IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 株式会社アシックスの特許一覧

特許7005764靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法
<>
  • 特許-靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法 図1
  • 特許-靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法 図2
  • 特許-靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法 図3
  • 特許-靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法 図4
  • 特許-靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法 図5
  • 特許-靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法 図6
  • 特許-靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法 図7
  • 特許-靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法 図8
  • 特許-靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法 図9
  • 特許-靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法 図10
  • 特許-靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法 図11
  • 特許-靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法 図12
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   A43B 23/02 20060101AFI20220117BHJP
【FI】
A43B23/02 101A
【請求項の数】 15
(21)【出願番号】P 2020528981
(86)(22)【出願日】2019-12-25
(86)【国際出願番号】 JP2019050861
(87)【国際公開番号】W WO2021130905
(87)【国際公開日】2021-07-01
【審査請求日】2020-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000000310
【氏名又は名称】株式会社アシックス
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】特許業務法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】澤田 大輔
【審査官】石井 茂
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2018/0168274(US,A1)
【文献】特開2018-109249(JP,A)
【文献】米国特許第03634954(US,A)
【文献】特表2001-513666(JP,A)
【文献】特表2015-506778(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A43B 1/00-23/30
A43C 1/00-19/00
A43D 1/00-999/00
B29D 35/00-35/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
靴のアッパーであって、
伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体と、前記領域に着脱可能に配置されたフィルムとを備え、前記フィルムの少なくとも一方向における熱収縮率が30%以上であり、
前記フィルムは、前記一方向における両端部において前記アッパー本体に接合されている、アッパー。
【請求項2】
靴のアッパーであって、
伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体と、前記領域に着脱可能に配置されたフィルムとを備え、前記フィルムの少なくとも一方向における熱収縮率が30%以上であり、
前記アッパー本体の前記領域は、少なくとも2つの層を備えており、
前記フィルムは、前記2つの層の間に配されている、アッパー。
【請求項3】
靴のアッパーであって、
伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体と、前記領域に着脱可能に配置されたフィルムとを備え、前記フィルムの少なくとも一方向における熱収縮率が30%以上であり、
前記フィルムの前記一方向における熱収縮率と、前記フィルムの前記一方向とは異なる他方向における熱収縮率とは、異なっている、アッパー。
【請求項4】
靴のアッパーであって、
伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体と、前記領域に着脱可能に配置されたフィルムとを備え、前記フィルムの少なくとも一方向における熱収縮率が30%以上であり、
前記フィルムは、前記靴における幅方向での熱収縮率が、前記靴における長さ方向での熱収縮率よりも大きい、アッパー。
【請求項5】
前記フィルムの前記一方向における熱収縮率が30%以上となる温度は、50℃以上150℃以下である、請求項1~4のいずれか1項に記載のアッパー。
【請求項6】
前記フィルムの厚みは、10~100μmである、請求項1~5のいずれか1項に記載のアッパー。
【請求項7】
前記フィルムは、前記フィルムの前記一方向における両端部において前記アッパー本体に接合されている、請求項1~のいずれか1項に記載のアッパー。
【請求項8】
前記フィルムの少なくとも一部は、前記アッパー本体の外表面側に露出している、請求項1、3のいずれか1項に記載のアッパー。
【請求項9】
伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体を用意する用意ステップと、
少なくとも一方向における熱収縮率が30%以上であるフィルムを、前記アッパー本体の前記領域に配置する配置ステップと、
前記アッパー本体を足型又は足に装着させる装着ステップと、
前記配置ステップ及び前記装着ステップの後に、前記フィルムが配置されたアッパー本体を加熱し、それによって前記フィルムを前記足型又は足に沿うように収縮させる、加熱ステップと
を備え、
前記配置ステップにおいて、前記フィルムの前記一方向における両端部において前記フィルムを前記アッパー本体に接合する、靴のアッパーの製造方法。
【請求項10】
伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体を用意する用意ステップと、
少なくとも一方向における熱収縮率が30%以上であるフィルムを、前記アッパー本体の前記領域に配置する配置ステップと、
前記アッパー本体を足型又は足に装着させる装着ステップと、
前記配置ステップ及び前記装着ステップの後に、前記フィルムが配置されたアッパー本体を加熱し、それによって前記フィルムを前記足型又は足に沿うように収縮させる、加熱ステップと
を備え、
前記アッパー本体の前記領域は、少なくとも2つの層を備えており、
前記配置ステップでは、前記フィルムを、前記2つの層の間に配する、靴のアッパーの製造方法。
【請求項11】
伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体を用意する用意ステップと、
少なくとも一方向における熱収縮率が30%以上であるフィルムを、前記アッパー本体の前記領域に配置する配置ステップと、
前記アッパー本体を足型又は足に装着させる装着ステップと、
前記配置ステップ及び前記装着ステップの後に、前記フィルムが配置されたアッパー本体を加熱し、それによって前記フィルムを前記足型又は足に沿うように収縮させる、加熱ステップと
を備え、
前記加熱ステップにおいて、前記フィルムは、前記靴における長さ方向よりも幅方向に大きく収縮する、靴のアッパーの製造方法。
【請求項12】
前記装着ステップにおいて、前記アッパーを備えた靴を使用することになる使用者の足に前記アッパーを装着させる、請求項9~11のいずれか1項に記載のアッパーの製造方法。
【請求項13】
前記加熱ステップにおいて、前記アッパー本体を150℃以下の温度で30秒以下の間だけ加熱する、請求項~12のいずれか1項に記載のアッパーの製造方法。
【請求項14】
前記加熱ステップにおいて、前記アッパー本体を温風を用いて加熱する、請求項~13のいずれか1項に記載のアッパーの製造方法。
【請求項15】
前記配置ステップにおいて、前記フィルムは、前記アッパー本体の甲領域又は土踏まず領域の少なくとも一方に配置される、請求項~14のいずれか1項に記載のアッパーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
靴、特にアッパーのフィッティング性は、靴の使用者にとって重要な要素の一つである。使用者の足の形状によくフィットする靴は、その使用者にとって履き心地に優れ、着用時に足を痛めることもなく、正しい歩行姿勢をサポートすることもできる。
【0003】
フィッティング性に優れた靴を簡易に提供する方法の一例として、特許文献1には、熱収縮糸を使ったアッパーの製造方法が開示されている。この方法により製造されたアッパーは、製造に使用された足型に沿った形状を保持しているため、当該足型の形状によくフィットするアッパーを備えた靴を提供することができる。
【0004】
もっとも、上記特許文献1の方法の他には、足の形状に沿ったアッパーを備えた靴を簡易に製造する方法はほとんど知られておらず、フィッティング性に優れた靴を簡易に製造する有用な他の方法は求められ続けている。
【0005】
一方で、例えば特定の箇所において使用者の足へのフィッティング性を簡便かつ容易に調整することにより、アッパーをカスタマイズしたいというニーズもある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】国際公開第2017/115805号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、上記問題点に鑑み、使用者の足へのフィッティング性を簡便かつ容易に調整することにより、アッパーをカスタマイズすることが可能な靴のアッパー、及び靴のアッパーの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る靴のアッパーは、
伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体と、前記領域に配置されたフィルムとを備え、前記フィルムの少なくとも一方向における熱収縮率が30%以上である。
【0009】
本発明に係る靴のアッパーの製造方法は、
伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体を用意する用意ステップと、
少なくとも一方向における熱収縮率が30%以上であるフィルムを、前記アッパー本体の前記領域に配置する配置ステップと、
前記アッパー本体を足型又は足に装着させる装着ステップと、
前記配置ステップ及び前記装着ステップの後に、前記フィルムが配置されたアッパー本体を加熱し、それによって前記フィルムを前記足型又は足に沿うように収縮させる、加熱ステップと
を備えている。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】第1実施形態のアッパーを備えた靴を示した側面図。
図2図1の靴を示した上面図。
図3】第1実施形態のアッパーの変形形態を備えた靴を示した側面図。
図4図1の靴において、アッパーに備えられた繊維シート上にフィルムが配されている状態を表す概略図。
図5図4の靴のアッパーに備えられたフィルムを熱収縮させた後のアッパーを備えた靴を示した側面図。
図6】第2実施形態のアッパーを備えた靴を示した側面図。
図7図6の靴において、アッパーに備えられた繊維シート内部にフィルムが配されている状態を表す概略図。
図8図6の靴におけるアッパーのX1-X1断面図。
図9図6の靴におけるアッパーのX2-X2断面図。
図10】他の実施形態のアッパーを備えた靴を示した側面図。
図11】さらに他の実施形態のアッパーを備えた靴を示した側面図。
図12】別の実施形態のアッパーを備えた靴を示した側面図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しつつ、本発明のアッパー及びその製造方法の実施形態について説明する。ただし、下記の実施形態は、単なる例示である。本発明は、下記の実施形態に何ら限定されない。
【0012】
また、実施形態などにおいて参照する各図面において、実質的に同一の機能を有する部材は同一の符号で参照することとする。また、実施形態において参照する図面は、模式的に記載されたものであり、図画に描写された物体の寸法の比率等は、現実の物体の寸法の比率等と異なる場合がある。
【0013】
なお、本明細書では、靴の爪先側末端及び踵側末端を通る直線を靴の中心線とし、該中心線に沿った方向を長さ方向、該長さ方向に直交する方向であって靴の接地面に平行な方向を幅方向、該長さ方向に直交する方向であって靴の接地面に垂直な方向を高さ方向として説明を行う。また、靴の長さ方向における爪先側を前方、踵側を後方と称すると共に、靴の高さ方向における接地面側を下方、その反対側を上方と称する。さらに、靴の爪先側末端を0%位置、踵側末端を100%位置としたとき、靴の長さ方向における0%~30%位置(靴の中心線上において30%位置となる点を通り、該直線と直交する30%位置幅直線上における位置を含む。以下同様)の範囲内の領域を前足部、30%~80%位置の範囲内の領域を中足部、80%~100%位置の範囲内の領域を後足部と称する。ここで、これらの領域は、靴を上面から見た際の面積により指定される。
