(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】コイルドウェーブスプリング
(51)【国際特許分類】
F16F 1/06 20060101AFI20220203BHJP
B21F 35/00 20060101ALI20220203BHJP
F16D 13/71 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
F16F1/06 C
B21F35/00 Z
F16D13/71 Z
(21)【出願番号】P 2017117466
(22)【出願日】2017-06-15
【審査請求日】2020-04-30
(73)【特許権者】
【識別番号】000000170
【氏名又は名称】いすゞ自動車株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100166006
【氏名又は名称】泉 通博
(72)【発明者】
【氏名】寺島 幸士
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-067836(JP,U)
【文献】特開2007-321832(JP,A)
【文献】特開2015-043728(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16F 1/06
B21F 35/00
F16D 13/71
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
螺旋状に巻かれた
板状の線材からなる複数段の巻部に軸線方向に沿う振幅で複数の谷部と複数の山部とを交互に設けたコイルドウェーブスプリングであって、
前記複数の谷部と前記複数の山部とは、前段の各谷部と次段の各山部とが互いに接触可能に対向しているとともに、当該対向部位における前記谷部及び前記山部に軸線方向の一方側に向けて突出して互いに係合可能な係合部を備え、
前記コイルドウェーブスプリングの周方向における前記前段の各谷部の頂点位置と前記次段の各山部の頂点位置とが異なり、
前記前段の各谷部の頂点位置と前記次段の各山部の頂点位置との間の中間の位置である複数の接触位置が、前記周方向における異なる位置に設けられており、
前記周方向における前記係合部の頂点位置は、前記周方向における前記接触位置と一致
し、
前記線材は、
金属材料により形成されており、径方向に長幅な矩形状の断面形状を有し、
前記係合部は、
前段の前記谷部から谷側に向けて突出しているとともに、山側の面に係合凹面部を有する被係合突起部と、
次段の前記山部から前記被係合突起部と同方向に向けて突出しているとともに、前記係合凹面部と係合可能な係合凸面部を有する係合突起部と、を有し、
前記被係合突起部と前記係合突起部とは、ドーム形状であり、
前記係合凹面部における前記山部側の面が、前記係合凸面部における前記谷部側の面と接している、
ことを特徴とするコイルドウェーブスプリング。
【請求項2】
螺旋状に巻かれた板状の線材からなる複数段の巻部に軸線方向に沿う振幅で複数の谷部と複数の山部とを交互に設けたコイルドウェーブスプリングであって、
前記複数の谷部と前記複数の山部とは、前段の各谷部と次段の各山部とが互いに接触可能に対向しているとともに、当該対向部位における前記谷部及び前記山部に軸線方向の一方側に向けて突出して互いに係合可能な係合部を備え、
前記コイルドウェーブスプリングの周方向における前記前段の各谷部の頂点位置と前記次段の各山部の頂点位置とが異なり、
前記前段の各谷部の頂点位置と前記次段の各山部の頂点位置との間の中間の位置である複数の接触位置が、前記周方向における異なる位置に設けられており、
前記周方向における前記係合部の頂点位置は、前記周方向における前記接触位置と一致し、
前記線材は、
金属材料により形成されており、径方向に長幅な矩形状の断面形状を有し、
