IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 住友ゴム工業株式会社の特許一覧

<>
  • 特許-タイヤ用モールド 図1
  • 特許-タイヤ用モールド 図2
  • 特許-タイヤ用モールド 図3
  • 特許-タイヤ用モールド 図4
  • 特許-タイヤ用モールド 図5
  • 特許-タイヤ用モールド 図6
  • 特許-タイヤ用モールド 図7
  • 特許-タイヤ用モールド 図8
  • 特許-タイヤ用モールド 図9
  • 特許-タイヤ用モールド 図10
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】タイヤ用モールド
(51)【国際特許分類】
   B29C 33/02 20060101AFI20220203BHJP
   B29C 35/02 20060101ALI20220203BHJP
   B29L 30/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B29C33/02
B29C35/02
B29L30:00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017131081
(22)【出願日】2017-07-04
(65)【公開番号】P2019014071
(43)【公開日】2019-01-31
【審査請求日】2020-05-26
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000556
【氏名又は名称】特許業務法人 有古特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100107940
【弁理士】
【氏名又は名称】岡 憲吾
(74)【代理人】
【識別番号】100122806
【弁理士】
【氏名又は名称】室橋 克義
(74)【代理人】
【識別番号】100168192
【氏名又は名称】笠川 寛
(74)【代理人】
【識別番号】100182523
【弁理士】
【氏名又は名称】今村 由賀里
(74)【代理人】
【識別番号】100195590
【弁理士】
【氏名又は名称】中尾 博臣
(72)【発明者】
【氏名】勘座 良章
【審査官】田中 則充
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-116020(JP,A)
【文献】特開2003-311742(JP,A)
【文献】特開2003-251632(JP,A)
【文献】特開平04-223108(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 33/02
B29C 35/02
B29L 30/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のピースを備えており、
上記ピースを並べることでタイヤのトレッド面を形成するためのキャビティ面が形成されており、
互いに隣接する上記ピースの間に、スリットが設けられており、
上記キャビティ面が、互いに隣接する上記ピースの境界に沿って延びる排気溝を備えており、
上記排気溝の内面に、上記スリットの開口が位置しており、
上記キャビティ面が、複数の上記排気溝と接触又は交差して延びいずれのスリットにも沿って延びていない副排気溝を備えており、
上記排気溝の幅が0.05mm以上0.5mm以下であり、
上記排気溝の深さが0.05mm以上0.25mm以下であり、
上記スリットの幅が0.02mm以上0.04mm以下であるタイヤ用モールド。
【請求項2】
上記排気溝の断面の輪郭が、矩形状又は円弧状である請求項1に記載のタイヤ用モールド。
【請求項3】
隣接する上記ピースの境界が、湾曲している請求項1又は2に記載のタイヤ用モールド。
【請求項4】
上記副排気溝が環状を呈している請求項1からのいずれかに記載のタイヤ用モールド。
【請求項5】
上記副排気溝の幅が0.05mm以上0.50mm以下である、請求項1からのいずれかに記載のタイヤ用モールド。
【請求項6】
上記副排気溝の深さが0.05mm以上0.25mm以下である、請求項1からのいずれかに記載のタイヤ用モールド。
【請求項7】
ローカバーが得られる工程、
