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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】印刷物の真贋判別方法および印刷物
(51)【国際特許分類】
   B41M 3/14 20060101AFI20220117BHJP
   C09D 11/02 20140101ALI20220117BHJP
   C09D 11/50 20140101ALI20220117BHJP
   G07D 7/1205 20160101ALI20220117BHJP
   B42D 25/378 20140101ALI20220117BHJP
【FI】
B41M3/14
C09D11/02
C09D11/50
G07D7/1205
B42D25/378
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2016066887
(22)【出願日】2016-03-29
(65)【公開番号】P2017177482
(43)【公開日】2017-10-05
【審査請求日】2019-03-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000222118
【氏名又は名称】東洋インキSCホールディングス株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】711004436
【氏名又は名称】東洋インキ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100115613
【弁理士】
【氏名又は名称】武田 寧司
(72)【発明者】
【氏名】澤田 隆司
(72)【発明者】
【氏名】森田 孝介
【審査官】中村 博之
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-117353(JP,A)
【文献】特開2011-178009(JP,A)
【文献】特開昭63-092486(JP,A)
【文献】特開2008-143117(JP,A)
【文献】特開2001-262497(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2008/0302263(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B41M 3/14
C09D 11/02
C09D 11/50
G07D 7/1205
B42D 25/378
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
印刷インキに混ぜてもその色相の変化を肉眼で区別し難いステルス材料を含有する印刷物を、当該ステルス材料を含有しない印刷物と区別する真贋判別方法であって、
印刷物を形成するインキのうちの少なくとも一のインキに前記ステルス材料を加えたステルスインキを準備し、
前記印刷物の印刷に際し、真贋判別領域(所定の文字や記号と認識可能な形状を除く。)は前記ステルスインキで印刷し、当該真贋判別領域外は前記ステルス材料を含まない前記一のインキで印刷し、当該真贋判別領域において前記ステルス材料の有する特性の有無を判別することで真贋を判別する印刷物の真贋判別方法。
【請求項2】
前記印刷物を形成するインキがプロセスインキでありそのうちの少なくとも一のプロセスインキに前記ステルス材料を加えたステルスインキと、当該ステルス材料を含まない前記一のプロセスインキとを準備し、
前記印刷物における前記少なくとも一のプロセスインキの印刷か所を、前記ステルスインキで印刷する真贋判別領域(所定の文字や記号と認識可能な形状を除く。)と、当該真贋判別領域と境界を挟んで形成される当該真贋判別領域外を、前記ステルス材料を含まない前記一のプロセスインキで印刷する請求項1記載の印刷物の真贋判別方法。
【請求項3】
複数枚印刷される前記印刷物の印刷に際し、肉眼で区別し難い前記複数枚のうちの一部の印刷物と他の印刷物との間で印刷物中の異なる位置に前記真贋判別領域を配置して、
前記一部の印刷物と前記他の印刷物との間で異なる真贋判別領域で真贋判別可能な請求項1又は請求項2記載の印刷物の真贋判別方法。
【請求項4】
印刷物を形成する前記インキが色相の異なる複数のプロセスインキであり、
前記プロセスインキのうちの少なくとも色相の異なる二のインキに前記ステルス材料を加えた別色となる二のステルスインキを準備し、