前記係合部は、
次段の前記山部から山側に向けて突出しているとともに、谷側の面に係合凹面部を有する被係合突起部と、
前段の前記谷部から前記被係合突起部と同方向に向けて突出しているとともに、前記係合凹面部と係合可能な係合凸面部を有する係合突起部と、を有し、
前記被係合突起部と前記係合突起部とは、ドーム形状であり、
前記係合凹面部における前記谷部側の面が、前記係合凸面部における前記山部側の面と接している、
ことを特徴とするコイルドウェーブスプリング。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、扁平な線材を軸線方向に沿う高さの振幅で蛇行させつつ螺旋状に形成したコイルドウェーブスプリングに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、扁平な線材を軸線方向に沿う高さの振幅で蛇行させつつ螺旋状に形成したコイルドウェーブスプリング(単に「ウェーブスプリング」と称するものもある)が知られている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
コイルドウェーブスプリングは、例えば、自動変速機のクラッチユニットにおいて、摩擦係合要素を押圧するピストンと固定側部材に係止されたスプリングリテーナとの間に、ピストンの軸線方向に沿う変位に伴って伸縮するリターンスプリングとして配置されている(例えば、特許文献2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-043728号公報
【文献】特開2010-201041号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、このような先行技術文献に開示のコイルドウェーブスプリングにあっては、伸縮したときに接触部分が周方向にずれ、線材が頂点で接触しなくなってしまう虞がある(ねじれ)。また、軸線方向とずれて伸縮した場合には各段が径方向にずれ、線材が頂点で接触しなくなってしまう虞がある(倒れ)。さらに、このような周方向のずれや径方向のずれが発生すると、上下に位置する線材の順序が入れ替わったり絡まったりする虞がある(よじれ)。したがって、コイルドウェーブスプリングにこのようなずれが発生した場合、所期のバネ機能を十分に発揮させることができなくなる虞がある。
【0006】
本開示の技術は、上述のような課題を解決するために、線材のずれを抑制し、よって所期のバネ機能を十分に発揮させることができるコイルドウェーブスプリングを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本開示の技術は、上記目的を達成のため、螺旋状に巻かれた線材からなる複数段の巻部に軸線方向に沿う振幅で複数の谷部と複数の山部とを交互に設けたコイルドウェーブスプリングであって、複数の谷部と複数の山部とは、前段の各谷部と次段の各山部とが互いに接触可能に対向しているとともに、当該対向部位における谷部及び山部に軸線方向の一方側に向けて突出して互いに係合可能な係合部を備える、ものである。
【0008】
また、線材は、金属材料により径方向に長幅な矩形状の断面形状を有し、係合部は、互いに対向する前段の谷部又は次段の山部の一方から山側又は谷側の一方に向けて突出しているとともに、山側又は谷側の他方面に係合凹面部を有する被係合突起部と、互いに対向する前段の谷部又は次段の山部の他方から被係合突起と同方向に向けて突出しているとともに、係合凹面部と係合可能な係合凸面部を有する係合突起部と、を有するのが好ましい。
【0009】
また、被係合突起と係合突起とは、径方向に沿う稜線を有するように線材の全幅に跨っているのが好ましい。
【0010】
また、被係合突起と係合突起とは、山型状であるのが好ましい。
【発明の効果】
【0011】