及び
複数のピースを備え、タイヤのトレッド面を形成するためのキャビティ面がこれらのピースを並べることで形成され、互いに隣接する上記ピースの間にスリットが設けられ、上記キャビティ面が互いに隣接する上記ピースに沿って延びる排気溝を備え、上記排気溝の内面に上記スリットの開口が位置しており、上記キャビティ面が複数の上記排気溝と接触又は交差して延びいずれのスリットにも沿って延びていない副排気溝を備えており、上記排気溝の幅が0.05mm以上0.5mm以下であり、上記排気溝の深さが0.05mm以上0.25mm以下であり、上記スリットの幅が0.02mm以上0.04mm以下であるモールドにおいて、上記ローカバーが加硫される工程
を備えるタイヤの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、タイヤを製造するためのモールドに関する。
【背景技術】
【0002】
タイヤの加硫工程では、ローカバーが、モールドとブラダー又は剛体コアとに囲まれたキャビティにおいて、加圧されつつ加熱される。加圧と加熱とにより、ローカバーのゴム組成物がキャビティ内を流動する。このとき、モールドのキャビティ面とローカバーとの間にエアーが残留すると、タイヤの表面にベアが形成される。このエアーの残留が防止されたモールドが求められている。
【0003】
エアーの残留を防止するために、複数のピースを備えたモールドがある。加硫工程において、このピースの内面が、ローカバーのトレッド面と当接する。このモールドでは、ピースを並べることで、トレッド面を形成するためのキャビティ面が形成されている。互いに隣接するピース間には、隙間(ここでは、スリットと称される)が設けられている。ローカバーとキャビティ面との間のエアーは、このスリットまで移動し、このスリットから排出される。複数のピースを備えたモールドについての検討が、特開2011-116020公報で開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-116020公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
モールドがタイヤの製造に使用されるうちに、スリットの幅が変動することが起こりうる。スリット幅が小さくなると、エアーの排出が妨げられるおそれがある。モールドには、この排気性能の低下よるベアの発生を抑制することが求められる。また、スリット幅が大きくなると、スリットにゴム組成物が入り込み易くなる。モールドには、スリットにゴム組成物が入り込むことによるバリの発生を抑制することが求められる。
【0006】
本発明の目的は、ベアーの発生及びバリの発生が抑えられたタイヤ用のモールドの提供にある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るモールドは、複数のピースを備えている。上記ピースを並べることでタイヤのトレッド面を形成するためのキャビティ面が形成されている。互いに隣接する上記ピースの間に、スリットが設けられている。上記キャビティ面は、互いに隣接する上記ピースの境界に沿って延びる排気溝を備えている。上記排気溝の内面に、上記スリットの開口が位置している。
【0008】
好ましくは、上記排気溝の幅は、0.05mm以上0.5mm以下である。
【0009】
好ましくは、上記排気溝の断面の輪郭は、矩形状又は円弧状である。
【0010】
好ましくは、上記キャビティ面は、複数の上記排気溝と接触又は交差して延びる副排気溝をさらに備えている。
【0011】
好ましくは、隣接する上記ピースの境界は、湾曲している。
【0012】
本発明に係るタイヤを製造する方法は、
ローカバーが得られる工程、
及び
複数のピースを備え、タイヤのトレッド面を形成するためのキャビティ面がこれらのピースを並べることで形成され、互いに隣接する上記ピースの間にスリットが設けられ、上記キャビティ面が互いに隣接する上記ピースに沿って延びる排気溝を備え、上記排気溝の内面に上記スリットの開口が位置しているモールドにおいて、上記ローカバーが加硫される工程
