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特許7005821マレイミド樹脂およびその製造方法、マレイミド溶液、並びに、硬化性樹脂組成物およびその硬化物
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  • 特許-マレイミド樹脂およびその製造方法、マレイミド溶液、並びに、硬化性樹脂組成物およびその硬化物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-07
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】マレイミド樹脂およびその製造方法、マレイミド溶液、並びに、硬化性樹脂組成物およびその硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/12 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
C08G73/12
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2021537765
(86)(22)【出願日】2021-03-05
(86)【国際出願番号】 JP2021008836
【審査請求日】2021-06-25
(31)【優先権主張番号】P 2020041840
(32)【優先日】2020-03-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000004086
【氏名又は名称】日本化薬株式会社
(72)【発明者】
【氏名】窪木 健一
(72)【発明者】
【氏名】中西 政隆
(72)【発明者】
【氏名】松浦 一貴
【審査官】櫛引 智子
(56)【参考文献】
【文献】特開平06-234708(JP,A)
【文献】米国特許第03200152(US,A)
【文献】特開昭61-000044(JP,A)
【文献】国際公開第2020/054601(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/054526(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/170551(WO,A1)
【文献】特開平11-216957(JP,A)
【文献】特開平05-155824(JP,A)
【文献】特開昭63-035561(JP,A)
【文献】特開2009-084391(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08K3/00-13/08,
C08L1/00-101/14,
C08G73/00-73/26
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるマレイミド樹脂であって、
前記マレイミド樹脂中、N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミドの含有量がGPC面積百分率で20面積%以上98面積%以下であって、
前記N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミド中、下記式(2)で表されるマレイミド化合物の含有量がHPLC面積百分率で30面積%以上60面積%未満であり、下記式(3)で表されるマレイミド化合物の含有量がHPLC面積百分率で50面積%未満であるマレイミド樹脂。
【化1】
(式(1)中、nは繰り返し数であり、その平均値は1<n<5である。)
【化2】
【化3】
【請求項2】
前記N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミドにおいて、HPLC面積百分率によるオルソ配向とパラ配向の面積比(O/P)が、100%以上200%未満である、請求項1に記載のマレイミド樹脂。
【請求項3】
請求項1または2に記載のマレイミド樹脂と有機溶剤を含むマレイミド溶液であって、前記有機溶剤がケトン類、炭化水素類、及びエステル類からなる群から選択される1種以上であるマレイミド溶液。
【請求項4】
請求項1または2に記載のマレイミド樹脂、又は請求項に記載のマレイミド溶液を含む硬化性樹脂組成物であって、さらに硬化促進剤を含有する硬化性樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1または2に記載のマレイミド樹脂、又は請求項に記載の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。
【請求項6】
アニリンとジイソプロペニルベンゼンまたはジ(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼンとに、アニリンの総量に対して1~12重量%のプロトン酸を添加して、140~190℃で反応させて芳香族アミン樹脂を得る工程と、
前記芳香族アミン樹脂をマレイミド化する工程と、を含む、
請求項1または2に記載のマレイミド樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マレイミド樹脂およびその製造方法、マレイミド溶液、並びに、硬化性樹脂組成物およびその硬化物に関するものである。本発明は、半導体封止材、プリント配線板、ビルドアップ積層板などの電気・電子部品や、炭素繊維強化プラスティック、ガラス繊維強化プラスティックなどの軽量高強度材料に好適に使用される。
【背景技術】
【0002】
近年、電気・電子部品を搭載する積層板はその利用分野の拡大により、要求特性が広範かつ高度化している。例えば、従来の半導体チップは金属製のリードフレームに搭載することが主流であったが、近年のCPUなど高度な処理能力のある半導体チップは高分子材料で作られる積層板に搭載されることが多くなっている。CPU等素子の高速化が進み、クロック周波数が高くなるにつれて、信号伝搬遅延や伝送損失の問題が拡大しており、配線板に低誘電率化、低誘電正接化が求められている。特に、近年の5Gの機運の高まりにより、Sub6だけでなく、10GHz以上、特に28GHz以上の準ミリ波、ミリ波における電気特性が重要視され始め、これらの領域で安定して使用できる材料が求められている。同時に、素子の高速化に伴い、チップの発熱が大きくなっているため耐熱性を高める必要も生じている。
【0003】
また、携帯電話などのモバイル電子機器の普及により、精密電子機器が屋外環境や人体の極近傍で使用・携帯されるようになってきているため、外的環境(特に耐湿熱環境)に対する耐性が必要とされている。更に、自動車分野においては急速に電子化が進み、エンジンの近くに精密電子機器が配置されることもあり、耐熱・耐湿性がより高いレベルで要求されるようになっている。また、自動車用途や携帯機器などに用いられる為、難燃性等の安全性もよりいっそう重要となっているが、近年の環境問題意識の向上によりハロゲン系難燃剤の使用が忌避されているため、ハロゲンを使用しないで難燃性を付与する必要性が増している。
【0004】
従来、特許文献1のようなビスフェノールA型シアネートエステル化合物とビスマレイミド化合物を併用した樹脂であるBTレジンを使用した配線板が、耐熱性や耐薬品、電気特性などに優れており、高性能配線板として幅広く使用されてきたが、上記のように更なる高性能を要求される状況下において改善が必要となっている。
【0005】
また、近年は省エネルギーの観点から飛行機、自動車、列車、船舶等の軽量化が進んでいる。従来は金属材料を用いていたものを、軽量で高強度な炭素繊維複合材料に置き換える検討が乗物分野で特に行われている。例えばボーイング787においては複合材料の比率を上げることで軽量化を行い、燃費効率を大幅に改善している。航空分野ではさらなる軽量化のために、エンジン回りの部材にも炭素繊維複合材を導入する動きもあり、当然に高いレベルの耐熱性が要求されてきている。自動車分野では一部ではあるが複合材料製のプロペラシャフトを搭載しており、また高級車向けに車体を複合材料で作る動きもある。炭素繊維複合材の分野では、従来はエポキシ樹脂のビスフェノールA型ジグリシジルエーテルやテトラグリシジルジアミノジフェニルメタンなどと、硬化剤としてジアミノジフェニルメタン、ジアミノジフェニルスルホンなどを使用した複合材料が用いられてきたが、より軽量化・高耐熱化を進めるためには複合材料の適用を広げる必要があり、そのための材料としてマレイミド樹脂が一つの手段として検討されている。
【0006】
このような中、市場で入手可能なマレイミド化合物、あるいはビスマレイミド樹脂は、従来使用されてきたエポキシ樹脂等に比べると大幅に耐熱性が向上し、上述のような用途に使用したいという強いニーズがあるものの、誘電特性、特に高周波領域での誘電特性が十分とは言えず、高速通信ニーズに応えられない。さらには空気中の水分を吸収することで電気特性が大幅に悪化してしまうという問題があり、その適用範囲は限定的であった。
【0007】
これに対して、特許文献2、3のようマレイミド樹脂も開発されているが、いまだ十分とは言えない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】日本国特公昭54-30440号公報
【文献】日本国特開平3-100016号公報
【文献】日本国特開2009-1783号公報
【文献】日本国特公平4-75222号公報
【文献】日本国特公平6-37465号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、溶剤溶解性に優れ、高周波領域においても電気特性に優れたマレイミド樹脂を提供することで、特に5Gに代表される高速通信技術の発展に寄与する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究した結果、本発明を完成させるに到った。
すなわち本発明は以下の[1]~[7]に関する。
[1]
