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特許7005579弾性波素子、アンテナデュプレクサ、ダイプレクサ及び通信機器
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-02-04
(54)【発明の名称】弾性波素子、アンテナデュプレクサ、ダイプレクサ及び通信機器
(51)【国際特許分類】
   H03H 9/145 20060101AFI20220128BHJP
   H03H 9/25 20060101ALI20220128BHJP
   H03H 9/72 20060101ALI20220128BHJP
【FI】
H03H9/145 C
H03H9/25 C
H03H9/72
【請求項の数】 17
【外国語出願】
(21)【出願番号】P 2019217819
(22)【出願日】2019-12-02
(62)【分割の表示】P 2016048065の分割
【原出願日】2016-03-11
(65)【公開番号】P2020061742
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2019-12-24
(31)【優先権主張番号】62/132,046
(32)【優先日】2015-03-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】514250975
【氏名又は名称】スカイワークスフィルターソリューションズジャパン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 秀和
(74)【代理人】
【識別番号】100095500
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 正和
(74)【代理人】
【識別番号】100111235
【弁理士】
【氏名又は名称】原 裕子
(72)【発明者】
【氏名】小松 禎也
(72)【発明者】
【氏名】清水 英仁
(72)【発明者】
【氏名】藤原 城二
(72)【発明者】
【氏名】鶴成 哲也
(72)【発明者】
【氏名】中村 弘幸
【審査官】志津木 康
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-227626(JP,A)
【文献】国際公開第2010/137279(WO,A1)
【文献】国際公開第2006/114930(WO,A1)
【文献】特開2006-295976(JP,A)
【文献】特開2010-041097(JP,A)
【文献】国際公開第2013/118532(WO,A1)
【文献】国際公開第2008/149620(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H03H3/007-H03H3/10
H03H9/00-H03H9/76
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
弾性波素子であって、
第1成分φが10°≦φ≦50°を満たし、第2成分θが-90°-0.5×(-0.2234ρ +6.9119ρ-8.928)°≦θ≦-90°+0.5×(-0.2234ρ +6.9119ρ-8.928)°を満たすオイラー角(φ,θ,ψ)を有するタンタル酸リチウム基板と、
前記タンタル酸リチウム基板の上に設けられて波長λの主要弾性波を励振させる電極と、
前記タンタル酸リチウム基板とは逆の温度係数を有する絶縁層と
を含み、
ここでρは前記電極の密度を表し、
前記電極の密度ρ(g/cm)は、ρTiがチタン(Ti)の密度(g/cm)を表す場合にρ≧ρTiを満たし、
前記電極の規格化厚さhλは0.41×exp(-0.075ρ)≦h/λ≦0.34を満たし、
前記絶縁層は、前記タンタル酸リチウム基板及び前記電極を覆い、
第3成分ψが(-371.81(h/λ)+36.92(h/λ)+3.53)°≦ψ≦(-371.81(h/λ)+36.92(h/λ)+13.53)°を満たし、
ここでh/λは前記絶縁層の規格化厚さを表し、
前記第3成分ψは、前記電極がタングステン(W)の場合に、共振パワーフロー角度及び反共振パワーフロー角度の少なくとも一方がゼロになるように構成される弾性波素子。
【請求項2】
前記絶縁層は二酸化ケイ素から作られる請求項1の弾性波素子。
【請求項3】
前記絶縁層の規格化厚さhλは0.08≦h/λ≦0.55を満たす請求項2の弾性波素子。
【請求項4】
前記絶縁層は、周波数温度係数を増加させるべく前記電極の電極指の延伸方向と直交する方向の断面において前記電極の上方に設けられた突起を含む請求項1の弾性波素子。
【請求項5】
前記突起の規格化高さhλ及び前記電極の規格化厚さhλは0≦h/λ≦h/λを満たす請求項4の弾性波素子。
【請求項6】
アンテナデュプレクサであって、
第1周波数を通過させるべく構成された受信フィルタと、
第2周波数を通過させるべく構成された送信フィルタと
を含み、
前記受信フィルタ及び前記送信フィルタの少なくとも一方が請求項1の弾性波素子を含むアンテナデュプレクサ。
【請求項7】
ダイプレクサであって、
第1周波数帯域を受信するべく構成された第1受信フィルタと、
前記第1周波数帯域とは異なる第2周波数帯域を受信するべく構成された第2受信フィルタと
を含み、
前記第1受信フィルタ及び前記第2受信フィルタの少なくとも一方が請求項1の弾性波素子を含むダイプレクサ。
【請求項8】
請求項6のアンテナデュプレクサ及び請求項7のダイプレクサの一方を含む通信機器。
【請求項9】
前記通信機器は携帯電話である請求項8の通信機器。
【請求項10】
