(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】乗用車のフロント領域のバンパ組立体
(51)【国際特許分類】
B60R 19/54 20060101AFI20220114BHJP
B60R 19/16 20060101ALI20220114BHJP
【FI】
B60R19/54
B60R19/16
(21)【出願番号】P 2019534297
(86)(22)【出願日】2017-12-21
(86)【国際出願番号】 EP2017084001
(87)【国際公開番号】W WO2018115230
(87)【国際公開日】2018-06-28
【審査請求日】2020-06-22
(31)【優先権主張番号】102016226093.6
(32)【優先日】2016-12-22
(33)【優先権主張国・地域又は機関】DE
(73)【特許権者】
【識別番号】398037767
【氏名又は名称】バイエリシエ・モトーレンウエルケ・アクチエンゲゼルシヤフト
(74)【代理人】
【識別番号】100069556
【氏名又は名称】江崎 光史
(74)【代理人】
【識別番号】100111486
【氏名又は名称】鍛冶澤 實
(74)【代理人】
【識別番号】100191835
【氏名又は名称】中村 真介
(72)【発明者】
【氏名】グロース・マルティン
(72)【発明者】
【氏名】フィヒティンガー・ゲルハルト
(72)【発明者】
【氏名】ノヴィネ・マズダク
(72)【発明者】
【氏名】ルードルフ・ティム
【審査官】塚本 英隆
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-039942(JP,A)
【文献】特開2007-204017(JP,A)
【文献】米国特許第04542925(US,A)
【文献】特開2005-178682(JP,A)
【文献】特開2005-324654(JP,A)
【文献】特開2002-274298(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60R 19/54
B60R 19/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
上側フロントサイドメンバと上側クロスメンバとを備えた上側ロードパス部を有するとともに、下側フロントサイドメンバと下側クロスメンバとを備えた下側ロードパス部を有する乗用車のフロント領域のバンパ組立体において、
下側クロスメンバ(22)は、その前面部(23)に、その幅の少なくとも一部に少なくとも一つの弾性要素(30)を備え
、
弾性要素(30)は、下側クロスメンバ(22)の略全幅に亘って設けられ、
弾性要素(30)のバネ剛性は、下側クロスメンバ(22)の幅に亘って少なくとも部分的に異なることを特徴とするバンパ組立体。
【請求項2】
請求項
1に記載のバンパ組立体において、
弾性要素(30)は、断面において、すなわち概ね乗用車のXZ面において波形に形成されていることを特徴とするバンパ組立体。
【請求項3】
請求項
2に記載のバンパ組立体において、
弾性要素(30)は、正弦曲線に似たカーブを有した略完全な一つの波を有していることを特徴とするバンパ組立体。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれかに記載のバンパ組立体において、
弾性要素(30)は、略乗用車の走行方向(FR)に揃えられた少なくとも一つの補強要素(36)を備えていることを特徴とするバンパ組立体。
【請求項5】
請求項
4に記載のバンパ組立体において、
少なくとも一つの補強要素(36)が平らに形成され、略乗用車のXZ面内に延在し、弾性要素(30)の波の弧の中に挿入されていることを特徴とするバンパ組立体。
【請求項6】
請求項1から
5のいずれかに記載のバンパ組立体において、
弾性要素(30)は、プレストレスが加えられた状態でクロスメンバ(22)上に配置され、衝突時に弾性要素(30)のプレストレスを解放することで弾性要素(30)が走行方向(FR)に向いた力を生成するようにする装置(42,44)が設けられていることを特徴とするバンパ組立体。
【請求項7】
請求項
6に記載のバンパ組立体において、
前記装置(42)は、プレストレスが加えられた状態にある弾性要素(30)においてクロスメンバ(22)と形状結合している部分(44)を備え、走行方向(FR)とは逆方向に力が加わるときに形状結合が解除可能とされて弾性要素(30)がそのプレストレスを解放できることを特徴とするバンパ組立体。
【請求項8】
請求項1から
