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▶ 住友重機械プロセス機器株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-21
(54)【発明の名称】撹拌装置
(51)【国際特許分類】
   B01F 27/80 20220101AFI20220114BHJP
   B01F 27/808 20220101ALI20220114BHJP
【FI】
B01F7/16 H
B01F7/16 J
B01F7/16 G
B01F7/16 E
B01F7/16 K
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019552784
(86)(22)【出願日】2018-11-06
(86)【国際出願番号】 JP2018041074
(87)【国際公開番号】W WO2019093287
(87)【国際公開日】2019-05-16
【審査請求日】2020-09-16
(31)【優先権主張番号】P 2017215575
(32)【優先日】2017-11-08
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502369746
【氏名又は名称】住友重機械プロセス機器株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】森永 昌二
(72)【発明者】
【氏名】宮田 哲也
(72)【発明者】
【氏名】竹中 克英
【審査官】河野 隆一朗
(56)【参考文献】
【文献】特開昭57-045333(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002905(WO,A1)
【文献】特開平06-343846(JP,A)
【文献】特開平04-029733(JP,A)
【文献】特開平06-134274(JP,A)
【文献】実開昭58-128621(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01F 7/00 - 7/32
B01F 15/00 - 15/06
B01F 17/00 - 17/56
B01F 3/10
A61K 8/00 - 8/99
A61Q 1/00 - 90/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周壁の横断面形状が円形である撹拌槽と、前記撹拌槽の内部に位置しており互いに独立して縦軸まわりに回転可能な少なくとも一つの流動翼及び少なくとも一つのディスパー翼と、前記ディスパー翼の径外近傍に設けられたガイドリングと、を備え、
前記流動翼及び前記ディスパー翼の回転中心は同心であり、
前記流動翼は前記撹拌槽の内周壁に沿って設けられ、縦軸まわりに回転することで前記撹拌槽内に存在する撹拌対象物に少なくとも下方に向かう流れを形成し、
前記ディスパー翼は回転により撹拌対象物にせん断力を与えるもので、前記流動翼よりも前記撹拌槽の径内の位置であって、かつ、前記流動翼により形成された撹拌対象物の流れに接する位置に設けられたものであり、
前記ガイドリングは前記ディスパー翼の外周縁と対向する内周面を有し、
前記ガイドリングの前記内周面における上下寸法は、前記撹拌槽における前記内周壁の直径に対して0%を超え25%以下である撹拌装置。
【請求項2】
前記ディスパー翼は、回転する板状部と、前記板状部の外周縁において周方向に間隔を空けて設けられたせん断歯と、前記板状部の少なくとも上方または下方に突出した少なくとも一つのフィン部と、を備える、請求項1に記載の撹拌装置。
【請求項3】
内周壁の横断面形状が円形である撹拌槽と、前記撹拌槽の内部に位置しており互いに独立して縦軸まわりに回転可能な少なくとも一つの流動翼及び少なくとも一つのディスパー翼と、前記ディスパー翼の径外近傍に設けられたガイドリングと、を備え、
前記流動翼及び前記ディスパー翼の回転中心は同心であり、
前記流動翼は前記撹拌槽の内周壁に沿って設けられ、縦軸まわりに回転することで前記撹拌槽内に存在する撹拌対象物に少なくとも下方に向かう流れを形成し、
前記ディスパー翼は回転により撹拌対象物にせん断力を与えるもので、前記流動翼よりも前記撹拌槽の径内の位置であって、かつ、前記流動翼により形成された撹拌対象物の流れに接する位置に設けられたものであり、回転する板状部と、前記板状部の外周縁において周方向に間隔を空けて設けられたせん断歯と、前記板状部の少なくとも上方または下方に突出した少なくとも一つのフィン部と、前記フィン部に隣接し、前記板状部を貫通する少なくとも一つの貫通孔と、を備え、
前記ガイドリングは前記ディスパー翼の外周縁と対向する内周面を有する撹拌装置。
【請求項4】
前記ガイドリングの前記内周面における上下寸法は、前記ディスパー翼の前記外周縁における上下寸法よりも大きい、請求項1~3のいずれかに記載の撹拌装置。
【請求項5】
内周壁の横断面形状が円形である撹拌槽と、前記撹拌槽の内部に位置しており互いに独立して縦軸まわりに回転可能な少なくとも一つの流動翼及び少なくとも一つのディスパー翼と、前記ディスパー翼の径外近傍に設けられたガイドリングと、を備え、
前記流動翼及び前記ディスパー翼の回転中心は同心であり、
前記流動翼は前記撹拌槽の内周壁に沿って設けられ、縦軸まわりに回転することで前記撹拌槽内に存在する撹拌対象物に少なくとも下方に向かう流れを形成し、
前記ディスパー翼は回転により撹拌対象物にせん断力を与えるもので、前記流動翼よりも前記撹拌槽の径内の位置であって、かつ、前記流動翼により形成された撹拌対象物の流れに接する位置に設けられたものであり、
前記ガイドリングは前記ディスパー翼の外周縁と対向する内周面を有し、
前記ガイドリングの上方または下方に位置するバッフルを備え、
前記バッフルは、前記ディスパー翼によりせん断力を与えられた撹拌対象物を、前記ガイドリングの前記内周面に囲まれた領域から径外位置へと導くものである撹拌装置。
【請求項6】
前記ディスパー翼の前記外周縁と前記ガイドリングの前記内周面との径方向の距離は、前記撹拌槽における前記内周壁の直径に対して0%を超え10%以下である、請求項1~5のいずれかに記載の撹拌装置。
【発明の詳細な説明】
【関連出願の相互参照】
【0001】