前記電極は、インターディジタル電極指を有するIDT電極である請求項1の弾性波素子。
【請求項11】
前記IDT電極は、チタン、モリブデン、タングステン及び白金からなる群から選択された一つの金属を含む請求項10の弾性波素子。
【請求項12】
前記IDT電極の上にアルミニウム層が設けられる請求項11の弾性波素子。
【請求項13】
前記IDT電極の規格化厚さhλは、前記IDT電極の規格化厚さ及び前記アルミニウム層の規格化厚さを含む請求項12の弾性波素子。
【請求項14】
第2成分θが-111°≦θ≦-69°を満たす請求項11の弾性波素子。
【請求項15】
前記IDT電極はタングステンを含む請求項14の弾性波素子。
【請求項16】
前記第3成分ψが-16°≦ψ≦-2.5°を満たす請求項1の弾性波素子。
【請求項17】
弾性波素子であって、
第1成分φが10°≦φ≦50°を満たし、第3成分ψが-16°≦ψ≦-2.5°を満たすオイラー角(φ,θ,ψ)を有するタンタル酸リチウム基板と、
前記タンタル酸リチウム基板の上に設けられて波長λの主要弾性波を励振させる電極と、
前記タンタル酸リチウム基板とは逆の温度係数を有する絶縁層と
を含み、
前記電極は、ρTiがチタン(Ti)の密度(g/cm)を表す場合にρ≧ρTiを満たす密度ρ(g/cm)を有し、
前記電極の規格化厚さhλは0.41×exp(-0.075ρ)≦h0.34を満たし、
前記絶縁層は、前記タンタル酸リチウム基板及び前記電極を覆い、
第3成分ψが(-371.81(h/λ)+36.92(h/λ)+3.53)°≦ψ≦(-371.81(h/λ)+36.92(h/λ)+13.53)°を満たし、
ここでh/λは前記絶縁層の規格化厚さを表し、
前記第3成分ψは、前記電極がタングステン(W)の場合に、共振パワーフロー角度及び反共振パワーフロー角度の少なくとも一方がゼロになるように構成される弾性波素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示の側面及び実施形態は一般に、弾性波素子と、当該弾性波素子を含むアンテナデュプレクサ又はダイプレクサと、当該弾性波素子、当該アンテナデュプレクサ又は当該ダイプレクサを含む電子機器とに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、タンタル酸リチウム(LiTaO)基板に沿って非漏洩のSH(shear horizontal)波を伝播させる弾性波素子が、移動体通信機器等のフィルタ及びアンテナデュプレクサとして使用されている。このような弾性波素子においてSH波の励振は、当該SH波の速度が、遅い横波(slow shear wave(SSW))の速度よりも遅くなるように構成することによって行われている。例えば特許文献1を参照のこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】米国特許出願公開第2007/0090898(A1)号明細書
【発明の概要】
【0004】
しかしながら、タンタル酸リチウム基板に沿って非漏洩のSH波を伝播させる弾性波素子においてはIDT(インターディジタルトランスデューサ)電極の厚さが大きくなる。具体的には、IDT電極の厚さは、漏洩SH波を伝播させる弾性波素子のIDT電極の厚さの倍以上となる。例えば、IDT電極の材料としてモリブデン(Mo)が使用される場合、SH波の波長λに対するIDT電極の厚さhの比h/λは、9.5%よりも大きくなる。このようなIDT電極の大きな厚さは、リソグラフィー等の工程において加工限界に達するために製造が困難となる。さらに、所定の電気機械結合係数kを確保するためには、タンタル酸リチウムの回転Y軸についてのカット角を、多用されている42°よりも小さく抑える必要がある。このような小さなカット角においては、レイリー波によるスプリアスが発生する。
【0005】
上述の事情に鑑み、本開示の実施形態は、タンタル酸リチウム基板に沿って非漏洩のSH波を伝播させるが、IDT電極の厚さを最小限とし、かつ、レイリー波によるスプリアスを抑制することができる弾性波素子と、アンテナデュプレクサ又はダイプレクサと、当該弾性波素子、当該アンテナデュプレクサ又は当該ダイプレクサを使用する電子機器とを与える。
【0006】
本開示の一実施形態によれば、弾性波素子は、オイラー角(φ,θ,ψ)を有するタンタル酸リチウム基板と、当該タンタル酸リチウム基板の上に設けられて波長λの主要弾性波を励振させる電極とを含み、第1成分φが10°≦φ≦50°を満たし、当該電極は、ρTiがチタンの密度を表す場合にρ≧ρTiを満たす密度ρを有し、かつ、0.141×exp(-0.075ρ)λ≦h≦0.134λを満たす厚さhを有する。
【0007】
一実施形態において、角度θは、-90°-0.5×(-0.2234ρ +6.9119ρ-8.928)°≦θ≦-90°+0.5×(-0.2234ρ +6.9119ρ-8.928)°を満たす。角度ψは、-16°≦ψ≦-2.5°を満たす。
【0008】
本開示の複数の実施形態によれば、タンタル酸リチウム基板及び電極は上方が、タンタル酸リチウム基板とは逆の温度係数を有する絶縁層によって覆われる。絶縁層は二酸化ケイ素からなる。絶縁層の厚さhは、0.08λ≦h≦0.55λを満たす。
【0009】
いくつかの実施形態によれば、絶縁層は、当該電極の電極指の延伸方向と直交する方向に沿った断面において、上方に突起を有する。絶縁層における突起の高さhはまた、hが電極の厚さである場合に0≦h≦hを満たす。いくつかの実施形態によれば、角度ψは、(-371.81h +36.92h+3.53)°≦ψ≦(-371.81h +36.92h+13.53)°を満たす。
【0010】
