(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】非水電解質組成物
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0569 20100101AFI20220114BHJP
H01M 10/0567 20100101ALI20220114BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20220114BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20220114BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20220114BHJP
H01M 4/58 20100101ALI20220114BHJP
【FI】
H01M10/0569
H01M10/0567
H01M10/052
H01M4/505
H01M4/525
H01M4/58
(21)【出願番号】P 2019501620
(86)(22)【出願日】2017-07-06
(86)【国際出願番号】 EP2017067009
(87)【国際公開番号】W WO2018011062
(87)【国際公開日】2018-01-18
【審査請求日】2020-06-05
(32)【優先日】2016-07-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】US
(73)【特許権者】
【識別番号】591001248
【氏名又は名称】ソルヴェイ(ソシエテ アノニム)
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】ブルクハルト, スティーブン
(72)【発明者】
【氏名】リュウ, ジュン ジェイ.
(72)【発明者】
【氏名】キム, サン-フワン
(72)【発明者】
【氏名】カータキス, コスタンティノス
【審査官】上野 文城
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-282138(JP,A)
【文献】国際公開第2012/117852(WO,A1)
【文献】特開2006-086058(JP,A)
【文献】国際公開第2015/146685(WO,A1)
【文献】特開2012-216544(JP,A)
【文献】特開2010-146740(JP,A)
【文献】特開2011-187234(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0305401(US,A1)
【文献】特開2010-123287(JP,A)
【文献】国際公開第2013/100081(WO,A1)
【文献】特表2016-518680(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0569
H01M 10/0567
H01M 10/052
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 4/58
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電解質組成物であって、
a)環状カーボネートを含む第1の溶媒;
b)非フッ化非環状カーボネートを含む第2の溶媒;
c)
フッ化非環状カルボン酸エステル
を含む少なくとも1種の電解質成分;および
d)電解質塩
を含有し、前記
少なくとも1種の電解質成分が前記第1および第2の溶媒の総重量を基準として約0.05重量%~約10重量%の範囲で前記電解質組成物中に存在
し、
前記環状カーボネートが4-フルオロエチレンカーボネートを含み、
前記フッ化非環状カルボン酸エステルが、CH
3
-COO-CH
2
CF
2
H、CH
3
CH
2
-COO-CH
2
CF
2
H、F
2
CHCH
2
-COO-CH
3
、F
2
CHCH
2
-COO-CH
2
CH
3
、CH
3
-COO-CH
2
CH
2
CF
2
H、CH
3
CH
2
-COO-CH
2
CH
2
CF
2
H、F
2
CHCH
2
CH
2
-COO-CH
2
CH
3
、CH
3
-COO-CH
2
CF
3
、H-COO-CH
2
CF
2
H、H-COO-CH
2
CF
3
、またはそれらの混合物を含む、
電解質組成物。
【請求項2】
前記環状カーボネートが、エチレンカーボネート;プロピレンカーボネート;ビニレンカーボネート;ビニルエチレンカーボネート;ジメチルビニレンカーボネート;
エチルプロピルビニレンカーボネート;4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジフルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;または4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンを含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項3】
前記非フッ化非環状カーボネートが、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、またはエチルメチルカーボネートを含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項4】
前記フッ化非環状カルボン酸エステルがCH
3-COO-CH
2CF
2Hを含む、請求項
1に記載の電解質組成物。
【請求項5】
リチウムビス(オキサラト)ボレート、硫酸エチレン、およびマレイン酸無水物をさらに含む、請求項
4に記載の電解質組成物。
【請求項6】
前記
少なくとも1種の電解質成分が、式:
R
3-OCOO-R
4
(式中、
i)R
3はフルオロアルキル基であり;
ii)R
4はアルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)R
3およびR
4は、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含む)
により表されるフッ化非環状カーボネートを
さらに含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項7】
R
3およびR
4が、一組とみなしてさらに少なくとも2つのフッ素原子を含むが、R
3とR
4のいずれもFCH
2-基または-FCH-基を含まないことを条件とする、請求項
6に記載の電解質組成物。
【請求項8】
前記フッ化非環状カーボネートが、CH
3-OC(O)O-CH
2CF
2H、CH
3-OC(O)O-CH
2CF
3、CH
3-OC(O)O-CH
2CF
2CF
2H、HCF
2CH
2-OCOO-CH
2CH
3、CF
3CH
2-OCOO-CH
2CH
3、またはそれらの混合物を含む、請求項
6に記載の電解質組成物。
【請求項9】
前記フッ化非環状カーボネートが、CH
3-OC(O)O-CH
2CF
2Hを含む、請求項
8に記載の電解質組成物。
【請求項10】
前記
少なくとも1種の電解質成分が、式:
R
5-O-R
6
(式中、
i)R
5はフルオロアルキル基であり;
ii)R
6はアルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)R
5およびR
6は、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含む)
により表されるフッ化非環状エーテルを
さらに含む、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項11】
R
5およびR
6が、一組とみなしてさらに少なくとも2つのフッ素原子を含むが、R
5とR
6のいずれもFCH
2-基または-FCH-基を含まないことを条件とする、請求項
10に記載の電解質組成物。
【請求項12】
前記
少なくとも1種の電解質成分が、前記第1および第2の溶媒の総重量を基準として約0.05重量%~約5重量%の範囲で前記電解質組成物中に存在する、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項13】
リチウムホウ素化合物、環状スルトン、環状硫酸エステル、環状カルボン酸無水物、またはそれらの組み合わせから選択される添加剤をさらに含有する、請求項1に記載の電解質組成物。
【請求項14】
電気化学セルであって、
(a)ハウジングと、
(b)前記ハウジング中に配置され、かつ互いにイオン伝導性接触にあるアノードおよびカソードと、
(c)前記ハウジング中に配置され、かつ前記アノードと前記カソードとの間にイオン伝導性経路を提供する、請求項1に記載の電解質組成物と、
(d)前記アノードと前記カソードとの間の多孔質セパレータと、
を含む電気化学セル。
【請求項15】
前記電気化学セルがリチウムイオン電池である、請求項
14に記載の電気化学セル。
【請求項16】
前記カソードが、Li/Li
+参照電極に対して4.6Vを超える電位範囲において30mAh/g超の容量を示すカソード活物質、またはLi/Li
+参照電極に対して4.35V以上の電位まで充電されるカソード活物質を含む、請求項
15に記載の電気化学セル。
【請求項17】
前記カソードが、
a)活物質としてのスピネル構造を有するリチウム含有マンガン複合酸化物であって、式:
Li
xNi
yM
zMn
2-y-zO
4-d
(式中、xは0.03~1.0であり;xは充放電中のリチウムイオンおよび電子の放出および取り込みに従って変化し;yは0.3~0.6であり;MはCr、Fe、Co、Li、Al、Ga、Nb、Mo、Ti、Zr、Mg、Zn、V、およびCuのうちの1つ以上を含み;zは0.01~0.18であり;dは0~0.3である)により表されるリチウム含有マンガン複合酸化物;または
b)式:
x(Li
2-wA
1-vQ
w+vO
3-e)・(1-x)(Li
yMn
2-zM
zO
4-d)
(式中、
xは約0.005~約0.1であり;
AはMnまたはTiのうちの1つ以上を含み;
QはAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Mg、Nb、Ni、Ti、V、Zn、ZrまたはYのうちの1つ以上を含み;
eは0~約0.3であり;
vは0~約0.5であり;
wは0~約0.6であり;
MはAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Li、Mg、Mn、Nb、Ni、Si、Ti、V、Zn、ZrまたはYのうちの1つ以上を含み;
dは0~約0.5であり;
yは約0~約1であり;
zは約0.3~約1であり;
前記Li
yMn
2-zM
zO
4-d成分はスピネル構造を有し、前記Li
2-wQ
w+vA
1-vO
3-e成分は層状構造を有する)の構造により表される複合材料;または
c)Li
aMn
bJ
cO
4Z
d
(式中、Jは、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Cu、V、Ti、Zr、Mo、B、Al、Ga、Si、Li、Mg、Ca、Sr、Zn、Sn、希土類元素またはそれらの組み合わせであり;Zは、F、S、Pまたはそれらの組み合わせであり;かつ0.9≦a≦1.2、1.3≦b≦2.2、0≦c≦0.7、0≦d≦0.4である);または
d)Li
aNi
bMn
cCo
dR
eO
2-fZ
f
(式中:
Rは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり;
Zは、F、S、P、またはそれらの組み合わせであり;
0.8≦a≦1.2、0.1≦b≦0.9、0.0≦c≦0.7、0.05≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、b+c+d+eの合計は約1であり、0≦f≦0.08である);または、
e)Li
aA
1-b,R
bD
2
(式中、
Aは、Ni、Co、Mn、またはそれらの組み合わせであり;
Rは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり;
Dは、O、F、S、P、またはそれらの組み合わせであり;
0.90≦a≦1.8および0≦b≦0.5である)
を含む、請求項15に記載の電気化学セル。
【請求項18】
前記カソードが、
Li
aA
1-xR
xDO
4-fZ
f
(式中、
AはFe、Mn、Ni、Co、V、またはそれらの組み合わせであり;
RはAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり;
DはP、S、Si、またはそれらの組み合わせであり;
ZはF、Cl、S、またはそれらの組み合わせであり;
0.8≦a≦2.2であり;
0≦x≦0.3であり;
0≦f≦0.1である)
を含む、請求項
15に記載の電気化学セル。
【請求項19】
前記
少なくとも1種の電解質成分がフッ化非環状カーボネートを含み、前記フッ化非環状カーボネートが、CH
3-OC(O)O-CH
2CF
2H、CH
3-OC(O)O-CH
2CF
3、CH
3-OC(O)O-CH
2CF
2CF
2H、HCF
2CH
2-OCOO-CH
2CH
3、CF
3CH
2-OCOO-CH
2CH
3、またはそれらの混合物を含む、請求項
15に記載の電気化学セル。
【請求項20】
請求項