前記印刷物の印刷に際し、前記真贋判別領域は前記色相の異なる二のステルスインキで印刷し、前記真贋判別領域外は前記二のインキで印刷し、当該真贋判別領域において別色となる前記二のステルスインキに含まれるステルス材料の有する特性の有無を判別することで真贋を判別する請求項1~請求項3何れか1項記載の印刷物の真贋判別方法。
【請求項5】
印刷物を形成する前記インキが色相の異なる複数のプロセスインキであり、
前記プロセスインキのうちの少なくとも色相の異なる二のインキに前記ステルス材料を加えた別色となる二のステルスインキを準備し、
前記印刷物の印刷に際し、前記真贋判別領域は前記色相の異なる二のステルスインキで印刷し、前記真贋判別領域外は前記二のインキで印刷し、当該真贋判別領域において重ねて印刷された別色となる前記二のステルスインキに含まれるステルス材料の有する特性の有無を判別することで真贋を判別する請求項1~請求項4何れか1項記載の印刷物の真贋判別方法。
【請求項6】
前記ステルス材料を加える一のインキ以外の他の一のインキが前記ステルス材料の有する特性を備えたブラックインキであり、このブラックインキは真贋判別領域を避けて印刷する請求項1~請求項5何れか1項記載の真贋判別方法。
【請求項7】
印刷インキに混ぜてもその色相の変化を肉眼で区別し難いステルス材料を含有する印刷物であって、このステルス材料の有する特性の有無を判別し得る真贋判別領域を有し、
前記真贋判別領域(所定の文字や記号と認識可能な形状を除く。)は、印刷物を形成するインキのうち、少なくとも一のインキに前記ステルス材料が加わったステルスインキで印刷されており、
前記真贋判別領域以外は、前記ステルス材料を含まない前記一のインキで印刷されている印刷物。
【請求項8】
前記印刷物を形成するインキがプロセスインキでありそのうちの少なくとも一のプロセスインキの印刷か所を、当該一のプロセスインキに前記ステルス材料が加わったステルスインキで印刷された前記真贋判別領域(所定の文字や記号と認識可能な形状を除く。)と、当該真贋判別領域と境界を挟んで形成される真贋判別領域外が前記ステルス材料を含まない前記一のプロセスインキで印刷された請求項7記載の印刷物。
【請求項9】
複数枚印刷されるうちの一部の印刷物と、当該一部の印刷物と肉眼で区別し難い他の印刷物との間で印刷物中の異なる位置に前記真贋判別領域を配置している請求項7又は請求項8記載の印刷物。
【請求項10】
前記印刷が色相の異なる複数のプロセスインキからなり、
前記真贋判別領域には、プロセスインキのうちの少なくとも色相の異なる二のインキに前記ステルス材料を加えた別色となる二のステルスインキが印刷されたものであり、
前記真贋判別領域以外には、プロセスインキのうちの少なくとも色相の異なる前記二のインキが印刷されたものである請求項7~請求項9何れか1項記載の印刷物。
【請求項11】
前記印刷物を形成するインキが複数のインキからなり、その何れか一のインキがブラックインキであり、このブラックインキは前記ステルス材料の有する特性を有しないものである請求項7~請求項10何れか1項記載の印刷物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真贋判別用材料を含む印刷インキで印刷した真正印刷物をその真贋判別用材料を含まない印刷インキで印刷した偽造印刷物と区別するための真贋判別方法と、この真贋判別方法で真正印刷物と判別できる印刷物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
高価な印刷物であるお札や金券、有価証券等では、その価値を損なわないために偽物と区別し得る偽造防止手段が施されている。良く知られている偽造防止手段としては、用紙にすかしを入れたり、線幅のとても小さな細線を施したり、磁気に反応させたり、紫外線蛍光インキを印刷することで紫外線によって絵柄を可視化させたり、赤外線を反射または吸収するインキを印刷することで赤外線による反射または吸収の程度の相違を判断したりする方法がある。そして、特に高価な印刷物については、一つの偽造防止手段だけではなく、複数の偽造防止手段が採用されている場合が多い。
【0003】
こうした高価な印刷物に限らずとも自己の印刷物を、他者が模倣した印刷物や複写物と区別する方法が求められており、簡単な手段で比較的安価に真贋判別を行うことができれば便利である。真贋判別手段の中では、特殊インキを用いる方法は汎用性が高く、中でもステルスインキを用いる方法が、肉眼による真偽の区別がつかないことから印刷物の価値を損なわずに広い用途で使うことができて大変優れている。
