方向に圧縮性のコネクタを用いてポンプに固定されていてもよい。
【0018】
一実施形態において血液ポンプシステムは、血液ポンプと、血液ポンプシステムをモニタし、血液ポンプの運転を調整してその血液ポンプに流体接続された動脈又は静脈内の上昇した平均壁剪断応力を維持するようにする制御システムを含んでいる。制御システムは更に、静脈内の平均壁剪断応力を0.76~23Paの範囲、好ましくは2.5~10Paの範囲に維持するように構成されている。別の実施形態では、制御システムは、血液ポンプに流体接続された動脈又は静脈内の上昇した平均血液速度をモニタし、かつ維持する。この実施形態では制御システムは、動脈又は静脈内の平均血液速度を10cm/s~120cm/s、又は好ましくは25cm/s~100cm/sの範囲に維持するように構成されている。いずれの実施形態においても血液ポンプシステムは、上昇した平均壁剪断応力又は上昇した平均血液速度を少なくとも1日、7日、14日、28日、42日、56日、84日、又は112日の間維持するように構成されている。
【0019】
血液ポンプシステムは所望の流速を達成して維持するための制御システムを持っていて、これには任意選択で、情報を受信して血液ポンプシステムのポンプの運転を制御するための制御装置を含むことができる。制御システムは最低でも、モータ速度の調節を手動で行うことが可能である。あるいは、自動(すなわち“スマートな”)制御システムを利用することも可能である。任意選択により、制御システムは、ポンプ内か導管か又は患者の血管系内に配置可能なセンサを含んでいる。制御装置は、逆起電力波形のゼロクロス点に基づいて、モータの回転速度を測定することが可能である。このゼロクロス点は、回転子の磁極反転を示している。モータの速度は入力電圧のパルス幅変調(PWM)によって制御され、トルクは入力電流のPWMによって制御される。制御装置はポンプモータの、電流と電圧などのその他の状態変数もモニタし、それによって、血液ポンプシステムを通る流速と、末梢血管内の壁剪断応力の両方を推定して制御することができる。制御装置は好ましくは、メモリと、ポンプモータ速度を制御し、モータ駆動電子装置および任意選択のセンサからの情報を解析して、コンピュータ可読媒体上に符号化された命令を実行するためのプロセッサと、を含む。血液ポンプシステムは、制御装置をポンプ及び任意選択のセンサに電気的に接続するためのケーブルを含んでいる。血液ポンプシステムはまた電源も含む。これは様々な実施形態において、制御装置の中に組み込まれていてもよい。様々な実施形態において、血液ポンプシステムへの電源は、移動可能(例えば再充電可能電池又は燃料電池)であっても、固定されたもの(例えば交流主電源に接続された電力盤ユニット)であってもよい。
【0020】
制御システムは種々のソースから情報を取得してもよい。制御装置内のモータ駆動電子装置は、モータ速度、投入電力又はポンプの運転に必要な電流の内の少なくとも1つを測定することができる。他の実施形態では、制御システムは血液ポンプ又は導管内にセンサを含み、血液速度、血流速度、末梢血管内の血流抵抗、血圧、拍動指数、及びそれらの組合せの内の少なくとも1つを測定する。他の実施形態では、制御システムは患者の血管系内にセンサを含み、血液速度、血流速度、血圧、拍動指数、血管直径、及びそれらの組合せの内の少なくとも1つを測定する。
【0021】
様々な実施形態において制御システムは、モータ速度、モータ投入電力、ポンプ流速、ポンプ圧力水頭、流出導管と標的血管との接合部付近の圧力、血管中での圧力低下、及びそれらの組合せなどの、制御装置及び/又はセンサからの情報を利用して、標的血管又は供与動脈又は静脈内の壁剪断応力を推定して所望の上昇レベルへ維持してもよい。本出願の目的に関して、“標的管”、“標的血管”、“標的静脈”又は“標的動脈”とは、全体直径と内腔直径の持続的な増大を生じるようにしてポンプ-導管アセンブリが移植、構成及び運転される場合に、全体直径と内腔直径を持続的に増大させる対象となる動脈又は静脈の特定部分を意味する。
【0022】
様々な制御システムの方法が、血液ポンプシステムの運転を自動制御するために利用されてよい。一実施形態において、血管内の壁剪断応力を決定して制御する方法が、血液粘度を測定するステップと、血液ポンプシステム内又は血管内の血流速度を測定するステップと、血管の半径を測定するステップと、を含む。この方法はまた、測定された血液粘度と測定された流速と血管の半径とから血管内の壁剪断応力を決定するステップと、決定された壁剪断応力を所定の参照値と比較するステップと、決定された壁剪断応力が所定の参照値に近くない場合に血液ポンプ速度を調節するステップと、を含む。これらのステップは、決定された壁剪断応力が所定の参照値に近づくまで繰り返される。
【0023】
別の実施形態において、血管内の壁剪断応力を決定して制御する方法が、血液粘度を推定するステップと、血液ポンプシステム内又は血管内の血流速度を測定するステップと、血管の半径を測定するステップと、を含む。これらのステップにはまた、推定された血液粘度と測定された血流速度と血管の半径とから壁剪断応力を決定することと、決定された壁剪断応力を所定の参照値と比較することと、決定された壁剪断応力が所定の参照値に近くない場合に血液ポンプ速度を調節することが含まれる。これらのステップは、決定された壁剪断応力が所定の参照値に近づくまで繰り返される。
【0024】
一実施形態において、血管内の壁剪断応力を推定して制御する方法が、血液粘度を推定するステップと、電圧、電流又はポンプ速度から選択される血液ポンプシステムの少なくとも1つのモータの状態変数を測定するステップと、血液ポンプシステム内の血流速度を推定するステップと、を含む。このステップにはまた、血管内の圧力を測定し、推定した血流速度と測定した血管内の圧力とから血管の血管抵抗を決定し、血管の半径を推定することも含まれる。このステップには更に、推定された血液粘度と推定された血流速度と血管の半径とから壁剪断応力を決定することと、決定された壁剪断応力を所定の参照値と比較することと、決定された壁剪断応力が所定の参照値に近くない場合にポンプ速度を調節することが含まれる。これらのステップは、決定された壁剪断応力が所定の参照値に近づくまで繰り返される。
【0025】
別の実施形態において、血液ポンプシステムを用いて血管内の壁剪断応力を推定して制御する方法が、血液粘度を推定するステップと、電圧、電流又はポンプ速度から選択される血液ポンプシステムの少なくとも1つのモータの状態変数を測定するステップと、血液ポンプシステム内の血流速度と圧力水頭を推定するステップと、を含む。このステップにはまた、推定された血流速度と推定された圧力水頭から血管の血管抵抗を計算し、血管の半径を推定し、推定された血液粘度と推定された血流速度と血管半径とから壁剪断応力を決定することも含まれる。このステップには更に、決定された壁剪断応力を所定の参照値と比較し、決定された壁剪断応力が所定の参照値に近くない場合に血液ポンプ速度を調節することが含まれる。これらのステップは、決定された壁剪断応力が所定の参照値に近づくまで繰り返される。
【0026】
一実施形態において、血液ポンプシステムを用いて血管内の壁剪断応力を推定して制御する方法が、血液粘度、血流速度、血液ポンプシステムの圧力水頭及び血管の半径から成る群から選択される少なくとも1つの要素を推定するステップと、電圧、電流及びポンプ速度から成る群から選択される血液ポンプシステムの少なくとも1つのモータ状態変数を測定するステップと、血管内の壁剪断応力を決定するステップと、を含む。このステップはまた、決定された壁剪断応力を所定の参照値と比較し、決定された壁剪断応力が所定の参照値に近くない場合にポンプ速度を調節することが含まれる。これらのステップは、決定された壁剪断応力が所定の参照値に近づくまで繰り返される。
【0027】
さらに別の実施形態において、血液ポンプシステムの入口における陥没の逼迫度を検出して、血液ポンプシステムに流体接続された血管の陥没を回避するためのセンサなしの方法が、血液ポンプのモータ電流を測定するステップと、その血液ポンプモータ電流のスペクトル解析表示をフーリエ級数の形で連続的に決定するステップとを含む。このステップにはまた、フーリエ級数の第2高調波項の振幅が参照値を超える場合に、検出指示を与えることと、フーリエ級数の第2高調波項の振幅が参照値を超える場合に、ポンプ速度を漸減させることとも含む。第2高調波項の振幅が参照値より低くなるまで、これらのステップは繰り返される。
【0028】
様々なその他の実施形態において本明細書に開示のシステムと方法は、任意の参照値で実行可能なコンピュータ可読媒体に符号化されてもよいし、又は本システムと方法で使用される所定の基準がデータベース又は他の好適な記憶媒体中に記憶されてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図2】本体に含まれる部品を示す、
図1のポンプの分解等角投影図である。
【
図3A】
図1の切断線3-3に沿ったポンプの部分立断面図である。
【
図3B】
図1の切断線3-3に沿ったポンプの全体立断面図である。
【
図4A】
図1の切断線4-4に沿ったポンプの部分立断面図である。
【
図4B】
図1の切断線4-4に沿ったポンプの全体立断面図である。
【
図6A】インペラピボットの頂部等角投影図である。
【
図6B】インペラピボットの底部等角投影図である。
【
図7A】インペラピボットの頂部等角投影図である。
【
図7B】インペラピボットの底部等角投影図である。
【
図8A】インペラピボットの実施形態の側立面図である。
【
図8B】インペラピボットの実施形態の側立面図である。
【
図9A】インペラピボットのいずれの側にも使用されてインペラピボットを支持して回転可能とする、代表的ベアリングピンの端面図である。
【
図9B】インペラピボットのいずれの側にも使用されてインペラピボットを支持して回転可能とする、代表的ベアリングピンの反対側の端面図である。
【
図10】頂部ベアリングピンの一実施形態の図である。
【
図11A】代表的なベアリングピンの実施形態の側立面図である。
【
図11B】代表的なベアリングピンの実施形態の側立面図である。
【
図12】代表的なベアリングピンアセンブリの長手方向断面図である。
【
図13】入口キャップとインペラケーシングの平面図である。
【
図17】インペラ室の入口開口の等角部分断面図である。
【
図18A】入口流路を画定する入口キャップ部の平面図である。
【
図18B】入口流路を画定する入口キャップ部の端部立面図である。
【
図24A】更に弓形の楔部分を含むほかは、
図21に示すものと同様の入口キャップと入口流路の別の実施形態の平面図である。
【
図24B】更に弓形の楔部分を含むほかは、
図21に示すものと同様の入口キャップと入口流路の別の実施形態の側立面図である。
【
図25】頂部インペラケーシングを取り去ってインペラ室にあるインペラを現した、ポンプの等角投影図である。
【
図26】一実施形態による血液ポンプシステムの斜視図である。
【
図27A】一実施形態によるポンプと導管の接続の斜視図である。
【
図27B】一実施形態によるポンプと導管の接続の斜視図である。
【
図27C】一実施形態によるポンプと導管の接続の斜視図である。
【
図27D】一実施形態によるポンプと導管の接続の斜視図である。
【
図28A】一実施形態によるポンプと導管の接続の斜視図である。
【
図28B】一実施形態によるポンプと導管の接続の斜視図である。
【
図29A】一実施形態による側部ポートを含むポンプと導管の接続の斜視図である。
【
図29B】一実施形態による側部ポートを含むポンプと導管の接続の斜視図である。
【
図30A】一実施形態による隔膜を含むポンプと導管の接続の斜視図である。
【
図30B】一実施形態による隔膜を含むポンプと導管の接続の斜視図である。
【
図31】一実施形態による流出導管の遠位部の図である。
【
図32A】一実施形態による流入導管の血管内部分の図である。
【
図32B】一実施形態による流入導管の血管内部分の図である。
【
図33】一実施形態によるポンプシステムの模式図である。
【
図34】別の実施形態によるポンプシステムの模式図である。
【
図35】一実施形態による制御システムの模式図である。
【
図36A】様々な実施形態による制御システム方法のフローチャートである。
【
図36B】様々な実施形態による制御システム方法のフローチャートである。
【
図36C】様々な実施形態による制御システム方法のフローチャートである。
【
図36D】様々な実施形態による制御システム方法のフローチャートである。
【
図36E】一実施形態によるポンプシステムの体外モデルに対する吻合部圧力と血流速度の関係をプロットした図である。
【
図36F】様々な実施形態による制御システム方法のフローチャートである。
【
図36G】様々な実施形態による制御システム方法のフローチャートである。