本開示の技術によれば、線材のずれを抑制し、よって所期のバネ機能を十分に発揮させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】第一実施形態に係るコイルドウェーブスプリングを示し、(A)はコイルドウェーブスプリングの側面図、(B)はコイルドウェーブスプリングの平面図である。
【
図2】第一実施形態に係るコイルドウェーブスプリングを平面的に展開した状態の説明図である。
【
図3】第一実施形態に係るコイルドウェーブスプリングを示し、(A)は要部の拡大斜視図、(B)は係合部が離間した状態の要部の拡大断面図、(C)は係合部が接触した状態(係合状態)の要部の拡大断面図である。
【
図4】第二実施形態に係るコイルドウェーブスプリングを示し、(A)はコイルドウェーブスプリングの側面図、(B)はコイルドウェーブスプリングの平面図である。
【
図5】第二実施形態に係るコイルドウェーブスプリングを示し、(A)は要部の拡大斜視図、(B)は係合部が離間した状態の要部の拡大断面図、(C)は係合部が接触した状態(係合状態)の要部の拡大断面図である。
【
図6】他の実施形態に係るコイルドウェーブスプリングを示し、(A)はコイルドウェーブスプリングの側面図、(B)は要部の拡大側面図、(C)は係合部の配置関係を示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、添付図面に基づいて、本発明の一実施形態に係るコイルドウェーブスプリングについて説明する。なお、同一の部品には同一の符号を付してあり、それらの名称および機能も同じである。したがって、それらについての詳細な説明は繰返さない。
【0014】
[第一実施形態]
図1は、第一実形態に係るに示すコイルドウェーブスプリングを示している。本実施形態のコイルドウェーブスプリング10は、例えば、車両用のダンパーユニット、フライホイールユニット、ディファレンシャルユニット、クラッチユニット、などに配置される。
【0015】
以下に示すコイルドウェーブスプリング10においては、例えば、変速機のクラッチユニットにおいて、摩擦係合要素を押圧するピストンと、固定側部材に係止されたスプリングリテーナとの間に配置し、リターンスプリングとして機能するものとして例示する。なお、コイルドウェーブスプリング10は、圧縮した状態で配置するのが好ましい。
【0016】
コイルドウェーブスプリング10には、平面視において略真円形状を呈し、周方向と直交する断面形状が径方向に長幅な矩形状、すなわち、扁平な線材が用いられている。コイルドウェーブスプリング10は、径方向と直交する軸線方向に沿う所定高さの振幅でなだらかに蛇行させつつ螺旋状に形成されたものである。コイルドウェーブスプリング10には、径方向に沿って幅を有する断面が扁平なステンレス鋼材等の金属材料を線材として用いるのが好ましい。
【0017】
コイルドウェーブスプリング10は、図示最上位及び最下位の両端10a,10bを含む一巻(1周)に満たない部分を除き、複数段の巻部11~14を備える。
【0018】
ここで、「巻部」とは、コイルドウェーブスプリング10の一巻分(1周分)の部分を意味する。本実施の形態では、コイルドウェーブスプリング10の巻数は、説明の便宜上、図示最上位及び最下位の両端10a,10bを含む一巻に満たない部分を除き、4本(4段)の巻部11~14で構成されている。
【0019】
なお、巻部11~14の巻数や蛇行する変位量(振幅の高さに相当)、線材Sの幅(径方向)や厚さ(軸線方向)、内径等の条件は、コイルドウェーブスプリング10を使用する部位やバネ定数等の条件に応じて適宜変更することが可能である。
【0020】
また、コイルドウェーブスプリング10は、例えば、
図1に示すように、軸線Qの延在方向が上下方向(又は鉛直方向)となるように配置(実装)されているとは限らず、左右方向(又は垂直方向)、或いは、傾斜方向で配置される場合もある。
【0021】
また、各巻部11~14において、
