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特許7005557炭素繊維強化プラスチック板および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法
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  • 特許-炭素繊維強化プラスチック板および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法 図1
  • 特許-炭素繊維強化プラスチック板および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法 図2
  • 特許-炭素繊維強化プラスチック板および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法 図3
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】炭素繊維強化プラスチック板および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B32B 5/28 20060101AFI20220114BHJP
   D04H 1/4242 20120101ALI20220114BHJP
   C08J 5/04 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
B32B5/28 A
D04H1/4242
C08J5/04 CFC
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019106345
(22)【出願日】2019-06-06
(65)【公開番号】P2020199643
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2020-08-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000201814
【氏名又は名称】双葉電子工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100134832
【弁理士】
【氏名又は名称】瀧野 文雄
(74)【代理人】
【識別番号】100165308
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 俊明
(74)【代理人】
【識別番号】100115048
【弁理士】
【氏名又は名称】福田 康弘
(74)【代理人】
【識別番号】100161001
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 篤司
(72)【発明者】
【氏名】保科 有佑
(72)【発明者】
【氏名】長井 智
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開平08-134757(JP,A)
【文献】特開2005-336407(JP,A)
【文献】特開2007-090811(JP,A)
【文献】特開2009-152641(JP,A)
【文献】国際公開第2016/017080(WO,A1)
【文献】特開2006-027091(JP,A)
【文献】特許第5861941(JP,B2)
【文献】特開昭54-025987(JP,A)
【文献】特開昭63-286339(JP,A)
【文献】特開2006-051813(JP,A)
【文献】特表2014-533772(JP,A)
【文献】特表2002-527588(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00-43/00
C08J 5/04
D04H 1/00-18/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
炭素繊維織布および母材を有する第1炭素繊維強化プラスチック層と、
炭素繊維不織布および母材を有する厚さ3mm以下の第2炭素繊維強化プラスチック層と、を備え、
第2炭素繊維強化プラスチック層は前記第1炭素繊維強化プラスチック層に積層する、炭素繊維強化プラスチック板であって、
板の厚みが5~100mmであり、
前記第2炭素繊維強化プラスチック層の平面度は100mmあたり0.005~0.05mmである、
炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項2】
前記母材が熱硬化性樹脂である、請求項1に記載の炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項3】
順に、前記第2炭素繊維強化プラスチック層と、前記第1炭素繊維強化プラスチック層と、前記第2炭素繊維強化プラスチック層と、が積層した積層体を備える、請求項1または2に記載の炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項4】