7のいずれかに記載のバンパ組立体を有する乗用車。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、請求項1または10の前提部分に記載の、乗用車のフロント領域のバンパ組立体ならびにバンパ組立体を有する乗用車に関する。
【背景技術】
【0002】
これに類する一般的なバンパ組立体は、例えば特許文献1から公知である。この公知のバンパ組立体は、上側ロードパス部と下側ロードパス部を備えている。上側ロードパス部は、上側フロントサイドメンバと上側クロスメンバから形成されており、乗用車が衝突した際にエネルギーの大半を散逸させる役割をする。下側ロードパス部は、下側フロントサイドメンバと下側クロスメンバとから形成されている。下側クロスメンバは、よく“ロアスティフナ”とか“ロアバンパスティフナ”と呼ばれている。両方のクロスメンバは、バンパカバーによって覆われている。下側クロスメンバは、特に事故時に歩行者に力が加わった場合にその下側の領域においてバンパカバーを補強する役割を果たす。歩行者の下腿部にバンパカバーがぶつかると、下側クロスメンバは、歩行者がその下腿部の領域で相応の力で加速されることで乗用車の前側ボンネット上へと定められたとおりに運ばれるようにする。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【0004】
本発明の課題は、公知のバンパ組立体をさらに改良することである。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
この課題は、請求項1の特徴部を有したバンパ組立体によって解決される。請求項10は、本発明のバンパ組立体を有する乗用車に関する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
請求項1に係る発明の中心的な考え方は、下側ロードパス部に、エネルギーを吸収する要素に加えて或いはエネルギーを吸収する要素に代えて、弾性要素が設けられているという点である。本発明により設けられたこの弾性要素は、乗用車が歩行者に衝突した場合に、歩行者をできる限り乗用車のボンネット部の方に退けるような働きをする。衝突時には、歩行者の上半身はボンネット部の方へと変位させられる。この斜めになった上半身に対して、歩行者の脚部、特に下腿部は、同程度では追従していかない。この弾性要素を用いることで、本発明により一種の“リバウンド”が生成され、つまり一種の“反発”が生じ、それにより、歩行者の下腿部が乗用車の走行方向に向かって力を受け、その結果、下腿部は、相応に上半身が斜めになるのに“従わせられる”ようになる。
【0007】
ここで本発明に本質的なことは、衝突によって生じる弾性要素の変形が少なくとも殆ど弾性変形領域にあって塑性変形の割合が極めて少なくなるように弾性要素の材料が選択されるか、弾性要素がその幾何学的形状に関して寸法が決められているかの少なくともいずれかとされることである。従って、力が働くと先ず弾性要素が弾性的に変形して、その後、力が導入される際に弾性要素内にもたらされた変形エネルギーを解放しつつ弾性要素が衝突前に有していた出発状態へと再び戻っていくということが実現される。換言すれば、弾性要素は、理想的には弾性的な特性のみを有する構成要素であって、そのことにより、公知のエネルギー散逸型の、“リバウンド”には全く寄与しない或いは殆ど目ぼしい寄与をしない要素とはそもそも異なる構成要素である。
【0008】
本発明の好ましい実施形態によれば、弾性要素は、下側クロスメンバの略全幅に亘って拡がっている。これにより、乗用車がバンパ組立体のどの場所で歩行者にぶつかるかに拠らず、弾性要素の有利な機能が得られる。弾性要素は、一体で一続きの弾性要素であるか或いは多数の弾性要素であるとされてよい。
【0009】
本発明の有利な発展形態では、弾性要素(或いは多数の弾性要素)のバネ剛性は、車両横手方向に不均一である。これにより、“リバウンド”を衝突位置に合わせ込むことができる。通常は、車両中央の領域では弾性要素は比較的低い弾発特性しか必要としない。それは、クロスメンバが、この領域において下側フロントサイドメンバへの自身の二つの接続位置から最も離れていて、そのために比較的良好な弾発特性を初めから備えているからである。同様に、下側フロントサイドメンバへの接続領域では、弾性要素の弾発特性が比較的高いことが有利である。
【0010】
本発明の好ましい一形態は、弾性要素が断面において一つの“波”の形を有しているというものである。“波”の概念は、正弦曲線に似たカーブを持つ全ての断面を包含する。もちろん、類似の断面形状、例えば、ジグザグ状、アコーディオン状、或いは蛇腹状の断面などがこの中に含まれている。このとき、それは“単一の”波(360度に亘る一つの正弦曲線に対応する。)でもあり得るし、或いはその一部でもあり得るし、或いは車両長手方向に順番に並んだ多数の波でもあり得る。製造技術的に有利な方法では、弾性要素は、一体で形成されていてもよい。
