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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】車両用開閉体の制御装置
(51)【国際特許分類】
   E05F 15/655 20150101AFI20220117BHJP
   B60J 7/057 20060101ALI20220117BHJP
   B60J 5/04 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
E05F15/655
B60J7/057 Z
B60J5/04 C
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017134801
(22)【出願日】2017-07-10
(65)【公開番号】P2019015141
(43)【公開日】2019-01-31
【審査請求日】2020-06-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】株式会社アイシン
(74)【代理人】
【識別番号】100105957
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100068755
【弁理士】
【氏名又は名称】恩田 博宣
(72)【発明者】
【氏名】長瀬 浩司
(72)【発明者】
【氏名】菊田 岳史
(72)【発明者】
【氏名】別所 伸康
【審査官】家田 政明
(56)【参考文献】
【文献】特開2003-182368(JP,A)
【文献】特開2016-094807(JP,A)
【文献】特開2012-001965(JP,A)
【文献】米国特許第05770934(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E05F 15/00-15/79
B60J 5/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両の開口部の開口度を調整する車両用開閉体の変位速度と正の相関を有するパラメータを制御量とし、該制御量を目標値にフィードフォワード制御するための操作量であるフィードフォワード操作量を記憶する記憶装置と、処理回路とを備え、
前記処理回路は、
前記記憶装置に記憶されたフィードフォワード操作量と、前記制御量を前記目標値にフィードバック制御するための操作量であるフィードバック操作量とに応じた2自由度操作量に基づき、前記車両用開閉体を変位させる動力を生成するモータの駆動回路を操作する操作処理と、
前記フィードバック操作量を入力とし、前記記憶装置に記憶されている前記フィードフォワード操作量を、前記入力となるフィードバック操作量の算出時よりも前記制御量の前記目標値に対する誤差が小さくなるように更新する更新処理と、を実行する車両用開閉体の制御装置。
【請求項2】
前記記憶装置には、前記車両用開閉体の位置毎に、前記フィードフォワード操作量が記憶されており、
前記更新処理は、前記車両用開閉体の位置毎に、該当する位置における前記フィードバック操作量に基づき、該当する位置における前記フィードフォワード操作量を更新する処理である請求項1記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項3】
前記2自由度操作量は、前記モータに印加する電圧であり、
前記更新処理は、前記フィードバック操作量が同一である場合、前記記憶装置に記憶されている前記フィードフォワード操作量が、前記モータの温度が高い場合に低い場合よりも小さい値となるように更新する規格化処理を含み、
前記処理回路は、前記記憶装置に記憶されている前記フィードフォワード操作量を入力とし、前記2自由度操作量の算出に用いられるフィードフォワード操作量を、前記モータの温度が高い場合に低い場合よりも大きい量とする温度補正処理を実行する請求項1または2記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項4】
前記操作処理は、前記駆動回路のスイッチング素子を周期的にオン・オフ操作する際のオン・オフの周期に対するオン時間の時比率を操作することにより、前記モータに印加する電圧を操作するものであり、
前記2自由度操作量は、前記時比率であり、
前記更新処理は、前記フィードバック操作量が同一である場合、前記記憶装置に記憶されている前記フィードフォワード操作量が、前記モータの温度が高い場合に低い場合よりも小さい値となるように更新する規格化処理を含み、
前記処理回路は、前記記憶装置に記憶されている前記フィードフォワード操作量を入力とし、前記2自由度操作量の算出に用いられるフィードフォワード操作量を、前記モータの温度が高い場合に低い場合よりも大きい量とする温度補正処理を実行する請求項1または2記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項5】
前記更新処理は、前記車両が走行しているときの前記フィードバック操作量を利用して前記記憶装置に記憶されている前記フィードフォワード操作量を更新しない請求項1~4のいずれか1項に記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項6】
前記制御量は、前記車両用開閉体の変位速度である請求項1~5のいずれか1項に記載の車両用開閉体の制御装置。
【請求項7】