【0004】
ステルスインキとは、肉眼で判別可能な可視光線波長域以外の波長域に反射または吸収特性を有するインキ等であり、赤外線波長域に反射または吸収特性を有する赤外線ステルスインキや、紫外線波長域に反射または吸収特性を有する紫外線ステルスインキなどがあり、例えば赤外線ステルスインキに関係する技術としては、特開平7-70496号公報(特許文献1)に、赤外線領域に高い吸収性を有する一方で可視光領域では吸収性が低減するインキ組成物が記載されている。
【0005】
特に最近では、特開平2015-117353号公報(特許文献2)に記載された近赤外線吸収材料のように、印刷インキに混ぜて用いてもその色相が変わらず、肉眼ではこうした材料の混入がほとんどわからない印刷物が得られるようになってきた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-70496号公報
【文献】特開2015-117353号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、ステルスインキを用いる方法は、可視光線波長域以外に反射や吸収があるか否かで真偽を判別し、その反射または吸収を示す波長を区別していないため、異なる種類のステルスインキが用いられている場合には、偽物でも真正印刷物として認識される可能性があった。これは特開2015-117353号公報(特許文献2)に記載された色相変化の少ない材料を用いても同様である。
【0008】
さらに、ステルスインキそれ自体についてもその技術は進歩しており、将来的にはより所望の目的にかなうステルスインキが見出される可能性があるため、特定のステルスインキに限定された真贋判別方法では意味がない。
【0009】
そこで本発明はこうした課題に鑑みなされたものであり、ある種のステルスインキを選択したならそのステルスインキを含む印刷物を真正印刷物とし、このステルスインキの含まれていない印刷物を偽造印刷物と簡単に判別できる真贋判別方法とこうした真贋判別方法で真正印刷物と判別できる印刷物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明は次の構成を有するものである。
[1]印刷インキに混ぜてもその色相の変化を肉眼で区別し難いステルス材料を含有する印刷物を、当該ステルス材料を含有しない印刷物と区別する真贋判別方法であって、
印刷物を形成するインキのうちの少なくとも一のインキに前記ステルス材料を加えたステルスインキを準備し、このステルスインキで真贋判別領域を印刷するとともに、当該一のインキでこの真贋判別領域以外を印刷し、
真贋判別領域において前記ステルス材料の有する特性の有無を判別することで真贋を判別する印刷物の真贋判別方法である。
[2]前記ステルス材料の有する特性が、所定波長域での吸収または反射特性である前記真贋判別方法である。
[3]前記印刷物を形成するインキにブラックインキを含む前記真贋判別方法である。
[4]前記一のインキのもつ色調を示す印刷部位を、前記ステルスインキでの印刷部位と、前記一のインキでの印刷部位とに分けた際に、この両印刷部位が重ならないように作製した前記ステルスインキ用印刷版と、前記一のインキ用の印刷版とで印刷する前記真贋判別方法である。
[5]前記印刷物を形成するインキがただ一つのインキであり、単色の印刷物を形成する真贋判別方法である。
[6]前記印刷物を形成するインキが複数のインキからなり、2色以上の印刷物を形成する真贋判別方法である。
[7]前記印刷物を形成するインキが複数のインキからなり、ステルス材料を加える一のインキ以外の他の一のインキがステルス材料の有する特性を備えたブラックインキであり、このブラックインキは真贋判別領域を避けて印刷する真贋判別方法である。
【0011】
[8]印刷インキに混ぜてもその色相の変化を肉眼で区別し難いステルス材料を含有する印刷物であって、このステルス材料の有する特性の有無を判別し得る真贋判別領域を有し、
前記真贋判別領域は、印刷物を形成するインキのうち、少なくとも一のインキに前記ステルス材料が加わったステルスインキで印刷されており、
前記真贋判別領域以外は、前記一のインキで印刷されている印刷物である。
[9]前記ステルス材料の有する特性が、所定波長域での吸収または反射特性である前記印刷物である。
[10]前記印刷物を形成するインキが複数のインキからなり、その何れか一のインキがブラックインキであり、このブラックインキはステルス材料の有する特性を有しないものである前記印刷物である。
