(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】車両用開閉体の制御装置
(51)【国際特許分類】
E05F 15/655 20150101AFI20220117BHJP
B60J 5/06 20060101ALI20220117BHJP
B60J 5/04 20060101ALI20220117BHJP
H02P 3/08 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
E05F15/655
B60J5/06 A
B60J5/04 C
H02P3/08 C
(21)【出願番号】P 2017134800
(22)【出願日】2017-07-10
【審査請求日】2020-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】別所 伸康
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 浩司
(72)【発明者】
【氏名】山本 紘史
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-183391(JP,A)
【文献】特開2016-094807(JP,A)
【文献】米国特許第05770934(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/00-15/79
B60J 5/04
H02P 3/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の開口部の開口度を調整する車両用開閉体の変位速度と正の相関を有するパラメータである速度パラメータの目標値を設定する目標値設定処理と、
前記目標値に基づき前記車両用開閉体を変位させる動力を生成するモータの駆動回路を操作する操作処理と、を実行し、
前記目標値設定処理は、
前記車両用開閉体が変位することによって前記車両用開閉体の位置と停止位置との距離が所定値よりも大きい状態から前記所定値以下の状態となることを条件に、前記目標値を規定値まで漸減させる漸減処理と、
前記車両用開閉体の変位開始位置と前記停止位置との距離が閾値以下である場合、前記速度パラメータの目標値を前記規定値以下に制限する制限処理と、を含
み、
前記目標値設定処理は、前記変位開始位置と前記停止位置との距離が前記閾値よりも大きいことを条件に前記目標値を基準値まで漸増させる漸増処理を含み、
前記閾値は、前記漸増処理によって前記目標値が前記基準値に到達するまでに前記車両用開閉体が変位する量と前記所定値との和以上に設定されている車両用開閉体の制御装置。
【請求項2】
前記漸増処理は、前記変位開始位置と前記停止位置との距離が前記閾値以下である場合と前記閾値よりも大きい場合とで前記基準値まで漸増させる漸増速度を同一の値に設定するものであ
る請求項1記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項3】
前記制限処理は、前記漸増処理によって前記目標値が漸増する上限値を前記規定値とし、該規定値となることにより前記目標値を前記規定値に固定する処理である請求項
1または2記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項4】
前記車両用開閉体の変位速度の低下量が所定量以上となることを条件に前記車両用開閉体の変位方向を反転させる反転処理を実行し、
前記停止位置は、前記車両用開閉体の全閉位置である請求項
1~3
のいずれか1項に記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項5】
前記速度パラメータは、前記モータに印加する電圧であり、
前記漸減処理は、前記車両用開閉体の位置の検出値に基づき前記車両用開閉体が前記停止位置に近づくにつれて前記目標値を漸減させる処理である請求項1~4のいずれか1項に記載の車両用開閉体の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用開閉体を変位させる動力を生成するモータの駆動回路を操作する車両用開閉体の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1には、車両のスライドドア(車両用開閉体)を制御対象とし、スライドドアを変位させるモータを操作する制御装置が記載されている(段落「0072」)。