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特許7005740吸油能力が向上した不織セルロース繊維布帛、方法、装置、及び、製品または複合体
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  • 特許-吸油能力が向上した不織セルロース繊維布帛、方法、装置、及び、製品または複合体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】吸油能力が向上した不織セルロース繊維布帛、方法、装置、及び、製品または複合体
(51)【国際特許分類】
   D04H 3/013 20120101AFI20220117BHJP
   D01F 2/00 20060101ALI20220117BHJP
   D04H 3/018 20120101ALI20220117BHJP
   D01D 5/098 20060101ALI20220117BHJP
   A61F 13/511 20060101ALI20220117BHJP
   A61F 13/514 20060101ALI20220117BHJP
   A61F 13/53 20060101ALI20220117BHJP
   A61F 13/15 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
D04H3/013
D01F2/00 Z
D04H3/018
D01D5/098
A61F13/511 300
A61F13/514 100
A61F13/53 300
A61F13/15 300
【請求項の数】 13
(21)【出願番号】P 2020503092
(86)(22)【出願日】2018-03-28
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 EP2018057885
(87)【国際公開番号】W WO2018184932
(87)【国際公開日】2018-10-11
【審査請求日】2019-11-28
(31)【優先権主張番号】17164623.5
(32)【優先日】2017-04-03
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】519355219
【氏名又は名称】レンツィング アクツィエンゲゼルシャフト
(74)【代理人】
【識別番号】110000877
【氏名又は名称】龍華国際特許業務法人
(72)【発明者】
【氏名】カーライル、トム
(72)【発明者】
【氏名】アインツマン、ミルコ
(72)【発明者】
【氏名】ゴールドハルム、ジセラ
(72)【発明者】
【氏名】ヘイハースト、マルコム ジョン
(72)【発明者】
【氏名】マイヤー、キャサリーナ
(72)【発明者】
【氏名】サゲラー-フォリク、イブラヒム
【審査官】櫛引 明佳
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-046861(JP,A)
【文献】特表2001-501260(JP,A)
【文献】特表2009-535521(JP,A)
【文献】特表2002-517630(JP,A)
【文献】特開2009-297535(JP,A)
【文献】特開2013-124435(JP,A)
【文献】特開2013-159880(JP,A)
【文献】特開2002-173863(JP,A)
【文献】特開2004-211283(JP,A)
【文献】特表2017-508899(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D04H 1/00-18/04
D01D 1/00-13/02
D01F 1/00-6/96
A41D 31/00
A61F 13/15
A61F 13/53
B32B 1/00-43/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
リヨセル紡糸溶液から直接製造される不織セルロース繊維布帛であって、
前記不織セルロース繊維布帛が、実質的に無端の繊維の網を備え、
全く同一の繊維内では、異なる繊維部分が、繊維径に関して、この繊維の最小直径に対して50%を超える差で異なり、
前記繊維の少なくとも一部が、併合位置で一体的に併合され,
前記繊維の併合因子が、0.5%~15%の範囲内にあり、
少なくともいくつかの個々の繊維が撚られており、それにより単一の繊維がそれ自体で撚られている、
不織セルロース繊維布帛。
【請求項2】
5分以内の液体拡散速度が、少なくとも4000mmである、
請求項1に記載の不織セルロース繊維布帛。
【請求項3】
前記不織セルロース繊維布帛内の第1の方向に沿って、液体拡散速度が第1の値を有し、
前記不織セルロース繊維布帛内の第2の方向に沿って、前記液体拡散速度が第2の値を有し、前記第2の方向が前記第1の方向に対して垂直であり、
前記第1の値と前記第2の値とが、互いに20%未満の差で異なる、または、
前記第1の値と前記第2の値とが、互いに20%を超える差で異なる、
請求項1または2に記載の不織セルロース繊維布帛。
【請求項4】
上速度が、布帛1グラム当たりおよび1秒当たり少なくとも水0.30グラムである、
請求項1から3のいずれか一項に記載の不織セルロース繊維布帛。
【請求項5】
前記繊維の異なるそれぞれが、異なる区別可能な層に少なくとも部分的に位置する、
請求項1からのいずれか一項に記載の不織セルロース繊維布帛。
【請求項6】
異なる繊維が、繊維径に関して、前記繊維のうち1本の最小直径に対して50%を超える差で異なる、
請求項1からのいずれか一項に記載の不織セルロース繊維布帛。
【請求項7】
前記網が、以下の特徴、すなわち、
前記繊維の少なくとも3%が、90%以下の真円度を有する非円形断面形状を有すること、
前記繊維の少なくとも1%が、80%以下の真円度を有する非円形断面形状を有すること
のうち少なくとも1つを含む、
請求項1からのいずれか一項に記載の不織セルロース繊維布帛。
【請求項8】
前記繊維が、5ppm未満の銅含有量および/または2ppm未満のニッケル含有量を有する、
請求項1からのいずれか一項に記載の不織セルロース繊維布帛。
【請求項9】
その繊維の最大繊維径と、その繊維の最小繊維径との比が1.5を超える繊維を含む、
請求項1からのいずれか一項に記載の不織セルロース繊維布帛。
【請求項10】
リヨセル紡糸溶液から、不織セルロース繊維布帛を直接製造する方法であって、
前記方法が、
オリフィスを有するジェットを介して、ガス流によって支持された前記リヨセル紡糸溶液を凝固流体雰囲気に押し出して、それにより、実質的に無端の繊維を形成する段階と、
繊維支持ユニット上に前記繊維を収集して、それにより、前記不織セルロース繊維布帛を形成する段階と、
(i)全く同一の繊維内では、異なる繊維部分が、繊維径に関して、この繊維の最小直径に対して50%を超える差で異なり、(ii)前記繊維の少なくとも一部が、併合位置で一体的に併合され、前記繊維の併合因子が0.5%~15%の範囲内であるように、製造プロセスのプロセスパラメータを調整する段階と
を備え、
前記プロセスパラメータを調整する段階は、前記ガス流の圧力及び/又は速度を変動させる段階を含む、
方法。
【請求項11】
リヨセル紡糸溶液から不織セルロース繊維布帛を直接製造するための装置であって、
前記装置が、
ガス流によって支持された前記リヨセル紡糸溶液を押し出すように構成されたオリフィスを有するジェットと、
押し出された前記リヨセル紡糸溶液に凝固流体雰囲気を提供して、それにより、実質的に無端の繊維を形成するように構成された凝固ユニットと、
前記繊維を収集して、それにより、前記不織セルロース繊維布帛を形成するように構成された繊維支持ユニットと、
(i)全く同一の繊維内では、異なる繊維部分が、繊維径に関して、この繊維の最小直径に対して50%を超える差で異なり、(ii)前記繊維の少なくとも一部が、併合位置で一体的に併合され、前記繊維の併合因子が0.5%~15%の範囲内であるように、プロセスパラメータを調整するよう構成された制御ユニットと、
を備え、
前記プロセスパラメータを制御することは、前記ガス流の圧力及び/又は速度を変動させることを含む、
装置。
【請求項12】
ワイプと、家庭用シートと、フィルタと、衛生製品と、医療用途製品と、ジオテキスタイルと、アグロテキスタイルと、衣類と、建築技術用製品と、自動車製品と、家具と、工業製品と、レジャー、美容、スポーツまたは旅行に関連する製品と、学校またはオフィスに関連する製品とからなる群のうち少なくとも1つに、
請求項1からのいずれか一項に記載の不織セルロース繊維布帛を使用する、
方法。
【請求項13】
請求項1からのいずれか一項に記載の不織セルロース繊維布帛を含む、
製品または複合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、不織セルロース繊維布帛、不織セルロース繊維布帛の製造方法、不織セルロース繊維布帛を製造するための装置、製品または複合体、およびそのような布帛の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
リヨセル技術は、セルロース木材パルプまたは他のセルロース系原料を極性溶媒(例えば、「アミンオキシド」または「AO」とも呼ばれ得るn-メチルモルホリンn-オキシド)に直接溶解して、様々な有用なセルロース系材料に変換することができる粘性の高い剪断減粘性溶液を生成することに関する。商業的には、この技術は、繊維産業で広く使用されているセルロース・ステープル・ファイバ(オーストリア、レンツィングのLenzing AGからTENCEL(登録商標)の商標の下に市販されている)の一群を製造するために使用される。また、リヨセル技術由来の他のセルロース製品も使用されている。
【0003】
セルロース・ステープル・ファイバは、不織ウェブへの変換のための成分として長い間使用されてきた。しかし、リヨセル技術を適応して不織ウェブを直接製造すると、現在のセルロースウェブ製品では不可能な特性および性能が得られるであろう。これは、合成繊維産業で広く使用されているメルトブローおよびスパンボンド技術のセルロース版と考えることができるが、重要な技術的相違のため合成ポリマー技術をリヨセルに直接適応することは不可能である。
【0004】
リヨセル溶液からセルロースウェブを直接形成する技術を開発するために多くの研究が行われてきた(とりわけ、国際公開第98/26122号パンフレット、国際公開第99/47733号パンフレット、国際公開第98/07911号パンフレット、米国特許第6,197,230号明細書、国際公開第99/64649号パンフレット、国際公開第05/106085号パンフレット、欧州特許第1358369号明細書、欧州特許第2013390号明細書)。国際公開第07/124521A1号パンフレットおよび国際公開第07/124522A1号パンフレットに追加の技術が開示されている。
【0005】
他のセルロース材料のように、不織セルロース繊維布帛では、液体、特に水または水溶液または分散液の吸収速度が限られている。しかし、ウェブなどの不織セルロース繊維布帛の多くの用途では、高い液体吸収速度または液体吸収速度が望ましい。
【発明の概要】
【0006】
不織セルロース繊維布帛が液体を吸収する速度を改善する必要がある場合がある。
【0007】
この必要性は、独立請求項に記載の主題によって満たされ得る。本発明の有利な実施形態は、従属請求項によって説明されている。
【0008】
本発明の第1の態様によれば、リヨセル紡糸溶液から直接製造され得る不織セルロース繊維布帛が提供される。提供される布帛は、実質的に無端の繊維の網を含む。提供される布帛は、5分以内に少なくとも3000mm2の液体拡散速度で吸水能力を示す。あるいは、または組み合わせて、布帛は、24時間以内に少なくとも3500mm2の液体拡散速度で吸水能力を示し得る。
【0009】
以下で単に「布帛」と呼ばれることが多い提供される布帛は、特にリヨセル紡糸溶液から布帛を直接製造するための適切なプロセスパラメータを使用することによって、少なくとも既知のセルロース製品と比較して、試験液体水に対する並外れた高い液体拡散速度によって反映される高い吸水能力を示す不織セルロース繊維布帛または繊維ウェブを提供することができるという考えに基づいている。これにより、多くの用途に対して、対応する不織セルロース繊維布帛製品の効率が向上するか、不織セルロース繊維布帛製品が新たな用途に利用できるようになる。
【0010】