[11]真贋判別領域では、前記ステルス材料を含まずかつこのステルス材料の有する特性を備えたブラックインキが印刷されておらず、真贋判別領域以外に当該ブラックインキが印刷された前記印刷物である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の真贋判別方法によれば、所望のステルスインキが含まれる印刷インキで印刷された印刷物を真正印刷物と判別し、それ以外の印刷物と簡単に区別することができる。
また、本発明の印刷物によれば、この真贋判別方法によって真正印刷物と判別でき、それ以外の印刷物とは区別し得る印刷物である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の真贋判別方法は、例えば、イエローインキ、マゼンタインキ、シアンインキからなるプロセスインキと、ある種の特性を有するステルス材料を何れかのプロセスインキに含ませたステルスインキと、を印刷した印刷物を真正印刷物、このステルス材料を含まない印刷物を偽造印刷物と判別する方法である。そして、本発明の印刷物は、この真贋判別方法において真正印刷物とすることができる印刷物である。
以下に、種々の実施形態を挙げて本発明をさらに詳細に説明する。なお、各実施形態において同一の条件や、プロセス、材質、作用、効果等について、重複する部分はその説明を省略する。
【0014】
<第1実施形態>:
本実施形態では、ある種の特性を備えるステルス材料として、近赤外線領域で反射または吸収のピークをもつ分光反射率曲線を描く反射特性を備えた顔料を用いる。なお、ここでの反射特性とはある波長域の光線をそれ以外のベースとなる波長域の光線に比べて反射する性質をいい、吸収特性とはある波長域の光線をそれ以外のベースとなる波長域の光線に比べて吸収する性質をいう。
【0015】
顔料であるステルス材料Aは、インキ原料となる樹脂溶液に予め混合し分散させておく。得られた樹脂溶液を白紙上に塗布し乾燥させたときの分光反射率特性は、可視光領域を含む400nm以上で95%以上の反射率を有する。このうち、近赤外線領域である800nm付近に反射率が低くなったピークを有する性質を備えている。
【0016】
プロセスインキは、一般的なプロセスインキを用いることができ、例えば、イエロー、マゼンタ、シアンの色相を有する3種類のカラーインキからなるものである。但し、ステルス材料Aが近赤外線領域で反射または吸収する反射特性を有するものであるので、プロセスインキは、近赤外線領域で反射または吸収する反射特性を有しないものである必要がある。なお、より厳密に言えば、プロセスインキに近赤外線領域での反射または吸収する反射特性を有していても、ステルス材料Aと区別し得る反射特性であれば良い。
プロセスインキには、上記3色以外にも、必要により特色インキや、ステルス材料Aの特性を有していないブラックインキ等を含むものであっても良い。
【0017】
ステルスインキは、プロセスインキである何れかのカラーインキにステルス材料を含ませて形成したインキであり、ステルス材料を混合していないカラーインキの色相と比べて、肉眼による違いを区別し難く、ほとんど同色といって良いものである。しかしながら、同色とは言えないまでもその相違が少ないものであっても良く、同色に近ければ近いほどステルス材料の混入が分かりにくい優れた印刷物となり、色相の違いが大きくなればそれだけステルス材料の混入が分かり易く偽造され易い印刷物となるのであって、印刷物ごとに求められるグレードに応じて、ステルス材料に求められる程度も異なる。
本実施形態でのステルスインキAは、予めステルス材料Aを含む樹脂溶液を作製しているので、この樹脂溶液を前記何れかのカラーインキと混ぜて調製したインキである。
【0018】
プロセスインキおよびステルスインキAを印刷する印刷版は、プロセスインキを構成するカラーインキごとに準備するとともに、ステルスインキA用のものも準備する。例えば、ステルスインキAが、イエローインキにステルス材料Aを含むイエローステルスインキAであれば、イエローインキ用印刷版と、イエローステルスインキA用印刷版で印刷したものが印刷物のイエロー部分を構成するように両印刷版を製版する。換言すれば、イエローインキの印刷部分と、イエローステルスインキAの印刷部分とが重ならないように両印刷版を形成し、両印刷版で印刷することをもって印刷物のフルカラーを形成するのに必要なイエロー部分を印刷できるようにする。即ち、両印刷版は、目的の印刷物を色分解して形成されるイエロー印刷部分をさらにイエローインキ印刷部分とイエローステルスインキA印刷部分とに分けて形成されたものである。
