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特許7005611コロナウイルスに関連した感染症の治療のための抗ウイルス組成物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-27
(54)【発明の名称】コロナウイルスに関連した感染症の治療のための抗ウイルス組成物
(51)【国際特許分類】
   A61K 31/352 20060101AFI20220114BHJP
   A61K 31/4375 20060101ALI20220114BHJP
   A61K 31/35 20060101ALI20220114BHJP
   A61K 31/7056 20060101ALI20220114BHJP
   A61P 31/14 20060101ALI20220114BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220114BHJP
   A61K 45/00 20060101ALI20220114BHJP
   A61K 38/21 20060101ALI20220114BHJP
   A61K 9/72 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
A61K31/352
A61K31/4375
A61K31/35
A61K31/7056
A61P31/14
A61P43/00 121
A61K45/00
A61K38/21
A61K9/72
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019521029
(86)(22)【出願日】2017-10-20
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2019-12-12
(86)【国際出願番号】 FR2017052889
(87)【国際公開番号】W WO2018073549
(87)【国際公開日】2018-04-26
【審査請求日】2020-10-20
(31)【優先権主張番号】1660223
(32)【優先日】2016-10-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】FR
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】503161615
【氏名又は名称】ウニベルシテ クロード ベルナール リヨン 1
(73)【特許権者】
【識別番号】507241492
【氏名又は名称】アンスティトゥート・ナシオナル・ドゥ・ラ・サンテ・エ・ドゥ・ラ・ルシャルシュ・メディカル・(インセルム)
(73)【特許権者】
【識別番号】506316557
【氏名又は名称】サントル ナショナル ドゥ ラ ルシェルシュ シアンティフィック
(74)【代理人】
【識別番号】100108453
【弁理士】
【氏名又は名称】村山 靖彦
(74)【代理人】
【識別番号】100110364
【弁理士】
【氏名又は名称】実広 信哉
(74)【代理人】
【識別番号】100133400
【弁理士】
【氏名又は名称】阿部 達彦
(72)【発明者】
【氏名】マニュエル・ローザ-カラトラヴァ
(72)【発明者】
【氏名】オリヴィエ・テリエ
(72)【発明者】
【氏名】アナイス・プルースト
(72)【発明者】
【氏名】ヴァンサン・ムール
【審査官】吉川 阿佳里
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第101108200(CN,A)
【文献】国際公開第2016/146836(WO,A2)
【文献】米国特許第03995027(US,A)
【文献】米国特許出願公開第2013/0072513(US,A1)
【文献】特表2010-510171(JP,A)
【文献】特表2006-500324(JP,A)
【文献】特表2004-505046(JP,A)
【文献】Bioorg. Med. Chem.,2010年,Vol. 18,p. 7940-7947
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 31/00-31/80
A61P 1/00-43/00
A61K 9/00-9/72
A61K 45/00-45/08
A61K 38/00-38/58
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
MERS-CoV(中東呼吸器症候群)コロナウイルス感染症の予防及び/又は治療におけるその使用のための医薬又は獣医学用組成物であって、前記組成物が、適した医薬賦形剤中にアピゲニンを含むことを特徴とする、医薬又は獣医学用組成物。
【請求項2】
前記組成物が、以下の組み合わせ:
- アピゲニン及びベルベリン;
- アピゲニン及びモネンシン;又は
- アピゲニン、ベルベリン及びモネンシン
のうちの1つを含むことを特徴とする、請求項1に記載のその使用のための医薬又は獣医学用組成物。
【請求項3】
前記組成物が、少なくとも別の抗ウイルス剤を更に含むことを特徴とする、請求項1又は2に記載のその使用のための医薬又は獣医学用組成物。
【請求項4】