を備える。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係るタイヤ用モールドでは、スリットの開口は排気溝の内面に位置している。スリット幅が小さくなっても、排気溝を通してエアーが排出される。このモールドでは、排気性能の低下が抑えられている。このモールドではベアの発生が抑えられている。この排気溝は、ゴム組成物がスリットに入り込む圧力を緩和する。このモールドでは、スリット幅が大きくなっても、ゴム組成物がスリットに入り込むことが抑えられている。このモールドでは、バリの発生が抑えられている。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1図1は、本発明の一実施形態に係るタイヤ用モールドの一部が示された平面図である。
図2図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。
図3図3は、図1のモールドのセグメントが示された断面図である。
図4図4は、図3のセグメントを半径方向内側から見た図である。
図5図5は、図4のセグメントのキャビティ面の一部が拡大された図である。
図6図6は、図5のVI-VI線に沿った断面図である。
図7図7は、本発明の他の実施形態に係るタイヤ用モールドの、ピースの境界近辺が拡大された断面図である。
図8図8は、本発明のさらに他の実施形態に係るタイヤ用モールドの、セグメントを半径方向内側から見た図である。
図9図9は、図8のセグメントのキャビティ面の一部が拡大された図である。
図10図10は、図9のX-X線に沿った断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、適宜図面が参照されつつ、好ましい実施形態に基づいて本発明が詳細に説明される。
【0016】
図1にタイヤ用モールド2が示されている。図1において、紙面に対して垂直な方向が軸方向であり、両矢印Aで示された方向が周方向である。図2は、図1のII-II線に沿った断面図である。図2において、矢印Xで示された方向が半径方向であり、矢印Yで示された方向が軸方向であり、紙面と垂直な方向が周方向である。図2には、ローカバーR(未加硫タイヤ)も示されている。
【0017】
このモールド2は、多数のセグメント4と、一対のサイドプレート6と、一対のビードリング8とを備えている。セグメント4の平面形状は、実質的に円弧状である。多数のセグメント4が、リング状に配置されている。セグメント4の数は、通常3以上20以下である。サイドプレート6及びビードリング8は、実質的にリング状である。
【0018】
図3は、図1のモールド2のセグメント4が示された断面図である。図3において、矢印Xで示された方向が半径方向であり、矢印Yで示された方向が軸方向であり、紙面と垂直な方向が周方向である。図3で示されるように、セグメント4は、ホルダ10及びピース12を備えている。ピース12は、ホルダ10に装着されている。ピース12は、ホルダ10の半径方向内側に、嵌め込まれている。典型的には、ホルダ10は鋼又はアルミニウム合金からなる。典型的には、ピース12は鋼又はアルミニウム合金からなる。
【0019】
図4は、セグメント4を半径方向内側から見た図である。この図には、セグメント4のピース12のみが示されている。図4において、両矢印Aで示された方向が周方向であり、矢印Yで示された方向が軸方向であり、紙面と垂直な方向が半径方向である。前述の図3のピース12の断面は、図4のIII-III線に沿った断面である。
【0020】
図4で示されるように、セグメント4は、複数のピース12を備えている。この実施形態では、それぞれのピース12は、概ね軸方向に延びている。これらのピース12は、周方向に並列されている。図4で示されるように、互いに隣接するピース12の境界は、湾曲している。すなわち、それぞれのピース12の周方向の両側の面は、湾曲している。互いに隣接するピース12の対向する面において、この湾曲の形状は同じである。
【0021】
加硫工程において、それぞれのピース12の内面14は、ローカバーRのトレッド面と当接する。ピース12の内面14は、キャビティ面16の一部をなす。このモールド2では、ピース12を並べることで、トレッド面を形成するためのキャビティ面16が形成されている。ピース12の内面14には、複数の突条18が設けられている。すなわち、キャビティ面16には複数の突条18が設けられている。これらの突条18により、トレッド面に溝が刻まれる。これらの突条18により、トレッドパターンが形成される。