本開示の複数の実施形態に係るアンテナデュプレクサは、受信フィルタ及び送信フィルタを含む。その少なくとも一方が弾性波素子を含む。第1周波数及び第2周波数はそれぞれ、受信フィルタ及び送信フィルタを通過する。本開示の複数の実施形態に係るダイプレクサは、第1受信フィルタ及び第2受信フィルタを含む。その少なくとも一方が弾性波素子を含む。第1受信フィルタは第1周波数帯域を受信するべく構成され、第2受信フィルタは、第1周波数帯域とは異なる第2周波数帯域を受信するべく構成される。本開示の複数の実施形態に係る電子機器は、弾性波素子と、当該弾性波素子に接続された半導体素子と、当該半導体素子に接続された再生装置とを含む。
【0011】
本開示の複数の実施形態によれば、IDT電極の厚さを最小化するとともに、レイリー波によるスプリアスを抑制することができる。さらに、周波数特性の向上とともに装置の小型化を図ることができる。
【0012】
これらの典型的な側面の、さらに他の側面、実施形態及び利点を以下に詳細に述べる。ここに開示の実施形態は、他の実施形態と、ここに開示される複数の原理の少なくとも一つ任意の態様で組み合わせることができ、「一実施形態」、「いくつかの実施形態」、「代替の実施形態」、「様々な実施形態」、「一つの実施形態」等の言及は、必ずしも互いに矛盾するわけではなく、記載される特定の特徴、構造又は特性が少なくとも一つ実施形態に含まれ得ることを示すことが意図される。かかる用語のここでの登場は、必ずしもすべてが同じ実施形態を言及するわけではない。
【図面の簡単な説明】
【0013】
少なくとも一つの実施形態の様々な側面を、縮尺どおりに描かれることが意図されるわけではない添付図面を参照して以下に記載する。図面は、例示と様々な側面及び実施形態のさらなる理解とを与えることを意図して含められ、本明細書の一部に含まれかつ当該一部をなすが、本発明の限界の画定を意図してはいない。図面において、様々な図面に例示される各同一又はほぼ同一の部材は、同じ参照番号によって表される。明確のため、すべての図面において、すべての部材が標識されているわけではない。
【0014】
図1図1A及び1Bは、本開示の一実施形態に係る弾性波素子の概略的な構造を示す。
図2】IDT電極の規格化厚さの下限と密度との関係を示すグラフである。
図3図3Aは、SSW及びSH波の位相速度と角度φとの関係を示すグラフである。図3B及び3Cは、図1A及び1Bの実施形態に係る弾性波素子の周波数特性を示すグラフである。
図4】規格化電気機械結合係数kと角度θとの関係を示す。
図5】角度差θhigh-θlowとIDT電極の密度との関係を示すグラフである。
図6図6A及び6Bはそれぞれ、共振及び反共振パワーフロー角度がゼロになる角度ψの、角度θへの依存性を示すグラフである。
図7図7Aは、図1A及び1Bに関連して記載された弾性波素子を含むアンテナデュプレクサの構成を概略的に示すブロック図である。図7Bは、図1A及び1Bに関連して記載された弾性波素子を含むダイプレクサの構成を概略的に示すブロック図である。
図8図1A及び1Bに関連して記載された弾性波素子を含む電子機器の構成を概略的に示すブロック図である。
図9図9A及び9Bは、本開示の他の実施形態に係る弾性波素子の概略的な構造を示す。
図10図10Aは、図9A及び9Bの実施形態に係る弾性波素子と先行技術の弾性波素子との比較結果を、二酸化ケイ素膜の規格化厚さと周波数温度係数の関係においてを示すグラフである。図10B及び10Cは、図9A及び9Bの実施形態の2つのバリエーションに係る弾性波素子の概略的な構造を示す。
図11図9A及び9Bの実施形態に係る弾性波素子の周波数特性を示すグラフである。
図12】レイリー波によるスプリアス周波数と二酸化ケイ素膜の厚さとの関係を示すグラフである。
図13図13Aは、角度ψとレイリー波によるスプリアスの強度との関係を示すグラフである。図13Bは、図9A及び9Bの実施形態に係る弾性波素子の周波数特性を示すグラフである。
図14】二酸化ケイ素膜の厚さとレイリー波によるスプリアスが抑制される角度ψの特定範囲の中央値との関係を示すグラフである。
図15A】本開示の複数の側面に係る弾性波素子の一実施形態を含むモジュールの一例のブロック図である。
図15B】本開示の複数の側面に係るデュプレクサの一実施形態を含むモジュールの一例のブロック図である。
図15C】本開示の複数の側面に係るダイプレクサの一実施形態を含むモジュールの一例のブロック図である。
図16】本開示の複数の側面に係る弾性波素子の一実施形態を含む電子機器の一例のブロック図である。
図17】本開示の複数の側面に係る図7Aのアンテナデュプレクサの一実施形態を含む電子機器の他例のブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
弾性波素子の複数の側面及び実施形態が、添付図面を参照して以下に説明される。なお、ここに説明される方法及び装置の実施形態は、そのアプリケーションにおいて、以下の説明に記載され又は添付図面に例示される部材の詳細構成及び配列に限られない。当該方法及び装置は、他の実施形態で実装すること、及び様々な方法で実施又は実行することが可能である。特定の実装例が、例示のみを目的としてここに与えられるが、限定を意図するものではない。また、ここで使用されるフレーズ及び用語は説明を目的とし、限定として認めてはならない。ここでの「含む」、「有する」、「包含する」、「含有する」及びこれらのバリエーションは、その後に列挙される項目及びその等価物を、付加的な項目とともに包含することが意図される。「又は」及び「若しくは」との言及は、「又は」及び「若しくは」を使用して記載される任意の用語が、当該記載用語の一つ、一つを超えるもの、及びそのすべてを示し得るように包括的に解釈することができる。前後、左右、頂底、上下、及び垂直水平のいずれへの言及も、記載の便宜のためであって、本システム及び方法又はこれらの要素をいずれか一つの位置又は空間的配向に限定する意図はない。