下記式(1)で表されるマレイミド樹脂であって、
前記マレイミド樹脂中、N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミドの含有量がGPC面積百分率で98面積%以下であって、
前記N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミド中、下記式(2)で表されるマレイミド化合物の含有量がHPLC面積百分率で30面積%以上60面積%未満であるマレイミド樹脂。
【0011】
【化1】
【0012】
(式(1)中、nは繰り返し数であり、その平均値は1<n<5である。)
【0013】
【化2】
【0014】
[2]
前記N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミドにおいて、HPLC面積百分率によるオルソ配向とパラ配向の面積比(O/P)が、100%以上200%未満である、前項[1]に記載のマレイミド樹脂。
【0015】
[3]
前記N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミド中、下記式(3)で表されるマレイミド化合物の含有量がHPLC面積百分率で50面積%未満である、前項[1]または[2]に記載のマレイミド樹脂。
【化3】
【0016】
[4]
前項[1]~[3]のいずれか一項に記載のマレイミド樹脂と有機溶剤を含むマレイミド溶液であって、前記有機溶剤がケトン類、炭化水素類、及びエステル類からなる群から選択される1種以上であるマレイミド溶液。
[5]
前項[1]~[3]のいずれか一項に記載のマレイミド樹脂、又は前項[4]に記載のマレイミド溶液を含む硬化性樹脂組成物であって、さらに硬化促進剤を含有する硬化性樹脂組成物。
[6]
前項[1]~[3]のいずれか一項に記載のマレイミド樹脂、又は前項[5]に記載の硬化性樹脂組成物を硬化して得られる硬化物。
[7]
アニリンとジイソプロペニルベンゼンまたはジ(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼンに、アニリンの総量に対して1~12重量%のプロトン酸を添加して、140~190℃で反応させて芳香族アミン樹脂を得る工程と、前記芳香族アミン樹脂をマレイミド化する工程と、を含む、前項[1]~[3]のいずれか一項に記載のマレイミド樹脂の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明のマレイミド樹脂は溶剤溶解性に優れるだけでなく、その硬化物は高周波領域においても電気特性に優れ、電子材料や構造材等の各種用途に有用である。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例15及び比較例8~9の硬化物における、温度による弾性率の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。
【0020】
本実施形態のマレイミド樹脂は、下記式(1)で表される。
【0021】
【化4】
【0022】
(式(1)中、nは繰り返し数であり、その平均値は1<n<5である)
【0023】
式(1)中、nの値はマレイミド樹脂のゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC、検出器:RI)の測定により求められた数平均分子量、あるいは分離したピークの各々の面積比から算出することが出来る。nは通常1<n<5であるであるが、1<n<3であることがより好ましい。
平均値nが1の場合は溶剤溶解性が低く結晶が析出してしまう問題が生じる。一方、平均値nが5以上である場合、成型時のフロー性が悪くなり、硬化物としての特性が発揮できない問題が生じる。
【0024】
本実施形態のマレイミド樹脂中の式(1)中、n=1体であるN,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミドのGPC分析(RI)による含有率は、GPC面積百分率で98面積%以下であり、好ましくは20~90面積%、より好ましくは30~80面積%、さらに好ましくは40~75面積%、最も好ましくは40~70面積%の範囲である。n=1体の含有量が98面積%以下であると、耐熱性が良好となる。また結晶性が低下し、溶剤溶解性が良好となる。一方、n=1体の下限値が20面積%以上であると樹脂溶液の粘度が低下し、含浸性が良好となる。また固体として取り出す際に低温で溶剤を除去できるため、自己重合が起こりづらく取り扱いが容易である。
【0025】
上記面積%は、GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)で測定することができ、本実施形態では、以下の条件で測定している。
・GPC分析
GPC:DGU-20A3R,LC-20AD,SIL-20AHT,RID-20A,SPD-20A,CTO-20A,CBM-20A(いずれも島津製作所製)
カラム:Shodex KF-603、KF-602x2、KF-601x2
連結溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.5ml/min.
カラム温度:40℃
検出:RI(示差屈折検出器)
【0026】
本実施形態のマレイミド樹脂の軟化点は50℃~150℃であることが好ましく、より好ましくは80℃~120℃であり、更に好ましくは90℃~120℃、特に好ましくは95℃~120℃である。また、150℃での溶融粘度は0.05~100Pa・s、好ましくは0.1~40Pa・sである。ただし、溶剤除去時の重合において高分子量化することでこの値を超えてしまう場合がある。該好ましい範囲は溶液の状態から固形化した際のn=1のGPCにおける面積%の変化量が3面積%以下の時の指標である。
本実施形態のマレイミド樹脂の酸価は30mgKOH/gであることが好ましく、1~15mgKOH/gであることがさらに好ましい。酸価が高いとマレイミド化されていない分子が多く、カルボン酸を有する構造が過剰となってしまうことから、電気特性や耐水性に影響を及ぼす。
【0027】
本実施形態のマレイミド樹脂は、前記式(1)におけるn=1体であるN,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミドとして、位置異性体である下記式(2)~(4)で表されるマレイミド化合物を含有する。
【0028】
【化5】
【0029】
【化6】
【0030】
【化7】
【0031】
N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミド中、前記式(2)~(4)で表されるマレイミド化合物それぞれの含有率は、HPLC面積百分率で以下であることが好ましい。
前記式(2)で表されるマレイミド化合物;30面積%以上60面積%未満であり、35面積%以上55面積%未満であることが好ましく、40面積%以上55面積%未満がさらに好ましい。非対称構造を有する本化合物が30面積%以上であることで溶剤溶解性が向上するほか、誘電特性が向上する。一方、60面積%以上とするためには、晶析により前記式(3)で表されるマレイミド化合物を除去するなどの追加工程が必要となるため、製造コストの上昇や産業廃棄物増大などの点において好ましくない。
前記式(3)で表されるマレイミド化合物;50面積%未満であることが好ましく、2面積%以上35面積%未満であることがさらに好ましく、5面積%以上30面積%未満であることが好ましい。50面積%未満であることにより、溶剤溶解性が向上し、電気特性も良好となる。
前記式(4)で表されるマレイミド化合物;15面積%以上60面積%未満であることが好ましく、25面積%以上50面積%未満であることがさらに好ましい。15面積%以上であることで誘電特性は良好となり、60面積%未満であることで硬化性や密着性が良好となり、基板等の作成時の不具合を抑制できる。
なお、結晶性の問題、および電気特性悪化の問題については前記式(3)で表されるマレイミド化合物が最も影響が高いことから、式(2)で表されるマレイミド化合物と式(4)で表されるマレイミド化合物の合計比率は、N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミド中、50面積%以上であることが好ましく、60面積%以上であることがさらに好ましく、70面積%以上であることが特に好ましい。
【0032】
また、N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミド中、オルソ配向とパラ配向の面積比(O/P)は50%以上300%未満であることが好ましく、100%以上200%未満であることがさらに好ましい。
面積比(O/P)が50%以上であると、溶剤溶解性や電気特性が良好となる。また、300%未満であれば、製造コストの上昇や産業廃棄物増大などの問題が発生しない。
なお、オルソ配向とパラ配向の面積比(O/P)は、下記式にて算出される。
オルソ配向とパラ配向の面積比(O/P)=(前記式(4)で表されるマレイミド化合物の面積%)×2+(前記式(2)で表されるマレイミド化合物の面積%)/(前記式(3)で表されるマレイミド化合物の面積%)×2+(前記式(2)で表されるマレイミド化合物の面積%)
【0033】
上記含有率は、HPLC(高速液体クロマトグラフィー)で測定することができ、本実施形態では、以下の条件で測定している。
・HPLC分析
株式会社島津製作所社製 送液ユニット LC-20AD
株式会社島津製作所社製 フォトダイオードアレイ検出器 SPD-M20A
株式会社島津製作所社製 カラムオーブン CTO-20A
カラム:Intersil ODS-2.5μm,4.6×250mm 40℃
MobilPhaseA:アセト二トリル(AN)
MobilPhaseB:水(W)
TimeProgram:
0-28min.AN/W=30%/70% → 100%/0%
28-40min.AN/W=100%/0%
FlowRate:1.0mL/min.