【0022】
図5は、図4の点線で囲まれた領域Mが拡大された図である。図6は、図5のVI-VI線に沿った断面図である。これは、ピース12の境界が延びる方向に対して垂直に切った図である。図6において、紙面の上側の面がキャビティ面16である。図5及び図6で示されるように、互いに隣接するピース12の間には隙間(スリット20と称される)が設けられている。このスリット20は、実質的に等幅で延びている。
【0023】
図4-6で示されるように、キャビティ面16には、排気溝22が設けられている。図4で示されるように、排気溝22は、互いに隣接するピース12の境界に沿って延びている。排気溝22は、ピース12の一方の端から他方の端まで延びている。図6で示されるように、この排気溝22の断面の輪郭は、円弧状である。
【0024】
図で示されるように、スリット20の開口24は、排気溝22の内面に位置している。すなわち、図5で示されるように、半径方向内側からキャビティ面16を見たとき、排気溝22とスリット20の開口24とは重なっている。排気溝22とスリット20の開口24とは重なって延びている。排気溝22の幅は、その内側に開口を有するスリット20の幅よりも大きい。
【0025】
互いに隣接するセグメント4の境界(図1参照)は、割位置26と称される。図示されないが、互いに隣接するセグメント4の間にも、隙間が設けられている。すなわち、互いに隣接する一方のセグメント4のこの割位置26側の端に位置するピース12と、他方のセグメント4のこの割位置26側の端に位置するピース12との間には、スリット20が設けられている。キャビティ面16は、これらのピース12の境界(割位置26)に沿って延びる排気溝22を備えている。これらのピース12の間のスリット20の開口24は、この排気溝22の底面に露出している。
【0026】
図4の実施形態では、一つのセグメント4において、概ね軸方向に延びるピース12が、周方向に1列に並べられている。図示されないが、一つのセグメントにおいて、周方向に並べられたピースの列が、軸方向に2段以上並べられていてもよい。ピースの列が軸方向に2段以上並べられたとき、軸方向に隣接するピースの間には、スリットが設けられる。キャビティ面にはこれらのピースの境界に沿って延びる排気溝が設けられる。このスリットの開口は、この排気溝の内面に位置している。
【0027】
図示されないが、一つのセグメントにおいて、周方向に延びるピースが、軸方向に1列に並べられていてもよい。このとき、軸方向に隣接するピースの間には、スリットが設けられる。キャビティ面にはこれらのピースの境界に沿って延びる排気溝が設けられる。このスリットの開口は、この排気溝の内面に位置している。さらに、一つのセグメントにおいて、軸方向に並べられたピースの列が、周方向に2段以上並べられていてもよい。このとき、周方向に隣接するピースの間には、スリットが設けられる。キャビティ面にはこれらのピースの境界に沿って延びる排気溝が設けられる。このスリットの開口は、この排気溝の内面に位置している。
【0028】
このモールド2が用いられたタイヤの製造方法は、ローカバーが得られる工程及びローカバーが加硫される工程を含む。ローカバーが得られる工程では、フォーマーのドラムの外面に、カーカス、ベルト、トレッド等のタイヤの構成要素が積層される。これにより、ローカバーRが得られる。ローカバーが加硫される工程では、このローカバーRが、このモールド2に投入される。ローカバーRはブラダーによってモールド2のキャビティ面16に押しつけられ、加圧される。同時にローカバーRは、加熱される。加圧と加熱とによりゴム組成物が流動する。加熱によりゴムが架橋反応を起こす。すなわち、このモールド2において、ローカバーRが加硫され、タイヤが得られる。ブラダーに代えて、剛体コアが用いられてもよい。
【0029】
以降、本発明の作用効果が説明される。
【0030】
本発明に係るタイヤ用モールド2では、ピース12を並べることでトレッド面を形成するためのキャビティ面16が形成されている。互いに隣接するピース12の間には、スリット20が設けられている。加硫工程において、ローカバーRとキャビティ面16との間のエアーは、スリット20まで移動し、このスリット20から排出される。
【0031】