本願は、日本国特願2017-215575号に基づく優先権を主張し、引用によって本願明細書の記載に組み込まれる。
【技術分野】
【0002】
本発明は、流動性を有する特定粘度の撹拌対象物を撹拌するのに好適な撹拌装置に関するものである。
【背景技術】
【0003】
例えば、ヘアケア用品やスキンケア用品で用いられる乳化液であって、油相(例えばシリコーンオイル)を微細化して水相中に分散させた乳化液を形成するため、油相にせん断力を与えて微細化する乳化方法が存在する。このような乳化液には、分散した粒子が分離しない安定した状態が長期にわたって要求される。また、低粘度の乳化液においては、分散した粒子にサブミクロン以下の粒子径が要求される。
【0004】
乳化を行う乳化装置としては各種の装置がある。油相にせん断力を与えるために用いられる、低粘度の乳化液を製造するために用いる高せん断翼として、例えばローターステータ型の装置が用いられている。
【0005】
そして、高粘度の乳化液を製造するために用いるものとして、本願の出願人らによる特許文献1に記載の装置がある。この装置は、槽内の全体循環を行うリボン翼によって、高速回転するディスパー翼に液を供給し、当該液にディスパー翼からせん断力を与えることができるように構成されている。この構成によって、従来困難であった超高粘度の撹拌対象物に対しても微細化が可能となった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/002905号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前記ローターステータ型の装置では、渦巻きポンプの如く羽根が高速回転することで液を吸引して液を吐出する。そして、液を循環させながら高速回転で液にせん断力を与える機能を持っている。しかし、渦巻きポンプと同様、液の粘度が高くなると羽根の裏側に負圧部が発生することにより、いわゆる「キャビテーション現象」が発生することから、粘度1000cP程度が使用限界となる。このため、粘度1万cP以上の場合、撹拌対象物が装置内に連続的に供給(吸引)されず、装置が「空回り」する現象が起こってしまう。
【0008】
そして、前記特許文献1に記載の装置では、粘度1万cP未満での乳化操作は一応可能である。しかし本願の発明者は、この装置で、ある特定の乳化操作を行うと、分散している粒子が長期にわたって分離しにくい、安定した乳化液の製造には不十分になるとの知見を得た。原因として、この装置の撹拌対象物としては10万cPを超える超高粘度のものが想定されており、想定されたものよりも低粘度では、撹拌対象物にせん断力が十分に与えられないことにより、微細化が不十分になるからと考えられる。また、相対的に粘度が小さいことにより、超高粘度の撹拌対象物に比べると、粘度低下によりディスパー翼からの吐出量が増大する一方で、リボン翼からの供給流量が低下することにより、槽内における撹拌対象物の流れのバランスが崩れるからとも考えられる。
【0009】
このように、高粘度、具体的には粘度1万cP以上10万cP以下(本願ではこの範囲の粘度を「高粘度」と定義する)の撹拌対象物に好適な撹拌(乳化)装置は従来存在していなかった。
【0010】
このような事情から、乳化操作を行う現場では、運転温度を一旦上げることにより撹拌対象物の粘度を下げた状態で乳化操作を行っているケースもあった。しかし、このような乳化操作を行うと、加熱や冷却のために電力及び処理時間が多く必要になる問題、また、装置の機器点数が多くなることから操作終了後の洗浄作業に時間を要するとの問題があった。このため、常温のままで乳化操作できる装置が望まれていた。
【0011】
本発明は、前述した種々の問題に鑑み、特に高粘度の撹拌対象物に好適な撹拌装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、内周壁の横断面形状が円形である撹拌槽と、前記撹拌槽の内部に位置しており互いに独立して縦軸まわりに回転可能な少なくとも一つの流動翼及び少なくとも一つのディスパー翼と、前記ディスパー翼の径外近傍に設けられたガイドリングと、を備え、前記流動翼及び前記ディスパー翼の回転中心は同心であり、前記流動翼は前記撹拌槽の内周壁に沿って設けられ、縦軸まわりに回転することで前記撹拌槽内に存在する撹拌対象物に少なくとも下方に向かう流れを形成し、前記ディスパー翼は回転により撹拌対象物にせん断力を与えるもので、前記流動翼よりも前記撹拌槽の径内の位置であって、かつ、前記流動翼により形成された撹拌対象物の流れに接する位置に設けられたものであり、前記ガイドリングは前記ディスパー翼の外周縁と対向する内周面を有する撹拌装置である。
【0013】
また、前記ディスパー翼は、回転する板状部と、前記板状部の外周縁において周方向に間隔を空けて設けられたせん断歯と、前記板状部の少なくとも上方または下方に突出した少なくとも一つのフィン部と、を備えることもできる。
【0014】
また、前記ディスパー翼は、前記フィン部に隣接し、前記板状部を貫通する少なくとも一つの貫通孔を備えることもできる。
【0015】
また、前記ガイドリングの前記内周面における上下寸法は、前記ディスパー翼の前記外周縁における上下寸法よりも大きくすることもできる。
【0016】
また、前記ガイドリングの上方または下方に位置するバッフルを備え、前記バッフルは、前記ディスパー翼によりせん断力を与えられた撹拌対象物を、前記ガイドリングの前記内周面に囲まれた領域から径外位置へと導くものともできる。
【0017】
また、前記ディスパー翼の前記外周縁と前記ガイドリングの前記内周面との径方向の距離は、前記撹拌槽における前記内周壁の直径に対して0%を超え10%以下とできる。
【0018】
また、前記ガイドリングの前記内周面における上下寸法は、前記撹拌槽における前記内周壁の直径に対して0%を超え25%以下とできる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1図1は本発明の一実施形態に係る撹拌装置を示す、部分的な縦断面図である。
図2図2図1のA-A矢視において流動翼のみを示した図である。
図3図3は同撹拌装置における撹拌対象物の流れを示す要部拡大図である。
図4A図4Aは同撹拌装置におけるディスパー翼単体の平面図である。
図4B図4B図4AのB-B矢視断面図である。
図5A図5Aは同撹拌装置のガイドリング、バッフル、支持棒の組を示す正面図である。