Detection:UV 200-274nm,PDA
測定波長:225nm
【0034】
HPLCの測定波長は210~230nmの範囲が好ましい。他の波長でも測定は可能であるが、その吸収波長の差異から実際の含有量とかけ離れる場合があるためである。またNMRによりその比率を算出することもできる。NMRを用いる場合、13C-NMRを用いて1-2ppmに現れるイソプロピリデン基のピーク強度比で比率の算出が可能である。
【0035】
本発明の一実施形態に係るマレイミド樹脂は、溶剤への溶解性及び他の樹脂との溶解性が高く、マレイミド溶液(以下、単にワニスともいう)、あるいは硬化性樹脂組成物として取り扱うことができる。また、本発明の一実施形態に係るマレイミド樹脂の硬化物は、電気特性、耐熱性、耐候性、吸湿性、難燃性に優れる。
【0036】
使用可能な溶剤としては、例えば、アセトン、エチルメチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類、ベンゼン、トルエン、キシレン、テトラメチルベンゼン、シクロヘキサン等の炭化水素類、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールジエチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジエチルエーテル等のグリコールエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチル、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート、ブチルセロソルブアセテート、カルビトールアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、グルタル酸ジアルキル、コハク酸ジアルキル、アジピン酸ジアルキル等のエステル類、γ-ブチロラクトン等の環状エステル類、石油エーテル、石油ナフサ、水添石油ナフサ、ソルベントナフサ等の石油系溶剤、などが挙げられ、これらの中でケトン類、炭化水素類、エステル類が好ましく、炭化水素類であることがさらに好ましく、芳香族炭化水素類であることが特に好ましい。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。溶剤は、得られたワニス中の溶剤を除く固形分濃度が通常10~80重量%、好ましくは20~70重量%となる範囲で使用する。
なお、マレイミド樹脂を溶剤に溶解させることでマレイミド溶液とすることができるが、合成時に使用する溶剤をそのままマレイミド溶液として提供することが好ましい。産業上廃棄物、消費エネルギーが少なくなるためである。
【0037】
つづいて、本実施形態のマレイミド樹脂の製造方法について説明するが、本製法に限定されるものではない。
【0038】
[芳香族アミン樹脂の製造方法]
本実施形態のマレイミド樹脂は、前駆体として下記式(5)で表される芳香族アミン樹脂を用いることができる。
【0039】
【化8】
【0040】
(式(5)中、nは繰り返し数であり、その平均値は1<n<5である。)
【0041】
前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂の製法は特に限定されない。例えば、特許文献4では、アニリンとm-ジイソプロペニルベンゼンまたはm-ジ(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼンとを、酸性触媒の存在下で180~250℃で反応させることにより前記式(5)におけるn=1体が主成分として得られることが開示されている。このn=1体の中には、下記式(6)で表される1-(o-アミノクミル)-3-(p-アミノクミル)ベンゼン、下記式(7)で表される1,3-ビス(p-アミノクミル)ベンゼン、下記式(8)で表される1,3-ビス(o-アミノクミル)ベンゼンの3つの異性体が含まれる。
【0042】
【化9】
【0043】
【化10】
【0044】
【化11】
【0045】
特許文献4では、さらに副成分として含まれるn=2~5体を晶析により精製して純度98%の1,3-ビス(p-アミノクミル)ベンゼンを得ている。また、特許文献5では、1,3-ビス(p-アミノクミル)ベンゼンをマレイミド化してN,N’-(1,3-フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-p-フェニレン)ビスマレイミドを合成して結晶の生成物を得ているが、これを溶剤に溶解するためには加熱が必要であり、加熱後に室温で放置すると数時間で結晶が析出してしまう。そのため、樹脂組成物を調整する場合も結晶が析出する可能性があり、N,N’-(1,3-フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-p-フェニレン)ビスマレイミドの濃度が高まるほど結晶化の可能性が高くなる。プリント配線板や複合材を作製するために、ガラスクロスや炭素繊維をワニスに含浸させて樹脂を付着させるが、結晶が析出してしまうと含浸作業が不可能となり、一方溶解状態を保つために温度を上げると組成物の反応が早まってしまい、ワニスの可使時間が短くなってしまう。
【0046】
本発明の一実施形態に係る製造方法では、分子量分布を有し、かつ非対称アミンを含有するアミン樹脂を用いてマレイミド樹脂を合成することで溶剤溶解性、またその硬化物において誘電特性を向上させることができる。
前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂中、前記式(6)で表される芳香族アミン化合物は、HPLC面積百分率で30面積%以上60面積%未満であることが好ましく、30面積%以上55面積%未満であることがさらに好ましく、35面積%以上50面積%未満であることが特に好ましい。
【0047】
前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂を合成する際、用いられる酸性触媒は、塩酸、燐酸、硫酸、蟻酸、塩化亜鉛、塩化第二鉄、塩化アルミニウム、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸等の酸性触媒等が挙げられる。本実施形態においては塩酸、p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸などのプロトン酸が好ましい。これらは単独でも二種以上併用しても良い。触媒の使用量は、使用されるアニリンに対して、通常1~30重量%、好ましくは1~17重量%、さらに好ましくは1~12重量%、特に好ましくは1~7重量%であり、多すぎると目的とする非対称構造の化合物が少なく、対称構造を有する化合物が優先してできてしまう。少なすぎると反応の進行が遅くなるだけでなく、反応が完結できない場合もあることから好ましくない。
【0048】
反応は必要によりトルエン、キシレンなどの有機溶剤を使用して行っても、無溶剤で行っても良い。例えば、アニリンと溶剤の混合溶液に酸性触媒を添加した後、触媒が水を含む場合は共沸により水を系内から除くことが好ましい。しかる後にジイソプロペニルベンゼンまたはジ(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼンを添加し、その後溶剤を系内から除きながら昇温して140~190℃、好ましくは160~190℃で5~50時間、好ましくは5~30時間反応を行う。反応温度が高すぎる場合、非対称構造が生成後に再結合し、対称構造が優先してできてしまうため、目的とする溶剤溶解性、電気特性を発揮できない。ジ(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼンを使用した時には水が副生されるため、昇温時に溶剤と共沸させながら系内から除去する。反応終了後、アルカリ水溶液で酸性触媒を中和後、油層に非水溶性有機溶剤を加えて廃水が中性になるまで水洗を繰り返したのち、溶剤および過剰のアニリン誘導体を加熱減圧下において除去する。活性白土やイオン交換樹脂を用いた場合は、反応終了後に反応液を濾過して触媒を除去する。
また、反応温度や触媒の種類によってはジフェニルアミンが副生するため、必要に応じて除去することが好ましい。高温・高真空下で、もしくは水蒸気蒸留等の手段を用いて、ジフェニルアミン誘導体を1重量%以下、好ましくは0.5重量%以下、より好ましくは0.2重量%以下まで除去する。
【0049】