【
図36H】様々な実施形態による制御システム方法のフローチャートである。
【
図37】一実施形態による、患者の循環システムに適用されたポンプシステムの模式図である。
【
図38】第2の実施形態による、患者の循環システムに適用されたポンプシステムの模式図である。
【
図39】第3の実施形態による、患者の循環システムに適用されたポンプ無しのシステムの模式図である。
【
図40】第4の実施形態による、患者の循環システムに適用されたポンプシステムの模式図である。
【
図41】近位セグメントと遠位セグメントの接合部の長手方向断面図である。
【
図43】流出圧力によって制御されるポンプシステムの模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本出願のシステム及び部品は血液ポンプシステムに関する。より具体的には、様々な実施形態において本出願は、標的とする血管(静脈又は動脈)を持続的に増大させるような方法と期間において、標的血管中に血液を放出するか又は標的血管から血液を抜き出すように設計されかつそのような寸法となった血液ポンプに関する。更に具体的には本出願は、静脈又は動脈の選択された部分の全体直径及び内腔直径を持続的に増大させるのに十分な期間に亘り、静脈又は動脈の選択された部分における平均及び/又はピーク血液速度、並びに平均及び/又はピーク壁剪断応力を持続的に上昇させるように構成された回転血液ポンプシステムに関する。動脈又は静脈の全体直径と内腔直径の拡張又は増大を記述する場合の、“持続的増大”又は“持続的拡張”という用語は、本明細書においては、血液のポンプ輸送期間の前の血管の全体直径又は内腔直径に対して、ポンプを切った後でも血管の全体直径又は内腔直径が増大したままであることが可能なことを意味している。すなわち、血管の全体直径又は内腔直径がポンプによって生成される圧力とは無関係に大きくなったことを示している。従ってこの血液ポンプシステムは、血液透析用のバスキュラーアクセス部位を必要とするCKD患者を含む、特定の患者に対して有用である。血液ポンプシステムは、回転血液ポンプ、一つ又は複数の血液搬送導管、制御システム及び電源を含むことができる。血液ポンプシステムは血管系の1つの位置から血液を抜き出し、血管系の別の位置に血液を放出する。運転中はそのような血液ポンプシステムは、標的血管中の平均及び/又はピーク血液速度と平均及び/又はピークWSSを、標的血管の全体直径と内腔直径が持続的増大をするのに十分なレベルと十分な期間に亘って、持続的に上昇させることができる。このシステムは、標的血管から血液が抜き取られる構成、又は標的血管内に血液が放出される構成で機能する。更にこのシステムは、供与血管と受容血管の寸法を同時に増大させるために使用することも可能である。
【0031】
任意選択の血液搬送導管は、血管系(供与静脈、供与動脈又は右心房など)のある位置から血液ポンプへ血液を搬送する流入導管と、血液ポンプから血管系(受容末梢静脈又は動脈、又は右心房のような受容位置など)のある位置へ血液を搬送する流出導管とを含むことができる。血液ポンプシステムは制御システムも含む。好適な制御システムは血液ポンプシステムの運転パラメータと性能と、患者の供与動脈、供与静脈、受容動脈又は受容静脈の直径の変化などの血管系の変化に関する情報を収集するように設計されている。血液ポンプシステムは、第一に、ある血管部分(“標的血管”又は“標的管”)内に所望の平均及び/又はピークの壁剪断応力(WSS)が達成されるような十分な量の血液を、その血管部分の全体直径と内腔直径が恒久的又は持続的に増大するのに十分な期間に亘ってポンプ輸送するように構成されている。平均WSSは、測定、推定又は仮定された血管の直径と、血液ポンプシステムを通過する、測定、推定又は仮定された平均血流速度を用いて計算することができる。
【0032】
血管の直径は、血管の中心の空洞の直径を測定することで決定できる。本出願の目的のために、この測定値を“内腔直径”と呼ぶ。血管の直径は、血管の中心の空洞と血管の壁とを含む直径を測定することによって決定できる。本出願の目的のために、この測定値を“全体直径”と呼ぶ。本発明は、血液(好ましくは低拍動の血液)を末梢受容静脈内に移動させ、それによって末梢受容静脈中の血液速度を上昇させ、かつ末梢受容静脈の内皮にかかるWSSを上昇させることによって、末梢静脈の全体直径および内腔直径を同時かつ持続的に増大させることに関する。ポンプを利用して末梢受容静脈中の血液速度と末梢受容静脈の内皮にかかるWSSを上昇させる、システムと方法について説明する。また、動脈であっても静脈であっても、供与血管内の血液速度とWSSを上昇させるように血液を取り去る、すなわち“引き抜く”、システムと方法についても説明する。好ましくは、ポンプは末梢受容静脈中に血液を能動的に放出し、そこではポンプ輸送される血液が、末梢動脈内の血液よりも脈圧が低い場合のように、拍動が抑えられる。
【0033】
システム10の血液ポンプ25の詳細な議論を始めるために、血液ポンプ25の等角投影図である
図1を参照する。一実施形態において、血液ポンプ25は磁気駆動型の小型化された遠心ポンプであり、ポンプのインペラは回転磁場によって回転駆動される。例えば、回転磁場は複数の電磁石を特定の順序で起動することで発生させることができる。別の実施例では、回転磁場は、複数の永久磁石又は起動された電磁石を回転させることによって発生させてもよい。ポンプは、例えば米国の25セント硬貨か50セント硬貨、又はそれより大きな硬貨とほぼ同程度の直径であってよい。
図1に示すように、血液ポンプ25は、本体105と、入口110と、出口115と電力ケーブル120とを含んでいる。電力ケーブル120は、血液ポンプ25を制御システム14の制御装置21と電源とに接続する。電源は制御装置21の一部であってもよいし、分離していてもよい。電力ケーブルは、制御装置21と血液ポンプ25のモータとの間の通信を可能とする。ケーブルはまた、電源からモータ又はポンプへ電力を移送するために利用することができる。より具体的には、電力ケーブル120は本体105内の磁気駆動部の電気部品を電源(電池など)へ接続する。
【0034】
入口110は、結合装置(例えばかかり付き端部、フランジ、固定カラーなど)を介して流入導管20に流体的に結合することができる。入口110は、ポンプインペラの吸入領域(すなわち中央部)内部への流路を提供する。インペラの吸入領域は、血液が出口の外で吸入部よりも大きな速度で受け取られさえすれば、様々な構造であってよい。出口115は、入口と同様の結合装置(例えばかかり付き端部、フランジ、固定カラーなど)を介して流出導管30に流体的に結合することができる。出口115は、ポンプインペラの出口領域(すなわち周辺部)からの流路を提供する。
【0035】
図2は、
図1に特定された本体105内に含まれる部品を示す、血液ポンプ25の分解等角投影図である。ここに示すように、血液ポンプ25は、入口キャップ125、頂部ベアリングピン130、頂部インペラケーシング135、インペラ140、インペラピボット145、磁石アセンブリ150、磁石カバー155、底部ベアリングピン160、底部インペラケーシング165、電気コイルアセンブリ170及びコイルアセンブリカバー蓋175を含んでいる。入口キャップ125と頂部インペラケーシング135はそれぞれが入口110のほぼ半分を含んでいる。
【0036】
図3A、3Bは
図1の切断線3-3に沿った血液ポンプ25のそれぞれ部分立断面図と全体立断面図である。ここに示すように
図2で記述した部品は全体として重ね合わされてポンプを形成する。例えば
図2、3Aから理解されるように、入口キャップ125と頂部インペラケーシング135がそれぞれ、頂部水平方向入口部分110Aと底部水平方向入口部分110Bを含んでいる。一般的には入口と出口は反対側にあって異なる面内に配置されている。入口キャップ125と頂部インペラケーシング135が重ね合わされると、入口110を通ってインペラ入口開口185に通じる入口流路180を画定する。入口キャップ125と頂部インペラケーシング135は、それぞれ流路180のほぼ上半分と下半分を画定する。密閉溝190が頂部インペラケーシング135内に流路180の境界に隣接して画定され、入口キャップ125と頂部インペラケーシング135の間に液密シールを形成するための弾性流体シール部材を受けるようになっている。
【0037】
図4A、4Bは、
図1の切断線4-4に沿った血液ポンプ25のそれぞれ、部分立断面図と全体立断面図である。
図2、4A、4Bから理解されるように、頂部インペラケーシング135と底部インペラケーシング165は、それぞれ頂部水平方向出口部分115Aと底部水平方向出口部分115Bを含んでいる。頂部インペラケーシング135と底部インペラケーシング165が重ね合わされると、インペラ室205から出口115に通じる出口流路200(すなわち渦形室)を画定する。頂部インペラケーシング135と底部インペラケーシング165はそれぞれが流路200のほぼ上半分とほぼ下半分を画定する。密閉溝211が底部インペラケーシング165内に流路200とインペラ室205との境界に隣接して画定され、頂部インペラケーシング135と底部インペラケーシング165の間に液密シールを形成するための弾性流体シール部材を受けるようになっている。
【0038】
図2~4Bに示すように、磁石150はリング又は円盤形状となった複数の磁石である。磁石150は磁石カバー155の内部、かつインペラ140の内部に配置される。磁石カバーはインペラ内に収納される。磁石カバー155とインペラ140は、磁石150が配置されている空間の底部と頂部をそれぞれ形成する。磁石カバー、磁石及びインペラは一緒に結合されて固定された一体アセンブリとなって、1つのユニットとしてインペラ室205内部を回転する。これに代わるインペラの回転構造を利用することも可能である。
【0039】
図2~4Bに示すように、電気コイルアセンブリ170は下部インペラケーシング上に円形に配置された複数の電気コイル210であって、任意選択により支持円盤215でキャップされている。電気コイルアセンブリ170は底部インペラケーシング165内に画定されるコイル室220内に固定され、コイルカバー蓋175でキャップされる。内部床構造225がインペラ室205とコイル室220を分離する。電気ケーブル120(
図1参照)が底部インペラケーシング165内から通路230を通って、コイル室220とコイル210まで延びる。電気ケーブル120を介してコイル210に供給される電力は回転磁場を形成し、これが磁石150に作用して磁石と、磁石に結合したインペラ140とを回転させる。インペラの回転が、インペラ羽根235をインペラ室にある流体(例えば血液)に作用させ、結果として運動量を流体に移し、それが出口流路200の圧力上昇として回復される。流体はこのように低圧で入口110に引き込まれ、高圧となって出口115から放出される。
【0040】
図3A~4Bに示すように、インペラ140と磁石150とカバー155のピボット軸はインペラピボット145である。
図5A、5Bに示すように、インペラピボット145は、頂部ベアリングピン130と底部ベアリングピン160を介して枢動可能に(すなわち1つの軸を中心とする回転以外の全自由度を拘束されて)支持されている。頂部ベアリングピン130は入口キャップ125内の円筒リセス240に受けられて固定され、他方、底部ベアリングピン160は底部インペラケーシング165内の円筒リセス245に受けられて固定されている。インペラピボット145は、インペラ140内の中央円筒開口250を貫通して固定されている。
【0041】
インペラアセンブリの一実施形態において、インペラピボット145と頂部ベアリングピン130と底部ベアリングピン160は、CoorsTek(登録商標)AD-998のような、高純度アルミナから形成されている。インペラアセンブリの別の実施形態では、インペラピボット145と頂部ベアリングピン130と底部ベアリングピン160が、Greenleaf(登録商標)WG-300のような、アルミナ強化シリコンカーバイドで形成されている。いずれの実施形態においても、インペラピボット145と頂部ベアリングピン130と底部ベアリングピン160の寸法は、流体力と衝撃荷重により生成されるピークスラスト荷重に関して、接触応力を高純度アルミナ又はアルミナ強化シリコンカーバイドのそれぞれに対する許容レベルに制限するように設計されている。インペラアセンブリの別の実施形態においては、インペラピボット145はGreenleaf(登録商標)WG-300のようなアルミナ強化シリコンカーバイド、又はCoorsTek(登録商標)AD-998のような高純度アルミナから形成されていて、他方、頂部ベアリングピン130又は底部ベアリングピン160又はその両方が超高分子量のポリエチレンで形成されている。その上、インペラアセンブリの各部品の幾何形状は、システム10の安全性と耐久性に対する仕様を満足するために、疲労及び摩耗を制限するように選択されている。