【0011】
衝突時に波状の弾性要素は押し縮められる。換言すれば、弾性要素の波の山および/または波の谷に接する接線(Tangente)を用いて言い表すと:衝突時には接線の傾きの絶対値が増加する。極端な場合ではこのとき、隣接する波面が互いに重なり合うこともある。力が働かなくなったら、波状の弾性要素は、それまでに導入された変形エネルギーを解放しながら再び膨張する。
【0012】
本発明の形態では、弾性要素は、正弦曲線の場合であれば大体360度を有するような(略)完全な波の形を形成するものとされている。これにより、弾性要素の剛性を同時に確保しながら十分な変形長さが利用できる。
【0013】
弾性要素の剛性は、本発明の発展形態では、一つまたは複数の補強要素を入れることで調整することができる。少なくとも一つの補強要素は、好ましくは平らに形成されており、略乗用車のXZ面内に延在している。“XZ面”という概念は、下側クロスメンバがその側方部分において湾曲して延びていることによる、これからやや外れた向きをも包含するものである。
【0014】
弾性要素の弾発を高めるために、本発明の形態では、弾性要素は、プレストレスが加えられた状態でクロスメンバに配置されており、衝突時に蓄積されたエネルギーを解放する装置が設けられているものとされている。これにより、弾性要素の有利な作用が強められる。
【0015】
この装置は、例えば電磁気的に解放位置に移動可能なロックピンなどを用いて、例えば然るべき大きさの力および/または加速が作用する際にセンサ制御されて弾性エネルギーを解放することができる。
【0016】
本発明の有利な形態では、弾性要素は、走行方向とは反対の側に、形状結合により下側クロスメンバに接続する装置を備えている。この形状結合は、弾性要素を取り付けるとき、好ましくは弾性要素にプレストレスを与えるとき或いは与えた後に形成することができる。衝突時には形状結合が解除され、当初に導入されたエネルギーが解放される。上述の実施形態は、極めて低コストでしかも特に高い動作確実性に特徴がある。
【0017】
請求項10は、本発明のバンパ組立体を有する乗用車に関する。
【0018】
本願に関連して用いられるあらゆる位置の記載(例えば、前側、後側など)は、前進中の乗用車の走行方向を基準とする。
【0019】
本発明の可能な実施例を図に示すとともに、以下に詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】従来技術によるバンパ組立体を縦断面で概略的に示す図である。
【
図5】本発明を上面視で概略的に示す他の図である。
【
図8】本発明の他の実施例の概略的な斜視図である。
【
図9】本発明の他の実施例の概略的な斜視図である。
【
図10】本発明の他の実施例の概略的な斜視図である。
【
図16】弾性要素と付属のフロントカバーの概略的な断面図である。
【
図18a】下側クロスメンバにおける弾性要素の概略的な断面図であって、弾性要素の異なる状況を示す図である。
【
図18b】下側クロスメンバにおける弾性要素の概略的な断面図であって、弾性要素の異なる状況を示す図である。
【
図18c】下側クロスメンバにおける弾性要素の概略的な断面図であって、弾性要素の異なる状況を示す図である。
【
図18d】下側クロスメンバにおける弾性要素の概略的な断面図であって、弾性要素の異なる状況を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
図には、走行方向がFRで示されており、方位X(車両長手方向)、Y(車両横手方向)およびZ(車両高さ軸線方向)による座標系が書き込まれている。X方向は、走行方向FRに平行に走っている。
【0022】
図1は、従来技術によるバンパ組立体102を有した乗用車のフロント領域を示す。公知のバンパ組立体102は、上側および下側クロスメンバ112ないし122を有した上側および下側ロードパス部110ないし120を備えている。このバンパ組立体102は、フロントカバー104により覆われている。上側クロスメンバ112の前面部には、エネルギーを散逸させる吸収フォームからなる被覆部材114が設けられている。下側クロスメンバ122もまた、エネルギーを吸収する被覆部材ないしインサート124を前方に備えている。この部材はこのとき、例えば発泡材料とすることができるか或いは塑性変形可能なリブ構造を有する被覆部材とすることができる。
【0023】