前記第2炭素繊維強化プラスチック層において、炭素繊維不織布の繊維体積含有率が20~40体積%である、請求項1~3のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項5】
前記第1炭素繊維強化プラスチック層において、炭素繊維織布の繊維体積含有率が50~60体積%である、請求項1~4のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック板。
【請求項6】
請求項1~のいずれかに記載の炭素繊維強化プラスチック板の製造方法であって、
母材を含浸させた炭素繊維織布および炭素繊維不織布を硬化させる硬化工程と、
前記硬化工程後、前記第2炭素繊維強化プラスチック層をフライス加工するフライス加工工程を含む、
炭素繊維強化プラスチック板の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭素繊維強化プラスチック板および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
炭素繊維強化プラスチック(以下、「CFRP」とする場合がある)は、軽量で高い強度を有し、釣竿やゴルフクラブのシャフト等のスポーツ用途、自動車や航空機等の産業用途などの他、建築物の補強等の建設分野等にも幅広く用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1では、繊維長が5~50mmの炭素繊維からなる不織布と重量平均分子量が7万以上30万以下であるポリアリーレンスルフィドをマトリクス樹脂とする炭素繊維複合材料であり、計装化シャルピー衝撃試験で得られるき裂伝播エネルギーEpが0.2~2[J]の範囲にある炭素繊維複合材料が、開示されている。
【0004】
また、特許文献2では、炭素繊維を含んでなる炭素繊維基材の端材を切断して切断片を得、該切断片を不織布化してカーディングおよび/またはパンチングすることにより炭素繊維集合体を得る炭素繊維集合体の製造方法が開示されている。さらに、この製造方法で製造された炭素繊維集合体にマトリックス樹脂を含浸する炭素繊維強化プラスチックの製造方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-169276号公報
【文献】特許第5861941号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1、2のように、炭素繊維の不織布に母材を含浸させたCFRPは加工性に優れているものの、炭素繊維の織布のように配向が揃っていて繊維長の長い連続繊維に母材を含浸させたCFRPよりも強度が劣る。一方で、炭素繊維の織布に母材を含浸させたCFRPは、研削加工等を行うと加工によって繊維が毛羽立ってしまい、炭素繊維の不織布に母材を含浸させたCFRPよりも加工性や加工後の平滑性に劣る。
【0007】
そこで、本発明は、加工性、加工後の平滑性および強度を満足することのできる、炭素繊維強化プラスチック板および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法を提供することを目的とする。
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の炭素繊維強化プラスチック板は、炭素繊維織布および母材を有する第1炭素繊維強化プラスチック層と、炭素繊維不織布および母材を有する厚さ3mm以下の第2炭素繊維強化プラスチック層と、備え、第2炭素繊維強化プラスチック層は前記第1炭素繊維強化プラスチック層に積層する。
【0009】
前記母材が熱硬化性樹脂であってもよい。
【0010】
順に、前記第2炭素繊維強化プラスチック層と、前記第1炭素繊維強化プラスチック層と、前記第2炭素繊維強化プラスチック層とが積層した積層体を備えてもよい。
【0011】
前記第2炭素繊維強化プラスチック層において、炭素繊維不織布の繊維体積含有率が20~40体積%であってもよい。
【0012】
前記第1炭素繊維強化プラスチック層において、炭素繊維織布の繊維体積含有率が50~60体積%であってもよい。
【0013】
前記第2炭素繊維強化プラスチック層の平面度は100mmあたり0.005~0.05mmであってもよい。
【0014】
また、上記課題を解決するために、本発明の炭素繊維強化プラスチック板の製造方法は、上記の炭素繊維強化プラスチック板の製造方法であって、母材を含浸させた炭素繊維織布および炭素繊維不織布を硬化させる硬化工程を含む。
【0015】
前記硬化工程後、前記第2炭素繊維強化プラスチック層をフライス加工するフライス加工工程を含んでもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、加工性、加工後の平滑性および強度を満足することのできる、炭素繊維強化プラスチック板および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】本発明の一実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック板の模式断面図である。