他の抗ウイルス剤が、以下の化合物:プロアテーゼ阻害剤、ヘリカーゼ阻害剤及びMERS-CoVウイルス細胞侵入阻害剤から選択されることを特徴とする、請求項3に記載のその使用のための医薬又は獣医学用組成物。
【請求項5】
他の抗ウイルス剤が、以下の化合物:リバビリン、インターフェロン、又は両方の組み合わせから選択されることを特徴とする、請求項3又は4に記載のその使用のための医薬又は獣医学用組成物。
【請求項6】
前記組成物が、吸入による投与を意図する剤形であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載のその使用のための医薬又は獣医学用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト及び動物におけるMERS-CoV(中東呼吸器症候群)コロナウイルス関連ウイルス感染症の治療における使用のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
MERS-CoVコロナウイルスは、サウジアラビアで2012年に同定された新しく出現したウイルスであり、重度急性呼吸器症候群及び腎不全の原因となる。その同定以来、このウイルスは、26の国、主に中東において、1806以上の感染症例の原因となっている。それは643の死亡の原因であり、世界保健機関によれば死亡率の35.6%近くになる(WHO出典、2016年9月28日)。
【0003】
MERS-CoVは、ニドウイルス目・コロナウイルス科・ベータコロナウイルス属に属する。
【0004】
コロナウイルスはらせん対称のカプシド(capside)を有する、エンベロープウイルスである。それらのコロナウイルスは、一本鎖プラスセンスRNAゲノムを有し、鳥類及び哺乳類の細胞に感染する能力がある。この非常に広範な科のメンバーであるウイルスは、感冒(例えば、hCoV及びOC43ウイルス)、細気管支炎(例えば、NL63ウイルス)、又はSARS(重症急性呼吸器症候群コロナウイルス、SARS-CoV等)流行の間に見られたようないくつかの肺炎の形態の原因となる作用因子であることが知られている。
【0005】
それらのコロナウイルスは同じウイルスの科に属してはいるが、異なるコロナウイルスの間には、遺伝子レベル及び構造レベルの両方においても、また生物学及び抗ウイルス分子に対する感受性の観点においても大きな違いがある(Dijkman & van der Hoek 2009、de Witら、2016を参照)。
【0006】
ヒトにおけるMERS-CoVのほとんどの症例は、ヒトからヒトへの伝染に起因しうるが、ラクダは永久MERS-CoV感染中間動物宿主であり、そしてラクダはヒトにおける主な動物感染源となると思われる。
【0007】
現在のところ、世界的流行の可能性を有するこの流行呼吸器ウイルス病原体を効果的に治療する予防策又は治療策はない。
【0008】
近年、リバビリン、インターフェロン、又はミコフェノール酸の使用等、いくつかの治療経路が探求されている。残念ながら、これらの化合物のほとんどが、感染した患者において(Al-Tawfiqら、2014)、又は予防的治療の範囲内で(de Witら、2016)使用される場合に十分な効果を示していない。
【0009】
MERS-CoVに対する活性化合物を同定するための第1の戦略が、SARS-CoVと闘うのに使用される多数の公知の抗ウイルス分子の中で試験されてきた。したがって、プロテアーゼ阻害剤、ヘリカーゼ阻害剤、及び標的細胞におけるウイルス侵入阻害剤等のウイルス複製阻害剤がin vitroで試験されてきた(Adedeji & Sarafianos、2014、及びKilianski & Baker、2014を参照)。
【0010】
Dyallら(Dyallら、2014)は、SARSコロナウイルス及び/又はMERS-CoVコロナウイルスに対して活性がある抗ウイルス剤を同定する目的で異なるカテゴリーの薬物を試験した。試験した異なる薬剤クラスの中で、いくつかの抗炎症剤がSARS-CoV増殖を阻害し、これに対して、MERS-CoVはむしろ、いくつかのイオン輸送阻害剤、チューブリン阻害剤、又はアポトーシス阻害剤によって阻害されることが示された。試験した290の化合物のうち、MERS-CoVに対して抗ウイルス活性を有する33の化合物のみが細胞培養において同定された。
【0011】
しかし、多数の文献データが、SARS-CoVに対して効果のある抗ウイルス化合物は、MERS-CoVに対しては系統的に活性がなく、逆もまた同じであり、これらのウイルスはタンパク質組成物及び宿主細胞との機能的相互作用の両方の観点においても違いがあるということを示す。(Dijkman & van der Hoek 2009、Dyallら、2014)。
【0012】
新規の治療分子を同定するための代替戦略は、ウイルスが複製周期を達成するためにそれらの利点を標的とする及び/又はそれに転換する細胞シグナル伝達、バイオジェネシス及び代謝経路に対する作用を有する分子を試験することである。Jossetら(Plos One、2010)の論文に記載されているこの戦略は、特許出願FR 2 953 410、FR 3 033 701及びFR 3 049 861等に記載されている分子等、インフルエンザウイルスに対して抗ウイルス活性を有する分子を同定することを既に可能にしている。
【0013】