前記操作処理の実行時において前記車両用開閉体の変位速度の低下量が所定量以上となることを条件に前記車両用開閉体の変位方向を反転させる反転処理を実行する請求項6記載の車両用開閉体の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車両用開閉体を変位させる動力を生成するモータの駆動回路を操作する車両用開閉体の制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば特許文献1には、車両に設けられたスライドドア(車両用開閉体)の変位速度(制御量)を目標速度に制御するためのモータの駆動回路の操作量を、フィードフォワード制御の操作量であるフィードフォワード操作量とフィードバック制御の操作量であるフィードバック操作量との和によって算出する制御装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2003-182368号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
フィードバック制御は、変位速度が目標速度から乖離することによりこれを解消しようとするものであることから、変位速度の変動を伴う。これに対し、上記制御装置によれば、フィードフォワード操作量を用いることにより、フィードバック操作量のみから駆動回路の操作量を算出する場合と比較すると、変位速度の変動を抑制することができる。ただし、モータの個体差や経年変化、さらには車両用開閉体の摺動部の摺動抵抗の個体差や経年変化等に起因して、フィードフォワード操作量のみによって実現される変位速度が目標速度から大きくずれうるおそれがあり、結果として、変位速度の変動が大きくなるおそれがある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
以下、上記課題を解決するための手段およびその作用効果について記載する。
1.車両用開閉体の制御装置は、車両の開口部の開口度を調整する車両用開閉体の変位速度と正の相関を有するパラメータを制御量とし、該制御量を目標値にフィードフォワード制御するための操作量であるフィードフォワード操作量を記憶する記憶装置と、処理回路とを備え、前記処理回路は、前記記憶装置に記憶されたフィードフォワード操作量と、前記制御量を前記目標値にフィードバック制御するための操作量であるフィードバック操作量とに応じた2自由度操作量に基づき、前記車両用開閉体を変位させる動力を生成するモータの駆動回路を操作する操作処理と、前記フィードバック操作量を入力とし、前記記憶装置に記憶されている前記フィードフォワード操作量を、前記入力となるフィードバック操作量の算出時よりも前記制御量の前記目標値に対する誤差が小さくなるように更新する更新処理と、を実行する。
【0006】
車両用開閉体の摺動抵抗の個体差や経年変化、モータの個体差や経年変化等に起因して、フィードフォワード操作量が制御量を目標値に制御する上で適切な操作量からずれる場合、このずれは、フィードバック操作量によって補償される。この場合、フィードバック操作量には、上記個体差や経年変化が反映される。このため、上記構成では、フィードフォワード操作量を、フィードバック操作量に基づき更新する。これにより、更新後のフィードフォワード操作量に上記個体差や経年変化が反映され、フィードフォワード操作量によって実現される制御量が目標値に追従しやすくなる。このため、上記構成によれば、当初設定されていたフィードフォワード操作量によっては制御量を目標値とするうえで誤差が生じる場合であっても、制御量の変動を抑制することができる。
【0007】
2.上記1記載の車両用開閉体の制御装置において、前記記憶装置には、前記車両用開閉体の位置毎に、前記フィードフォワード操作量が記憶されており、前記更新処理は、前記車両用開閉体の位置毎に、該当する位置における前記フィードバック操作量に基づき、該当する位置における前記フィードフォワード操作量を更新する処理である。
【0008】
車両用開閉体を変位させるうえでモータに要求されるトルクの大きさは、車両用開閉体の位置に応じて変動することがある。この場合、フィードフォワード操作量を制御量を目標値に制御する上で適切な値とするうえでは、フィードフォワード操作量を位置に応じて異なる値に設定可能とすることが望ましい。このため、上記構成では、更新処理によって車両用開閉体の位置毎にフィードフォワード操作量を更新することにより、フィードフォワード操作量を、車両用開閉体の位置毎に互いに異なる値に設定可能とした。
【0009】
3.上記1または2記載の車両用開閉体の制御装置において、前記2自由度操作量は、前記モータに印加する電圧であり、前記更新処理は、前記フィードバック操作量が同一である場合、前記記憶装置に記憶されている前記フィードフォワード操作量が、前記モータの温度が高い場合に低い場合よりも小さい値となるように更新する規格化処理を含み、前記処理回路は、前記記憶装置に記憶されている前記フィードフォワード操作量を入力とし、前記2自由度操作量の算出に用いられるフィードフォワード操作量を、前記モータの温度が高い場合に低い場合よりも大きい量とする温度補正処理を実行する。
【0010】
モータに印加する電圧が同一であっても、モータの温度が高い場合には低い場合よりもモータを流れる電流が小さくなり、ひいてはモータのトルクが小さくなる。このため、たとえば高温時におけるフィードバック操作量に基づき更新されたフィードフォワード操作量を低温時に用いる場合、制御量を目標値に制御する上で適切なトルクに対しモータの実際のトルクが過度に大きくなるおそれがある。
【0011】
そこで、上記構成では、モータの温度が高い場合に低い場合よりもフィードフォワード操作量を小さい値に更新することにより、更新処理によって補正されたフィードフォワード操作量を、モータの温度が所定温度であるときに適切な値に規格化することができる。そして、温度補正処理により、2自由度操作量の算出に用いるフィードフォワード操作量を、モータの温度が高い場合に低い場合よりも大きい量とすることにより、モータの温度に応じた適切な量とすることができる。
【0012】
