(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】移動基地局を用いて推定地点毎の通信可能指数を推定する装置、プログラム及び方法
(51)【国際特許分類】
H04W 64/00 20090101AFI20220203BHJP
H04W 84/00 20090101ALI20220203BHJP
【FI】
H04W64/00
H04W84/00 110
(21)【出願番号】P 2020056715
(22)【出願日】2020-03-26
【審査請求日】2021-08-16
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000208891
【氏名又は名称】KDDI株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135068
【氏名又は名称】早原 茂樹
(72)【発明者】
【氏名】堺 拓郎
(72)【発明者】
【氏名】北辻 佳憲
【審査官】米倉 明日香
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2020/0051445(US,A1)
【文献】特開2019-27791(JP,A)
【文献】特開2004-233100(JP,A)
【文献】特開2018-157249(JP,A)
【文献】特開2016-163165(JP,A)
【文献】特開2017-184204(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04B 7/24- 7/26
H04W 4/00-99/00
3GPP TSG RAN WG1-4
SA WG1-4
CT WG1、4
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動基地局を用いて推定地点毎の通信可能指数を推定する推定装置であって、
地域の地形データを記憶した地形データベースと、
移動基地局が進行する所定方向、所定高度及び所定速度を設定する基地局進行設定手段と、
地形データベースを用いて、任意の1つ以上の推定地点を予め記憶する推定地点記憶手段と、
進行中の移動基地局が放射した電波に対して端末からの信号を検知した際における、当該移動基地局の検知地点を記憶する検知地点記憶手段と、
検知地点における移動基地局の電波範囲内に存在する1つ以上の推定地点を決定する推定地点決定手段と、
検知地点における移動基地局の電波範囲内で当該移動基地局の進行距離を等間隔に区分した位置上の所定高度となる複数の進行区分点を決定する進行区分点決定手段と、
推定地点毎に、地形データベースを用いて、各進行区分点に対する見通し有無を判定する見通し判定手段と、
推定地点毎に、全ての進行区分点数に対する見通し有りの進行区分点数の割合を、通信可能指数として算出する通信可能指数算出手段と
を有することを特徴とする推定装置。
【請求項2】
基地局進行設定手段は、当該端末が移動基地局からの電波の検知を判定する時間間隔よりも、各推定地点における進行中の移動基地局が照射する電波範囲内に存在し続ける時間間隔が長くなるように、当該移動基地局の進行速度を設定する
ことを特徴とする請求項1に記載の推定装置。
【請求項3】
通信可能指数算出手段は、推定地点が進行中の移動基地局の電波範囲内にあるにも拘わらず、当該移動基地局が端末からの信号を検知しなかった場合、当該推定地点における通信可能指数は0となる
ことを特徴とする請求項2に記載の推定装置。
【請求項4】
移動基地局は、空中移動可能な飛行物体であり、
移動基地局の電波範囲は、電波到達距離を半径とする円状範囲である
ことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項5】
基地局進行設定手段は、所定地域範囲に対して当該移動基地局が放射する電波が重畳するように、当該移動基地局が複数の異なる方向へ移動するべく設定されており、
推定地点毎に、当該移動基地局の複数の異なる方向への移動における複数の通信可能指数を加算した総通信可能指数を算出する総通信可能指数算出手段を更に有する
ことを特徴とする請求項1から4のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項6】
基地局進行設定手段は、移動基地局の所定方向が、所定地域範囲に対して格子状に四方を移動するように設定する
ことを特徴とする請求項5に記載の推定装置。
【請求項7】