図1(A)に示す上下方向で隣接する状態における構成要素に対する関係性の説明においては、特定の巻部11~14を対象として説明している場合を除き、図示上段側を「前段」、図示下段側を「次段」と称して説明する。したがって、以下の説明では、特定の巻部11~14を説明する場合には、
図1(A)に示す上段側から、第1巻部11、第2巻部12、第3巻部13、第4巻部14、と称する。
【0022】
さらに、最上位及び最下位に位置する両端10a,10bを含む一巻(1周)に満たない部分は、図示例では蛇行状態に形成して反発力の一部として寄与する構成のものを示しているが、蛇行状態に形成せずに平坦な構成としているものもある。したがって、このような平坦な構成とすることで直接的な反発力を有していない場合を考慮して詳細な説明は省略するが、巻部11~14と同一の構成を有している部分に関しては、同一の構成・作用・効果を備えているものとする。
【0023】
図2に示すように、第1巻部11は、4つの第1谷部1Ta~1Tdと4つの第1山部1Ya~1Ydとを交互に備える。第1谷部1Ta~1Tdと第1山部1Ya~1Ycとは、周方向において等間隔に交互に連続(蛇行)している。なお、この蛇行に伴う振幅の数や高さ、波長λ等は、コイルドウェーブスプリング10を使用する部位や設定するバネ定数等によって適宜変更することが可能である(以下の説明において同じ)。なお、波長λには、例えば、サインカーブやコサインカーブ等を用いることができる。
【0024】
第2巻部12は、第1巻部11から連続して延在されており、第1巻部11の下方(次段)に位置する。第2巻部12は、4つの第2谷部2Ta~2Tdと4つの第2山部2Ya~2Ydとを交互に備える。第2谷部2Ta~2Tdと第2山部2Ya~2Ydとは、周方向において等間隔に交互に連続されている。なお、第1巻部11の周方向次段寄り端部(図示右側端部)の第1谷部1Tdと第2巻部12の周方向前段寄り端部(図示左側端部)の第2谷部2Taとは、最も下向きに突出した頂点を境として兼用している。
【0025】
ここで、第2谷部2Ta~2Tdは第1山部1Ya~1Ydと対応しており、第2山部2Ya~2Ydは第1谷部1Ta~1Tdと対応している。なお、「対応する」とは、
図1(A)に示す状態、すなわち、コイルドウェーブスプリング10を径方向から見たときの周方向(
図1(A)の紙面左右方向)及び軸線方向(
図1(A)の紙面上下方向)を基準としている。
【0026】
例えば、第2谷部2Ta~2Tdと第1山部1Ya~1Ydとが対応しているとは、第2谷部2Ta~2Tdの谷底と第1山部1Ya~1Ydの山頂とが、軸線Qに沿う方向において最も遠い位置にあり、かつ、周方向において最も近い位置にあることを示す。
【0027】
具体的に、第2山部2Yaの山頂は軸線方向における距離が最も遠く及び周方向における距離が最も近い第1谷部1Taの谷底と最も離間し、第2山部2Ybの山頂は軸線方向における距離が最も遠く及び周方向における距離が最も近い第1谷部1Tbの谷底と最も離間し、第2山部2Ycの山頂は軸線方向における距離が最も遠く及び周方向における距離が最も近い第1谷部1Tcの谷底と最も離間し、第2山部2Ydの山頂は軸線方向における距離が最も遠く及び周方向における距離が最も近い第1谷部1Tdの谷底と最も離間している。
【0028】
同様に、第2山部2Ya~2Ydと第1谷部1Ta~1Tdとが対応しているとは、第2山部2Ya~2Ydの山頂と第1谷部1Ta~1Tdの谷底とが、軸線方向及び周方向において最も近い位置にあることを示す。なお、本実施の形態において、第2山部2Ya~2Ydの山頂と第1谷部1Ta~1Tdの谷底とは、少なくともピストンとスプリングリテーナとの間に圧縮状態で配置されたときに、互いに接触状態となっている。
【0029】