4.上記1または2記載の車両用開閉体の制御装置において、前記操作処理は、前記駆動回路のスイッチング素子を周期的にオン・オフ操作する際のオン・オフの周期に対するオン時間の時比率を操作することにより、前記モータに印加する電圧を操作するものであり、前記2自由度操作量は、前記時比率であり、前記更新処理は、前記フィードバック操作量が同一である場合、前記記憶装置に記憶されている前記フィードフォワード操作量が、前記モータの温度が高い場合に低い場合よりも小さい値となるように更新する規格化処理を含み、前記処理回路は、前記記憶装置に記憶されている前記フィードフォワード操作量を入力とし、前記2自由度操作量の算出に用いられるフィードフォワード操作量を、前記モータの温度が高い場合に低い場合よりも大きい量とする温度補正処理を実行する。
【0013】
上記時比率が同一であっても、モータの温度が高い場合には低い場合よりもモータを流れる電流が小さくなり、ひいてはモータのトルクが小さくなる。このため、たとえば高温時におけるフィードバック操作量に基づき更新されたフィードフォワード操作量を低温時に用いる場合、制御量を目標値に制御する上で適切なトルクに対しモータの実際のトルクが過度に大きくなるおそれがある。
【0014】
そこで、上記構成では、モータの温度が高い場合に低い場合よりもフィードフォワード操作量を小さい値に更新することにより、更新処理によって補正されたフィードフォワード操作量を、モータの温度が所定温度であるときに適切な値に規格化することができる。そして、温度補正処理により、2自由度操作量の算出に用いるフィードフォワード操作量を、モータの温度が高い場合に低い場合よりも大きい量とすることにより、モータの温度に応じた適切な量とすることができる。
【0015】
5.上記1~4のいずれか1つに記載の車両用開閉体の制御装置において、前記更新処理は、前記車両が走行しているときの前記フィードバック操作量を利用して前記記憶装置に記憶されている前記フィードフォワード操作量を更新しない。
【0016】
車両が走行している場合には、走行していない場合と比較して、制御量に外乱が加わりやすい。このため、車両が走行しているときのフィードバック操作量に基づき更新処理を実行する場合には、走行していない場合のフィードバック操作量に基づき更新処理を実行する場合と比較して、フィードフォワード操作量が、外乱に大きく影響されやすい。そこで上記構成では、車両が走行しているときのフィードバック操作量を利用してフィードフォワード操作量を更新しないことにより、フィードフォワード操作量が意図せぬ様々な外乱を反映した値に更新されることを抑制する。
【0017】
6.上記1~5のいずれか1つに記載の車両用開閉体の制御装置において、前記制御量は、前記車両用開閉体の変位速度である。
車両用開閉体の変位速度は、車両用開閉体の動作を直接的に定量化したものであるため、変位速度の目標値を設定して変位速度を目標値に制御することにより、目標値の設定によって、車両用開閉体の動作を、ユーザにとって違和感のない動作に制御しやすい。しかし、車両用開閉体の変位速度は、モータのトルクによって一義的には定まらないため、変位速度を目標値に制御する際には、誤差が生じやすい。このため、フィードフォワード操作量を高精度なものに学習していく更新処理の利用価値が特に大きい。
【0018】
7.上記6記載の車両用開閉体の制御装置において、前記操作処理の実行時において前記車両用開閉体の変位速度の低下量が所定量以上となることを条件に前記車両用開閉体の変位方向を反転させる反転処理を実行する。
【0019】
車両用開閉体の変位に伴って開口度が縮小していく際に、車両用開閉体が異物を挟み込む場合、車両用開閉体の変位速度が低下する。そこで、上記構成では、変位速度の低下量が所定値以上である場合、挟み込みを検出したとして、反転処理によって車両用開閉体の変位方向を反転させることにより、異物に加わる力を抑制することができる。ただし、フィードバック制御のゲインが大きい場合には、異物を挟み込んだ際にフィードバック制御によって変位速度の低下が抑制されるため、挟み込みを検出するまでに要する時間が伸長するおそれがある。これに対し、上記構成では、更新処理によってフィードフォワード操作量の精度を向上させることができることから、変位速度を目標値に制御する上での制御精度の低下を十分に抑制しつつもフィードバックゲインを小さい値に設定することができる。このため、フィードバック制御に起因して挟み込みを検出するまでに要する時間が伸長することを極力抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】第1の実施形態にかかる制御装置およびその制御対象を示す図。
図2】同実施形態にかかる目標速度の設定を示す図。
図3】同実施形態にかかる可動パネルの駆動処理の手順を示す流れ図。
図4】同実施形態にかかるフィードフォワード操作量の更新に関する処理の手順を示す流れ図。
図5】(a)および(b)は、本実施形態の操作量を例示するタイムチャート。
図6】第2の実施形態にかかる可動パネルの駆動処理の手順を示す流れ図。
図7】第2の実施形態の変形例にかかる可動パネルの駆動処理の手順を示す流れ図。
【発明を実施するための形態】
【0021】
<第1の実施形態>
以下、車両用開閉体の第1の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1の右側には、上方から見下ろした車両10の一部が記載されている。車両10の屋根部分には、一点鎖線にて示す開口部12が形成されており、開口部12の開口度は、破線にて示す可動パネル14が開口部12の一部または全部を塞ぐことによって調整可能となっている。開口部12のうち車両の左方向YLおよび右方向YRには、ガイドレール20およびガイドレール20上を移動可能に設けられた移動体22を備えた開閉駆動機構24が設けられている。可動パネル14は、移動体22がガイドレール20上を変位することによって、変位し、開口部12の開口度を調整する。
【0022】