14に記載の電気化学セルを含む、電子デバイス、輸送装置、または通信機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、i)フッ化非環状カルボン酸エステル、ii)フッ化非環状カーボネート、iii)フッ化非環状エーテル、またはiv)それらの混合物から選択される少なくとも1種の電解質成分を含有する非水電解質組成物に関する。電解質成分は、電解質組成物の総重量を基準として約0.05重量%~約10重量%の量で存在する。電解質組成物は、リチウムイオン電池などの電気化学セルに有用である。
【背景技術】
【0002】
アルカリ金属、アルカリ土類金属、またはこれらの金属を含む化合物から製造された電極を含有する電池、例えば、リチウムイオン電池は、典型的には、電解質と、添加剤と、電池において使用される電解質のための非水系溶媒とを包含する。添加剤は、電池の性能および安全性を高めることができ、そのため適切な溶媒が、電解質だけでなく添加剤も溶解させる必要がある。溶媒は、活性電池系において一般的な条件下で安定である必要もある。
【0003】
リチウムイオン電池において使用される電解質溶媒は、典型的には、有機カーボネート化合物または混合物を含んでおり、かつ典型的には、例えば、エチルメチルカーボネート、ジメチルカーボネート、またはジエチルカーボネートなどの1種以上の直鎖カーボネートを含む。エチレンカーボネートなどの環状カーボネートも含まれる場合がある。しかしながら、約4.35Vを超えるカソード電位においてこれらの電解質溶媒は分解する可能性があり、これは電池性能の損失をもたらし得る。
【0004】
一般に使用される非水電解質溶媒の制限を克服するために様々なアプローチが研究されてきた。これらの電解質溶媒は、LiCoO2またはLiNixMnyCozO2(式中、x+y+zは約1である)などの高いカソード電位、特に約4.35Vより高い電位を有するリチウムイオン電池において使用可能であるものの、サイクル性能、すなわち、全容量まで電池を効率的に複数回放電および充電する能力は、限定される可能性がある。
【0005】
リチウムイオン電池、特に、高いカソード電位(約4.1~約5V)で作動するそのような電池において使用される場合に改善された性能を有する電解質溶媒配合物が依然として必要とされている。
【発明の概要】
【0006】
ある態様では、
a)環状カーボネートを含む第1の溶媒;
b)非フッ化非環状カーボネートを含む第2の溶媒;
c)
i)フッ化非環状カルボン酸エステル、
ii)フッ化非環状カーボネート、
iii)フッ化非環状エーテル、または
iv)それらの混合物
から選択される少なくとも1種の電解質成分;および
d)電解質塩
を含有する電解質組成物であって、電解質成分が第1および第2の溶媒の総重量を基準として約0.05重量%~約10重量%の量で電解質組成物中に存在する、電解質組成物が提供される。
【0007】
いくつかの実施形態では、電解質成分は、第1および第2の溶媒の総重量を基準として約0.05重量%~約5重量%の範囲で電解質組成物中に存在する。
【0008】
別の実施形態では、環状カーボネートを含む第1の溶媒が任意選択的に存在する。別の実施形態では、第1の溶媒は電解質組成物中に存在せず、電解質成分は、第2の溶媒の総重量を基準として約0.05重量%~約10重量%の量で電解質組成物中に存在する。
【0009】
別の実施形態では、本明細書に開示の電解質組成物を含む電気化学セルが本明細書において提供される。別の実施形態では、電気化学セルはリチウムイオン電池である。
【0010】
開示された発明の他の態様は、本来固有であり得るか、または本出願の単一の実施例において具体的にあるいは完全に具体化されて具体的に記載されていなくても、本明細書に提供される開示から理解され得る。そして、これは、それにもかかわらず、本出願において提供される説明、実施例および請求の範囲全体、すなわち、本明細書全体から、当業者によって合成され得る。
【0011】
上におよび本開示の全体にわたって使用される以下の用語は、別記しない限り、以下の通り定義されるものとする。
【0012】
本明細書で使用される用語「電解質組成物」は、最低でも、電解質塩のための溶媒と電解質塩とを含む化学組成物であって、電気化学セルで電解質を供給することができる組成物を意味する。電解質組成物は、他の成分、例えば、安全性、信頼性および/または効率における電池の性能を強化する添加剤を含むことができる。
【0013】
本明細書で使用される用語「電解質塩」は、電解質組成物の溶媒に少なくとも部分的に可溶性であり、かつ電解質組成物の溶媒中で少なくとも部分的にイオンへと解離して導電性電解質組成物を形成するイオン塩を意味する。
【0014】
本明細書で定義される「電解質溶媒」は、含フッ素溶媒を含む電解質組成物のための溶媒または溶媒の混合物である。
【0015】
用語「アノード」は、そこで酸化が起こる、電気化学セルの電極を意味する。二次(すなわち再充電可能)電池では、アノードは、そこで放電中に酸化が起こり、充電中に還元が起こる電極である。
【0016】
用語「カソード」は、そこで還元が起こる、電気化学セルの電極を意味する。二次(すなわち再充電可能)電池では、カソードは、そこで放電中に還元が起こり、充電中に酸化が起こる電極である。
【0017】
用語「リチウムイオン電池」は、リチウムイオンが、放電中にアノードからカソードへ、充電中にカソードからアノードへ移動するタイプの再充電可能な電池を意味する。
【0018】
リチウムとリチウムイオンとの間の平衡電位は、約1モル/リットルのリチウムイオン濃度を与えるのに十分な濃度でリチウム塩を含有する非水電解質と接触しているリチウム金属を使用する参照電極の電位であり、参照電極の電位がその平衡値(Li/Li+)から有意に変化しないよう十分に小さい電流が流される。そのようなLi/Li+参照電極の電位は、ここでは0.0Vの値が割り当てられる。アノードまたはカソードの電位は、アノードまたはカソードと、Li/Li+参照電極のそれとの間の電位差を意味する。ここで電圧とは、セルのカソードとアノードとの間の電圧差を意味し、そのいずれの電極も0.0Vの電位で作動できない。
【0019】
エネルギー貯蔵デバイスは、電池またはコンデンサーなどの、必要に応じて電気エネルギーを供給するように設計されている装置である。本明細書で想定されるエネルギー貯蔵デバイスは、少なくとも部分的に電気化学的供給源からエネルギーを提供する。
【0020】
本明細書で使用される用語「SEI」は、電極の活物質上に形成される固体電解質界面層を意味する。リチウムイオン二次電気化学セルは、充電されていない状態で組み立てられ、使用のために充電される必要がある(形成と呼ばれるプロセス)。リチウムイオン二次電気化学セルの最初の数回の充電事象(電池形成)中に、電解質の成分は、負極活物質の表面で還元されるか、そうでない場合は分解されるかまたは組み込まれ、正極活物質の表面で酸化されるか、そうでない場合は分解されるかまたは組み込まれ、活物質上に固体電解質界面を電気化学的に形成する。電気絶縁性であるがイオン伝導性であるこれらの層は、電解質の分解の防止に役立ち、またサイクル寿命を延ばし、電池の性能を改善することができる。アノード上では、SEIは電解質の還元的分解を抑制することができ、カソード上では、SEIは電解質成分の酸化を抑制することができる。
【0021】
本明細書で使用される用語「アルキル基」は、1~20個の炭素を含み不飽和を含まない直鎖、分岐、および環状の炭化水素基を意味する。直鎖アルキルラジカルの例としては、メチル、エチル、プロピル、ブチル、ペンチル、ヘキシル、ヘプチル、オクチル、ノニル、デシル、ウンデシル、およびドデシルが挙げられる。直鎖アルキル基の分岐鎖異性体の例としては、イソプロピル、iso-ブチル、tert-ブチル、sec-ブチル、イソペンチル、ネオペンチル、イソヘキシル、ネオヘキシル、およびイソオクチルが挙げられる。環状アルキル基の例としては、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチル、シクロヘキシル、シクロヘプチル、およびシクロオクチルが挙げられる。
【0022】
本明細書で用いられる用語「フルオロアルキル基」は、少なくとも1個の水素がフッ素によって置換されているアルキル基を意味する。
【0023】
本明細書で用いられる用語「カーボネート」」は、具体的には、炭酸のジアルキルジエステル誘導体である有機カーボネートを意味し、有機カーボネートは、一般式:RaOCOORbを有し、式中、RaおよびRbは、各々独立に、少なくとも1個の炭素原子を有するアルキル基から選択され、アルキル置換基は、同じであっても異なっていてもよく、飽和であっても不飽和であってもよく、置換されていてもいなくてもよく、連結した原子によって環状構造を形成することができ、あるいはアルキル基のいずれかまたは両方の置換基として環状構造を含み得る。
【0024】
本明細書では、第1の溶媒;第2の溶媒;i)フッ化非環状カルボン酸エステル、ii)フッ化非環状カーボネート、iii)フッ化非環状エーテル、またはiv)それらの混合物から選択される少なくとも1種の電解質成分;および電解質塩を含有する電解質組成物が開示される。第1の溶媒は環状カーボネートを含む。第2の溶媒は非フッ化非環状カーボネートを含む。電解質成分は、第1および第2の溶媒の総重量を基準として、約0.05重量%~約10重量%の量で電解質組成物中に存在する。「電解質成分」とは、電解質組成物中でのその濃度に応じて、電解質溶媒として、少なくとも1つの電極上のSEIを修飾することができる電解質添加剤として、または電解質溶媒と電解質添加剤の両方として、機能し得る電解質組成物の成分を意味する。
【0025】
本明細書では、
a)任意選択的な、環状カーボネートを含む第1の溶媒;
b)非フッ化非環状カーボネートを含む第2の溶媒;
c)
i)フッ化非環状カルボン酸エステル、
ii)フッ化非環状カーボネート、
iii)フッ化非環状エーテル、または
iv)それらの混合物
から選択される少なくとも1種の電解質成分;および
d)電解質塩
を含有する電解質組成物であって、電解質成分が第1および第2の溶媒の総重量を基準として約0.05重量%~約10重量%の量で電解質組成物中に存在する、電解質組成物も開示される。
【0026】
本明細書では、
a)非フッ化非環状カーボネートを含む溶媒;
b)
i)フッ化非環状カルボン酸エステル、
ii)フッ化非環状カーボネート、
iii)フッ化非環状エーテル、または
iv)それらの混合物
から選択される少なくとも1種の電解質成分;および
c)電解質塩
を含有する電解質組成物であって、電解質成分が溶媒の総重量を基準として約0.05重量%~約10重量%の量で電解質組成物中に存在する、電解質組成物も開示される。
【0027】
第1の溶媒は環状カーボネートを含む。1種以上の環状カーボネートを使用することができる。環状カーボネートは、フッ素化されていてもフッ素化されていなくてもよい。好適な環状カーボネートとしては、例えば、エチレンカーボネート;プロピレンカーボネート;ビニレンカーボネート;ビニルエチレンカーボネート;ジメチルビニレンカーボネート;エチルプロピルビニレンカーボネート;4-フルオロエチレンカーボネート;4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジフルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;テトラフルオロエチレンカーボネート;およびそれらの混合物が挙げられる。4-フルオロエチレンカーボネートは、4-フルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンまたはフルオロエチレンカーボネートとしても知られている。ある実施形態では、環状カーボネートは、エチレンカーボネート;プロピレンカーボネート;ビニレンカーボネート;ビニルエチレンカーボネート;ジメチルビニレンカーボネート;エチルプロピルビニレンカーボネート;4-フルオロエチレンカーボネート;4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジフルオロ-4-メチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,5-ジフルオロ-4,5-ジメチル-1,3-ジオキソラン-2-オン;4,4-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;または4,4,5-トリフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オンを含む。ある実施形態では、環状カーボネートは、エチレンカーボネートを含む。ある実施形態では、環状カーボネートは、プロピレンカーボネートを含む。ある実施形態では、環状カーボネートは、フルオロエチレンカーボネートを含む。ある実施形態では、環状カーボネートは、ビニレンカーボネートを含む。第1の溶媒として、純度が電池グレードであるか、または少なくとも約99.9%、より具体的には少なくとも約99.99%の純度レベルを有する環状カーボネートを使用することが望ましい。そのような環状カーボネートは典型的には市販されている。
【0028】
本明細書に開示の電解質組成物において、第1の溶媒は、電解質組成物の望まれる特性に応じて様々な量で使用することができる。ある実施形態では、第1の溶媒は、第1および第2の溶媒の総重量を基準として約1重量%~約40重量%の範囲で電解質組成物中に存在する。他の実施形態では、第1の溶媒は、下限および上限により規定される重量%の範囲で電解質組成物中に存在する。範囲の下限は、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20であり、範囲の上限は、21、22、23、24、25、26、27、28、29、30、31、32、33、34、35、36、37、38、39、または40である。全ての重量%は第1および第2の溶媒の総重量を基準とする。