図5B図5Bは同撹拌装置のガイドリング、バッフル、支持棒の組を示す平面図である。
図5C図5C図5AのC-C矢視断面図である。
図6A図6Aは比較のために撹拌槽にディスパー翼だけを設けた形態の平面図である。
図6B図6Bは比較のために撹拌槽にディスパー翼だけを設けた形態の縦断面図である。
図6C図6Cは比較のために撹拌槽にディスパー翼とガイドリングとを設けた形態の平面図である。
図6D図6Dは比較のために撹拌槽にディスパー翼とガイドリングとを設けた形態の縦断面図である。
図7A図7Aは比較のために撹拌槽に流動翼(リボン翼)、ディスパー翼、ガイドリングを設けた形態の平面図である。
図7B図7Bは比較のために撹拌槽に流動翼(リボン翼)、ディスパー翼、ガイドリングを設けた形態の縦断面図である。
図7C図7Cは本実施形態(撹拌槽に流動翼(リボン翼)、ディスパー翼、ガイドリング、バッフルを設けた形態)の平面図である。
図7D図7Dは本実施形態(撹拌槽に流動翼(リボン翼)、ディスパー翼、ガイドリング、バッフルを設けた形態)の縦断面図である。
図8図8は、シミュレーションによりディスパー翼の径外領域に生じるせん断力につき、ずり速度(Shear Strain Rate)を濃淡で示したコンター図であり、ガイドリングを設けた場合を示す。
図9図9は、シミュレーションによりディスパー翼の径外領域に生じるせん断力につき、ずり速度(Shear Strain Rate)を濃淡で示したコンター図であり、ガイドリングを設けない場合を示す。
図10図10は、実験に供した撹拌装置のうち、ガイドリング及びディスパー翼の位置関係を示す、説明に必要な部分だけを示した縦断面図である。
図11図11は、実験により得られたガイドリングとディスパー翼の隙間(槽径比)と粒子径との関係を示すグラフである。
図12図12は、実験により得られたガイドリングの上下寸法(槽径比)と粒子径との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、本発明の一実態に係る撹拌装置について説明する。本実施形態の撹拌装置1の好適な用途は乳化であって、以下では乳化に関して説明を行う。ただし撹拌装置1の用途は乳化だけに限定されるものではなく、種々の用途に適用できる。乳化を行う場合の撹拌対象物としては、例えば化粧品用(ヘアケア用品、スキンケア用品、歯磨きペースト等)や食品用(ドレッシング等)の種々の素材を用いることができるが、これらに限られるものではない。撹拌対象物は流動性を有するものであって、流体(液体、気体)、及び、粒子状や粉末状とされた固体、そして、これらの混合物が例示できる。
【0021】
本実施形態の撹拌装置1は、高粘度(粘度1万cP以上10万cP以下)の撹拌対象物に好適である。ただし、粘度1000cP以上100万cP以下の撹拌対象物に適用することも可能である。なお本説明で用いた単位「cP」は、SI単位系に換算すると「mPa・s」となる。
【0022】
本実施形態の撹拌装置1は、撹拌対象物を収容できる撹拌槽2内に流動翼3、ディスパー翼4、ガイドリング5、バッフル6を備えている。ただし、本発明においてバッフル6は必須ではなく、設けないこともできる。流動翼3及びディスパー翼4は、撹拌槽2外に設けられたモータ等の駆動部により別個に駆動(多軸駆動)されることで、互いに独立して回転可能とされている。このため、撹拌対象物の性状に応じて適する回転数で回転させられる。撹拌装置1を乳化に用いる場合において、流動翼3は撹拌対象物を混合して乳化させ、液滴を形成する。ディスパー翼4は、乳化液中の液滴を小サイズに微細化する。より詳しくは、ディスパー翼4は、撹拌対象物中において分散相となる成分にせん断力を与えることで微細化を行う。本実施形態の撹拌装置1で製造される乳化液は例えばO/W型の乳化液であって、分散相は油相である。これとは逆に、W/O型の乳化液であって、分散相を水相とすることもできる。
【0023】
撹拌槽2は、内周壁2aの横断面形状が円形とされた容器である。この撹拌槽2は上部が円筒状の直胴部21とされ、下部が円錐台状の絞り部22とされている。直胴部21と絞り部22とは、一体に形成されている。直胴部21の内径は、上下方向で一定とされている。絞り部22は、内径は下方に向かうにつれ小径となっている。このように撹拌槽2の内径を設定することにより、後述の流動翼3の回転により生じる撹拌対象物の下方へ向かう流れである誘導流F(図3参照)を撹拌槽2の内周壁2aが阻害してしまうことを抑制できる。絞り部22は、縦断面形状が半円形状や半楕円形状であってもよい。また、図1に示す撹拌槽2は上端部が開放されているが、上端部を閉鎖することもできる。撹拌槽2の外部には、加熱・冷却部としてのジャケット部23が形成されており、このジャケット部23に熱媒または冷媒を通すことで、撹拌槽2内に存在する撹拌対象物の加熱・除熱(冷却)が可能である。
【0024】
流動翼3には、本実施形態ではリボン翼が用いられている。流動翼3は撹拌槽2の内周壁2aに沿って設けられる。流動翼3の翼径(直径)は、撹拌槽2における内周壁2aの内径に対する比率で0.9~0.9999に設定できる。流動翼3は縦軸まわりに回転することで撹拌槽2内に存在する撹拌対象物に誘導流Fを形成する。この誘導流Fは、撹拌槽2内の全体を大きく流動する流れの一部となる。撹拌装置1を乳化に用いる場合、この誘導流Fにより撹拌対象物は混合されて乳化され、液滴が形成される。
【0025】
本実施形態の流動翼3は、撹拌槽2の内周壁2aに沿うように配置され、所定幅を有する2枚の流動翼本体31,31と、これら2枚の流動翼本体31,31を径内位置で支持する複数の支持棒32…32とを備える。各流動翼本体31は湾曲帯状である。各流動翼本体31は、上部翼311と下部翼312とを備える。上部翼311は直胴部21の周方向に対し等間隔(本実施形態では180°間隔)に設けられ、下部翼312は絞り部22の周方向に対し等間隔(本実施形態では180°間隔)に設けられる。2枚の流動翼本体31,31は、撹拌槽2の横断面中心を挟んで180°おきに回転対称に配置されている。
【0026】
上部翼311は、撹拌槽2における直胴部21の内周壁から一定距離をおいて配置され、周方向に一定の角度で傾斜しつつ上方から下方に延びている。直胴部21において上部翼311が回転することで、上部翼311が撹拌対象物を掻き下げて、旋回しつつ下方に向かう誘導流Fを形成する。下部翼312は、撹拌槽2における絞り部22の内周壁の面形状に略沿って位置している。下部翼312は図2に示すように、平面視にて、回転方向R3とは逆方向に膨出するよう湾曲した形状とされている。