【0014】
また、本明細書では、靴の内側とは、他に特段の記載がない限り、足裏の解剖学的正位における内足側(正中に近い側)に対応する側をいい、靴の外側とは、足裏の解剖学的正位における外足側(正中から遠い側)に対応する側をいう。
【0015】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係るアッパー2を備えた靴1を示したものである。
図1に示すように、靴1は、アッパー2と、靴底3とを有している。
【0016】
アッパー2は、伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体21と、該領域に配されたフィルム25とを備えている。
本明細書において、ある物体又はその領域が伸縮性を有するとは、外力が加えられていない静止状態にある該物体又は領域が、所定の方向に引張力が加えられることにより該物体又は領域が該方向に伸長可能であり、かつ、該引張力がなくなり再び静止状態にされた際に、該物体又は領域が元の形状に戻ることを意味する。例えば、伸縮性について限定するものではないが、アッパー本体21に備えられた伸縮性を有する領域は、静止状態に対して110%以上、場合により120%以上、好ましくは150%以上の長さとなるまで引張方向に伸長することが可能である。
【0017】
本実施形態のアッパー2は、アッパー本体21上に、シュータン22とシューレース23とをさらに備えている。
具体的には、本実施形態のアッパー本体21の上部には、着用者の足首の上部及び足の甲の一部を露出させる位置に、開口部Oが設けられており、このアッパー本体21に設けられた開口部Oのうち、足の甲の一部を露出させる部分OFを覆うように、シュータン22が設けられている。シュータン22は、アッパー本体21に縫製されること等により、アッパー本体21に固定されている。
シューレース23は、アッパー本体21の開口部OFの周縁に設けられた複数の孔部に挿通されて配されている。シューレース23は、シュータン22が設けられた部分の開口部OFの周縁を、幅方向において互いに引き寄せるための部材であり、アッパー本体21に着用者の足が挿入された状態においてシューレース23を締め付けることにより、アッパー本体21を足に密着させることができる。
なお、アッパー2は、必ずしもシュータン22及びシューレース23を備えていなくてもよい。例えば、アッパー本体21は、シューレース23に代えて面ファスナーによって足に密着させられるように構成されていてもよい。また、アッパー本体21は、シュータン22を備えないソック状のアッパー本体であってもよい。
【0018】
アッパー本体21は、上記のように、その少なくとも一部の領域が伸縮性を有する領域により構成されている。この伸縮性を有する領域は、以下に限定されないが、編地(例えば、ダブルラッセル編地)若しくは織地、又は不織布のような、伸縮性を有する繊維シートにより構成されていてもよい。
なお、本実施形態のアッパー本体21は、図1に示すように、靴型(図示せず)の外表面に沿う立体的な形状を備えた上記繊維シートを備えており、そのため、該繊維シート上の任意の領域が、伸縮性を有する領域となる。
【0019】
フィルム25は、高温で収縮する熱収縮フィルムであり、アッパー本体21の上記伸縮性を有する領域に配されている。アッパー本体21に配されたフィルム25は、後の加熱工程に処されることによって、フィルム25が配された領域においてアッパー本体21の形状に沿うように収縮する。そのようにして熱収縮した後のフィルム25は、足型又は足Fの当該領域の形状に合致した形状を保持することができる。また、熱収縮したフィルム25は、その比較的高い剛性によって、アッパー本体21の当該領域を補強するように機能することができる。
なお、図1図5では、簡素化のため、フィルム25の形状を略矩形形状として図示しているが、フィルム25は、その縁部がアッパー本体21の表面の湾曲に沿うように曲線状にカットされていることが好ましい。
【0020】
本実施形態では、図1及び図2に示されるように、アッパー本体21の該繊維シートにより構成される領域のうち、靴1の着用者の足の甲に該当する領域TF(以下、単に甲領域TFと称する)の上方に、フィルム25が該領域と間隔をあけて覆い被さるように配されている。より詳細には、フィルム25はアッパー本体21の中足部における甲領域TFであって、開口部OFよりも前方領域において、内足側端部付近から外足側端部付近まで幅方向にわたって延びており、これらの内足側及び外足側端部付近(すなわち、アッパー2が靴底3に接合される際における接合部付近)において、フィルム25の両端がアッパー本体21の外表面上に、縫い目が靴1の長さ方向に形成されるように縫い止められることによって、アッパー本体21に接合されている。本実施形態のように、フィルム25が内足側端部付近から外足側端部付近まで幅方向略全域にわたって配置される場合には、フィルム25は開口部OFよりも前方領域に配されることが好ましい。
なお、図1及び図2では、フィルム25の両端はアッパー本体21の内足側及び外足側端部付近で縫い止められているが、フィルム25の両端の縫い止め位置は、両端部よりも幅方向中央寄りであってもよい。また、フィルム25は、その両端以外の位置で追加的にアッパー本体21に固定されていてもよく、例えば、フィルム25は、アッパー本体21の幅方向略中央に追加的に縫い止められていてもよい。
【0021】
本実施形態のように、フィルム25がアッパー本体21の外表面上に縫い止められて配されている場合には、縫い目を解くことによって、フィルム25をアッパー本体21から容易に外すことができ、縫い直すことによって、フィルム25をアッパー本体21上に容易に再配置することができる。このように、フィルム25がアッパー本体21に着脱可能に配されたアッパー2では、靴の用途、着用者の好み及び/又は着用者の足のサイズに応じて、フィルム25の配置を任意に調節することや、フィルム25の種類を任意に交換することができる。
【0022】
なお、フィルム25は、必ずしも内足側端部付近から外足側端部付近までの足幅全体にわたって延びている必要はない。例えば、図3に示されるように、フィルム25は、アッパー本体21の甲領域TFにおいて、シューレース23が配置される幅方向略中心付近の領域を避けて配されてもよい。より詳細には、図3に示されるように、フィルム25はアッパー本体21の甲領域TFにおいて、内足側端部付近から、後足部における内足側の開口部OF端部の位置に対応する位置付近までの範囲、及び、外足側端部付近から、後足部における外足側の開口部OF端部の位置に対応する位置付近までの範囲にわたって配置されていてもよい。