【0016】
図1A及び1Bは全体的に、本開示の一実施形態に係る弾性波素子10の概略的構造を示す。図1Aは弾性波素子10の上面図であり、図1Bは、図1AにおけるPP’線に沿った弾性波素子10の断面図である。
【0017】
弾性波素子10は、タンタル酸リチウム(LiTaO)の単結晶をオイラー角(ψ,θ,φ)によって規定される面によってカットすることによって製造された基板11を含む。非漏洩のSH波が、カットした基板11の表面を主要弾性波として伝播する。基板11の表面には複数のIDT電極12が設けられる。各IDT電極12は、波長λを有するSH波を励振するべく所定の金属材料から作られて所定の方向に延びる電極指を含む。
【0018】
図1A及び1Bに例示の実施形態は、IDT電極12として、チタン密度ρTi以上の金属密度ρを有する金属材料を使用する。したがって、IDT電極12の金属密度ρは、チタン密度ρTiについて以下の式(1)によって規定される。
ρ≧ρTi (1)
【0019】
チタン密度ρTi以上の密度を有する金属製のIDT電極12により、IDT電極12の厚さhを低減することができる。したがって、IDT電極12は、リソグラフィー及び他の加工法によって形成することができる。
【0020】
図1A及び1Bに例示の実施形態によれば、IDT電極12の厚さhは、IDT電極12が励振するST波の波長λについて以下の式(2)によって規定される。
0.141×exp(-0.075ρ)λ≦h≦0.134λ (2)
【0021】
IDT電極12の厚さhをSH波の波長λによって規格化すると、規格化厚さhが以下の式(3)によって導入される。
h=h/λ (3)
【0022】
規格化厚さhを使用すれば、上述の式(2)は以下の式(4)のように表現される。
0.141×exp(-0.075ρ)≦h≦0.134 (4)
【0023】
式(4)は以下のようにして得られる。
【0024】
図1A及び1Bに例示の実施形態は、式(4)に規定されるように、規格化厚さhに対する上限、すなわちh≦0.134を設けている。上限を設けることにより、形成対象であるIDT電極12の加工を確実にすることができる。したがって、当該形成加工において、エッチング不良のような加工不備が回避される。
【0025】
図2は、各金属材料について、SH波の励振に必要なIDT電極12の規格化厚さhの下限とIDT電極12を構成する金属の密度ρとの関係を示すグラフである。ここで、遅い横波(SSW)が最も速いので、IDT電極12の厚さは、SH波が励振される速度の上限が最大になるときに最も薄くなる。上述の最も薄い厚さを実現するべく、オイラー角の第2成分角度θが-90°かつ第3成分角度φが30°の場合に、SH波の励振条件を求めることができる。
【0026】
図2において、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)及び白金(Pt)それぞれについての、励振条件下でIDT電極12に対して当該金属材料を使用した場合の規格化厚さhの値がプロットされる。IDT電極12の金属密度ρとSH波の励振に必要なIDT電極12の規格化厚さhの下限との関係が、各材料についての値より以下の式(5)として得られる。ここで、変数x及びyはそれぞれ、図2に示される横軸及び縦軸に対応する。
y=14.102×exp(-0.075x) (5)
【0027】
図1A及び1Bに関連して記載される実施形態は、式(4)によるIDT電極12の規格化厚さhに下限、すなわち0.141×exp(-0.075ρ)≦hを設けることにより、規格化厚さhが、式(5)によって規定される下限以上となるように保証することができる。なお、式(5)において示される係数は、百分率で表されるので、式(4)の係数の100倍となる。したがって、IDT電極12の金属密度ρにかかわらず、規格化厚さhが式(4)に従う下限以上となる場合にSH波を励振することができる。例えば、モリブデン(Mo)製のIDT電極12において、規格化厚さhの下限は1.5%となる。なお、IDT電極12にさらにアルミニウム(Al)層を堆積することも、このAl層を含むIDT電極12の全体厚さが上述の式(4)を満たす限り可能である。
【0028】
図1A及び1Bに関連して上述の実施形態に係るカット角を規定するオイラー角(φ,θ,ψ)の第1成分角度φは、以下の式(6)によって規定される。
10°≦φ≦50° (6)
【0029】
式(6)は以下のようにして得られる。
【0030】
図3Aは、SSW及びSH波の位相速度と角度φとの関係を示すグラフである。ここで、IDT電極12の厚さは、その材料としてチタン(Ti)が使用されたときの上限に設定される。図3Aにおいて、「a」で示される曲線はSSWの位相速度を表し、「b」で示される曲線はSH波の位相速度を表す。なお、以下において位相速度のことを単に速度と称する。
【0031】
非漏洩のSH波は、その速度が遅い横波(SSW)の速度未満のときに励振される。角度φが式(6)を満たす範囲において、SH波の速度がSSWの速度以下のときに、非漏洩のSH波が励振される。換言すれば、式(6)は、非漏洩のSH波が励振される条件から得られる。
【0032】
図3Bは角度φ=10°のときの周波数特性を示し、図3Cは角度φ=30°のときの周波数特性を示す。図3B及び3Cの縦軸は、順方向アドミタンスY21を表す。φ=10°のとき、SH波はバルク波に漏洩するので、反共振特性の劣化が見られる。さらに、共振周波数の近くにレイリー波によるスプリアスが見られる。
【0033】