図2図1とは異なる態様の、本発明の一実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック板の模式断面図である。
図3】実施例において、CFRP板について行った曲げ強度の評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明に係る炭素繊維強化プラスチック板および炭素繊維強化プラスチック板の製造方法の一実施形態について、図面を参照しつつ説明する。なお、本発明は以下の例に限定されるものではない。
【0019】
[炭素繊維強化プラスチック板]
本発明の炭素繊維強化プラスチック板は、第1炭素繊維強化プラスチック層と、第2炭素繊維強化プラスチック層と、を備える。CFRPシートやプリプレグ、フィルムのように曲げられるような柔軟性はなく、硬く剛性のある板である。
【0020】
〈第1炭素繊維強化プラスチック層〉
第1炭素繊維強化プラスチック層は、炭素繊維織布および母材を有する層である。炭素繊維として織布を採用し、母材と組み合わせた複合材料層とすることで強靭な層となるため、CFRP板としての強度を確保することができる。
【0021】
(炭素繊維織布)
炭素繊維織布は、炭素繊維を糸とし、糸を縦横に組み合わせて織った織物である。炭素繊維は、軽くて強いという長所があり、例えば鉄と比較すると比重で1/4倍、比強度で10倍、比弾性率が7倍ある。その他にも、耐摩耗性、耐熱性、熱伸縮性、耐酸性、電気伝導性に優れる。例えば、アクリル繊維またはピッチを原料とし、原料を高温で炭化して作ることが可能であり、炭素繊維としては有機繊維の前駆体を加熱炭素化処理して得られる、質量比で90%以上が炭素で構成される繊維が挙げられる。
【0022】
炭素繊維として、アクリル繊維を使った炭素繊維はPAN系(Polyacrylonitrile)炭素繊維、ピッチを使った炭素繊維はピッチ系(PITCH)炭素繊維と区分される。さらにピッチ系炭素繊維の場合、等方性ピッチ系炭素繊維からは汎用の炭素繊維が製造され、メソフェーズピッチ系からは高強度で高弾性率の炭素繊維が製造される。本発明では、PAN系炭素繊維およびピッチ系炭素繊維のいずれも使用することができる。例えば、剛性のあるCFRPを得るために、剛性に優れるピッチ系炭素繊維を使用することができ、また、強度のあるCFRPを得るために、強度に優れるPAN系炭素繊維を使用することができる。
【0023】
このような炭素繊維を織物とした炭素繊維織布としては、二方向高強度クロスといわれる。縦方向と横方向の二方向において高強度のものを使用することができる。繊維質量としては、縦50~200g/m、横50~200g/mのものを使用することができ、厚さが縦0.03~0.1mm、横0.03~0.1mmのものを使用することができる。
【0024】
(母材)
CFRP板において、母材は炭素繊維の間隙を充填する材料であり、合成樹脂や天然樹脂を用いることができる。CFRP板としての強度を確保する観点から、エポキシ樹脂やウレタン樹脂等の熱硬化性樹脂を母材として用いることができる。また、炭素繊維との相溶性の点から、ポリブチレンサクシネート(PBS)やポリフェニレンサルファイド(PPS)も用いることができる。
【0025】
特に、母材としてエポキシ樹脂を使用する場合には、ビスフェノールAやビスフェノールFとエピクロルヒドリンとの共重合体を主剤とし、種々のポリアミンや無水フタル酸等の酸無水物を硬化剤として使用することができる。また、CFRP板に溶剤が含まれないよう、また、板としての痩せが生じないよう、無溶剤型の樹脂を使用することが好ましく、炭素繊維との複合の容易性の観点から、常温で固形の樹脂よりも液状の樹脂を用いることが好ましい。
【0026】
エポキシ樹脂としては、具体的にはエポキシ当量150~300の液状無溶剤型のビスフェノールAを主剤とし、これと相溶し反応硬化可能なビスアミノ化合物を硬化剤として使用することができる。例えば、これらの主剤と硬化剤を混合後、ポットライフ以前に炭素繊維と複合化することで、CFRP板とすることができる。
【0027】
第1炭素繊維強化プラスチック層において、炭素繊維織布の繊維体積含有率(Vf)が50~60体積%であることが好ましい。Vfが高いと、機械特性や物理特性に優れるという長所があるが、母材の量が少なくなるため、第1炭素繊維強化プラスチック層を形成することが困難となるおそれがある。また、Vfが高いと、靱性や表面平滑性に劣るおそれがある。一方で、Vfが低いと、母材の特性が優先的に発現してしまい、炭素繊維による強化向上効果が損なわれるおそれがある。これらの点を考慮して、第1炭素繊維強化プラスチック層の場合には、Vfを50~60体積%とすることで、CFRP板としての強度を十分に確保することができる。
【0028】
〈第2炭素繊維強化プラスチック層〉