そして、このイエローステルスインキAで印刷する部分を真贋判別装置で読み取り、ステルス材料Aのもつ特性の有無を判別するのであって、イエローステルスインキAの印刷部位を、真贋判別装置でステルス材料Aの特性の有無を判別できる程度の大きさをもつ真贋判別領域とする。
【0019】
上記例では、ステルスインキAとして、イエローインキをベースとしたイエローステルスインキAについて説明したが、イエローインキにはステルス材料Aを含ませずに、マゼンタインキにステルス材料Aを混合させたマゼンタステルスインキA、あるいはまたシアンインキにステルス材料Aを混合させたシアンステルスインキAとすることもできる。そして、このような場合も、イエローインキでステルスインキAを調製した場合と同様に、これらのカラーインキでステルスインキAを調製し、またその印刷版も、イエローステルスインキ印刷版を形成したように、マゼンタステルスインキ用印刷版や、シアンステルスインキ用印刷版をもとのカラーインキ用印刷版とは別に製版する。
【0020】
ステルスインキAで印刷する真贋判別領域は、その領域内の全体に(ベタに)イエローステルスインキAを印刷する必要はなく、この真贋判別領域内でイエローの色相を付与すべき部分(必要な網点部分)に印刷すればよい。一方、ステルス材料Aを含まないイエローステルスインキAと同色のイエローインキの印刷部位は、この真贋判別領域の外側部分とし、真贋判別領域内には印刷しないものとする。このように真贋判別領域を定めることで、ステルスインキAとこれと同色のカラーインキそれぞれの印刷部位の境界が生じるが、ステルスインキAとこれと同色のカラーインキは、その色相が肉眼で区別が困難なほど近似しているため、あるいは区別できても相違が小さいため、印刷物を目視した際にこの境界を視認することはできず、この境界のない印刷物として認識される。
この真贋判別領域は、一の印刷物内に一つだけ設けても良いし、複数か所設けても良い。
【0021】
ステルスインキAとこれと同色のカラーインキ以外は、通常のプロセスインキを印刷する場合と同様に、それぞれのカラーに色分解された必要な部分を印刷する。
このようにして得られた印刷物は、イエローインキとステルスインキAの境界が区別し難いことに加えて、この真贋判別領域に関係なくマゼンタインキとシアンインキが印刷されるため、より一層、この境界がわからなくなり、ステルス材料を含有しない通常の印刷物と同様の仕上がりとなる。
【0022】
また、この印刷物は、通常の印刷物と見栄えは同じであるが、ステルスインキAを印刷した部分である真贋判別領域の近赤外領域の反射または吸収波長を測定すれば、ステルス材料Aが使われていることがわかり真正印刷物と判別できる。一方で、ステルス材料Aを用いずに、図柄のみを同様に印刷した印刷物、またはコピーした複写物は、どの部位を測定してもステルス材料Aの特性を感知できないため、偽造印刷物と判別できる。
【0023】
そして、近赤外線領域に反射または吸収特性のあるステルス材料Xを用いたインキを従来の印刷方法で印刷した印刷物の存在を仮定すると、プロセスインキの何れかの1色にステルス材料Xを混入させて印刷するだけであって、ステルス材料Xを混入させないこれと同色のプロセスインキは印刷しないで作製するのが通常である。この場合は、ステルス材料Xが混入されたカラーインキが印刷される広大な部分にステルス材料Xが含まれることになる。そのため、このカラーインキが印刷されない一部分を除き、印刷物の全体でステルス材料Xの特性が感知されることになり、偽造印刷物と判別できる。
【0024】
こうした一方で、ステルスインキ用に印刷版を設け、別印刷するという方法は、透明性が悪く、肉眼で識別できる色相を有するステルス材料しかなかった過去の時代では、ステルスインキの印刷部位がそれ以外の部位と容易に識別できるため、そういう方法自体を採用することができなかった。また、今日のように色相の区別がつかない、または透明性の高いステルス材料が開発された後になっても、色材を混合せずステルス材料のみを原料樹脂に分散させた樹脂インキを作製し、この樹脂インキのみを一つの印刷版から印刷する方法によれば、樹脂インキ層が3色のプロセスインキ層とは別に形成されるため、樹脂インキ層とプロセスインキ層との積層による見栄えの違いが生じてしまうという欠点があった。こうした方法と比較しても、カラーインキにステルス材料を加えたステルスインキを、これを加えないカラーインキとは別に印刷し、両印刷部分を分けるという本発明の方法は、ステルスインキ層が同色のカラーインキ層と積層されないため、こうした欠点を有しない。
【0025】