開閉駆動機構24は、アクチュエータ30によって駆動される。アクチュエータ30は、モータ32とモータ32によって駆動されるベルト34とを備えている。ベルト34は、移動体22に連結されており、モータ32の回転動力によってベルト34が駆動されると、移動体22がガイドレール20上を、その一方(車両10の前方XF)から他方(車両10の後方XR)へ、または他方から一方へ変位する。これにより、モータ32によって、可動パネル14を変位させ、開口部12の開口度を調整することができる。
【0023】
なお、本実施形態では、開口部12のうちの車両10の前方XF側にディフレクタ40が設けられている。ディフレクタ40は、移動体22が車両10の後方XRに変位することにより、前方XF部分に対して後方XR部分が上昇する。これは、移動体22が車両10の後方XRに変位することによって可動パネル14も後方XR側に変位し、開口部12の開口面積が拡大したときに、車室内への気流の巻き込みを抑制することを狙ったものである。なお、移動体22が車両10の前方XFに変位すると、ディフレクタ40のうち車両10の後方XR部分は下がり、可動パネル14よりも下方に位置することとなる。
【0024】
上記モータ32は、直流モータであり、モータ32には、2組のハーフブリッジ回路を備えたHブリッジ回路50が接続されている。すなわち、モータ32の2つの端子のうちの一方には、第1のハーフブリッジ回路を構成するハイサイドスイッチSH1およびローサイドスイッチSL1の接続点が接続され、他方には、第2のハーフブリッジ回路を構成するハイサイドスイッチSH2およびローサイドスイッチSL2の接続点が接続されている。なお、Hブリッジ回路50のうちハイサイドスイッチSH1,SH2側には、バッテリ52の正極端子が接続され、ローサイドスイッチSL1,SL2側は接地されている。
【0025】
制御装置60は、可動パネル14を制御対象とし、Hブリッジ回路50を操作する。制御装置60は、ユーザが開口部12の開口度の調整を指示するために操作する操作スイッチ54の出力信号に基づき、可動パネル14による開口度を制御する。制御装置60は、可動パネル14による開口度の制御のために、回転角度センサ56によって検出されるモータ32の回転角度θや温度センサ58によって検出されるモータ32の温度Tm、バッテリ52の端子電圧Vbを取得する。なお、本実施形態では、回転角度センサ56として、モータ32が所定量回転する毎にパルス信号を出力するものを想定しており、回転角度θは、パルス信号に基づき把握される。さらに、制御装置60は、車両10内の通信線70を介して車両10内の他の制御装置(他ECU72)から各種信号を取り込む。
【0026】
制御装置60は、CPU62、ROM64および電気的に書き換え可能な不揮発性メモリ66を備えており、ROM64に記憶されたプログラムをCPU62が実行することにより、上記制御を実行する。CPU62は、開口度が最小となる全閉位置と開口度が最大となる全開位置とのいずれか一方から他方に可動パネル14を変位させる場合、図2に示すようにモータ32の回転速度ωの目標値ω*を設定する。
【0027】
図2には、可動パネル14の変位開始位置x0が全開位置であって停止位置xcが全閉位置である場合を例示するが、可動パネル14の変位開始位置x0が全閉位置であって停止位置xcが全開位置である場合も同様な設定となる。図2に示すように、本実施形態では、目標値ω*を、原則、基準値ωtに設定する。ただし、変位開始位置x0においては、目標値ω*を初期値ω0に設定し、変位開始位置x0から所定距離X1だけ変位した基準開始位置xLまでは、可動パネル14の位置xに応じて目標値ω*を漸増させて基準開始位置xLにおいて目標値ω*を基準値ωtとする。これは、モータ32の停止状態から駆動を開始する場合、モータ32に突入電流が流れてトルクが過度に大きくなりやすいことや、バックラッシュによって回転速度ωが一時的に急上昇しやすいなど、モータ32の回転速度の制御性が低下しやすいことに鑑みた設定である。すなわち、目標値ω*を小さい値に制限することにより、モータ32に印加される電圧が大きくなることを制限し、ひいては回転速度ωの急上昇を抑制する。また、停止位置xcよりも規定距離X2だけ手前の基準終了位置xHから停止位置xcまでは停止位置xcにおいて終了値ωeとなるように目標値ω*を漸減させる。これは、停止位置xcにおいて可動パネル14の慣性力やモータ32のトルクが大きい場合には、衝撃が大きくなる懸念があることに鑑み、衝撃を抑制するための設定である。なお、本実施形態では、初期値ω0は、終了値ωeよりも小さい値に設定されている。
【0028】
図3に、可動パネル14の変位速度の制御の処理手順を示す。図3に示す処理は、ROM64に記憶されたプログラムをCPU62が上記パルス信号の所定のエッジが出現する周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、以下では、先頭に「S」の付与された数字によってステップ番号を表現する。
【0029】
図3に示す一連の処理において、CPU62は、まず、図3に示す一連の処理の前回の起動タイミングと今回の起動タイミングとの時間差に基づきモータ32の回転速度ω(n)と可動パネル14の位置x(n)とを算出する(S10)。なお、変数nは、サンプリングの順序を指定するものであり、「n」は、図2に示す一連の処理の今回の制御周期における値に付与され、「n-1」は、前回の制御周期における値に付与される。
【0030】
次に、CPU62は、前回の回転速度ω(n-1)に対する今回の回転速度ω(n)の低下量が所定量Δωth以上であることと、前前回の回転速度ω(n-2)に対する前回の回転速度ω(n-1)の低下量が所定量Δωth以上であることとの論理積が真であるか否かを判定する(S12)。この処理は、可動パネル14の変位に伴って異物の挟み込みが生じたか否かを判定する処理である。そして、CPU62は、論理積が真であると判定する場合(S12:YES)、挟み込みを検出したとして、モータ32の回転方向を反転させる処理を実行する(S14)。具体的には、CPU62は、モータ32にそれまで印加されていた電圧とは逆極性の電圧を印加するようにHブリッジ回路50を操作する。