【0042】
図6A~7Bに示すように、インペラピボットは、上部半球突起ベアリング面255と底部半球突起ベアリング面260とを含んでいる。
図6A、6B、8Aに示すように、一実施形態のインペラピボットは全体の長さL1が約10.15mm±0.05mmで、ピボット直径D1が約2mm±約0.01mmである。上部ベアリング面255は、半径R1が約0.61mm±0.02mmで、約0.55mm±0.02mmの長さL2だけ隣接する縁265から突き出ている。下部ベアリング面260は、半径R2が約0.31mm±0.02mmで、約0.55mm±0.02mmの長さL21だけ隣接する縁265から突き出ている。同様に、
図7A、7B、8Bに示すようなこれに代わるインペラピボット145の実施形態では、全体の長さL1が約10.15mm±0.05mmで、ピボット直径D1が約2mm±約0.01mmである。上部ベアリング面255は、半径R1が約0.31mm±0.02mmで、約0.55mm±0.02mmの長さL2だけ隣接する縁265から突き出ている。下部ベアリング面260は、半径R2が約0.31mm±0.02mmで、約0.55mm±0.02mmの長さL21だけ隣接する縁265から突き出ている。ポンプの寸法及び性能に対する仕様に応じて、別の大きさと寸法が使われてもよい。大きさは、結果として得られるポンプが患者の血管直径増大に利用できるようなものである。
【0043】
図5A,5Bからわかるように、上部ベアリングピン130と底部ベアリングピン160は、一般に同一形状で反対向きとなっている。
図9A~9Bに示すように、頂部ベアリングピン130と底部ベアリングピン160は、ティーカップ型又は半球の凹型ベアリング面270を一端に持ち、反対側の端部にはほぼ平坦面275を持っている。同様に
図10には、頂部ベアリングピン130の特定の実施形態が示されており、ティーカップ型又は半球の凹型ベアリング面270を一端に持ち、反対側の端部にはほぼ平坦面275を持っている。この実施形態では、頂部ベアリングピン130の半球の凹型ベアリング面270は、底部ベアリングピン160の凹型ベアリング面よりも大きな半径を持っている。
【0044】
図11Aに示されているように、ベアリングピン130、160の一実施形態においては、全体の長さL3は約7.5mm±0.1mmであり、最小ピボット直径D2は約2mm±0.01mmであり、ベアリング面270に近い端部における半径は約0.6mmである。ベアリングピン130、160のベアリングではない端部275の近くには、ピンの周りの外周に溝280が広がり、ベアリングピンを血液ポンプ25内部の定位置に結合するための機械的インターロックを提供する。同様に、
図11Bに示されているように、ベアリングピン130、160の代替的な実施形態においては、全体の長さL3は約7.5mm±0.1mmであり、最小ピボット直径D2は約3mm±0.01mmであり、平坦端部275に近い端部における半径は約0.2mmである。ベアリングピン130、160のベアリングではない端部の近くには、ピボットの周りの外周に溝280が広がり、ベアリングピンを定位置に結合するための機械的インターロックを提供する。ポンプの大きさ、ベアリングピンの材料及びベアリングピンにかかる力によっては、別の大きさと寸法が使われてもよい。
【0045】
図3B、4B、5A~11Bからわかるように、インペラピボット145の凸型上部ベアリング面255は、頂部ベアリングピン130の凹型ベアリング面270に接触して回転可能に受け止められ、インペラピボット145の凸型下部ベアリング面260は、底部ベアリングピン160の凹型ベアリング面270に接触して回転可能に受け止められる。こうして、インペラピボット145の凸型ベアリング端255、260は、それぞれ頂部ベアリングピン130と底部ベアリングピン160の相補的な凹型ベアリング面270によって枢動可能に支持される。従って、インペラアセンブリはインペラ室205内でインペラピボット145上を自由に回転可能であり、一般的に“二重ピンベアリング”として知られる構成でベアリングピン130と160により端部同士が支持される。
【0046】
インペラアセンブリの更に別の実施形態において、インペラアセンブリは、インペラシャフト145と頂部ベアリングピン130と底部ベアリングピン160の複合体である。複合体としての設計は、単純さ、許容誤差及び機械加工するベアリング部品のコストに関して利点がある。これらの構造体はすべて、約1日から1~12週間又はそれより長く、故障なしに連続的にモータが機能できるように設計されている。
【0047】
図12に示すように、インペラシャフト145は、インペラピボット本体146と2つのインペラピボット挿入体147とを備えている。インペラピボット本体146は、ステンレススチールのような機械加工可能な金属から成り、インペラピボット挿入体147は、CoorsTek AD-998のような高純度アルミナ、又はGreenleaf WG-300のようなアルミナ強化シリコンカーバイドから成る。インペラピボット挿入体147は、接着剤及び/又は締り嵌めによってインペラピボット本体146に取付けられる。任意選択により、チャンバ146Aが耐圧縮性のある、接着剤又はその他の埋込材料を用いて充填されてもよい。上記の複合構成及び材料は、頂部ベアリングピン130と底部ベアリングピン160の両方の実施形態に適用することが可能であり、そこでは、ピン挿入体148がインペラピボット挿入体147と係合する。任意選択により、各ベアリングピン130、160のチャンバ148Aが、耐圧縮性のある、接着剤又はその他の埋込材料を用いて充填されてもよい。
【0048】
入口キャップ125とその入口流路180は、血液ポンプ25の実施形態に依存して、様々な構成を取ってもよい。例えば、
図2の入口キャップ125は、頂部インペラケーシング135とほぼ同じ大きさとなっている。他の実施形態においては、入口キャップとインペラケーシングを示している
図13~15のように、入口キャップ125は頂部インペラケーシング135よりもはるかに小さくて、同じ広がりとはなっていない。
【0049】
図14~16は、それぞれ
図13の切断線14-14、15-15、16-16に沿う立断面図であるが、入口110は部分110Aと部分110Bとを持つ2部品構造であり、それぞれが入口110のほぼ半分を形成しており、かつそれぞれが入口キャップ125と頂部インペラケーシング135の一部となっている。各部分110A、110Bは、内部に入口流路180のほぼ半分を画定している。
図14に示すように、入口流路180が最初は約4mmの円形直径をしている。
図15に示すように、入口流路180は円形断面から、幅W5が約8.4mmで高さH5が約1.5mmのほぼ矩形断面へと移行する。また、大きさが変わると、表記した寸法も変化する。
【0050】
図16に示すように、入口流路180は、入口キャップ125に収納されて取り付けられている頂部ベアリング145の周りに広がっている、インペラ室の入口開口185を取り囲む。インペラ室の入口開口185の等角部分断面図である
図17に示すように、インペラ室の入口開口185は、インペラ140の吸入領域300の近くのインペラ室205に通じる。インペラピボット145の上部ベアリング端は開口185を通って上に延び、入口キャップ125内に支持された頂部ベアリングピン130と枢動的に接続する。インペラブレード235は、インペラ140の吸入領域から半径方向外側へ延びる。
【0051】
一実施形態においては、それぞれが入口流路180を画定する入口キャップ部110Aの平面図と、その端部立面図である
図18A、18Bに示すように、入口流路180は楕円形をしているといってもよい。具体的には円筒チャネル部分180Aが部分180Cで楕円チャネル部分180Bへ移行する。円筒形の島部分すなわち頂部ベアリングピン130を支持するベゼル305は、楕円チャネル部分180Bのほぼ中心にあって、円筒形孔240を含んでいる。これは
図17に示した場合と同じ様に、頂部ベアリングピン130を受ける。一実施形態において、円筒形チャネル部分180Aは、約4mmの直径D6を有する。楕円形チャネル部分180Bは約12.4mmの幅W6を有する。ベゼル305の壁と楕円形チャネル部分180Bを画定する壁の遠位端との間の遠位方向距離W7は、約1.5mmである。他の実施形態において、円筒形チャネル部分180Aは、約5mm又は6mmの直径D6を有する。
【0052】
別の実施形態であることを除くと
図18A、18Bとそれぞれ同じである
図19A、19Bに示すように、入口流路180は円形構造を持っているといってもよい。具体的には円筒チャネル部分180Aが部分180Cで円形チャネル部分180Bへ移行する。円筒形の島部分すなわち頂部ベアリングピン130を支持するベゼル305は、円形チャネル部分180Bのほぼ中心にあって、円筒形孔240を含んでいる。これは
図17に示した場合と同じ様に、頂部ベアリングピン130を受ける。一実施形態において、円筒形チャネル部分180Aは、約3.5mm~4.5mm、好ましくは4mmの直径D9を有する。円形チャネル部分180Bは、約11.5mm~13mm、好ましくは12.4mmの幅W9を有する。ベゼル305の壁と円形チャネル部分180Bを画定する壁の遠位端との間の遠位方向距離W10は、約3.5mm~4.5mm、好ましくは4.2mmである。他の実施形態において、円筒形チャネル部分180Aは、約5mm又は6mmの直径D6を有する。
【0053】
別の実施形態であることを除くと
図18A、18Bとそれぞれ同じである
図20A、20Bに示すように、入口流路180は複合弓形構造を持っているといってもよい。具体的には円筒チャネル部分180Aが部分180Cで複合弓形チャネル部分180Bへ移行する。円筒形の島部分すなわち頂部ベアリングピン130を支持するベゼル305は、複合弓形チャネル部分180Bのほぼ中心にあって、円筒形孔240を含んでいる。これは
図17に示した場合と同じ様に、頂部ベアリングピン130を受ける。一実施形態において、円筒形チャネル部分180Aは、約4mmの直径D12を有する。複合弓形チャネル部分180Bは約8.4mmの幅W13を有する。ベゼル305の壁と複合弓形チャネル部分180Bを画定する壁の遠位端ドーム307との間の遠位方向距離W14は、約1.75mmである。ベゼル305の壁と複合弓形チャネル部分180Bを画定する壁の遠位端裂け目310との間の遠位方向距離W15は、約0.5mm~1.5mm、好ましくは1mmである。他の実施形態において、円筒形チャネル部分180Aは、約5mm又は6mmの直径D6を有する。
【0054】
他の3つの実施形態であることを除けば
図18Aと同じ図である、
図21~23に示すように、入口流路180は涙の滴のような形状となっているといってもよい。具体的には円筒形チャネル部分180Aが涙滴チャネル部分180Bに移行する。円筒形の島部分すなわち頂部ベアリングピン130を支持するベゼル305は、涙滴チャネル部分180Bのほぼ中心にあって、円筒形孔240を含んでいる。これは
図17に示した場合と同じ様に、頂部ベアリングピン130を受ける。一実施形態において、円筒形チャネル部分180Aは、約4mmの直径D15を有する。涙滴チャネル部分180Bは約8mmの幅W20を有する。ベゼル305の直径D16は4mmである。涙滴部分180Bと円筒形部分180Aとの間のチャネル180の移行領域180Cは、約8度の角度AN1で相互に拡がる壁を持っている。他の実施形態において、円筒形チャネル部分180Aは、約5mm又は6mmの直径D6を有する。
【0055】
図21の実施形態に関しては、ベゼル305の壁と涙滴チャネル部分180Bを画定する壁の遠位端との間の遠位方向距離W21は、約2mmである。
図22の実施形態に関しては、ベゼル305の壁と涙滴チャネル部分180Bを画定する壁の遠位端との間の遠位方向距離W21は、約1mmである。
図23の実施形態に関しては、ベゼルが涙滴チャネル部分を画定する壁の遠位端と交差するために、ベゼル305の壁と涙滴チャネル部分180Bを画定する壁の遠位端との間の遠位方向距離W21は約0mmである。
【0056】
図21に示したものと類似の入口キャップ110と入口流路180の別の実施形態のそれぞれ平面図と側立面図である、
図24A、24Bに示すように、弓形楔部分320が涙滴チャネル部分180Bの遠位部の壁とベゼル305の遠位側部との間に広がっていてもよい。そのような実施形態においては、円筒形の島部分すなわちベゼル305は、涙滴チャネル部分180Bのほぼ中心にあって、
図17に示した場合と同様に、頂部ベアリングピン130を受ける円筒形孔240を含んでいる。一実施形態において、
図24Aと24Bに示す実施形態の寸法構成は、
図21で述べたものと実質的に同じであるが、弓形楔部分320の存在が顕著な違いである。