【0029】
第2の溶媒は非フッ化非環状カーボネートを含む。1種以上の非フッ化非環状カーボネートを使用することができる。好適な非フッ化非環状カーボネートとしては、例えば、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、ジ-tert-ブチルカーボネート、エチルメチルカーボネート、メチルプロピルカーボネート、メチルブチルカーボネート、エチルプロピルカーボネート、エチルブチルカーボネート、プロピルブチルカーボネート、またはそれらの混合物が挙げられる。ある実施形態では、非フッ化非環状カーボネートは、ジメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、ジプロピルカーボネート、ジブチルカーボネート、またはエチルメチルカーボネートを含む。ある実施形態では、非フッ化非環状カーボネートはジメチルカーボネートを含む。ある実施形態では、非フッ化非環状カーボネートはジエチルカーボネートを含む。ある実施形態では、非フッ化非環状カーボネートはエチルメチルカーボネートを含む。第2の溶媒として、純度が電池グレードであるか、または少なくとも約99.9%、より具体的には少なくとも約99.99%の純度レベルを有する非フッ化環状カーボネートを使用することが望ましい。そのような非フッ化非環状カーボネートは典型的には市販されている。
【0030】
本明細書に開示の電解質組成物において、第2の溶媒は、電解質組成物の望まれる特性に応じて様々な量で使用することができる。ある実施形態では、第2の溶媒は、第1および第2の溶媒の総重量を基準として約60重量%~約99重量%の範囲で電解質組成物中に存在する。他の実施形態では、第2の溶媒は、下限および上限により規定される重量%の範囲で電解質組成物中に存在する。範囲の下限は、60、61、62、63、64、65、66、67、68、69、70、71、72、73、74、75、76、77、78、79、または80であり、範囲の上限は、81、82、83、84、85、86、87、88、89、90、91、92、93、94、95、96、97、98、または99である。全ての重量%は第1および第2の溶媒の総重量を基準とする。
【0031】
本明細書に開示の電解質組成物は、フッ化非環状カルボン酸エステル、フッ化非環状カーボネート、フッ化非環状エーテル、またはそれらの混合物から選択される少なくとも1種の電解質成分も含む。ある実施形態では、電解質成分は、第1および第2の溶媒の総重量を基準として、約0.05重量%~約10重量%の範囲で電解質組成物中に存在する。ある実施形態では、電解質成分は、第1および第2の溶媒の総重量を基準として、約0.05重量%~約5重量%の範囲で電解質組成物中に存在する。他の実施形態では、電解質成分は、下限および上限により規定される重量%の範囲で電解質組成物中に存在する。範囲の下限は、0.05、0.06、0.07、0.08、0.09、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2、2.1、2.2、2.3、2.4、2.5、2.6、2.7、2.8、2.9、3、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5であり、範囲の上限は、5.1、5.2、5.3、5.4、5.5、5.6、5.7、5.8、5.9、6、6.1、6.2、6.3、6.4、6.5、6.6、6.7、6.8、6.9、7、7.1、7.2、7.3、7.4、7.5、7.6、7.7、7.8、7.9、8、8.1、8.2、8.3、8.4、8.5、8.6、8.7、8.8、8.9、9、9.1、9.2、9.3、9.4、9.5、9.6、9.7、9.8、9.9、または10である。全ての重量%は第1および第2の溶媒の総重量を基準とする。
【0032】
いずれの理論にも拘束されるものではないが、本明細書に開示の電解質成分を使用すると、電気化学的サイクルの後に、電極の活物質上に形成される固体の電解質界面(SEI)層の組成を変更できると考えられる。この変更は、電池の性能およびそのサイクル寿命の耐久性に有益な影響を有し得る。
【0033】
ある実施形態では、少なくとも1種の電解質成分は、次式:
R1-COO-R2
により表されるフッ化非環状カルボン酸エステルであり、
式中、
i)R1は、H、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)R2は、アルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)R1およびR2のいずれかまたは両方はフッ素を含み;
iv)R1およびR2は、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含む。
【0034】
ある実施形態では、R1はHであり、R2はフルオロアルキル基である。ある実施形態では、R1はアルキル基であり、R2はフルオロアルキル基である。ある実施形態では、R1はフルオロアルキル基であり、R2はアルキル基である。ある実施形態では、R1はフルオロアルキル基であり、R2はフルオロアルキル基であり、R1とR2は互いに同じであっても異なっていてもよい。ある実施形態では、R1は1つの炭素原子を含む。ある実施形態では、R1は2つの炭素原子を含む。
【0035】
別の実施形態では、R1およびR2は上で定義した通りであり、R1およびR2は、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含み、かつさらに少なくとも2つのフッ素原子を含むが、R1とR2のいずれもFCH2-基または-FCH-基を含まないことを条件とする。
【0036】
ある実施形態では、上記式におけるR1中の炭素原子の数は、1、3、4、または5である。
【0037】
別の実施形態では、上記式におけるR1中の炭素原子の数は1である。
【0038】
適切なフッ化非環状カルボン酸エステルの例としては、限定するものではないが、CH3-COO-CH2CF2H(2,2-ジフルオロエチルアセテート、CAS番号-1550-44-3)、CH3-COO-CH2CF3(2,2,2-トリフルオロエチルアセテート、CAS番号406-95-1)、CH3CH2-COO-CH2CF2H(2,2-ジフルオロエチルプロピオネート、CAS番号1133129-90-4)、CH3-COO-CH2CH2CF2H(3,3-ジフルオロプロピルアセテート)、CH3CH2-COO-CH2CH2CF2H(3,3-ジフルオロプロピルプロピオネート)、F2CHCH2-COO-CH3、F2CHCH2-COO-CH2CH3、およびF2CHCH2CH2-COO-CH2CH3(エチル4,4-ジフルオロブタノエート、CAS番号1240725-43-2)、H-COO-CH2CF2H(ジフルオロエチルホルメート、CAS番号1137875-58-1)、H-COO-CH2CF3(トリフルオロエチルホルメート、CAS番号32042-38-9)、ならびにそれらの混合物が挙げられる。ある実施形態では、フッ化非環状カルボン酸エステルは、2,2-ジフルオロエチルアセテート(CH3-COO-CH2CF2H)を含む。ある実施形態では、フッ化非環状カルボン酸エステルは、2,2-ジフルオロエチルプロピオネート(CH3CH2-COO-CH2CF2H)を含む。ある実施形態では、フッ化非環状カルボン酸エステルは、2,2,2-トリフルオロエチルアセテート(CH3-COO-CH2CF3)を含む。ある実施形態では、フッ化非環状カルボン酸エステルは、2,2-ジフルオロエチルホルメート(H-COO-CH2CF2H)を含む。
【0039】
ある実施形態では、フッ化非環状カルボン酸エステルはCH3-COO-CH2CF2Hを含み、電解質組成物は、リチウムビス(オキサラト)ボレート、硫酸エチレン、およびマレイン酸無水物をさらに含有する。
【0040】
別の実施形態では、少なくとも1種の電解質成分は、式
R3-OCOO-R4
により表されるフッ化非環状カーボネートであり、
式中、
i)R3はフルオロアルキル基であり;
ii)R4はアルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)R3およびR4は、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含む。
【0041】
ある実施形態では、R3はフルオロアルキル基であり、R4はアルキル基である。ある実施形態では、R3がフルオロアルキル基かつR4がフルオロアルキル基であり、R3およびR4は互いに同じであっても異なっていてもよい。ある実施形態では、R3は1つの炭素原子を含む。ある実施形態では、R3は2つの炭素原子を含む。
【0042】
別の実施形態では、R3およびR4は上で定義した通りであり、R3およびR4は、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含み、かつさらに少なくとも2つのフッ素原子を含むが、R3とR4のいずれもFCH2-基または-FCH-基を含まないことを条件とする。
【0043】
好適なフッ化非環状カーボネートの例としては、限定するものではないが、CH3-OC(O)O-CH2CF2H(メチル2,2-ジフルオロエチルカーボネート、CAS番号916678-13-2)、CH3-OC(O)O-CH2CF3
(メチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、CAS番号156783-95-8)、CH3-OC(O)O-CH2CF2CF2H(メチル2,2,3,3-テトラフルオロプロピルカーボネート、CAS番号156783-98-1)、HCF2CH2-OCOO-CH2CH3(エチル2,2-ジフルオロエチルカーボネート、CAS番号916678-14-3)、およびCF3CH2-OCOO-CH2CH3(エチル2,2,2-トリフルオロエチルカーボネート、CAS番号156783-96-9)が挙げられる。
【0044】
別の実施形態では、少なくとも1種の電解質成分は、式
R5-O-R6
により表されるフッ化非環状エーテルであり、
式中、
i)R5はフルオロアルキル基であり;
ii)R6はアルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iii)R5およびR6は、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含む。
【0045】
ある実施形態では、R5はフルオロアルキル基であり、R6はアルキル基である。ある実施形態では、R5はフルオロアルキル基であり、R6はフルオロアルキル基であり、R5およびR6は互いに同じであっても異なっていてもよい。ある実施形態では、R5は1つの炭素原子を含む。ある実施形態では、R5は2つの炭素原子を含む。
【0046】
別の実施形態では、R5およびR6は上で定義した通りであり、R5およびR6は、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含み、かつさらに少なくとも2つのフッ素原子を含むが、R5とR6のいずれもFCH2-基または-FCH-基を含まないことを条件とする。
【0047】
適切なフッ化非環状エーテルの例としては、限定されないが、HCF2CF2CH2-O-CF2CF2H(CAS番号16627-68-2)およびHCF2CH2-O-CF2CF2H(CAS番号50807-77-7)が挙げられる。
【0048】
別の実施形態では、電解質成分は、フッ化非環状カルボン酸エステル、フッ化非環状カーボネート、および/またはフッ化非環状エーテルを含有する混合物である。本明細書で使用される用語「それらの混合物」は、例えば2種以上のフッ化非環状カルボン酸エステルの混合物、および例えばフッ化非環状カルボン酸エステルとフッ化非環状カーボネートとの混合物などの、溶媒の分類の中での混合物と溶媒の分類間の混合物の両方を包含する。非限定的な例としては、2,2-ジフルオロエチルアセテートと2,2-ジフルオロエチルプロピオネートとの混合物;および2,2-ジフルオロエチルアセテートと2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートとの混合物が挙げられる。
【0049】
本明細書で使用するために適したフッ化非環状カルボン酸エステル、フッ化非環状カーボネート、およびフッ化非環状エーテルは、公知の方法を使用して調製することができる。例えば、塩化アセチルを(塩基性触媒ありまたはなしで)2,2-ジフルオロエタノールと反応させて、2,2-ジフルオロエチルアセテートを形成することができる。さらに、2,2-ジフルオロエチルアセテートおよび2,2-ジフルオロエチルプロピオネートは、Wiesenhoferらによって記載された方法を使用して調製することができる(国際公開第2009/040367A1号パンフレット、実施例5)。あるいは、2,2-ジフルオロエチルアセテートは、本明細書の以降の実施例に記載の方法を用いて調製することができる。他のフッ化非環状カルボン酸エステルは、異なる出発カルボキシレート塩を使用して同じ方法を使用して調製されてもよい。同様に、クロロギ酸メチルを2,2-ジフルオロエタノールと反応させてメチル2,2-ジフルオロエチルカーボネートを形成することができる。HCF2CF2CH2-O-CF2CF2Hの合成は、塩基(例えばNaH等)の存在下で2,2,3,3-テトラフルオロプロパノールをテトラフルオロエチレンと反応させることによって行うことができる。同様に、2,2-ジフルオロエタノールとテトラフルオロエチレンとの反応により、HCF2CH2-O-CF2CF2Hが得られる。あるいは、これらのフッ化電解質成分のいくつかは商業的に入手することができる。電解質組成物において使用するためには、電解質成分を少なくとも約99.9%、より具体的には少なくとも約99.99%の純度レベルまで精製することが望ましい。精製は、真空蒸留または回転バンド蒸留などの蒸留方法を使用して行うことができる。