この制御装置は、モータの目標回転速度(目標回転数)の上限値である上限回転数を、スライドドアの位置と停止位置との距離が所定値内である場合には最終定常回転数とし、所定値よりも長い場合には距離が長いほど高回転に設定し、スライドドアの変位開始から上限回転数まで目標回転数を漸増させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記制御装置の場合、スライドドアの変位開始後、目標回転数が上限回転数となると、目標回転数が上昇から低下に切り替わる。このため、変位開始位置によっては、短期間にモータの回転速度が上昇から低下に切り替わり、モータの回転周波数が短期間に上昇から低下に切り替わることによるモータの騒音の変化によって、ユーザに違和感を与えることが懸念される。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.車両用開閉体の制御装置は、車両の開口部の開口度を調整する車両用開閉体の変位速度と正の相関を有するパラメータである速度パラメータの目標値を設定する目標値設定処理と、前記目標値に基づき前記車両用開閉体を変位させる動力を生成するモータの駆動回路を操作する操作処理と、を実行し、前記目標値設定処理は、前記車両用開閉体が変位することによって前記車両用開閉体の位置と停止位置との距離が所定値よりも大きい状態から前記所定値以下の状態となることを条件に、前記目標値を規定値まで漸減させる漸減処理と、前記車両用開閉体の変位開始位置と前記停止位置との距離が閾値以下である場合、前記速度パラメータの目標値を前記規定値以下に制限する制限処理と、を含み、前記目標値設定処理は、前記変位開始位置と前記停止位置との距離が前記閾値よりも大きいことを条件に前記目標値を基準値まで漸増させる漸増処理を含み、前記閾値は、前記漸増処理によって前記目標値が前記基準値に到達するまでに前記車両用開閉体が変位する量と前記所定値との和以上に設定されている。
【0006】
上記構成では、車両用開閉体の変位開始位置が停止位置に近い場合、制限処理が実行されることにより、速度パラメータの目標値が規定値以下に制限される。このため、目標値が短期間に漸増から漸減に切り替わることを抑制できることから、車両用開閉体の変位開始位置が停止位置に近いにもかかわらず目標値を規定値よりも上昇させる場合と比較すると、モータの回転周波数が短期間に上昇から低下に切り替わることを抑制することができる。
【0007】
2.上記車両用開閉体の制御装置において、前記漸増処理は、前記変位開始位置と前記停止位置との距離が前記閾値以下である場合と前記閾値よりも大きい場合とで前記基準値まで漸増させる漸増速度を同一の値に設定するものである。
【0008】
上記閾値の設定によれば、漸増処理によって目標値が漸増して基準値に達する前に目標値が漸減し始める事態が十分に抑制される。このため、目標値が短期間に上昇から低下に切り替わることが抑制され、ひいてはモータの回転周波数が短期間に上昇から低下に切り替わることが抑制される。
【0009】
3.上記車両用開閉体の制御装置において、前記制限処理は、前記漸増処理によって前記目標値が漸増する上限値を前記規定値とし、該規定値となることにより前記目標値を前記規定値に固定する処理である。
【0010】
上記構成では、目標値が規定値となることにより目標値を規定値に固定することにより、モータの回転周波数の変化を十分に抑制することができる。
4.上記車両用開閉体の制御装置において、前記車両用開閉体の変位速度の低下量が所定量以上となることを条件に前記車両用開閉体の変位方向を反転させる反転処理を実行し、前記停止位置は、前記車両用開閉体の全閉位置である。
【0011】
上記構成によれば、車両用開閉体の変位に伴って開口部の開口度が減少する際、異物が挟み込まれる場合に、反転処理により車両用開閉体の変位方向を反転させることによって、挟み込みを解消することが可能となる。しかし、車両用開閉体を変位させる制御によってモータの回転速度が上昇から低下に急激に変化する場合には、異物が挟み込まれていない場合に誤って反転処理が実行される懸念がある。これに対し、上記構成によれば、仮に制限処理を実行しないとすると漸増処理の終了時点が漸減処理を実行する領域に入る場合には、実際には制限処理がなされることから、モータの回転速度が上昇から低下に急激に変化することを抑制できるため、反転処理が誤って実行される事態が生じることを抑制できる。
【0012】
5.上記1~4のいずれか1つに記載の車両用開閉体の制御装置において、前記速度パラメータは、前記モータに印加する電圧であり、前記漸減処理は、前記車両用開閉体の位置の検出値に基づき前記車両用開閉体が前記停止位置に近づくにつれて前記目標値を漸減させる処理である。
【0013】