印刷版を変更することで、ステルスインキAとそれと同色のステルスインキAを含まないカラーインキの印刷か所を適宜変更することができる。換言すれば、真贋判別領域を変更することができる。そのため、最初の1,000部は、ステルスインキAの印刷箇所を印刷物の右上隅としておき、偽造印刷物が登場する前に、次の1,000部は、左下隅に変更するなど、ステルスインキAとそれと同色のステルスインキAを含まないカラーインキの印刷箇所は、印刷者の要望で随時変更することができる。
【0026】
<第1実施形態の変形例>:
本実施形態では、ステルスインキAとは別のステルスインキA’を作り、ステルスインキAの印刷版とは別にステルスインキA’の印刷版を作製して印刷する。即ち、先の実施形態では、例として、イエローインキにステルス材料Aを混ぜたイエローステルスインキAを作成したが、本実施形態では、これに加え、例えばマゼンタインキにステルス材料Aを混ぜたマゼンタステルスインキAを作成する実施形態である。
【0027】
マゼンタインキとマゼンタステルスインキAの印刷版は、マゼンタインキ用印刷版と、マゼンタステルスインキA用印刷版で印刷したものが印刷物のマゼンタ部分を構成するようにする。即ち、マゼンタインキの印刷部分と、マゼンタステルスインキAの印刷部分とは重ならないように両印刷版を形成し、両印刷版で印刷することによってはじめて印刷物のフルカラーを形成するのに必要なマゼンタ部分を印刷できるようにする。
【0028】
さらに、必要であればこれらに加えてシアンインキについても、ステルス材料Aを混ぜたシアンステルスインキAを設けてもよい。この場合もこれまでと同様に、シアンインキとシアンステルスインキAの印刷版は、シアンインキ用印刷版と、シアンステルスインキA用印刷版で印刷したものが印刷物のシアン部分を構成するように印刷版を作製する。
【0029】
本実施形態では、イエローステルスインキAの印刷部位と、ステルス材料Aを含有させる第2色目のマゼンタステルスインキAの印刷部位を適宜決定することができ、さらに、ステルス材料Aを含有させる第3色目のシアンステルスインキAを用いるのであればそのシアンステルスインキAの印刷部位も適宜決定することができる。したがって、それぞれが重ならないように印刷部位を配置することができるし、重なるように印刷部位を配置しても良い。換言すれば、真贋判別領域を色ごとに変えて設けても良いし、同じ領域としても良い。
【0030】
一態様として、ステルス材料Aを含むすべてのステルスインキAを一の真贋判別領域に印刷するようにすることができる。
特に、ステルス材料Aの透明性が悪く、ベースとするカラーインキの色相が変わり易い材料であるときは、カラーインキに混ぜた際に見た目に影響を与えない程度に同色にするには、混合量を低く抑える必要がある。しかし、ステルス材料Aの濃度が低いため、単色による印刷部位からはその特性を感知し難い場合がある。こうした場合に、単色だけでなく、他の色相のステルスインキAでも同じ真贋判別領域内に重ねて印刷すれば、単位面積あたりのステルス材料Aが含まれる割合が増え、その特性を感知し易くなる。
なお、上記例では、ステルスインキAとして、イエローステルスインキAとマゼンタステルスインキAを用いた例で説明したが、これ以外の色の組合せからなるステルスインキAとしても良い。
【0031】
<第2実施形態>:
本実施形態は、ステルス材料の有する特性を有しないカラーインキに加え、ステルス材料の有する特性をもつカラーインキを有する場合の真贋判別方法である。ステルス材料として近赤外領域に反射または吸収特性を有するステル材料Aを用いた場合として説明すれば、この特性と同じ特性、即ち、近赤外線領域に反射または吸収特性をもつカーボンブラックを色材として含むブラックインキを用いる場合が挙げられる。
【0032】
本実施形態でも先の実施形態で示した方法と同様に、カラーインキにステルス材料Aを加えたステルスインキAを作り、ステルスインキAとステルスインキAと同色のカラーインキとの印刷部分とは重ならないように両印刷版を形成して印刷する。この際、ステルス材料Aを含有させるカラーインキとしてブラックインキは選択しない。換言すれば、ステルス材料の有する特性を有するカラーインキには、ステルス材料を加えたステルスインキを作製せず、ステルス材料の有する特性を有しないカラーインキにステルス材料を加えて、ステルスインキを作製する。
そして、本実施形態では、ブラックインキ用の印刷版を形成するが、真贋判別領域にはこのブラックインキを印刷しないように印刷版を製版し印刷する。
【0033】