図1には、例えばいわゆるFLEX-PLI脚部インパクタ(“Flexible Pedestrian Legform Impactor”)といった脚部インパクタBを用いたときの、乗用車が歩行者に衝突した状況が模擬的に示されている。この脚部インパクタBは、走行方向FRを横切る視線方向により歩行者を象徴的に表すものである。脚部インパクタBには、内側靭帯(Innenband)MCLならびに下腿部Tと大腿部Fの間の開き角W1が示されている。矢印R1は、下側クロスメンバ112の部分のフロントカバー102に当たった後の下腿部Tの変位の程度を表している。エネルギーを吸収する被覆部材124の塑性変形のゆえに、下腿部Tは、大腿部Fのようには同じ回転方向にさほど変位しない。そのために、膝に比較的大きな開き角W1が生じ、その結果、内側靭帯MCLが比較的大きく引き伸ばされている。
【0024】
図2は、上側および下側ロードパス部10ないし20を有するとともに上側および下側クロスメンバ12ないし22を有するバンパ組立体2を有する本発明の乗用車フロント領域を示す。バンパ組立体2は、フロントカバー4により覆われている。上側クロスメンバ12の前面部には、エネルギーを散逸する吸収フォームからなる被覆部材14が設けられている。本発明により、下側クロスメンバ22の前面部には弾性要素30が配置されている。
【0025】
図2においても、脚部インパクタBを用いたときの、乗用車が歩行者に衝突したシミュレーションされた状況が示されている。ただし、
図1による衝突状況とは違って、本発明の弾性要素30を有する下側クロスメンバ22は、走行方向FRの力を発生させ、これが下腿部Tを前方に向かって(走行方向FRへと)変位させるように作用する。この変位が矢印R2によって象徴的に表されている。本発明のバンパ組立体2の増強された“リバウンド”により、下腿部Tは、脚部インパクタBに模造されていない歩行者の上半身の変位であって、実際の衝突時における乗用車のボンネット部の方への歩行者の上半身の変位に追従する。その結果、開き角W2は、従来技術のバンパ組立体102における同様の衝突状況の場合に比べて小さく、内側靭帯MCLの伸びがさらに小さい。
【0026】
図3は、乗用車のフロント領域への本発明のバンパ組立体2の接続を示す。ここでは、乗用車の右側前方の領域だけが示されている。
図2と同じ構成部材は、同じ符号が付されている。
【0027】
上側ロードパス部10は、上側フロントサイドメンバ16(このうち右側の上側フロントサイドメンバ16だけが図示されている。)と上側クロスメンバ12とから形成されている。下側ロードパス部20は、下側フロントサイドメンバ26(このうち右側の下側フロントサイドメンバ26だけが図示されている。)と下側クロスメンバ22とから形成されている。下側クロスメンバ22の前面部には、本発明の弾性要素30が設けられており、これが下側クロスメンバ22の全幅に亘って拡がっている(
図3には、車両中央にまで達するクロスメンバ22の右半分だけが図示されている。)。弾性要素30は、クロスメンバ22の全幅に沿って設けられており、従って、下側クロスメンバ22の中央の部分22mにだけでなく、走行方向FRに沿ってやや後方に屈曲した側方の部分22sにも設けられている。
【0028】
弾性要素30は、断面において波形とされており、(走行方向FRを基準にすると)近似的に“横たわったS”の形をしている。その前面部には、水平に立設したウェブ32がある。弾性要素30は、組み立て状態にて略乗用車のYZ面内に延在するフランジ部34を背面側に備え、これが下側クロスメンバ22の前面部23に接続する役割を担う。
【0029】
図4は、下側クロスメンバ22を上面視して概略的に図示している。下側クロスメンバ22の前面部23には、弾性要素30が設けられており、これが下側クロスメンバ22の全幅に亘って拡がっている。下側クロスメンバ22の幅に亘って弾性要素30の弾性特性が変更可能であることが分かるように、
図4中の“弾性要素30”は、部分的に互いに異なる間隔で配置されているか或いは異なるバネの種類を有することができるかの少なくともいずれかである複数の個別の弾性要素30aとして図示されている。下側クロスメンバ22の下側フロントサイドメンバ26への接続は、変形要素28(いわゆる“デフォボックス(Defoboxen)”)を介して行なわれ、これが衝突時に塑性変形により運動エネルギーを散逸させる。
【0030】
図5は、下側クロスメンバ22の幅に沿って弾性要素30の弾性特性を変更する手段を再度明らかにしている。例えば、弾性要素30は、その中央の部分30mにおいて、その側方の部分30sにおけるよりも低いバネ定数を有している。この構成は、例えば、下側クロスメンバ22がその中央の部分22mにおいて、下側フロントサイドメンバ26との接続箇所に隣接する側方の部分22sにおけるよりもより高い弾性を有する場合に選択することができる。