モータに印加する電圧は、モータの変位速度と正の相関を有するものの、変位速度を一義的に定めるものではない。このため、たとえば漸減処理を時間の経過に伴って目標値を漸減させる処理とする場合には、目標値が規定値に到達する位置にばらつきが生じる。これに対し、上記構成では、位置の検出値に基づき目標値を漸減させるため、目標値が規定値に到達する位置のばらつきを十分抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】一実施形態にかかる制御装置およびその制御対象を示す図。
【
図2】同実施形態にかかる可動パネルを変位させる処理の手順を示す流れ図。
【
図3】同実施形態にかかる目標電圧の設定を示す図。
【
図4】同実施形態にかかる目標値設定処理の手順を示す流れ図。
【
図5】(a)および(b)は、可動パネルを途中の位置から全閉位置に変位させる処理を例示するタイムチャート。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、車両用開閉体の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1の右側には、上方から見下ろした車両10の一部が記載されている。車両10の屋根部分には、一点鎖線にて示す開口部12が形成されており、開口部12の開口度は、破線にて示す可動パネル14が開口部12の一部または全部を塞ぐことによって調整可能となっている。開口部12のうち車両の左方向YLおよび右方向YRには、ガイドレール20およびガイドレール20上を移動可能に設けられた移動体22を備えた開閉駆動機構24が設けられている。可動パネル14は、移動体22がガイドレール20上を変位することによって、変位し、開口部12の開口度を調整する。
【0016】
開閉駆動機構24は、アクチュエータ30によって駆動される。アクチュエータ30は、モータ32とモータ32によって駆動されるベルト34とを備えている。ベルト34は、移動体22に連結されており、モータ32の回転動力によってベルト34が駆動されると、移動体22がガイドレール20上を、その一方(車両10の前方XF)から他方(車両10の後方XR)へ、または他方から一方へ変位する。これにより、モータ32によって、可動パネル14を変位させ、開口部12の開口度を調整することができる。
【0017】
本実施形態では、モータ32として直流モータを例示しており、モータ32には、2組のハーフブリッジ回路を備えたHブリッジ回路50が接続されている。すなわち、モータ32の2つの端子のうちの一方には、第1のハーフブリッジ回路を構成するハイサイドスイッチSH1およびローサイドスイッチSL1の接続点が接続され、他方には、第2のハーフブリッジ回路を構成するハイサイドスイッチSH2およびローサイドスイッチSL2の接続点が接続されている。なお、Hブリッジ回路50のうちハイサイドスイッチSH1,SH2側には、バッテリ52の正極端子が接続され、ローサイドスイッチSL1,SL2側は接地されている。
【0018】
制御装置60は、可動パネル14を制御対象とし、Hブリッジ回路50を操作する。制御装置60は、ユーザが開口部12の開口度の調整を指示するために操作する操作スイッチ54の出力信号に基づき、可動パネル14による開口度を制御する。制御装置60は、可動パネル14による開口度の制御のために、回転角度センサ56によって検出されるモータ32の回転角度θやバッテリ52の端子電圧Vbを取得する。なお、本実施形態では、回転角度センサ56として、モータ32が所定量回転する毎にパルス信号を出力するものを想定しており、回転角度θは、パルス信号に基づき把握される。
【0019】
制御装置60は、CPU62、ROM64およびRAM66を備えており、ROM64に記憶されたプログラムをCPU62が実行することにより、上記制御を実行する。
図2に、開口度の制御に関する処理の手順を示す。
図2に示す処理は、可動パネル14を変位させる要求が生じている場合にROM64に記憶されたプログラムをCPU62が上記パルス信号の所定のエッジが出現する周期で実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」を付与した数字によって、ステップ番号を表現する。
【0020】
図2に示す一連の処理において、CPU62は、まず
図2に示す一連の処理の前回の起動タイミングと今回の起動タイミングとの時間差に基づきモータ32の回転速度ω(n)を算出する(S10)。なお、変数nは、サンプリングの順序を指定するものであり、「n」は、