図24A、24Bから理解されるように、楔部分320は涙滴チャネル部分180Bの屋根と隣接する壁から、ベゼル305の垂直部分へ滑らかに湾曲する弓形となった壁を有している。そのような楔部分320は
図3A、3B、17に示した実施形態に見ることができ、入口流路の流れの滞留部分を低減し、インペラ室の入口開口185を通って流入する流体が接線流となることを促進できる。
【0057】
頂部インペラケーシングを外してインペラ室205を占有しているインペラ140を見えるようにした血液ポンプ25の等角投影図である、
図25に示すように、出口流路200はインペラの外周端に対して実質的に接線方向にインペラ室から出ている。
図3B、4B、17、25に示すように、複数の穴350(すなわち洗い流し孔)がインペラピボット中心孔250を中心にその周辺に分布し、この穴350は中心孔250に概ね平行で、インペラの厚さ全体を貫通してインペラの頂部境界と底部境界の両方に通し穴をあける。穴350の底部開口は、底部ベアリング165とインペラピボット底部ベアリング面260(
図8参照)との間の底部ベアリング界面の近くにある。その結果、流体は穴350を通って流れ、底部ベアリング界面を浄化することができる。例えば、流体はインペラ室入口孔185を通り、インペラ羽根235沿いに半径方向外側へ向かい、インペラの下の空隙を通ってインペラ室の入口孔185領域に戻るように流れることが可能である。この血液の流れが、インペラの下側、底部ベアリング界面、上部ベアリング界面及びベゼル305の背面領域の浄化に役立つ。
【0058】
一実施形態において、
図3B、5、17、25からわかるように、インペラ140はインペラ室205内で、インペラの中心を貫通しているシャフト145の上に回転可能に支持されている。シャフトは上部ベアリング端部と底部ベアリング端部とを有し、それぞれの端部がポンプ筐体と回転動作可能に結合されている。インペラは、頂面、底面、及びインペラの頂面から底面まで貫通する複数の穴350を持っている。複数の穴はインペラを中心として半径方向に概ね均等に分布されている。更に、複数の穴は相互に、またシャフトに対してほぼ平行にインペラを貫通している。入口流路180はインペラ室の入口開口185に通じている。入口流路は、入口流路とはほぼ垂直に、インペラ室内部に向かって開口している。入口開口は、上部ベアリング端付近においてシャフトの外周面の少なくとも一部に沿って延びている。入口開口と孔は相互にほぼ平行な方向に開口している。ポンプの運転中は、インペラ室を通って輸送される血液の少なくとも一部は、その穴を介して、インペラの頂部面及び底部面に沿って循環する。こうして、インペラの穴は、血液がインペラの血液接触面のすべてに沿って血液の流れを全体的に保持することによって、インペラ周囲の流れの行き止まりをなくす。従って、穴はシャフト/インペラ交差部近傍及びインペラの側部と底面に沿う血液の滞留を防止する助けとなる。
【0059】
血液ポンプ25の本体及びインペラは、血液接触面も含めて、様々な生体適合性剛体材料からできている。一つの選択肢としてはプラスチック、より好ましくはPEEKのような射出成型可能なプラスチックが含まれる。様々な実施形態において、血液ポンプ25の血液接触面は、Ti6Al4V、Ti6Al7Nb又はその他の市販の純チタン合金を備える。一実施形態において、患者の血液に曝されるポンプ部品表面は抗血栓コーティングが施されていてもよい。例えば内腔表面は、Biolnteractions Ltd.社のヘパリンをベースとした抗血栓コーティングであるAstute(登録商標)、又はSurModics, Inc.社のヘパリンコーティングであるApplause(商標)で被覆されていてもよい。
【0060】
他の実施形態では、患者の組織に接触する血液ポンプシステム部品の表面に抗菌コーティングが施されていてもよい。例えば、合成導管16、18の外表面又はポンプや電気コード120(“リード”としても知られている)の外表面が、Biolnteractions Ltd.社の表面活性抗菌コーティングであるAvert(登録商標)で被覆されていてもよい。
【0061】
様々な実施形態において血液ポンプ25は患者の体内に移植されてもよい。その反対に他の実施形態では、血液ポンプ25は患者の体外に留まってもよい。例えば患者の体外にある場合、血液ポンプ25は、テープ、縫合糸又はその他の患者にポンプをとりつけるのに好適な手段で患者に固定されてもよい。システム10は
図34に示すように、再充電可能な電池28を持つウェアラブル電子装置から電力を供給されてもよい。
【0062】
本明細書で開示するポンプシステム10のポンプは、例えば遠心流ポンプ、軸流ポンプ、半径流ポンプ又は斜流ポンプを含む回転ポンプであってよい。一実施形態においては
図1~15に示すように、ポンプは遠心ポンプである。特定の限界を認めることなしに、血液ポンプ25は例えば約0.05L/min~1.0L/min、0.2L/min~1.5L/min又は0.5L/min~3.0L/minを日常的にポンプ輸送するように構成可能である。
【0063】
図1~25に関して上記で議論したポンプ構成は有利であるが、他のポンプ構成を本明細書に開示したポンプシステムと方法に使用してもよい。従って、本明細書に開示したシステムと方法は、
図1~25に関して上記で議論したポンプ構成に限られるべきではなく、本明細書に開示したシステムと方法に適用可能なすべてのタイプのポンプを含むべきである。
【0064】
図1~25に関して本明細書に開示したポンプシステム10の好適な実施形態は、当分野において周知のいかなる血液ポンプによっても満足させることのできない、いくつかの特有の要件を充たす。具体的には、動静脈フィステル適格性(“AFE”)ポンプシステム(“AFEシステム”)は、最大12週間の使用を目的として構成され得る。更に、AFEポンプシステムは、低流速(例えば50~1500mL/min)で中程度の圧力領域(例えば25~350mmHg)の遠心回転血液ポンプシステムとして構成され得る。AFEポンプシステムと共に使用する制御方式は、血液ポンプに直接又は血液ポンプシステムの導管に流体接続された標的静脈、又は血液ポンプに直接又は血液ポンプシステムの導管に流体接続された静脈に流体接続された標的静脈内における、定常的な上昇した平均WSSを0.76~23PAに維持するように最適化されてもよい。AFEポンプシステムは、運転パラメータの検出と定期的な速度調節とを活用して、標的静脈の全体直径と内腔直径が25%、50%又は100%以上に持続的増大をするような、ある期間に亘り動作するように構成される。
【0065】
ある実施形態に関しては、流入導管が経皮的手法によって配置されて、流入導管の一部が血管内の位置に配置され、流出導管が、初期直径が1~6mmの間の静脈に適用可能な外科的手法によって配置されてもよい。この場合には、標的血管内の上昇した平均WSSは血液を標的血管内に放出することで生じる。
【0066】
他の実施形態に関しては、流出導管が経皮的手法によって配置されて、流出導管の一部が血管内の位置に配置され、流入導管が、初期直径が1~6mmの間の静脈又は動脈に適用可能な外科的手法によって配置されてもよい。この場合には、標的血管内の上昇した平均WSSは血液を標的血管内から取り出すことで生じる。特定の設定では、血液を取り出す血管と血液を放出する血管の両方においてWSSを上昇させることが可能で、その両方の血管を標的血管とすることができる。ポンプシステム10は、挿入/取り外しの容易さと、感染に対する耐性の両方を実現する。ポンプシステム10は、移植にも体外配置にも適合可能なポンプを持った可動式システムである。様々な実施形態において、ポンプシステム10は再充電可能な電池を持ったウェアラブル電子装置によって給電される。
【0067】
ポンプシステム10は、
図26に示すように、流入導管20と流出導管30を備えている。流入導管20は血管系内のある位置に流体連通して配置され、この位置から血液を引き出してそれを血液ポンプ25へ送る。ある実施形態において、流入導管20は、血管系の内腔の中に流入導管の少なくとも一部を配置するように構成されている。他の実施形態では、流入導管20が外科的吻合術によって血管に接合される。流出導管30は、血管系の別の位置と流体連通し、血液ポンプ25からの血液を血管系のその別の位置へ差し向ける。ある実施形態において、流出導管20は、血管系の内腔の中に流出導管の少なくとも一部を配置するように構成されている。他の実施形態では、流出導管30が外科的吻合術によって血管に接合される。
【0068】
導管20と30はそれぞれ2cm~110cmの間の範囲の長さを持ち、合わせた全体の長さは4cm~220cmである。各導管20と30の長さは、血液ポンプ25の位置と、導管と血管系との間の接続位置とによって決定される所望の長さに切断されてもよい。導管20と30はまた、薄いけれども圧縮耐性及び捩れ耐性のある、0.5mm~4mmの間の厚さの壁と、2mm~10mmの間の内径とを持っている。好ましくは導管の内径は4~6mmである。
【0069】
流入導管20と流出導管30は、耐久性があり、リーク耐性があり、意図しない離脱が起きないようになった任意の好適なコネクタを用いて血液ポンプ25に接続されてよい。通常、コネクタの先端は薄くて、導管20及び30の内径とコネクタの内径との間における流路の段差状の変化を最小化するようになっている。好ましくは、流路の直径の段差変化が0.5mm未満であるべきである。
図27A~27Dに示すように一実施形態において、導管20と30は、タケノコ継手400A、400Bと、半径方向に圧縮性のあるリテーナ(すなわち固定用カラー)402A、402Bを用いて血液ポンプ25に接続される。限定するものではないが一例として、半径方向に圧縮性のリテーナ402A、402Bは、仏国クールブヴォア(Courbevoie)所在のサンゴバンS.A.(Saint-Gobain S.A.)社の一部門であるサンゴバン機能樹脂事業部により製造されているBarbLock(登録商標)リテーナがある。別の実施形態では、導管20と30は、これもサンゴバン機能樹脂事業部が製造している、Pure-Fit(登録商標)無菌コネクタを用いて血液ポンプ25に接続される。
【0070】
半径方向圧縮性コネクタ402Aと402Bは、それぞれ流入導管20と流出導管30の近位端404と406の上に配置される。次に導管20と30はタケノコ継手400Aと400Bを覆って配置されて、導管と血液ポンプ25との間の流体接続が形成される。半径方向圧縮性リテーナ402Aと402Bのコレット408Aと408Bが導管20と30に沿って配置され、導管及びタケノコ継手400Aと400Bを取り囲む。半径方向圧縮性リテーナ402Aと402Bの外側スリーブ410Aと410Bを次にリテーナの長手軸に沿って動かして、それぞれのコレット408A、408Bと導管20、30とタケノコ継手400A、400Bを圧縮係合させる。一実施形態において、外側スリーブ410Aと410Bは、外側スリーブとタケノコ継手400A、400Bの受棚412A、412Bとをそれぞれ係合させるように構成された加圧ツールを用いて移動させられる。加圧ツールは半径方向圧縮性リテーナ402Aと402Bを取り外せるような構成にもなっている。
【0071】
他の実施形態においては、代替のコネクタが用いられてもよい。好ましくは、代替コネクタは耐久性があり、リーク耐性があり、偶発的に外れることのないようになっている。例えば
図28A~28Bに示すように、導管20と30は、タケノコ継手400Aと400Bに類似のタケノコ継手に係合して、導管と血液ポンプ25との間の流体接続を形成する。導管20と30は、円形クリップ414Aと414Bを用いてタケノコ継手に固定される。この円形クリップはクリップのラチェット機構416A~416Bによってタケノコ継手の上の導管部分に半径方向の圧縮力をかける。円形クリップ414Aと414Bはリーク耐性と耐久性のある接続を提供する。そしてクリップのラチェット機構416A~416Bを解放する取り外しツール(図示せず)を用いて外すことができる。
【0072】
別の実施形態では、流入導管20と流出導管30は流路への制御されたアクセスを提供する側部ポートを含んでいる。側部ポートは定期的に造影剤を流路に導入して蛍光透視法による可視化を可能としたり、血液サンプルを採取したり、薬剤を注入したり、あるいはその他の臨床的に有用な目的に対して使用してもよい。流路への定期的なアクセスが可能で、アクセスしていない時に漏えいしたり流体流路を変えたりしなければ、任意の側部ポートが適する。一例としては、これに限定するものではないが、側部ポートは、シリンジ挿入時に開放され、シリンジ抜去時には閉鎖される逆止弁を含む、“T”字型ポート篏合部であってよい。
図29A~29Bに示すように、補助配管420を持つ“T”字型ポートアセンブリ418は、ポンプ出口115及び流出導管30と流体連通する。
【0073】
別の実施形態では、流入導管20、流出導管30又はその両方のための側部ポートが、