【0031】
一方、CPU62は、論理積が偽であると判定する場合(S12:NO)、可動パネル14の位置x(n)が、基準開始位置xLと基準終了位置xHとの間にあるか否かを判定する(S16)。そしてCPU62は、間にあると判定する場合(S16:YES)、モータ32の回転速度ωの目標値ω*に基準値ωtを代入する(S18)。そしてCPU62は、回転速度ωを目標値ω*にフィードバック制御するための操作量であるフィードバック操作量Mfbを算出する(S20)。本実施形態では、目標値ω*から回転速度ω(n)を減算した偏差Δを入力とする比例要素によって算出されるフィードバック操作量Pと、偏差Δを入力とする積分要素によって算出されるフィードバック操作量Iとの和をフィードバック操作量Mfbとする。次に、CPU62は、今回算出した積分要素によるフィードバック操作量Iを、位置x(n)とともに、不揮発性メモリ66に記憶する(S22)。
【0032】
次に、CPU62は、目標値ω*にフィードフォワード制御するための操作量であるフィードフォワード操作量Mffを不揮発性メモリ66から読み出す(S24)。なお、後述するように、フィードフォワード操作量Mffは、基準量MffRと学習補正量MffLとからなり、不揮発性メモリ66には、それらが記憶されているため、CPU62は、実際には、不揮発性メモリ66から基準量MffRと学習補正量MffLとを読み出してそれらを加算することによってフィードフォワード操作量Mffを算出する。
【0033】
次に、CPU62は、フィードバック操作量Mfbとフィードフォワード操作量Mffとを加算することにより、モータ32に印加する電圧の目標値(目標電圧V*)を算出する(S26)。そしてCPU62は、バッテリ52の端子電圧Vbに基づき、モータ32に印加する電圧が目標電圧V*となるように、ローサイドスイッチSL1またはローサイドスイッチSL2をオン・オフ操作させるpwm周期に対するオン時間の時比率Dを算出する(S28)。これは、本実施形態において、以下の処理がなされることを前提として実行されるものである。すなわち、CPU62は、ハイサイドスイッチSH1とローサイドスイッチSL2とをオン操作するか、ハイサイドスイッチSH2とローサイドスイッチSL1とをオン操作するかを選択することにより、モータ32の回転方向を制御する。さらにCPU62は、ローサイドスイッチSL1またはローサイドスイッチSL2を、時比率Dでオン・オフ操作することによって、pwm周期の間にモータ32に印加される電圧の平均値を目標電圧V*に制御する。
【0034】
そしてCPU62は、ハイサイドスイッチSH1またはハイサイドスイッチSH2をオン状態に維持しつつローサイドスイッチSL2またはローサイドスイッチSL1を時比率Dに応じてオン・オフ操作すべく、Hブリッジ回路50に操作信号MSを出力する(S30)。
【0035】
一方、CPU62は、位置xが基準開始位置xLと基準終了位置xHとの間にないと判定する場合(S16:NO)、目標電圧V*に、位置xに応じたフィードフォワード操作量Mffを代入する(S32)。ここで用いるフィードフォワード操作量Mffは、不揮発性メモリ66のうち、位置xが基準開始位置xLと基準終了位置xHとの間にあるときのデータが記憶されている記憶領域とは相違する記憶領域に記憶されている。CPU62は、S32の処理が完了する場合、S28の処理に移行する。
【0036】
なお、CPU62は、S14,S30の処理が完了する場合、図3に示す一連の処理を一旦終了する。
図4に、学習補正量MffLの更新処理の手順を示す。図4に示す処理は、ROM64に記憶されたプログラムをCPU62が所定周期で実行することにより実現される。
【0037】
図4に示す一連の処理において、CPU62は、まず可動パネル14が変位している状態から停止している状態に切り替わった時点であるか否かを判定する(S40)。この処理は、学習補正量MffLの更新処理の実行条件が成立するか否かを判定する処理である。そしてCPU62は、切り替わった時点であると判定する場合(S40:YES)、図3のS22の処理によって記憶した位置xにおけるフィードバック操作量Iと、S24の処理において用いた位置xにおける学習補正量MffLと、を不揮発性メモリ66から読み出す(S42)。
【0038】
そして、CPU62は、読み出した学習補正量MffLに重み係数αを乗算した値と、フィードバック操作量Iに重み係数β(α+β=1)を乗算した値との和である指数移動平均処理値を算出する(S44)。そしてCPU62は、不揮発性メモリ66に記憶されている、位置xにおける学習補正量MffLを、指数移動平均処理値に更新する(S46)。なお、この処理によって、次にS24の処理がなされるときに算出されるフィードフォワード操作量Mffが更新されることから、この処理は、不揮発性メモリ66に記憶されているフィードフォワード操作量Mffを更新する処理と見なせる。
【0039】
CPU62は、S42~S46の処理を、可動パネル14の変位制御時における基準開始位置xLから基準終了位置xHまでの全領域について(S48:NO)、位置xを更新しつつ実行する(S50)。なお、ここでの全領域は、可動パネル14が全閉位置から全開位置に変位する場合と、全開位置から全閉位置に変位する場合とで相違しうる。そして、CPU62は、全領域において学習補正量MffLの更新が完了する場合(S48:YES)や、S40において否定判定する場合には、図4に示す一連の処理を一旦終了する。
【0040】
ここで本実施形態の作用を説明する。
図5(a)は、可動パネル14を初めて変位させた際の回転速度ω、フィードフォワード操作量Mffおよびフィードバック操作量Mfbの推移を示す。なお、この場合、学習補正量MffLはゼロであるため、フィードフォワード操作量Mffは、基準量MffRと等しい。
【0041】