【0027】
上部翼311と下部翼312とは、図1に示す接合部313にて、各翼における面方向が屈曲する(または捻られる)ように接続されている。具体的には、図2に示すように、上部翼311を構成する帯状体の径内側端縁に、下部翼312を構成する帯状体の表面が当接した状態で、接合部313において溶接等によって接続されることで、上部翼311と下部翼312とが一体となっている。
【0028】
絞り部22において下部翼312が回転方向R3に回転することで、上部翼311により形成された旋回しつつ下方に向かう誘導流Fが、図3に示すように、径内方向に向かいつつ下方に向かうように、流れの向きが転換される。このため、誘導流Fを、ガイドリング5の内部に位置するディスパー翼4へと導くことができる。
【0029】
各流動翼本体31の下方を向いた面は、撹拌対象物を下方に押す作用を奏する部分である。よって、均一な誘導流Fを形成するため、各流動翼本体31の下方を向いた面は、段差をできるだけ有さない湾曲面とすることが好ましい。そして、前記一定距離に関し、本実施形態における撹拌槽2の内周壁2aと各流動翼本体31との外周縁とは、水平距離にて、撹拌槽2における直胴部21の内径に対する比率で1~3%の距離がおかれているが、この距離は撹拌対象物の性状に応じて適宜設定できる。このように、各流動翼本体31を撹拌槽2の内周壁2a近くに配置することで、各流動翼本体31が、撹拌槽2の内周壁2aに沿う撹拌対象物の誘導流Fを確実に形成できる。
【0030】
また、撹拌槽2内中央に、撹拌対象物が付着し得る中心軸や中心翼が存在しないので、撹拌対象物の軸等への付着、撹拌槽2内での滞留をなくすことができる。なお、各流動翼本体31の幅寸法は前記比率に限定されず、撹拌対象物の性状に応じて適宜設定できる。
【0031】
流動翼3における流動翼本体31,31と支持棒32…32とは溶接等により一体とされている。各支持棒32は上下方向に延びる直棒体であり、上方と下方とで流動翼本体31を固定している。各支持棒32は、流動翼用駆動軸34を介して、撹拌槽2の上方に設けられる流動翼用駆動部(図示しない)に接続されている。これにより、各支持棒32を介して各流動翼本体31を上下方向に延びる縦軸まわりに回転させることができる。下部翼312の径内側端部よりも内部を、上下方向に延びるディスパー翼用駆動軸43が通っている。図3に示すように、撹拌対象物の誘導流Fは、絞り部22の底部からディスパー翼用駆動軸43の外周に沿って上昇し、ディスパー翼用駆動軸43の径外位置を通って板状部41に導かれる。
【0032】
流動翼3は、平面視で反時計回り方向である回転方向R3に回転する。回転数はディスパー翼4の回転数よりも低い。この回転により、各流動翼本体31が撹拌対象物を下方に押し出す。このため、図3に示すように、撹拌槽2の内周壁2aに沿って下方へ向かう誘導流Fが生じる。この下方へ向かう誘導流Fは、後述のように、撹拌対象物をディスパー翼4に連続的に供給する流れである。また、撹拌槽2の内周壁2a近傍において下方へ向かう誘導流Fが常時存在し、撹拌対象物が撹拌槽2内で滞留しにくいことから、撹拌槽2の内周壁2aへの撹拌対象物の付着を抑制できる。
【0033】
ディスパー翼4は、回転により撹拌対象物にせん断力を与えるものである。撹拌装置1を乳化に用いる場合、このせん断力によって流動翼3により形成された液滴が分断されて微細化される。
【0034】
本実施形態のディスパー翼4は、図3に示すように、回転可能な板状部41の外周縁に、板状部41の面方向に交わる方向に延びる複数のせん断歯42…42を、周方向に間隔を空けて設けた翼である(図3では、左右端部に存在するせん断歯42,42と一部のフィン部44のみを簡略的に示している)。各せん断歯42は板状部41の外周縁に沿って設けられる。また、板状部41の外周縁の接線方向に対して傾斜して設けることにより、板状部41の回転に伴い各せん断歯42が撹拌対象物に径外方向への吐出流を形成するようにもできる。本実施形態のせん断歯42…42は、板状部41を基準として表裏方向(上下方向)に均等に突出しているが、少なくとも下方に突出していればよいし、表方向に突出したせん断歯42と裏方向に突出したせん断歯42とを交互に配置することもできる。また、せん断歯42,42を板状部41の外周縁以外に設けることもできる。
【0035】
板状部41は平板状であっても構わないが、図4A及び図4Bに示すように、板状部の少なくとも上方または下方に突出した少なくとも一つのフィン部44を設けることが好ましい。このように設けられたフィン部44により、板状部41が単なる平板状である場合に比べ、板状部41の近傍において撹拌対象物に、更に強い流れを生じさせることができる。
【0036】
本実施形態における各フィン部44は板状部41に対して直交する平板状のものである。図示した例では、フィン部44が回転対称に複数(具体的には4枚)設けられており、全てが上方に突出している。しかし、前記上方突出は説明のため便宜的に例示したものに過ぎず、これに限られない。板状部41に対して複数のフィン部44…44が全て下方に突出していてもよいし、例えば周方向で交互に上下に突出していてもよい。
【0037】
本実施形態の各フィン部44は、図4Aに示すように、平面視において一つが延びる方向と、周方向に隣り合う一つの延びる方向とが直交する関係とされている。ただし、周方向に隣り合うフィン部44,44の角度は90度以外であってもよい。また、ディスパー翼4の回転方向R4との関係では、フィン部44の径内側端部が回転方向R4の前方(回転先方向)に位置し、径外側端部が回転方向R4の後方(回転元方向)に位置する。このため、ディスパー翼4が回転すると、各フィン部44によって径外方向かつ回転方向後方に向かう流れFaを生じさせることができる(図4A)。
【0038】
また、本実施形態のディスパー翼4では、板状部41の一部を切り取って立ち上げることによりフィン部44を形成している。このためフィン部44の形成に伴い、板状部41において各フィン部44の基端側の位置に隣接して、上下に貫通した各貫通孔45が形成される。ディスパー翼4の回転方向R4(図4Aに示す)を基準とした前方(回転先方向)に板状部41が位置し、後方(回転元方向)に貫通孔45が形成されている。本実施形態では、図4Bに示すように、フィン部44が板状部41の表面に対して直角に設けられている。しかしこれに限定されず、フィン部44が板状部41の表面に対して傾斜して設けられていてもよい。フィン部44を傾斜して設ける場合、傾斜角度の設定により、フィン部44による撹拌対象物への押圧力を調整することができる。