総通信可能指数が閾値以下となる推定地点を結んで、地図上に通信エリアマップの境界線を作成する通信エリアマップ作成手段を更に有する
ことを特徴とする請求項5又は6に記載の推定装置。
【請求項8】
見通し判定手段は、推定地点から見た各進行区分点に対して見通しが無くても、地形データに基づいて電波回折が所定条件以下となる判定した場合、見通し有りと判定する
ことを特徴とする請求項1から7のいずれか1項に記載の推定装置。
【請求項9】
移動基地局を用いて推定地点毎の通信可能指数を推定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
地域の地形データを記憶した地形データベースと、
移動基地局が進行する所定方向、所定高度及び所定速度を設定する基地局進行設定手段と、
地形データベースを用いて、任意の1つ以上の推定地点を予め記憶する推定地点記憶手段と、
進行中の移動基地局が放射した電波に対して端末からの信号を検知した際における、当該移動基地局の検知地点を記憶する検知地点記憶手段と、
検知地点における移動基地局の電波範囲内に存在する1つ以上の推定地点を決定する推定地点決定手段と、
検知地点における移動基地局の電波範囲内で当該移動基地局の進行距離を等間隔に区分した位置から所定高度となる複数の進行区分点を決定する進行区分点決定手段と、
推定地点毎に、地形データベースを用いて、各進行区分点に対する見通し有無を判定する見通し判定手段と、
推定地点毎に、全ての進行区分点数に対する見通し有りの進行区分点数の割合を、通信可能指数として算出する通信可能指数算出手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とするプログラム。
【請求項10】
移動基地局を用いて推定地点毎の通信可能指数を推定する装置の推定方法であって、
装置は、
地域の地形データを記憶した地形データベースと、
移動基地局が進行する所定方向、所定高度及び所定速度を設定する移動基地局設定部と、
地形データベースを用いて、任意の1つ以上の推定地点を予め記憶する推定地点記憶部と、
進行中の移動基地局が放射した電波に対して端末からの信号を検知した際における、当該移動基地局の検知地点を記憶する検知地点記憶部と
を有し、
検知地点における移動基地局の電波範囲内に存在する1つ以上の推定地点を決定する第1のステップと、
検知地点における移動基地局の電波範囲内で当該移動基地局の進行距離を等間隔に区分した位置から所定高度となる複数の進行区分点を決定する第2のステップと、
推定地点毎に、地形データベースを用いて、各進行区分点に対する見通し有無を判定する第3のステップと、
推定地点毎に、全ての進行区分点数に対する見通し有りの進行区分点数の割合を、通信可能指数として算出する第4のステップと
を実行することを特徴とする装置の推定方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、移動基地局を用いて、携帯端末の滞在位置を推定する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
災害時における人命救助を目的として、端末から位置情報を取得するためのガイドラインが公開されている(例えば非特許文献1参照)。ここでは、位置登録に基づく基地局情報と、端末で測位可能なGPS(Global Positioning System)情報とが利用されている。端末が、コアネットワークに対して位置登録に基づく認証シーケンスを実行することによって、基地局情報が取得される。また、スマートフォンのような端末は、一般的にGPS機能を搭載しており、そのGPS情報をサーバへ送信する。
【0003】
一方で、当然のことながら、広域無線システムによれば、基地局からの電波が到達しない地域範囲では、携帯端末の位置を特定することはできない。例えば災害時における基地局の障害や、僻地での人の遭難の場合には、携帯端末は、基地局と通信をすることができない。
【0004】
これに対し、災害によって基地局のバックホール回線が切断された場合に、基地局に備えられた簡易的なコアネットワーク設備及び認証設備を用いて、端末に対して限定的な通信サービスを提供する技術がある(例えば非特許文献2参照)。このような基地局は、移動型であって、携帯端末から登録要求によって受信した位置情報と、携帯端末で測位されたGPS情報とのいずれも利用可能となる。
【0005】