図2に示す一連の処理の今回の制御周期における値に付与され、「n-1」は、前回の制御周期における値に付与される。次に、CPU62は、前回の回転速度ω(n-1)に対する今回の回転速度ω(n)の低下量が所定量Δωth以上であることと、前前回の回転速度ω(n-2)に対する前回の回転速度ω(n-1)の低下量が所定量Δωth以上であることとの論理積が真であるか否かを判定する(S12)。この処理は、可動パネル14の変位に伴って異物の挟み込みが生じたか否かを判定する処理である。
【0021】
CPU62は、上記論理積が偽であると判定する場合(S12:NO)、モータ32に印加する電圧の目標値V*を取得する(S14)。次に、CPU62は、バッテリ52の端子電圧Vbに基づき、モータ32に印加する電圧が目標値V*となるように、ローサイドスイッチSL1またはローサイドスイッチSL2をオン・オフ操作させるpwm周期に対するオン時間の時比率Dを算出する(S16)。これは、本実施形態において、以下の処理がなされることを前提として実行されるものである。すなわち、CPU62は、ハイサイドスイッチSH1とローサイドスイッチSL2とをオン操作するか、ハイサイドスイッチSH2とローサイドスイッチSL1とをオン操作するかを選択することにより、モータ32の回転方向を制御する。さらにCPU62は、ローサイドスイッチSL1またはローサイドスイッチSL2を、時比率Dでオン・オフ操作することによって、pwm周期の間にモータ32に印加される電圧の平均値を目標値V*に制御する。
【0022】
そしてCPU62は、ハイサイドスイッチSH1またはハイサイドスイッチSH2をオン状態に維持しつつローサイドスイッチSL2またはローサイドスイッチSL1を時比率Dに応じてオン・オフ操作すべく、Hブリッジ回路50に操作信号MSを出力する(S18)。そしてCPU62は、変数nを更新する(S20)。これにより、今回のS10の処理によって算出された回転速度ω(n)が「ω(n-1)」とされ、前回のS10の処理によって算出された回転速度ω(n-1)が「ω(n-2)」とされる。
【0023】
一方、CPU62は、上記論理積が真であると判定する場合(S12:YES)、挟み込みを検出したとして、モータ32の回転方向を反転させる処理を実行する(S22)。具体的には、CPU62は、モータ32にそれまで印加されていた電圧とは逆極性の電圧を印加する。
【0024】
なお、CPU62は、S20,S22の処理が完了する場合には、
図2に示す一連の処理を一旦終了する。ちなみに、可動パネル14が停止する場合(S22の処理がなされる場合も含む)、変数nは初期化される。
【0025】
次に、目標値V*の設定処理について説明する。
図3に、開口部12の開口度が最小であるときの可動パネル14の位置である全閉位置と開口度が最大であるときの可動パネル14の位置である全開位置とのいずれか一方から他方へと変位する際の目標値V*の設定を示す。なお、
図3においては、全開位置が可動パネル14の変位開始位置であって、全閉位置が可動パネル14の停止位置である場合を例示しているが、全閉位置が変位開始位置である場合、
図3における全閉位置を全開位置と読み替え、全開位置を全閉位置と読み替えればよい。
【0026】
図3に示すように、目標値V*は、変位開始位置において駆動開始値Vstとされ、変位開始位置から規定量β変位するまでの期間、位置xに応じて漸増し規定量βだけ変位した位置である基準開始位置xstにおいて基準値VRとされる。そして、目標値V*は、停止位置よりも所定値γだけ手前である基準終了位置xspまでの期間は、基準値VRに維持され、基準終了位置xspから停止位置までの期間においては、位置xに応じて漸減する。目標値V*の漸減期間を設けるのは、停止位置において衝撃が生じることを抑制することを狙ったものである。停止位置における目標値V*は、駆動開始値Vstよりも高い規定値Vspとされている。これは、モータ32の駆動開始時には、突入電流に起因して過大なトルクが生じやすいことや、バックラッシュによって、モータ32の回転速度の制御性が低くなりやすいことに鑑みた設定である。なお、位置xは、CPU62が回転角度θに基づき算出するパラメータである。
【0027】
モータ32に印加される電圧は、モータ32を流れる電流と正の相関を有するため、モータ32の回転速度と正の相関を有するパラメータとなっている。本実施形態では、目標値V*は、可動パネル14の変位速度を適切な速度とする値に設定されている。したがって本実施形態では、目標値V*は、可動パネル14の変位速度を目標速度に制御するためのフィードフォワード操作量とみなせる。本実施形態における可動パネル14の変位制御は、可動パネル14の速度を基準速度に制御するために目標値V*を基準値VRとすることを基本とする。そして、可動パネル14の変位開始に際しては、その速度の制御性の低下を抑制することと急激な変化を抑制する観点から変位速度を漸増させるべく、目標値V*を基準値VRまで漸増させる処理を実行する。また、可動パネル14の停止に際しては、停止時の衝撃を緩和する観点から、目標値V*を規定値Vspまで漸減させる処理を実行する。