本書に記載されている液体拡散速度の値は、0.5mlの試験流体が、ピペットによってサンプル(の表面)、すなわちそれぞれの布帛上に慎重にそれぞれゆっくりと供給される「液体拡散速度試験」に関するものである。試験対象サンプルは「単位面積質量」を有し、これは多くの場合、坪量とも呼ばれる。試験流体は、1リットル当たり2グラムの濃度の緑色染料を含む蒸留水である。ドイツ語では、使用される染料は「Sulfacidebrilliantgrun」と呼ばれる。この染料により、市販のカメラ、例えばCanonのixusタイプのカメラを用いた「拡散速度」測定の定量的評価が可能になる。カメラを用いて液体の拡散を検出することができる典型的な時点は、試験対象サンプル(の表面)に試験流体を供給してから5分後、および試験対象サンプル(の表面)に試験流体を供給してから24時間後である。
【0011】
「液体拡散速度試験」では、試験を開始する前に、完全乾燥状態に布帛を調整する必要がある。これにより、「完全乾燥」とは、布帛の製造(乾燥手順を含む)後、温度23℃±2℃、相対湿度50%±5%と規定される標準的気候で24時間にわたり布帛を調整したことを意味する。別途通知されない限り、あらゆる測定がこの標準的気候の下で実施されている。それとは対照的に、用語「完全湿潤」は、布帛に水が完全に充填されていること、すなわち、これ以上水を吸収できないことを意味し得る。
【0012】
特定の理論に縛られることなく、現在、不織セルロース繊維布帛の毛管現象は、吸水能力に、特に上記の特定の液体拡散速度に関連する吸水速度に強い影響を及ぼすと考えられている。具体的には、毛管現象は、隣接する繊維の間に形成される(微小)空洞またはチャネルの数および大きさに関連し、空洞は水粒子に対して程度の差はあるが適切な収容空間を提供する。
【0013】
さらに、不織セルロース繊維布帛を製造するためのプロセスのための実験的試験では、適切なプロセスパラメータを使用することによって、少なくとも既知のセルロース製品およびポリマー繊維製の製品と比較して、吸収される水に対する高い液体拡散速度を示す不織セルロース繊維布帛または繊維ウェブを製造することができることが明らかにされた。これにより、多くの用途に対して、対応する不織セルロース繊維布帛製品の効率が向上するか、不織セルロース繊維布帛製品が新たな用途に利用できるようになる。
【0014】
液体拡散の大きな値が望まれる場合、無端繊維を使用することが非常に重要であり得ることが指摘される。比較的短いステープル繊維から作られた既知の布帛とは対照的に、本書に記載されている布帛は、はるかに長い(実質的に無端の)繊維から作られている。結果として、記載された布帛内では、繊維端部の密度は著しく小さくなり、その結果、繊維に沿って移動する液体に対する障壁が減少する。これに関連して、繊維端部に関連するあらゆる隙間が、布帛を通って伝播する液体の障壁に寄与する。
【0015】
さらに、合成ポリマー無端繊維とは対照的に、記載された布帛に使用されるセルロース無端繊維は、液体吸収時に膨潤を示す。そのような膨潤は、液体の拡散に関する布帛の能力を促進するサブミクロンチャネルに影響を及ぼす。さらに、異なる繊維間の併合点は、液体の吸収時に膨潤する材料から構成される。したがって、併合点も液体の拡散を促進する。結果として、液体拡散速度を所望の値に合わせるための尺度として、併合因子の適応も使用することができる。併合点に関する追加の詳細については、以下でさらに説明される。
【0016】
特に、単位面積質量が小さい布帛の場合、吸収される水の液体拡散を改善することにより、例えば薄いワイプを必要とする多種多様な用途に記載された布帛を使用することができるという利点を有することができる。これに関連して、高い吸水速度を有する布帛であれば、他の液体に対しても高い吸収能力を有し得ることが言及される。これは特に水系液体、すなわち、水が溶媒として作用する液体に当てはまる。
【0017】
本出願の文脈では、用語「不織セルロース繊維布帛」(不織セルロースフィラメント布帛とも呼ばれ得る)は、特に、複数の実質的に無端の繊維から構成される布帛またはウェブを意味し得る。用語「実質的に無端の繊維」は、特に、従来のステープル繊維よりも著しく長い長さを有するフィラメント繊維という意味を有する。別の記述では、用語「実質的に無端の繊維」は、特に、従来のステープル繊維よりも体積当たりの繊維端部の量が著しく少ないフィラメント繊維から形成されたウェブという意味を有し得る。特に、本発明の例示的な実施形態による布帛の無端繊維は、10,000端部/cm未満、特に5,000端部/cm未満の体積当たりの繊維端部の量を有し得る。例えば、綿の代わりにステープル繊維を使用すると、長さは38mm(綿繊維の典型的な天然の長さに相当する)になり得る。これとは対照的に、不織セルロース繊維布帛の実質的に無端の繊維は、少なくとも200mm、特に少なくとも1000mmの長さを有し得る。しかし、当業者であれば、無端セルロース繊維であっても、繊維形成中および/または繊維形成後のプロセスによって形成され得る途切れを有する場合があるという事実を認識するであろう。結果として、実質的に無端のセルロース繊維から作られた不織セルロース繊維布帛は、同じデニールのステープル繊維から作られた不織布と比較して、質量当たりの繊維の数が著しく少ない。不織セルロース繊維布帛は、複数の繊維を紡糸し、好ましくは移動する繊維支持ユニットに向けて複数の繊維を細らせ、引き伸ばすことにより製造され得る。それにより、セルロース繊維の三次元網またはウェブが形成され、不織セルロース繊維布帛を構成する。布帛は、主要構成要素または唯一の構成要素としてのセルロースから作られてもよい。
【0018】
本出願の文脈では、用語「リヨセル紡糸溶液」は、特に、セルロース(例えば、木材パルプまたは他のセルロース系原料)が溶解される溶媒(例えば、N-メチル-モルホリン、NMMO、「アミンオキシド」または「AO」などの材料の極性溶液)を意味し得る。リヨセル紡糸溶液は、溶融物ではなく溶液である。セルロースフィラメントは、例えば、前記フィラメントを水と接触させることにより、溶媒の濃度を低下させることによってリヨセル紡糸溶液から生成され得る。リヨセル紡糸溶液由来のセルロース繊維の初期生成のプロセスは、凝固として説明することができる。
【0019】
本出願の文脈では、用語「ガス流」は、特に、リヨセル紡糸溶液が紡糸口金から出て行く間および/または紡糸口金から出て行った後にセルロース繊維またはそのプリフォーム(すなわち、リヨセル紡糸溶液)の移動方向に対して実質的に平行な空気などのガスの流れを意味し得る。
【0020】
本出願の文脈では、用語「凝固流体」は、特に、リヨセル紡糸溶液を希釈し、セルロース繊維がリヨセルフィラメントから形成される程度まで溶媒に置き換わる能力を有する非溶媒流体(すなわち、気体および/または液体、場合により固体粒子を含む)を意味し得る。例えば、そのような凝固流体は水ミストであり得る。
【0021】
本出願の文脈では、用語「プロセスパラメータ」は、特に、繊維および/または布帛の特性、特に繊維径および/または繊維径分布に影響を及ぼし得る、不織セルロース繊維布帛を製造するために使用される物質および/または装置構成要素のあらゆる物理的パラメータおよび/または化学的パラメータおよび/または装置パラメータを意味し得る。そのようなプロセスパラメータは、制御ユニットによって自動的に調整可能であり、および/またはユーザによって手動で調整可能であり、それにより、不織セルロース繊維布帛の繊維の特性を調節または調整してもよい。繊維の特性に(特に、それらの直径または直径分布に)影響を及ぼし得る物理的パラメータは、プロセスに関与する様々な媒体(例えば、リヨセル紡糸溶液、凝固流体、ガス流など)の温度、圧力および/または密度であり得る。化学的パラメータは、関与する媒体(例えば、リヨセル紡糸溶液、凝固流体など)の濃度、量、pH値であり得る。装置パラメータは、オリフィスのサイズおよび/またはオリフィス間の距離、オリフィスと繊維支持ユニットとの間の距離、繊維支持ユニットの輸送速度、1つまたは複数の任意のインサイチュ後処理ユニットの提供、ガス流などであり得る。
【0022】
用語「繊維」は、特に、セルロースを含む材料の細長い小片、例えば、断面がほぼ円形または不規則に形成され、場合により他の繊維と撚られたものを意味し得る。繊維は、10よりも大きい、特に100よりも大きい、より具体的には1000よりも大きいアスペクト比を有してもよい。アスペクト比とは、繊維の長さと繊維の直径との比である。繊維は、併合(merging)(一体化したマルチ繊維構造が形成されるように)または摩擦(繊維は分離したままであるが、互いに物理的に接触している繊維を相互に移動させた際に働く摩擦力によって弱く機械的に結合されるように)によって相互接続されることによって網を形成し得る。繊維は、実質的に円筒形の形状を有してもよいが、直線状、屈曲状、ねじれ状または湾曲状であってもよい。繊維は、単一の均質材料(すなわち、セルロース)から構成されてよい。しかし、繊維はまた、1つまたは複数の添加剤を含んでもよい。水または油などの液体材料が繊維の間に蓄積されてもよい。
【0023】
本発明の一実施形態によれば、5分以内の液体拡散速度は少なくとも4000mm、特に5000mm、とりわけ5500mmである。あるいは、または組み合わせて、24時間以内の液体拡散速度は、少なくとも4500mm、特に5500mm、とりわけ6000mmであってよい。
【0024】
本発明のさらなる実施形態によれば、布帛内の第1の方向に沿って、液体拡散速度は第1の値を有し、布帛内の第2の方向に沿って、液体拡散速度は第2の値を有し、第2の方向は第1の方向に対して垂直である。第1の値と第2の値とは、互いに20%未満の差で、特に10%未満の差で異なる。これは、この実施形態により説明された布帛が、液体拡散速度に関して少なくともほぼ等方性の挙動を示すことを示している。同じことが吸上速度の等方性挙動にもまさしく当てはまり得ることが言及される。
【0025】
本発明のさらなる実施形態によれば、布帛内の第1の方向に沿って、液体拡散速度は第1の値を有し、布帛内の第2の方向に沿って、液体拡散速度は第2の値を有し、第2の方向は第1の方向に対して垂直である。第1の値と第2の値とは、互いに20%を超える差で、特に30%を超える差で、とりわけ40%を超える差で異なる。これは、この実施形態により説明された布帛が、液体拡散速度に関して顕著な異方性挙動を示すことを示している。同じことが吸上速度の異方性挙動にもまさしく当てはまり得ることが言及される。
【0026】
本書では、用語「互いにX%の差で異なる」は、特に、第1の値と第2の値との比に100%を乗じて、得られた結果から100%を引くと、X%の値となることを意味し得る。
【0027】
本発明のこの実施形態は、繊維支持ユニット、特にコンベアベルト上の紡糸繊維のレイダウンでは、繊維支持ユニットの輸送方向に関して、実質的に無端の繊維の(平均)配向に関して、少なくともある程度好ましい方向があるという考えに依存している。しかし、リヨセル紡糸溶液プロセスの少なくともいくつかのプロセスパラメータを適切に設定することによって、好ましい方向の程度、すなわち、輸送方向に関する繊維の角度的広がりを調整することができる。
【0028】
この点では、繊維の角度的広がりに対するその効果を容易に理解することができる1つのプロセスパラメータが、(a)リヨセル紡糸溶液が押し出されるオリフィスと、(b)繊維支持ユニットの上面との間に延びる凝固領域内のガス乱流の潜在的な装置である。
【0029】
セルロース布帛による液体の拡散は、特に、隣接する繊維の間に位置する微小空洞内で発生する毛管力に基づく。したがって、好ましい(平均)繊維方向の(広がりの)程度を調整することにより、布帛内の吸上速度方向に関する空間的等方性(それぞれ空間的異方性)を調整することができる。
【0030】
本発明のさらなる態様によれば、特にリヨセル紡糸溶液から直接製造される不織セルロース繊維布帛が提供される。布帛は、実質的に無端の繊維の網を含む。提供される布帛は、布帛1グラムおよび1秒当たり少なくとも水0.25グラムの吸上速度を有する吸水能力を示す。
【0031】
また、本発明のこのさらなる態様による記載された布帛は、特にリヨセル紡糸溶液から布帛を直接製造するための適切なプロセスパラメータを使用することによって、少なくとも既知のセルロース製品と比較して、試験液である水に対する並外れた高い吸上速度によって反映される高い吸水能力を示す不織セルロース繊維布帛または繊維ウェブを提供することができるという考えに基づいている。これにより、多くの用途に対して、対応する不織セルロース繊維布帛製品の効率が向上するか、不織セルロース繊維布帛製品が新たな用途に利用できるようになる。
【0032】
本書に記載されている吸上速度の値は、試験対象サンプル(すなわち、それぞれの布帛)が完全乾燥状態に調整される「吸上速度試験」に関する。この完全乾燥状態は、液体拡散試験の説明に関連して既に上記で定義されている。
【0033】