このようにして得られた印刷物も前記実施形態で示した方法と同様にして真贋判別を行う。具体的には、通常の印刷物と見栄えは同じであるが、ステルスインキAを印刷した部分の近赤外領域の反射または吸収波長を測定すれば、ステルス材料Aが使われていることがわかり真正印刷物と判別できる。一方で、ステルス材料Aを用いずに、図柄のみを同様に印刷した印刷物、またはコピーした複写物は、ステルスインキAを印刷した部位以外で近赤外線領域での反射または吸収を感知することがあっても、ステルスインキAを印刷した部位では、近赤外線領域での反射または吸収を感知することができないため、偽造印刷物と判別できる。
【0034】
なお、ブラックインキでの印刷部位とステルスインキAでの印刷部位とを重なるように印刷物を形成すると、その部位での特性の測定は、ステルス材料Aによる近赤外線領域での反射または吸収特性なのか、偽造印刷物の黒色を与えるカーボンブラックによる近赤外線領域での反射または吸収特性なのか、を区別することができないため、真贋判別は困難となる。
【0035】
<その他の変形形態>:
上記実施形態では、プロセスインキを用いてカラー印刷物を作製し、そのカラー印刷物の真贋を判別するものとしたが、用いるインキをただ一つのインキとし、単色の印刷物を作製するものとしてもよい。
【0036】
上記実施形態では、インキ原料となる樹脂に対してステルス材料Aを加えて分散させた樹脂インキを予め作製しておき、この樹脂インキをカラーインキに混ぜるだけでステルスインキを調製していたが、カラーインキ用の色材などを加える際に同時にステルス材料を加えて、原材料からインキを調製する方法でステルスインキを製造しても良い。ステルス材料のカラーインキへの混入のさせ方は、ステルス材料の性質に応じて適宜選択することができる。
また、上記実施形態では、顔料であるステルス材料Aについて説明したが、それ自体がインキ状の高分子物であったり、金属酸化物微粒子であったりすることも可能であり、顔料に何ら限定されるものではない。
【0037】
プロセスインキおよびステルスインキは、印刷形態に合わせた印刷インキとすることができ、平版印刷であれば平版印刷用インキとして、またグラビア印刷であればグラビア印刷用インキとして調製したインキを用いることができる。その他の印刷形式の場合も同様である。
【0038】
上記実施形態では、一般的なプロセスインキが近赤外線領域で反射または吸収特性を有しないことから、この近赤外線領域で反射または吸収特性を有するステルス材料Aを用いるものとしたが、こうしたステルス材料Aは添加する対象となるプロセスインキに混合してもその色相が肉眼で変化しない程度のものが好ましいが、その種類や添加量を限定するものではない。
【0039】
また、ステルス材料の有する特性は、プロセスインキが有していない特性であれば良く、紫外線領域に反射または吸収特性を有するという性質のあるステルス材料Bを用いることができる。さらにまた、ステルス材料の有する特性としては、磁気特性や電気特性等々、所定の波長域での反射または吸収特性以外の性質であってもよい。
【0040】
ステルスインキを印刷する真贋判別領域は、そのステルス材料のもつ所定の特性を測定可能となる範囲で形成すればよく、実施形態で示した所定の波長域での反射または吸収特性であれば、その反射または吸収特性が測定可能な範囲とすればよい。したがって、反射または吸収特性に優れるステルス材料であればステルスインキ中のその濃度を低くし、また真贋判別領域も小面積とすることができる。一方、反射または吸収特性が弱ければ、真贋判別領域を広範囲として、その領域内での反射または吸収特性を測定するなど、ステルス材料の特性に応じて真贋判別領域の広狭を変更することが可能である。
【0041】
上記実施形態では、真贋判別領域にステルスインキを印刷することを説明したが、真贋判別領域以外にステルスインキが印刷されることを妨げるものではなく、真贋判別領域以外にステルスインキが印刷されていてもよい。また、真贋判別領域にステルスインキ以外のインキが印刷されてもよい。
【0042】
真贋判別領域の形状は特に限定されるものではなく、例えば円環状の形状に形成することができる。円環状に真贋判別領域を形成すれば、円環より内側を真贋判別領域外とすることができる。この場合のように、真贋判別領域と思われる範囲内に真贋判別領域外が存在してもよい。
【0043】
上記実施形態は本発明の一例であり、こうした形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨に反しない限度において、種々の変更や置換を行い得るものである。