また、フィルム25は上記範囲の一部のみ配置されてもよい。例えば、フィルム25は、内足側及び外足側端部付近のみに配されていてもよく、開口部O端部の位置に対応する位置付近のみに配されていてもよい。
また、フィルム25の配置は、甲領域TFの範囲内において、図1及び3に図示される範囲を超えて前後方向に延びていてもよい。
【0023】
フィルム25は、加熱により一方向における長さが30%以上小さくなるように収縮するフィルムである。すなわち、フィルム25は、一方向における熱収縮率が30%以上である。好ましくは、フィルム25の該一方向における熱収縮率は、40%以上であり、より好ましくは、50%以上80%以下である。
本実施形態では、該一方向は、靴1の幅方向であり、フィルム25は、アッパー本体21の甲領域TFに配された状態において、幅方向に30%以上の熱収縮性を有している。
【0024】
アッパー本体21(繊維シート)の外表面に沿って測定される接合部の間の距離を(Lu)とすると、フィルム25は、通常、この距離(Lu)と同程度の長さにまで熱収縮が可能となる。
フィルムの熱収縮率をX(%)とし、熱収縮前のフィルムの接合部間の長さを(Lf)とした場合、下記のような関係を満たせば前記フィルムの熱収縮によってアッパー2のフィッティング性を向上させることができる。
[(Lf-Lu)/Lf]<(X/100)
そのため、フィルム25は、アッパー本体21の外表面に沿うように接合されてもよく、接合箇所の間の部分がアッパー本体21から離れるように接合されてもよい。
【0025】
フィルム25は、熱収縮によって厚みが増大する。
熱収縮した後の前記フィルム(以下、収縮フィルム25Aとも称する)によってフィッティング性の向上のみならず補強効果を発揮させる意味では、熱収縮前のフィルム25は、より高い収縮率で熱収縮可能な状態でアッパー本体21に接合されていることが好ましい。
本実施形態においては、それぞれ上方に向かって山なりに撓んだ状態でアッパー本体21に接合されている。
【0026】
熱収縮前のフィルム25の接合部間の長さ(Lf)は、前記距離(Lu)の1.1倍以上であることが好ましく、1.2倍以上であることがより好ましい。
熱収縮前のフィルム25の接合部間の長さ(Lf)は、前記距離(Lu)の2.5倍以下であることが好ましく、2倍以下であることがより好ましい。
【0027】
好ましくは、上記の熱収縮率は、フィルム25が150℃以下、より好ましくは120℃以下、さらに好ましくは100℃以下、最も好ましくは80℃以下の所定の温度となった際の熱収縮率であり得る。
また、フィルム25は、好ましくは30秒以下、より好ましくは10秒以下の間、上記所定の温度とされた際に、上記の熱収縮率で熱収縮し得る。
このようなフィルム25を用いると、該フィルムを熱収縮させるための後の加熱工程を比較的低温かつ/又は短時間で行うことができるため、比較的簡易な設備によりアッパー2を加熱することが可能になる。加えて、加熱工程において、フィルム25以外のアッパー2及び他の靴1を構成する部材、及び、設備内に含まれる他の要素(例えば、靴1の着用者の足)が受け得る高熱の影響を小さくすることができる。
【0028】
もっとも、フィルム25が熱収縮を起こす温度が低すぎると、アッパー2及びアッパー2を備えた靴1が倉庫等の保管場所において保管されている間に、例えば夏に該保管場所の環境温度が高くなることにより、フィルム25が望まれない熱収縮を起こす可能性がある。そのため、上記の熱収縮率は、好ましくはフィルム25が50℃以上、より好ましくは60℃以上、さらに好ましくは70℃以上の所定の温度となった際の熱収縮率であり得る。また、フィルム25は、熱収縮を開始する温度が上記のような温度であることが好ましい。
【0029】
フィルム25は、一方向(例えば、靴1の幅方向)における熱収縮率と、該一方向とは異なる他方向(例えば、靴1の長さ方向)における熱収縮率とが異なっているフィルムであってもよい。換言すれば、フィルム25の熱収縮率が、異方性を有していてもよい。
【0030】
本実施形態のフィルム25は、アッパー本体21の甲領域TFに配された状態において、該一方向としての幅方向における熱収縮率が30%以上である一方で、該他方向としての長さ方向における熱収縮率が30%よりも小さい。好ましくは、フィルム25の長さ方向における熱収縮率は、10%以下であり、より好ましくは、5%以下である。
なお、フィルム25は、該一方向における熱収縮率が30%以上である限り、該他方向(例えば、靴1の長さ方向)において熱収縮しなくてもよく、代わりに熱膨張してもよい。
【0031】
本実施形態のように、フィルム25が、所定方向(例えば、靴1の長さ方向)に延びる固定ライン(例えば、フィルム25の内足側及び外足側端部における縫い目)に沿ってアッパー本体21に固定される場合には、該所定方向における熱収縮率は、該所定方向とは異なる方向(例えば、靴1の幅方向)に比べて小さいことが好ましい。ここで、該所定方向とは異なる方向とは、該所定方向に対して略垂直方向であり得る。
【0032】
上記のような異方性を有する熱収縮率を備えたフィルム25は、該一方向に延伸処理が施されたフィルムであり得る。該延伸処理は、公知の方法を用いて行われる。
【0033】
もっとも、フィルム25の熱収縮率は、異方性を有していなくてもよく、すなわち、フィルム25の任意の方向における熱収縮率が、いずれも同じであってもよい。
【0034】
フィルム25の上記のような熱収縮を生じるフィルム25の素材としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリブチレンテレフタレート(PBT)、ポリエチレンナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂;ポリエチレン(PE)、ポリプロピレン(PP)等のポリオレフィン系樹脂;ポリ塩化ビニル(PVC)、ポリ塩化ビニリデン(PVDC)等の塩素系樹脂;スチレン-ブタジエン共重合体等のポリスチレン系樹脂;ポリウレタン系樹脂などを使用することができる。これらの素材は、単独で又は複数の種類の素材を組み合わせて使用されてもよい。
【0035】
フィルム25の厚みは、特に限定されないが、10~100μmの範囲であることが好ましい。より好ましくは、フィルム25の厚みは、20~80μmの範囲である。
また、フィルム25の曲げ剛性は、熱収縮後においてアッパー本体21の形状を安定的に保持させるため、アッパー本体21の曲げ剛性よりも高いことが好ましい。
【0036】
フィルム25の長さは、前述の通り、好ましくは、熱収縮した後のフィルムがアッパー本体21の形状に沿うことができる程度に、フィルム25が配されている領域の長さ(本実施形態では、幅方向長さ)よりも長く設定される。そのため、本実施形態では、アッパー本体の外表面上に配された、アッパー本体21の該領域である甲領域TFにおいてその内足側及び外足側端部が縫い止められたフィルム25は、上述したように、上方に向かって山なりに撓んだ状態となっている。
【0037】