「吸上速度試験」では、試験対象サンプルを試験台に置く。その中央では、試験台が開口部とチャネルとを介して液体リザーバに接続される。液体リザーバには蒸留水が充填される。試験台の高さは、液体リザーバ内の水の充填レベルに正確に対応している。それにより、静水圧が存在せず、試験対象サンプルの吸引(それぞれウイッキング性)は、試験対象サンプルの吸引力のみによって生成されることが保証される。
【0034】
実際の「吸上速度試験」では、試験対象サンプルによって吸収される水の量が、シリンジによって液体リザーバに連続的に再充填される。これは、液体のレベルが常に一定に保たれることを意味する。再充填された水の量は、(蒸留水の質量の既知の密度を介して)再充填された水の質量に変換される。この手順では、吸収された水によって引き起こされる試験対象サンプルの「吸収負荷」の増大に伴って試験対象サンプルの吸引力が低下するため、時間とともに吸上速度が低下することは明らかである。再充填の手順は、水の再充填について20秒当たり0.005gの閾値に達するまで続けられる。加えられた水の質量を時間の関数として示す測定曲線が記録され、評価される。本書では、吸上速度とは、実際の試験の開始から開始する10秒の最初のタイムスロットを有するこの測定曲線の勾配である。測定値は、各布帛の1グラム当たりに正規化される。
【0035】
吸上速度は、DIN53924、特に本特許出願の優先日に有効な最新版に記載される方法に従って測定することもできる。本発明の一実施形態による布帛は、DIN53924による少なくとも1つの方向では、300秒で>130mmの吸上速度を有し得る。
【0036】
吸上速度の大きなパラメータ値が望まれる場合、無端繊維を使用することが非常に重要であり得ることも指摘される。比較的短いステープル繊維から作られた布帛とは対照的に、本書に記載されている布帛は、はるかに長い(実質的に無端の)繊維から作られている。結果として、記載された布帛内では、繊維端部の密度は著しく小さくなり、その結果、繊維に沿って移動する液体に対する障壁も著しく小さくなる。
【0037】
さらに、記載された布帛に使用されるセルロース無端繊維は、液体吸収時に膨潤を示す。そのような膨潤は、吸上能力を促進するサブミクロンチャネルの形成および/または大きさに影響を及ぼす。さらに、異なる繊維間の併合点は、液体の吸収時に膨潤する材料から構成される。したがって、併合点も液体拡散およびウイッキング性を促進する。結果として、併合因子は、吸上速度を所望の値に合わせるためのパラメータにもなり得る。
【0038】
本発明の一実施形態によれば、記載された布帛の吸上速度は、布帛1グラムおよび1秒当たり少なくとも水0.30グラム、特に布帛1グラムおよび1秒当たり少なくとも水0.35グラム、とりわけ布帛1グラムおよび1秒当たり少なくとも水0.40グラムである。
【0039】
本発明のさらなる実施形態によれば、繊維108の少なくとも一部が、併合位置で一体的に併合される。特にまたは好ましくは、繊維の併合因子は、0.2%~100%の範囲、特に0.5%~15%の範囲である。
【0040】
本書では、用語「併合」は、特に、それぞれの併合位置での異なる繊維の一体的相互接続を意味し得、この一体的相互接続により、先に分離された繊維プリフォームから構成される1つの一体的に接続された繊維構造が形成される。併合は、併合した繊維の1つ、一部または全部の凝固中に確立される繊維間接続と呼ばれる場合がある。相互接続された繊維は、異なる追加の材料(別個の接着剤など)を用いることなく、それぞれの併合位置で互いに強く接着して、共通の構造を形成し得る。併合した繊維の分離には、繊維網またはその一部の破壊が必要になる場合がある。
【0041】
布帛の併合因子(領域併合因子とも呼ばれ得る)を決定するために、以下の決定プロセスを実行してもよい。すなわち、布帛の正方形サンプルを光学的に分析してもよい。正方形サンプルの対角線のうち少なくとも1つと交差する繊維の各併合位置(特に、併合点または併合線)の周りに、正方形サンプルの内部に完全に収まるべき直径を有する円を描く。円の大きさは、円が、併合された繊維間の併合領域を包含するように決定される。決定された円の直径の値の算術平均を計算する。併合因子は、平均直径値と正方形サンプルの対角長との比として計算され、パーセントで表され得る。
【0042】
不織セルロース繊維布帛の製造方法のプロセスパラメータの対応する制御により、併合が引き起こされ得る。特に、まだ沈殿した固体繊維状態にないこれらのフィラメント間の最初の接触の後に、リヨセル紡糸溶液のフィラメントの凝固が引き起こされ得る(または少なくとも完了し得る)。それにより、溶液相のままにあるこれらのフィラメント間の相互作用により、およびその後、凝固によってそれらを固体相に変換することにより、併合特性を適切に調整することができる。併合の程度は、製造された布帛の特性を調整するために使用することができる強力なパラメータである。特に、網の機械的安定性は、併合位置の密度が高いほど大きくなる。布帛の体積全体にわたる併合位置の不均一な分布により、機械的安定性の高い領域と機械的安定性の低い他の領域とを調整することも可能である。例えば、併合位置の数が少なく機械的に弱い領域で、別個の部分への布帛の分離が局所的に発生するように正確に規定することができる。好ましい実施形態では、凝固前にリヨセル紡糸溶液の形態の異なる繊維プリフォームを互いに直接接触させることにより、繊維間の併合が引き起こされる。このような凝固プロセスにより、繊維の単一材料共通沈殿が実行され、それにより併合位置が形成される。
【0043】
記載された併合因子は、布帛の繊維網の異なる繊維間の網目化のための非常に特徴的なパラメータである。0%の併合因子は、併合点のない布帛、すなわち、摩擦のみによって互いに相互作用する完全に分離した繊維に相当する。100%の併合因子は、併合点からなる布帛、すなわち、フィルムなどの連続構造を形成する完全に一体化した繊維に相当する。併合因子を調整することにより、対応する布帛の物理的特性(特に機械的安定性)も正確に調整することができる。
【0044】
特定の構造に応じて、特に併合因子に応じて、併合位置は、(a)繊維が点接触により併合される併合点、(b)繊維がそれに沿って少なくともそれらの長さの一部にわたって互いに並んで整列して上位繊維構造を形成する併合線を含み得る。併合点は、相互接続された繊維と同じ材料から作られたドット状の構造であってよい。併合線は、併合線に沿って接続された繊維の直径よりも著しく大きい線の長円形状を有する併合位置と考えることができる。したがって、併合線とは、繊維がそれに沿って平行にまたは並んで伸びる部分に沿って繊維を接続する伸長構造であってよい。
【0045】
本発明のさらなる実施形態によれば、繊維の異なるそれぞれが、異なる区別可能な層に少なくとも部分的に位置し、布帛は、特に以下の特徴、すなわち、(a)異なる層の繊維が、層の間の少なくとも1つの位置で一体的に接続されること、(b)異なる層に少なくとも部分的に位置する繊維の異なるそれぞれが、繊維径に関して異なり、特に、平均繊維径に関して異なること、(c)異なる層の繊維が、同じ繊維径を有し、特に、実質的に同じ平均繊維径を有すること、(d)異なる層の繊維網が、異なる機能性を提供すること(異なる機能性が、特に、異なるウイッキング性、異なる異方性挙動、異なる液体吸収能力、異なるクリーナビリティ、異なる光学特性、異なる粗さ、異なる滑らかさおよび異なる機械的特性からなる群のうち少なくとも1つを含む)のうち少なくとも1つを含む。
【0046】
本書の文脈では、「繊維の異なるそれぞれが、異なる区別可能な層に少なくとも部分的に位置する」とは、少なくとも、例えば電子顕微鏡によって捕捉された画像内の間に、それぞれの層が、目に見える分離または界面領域を示すことを意味し得る。上記の特徴(a)によって特定されるように、異なる層は少なくとも1つの併合位置で一体的に接続され得る。それにより、例えば、リヨセル紡糸溶液が凝固および繊維形成のために押し出されるオリフィスを有する2つ(またはそれ以上)のジェットを直列に整列させることにより、布帛の2つ(またはそれ以上)の異なる層を形成することができる。そのような配列が、移動する(コンベアベルトタイプの)繊維支持ユニットと組み合わされると、繊維の第1の層が第1のジェットによって繊維支持ユニット上に形成され、移動する繊維支持ユニットが第2のジェットの位置に到達すると、第2のジェットが第1の層上に繊維の第2の層を形成する。この方法のプロセスパラメータは、併合点が第1の層と第2の層との間に形成されるように調整されてもよい。既に上述したように、「併合」は、それぞれの併合点での異なる繊維の相互接続を意味し得、この相互接続により、(以前は異なる層に関連していた)以前は2つに分離されていた繊維から構成される1つの一体的に接続された繊維構造が形成される。特に、凝固によってまだ完全に硬化または固化していない形成中の第2の層の繊維は、例えば、まだ液体リヨセル溶液相にあり、まだ完全に硬化した固体状態にない外側皮膚または表面領域を依然として有し得る。そのようなプレ繊維構造が互いに接触し、その後完全に硬化して固体繊維状態になると、異なる(それぞれ隣接する)層の間に位置する界面領域で2つの併合した繊維が形成され得る。
【0047】
上記の特徴(b)によって特定されるように、異なる層に少なくとも部分的に位置する繊維の異なるそれぞれは、繊維径に関して異なり、特に平均繊維径に関して異なる。記載された布帛の異なる層が異なる(平均)繊維径を有する繊維から形成されている場合、異なる層の機械的特性は個々に調整されてもよい。例えば、層の一方には、比較的大きな繊維径を有する繊維を使用することによって剛性特性が備わってもよく、他方の層には、(例えば、比較的小さな繊維径を有する繊維を使用することによって)平滑特性または弾性特性が備わってもよい。例えば、機械的に汚れを除去することによる洗浄用の比較的粗い表面を有し、拭き取り用に比較的滑らかな表面を有する、すなわち、洗浄対象の表面から水などを吸収するように構成されたワイプを製造することができる。
【0048】
しかし、上記の特徴(c)によって特定されるように、異なる層の繊維が同じ直径を有すること、特に、同じ平均直径を有することも代替的に可能である。そのような一実施形態では、隣接する層は、類似または同一の物理的特性を有し得る。それらは、その間の併合点で強くまたは弱く相互接続され得る。界面領域ごとのそのような併合点の数により、隣接する層間の結合強度が規定され得る。結合強度が小さいと、ユーザによって層は容易に分離され得る。結合強度が高いと、層は互いに恒久的に付着したままになり得る。
【0049】
記載された多層構造内の隣接する層を相互に付着するために、バインダなどの追加の接着材料は必要とされないことが言及される。結果として、液体がそれぞれの層の界面に支障なく拡散することができる。
【0050】
本発明のさらなる実施形態によれば、繊維網は、以下の特徴のうち少なくとも1つを含む。
(a)全く同一の繊維内で、異なる繊維部分は、繊維径に関して、この繊維の最小直径に対して50%を超える差で異なる。
(b)異なる繊維は、繊維径に関して、繊維のうち1本の最小直径に対して50%を超える差で異なる。
【0051】
本書では、用語「繊維径に関して最小直径に対して50%を超える差で異なる」は、特に、最大繊維径と最小繊維径との比に100%を乗じて、得られた結果から100%を引くと、50%を超える値になることを意味し得る。「繊維径に関して最小直径に対して50%を超える差で異なる」とは、最大繊維径と最小繊維径との比が1.5を超えることを意味し得る。
【0052】
上記の特徴(a)によって特定されるように、全く同一の繊維内でこのような大きな繊維径の変動がある場合、直径に関する不均一性は、繊維内の直径変動を表すと解釈され得る。特定の理論に縛られることを望まないが、現在、そのような繊維が布帛内で網を形成する際に、それぞれの繊維の直径の不均一性が、布帛内で様々な繊維を互いに移動させる際に克服しなければならない摩擦力を増大させると考えられている。この効果の結果、布帛の機械的安定性が増大する。
【0053】
上記の特徴(b)によって特定されるように、異なる繊維間でこのような大きな繊維径の変動がある場合、直径に関する不均一性は、繊維間の直径変動と呼ばれ得る。そのような一実施形態では、それぞれの繊維自体が直径の均一性または不均一性を示し得るが、異なる繊維は、繊維の比較により繊維の直径に関して異なる。そのような場合、異なる直径または異なる直径分布の繊維の相互作用により、比較的細い繊維は比較的強く曲げられ、比較的太い繊維はわずかにのみ曲げられ得る。異なる直径のそのような繊維が布帛に網を形成すると、増大した不規則性は、異なる繊維の互いに対する相互運動を妨げる。この現象の結果、布帛の安定性が増大する。
【0054】
本発明のさらなる実施形態によれば、繊維網は、以下の特徴のうち少なくとも1つを含む。
(a)繊維の少なくとも3%、特に少なくとも5%は、90%以下の真円度を有する非円形断面形状を有する。
(b)繊維の少なくとも1%、特に少なくとも3%は、80%以下、特に70%以下の真円度を有する非円形断面形状を有する。