モールドが使用されるうちに、スリットの幅が小さくなる場所が発生し、これにより排気性能が低下することがある。これは、タイヤのベアの要因となりうる。このモールド2では、キャビティ面16は、互いに隣接するピース12の境界に沿って延びる排気溝22を備えている。スリット20の開口24は、この排気溝22の内面に位置している。このモールド2では、スリット20の幅が小さくなる場所が発生しても、エアーは排気溝22を通って移動しうる。このモールド2では、スリット20幅が小さくなることによる排気性能の低下が防止されている。このモールド2では、ベアの発生が抑えられている。
【0032】
モールドが使用されるうちに、スリットの幅が大きくなる場所が発生することがある。スリットの幅が大きくなると、スリットにゴム組成物が入り込み易くなる。これはタイヤにおけるバリの発生の要因となりうる。このモールド2では、スリット20の開口24は、排気溝22の内面に位置している。この排気溝22は、ゴム組成物がスリット20に入り込む圧力を緩和する。この排気溝22は、スリット20幅が大きくなったときでも、スリット20にゴム組成物が入り込むことを防止する。このタイヤでは、バリの発生が抑えられている。
【0033】
この排気溝22は、ローカバーRがピース12のキャビティ面16側の角の部分(スリット20の開口24部分)に負荷する力を緩和する。このモールド2では、スリット20の幅の変動が小さくされている。このモールド2では、スリット20の幅が小さくなることによる排気性能の低下が抑制されている。このモールド2では、スリット20の幅が大きくなることによるゴム組成物のスリット20への入り込みが抑制されている。
【0034】
従来のモールドでは、一旦スリット幅が変動し、タイヤにベアやバリが発生し出すと、その後このモールドで製造するタイヤにはベアやバリが発生する。このモールドを続けて使用することが困難となる。モールドの交換や調整が必要となる。これは、タイヤの生産性及び製造コストに影響を及ぼす。上記のとおり、本モールド2では、スリット20幅が変動しても、ベア及びバリの発生が抑えられている。このモールド2は、長期間に渡りタイヤの製造に使用することができる。このモールド2は、生産性の向上及び製造コストの低減に寄与する。
【0035】
図6において、両矢印Wgは排気溝22の幅を表す。この幅Wgは、排気溝22の開口部において、この排気溝22の延在方向と垂直な方向に計測される。幅Wgは0.05mm以上が好ましい。幅Wgを0.05mm以上とすることで、スリット20幅が小さくなったときでもエアーはこの排気溝22を通して効果的に移動しうる。この観点から、幅Wgは0.07mm以上がより好ましく、0.09mm以上がさらに好ましい。幅Wgは、0.50mm以下が好ましい。幅Wgを0.50mm以下とすることで、この排気溝22にゴム組成物が入り込むことによりタイヤに形成される突条は目立ち難い。このタイヤでは、優れた外観が実現されている。この観点から、幅Wgは0.45mm以下がより好ましく、0.40mm以下がさらに好ましい。
【0036】
図6において、両矢印Dgは排気溝22の深さを表す。この深さDgは、排気溝22の延在方向と垂直な断面において、排気溝22の開口の両端を結ぶ直線から、スリット20の開口24がないとしたときの、排気溝22の内面までの距離の最大値として定義される。
【0037】
深さDgは0.05mm以上が好ましい。深さDgを0.05mm以上とすることで、スリット20幅が小さくなったときでもエアーはこの排気溝22を通して効果的に移動しうる。この観点から、深さDgは0.10mm以上がより好ましい。深さDgは、0.25mm以下が好ましい。深さDgを0.25mm以下とすることで、この排気溝22にゴム組成物が入り込むことによりタイヤに形成される突条は目立ち難い。このタイヤでは、優れた外観が実現されている。この観点から、深さDgは0.20mm以下がより好ましい。
【0038】
図6に示されるように、排気溝22の断面の輪郭は、半径方向内側が開口した円弧状が好ましい。排気溝22の輪郭の形状をこのようにすることで、エアーがこの排気溝22を通して、効果的に排出される。また、この形状の排気溝22は、形成が容易である。このモールド2の製作は容易である。
【0039】