また、移動基地局が、簡易的なコアネットワーク及び認証設備を備え、移動した複数の地点で携帯端末からの位置登録を成功させることによって、当該携帯端末の滞在位置の検出精度を向上させる技術もある(例えば特許文献1及び2参照)。但し、この技術によれば、地域範囲に対する移動基地局の網羅的な移動制御や、電波到達範囲については考慮していない。
更に、移動基地局が、簡易的なコアネットワークを備え、認証設備を備えていなくても、携帯端末をコアネットワークに接続させて、当該携帯端末のGPS情報を収集する技術もある(例えば特許文献3参照)。
更に、移動基地局が、認証設備が無くても、移動した複数の地点で携帯端末から発信される信号の電波強度によって位置を推定する技術もある(例えば特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2016-163165号公報
【文献】特開2019-027791号公報
【文献】特開2017-103694号公報
【文献】特開2017-208722号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】総務省, 「人命救助等における GPS位置情報の取扱いに関するとりまとめ,”報道資料, 2013年 7月、[online]、[令和2年3月12日検索]、インターネット<URL:http://www.soumu.go.jp/main_content/000237319.pdf>
【文献】3GPP, TR 22.897、「Study on isolated Evolved Universal Terrestrial Radio Access Network (E-UTRAN) operation for public safety」
【文献】「auサービスエリアマップ」、[online]、[令和2年3月12日検索]、インターネット<URL:http://www13.info-mapping.com/au/map/index.aspx?maptype=lte&code=13>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述した特許文献1~3に記載の技術によれば、移動基地局は、広域無線通信システムの位置登録シーケンスを自ら実行する必要がある。この場合、移動基地局は、携帯端末を認証する簡易コアネットワークを予め備える必要がある。また、何れに位置するかわからない携帯端末を発見するためには、移動基地局の移動を網羅的に制御する必要もある。この場合、移動基地局は、高い位置精度で携帯端末を発見するために比較的狭い電波照射範囲で、自ら移動しながら携帯端末を発見しようとする。これに対し、携帯端末は、自らGPSによって測位し、その位置情報を移動基地局へ送信する必要がある。
また、特許文献1~4に記載の技術によれば、携帯端末は、常時、基地局からの電波の受信を待機すると共に、一定の送信電力で信号を送信しなければならない。
【0009】
しかしながら、携帯端末は、基地局からの信号を常時待機するほど、及び/又は、GPSを常時起動するほど、バッテリの蓄電量の消費を早めてしまう。このような制御のために、携帯端末が発見用アプリを常時起動しておくことは、更なる電力消費につながる。
また、被災地や僻地では、ユーザ自ら携帯端末を操作できない環境にある場合も多い。
最終的に、携帯端末のバッテリが完全に切れてしまうと、そのユーザを発見する手段が全く無くなってしまう。
【0010】
携帯端末は、基地局と通信できない圏外時の無線動作として、バッテリの消費を軽減するために、基地局から到来する電波を間欠的にウォッチする(インターバル時間間隔毎に検知動作を起動する)。インターバル時間間隔に、移動基地局が通過してしまった場合、当然、その移動基地局の電波を検知することはできない。
また、携帯端末にとって移動基地局が比較的近い空中を進行していても、当該携帯端末周辺の地形(地形の高度)の遮蔽によって、移動基地局に対する見通しが無く、当該移動基地局から到来する電波を受信できない場合もある。
【0011】
これに対し、本願の発明者は、地形データを用いて、移動基地局からの信号を受信した検知地点に基づく各推定地点と、当該移動基地局に対する見通しから、推定地点毎に「通信可能指数」を推定することができるのではないか、と考えた。
また、移動基地局が、地域を網羅的に異なる方向への進行を複数回繰り返し、携帯端末からの信号を受信した検知地点を収集することによって、携帯端末の滞在位置を大凡推定することができるのではないか、と考えた。
【0012】