なお、本実施形態のフィルム25は、上記のように、内足側及び外足側端部がアッパー本体21の外表面上に縫い止められることによって、アッパー本体21の甲領域TFに接合されている。もっとも、フィルム25は、内足側及び外足側端部に代えて又はこれに加えて、任意の1つ又は複数の箇所においてアッパー本体21と接合されていてもよい。例えば、フィルム25は、その外周縁部全体においてアッパー本体21と接合されていてもよく、その中央部のみにおいてアッパー本体21と接合されていてもよく、フィルム25の面全体がアッパー本体21の面と実質的に接するように、フィルム25の全体に渡って複数の点においてアッパー本体21と接合されていてもよい。
【0038】
また、フィルム25は、必ずしも縫い止めによって甲領域TFに接合されていなくてもよく、任意の方法によりアッパー本体21の甲領域TFに着脱可能又は着脱不能に配され得る。例えば、フィルム25は、熱可塑性又は熱硬化性の接着剤を介して、又は直接アッパー本体21の甲領域TFに接合されていてもよい。このとき、熱収縮後のフィルム(収縮フィルムA)がその全面においてアッパー本体21と接合されるように、フィルム25は、加熱されることによって接着性が発揮されるものであってもよい。例えば、フィルム25は、熱収縮性を示す基材層の片面、又は、両面にホットメルト接着剤層を備え、熱収縮する際に前記ホットメルト接着剤層の接着力によってアッパー本体21と全面において接合されてもよい。あるいは、フィルム25は、安全ピン等によって留められることによりアッパー本体21の甲領域TFに着脱可能に接合されていてもよい。
【0039】
さらに、フィルム25は、アッパー本体21の外表面上ではなく、アッパー本体21の内表面上、すなわち、靴1の内部空間に面するアッパー本体21の表面上に配されていてもよい。あるいは、フィルム25は、アッパー本体21を構成する材料の内部に配されていてもよく、例えば、アッパー本体21の甲領域TFが2枚の繊維シート層により構成される場合には、それらの繊維シート層の間に移動可能に又は固定されて配されていてもよい。加えて、アッパー本体21の伸縮性を有する領域が部分的に切除されており、フィルム25がこの切除された領域を埋めるようにアッパー本体21と接合されることによって、フィルム25がアッパー本体21に配されていてもよい。
もっとも、本実施形態のように、フィルム25が外表面上に配されると共にその両端部のみが外表面に接合されている場合には、フィルム25が上方に向かって撓むことによりフィルム25の余剰の長さを上方に逃がすことができるため、好ましい。
【0040】
また、本実施形態では、上記のように1枚のフィルム25がアッパー本体21に配されているが、フィルム25の枚数は特に限定されず、2枚以上のフィルム25が配されていてもよい。
【0041】
次に、上記のアッパー2を用いて、フィルム25が配された領域において熱収縮した収縮フィルム25Aを備えたアッパー2Aを製造する方法を説明する。
【0042】
まず、伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体21を用意した後(用意ステップ)、一方向における熱収縮率が30%以上であるフィルム25を、アッパー本体21の該領域に配置する(配置ステップ)。本実施形態では、1枚のフィルム25がアッパー本体21の甲領域TF上に配置され、それによって上記のアッパー2が作製される。
【0043】
上記配置ステップにおいて配置されるフィルム25としては、目的に応じて所望の剛性、収縮率及び収縮温度を備えたフィルムが適宜選択される。例えば、製造されるアッパー2Aの使用者となる者が、比較的剛性の高い収縮フィルム25Aにより補強されたアッパー2Aを所望する場合には、フィルム25として、剛性及び/又は収縮率の比較的高いフィルムが選択されてもよい。また、後述する加熱ステップにおいて、アッパー本体21が着用者の足に装着された状態で加熱される場合、フィルム25として、収縮温度の比較的低いフィルムが選択されてもよい。
【0044】
本実施形態では、フィルム25をアッパー本体21上に配置する方法として、フィルム25の両端部をアッパー本体21の外表面上に縫い付けることにより接合させる方法が用いられる。
具体的には、まず、フィルム25の熱収縮率が30%以上となる方向がアッパー本体21の幅方向となるように、アッパー本体21上におけるフィルム25の向きを決定する。ここで、フィルム25の熱収縮率が異方性を有している場合には、フィルム25の熱収縮率がより大きい方向がアッパー本体21の幅方向となるように、フィルム25の向きを決定する。
次に、フィルム25の一方の幅方向端部をアッパー本体21の外表面と接触させ、この接触させた位置においてアッパー本体21に縫い付ける。その後、フィルム25の他方の幅方向端部を、既に縫い合わせた一方の幅方向端部に向かって動かし、フィルム25のこれら両端部間の領域を上方に向かって山なりに撓ませた状態で、該他方の幅方向端部をアッパー本体の外表面と接触させ、この接触させた位置においてアッパー本体21に縫い付ける。
このような方法によって、内足側及び外足側端部がアッパー本体21の内足側及び外足側に接合された1枚のフィルム25を備えたアッパー2を作製する。
【0045】
上記のステップによりアッパー2を作製した後、任意には、公知の方法によりアッパー2を靴底3に取り付け、それによって靴1を作製してもよい。
【0046】
次に、アッパー本体21を、足型(ラスト)又は実際の足Fに装着させる(装着ステップ)。本実施形態では、アッパー本体21は、製造されるアッパーを備えた靴を着用することになる使用者の足Fである。
【0047】
アッパー本体21は、図4に示されるように、使用される足型又は足Fの形状に沿うようにして、好ましくは、アッパー本体21を該足型又は足Fに任意の方法で略密着させた状態で、該足型又は足Fに装着される。ここで使用される足型又は足は、アッパー本体21を備えた靴が想定するサイズとして適切な足型又は足が選択される。
例えば、アッパー本体21が、アッパー2と靴底3とを備えた靴1の一部を構成している場合には、靴1を適切なサイズの足型又は足Fに普通に履かせることによって、アッパー本体を足型又は足Fに容易に装着させることができる。
あるいは、アッパー本体21の内表面を、任意の方法によって使用される足型又は足の表面に仮留めすることによって、アッパー本体21を該足型又は足Fに略密着させた状態で装着させてもよい。
【0048】
本実施形態のアッパー本体21では、アッパー本体21上に設けられたシューレース23を締め付けることによって、アッパー本体21の開口部OF付近の領域を該足型又は足Fに密着させることができる。
【0049】
なお、上記のようにフィルム25をアッパー本体21上に配置する配置ステップの後に上記装着ステップを行う代わりに、任意には、上記装着ステップを行った後に配置ステップを行ってもよい。その場合には、足型又は足にアッパー本体21を装着した状態で、フィルム25をアッパー本体21上に配置する。
【0050】