一方、Jossetらは、MERS-CoVが感染させる標的細胞の遺伝子発現プロファイルを誘発するという事実を強調しており、SARS-CoVによって誘発されるものとは大きく異なる。この研究によれば、グルココルチコイド阻害剤及びキナーゼ阻害剤が、MERS-CoVコロナウイルスに対する活性抗ウイルス化合物の研究に好まれる医薬クラスでありうる(Jossetら、2013)。
【0014】
現在のところ、MERS-CoVウイルス感染症と闘うための、保健機関によって認定及び/又は承認された治療分子はない又は非常に少ない。
【0015】
一方、MERS-CoVウイルスに対するワクチンは市販されていない。いくつかの候補が現在、フェーズI臨床試験で試験されている(フェーズI、健康な志願者におけるGLS-5300のオープンラベル用量範囲安全試験、全文表示は、ClinicalTrials.gov、2016年3月24日にアクセス、https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02670187?term=MERS+coronavirus&rank=7)。
【0016】
このような状況下で、MERS-CoVコロナウイルス感染症に対する新規の予防策及び/又は治療策が必要である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【文献】特許出願FR 2 953 410
【文献】特許出願FR 3 033 701
【文献】特許出願FR 3 049 861
【文献】特許出願WO 2016/013793
【文献】特許出願WO 2013/185126
【文献】米国特許出願公開第2009/0149545号
【文献】特許出願WO 2015/157223
【非特許文献】
【0018】
【文献】Jossetら、Plos One(2010)
【文献】2016年3月24日、https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT02670187?term=MERS+coronavirus&rank=7
【文献】http://apps.who.int/medicinedocs/fr/d/Js6170e/
【発明の概要】
【0019】
本発明の範囲内で、いくつかの化合物が選択され、ウイルス感染細胞試験において試験された。それによって、いくつかの化合物がMERS-CoVコロナウイルスに対して予期しない抗ウイルス効果を有していた。
【0020】
選択された化合物は、他の治療適用のために事前に記載されていた。驚くべきことに、現在、これらの化合物は、単独又は組み合わせでもMERS-CoVに対して抗ウイルス活性を有し、このコロナウイルスによる感染症の治療及び/又は予防を可能にすることを示した。
【0021】
本発明は、MERS-CoV(中東呼吸器症候群)コロナウイルス感染症の予防及び/又は治療における使用のための医薬又は獣医学用組成物であって、適した医薬賦形剤中にアピゲニン及びベルベリンから選択される少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする、医薬又は獣医学用組成物に関する。
【0022】
本発明はまた、MERS-CoV(中東呼吸器症候群)コロナウイルス感染症の予防及び/又は治療における使用のための医薬又は獣医学用組成物にも関係し、適した医薬賦形剤中にアピゲニン、ベルベリン及びモネンシンから選択される少なくとも1つの化合物、又はこれらの化合物の少なくとも2つの組み合わせを含むことを特徴とする。
【0023】
これらの医薬又は獣医学用組成物は、有利には、少なくとも別の抗ウイルス剤、及び/又は抗菌剤を更に含むことができる。本発明の目的で、別の抗ウイルス剤は、アピゲニン、ベルベリン及びモネンシンとは異なる薬剤である。また、本発明の目的で、抗菌剤は、アピゲニン、ベルベリン及びモネンシンとは異なる薬剤である。
【0024】
本発明の別の目的はまた、アピゲニン、ベルベリン及びモネンシンから選択される少なくとも1つの化合物、又はこれらの化合物の2つの組み合わせ、又はこれら3つの化合物の組み合わせと組み合わせた少なくとも1つの抗ウイルス剤を含む医薬又は獣医学用組成物である。
【0025】
特に、前記組成物は、適した医薬賦形剤中に
(a)抗ウイルス剤、
(b)アピゲニン、ベルベリン、及び両方の組み合わせから選択される化合物
から選択される、少なくとも2つの化合物を含む。
【0026】
本発明の別の目的はまた、適した医薬賦形剤中にベルベリン及びモネンシンの組み合わせを含む医薬又は獣医学用組成物である。
【0027】
本発明の特定の態様によれば、前記組成物は、吸入による投与を意図する剤形である。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】感染した無処置の対照細胞の感染力価と比較した、処置した細胞(モネンシン、ベルベリン又はアピゲニンによって)の感染後24時間のMERS-CoV感染力価の測定の図である。感染力価は、限界希釈感染技術及びReed and Muench法による算出によって得られた。 A)結果は、log10 TCID/mL(50%組織培養感染量)で表される。 B)結果は、TCID/mLで表される。
図2】MERS-Covコロナウイルスに感染したVeroE6細胞で試験した化合物(A-モネンシン、B-ベルベリン、C-アピゲニン)のIC50の測定(正規化したウイルス産生の50%を得るために必要な濃度)の図である。感染力価は、限界希釈感染技術及びReed and Muench法による算出によって得られた。