【0031】
図6および
図7は、不図示の下側クロスメンバ22の幅に亘って行き届いている弾性要素30の実施例を示し、
図6では弾性要素30の右側半分だけが図示されている。弾性要素30は、断面において、360度の角度範囲に亘る正弦曲線のカーブに似た略完全な波を持つ波形状とされている。
図3に関連して既に説明したように、弾性要素30の断面を分かりやすいように“横たわったS”と言い換えることもできよう。弾性要素30の剛性および/またはバネの種類は、有利にはリブ状の補強要素36を設けることによって調整することができる。補強要素36は、平らに形成されており、弾性要素30の中央の部分30mでは概ね乗用車のXZ面に平行に延びている。側方の部分30s(ここでは、右側の側方部分30sのみが図示されている。)は、補強要素32の向きが若干XZ面からそれており、クロスメンバ22の、側方で外側に位置する部分22sにおけるその湾曲に合わせた向きになっている。
【0032】
特に
図7の拡大図から分かるように、補強要素36は、弾性要素30の異なる位置に配置することができる。
図7ではこのとき、補強要素36が“波の弧”、すなわち“波の山”および/または“波の谷”、および/またはフランジ部34を補強できることが原理的に明示されている。
図7の概略図とは違って、補強要素36が弾性要素30の波の山ないし波の谷だけを埋めるようにしてもよい。
【0033】
補強要素36は、弾性要素30の幅に沿って互いに同じ間隔か異なる間隔で配置することができる。
図6ではしたがって、フランジ部を補強する等間隔で配置された補強要素36が図示されている。補強要素36(フランジ部34を補強するためのもの)が弾性要素30の全幅に沿って存在する一方で、補強要素36(“波の谷”を補強するためのもの)は、弾性要素30の側方の部分30sと中央の部分30mにのみ設けられている。
【0034】
図8乃至
図10は、弾性要素30の異なる実施形態を示している。全ての実施形態において、弾性要素30の波形状の断面が共通している。ただし、個々の弾性要素30は、異なる“高さの”波形の断面(“振幅A”)に加えて異なる壁厚Dも有している。弾性要素30には、
図9および
図10のように補強要素36が設けられており、これがそれぞれ弾性要素30のフランジ部34に付いている。
【0035】
図11乃至
図15は、弾性要素30の様々な実施形態の一部を概略的に示している。
図8乃至
図10との関連で既に述べたように、個々の弾性要素30は、異なる“高さの”波形の断面(“振幅”A)に加えて、異なる壁厚Dも備えている。
図12および
図14の弾性要素30はこのとき、様々に形成された補強要素36が設けられている。
図11乃至
図14の弾性要素30がいずれも完全な波を概ね一つだけ備えている一方で、
図15には、順番に並んだ複数の“波”30wを持つ弾性要素30が概略的に示されている。
【0036】
図16と
図17には、異なる構成による下側ロードパス部20を覆うフロントカバー4と弾性要素30との間の協働した作用が例示的に示されている。“先が丸く”延びたデザインの
図16のフロントカバー4の場合、弾性要素30は、フロントカバー4の前方領域にまで引き込まれる。こういったことは、“先が鋭く”延びたデザインの
図17のフロントカバー4では逆に不可能である:この場合には、弾性要素30は、そのバネ形状をもってしてはフロントカバー4の前側のエッジにまで引き込まれることがない。それでも、できるだけ歩行者との衝突開始時点から衝突エネルギーが弾性要素30に加えられるようにウェブ32が設けられており、これがX方向の空いた隙間を短絡するので、衝突に由来するぶつかったときのエネルギーが早期から適時に弾性要素30に導入できるようになる。これにより、“リバウンド”は明らかに改善する。
【0037】
脚部インパクタとの衝突時ないし実際の事故発生時における歩行者の脚部との衝突時には、フロントカバー4に比較的狭い領域に(ポイントライクに)力が加わり、フロントカバー4は、この力をその背後に配置された弾性要素30に伝える。弾性要素30の前面部におけるウェブ32の構成に応じて、車両横手方向Yにおける負荷分布を調整することができる。乗用車の幅の大半に亘って拡がったウェブ32の場合、これが一種の補強リブとして作用し、これによりポイントライクに入り込んだエネルギーが広い面積で弾性要素30に導かれる。換言すれば、車両横手方向Yについて見ると、弾性要素30の大半にエネルギーがもたらされるわけだが、これはバネ剛性が増大することに等しい。ウェブ32が車両横手方向Yにおいて途切れていると、ウェブ32の個々の部分の幅に応じてバネ剛性がそれほどには増加しないか、目立っては増えない。