本実施形態のマレイミド樹脂は、例えば、前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂と、マレイン酸または無水マレイン酸(以下、「マレイン酸無水物」ともいう。)を溶剤、触媒の存在下に付加もしくは脱水縮合反応させることで得られる。
【0050】
[マレイミド樹脂の製造方法]
反応で使用する溶剤は反応中に生成する水を系内から除去する必要があるため、非水溶性の溶剤を使用する。例えばトルエン、キシレンなどの芳香族溶剤、シクロヘキサン、n-ヘキサンなどの脂肪族溶剤、ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテルなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸ブチルなどのエステル系溶剤、メチルイソブチルケトン、シクロペンタノンなどのケトン系溶剤などが挙げられるがこれらに限定されるものではなく、2種以上を併用しても良い。
【0051】
また、前記非水溶性溶剤に加えて非プロトン性極性溶剤を併用することもできる。例えば、ジメチルスルホン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、1,3-ジメチル-2-イミダゾリジノン、N-メチル-2-ピロリドンなどが挙げられ、2種以上を併用しても良い。非プロトン性極性溶剤を使用する場合は、併用する非水溶性溶剤よりも沸点の高いものを使用することが好ましい。
【0052】
また、反応で使用する触媒は酸性触媒であり、特に限定されないが、例えば、p-トルエンスルホン酸、ヒドロキシ-p-トルエンスルホン酸、メタンスルホン酸、硫酸、リン酸等が挙げられる。酸性触媒の使用量は、芳香族アミン樹脂に対して通常0.1~10重量%、好ましくは1~5重量%である。酸触媒が多い場合、パラ配向性が強くなり、結晶性や誘電特性に悪影響を及ぼすおそれがある。
【0053】
例えば、トルエンとN-メチル-2-ピロリドンに前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂を溶解し、そこへマレイン酸無水物を添加してアミック酸を生成し、その後p-トルエンスルホン酸を加えて、還流条件下で生成する水を系内から除去しながら反応を行う。
【0054】
または、マレイン酸無水物をトルエンに溶解し、撹拌下で前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂のN-メチル-2-ピロリドン溶液を添加してアミック酸を生成し、その後p-トルエンスルホン酸を加えて、還流条件下で生成する水を系内から除去しながら反応を行う。
【0055】
または、マレイン酸無水物をトルエンに溶解し、p-トルエンスルホン酸を加え、撹拌・還流状態において前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂のN-メチル-2-ピロリドン溶液を滴下しながら、途中で共沸してくる水は系外へ除き、トルエンは系内へ戻しながら反応を行う(以上、第一段反応)。
【0056】
いずれの方法においても、マレイン酸無水物は前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂のアミノ基に対して、通常1~3倍当量、好ましくは1.2~2.0倍当量使用する。
【0057】
未閉環のアミック酸を少なくするためには、上記に列記したマレイミド化反応後に反応溶液に水を加え、樹脂溶液層と水層に分離させ、過剰のマレイン酸や無水マレイン酸、非プロトン性極性溶媒、触媒などは水層側に溶解しているので、これを分液除去し、さらに同様の操作を繰り返して過剰のマレイン酸や無水マレイン酸、非プロトン性極性溶媒、触媒の除去を徹底する。過剰のマレイン酸や無水マレイン酸、非プロトン性極性溶媒、触媒が除去された有機層のマレイミド樹脂溶液に触媒を再度添加して加熱還流条件下での残存アミック酸の脱水閉環反応を再度行っても構わない(以上、第二段反応)。本手法を行うことにより酸価が低いマレイミド樹脂溶液が得られるが、本実施形態においては第一段反応のみであっても差し支えない。
【0058】
再脱水閉環反応の時間は通常1~5時間、好ましくは1~3時間であり、必要により前述の非プロトン性極性溶剤を添加しても良い。反応終了後、冷却して、水洗水が中性になるまで水洗を繰り返す。その後、加熱減圧下において水を共沸脱水で除いてから、溶剤を留去したり、別の溶剤を加えたりして所望の濃度の樹脂溶液に調整しても良いし、溶剤を完全に留去して固形の樹脂として取り出しても良い。
【0059】
次に、本実施形態の硬化性樹脂組成物について説明する。
本実施形態の硬化性樹脂組成物には、本実施形態のマレイミド樹脂と架橋反応可能な化合物を含有することができる。当該化合物としては、アミノ基、シアネート基、フェノール性水酸基、アルコール性水酸基、アリル基、メタリル基、アクリル基、メタクリル基、ビニル基、共役ジエン基などのマレイミド樹脂と架橋反応し得る官能基(或いは構造)を有する化合物であれば特に限定されない
アミン化合物とマレイミド化合物は架橋反応するので、前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂を用いても良い。マレイミド樹脂は自己重合も可能なので単独使用も可能である。また、前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂以外のアミン化合物または前記式(1)で表されるマレイミド樹脂以外のマレイミド化合物を併用してもかまわない。
【0060】
本実施形態の硬化性樹脂組成物中の前記式(1)で表されるマレイミド樹脂の含有量は、10重量%以上であることが好ましく、より好ましくは15重量%以上、さらに好ましくは20重量%である。上記範囲の場合、硬化物の物性において機械強度が高く、ピール強度も高く、さらに耐熱性も高くなる傾向がある。
【0061】
本実施形態の硬化性樹脂組成物に配合し得るアミン化合物としては従来公知のアミン化合物を使用することができる。アミン化合物の具体例としては、ジエチレントリアミン、トリエチレンテトラミン、テトラエチレンペンタミン、m-キシレンジアミン、トリメチルヘキサメチレンジアミン、2-メチルペンタメチレンジアミン、ジエチルアミノプロピルアミン、イソホロンジアミン、1,3-ビスアミノメチルシクロヘキサン、ビス(4-アミノシクロヘキシル)メタン、ビス(4-アミノ-3-メチルシクロヘキシル)メタン、ノルボルネンジアミン、1,2-ジアミノシクロヘキサン、ジアミノジフェニルメタン、メタフェニレンジアミン、ジアミノジフェニルスルホン、ジシアンジアミド、ポリオキシプロピレンジアミン、ポリオキシプロピレントリアミン、N-アミノエチルピペラジン、アニリン・ホルマリン樹脂などが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。
また、特許文献3の特許請求の範囲に記載されている芳香族アミン樹脂は、低吸湿性、難燃性、誘電特性に優れているため特に好ましい。
【0062】
実施形態の硬化性樹脂組成物に配合し得るマレイミド化合物としては従来公知のマレイミド化合物を使用することができる。マレイミド化合物の具体例としては、4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、ポリフェニルメタンマレイミド、m-フェニレンビスマレイミド、2,2’-ビス〔4-(4-マレイミドフェノキシ)フェニル〕プロパン、3,3’-ジメチル-5,5’-ジエチル-4,4’-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、4,4’-ジフェニルエーテルビスマレイミド、4,4’-ジフェニルスルフォンビスマレイミド、1,3-ビス(3-マレイミドフェノキシ)ベンゼン、1,3-ビス(4-マレイミドフェノキシ)ベンゼンなどが挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく、2種以上併用してもよい。マレイミド化合物の配合量は、重量比で本実施形態のマレイミド樹脂の好ましくは5倍以下、より好ましくは2倍以下の範囲である。
また、特許文献3の請求項に記載されているマレイミド樹脂は、低吸湿性、難燃性、誘電特性に優れているため特に好ましい。
【0063】