図3】MERS-Covコロナウイルスに感染したA549ヒト呼吸上皮細胞で試験した化合物(A-モネンシン、B-アピゲニン、C-ベルベリン)の抗ウイルス効果の測定の図である。感染力価は、限界希釈感染技術及びReed and Muench法による算出によって得られた。正規化したウイルス産生は、使用される化合物の濃度の関数として、細胞生存率と並行して測定される。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明は、MERS-CoV(中東呼吸器症候群)コロナウイルス感染症の予防及び/又は治療における使用のための医薬又は獣医学用組成物であって、適した医薬賦形剤中にアピゲニン及びベルベリンから選択される少なくとも1つの化合物を含むことを特徴とする、医薬又は獣医学用組成物に関する。
【0030】
本発明による組成物は、特に、MERS-CoVコロナウイルス感染症の治療における使用を意図している。
【0031】
「MERS-CoVコロナウイルス感染症」とは、ヒト又は動物の生体が、MERS-CoVコロナウイルスに感染した細胞を有するということを意味する。感染症は、特に、呼吸器試料から検出及び/若しくはウイルス滴定を行うことによって、又は血液循環MERS-CoV特異的抗体をアッセイすることによって確証できる。この特定のウイルスに感染した個体における検出は、特に分子生物学(PCR)の従来の診断方法によって行われ、診断方法は当業者に周知である。
【0032】
「治療/治療する(treatment/treating)」という用語は、ヒト又は動物の生体におけるMERS-CoVコロナウイルス感染症と闘うことを表す。本発明による少なくとも1つの組成物の投与によって、生体のウイルス感染率(感染力価)は減少し、好ましくは、ウイルスが生体から完全に消滅するであろう。「治療/治療する」という用語はまた、ウイルス感染に関連する症状(呼吸器症候群、腎不全、発熱等)を減弱することを表す。
【0033】
本発明による組成物はまた、MERS-CoV感染症の予防における使用を意図している。
【0034】
本発明の目的で、「予防/予防する(prevention/preventing)」という用語は、MERS-CoVによるヒト若しくは動物の生体における感染を阻止する、又は少なくともその発生の可能性を減少させることを表す。本発明による少なくとも1つの組成物の投与によって、前記生体のヒト又は動物の細胞は、感染に対してより許容的ではなくなり、そして前記コロナウイルスに感染する可能性が低くなる。
【0035】
本発明による組成物は、ヒトに投与することを意図した医薬型、又は非ヒト動物に投与することを意図した獣医学用型であってよい。
【0036】
動物については、MERS-CoV(中東呼吸器症候群)コロナウイルス感染症の予防及び/又は治療における使用のための獣医学用組成物は、このコロナウイルスに感染した動物に投与することを意図しているものと理解される。これらの組成物は、特に哺乳類、特に商業用動物、並びに特にラクダ科の哺乳類及び特にラクダ属(genus Camelus)を意図している。
【0037】
本発明によれば、「適した医薬賦形剤」という用語は、賦形剤(vehicles)又は添加剤(excipients)を意味し、本明細書で考慮されている感染症に対して特別な作用がない化合物である。これらの賦形剤又は添加剤は薬学的に許容され、それらが大きな有害効果を生じることなく、個体又は動物に投与されうることを意味する。
【0038】
第1の態様によれば、本発明による使用のための医薬又は獣医学用組成物は、少なくとも1つの有効量のアピゲニンを含む。
【0039】
第2の態様によれば、本発明による使用のための医薬又は獣医学用組成物は、少なくとも1つの有効量のベルベリンを含む。
【0040】
「有効量」とは、本発明の目的で、コロナウイルスの増殖及び/若しくは複製、並びに/又は生体内でウイルス感染症の発生を阻害するのに十分である活性化合物の量ということを意味する。この阻害は、本出願の実施例に示されるように、例えばウイルス力価を測定することによって、数値化することが可能である。
【0041】
本発明の好ましい態様によれば、前述の使用のための前記医薬又は獣医学用組成物は、以下の化合物:アピゲニン、ベルベリン及びモネンシンの少なくとも2つの組み合わせを含むことを特徴とする。
【0042】
前記医薬組成物は、特に、
- アピゲニン及びベルベリン、
- アピゲニン及びモネンシン、
- ベルベリン及びモネンシン、又は
- アピゲニン、ベルベリン及びモネンシン
の組み合わせの1つを含みうる。
【0043】
本発明の特定の態様によれば、本発明による使用のための医薬組成物は、上記のように化合物の組み合わせの1つ、及び適合している医薬賦形剤からなることになる。
【0044】
これらの化合物は、下記の通り、大部分がMERS-CoVコロナウイルスに対する抗ウイルス活性とは無関係の他の治療適用での使用で知られている。
【0045】
アピゲニン
アピゲニンは、フラボンファミリー(フラボノイド)に由来する天然の化合物であり、パセリ、オオバコ、ノコギリソウ、トケイソウ、又はローズマリーに見出される。
【0046】
その構造的化学式は下記に示される。
【0047】
【化1】
【0048】
この分子は、その作用機序が詳細には知られていなくても、その抗炎症特性で知られている。いくつかの研究は、アピゲニンはシトクロムP450を阻害することによって作用するということを示す。