図6において、両矢印Wsはスリット20の幅を表す。この幅Wsは、スリット20の開口24部において、このスリット20の延在方向と垂直な方向に計測される。幅Wsは0.02mm以上が好ましい。幅Wsを0.02mm以上とすることで、エアーはこのスリット20を通して効果的に移動しうる。幅Wsは、0.04mm以下が好ましい。幅Wsが0.04mm以下のスリット20には、ゴム組成物が入り込み難い。このタイヤでは、スリット20にゴム組成物が入り込むことによるバリの発生が抑制されている。このタイヤでは、優れた外観が実現されている。
【0040】
前述の通り、キャビティ面16は、割位置26に沿って延びる排気溝22を備えるのが好ましい。割位置26に設けられた排気溝22は、エアーの排出に寄与する。さらに割位置26に沿って延びる排気溝22を設けることで、ローカバーRが投入されたモールド2を閉じるときに、ゴム組成物がこの排気溝22に移動できる。これは、モールド2を閉じるときに、セグメント4間にゴム組成物が挟み込まれるのを抑制する。これは、エアーの排出に寄与する。これは、バリの抑制に寄与する。
【0041】
図4に示されるように、ピース12の境界は湾曲している。このようにピース12の境界が湾曲しているモールド2では、ピース12のキャビティ面16側の角の部分(スリット20の開口24部分)に負荷される力が不均一となり、スリット20幅が変動する部分が発生し易い。この発明は、特にピース12の境界が湾曲しているモールド2に対して有効である。
【0042】
図7には、本発明の他の実施形態に係るタイヤ用モールド32の一部が示されている。この図は、このモールド32のピース34の境界近辺が示された断面図である。このモールド32は、排気溝36の断面の輪郭を除き、図1のモールド2と同じである。このモールド32では、排気溝36の断面の輪郭は、半径方向内側が開口した矩形状である。このモールドでは、排気溝36の輪郭の形状をこのようにすることで、エアーがこの排気溝36を通して、効果的に排出される。また、この形状の排気溝36は、形成が容易である。このモールドの製作は容易である。
【0043】
図6の実施形態では、排気溝22の断面の輪郭は円弧状であり、図7の実施形態では、これは半径方向内側が開口した矩形状であった。図示されないが、排気溝の断面の輪郭が、半径方向内側が開口した台形状であってもよい。排気溝の断面の輪郭が、半径方向内側が開口した他の多角形であってもよい。
【0044】
図8には、本発明のさらに他の実施形態に係るタイヤ用モールド42が示されている。これは、このモールド42のセグメント44を半径方向内側から見た図である。図8において、両矢印Aで示された方向が周方向であり、矢印Yで示された方向が軸方向であり、紙面と垂直な方向が半径方向である。このモールド42は、ピース46を除き、図1のモールド2と同じである。このモールド42のセグメント44では、複数のピース46が、周方向に並列されている。互いに隣接するピース46の境界は、湾曲している。
【0045】
図9は、図8の点線で囲まれた領域Mが拡大された図である。図で示されるように、互いに隣接するピース46の間にはスリット48が設けられている。このスリット48は、実質的に等幅で延びている。キャビティ面50には、互いに隣接するピース46の境界に沿って延びる排気溝52が設けられている。スリット48の開口56は、排気溝52の内面に位置している。
【0046】
図10は、図9のX-X線に沿った断面図である。図10において、紙面の上側の面がキャビティ面50である。図8-10で示されるように、このモールド42では、キャビティ面50に、複数の排気溝52と交差又は接触して延びる溝(副排気溝54と称される)がさらに設けられている。副排気溝54は、複数の排気溝52を繋いでいる。図8の実施形態では、副排気溝54は、周方向に直線状に延びている。この副排気溝54は、環状を呈する。副排気溝54は、環状でなくてもよい。副排気溝54が、排気溝52で途切れていてもよい。副排気溝54が、排気溝52と他の排気溝52との間で途切れていてもよい。副排気溝54は、周方向に対して傾いて延びていてもよい。副排気溝54は、直線状に延びていなくてもよい。副排気溝54が、途中で折れ曲がりを有していても良い。
【0047】