本実施形態の硬化性樹脂組成物に配合し得るシアネートエステル化合物としては従来公知のシアネートエステル化合物を使用することができる。シアネートエステル化合物の具体例としては、フェノール類と各種アルデヒドとの重縮合物、フェノール類と各種ジエン化合物との重合物、フェノール類とケトン類との重縮合物及びビスフェノール類と各種アルデヒドの重縮合物などをハロゲン化シアンと反応させることにより得られるシアネートエステル化合物が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく2種以上を用いてもよい。
上記フェノール類としては、フェノール、アルキル置換フェノール、芳香族置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、アルキル置換ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン等が挙げられる。
上記各種アルデヒドとしては、ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アルキルアルデヒド、ベンズアルデヒド、アルキル置換ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、クロトンアルデヒド、シンナムアルデヒド等が挙げられる。
上記各種ジエン化合物としては、ジシクロペンタジエン、テルペン類、ビニルシクロヘキセン、ノルボルナジエン、ビニルノルボルネン、テトラヒドロインデン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジイソプロペニルビフェニル、ブタジエン、イソプレン等が挙げられる。
上記ケトン類としてはアセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等が挙げられる。
また、日本国特開2005-264154号公報に合成方法が記載されているシアネートエステル化合物は、低吸湿性、難燃性、誘電特性に優れているためシアネートエステル化合物として特に好ましい。
【0064】
本実施形態の硬化性樹脂組成物において、さらにエポキシ樹脂を配合することができる。配合し得るエポキシ樹脂としては、従来公知のエポキシ樹脂のいずれも使用することができる。エポキシ樹脂の具体例としては、フェノール類と各種アルデヒドとの重縮合物、フェノール類と各種ジエン化合物との重合物、フェノール類とケトン類との重縮合物、ビスフェノール類と各種アルデヒドの重縮合物及びアルコール類等をグリシジル化したグリシジルエーテル系エポキシ樹脂、4-ビニル-1-シクロヘキセンジエポキシドや3,4-エポキシシクロヘキシルメチル-3,4’-エポキシシクロヘキサンカルボキシラートなどを代表とする脂環式エポキシ樹脂、テトラグリシジルジアミノジフェニルメタン(TGDDM)やトリグリシジル-p-アミノフェノールなどを代表とするグリシジルアミン系エポキシ樹脂、グリシジルエステル系エポキシ樹脂等が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく2種以上を用いてもよい。
また、フェノール類とビスハロゲノメチルアラルキル誘導体またはアラルキルアルコール誘導体とを縮合反応させることにより得られるフェノールアラルキル樹脂を原料とし、エピクロルヒドリンと脱塩酸反応させることにより得られるエポキシ樹脂は、低吸湿性、難燃性、誘電特性に優れているためエポキシ樹脂として特に好ましい。
【0065】
エポキシ樹脂を配合する場合、配合量は特に限定されないが、好ましくは重量比でマレイミド樹脂の0.1~10倍であり、より好ましくは0.2~4倍の範囲である。エポキシ樹脂の配合量がマレイミド樹脂の0.1倍以下になると硬化物が脆くなるおそれがあり、10倍以上になると誘電特性が低下するおそれがある。
【0066】
本実施形態の硬化性樹脂組成物において、さらにフェノール樹脂を有する化合物を配合することができる。
配合し得るフェノール樹脂としては、従来公知のフェノール樹脂のいずれも使用することができる。フェノール樹脂の具体例としてはビスフェノール類(ビスフェノールA、ビスフェノールF、ビスフェノールS、ビフェノール、ビスフェノールAD等)、フェノール類(フェノール、アルキル置換フェノール、芳香族置換フェノール、ナフトール、アルキル置換ナフトール、ジヒドロキシベンゼン、アルキル置換ジヒドロキシベンゼン、ジヒドロキシナフタレン等)と各種アルデヒド(ホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、アルキルアルデヒド、ベンズアルデヒド、アルキル置換ベンズアルデヒド、ヒドロキシベンズアルデヒド、ナフトアルデヒド、グルタルアルデヒド、フタルアルデヒド、クロトンアルデヒド、シンナムアルデヒド等)との重縮合物、フェノール類と各種ジエン化合物(ジシクロペンタジエン、テルペン類、ビニルシクロヘキセン、ノルボルナジエン、ビニルノルボルネン、テトラヒドロインデン、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジイソプロペニルビフェニル、ブタジエン、イソプレン等)との重合物、フェノール類とケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトフェノン、ベンゾフェノン等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ジメタノール類(ベンゼンジメタノール、α,α,α’,α’-ベンゼンジメタノール、ビフェニルジメタノール、α,α,α’,α’-ビフェニルジメタノール等)との重縮合物、フェノール類と芳香族ジクロロメチル類(α,α’-ジクロロキシレン、ビスクロロメチルビフェニル等)との重縮合物、ビスフェノール類と各種アルデヒドの重縮合物、及びこれらの変性物が挙げられるがこれらに限定されるものではない。これらは単独で用いてもよく2種以上を用いてもよい。
また、フェノール類と前記のビスハロゲノメチルアラルキル誘導体またはアラルキルアルコール誘導体とを縮合反応させることにより得られるフェノールアラルキル樹脂は、低吸湿性、難燃性、誘電特性に優れているためフェノール樹脂として特に好ましい。
また、上記のフェノール樹脂がアリル基やメタリル基を有したものの場合は、マレイミド基に対する反応性が水酸基よりも良いため、硬化速度が速くなるとともに、架橋点が増えるため強度や耐熱性が高くなるため好ましい。
また、上記フェノール樹脂の水酸基をアリル化したアリルエーテル体やメタリル化したメタリルエーテル体も配合可能であり、水酸基がエーテル化されているため吸水性が低くなる。
【0067】
本実施形態の硬化性樹脂組成物において、さらに酸無水物基を有する化合物を配合することができる。
配合し得る酸無水物基を有する化合物としては、従来公知のいずれも使用することができる。酸無水物基を有する化合物の具体例としては1,2,3,4-ブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロブタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,3,4-シクロペンタンテトラカルボン酸二無水物、1,2,4,5-シクロヘキサンテトラカルボン酸二無水物、ピロメリット酸無水物、5-(2,5-ジオキソテトラヒドロフリル)-3-メチル-3-シクロヘキセン-1,2-ジカルボン酸無水物、4-(2,5-ジオキソテトラヒドロフラン-3-イル)-1,2,3,4-テトラヒドロナフタレン-1,2-ジカルボン酸無水物等が挙げられる。
酸無水物基を有する化合物は単独又は2種以上混合して用いることができる。また、酸無水物基とアミンが反応した結果、アミック酸となるが、さらに200℃~300℃で加熱すると脱水反応によりイミド構造となり、耐熱性に非常に優れた材料となる。
【0068】
本実施形態の硬化性樹脂組成物には必要に応じて硬化用の触媒(硬化促進剤)を配合することができる。例えば2-メチルイミダゾール、2-エチルイミダゾール、2-フェニルイミダゾール、2-エチル-4-メチルイミダゾール、2-ウンデシルイミダゾール、1-シアノエチル-2-エチル-4-メチルイミダゾールなどのイミダゾール類、トリエチルアミン、トリエチレンジアミン、2-(ジメチルアミノメチル)フェノール、1,8-ジアザ-ビシクロ(5,4,0)ウンデセン-7、トリス(ジメチルアミノメチル)フェノール、ベンジルジメチルアミン等のアミン類、トリフェニルホスフィン、トリブチルホスフィン、トリオクチルホスフィンなどのホスフィン類、オクチル酸スズ、オクチル酸亜鉛、ジブチルスズジマレエート、ナフテン酸亜鉛、ナフテン酸コバルト、オレイン酸スズ等の有機金属塩、塩化亜鉛、塩化アルミニウム、塩化スズなどの金属塩化物、ジ-tert-ブチルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイドなどの有機過酸化物、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスジメチルバレロニトリルなどのアゾ化合物、塩酸、硫酸、リン酸などの鉱酸、三フッ化ホウ素などのルイス酸、炭酸ナトリウムや塩化リチウム等の塩類などが挙げられる。特に本実施形態においては上述のアミン類、ホスフィン類、さらには有機過酸化物の配合が好ましい。硬化用の触媒の配合量は、硬化性樹脂組成物の合計100重量部に対して好ましくは10重量部以下、より好ましくは5重量部以下の範囲である。