【0049】
アピゲニンは、HVC(C型肝炎ウイルス)(Shibataら、2014)、エンテロウイルス71(Lvら、2014)又はガンマヘルペスウイルス(WO 2016/013793)等、いくつかのウイルスに対する効果を示した。
【0050】
ベルベリン
ベルベリンは、多くの植物に見出される天然のアルカロイドである。
【0051】
その構造的化学式は以下に示される。
【0052】
【化2】
【0053】
この分子は、その抗真菌特性、抗菌特性及び抗炎症特性により、アジアの薬局方で広く使用されている。
【0054】
その作用機構は、完全には解明されていないが、実質的にAMPキナーゼ(アデノシン一リン酸活性化タンパク質キナーゼ)活性化に関連していると思われる。この偏在性酵素は、細胞エネルギー恒常性に影響を与える。AMPK活性化は主に、(i)肝臓脂肪酸及びケトン体生成の刺激、(ii)コレステロール合成、トリグリセリド脂肪生成及び合成の阻害、(iii)骨格筋及び筋肉グルコース取り込みにおける脂肪酸酸化の刺激、並びに(iv)膵臓β細胞によるインスリン分泌の調節をもたらす。
【0055】
ベルベリンは、HSVウイルス(Songら、2014)に対して及びインフルエンザウイルス(Wuら、2011)に対して抗ウイルス活性を有する。
【0056】
更に、ベルベリンは、SARS-CoV(http://apps.who.int/medicinedocs/fr/d/Js6170e/及びWO 2013/185126)に対して抗ウイルス作用を有しうるが、実験データの入手は不可能である。
【0057】
モネンシン
モネンシンは、ストレプトマイセス属(genus Streptomyces)からバクテリアで単離されたポリエーテル系抗生物質である。この分子は、コクシジウム型感染症を予防するために、反芻動物飼料(商標Rumensin(登録商標)として)の添加物として非常に広く使用されている。
【0058】
その構造的化学式は以下に示される。
【0059】
【化3】
【0060】
モネンシンは、細胞内輸送を妨害することによって、イオノフォアとして作用すると思われる。
【0061】
この分子は、高濃度で使用された場合、大きな細胞毒性を有することで知られている。動物において、LD50(50%致死量)の非常に大きな違いが存在する。例えば、ウマにおいて、LD50は反芻動物の100分の1であり、いくつかの農場では非常に高い飼料交差汚染の中毒の問題を発生させる。
【0062】
増加している文献データはまた、抗マラリア活性、並びに、インフルエンザウイルスに対して(FR 3 033 701及びFR 3 049 861)及び特にコロナウイルス科のメンバーであるいくつかのウイルスを含むエンベロープウイルスに対して等、いくつかのウイルスに対する抗ウイルス活性を示す。
【0063】
米国特許出願公開第2009/0149545号は、多くの化合物、特にモネンシンのコロナウイルス感染症に対する治療作用に言及する。
【0064】
コロナウイルスに対して抗ウイルス活性を有する化合物の研究に関連する特許出願WO 2015/157223は、モネンシンはMERS-CoVに対して使用されうると報告するが、実験結果を有することなくこの結論を出すことを可能としている。
【0065】
抗ウイルス剤
本発明の目的で、用語「抗ウイルス剤」又は「抗ウイルス化合物」とは、感染した生体内でMERS-CoVコロナウイルス感染症の複製及び/又は播種を直接的に又は間接的に阻害することによって、ウイルス量(感染力価とも言われる)に対して作用する活性剤を意味する。
【0066】
「抗ウイルス活性」又は「抗ウイルス作用」とは、ウイルス又はその標的細胞に対する作用、特にウイルスの複製周期又はその感染能力及び宿主細胞において複製されることを阻害する作用を意味し、この抗ウイルス効果は、標的細胞のいくつかの遺伝子を調節することによって得ることができる。
【0067】
「標的細胞」とは、コロナウイルスに感染した細胞及び/又は感染した細胞と非常に近接しているために近いうちに感染する可能性がある細胞を意味する。
【0068】
別の活性剤との組み合わせ
本発明による使用のための組成物は、アピゲニン及び/又はベルベリンを含み、適した医薬賦形剤に加えて他の活性化合物もまた含みうるものと理解される。
【0069】
実際、アピゲニン、ベルベリン及びモネンシン、又はそれらの混合物は、治療に単独、又は少なくとも別の活性剤との組み合わせで使用することが可能である。
【0070】
それは改善されるべきこれらの化合物の活性を可能にする化合物、又は特定の活性で知られる他の活性剤であってよい。
【0071】
これらの更なる活性化合物は、特許出願WO 2015/157223に言及される薬剤の医薬クラスから、すなわち、抗菌剤、駆虫剤、神経伝達阻害剤、エストロゲン受容体阻害剤、DNA合成阻害剤及びDNA複製阻害剤、タンパク質成熟阻害剤、キナーゼ経路阻害剤、細胞骨格阻害剤、脂質代謝阻害剤、抗炎症剤、イオンチャネル阻害剤、アポトーシス阻害剤及びカテプシン阻害剤から選択されうる。
【0072】
これらの活性化合物は、特に、抗菌剤、イオンチャネル阻害剤、免疫抑制剤及び抗ウイルス剤から選択されうる。抗ウイルス剤として、アシクロビルを特に挙げることができる。
【0073】