【0055】
この文脈では、用語「真円度」は、特に、繊維の断面の内接円と外接円との比、すなわち、繊維の断面内に収まるのにちょうど十分な(それぞれ繊維の断面を囲むのにちょうど十分な)円の最大サイズと最小サイズとの比を意味し得る。真円度を決定するために、繊維の伸長方向に対して垂直な断面を繊維と交差させてもよい。したがって、真円度は、それぞれの繊維の断面形状が100%の真円度を有する円の断面形状にどれだけ接近しているかを示す尺度と呼ばれ得る。
【0056】
例えば、繊維の断面は長円形(特に楕円形)であっても、多角形であってもよい。より一般的には、繊維の断面の外部限界を規定する軌道は、円からの逸脱を示す任意の閉じた平面線であってよい。繊維の断面は、完全に円形であってもよく、1つまたは複数の鋭いまたは丸みを帯びた端を有してもよい。
【0057】
記述的に言えば、この実施形態により説明される布帛の繊維は、完全に円形の円柱形状からの著しい逸脱を示す。機械的観点から、これは、機械的負荷の存在下での繊維の好ましい曲げ方向が、繊維の断面の設計によって規定されることをもたらす。例えば、繊維が長さの異なる2つの主軸(すなわち長軸および短軸)を有する楕円断面形状を有する場合、作用力の存在下での曲げは、主に短軸を曲げ線として生じる。したがって、そのような繊維布帛の曲げ特性はもはや統計的ではなく予測不可能であるが、不織セルロース繊維布帛の規定された秩序を増大させる。布帛の機械的安定性に(少なくとも方向に)強い影響を及ぼすことは別として、(平均)曲げ半径もまた、異なる繊維間に形成され得る空洞の大きさおよび形状、ならびに1本の繊維の内部構造内に形成される微小空洞の大きさおよび形状に影響を及ぼすパラメータである。
【0058】
したがって、空洞の数、大きさおよび/または形状が吸水能力に及ぼす影響に関する上記の考察を考慮すると、(真円度依存)平均曲げもまた、水の拡散および吸上能力に強い影響を及ぼすことが明らかである。
【0059】
本発明のさらなる実施形態によれば、繊維は、5ppm未満の銅含有量および/または2ppm未満のニッケル含有量を有する。
【0060】
本書で言及されるppm値はいずれも、(体積ではなく)質量に関する。これとは別に、繊維または布帛の重金属汚染は、個々の重金属元素ごとに10ppm以下であり得る。(特にN-メチル-モルホリン、NMMOなどの溶媒を含む場合)無端繊維に基づく布帛の形成の基礎としてリヨセル紡糸溶液を使用するため、(ユーザのアレルギ反応を引き起こす可能性がある)銅またはニッケルなどの重金属による布帛の汚染を極めて少なく抑えることができる。
【0061】
繊維径および/または繊維内および/または繊維間の直径の不均一性および/または布帛密度の値または程度に応じて、活性繊維表面、ならびに隣接する繊維間の隙間の体積、および隣接する繊維間の隙間の間の間隔を調整してもよい。これは、例えば、毛管効果の影響下で、液体が隙間に蓄積する能力に影響を及ぼす。
【0062】
さらに詳細には、記載された液体吸収能力は、不織繊維布帛または繊維ウェブが、様々な隣接する繊維の間に空洞または空隙を含む構造と考えられ得るという事実に基づき得る。布帛の元の非浸漬状態では、これらの空隙は空気によって満たされている。布帛が液体を吸収すると、空隙は液体(水、エマルジョン、油)によって満たされる。
【0063】
本発明のさらなる態様によれば、リヨセル紡糸溶液から、不織セルロース繊維布帛、特に上記の布帛を直接製造する方法が提供される。提供される方法は、(a)オリフィスを有するジェットを介して、ガス流によって支持されたリヨセル紡糸溶液を凝固流体雰囲気に押し出して、それにより実質的に無端の繊維を形成すること、(b)繊維支持ユニット上に繊維を収集して、それにより布帛を形成すること、および(c)布帛が以下の特徴のうち少なくとも1つを特徴とするように、製造プロセスのプロセスパラメータを調整することを含む。
(i)液体拡散速度は5分以内に少なくとも3000mm2である。
(ii)吸水能力は、布帛1グラムおよび1秒当たり少なくとも水0.25グラムの吸上速度を特徴とする。あるいは、または組み合わせて、液体拡散速度は24時間以内に少なくとも3500mm2であり得る。
【0064】
また、記載された方法は、プロセスパラメータの適切な選択により、多くの点で、上述の改善された不織セルロース繊維布帛を効果的かつ信頼できる方法で製造することができるという考えに基づいている。
【0065】
パラメータ「液体拡散速度」および「吸上速度」の所与の値に関しては、上記の説明を参照されたい。
【0066】
本書の文脈では、「オリフィスを有するジェット」(例えば、「オリフィスの配置」と呼ばれ得る)は、直線的に配置されたオリフィスの配置を備える任意の構造であり得る。
【0067】
繊維の凝固を制御することによって、異なる繊維の直径の変動が生じることが言及される。換言すれば、元々、少なくともほぼ平行な向きに配置された少なくとも2本の異なる繊維が(共通の併合線に沿って)互いに併合し得、その結果、直径が著しく増大した繊維が生成される。プロセスパラメータ(の値)を制御することにより、このような長い繊維併合の確率を選択することができる。結果として、例えば、粘性のリヨセル紡糸溶液が押し出される、ジェットの隣接するオリフィス間の距離を調整することによって、併合された(比較的太い)繊維と元の(比較的細い)繊維との比を調整することができる。この点で、距離が小さいほど2本の繊維が併合する可能性が高くなることは明らかである。
【0068】
凝固流体の乱流を使用すると、乱流は、まだ(完全に)凝固していない異なる繊維間の空間距離を乱す可能性がある。結果として、ジェットから繊維支持ユニットまでの途中で2本の繊維が互いに出会う確率を高めることができる。
【0069】
3本以上の元々個々の繊維からの併合も実現することができることが言及される。結果として、繊維径の変動が増大するように、さらに太い繊維を生成することができる。
【0070】
本書に記載されている布帛の主要な特性に対する「併合」の関連性に関して、すなわち、「液体拡散速度」および/または「吸上速度」の文脈での吸水能力に関して、これらの主要な特性の併合からの依存性に対する例示的な物理理論を説明する上記の項を参照されたい。
【0071】
本発明のさらなる態様によれば、リヨセル紡糸溶液から不織セルロース繊維布帛を直接製造するための、特に上記の布帛を製造するための装置が提供される。提供される装置は、(a)ガス流によって支持されたリヨセル紡糸溶液を押し出すように構成されたオリフィスを有するジェットと、(b)押し出されたリヨセル紡糸溶液に凝固流体雰囲気を提供して、それにより実質的に無端の繊維を形成するように構成された凝固ユニットと、(c)繊維を収集して、それにより布帛を形成するように構成された繊維支持ユニットと、(d)布帛が以下の特徴のうち少なくとも1つを特徴とするように、プロセスパラメータを調整するように構成された制御ユニットとを備える。
(i)液体拡散速度は5分以内に少なくとも3000mm2である。
(ii)吸水能力は、布帛1グラムおよび1秒当たり少なくとも水0.25グラムの吸上速度を特徴とする。あるいは、または組み合わせて、液体拡散速度は24時間以内に少なくとも3500mm2であり得る。
【0072】
記載された装置は、制御ユニットが、さらに上述の不織セルロース繊維布帛を製造するための上述の方法を信頼できる方法で実行することができるという考えに基づいている。
【0073】
本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛はまた、1つまたは複数の他の材料と(例えば、インサイチュでまたは後続のプロセスで)組み合わされて、本発明の例示的な実施形態による複合体を形成し得る。そのような複合体を形成するために布帛と組み合わせることができる例示的な材料は、限定するものではないが、以下の材料またはそれらの組合せ、すなわち、毛羽立ちパルプ、繊維懸濁液、ウェットレイド(wetlaid)不織布、エアレイド不織布、スパンボンドウェブ、メルトブローウェブ、カード処理したスパンレースウェブもしくはニードルパンチウェブ、または様々な材料から作られた他のシート状構造を含む材料の群から選択され得る。一実施形態では、異なる材料間の接続は、以下のプロセスのうち1つまたは組合せ(ただしこれらに限定されない)、すなわち、併合、水流交絡、ニードルパンチ、水素結合、熱接着、バインダによる接着、積層および/またはカレンダ成形によって行うことができる。
【0074】
本発明のさらなる態様によれば、ワイプ、家庭用シート、フィルタ、衛生製品、医療用途製品、ジオテキスタイル、アグロテキスタイル、衣類、建築技術用製品、自動車製品、家具、工業製品、レジャー、美容、スポーツまたは旅行に関連する製品、および学校またはオフィスに関連する製品からなる群のうち少なくとも1つに、上記の不織セルロース繊維布帛を使用する方法が提供される。
【0075】
本発明のさらなる態様によれば、上記の不織セルロース繊維布帛を含む製品または複合体が提供される。
【0076】
ウェブ、100%セルロース繊維ウェブ、もしくは例えば2つ以上の繊維を含むかそれらからなるウェブの特定の用途、または抗菌材料、イオン交換材料、活性炭、ナノ粒子、ローション、薬剤もしくは難燃剤、もしくは複合繊維などの材料が組み込まれた化学修飾繊維もしくは繊維は、以下の通りであり得る。
【0077】
本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛は、乳児用ワイプ、厨房用ワイプ、ウェットワイプ、化粧品用ワイプ、衛生用ワイプ、医療用ワイプ、掃除用ワイプ、研磨(車、家具)用ワイプ、粉塵用ワイプ、工業用ワイプ、ダスタおよびモップワイプなどのワイプの製造を製造するために使用されてもよい。
【0078】
本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛をフィルタの製造に使用することも可能である。例えば、そのようなフィルタは、エアフィルタ、HVAC、空調フィルタ、排ガスフィルタ、液体フィルタ、コーヒーフィルタ、ティーバッグ、コーヒーバッグ、食品フィルタ、浄水フィルタ、血液フィルタ、タバコフィルタ、キャビンフィルタ、オイルフィルタ、カートリッジフィルタ、真空フィルタ、掃除機用バッグ、防塵フィルタ、油圧用フィルタ、厨房用フィルタ、ファンフィルタ、水分交換フィルタ、花粉フィルタ、HEVAC/HEPA/ULPAフィルタ、ビールフィルタ、ミルクフィルタ、冷却液フィルタおよびフルーツ・ジュース・フィルタであってよい。
【0079】
さらに別の実施形態では、不織セルロース繊維布帛は、吸収性衛生製品を製造するために使用されてもよい。その例には、捕捉層、カバーストック、分配層、吸収性カバー、生理用ナプキン、表面シート、裏面シート、レッグカフ、水洗トイレに流せる製品、パッド、授乳パッド、使い捨て下着、トレーニングパンツ、フェイスマスク、美容顔用マスク、化粧品除去パッド、手ぬぐい、おむつ、および活性成分(繊維柔軟剤など)を放出する洗濯乾燥機用シートが挙げられる。
【0080】
さらに別の実施形態では、不織セルロース繊維布帛は、医療用途製品を製造するために使用されてもよい。例えば、そのような医療用途製品は、使い捨てキャップ、ガウン、マスクおよび靴カバー、創傷ケア製品、滅菌包装製品、カバーストック製品、包帯材料、使い捨て衣類(one way clothing)、透析製品、ネーザルストリップ(nasal strip)、義歯床用接着剤、使い捨て下着、ドレープ、ラップおよびパック、スポンジ、包帯およびワイプ、ベッドリネン、経皮薬物送達、シュラウド、アンダーパッド、処置パック(procedure pack)、ヒートパック、オストミー・バッグ・ライナ、固定テープならびに保育器用マットレスであり得る。
【0081】
さらに別の実施形態では、不織セルロース繊維布帛は、ジオテキスタイルを製造するために使用されてもよい。これには、作物保護カバー、毛細管マット、浄水製品、灌漑制御製品、アスファルトの上敷き、土壌安定化製品、排水製品、沈殿および侵食制御製品、池の裏打ち、含浸ベース(impregnation based)製品、排水路の裏打ち、地盤安定化製品、穴の裏打ち、シードブランケット、雑草制御用布帛、温室の覆い、ルートバッグ(root bag)ならびに生分解性植木鉢の製造が含まれ得る。植物フォイル(plant foil)に不織セルロース繊維布帛を使用することも可能である(例えば、植物に光保護および/または機械的保護を提供し、および/または植物または土壌に肥料または種子を提供する)。
【0082】
別の実施形態では、不織セルロース繊維布帛は、衣類を製造するために使用されてもよい。例えば、芯地、衣類の断熱および保護、ハンドバッグの部品、靴の部品、ベルトライナ、工業用帽子/フードウェア(foodwear)、使い捨て作業服、衣類および靴用袋、ならびに断熱材が、そのような布帛に基づいて製造されてもよい。