図30A~30Bに示すように、隔膜424を有する隔膜アクセスポート422を利用する。ここを介して好適な皮下注射針を挿入してアクセスし、その後抜き去る。その後は隔膜が閉じて流体が導管から流失することを防止する。隔膜424に好適な材料としては、シリコーン、ポリウレタン及びその他のエラストマー系ポリマーが含まれるが、それに限定されるものではない。隔膜424を含む、流入導管20及び/又は流出導管30のセグメントはそれぞれ針が抜き取られた後の皮下穿刺孔を閉じるのに適した厚さである。
図30A~30Bに示すように、隔膜アクセスポート422は隔膜424が流出導管30の一部を覆うようになっている。非限定的な一実施例として、隔膜アクセスポート422は、流出導管30の約1cmの長さに及んでいてもよい。隔膜424は、これに限るわけではないが、接着剤による貼り付け、熱接合及び導管チューブの内層と外層との間の熱接合を含む任意の好適な手段
によって流出導管30に取り付けられていてもよい。
【0074】
様々な実施形態において、導管20と30は、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、シリコーン及びPellethane(登録商標)又はCarbothane(登録商標)を含むポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などの血液透析用カテーテルに一般的に使用される材料でできていてもよい。他の実施形態では、導管は、延伸ポリテトラフルオロエチレン(ePTFE)又はダクロンなどの、血液透析用グラフト又は合成末梢バイパスグラフトの作製に一般的に使用される材料でできていてもよい。更なる実施形態では、導管は、ポリウレタン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレン、シリコーン、PTFE、Pellethane(登録商標)、Carbothane(登録商標)、Carbothane(登録商標)PC-3575、ePTFE又はダクロンの組合せでできていてもよい。
【0075】
例えば流入導管20の全長がポリウレタンでできていてもよい。別の実施形態においては
図31に示すように、血液ポンプ25と流体連通するようになっている流出導管30のセグメント500はポリウレタンで構成され、その一方で血管系と流体連通するようになった流出導管のセグメント502はePTFEで構成されている。
【0076】
非限定の一例として、近位セグメント500と遠位セグメント502の間の接合部の長手方向断面図である
図41に示すように、製造工程において遠位セグメントのePTFEの一つ又は複数の層502Aを近位セグメントのポリウレタン層500Aの間に配置して、流出導管30の近位セグメント500が流出導管の遠位セグメント502に接合される。ポリウレタンとePTFEの重複部分が次に加熱ラミネートされて近位セグメント500と遠位セグメント502が一体結合される。
【0077】
別の実施形態では、導管の加熱ラミネートを行う前に、ePTFEセグメント502の重複部分に一つ又は複数の孔が作られる。流出導管30が加熱されて,ePTFEは溶けないで、ポリウレタンが溶けるのに十分な温度(例えば200度F(約93度C)~500度F(約260度C))になると、溶けたポリウレタンが、ePTFEセグメント502に形成された孔を充填してその中で冷却される。セグメント500の内側及び外側ポリウレタン層は孔の内部で接合されて、2つのセグメント500と502を機械的に接合するとともに、重複部分のポリウレタンの内層と外層とを機械的に接合する。
【0078】
ePTFE層502Aがポリウレタン層500Aの間には挟まれるように製造された流出導管30の実施形態は,ePTFE層502Aを通常の手法を用いて血管に容易に縫合できるという点で有利である。これは、上記の
図41に関して説明したように製造される流入導管20についても同様である。
【0079】
医療キット1000の平面図である
図42に示すように、血液ポンプ25、流入導管20、流出導管30、制御装置21及び電源コード120を、ポンプシステムの組立て方と患者への移植の仕方についての取扱説明書1010と共に無菌容器1005に入れて提供することが可能である。医療キット1000はまた、タケノコ継手400Aと400B並びに半径方向圧縮性リテーナ402Aと402Bも含んでよい。一実施形態において、導管20、30の1つ又は両方が
図41に関して説明したようにして製造され、血液ポンプ25と一緒に無菌容器1005内に含まれる。医療キット1000は最低でも血液を放出又は取出すためのシステムとその実行と利用法に関する説明書とを含んでいる。
【0080】
一実施形態において、血液ポンプ25の運転は、流出圧力を読み出し、それに応じてポンプ速度を調節することによって、ポンプ制御システム14の制御ユニット21を介して制御される。例えば、流出圧力に従って制御されるポンプシステム10の模式図である
図43に示されているように、流出圧力センサ1050は、血液ポンプ25の出口115又は例えば流出導管30の長さに沿ったどこかのような、更に下流に対して動作可能に結合していてもよい。プロセッサ24は、流出圧力センサ1050からの圧力値をメモリ27に格納された目標流出圧力の範囲と比較してもよい。次にプロセッサはそれに応じてポンプ駆動装置170の速度を調節し、流出圧力センサ1050からの圧力値がメモリに格納された目標流出圧力の範囲内となるようにする。
【0081】
一実施形態において、制御システム14は流入圧力センサ1060も含み、これが血液ポンプ25の入口110又は例えば流入導管20の長さに沿った更に上流のどこかに動作可能に結合していてもよい。プロセッサ24は、流出圧力センサ1050の圧力値と流入圧力センサ1060の圧力値の両方を読み出して、圧力差を計算してもよい。この圧力差は次にメモリ1055に格納された圧力差の目標範囲と比較されてもよい。次にプロセッサはポンプ駆動装置170の速度を調節して、計算した圧力差がメモリに格納された圧力差の目標範囲内となるようにする。
【0082】
他の実施形態では、流入導管20と流出導管30が、柔軟性、無菌性、捩じれと圧縮に対する耐性などの所望特性を持ち、かつ必要に応じて吻合により血管に接続可能であるか、または血管の内腔に挿入可能でありさえすれば、導管20と30はいかなる材料または材料の組合せであってもよい。さらに、導管20と30が好ましくは、先進の潤滑被覆Harmony(商標)のような潤滑性のある外表面被覆を備えるなどして、所望通りの皮下トンネリングに必要な特性を示す。
【0083】
別の実施例として、流入導管20と流出導管30は、内層とは異なる材料でできた外層を持ってもよい。流入導管20と流出導管30の外層の全部又は一部もまた、シリコンや親水性コーティングなどの潤滑材で被覆されて、皮下トンネリング及び体からの抜去を容易にし、かつラテックスアレルギーの発生を回避できるようになっていてよい。ある実施形態において、流入導管20と流出導管30の外層表面の少なくとも一部が抗菌コーティングを有していてもよい。他の実施形態では、血液ポンプ25又は電源コード120の表面の少なくとも一部が抗菌コーティングを有していてもよい。例えば、表面活性抗菌コーティングである、Avert(商標)が使用されてもよい。ある実施形態において、流入導管と流出導管の外層の表面の一部が、ダクロンベロアやポリエステルベロアやシリコーンなどの、感染耐性があり、組織取り込みを促進する材料を含んでいてもよい。そのような材料の1つは、Vitaphore Corp社の抗菌カフであるVitaCuff(登録商標)である。VitaCuffカフは2つの同心材料層からできている。内層は医療グレードのシリコーンで構成されている。組織との界面となる外層は、コラーゲンに結合された銀イオンによる抗菌活性を有する、コラーゲン基質を備えている。ある実施形態では、この材料が生理液を吸収し、急膨張して、出口部位における物理的バリア構築を助ける。組織の内殖が生じて、導管を更に固定し、導管の動きを減らして出口部位感染の発生を減らす。
【0084】
ある実施形態において、流入導管20と流出導管30の血液に接触する内腔表面の少なくとも一部が抗血栓剤又は抗血栓材料で被覆されていてもよい。同様に、血液ポンプ25の血液に接触する表面の少なくとも一部が抗血栓剤又は抗血栓材料で被覆されていてもよい。例えば、いずれもヘパリンを含有する親水性共重合体コーティングである、SurModics, Inc.社のApplause(登録商標)コーティング又はBiolnteractions Ltd.社のAstute(登録商標)コーティングによって表面が被覆されていてもよい。
【0085】
ある実施形態において、流入導管20と流出導管30の少なくとも一部分が捩れと圧縮に耐えるように優先的に強化されている。例えば導管20と30は、ニチノールや別の形状記憶合金又は自己拡張性もしくは放射方向拡張性の材料で強化されていてもよい。好ましくは、編組ニチノール層が各導管20と30の少なくとも一部の周りに巻かれるか、導管の壁の中に組み込まれる。一実施形態において、流入導管20は、導管壁内に組み込まれた、編組ニチノールで強化されている。別の実施形態では流入導管が、導管20と30の壁の中に組み込まれた、編組ステンレススチールによって強化されていてもよい。あるいはまた、ニチノール又はPTFEのコイルが、合成導管20と30の一部の周りに巻きつけられるか、又はその中に組み込まれていてもよい。例えば
図31に示すように、流出導管30の遠位セグメント502が、導管の壁514を形成するePTFE導管の周りに組み込まれたPTFEコイル504を持っている。別の実施形態においては、ニチノールのコイルが、導管20と30の一部の周りに巻きつけられるか、又はその中に組み込まれていてもよい。
【0086】
流入導管20と流出導管30の両方に組み込まれた編組ニチノールの編み組み密度は、普通1インチ当たりのピクセル数で表され、一般的には約10~200の間であり、好ましくは約20~約60の間である。様々な実施形態において、編み組み密度が流入導管20と流出導管30の長さに沿って変化してもよい。例えば、血液ポンプ25に近い導管20と30の部分では編み組み密度を大きくして導管の剛性を高くし、吸引時に外部導管の圧縮又は導管の陥没のリスクを最小化するようにし、その一方で導管の別のセグメントではより柔軟性を持つようにしてもよい。
【0087】
一実施形態においては
図32A~32Bに示すように、流入導管20の血管内部分506は複数の側孔508によって窓が開けられている。これらの側孔は血液の流入を加速し、導管先端が部分的に閉塞した場合に、静脈壁又は右心房壁を先端の孔から吸引する危険性を低減する。好ましくは、側孔508は円形であり、直径が0.5mm~1.5mmの範囲である。ただし他の実施形態では、側孔508は楕円形又は他の任意の形状であって、血液の血管内吸引に適した寸法であってよい。
【0088】
図31、32A、32Bに示すように、流入導管20の遠位端506と流出導管30の遠位端510は切断されて、10度~80度の間の角度に面取りされていてもよい。ある実施形態において、血液吸引中に導管先端が部分的に閉塞した場合に、静脈壁又は右心房壁を先端の孔から吸引する危険性が面取りによって低減される。他の実施形態では、吻合接続によって血管系と接合する際に、面取りすることで導管の面積を増大させることができる。好ましくは遠位端506と510は45度に面取りされるがこれに限るものではない。流入導管20と流出導管30は、挿入と皮下トンネリングと抜去が容易になるようになっており、また感染や血栓に対する抵抗を与えるようにもなっている。
【0089】
一実施形態において、流入導管20の一部が血管の内腔内に挿入され、経皮的手法又は切開手法を用いて所望の位置まで前進させられる。流入導管20と流出導管30の配置を助けるために、導管には、蛍光透視法で見ることができる放射線不透過マーカバンドかその他の放射線不透過材料が、流入導管と流出導管のそれぞれの壁512、514内部に埋め込まれていてもよい。例えば、流入導管20と流出導管30の一部分が、バリウム硫化塩が埋め込まれたポリウレタンである、Carbothane(登録商標)PC-3575で構成されていてもよい。他の実施形態において、血管系の内腔の中に挿入されるように構成された、流入導管20と流出導管30の部分は、(ニチノールを組み込むことで達成され得るような)自己拡張性又は放射方向拡張性の壁を持っており、流入導管20と流出導管30の血管の内部にある部分の直径が、GORE(登録商標)のハイブリッド型血管グラフトの自己拡張性セグメントがそうであるように、その位置で血管系の直径に合致するようになっていてもよい。
【0090】