【0039】
各貫通孔45は、ディスパー翼4が回転することにより板状部41が撹拌対象物を押す側と逆側に位置することから負圧が生じる。この生じた負圧に周囲の撹拌対象物が吸引される。このことに伴い、板状部41を上下方向に通り抜ける流れFbを生じさせることができる(図4A)。本実施形態では、フィン部44が上方に突出しているので、下方から貫通孔45を通って上方に向かう流れを生じさせることができる。フィン部44が板状部41の上方の撹拌対象物を押し出すからである。このため、前記流れFaと共に、ガイドリング5の内周面5aに囲まれた領域X(図3参照)における撹拌対象物の流通状態を良くできる。なお、これとは逆に、フィン部44を下方に突出させた場合には、上方から貫通孔45を通って下方に向かう流れを生じさせることができる。
【0040】
ディスパー翼4の直径は、撹拌槽2における直胴部21の内径に対する比率で0.2~0.6、好ましくは0.3~0.5とされる。このことにより、前記誘導流Fの上昇力が強い状態(上昇力が減衰していない状態)で撹拌対象物をディスパー翼4に導くことができる。
【0041】
このディスパー翼4の回転により、各せん断歯42が撹拌対象物に衝突する。この際に、各せん断歯42における回転方向前縁部が撹拌対象物にせん断力を及ぼすことができる。つまり、各せん断歯42の回転軌跡の周辺を含む、ディスパー翼4の上下近傍領域が高せん断場となる。具体的に、せん断力が与えられるのは、周方向に隣り合う二つのせん断歯42,42の間においてである。
【0042】
ディスパー翼4には、下方に延びるディスパー翼用駆動軸43が接続されている。なお、図示は省略しているが、撹拌槽2とディスパー翼用駆動軸43との間には、撹拌対象物が漏れないようにシールが施されている。ディスパー翼用駆動軸43は、撹拌槽2の下方に設けられるディスパー翼用駆動部(図示しない)に接続されている。これにより、ディスパー翼4を上下方向に延びる縦軸まわりに回転させることができる。
【0043】
前述のように、流動翼3を回転させるための流動翼用駆動部(図示しない)は、撹拌槽2の上方に位置する。そして、ディスパー翼4を回転させるためのディスパー翼用駆動部は、撹拌槽2の下方に位置する。このため、各駆動部と各翼とを連結する駆動軸34,43の軸長を小さくでき、軸にたわみやぶれが発生することを抑制できるので、駆動時の振動(共振)を抑制できる。特にディスパー翼4については、ディスパー翼用駆動軸43の軸長を小さくできるので高速回転が可能となる。また、前記振動によるディスパー翼用駆動軸43等の疲労破壊の発生を抑制できる。
【0044】
ディスパー翼4は、撹拌槽2の底部24からの寸法が、撹拌槽2における直胴部21の内径の寸法より小さい寸法で設けられている。また、ディスパー翼4は、流動翼3よりも撹拌槽2の径内の位置であり、かつ、図3に示すように、流動翼3により形成された誘導流Fに接する位置、より具体的には誘導流Fの流れの強い位置に設けられている。このため、流動翼3が形成する撹拌対象物の誘導流Fが強い位置で、当該誘導流Fが確実にディスパー翼4に達する。このため、流動翼3によりディスパー翼4に撹拌対象物が連続的に供給される。具体的には、図3に示すように、誘導流Fがディスパー翼4の内側から翼先端に位置するせん断歯42…42に達するため、流動翼3から高せん断場へと確実に撹拌対象物が供給される。よって、ディスパー翼4が回転してもディスパー翼4の周囲に空間ができにくく、高せん断場でのディスパー翼4の空転を防止できる。よって、ディスパー翼4による撹拌対象物のせん断が確実になされる。
【0045】
ここで、前述のように、流動翼3が回転することにより、撹拌対象物には、まず直胴部21にて、撹拌槽2の内周壁2aに沿う下方へ向かう誘導流Fが生じる。撹拌槽2の下部には絞り部22が形成されており、かつ、この絞り部22で流動翼3の下部翼312が回転するので、絞り部22における誘導流Fは、図3に示すように、撹拌槽2の径内方向に向かいつつ下方に向かう流れに変わる。このため、誘導流Fは、絞り部22の下端部中央に集中することになるので、絞り部22の下端部中央では流れ方向が反転して上方に向かう流れに変わる。この上向きに転じた誘導流Fがディスパー翼4(特に板状部41)に接することとなる。
【0046】
このように、流動翼3及び撹拌槽2の内周壁2aにより誘導流Fの方向を転換して、撹拌対象物を撹拌槽2内で回り込ませることで、ディスパー翼4に対して撹拌対象物を積極的に供給できる。乳化の場合、ディスパー翼4によるせん断によって油滴あるいは水滴を確実に微細化できる。
【0047】
このように、流動翼3によるディスパー翼4への撹拌対象物の供給は、ディスパー翼4の回転中心(縦軸)に近い位置になされることが好ましい。その理由は、各せん断歯42による撹拌対象物の吐き出しにより、流動翼3により供給された撹拌対象物がディスパー翼4に至るまでに跳ね返されてしまわないよう、各せん断歯42から離れた位置に撹拌対象物を供給できるからである。これは特に、撹拌対象物が高チクソ性の流体の場合に有効である。
【0048】
ここで本実施形態では、流動翼3をリボン翼としている。よって、例えば乳化液中に液滴を分散させるため、撹拌対象物中の油相の微細化を行う目的に最も適した形状を有する翼からなる、流動翼3とディスパー翼4の組み合わせを提供できる。
【0049】
また、流動翼3の回転中心とディスパー翼4の回転中心とは、いずれも撹拌槽2の横断面中心を通る。各翼の回転中心がずれている形態に比べると、本実施形態のように同心で構成することにより、各翼3,4の回転中心から撹拌槽2の内周壁2aへの距離を均等にできる。このため、流動翼3からディスパー翼4へ向かう撹拌対象物の誘導流Fが、撹拌槽2の周方向で均一になる。よって、ディスパー翼4にかかる水平荷重を減少させられるため、例えばディスパー翼用駆動軸43が破損することを抑制できる。
【0050】