本発明の特定の態様によれば、MERS-CoVコロナウイルス感染症の予防及び/又は治療における使用のための医薬又は獣医学用組成物は、アピゲニン及び/又はベルベリンに加えて、少なくとも別の抗ウイルス剤を含む。
【0074】
本発明の別の特定の態様によれば、MERS-CoVコロナウイルス感染症の予防及び/又は治療における使用のための医薬又は獣医学用組成物は、アピゲニン、ベルベリン及びモネンシンから選択される少なくとも2つの化合物の組み合わせに加えて、少なくとも別の抗ウイルス剤を含む。
【0075】
この抗ウイルス剤は、抗ウイルス作用が必要である投与の際に使用されるであろうものであり、この投与は「効果がある」ものと表され、この用量はおそらく当業者によって容易に決定されるものと理解される。
【0076】
本発明の目的で、抗ウイルス剤は、関連するウイルス感染症を阻害及び/又は遅らせる及び/又は予防することによって、ウイルスに対して作用する化合物を表す。
【0077】
抗ウイルス剤は、それらの作用機序によって異なるカテゴリーに分類される。これらは特に、
- DNA合成又はRNA合成に干渉又は阻止するヌクレオチド類似体、並びにDNA合成又はRNA合成(ヘリカーゼ、レプリカーゼ)に関与する酵素の阻害剤、
- 複製周期の間のウイルス成熟段階を阻害する化合物、
- 細胞膜結合、又は宿主細胞へのウイルス侵入に干渉する化合物(融合阻害剤又は侵入阻害剤)、
- 細胞内でのウイルスの分解をブロックすることによって、ウイルス侵入後の宿主細胞内でのウイルス発現を予防する薬剤、
- 他の細胞へのウイルス増殖を制限する薬剤
を含む。
【0078】
特に、プロテアーゼ阻害剤、ヘリカーゼ阻害剤、及び標的細胞へのMERS-CoVウイルス細胞侵入阻害剤等、RNAウイルスと闘うことを意図している当業者に周知の抗ウイルス剤を挙げることができる。
【0079】
当業者に周知の抗ウイルス剤の中で、より正確には、リバビリン、広域の抗ウイルススペクトルを有するグアノシンヌクレオシド類似体、並びに宿主細胞におけるウイルス複製を阻害することによって作用するインターフェロンを挙げることができる。
【0080】
本発明の特定の態様によれば、医薬又は獣医学用組成物は、他の抗ウイルス剤が、以下の化合物:リバビリン、インターフェロン、又は両方の組み合わせから選択されることを特徴とする。
【0081】
本発明の目的で、「インターフェロン("an interferon" or "the interferon")」とは、インターフェロンファミリーに属する化合物を意味し、免疫系の細胞によって分泌される糖タンパク質である。
【0082】
インターフェロンは、約15000~21000ダルトンの分子量を有する小タンパク質分子のファミリーである。α、β、及びγの3つの主要なインターフェロンクラスが同定されている。これら3つの主要なクラスは、それら自身は相同ではなく、いくつかの異なるインターフェロン分子種を集めることができる。14以上の遺伝的に異なるヒトαインターフェロンが同定されている。
【0083】
本発明による医薬又は獣医学用組成物において、使用されるインターフェロンは、実験室で合成された組換えポリペプチドであろうと理解される。
【0084】
特に、使用されるインターフェロンは、in vivo及びin vitroにおけるウイルス複製における効果を実証されている組換えインターフェロンα-2bであろう。
【0085】
そのような抗ウイルス剤は市販されており、それらの使用条件は、Le Dictionnaire Vidal等の参考書で説明されている。
【0086】
したがって、本発明による使用のための医薬組成物は、
- アピゲニン、ベルベリン及びリバビリン、
- アピゲニン、ベルベリン及びインターフェロン、
- アピゲニン、ベルベリン、インターフェロン及びリバビリン、
- アピゲニン、モネンシン及びリバビリン、
- アピゲニン、モネンシン及びインターフェロン、
- アピゲニン、モネンシン、インターフェロン及びリバビリン、
- ベルベリン、モネンシン及びリバビリン、
- ベルベリン、モネンシン及びインターフェロン、
- ベルベリン、モネンシン、インターフェロン及びリバビリン、
- アピゲニン、ベルベリン、モネンシン及びリバビリン、
- アピゲニン、ベルベリン、モネンシン及びインターフェロン、
- アピゲニン、ベルベリン、モネンシン、インターフェロン及びリバビリン
の組み合わせの1つを含みうる。
【0087】
本発明の特定の態様によれば、本発明による使用のための医薬組成物は、上記等の活性剤の組み合わせ、及び適合している医薬賦形剤からなることになる。
【0088】
医薬又は獣医学用組成物の投与方式
本発明による使用のための医薬又は獣医学用組成物は、経口、舌下、吸入、皮下、筋肉内、静脈内、経皮、点眼又は直腸内投与に適合している。
【0089】
本発明の特定の実施によれば、本発明による使用のための医薬又は獣医学用組成物は、吸入による投与を意図する剤形であることを特徴とする。
【0090】
吸入とは気道による吸収を表す。特に、ガス、微小滴又は浮遊粉末等、治療目的のためのいくつかの物質の化合物を吸収する方法である。
【0091】
経鼻及び/又は口腔による、医薬又は獣医学用組成物の吸入による投与は、当業者に周知である。
【0092】
吸入による投与の2つのタイプは、
- 組成物が粉末の形態である場合、通気による投与、及び
- 組成物がエアロゾル(懸濁液)の形態、又は例えば加圧水溶液等の溶液の形態である場合、噴霧による投与