他方、φ=30°のときは主モードSH波の励振ゆえに、SH波について鋭い共振特性及び反共振特性が見られる。φ=10°のときのレイリー波によるスプリアスは抑制され、通過帯域から外れる低周波数側へとシフトされる。
【0034】
図1A及び1Bの上述の実施形態に係るオイラー角(φ,θ,ψ)の第2成分角度θは、ρをIDT電極12の材料の金属密度とすれば、以下の式(7)によって規定される。
-90°-0.5×(-0.2234ρ +6.9119ρ-8.928)°≦θ≦
-90°+0.5×(-0.2234ρ +6.9119ρ-8.928)° (7)
【0035】
式(7)は以下のようにして得られる。
【0036】
例えば、IDT電極12の材料がタングステン(W)の場合、オイラー角の第2成分角度θは、以下の式(8)のように規定される。
-111°≦θ≦-69° (8)
【0037】
図4は、規格化電気機械結合係数kと角度θとの関係を示す。規格化電気機械結合係数kは、IDT電極にアルミニウム(Al)を使用して42°回転Y軸カットした従来型タンタル酸リチウム基板に対する電気機械結合係数によって規格化して導出される。
【0038】
図4において、「a」、「b」、「c」及び「d」で示される曲線はそれぞれ、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)及び白金(Pt)に対応する多項式によるものである。図4において、電気機械結合係数が1以上となる各曲線の部分、すなわち下限θlowから上限θhighまでの部分が、従来型タンタル酸リチウム基板によって達成されるもの以上となり得る電気機械結合係数が得られる領域となる。この領域は以下の式(9)によって規定される。
θlow≦θ≦θhigh (9)
【0039】
図5は、角度差θhigh-θlowとIDT電極12の金属密度ρとの関係を示すグラフである。具体的には、図5において、チタン(Ti)、モリブデン(Mo)、タングステン(W)、白金(Pt)の角度差θhigh-θlowが、IDT電極12の対応金属密度ρに対してプロットされる。
【0040】
角度差θhigh-θlowとIDT電極12の金属密度ρとの関係は、以下の式(10)に従う曲線に沿って存在する。ここで、変数x及びyはそれぞれ、図5に示される横軸及び縦軸に対応する。
y=-0.2234x+6.9119x-8.928 (10)
【0041】
角度差θhigh-θlowが角度θ=-90°に対して対称的な範囲となることを考慮して式(10)を式(9)と組み合わせることにより、上述の式(7)が導出される。角度θが式(7)によって規定される場合、電気機械結合係数は、42°回転Y軸カットかつIDT電極としてアルミニウム(Al)使用の従来型タンタル酸リチウム基板のもの以上となることが保証される。
【0042】
図1A及び1Bの上述の実施形態に係るオイラー角(φ,θ,ψ)の第3成分角度ψは、以下の式(11)によって規定される。
-16°≦ψ≦-2.5° (11)
【0043】
式(11)は以下のようにして得られる。
【0044】
図6A及び6Bは、タングステン(W)製のIDT電極12に対して共振及び反共振それぞれのパワーフロー角度がゼロになる角度ψの角度θへの依存性を示すグラフである。
【0045】
図6Aは、共振パワーフロー角度がゼロになるときの角度ψを示す。角度φは上述の式(6)に従う範囲となるので、角度φは、図3Aの「a」及び「b」で示される曲線に明示されるように、角度φ=30°に対して対称的な範囲となり得る。したがって、図6Aは、角度φ=10°、20°及び30°それぞれに対応する曲線a、b及びcに沿って共振パワーフロー角度がゼロとなるときの角度ψを示す。
【0046】
図6Bは、反共振パワーフロー角度がゼロになるときの角度ψを示す。図6Aと同様に、図6Bもまた、角度φ=10°、20°及び30°それぞれに対応する曲線a、b及びcに沿って反共振パワーフロー角度がゼロとなるときの角度ψを示す。IDT電極12がタングステン(W)から作られる場合、角度θの範囲は上述の式(8)に従って規定される。図6A及び6Bに示される角度θの範囲において、共振及び反共振パワーフロー角度がゼロとなり得る角度ψは、図6Aにおいてθ=111°となるときの角度ψ=-16°が下限となり、図6Bにおいてθ=-90°となるときの角度ψ=-2.5°が上限となる。したがって、式(11)が得られる。
【0047】
このように、角度ψを式(11)によって規定することにより、IDT電極12がタングステン(W)製の場合に共振パワーフロー角度及び反共振パワーフロー角度の少なくとも一方をゼロとすることができる。これにより、弾性波素子10に対するパワーフロー角度由来のエネルギー損失を低減することができる。ここで、パワーフロー角度がゼロとなる角度ψの範囲の下限は、図6Aに示される角度θの下限における角度ψの値となる。したがって、角度θが上述の式(7)に示される金属密度ρに依存することを考慮すると、式(11)に示される角度ψの範囲の下限はIDT電極12の密度に依存する。
【0048】
図7Aは、図1A及び1Bに関連して上述した弾性波素子を含むアンテナデュプレクサの構成を示す。アンテナデュプレクサ60は、受信フィルタ61及び送信フィルタ62を含むように構成することができる。受信フィルタ61及び送信フィルタ62はそれぞれ、第1周波数及び第2周波数それぞれが受信フィルタ及び送信フィルタを通過するように上述の弾性波素子10を含むことができる。図7Aに示されるように、デュプレクサ60は、アンテナ68に結合可能なアンテナ端子として使用可能な共通端子67と、送信回路66に結合可能な送信端子として使用可能な第1端子65と、受信回路64に結合可能な受信端子として使用可能な第2端子63とを含み得る。送信回路66及び受信回路は、アンテナデュプレクサ60として同じモジュール内又は同じパッケージ内に配置することができる。または、アンテナデュプレクサ60の外部にあるモジュール又はパッケージに配置することができる。