第2炭素繊維強化プラスチック層は、炭素繊維不織布および母材を有する厚さ3mm以下の層である。炭素繊維として不織布を採用し、母材と組み合わせた複合材料層とする。炭素繊維不織布は、炭素繊維織布と比べるとCFRP板とした場合の強度に劣るものの、フライス加工等の加工時に毛羽立ちが抑えられて加工性に優れることとなる。
【0029】
(炭素繊維不織布)
炭素繊維不織布は、炭素繊維を織らずニードルパンチ法等によって3次元に絡み合わせたシート状の布である。炭素繊維の詳細については、〈第1炭素繊維強化プラスチック層〉の項目において説明した内容と同様であるため、ここでは説明は省略する。
【0030】
このような炭素繊維不織布としては、例えばPAN系の炭素繊維を基本とし、質量300~1500g/m、厚みが3~15mmのものを使用することができる。また、炭素繊維へレイヨン繊維、アクリル繊維、可塑性樹脂繊維、その他各種繊維を所定比率で複合した混合繊維を用いることもできる。
【0031】
本発明の炭素繊維強化プラスチック板では、第2炭素繊維強化プラスチック層は第1炭素繊維強化プラスチック層に積層するものである。このような積層態様とすることで、第1炭素繊維強化プラスチック層によりCFRP板としての強度を確保しつつ、第1炭素繊維強化プラスチック層の表面に積層する第2炭素繊維強化プラスチック層によりフライス加工等の加工性や平滑性に優れるCFRP板とすることができる。
【0032】
本発明の炭素繊維強化プラスチック板の具体例について、図1、2を用いて説明する。図1は、本発明の一実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック板の模式断面図である。また、図2は、図1とは異なる態様の、本発明の一実施形態に係る炭素繊維強化プラスチック板の模式断面図である。
【0033】
図1に示す炭素繊維強化プラスチック板100は、第1炭素繊維強化プラスチック層10のおもて面とうら面に第2炭素繊維強化プラスチック層20が積層されており、すなわち、順に、第2炭素繊維強化プラスチック層20と、第1炭素繊維強化プラスチック層10と、第2炭素繊維強化プラスチック層20とが積層した積層体となっている。第2炭素繊維強化プラスチック層20は、厚さ3mm以下の層であり、フライス加工等されていない状態であれば、0.5~3mm程度の層であり、フライス加工等されていない状態の第2炭素繊維強化プラスチック層20の表面を平滑にするために、フライス加工等された後の状態であれば、0.05~0.1mm程度の層である。
【0034】
フライス加工後であれば、炭素繊維強化プラスチック板100の表面、すなわち第2炭素繊維強化プラスチック層20の表面の平滑性は、加工後よりも高くなっている。例えば、第2炭素繊維強化プラスチック層20の平面度は100mmあたり0.005~0.05mmに調整することができる。
【0035】
また、図2に示す炭素繊維強化プラスチック板110のように、第1炭素繊維強化プラスチック層10のおもて面とうら面のいずれかに第2炭素繊維強化プラスチック層20が積層された積層体であってもよい。さらに、第1炭素繊維強化プラスチック層10は、炭素繊維織布による単一層であってもよく、要求される強度を満足するものであれば、炭素繊維の織布、不織布、織布という3層構造の層であってもよく、さらに4層以上の多層構造であってもよい。
【0036】
第2炭素繊維強化プラスチック層において、炭素繊維不織布の繊維体積含有率(Vf)が20~40体積%であることが好ましい。Vfが高いと、機械特性や物理特性に優れるという長所があるが、母材の量が少なくなるため、第2炭素繊維強化プラスチック層を形成することが困難となるおそれがある。また、Vfが高いと、靱性や加工性、表面平滑性に劣るおそれがある。一方で、Vfが低いと、母材の特性が優先的に発現してしまい、炭素繊維による強化向上効果が損なわれるおそれがある。これらの点を考慮して、第2炭素繊維強化プラスチック層の場合には、Vfを20~40体積%と、第1炭素繊維強化プラスチック層よりも低く設定することで、加工性や表面の平滑性を満足することができる。
【0037】
第2炭素繊維強化プラスチック層の母材として、熱硬化性樹脂を使用することが出来る。詳細については、第1炭素繊維強化プラスチック層において説明しており、説明は省略する。
【0038】
(その他の構成)
本発明の炭素繊維強化プラスチック板は、第1炭素繊維強化プラスチック層と第2炭素繊維強化プラスチック層に加え、他の構成を備えてもよい。例えば、第1炭素繊維強化プラスチック層と第2炭素繊維強化プラスチック層とを接着して積層する場合には、これらの層の間に母材との相性の良い樹脂系の接着剤層を備えることができる。また、第1炭素繊維強化プラスチック層や第2炭素繊維強化プラスチック層の表面に傷が発生したり、表面が汚染されないよう、炭素繊維強化プラスチック板を使用する直前まで表面を保護する保護層や保護フィルム等を備えてもよい。
【0039】