に区別される。噴霧吸入器又は噴霧器の使用が、それによって医薬又は獣医学用組成物の投与に推奨されるであろう。
【0093】
ここで考慮される剤形は、したがって、粉末、水溶液の液滴又は加圧溶液から選択される。
【0094】
組み合わせ生成物
本発明はまた、
- 任意選択によりモネンシンの存在下で、アピゲニン及びベルベリンから選択される少なくとも1つの化合物を含む本発明による組成物、及び
- 少なくとも1つの抗ウイルス剤
を含む、ヒト又は動物におけるMERS-CoVコロナウイルス感染症の予防及び/又は治療に同時、別々又は連続的に使用するための組み合わせ生成物に関する。
【0095】
そのような組み合わせ生成物は、同時、別々又は連続的な使用の範囲内で、MERS-CoVコロナウイルス感染症の予防及び/又は治療において使用されうる。したがって、組み合わせ生成物に含まれる少なくとも2つの活性剤が、同時、別々又は連続的に投与されうる。
【0096】
前述の2つ、3つ又は4つの活性化合物の全ての組み合わせは、それぞれ組み合わせ生成物の形態であってよいものと理解され、その2つ、3つ又は4つの活性化合物は、MERS-CoVコロナウイルス感染症を予防及び/又は治療するために、同時、別々又は連続的に投与されうる。
【0097】
本発明はまた、ヒトにおけるMERS-CoVコロナウイルス感染症を予防及び/又は治療するための治療方法に関し、アピゲニン及びベルベリンから選択される化合物、又は両方の混合物の有効量が、任意選択によりモネンシンと共に、患者に投与される。
【0098】
本発明はまた、動物におけるMERS-CoVコロナウイルス感染症を予防及び/又は治療するための治療方法に関し、アピゲニン及びベルベリンから選択される化合物の有効量が、任意選択によりモネンシンと共に、動物に投与される。
【0099】
本発明はまた、任意選択によりモネンシンと共に、MERS-CoVコロナウイルス感染症の予防及び/又は治療をする医薬組成物を調製するための、アピゲニン及びベルベリンから選択される化合物の使用に関する。
【0100】
医薬又は獣医学用組成物
本発明はまた、
(a)抗ウイルス剤、並びに
(b)アピゲニン、ベルベリン、及び両方の組み合わせから選択される化合物
から選択される少なくとも2つの化合物を、適した医薬賦形剤中に含む医薬又は獣医学用組成物に関する。
【0101】
特に、抗ウイルス剤は、MERS-CoVコロナウイルス感染症と闘うことを意図している。
【0102】
ウイルス性作用因子は、特に、
- DNA合成又はRNA合成に干渉又は阻止するヌクレオチド類似体、並びにDNA合成又はRNA合成(ヘリカーゼ、レプリカーゼ)に関与する酵素の阻害剤、
- 複製周期の間のウイルス成熟段階を阻害する化合物、
- 細胞膜結合、又は宿主細胞へのウイルス侵入に干渉する化合物(融合阻害剤又は侵入阻害剤)、
- 細胞内でのウイルスの分解をブロックすることによって、ウイルス侵入後の宿主細胞内でのウイルス発現を予防する薬剤、
- 他の細胞へのウイルス増殖を制限する薬剤
から選択されうる。
【0103】
特に、プロテアーゼ阻害剤、ヘリカーゼ阻害剤、及び標的細胞へのウイルス細胞侵入阻害剤等、RNAウイルスと闘うことを意図している当業者に周知の抗ウイルス剤を挙げることができる。
【0104】
当業者に周知の抗ウイルス剤の中で、より正確には、リバビリン、広域の抗ウイルススペクトルを有するグアノシンヌクレオシド類似体、並びに宿主細胞におけるウイルス複製を阻害することによって作用するインターフェロンを挙げることができる。
【0105】
本発明の特定の態様によれば、組成物は、抗ウイルス剤として、インターフェロン、リバビリン、又は両方の組み合わせを含有する。
【0106】
本発明による医薬組成物はまた、モネンシンを含みうる。
【0107】
したがって、本発明による医薬組成物は、
- アピゲニン及びリバビリン、
- アピゲニン及びインターフェロン、
- アピゲニン、インターフェロン及びリバビリン、
- ベルベリン及びリバビリン、
- ベルベリン及びインターフェロン、
- ベルベリン、インターフェロン及びリバビリン、
- アピゲニン、ベルベリン及びリバビリン、
- アピゲニン、ベルベリン及びインターフェロン、
- アピゲニン、ベルベリン、インターフェロン及びリバビリン、
- アピゲニン、モネンシン及びリバビリン、
- アピゲニン、モネンシン及びインターフェロン、
- アピゲニン、モネンシン、インターフェロン及びリバビリン、
- ベルベリン、モネンシン及びリバビリン、
- ベルベリン、モネンシン及びインターフェロン、
- ベルベリン、モネンシン、インターフェロン及びリバビリン、
- アピゲニン、ベルベリン、モネンシン及びリバビリン、
- アピゲニン、ベルベリン、モネンシン及びインターフェロン、
- アピゲニン、ベルベリン、モネンシン、インターフェロン及びリバビリン
の組み合わせの1つを含みうる。
【0108】
本発明の特定の態様によれば、本発明による医薬又は獣医学用組成物は、上記のように活性剤の組み合わせ及び適合している医薬賦形剤からなることになる。
【0109】
特に、本発明による医薬又は獣医学用組成物は、適した医薬賦形剤中にインターフェロン、モネンシン、アピゲニン及びベルベリンの少なくとも1つの組み合わせを含むであろう。
【0110】
そのような組成物は、任意の種類の治療的使用又は予防的使用に使用されてよく、特にウイルス感染症の治療及び/又は予防に使用されるであろう。
【0111】