このモールド42では、副排気溝54は、それが接触する又は交差する複数の排気溝52を繋ぐ、エアーの移動経路となる。幅が小さくなったスリット48が発生しても、エアーは、そのスリット48の開口が位置している排気溝52内だけでなく、この副排気溝54を通して他の排気溝52にも移動しうる。これは、エアーの排出に効果的に寄与する。このモールド42では、ベアの発生がより効果的に抑えられている。
【0048】
図10において、両矢印Wbは副排気溝54の幅を表す。この幅Wbは、副排気溝54の開口部において、この副排気溝54の延在方向と垂直な方向に計測される。幅Wbは0.05mm以上が好ましい。幅Wbを0.05mm以上とすることで、エアーはこの副排気溝54を通して効果的に移動しうる。この観点から、幅Wbは0.07mm以上がより好ましく、0.09mm以上がさらに好ましい。幅Wbは、0.50mm以下が好ましい。幅Wbを0.50mm以下とすることで、この副排気溝54にゴム組成物が入り込むことによりタイヤに形成される突条は目立ち難い。このタイヤでは、優れた外観が実現されている。この観点から、幅Wbは0.45mm以下がより好ましく、0.40mm以下がさらに好ましい。
【0049】
図10において、両矢印Dbは副排気溝54の深さを表す。この深さDbは、副排気溝54の延在方向と垂直な断面において、副排気溝54の開口の両端を結ぶ直線から、副排気溝54の内面までの距離の最大値として定義される。
【0050】
深さDbは0.05mm以上が好ましい。深さDbを0.05mm以上とすることで、エアーはこの副排気溝54を通して効果的に移動しうる。この観点から、深さDbは0.10mm以上がより好ましい。深さDbは、0.25mm以下が好ましい。深さDbを0.25mm以下とすることで、この副排気溝54にゴム組成物が入り込むことによりタイヤに形成される突条は目立ち難い。このタイヤでは、優れた外観が実現されている。この観点から、深さDbは0.20mm以下がより好ましい。
【実施例
【0051】
以下、実施例によって本発明の効果が明らかにされるが、この実施例の記載に基づいて本発明が限定的に解釈されるべきではない。
【0052】
[実施例]
図8に示されたモールドを製作した。このモールドは、キャビティ面に排気溝及び副排気溝を備えている。この排気溝及び副排気溝の仕様が、表1に示されている。この排気溝及び副排気溝の断面の輪郭は、円弧状である。この副排気溝は、周方向に延びる環状を呈している。このモールドでは、ピースの境界は湾曲している。このモールドのスリットの幅Wsは、0.04mmとされた。
【0053】
[比較例]
キャビティ面が排気溝及び副排気溝を有していないことの他は実施例と同様にして、比較例のモールドを製作した。
【0054】
[連続稼働日数及び生産数]
実施例及び比較例のモールドでタイヤを連続で生産した。タイヤの生産の続行ができない程度のベア及びバリが発生するまでの日数と、それまでに生産したタイヤの本数が計測された。この結果が比較例を100とした指数で表1に示されている。値が大きいほど好ましい。なお、実施例のモールドでは、比較例のモールドでの生産日数の2.8倍の日数に達したところで、評価を終了させた。実際には、実施例のモールドでは、さらにタイヤの生産を継続することが可能である。
【0055】
[ベア発生率及びバリ発生率]
上記の連続稼働日数及び生産数の評価で生産されたタイヤについて、ベアが発生しているタイヤの比率及びバリが発生しているタイヤの比率が測定された。それぞれの結果が、比較例を100とした指数で表1に示されている。値が小さいほど好ましい。
【0056】
【表1】
【0057】
表1に示されるように、実施例のモールドでは、比較例のモールドに比べて評価が高い。この評価結果から、本発明の優位性は明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0058】
以上説明されたモールドは、種々のタイヤの製造に適用されうる。
【符号の説明】
【0059】
2、32、42・・・モールド
4、44・・・セグメント
6・・・サイドプレート
8・・・ビードリング
10・・・ホルダ
12、34、46・・・ピース
14・・・ピースの内面
16、50・・・キャビティ面
18・・・突条
20、48・・・スリット
22、36、52・・・排気溝
24、56・・・スリットの開口
26・・・割位置
54・・・副排気溝
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10