炭素繊維強化プラスチック板としては、板の厚みが5~100mmであることが一般的であり、特には8~40mmの厚みの板が汎用的に用いられる。また、第1炭素繊維強化プラスチック層の厚みは、炭素繊維強化プラスチック板の総厚の80%以上とすることで、炭素繊維強化プラスチック板としての強度を満足することができる。
【0040】
[炭素繊維強化プラスチック板の製造方法]
次に、上記した本発明の炭素繊維強化プラスチック板について、その製造方法を説明する。
【0041】
〈硬化工程〉
硬化工程は、母材を含浸させた炭素繊維織布および炭素繊維不織布を硬化させる工程である。例えば母材が熱硬化性樹脂であれば、加熱させることで硬化させることができる。また、熱可塑性樹脂であれば、加熱溶融させた状態で炭素繊維織布および炭素繊維不織布に樹脂を含浸させた後に、常温まで冷却することで硬化させることができる。
【0042】
製造手順としては、硬化工程の前に、織布と不織布を積層してから母材を含浸させて、その後に硬化工程を実施してCFRP板を製造してもよく、織布と不織布のそれぞれに母材を含浸させてから硬化工程を実施して、第1炭素繊維強化プラスチック層と第2炭素繊維強化プラスチック層を別個に製造し、これらを接着剤等で接合してCFRP板を製造してもよい。
【0043】
なお、接着剤層があることによってCFRP板の強度が低下するおそれがある場合には、例えばVaRTM法により、織布と不織布を積層してから母材を含浸させて、その後に室温硬化と加熱硬化を行うことにより、接着剤層が存在せず、第1炭素繊維強化プラスチック層へ第2炭素繊維強化プラスチック層が直接積層したCFRP板を製造することができる。
【0044】
〈フライス加工工程〉
本発明では、硬化工程後、第2炭素繊維強化プラスチック層をフライス加工する工程を設けてもよい、CFRP板の表面平滑性を向上させるべく、例えば表面の平面度は100mmあたり0.005~0.05mmにする場合には、フライス加工を行えばよい。
【0045】
(その他の工程)
本発明の炭素繊維強化プラスチック板の製造方法は、硬化工程やフライス加工工程に加え、他の構成を備えてもよい。例えば、上記した炭素繊維の織布と不織布を積層する工程や、積層した炭素繊維へ母材を含浸させる含浸工程が挙げられる。
【実施例
【0046】
以下、本発明について、実施例を用いてさらに具体的に説明するが、本発明は、実施例に何ら限定されるものではない。以下の実施例では、CFRP板を製造し、製造したCFRP板に対してフライス加工または曲げ強度の評価を行った。
【0047】
[フライス加工性および平面度の評価]
〈CFRP板の製造〉
(実施例1)
金型(内部寸法:15×15×1cm)内に炭素繊維織布(東レ株式会社製BT70-20)を2層重ね、さらに炭素繊維不織布(金井重要工業株式会社製CFZ-500SD)を2層重ねて4層構造とした炭素繊維を金型に配置した。そして、エポキシ樹脂主剤(三菱ケミカル株式会社製jER806)と硬化剤(東京化成工業株式会社製4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン))を質量比で100:36の割合で混合後、100℃に加熱して密閉した金型内に混合した樹脂を0.5MPaの圧力で加圧注入した。混合した樹脂の注入後、100℃で20分の加熱硬化を行い、第1炭素繊維強化プラスチック層の厚さが0.8cm(0.4cm×2)、Vf57体積%、第2炭素繊維強化プラスチック層の厚さが0.2cm(0.1cm×2)、Vf28体積%である、CFRP板を得た。
【0048】
(比較例1)
金型(内部寸法:15×15×1cm)内に炭素繊維不織布(金井重要工業株式会社製CFZ-1000SD)を3層、その上に炭素繊維不織布(金井重要工業株式会社製CFZ-250SD)を1層重ね、合計4層の炭素繊維不織布を配置した。そして、エポキシ樹脂主剤(三菱ケミカル株式会社製jER806)と硬化剤(東京化成工業株式会社製4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン))を質量比で100:36の割合で混合後、100℃に加熱して密閉した金型内に混合した樹脂を0.5MPaの圧力で加圧注入した。混合した樹脂の注入後、100℃で20分の加熱硬化を行い、厚みが10mm、Vf21%のCFRP板を得た。
【0049】
(比較例2)
金型(内部寸法:15×15×1cm)内に炭素繊維不織布(金井重要工業株式会社製CFZ-1000SD)を5層、その上に炭素繊維不織布(金井重要工業株式会社製CFZ-250SD)を1層重ね、合計6層の炭素繊維不織布を配置した。そして、エポキシ樹脂主剤(三菱ケミカル株式会社製jER806)と硬化剤(東京化成工業株式会社製4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン))を質量比で100:36の割合で混合後、80℃に加熱して密閉した金型内に混合した樹脂を0.5MPaの圧力で加圧注入した。混合した樹脂の注入後、100℃で25分の加熱硬化を行い、厚みが10mm、Vf31%のCFRP板を得た。
【0050】