具体的に、第2山部2Yaの山頂は軸線方向及び周方向における距離が最も近い第1谷部1Taの谷底と接触し、第2山部2Ybの山頂は軸線方向及び周方向における距離が最も近い第1谷部1Tbの谷底と接触し、第2山部2Ycの山頂は軸線方向及び周方向における距離が最も近い第1谷部1Tcの谷底と接触し、第2山部2Ydの山頂は軸線方向及び周方向における距離が最も近い第1谷部1Tdの谷底と接触している。
【0030】
なお、線材Sは径方向に長幅となっている。このため、「接触」している状態とは、厳密には各第2山部2Ya~2Ydの山頂における前段側表面の径方向に沿う稜線(以下、「山側稜線」とも称する。)が、各第1谷部1Ta~1Tdの谷底における次段側表面の径方向に沿う稜線(以下、「谷川稜線」とも称する。)と、互いに一致して接触していることを意味する。ただし、誤差を含め、山側稜線と谷側稜線とが必ずしも周方向で互いに一致した状態で接触しているとは限らない。また、以下の説明においては、説明の便宜上、「山側稜線」を「山側頂点」若しくは単に「頂点」とも称し、「谷側稜線」を「谷側頂点」若しくは単に「頂点」とも称する。さらに、互いに蛇行した状態で稜線同士が接触しているため、圧縮度合いによっては、両者は線接触ではなく線材Sの弾性変形に伴って周方向にも長さを有する面接触となる場合もある。
【0031】
第3巻部13は、第2巻部12から連続して延びており、第2巻部12の下方に位置する。第3巻部13は、4つの第3谷部3Ta~3Tdと4つの第3山部3Ya~3Ydとを交互に有している。第3谷部3Ta~3Tdと第3山部3Ya~3Ydとは周方向において等間隔に交互に連続している。なお、第2巻部12の周方向次段寄り端部(図示右側端部)の第2谷部2Tdと第3巻部13の周方向前段寄り端部(図示左側端部)の第3谷部3Taとは、最も下向きに突出した頂点を境として兼用している。
【0032】
ここで、第3谷部3Ta~3Tdは第2山部2Ya~2Ydと対応しており、第3山部3Ya~3Ydは第2谷部2Ta~2Tdと対応している。
【0033】
例えば、第3谷部3Ta~3Tdと第2山部2Ya~2Ydとが対応しているとは、第3谷部3Ta~3Tdの頂点と第2山部2Ya~2Ydの頂点とが、軸線方向において最も遠い位置にあり、かつ、周方向において最も近い位置にあることを示す。
【0034】
具体的に、第3山部3Yaの頂点は軸線方向における距離が最も遠く及び周方向における距離が最も近い第2谷部2Taの頂点と最も離間し、第3山部3Ybの頂点は軸線方向における距離が最も遠く及び周方向における距離が最も近い第2谷部2Tbの頂点と最も離間し、第3山部3Ycの頂点は軸線方向における距離が最も遠く及び周方向における距離が最も近い第2谷部2Tcの頂点と最も離間し、第3山部3Ydの頂点は軸線方向における距離が最も遠く及び周方向における距離が最も近い第2谷部2Tdの頂点と最も離間している。
【0035】
同様に、第3山部3Ya~3Ydと第2谷部2Ta~2Tdとが対応しているとは、第3山部3Ya~3Ydの頂点と第2谷部2Ta~2Tdの頂点とが、軸線方向及び周方向において最も近い位置にあることを示す。なお、本実施の形態において、第3山部3Ya~3Ydの頂点と第2谷部2Ta~2Tdの頂点とは、少なくともピストンとスプリングリテーナとの間で圧縮状態で配置されたときに、互いに接触状態となっている。
【0036】
具体的に、第3山部3Yaの頂点は軸線方向及び周方向における距離が最も近い第2谷部2Taの頂点と接触し、第3山部3Ybの頂点は軸線方向及び周方向における距離が最も近い第2谷部2Tbの頂点と接触し、第3山部3Ycの頂点は軸線方向及び周方向における距離が最も近い第2谷部2Tcの頂点と接触し、第3山部3Ydの頂点は軸線方向及び周方向における距離が最も近い第2谷部2Tdの頂点と接触している。
【0037】