図5(a)に示すように、回転速度ωは、基準終了位置xH付近で大きく落ち込んでいる。これは、基準終了位置xH付近において移動体22を車両10の前方XFに変位させることによりディフレクタ40が押し下げられることから、基準終了位置xH付近では移動体22を車両10の前方XFに変位させるのに必要な力が基準終了位置xHから遠いときよりも大きくなるためである。本実施形態では、図5(a)に示したように、基準開始位置xLと基準終了位置xHとの間の領域においては基準量MffRを位置xに依存しない一定値としているため、基準終了位置xH付近では、回転速度ωを目標値ω*に制御する上で必要な電圧に対してフィードフォワード操作量Mffが小さい値となっている。
【0042】
図5(b)は、可動パネル14の変位制御が複数回なされた後において、可動パネル14を変位させた際の回転速度ω、フィードフォワード操作量Mffおよびフィードバック操作量Mfbの推移を示す。
【0043】
この場合、不揮発性メモリ66に記憶されている学習補正量MffLが、それまでのフィードバック操作量Iに応じた値となっている。このため、不揮発性メモリ66に記憶されている基準量MffRと学習補正量MffLとによって構成されるフィードフォワード操作量Mffは、図5(a)のものとは相違し、フィードバック操作量Mfbによるフィードフォワード操作量Mffの誤差の補償量「V*-Mff」が反映された値となっている。換言すれば、フィードフォワード操作量Mffは、目標値ω*に制御する上での誤差がより小さい値に更新されている。このため、回転速度ωの制御性が向上する。
【0044】
しかも、このように回転速度ωの制御性を向上させることができることから、学習補正量MffLを用いない場合と比較すると、回転速度ωの制御性を維持しつつも、フィードバック制御のゲインである積分要素のゲイン(積分ゲインKi)や、比例要素のゲイン(比例ゲインKp)をより小さい値とすることが可能となる。そしてフィードバック制御のゲインを小さい値にすることにより、フィードバック制御を採用することに起因して挟み込みの検出精度が低下することを抑制することができる。すなわち、フィードバック制御を採用する場合、挟み込みが生じることによって回転速度ωが低下すると、回転速度ωが目標値ω*よりも低くなり、フィードバック制御によって回転速度ωを上昇させるようにモータ32に印加される電圧が上昇操作される。そしてこれにより、回転速度ωの落ち込みに基づき挟み込みを検出することが妨げられるおそれがある。しかし、本実施形態では、回転速度ωの目標値ω*への追従精度の低下を抑制しつつもフィードバック制御のゲインを小さくできるため、挟み込みが生じたときに直ちにモータ32の電圧が大きく上昇操作されることが抑制され、挟み込みの検出が遅れることを極力抑制できる。
【0045】
以上説明した本実施形態によれば、さらに以下に記載する効果が得られる。
(1)可動パネル14の変位を制御するうえでの制御量を、可動パネル14の変位速度(回転速度ω)とした。これにより、たとえば移動体22とガイドレール20との間の摺動抵抗が変化した場合であっても、可動パネル14の動作をユーザにとって違和感のない動作に制御しやすい。
【0046】
<第2の実施形態>
以下、第2の実施形態について、第1の実施形態との相違点を中心に図面を参照しつつ説明する。
【0047】
図6に、本実施形態にかかる可動パネル14の変位速度の制御の処理手順を示す。図6に示す処理は、ROM64に記憶されたプログラムをCPU62が上記パルス信号の所定のエッジが出現する周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、図6において、図3に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付与している。
【0048】
図6に示す一連の処理において、CPU62は、S20の処理が完了する場合、車両10の停止時であるか否かを判定する(S60)。この処理は、S20の処理によって算出したフィードバック操作量Iを用いて学習補正量MffLを更新するか否かを判定するためのものである。CPU62は、車両10の停止時であると判定する場合(S60:YES)、フィードバック操作量Iを用いて学習補正量MffLを更新すべく、S62の処理に移行する。S62の処理において、CPU62は、フィードバック操作量Iに、規格化係数Kを乗算したものを、不揮発性メモリ66に記憶するフィードバック操作量Iとして算出し、S22の処理に移行する。
【0049】
ここで、CPU62は、温度Tmが高い場合に低い場合よりも規格化係数Kを小さい値に算出する。これは、温度Tmが高い場合、モータ32のコイルの抵抗が大きくなることに起因して、モータ32に印加する電圧が同一であってもモータ32に流れる電流が小さくなり、ひいてはモータ32のトルクが小さくなることに鑑みたものである。規格化係数Kは、S20の処理によって算出されたフィードバック操作量Iを、温度Tmが基準温度であるときのフィードバック操作量Iに規格化するための係数である。詳しくは、不揮発性メモリ66に、入力変数を温度Tmとし出力変数を規格化係数Kとするマップデータを記憶しておき、CPU62により、規格化係数Kをマップ演算する。ここで、マップデータとは、入力変数の離散的な値と、入力変数の値のそれぞれに対応する出力変数の値と、の組データである。またマップ演算は、たとえば、入力変数の値がマップデータの入力変数の値のいずれかに一致する場合、対応するマップデータの出力変数の値を演算結果とし、一致しない場合、マップデータに含まれる複数の出力変数の値の補間によって得られる値を演算結果とする処理とすればよい。
【0050】