【0038】
図18a乃至18dは、プレストレスが加えられた状態で下側クロスメンバ22に取り付けることのできる弾性要素30を示している。この弾性要素30は、衝突時に予め蓄えられた弾性エネルギーを解放しながらクロスメンバ22から部分的に外れる。
【0039】
弾性要素30の弾性は、その弾性的な部分31により生じる。この弾性的な部分31は、断面において略ジグザグ状に配置された複数の壁部33を有している。これらの壁部33は、弛緩状態で長さL1を有する完全な正弦波のように一つの“完全な波長”を形成する。
【0040】
弾性要素30の前方壁部40には、チャンバ38が設けられ、その丸まった外側の輪郭形状は、フロントカバー4の内側の輪郭形状に合わされている。このチャンバ38により弾性要素30の剛性が増強される。これは例えば、一方で下側ロードパス部20における接触箇所としてのフロントカバー4の前方エッジと、他方でクロスメンバ22との間の高さにずれがあるときに重要である。乗用車の高さ方向Zにおけるこういったズレは、必ずと言っていいほど弾性要素30の上方ないし下方への捻れを生じさせる。このために“リバウンド”が弱められる。というのも、乗用車の長手方向Xと平行にはもはやリバウンドが理想的に起きなくなるからである。弾性要素30を補強することで、弾性要素30は、クロスメンバ22に対して比較的僅かにしか捻れない。チャンバ38は、下側ロードパス部20の高さ位置次第では省いてもよいし、或いはそれほど剛直に形成しなくてもよい。
【0041】
弾性要素30は、そのフランジ部34により下側クロスメンバ22の前面部23に支持される。弾性要素30の前方壁部40には、終端部にフック44を有する片持ち式のアーム42が配置されている。このアーム42は、内部元応力が働いた状態にあり、上方に向かって飛び出している(
図18a)。
【0042】
弾性要素30は、下側クロスメンバ22の前面部23に取り付けられることで下側クロスメンバ22に固定される。次に、矢印K2の然るべき方向に弾性要素30の弾性的な部分31が押し縮められて行き、それに伴ってアーム42が押し下げられることでフック44がクロスメンバ22を把持し、この状態でクロスメンバ22との確実な形状結合が形成されるようにする。この圧縮された状態では、弾性要素30の弾性的な部分31は、長さL2を有し、プレストレスが加えられた状態にある(
図18b)。下側ロードパス部20に十分に大きな力が働くと(矢印K3)、弾性的な部分31は長さL3にまでさらに圧縮され、その長さでは、弾性的な部分31の壁部33は略ブロックになる。こうして生じたアーム42の変位により、フック44がクロスメンバ22との形状結合から上方に解除される(
図18c)。その結果、プレストレスが加えられた状態にある弾性的な部分31が弾性要素30の前方壁部40を走行方向FRに変位させ(
図18d)、再び
図18aに示された出発状態を取る。弾性要素30が走行方向FRに動くことで、脚部インパクタBの下腿部Tへの運動量がより大きいというメリットを有しつつ、
図2に示された脚部インパクタBへ付加的な力が及ぼされる。この改善された“リバウンド”により、開き角W2はさらに小さくなる。
【0043】
本発明は次のようにまとめることができる:乗用車のバンパ組立体2は、上側および下側ロードパス部10ないし20を備えている。下側ロードパス部のクロスメンバ22には、本発明の弾性要素30が設けられ、これが歩行者の乗用車との衝突時に付加的な力を歩行者の下腿部Tに及ぼし、歩行者を乗用車のボンネット部に向けて移動させるのを助長する。
【符号の説明】
【0044】
2 バンパ組立体
4 フロントカバー
10 上側ロードパス部
12 上側クロスメンバ
14 被覆部材
16 上側フロントサイドメンバ
20 下側ロードパス部
22 下側クロスメンバ
22m 中央の部分
22s 側方の部分
23 前面部
24 被覆部材
26 下側フロントサイドメンバ
28 変形要素
30 弾性要素
30a 個々の弾性要素
30m 中央の部分
30s 側方の部分
30w 波
31 弾性的な部分
32 ウェブ
33 壁部
34 フランジ部
36 補強要素
38 チャンバ
40 前方壁部
42 アーム
44 フック
102 バンパ組立体
104 フロントカバー
110 上側ロードパス部
112 上側クロスメンバ
114 被覆部材
120 下側ロードパス部
122 下側クロスメンバ
124 被覆部材
A 振幅
B 脚部インパクタ
D 壁厚
F 大腿部
FR 走行方向
K2 矢印
K3 矢印
L1 長さ
L2 長さ
L3 長さ
MCL 内側靭帯
R1 矢印
R2 矢印
T 下腿部
W1 開き角
W2 開き角
X,Y,Z 方位