【0050】
本明細書に開示の電解質組成物は、電解質塩も含み得る。好適な電解質塩としては、限定するものではないが、
リチウムヘキサフルオロホスフェート(LiPF6)、
リチウムビス(トリフルオロメチル)テトラフルオロホスフェート(LiPF4(CF3)2)、
リチウムビス(ペンタフルオロエチル)テトラフルオロホスフェート(LiPF4(C2F5)2)、
リチウムトリス(ペンタフルオロエチル)トリフルオロホスフェート(LiPF3(C2F5)3)、
リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、
リチウムビス(パーフルオロエタンスルホニル)イミド、
リチウム(フルオロスルホニル)(ノナフルオロブタンスルホニル)イミド、
リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、
テトラフルオロホウ酸リチウム、
過塩素酸リチウム、
ヘキサフルオロヒ酸リチウム、
トリフルオロメタンスルホン酸リチウム、
リチウムトリス(トリフルオロメタンスルホニル)メチド、
ビス(オキサラト)ホウ酸リチウム、
ジフルオロ(オキサラト)ホウ酸リチウム、
Li2B12F12-xHx(式中のxは0~8である)、および
フッ化リチウムとB(OC6F5)3などのアニオンレセプターとの混合物
が挙げられる。
【0051】
2種以上のこれらまたは同等の電解質塩の混合物も使用することができる。ある実施形態では、電解質塩は、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドを含む。ある実施形態では、電解質塩は、リチウムヘキサフルオロホスフェートを含む。電解質塩は、約0.2M~約2.0M、例えば約0.3M~約1.7M、または例えば約0.5M~約1.2M、または例えば0.5M~約1.7Mの量で電解質組成物中に存在することができる。
【0052】
任意選択的には、本明細書に記載の電解質組成物は、リチウムホウ素化合物、環状スルトン、環状硫酸エステル、環状カルボン酸無水物、またはそれらの組み合わせから選択される添加剤をさらに含有していてもよい。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムホウ素化合物、環状スルトン、環状硫酸エステル、環状カルボン酸無水物、またはそれらの組み合わせから選択される添加剤をさらに含有し、電解質成分は、式:
R1-COO-R2
により表されるフッ化非環状カルボン酸エステルを含み、
式中、
i)R1は、H、アルキル基、またはフルオロアルキル基であり;
ii)R2はアルキル基またはフルオロアルキル基であり;
iv)R1およびR2のいずれかまたは両方はフッ素を含み;
v)R1およびR2は、一組とみなして2個以上7個以下の炭素原子を含む。いくつかの実施形態では、フッ化非環状カルボン酸エステルは、CH3-COO-CH2CF2Hを含む。
【0053】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムホウ素化合物をさらに含有する。好適なリチウムホウ素化合物としては、リチウムテトラフルオロボレート、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、他のリチウムホウ素塩、Li2B12F12-xHx(式中のxは0~8である)、フッ化リチウムとB(OC6F5)3などのアニオンレセプターとの混合物、またはそれらの混合物が挙げられる。ある実施形態では、電解質組成物は、リチウムビス(オキサラト)ボレート、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレート、リチウムテトラフルオロボレート、またはそれらの混合物から選択される少なくとも1種のリチウムボレート塩を追加的に含有する。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムビス(オキサラト)ボレートを含有する。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムジフルオロ(オキサラト)ボレートを含有する。いくつかの実施形態では、電解質組成物は、リチウムテトラフルオロボレートを含有する。リチウムボレート塩は、電解質組成物の総重量を基準として、0.1~約10重量%の範囲、例えば0.1~約5.0重量%、または0.3~約4.0重量%、または0.5~2.0重量%の範囲で電解質組成物中に存在し得る。リチウムホウ素化合物は商業的に入手することができ、あるいは当該技術分野において公知の方法によって調製することができる。
【0054】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は環状スルトンをさらに含有する。好適なスルトンとしては、式:
により表されるものが挙げられ、式中の各Aは、独立して水素、フッ素、または任意選択的にフッ素化されていてもよいアルキル、ビニル、アリル、アセチレン、またはプロパルギル基である。ビニル(H
2C=CH-)、アリル(H
2C=CH-CH
2-)、アセチレン(HC≡C-)、またはプロパルギル(HC≡C-CH
2-)基は、それぞれ無置換であってもよく、あるいは部分的にまたは完全にフッ素化されていてもよい。それぞれのAは、他のA基の1つ以上と同一であっても異なっていてもよく、A基のうちの2つまたは3つが一緒に環を形成していてもよい。2種以上のスルトンの混合物も使用することができる。適切なスルトンとしては、1,3-プロパンスルトン、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、4-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、5-フルオロ-1,3-プロパンスルトン、および1,8-ナフタレンスルトンが挙げられる。ある実施形態では、スルトンは、1,3-プロパンスルトンを含む。ある実施形態では、スルトンは、3-フルオロ-1,3-プロパンスルトンを含む。
【0055】
ある実施形態では、スルトンは、全電解質組成物の約0.01~約10重量%、または約0.1重量%~約5重量%、または約0.5重量%~約3重量%、または約1重量%~約3重量%、または約1.5重量%~約2.5重量%、または約2重量%で存在する。
【0056】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は、式:
により表される環状硫酸エステルをさらに含有し、式中、各Bは、独立に水素または任意選択的にフッ素化されていてもよいビニル、アリル、アセチレン、プロパルギル、またはC
1~C
3アルキル基である。ビニル(H
2C=CH-)、アリル(H
2C=CH-CH
2-)、アセチレン(HC≡C-)、プロパルギル(HC≡C-CH
2-)、またはC
1~C
3アルキル基は、それぞれ無置換であってもよく、あるいは部分的にまたは完全にフッ素化されていてもよい。2種以上の環状硫酸エステルの混合物も使用することができる。好適な環状硫酸エステルとしては、硫酸エチレン(1,3,2-ジオキサチオラン,2,2-ジオキシド)、1,3,2-ジオキサチオラン,4-エチニル-,2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン,4-エテニル-,2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン,ジエテニル-、2,2-ジオキシド、1,3,2-ジオキサチオラン、4-メチル-,2,2-ジオキシド、および1,3,2-ジオキサチオラン,4,5-ジメチル-,2,2-ジオキシドが挙げられる。ある実施形態では、環状硫酸エステルは硫酸エチレンである。ある実施形態では、環状硫酸エステルは、全電解質組成物の約0.1重量%~約12重量%、または約0.5重量%から約10重量%未満、約0.5重量%から約5重量%未満、または約0.5重量%~約3重量%、または約0.5重量%~約2重量%、または約2重量%~約3重量%で存在する。ある実施形態では、環状硫酸エステルは、全電解質組成物の約1重量%~約3重量%、または約1.5重量%~約2.5重量%、または約2重量%で存在する。
【0057】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は、環状カルボン酸無水物をさらに含有する。好適な環状カルボン酸無水物としては、式(I)~式(VIII):
により表される化合物からなる群から選択されるものが挙げられ、式中、R
7~R
14は、それぞれ独立して、H、F、任意選択的にF、アルコキシ、および/またはチオアルキル置換基で置換されていてもよい直鎖または分岐のC
1~C
10アルキルラジカル、直鎖または分岐のC
2~C
10アルケンラジカル、またはC
6~C
10アリールラジカルである。アルコキシ置換基は、1個~10個の炭素を有していてもよく、また直鎖であっても分岐であってもよい。アルコキシ置換基の例としては、-OCH
3、-OCH
2CH
3、およびOCH
2CH
2CH
3が挙げられる。チオアルキル置換基は、1個~10個の炭素を有していてもよく、また直鎖であっても分岐であってもよい。チオアルキル置換基の例としては、-SCH
3、-SCH
2CH
3、およびSCH
2CH
2CH
3が挙げられる。適切な環状カルボン酸無水物の例としては、マレイン酸無水物;コハク酸無水物;グルタル酸無水物;2,3-ジメチルマレイン酸無水物;シトラコン酸無水物;1-シクロペンテン-1,2-ジカルボン酸無水物;2,3-ジフェニルマレイン酸無水物;3,4,5,6-テトラヒドロフタル酸無水物;2,3-ジヒドロ-1,4-ジチイオノ(dithiiono)-[2,3-c]フラン-5,7-ジオン;およびフェニルマレイン酸無水物が挙げられる。これらの環状カルボン酸無水物の2種以上の混合物も使用することができる。ある実施形態では、環状カルボン酸無水物は、マレイン酸無水物を含む。ある実施形態では、環状カルボン酸無水物は、マレイン酸無水物、コハク酸無水物、グルタル酸無水物、2,3-ジメチルマレイン酸無水物、シトラコン酸無水物、またはそれらの混合物を含む。環状カルボン酸無水物は、Sigma-Aldrich,Inc.(Milwaukee,WI)などの特殊化学品会社から入手することができ、あるいは当該技術において公知の方法を使用して調製することができる。少なくとも約99.0%、例えば、少なくとも約99.9%の純度レベルまで環状カルボン酸無水物を精製することが望ましい。精製は、当該技術において公知の方法を使用して行うことができる。
【0058】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は、電解質組成物の総重量を基準として、約0.1重量%~約5重量%の環状カルボン酸無水物を含有する。いくつかの実施形態では、環状カルボン酸無水物は、下限および上限により規定される重量パーセントで電解質組成物中に存在する。範囲の下限は、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1.0、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.1、2.2、2.3、2.4、または2.5であり、範囲の上限は、2.6、2.7、2.8、2.9、3.0、3.1、3.2、3.3、3.4、3.5、3.6、3.7、3.8、3.9、4.0、4.1、4.2、4.3、4.4、4.5、4.6、4.7、4.8、4.9、または5.0である。全ての重量%は電解質組成物の総重量を基準とする。
【0059】
いくつかの実施形態では、電解質組成物は、6員環またはそれより多い員数の環を含むヘテロ環硫酸エステルをさらに含有する。好適なヘテロ環硫酸エステルとしては、式(IX):
により表されるものが挙げられ、式中、R
15~R
18は、それぞれ独立に水素、ハロゲン、C
1~C
12アルキル基、またはC
1~C
12フルオロアルキル基を表し、nは1、2、または3の値を有する。好適なヘテロ環硫酸エステルの例は、n=1でありR
15、R
16、R
17、およびR
18のそれぞれがHである硫酸1,3-プロピレンである。ある実施形態では、ヘテロ環硫酸エステルは、全電解質組成物の約0.1重量%~約12重量%、または約0.5重量%から約10重量%未満、約0.5重量%から約5重量%未満、または約0.5重量%~約3重量%、または約1.0重量%~約2重量%で存在する。ある実施形態では、ヘテロ環硫酸エステルは、全電解質組成物の約1重量%~約3重量%、または約1.5重量%~約2.5重量%、または約2重量%で存在する。
【0060】
ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルアセテートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルアセテートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルアセテートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルアセテートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルアセテートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルアセテートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルアセテートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルアセテート、ビス(オキサラト)ボレート、硫酸エチレン、およびマレイン酸無水物を含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルアセテート、およびリチウム(ビス(フルオロスルホニル)イミドを含有する。
【0061】
ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルプロピオネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルプロピオネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルプロピオネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルプロピオネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルプロピオネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルプロピオネートを含有する。
【0062】
ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2,2-トリフルオロエチルアセテートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2,2-トリフルオロエチルアセテートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2,2-トリフルオロエチルアセテートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2,2-トリフルオロエチルアセテートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2,2-トリフルオロエチルアセテートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2,2-トリフルオロエチルアセテートを含有する。
【0063】
ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートを含有する。
【0064】
ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルエチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルエチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルエチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルエチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルエチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルエチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2-ジフルオロエチルエチルカーボネートを含有する。
【0065】
ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、エチルメチルカーボネート、および5重量%以下の2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネートを含有する。ある実施形態では、電解質組成物は、フルオロエチレンカーボネート、プロピレンカーボネート、ジエチルカーボネート、および5重量%以下の2,2,2-トリフルオロエチルメチルカーボネートを含有する。
【0066】
任意選択的に、本明細書に開示の電解質組成物は、特にリチウムイオン電池で使用するための従来の電解質組成物において有用である、当業者に公知の添加剤をさらに含んでいてもよい。例えば、本明細書に開示の電解質組成物は、リチウムイオン電池の充電および放電中に発生するガスの量を低減するために有用であるガス低減添加剤も含み得る。ガス低減添加剤は、いずれの有効量でも使用されることが可能であるが、電解質組成物の約0.05重量%~約10重量%、あるいは電解質組成物の約0.05重量%~約5重量%、または電解質組成物の約0.5重量%~約2重量を構成するように含まれていてもよい。
【0067】
従来公知の好適なガス低減添加剤は、例えば、フルオロベンゼン、クロロベンゼン、ブロモベンゼン、ヨードベンゼン、またはハロアルキルベンゼンなどのハロベンゼン;1,3-プロパンスルトン;無水コハク酸;エチニルスルホニルベンゼン;2-スルホ安息香酸環状無水物;ジビニルスルホン;トリフェニルホスフェート(TPP);ジフェニルモノブチルホスフェート(DMP);γ-ブチロラクトン;2,3-ジクロロ-1,4-ナフトキノン;1,2-ナフトキノン;2,3-ジブロモ-1,4-ナフトキノン;3-ブロモ-1,2-ナフトキノン;2-アセチルフラン;2-アセチル-5-メチルフラン;2-メチルイミダゾール-1-(フェニルスルホニル)ピロール;2,3-ベンゾフラン;2,4,6-トリフルオロ-2-フェノキシ-4,6-ジプロポキシ-シクロトリホスファゼンおよび2,4,6-トリフルオロ-2-(3-(トリフルオロメチル)フェノキシ)-6-エトキシ-シクロトリホスファゼンなどのフルオロ-シクロトリホスファゼン;ベンゾトリアゾール;パーフルオロエチレンカーボネート;アニソール;ジエチルホスホネート;2-トリフルオロメチルジオキソランおよび2,2-ビストリフルオロメチル-1,3-ジオキソランなどのフルオロアルキル置換ジオキソラン;トリメチレンボレート;ジヒドロ-3-ヒドロキシ-4,5,5-トリメチル-2(3H)-フラノン;ジヒドロ-2-メトキシ-5,5-ジメチル-3(2H)-フラノン;ジヒドロ-5,5-ジメチル-2,3-フランジオン;プロペンスルトン;ジグリコール酸無水物;ジ-2-プロピニルオキサレート;4-ヒドロキシ-3-ペンテン酸γ-ラクトン;
CF3COOCH2C(CH3)(CH2OCOCF3)2;CF3COOCH2CF2CF2CF2CF2CH2OCOCF3;α-メチレン-γ-ブチロラクトン;3-メチル-2(5H)-フラノン;5,6-ジヒドロ-2-ピラノン;ジエチレングリコール,ジアセテート;トリエチレングリコールジメタクリレート;トリグリコールジアセテート;1,2-エタンジスルホン酸無水物;1,3-プロパンジスルホン酸無水物;2,2,7,7-テトラオキシド1,2,7-オキサジチエパン;3-メチル-,2,2,5,5-テトラオキシド1,2,5-オキサジチオラン;ヘキサメトキシシクロトリホスファゼン;4,5-ジメチル-4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;2-エトキシ-2,4,4,6,6-ペンタフルオロ-2,2,4,4,6,6-ヘキサヒドロ-1,3,5,2,4,6-トリアザトリホスホリン;2,2,4,4,6-ペンタフルオロ-2,2,4,4,6,6-ヘキサヒドロ-6-メトキシ-1,3,5,2,4,6-トリアザトリホスホリン;4,5-ジフルオロ-1,3-ジオキソラン-2-オン;1,4-ビス(エテニルスルホニル)-ブタン;ビス(ビニルスルホニル)-メタン;1,3-ビス(エテニルスルホニル)-プロパン;1,2-ビス(エテニルスルホニル)-エタン;エチレンカーボネート;ジエチルカーボネート;ジメチルカーボネート;エチルメチルカーボネート;および1,1’-[オキシビス(メチレンスルホニル)]ビス-エテンである。
【0068】
使用可能な他の適切な添加剤は、シラン、シラザン(Si-NH-Si)、エポキシド、アミン、(2個の炭素を含む)アジリジン、炭酸リチウムオキサレートの塩、B2O5、ZnO、および含フッ素無機塩などのHF捕捉剤である。
【0069】
別の実施形態では、本明細書においては、ハウジングと、ハウジング内に配置され、互いにイオン伝導接触しているアノード及びカソードと、ハウジング内に位置しアノードとカソードとの間にイオン導電経路を付与する本明細書で上述した電解質組成物と、アノードとカソードとの間の多孔質セパレータと、を含む電気化学セルが提供される。いくつかの実施形態では、電気化学セルはリチウムイオン電池である。
【0070】
いくつかの実施形態では、ハウジング中に配置される電解質組成物の電解質成分は、フッ化非環状カルボン酸エステルを含み、フッ化非環状カルボン酸エステルには、CH3-COO-CH2CF2、CH3CH2-COO-CH2CF2H、F2CHCH2-COO-CH3、F2CHCH2-COO-CH2CH3、CH3-COO-CH2CH2CF2H、CH3CH2-COO-CH2CH2CF2H、F2CHCH2CH2-COO-CH2CH3、CH3-COO-CH2CF3、CH3CH2-COO-CH2CF2H、CH3-COO-CH2CF3、H-COO-CH2CF2H、H-COO-CH2CF3、またはそれらの混合物が含まれる。
【0071】
いくつかの実施形態では、ハウジング中に配置される電解質組成物の電解質成分は、フッ化非環状カーボネートを含み、フッ化非環状カーボネートには、CH3-OC(O)O-CH2CF2H、CH3-OC(O)O-CH2CF3、CH3-OC(O)O-CH2CF2CF2H、HCF2CH2-OCOO-CH2CH3、CF3CH2-OCOO-CH2CH3、またはそれらの混合物が含まれる。
【0072】
いくつかの実施形態では、ハウジング中に配置される電解質組成物の電解質成分は、フッ化非環状エーテルを含み、フッ化非環状エーテルには、HCF2CF2CH2-O-CF2CF2HまたはHCF2CH2-O-CF2CF2Hが含まれる。
【0073】
ハウジングは、電気化学セル構成要素を収納するための任意の好適な容器であってもよい。ハウジング材料は当該技術分野でよく知られており、例えば、金属およびポリマーハウジングを含むことができる。ハウジングの形状は特に重要ではないが、好適なハウジングは、小さいまたは大きい円筒、プリズムケースまたはパウチの形状に製造することができる。アノードおよびカソードは、電気化学セルのタイプに応じて任意の適した導電性材料からなってもよい。アノード材料の適した例には、限定されないが、リチウム金属、リチウム金属合金、リチウムチタネート、アルミニウム、白金、パラジウム、黒鉛、遷移金属酸化物、およびリチウム化酸化スズが含まれる。カソード材料の適した例には、限定されないが、黒鉛、アルミニウム、白金、パラジウムの他、リチウムまたはナトリウム、インジウムスズ酸化物を含む電気活性遷移金属酸化物、および例えばポリピロールおよびポリビニルフェロセンなどの導電性ポリマーが含まれる。
【0074】
多孔質セパレータは、アノードとカソードとの間の短絡を防ぐのに役立つ。多孔質セパレータは、典型的には、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリアミド、ポリイミド、またはそれらの組み合わせなどの微孔性ポリマーの単層または多層シートからなる。多孔質セパレータの孔径は、イオンの輸送がアノードとカソードとの間のイオン伝導的接触を提供できるように十分大きいが、直接、あるいは粒子貫入またはアノードおよびカソード上に形成し得るデンドライトからのアノードおよびカソードの接触を防ぐように十分小さい。本明細書での使用のために適切な多孔性セパレータの例は、米国特許出願第12/963,927号明細書(2010年12月9日出願、米国特許出願公開第2012/0149852号明細書、現在米国特許第8,518,525号明細書)に開示されている。
【0075】
アノードまたはカソードとして機能することができる多くの異なるタイプの材料が知られている。いくつかの実施形態では、カソードとしては、例えばLiCoO2、LiNiO2、LiMn2O4、LiCo0.2Ni0.2O2、LiV3O8、LiNi0.5Mn1.5O4;LiFePO4、LiMnPO4、LiCoPO4、およびLiVPO4Fなどのリチウムおよび遷移金属を含有するカソード電気活物質を挙げることができる。他の実施形態では、カソード活物質には、例えば、
LiaCoGbO2(0.90≦a≦1.8および0.001≦b≦0.1である);
LiaNibMncCodReO2-fZf(0.8≦a≦1.2、0.1≦b≦0.9、0.0≦c≦0.7、0.05≦d≦0.4、0≦e≦0.2であり、b+c+d+eの合計は約1であり、0≦f≦0.08である);
LiaA1-b,RbD2(0.90≦a≦1.8および0≦b≦0.5である);
LiaE1-bRbO2-cDc(0.90≦a≦1.8、0≦b≦0.5、および0≦c≦0.05である);
LiaNi1-b-cCobRcO2-dZd(0.9≦a≦1.8、0≦b≦0.4、0≦c≦0.05、および0≦d≦0.05である);
Li1+zNi1-x-yCoxAlyO2(0<x<0.3、0<y<0.1、および0<z<0.06である)
が含まれ得る。
【0076】