【0083】
さらに別の実施形態では、不織セルロース繊維布帛は、建築技術に使用される製品を製造するために使用されてもよい。例えば、屋根葺きおよびタイルの下敷き、下敷き用スレート、断熱材および防音材、ハウスラップ(house wrap)、石膏ボード用の表面仕上げ、パイプ覆い(pipe wrap)、コンクリート成形層、土台および地盤の安定化製品、縦型排水管(vertical drainage)、屋根板、屋根葺きフェルト、騒音軽減材、補強材、シーリング材、ならびに制振材(機械的)が、そのような布帛を使用して製造されてもよい。
【0084】
さらに別の実施形態では、不織セルロース繊維布帛は、自動車製品を製造するために使用されてもよい。例には、キャビンフィルタ、トランクの裏打ち、小荷物棚、熱シールド、シェルフトリム(shelf trim)、成型ボンネットの裏打ち、トランク床のカバー、オイルフィルタ、ヘッドライナ、後部小荷物棚、装飾布、エアバッグ、消音パッド、絶縁材、車のカバー、アンダーパッド(underpadding)、カーマット、テープ、裏打ちおよび房のある(tufted)カーペット、シートカバー、ドアトリム、ニードルカーペット、ならびに自動車用カーペット裏地が挙げられる。
【0085】
本発明の例示的な実施形態に従って製造された布帛のさらに別の適用分野は、家具、構造、アームおよび背もたれの断熱材、クッション肥厚材、防塵カバー、裏張り、縫い目の補強剤、エッジトリム材料、寝具構造、キルトの裏地、バネの覆い、マットレスパッド構成要素、マットレスカバー、窓のカーテン、壁の覆い、カーペットの裏地、ランプシェード、マットレス構成要素、バネ断熱材、シーリング(sealing)、枕肥厚材、ならびにマットレス肥厚材などの家具である。
【0086】
さらに別の実施形態では、不織セルロース繊維布帛は、工業製品を製造するために使用されてもよい。これには、電子機器、フロッピーディスクの裏打ち、ケーブル絶縁体、研磨剤、絶縁テープ、コンベアベルト、騒音吸収層、空調製品、電池セパレータ、酸性系(acid system)、滑り止めマット、汚れ除去具、食品ラップ、接着テープ、ソーセージのケーシング、チーズのケーシング、人工皮革、油回収ブーム(boom)およびソックス(socks)、ならびに製紙用フェルトが含まれ得る。
【0087】
本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛は、レジャーおよび旅行に関連する製品の製造にも適している。そのような用途の例には、寝袋、テント、旅行かばん、ハンドバッグ、買い物袋、飛行機用ヘッドレスト、CD保護製品、枕カバーおよびサンドイッチ用包装材が挙げられる。
【0088】
本発明の例示的な実施形態のさらに別の適用分野は、学校用およびオフィス用製品に関する。例として、ブックカバー、郵送用の封筒、地図、掲示板およびペナント、タオル、ならびに旗に言及しなければならない。
【0089】
本発明の実施形態は、異なる主題を参照して説明されていることに留意しなければならない。特に、いくつかの実施形態は装置型クレームを参照して説明されているが、他の実施形態は方法型クレームを参照して説明されている。しかし、当業者であれば、他に注記のない限り、1つの種類の主題に属する特徴の任意の組合せに加えて、異なる主題に関連する特徴間の任意の組合せ、特に装置型クレームの特徴と方法型クレームの特徴との間の任意の組合せも、本書で開示されていると考えられることを上記および以下の説明から推測するであろう。
【0090】
本発明の上記で定義された態様およびさらなる態様は、以下に記載される実施形態の例から明らかであり、実施形態の例を参照して説明される。本発明は、実施形態の例を参照して以下にさらに詳細に説明されるが、本発明はそれらに限定されない。
【図面の簡単な説明】
【0091】
図1】本発明の例示的な実施形態による、凝固流体によって凝固されるリヨセル紡糸溶液から直接形成される不織セルロース繊維布帛を製造するための装置を示す。
図2】特定のプロセス制御によって個々の繊維の併合が達成された、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛の実験的に捕捉された画像を示す。
図3】特定のプロセス制御によって個々の繊維の併合が達成された、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛の実験的に捕捉された画像を示す。
図4】特定のプロセス制御によって個々の繊維の併合が達成された、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛の実験的に捕捉された画像を示す。
図5】繊維の膨潤が達成された、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛の実験的に捕捉された画像を示し、この図は乾燥非膨潤状態の繊維布帛を示す。
図6】繊維の膨潤が達成された、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛の実験的に捕捉された画像を示し、この図は湿潤膨潤状態の繊維布帛を示す。
図7】ノズルの2つの直列バーを実装する特定のプロセスによって繊維の2つの重ね合わせた層の形成が達成された、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛の実験的に捕捉された画像を示す。
図8】毛管直径の関数としての水の毛管高さによって与えられる毛管力の一般的な依存性を示す。
図9】液体拡散速度の異方性値を有する布帛によって吸収された液体の非等方性拡散を示す概略画像を示す。
図10】複数のフィブリル構造、したがってサブミクロンスケールのチャネルを特徴とする内部構造を有する単一の繊維の実験的に捕捉された画像を示す。
図11】撚り、繊維内の直径変動、繊維間の直径変動、実質的に平行な様式で凝固した繊維、ならびに異なる大きさおよび形状の空洞を有する不織セルロース繊維布帛の実験的に捕捉された画像を示す。
図12】繊維間の異なる種類の併合位置、ならびに繊維間の交差位置が示されている、不織セルロース繊維布帛の概略画像を示す。
図13】2つの積み重ねられ併合された繊維網層を含む不織セルロース繊維布帛の概略画像を示す。
図14】本発明の例示的な実施形態に従って、繊維の断面の内接円と外接円との比として、円形断面から逸脱した断面を有する繊維の真円度をどのように計算することができるかを示す。
図15】3つの網層を含む不織セルロース繊維布帛を示す。
図16】本発明の例示的な実施形態による、無端セルロース繊維ウェブの2つの積層から構成される不織セルロース繊維布帛を製造するための装置の一部を示す。
【発明を実施するための形態】
【0092】
図面内の図は概略図である。異なる図では、類似または同一の要素または特徴には同じ参照符号が設けられていることに留意されたい。不必要な繰り返しを避けるために、先に説明された実施形態に関して既に説明された要素または特徴は、説明の以降の位置では再び説明されない。
【0093】
さらに、例えば「前」および「後」、「上」および「下」、「左」および「右」などの空間的に相対的な用語は、図に示されるように、ある要素と別の要素との関係を説明するために使用される。したがって、空間的に相対的な用語は、図に示された向きとは異なる使用中の向きに適用され得る。明らかに、そのような空間的に相対的な用語はいずれも、説明を簡単にするためだけに図に示される向きを指し、本発明の一実施形態による装置は使用時に、図に示されるものとは異なる向きをとることができるため、必ずしも限定的ではない。
【0094】
図1は、リヨセル紡糸溶液104から直接形成される不織セルロース繊維布帛102を製造するための本発明の例示的な実施形態による装置100を示す。リヨセル紡糸溶液104は、凝固流体106によって少なくとも部分的に凝固されて、部分的に形成されたセルロース繊維108に変換される。装置100により、本発明の例示的な実施形態によるリヨセル溶液吹付プロセスが実行されてもよい。本出願の文脈では、用語「リヨセル溶液吹付プロセス」は、特に、個別の長さの本質的に無端のフィラメントもしくは繊維108、または個別の長さの無端フィラメントと繊維との混合物を得ることができるプロセスを包含し得る。以下にさらに説明するように、オリフィス126をそれぞれ有するノズルが設けられ、このノズルを通して、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛102を製造するためのガス流れまたはガス流146とともに、セルロース溶液またはリヨセル紡糸溶液104が噴射される。
【0095】
図1から分かるように、木材パルプ110、他のセルロース系原料などが、計量ユニット113を介して貯蔵タンク114に供給されてもよい。水用容器112からの水も、計量ユニット113を介して貯蔵タンク114に供給される。したがって、計量ユニット113は、以下でさらに詳細に説明される制御ユニット140の制御下で、貯蔵タンク114に供給される水と木材パルプ110との相対量を規定してもよい。溶媒用容器116に収容された溶媒(N-メチルモルホリン、NMMOなど)が、濃縮ユニット118内で濃縮されてもよく、その後、混合ユニット119内で、規定可能な相対量の水と木材パルプ110との混合物または他のセルロース系原料と混合されてもよい。また、混合ユニット119は、制御ユニット140によって制御され得る。これにより、水木材パルプ110媒体が、溶解ユニット120内で、調整可能な相対量の濃縮された溶媒に溶解され、それによりリヨセル紡糸溶液104が得られる。水性リヨセル紡糸溶液104は、木材パルプ110を含む(例えば5質量%~15質量%の)セルロース、および(例えば85質量%~95質量%の)溶媒から構成される蜂蜜粘性(honey-viscous)媒体であり得る。
【0096】
リヨセル紡糸溶液104は、(多数の紡糸ビームまたはジェット122として具現化され得るか、それを備え得る)繊維形成ユニット124に送られる。例えば、ジェット122のオリフィス126の数は、50よりも多く、特に100よりも多くてもよい。1つの実施形態では、ジェット122のオリフィス126の(ジェット122の多数の紡糸口金を備え得る)繊維形成ユニット124のオリフィス126はいずれも、同じサイズおよび/または形状を有し得る。あるいは、1つのジェット122の異なるオリフィス126および/または(多層布帛を形成するために直列に配置され得る)異なるジェット122のオリフィス126のサイズおよび/または形状は異なってもよい。オリフィス126は、オリフィス126の一次元配列として配置されてもよい。
【0097】
リヨセル紡糸溶液104はジェット122のオリフィス126を通過すると、リヨセル紡糸溶液104の複数の平行なストランドに分割される。鉛直に配向されたガス流、すなわち、紡糸方向に対して実質的に平行に配向されたガス流が、リヨセル紡糸溶液104をますます長くかつ細いストランドに変形させ、ストランドは、制御ユニット140の制御下でプロセス条件を変更することによって調整することができる。ガス流は、オリフィス126から繊維支持ユニット132に向かう途中の少なくとも一部に沿って、リヨセル紡糸溶液104を加速させてもよい。
【0098】
リヨセル紡糸溶液104がジェット122を通ってさらに下方に移動する間、リヨセル紡糸溶液104の長く細いストランドは非溶媒凝固流体106と相互作用する。凝固流体106は、蒸気ミスト、例えば水性ミストとして有利に具現化される。凝固流体106のプロセス関連特性は、1つまたは複数の凝固ユニット128によって制御され、凝固流体106に調整可能な特性を提供する。凝固ユニット128は、次いで、制御ユニット140によって制御される。好ましくは、製造中の布帛102のそれぞれの層の特性を個々に調整するために、個々のノズルまたはオリフィス126の間にそれぞれの凝固ユニット128が設けられる。好ましくは、各ジェット122は、各側から1つずつ、2つの割り当てられた凝固ユニット128を有してもよい。したがって、個々のジェット122には、製造された布帛102の異なる層の異なる制御可能な特性を有するように調整され得るリヨセル紡糸溶液104の個々の部分を設けることができる。
【0099】
凝固流体106(水など)と相互作用すると、リヨセル紡糸溶液104の溶媒濃度が低下し、その結果、リヨセル紡糸溶液104のセルロース、例えば、木材パルプ110(または他の原料)が、(依然として残留溶媒および水を含有し得る)長く細いセルロース繊維108として少なくとも部分的に凝固される。
【0100】