そこで、本発明は、移動基地局を用いて推定地点毎の通信可能指数を推定する装置、プログラム及び方法を提供することを目的とする。また、それら通信可能指数の加算から、携帯端末の滞在位置を大凡推定しようとする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明によれば、移動基地局を用いて推定地点毎の通信可能指数を推定する推定装置であって、
地域の地形データを記憶した地形データベースと、
移動基地局が進行する所定方向、所定高度及び所定速度を設定する基地局進行設定手段と、
地形データベースを用いて、任意の1つ以上の推定地点を予め記憶する推定地点記憶手段と、
進行中の移動基地局が放射した電波に対して端末からの信号を検知した際における、当該移動基地局の検知地点を記憶する検知地点記憶手段と、
検知地点における移動基地局の電波範囲内に存在する1つ以上の推定地点を決定する推定地点決定手段と、
検知地点における移動基地局の電波範囲内で当該移動基地局の進行距離を等間隔に区分した位置上の所定高度となる複数の進行区分点を決定する進行区分点決定手段と、
推定地点毎に、地形データベースを用いて、各進行区分点に対する見通し有無を判定する見通し判定手段と、
推定地点毎に、全ての進行区分点数に対する見通し有りの進行区分点数の割合を、通信可能指数として算出する通信可能指数算出手段と
を有することを特徴とする。
【0014】
本発明の推定装置における他の実施形態によれば、
基地局進行設定手段は、当該端末が移動基地局からの電波の検知を判定する時間間隔よりも、各推定地点における進行中の移動基地局が照射する電波範囲内に存在し続ける時間間隔が長くなるように、当該移動基地局の進行速度を設定する
ことも好ましい。
【0015】
本発明の推定装置における他の実施形態によれば、
通信可能指数算出手段は、推定地点が進行中の移動基地局の電波範囲内にあるにも拘わらず、当該移動基地局が端末からの信号を検知しなかった場合、当該推定地点における通信可能指数は0となる
ことも好ましい。
【0016】
本発明の推定装置における他の実施形態によれば、
移動基地局は、空中移動可能な飛行物体であり、
移動基地局の電波範囲は、電波到達距離を半径とする円状範囲である
ことも好ましい。
【0017】
本発明の推定装置における他の実施形態によれば、
基地局進行設定手段は、所定地域範囲に対して当該移動基地局が放射する電波が重畳するように、当該移動基地局が複数の異なる方向へ移動するべく設定されており、
推定地点毎に、当該移動基地局の複数の異なる方向への移動における複数の通信可能指数を加算した総通信可能指数を算出する総通信可能指数算出手段を更に有する
ことも好ましい。
【0018】
本発明の推定装置における他の実施形態によれば、
基地局進行設定手段は、移動基地局の所定方向が、所定地域範囲に対して格子状に四方を移動するように設定する
ことも好ましい。
【0019】
本発明の推定装置における他の実施形態によれば、
総通信可能指数が閾値以下となる推定地点を結んで、地図上に通信エリアマップの境界線を作成する通信エリアマップ作成手段を更に有する
ことも好ましい。
【0020】
本発明の推定装置における他の実施形態によれば、
見通し判定手段は、推定地点から見た各進行区分点に対して見通しが無くても、地形データに基づいて電波回折が所定条件以下となる判定した場合、見通し有りと判定する
ことも好ましい。
【0021】
本発明によれば、移動基地局を用いて推定地点毎の通信可能指数を推定する装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムであって、
地域の地形データを記憶した地形データベースと、
移動基地局が進行する所定方向、所定高度及び所定速度を設定する基地局進行設定手段と、
地形データベースを用いて、任意の1つ以上の推定地点を予め記憶する推定地点記憶手段と、
進行中の移動基地局が放射した電波に対して端末からの信号を検知した際における、当該移動基地局の検知地点を記憶する検知地点記憶手段と、
検知地点における移動基地局の電波範囲内に存在する1つ以上の推定地点を決定する推定地点決定手段と、
検知地点における移動基地局の電波範囲内で当該移動基地局の進行距離を等間隔に区分した位置から所定高度となる複数の進行区分点を決定する進行区分点決定手段と、
推定地点毎に、地形データベースを用いて、各進行区分点に対する見通し有無を判定する見通し判定手段と、