このようにして、フィルム25が配置されたアッパー本体21が足型又は足Fに装着された状態で、フィルム25が配置されたアッパー本体21を加熱する(加熱ステップ)。これによって、図5に示されるように、アッパー本体21上のフィルム25が配された領域において、フィルム25が足型又は足Fに沿った形状となるように熱収縮し、収縮フィルム25Aとなる。
このようにして熱収縮した収縮フィルム25Aは、足型又は足Fの当該領域の形状に合致した形状を保持することができる。また、収縮フィルム25Aは、その比較的高い剛性によって、アッパー本体21の当該領域を補強するように機能することができる。
【0051】
アッパー本体21が、フィルム25を熱収縮させることが可能な任意の温度及び時間で加熱され、例えば、フィルム25を熱収縮させることが可能な50℃~150℃の温度の熱源を用いて、30秒以下の間、好ましくは10秒以下の間、加熱される。
ここで、アッパー本体21が着用者の足に装着された状態で加熱される場合には、熱による着用者の足への負担を小さくするため、フィルム25を熱収縮させることが可能である限りの低い温度及び短い時間で加熱を完了させることが好ましい。その場合には、熱の影響を抑制するため、断熱性の高められた靴下等の断熱材を着用者の足に装着させた状態で、アッパー本体21を装着させてもよい。
【0052】
アッパー本体21を加熱する方法は、フィルム25を熱収縮させることが可能である限り、特に限定されない。例えば、アッパー本体21は、アッパー本体21のフィルム25が配された領域、本実施形態では甲領域TFに対して、フィルム25を熱収縮させることが可能な温度の温風を吹き付けることによって加熱される。その場合には、アッパー本体21をトレッドミル等の可動式の載置面を有する装置の上に載置させ、該載置面を動かすことによって固定された温風送風機(例えばドライヤー等)の前でアッパー本体21を移動させるように、温風を吹き付ける手段が構成されてもよい。
あるいは、アッパー本体21は、フィルム25を熱収縮させることが可能な温度に設定されたオーブン等の加熱室内に所定の時間置かれることによって加熱されてもよい。ここで、アッパー本体21が着用者の足に装着された状態で加熱される場合には、アッパー本体21及び着用者の足を加熱室内に導入して、そこでアッパー本体21を加熱してもよい。
【0053】
なお、アッパー本体21が着用者の足に装着された状態で加熱される場合、着用者の足が静止した状態においてアッパー本体21が加熱されるのが好ましい。もっとも、着用者の足は加熱中に必ずしも静止した状態でなくてもよく、着用者の足が動かされた状態においてアッパー本体21が加熱されてもよい。
【0054】
以上のようにして、アッパー2のフィルム25が配された領域においてフィルム25が熱収縮し、使用された足型又は足Fの当該領域の形状に合致した形状を備えた収縮フィルム25Aを備えたアッパー2Aを製造することができる。
このようにして製造されたアッパー2Aは、収縮フィルム25Aの配された領域において、使用された足型又は足Fの形状に合致する形状を保持することができる。そのため、使用された足型又は足に対するフィッティング性が高められたアッパー2Aを得ることができる。さらに、収縮フィルム25Aの比較的高い剛性によって、アッパー本体21の当該領域が補強されたアッパー2Aを得ることができる。
【0055】
特に、装着ステップにおいて、製造されるアッパーを備えた靴を実際に使用することになる着用者の足にアッパー本体21を装着させ、その後に加熱ステップにて加熱を行う場合には、フィルム25が着用者の足Fに沿った形状に熱収縮する。そのため、靴の実際の使用者の足にカスタマイズされたフィッティング性を備えたアッパー2Aを得ることができる。
【0056】
なお、上記配置ステップにおいてフィルム25をアッパー本体21上に配置する方法は、上記のようなフィルム25の両端部をアッパー本体21の外表面上に縫い付ける方法に限定されずフィルム25は、例えば靴1に関して述べたような、任意の方法により配置することができる。
フィルム25の配置位置もまた、アッパー本体21の外表面上に限定されず、例えば靴1に関して述べたように、アッパー本体21の伸縮性を有する任意の領域に配されてもよい。
【0057】
(第2実施形態)
図6は、本発明の第2実施形態に係るアッパー2を備えた靴1を示したものである。
アッパー2が備える伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体21は、第1実施形態と同様に、靴型(図示せず)の外表面に沿う立体的な形状を備えた伸縮性を有する繊維シートを備えており、そのため、該繊維シート上の任意の領域が、伸縮性を有する領域となっている。
【0058】
本実施形態では、アッパー2が備えるフィルム25は、アッパー本体21の土踏まず領域AF、すなわち、長さ方向中央かつ内足側の、靴1の着用者の足の土踏まずの内足側縦アーチに位置する領域において、繊維シートの内部に配されている。
具体的には、図7に示されるように、アッパー本体21本体の土踏まず領域AFを少なくとも構成する繊維シートが、アッパー本体21の内表面側に設けられた繊維シート層21Aと、アッパー本体21の外表面側に設けられた繊維シート層21Bとを備えており、フィルム25は、これら2つの重ね合わされた繊維シート層21A及び21Bの間に固定的に又は移動可能に配されている。
図7に示されるように、フィルム25の下方側端部は、アッパー本体21の下方端部(アッパー2が靴底3に接合される際における接合部付近)にできるだけ近くに位置することが好ましい。また、フィルム25の上方側端部は、土踏まず領域AFがアッパー本体21の内部に向かって凹む最内点を結んだ靴1の長さ方向に延びるラインの位置よりも、上方に位置することが好ましい。
【0059】
本実施形態では、アッパー本体21の土踏まず領域AFにおいて、アッパー本体21本体に備えられた繊維シートの外表面には、繊維シート層21Aと21Bとの間にフィルム25を挿入可能な挿入口211が形成されている。より詳細には、本実施形態では、アッパー本体21本体の土踏まず領域AFにおいて、外表面側に設けられた繊維シート層の一部において上下方向に切れ目211が設けられており、フィルム25は、該切れ目211から繊維シート層21A及び21Bの間に挿入され得る。
【0060】
挿入されたフィルム25は、そのままの状態で繊維シート層21A及び21Bの間に移動可能に配されていてもよく、挿入後に任意の手段で繊維シート層21A及び21Bの間に固定されていてもよい。例えば、繊維シートの内部に配されたフィルム25は、その少なくとも一部が繊維シート層21A及び21Bのうち一方又は両方に縫い付けられて固定されてもよい。また、アッパー本体21の土踏まず領域AFにおいて、繊維シート層21Aと21Bとの対向する面同士が面ファスナーを備えており、挿入されたフィルム25の外周における繊維シート層21Aと21Bとが面ファスナーにより接着されることによって、繊維シート内部におけるフィルム25の移動が規制されてもよい。
本実施形態のように、フィルム25がアッパー本体21の土踏まず領域AFに配される場合には、フィルム25は、靴1の長さ方向における両端部において、縫い目が靴1の幅方向に形成されるように縫い止められることによって、アッパー本体21の繊維シートの内部に接合されることが好ましい。