第4巻部14は、第3巻部13から連続して延びており、第3巻部13の下方に位置する。第4巻部14は、4つの第4谷部4Ta~4Tdと4つの第4山部4Ya~4Ydとを交互に有している。第4谷部4Ta~4Tdと第4山部4Ya~4Ydとは周方向において等間隔に交互に連続している。なお、第3巻部13の周方向次段寄り端部(図示右側端部)の第3谷部3Tdと第4巻部14の周方向前段寄り端部(図示左側端部)の第4谷部4Taとは、最も下向きに突出した頂点を境として兼用している。
【0038】
ここで、第4谷部4Ta~4Tdは第3山部3Ya~3Ydと対応しており、第4山部4Ya~4Ydは第3谷部3Ta~3Tdと対応している。
【0039】
例えば、第4谷部4Ta~4Tdと第3山部3Ya~3Ydとが対応しているとは、第4谷部4Ta~4Tdの頂点と第3山部3Ya~3Ydの頂点とが、軸線方向において最も遠い位置にあり、かつ、周方向において最も近い位置にあることを示す。
【0040】
具体的に、第4山部4Yaの頂点は軸線方向における距離が最も遠く及び周方向における距離が最も近い第3谷部3Taの頂点と最も離間し、第4山部4Ybの頂点は軸線方向における距離が最も遠く及び周方向における距離が最も近い第3谷部3Tbの頂点と最も離間し、第4山部4Ycの頂点は軸線方向における距離が最も遠く及び周方向における距離が最も近い第3谷部3Tcの頂点と最も離間し、第4山部4Ydの頂点は軸線方向における距離が最も遠く及び周方向における距離が最も近い第3谷部3Tdの頂点と最も離間している。
【0041】
同様に、第4山部4Ya~4Ydと第3谷部3Ta~3Tdとが対応しているとは、第4山部4Ya~4Ydの頂点と第3谷部3Ta~3Tdの頂点とが、軸線方向及び周方向において最も近い位置にあることを示す。なお、本実施の形態において、第4山部4Ya~4Ydの頂点と第3谷部3Ta~3Tdの頂点とは、少なくともピストンとスプリングリテーナとの間に圧縮状態で配置されたときに、互いに接触状態となっている。
【0042】
具体的に、第4山部4Yaの頂点は軸線方向及び周方向における距離が最も近い第3谷部3Taの頂点と接触し、第4山部4Ybの頂点は軸線方向及び周方向における距離が最も近い第3谷部3Tbの頂点と接触し、第4山部4Ycの頂点は軸線方向及び周方向における距離が最も近い第3谷部3Tcの頂点と接触し、第4山部4Ydの頂点は軸線方向及び周方向における距離が最も近い第3谷部3Tdの頂点と接触している。
【0043】
このように、各段の第1巻部11~第4巻部14は、最上段及び最下段を除いて前段と次段とで挟まれた状態で交互に対応、すなわち、各山部が前段の谷部と対応し、各谷部が次段の山部と対応している。なお、この対応関係は、上記巻数が4本の場合に限らず、巻部の数が2本以上の巻数を有していれば、巻数に関係なく同一の状態で対応する。
【0044】
ところで、このようなコイルドウェーブスプリング10は、伸縮時に、各接触部分における周方向のずれ(ねじれ)、各段における径方向のずれ(倒れ)、線材Sの順序の入れ替わりや絡まり(よじれ)、が発生してしまう虞がある。
【0045】
そこで、各段の第1巻部11~第4巻部14の各振幅の頂点同士が最も接近(接触)している対向部位には、互いに係合可能となるように、係合部20(
図1(B)参照)、係合部40(
図4(B)参照)を設けている。なお、以下の説明において、特定の部位を除く谷部及び山部の説明では、「谷部T」及び「山部Y」若しくは「谷山TY」と略称する。
【0046】
以下、
図3に基づいて、本実施形態の係合部20の詳細構成について説明する。
【0047】
図3に示すように、係合部20は、互いに対向する前段の谷部Tから谷側に向けて軸線方向に沿って突出しているとともに、山側の面に係合凹面部21aを有する被係合突起部21と、互いに対向する次段の山部Yから被係合突起部21と同方向に向けて突出しているとともに、係合凹面部21aと係合可能な係合凸面部22aを有する係合突起部22と、を有する。
【0048】
被係合突起部21と係合突起部22とは、径方向に沿う稜線を有するように線材Sの全幅に跨って形成されている。
【0049】