押し出されたリヨセル紡糸溶液104からの個々のセルロース繊維108の初期形成中またはその後に、ここでは平面繊維収容面を有するコンベアベルトとして具現化される繊維支持ユニット132上にセルロース繊維108を堆積させる。セルロース繊維108は、(図1に概略的にのみ示されている)不織セルロース繊維布帛102を形成する。不織セルロース繊維布帛102は、連続した実質的に無端のフィラメントまたは繊維108から構成される。
【0101】
図1には示されていないが、凝固ユニット128による凝固、および洗浄ユニット180での洗浄で除去されたリヨセル紡糸溶液104の溶媒は、少なくとも部分的にリサイクルすることができる。
【0102】
不織セルロース繊維布帛102は、繊維支持ユニット132に沿って輸送している間、洗浄液を供給して残留溶媒を除去する洗浄ユニット180によって洗浄することができ、次いで乾燥させてもよい。不織セルロース繊維布帛102は、任意であるが有利な追加の処理ユニット134によってさらに処理することができる。例えば、そのような追加の処理には、水流交絡、ニードルパンチ、含浸、加圧蒸気による蒸気処理、カレンダ成形などが含まれ得る。
【0103】
繊維支持ユニット132はまた、巻取機136に不織セルロース繊維布帛102を輸送してもよく、巻取機136上では、不織セルロース繊維布帛102は実質的に無端のシートとして収集され得る。次いで、不織セルロース繊維布帛102は、不織セルロース繊維布帛102に基づくワイプまたは織物などの製品を製造する事業体に、ロール商品として出荷されてもよい。
【0104】
図1に示すように、記載されたプロセスは、制御ユニット140(プロセッサ、プロセッサの一部、または複数のプロセッサなど)によって制御され得る。制御ユニット140は、図1に示される様々なユニット、特に、計量ユニット113、混合ユニット119、繊維形成ユニット124、凝固ユニット128、追加の処理ユニット134、溶解ユニット120、洗浄ユニット118などのうち1つまたは複数の動作を制御するように構成される。したがって、制御ユニット140は(例えば、コンピュータ実行可能プログラムコードを実行することにより、および/またはユーザにより規定された制御コマンドを実行することにより)、不織セルロース繊維布帛102が製造されるプロセスパラメータを正確かつ柔軟に規定することができる。この文脈での設計パラメータとは、オリフィス126に沿った空気流、凝固流体106の特性、繊維支持ユニット132の駆動速度、リヨセル紡糸溶液104の組成、温度および/または圧力などである。不織セルロース繊維布帛102の特性を調整するために調整され得る追加の設計パラメータは、オリフィス126の数および/または相互距離および/または幾何学的配列、リヨセル紡糸溶液104の化学組成および濃縮度などである。それにより、不織セルロース繊維布帛102の特性は、以下に記載されるように適切に調整され得る。そのような調整可能な特性(以下の詳細な説明を参照)には、以下の特性、すなわち、繊維108の直径および/または直径分布、繊維108間の併合の量および/または領域、繊維108の純度レベル、多層布帛102の特性、布帛102の光学特性、布帛102の流体保持特性および/または流体放出特性、布帛102の機械的安定性、布帛102の表面の滑らかさ、繊維108の断面形状などのうち1つまたは複数が含まれ得る。
【0105】
図示されていないが、各紡糸ジェット122は、それを介してリヨセル紡糸溶液104がジェット122に供給されるポリマー溶液入口を備えてもよい。空気入口を介して、リヨセル紡糸溶液104にガス流146を適用することができる。ジェット筐体によって区切られた、ジェット122の内部の相互作用チャンバから、リヨセル紡糸溶液104が(ガス流146がリヨセル紡糸溶液104を下方に引っ張ることにより)それぞれのオリフィス126を通って下方に移動するか加速され、ガス流146の影響下で横方向に狭くなり、その結果、凝固流体106の環境内でリヨセル紡糸溶液104がガス流146と一緒に下方に移動すると、連続的に先細になるセルロースフィラメントまたはセルロース繊維108が形成される。
【0106】
したがって、図1を参照して説明する製造方法に含まれるプロセスは、セルロース溶液とも呼ばれ得るリヨセル紡糸溶液104が、液体ストランドまたは潜在フィラメントを形成するように形作られることを含み得、液体ストランドまたは潜在フィラメントは、ガス流146によって引き出され、直径が著しく減少し、長さが増大する。繊維支持ユニット132上でのウェブ形成の前または最中の凝固流体106による潜在フィラメントまたは繊維108(またはそのプリフォーム)の部分凝固も含まれ得る。フィラメントまたは繊維108は、ウェブ状布帛102に形成され、洗浄され、乾燥され、必要に応じてさらに処理されてもよい(追加の処理ユニット134を参照)。フィラメントまたは繊維108は、例えば、回転ドラムまたはベルト上で収集され得、それによりウェブが形成される。
【0107】
記載された製造プロセスおよび特に使用される溶媒の選択の結果として、繊維108は5ppm未満の銅含有量および2ppm未満のニッケル含有量を有する。これにより、布帛102の純度が有利に改善される。
【0108】
本発明の例示的な実施形態によるリヨセル溶液吹付ウェブ(すなわち、不織セルロース繊維布帛102)は、好ましくは、以下の特性のうち1つまたは複数を示す。
【0109】
(i)ウェブの乾燥重量は5~300g/m、好ましくは10~80g/mである。
(ii)WSP120.6規格(それぞれDIN29073)(特に、本特許出願の優先日に有効な最新版)によるウェブの厚さは、0.05~10.0mm、好ましくは0.1~2.5mmである。
(iii)EN29073-3(それぞれISO9073-3)(特に、本特許出願の優先日に有効な最新版)によるMDでのウェブの特定の靭性は、0.1~3.0Nm/g、好ましくは0.4~2.3Nm/gの範囲である。
(iv)EN29073-3(それぞれISO9073-3)(特に、本特許出願の優先日に有効な最新版)によるウェブの平均伸長率は、0.5~100%、好ましくは4~50%の範囲である。
(v)ウェブのMD/CD靭性比は1~12である。
(vi)DIN 53814(特に、本特許出願の優先日に有効な最新版)によるウェブの保水率は、1~250%、好ましくは30~150%である。
(vii)DIN 53923(特に、本特許出願の優先日に有効な最新版)によるウェブの保水力は、90~2000%、好ましくは400~1100%の範囲である。
(viii)銅含有量が5ppm未満およびニッケル含有量が2ppm未満の金属残留物レベル。
【0110】
最も好ましくは、リヨセル溶液吹付ウェブは、上述した前記特性(i)~(viii)をいずれも示す。
【0111】
説明したように、不織セルロース繊維布帛102を製造するプロセスは、好ましくは以下を含む。
(a)少なくとも1つのジェット122のオリフィス126を通してNMMO(符号104を参照)に溶解したセルロースを含む溶液を押し出し、それによりリヨセル紡糸溶液104のフィラメントを形成すること。
(b)ガス流(符号146を参照)によって、リヨセル紡糸溶液104の前記フィラメントを引き伸ばすこと。
(c)前記フィラメントと、好ましくは水を含有する蒸気ミスト(符号106を参照)とを接触させ、それにより前記繊維108を少なくとも部分的に沈殿させること。その結果、フィラメントまたは繊維108は、ウェブまたは不織セルロース繊維布帛102を形成する前に少なくとも部分的に沈殿する。
(d)前記フィラメントまたは繊維108を収集および沈殿させて、ウェブまたは不織セルロース繊維布帛102を形成すること。
(e)洗浄ラインの溶媒を除去すること(洗浄ユニット180を参照)。
(f)場合により、水流交絡、ニードルパンチなどを介して結合させること(追加の処理ユニット134を参照)。
(g)乾燥およびロール収集。
【0112】
不織セルロース繊維布帛102の構成要素は、併合、混入、水素結合、物理的結合、例えば水流交絡またはニードルパンチ、および/または化学的結合によって結合されてもよい。
【0113】
さらに処理するために、不織セルロース繊維布帛102は、同じおよび/または他の材料の1つまたは複数の層、例えば(図示せず)、合成ポリマーの層、セルロース毛羽立ちパルプ、セルロースまたは合成ポリマー繊維の不織ウェブ、複合繊維、セルロースパルプのウェブ、例えば、エアレイドまたはウェットレイドパルプ、高靭性繊維のウェブまたは布帛、疎水性材料、高性能繊維(温度抵抗性材料または難燃性材料など)、最終製品に変化した機械的特性を与える層(ポリプロピレンまたはポリエステルの層など)、生分解性材料(例えば、ポリ乳酸由来のフィルム、繊維またはウェブ)、および/または高バルク材料と組み合わされてもよい。
【0114】
不織セルロース繊維布帛102のいくつかの区別可能な層を組み合わせることも可能である。例えば、図7を参照されたい。
【0115】
不織セルロース繊維布帛102は、本質的にセルロースのみから構成されてよい。あるいは、不織セルロース繊維布帛102は、セルロースと1つまたは複数の他の繊維材料との混合物を含んでもよい。さらに、不織セルロース繊維布帛102は、複合繊維材料を含んでもよい。不織セルロース繊維布帛102内の繊維材料は、改質物質を少なくとも部分的に含んでもよい。改質物質は、例えば、ポリマー樹脂、無機樹脂、無機顔料、抗菌製品、ナノ粒子、ローション、難燃性製品、吸収性改善添加剤、例えば、超吸収性樹脂、イオン交換樹脂、炭素化合物、例えば、活性炭、グラファイト、導電性のための炭素、X線造影物質、発光顔料および染料からなる群から選択されてもよい。
【0116】
結論として、リヨセル紡糸溶液104から直接製造されたセルロース不織ウェブまたは不織セルロース繊維布帛102は、ステープル繊維を用いた方法を介しては不可能な付加価値ウェブ性能を利用可能にする。これには、均一な軽量ウェブを形成する可能性、マイクロファイバ製品を製造する可能性、およびウェブを形成する連続フィラメントまたは繊維108を製造する可能性が含まれる。さらに、ステープル繊維由来のウェブと比較して、いくつかの製造手順はもはや必要ではない。さらに、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛102は、生分解性であり、持続可能に供給された原材料(すなわち、木材パルプ110など)から製造される。また、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛102は、純度および吸収性の点で利点を有する。さらに、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛102は、調整可能な機械的強度、剛性および柔軟性を有する。また、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛102は、面積当たりの重量が小さくなるように(例えば、10~30g/m)製造され得る。この技術により、直径5μm以下、特に3μm以下までの非常に微細なフィラメントを製造することができる。また、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛102は、平坦でパリッとした(crispy)フィルム状、紙状、または柔軟で弾力的な織物状など、ウェブの広範囲の美粧性を備えて形成されてもよい。記載されたプロセスのプロセスパラメータを適合させることにより、不織セルロース繊維布帛102の剛性および機械的剛性または弾力性および柔軟性を正確に調整することがさらに可能である。これは、例えば、併合位置の数、層の数を調整するか、後処理(ニードルパンチ、水流交絡および/またはカレンダ成形など)によって調整することができる。特に、10g/m以下までの比較的低い坪量を有する不織セルロース繊維布帛102を製造して、非常に小さな直径(例えば、3~5μm以下まで)などを有するフィラメントまたは繊維108を得ることが可能である。
【0117】
図2図3および図4は、対応するプロセス制御によって個々の繊維108の併合が達成された、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛102の実験的に捕捉された画像を示す。図2から図4の楕円形のマーカは、複数の繊維108が互いに一体的に接続されているそのような併合領域を示している。そのような併合点では、2つ以上の繊維108を相互接続して、一体化構造を形成してもよい。
【0118】
図5および図6は、繊維108の膨潤が達成された、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛102の実験的に捕捉された画像を示し、図5は乾燥非膨潤状態の繊維布帛102を示し、図6は湿潤膨潤状態の繊維布帛102を示す。細孔径は、図5および図6の両方の状態で測定することができ、互いに比較することができる。30回の測定の平均値を計算すると、水性媒体中の繊維108の膨潤によって、細孔径がそれらの初期直径の47%まで減少したことを決定することができた。