【0049】
他の実施形態によれば、弾性波素子10は、2つの周波数帯域を有する受信信号を分離するのに使用されるダイプレクサのようなフィルタ装置に組み入れることができる。弾性波素子10の一例を組み入れたダイプレクサ70の一例が、図7Bに概略的に示される。本例では、ダイプレクサ70は、異なる周波数を有する信号を受信するべくアンテナ78に接続可能な共通端子77を含み得る。ダイプレクサ70は、それぞれが共通端子77に接続された第1受信フィルタ71a及び第2受信フィルタ71bを含む。本開示の一側面によれば、上述の弾性波素子10は、第1受信フィルタ71a及び/又は第2受信フィルタ71bにおいて使用することができる。ダイプレクサ70はさらに、第1受信端子として使用可能な第1端子73aと、第2受信端子として使用可能な第2端子73bとを含む。第1端子73aは、第1周波数帯域を受信するべく構成された第1受信回路74aに結合することができる。第2端子73bは、第1周波数帯域とは異なる第2周波数帯域を受信するべく構成された第2受信回路74bに結合することができる。
【0050】
図8は、図1A及び1Bに関連して記載された弾性波素子を含む電子機器の構成を示す。示されるように、電子機器100は、図1A及び1Bに関連して上述した弾性波素子10と、当該弾性波素子10に接続された半導体素子80と、当該半導体素子80に接続された再生装置90とを含む。
【0051】
以上のように、図1A及び1Bに関連して上述した実施形態によれば、上述の式(2)によって規定される範囲のIDT電極12の厚さhを最小としながらも、非漏洩のSH波を励振することができる。したがって、従来型リソグラフィー及び他の半導体加工技術を使用して、IDT電極12を確実に形成することができる。さらに、角度φが上述の式(6)によって規定されるので、レイリー波によるスプリアスを抑制して通過帯域から外れるようにシフトさせることができる。したがって、弾性波素子10、アンテナデュプレクサ60の受信フィルタ61及び/若しくは送信フィルタ62、ダイプレクサ70の第1受信フィルタ71a若しくは第2受信フィルタ71b、又は電子機器100において、改善されたフィルタリング機能を達成することができる。
【0052】
本開示のさらなる側面によれば、他の実施形態に係る弾性波素子、アンテナデュプレクサ、ダイプレクサ及び電子機器が以下に記載される。
【0053】
図9A及び9Bは一般に、本開示の他の実施形態に係る弾性波素子20の概略的な構造を示す。具体的には、図9Aが弾性波素子20の上面図を示し、図9Bが、図9AにおけるPP’線に沿った弾性波素子20の断面図を示す。
【0054】
弾性波素子20は、基板21が、オイラー角(φ,θ,ψ)によって規定される平面沿いにタンタル酸リチウムの単結晶をカットして製造される点で、図1A及び1Bに関連して上述された弾性波素子10と同様に構成される。それぞれが波長λを有する弾性波を励振可能な複数のIDT電極22が、基板21の表面に設けられる。しかしながら、上述の弾性波素子10とは対照的に、実施形態2の弾性波素子20はさらに、厚さhの二酸化ケイ素(SiO)膜25を含む。これは、IDT電極22が形成された基板21の表面に形成される。なお、二酸化ケイ素膜25は透明なので、二酸化ケイ素膜25は図9Aの上面図に示されないが、図9Bの断面図には示される。
【0055】
二酸化ケイ素膜25は、基板21の表面からの、一般にIDT電極22の厚さhよりも大きな厚さhを有する。さらに、二酸化ケイ素膜25は、その表面26に形成された突起27を含む。突起27は高さhを有し、厚さhを有するIDT電極22の電極指の直上に配置される。突起27は、IDT電極22の電極指の上方に突出する。図9Bに示されるように、突起27は、電極22の電極指が延びる方向と直交する方向の断面に現れる。
【0056】
本開示の一側面によれば、二酸化ケイ素膜25の厚さhは、IDT電極22の波長λを使用する以下の式(12)によって規定される。
0.08λ≦h≦0.55λ (12)
【0057】
式(12)は以下のようにして導出される。
【0058】
図10Aは、図9A及び9Bに例示される実施形態に係る弾性波素子と先行技術の弾性波素子との比較結果を、二酸化ケイ素膜25の厚さhを波長λによって規格化して導出された規格化厚さh/λと周波数温度係数(temperature coefficient of frequency(TCF))との関係において示すグラフである。図10Aにおいて、「a」で示される曲線は、図10Bに示されるように突起27の厚さhがゼロとなるように構成された場合のTCFを示す。「b」で示される曲線は、図10Cに示されるように突起27の厚さhがIDT電極22の厚さhとなるように構成された場合のTCFを示す。「c」で示される直線は、IDT電極22がアルミニウム(Al)製の場合の、従来型の典型TCF値、すなわち-33ppm/℃を示す。
【0059】
図10Aにはっきりと示されるように、TCFが、8%のh/λにおける-33ppm/℃から、55%のh/λにおける0ppm/℃までの範囲にある結果、二酸化ケイ素膜25の厚さhを式(12)によって規定することができる。したがって、式(12)により、先行技術よりも良好な周波数温度特性を実現することができる。
【0060】
本実施形態によれば、二酸化ケイ素膜25の突起27の高さhは、IDT電極22の厚さhを使用する以下の式(13)によって規定される。
0≦h≦h (13)
【0061】