【0069】
本実施形態においては特に誘電特性の面から、ポリブタジエン及びこの変性物、スチレンブタジエン共重合体などの硬化性のポリマー、さらには置換、あるいは無置換のポリフェニレンエーテル、ポリスチレン、フッ素樹脂の配合は好ましく、特に官能基として1,2-ビニル基、アクリル基、メタクリル基、アリル基、メタリル基、ビニルベンゼン、インデンなどの構造をその分子に有する物が好ましい。特に1,2ビニル基を有するスチレンブタジエン共重合体や、アクリル、あるいはメタクリル基を有するポリフェニレンエーテルなどとの組み合わせは誘電特性、フィルム特性などの面から好ましい。
【0070】
更に本実施形態の硬化性樹脂組成物には、必要に応じて公知の添加剤を配合することが出来る。用いうる添加剤の具体例としては、エポキシ樹脂用硬化剤、アクリロニトリル共重合体の変性物、ポリエチレン、ポリイミド、マレイミド系化合物、マレイミド樹脂、シアネートエステル系化合物、シアネートエステル樹脂、シリコーンゲル、シリコーンオイル、並びにシリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、石英粉、アルミニウム粉末、グラファイト、タルク、クレー、酸化鉄、酸化チタン、窒化アルミニウム、アスベスト、マイカ、ガラス粉末等の無機充填材、シランカップリング剤のような充填材の表面処理剤、離型剤、カーボンブラック、フタロシアニンブルー、フタロシアニングリーン等の着色剤が挙げられる。これら添加剤の配合量は、硬化性樹脂組成物100重量部に対して好ましくは1,000重量部以下、より好ましくは700重量部以下の範囲である。
【0071】
本実施形態の硬化性樹脂組成物の調製方法は特に限定されないが、各成分を均一に混合するだけでも、あるいはプレポリマー化してもよい。例えばマレイミド樹脂とシアネートエステル化合物を触媒の存在下または不存在下、溶剤の存在下または不存在下において加熱することによりプレポリマー化する。同様に、本実施形態のマレイミド樹脂と、必要によりエポキシ樹脂、アミン化合物、マレイミド系化合物、シアネートエステル化合物、フェノール樹脂、酸無水物化合物及びその他添加剤を追加してプレポリマー化してもよい。各成分の混合またはプレポリマー化は溶剤の不存在下では例えば押出機、ニーダ、ロールなどを用い、溶剤の存在下では攪拌装置つきの反応釜などを使用する。
【0072】
本実施形態の硬化性樹脂組成物を加熱溶融し、低粘度化してガラス繊維、カ-ボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維などの強化繊維に含浸させることによりプリプレグを得ることができる。また、前記ワニスを、上述のような繊維に含浸させて加熱乾燥させることによりプリプレグを得ることもできる。使用する繊維としては、特に高周波用途においてはEガラスだけでなく、NEガラスなどの低誘電ガラス、石英ガラスなどを用いたガラス繊維の使用が好ましい。これら繊維物の配合量は樹脂総量100体積%に対して10体積%~70体積%、特に20体積%~65体積%が好ましい。またフィラー等と組み合わせて取り扱うことも可能であり、その場合、繊維およびフィラーの総計は樹脂総量100体積%に対して80体積%以下であることが好ましい。80体積%を超えるとシートがもろくなるばかりか、のちの硬化時のフロー性がでず、基板として取り扱うことが困難となる。
上記のプリプレグを所望の形に裁断し、必要により銅箔などと積層後に、積層物にプレス成形法やオートクレーブ成形法、シートワインディング成形法などで圧力をかけながら硬化性樹脂組成物を加熱硬化させることにより、電気電子用積層板(プリント配線板)や、炭素繊維強化材を得ることができる。
【実施例
【0073】
以下、実施例、比較例により本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の例に限定されない。尚、本文中「部」及び「%」は、それぞれ「重量部」及び「重量%」を表す。軟化点及び溶融粘度は下記の方法で測定した。
軟化点:JIS K-7234に準じた方法で測定
酸価:JIS K-0070:1992に準じた方法で測定
【0074】
・GPC(ゲルパーミエーションクロマトグラフィー)分析
GPC:DGU-20A3R,LC-20AD,SIL-20AHT,RID-20A,SPD-20A,CTO-20A,CBM-20A(いずれも島津製作所製)
カラム:Shodex KF-603、KF-602x2、KF-601x2
連結溶離液:テトラヒドロフラン
流速:0.5ml/min.
カラム温度:40℃
検出:RI(示差屈折検出器)
【0075】
・マレイミド当量
GPCの面積%より算出。
【0076】
・HPLC(高速液体クロマトグラフィー)分析
株式会社島津製作所社製 送液ユニット LC-20AD
株式会社島津製作所社製 フォトダイオードアレイ検出器 SPD-M20A
株式会社島津製作所社製 カラムオーブン CTO-20A
カラム:Intersil ODS-2.5μm,4.6×250mm 40℃
MobilPhaseA:アセト二トリル(AN)
MobilPhaseB:水(W)
TimeProgram:
0-28min.AN/W=30%/70% → 100%/0%
28-40min.AN/W=100%/0%
FlowRate:1.0mL/min.
Detection:UV 200-274nm,PDA
測定波長:225nm
【0077】
[合成例1]
温度計、冷却管、ディーンスターク共沸蒸留トラップ、撹拌機を取り付けたフラスコにアニリン373部、トルエン150部、m-ジ(α-ヒドロキシイソプロピル)ベンゼン194部、活性白土(日本活性白土製 E)75部を仕込み、水、トルエンを留去しながら系内を6時間かけて170℃まで昇温し、この温度で20時間反応をした。その後室温まで冷却し、トルエンを600部加えてろ過により活性白土を除去した。次いでロータリーエバポレーターで油層から加熱減圧下において過剰のアニリンとトルエンを留去することにより前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂(SA-1)320部を得た。芳香族アミン樹脂(SA-1)のアミン当量は180.5g/eq、軟化点は45℃であった。GPC分析(RI)により、n=1体は78.8面積%であり、平均のnは1.22であった。HPLC分析によるn=1体中の異性体の比率については表1に示す。また、そのオルソ配向とパラ配向の面積比(o/p)は28%であった。
オルソ配向とパラ配向のHPLC分析による面積比(O/P)=(前記式(7)で表される芳香族アミン化合物の面積%)×2+(前記式(6)で表される芳香族アミン化合物の面積%)/(前記式(8)で表される芳香族アミン化合物の面積%)×2+(前記式(6)で表される芳香族アミン化合物の面積%)
【0078】
[合成例2]
温度計、冷却管、ディーンスターク共沸蒸留トラップ、撹拌機を取り付けたフラスコにアニリン804部とトルエン432部、35%塩酸450部を仕込み、昇温をしながら水、トルエンを留去して系内を170℃とし、この温度で1,3-ジイソプロペニルベンゼン158部を1.5時間かけて滴下し、同温度で30時間反応を行った。その後冷却しながら30%水酸化ナトリウム水溶液87部を系内が激しく還流しないようにゆっくりと滴下し、80℃以下でトルエン432部を加え、70℃~80℃で静置した。分離した下層の水層を除去し、反応液の水洗を洗浄液が中性になるまで繰り返した。次いでロータリーエバポレーターで油層から加熱減圧下において過剰のアニリンとトルエンを留去した後、トルエン864部を加えて加熱溶解後、シクロヘキサンを864部加えて晶析・ろ過・乾燥を行うことで、前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂(SA―2)303部を得た。GPC分析(RI)により、n=1体98%以上であり、平均のnは1であった。HPLC分析によるn=1体中の異性体の比率については表1に示す。また、そのオルソ配向とパラ配向の面積比(o/p)は0%であった。