【0119】
図7は、対応するプロセス設計、すなわち、複数の紡糸口金の直列配列によって、繊維108の2つの重ね合わせた層200、202の形成が達成された、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛102の実験的に捕捉された画像を示す。2つの別個であるが接続された層200、202が、図7に水平線によって示されている。例えば、機械方向に沿ってn個の紡糸口金またはジェット122を直列に配置することにより、n層布帛102(n≧2)を製造することができる。
【0120】
本発明の特定の例示的な実施形態を以下にさらに詳細に説明する。
【0121】
図8は、平行な円筒管の束内の毛管流を表す既知のウォッシュバーンの式に従って、毛管直径の関数としての水の毛管高さによって与えられる毛管力の一般的な依存性を示す。ウォッシュバーンの式は以下の通りである。
【数1】
【0122】
これにより、tは、動粘度η(エータ)および表面張力γ(ガンマ)を有する液体が、直径Dを有する管に距離Lだけ浸透する時間である。ウォッシュバーンの式(1)は、多孔質材料の毛管効果にも少なくともほぼ適用されることが科学的に考察されているが、ウォッシュバーンの式(1)が不織セルロース繊維布帛にも少なくともほぼ適用されることを発見したのは本発明者である。これにより、直径Dは、繊維間に形成された空隙の平均空間的広がりによって与えられる。
【0123】
図8に示すグラフは、垂直方向、すなわち重力方向に平行に延び、毛管力に応答して試験液がその中に吸収される複数の管を用いた毛管実験の結果を示している。毛管力は、一定の時間t内に達成される毛管高さに正比例する。
【0124】
不織セルロース繊維布帛が試験液体水を良好な近似値で吸収する場合、水の表面張力に関連する動粘度ηは一定値と考えることができる。布帛内の複数の異なる大きさの空隙または空洞の存在(それぞれ「賦与(offer)」)により、ある空隙は大きな吸上速度を生じ、他の空隙は比較的小さな吸上速度を生じる。ただし、不織セルロース繊維布帛のバルク材料全体にわたって、これらの異なる吸上速度は平均をとる。これに関連して、不織セルロース繊維布帛内の空隙の平均の大きさは、吸上速度の重要なパラメータであることを理解すべきである。したがって、リヨセル紡糸のプロセスに適切なプロセスパラメータを選択することにより、それぞれの不織セルロース繊維布帛の空隙の平均の大きさと吸上速度とを調整することができる。
【0125】
吸上速度に関して、コンベアベルトタイプの繊維支持ユニット(図1の符号132を参照)の輸送速度が重要なパラメータであることが指摘される。このパラメータを制御することにより、適切な吸上速度を得ることができる。特定の理論に縛られることなく、輸送速度の上昇に伴い、コンベアベルトタイプの繊維支持ユニット上の凝固した繊維のレイダウンにより、支持ユニットの移動方向に向かって支持ユニット上の繊維の配向の分布幅が「狭く」なると現在考えられている。好ましい吸上方向がセルロース繊維の長さ方向に沿っていることを考慮すると、支持ユニットの速度を調整することによって一般的な吸上速度を制御することができるだけでなく、布帛内の異なる方向に沿って異なる吸上速度を達成することもできる。異なる吸上速度に関して、1:2、1:5またはさらには1:10の異方性が達成され得る。
【0126】
例えば、おむつまたはナプキンに対して、吸上速度の異方性挙動が有益な方法で使用されてもよい。この文脈では、おむつとは、少なくとも長方形であるが正方形ではない布帛と考えられ得る。次いで、布帛の辺長の比に対応するような方式で、特にコンベアベルトタイプの繊維支持ユニットの速度を調整することによって、異方性挙動を調整することができる。この文脈では、比較的大きな吸上速度が比較的長い辺長に関連していることは明らかである。これは、布帛の全領域が(速い)吸水のために利用されるという利点を提供し得る。
【0127】
上記の物理的画像では、液体拡散速度についても同じ考慮が適用されることが言及される。
【0128】
図9は、液体拡散速度の異方性値を有する布帛によって吸収された液体の非等方性拡散を示す概略画像を示す。この図は、吸収される着色液が、「X」によって示される位置で布帛102上に堆積する実験に対応する。堆積した液体の布帛内への伝播が、時間の関数として観察される。液体の堆積を開始した後の所定の時間に、カメラによって、液体拡散の画像を捕捉する。そのような測定手順に関する追加の詳細は、既に上記で説明されている。
【0129】
破線の円は、液体拡散および/または吸上速度に関して等方性挙動を有する布帛102内で生じる(布帛102の表面に見られるような)液体拡散の縁部を表す。これにより、液体の伝播速度vは、布帛の平面内の全方向に対して同じである。これは、同じ長さvを有する2つの破線矢印によって図9に示されている。
【0130】
実線で描かれた楕円は、液体拡散および/または吸上速度に関する異方性挙動の例である。これにより、液体の伝播速度は、布帛102の平面内の異なる方向に対して異なる。これは、実線で描かれた2本の矢印によって図9に示されている。具体的には、楕円の長い方の延長部は、速い方の伝播速度v2に対応し、楕円の短い方の延長部は、遅い方の伝播速度v1に対応する。
【0131】
図10は、単一の繊維108およびその内部構造の実験的に捕捉された画像を示す。曲線108bは、繊維108のシェルである。繊維の内部構造は、複数のフィブリル108aを含む。フィブリル108aの存在により、繊維108の内部構造も、液体吸収能力に顕著な貢献をもたらし得るサブミクロンスケールのチャネルを有するフィブリル構造を表すものと考えることができる。
【0132】
実験的試験により、驚くべきことに、記載された(サブミクロン)フィブリル構造が、リヨセル紡糸手順により製造された無端繊維に特に顕著な特徴であることが明らかにされた。具体的には、繊維108内のフィブリル構造の高い均一性を達成することができる。さらに、繊維凝固が行われたばかりの位置での繊維凝固プロセスのための層状ガス流が、液体を収容するのに特に適したフィブリル構造の形成を促進することが判明した。
【0133】
この時点で、繊維の内部構造内の液体吸収が、繊維の膨潤プロセスに伴うことが言及される。熱可塑性材料と比較して、慎重に製造されたリヨセル繊維は、内部にフィブリルの比較的均一な毛管系を示し、この系は繊維に沿って延びている。この毛管系は、液体を吸収すると膨潤する。以下でさらに詳細に説明するように、この膨潤は、液体拡散速度および/または吸上速度のパラメータ値の大幅な増加をもたらす。
【0134】
図11は、本発明の一実施形態による不織セルロース繊維布帛102の実験的に捕捉された画像を示す。この画像は、繊維網が、直径/繊度および/または形状の異なる変動を特徴とする繊維108を含むことを示している。これは、実質的に平行な様式で凝固した繊維108の撚り、繊維内の直径変動、繊維間の直径変動、ならびに異なる大きさおよび形状の空洞を含む。平均繊維径の変動、繊維の併合および撚りによって、結果として得られる布帛の毛管特性、したがって吸上速度および液体拡散速度を制御することができる。
【0135】
比較的細い繊維と比較的太い繊維との混合物が、布帛102のいくつかの歓迎される特性を提供し得ることが言及される。例えば、細い繊維は、隣接する繊維間に高い毛管現象をもたらし得、これにより、特に吸上速度および液体拡散速度に関して液体吸収能力が改善される。比較的太い繊維は、三次元繊維布帛構造の高い機械的安定性に寄与し得る。繊維網内で発達したいわゆる微細孔が、特に異なる繊維間の接着力のために崩壊しないとなると、このような安定性の向上が必要になり得る。これに関連して、このような微細孔の崩壊は液体吸収能力を低下させることは明らかである。言うまでもなく、任意の空洞、チャンバ、空隙、隙間または細孔は、その毛管力のため、布帛102の液体吸収能力に程度の差はあるが大きな貢献をもたらす。
【0136】
撚りは、螺旋状に互いに撚り合わされた少なくとも2本の個々の繊維によって与えられてもよい。さらに、非円形断面を有し、(それ自体で)撚られている単一の繊維108も、そのような撚りを表すものと考えられ得る。
【0137】
リヨセル紡糸手順では、例えば、それぞれのリヨセル繊維が押し出される際に通るオリフィスの大きさを変化させることによって、平均繊維径(それぞれ繊度)を調整することができる。また、(コンベアベルトタイプの)繊維支持ユニット132(図1の符号12を参照)に向かって、まだ凝固していない繊維を引っ張るガス流(図1の符号146を参照)の変動を使用して、繊維108の直径内および/または直径間の変動を形成してもよい。
【0138】
例えば、コンベアタイプの繊維支持ユニット(図1の符号132を参照)に向かって、押し出されたリヨセル紡糸溶液を加速するガス流の圧力および/または速度変動によって、繊維の長さに沿った変動が生成され得る。
【0139】
これらの手段により、特に機械的安定化のために、直径が5μm(=5×10-6m)未満のセルロース繊維を、さらに大きな直径の繊維を有する布帛に組み込むことができる。この機械的安定化機能は、布帛の自重の負荷の下でおよび/または外部負荷の存在している状態で、例えば(コンベアベルトタイプの)繊維支持ユニット(図1の符号132を参照)の表面で負圧によって吸引された際に、布帛の毛管構造が少なくとも部分的に崩壊するのを防ぎ得る。
【0140】
本書では、記載された布帛の繊維網の毛管現象の次元を予測可能な方法で適応させるためのいくつかの制御可能なプロセスパラメータが説明されている。これに関連して、特に吸上速度および/または液体拡散速度に関して、水を吸収する機構は、毛管系の形状および空間的寸法に強く依存することが言及されている。吸水プロセスの開始時、毛管の吸上速度および/または毛管の液体拡散速度は、程度の差はあるが細かな毛管構造の直径および/または毛管半径に強く依存する。
【0141】
液体拡散速度および/または吸上速度の到達可能パラメータ値に関して、さらに重要なのは、本書に記載されている布帛が実質的に無端の繊維を含むという事実であり得る。少なくとも、ステープル繊維から作られた既知の布帛と比較して、本書に記載されている布帛は連続した繊維から作られている。したがって、記載された布帛内では、繊維端部の数は大幅に少なくなっている。これは、記載された布帛内では、異なる繊維または繊維端部の間に延びる隙間の数も大幅に少なくなっていることを意味する。これに関連して、あらゆる隙間は、布帛内の液体の「移動」に対してある程度の障壁を生じる。結果として、無端繊維は、液体表面拡散および/または吸上速度の著しい増大に寄与する。
【0142】
さらに、ポリマー無端繊維とは対照的に、セルロース無端繊維は液体吸収時に膨潤を示す。そのような膨潤は、液体の拡散およびウイッキング性に関する布帛の能力を促進するサブミクロンチャネル(図10を参照)に影響を及ぼす。さらに、併合点も液体の吸収時に膨潤する材料から構成される。したがって、併合点も液体の拡散およびウイッキング性を促進する。結果として、液体拡散速度および/または吸上速度を所望の値に合わせるための尺度として、併合因子の適応も使用することができる。
【0143】
図12は、一方では繊維108間の異なる種類の併合位置204、他方では繊維108間の非併合交差位置220が示されている、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛102の概略画像を示す。
【0144】
複数の併合位置204は、少なくとも2本の異なる繊維が互いに交差する併合点と、異なる繊維108がそれに沿ってそれらの長さの一部にわたって互いに並んで整列して、併合線の全長に沿って直径が大きくなる上位繊維構造206を形成する併合線とを含む。併合位置204では繊維108は一体的に接続され、ここでは繊維網を破壊することによってのみ分離することができるが、交差位置220では他の繊維108は互いに摩擦接触しているだけであり、ここでは相対的に互いに自由に移動することができる。図12には、それぞれ2本の繊維108の間の併合および交差が示されているが、それぞれ少なくとも3本の繊維108の間でも併合および/または交差が起こり得る。
【0145】
特定の理論に縛られることなく、非併合交差位置に併合がまったくないか、弱く併合した交差位置にだけ弱い併合だけがあると、一方の繊維から他方の繊維へ移動する液体に関して障壁を示すと現在考えられている。少なくとも2本の繊維間に強い併合がある場合(例えば、図12の符号204を参照)、関与する繊維間の液体移動は、はるかに容易であり、特にはるかに速い。布帛内の繊維の空間的経路が好ましくない場合であっても、繊維はいずれも液体粒子を収容することができるため、あらゆる繊維が膨潤し、液体吸収能力に対する貢献をもたらす。