【0028】
図3に示した目標値V*の設定は、可動パネル14の変位開始位置が全開位置か全閉位置の場合であるが、実際には、ユーザが操作スイッチ54を操作することによって可動パネル14が全開位置と全閉位置との間の位置で停止し、その後、その位置が変位開始位置となる場合もある。
【0029】
図4に、可動パネル14の変位開始位置が任意の位置である場合における目標値V*の設定処理の手順を示す。
図4に示す処理は、可動パネル14の変位要求が生じることを条件にROM64に記憶されたプログラムをCPU62が実行することにより実現される。
【0030】
図4に示す一連の処理において、CPU62は、まず変位開始位置x0を取得する(S30)。次にCPU62は、変位開始位置x0から基準終了位置xspまでの変位量αを算出する(S32)。なお、CPU62は、基準終了位置xspを、可動パネル14の変位方向が全閉方向であるか全開方向であるかに応じて、互いに異なる値に設定する。次に、CPU62は、変位量αが、規定量βよりも小さいか否かを判定する(S34)。この処理は、目標値V*を基準値VRまで漸増させるか否かを判定するためのものである。そしてCPU62は、規定量β以上であると判定する場合(S34:NO)、目標値V*を基準値VRまで漸増させる処理を実行する(S36)。すなわち、CPU62は、変位開始位置x0から規定量βだけ離れた位置を基準開始位置xstとし、基準開始位置xstにおいて基準値VRとなるように、位置xに応じて以下の式(c1)に従って、目標値V*を漸増させる(S36,S38)。
【0031】
V*←{(VR-Vst)/β}・|x-x0|+Vst …(c1)
そしてCPU62は、基準開始位置xstに到達したと判定する場合(S38:YES)、目標値V*に、基準値VRを代入する(S40)。そして、CPU62は、目標値V*に基準値VRを代入した状態を、基準終了位置xspまで継続する(S42:NO)。そしてCPU62は、基準終了位置xspに到達すると判定する場合(S42:YES)、停止位置において目標値V*を規定値Vspとすべく、以下の式(c2)に基づき目標値V*を漸減させる(S44,S46)。
【0032】
V*←(-1)・{(VR-Vsp)/γ}・|x-xsp|+VR …(c2)
一方、CPU62は、変位量αが規定量βよりも小さいと判定する場合(S34:YES)、目標値V*が規定値Vspとなるまで、目標値V*を、駆動開始値Vstから上記の式(c1)に従って漸増させる(S48,S50)。そしてCPU62は、目標値V*が規定値Vspに到達すると(S50:YES)、停止位置に到達するまで(S54:NO)、目標値V*を規定値Vspに固定する(S52)。
【0033】
なお、CPU62は、停止位置に到達する場合(S46,S54:YES)、
図4に示す一連の処理を一旦終了する。なお、
図4の処理の実行中に、操作スイッチ54の操作によって可動パネル14の停止指令が生じる場合、CPU62は、
図4の処理を強制的に終了し、目標値V*をゼロとする。また、CPU62は、
図4の処理の実行中に、S22の処理が実行される場合にも、
図4に示す処理を強制的に終了する。
【0034】
ここで本実施形態の作用を説明する。
図5(a)は、操作スイッチ54の操作によって、全閉位置よりも手前で可動パネル14が停止状態とされた後、可動パネル14が全閉位置へと変位するように指示がなされた場合の目標値V*の推移を示す。
【0035】
図5(a)に示すように、変位開始位置x0が停止位置に近い場合、可動パネル14を変位させるべく目標値V*を、駆動開始値Vstから規定値Vspまで漸増させ、目標値V*が規定値Vspに到達すると、停止位置に到達するまで規定値Vspを維持する。このため、モータ32の回転速度は緩やかに立ち上がった後、停止位置まで略一定値に制御される。このため、可動パネル14の変位開始に伴ってモータ32の回転周波数が短期間に上昇から低下に切り替わる事態が生じることを抑制できる。
【0036】
図5(b)に、
図5(a)と同一の変位開始位置x0から、基準終了位置xspまで目標値V*を漸増させる比較例を示す。この場合、基準終了位置xspにおいて目標値V*が漸増から漸減に切り替わることに起因して、可動パネル14の変位開始に伴ってモータ32の回転周波数が短期間に上昇から低下に切り替わる。特に、本実施形態では、モータ32が車室内の上部に設けられていることから、モータ32の回転周波数の変動がユーザに違和感を与えやすい。