【0079】
[合成例3]
温度計、冷却管、ディーンスターク共沸蒸留トラップ、撹拌機を取り付けたフラスコにアニリン373部とトルエン250部、35%塩酸10部を仕込み、昇温をしながら水、トルエンを留去して系内を170℃とし、この温度で1,3-ジイソプロペニルベンゼン194部を1.5時間かけて滴下し、同温度で45時間反応を行った。その後冷却しながら30%水酸化ナトリウム水溶液17.4部を系内が激しく還流しないようにゆっくりと滴下し、80℃以下でトルエン300部を加え、70℃~80℃で静置した。分離した下層の水層を除去し、反応液の水洗を洗浄液が中性になるまで繰り返した。次いでロータリーエバポレーターで油層から加熱減圧下において過剰のアニリンとトルエンを留去することにより前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂(A-1)306部を得た。芳香族アミン樹脂(A-1)のアミン当量は187.9g/eq、軟化点は59℃であった。GPC分析(RI)により、n=1体は62.5面積%であり、平均のnは1.45であった。HPLC分析によるn=1体中の異性体の比率については表1に示す。また、そのオルソ配向とパラ配向の面積比(o/p)は176%であった。
【0080】
[合成例4~12]
合成例3において使用触媒、触媒量、アニリン量、反応温度、反応時間を変え、アミン樹脂A-2からA-10を合成した。結果を表1に示す。
【0081】
[合成例13]
温度計、冷却管、ディーンスターク共沸蒸留トラップ、撹拌機を取り付けたフラスコにアニリン192部とトルエン123部、1,3-ジイソプロペニルベンゼン194部を仕込み、撹拌しながら、35%塩酸21部を仕込んだ。その後、昇温をしながら水、トルエンを留去して系内を160℃とし、24時間反応を行った。その後冷却しながら30%水酸化ナトリウム水溶液30部を系内が激しく還流しないようにゆっくりと滴下し、80℃以下でトルエン20部を加え、70℃~80℃で静置した。分離した下層の水層を除去し、反応液の水洗を洗浄液が中性になるまで繰り返した。次いでロータリーエバポレーターで油層から加熱減圧下において過剰のアニリンとトルエンを留去した後、次いでロータリーエバポレーターで油層から加熱減圧下において過剰のアニリンとトルエンを留去することにより前記式(5)で表される芳香族アミン樹脂(A-11)158部を得た。芳香族アミン樹脂(A-13)のアミン当量は186g/eq、軟化点は58.8℃であった。GPC分析(RI)により、n=1体は64.9面積%であり、HPLC分析によるn=1体中の異性体の比率については表1に示す。
【0082】
【表1】

HCl:35%塩酸水溶液(純正化学製)
【0083】
[比較例1]
温度計、冷却管、ディーンスターク共沸蒸留トラップ、撹拌機を取り付けたフラスコに無水マレイン酸147部とトルエン300部、メタンスルホン酸4部を仕込み、加熱還流状態とした。次に、芳香族アミン樹脂(SA-1)197部をN-メチル-2-ピロリドン95部とトルエン100部に溶解した樹脂溶液を、還流状態を保ちながら3時間かけて滴下した。この間、還流条件で共沸してくる縮合水とトルエンをディーンスターク共沸蒸留トラップ内で冷却・分液した後、有機層であるトルエンは系内に戻し、水は系外へ排出した。樹脂溶液の滴下終了後、還流状態を保ち、脱水操作をしながら6時間反応を行った。反応終了後、水洗を4回繰り返してメタンスルホン酸及び過剰の無水マレイン酸を除去し、70℃以下の加熱減圧下においてトルエンと水の共沸により、水を系内から除去した。次いで、メタンスルホン酸2部を加え、加熱還流状態で2時間反応を行った。反応終了後、水洗水が中性になるまで4回水洗を繰り返したのち、70℃以下の加熱減圧下においてルエンと水の共沸により、水を系内から除去し、トルエンを加熱減圧下において完全に留去することにより前記式(1)で表されるマレイミド樹脂(SM-1)を得た。得られたマレイミド樹脂(SM-1)の軟化点は100℃、酸価は9mgKOH/gであった。GPC分析(RI)により、n=1体は73%であり、平均のnは1.37であった。HPLC分析によるn=1体中の異性体の比率については表2に示す。また、そのオルソ配向とパラ配向の面積比(o/p)は30%であった。
【0084】
[比較例2]
温度計、冷却管、ディーンスターク共沸蒸留トラップ、撹拌機を取り付けたフラスコに無水マレイン酸147部とトルエン300部、メタンスルホン酸3.3部を仕込み、加熱還流状態とした。次に、1,3-ビス(p-アミノクミル)ベンゼン(SA-2)172部をN-メチル-2-ピロリドン66部とトルエン100部に溶解した樹脂溶液を、還流状態を保ちながら3時間かけて滴下した。この間、還流条件で共沸してくる縮合水とトルエンをディーンスターク共沸蒸留トラップ内で冷却・分液した後、有機層であるトルエンは系内に戻し、水は系外へ排出した。樹脂溶液の滴下終了後、還流状態を保ち、脱水操作をしながら2時間反応を行った。反応終了後、水洗を4回繰り返してメタンスルホン酸及び過剰の無水マレイン酸を除去し、70℃以下の加熱減圧下においてトルエンと水の共沸により、水を系内から除去した。次いで、メタンスルホン酸1.7部を加え、加熱還流状態で2時間反応を行った。反応終了後、水洗水が中性になるまで3回水洗を繰り返したのち、70℃以下の加熱減圧下においてルエンと水の共沸により、水を系内から除去したのち、トルエンを加熱減圧下において完全に留去することによりマレイミド樹脂(SM-2)237部を得た。得られたマレイミド樹脂(SM-2)の軟化点は91℃、酸価は3mgKOH/gであった。GPC分析(RI)により、n=1体は95%、平均のnは1.02であった。n=1体中の異性体の比率については表2に示す。また、そのオルソ配向とパラ配向の面積比(o/p)は0%であった。
【0085】
[実施例1]
温度計、冷却管、ディーンスターク共沸蒸留トラップ、撹拌機を取り付けたフラスコに無水マレイン酸147部とトルエン300部、メタンスルホン酸4部を仕込み、加熱還流状態とした。次に、芳香族アミン樹脂(A-1)197部をN-メチル-2-ピロリドン95部とトルエン100部に溶解した樹脂溶液を、還流状態を保ちながら3時間かけて滴下した。この間、還流条件で共沸してくる縮合水とトルエンをディーンスターク共沸蒸留トラップ内で冷却・分液した後、有機層であるトルエンは系内に戻し、水は系外へ排出した。樹脂溶液の滴下終了後、還流状態を保ち、脱水操作をしながら6時間反応を行った。反応終了後、水洗を4回繰り返してメタンスルホン酸及び過剰の無水マレイン酸を除去し、70℃以下の加熱減圧下においてトルエンと水の共沸により、水を系内から除去した。次いで、メタンスルホン酸2部を加え、加熱還流状態で2時間反応を行った。反応終了後、水洗水が中性になるまで4回水洗を繰り返したのち、70℃以下の加熱減圧下においてトルエンと水の共沸により、水を系内から除去したのち、トルエンを加熱減圧下において約70-80%程度の樹脂濃度になるまで溶剤を留去した後、トルエンを追加して樹脂濃度60%に調整をした。これによりマレイミド樹脂(M-1)を含有するマレイミド溶液(V1)を得た。GPC分析(RI)により、n=1体は57%、平均のnは1.80であった。HPLC分析によるn=1体中の異性体の比率については表2に示す。得られた樹脂溶液を50部とりわけ、加熱減圧下、溶剤を完全に留去することにより前記式(1)で表されるマレイミド樹脂(M-1)を得た。得られたマレイミド樹脂(M-1)の軟化点は115℃、酸価は7.5mgKOH/gであった。また、そのオルソ配向とパラ配向の面積比(o/p)は163%であった。
【0086】
[実施例2]
温度計、冷却管、ディーンスターク共沸蒸留トラップ、撹拌機を取り付けたフラスコに無水マレイン酸147部とトルエン300部、メタンスルホン酸4部を仕込み、加熱還流状態とした。次に、芳香族アミン樹脂(A-2)197部をN-メチル-2-ピロリドン95部とトルエン100部に溶解した樹脂溶液を、還流状態を保ちながら3時間かけて滴下した。この間、還流条件で共沸してくる縮合水とトルエンをディーンスターク共沸蒸留トラップ内で冷却・分液した後、有機層であるトルエンは系内に戻し、水は系外へ排出した。樹脂溶液の滴下終了後、還流状態を保ち、脱水操作をしながら6時間反応を行った。反応終了後、水洗を4回繰り返してメタンスルホン酸及び過剰の無水マレイン酸を除去し、70℃以下の加熱減圧下においてトルエンと水の共沸により、水を系内から除去した。次いで、メタンスルホン酸2部を加え、加熱還流状態で2時間反応を行った。反応終了後、水洗水が中性になるまで4回水洗を繰り返したのち、70℃以下の加熱減圧下においてルエンと水の共沸により、水を系内から除去したのち、トルエンを加熱減圧下において完全に留去することにより前記式(1)で表されるマレイミド樹脂(M-2)を得た。得られたマレイミド樹脂(M-2)の軟化点は111℃、酸価は8mgKOH/gであった。GPC分析(RI)により、n=1体は56%、平均のnは1.78であった。HPLC分析によるn=1体中の異性体の比率については表2に示す。また、そのオルソ配向とパラ配向の面積比(o/p)は120%であった。