(比較例3)
金型(内部寸法:15×15×1cm)内に炭素繊維不織布(金井重要工業株式会社製CFZ-1000SD)を7層、その上に炭素繊維不織布(金井重要工業株式会社製CFZ-250SD)を1層重ね、合計8層の炭素繊維不織布を配置した。そして、エポキシ樹脂主剤(三菱ケミカル株式会社製jER806)と硬化剤(東京化成工業株式会社製4,4’-メチレンビス(2-メチルシクロヘキシルアミン))を質量比で100:36の割合で混合後、80℃に加熱して密閉した金型内に混合した樹脂を0.5MPaの圧力で加圧注入した。混合した樹脂の注入後、100℃で25分の加熱硬化を行い、厚みが10mm、Vf40%のCFRP板を得た。
【0051】
(比較例4)
縦12cm、横12cmの炭素繊維織布(東レ株式会社製BT70-20)を10層重ねた炭素繊維を金属板上に配置し、母材が漏えいしないように炭素繊維の周囲をフィルムとシーラントで密閉した。そして、エポキシ樹脂主剤(三菱ケミカル株式会社製jER806)と硬化剤(三菱ガス化学株式会社製1,3-BAC)を質量比で100:21の割合で混合後、VaRTM法により、混合した樹脂を炭素繊維へ注入した。注入後に室温硬化させ、さらに150℃、60分の条件で加熱硬化を行い、第1炭素繊維強化プラスチック層の厚さが2mm、Vf57体積%のCFRP板を得た。なお、炭素繊維不織布は使用しなかった。
【0052】
〈フライス加工処理〉
製造した実施例1のCFRP板を3体使用し、第2炭素繊維強化プラスチック層の表面に対し、第2炭素繊維強化プラスチック層の厚さが0.1mmとなるまで、以下の条件によりフライス加工を行った。また、比較例1~4のCFRP板についても3体使用し、実施例1のCFRP板と同条件のフライス加工を行った。
【0053】
(フライス加工条件)
装置:スクリューオン式汎用正面フライス(三菱マテリアル製)
カッタ型式:ASX44R10005D
インサート:SEGT13T3AGFN-JP HTi10
回転数:S=615min-1(V=193m/min)
送り速度:F=369mm/min
【0054】
フライス加工後の実施例1、比較例1~4のCFRP板について、これらの表面の平面度(平面形体の幾何学的に正しい平面からの狂いの大きさ)を、3次元精密測定機(ZEISS社製 型番:UPMC 850)を用いて測定した。各例のCFRP板3体の平面度の平均値を、表1に示す。
【0055】
【表1】
【0056】
実施例1のCFRP板の第2炭素繊維強化プラスチック層は、比較例1~3と同様に炭素繊維不織布を用いた層であり、フライス加工後の平面度に問題は無く、平面性は高い結果となった。
【0057】
一方で、炭素繊維不織布を使用せずに炭素繊維織布を用いた比較例4のCFRP板は、フライス加工によって繊維が毛羽立ち、毛羽立ちによって平面度の値が大きくなり平面性の低い板であった。
【0058】
[曲げ強度の評価]
〈CFRP板の製造〉
実施例1と同様の製法により、炭素繊維織布および炭素繊維不織布を重ねて、エポキシ樹脂を注入し、室温硬化および加熱硬化させて、第1炭素繊維強化プラスチック層(Vf57体積%)と第2炭素繊維強化プラスチック層(Vf28体積%)の厚みが異なる炭素繊維強化プラスチック板110を3種類製造した。また、同様に、炭素繊維織布のみを用いたCFRP板および炭素繊維不織布のみを用いたCFRP板を製造した。すなわち、厚みが同じで炭素繊維織布および炭素繊維不織布の割合(表2、図3では「(織布/(織布+不織布))×100」と表記)が異なるCFRP板を5種製造した。
【0059】
〈曲げ試験の実施〉
得られた5種類のCFRP板について、JIS K7074に基づき以下の条件にて曲げ試験を実施した。測定結果を表2、図3に示す。
【0060】
試験片の寸法:100×15mm、厚み2mm
試験速度:5mm/分
支点間距離L:L=40×h(80mm)
圧子の半径R1:R1=5mm
支持台の半径R2:R2=2mm
曲げ弾性率:接線法
【0061】
【表2】
【0062】
実用性のあるCFRP板としては、炭素繊維不織布を加えても、炭素繊維として炭素繊維織布のみを用いたCFRP板の曲げ強度の80%以上の曲げ強度を確保することが重要となる。表2、図3より、炭素繊維織布と炭素繊維不織布を併用する場合において、炭素繊維織布の割合が80%以上のCFRP板、すなわち、第1炭素繊維強化プラスチック層の厚みがCFRP板の厚みの80%以上の厚みであれば、十分な強度を確保できることがわかった。
【0063】
〈まとめ〉
このように、本発明の炭素繊維強化プラスチック板であれば、加工性、加工後の平滑性および強度を満足することができる。そのため、例えばプレス金型のダイセット部品等に利用可能であり、従来の金属製プレートと比べると重量は半分以下で、高速駆動する金型部品等に用いる等すれば、位置決め精度を高めることができる。
【符号の説明】
【0064】
10 第1炭素繊維強化プラスチック層
20 第2炭素繊維強化プラスチック層
100 炭素繊維強化プラスチック板
110 炭素繊維強化プラスチック板
図1
図2
図3