上の化学式中、Aは、Ni、Co、Mn、またはそれらの組み合わせであり;Dは、O、F、S、P、またはそれらの組み合わせであり;Eは、Co、Mn、またはそれらの組み合わせであり;Gは、Al、Cr、Mn、Fe、Mg、La、Ce、Sr、V、またはそれらの組み合わせであり;Rは、Al、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり;Zは、F、S、P、またはそれらの組み合わせである。好適なカソードとしては、米国特許第5,962,166号明細書;同第6,680,145号明細書;同第6,964,828号明細書;同第7,026,070号明細書;同第7,078,128号明細書;同第7,303,840号明細書;同第7,381,496号明細書;同第7,468,223号明細書;同第7,541,114号明細書;同第7,718,319号明細書;同第7,981,544号明細書;同第8,389,160号明細書;同第8,394,534号明細書;および同第8,535,832号明細書、ならびにこれらの中の参照文献の中に開示されているものが挙げられ得る。「希土類元素」とは、La~Luのランタニド元素、ならびにYおよびScを意味する。
【0077】
別の実施形態では、カソード材料はNMCカソード、すなわちLiNiMnCoOカソード、より詳しくは、Ni:Mn:Coの原子比が1:1:1であるカソード(LiaNi1-b-cCobRcO2-dZd、式中、0.98≦a≦1.05、0≦d≦0.05、b=0.333、c=0.333であり、RがMnを含む)またはNi:Mn:Coの原子比が5:3:2であるカソード(LiaNi1-b-cCobRcO2-dZd、式中、0.98≦a≦1.05、0≦d≦0.05、c=0.3、b=0.2であり、RがMnを含む)である。
【0078】
別の実施形態では、カソードは、式LiaMnbJcO4Zd(式中、Jは、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Cu、V、Ti、Zr、Mo、B、Al、Ga、Si、Li、Mg、Ca、Sr、Zn、Sn、希土類元素またはそれらの組み合わせであり;Zは、F、S、Pまたはその組み合わせであり;かつ0.9≦a≦1.2、1.3≦b≦2.2、0≦c≦0.7、0≦d≦0.4である)の材料を含む。
【0079】
別の実施形態では、本明細書に開示の電気化学セルまたはリチウムイオン電池中のカソードは、Li/Li+参照電極に対して4.6Vより高い電位範囲において30mAh/gより大きい容量を示すカソード活物質を含む。そのようなカソードの一例は、カソード活物質としてのスピネル構造を有するリチウム含有マンガン複合酸化物を含む安定化マンガンカソードである。本明細書での使用に適したカソード中のリチウム含有マンガン複合酸化物は、式LixNiyMzMn2-y-zO4-dの酸化物を含み、xは0.03~1.0であり;xは充放電中のリチウムイオンおよび電子の放出および取り込みに従って変化し;yは0.3~0.6であり;MはCr、Fe、Co、Li、Al、Ga、Nb、Mo、Ti、Zr、Mg、Zn、V、およびCuのうちの1つ以上を含み;zは0.01~0.18であり;dは0~0.3である。上の式のある実施形態では、yは0.38~0.48であり、zは0.03~0.12であり、dは0~0.1である。上の式のある実施形態では、Mは、Li、Cr、Fe、Co、およびGaのうちの1つ以上である。安定化されたマンガンカソードは米国特許第7,303,840号明細書に記載されているように、マンガン含有スピネル成分とリチウムを豊富に含む層状構造とを含むスピネル層状複合材料も含み得る。
【0080】
別の実施形態では、カソードは、次式の構造:
x(Li2-wA1-vQw+vO3-e)・(1-x)(LiyMn2-zMzO4-d)
により表される複合材料を含み、
式中、
xは約0.005~約0.1であり;
AはMnまたはTiのうちの1つ以上を含み;
QはAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Mg、Nb、Ni、Ti、V、Zn、ZrまたはYのうちの1つ以上を含み;
eは0~約0.3であり;
vは0~約0.5であり;
wは0~約0.6であり;
MはAl、Ca、Co、Cr、Cu、Fe、Ga、Li、Mg、Mn、Nb、Ni、Si、Ti、V、Zn、Zr、またはYのうちの1つ以上を含み;
dは0~約0.5であり;
yは0~約1であり;
zは約0.3~約1であり;
LiyMn2-zMzO4-d成分はスピネル構造を有し、Li2-wQw+vA1-vO3-e成分は層状構造を有する。
【0081】
別の実施形態では、式
x(Li2-wA1-vQw+vO3-e)・(1-x)(LiyMn2-zMzO4-d)
の中において、xは約0~約0.1であり、他の変数についての全ての範囲は本明細書の上で述べた通りである。
【0082】
別の実施形態では、本明細書に開示のリチウムイオン電池の中のカソードは、
LiaA1-xRxDO4-fZf
を含み、式中、
AはFe、Mn、Ni、Co、V、またはそれらの組み合わせであり;
RはAl、Ni、Co、Mn、Cr、Fe、Mg、Sr、V、Zr、Ti、希土類元素、またはそれらの組み合わせであり;
DはP、S、Si、またはそれらの組み合わせであり;
ZはF、Cl、S、またはそれらの組み合わせであり;
0.8≦a≦2.2であり;
0≦x≦0.3であり;
0≦f≦0.1である。
【0083】
別の実施形態では、本明細書に開示のリチウムイオン電池または電気化学セル中のカソードは、Li/Li+参照電極に対して約4.1V以上、または4.35V以上、または4.5V超、または4.6V以上の電位まで充電されるカソード活物質を含む。他の例は、4.5Vを超える上限充電電位まで充電される、米国特許第7,468,223号明細書に記載されているものなどの層状-層状大容量酸素放出カソードである。
【0084】
いくつかの実施形態では、カソードは、Li/Li+参照電極に対して4.6Vを超える電位範囲で30mAh/gを超える容量を示すカソード活物質、またはLi/Li+参照電極に対して4.35V以上の電位まで充電されるカソード活物質を含む。
【0085】
本明細書での使用に適したカソード活物質は、Liuら(J.Phys.Chem.C 13:15073-15079,2009)により記載された水酸化物前駆体法などの方法を使用して調製することができる。その方法では、水酸化物前駆体が、必要量のマンガン、ニッケルおよび他の望まれる金属酢酸塩を含有する溶液からKOHの添加によって析出する。得られる析出物をオーブン乾燥し、次いで、約800~約1000℃において、酸素中、3~24時間、必要量のLiOH・H2Oと一緒に焼成する。あるいは、カソード活物質は、米国特許第5,738,957号明細書(Amine)に記載されているように、固相反応法またはゾル-ゲル法を使用して調製することができる。
【0086】
本明細書での使用に適した、カソード活物質を含有するカソードは、有効量のカソード活物質(例えば、約70重量%~約97重量%)と、ポリビニリデンジフルオリドなどのポリマーバインダーと、導電性カーボンとを、N-メチルピロリドンなどの適切な溶媒中で混合してペーストを生成し、その後これをアルミニウム箔のような集電体上にコーティングし、乾燥させてカソードを形成するなどの方法により調製することができる。
【0087】
本明細書に開示の電気化学セルまたはリチウムイオン電池は、リチウムイオンを吸蔵および放出することができるアノード活物質を含むアノードをさらに含む。好適なアノード活物質の例としては、例えば、リチウム-アルミニウム合金、リチウム-鉛合金、リチウム-ケイ素合金、リチウム-スズ合金などのリチウム合金;黒鉛およびメソカーボンマイクロビーズ(MCMB)などの炭素材;黒リン、MnP4およびCoP3などのリン含有材料;SnO2、SnOおよびTiO2などの金属酸化物;例えばアンチモンを含有するナノ複合材料などのアンチモンまたはスズを含有するナノ複合材料、アルミニウム、チタン、またはモリブデンの酸化物、およびYoonら(Chem.21,3898-3904,2009)によって記載されているものなどのカーボン;ならびにLi4Ti5O12およびLiTi2O4などのリチウムチタネートが挙げられる。ある実施形態では、アノード活物質は、リチウムチタネートまたは黒鉛である。別の実施形態では、アノードは黒鉛である。
【0088】
アノードは、例えば、フッ化ビニル系コポリマーなどのバインダーを有機溶媒または水に溶解または分散させた後にこれを活物質、導電性材料と混合してペーストを得る、カソードについて上述したものと同様の方法によって製造することができる。ペーストは、集電体として使用されることになる、金属箔、好ましくはアルミ箔または銅箔上へコーティングされる。ペーストは、活物質が集電体に結合するように、好ましくは熱を用いて乾燥される。好適なアノード活物質およびアノードは、Hitachi、NEI Inc.(Somerset,NJ)、およびFarasis Energy Inc.(Hayward,CA)などの企業から商業的に入手可能である。
【0089】
本明細書に開示されるような電気化学セルは、様々な用途に使用することができる。例えば、電気化学セルは、グリッド貯蔵のために、またはコンピュータ、カメラ、ラジオ、電動工具、通信機器、もしくは輸送装置(動力車、自動車、トラック、バスまたは飛行機等)などの様々な電子的に駆動するまたは補助される装置(「電子デバイス」)における電源として使用することができる。本開示は、本開示の電気化学セルを含む電子デバイス、輸送装置、または通信機器にも関する。
【0090】
別の実施形態では、電解質組成物の形成方法が提供される。方法は、a)環状カーボネートを含む第1の溶媒;b)非フッ化非環状カーボネートを含む第2の溶媒;c)i)フッ化非環状カルボン酸エステル、ii)フッ化非環状カーボネート、iii)フッ化非環状エーテル、iv)またはそれらの混合物から選択される少なくとも1種の電解質成分;ならびにd)電解質塩を混合して電解質組成物を形成することを含む。成分は任意の適切な順序で混合することができる。混合する工程は、順々にまたは同時に電解質組成物の個々の成分を添加することによって行うことができる。いくつかの実施形態では、成分a)およびb)が混合されることで第1の溶液が製造される。第1の溶液が形成された後、望みの濃度の電解質塩を有する電解質組成物を製造するために、第1の溶液にある量の電解質塩が添加され、次いで望みの量の電解質成分が添加される。あるいは、第1の溶液の形成後、望みの量の電解質成分が添加され、引き続き望みの量の電解質塩が添加される。あるいは、成分a)およびc)、またはb)およびc)を混合して第1の溶液を製造し、第1の溶液の形成後に残りの成分を添加することで電解質組成物が製造される。典型的には、電解質組成物は、均一な混合物を形成するために成分の添加中および/または添加後に攪拌される。
【実施例】
【0091】
本明細書に開示の概念を以降の実施例で説明するが、これらはこの意図が明示的に述べられていない限り、請求項の範囲の限定として使用または解釈されることは意図されていない。上記の考察およびこれらの実施例から、当業者は、本明細書に開示された概念の本質的な特性を確認することができ、その趣旨および範囲から逸脱せずに、様々な用途および条件に適合させるために様々な変更および改良を行い得る。
【0092】
使用される略語の意味は以下の通りである:「℃」は、セルシウス度を意味し;「g」はグラムを意味し、「mg」はミリグラムを意味し、「μg」はマイクログラムを意味し、「L」はリットルを意味し、「mL」はミリリットルを意味し、「μL」はマイクロリットルを意味し、「mol」はモルを意味し、「mmol」はミリモルを意味し、「M」はモル濃度を意味し、「wt%」は重量パーセントを意味し、「mm」はミリメートルを意味し、「μm」はマイクロメートルを意味し、「ppm」は百万分率を意味し、「h」は時間を意味し、「min」は分を意味し、「psig」は平方インチゲージあたりのポンドを意味し、「kPa」はキロパスカルを意味し、「A」はアンペアを意味し、「mA」はミリアンペアを意味し、「mAh/g」はグラムあたりのミリアンペア時間を意味し、「V」はボルトを意味し、「xC」は、xと、Ahで表される電池の公称容量に数値的に等しいAにおける電流との積である定電流を意味し、「rpm」は分あたりの回転数を意味し、「NMR」は核磁気共鳴分光法を意味し、「GC/MS」はガスクロマトグラフィー/質量分析を意味し、「Ex」は実施例を意味し、「Comp.Ex」は比較例を意味する。
【0093】
材料および方法
2,2-ジフルオロエチルアセテート(DFEA)の代表的な調製
実施例および比較例で使用される2,2-ジフルオロエチルアセテートは、酢酸カリウムをHCF2CH2Brと反応させることによって調製した。以降は調整のために使用した典型的な手順である。
【0094】
酢酸カリウム(Aldrich,Milwaukee,WI、99%)を100℃で0.5~1mmHg(66.7~133Pa)の真空下で4~5時間乾燥させた。乾燥した材料は、カールフィッシャー滴定により決定される5ppm未満の含水率を有していた。ドライボックスの中で、重い磁気撹拌子が入っている1.0Lの三口丸底フラスコの中に、212g(2.16mol、8mol%過剰)の乾燥酢酸カリウムを入れた。フラスコをドライボックスから取り出し、ドラフトチャンバー内に移し、熱電対ウェル、ドライアイスコンデンサー、および添加漏斗を備え付けた。
【0095】
スルホラン(500mL、Aldrich、99%、カールフィッシャー滴定により決定された600ppmの水)を融解し、窒素を流しながら液体として3口丸底フラスコに添加した。撹拌を開始し、反応媒体の温度を約100℃にした。HCF2CH2Br(290g、2mol、E.I.du Pont de Nemours and Co.、99%)を滴下漏斗に入れ、これをゆっくりと反応媒体に添加した。添加により穏やかに発熱し、反応媒体の温度は、添加の開始後15~20分で120~130℃まで上昇した。HCF2CH2Brの添加は、125~135℃の内部温度を維持する速度に保持した。添加には約2~3時間要した。反応媒体をさらに6時間、120~130℃で撹拌した(典型的には、この時点での臭化物の変換率は約90~95%であった)。次に、反応媒体を室温まで冷却し、一晩撹拌した。翌朝、加熱をさらに8時間再開した。