二酸化ケイ素膜25の表面26が平坦に構成される場合、突起27の厚さhはゼロにまで最小化される。さらに、突起27の高さhは、IDT電極22の厚さhにまで最大化される。したがって、二酸化ケイ素膜25の突起27の高さhは、式(13)によって規定される範囲に制限される。
【0062】
図9A及び9Bに関連して記載された実施形態によれば、オイラー角の第3成分角度ψは以下の式(14)によって規定される。
(-371.81h +36.92h+3.53)°≦ψ≦
(-371.81h +36.92h+13.53)° (14)
【0063】
式(14)は以下のようにして得られる。
【0064】
図11は、図9A及び9Bに関連して記載された実施形態に係る弾性波素子20の周波数特性を示すグラフである。図12は、レイリー波によるスプリアス周波数と二酸化ケイ素膜25の厚さとの関係を示すグラフである。図12に示されるように、二酸化ケイ素膜25の厚さhが大きくなるにつれて、レイリー波によるスプリアスの規格化周波数も大きくなる。したがって、図11及び12からわかるように、図11において文字「a」で示されるレイリー波によるスプリアスは、二酸化ケイ素膜25の厚さhが大きくなるにつれて、主モードSH波の共振周波数及び反共振周波数に近づく。
【0065】
図13Aは、角度ψとレイリー波によるスプリアスの強度との関係を示すグラフであり、図13Bは、図9A及び9Bの実施形態に係る弾性波素子20の周波数特性を示すグラフである。図13Aに示されるように、規格化スプリアス強度(I/Imin-1は、文字「a」によって示される特定範囲の角度ψ内でゼロ又はゼロ近くまで抑制される。図13Aに示される特定範囲において、縦軸が共振周波数を基準としたアドミタンス特性を示す図13Bの周波数特性に示されるように、共振及び反共振周波数の近くではレイリー波によるスプリアスが存在しない。
【0066】
図14は、二酸化ケイ素膜25の厚さhとレイリー波によるスプリアスが抑制される特定範囲の角度ψの中央値との関係を示すグラフである。この特定範囲は、図13Aにおいて文字「a」で示される、規格化スプリアス強度がゼロ又はゼロ近くまで抑制される特定範囲に相当する。図14において、当該特定範囲内に収まる二酸化ケイ素膜25の厚さhのいくつかの中央値がプロットされる。これらの値より、二酸化ケイ素膜25の厚さhと当該特定範囲内の中央値との関係を表すべく、以下の式(15)を得ることができる。ここで、変数x及びyはそれぞれ、図14に示される横軸及び縦軸に対応する。
ψ=-371.81x+36.92x+3.5256 (15)
【0067】
式(15)によって規定される特定範囲内の中央値に対し、所定の幅を設定することにより、角度ψの特定角度範囲を規定することができる。例えば、所定の幅を±5°に設定すると、上述の式(14)によって規定される角度ψの角度範囲を得ることができる。なお、当該幅は±5°に限られるわけではなく、図13Aの文字「a」によって示される範囲のような特定範囲に基づいて適宜に定めることができる。したがって、式(14)によれば、レイリー波によるスプリアスの、共振及び反共振周波数近くにおける抑制が実現される結果、周波数特性が改善される。
【0068】
なお、図1A及び1Bの弾性波素子10に関連して記載されたのと同じ態様で図9A及び9Bの実施形態に関連して記載された弾性波素子20を使用して、アンテナデュプレクサ、ダイプレクサ、及び/又は電子機器を構成することができる。アンテナデュプレクサ、ダイプレクサ及び電子機器は、弾性波素子10の代わりに弾性波素子20を使用することを除き、図7A、7B及び8に関連して記載されたものと同様である。さらに、図9A及び9Bに示されるように二酸化ケイ素膜25が基板21及びIDT電極22上に形成されるにもかかわらず、二酸化ケイ素の代わりの他の適切な材料を使用して絶縁層を形成することもできる。このような絶縁層に適切な材料は、タンタル酸リチウム基板とは逆の周波数温度係数を有するものから選択することができる。
【0069】
なお、本開示の実施形態は、移動体通信機器等に適用することができる。例えば、弾性波素子10又は20、当該弾性波素子10、20を含むデュプレクサ60又はダイプレクサ70aの実施形態は究極的に、例えば無線通信機器のような電子機器100において使用され得るモジュールに組み入れられてパッケージ化され得る。図15Aは、弾性波素子10、20を含むモジュール200の一例を示すブロック図である。モジュール200はさらに、信号相互接続を与える接続部202と、例えば、当該回路のパッケージングのためのパッケージ基板のようなパッケージング204と、例えば、ここでの開示に鑑みて半導体製造の当業者にとって知られている増幅器、前置フィルタ、変調器、復調器、ダウンコンバータ等のような他の回路ダイ206とを含む。図15B及び15Cはそれぞれ、図7A及び7Bに関連して記載されるデュプレクサ60又はダイプレクサ70の一実施形態を含むモジュール210、220の他例を示すブロック図である。これらはいずれも、弾性波素子10、20の一実施形態を組み入れることができる。
【0070】
ここに開示される複数例及び複数実施形態に係る弾性波素子10、20、デュプレクサ60、ダイプレクサ70、又はいずれかのモジュール200、210、220は、通信又は無線機器(例えば携帯電話、タブレット等)のような様々な電子機器において有用である。
【0071】