図37に示す実施形態を含む様々な実施形態において、縫合糸を連続的または分割して使用する外科的吻合術を利用して、流入導管20と流出導管30が血管に取り付けられてもよい。以後これを“吻合接続”と呼ぶ。吻合接続は外科クリップとそのほかの吻合形成の標準的方法とにより行うことも可能である。一例として、吻合接続は流出導管30のePTFEの遠位セグメント502と血管との間で行われてもよい。
【0091】
吻合接続が行われるある実施形態において、初期の直径が1mm~20mmの間の血管、好ましくは初期の直径が1mm~6mmの間の血管に流出導管30が固定される。
【0092】
反対に
図32A~32B、37~40に示す他の実施形態では、流入導管20と流出導管30の部分が、血管又は右心房内部に配置される。例えば流入導管20の遠位端506が右心房又は上大静脈内部に配置されてもよい。
図32A~32Bに示すように、遠位端506が血管内部に配置される場合には、側孔508が血液の吸引又は放出を助ける。
【0093】
その他の様々な実施形態において、流入導管20と流出導管30の少なくとも1つは、血液透析器との使用に適合していてもよい。例えば、血液ポンプシステム10を利用する患者は、透析処置を受けることを必要とする場合がある。この実施例では、血液ポンプシステムから血液が引き取られ、血液透析器を通過してから血液ポンプシステムの中に放出して戻されて血管系に送達して戻される。これによって患者に余計なバスキュラーアクセス部位を形成する必要がなくなる。
【0094】
図35に示すように、制御システム14の一実施形態が、ポンプに動力を送達し、血液ポンプ25から情報を受信するための、少なくとも1つのプロセッサ24とメモリ27を持った制御装置21を含み、これによってその情報を用いてポンプ速度の設定と制御と、ポンプシステムを通過する流体の流速の推定が行われる。プロセッサ24は、システムと方法とコンピュータ可読媒体上に符号化された命令とを読み出し、処理し、実行するように構成されている。制御システム14は次に測定又は推定された血管直径と、測定又は推定されたポンプシステムの平均流速を用いて、標的血管内の壁剪断応力を推定する。制御装置は、任意選択で電池28を持った電源26も含んでいる。
【0095】
一実施形態において、制御システム14は一つ又は複数のセンサ122からセンサのフィードバックを受信する。様々な好適なセンサの任意のものが、血液、血液ポンプ15、血液ポンプシステム10、及び/又は標的血管の物理量の様々な変化の任意のものを検出するために使用されてもよい。このセンサ122は変化を表す信号を発生させて、それが解析及び/又は処理される。基本的にセンサ122は、血液ポンプシステム10と、システムを通る血流と、標的血管の様々な性質をモニタして、変化を求める。それを処理して所望の参照値又は所定の基準と比較することができる。所望の参照値又は所定の基準は、データベースまたは好適な媒体中に保存されていてもよい。
【0096】
様々な実施形態において、一つ又は複数のセンサ122は、血液ポンプ25、流入導管20、流出導管30、供与血管又は供与位置、又は受容血管又は受容位置と通信してもよい。様々な実施形態において制御システム14又はその一部は血液ポンプ25の筐体又はケーシングの内部に配置されていてもよい。例えば、一つ又は複数のセンサ122が血液ポンプ25の入口110又は出口115に配置されてもよい。他の実施形態において、制御システム14はポンプの外部にあってよい。
【0097】
壁剪断応力は、標的血管の全体直径と内腔直径の増大又は標的血管の長さの増大をもたらすポンプシステム10の運転を構成する変数として利用することができる。
【0098】
円形断面を有する血管の内腔において、血流がハーゲンーポアズイユの法則に従う(すなわち、完全な放物線状の速度分布を有する層流である)とすると、WSSは次式で決定できる。
WSS(Pa)=4Qμ/πR3[式1]
ここで、
Q=流速(m3/s)
μ=血液の粘度(Pa/s)
R=血管半径(m)
である。
壁剪断応力の制御方法#1:手動方法
【0099】
標的血管内の平均及び/又はピークWSSは、ポンプ導管システムを通る血流速度に影響し、従って標的血管を流れる血流に影響するポンプ速度を調節することで制御可能である。
図36Aに示すように、手動の制御方法600は、ブロック602における(患者の血液をサンプリングして粘度計で解析することによる)血液粘度の直接測定と、ブロック604における(それぞれに、流入導管又は流出導管のいずれかに超音波フローセンサを設置するか、超音波希釈法か熱希釈法により)血液ポンプシステムの血流速度又は標的静脈中の血流速度の測定と、ブロック606における(血管造影法、超音波トモグラフィ、コンピュータトモグラフィ又は磁気共鳴画像法を含む様々な画像検査法による)血管半径の測定、を含んでよい。血管壁に作用するWSSはブロック608で決定され、ブロック610又は612で所望レベルとの比較が行われ、次いで、ブロック614又は616でポンプインペラの回転速度を変化させてポンプ流速(Q)が調節される。ポンプ速度の変更は、モータ入力電圧のパルス幅変調のデューティサイクルへ変えることで実行される。
壁剪断応力の制御方法#2:血液粘度の間接測定と血流と標的血管直径の直接測定を用いる自動的方法
【0100】
自動WSS制御システムは、ポンプシステム又は標的血管内の血流速度の直接測定と標的血管の直径の直接測定を含んでよい。
図36Bに示すように、この自動WSS制御方法620は、ブロック622での血液粘度の間接測定(測定されたヘマトクリット値と近似的な平均WSSとの間の既知の関係に基づいて推定する)を含んでもよい。前に述べた粘度の直接測定を利用して、ブロック624で粘度推定器の定期較正を遂行できる。臨床適用においては、血液粘度は通常ゆっくりと変化する。
壁剪断応力の制御方法#3:血液粘度と血流と標的血管直径の間接測定と静脈圧力の直接測定を用いる自動的方法
【0101】
図36Cに示すように、自動WSS制御方法630は、ブロック622における血液粘度の間接測定(ヘマトクリット測定値と近似的平均WSSとの既知の関係に基づいて推定)と、ブロック632における血液ポンプシステムを通る血流速度の間接測定(モータの状態変数との関係に基づいて推定)と、ブロック634における標的血管圧力の測定と、ブロック638における血管半径の測定(血管抵抗に基づいて推定)とを含んでよい。血管抵抗は、ブロック636において推定されたポンプ流速と測定された血管内の血圧とに基づいて計算される。血液粘度、ポンプ流、及び標的血管半径推定器の定期的な較正が、それぞれブロック624、640及び642における直接測定を利用して、前述したように実行されてもよい。
壁剪断応力の制御方法#4:血液粘度と血流とポンプ圧力水頭と標的血管直径の間接測定を用いる自動的方法
【0102】
図36Dに示すように、自動WSS制御方法650は、ブロック622における血液粘度の間接測定(ヘマトクリット測定値と近似的平均WSSとの既知の関係に基づいて推定)と、ブロック632における血液ポンプシステムを通る血流速度の間接測定(モータの状態変数との関係に基づいて推定)と、ブロック638における血管半径の間接測定(血管抵抗に基づいて推定)とを含んでよい。ブロック636において血管抵抗は、ブロック632で推定されたポンプ流速と、これもまたモータ状態変数との関係に基づいてブロック652で推定されたポンプ圧力水頭とに基づいて計算される。血液粘度、ポンプ流、及び標的血管半径推定器の定期的な較正が、それぞれブロック624、640及び642における直接測定を利用して前述したように実行されてもよい。別々の圧力変換器を用いてポンプ入口とポンプ出口の圧力を測定し、ブロック654でそれらの差を計算することによって、あるいは差動圧力センサを用いてポンプの前後における圧力水頭を直接測定することによって、圧力水頭推定器の定期的な較正が遂行されてもよい。
血液ポンプシステム流速と圧力水頭のセンサなしでの決定:
【0103】
図35を参照すると、プロセッサ24は、電力ケーブル120を介してポンプのコイルアセンブリ170の一つ又は複数の電気コイルに流れる電流を検出してモニタするようになっている。これをコイルアセンブリに提供される電圧のモニタと組み合わせることで、プロセッサ24は血液ポンプ25で消費される投入電力(Pin)とインペラ140の実際の回転速度(ω)を導くことができる。プロセッサ24はポンプ流速(Q)又は流速の変化(ΔQ)をPinとωの関数として推定することができる。例えば、Q=f[P
in,ω]である。より具体的には次式が利用される。
Q=a+b・ln(P
in)+c・ω
0.5[式2]
ここで、
Q=流速(L/min)
P
in=モータへの投入電力(W)
ω=ポンプ速度(rpm)
モータへの投入電力は、測定されたモータ電流と電圧から導かれる。a、b、cに対する値は、モータ速度と投入電力の関数としてのポンプ流速のグラフをカーブフィッティングすることで求められる。
【0104】
プロセッサ24はまた、ポンプの圧力水頭(Hp)又は圧力水頭の変化(ΔHp)をPinとωの関数として推定することができる。例えば、Hp=f[Pin,ω]である。より具体的には次式が利用される。
Hp=d+e・ln(Pin)+f・ω2.5[式3]、
ここで、d、e、fの値は、ポンプ速度とモータの投入電力の関数としてのポンプの圧力水頭のグラフをカーブフィッティングすることで求められる。ここでHpは流入導管20とポンプ25と流出導管30を横断して測定される。
血管抵抗の決定と血管半径の推定:
【0105】
血管抵抗(R
v)は流れに対する抵抗であって、循環システムに血液を押し出すために克服しなければならないものである。抵抗は駆動圧力(H
v)を流速で割ったものである。血液ポンプシステムが静脈である標的血管に接続されている場合に、血管抵抗は次式を用いて計算される。
R
v=(P
v-CVP)/Q [式4]
ここで、
H
v=血液の心臓への復路上の末梢血管で損失する圧力水頭(mmHg)
P
v=吻合における静脈圧力(mmHg)
CVP=中心静脈圧(mmHg)
R
v=血管抵抗((mmHg・min)/L)
である。通常CVPは2~8mmHgの間の範囲であり、P
vとQの動作範囲は相対的にはるかに大きいので、上式においてはこれを無視することができる。
図36Eに示すように、血管抵抗はP
v-Q曲線660の勾配としてグラフ上に表すことができる。曲線660は非線形なので、傾斜はQの関数である。次式で表されるように、一時的に速度を数百rpm(Δω)だけ上昇させて、それによる静脈圧力の変化(ΔP
v)を測定し、結果としてのポンプ流の変化(ΔQ)を推定することによって、血管抵抗を求めてもよい。
R
V(Q)=ΔP
V/ΔQ [式5]
血管抵抗は血管直径又は半径に強く依存する関数であって、静脈が小さいほど血管抵抗が高いことに留意されたい。血管抵抗は様々な単位で定量化可能であり、例えばウッド単位((mmHg・min)/L)であれば、8倍すればSI単位((Pa・s)/m
3)に変換できる。
【0106】
別の方法として、ポンプの圧力水頭(Hp)を血管抵抗の計算のベースとして利用してもよい。ポンプ-導管システムが血管系のある位置から血液を引き出して、それを末梢動脈又は静脈の中に放出するようになっている場合、システムで得られた圧力水頭(Hp)は、心臓への血液の復路上の末梢血管での圧力水頭損失(Hv)に正確に等しい、と仮定することは妥当である。
Hv=Hp[式6]
末梢血管の半径は、Qに対するHvの比である血管抵抗(Rv)に逆比例する。円形断面の血管内のハーゲンーポアズイユ血液流を仮定すると、血管抵抗は次の式を用いて表現できる。
RV(Pa・s/m3)=Pv/Q=8・μ・L/π・R4[式7]
ここで、
PvはPa単位で表され、
Qは(m3/s)の単位で表され、
μ=血液の粘度(Pa/s)、
R=血管半径(m)、
L=血管長さ(m)
である。実際には、直径が既知の特定の静脈における圧力低下を生体内測定することで、式7の精度が上げられる。こうして次の経験式が得られる。
Rv(Pa・s/m3)=K・μ/R4[式8]
ここで、Kは標的静脈に関する実験定数(m)である。
壁剪断応力の決定:
【0107】
標的血管内の壁剪断応力は上記の式に基づいて決定することができる。式4より、ポンプ流速は次式で表される。
Q=Pv/Rv[式9]
式8より、血管半径は次式で表される。
R=(K・μ/Rv)0.25[式10]
式1、9、10より、壁剪断応力は次式で表される。
WSS(Pa)=((4・Pv)/(π・K0.75))・(μ/Rv)0.25[式11]
【0108】
様々な実施形態において、制御システムで利用される推定された変数は定期的に較正される。例えば、流速と圧力水頭の推定値は、1分から最大30日までの範囲の間隔で実際に測定された値を用いて定期的に較正される。同様に、動脈又は静脈の半径の推定値は、1分から最大30日までの範囲の間隔で実際に測定された値を用いて定期的に較正される。
安全機能と警報:
【0109】