【0096】
この時点で出発臭化物はNMRにより検出できず、粗生成反応媒体は0.2~0.5%の1,1-ジフルオロエタノールを含有していた。反応フラスコ上のドライアイスコンデンサーを、Teflon(登録商標)バルブを有するホースアダプターに置き換え、コールドトラップ(-78℃、ドライアイス/アセトン)を通してフラスコを機械式真空ポンプに接続した。1~2mmHg(133~266Pa)の真空下、40~50℃で反応生成物をコールドトラップに移した。移動は約4~5時間要し、約98~98.5%の純度の220~240gの粗生成HCF2CH2OC(O)CH3が得られ、これには少量のHCF2CH2Br(約0.1~0.2%)、HCF2CH2OH(0.2~0.8%)、スルホラン(約0.3~0.5%)、および水(600~800ppm)が混入していた。粗生成物のさらなる精製は、大気圧での回転バンド蒸留を用いて実施した。106.5~106.7℃の沸点を有するフラクションを集め、不純物プロファイルをGC/MSを使用して観察した(キャピラリーカラムHP5MS、フェニル-メチルシロキサン、Agilent 19091S-433、30m、250μm、0.25μm;キャリヤガス-He、流量1mL/分、温度プログラム:40℃、4分、昇温30℃/分、230℃、20分)。典型的には、240gの粗生成物の蒸留により、99.89%の純度のHCF2CH2OC(O)CH3約120g(250~300ppmのH2O)および99.91%の純度の材料80g(約280ppmの水を含有)が得られた。水がカールフィッシャー滴定により検出されなくなるまで(すなわち<1ppm)、3Aモレキュラーシーブで処理することによって蒸留生成物から水を除去した。
【0097】
2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート(DFEMC)の合成
底部減圧弁、コンデンサー、オーバーヘッド撹拌機、および滴下漏斗を備えた20Lのジャケット付きフラスコの中で、窒素下で撹拌しながら、循環式冷却器によって、4644mLのジクロロメタン(DCM)中の404mLの2,2-ジフルオロエタノール(DFE;525g;6.40mol;mw=82.05;D=1.30;bp=95℃;Synquest 2101-3-02)および11.6gの4-(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP;94.9mmol;1.5モル%;mw=122.17;Aldrich 107700)の溶液を冷却した。NaOH水溶液(441mL;50重量%のNaOH;8.3mol;30%過剰;0.75g NaOH/mL;18.8M;D=1.52;Aldrich 415413)を一度に添加し、混合物を攪拌し、1℃まで冷却した。584mLの冷クロロギ酸メチル(MCF、712g;7.54mol;18%過剰;mw=94.50;D=1.22;bp=70℃、Aldrich M35304)を5~10mL/分で添加しながら、混合物を迅速に撹拌した。反応温度を2~3℃に維持するために、冷却器を-20℃に設定した。約半分のMCFが添加された後、水相の塩が結晶化し、液体のNaOH水溶液の不在下で反応は本質的に停止した。水(300mL)を添加し、塩を液化したところ、反応は再び続行した。MCFが全て添加された時(1.5時間の全添加時間)、ジクロロメタン溶液のサンプルを採取し、ガスクロマトグラフィーによって分析した(30-m DB-5;30℃/5分、次いで、10℃/分;He:13.8cc/分):0.97分(0.006%、DFE);1.10分(61.019%、DCM);1.92分(0.408%、ジメチルカーボネート、DMC);4.38分(38.464%、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート、DFEMC)。DFEMC:DFE=6410;DFEMC:DMC=94。ジクロロメタン生成物溶液を底部弁から抜き出し、フラスコを水で洗浄し;次いで、ジクロロメタン溶液をフラスコに戻し、連続して2×750mLの5%塩酸と、それに続いて、1.5Lの飽和炭酸水素ナトリウム溶液と一緒に攪拌し、最後に硫酸マグネシウムを用いて乾燥させた。
【0098】
ジクロロメタンを、5Lフラスコから、シンプルスチルヘッドを上部に取り付けた12’’の空カラムを通して、約40℃/500トールで蒸留除去した。次いで、残りのポット材料を100°/250トールで蒸留して866gの粗生成2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートを得た。GC分析から、DFE 0.011%;DCM 4.733%;DMC 0.646%;DFEMC 94.568%;ビス(2,2-ジフルオロエチル)カーボネート(BDFEC)0.043%が示された。これは、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネートの91%の収率である。0.16インチのSS316メッシュサドルが装填された18’’のガラスカラムを通して、95~113℃の浴から285トールで粗生成DFEMCを再蒸留した。フラクション7~10は、105~113℃の浴から約90℃/285トールで蒸留した。これらのフラクションのGC-FID分析は表1に示されている。ポット(25g)は主としてBDFECであった。
【0099】
【0100】
フラクション7~9を合わせて、部分的な真空(70トール)下で、0.16インチのSS316メッシュサドル(AceGlass6624-04)を充填した20cm×2.2cmのカラムを通して、100℃の油浴から、4つのフラクション:#1(23g)、#2(20g)、#3(16g)、および#4(13g)、に蒸留してDFEを除去した。蒸留物のDFE含有率はGCにより分析した:#1(0.100%)、#2(0.059%)、#3(0.035%)、および#4(0.026%)。ポット材料(602g)をGC-FIDによって分析した:DFE 0.0016%;DMC 0.1806%;DFEMC 99.6868%;BDFEC 0.1132%。DMC、DFEMC、およびBDFECの合計は、生成物の99.9808%を占め、これは16ppmのDFEを含んでいた。生成物はカールフィッシャー滴定による18ppmの水も含んでいた。
【0101】
リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB)の精製
窒素パージされたドライボックス中で、以下の手順を使用して、リチウムビス(オキサラト)ボレート(LiBOB、Sigma Aldrich、757136-25G)を精製した。Teflonコーティングされた撹拌子を備えた500mLのエルレンマイヤーフラスコに、25gのLiBOBを入れた。これに、125mLの無水アセトニトリル(Sigma Aldrich、Fluka、モレキュラーシーブ)を添加した。油浴を使用して、フラスコを45℃で10分間加熱した。真空を用いて、微細孔ガラスフリット(Chemglass、F、60mL)を通して、500mLのフィルターフラスコ中に混合物を濾過した。溶液を室温まで冷まして透明溶液を形成し、125mLの冷トルエン(-25°Cの冷凍庫、Sigma Aldrich CHROMASOLV(登録商標))を添加した。直ちに析出が観察され、この混合物を20分間静置し、さらに固体を形成させた。微細孔ガラスフリット(Chemglass、F、60mL)を通して、500mLの丸底中に溶液を濾過した。フィルターケーキを低温の無水トルエン(2×20mL)で洗浄し、ガラス漏斗を使用して円筒状の長首フラスコに移した。このフラスコにしっかり蓋をし、グローブボックスから取り出してKugelrohrに取り付け、その後これを高真空に接続した。このフラスコを一晩室温で高真空(60~100ミリトール)下にて乾燥させ、次いで、さらに3日間、140℃で高真空(60~80ミリトール)下にて乾燥させた。この時点で、フラスコに蓋をし、さらに精製するためにドライボックスに戻した。以降に記載のようにプロピレンカーボネートを使用してLiBOBをさらに精製した。
【0102】
プロピレンカーボネート精製(LiBOBをさらに精製するために使用)
プロピレンカーボネート(PC、Aldrich、HPLC用CHROMASOLV、99.7%)をドライボックスに移し、活性化したモレキュラーシーブ上に置いて溶媒を乾燥させた。300mLのPCを攪拌子を備えた丸底フラスコに入れた。これを、Vigreuxカラムを有する一体型蒸留装置に取り付けた。その後、装置を高真空(約500ミリトール)下に置き、溶液を撹拌しながら脱気した。その後、温度を50℃まで上げ、次いで90℃まで上げた。最終的に真空度は約250ミリトールまで上昇し、PCフラクションは蒸留され始めた。7つのフラクションを集めた。最後の2つのフラクション(合計約290mL)をその後の工程で使用した。
【0103】
LiBOBの犠牲部分を使用して、分別蒸留したプロピレンカーボネート中に残っているあらゆる不純物を捕捉した。10.2gのLiBOB(Rockwood Lithium,Frankfurt,Germany)を200mLの蒸留PCと混合した。これを100℃のドライボックス内で一晩撹拌した。その後混合物を単純な蒸留装置と接続し、PCを蒸留し、丸底フラスコに集めた。PCの蒸留を補助するためにヒートガンを複数回使用した。回収したこのプロピレンカーボネートを、その後ドライボックスに移し、LiBOBを精製するために使用した。
【0104】
グローブボックス内で、Teflonで被覆された撹拌子を備えた250mLの丸底に、17gのLiBOB(上述した通り、アセトニトリルおよびトルエンを用いて予め精製されたもの)および75mLの精製されたプロピレンカーボネートを添加した。これを、グローブボックス中で室温で約2時間撹拌した。溶液が透明でない場合は、温度を60℃に上げて約15分間撹拌した。
【0105】
その後、この管を単純な蒸留装置に取り付けた。丸底の受け器および固定されたゴム管を用いて蒸留装置を密封した。その後、装置をドライボックスから取り出した。ゴム管をシュレンクライン/高真空に接続し、装置を真空(約150ミリトール)下に置いた。受け器のフラスコをドライアイス/アセトントラップで囲み、LiBOB/PCフラスコを油浴中(55~70℃)で加熱した。温度は高真空の効率に基づいて調節した。温度が高すぎる場合には、LiBOBが蒸留ヘッドの頂部に集まり始める。PCの大部分が除去された後、液滴が蒸留ヘッドから移動するのを助けるためにヒートガンを使用した。液滴が現れなくなるまでこれを繰り返した。その後、ドライアイス/アセトン受け器トラップを液体窒素トラップと交換し、油浴温度を115~130℃までゆっくり上昇させた(これも真空に依存する)。ヒートガンを再度使用して蒸留ヘッド中のPCの液滴を除去した。それ以上PCが除去されなくなるまでこれを繰り返した。
【0106】
その後、装置を熱/液体窒素から取り出し、窒素下に置いた。LiBOBが冷却され、PCが室温まで温められた後、装置の管を窒素下に保つために鉗子を用いて固定した。その後、前室に連続的に約20分間窒素を流してパージすることにより、これをドライボックスに移した。
【0107】
硫酸エチレン(ES)の精製
グローブボックスの中で、ドライアイス/アセトン用のインサートを備えた昇華装置に、12gの硫酸エチレン(ChemImpex,Wood Dale,Illinois)を入れた。これをドライボックスの中で密封し、取り出して高真空(約100ミリトール)に接続した。管を最初に真空にしてからバルブを開けて昇華装置を真空にした。インサートをドライアイスおよびアセトンで満たし、昇華装置の底部を60℃に予熱した油浴中に沈めた。これを約4時間、または全ての白色固体がコールドフィンガーに付着するまで加熱した。この際、中身を真空に保つためにバルブを密閉した。管を窒素下に置き、取り出した。その後、捕捉されたドライアイス/アセトンを空にし、昇華装置の外側をきれいにした。これをグローブボックスの中に移し、プラスチック製の漏斗を用いて白色固体を乾燥したガラス容器の中に集めた。その後、純度を確認するために、昇華したESのNMRをCDCl3中で得た。精製したESを、必要になるまで冷凍庫の中のガラス容器の中で保管した。
【0108】
マレイン酸無水物(MA)の精製
グローブボックスの中で、ドライアイス/アセトン用のインサートを備えた大型の昇華装置に、27gのマレイン酸無水物(Aldrich,Milwaukee,Wisconsin)を入れた。これをドライボックスの中で密封し、取り出して高真空(約100ミリトール)に接続した。管を最初に真空にしてからバルブを開けて昇華装置を真空にした。インサートをドライアイスおよびアセトンで満たし、昇華装置の底部を60℃に予熱した油浴中に沈めた。これを約1時間加熱してからさらに7時間85℃まで上げるか、または全ての昇華した白色固体がコールドフィンガーに付着するまで加熱した。この際、中身を真空に保つためにバルブを密閉した。管を窒素下に置き、取り出した。その後、ドライアイス/アセトントラップ中の材料を空にし、昇華装置の外側をきれいにした。これをグローブボックスに移し、プラスチック製の漏斗を用いて白色固体を乾燥したガラス容器の中に集めた。その後、純度を確認するために、MAのNMRをCDCl3中で得た。精製したMAを、必要になるまでドライボックス中のガラス容器の中で保管した。