【0146】
図13は、相互接続された繊維108の積み重ねられ、併合された2つの網層を含む、本発明の例示的な実施形態による不織セルロース繊維布帛102の概略断面図を示す。第1の繊維108を含む第1の網層は、符号200によって表される。第2の繊維108を含む第2の網層は、符号202によって表される。処理パラメータ(値)が異なるため、第1の繊維108は、少なくとも1つの物理的および/または化学的特性の点で第2の繊維108とは異なる。
【0147】
本明細書に記載される例示的な実施形態によれば、第1の繊維108の(平均)直径は、第2の繊維108の(平均)直径よりも大きい。これは、図13の2つの下部詳細図によって示される。層200、202の間の界面の重要な特性が図13の上部詳細図に示されており、界面での布帛102の安定性を高めるために界面で両方の層200、202の繊維108を一体的に結合する層内併合点204が見える。さらに、異なる層200、202に位置する繊維108の異なるそれぞれが、少なくとも1つのそれぞれの内層併合位置204で一体的に接続される(図13の2つの下部詳細図を再度参照)。
【0148】
異なる繊維網層200、202に位置し、異なる平均直径を備えて形成される繊維108は、異なる機能性を備えてもよい。そのような異なる機能性は、異なる平均直径によって支持されてもよいが、それぞれのコーティングなどによってさらに促進されてもよい。そのような異なる機能性は、例えば、ウイッキング性、異方性挙動、異なる吸油能力、異なる吸水能力、異なるクリーナビリティおよび/または異なる粗さに関して異なる挙動であり得る。
【0149】
図14は、本発明の例示的な実施形態に従って、繊維108の断面の内接円280と外接円282との比として、円形断面から逸脱した断面を有する繊維108の真円度をどのように計算することができるかを示す。
【0150】
この定義により、最小外接円282は、図14に示される繊維108の断面の円形輪郭の全体を囲む最小の円として定義される。最大内接円280は、図14に示すように、繊維108の断面の円形輪郭内に内接することができる最大の円として定義される。本書の文脈では、真円度とは、内接円280の半径rを外接面282の半径Rで割った比として定義することができる。真円度は、結果のパーセンテージ値によって示され得る。本例では、R≒2rであり、したがって、繊維108の真円度は約50%である。比較のために、円柱状繊維108は、条件R=rを満たし、真円度が1である。
【0151】
描画平面内でのセルロース繊維の外側シェルの曲げ、すなわち繊維の長手方向延長部に対して少なくとも実質的に垂直な曲げも、全体的な毛管力に影響を及ぼし、水系液体および/または油系液体の液体粒子を収容し得る(小さな空洞)の形成に寄与する。結果として、円形断面からの逸脱も、布帛が大きな液体吸収能力を示すのに役立つ可能性がある。
【0152】
繊維の特定の断面を仮定すると、それぞれ円形断面からの逸脱が大きくなるにつれて、真円度の減少とともに外繊維表面が増加する。したがって、真円度はまた、毛管(表面)強度に影響を及ぼし、その結果、特に吸上速度および/または液体拡散速度に関して、布帛102の液体吸収能力にも影響を及ぼす重要なパラメータであることは明らかである。
【0153】
繊維108の断面形状は、例えば、リヨセル紡糸溶液のそれぞれの部分が押し出される(図1の符号126によって示される)オリフィスの対応する断面形状によって調整することができる。ただし、それぞれのオリフィスの他の構造的寸法も、結果として得られる繊維108の断面形状に影響を及ぼす可能性がある。具体的には、最小曲げ半径を有する断面形状の部分、すなわち、図14の左側部分で繊維108の表面が内接円280と一致する部分は、断面形状調整によって形成された毛管チャネルの少なくとも一部として見ることができる。
【0154】
図15は、本発明の一実施形態に従って、3つの網層を含む不織セルロース繊維布帛102を示す。第1の(下部)繊維網層は、符号200によって表される。第1の繊維網層200の上に形成される第2の(中間)繊維網層は、符号202によって表される。第2の繊維網層202の上に形成される追加の(上部)繊維網層は、符号202'によって表される。既に上述したように、布帛102は、3つを超える積み重ねられた繊維網層を含んでもよい。
【0155】
図15からさらに分かるように、本明細書に記載される例示的な実施形態によれば、3つの繊維網層200、202、202'は異なる厚さを有する。第1の繊維網層200は、第1の厚さt1を有する。第2の繊維網層202は、第2の厚さt2を有する。追加の繊維網層202'は、第3の厚さt3を有する。
【0156】
既に上で説明したように、各層はそれぞれ関連付けられていてもよく、個々の機能性を有してもよい。異なる機能性は、様々な異なる繊維網特性、例えば、特に(平均)繊維径および/またはそれぞれの層の併合因子によって生じ得る。さらに、適切な層間併合によって、隣接する層の相互付着のために追加の接着材料が必要とされない。したがって、記載された布帛は、環境に適合した方法で実現することができる。具体的には、記載された多層布帛は、完全に生分解性の製品に使用することができる。
【0157】
図15に概略的に示した多層布帛は、ある程度の触覚特性を必要とする用途に特に適合させることができる。記載された布帛から作られた繊維ウェブの好適な特定の基本特性は、特定の用途に適したものにすることができる。そのような特定の基本特性は、例えば、布帛の被覆層の柔らかい触覚特性と組み合わされた特定の液体吸収および/または放出管理であり得る。特に、繊維径の変動の適切な設計パラメータにより、柔軟性、機械的安定性、液体吸収能力、ウイッキング性(速度)などの望ましい組合せを作り出すことができ得る。
【0158】
具体的には、本発明の例示的な実施形態による多層布帛は、大きな液体吸収能力および/または液体保持能力を有する少なくとも1つの内層または中間層を含んでもよい。この内層または中間層は、それぞれの繊維布帛製品、例えば、顔用マスク、清掃用布などの適用中に放出されるべき液体に浸漬されてもよい。被覆層のうち少なくとも1つは、(時間および/または空間にわたって)均一な液体分配が提供されるように構成される。多層布帛のそのような設計は、例えば、布帛全体内の適切な繊維径の変動により達成され得る。
【0159】
図16は、本発明の例示的な実施形態による、無端セルロース繊維108の2つの積層200、202から構成される不織セルロース繊維布帛102を製造するための装置100の一部を示す。図16に示される装置100と図1に示される装置100との相違は、図16に記載の装置100が、上述のように、2つの直列に整列されたジェット122と、それぞれ割り当てられた凝固ユニット128とを備えることである。本明細書に記載される実施形態では、2つの凝固ユニット128がジェット122のそれぞれに割り当てられる。図12では、一方の凝固ユニット128が、ジェット122と繊維支持ユニット132との間に延びるリヨセル紡糸溶液104の経路の左側に位置し、他方の凝固ユニット128が、この経路のそれぞれの右側に位置する。コンベアベルトタイプの繊維支持ユニット132の可動式繊維収容面を考慮して、図16の左側の上流ジェット122は層200を生成する。層202は、下流ジェット122(図16の右側を参照)によって生成され、布帛102の二重層200、202が得られるように、先に形成された層200の上部主表面に取り付けられる。
【0160】
図16によれば、異なる層200、202の繊維108が、繊維径に関して最小直径に対して50%を超える差で異なるようにプロセスパラメータを調整するように、(ジェット122およびあらゆる凝固ユニット128を制御する)制御ユニット140が構成される。制御ユニット140によって層200、202の繊維108の繊維径を調整することは、リヨセル紡糸溶液104と相互作用する凝固流体106の量を調整することを含んでもよい。加えて、図16の実施形態は、可動式繊維支持ユニット132に沿って、(場合により異なる特性を有する)オリフィス126の複数のジェット122を直列に配置することによって、繊維径を調整するためのプロセスパラメータを調整する。例えば、そのような異なる特性は、オリフィス126の異なる直径、ガス流146の異なる速度、ガス流146の異なる量および/またはガス流146の異なる圧力であり得る。図16には示されていないが、例えば、水流交絡、ニードルパンチ、含浸、加圧蒸気による蒸気処理および/またはカレンダ成形により、繊維支持ユニット132上に収集した後に繊維108をさらに処理することが可能である。
【0161】
さらに図16に示される実施形態を参照すると、1つまたは複数の追加のノズルバーまたはジェット122が設けられ得、繊維支持ユニット132の輸送方向に沿って直列に配置され得る。好ましくは層200および/または層202の繊維108の凝固または硬化プロセスが完全に完了する前に、繊維108の追加の層202が先に形成された層200の上に堆積され得、これが併合を引き起こし得るように、複数のジェット122が配置されてもよい。プロセスパラメータを適切に調整すると、これは、多層布帛102の特性に関して有利な効果をもたらし得る。
【0162】
特定の理論に縛られることを望まないが、現在、第2の層202は第1の層200の補強と考えることができ、これにより、結果として得られる布帛102の均一性が向上すると考えられている。機械的安定性のこの増大は、繊維径の変動(特に、個々の繊維108の繊維間の直径変動および/または繊維内長手方向の直径変動)によってさらに改善することができる。さらに深い(特に時間厳守の)圧力(例えば、空気または水によって提供される)を加えると、繊維108の断面形状はさらに意図的に歪み得、これにより、有利には、機械的安定性がさらに増大し得る。
【0163】
他方、図16に記載の布帛102の繊維108間に意図された併合を引き起こして、布帛の機械的安定性をさらに増大させることができる。
【0164】
用語「含む(comprising)」は他の要素または工程を除外せず、冠詞「a」または「an」の使用は複数を除外しないことに留意されたい。また、異なる実施形態に関連して説明された要素を組み合わせてもよい。特許請求の範囲における参照符号が、特許請求の範囲を限定するものとして解釈されるべきではないことにも留意されたい。
【0165】
[符号の説明]
100:不織セルロース繊維布帛を製造するための装置
102:不織セルロース繊維布帛/ウェブ状布帛
104:リヨセル紡糸溶液
106:凝固流体
108:繊維
108a:フィブリル
108b:繊維シェル
110:木材パルプ
112:水用容器
113:計量ユニット
114:貯蔵タンク
116:溶媒用容器
118:洗浄ユニット
119:混合ユニット
120:溶解ユニット
122:ジェット
124:繊維形成ユニット
126:オリフィス
128:凝固ユニット
132:(コンベアベルトタイプの)繊維支持ユニット
134:追加の処理ユニット
136:ロール
140:制御ユニット
146:ガス流
200:併合層/第1の網層
202:併合層/第2の網層
202':併合層/追加の網層
204:層内併合位置/層内併合点/層内併合線
206:上位繊維構造
220:非併合交差位置
280:内接円
282:外接円
r、R:内接円(それぞれ外接円)の半径
t1、t2、t3:層の厚さ
【0166】
以下では、併合因子の変動を生じさせる例を記載し、以下の表に可視化する。一定の紡糸溶液(すなわち、一定の粘度を有する紡糸溶液)、特にリヨセル紡糸溶液、および一定のガス流(例えば空気処理量)を使用しながら凝固スプレ流を変化させることによって、セルロース繊維布帛内に異なる併合因子が達成されてもよい。これにより、凝固スプレ流と併合因子との関係、すなわち、併合挙動の傾向(凝固スプレ流が高いほど、併合因子が低い)が観察され得る。これにより、MDは機械方向を示し、CDは幅方向を示す。
【表1】
柔軟性(既知のSpecific Hand測定技術によって記載され、不織布規格WSP90.3、特に本特許出願の優先日に有効な最新版に基づいて、いわゆる「ハンドル-O-メータ」を用いて測定された)は、上述の併合の傾向に従い得る。例えば、EN29073-3(それぞれISO9073-3)、特に本特許出願の優先日に有効な最新版による靭性(Fmaxにより記載)も、前述の併合の傾向に従い得る。したがって、結果として得られる不織セルロース繊維布帛の柔軟性および靭性は、(併合因子によって指定される)併合の程度に従って調整され得る。
図1
図2
図3
図4
図5
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図7
図8
図9
図10
図11
図12
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図15
図16