CPU62は、S22の処理が完了する場合やS60において否定判定する場合には、不揮発性メモリ66から基準量MffRと学習補正量MffLとを読み出し、学習補正量MffLを規格化係数Kで除算した値と、基準量MffRとの和を、フィードフォワード操作量Mffとする(S24a)。そして、CPU62は、S24aの処理が完了する場合、S26の処理に移行する。これにより、目標電圧V*を算出するために用いられるフィードフォワード操作量Mffは、不揮発性メモリ66に記憶されているフィードフォワード操作量(MffR+MffL)が同一であっても、温度Tmが高い場合に低い場合よりも大きい値となる。ちなみに、本実施形態においては、図4のS40の処理において肯定判定される場合であっても、S22の処理を実行していない場合には、S42~S50の処理を実行しない。
【0051】
ここで本実施形態の作用を説明する。
CPU62は、車両10の走行時に可動パネル14の変位制御をする場合、そのときのフィードバック操作量Iを用いて学習補正量MffLを更新しない。これにより、車両10の停止時と比較して可動パネル14に意図しない外乱が加わりやすく結果として回転速度ωを目標値ω*に制御する上で適切な電圧が外乱の影響を受けやすいときのフィードバック操作量Iに基づく学習補正量MffLの更新を回避することができる。ここで意図しない外乱とは、車両10の振動に起因したものや、加減速に起因して可動パネル14に加わる慣性力などがある。
【0052】
またCPU62は、フィードバック操作量Iを、規格化係数Kによって規格化した値に基づき、学習補正量MffLを更新する。これにより、不揮発性メモリ66に記憶される学習補正量MffLは、モータ32の温度Tmが基準温度であるときのフィードバック操作量I相当となる。そしてCPU62は、目標電圧V*を算出するためにフィードフォワード操作量Mffを読み出す場合には、不揮発性メモリ66に記憶された学習補正量MffLをそのまま用いるのではなく、規格化係数Kで除算することによって、現在の温度Tmにとって適切な学習補正量MffLとする。これにより、不揮発性メモリ66から読み出される基準量MffRが同一であっても、温度Tmが高い場合には低い場合よりも、フィードフォワード操作量Mffが大きい値に算出される。換言すれば、不揮発性メモリ66に記憶された基準量MffRと学習補正量MffLとの和であるフィードフォワード操作量Mffが、温度Tmが高い場合には大きい値に補正されて目標電圧V*の算出に利用される。これにより、フィードバック操作量Mfbが大きい値となることを抑制しつつも、目標電圧V*を、現在の温度Tmにおいて回転速度ωを目標値ω*に制御するうえで適切な値とすることができる。
【0053】
<対応関係>
上記実施形態における事項と、上記「課題を解決するための手段」の欄に記載した事項との対応関係は、次の通りである。以下では、「課題を解決するための手段」の欄に記載した解決手段の番号毎に、対応関係を示している。
【0054】
[1]2自由度操作量は、目標電圧V*に対応し、操作処理は、S26~S30の処理に対応し、更新処理は、S42~S50の処理に対応し、駆動回路は、Hブリッジ回路50に対応する。記憶装置は、不揮発性メモリ66に対応し、処理回路は、CPU62およびROM64に対応する。[2]不揮発性メモリ66に、位置x毎に学習補正量MffLが記憶されていることに対応する。すなわち、フィードフォワード操作量Mffは、不揮発性メモリ66に記憶されている基準量MffRと学習補正量MffLとからなり、学習補正量MffLが位置x毎に記憶されていることから、フィードフォワード操作量Mffが位置x毎に不揮発性メモリ66に記憶されていると見なせる。[3,4]規格化処理は、S62の処理に対応し、温度補正処理は、S24aの処理に対応する。[5]S60において否定判定される場合にS62,S22の処理に移行しない設定に対応する。[6]変位速度は、回転速度ωに対応する。[7]反転処理は、S14の処理に対応する。
【0055】
<その他の実施形態>
なお、上記実施形態の各事項の少なくとも1つを、以下のように変更してもよい。
・「制御量について」
上記実施形態では、変位速度として回転速度ωを用いたが、これに限らず、たとえば位置xの時間変化から算出される値であってもよい。制御量としては、変位速度に限らない。たとえば、モータ32に流れる電流であってもよい。
【0056】
・「目標値について」
上記実施形態では、基準開始位置xLまで、位置xに応じて目標値ω*を漸増させたが、これに限らず、たとえば基準値ωt未満であることを条件に、時間に応じて目標値ω*を漸増させてもよい。上記実施形態は、基準終了位置xHから、位置xに応じて目標値ω*を漸減させたが、これに限らず、たとえば終了値ωeよりも高いことを条件に、時間に応じて目標値ω*を漸減させてもよい。
【0057】
なお、基準値ωtが一定であることは必須ではなく、たとえば、可動パネル14の変位に伴う騒音が特に大きくなる領域があって且つその騒音が変位速度が高いほど大きくなる場合には、その領域において基準値ωtを低下させてもよい。
【0058】
ω*の初期値ω0が終了値ωeよりも小さいことは必須ではない。
・「基準量MffRについて」
上記実施形態では、フィードバック制御をする領域において基準量MffRを位置xによらない固定値としたが、これに限らない。たとえば移動体22の変位によってディフレクタ40を押し下げる領域等、同一の速度で変位させるために必要なトルクが他のトルクと比較して大きい領域を有する場合、その領域においては他の領域と比較して基準量MffRを大きい値としてもよい。
【0059】
・「フィードバック操作量について」
上記実施形態では、積分要素によるフィードバック操作量Iと、比例要素によるフィードバック操作量Pとの和を、目標電圧V*の算出に用いるフィードバック操作量Mfbとしたが、これに限らない。たとえば、微分要素によるフィードバック操作量Dを、さらに加算した値をフィードバック操作量Mfbとしてもよい。
【0060】