推定地点毎に、全ての進行区分点数に対する見通し有りの進行区分点数の割合を、通信可能指数として算出する通信可能指数算出手段と
してコンピュータを機能させることを特徴とする。
【0022】
本発明によれば、移動基地局を用いて推定地点毎の通信可能指数を推定する装置の推定方法であって、
装置は、
地域の地形データを記憶した地形データベースと、
移動基地局が進行する所定方向、所定高度及び所定速度を設定する移動基地局設定部と、
地形データベースを用いて、任意の1つ以上の推定地点を予め記憶する推定地点記憶部と、
進行中の移動基地局が放射した電波に対して端末からの信号を検知した際における、当該移動基地局の検知地点を記憶する検知地点記憶部と
を有し、
検知地点における移動基地局の電波範囲内に存在する1つ以上の推定地点を決定する第1のステップと、
検知地点における移動基地局の電波範囲内で当該移動基地局の進行距離を等間隔に区分した位置から所定高度となる複数の進行区分点を決定する第2のステップと、
推定地点毎に、地形データベースを用いて、各進行区分点に対する見通し有無を判定する第3のステップと、
推定地点毎に、全ての進行区分点数に対する見通し有りの進行区分点数の割合を、通信可能指数として算出する第4のステップと
を実行することを特徴とする。
【発明の効果】
【0023】
本発明の装置、プログラム及び方法によれば、移動基地局を用いて推定地点毎の通信可能指数を推定することができる。また、それら通信可能指数の加算から、携帯端末の滞在位置を大凡推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】任意の地点から移動中の基地局への見通しの関係を表す説明図である。
【
図2】本発明における推定装置の機能構成図である。
【
図3】移動基地局の検知地点と各推定地点との位置関係を表す説明図である。
【
図4】本発明における2方向へ進行した移動基地局と推定地点との位置関係を表す説明図である。
【
図5】本発明における4方向へ進行した移動基地局と推定地点との位置関係を表す説明図である。
【
図6】
図4について通信可能指数が所定閾値以上となる境界線を表す説明図である。
【
図7】
図5について総通信可能指数が所定閾値以上となる境界線を表す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の実施の形態について、図面を用いて詳細に説明する。
【0026】
図1は、任意の地点から移動中の基地局への見通しを表す説明図である。
【0027】
移動基地局2は、空中で移動可能な飛行物体に、基地局機能を搭載されたものである。例えばドローンやヘリコプタ、飛行船又は気球に搭載されたものであってもよい。また、移動基地局2は、GPSに基づいて地図上の現在位置(緯度経度)を測位しながら、自律的に移動することができる。その移動は、推定装置1から受信した進行制御情報(方向、高度及び速度)に応じて制御される。本発明の実施形態としては、移動基地局2は、広域無線通信に適用したものとして説明するが、勿論、狭域無線通信に適用したものであってもよい。
【0028】
図1(a)は、地形を上空から見た、移動基地局2の進行を表している。
図1(b)は、地形を側面から見た、移動基地局2の進行を表している。
図1(a)及び(b)には、同一の推定地点が明示されている。推定地点は、側面から見ると、地形の高度によっては、移動基地局2と常に見通しがとれているわけではない。例えば山の麓にある推定地点では、進行中の移動基地局2に対して見通しがとれている時間が短くなる。
【0029】
本発明によれば、任意の推定地点から見て、進行中の移動基地局2との見通しがとれるか否かを、地形データに応じて判定する。進行中の複数の判定結果から、当該推定地点における「通信可能指数」を推定する。
<第1の実施形態:推定地点における通信可能指数の算出>
また、本発明によれば、同一の地域範囲に対して、移動基地局2が複数の異なる方向へ移動することによって、推定地点毎に「通信可能指数」を加算することができる。総通信可能指数が高い地域ほど、当該携帯端末が滞在している可能性が高いと大凡推定することができる。
<第2の実施形態:通信可能指数の加算に基づく携帯端末の滞在地域の推定>
【0030】
図2は、本発明における推定装置の機能構成図である。
【0031】
図2によれば、推定装置1は、移動基地局2を用いて、推定地点の「通信可能指数」を推定する。推定装置1は、移動基地局2と無線通信しながらリアルタイムに実行されるものであってもよいし、移動基地局2が移動中に携帯端末を検知した地点を収集した後、バッチ的に実行されるものであってもよい。