【0061】
また、フィルム25が繊維シートの内部に移動可能に配されている場合においても、フィルム25が土踏まず領域AFを超えて移動しないように、アッパー本体21の土踏まず領域AFの外周を囲むように、繊維シート層21Aと21Bとが接合されていてもよい。また、挿入されたフィルム25が挿入口211から逃げないように、挿入口211付近にファスナー等の封止構造が設けられていてもよい。
【0062】
本実施形態では、第1実施形態のフィルム25と比較して剛性の高いフィルムを採用することが好ましい。そのようなフィルム25を用いることによって、フィルム25を熱収縮した後のアッパーを備えた靴1では、熱収縮後のフィルム25Aによって着用者の足の土踏まずの内足側の足の縦アーチをより効果的に支持することができる。
【0063】
本実施形態のアッパー2を作製するには、アッパー本体21を用意した後(用意ステップ)、フィルム25をアッパー本体21の土踏まず領域AFに形成された挿入口211から繊維シート層21Aと21Bとの間に挿入することによって、フィルム25をアッパー本体21の土踏まず領域AFに配置する(配置ステップ)。
このように、本実施形態では、アッパー本体21の上記構成により、アッパー本体21の使用者となる者の嗜好に応じて選択したフィルム25を、該領域に容易に配置することができる。
任意には、該ステップにおいて、フィルム25を繊維シート層21Aと21Bとの間に挿入した後、上述の任意の手段でフィルム25を当該位置にて固定してもよい。
【0064】
このようにして配置されたフィルム25を熱収縮させる際には、加熱ステップにおいて、足型又は足Fのアーチに沿ってフィルム25を熱収縮させるため、アッパー2の内足側からフィルム25に向かって温風を吹き付けることにより加熱することが好ましい。
【0065】
図8及び図9はそれぞれ、加熱ステップにおいて図6のアッパー2に備えられたフィルム25を熱収縮させた後の、アッパーのX1-X1断面図(略水平断面図)及びX2-X2断面図(略垂直断面図)である。
図8に示されるように、熱収縮後のフィルム25Aは、足又は足型Fの土踏まずの内足側における凹形状に沿って収縮しており、負の曲率を備えた形状を備える。また、図9に示されるように、熱収縮後のフィルム25Aは、足又は足型Fの土踏まずの内足側の足の縦アーチを支えるように湾曲した形状を備える。
このように、熱収縮後のフィルム25Aを備えたアッパーを備えた靴によれば、着用者の足の土踏まずの内足側の足の縦アーチが、望ましい位置よりも下方へと落込むことを抑制するように、着用者の足の土踏まずをフィルム25Aによって支持することができる。
【0066】
以上のように、本発明の靴のアッパーは、伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体と、前記領域に配置されたフィルムとを備え、前記フィルムの少なくとも一方における熱収縮率が30%以上である。そのため、本発明によれば、前記アッパーを足型又は足に着用させた状態で加熱し、それによって前記フィルムを熱収縮させることにより、前記アッパー本体の前記フィルムが配置された領域の形状を、前記足型又は足の当該領域の形状に合致させた状態で保持させることが可能なアッパーを提供することができる。
本発明のアッパーは、アッパー本体の形状を保持させることが望まれる領域に上記の熱収縮フィルムを配置することにより、容易に作製され得る。そのため、該アッパーを備えた靴の使用者となる者の嗜好に応じて選択されたフィルムを備えた本発明のアッパーを、例えば該アッパーを備えた靴が購入されたその場で、容易に提供することができる。
さらには、本発明のアッパーでは、アッパー本体にフィルムを着脱可能に配置することも可能である。その場合には、一度取り付けられたフィルムを必要な時に取り外して、改めてフィッティング性を調整することができるという利点もある。
【0067】
好ましくは、前記フィルムの前記一方向における熱収縮率が30%以上となる温度は、50℃以上150℃以下である。その場合には、比較的簡易な設備によりアッパーを加熱することが可能になる。
好ましくは、前記フィルムの厚みは、10~100μmである。
【0068】
前記フィルムは、前記フィルムの前記一方向における両端部において前記アッパー本体に接合されていてもよい。その場合には、該フィルムにおいて、該両端部の間に縮み代を確保することができる。
【0069】
前記フィルムの少なくとも一部は、前記アッパー本体の外表面側に露出していてもよい。その場合には、該フィルムの縮み代を、アッパー本体の外側に確保することができる。
あるいは、前記アッパー本体の前記領域は、少なくとも2つの層を備えており、前記フィルムは、前記2つの層の間に配されていてもよい。その場合には、該フィルムの熱収縮に伴うアッパー本体の伸縮を小さくすることができる。また、フィルムが外表面に露出していないのでフィルムが傷つきにくい。
【0070】
前記フィルムの前記一方向における熱収縮率と、前記フィルムの前記一方向とは異なる他方向における熱収縮率とは、異なっていてもよい。その場合には、該フィルムの熱収縮に伴うアッパー本体の伸縮が制御し易くなる。また、所望の方向に伸縮率を調整することが可能となる。
【0071】
前記フィルムは、前記アッパー本体の甲領域又は土踏まず領域の少なくとも一方に配置されていてもよい。その場合には、熱収縮後のフィルムによって、アッパー本体の形状を保持されることが好ましい領域の形状を効果的に保持することができる。
このとき、前記靴における幅方向での前記フィルムの熱収縮率は、前記靴における長さ方向での前記フィルムの熱収縮率よりも大きいことが好ましい。その場合には、該フィルムの熱収縮に伴うアッパー本体の伸縮が制御し易くなる。
【0072】
さらに、本発明の靴のアッパーの製造方法は、伸縮性を有する領域を備えたアッパー本体を用意する用意ステップと、少なくとも一方向における熱収縮率が30%以上であるフィルムを、前記アッパー本体の前記領域に配置する配置ステップと、前記アッパー本体を足型又は足に装着させる装着ステップと、前記配置ステップ及び前記装着ステップの後に、前記フィルムが配置されたアッパー本体を加熱し、それによって前記フィルムを前記足型又は足に沿うように収縮させる、加熱ステップとを備えている。そのため、本発明によれば、熱収縮した前記フィルムによって、前記アッパー本体の前記フィルムが配置された領域の形状を、前記足型又は足の当該領域の形状に合致させた状態で保持させることができる。
本発明のアッパーの製造方法によれば、熱収縮フィルムが配置されたアッパー本体を、例えば該アッパー本体を備えた靴が購入されたその場で加熱することにより、該フィルムが配置された領域の形状が足型又は足の形状に沿って保持されたアッパーを簡便かつ容易に製造することができる。
さらには、配置ステップにおいて、アッパー本体にフィルムを着脱可能に配しておき、加熱ステップの前にフィッティング性を確認した後、必要であれば一度取り付けられたフィルムを取り外して、改めてフィッティング性を調整することができるという利点もある。