【0109】
電解質の調製
実施例1については、電解質組成物を以下のように調製した。以下の重量のジエチルカーボネート(DEC)、(BASF,Independence,OH)およびエチルメチルカーボネート(EMC)(BASF、Independence,OH)の3つの原液を、窒素パージしたドライボックス中で調製した:1)13.848gのDECおよび36.158gのEMC、2)13.847gのDECおよび36.155gのEMC、ならびに3)13.848gのDECおよび36.162gのEMC。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥し、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。
【0110】
次に、窒素パージしたドライボックスの中で、上述した113.200gのDEC/EMC混合物を、15.097gのフルオロエチレンカーボネート(FEC)(BASF,Independence,OH)および22.638gのプロピレンカーボネート(PC)(受け取ったままの状態、BASF,Independence,OH)と混合した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物をカールフィッシャー滴定により決定される1ppm未満の水まで乾燥し、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。
【0111】
その後、9.0136gのDEC/EMC/FEC/PC混合物を0.1126gのLiBOBと混合し、一晩穏やかに撹拌した。その後、0.0568gのMA、0.5615gのDFEA、および1.3540gのLiPF6(BASF,IndependencevOH)を添加した。混合物を穏やかに撹拌して成分を溶解させた。0.1688gの硫酸エチレン(ES)の別のバイアルを調製し、2つを使用直前に混合して実施例1の電解質組成物を得た。
【0112】
比較例Aについては、窒素をパージしたドライボックス中で、実施例1で述べた113.200gのEMC/DEC混合物を、15.097gのFECおよび22.638gのプロピレンカーボネートと混合することにより電解質組成物を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥し、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。9.0096gの混合物を0.1073gのLiBOBと混合し、一晩穏やかに撹拌した。その後、0.0543gのMAおよび1.3600gのLiPF6を添加した。材料を穏やかに撹拌して成分を溶解させた。0.1602gの硫酸エチレン(ES)の別のバイアルを調製し、2つの成分を使用直前に混合して比較例Aの電解質組成物を得た。
【0113】
実施例2については、電解質組成物は、実施例1の記載と同じであるが次の相違点を有する手順を使用して調製した。窒素をパージしたドライボックス中で、実施例1で述べた113.200gのEMC/DEC混合物を、15.097gのFECおよび22.638gのプロピレンカーボネートと混合することにより電解質組成物を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥し、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。9.0046gの混合物を0.1094gのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI、Nippon Shokubai Co.,LTD,Japan)、0.5501gのDFEA、および1.3602gのLiPF6と混合した。材料を穏やかに撹拌して成分を溶解させ、最終的な実施例2の電解質組成物を調製した。
【0114】
比較例Bについては、電解質組成物は、実施例1の記載と同じであるが次の相違点を有する手順を使用して調製した。窒素をパージしたドライボックス中で、実施例1で述べた113.200gのEMC/DEC混合物を、15.097gのFECおよび22.638gのプロピレンカーボネートと混合することにより電解質を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥し、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。
【0115】
9.0033gの混合物を0.1059gのリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI、Nippon Shokubai Co.,LTD,Japan)および1.3600gのLiPF6と混合した。材料を穏やかに撹拌して成分を溶解させ、最終的な比較例Bの電解質組成物を調製した。
【0116】
実施例3については、電解質組成物は、実施例1の記載と同じであるが次の相違点を有する手順を使用して調製した。窒素をパージしたドライボックス中で、実施例1で述べた113.200gのEMC/DEC混合物を、15.097gのFECおよび22.638gのプロピレンカーボネートと混合することにより電解質を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥し、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。9.0072gの混合物を0.5402gのDFEAおよび1.3606gのLiPF6(BASF,Independence,OH)と混合した。材料を穏やかに撹拌して成分を溶解させ、最終的な実施例3の電解質組成物を調製した。
【0117】
実施例4については、電解質組成物は、実施例1の記載と同じであるが次の相違点を有する手順を使用して調製した。窒素をパージしたドライボックス中で、27.698gのジエチルカーボネートと72.302gのエチルメチルカーボネートとを混合した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥し、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。窒素をパージしたドライボックス中で、56.566gの上述した混合物を7.553gのFECおよび11.317gのプロピレンカーボネートと混合することにより電解質を調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥し、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。9.0030gの混合物を0.5489gの2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート(DFEMC)および1.3600gのLiPF6と混合した。材料を穏やかに撹拌して成分を溶解させ、最終的な実施例4の電解質組成物を調製した。
【0118】
比較例Cについては、電解質組成物は、2,2-ジフルオロエチルメチルカーボネート(DFEMC)を添加しなかったことを除いては実施例4に記載のものと同じ手順を使用して調製した。そのため、実施例4に記載の9.0525gのジエチルカーボネート/エチルメチルカーボネート混合物を、1.2077gのFECおよび1.8134gのプロピレンカーボネートと混合した。5.9985gのこの混合物を0.9062gのLiPF6と混合した。
【0119】
実施例5については、実施例1の記載と同じであるが次の相違点を有する手順を使用した。窒素をパージしたドライボックスの中で、27.698gのジエチルカーボネートと72.302gのエチルメチルカーボネートとを混合した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥し、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。電解質は、窒素をパージしたドライボックスの中で、上述した56.566gの混合物を7.553gのフルオロエチレンカーボネート(FEC,BASF,Independence,OH)および11.317gのプロピレンカーボネート(BASF,Independence,OH)を混合することにより調製した。モレキュラーシーブ(3A)を添加し、混合物を1ppm未満の水まで乾燥し、0.25ミクロンのPTFEシリンジフィルターを通して濾過した。9.0003gの混合物を0.5444gのDFEAおよび1.3602gのLiPF6(BASF,Independence,OH)と混合した。材料を穏やかに撹拌して成分を溶解させ、最終的な実施例5の電解質組成物を調製した。
【0120】
パウチセル
パウチセルは、Pred Materials(New York,N.Y.)から購入した。これは、NMC532カソードと黒鉛アノードとを含む200mAhのセルであった。
【0121】
使用の前に、パウチセルをドライボックスの前室の中で、真空下80℃で一晩乾燥させた。約900μLの目的の電解質組成物を底部から注入し、底部の端を真空シーラーで密封した。各実施例および比較例について、同じ電解質組成物を用いて2つのパウチセルを作製した。
【0122】
2つの異なるロットのパウチセルを使用した。名目上は同じであるものの、2つの異なるロットのパウチセルは同じ条件下で異なる電気化学的性能を与えるようである。比較の目的で、電気化学的な結果は同じロットのパウチセルについて比較する。以降の表2は1ロットのパウチセルについての結果を表し、表3は2番目のロットについての結果を表す。
【0123】
パウチセルの評価手順
セルを、フォームパッドを取り付けたアルミニウム板を通して電極に66kPaの圧力を加える固定具の中に配置した。セルを環境チャンバー(モデルBTU-433、Espec North America,Hudsonville,Michigan)の中に保持し、形成手順(25℃で)および高温サイクル(45℃で)について電池テスター(Series 4000、Maccor,Tulsa,OK)を使用して試験した。次の手順では、セルがNMC1g当たり170mAhの容量を持つと仮定して、Cレートの電流を決定した。そのため、セル内のNMC1g当たりそれぞれ8.5、42.5、および170mAの電流を使用して、テスターに0.05C、0.25C、および1.0Cの電流をかけた。
【0124】
以下のサイクル手順を用いてパウチセルをコンディショニングした。最初のサイクルでは、セルを0.25Cで36分間充電した。これは約15%の充電状態に相当する。引き続き、これを開回路電圧で4時間休止させた。最初の充電は、0.25Cの定電流(CC)を使用して4.35Vまで継続した。電流が0.05C未満に低下する(または先細になる)まで、セルを4.35Vで定電圧(CV)に保持した。引き続き、これを0.5Cで3.0VまでCC放電した。
【0125】
2回目のサイクルについては、セルを0.2Cの定電流(CC充電)で4.35Vまで充電し、引き続き電流が0.05C未満に低下するまで4.35VでCV電圧保持工程を行った。引き続き、これを0.2Cで3.0VまでCC放電した。このサイクルをセルの容量のチェックとして使用した。
【0126】
1Cで4.35VまでのCC充電と、電流を0.05Cまで漸減させるCV定電圧工程と、それに続く1.0Cでの3.0Vまでの放電サイクルとからなる1C-CCCVプロトコルを使用してさらに10回サイクルを行った。
【0127】
以下に記載の25℃での形成サイクルおよび45℃でのサイクルの実施では、セルは10分間の休止及びその後の各充電及び各放電工程も有していた。形成中およびサイクル中にセルに圧力(66kPa)をかけ、セルを脱気し、最終の放電サイクル後に再密封した。
【0128】
サイクルプロトコル
セルを45℃の環境チャンバーの中に入れ、サイクルを行った:1Cでの4.35VまでのCC充電+0.05CまでのCV充電、および1Cでの3.0VまでのCC放電。
【0129】
実施例1~3ならびに比較例AおよびBの結果を表2に示し、実施例4および比較例Cの結果を表3に示す。表中、80%の容量維持率までのサイクル寿命は、45℃でサイクル中に得られる最大容量の80%に到達するまでに必要とされるサイクル数である。
【0130】
【0131】
表2の結果は、本明細書に開示の電解質成分を電解質組成物中に入れることの有利な効果を示している。5重量%のDFEAを含む実施例1は、同じ溶媒混合物(同じ溶媒比で)および同じ添加剤を含むがDFEAを含まない比較例Aと比較して、80%容量までの改善されたサイクル寿命を示す。したがって、DFEAの効果は、電気化学セルのサイクル寿命性能を大幅に改善することである。
【0132】
実施例2および比較例Bは、DFEAありおよびなしでの、セルの性能に対するLiFSIの影響を示している。いずれの場合も、これら2つの実施例は、DFEAおよび/またはLiFSIを含まない比較例Aと比較して非常に著しく優れたサイクル寿命性能を示す。
【0133】
【0134】
実施例4は、ジフルオロエチルメチルカーボネート(DFEMC)を含有する電解質が、DFEMC成分を含有しない比較例Cと比較してサイクル寿命および容量維持率(10サイクル時点)の両方において改善を示すことを示している。実施例5は、同じ溶媒混合物を含むがDFEAを含まない比較例Cと比較して、ジフルオロエチルアセテート(DFEA)を含有する電解質組成物が10サイクルの時点でクーロン効率(充電容量に対する放電容量の比率、これは、少なくとも一部には、サイクル可能なLiの損失および電解質の劣化の指標である)の改善を示すことを示している。