推定装置1は、地形データベース100と、基地局進行設定部101と、推定地点記憶部102と、検知地点記憶部103と、推定地点決定部11と、進行区分点決定部12と、見通し判定部13と、通信可能指数算出部14と、総通信可能指数算出部15と、通信エリアマップ作成部16とを有する。これら機能構成部は、推定装置に搭載されたコンピュータを機能させるプログラムを実行することによって実現できる。また、これら機能構成部の処理の流れは、推定方法しても理解できる。
【0032】
[地形データベース100]
地形データベース100は、地域の地形データを記憶したものである。地形データは、例えば地図と地形とを合成した3D地図データである。即ち、地図上に高度が表現されたものであり、等高線状の地図データであってもよい。
【0033】
[基地局進行設定部101]
基地局進行設定部101は、移動基地局2が進行する進行制御情報(方向、高度及び速度)を設定し、移動基地局2へ送信する。移動基地局2は、受信した進行制御情報に応じて、空中で自律的に進行する。
同一の地域範囲に対して、複数の進行制御情報が設定されることが好ましい。
(設定1)出発緯度経度(x1,y1)、方向(東->西)、高度(200m)、速度(30km/h)
(設定2)出発緯度経度(x2,y2)、方向(西->東)、高度(200m)、速度(30km/h)
(設定3)出発緯度経度(x3,y3)、方向(東->西)、高度(200m)、速度(30km/h)
・・・・・・
【0034】
基地局進行設定部101は、携帯端末が基地局をウォッチする時間間隔(インターバル時間間隔)に応じて、移動基地局の速度を決定する必要がある。
一般的に、携帯端末は、基地局と通信できない圏外時の無線動作として、バッテリの消費を軽減するために、基地局から到来する電波を間欠的にウォッチする。ウォッチする時間間隔に、移動基地局が通過してしまった場合、当該移動基地局の電波を検知することができない。
そのために、基地局進行設定部101は、携帯端末のインターバル時間間隔よりも、各推定地点における進行中の移動基地局が照射する電波範囲内に存在し続ける時間間隔が長くなるように、当該移動基地局の進行速度を設定する。
【0035】
例えば、移動基地局2の進行速度を半分にして、1方向の進行における無線連続照射時間×2回とすることで、1方向の進行における携帯端末からの信号の受信可能性を高めることもできる。基地局進行設定部101は、携帯端末を発見する用途及び目的に応じて、移動基地局2の進行制御情報を適宜選択する。
【0036】
[推定地点記憶部102]
推定地点記憶部102は、地形データベース100を用いて、任意の1つ以上の「推定地点(緯度経度)」を予め記憶する。例えば地図平面を、正方形でメッシュ状に区分し、正方形の各格子点を推定地点とするものであってもよい。
尚、推定地点の粒度が高いほど(正方形の格子点間の距離が短いほど)、通信可能指数の精度を高めることができる一方で、処理の計算量が増大する。通信可能指数の精度と処理の計算量とは、トレードオフの関係にある。
【0037】
[検知地点記憶部103]
検知地点記憶部103は、進行中の移動基地局2が放射した電波に対して端末からの信号を検知した際における、当該移動基地局2の「検知地点(緯度経度)」を記憶する。
移動基地局2は、例えばGPSの測位電波を受信しており、自らの現在位置を測位することができる。その現在位置を検知地点として、推定装置1へ送信する。推定装置1は、移動基地局2から受信した検知地点を、検知地点記憶部103で記憶する。
【0038】
[推定地点決定部11]
推定地点決定部11は、「検知地点」における移動基地局の電波範囲内に存在する1つ以上の「推定地点」を決定する。
【0039】
図3は、移動基地局の検知地点と各推定地点との位置関係を表す説明図である。
【0040】
図3(a)は、移動基地局2を上空から見て、「検知地点」における電波の照射範囲と、その照射範囲に含まれる複数の「推定地点」とを表している。
移動基地局2は、電波を照射しながら空中を進行する。移動基地局2の電波範囲は、電波到達距離を半径とする円状範囲となり、その範囲内に滞在する携帯端末と通信可能となる。
進行中の移動基地局2は、任意の地点(検知地点)で、携帯端末からの信号を受信したとする。このとき、移動基地局2から見て、何れの位置に携帯端末が滞在しているかは不明であるが、少なくとも円状電波範囲内に滞在していることは確かである。