【0073】
前記配置ステップにおいて、前記フィルムの前記一方向における両端部において前記フィルムを前記アッパー本体に接合してもよい。その場合には、該フィルムにおいて、該両端部の間に縮み代を確保することができる。
【0074】
前記装着ステップにおいて、前記アッパーを備えた靴を使用することになる使用者の足に前記アッパーを装着させてもよい。その場合には、使用者の足により的確にフィットする靴を製造することができる。
【0075】
前記加熱ステップにおいて、前記アッパー本体を30秒以下の間だけ加熱してもよい。その場合には、加熱ステップを簡易かつ速やかに完了させることができる。さらに、アッパーが着用者の足に装着された状態で加熱される場合には、熱による着用者の足への負担を小さくすることができる。
【0076】
前記加熱ステップにおいて、前記アッパー本体を温風を用いて加熱してもよい。その場合には、加熱ステップをシンプルな装置によって簡易に行うことができる。さらに、温風をアッパー本体及び該アッパー本体に装着された足型又は足に向かって吹き付けることにより、フィルムを足型及び足により的確に沿った状態で熱収縮させることができる。
【0077】
前記配置ステップにおいて、前記フィルムは、前記アッパー本体の甲領域又は土踏まず領域の少なくとも一方に配置されてもよい。その場合には、熱収縮後のフィルムによって、アッパー本体の形状を保持されることが好ましい領域の形状を効果的に保持することができる。
このとき、前記加熱ステップにおいて、前記フィルムは、前記靴における長さ方向よりも幅方向に大きく収縮することが好ましい。その場合には、該フィルムの熱収縮に伴うアッパー本体の伸縮が制御し易くなる。
【0078】
なお、本発明に係る靴のアッパー及びアッパーの製造方法は、上記実施形態の構成に限定されるものではない。また、本発明に係る靴のアッパー及びアッパーの製造方法は、上記した作用効果によって限定されるものでもない。本発明に係る靴のアッパー及びアッパーの製造方法は、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。
【0079】
例えば、上記の実施形態では、フィルム25はアッパー本体21の甲領域TF又は土踏まず領域AFに配されているが、フィルム25は、これらの領域以外にも、靴の用途、着用者の好みや着用者の足のサイズに応じて、足形及び足の形状に合致した形状を保持することが望まれる任意の領域に配されていてもよい。また、図10に示されるように、比較的厚いフィルム25(例えば60~100μm)を、アッパー本体の踵領域に配することにより、後付けのヒールカウンターを形成することもできる。図7では簡素化して記載しているが、ヒールカウンターを形成する場合、踵を安定的に保持可能な公知のさまざまな形状になるように、適宜フィルム形状を選定できる。
【0080】
さらに、フィルム25は、アッパー本体の全体にわたって配されていてもよい。アッパー本体21に対するフィッティング性の発揮は、フィルム25が配されている領域だけで発揮されるものではなく、例えば、複数のフィルム25が配されている場合、これらのフィルム25の間においても発揮される。全面がアッパー本体に接合されている複数のフィルム25が距離を隔てて配されている場合、該フィルム25を熱収縮させた際には、隣り合う2つの収縮フィルムの間に張力が加わることになる。そのため、このような場合は、フィルム25が配されていない領域においてもフィッティング性が発揮され得る。
フィルム25は、図11に示されるように、アッパー本体の全体にわたってストライプ状に配されてもよく、図12に示されるように、アッパー本体の全体にわたってスポット状に配されてもよい。このとき、アッパー本体に配されるフィルム25の密度をアッパー本体の領域ごとに調節することにより、フィルム25が熱収縮した後に製造されるアッパーにおいて所望の剛性分布を付与できるようにしてもよい。例えば、フィルム25を熱収縮させた際にアッパー本体の強度を高めたい領域において、アッパー本体に配されるフィルム25の密度が他の領域に比較して高められていてもよい。
【0081】
なお、フィルム25は、使用時に屈曲することが比較的少ない領域に配されていることが好ましい。換言すれば、フィルム25は、使用時に屈曲されることが比較的多い屈曲領域には、配されていないことが好ましい。例えば、フィルム25は、アッパー本体21が最も屈曲されることの多い屈曲領域である、足のMP関節に対応する領域には配されないことが好ましい。フィルム25を広い範囲にわたって配する場合には、例えば、屈曲領域に直接フィルム25が位置することを避けるように(例えば、フィルム25が配される領域を分割して)フィルム25を配することが好ましい。
【0082】
また、上記の実施形態では、フィルム25は、アッパー本体21の甲領域TFではアッパー本体21の外表面上に、アッパー本体21の土踏まず領域AFではアッパー本体21の備える繊維シートの内部に配されているが、フィルム25の配置態様は、これらに限定されない。例えば、アッパー本体21の甲領域TFにおいて、フィルム25がアッパー本体21の備える繊維シートの内部に配されていてもよく、アッパー本体21の土踏まず領域AFにおいて、フィルム25がアッパー本体21の外表面に配されていてもよい。
【0083】
また、上記の実施形態では、アッパー本体21は、靴型の外表面に沿う立体的な形状を備えた繊維シート上の任意の領域が伸縮性を有する領域となっているが、本発明のアッパー本体はこのような形態に限定されず、アッパー本体のフィルム25が配されている領域が伸縮性を有している限り、他の領域が伸縮性を有していなくてもよい。例えば、本発明のアッパー本体は、伸縮性を有さない合皮と、伸縮性を有するダブルラッセル編地との組み合わせにより構成されていてもよく、その場合には、該アッパー本体のフィルム25が配される領域が、ダブルラッセル編地を備えている。
【0084】
さらに、アッパー本体21のフィルム25が配される領域には、追加の補強材がさらに配されてもよい。例えば、アッパー本体21とフィルム25との間に追加の補強材が配されてもよく、アッパー本体21が備える繊維シート層21A及び21Bの間に、追加の補強材がフィルム25と共に挿入されて配されてもよい。
【0085】
また、ここではこれ以上の詳細な説明を繰り返して行うことをしないが、上記に直接的に記載がされていない事項であっても、靴のアッパー及びアッパーについて従来公知の技術事項については、本発明においても適宜採用可能である。
【符号の説明】
【0086】
1:靴、2,2A:アッパー、21:アッパー本体、21A,21B:繊維シート層、22:シュータン、23:シューレース、25,25A:フィルム、3:靴底、O:開口部、OF:開口部(足の甲の一部を露出させる部分)、TF:甲領域、AF:土踏まず領域、F:足又は足型
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12