図16は、ここに記載の一以上の特徴を有する弾性波素子10、20を含み得る電子機器300の一例を示すブロック図である。例えば、典型的な電子機器300は、図1A~14のいずれかに関連して記載された原理及び利点のいずれかに係る弾性波素子10、20、デュプレクサ60又はダイプレクサ70を含み得る。典型的な電子機器300は、スマートフォンのような携帯電話であり得る。電子機器300は、図16に例示されない要素及び/又は例示の要素のサブコンビネーションも含み得る。図16に描かれる電子機器300は、多重帯域/多重モード携帯電話のような多重帯域及び/又は多重モード装置を表し得る。例えば、電子機器300は、LTE(Long Term Evolution)に従って通信する無線機器とすることができる。本例では、電子機器300は、LTE規格によって規定される一以上の周波数帯域において動作するべく構成可能である。電子機器300は代替的に又は付加的に、Wi-Fi(登録商標)規格、Bluetooth(登録商標)規格、3G規格、4G規格又はアドバンストLTE規格の一以上を含むがこれらに限られない一以上の他の通信規格に従って通信するべく構成可能である。
【0072】
所定の実施形態において、電子機器300はフィルタモジュール310を含み得る。フィルタモジュール310は、弾性波素子10、20の一以上の実施形態を含み、端子65及び63それぞれを介して回路320及び330に接続される。電子機器はさらに、共通端子67を介してフィルタモジュール310に接続されたアンテナ340を含み得る。フィルタリングモジュール310は、図15A~Cに関連して記載されたモジュール200、210又は220のいずれかを含み得る。回路320及び330は、アンテナ340を介して送信されるRF信号を生成し又はアンテナ340から入来する信号を受信することができる受信又は送信回路とすることができる。
【0073】
図17を参照すると、一つの特定例において、図16のフィルタリングモジュール310が、アンテナデュプレクサモジュール210を含む。本例において、電子機器300は、アンテナデュプレクサ60、入力端子65を介して当該アンテナデュプレクサに接続された送信回路66、出力端子63を介して当該アンテナデュプレクサに接続された受信回路64、及びアンテナ端子67を介して当該アンテナデュプレクサに接続されたアンテナ340を含み得る。送信回路66及び受信回路64は、アンテナ340を介して送信されるRF信号を生成し及びアンテナ340から入来するRF信号を受信することができる送受信器の一部である。
【0074】
図16及び17に示されるように、通信機器300はさらに、コントローラ350、少なくとも一つコンピュータ可読媒体360、少なくとも一つのプロセッサ370、及び電池380を含む。
【0075】
理解されることだが、RF信号の送信及び受信に関連付けられた様々な機能は、図17において送信回路66及び受信回路64として表された一以上のコンポーネントによって達成することができる。例えば、単一のコンポーネントに送信機能及び受信機能の双方を与えるように構成することができる。他例において、送信及び受信機能は、別個のコンポーネントによって与えることができる。同様に理解されることだが、RF信号の送信及び受信に関連付けられた様々なアンテナ機能は、図16及び17においてアンテナ340として集合的に表された一以上のコンポーネントによって達成することができる。例えば、単一のアンテナに送信機能及び受信機能の双方を与えるように構成することができる。他例において、送信及び受信機能は、別個のアンテナによって与えることができる。通信機器が多重帯域装置となるさらなる他例において、通信機器300に関連付けられた異なる帯域に対して異なるアンテナを与えることができる。
【0076】
受信経路と送信経路とのスイッチングを容易にするべく、アンテナデュプレクサ60は、選択された送信経路又は受信経路に対してアンテナ340を電気的に接続するべく構成することができる。こうしてアンテナデュプレクサ60は、通信機器300の動作に関連付けられた一定数のスイッチング機能を与えることができる。加えて、上述のようにアンテナデュプレクサ60は、RF信号のフィルタリングを与えるべく構成された送信フィルタ62及び受信フィルタ61(図7A参照)を含む。
【0077】
図16及び17に示されるように、所定の実施形態において、フィルタリングモジュール310(例えばアンテナデュプレクサモジュール210)及び/又は他の動作コンポーネント(複数可)の動作に関連付けられた様々な機能を制御するべくコントローラ350を与えることができる。所定の実施形態において、少なくとも一つのプロセッサ370は、通信機器300の動作のための様々な処理の実装を容易にするべく構成することができる。少なくとも一つプロセッサ370によって行われる処理は、コンピュータプログラム命令によって実装される。かかるコンピュータプログラム命令は、少なくとも一つのプロセッサ370へと与えられる。プロセッサ370は、機械をもたらす汎用コンピュータ、専用コンピュータ又は他のプログラム可能データ処理装置とすることができる。その結果、当該命令は、コンピュータ又は他のプログラム可能データ処理装置の少なくとも一つプロセッサを介して実行され、通信機器300を動作させるメカニズムを作る。所定の実施形態において、こうしたコンピュータプログラム命令はまた、コンピュータ可読媒体360に記憶される。電池380は、通信機器300における使用に適切な任意の電池とすることができる。これは、例えばリチウムイオン電池を含む。
【0078】
少なくとも一つの実施形態のいくつかの側面について上述したが、様々な改変、修正及び改善が当業者にとって容易に想到される。かかる改変、修正及び改善は、本開示の一部であることが意図され、かつ、本発明の範囲内にあることが意図される。したがって、上述の記載及び図面は例示に過ぎず、本発明の範囲は、添付の特許請求の範囲及びその均等の適切な構成によって定めるべきである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15A
図15B
図15C
図16
図17