このとき、円状電波範囲内に存在する複数の推定地点を決定する。
図3(a)によれば、正方形をメッシュ状に区分した各格子点が、推定地点となる。例えば推定地点Aにおける通信可能指数を推定しようとするが、現実的には、端末は、全く異なる位置に滞在していてもよい。
【0041】
[進行区分点決定部12]
進行区分点決定部12は、検知地点における移動基地局2の電波範囲内で当該移動基地局2の進行距離を等間隔に区分した位置上の所定高度となる複数の「進行区分点」を決定する。
【0042】
図3(b)は、地形を側面から見て、推定地点Aから進行中の移動基地局2に対する見通しを表している。
推定地点Aから見て、進行中の移動基地局2は常に見通しがとれているわけでない。地形によっては見通しがとれていない場合もある。
図3(b)によれば、移動基地局2の直線的な進行経路を、推定地点同士と同じ距離(格子点間の距離)に、進行区分点を置いている。
【0043】
[見通し判定部13]
見通し判定部13は、「推定地点」毎に、地形データベース100を用いて、各「進行区分点」に対する見通し有無を判定する。
他の実施形態として、見通し判定部13は、推定地点から見た各進行区分点に対して見通しが無くても、地形データに基づいて電波回折が所定条件以下となる判定した場合、見通し有りと判定するものであってもよい。電波回折とは、例えば推定地点と進行区分点とを間で地形が遮断する角度であってもよい。例えば進行区分点から遮断地形までの直線と、遮断地形から推定地点までの直線とが、所定角度(例えば20度)以下である場合には、見通し有りと判定してもよい。
【0044】
<第1の実施形態:推定地点における通信可能指数の算出>
第1の実施形態によれば、移動基地局が1つの方向へ移動した場合における複数の通信可能指数を説明する。
【0045】
[通信可能指数算出部14]
通信可能指数算出部14は、携帯端末からの信号を検知した検知地点から、電波範囲内に規定された推定地点(正方形に区分した格子点)毎に、移動基地局の一方向の移動経路上の「全ての進行区分点数」に対する「見通し有りの進行区分点数」の割合を、「通信可能指数(通信可能な尤度)」として算出する。
即ち、移動基地局2の進行区分点から、推定地点に対して、見通しを遮断する地形の高低差があるか否か(電波が到達するか否か)を判定する。
推定地点と進行区分点との間に直線的な見通し有り=1
推定地点と進行区分点との間に直線的な見通し無し=0
例えば端末からの信号が検知された際に、
通信可能指数=
(推定地点から見た見通し有りの進行区分点数)/(全ての進行区分点数)
例えば
図3(b)の場合、以下のようになる。
推定地点Aの通信可能指数=5/7
=0.714
一方で、通信可能指数算出部14は、推定地点が進行中の移動基地局の電波範囲内にあるにも拘わらず、当該移動基地局が端末からの信号を検知しなかった場合、当該推定地点における通信可能指数は0となる。即ち、検知地点が無い場合における移動基地局の電波範囲内の各推定地点は、通信可能指数は0となる。
【0046】
<第2の実施形態:通信可能指数の加算に基づく携帯端末の滞在地域の推定>
第2の実施形態によれば、移動基地局が複数の異なる方向へ移動した場合における複数の通信可能指数を説明する。
【0047】
[総通信可能指数算出部15]
総通信可能指数算出部15は、推定地点毎に、当該移動基地局の複数の異なる方向への移動における複数の通信可能指数を加算した総通信可能指数を算出する。
【0048】
図4は、本発明における2方向へ進行した移動基地局と推定地点との位置関係を表す説明図である。
図4によれば、移動基地局2について第1の進行及び第2の進行が表されている。ここで、第1の進行の際に通信可能指数が算出された推定地点と、第2の進行の際に通信可能指数が算出された推定地点とが重畳する場合がある。この重畳した推定地点について、2つの通信可能指数を加算した総通信可能指数を算出する。総通信可能指数は、数値幅が広がり、通信可能性の精度が高まる。総通信可能指数が最も高い推定地点には、移動基地局2へ信号を送信した当該携帯端末が滞在する確率も高いともいえる。
【0049】
図5は、本発明における4方向へ進行した移動基地局と推定地点との位置関係を表す説明図である。
図5によれば、移動基地局2について第1の進行~第4の進行が表されている。ここで、第1の進行~第4の進行それぞれで4回の通信可能指数が算出される推定地点もある。この推定地点は、4つの方向で進行する移動基地局2からの電波範囲が重畳した地域である。この重畳した推定地点では、4つの通信可能指数を加算した総通信可能指数が最も高い推定地点には、移動基地局2へ信号を送信した当該携帯端末が滞在する確率が高いともいえる。