ガイドリング5は、ディスパー翼4の径外近傍に設けられたリング状体である。このガイドリング5は、図1及び図3に示すように、流動翼用駆動軸34の周囲で上下に延びるブラケット51,51によって、撹拌槽2における絞り部22に下方から支持されている。これにより、ガイドリング5は撹拌槽2に対して固定されている。ただし、ガイドリング5の支持はこれに限定されず、撹拌槽2の内部においてガイドリング5を上方から吊下げること、また、流動翼3に固定すること(この場合、ガイドリング5は流動翼3と共に回転することになる)も可能であり、その他種々の支持方法が採用できる。
【0051】
ガイドリング5は、ディスパー翼4の外周縁4aと対向する内周面5aを有する。本実施形態において、内周面5aの上端はディスパー翼4におけるせん断歯42の上端よりも上方に位置し、内周面5aの下端はディスパー翼4におけるせん断歯42の下端よりも下方に位置する。ガイドリング5は、前記内周面5a及び外周面が垂直面であって、上面及び下面が斜面とされており、縦断面形状につき、内周面5aの方が外周面よりも上方に位置する平行四辺形とされている。このようなガイドリング5の形状により、ガイドリング5の下端部の開口面積を拡大できるので、流動翼3からディスパー翼4へ向かう撹拌対象物の誘導流Fをガイドリング5が阻害しにくい。また、上面が斜面であることから、上面の上方領域に撹拌対象物が溜まってしまうこともない。
【0052】
ガイドリング5の形状に関しては、これに限定されず、縦断面形状を長方形または正方形とすることもできるし、内周面5aの縦寸法が外周面の縦寸法よりも大きな台形、逆に、内周面5aの縦寸法が外周面の縦寸法よりも小さな台形とすることもできる。また、縦断面形状を四角形以外の形状とすることもできる。また、本実施形態のガイドリング5は中実とされているが、中空であってもよい。また、径方向の厚み寸法に関しても、撹拌対象物から受ける圧力に耐えることができる限り、特に限定されない。また、本実施形態のガイドリング5は周方向に連続した形状(リング状体)である。しかしこれに限定されず、周方向に間隔を空けて断続的に設けることもできる。
【0053】
このようにディスパー翼4の径外近傍にガイドリング5を設けることで、図3に示すように、板状部41の上下領域において局所的に、回転中心(縦軸)へ巻き込むような流れFrを生じさせることができる。この流れFrは具体的には、板状部41の上下領域において、径外側で板状部41から離れ、その後径内側で板状部41に向かうような連続的な回転流である。この流れFrを回転するディスパー翼4のせん断歯42が横切ることになるので、せん断歯42による撹拌対象物へのせん断力の付与が有効になされる。前述のようにディスパー翼4にフィン部44を設けると、板状部41の上下領域において、略周方向に向かう流れを生じさせることができるので、前記巻き込むような流れFrに加えて、より強い流れを生じさせることができる。なお、本実施形態におけるディスパー翼4とガイドリング5との組み合わせは、槽内における全体流を形成するものではなく、局所的な流れFrを形成することで、撹拌対象物にせん断力を有効に与えることに寄与している。
【0054】
図8及び図9は、シミュレーションによりディスパー翼4の径外領域に生じるせん断力につき、ずり速度(Shear Strain Rate、単位:1/s)を濃淡で示したコンター図である。ガイドリング5を設けた場合を示すものが図8で、ガイドリング5を設けない場合を示すものが図9である。各図においてずり速度の高い方が濃い色で表されている。各図を見比べると明白なように、ガイドリング5を設けた場合の方が、ガイドリング5における内周面5aとディスパー翼4の外周縁4a(すなわちせん断歯42の外周面)との間にて高いせん断力を撹拌対象物に与えていることがわかる。
【0055】
ガイドリング5の内周面5aにおける上下寸法5hは、ディスパー翼4の外周縁4aにおけるせん断歯42での上下寸法4hよりも大きく設定されている。このような寸法関係とされることにより、高いせん断力を撹拌対象物に与えることができる領域である、ガイドリング5の内周面5aとディスパー翼4の外周縁4aとの間の領域を大きく確保できる。ただし、寸法関係はこれに限定されず、ガイドリング5の内周面5aにおける上下寸法5hを、ディスパー翼4の外周縁4aにおけるせん断歯42での上下寸法4hと同じに設定したり、また、小さく設定したりすることも可能である。
【0056】
ガイドリング5の内周面5aとディスパー翼4の外周縁4aとの距離は、図8に示したような、高いずり速度の領域を形成することができる距離を確保できればよい。なお、ガイドリング5の内周面5aとディスパー翼4の外周縁4aとの隙間については、隙間内外での撹拌対象物の流動は必要であるものの、撹拌対象物の上から下、または、下から上への通り抜けをさせることは特に必須ではない。前記「通り抜け」は、本実施形態では、ディスパー翼4の貫通孔45を通る流れにより実現されている。
【0057】
バッフル6は、ガイドリング5の上方または下方に位置する板状体である。ただし、板状体以外とすることも可能である。また、板状体であっても種々の形状とできる。本実施形態では図5A図5B図5Cに示すように、ガイドリング5の上方に隣接するようにして、縦軸基準の軸対称で2枚が設けられている。なお、バッフル6の枚数や配置等は種々の変更を加えることができ、本実施形態のものに限定されない。また、バッフル6をガイドリング5とは別に撹拌槽2に固定することもできる。バッフル6はガイドリング5に固定されている。各バッフル6は、ディスパー翼4によりせん断力を与えられた撹拌対象物を、図3に示すように、ガイドリング5の内周面5aに囲まれた領域X(図3)から径外位置へと連続的に導く流れFoを形成するものである。各バッフル6は、図5Bに示すように、平面視で領域Xの上方に位置する内側片61と、内側片61に対して屈曲しており、ガイドリング5の外周面から外方に延びる外側片62とを有している。図5Bに示すように、2枚のバッフル6,6における、内側片61同士、また、外側片62同士は平面視で平行の関係にある。内側片61は、ディスパー翼4によるガイドリング5の内周面5aに囲まれた領域Xにおける強い流れを径方向に変換する。一方、外側片62は、流動翼3に液を供給して、撹拌槽2の内部における全体循環流に変換する。このようにバッフル6を設けたことにより、ディスパー翼4により生じた強い流れを撹拌槽2の内部における全体循環流に変換することができる。その結果、高せん断場(具体的にはディスパー翼4の上下近傍領域)への撹拌対象物の流量を増やすことができる。