自動制御システムは、患者の心血管系の変化、又はポンプシステム又はポンプ制御システムの異常に関連する危険を回避するための安全機能も含んでいてもよい。
図36Fに示すように、速度制御方法670はブロック672において、減少した前負荷又は(例えば血栓による)後負荷の増加、吸引、流れの制限及び流入導管先端の周りの血管の切迫陥没、に関連するモータ電流波形の特徴変化を検出できる。ブロック674において、フーリエ変換を利用してモータ電流波形のスペクトル解析を行う。ブロック676においてフーリエ級数の第2高調波項の振幅が所定の値を超える場合には、吸引が発生して陥没が逼迫していると考えられる。ブロック616でポンプ速度を直ちに下げて、ブロック678Aにおいて制御装置21内にアラームが発動される。正常運転に復旧したら、ブロック678Bでアラームが解除される。
【0110】
図36Gに示すように、速度制御方法680は低流量状態を検出できる。ブロック682においてポンプ流速がポンプ導管システム10の血栓を回避するための安全閾値レベルより下がると、ポンプ速度はブロック614において直ちに上昇させられ、ブロック678Aにおいて制御装置21内にアラームが発動される。正常運転に復旧したら、ブロック678Bでアラームが解除される。
【0111】
図36Hに示すように、速度制御方法690は壁剪断応力の高い状態を検出できる。ブロック692においてWSSが血管内皮の損傷を回避するための安全閾値レベルよりも高くなると、ブロック616においてポンプ速度が直ちに下げられて、ブロック678Aにおいて制御装置21内にアラームが発動される。正常運転に復旧したら、ブロック678Bでアラームが解除される。
【0112】
流入導管20が動脈に接続され、流出導管30が静脈に接続されている更に別の実施形態において、制御システム14は、受容静脈内に放出される血流の拍動をモニタして修正する。例えば、制御システム14は心電図をモニタし、すなわち、血液ポンプシステムに流入する血液の拍動波形の周期変化をモニタすることができる。心室が収縮し、拍動波形が伝搬するときに、制御システムはポンプの回転速度を下げることができる。心収縮の間及び拍動波形が通過した後、制御システムはポンプの回転速度を上げることができる。このように受容静脈内に入る血液の拍動を低減することが可能である。この代わりに、受容静脈内の血液の拍動を、超音波で実行するようなやり方で手動で定期的にチェックし、かつ、例えばポンプの水頭-流量特性を調整するか、ポンプの流入又は流出部にコンプライアンス液溜又は弾性液溜(部分変化又は分散変化)を追加するか又はポンプ速度を変調することによってポンプを手動で調節してもよい。それ以外の調節もまた可能である。これに代わって、コンプライアンス液溜又は弾性液溜を血液ポンプシステムの移植時に流入導管又は流出導管に付加することも可能である。
【0113】
その他の様々な実施形態において、制御システム14は、手動により、又はコンピュータ可読媒体上に符号化されプロセッサ24で実行可能なソフトウェアプログラムまたアプリケーションを用いて、あるいはそのほかの自動化システムを用いて、モニタされかつ調節される。コンピュータ可読媒体には、揮発性媒体、不揮発性媒体、リムーバブル媒体、非リムーバブル媒体、及び/又は制御システム14によってアクセス可能な他の入手可能媒体が含まれてよい。限定するものではないが一例として、コンピュータ可読媒体は、コンピュータ記憶媒体及び通信媒体を含んでもよい。コンピュータ記憶媒体としては、メモリ、揮発性媒体、不揮発性媒体、リムーバブル媒体、及び/又はコンピュータ可読命令、データ構造、プログラムモジュール又はその他のデータなどの情報を格納するために方法又は手法に実装された非リムーバブル媒体が含まれる。
【0114】
ソフトウェアプログラムには、ポンプ速度を自動的に調節する実行可能命令が含まれてよく、供与動脈、供与静脈、受容動脈、あるいは受容静脈のいずれであれ、全体直径と内腔直径又は長さに持続的な増大が望まれる処置対象の管セグメント(“標的管”又は“標的血管”)に、所望量の血流と平均血液速さ又は速度と平均WSSとを維持するようにする。または、標的血管内の全体直径、内腔直径、長さ及び血流を、超音波などによって定期的に手動でチェックして、例えば、ポンプの水頭-流量特性の調整又はポンプ速度の変調によってポンプを手動で調整してもよい。それ以外の方法で調節がなされてもよい。
【0115】
一実施形態において平均血液速度は、血液速度を個別に複数回測定し、個々の測定値を合計し、その合計値を測定回数で割って平均を算出することによって決定される。平均血液速度は、数ミリ秒、数秒、1分、5分、15分、30分、1時間又は数時間の期間に亘って測定することで算出できる。
【0116】
別の実施形態において、平均WSSが、一連の個別の測定を行い、(その測定値を利用して)複数の個別のWSSを決定し、決定された個々のWSS値を合計し、その合計を決定回数で割って決定される。平均WSSは、数秒、1分、5分、15分、30分、1時間又は数時間の期間に亘って測定して個々のWSSを決定することで算出できる。
【0117】
一実施形態において制御システム14は、血液ポンプ25と通信しているセンサ22から情報を受信する。他の実施形態では、制御システム14は流入導管20又は流出導管30と通信する、又は流入導管又は流出導管と流体連通する血管内の、センサ22からの情報を受信する。様々な実施形態において、制御システム14のすべて又は一部はポンプ本体25の内部にあってもよく、他方で、別の実施形態においては、制御システムのすべて又は一部は導管内部又は制御装置21内部にあってもよい。
【0118】
本明細書で説明するシステムおよび方法は、末梢静脈と動脈の平均WSSレベルを上昇させる。静脈の正常なWSSは0.076Pa~0.76Paの間の範囲である。本明細書で記述するシステムは、受容末梢静脈内の平均WSSを0.76Pa~23Paの間の範囲、好ましくは2.5Pa~10Paの間の範囲に上昇させるように構成されている。動脈の正常な平均WSSは0.3Pa~1.5Paの範囲である。動脈を拡張するために本明細書で記述するシステムおよび方法は、平均WSSレベルを1.5Pa~23Paの間の範囲、好ましくは2.5Pa~10Paの間の範囲に上昇させる。ある場合には、平均WSSが静脈内で0.76Pa未満、又は動脈内で1.5Pa未満に保持されても、これらの血管の全体直径と内腔直径を増大させ得るが、この増大の程度と割合は臨床的に意味を持つ、すなわち通常の臨床適用に適合する可能性は低い。動脈又は静脈内の平均WSSが23Paより高く保持されると、血管の内皮の剥離(喪失)、すなわち内皮への損傷を生じさせる。これは平均血液速度と平均WSSの上昇に応答する血管の遅延拡張として知られている。例えば好ましくは1日~84日、より好ましくは7日~42日の間、平均WSSを所望の範囲にまで上昇させるように血液をポンプ輸送すると、受容静脈、供与静脈又は供与動脈の全体直径と内腔直径に持続的な増大が生じ、静脈又は動脈の直径が小さいために透析用アクセス部位又はバイパスグラフトとしてはもともと不適格又は準最適であった静脈及び動脈が使用可能又はより適するようになる。血液のポンプ輸送プロセスは定期的にモニタされて、調節されてよい。ポンプは例えば、数分、数時間、1日、3日、1週間又は複数週の期間に亘って調節されて、所望の持続的拡張が達成されるまで末梢静脈又は動脈に(全体直径と内腔直径の持続的増大などのような)変化を起こさせる原因となるようにされる。
【0119】
図37~40では、静脈又は動脈の全体直径と内腔直径を増大させるためのシステム10が患者1に対して使用された状態で示されている。
図37では、システム10は脱酸素化された静脈血を患者の静脈系から抜き出して、その血液を受容末梢血管700内へ放出する。システム10はまた受容末梢血管700内の血液速度を上昇させ、かつその受容末梢血管700の内皮にかかる平均WSSを上昇させて、例えば腕や脚にある受容末梢血管700の全体直径と内腔直径を増大させる。末梢静脈などの血管の直径は、血管の中心にある血液が流れる開空間である内腔の直径の測定、又は、その開空間と血管の壁とを含む血管全体の直径の測定によって決定することができる。
【0120】
本発明は、血液を末梢静脈又は動脈内に移動させ、それによって末梢静脈又は動脈中の血液速度を上昇させ、かつ末梢静脈又は動脈の内皮にかかる平均WSSを上昇させることによって、末梢静脈又は動脈の全体直径および内腔直径を同時かつ持続的に増大させることにも関する。末梢静脈又は動脈中の平均血液速度と、末梢静脈又は動脈中の内皮にかかる平均WSSを血液ポンプシステムを利用して上昇させるシステムについて説明する。好ましくは、ポンプは血液を末梢静脈中に流し、そこではポンプで送り出された血液は、末梢動脈内の血液よりも脈圧が低い場合のように、拍動が抑えられる。
【0121】
システム10は流速を好ましくは50mL/min~2500mL/minの間で、任意選択により50mL/min~1000mL/minの間に維持し、他方、圧力範囲も25mmHg~350mmHgの間に維持するのに適している。前述したように、制御システム14は、末梢静脈内の定常的な平均壁剪断応力を0.76Pa~23Paの間に維持して、末梢静脈の全体直径と内腔直径が5%程度から200%超まで持続的に増大するように最適化されていてもよい。
【0122】
本明細書に記載のシステムは、末梢静脈内の平均血液速度も上昇させる。安静時には、ヒトの橈側皮静脈内の平均血液速度は、大体5~9cm/s(0.05~0.09m/s)の間である。本明細書に記載のシステムに関しては、末梢静脈内の平均血液速度が、末梢受容静脈の初期の全体直径又は内腔直径と所望の最終的な全体直径又は内腔直径とに応じて、10cm/s~120cm/s(0.1m/s~1.2m/s)の間の範囲に、好ましくは25cm/s~100cm/s(0.25m/s~1.0m/s)の間の範囲に上昇させられる。本明細書に記載のシステムは、末梢動脈内の平均血液速度も上昇させる。安静時には、上腕動脈内の平均血液速度は、大体10~15cm/s(0.1~0.15m/s)の間の範囲である。本明細書に記載のシステムと方法に関しては、末梢動脈内の平均血液速度が、動脈の初期の全体直径又は内腔直径と所望の最終的な全体直径又は内腔直径とに応じて、10cm/s~120cm/s(0.1m/s~1.2m/s)の間の範囲に、好ましくは25cm/s~100cm/s(0.25m/s~1.0m/s)の間の範囲に上昇させられる。
【0123】
好ましくは、1日から84日、あるいは好ましくは7日~42日の間平均血液速度を上昇させて、末梢受容静脈、末梢受容動脈、末梢供与静脈又は末梢供与動脈の全体直径と内腔直径の持続的増大をもたらして、静脈又は動脈の直径が小さいために、血液透析のアクセス部位又はバイパスグラフトとしての使用に元々不適格ないしは準最適であった静脈及び動脈を使用可能とする。これはまた、処置期間内に通常の平均血液速度の期間をはさみながら間歇的に平均血液速度を上昇させることによって達成することも可能である。
【0124】
静脈及び動脈内での基準の血流による力と血流による力の変化が、それらの静脈及び動脈の全体直径、内腔直径及びその長さを決めるのに決定的な役割を果たすことが研究により分かっている。例えば、平均血液速度と平均WSSの持続的な上昇が、静脈と動脈の全体直径と内腔直径と長さの持続的な増大をもたらすことができる。平均血液速度と平均WSSの上昇は内皮細胞によって検知され、それが信号機構を触発して、血管平滑筋細胞を刺激し、単球とマクロファージとを吸引させ、コラーゲンやエラスチンなどの細胞外マトリックス成分を劣化させるプロテアーゼを合成し放出させる。このように本発明は、静脈と動脈の改造と、静脈と動脈の全体直径と内腔直径と長さの増大とをもたらすのに十分な期間、平均血液速度と平均WSSとを上昇させることに関する。
【0125】
本明細書に記載のシステムは、末梢静脈又は動脈内の平均WSSを上昇させる。静脈の通常の平均WSSは0.076Pa~0.76Paの間の範囲である。本明細書に記載のシステムは、静脈内の平均WSSレベルを0.76Pa~23Paの間、好ましくは2.5Pa~10Paの間の範囲に上昇させる。動脈の通常の平均WSSは0.3Pa~1.5Paの範囲である。動脈の全体直径と内腔直径を持続的に増大させるために、本明細書に記載のシステムと方法が平均WSSレベルを1.5Pa~23Paの間の範囲、好ましくは2.5Pa~10Paの間の範囲へ上昇させる。好ましくは、1日から84日、あるいは好ましくは7日~42日の間平均WSSを上昇させて、末梢受容静脈、末梢受容動脈、末梢供与静脈又は末梢供与動脈の全体直径と内腔直径の持続的増大をもたらして、元々静脈と動脈の直径が小さいために、血液透析のアクセス部位又はバイパスグラフトとしての使用に不適格ないしは準最適であった静脈及び動脈を使用可能とする。これはまた、処置期間に通常の平均WSSの期間をはさみながら間歇的に平均WSSを上昇させることによって達成することも可能である。