【0050】
図4及び
図5のように、基地局進行設定部101は、所定地域範囲に対して当該移動基地局が放射する電波が重畳するように、当該移動基地局が複数の異なる方向へ移動するべく設定されることが好ましい。
図5によれば、基地局進行設定部101は、移動基地局の所定方向が、所定地域範囲に対して格子状に四方を移動するように設定されている。
【0051】
[通信エリアマップ作成部16]
通信エリアマップ作成部16は、総通信可能指数が閾値以下となる推定地点を結んで、地図上に通信エリアマップの境界線を作成する。広域無線通信網における通信エリアマップは、地図上に、通信可能エリア/通信不可エリアを表したものである(例えば非特許文献3参照)。
【0052】
図6は、
図4について通信可能指数が所定閾値以上となる境界線を表す説明図である。
【0053】
図6によれば、携帯端末からの信号を受信した検知地点を中心に、電波到達範囲内にある各推定地点の通信可能指数を表したものである。各推定地点には、移動基地局2の移動距離における進行区分点に対する見通しに基づく通信可能指数が付与されている。
ここでは、通信可能指数が0.7以上となる推定地点と、それ以外の推定地点との間を境界線で結んでいる。この境界線を挟んで、移動基地局と推定地点との見通しを遮断するような地形の高低差があることが認識できる。
【0054】
図7は、
図5について総通信可能指数が所定閾値以上となる境界線を表す説明図である。
【0055】
図7によれば、
図4のように移動基地局2が異なる2方向へ進行した際に、その電波範囲として重畳した推定地点における総通信可能指数を表したものである。ここでは、総通信可能指数が1.0以上となる推定地点と、それ以外の推定地点との間を境界線で結んでいる。この境界線を挟んで、携帯端末が滞在する位置の推定候補とすることができる。
図7によれば、総通信可能指数1.5~1.6となる推定地点に、携帯端末が滞在している可能性が高いと判定することができる。
【0056】
他の実施形態として、総通信可能指数が高い地域範囲に限定して携帯端末を発見することができるように、以下のようなパターンで制御することも好ましい。
(パターン1)
移動基地局2が進行しても携帯端末からの信号を受信しなかった場合で、且つ、地形の標高が比較的低い地域範囲について、移動基地局の進行速度を遅くし、各推定地点に対する電波照射時間を長くする。
(パターン2)
移動基地局2の進行によって携帯端末からの信号を受信した場合で、且つ、総通信可能指数に加算すべき各通信可能指数の差が所定閾値以下と小さく、地形の標高が比較的低い地域範囲について、移動基地局の進行方向を増加(例えば4方向)させて各推定地点に対して異なる方向から電波を照射する。
(パターン3)
移動基地局2の進行によって携帯端末からの信号を受信した場合で、且つ、総通信可能指数に加算すべき各通信可能指数の差が所定閾値よりも大きく、地形の標高が比較的高い地域範囲について、推定地点の密度を高くし(推定地点間の距離を長くし)、移動基地局の進行方向を増加(例えば4方向)させて各推定地点に対して異なる方向から電波を照射する。
【0057】
以上、詳細に説明したように、本発明の装置、プログラム及び方法によれば、移動基地局を用いて推定地点毎の通信可能指数を推定することができる。また、それら通信可能指数の加算から、携帯端末の滞在位置を大凡推定することができる。
【0058】
特に、特定の通信事業者に依存すること無く、移動基地局の運用制御のみによって、携帯端末の滞在位置を推定することができる。また、移動基地局は自律的に移動可能であって、人手を要することなく携帯端末を発見することができる。
【0059】
前述した本発明の種々の実施形態について、本発明の技術思想及び見地の範囲の種々の変更、修正及び省略は、当業者によれば容易に行うことができる。前述の説明はあくまで例であって、何ら制約しようとするものではない。本発明は、特許請求の範囲及びその均等物として限定するものにのみ制約される。
【符号の説明】
【0060】
1 推定装置
100 地形データベース
101 基地局進行設定部
102 推定地点記憶部
103 検知地点記憶部
11 推定地点決定部
12 進行区分点決定部
13 見通し判定部
14 通信可能指数算出部
15 総通信可能指数算出部
16 通信エリアマップ作成部
2 移動基地局