ここで、コイルドウェーブスプリング10は、例えば、変速機のクラッチユニット等に実装する際に、圧縮状態とすることで所望の付勢力を与えるものである。したがって、その成形時には、例えば、
図3(B)に示すように、谷部Tと山部Yとは、互いの頂点が非接触な状態であってもよい。
【0050】
ただし、コイルドウェーブスプリング10を実装した際には、係合部20が適正に係合状態となっているのが望ましいため、係合突起部22の突出端は、係合凹面部21aに対して深さDだけ入り込んでいるのが望ましい。
【0051】
このような基本構成において、本実施の形態に係るコイルドウェーブスプリング10は、線材Sのずれを抑制し、よって所期のバネ機能を十分に発揮させるため、螺旋状に巻かれた線材Sからなる複数段の巻部11~14に軸線方向に沿う振幅で複数の谷部Tと複数の山部Yとを交互に設けたコイルドウェーブスプリング10であって、複数の谷部Tと複数の山部Yとは、前段の各谷部Tと次段の各山部Yとが互いに接触可能に対向しているとともに、当該対向部位における谷部T及び山部Yに軸線方向の一方側に向けて突出して互いに係合可能な係合部20を備える、ものである。
【0052】
次に、本実施の形態に係るコイルドウェーブスプリング10の作用を説明する。上記の構成において、コイルドウェーブスプリング10は、軸線Qに沿う方向、特に、圧縮する方向の荷重を受けると、その荷重に応じて付勢に抗して圧縮される。
【0053】
この際、各谷部T及び各山部Yは、その頂点の接触部分が互いに逆方向に突出する円弧状であるため、特に周方向にずれようとする作用が働きやすい。
【0054】
しかしながら、互いに接触可能な対向部位における各谷部T及び各山部Yには、軸線方向の一方側に向けて突出して互いに係合可能な係合部20を設けている。
【0055】
この係合部20は、大小で異なる同形状の、係合凹面部21aを有する被係合突起部21と、係合凹面部21aと係合可能な係合凸面部22aを有する係合突起部22と、を備えている。
【0056】
したがって、これら被係合突起部21と係合突起部22とが係合状態にあることによって、線材Sの周方向へのずれを抑制することができる。
【0057】
このように、本実施の形態に係るコイルドウェーブスプリング10は、螺旋状に巻かれた線材Sからなる複数段の巻部11~14に軸線方向に沿う振幅で複数の谷部Tと複数の山部Yとを交互に設けたコイルドウェーブスプリング10であって、複数の谷部Tと複数の山部Yとは、前段の各谷部Tと次段の各山部Yとが互いに接触可能に対向しているとともに、当該対向部位における谷部T及び山部Yに軸線方向の一方側に向けて突出して互いに係合可能な係合部20を備えることにより、線材Sのずれを抑制し、よって所期のバネ機能を十分に発揮させることができる。
【0058】
また、本実施の形態に係る係合部20は、互いに対向する前段の谷部T(又は次段の山部Y)から山側(又は谷側)に向けて突出しているとともに、谷側(又は山側)の面に係合凹面部21aを有する被係合突起部21と、互いに対向する次段の山部Y(又は前段の谷部T)から被係合突起部21と同方向に向けて突出しているとともに、係合凹面部21aと係合可能な係合凸面部22aを有する係合突起部22と、を有することにより、大小で同形状とすることができるとともに、例えば、各谷山TYの接触部位を同時にパンチ加工するなどの簡素な加工工程によって両者間で確実に係合状態を確保することができる。
【0059】
また、本実施の形態に係るコイルドウェーブスプリング10は、被係合突起部21と係合突起部22とを径方向に沿う稜線を有するように線材Sの全幅に跨って形成することにより、周方向に対する線材Sのずれを効率よく抑制することができる。
【0060】
この際、係合部20は、周方向の複数個所に形成されるとともに、稜線が径方向に沿っている。したがって、各係合部20の全体の相乗効果、すなわち、径方向への荷重に対して、例えば、荷重入力方向と交差する方向に延びる稜線を有する係合部20の存在によって、線材Sの径方向のずれを抑制することが可能となる。