【0126】
ある状況において、平均WSSが末梢静脈内で0.076Pa未満、又は末梢動脈内で1.5Pa未満に保持されても、これらの静脈及び動脈の全体直径と内腔直径を増大させ得るが、この増大の程度と割合は臨床的に意味を持つ、すなわち通常の臨床適用に適合する可能性は低い。末梢静脈及び動脈内で平均WSSレベルが約23Paより高く保持されると、静脈の内皮の剥離(喪失)、すなわち静脈の内皮への損傷を生じさせる可能性がある。内皮の剥離すなわち血管の内皮の損傷は、平均血液速度と平均WSSの上昇された状況において、血管の全体直径と内腔直径の増大を低減させることが知られている。上昇した平均WSSは静脈と動脈の全体直径と内腔直径又は長さに十分持続的な増大をもたらし、元々静脈や動脈の直径が小さいために、血液透析のアクセス部位又はバイパスグラフトとしての使用に不適格ないしは準最適であったそれらを、使用可能又はより適したものとする。処置期間中の静脈の全体直径と内腔直径の持続的増大の速度と程度を最適化するために、末梢受容静脈、末梢受容動脈、末梢供与静脈又は末梢供与動脈の直径が、例えば1日毎、3日毎、1週間毎又は数週間毎に間歇的に決定されて、ポンプ速度の調節を可能とすることができる。
【0127】
本明細書に記載のシステムは、末梢静脈内の平均血液速度も上昇させる。安静時には、ヒトの橈側皮静脈内の平均血液速度は、大体5~9cm/s(0.05~0.09m/s)の間である。本明細書に記載のシステムに関しては、末梢静脈内の平均血液速度が、末梢受容静脈の初期の全体直径又は内腔直径と、末梢受容静脈の所望の最終的な全体直径又は内腔直径とに応じて、10cm/s~120cm/s(0.1m/s~1.2m/s)の間の範囲に、好ましくは25cm/s~100cm/s(0.25m/s~1.0m/s)の間の範囲に上昇させられる。本明細書に記載のシステムは、末梢動脈内の平均血液速度も上昇させる。安静時には、上腕動脈内の平均血液速度は、大体10~15cm/s(0.1~0.15m/s)の間の範囲である。本明細書に記載のシステムと方法に関しては、末梢動脈内の平均血液速度が、末梢動脈の初期の全体直径又は内腔直径と、末梢動脈の所望の最終的な全体直径又は内腔直径とに応じて、10cm/s~120cm/s(0.1m/s~1.2m/s)の間の範囲に、好ましくは25cm/s~100cm/s(0.25m/s~1.0m/s)の間の範囲に上昇させられる。好ましくは、1日から84日、あるいは好ましくは7日~42日の間平均血液速度を上昇させて、末梢受容静脈、末梢受容動脈、末梢供与静脈又は末梢供与動脈の全体直径と内腔直径の持続的増大をもたらして、元々静脈又は動脈の直径が小さいか、長さが不適当であったために、血液透析のアクセス部位又はバイパスグラフトとしての使用に不適格ないしは準最適であった静脈及び動脈を使用可能とする。受容末梢静脈、末梢受容動脈、末梢供与静脈又は末梢供与動脈における10cm/s(0.1m/s)未満の平均血液速度レベルは、これらの静脈及び動脈に全体直径と内腔直径の増大をもたらし得るが、この増大の程度と割合は臨床的に意味を持つ、すなわち通常の臨床適用に適合する可能性は低い。末梢受容静脈、末梢受容動脈、末梢供与静脈又は末梢供与動脈における120cm/s(1.2m/s)を超える平均血液速度レベルは、静脈の内皮の剥離(喪失)、すなわち静脈の内皮への損傷を生じさせる可能性がある。血管内皮の剥離あるいは損傷は、平均血液速度の上昇した状況において観察される血管の全体直径と内腔直径の増大を低減することが知られている。所望の範囲内でかつ十分な期間に亘って上昇した平均血液速度は、静脈及び動脈の全体直径と内腔直径、又は長さに十分な持続的増大をもたらし、元々静脈や動脈の直径が小さいため、あるいは長さが不適当であるために、血液透析のアクセス部位又はバイパスグラフトとしての使用に不適格ないしは準最適であったそれらを、使用可能なものとする。末梢受容静脈、末梢受容動脈、末梢供与静脈又は末梢供与動脈の全体直径又は内腔直径が、例えば1分又は数分毎、1時間又は数時間毎、1日毎、3日毎、1週間毎、又は数週間毎に間歇的に決定されて、処置期間中の静脈の全体直径と内腔直径の持続的増大の速度と割合を最適化するために、ポンプ速度の調節を可能とすることができる。
【0128】
図34に示す一実施形態において、患者の供与静脈又は静脈系内の位置からの脱酸素化された静脈血液を末梢受容静脈へ移動させるために、システム10は血液ポンプ25、一対の導管12及び制御装置21を含んでいる。様々な実施形態において、末梢受容静脈は、橈側皮静脈、橈骨静脈、正中静脈、尺骨静脈、肘正中静脈、橈側正中皮静脈、尺側正中皮静脈、尺側皮静脈、上腕静脈、小伏在静脈、大伏在静脈、大腿静脈又はその他の静脈であってよい。血液透析のアクセス部位の形成やバイパスグラフトに有用なそのほかの静脈、または静脈の利用を必要とするその他の血管手術に有用な他の静脈が利用されてもよい。導管12は脱酸素化された血液を末梢受容静脈に移動させる。末梢血管内の持続的に上昇された平均血液速度と上昇された平均WSSが、末梢受容静脈の全体直径と内腔直径に持続的かつ漸進的な増大を生じさせる。こうして、本発明のシステム10は末梢静脈4の直径又は長さを有利に増大させ、例えば血液透析用アクセス部位(AVF又はAVGなど)の構築、バイパスグラフトに利用への利用、又は当業者により判断される、特定の直径又は長さの静脈を必要とする別の臨床環境において使用することが可能となるようにする。
【0129】
本明細書で用いられている脱酸素化血液とは、毛細血管系を通過して、周辺組織によって酸素を除去されてから静脈系に入ってくる血液のことである。本明細書で言う末梢静脈とは、胸部や腹部や骨盤以外の部分にある任意の静脈のことを指している。
図37の実施形態においては、末梢受容静脈712は橈側皮静脈である。しかし他の実施形態においては、末梢受容静脈は、橈骨静脈、正中静脈、尺骨静脈、肘正中静脈、橈側正中皮静脈、尺側正中皮静脈、尺側皮静脈、上腕静脈、小伏在静脈、大伏在静脈、大腿静脈またはその他の静脈であってよい。末梢静脈の他に、例えば胸部、腹部、および骨盤にある静脈などのような、血液透析のアクセス部位の形成やバイパスグラフトに有用な他の静脈又は、静脈の利用を必要とするその他の血管手術に有用な他の静脈もまた受容静脈として利用されてよい。
【0130】
図37は、システム10を利用して血管の全体直径と内腔直径を増大させる別の実施形態を示している。この実施形態においては、システム10は脱酸素化された血液を供与静脈700から取り出し、上大静脈又は心臓704の右心房702へその血液を移動させる。図に示すように、流入導管706が、この場合は橈側皮静脈である供与静脈700へ流体連通して接続される。一実施形態において、接続は、流入導管706を供与静脈700へ固定するために使用する流入導管706の短いePTFEセグメントを利用して行われ、流入導管のその他のセグメントはポリウレタンを用いて作製されている。他の実施形態において、流入導管又は流出導管の少なくとも一部分は、捩れと圧縮に対する耐性のためにニチノールを含んでいる。図に示すように、流出導管710の一端は血液ポンプ25に接続され、流出導管の他端は血管内部分によって上大静脈と右心房702に流体接続されている。
図37の実施形態に関して、血液ポンプは、所望の上昇したレベルの平均血液速度と上昇したレベルの平均WSSを供与静脈700内に実現するために、供与静脈700内から上大静脈及び心臓704の右心房702に移動する血液の速度を上昇させるために使用される。供与静脈の全体直径と内腔直径が開始時の直径から、例えば10%増大、25%増大、50%増大又は100%以上増大というように、所望の持続的増大をするのに十分な速度で十分な期間の間、ポンプは運転される。更なる実施形態において、流入導管706と供与静脈700の接合部と、右心房702との間の一つ又は複数の静脈弁を(当業者が使用可能な任意の方法を用いて)機能停止又は機能低下させて、血液が供与静脈700内で逆方向に流れて流入導管706内に流れ込むようにさせてもよい。
【0131】
図38は、システム10を利用して血管の全体直径と内腔直径を増大させる別の実施形態を示している。この実施形態においては、システム10は酸素化された血液を供与動脈712(この場合には上腕動脈)から取り出し、上大静脈と心臓704の右心房702へその血液を移動させる。図に示すように、流入導管706は供与動脈712に流体連通して接続されている。一実施形態において、接続は、流入導管を供与静脈712へ固定するために使用する流入導管706の短いePTFEセグメントを利用して行われ、流入導管のその他のセグメントはポリウレタンを用いて作製されている。他の実施形態において、流入導管706の1つまたは両方のセグメントが、捩れや圧縮に対する耐性のために更にニチノールを備えている。図に示すように、流出導管710の一端は血液ポンプ25に接続され、流出導管の他端は血管内部分によって上大静脈と右心房702に流体接続されている。
図38の実施形態に関して、血液ポンプ14は、所望の上昇したレベルの平均血液速度と上昇した平均レベルのWSSを供与動脈712内に実現するために、供与動脈712内から心臓704の右心房702に移動する血液の速度を上昇させるために使用される。供与動脈の全体直径と内腔直径が開始時の直径から、例えば10%増大、25%増大、50%増大又は100%以上増大というように、所望の持続的増大をするのに十分な速度で十分な期間の間、ポンプが運転される。
【0132】
別の実施形態において、酸素化された動脈血液が供与動脈から受容位置へ移動されてもよい。供与動脈としては、橈骨動脈、尺骨動脈、骨間動脈、上腕動脈、前脛骨動脈、後脛骨動脈、腓骨動脈、膝窩動脈、上腕深動脈、浅大腿動脈、または大腿動脈が含まれてよい。ただしこれに限るものではない。
【0133】
図39は、システム10を利用して血管の全体直径と内腔直径を増大させる別の実施形態を示している。この実施形態においては、システム10は酸素化された血液を供与動脈712(この場合には上腕動脈)から取り出し、上大静脈と心臓704の右心房702へその血液を移動させる。図に示すように、導管716は供与動脈712に流体連通して接続されている。一実施形態において、接続は、流入導管を供与動脈712へ固定するために使用する導管716の短いePTFEセグメントを利用して行われ、流入導管のその他のセグメントはポリウレタンを用いて作製されている。他の実施形態において、導管716の1つまたは両方のセグメントが、捩れや圧縮に対する耐性のために更にニチノールを備えている。
図39の実施形態に関しては、ポンプはなく、血液はより高圧の供与動脈712からより低圧の上大静脈と右心房702へ受動的に移動し、導管716は供与動脈712内で平均血液速度と平均WSSが所望の上昇レベルを達成するような長さと内腔直径に構成されている。供与動脈712の全体直径と内腔直径が開始時の直径から、例えば10%増大、25%増大、50%増大又は100%以上増大というように、所望の持続的増大をするのに十分な期間の間、導管716がその場所に保持される。
【0134】
図40は、システム10を利用して末梢動脈の全体直径と内腔直径を増大させる別の実施形態を示している。この実施形態においては、システム10は、橈骨動脈などのような標的動脈718から酸素化された血液を取り出して、その血液を上腕動脈などのような受容動脈720へ移動させるように構成されている。図に示すように、流入導管706は標的動脈718に流体連通して接続されている。一実施形態において、流入導管706と動脈、又は流出導管710と動脈の間の接続は、流入導管を標的動脈718又は受容動脈720に流体接続されている流出導管710へ流体接続するために使用されている、それぞれの導管の短いePTFEセグメントを用いて行われてよい。他方で、流入導管と流出導管の残りのセグメントはポリウレタンを用いて作ることができる。他の実施形態において、流入導管706又は流出導管710の1つまたは両方のセグメントは、例えば捩れや圧縮に対する耐性のために更にニチノールを備えている。
【0135】
図に示すように、流出導管710の一端は血液ポンプ25に接続され、流出導管の他端は受容動脈720に流体接続されている。
図40の実施形態に関して、所望の上昇したレベルの平均血液速度と上昇したレベルの平均WSSを標的動脈内に実現するために、血液ポンプ25は、標的動脈718から取り出す血液の速度を上昇させるために使用される。標的動脈718の全体直径と内腔直径が開始時の直径から、例えば10%増大、25%増大、50%増大又は100%以上増大というように、所望の持続的増大をするのに十分な速度でかつ十分な期間の間、ポンプが運転される。
【0136】
本発明を例示的な態様と実施形態に関して説明したが、本記述を読むことにより当業者にはその様々な変形が明らかとなることを理解されたい。従って、本明細書に開示した本発明は、そのような変形も添付の特許請求の範囲の中に含むことを意図している。