本発明による組成物は、ヒトに投与することを意図した医薬型、又は非ヒト動物に投与することを意図した獣医学用型であってよい。
【0112】
動物については、本発明による獣医学用組成物は、特に哺乳類、特に商業用動物、特にラクダ科の哺乳類、及び特にラクダ属を意図している。
【0113】
しかし、モネンシンはウマ属(genus Equus)に強い毒性を有し、モネンシンを有する本発明による獣医学用組成物は、ウマ属に属する哺乳類への投与を意図していないことに留意されたい。
【0114】
そのような組成物は、コロナウイルス感染症、及び特にMERS-CoVコロナウイルス感染症の治療及び/又は予防に特に使用されうる。
【0115】
本発明の特定の実施によれば、そのような組成物は吸入による投与を意図する剤形でありうる。
【0116】
ベルベリン及びモネンシンの組み合わせ
本発明はまた、適した医薬賦形剤中にベルベリン及びモネンシンの組み合わせを含む、医薬又は獣医学用組成物に関する。
【0117】
前記組成物は、任意の種類の治療的使用又は予防的使用に使用されてよく、特にウイルス感染症の治療及び/又は予防に使用されるであろう。
【0118】
ベルベリン及びモネンシンの組み合わせを含むそのような組成物は、特にコロナウイルス感染症、及び特にMERS-CoVコロナウイルスによる感染症の、治療及び/又は予防に使用されうる。
【0119】
本発明の特定の実施によれば、この組成物は、吸入による投与を意図する剤形でありうる。
【実施例
【0120】
以下に記載される実施例は、上記の化合物は、予想外にも、適度な細胞毒性条件下で、2つの異なる哺乳類細胞モデルにおいてin vitroで、MERS-CoVに対する大きな抗ウイルス活性を有するということを実証している。
【0121】
第1に、化合物は、MERS-CoV株France-UAE/1612/2013、Genbank受託番号KF745068によるVERO-E6細胞の感染に関して、文献において従来使用された濃度でin vitroで試験された。
【0122】
VERO-E6細胞は、サル腎臓上皮細胞に由来し、MERS-CoV感染症に感受性がある。それらは、文献に広く使用される研究細胞モデルの1つを作り出す。
【0123】
可能性がある抗ウイルス効果を観察するための最適な条件を得るために、感染パラメータを予め決定した。
【0124】
VERO-E6細胞を、試験した化合物の存在下又は不在下で、0.5のMOI(感染多重度)で、5%のCO2下において37℃で24時間の期間で感染させた。
【0125】
24時間のインキュベーションの後、感染した細胞の培養上清中の感染力価(log10 DITC50/mL又はDITC50/mL)を決定した。
【0126】
感染力価を、図1A(log10 TCID50/mL)及び図1B(TCID50/mL)に、TCID50/mL(50%組織培養感染量)で示す。それらは限界希釈感染技術及びReed and Muench法による算出によって得た。
【0127】
細胞毒性試験及びコロナウイルス定量化試験を24時間のインキュベーションの後に行う。異なる化合物の細胞毒性を、生存率試験(MTS試験、Promega社)によって、非感染細胞のプレートにおける各試験で決定する。この試験は、細胞の代謝活性の測定に基づき、この試験は基質(MTSテトラゾリウム)を培地に可溶性の生成物(ホルマザン)に変換し、490nmで測定したホルマザンの吸光度は生細胞数を比例して反映する。各ウェルの吸光度の対照細胞(化合物によって処置されていない)のウェルの平均吸光度に対する比を算出し、スキーム中で細胞生存率指数(相対細胞生存率)として示す。
【0128】
VERO-E6細胞で作られた感染力価(TCID50/mL)を決定することによって、in vitroウイルス産生に対する効果を測定し、力価をReed and Muench技術によって算出する。各条件下の感染力価の比は、対照条件下(処置なし)で測定した感染力価の関数として表した。
【0129】
結果を、図1A(感染力価をlog10 TCID50/mLで表す)及び図1B(感染力価をTCID50/mLで表す)に記載する。
【0130】
試験した化合物の存在下において、実験条件下で測定した感染力価は、感染しているが処置していない細胞の対照条件と比較すると、かなり減少している。
【0131】
実際、モネンシン(6μM)、ベルベリン(12.5μM)及びアピゲニン(15μM)は、対照に対する感染力価のそれぞれ97.8%、78.4%及び97.8%の減少を可能にする(図1を参照)。
【0132】
これらの結果から、有効な濃度範囲を決定するために、そしてIC50(最大半量阻害濃度)、すなわち50%ウイルス産生阻害を得るために必要な量を決定するために、同じ実験条件下で、VeroE6細胞への3つの化合物のそれぞれのより広い濃度範囲を試験した(図2参照)。
【0133】
これら3つの化合物のIC50値を、
- モネンシンは1.25μM、
- ベルベリンは3.8μM、及び
- アピゲニンは1.7μM
と、決定することが可能になった。
【0134】
これらIC50値は、これら化合物の感染領域外への適用で知られる通常の濃度と比較すると比較的低い。これらの値はまた、細胞毒性濃度(CC50)からはかなり離れている。
【0135】
別の優れた細胞モデルであるヒト呼吸上皮細胞株A549中のこれら3つの化合物によってもまた、同様の効果を得た(図3)。
(参考文献)
図1
図2
図3