【0061】
[第二実施形態]
次に、
図4及び
図5に基づいて、第二実施形態に係るコイルドウェーブスプリングの詳細について説明する。第二実施形態は、第一実施形態において、コイルドウェーブスプリング30に、山型状の被係合突起部41と係合突起部42とからなる係合部40としたものである。
【0062】
係合部40は、互いに対向する前段の谷部Tから谷側に向けて突出しているとともに、山側の面に係合凹面部41aを有する被係合突起部41と、互いに対向する次段の山部Yから被係合突起部41と同方向に向けて突出しているとともに、係合凹面部41aと係合可能な係合凸面部42aを有する係合突起部42と、を有する。
【0063】
このような構成においても、上記実施の形態と同様に、周方向及び径方向のずれを抑制することができる。
【0064】
(コイルドウェーブスプリングの応用例)
図6は、上記実施の形態に係るコイルドウェーブスプリング50を位相値αだけ短くした波長λ-αとすることで接触部分の位相をずらした例を示す。なお、
図6において、上記実施の形態と実質的に同一の構成には、同一の符号を付して、その説明を省略する。
【0065】
すなわち、上記実施の形態では、コイルドウェーブスプリング10,30の各頂点が軸線Qに沿って接触している場合で説明したが、
図6に示すように、角度θで接触部分の位相をずらしたコイルドウェーブスプリング50に対して適用することも可能である。
【0066】
すなわち、
図6に示したコイルドウェーブスプリング50は、
図1に示したコイルドウェーブスプリング10及び
図4に示したコイルドウェーブスプリング30と同じ内径及び同じ段数で形成しているが、
図6(A)に示すように、上記実施の形態で示した波長λよりも短い波長λ-αで螺旋状とすることによって、
図6(B)に示すように、頂点位置を位相値αだけずらすことによって接触部分(頂点)の位相をずらしたものである。
【0067】
このような場合、
図6(C)に示すように、例えば、前段の谷部Tの頂点位置と次段の山部Yの頂点位置とが位相値αだけずれているため、その中間位置Pを接触部分とし、係合部40(係合部20)の頂点(稜線)を中間位置Pと一致する位置に形成することによって、上記と同様の作用・効果を得ることができる。
【0068】
[その他の応用例・変形例]
その他、本発明は、その趣旨を逸脱しない範囲内において、種々の変更が加えられて実施されるものである。
【0069】
例えば、上記実施の形態では、係合部20,40を谷部Tから軸線Qに沿って山側とは反対の谷側に向けて突出する構成としたが、逆でもよい。
【0070】
すなわち、係合部を、互いに対向する次段の山部から谷側とは反対の山側に向けて突出させて谷側に係合凹面部を有する被係合突起部と、前段の谷部から被係合突起と同方向に向けて突出しているとともに、係合凹面部と係合可能な係合凸面部を有する係合突起部と、を有するように構成してもよい。
【0071】
なお、以上の説明において、外観上の寸法や大きさが「同一」「等しい」「異なる」「一致」「沿う」等の記載がある場合に、これらの各記載は厳密な意味ではない。すなわち、「同一」「等しい」「異なる」とは、設計上や製造上等における公差や誤差が許容され、「実質的に同一」「実質的に等しい」「実質的に異なる」「実質的に一致」「実質的に沿う」という意味である。なお、ここでの公差や誤差とは、本発明の構成・作用・効果を逸脱しない範囲における単位のことを意味するものである。
【符号の説明】
【0072】
10 コイルドウェーブスプリング
11 第1巻部(巻部)
12 第2巻部(巻部)
13 第3巻部(巻部)
14 第4巻部(巻部)
20 係合部
21 被係合突起部
21a 係合凹面部
22 係合突起部
22a 係合凸面部
S 線材
Q 軸線
T 谷部
Y 山部