【0087】
[実施例3~5]
合成例6、8、9で得られたアミン樹脂について、実施例1と同様に合成を行った。結果を表2に示す。
【0088】
[実施例14]
温度計、冷却管、ディーンスターク共沸蒸留トラップ、撹拌機を取り付けたフラスコに無水マレイン酸147部とトルエン300部、メタンスルホン酸8部を仕込み、加熱還流状態とした。次に、芳香族アミン樹脂(A-11)190部をN-メチル-2-ピロリドン95部とトルエン100部に溶解した樹脂溶液を、還流状態を保ちながら3時間かけて滴下した。この間、還流条件で共沸してくる縮合水とトルエンをディーンスターク共沸蒸留トラップ内で冷却・分液した後、有機層であるトルエンは系内に戻し、水は系外へ排出した。樹脂溶液の滴下終了後、還流状態を保ち、脱水操作をしながら6時間反応を行った。
反応終了後、水洗を4回繰り返してメタンスルホン酸及び過剰の無水マレイン酸を除去し、70℃以下の加熱減圧下においてトルエンと水の共沸により、水を系内から除去した。次いで、メタンスルホン酸2部を加え、加熱還流状態で2時間反応を行った。反応終了後、水洗水が中性になるまで4回水洗を繰り返したのち、70℃以下の加熱減圧下においてルエンと水の共沸により、水を系内から除去したのち、トルエンを加熱減圧下において約70-80%程度の樹脂濃度になるまで溶剤を留去した後、トルエンを追加して樹脂濃度60%に調製をした。これによりマレイミド樹脂(M-11)を含有するマレイミド溶液(V-11)を得た。GPC分析(RI)により、n=1体は48.1%、平均のnは1.85であった。HPLC分析によるn=1体中の異性体の比率については表2に示す。また、そのオルソ配向とパラ配向の面積比(o/p)は127%であった。
得られた樹脂溶液を50部とりわけ、加熱減圧下、溶剤を完全に留去することにより前記式(1)で表されるマレイミド樹脂(M-11)を得た。得られたマレイミド樹脂(M-11)の軟化点は126℃、酸価は9.5mgKOH/gであった。
【0089】
【表2】
【0090】
[比較例3、4、実施例6~10]
比較例1、2、実施例1~5で得られたマレイミド樹脂を樹脂分が60%になるようにトルエンに溶解し、マレイミド樹脂溶液VSM-1、2、VM-1~5を得た。得られたマレイミド樹脂溶液を-10℃において3か月間保管したのち、結晶の析出有無を観察した。結晶の析出が観察されたものは×、観察されなかったものを〇として、表3に示す。
【0091】
【表3】
【0092】
表3より、本実施形態のマレイミド樹脂は溶液安定性に優れることが確認された。
【0093】
[実施例11、12、比較例5、6]
実施例1、3で得られたマレイミド樹脂M-1、M-3、および比較例1、2で得られたSM-1、SM-2を各々50重量部に対して触媒(DCP;ジクミルパーオキサイド、化薬ヌーリオン社製)0.75重量部を配合し、250℃で2時間硬化させた。得られた硬化物から2.5mm×50mm×0.25mmの板を切り出し、1、10GHzの周波数における誘電率、誘電正接を、空洞共振機(AET社製 ADMS01OC1)を用いて測定した結果を表4に示す。
【0094】
【表4】

※表中の「-」は未測定であることを示す。
【0095】
表4より、本実施形態のマレイミド樹脂は1GHzだけでなく、10GHzにおいても優れた誘電特性を有することが確認された。
【0096】
[実施例13、比較例7]
実施例4で得られたマレイミド樹脂M-4、および比較例1で得られたSM-1を各々50重量部に対して触媒(2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール(東京化成工業社製))1.5重量部を配合し、250℃で2時間硬化させた。得られた硬化物から50mm×50mm×0.25mmの板を切り出し、平衡形円板共振器法(共振器:FATEC製平衡形円板共振器使用)を用いて、25℃、150℃における各周波数による誘電正接を測定した結果を表5に示す。
【0097】
【表5】
【0098】
表5より、本実施形態のマレイミド樹脂は高周波領域においても優れた誘電特性を有することが確認された。また、本実施形態のマレイミド樹脂は温度による差異も小さく、高い環境耐性も有することが確認された。
【0099】
[実施例15 比較例8,9]
実施例14で得られたマレイミド樹脂(M-11)、比較例1で得られたマレイミド樹脂(SM-1)および比較例2で得られたマレイミド樹脂(SM-2)を使用し、表6に記載の割合(重量部)で各種のエポキシ樹脂、硬化剤、硬化促進剤を配合し、ミキシングロールで混練、タブレット化後、トランスファー成形で樹脂成形体を調製し、200℃で2時間硬化させた。このようにして得られた硬化物の物性を以下の項目について測定した結果を表6に示す。また、各硬化物について、動的粘弾性装置(DMA)によって温度による弾性率の変化を測定した。結果を図1に示す。
【0100】
・TMA Tg: 熱機械特性装置によって測定 ガラス転移温度。
・DMA弾性率: 動的粘弾性試験機(DMA)により測定。
・Td5(5%熱重量減少温度):得られた硬化物を粉砕し粉状にしたものを100メッシュパス、200メッシュオンのサンプルを用い、TG-DTAにより熱分解温度を測定。サンプル量10mg、昇温速度10℃/min、空気量200ml/hrで測定し、重量が5%減少した温度。
・曲げ弾性率:JIS K-6911に準拠して測定。
・誘電率及び誘電正接: 空洞共振機(AET社製)を用いて室温で測定。
【0101】
【表6】

E1:NC-3000-L(日本化薬製 エポキシ当量271g/eq)
P1:カヤハードGPH-65(日本化薬製 水酸基当量200g/eq)
C1:2E4MZ:2-エチル-4-メチルイミダゾール(東京化成工業社製)
【0102】
表6の結果より、実施例15の硬化物は室温から低温領域において高い弾性率を有し、基板の剛性に寄与するとともに、半田リフロー時の温度領域においても高い弾性率を維持していることが確認された。また、耐熱性(Tg)も高く、熱時の安定性(耐熱分解 Td5)においても優れることが確認できたことから熱による耐候性に優れると言える。さらに誘電特性においては、エポキシ樹脂配合による誘電特性の悪化の影響を抑えることができており、誘電率、誘電正接ともに優れることが確認された。
【0103】
[実施例16、比較例10]
実施例14で得られたマレイミド樹脂(M-11)および比較例1で得られたマレイミド樹脂(SM-1)を各々50重量部に対して触媒(DCP;ジクミルパーオキサイド、化薬ヌーリオン社製)0.75重量部で配合し、175℃のトランスファー成型を行ったのち、250℃で2時間硬化させた。得られた硬化物から2.5mm×50mm×0.25mmの板を切り出し、その誘電率及び誘電正接を空洞共振機(AET社製)を用い、乾燥後と24時間室温にて水に浸漬した後、10GHzの周波数において測定した結果を表7に示す。
【0104】
【表7】
【0105】
表7の結果より、実施例16の硬化物は吸水試験後の誘電特性の低下が少なく、吸湿性が低いことから耐候性に優れることが確認された。
【0106】
本出願は、2020年3月11日出願の日本特許出願2020-41840号に基づくものであり、その内容はここに参照として取り込まれる。
【要約】
下記式(1)で表されるマレイミド樹脂であって、
前記マレイミド樹脂中、N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミドの含有量がGPC面積百分率で98面積%以下であって、
前記N,N’-(フェニレン-ジ-(2,2-プロピリデン)-ジ-フェニレン)ビスマレイミド中、下記式(2)で表されるマレイミド化合物の含有量がHPLC面積百分率で30面積%以上60面積%未満であるマレイミド樹脂。

(式(1)中、nは繰り返し数であり、その平均値は1<n<5である。)
図1