【0058】
ここで、本願の発明者が図6及び図7に示す各形態の撹拌装置を試作して乳化の実験を行ったので以下に説明する。なお、本実験に用いたディスパー翼4は、フィン部44及び貫通孔45を備えないものとした。実験条件は以下の通りである。
撹拌槽の内径: φ200mm
液量: 2.5L(乳化後の量)
水相: 1.5wt%CMC(カルボキシメチルセルロース)水溶液(第一工業製薬(株)製「セロゲンMP-60」)
油相: 流動パラフィン 125g
乳化剤: 非イオン性界面活性剤 0.4g(キシダ化学(株)製「Tween80」)
液粘度: CMC水溶液15,000cP(ずり速度γ=10(1/s))、最終乳化液11,000cP(ずり速度γ=10(1/s))
ディスパー翼の外径: 80mm
ディスパー翼の回転数: 3600rpm
リボン翼の回転数: 40rpm
【0059】
図6A及び図6Bのようにディスパー翼4だけを設けた形態では、流動はディスパー翼4の近傍のみでしかなされず、微細化されない油相が一部撹拌槽2内に残留しており、乳化は全く不十分であった。
図6C及び図6Dのようにディスパー翼4とガイドリング5とを設けた形態では、図6A及び図6Bの形態におけるディスパー翼4近傍での液滴径を基準とした相対的な液滴径(以下同じ)で約70%とできた。ただ、目視で槽内の液が均一に白濁状態(乳化ができた状態)となったことが確認されるまで、10分以上もかかった。
図7A及び図7Bのように流動翼3(リボン翼)、ディスパー翼4、ガイドリング5を設けた形態では、相対的な液滴径で約15%とでき、許容できる成績となった。
図7C及び図7Dは本実施形態を示し、この流動翼3(リボン翼)、ディスパー翼4、ガイドリング5、バッフル6を設けた形態では、相対的な液滴径で約5%とでき、図7A及び図7Bの形態よりも更に良好な成績を得られた。またこの形態では、目視では2分以内で槽内の液全体が均一に乳化できた。バッフル6を設置することで、ディスパー翼4により生じた流れの一部が槽内の循環流に変換されることにより、高せん断場の流れが改善できたものと考えられる。
【0060】
また、本願の発明者が図10に示す形態の撹拌装置を試作して乳化の実験を行ったので以下に説明する。なお、実験条件は、以下に記載した条件以外は前述の実験と同じである。実験用の撹拌装置を20分間運転し、得られた乳化液中の液滴の粒子径(D50)を測定した。
【0061】
まず、実験用の撹拌装置において、ディスパー翼4の外周縁4aとガイドリング5の内周面5aとの距離(隙間)を以下(A)~(D)の4パターンに設定した。ガイドリング5の内周面5aにおける上下寸法5hは一定寸法(35mm)とした。
(A)ガイドリング5の内径が88mm(隙間が4mm)
(B)ガイドリング5の内径が98mm(隙間が9mm)
(C)ガイドリング5の内径が106mm(隙間が13mm)
(D)ガイドリング5の内径が116mm(隙間が18mm)
【0062】
結果を図11のグラフに示す。横軸に、ディスパー翼4の外周縁4aとガイドリング5の内周面5aとの径方向の距離G(ガイドリング5の内周面5aの直径D5aとディスパー翼4の外周縁4aの直径D4との差の1/2)につき、撹拌槽2における内周壁2aの直径D2aに対する百分率比を示し(「隙間/槽径比」と表示)、縦軸に粒子径を示す。なお、ガイドリング5を取り付けない状態でも実験を行い、この場合を横軸0%のところにプロットした。図11から、ディスパー翼4の外周縁4aとガイドリング5の内周面5aとの径方向の距離Gは、撹拌槽2における内周壁2aの直径D2aに対して0%を超え10%以下とすることが好ましいことがわかった。また、更に好ましくは2%以上9%以下とでき、特に好ましくは3%以上7%以下とできる。
【0063】
次に、実験用の撹拌装置において、ガイドリング5の内周面5aにおける上下寸法5hを以下(E)~(H)の4パターンに設定した。ガイドリング5の内周面5aの直径(ガイドリング5の内径)は一定寸法(106mm)とした。ディスパー翼4の外周縁4aにおけるせん断歯42での上下寸法4hも一定寸法(22mm)とした。また、図10に示すように、ガイドリング5の上下方向中央とディスパー翼4の上下方向中央とは一致するようにした。
(E)ガイドリング5の上下寸法5hが15mm
(F)ガイドリング5の上下寸法5hが25mm
(G)ガイドリング5の上下寸法5hが35mm
(H)ガイドリング5の上下寸法5hが45mm
【0064】
結果を図12のグラフに示す。横軸に、ガイドリング5の内周面5aにおける上下寸法5hにつき、撹拌槽2における内周壁2aの直径D2aに対する百分率比を示し(「GR高さ/槽径比」と表示)、縦軸に粒子径を示す。なお、ガイドリング5を取り付けない状態でも実験を行い、この場合を横軸0%のところにプロットした。図12から、ガイドリング5の内周面5aにおける上下寸法5hは、撹拌槽2における内周壁2aの直径に対して0%を超え25%以下とすることが好ましいことがわかった。また、更に好ましくは2%以上21%以下とできる。
【0065】
以上のように構成された本実施形態の撹拌装置1により、流動翼3が形成する撹拌対象物の誘導流Fをディスパー翼4に達せられるため、流動翼3からディスパー翼4に連続的に撹拌対象物が供給される。このため、回転するディスパー翼4の周囲に空間ができにくい。更に、ディスパー翼4とガイドリング5との間の領域で、撹拌対象物に高いせん断力を与えることができる。また更に、バッフル6によって槽内での撹拌対象物の流れのバランスを良好にできる。従って、高粘度領域(粘度1万cP以上10万cP以下)において、長期にわたって分離しない安定した乳化液を製造できる。しかも、従来では撹拌対象物の温度を上げることで粘度を下げて運転していたケースがあったが、本実施形態の撹拌装置1では常温のまま運転できる。このため、加熱や冷却に電力及び処理時間を多く要したり、装置の機器点数が多くなることで洗浄にも時間を要したりという従来存在した問題を解決可能である。
【0066】
本発明に係る撹拌装置は、前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更を加えることができる。
【0067】