【0037】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する効果が得られる。
(1)変位量αが規定量βよりも小さい場合、目標値V*が規定値Vspに到達すると、停止位置まで規定値Vspに固定した。これにより、モータ32の回転周波数の変化を十分に抑制することができる。
【0038】
(2)回転速度ωの低下量が所定量Δωth以上となることを条件にモータ32を反転させた。これにより、異物が挟み込まれる場合に、挟み込みを解消することができる。しかし、可動パネル14を変位させる制御によってモータ32の回転速度が上昇から低下に急激に変化する場合には、異物が挟み込まれていない場合に誤って可動パネル14の変位方向を反転させる反転処理が実行される懸念がある。このため、
図5(b)のように目標値V*を設定する場合には、反転処理が誤って実行される懸念がある。これに対し、本実施形態では、
図5(a)に例示するように目標値V*の変化を抑制するために、モータ32の回転速度が上昇から低下に急激に変化することを抑制することができ、反転処理が誤って実行される事態が生じることを抑制できる。
【0039】
(4)モータ32に印加する電圧の目標値を目標値V*として設定し、漸増処理や漸減処理において、目標値V*を位置xに応じて変化させた。このため、移動体22がガイドレール20上を変位する際の摺動抵抗がばらついた場合等であっても、目標値V*を、所望の位置xにおいて所望の値とすることができる。さらに、可動パネル14の変位速度を目標値V*によって間接的に制御し、変位速度のフィードバック制御を実行しない。仮にフィードバック制御を実行すると挟み込みが生じた場合であってもフィードバック制御によって変位速度の低下を抑制する制御がなされるため、挟み込み検出の精度が低下する事態が生じるおそれがある。これに対し、本実施形態では、フィードバック制御に起因して挟み込み検出の精度が低下する事態が生じることもない。
【0040】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。[1]車両用開閉体は、可動パネル14に対応し、速度パラメータは、電圧に対応し、駆動回路は、Hブリッジ回路50に対応する。操作処理は、S16,S18の処理に対応し、目標値設定処理は、
図4に示す処理に対応し、漸減処理は、S44の処理に対応し、制限処理は、S48~S54の処理に対応する。[2]漸増処理は、S36,S48の処理に対応し、閾値は、S34の処理によって「γ+β」とされていることに対応する。[3]「規定値に固定する処理」は、S52の処理に対応する。[4]反転処理は、S12,S22の処理に対応し、停止位置が全閉位置であることは、
図5に例示されている。
【0041】
<その他の実施形態>
なお、上記実施形態の各事項の少なくとも1つを、以下のように変更してもよい。
・「所定値γについて」
上記実施形態では、所定値γを、目標値V*を基準値VRから規定値Vspに漸減させる間に可動パネル14が変位する量としたが、これに限らない。たとえば「漸減処理について」の欄に記載したように、目標値V*が規定値Vspに到達した後に目標値V*を規定値Vspに維持する場合、目標値V*を基準値VRから規定値Vspに漸減させる間に可動パネル14が変位する量よりも所定値γを長い距離としてもよい。
【0042】
・「閾値について」
上記実施形態では、目標値V*を規定値Vsp以下に制限するうえでの変位開始位置x0から停止位置までの距離の閾値を、「β+γ」としたが、これに限らない。たとえば、「β+γ」よりも長い距離であってもよい。
【0043】
・「漸減処理について」
上記実施形態では、漸減処理として、停止位置に到達するまで目標値を単調強減少させる処理を例示したがこれに限らない。たとえば、停止位置の手前で規定値Vspに到達させ、その後は、規定値Vspに維持してもよい。また上記実施形態では、位置xの変化量に比例して目標値を変化させたが、これに限らず、たとえば位置xの変化量に反比例させてもよい。
【0044】
漸減処理としては、位置xに応じて目標値V*を漸減させる処理に限らない。たとえば、基準終了位置xspから時間の経過に伴って目標値V*を低下させてもよい。なお、時間の経過に伴って速度パラメータの目標値を低下させる処理は、「速度パラメータについて」の欄に記載したように、速度パラメータとして変位速度を用いる場合に、速度パラメータとして電圧を用いる場合よりも好適となる。