例えば、流動翼3は前記実施形態ではリボン翼であったが、これに限定されない。流動翼3は、傾斜した1枚または複数の流動翼本体31が撹拌槽2内に配置され、撹拌槽2内での各流動翼本体31の移動(前記実施形態では回転)に伴い、撹拌対象物が下方に押されるよう構成されていればよく、種々の形態で実施できる。また、各流動翼本体31は前記実施形態のように湾曲板(帯)状であっても、平板状であってもよい。
【0068】
また、流動翼3としてリボン翼が用いられた場合、流動翼本体31を前記実施形態のように上部翼311に関して周方向に対し等間隔(前記実施形態では180°間隔)、下部翼312に関して周方向に対し等間隔(前記実施形態では180°間隔)で2枚用いる構成に限定されない。流動翼本体31の配置範囲に関しては90°~360°の任意の角度とでき、また、流動翼本体31の枚数につき1枚または3枚以上の任意の枚数に設定できる。
【0069】
また、ディスパー翼4を上下多段に複数設けることもできる。この場合、各段のディスパー翼4の形状を異なるものとすることもできる。また、流動翼3を複数設けることもできる。ディスパー翼4を上下多段に複数設ける場合、ガイドリング5は上下に連続して設けるより、各段のディスパー翼4に対応して複数設ける方が好ましい。
【0070】
また、前記実施形態のディスパー翼4では、板状部41の一部を切り取ることでフィン部44と共に貫通孔45が形成されていたが、例えば板状部41に別の板状体を溶接することで、フィン部44のみを形成することもできる。
【0071】
また、本実施形態の撹拌装置1はバッチ処理を行うものであるが、これに限定されず、撹拌対象物を連続して撹拌槽内に供給することにより連続処理することもできる。
【0072】
前記実施形態に関する構成と作用につき、以下にまとめて記載する。前記実施形態は、内周壁2aの横断面形状が円形である撹拌槽2と、前記撹拌槽2の内部に位置しており互いに独立して縦軸まわりに回転可能な少なくとも一つのリボン翼3及び少なくとも一つのディスパー翼4と、前記ディスパー翼4の径外近傍に設けられたガイドリング5と、を備え、前記リボン翼3及び前記ディスパー翼4の回転中心は同心であり、前記リボン翼3は前記撹拌槽2の内周壁2aに沿って設けられ、縦軸まわりに回転することで前記撹拌槽2内に存在する撹拌対象物に少なくとも下方に向かう流れFを形成し、前記ディスパー翼4は回転により撹拌対象物にせん断力を与えるもので、前記リボン翼3よりも前記撹拌槽2の径内の位置であって、かつ、前記リボン翼3により形成された撹拌対象物の流れFに接する位置に設けられたものであり、前記ガイドリング5は前記ディスパー翼4の外周縁4aと対向する内周面5aを有する撹拌装置1である。
【0073】
この構成によると、ガイドリング5の内部でディスパー翼4が回転することで、ガイドリング5における内周面5aとディスパー翼4の外周縁4aとの間にて高いせん断力を撹拌対象物に与えることができる。しかも、リボン翼3によって撹拌対象物をディスパー翼4に連続的に供給できることから、槽内での撹拌対象物の流れのバランスを良好にできる。
【0074】
また、前記ディスパー翼4は、回転する板状部41と、前記板状部41の外周縁において周方向に間隔を空けて設けられたせん断歯42…42と、前記板状部41の少なくとも上方または下方に突出した少なくとも一つのフィン部44と、を備えることもできる。
【0075】
この構成によると、ディスパー翼4におけるフィン部44により、板状部41近傍において撹拌対象物に強い流れを生じさせることができる。
【0076】
また、前記ディスパー翼4は、前記フィン部44に隣接し、前記板状部41を貫通する少なくとも一つの貫通孔45を備えることもできる。
【0077】
この構成によると、ディスパー翼4におけるフィン部44により貫通孔45に負圧を生じさせることで、対象物に板状部41を上下方向に通り抜ける流れを生じさせることができる。
【0078】
また、前記ガイドリング5の前記内周面5aにおける上下寸法5hは、前記ディスパー翼4の前記外周縁4aにおける上下寸法4hよりも大きくすることもできる。
【0079】
この構成によると、高いせん断力を撹拌対象物に与えることができる領域である、ガイドリング5の内周面5aとディスパー翼4の外周縁4aとの間の領域を大きく確保できる。
【0080】
また、前記ガイドリング5の上方または下方に位置するバッフル6を備え、前記バッフル6は、前記ディスパー翼4によりせん断力を与えられた撹拌対象物を、前記ガイドリング5の前記内周面5aに囲まれた領域から径外位置へと導くものともできる。
【0081】
この構成によると、バッフル6によって撹拌対象物をガイドリング5の内周面5aに囲まれた領域から径外位置へと連続的に導くことができることから、槽内での撹拌対象物の流れのバランスを更に良好にできる。
【0082】
また、前記ディスパー翼4の前記外周縁4aと前記ガイドリング5の前記内周面5aとの径方向の距離Gは、前記撹拌槽2における前記内周壁2aの直径(内径)D2aに対して0%を超え10%以下とできる。
【0083】
この構成によると、例えば撹拌装置1を乳化に用いた場合、処理後の乳化液において分散した粒子の粒子径を微細化できる。
【0084】
また、前記ガイドリング5の前記内周面5aにおける上下寸法5hは、前記撹拌槽2における前記内周壁2aの直径D2aに対して0%を超え25%以下とできる。
【0085】
この構成によると、例えば撹拌装置1を乳化に用いた場合、処理後の乳化液において分散した粒子の粒子径を微細化できる。
【0086】
前記実施形態は、高いせん断力を撹拌対象物に与えることができ、しかも、槽内での撹拌対象物の流れのバランスを良好にできる。このため、特に高粘度の撹拌対象物に好適な撹拌装置を提供できる。
【符号の説明】
【0087】
1 撹拌装置
2 撹拌槽
2a 撹拌槽の内周壁
3 流動翼、リボン翼
4 ディスパー翼
4a ディスパー翼の外周縁
4h ディスパー翼の外周縁における上下寸法
41 板状部
42 せん断歯
44 フィン部
45 貫通孔
5 ガイドリング
5a ガイドリングの内周面
5h ガイドリングの内周面における上下寸法
6 バッフル
F 撹拌対象物の流れ、誘導流
X ガイドリングの内周面に囲まれた領域
G ディスパー翼の外周縁とガイドリングの内周面との径方向の距離
D2a 撹拌槽における内周壁の直径(内径)
図1
図2
図3
図4A
図4B
図5A
図5B
図5C
図6A
図6B
図6C
図6D
図7A
図7B
図7C
図7D
図8
図9
図10
図11
図12