【0045】
・「漸増処理について」
上記実施形態では、位置xの変化量に比例して目標値V*を変化させたが、これに限らず、たとえば位置xの変化量の2乗に比例させてもよい。漸増処理としては、位置xに応じて目標値V*を漸増させる処理に限らない。たとえば、変位開始から時間の経過に伴って目標値V*を漸増させてもよい。なお、時間の経過に伴って速度パラメータの目標値を漸増させる処理は、「速度パラメータについて」の欄に記載したように、速度パラメータとして変位速度を用いる場合に、速度パラメータとして電圧を用いる場合よりも好適となる。
【0046】
・「速度パラメータについて」
上記実施形態では、速度パラメータとして電圧を用いたが、これに限らず、たとえば、Hブリッジ回路50の電源として電圧の変動が十分に抑制された安定電源を採用する場合には時比率Dを用いてもよい。またたとえば、可動パネル14の変位速度(回転速度ω)や、モータ32を流れる電流であってもよい。
【0047】
・「基準値について」
上記実施形態では、基準値VRを、位置xによって変化しない値としたが、これに限らない。たとえば、可動パネル14が全開状態から全閉状態まで変位する際の領域内に、可動パネル14を変位させるために必要なモータ32のトルクが大きくなる領域がある場合、その領域における基準値VRの値をそのほかの領域における値よりも大きくしてもよい。これにより、上記トルクが大きくなる領域がある場合において、基準値VRを位置xによらない一定値とする場合と比較して、可動パネル14の変位速度の変動を抑制することができる。
【0048】
・「操作量(時比率D)の算出手法について」
上記実施形態では、可動パネル14の変位速度を所望の速度とするための電圧の目標値V*を設定し、これに応じて時比率Dを算出したがこれに限らない。たとえば、「速度パラメータについて」の欄に記載したように、速度パラメータとして変位速度を用いる場合、実際の変位速度を目標値にフィードバック制御するための操作量に応じて時比率Dを算出してもよい。ただしこの場合、フィードフォワード操作量を併せ用いることにより、フィードバック制御のゲインを極力小さくすることが望ましい。
【0049】
・「操作処理について」
上記実施形態では、一方のハーフブリッジ回路を構成するハイサイドスイッチSH1(SH2)をオン状態に維持しつつ他方のハーフブリッジ回路を構成するローサイドスイッチSL2(SL1)をオン・オフ操作することによって、モータ32に印加される電圧を調整したがこれに限らない。たとえば、一方のハーフブリッジ回路を構成するローサイドスイッチSL1(SL2)をオン状態に維持しつつ他方のハーフブリッジ回路を構成するハイサイドスイッチSH2(SH1)をオン・オフ操作してもよい。
【0050】
・「挟み込み検出処理について」
上記実施形態では、回転速度ωの落ち込みが2度連続して検出されることにより、挟み込みを検出したが、これに限らない。たとえば、3回以上連続で回転速度ωの落ち込みが検出される場合に挟み込みを検出してもよく、またたとえば回転速度ωの落ち込みが1回検出される場合に挟み込みを検出してもよい。
【0051】
・「車両用開閉体について」
車両用開閉体としては、可動パネル14に限らない。たとえば、車両の窓ガラスやスライドドアであってもよい。
【0052】
・「駆動回路について」
駆動回路としては、Hブリッジ回路50に限らず、たとえばモータを3相ブラシレスモータとし、駆動回路を3相インバータとしてもよい。この場合、たとえば、周知の120°通電方式による通電期間において、ローサイドスイッチおよびハイサイドスイッチのいずれか一方を周期的にオン・オフ操作し、その時比率Dを可変とすればよい。
【0053】
・「制御装置について」
制御装置としては、CPU62とROM64とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア処理回路や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1または複数のソフトウェア処理回路および1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路によって実行されればよい。
【符号の説明】
【0054】
10…車両、12…開口部、14…可動パネル、20…ガイドレール、22…移動体、24…開閉駆動機構、30…アクチュエータ、32…モータ、34…ベルト、50…Hブリッジ回路、52…バッテリ、54…操作スイッチ、56…回転角度センサ、58…温度センサ、60…制御装置、62…CPU、64…ROM、66…RAM、70…通信線。