上記実施形態では、目標値を漸増させる期間や漸減させる期間をフィードバック制御をする期間としなかったが、これに限らない。なお、目標値を漸増させる期間や漸減させる期間をフィードバック制御をする期間とする場合であって、たとえば「目標値について」の欄に記載したように、時間に応じて目標値を漸増させたり漸減させたりする場合には、その期間におけるフィードバック操作量Mfbを、2重積分要素を利用して算出してもよい。
【0061】
・「フィードバック操作量の記憶処理について」
上記実施形態では、フィードバック操作量Iを記憶する記憶処理の周期と、フィードバック操作量の更新周期とを同一としたが、これに限らない。たとえば、記憶処理の周期を、フィードバック操作量の更新周期よりも長くしてもよい。
【0062】
上記実施形態では、記憶処理の記憶対象を、積分要素が算出するフィードバック操作量Iとしたが、これに限らず、たとえばフィードバック操作量Mfbとしてもよい。この場合、S42,S44の処理においてフィードバック操作量Iに代えてフィードバック操作量Mfbを用いる。
【0063】
フィードバック操作量Iとともに記憶するパラメータとしては、位置xに限らない。たとえば、下記「更新処理について」の欄に記載したように温度Tmの複数の領域のそれぞれ毎に学習補正量MffLを更新する場合、S62の処理を設けることなく、S20の処理において温度Tmに関する上記複数の領域および位置x毎にフィードバック操作量Iを記憶すればよい。
【0064】
なお、フィードバック操作量を記憶する処理は必須ではなく、たとえば図3の処理において、S28の処理の後に、不揮発性メモリ66から学習補正量MffLを読み出し、S20の処理で算出したフィードバック操作量に基づき、S44,S46の処理を実行してもよい。
【0065】
・「規格化処理について」
図6の処理においては、規格化係数Kを、積分要素によるフィードバック操作量Iに乗算したが、たとえば「フィードバック操作量の記憶処理について」の欄に記載したように、記憶対象をフィードバック操作量Mfbとする場合には、規格化係数Kを、フィードバック操作量Mfbに乗算すればよい。
【0066】
温度Tmによる特性変化を補償して学習補正量MffLを更新する手法としては、上記第2の実施形態において例示したものに限らない。たとえば、温度Tmの複数の領域のそれぞれ毎に学習補正量MffLを更新してもよい。なお、この場合、S24の処理において用いる学習補正量MffLを、そのときの温度Tmを含む領域における学習補正量MffLとすればよい。
【0067】
・「更新処理について」
更新処理による更新対象としては、制御量の目標値(目標値ω*)が一定である期間に限らない。たとえば「フィードバック操作量について」の欄に記載したように、目標値を漸増させる期間や漸減させる期間においてもフィードバック制御をする場合には、漸増する期間や漸減する期間においても学習補正量MffLを算出してもよい。ただし、目標値を漸増させる期間や漸減させる期間においてもフィードバック制御をする場合に漸増する期間や漸減する期間における学習補正量MffLを算出することは必須ではない。
【0068】
フィードフォワード操作量Mffの更新処理としては、位置xに応じて各別の値に更新するものに限らない。たとえば、上記基準開始位置xLから基準終了位置xHまでの領域におけるフィードバック操作量Iの平均値に基づき、同領域に共通の学習補正量MffLを算出してもよい。これによっても、個体差や経年変化によるフィードフォワード操作量Mffの精度の低下を抑制することができる。
【0069】
上記実施形態では、可動パネル14の変位方向に応じて学習補正量MffLを区別しなかったが、区別してもよい。すなわち、可動パネル14が全閉側に変位する場合の学習補正量MffLと、全開側に変位する場合の学習補正量MffLとを各別に算出してもよい。
【0070】
・「更新処理によって利用対象とされるフィードバック操作量について」
上記第2の実施形態では、車両10が停止している時のフィードバック操作量であることを、更新処理への利用条件としたが、これに限らない。たとえば、車両10が停止している場合であっても、たとえば通信線70を介して他ECU72から取得した路面の傾斜情報に基づき、傾斜が所定値以上である場合に算出されたフィードバック操作量については、更新処理に利用しないようにしてもよい。これは、傾斜が急である場合には、目標値ω*に制御する上で必要なモータ32のトルクが大きく異なるおそれがあることに鑑みたものである。
【0071】
・「2自由度操作量について」
上記実施形態では、2自由度操作量として目標電圧V*を用いたが、これに限らず、たとえば、Hブリッジ回路50の電源として電圧の変動が十分に抑制された安定電源を採用する場合には、電圧と正の相関を有するパラメータである時比率Dを用いてもよい。図7に、図6の処理において2自由度操作量を時比率Dに代えた処理を示す。図7に示す処理は、ROM64に記憶されたプログラムをCPU62が上記パルス信号の所定のエッジが出現する周期で繰り返し実行することにより実現される。なお、図7において、図6に示した処理に対応する処理については、便宜上同一のステップ番号を付与している。
【0072】
図7に示す処理において、CPU62は、S24aの処理においてフィードフォワード操作量Mffを算出すると、フィードバック操作量Mfbとフィードフォワード操作量Mffとを加算することにより、時比率Dを算出する(S26a)。また、CPU62は、S16において否定判定する場合、時比率Dに、フィードフォワード操作量Mffを代入する(S32a)。なお、CPU62は、S26a,S32aの処理が完了する場合、S30の処理に移行する。
【0073】
・「2自由度操作量の算出処理について」
2自由度操作量を、フィードフォワード操作量とフィードバック操作量との和とする代わりに、フィードバック操作量を補正係数とし、フィードフォワード操作量にフィードバック操作量を乗算した値を2自由度操作量としてもよい。
【0074】
・「操作処理について」
上記実施形態では、一方のハーフブリッジ回路を構成するハイサイドスイッチSH1(SH2)をオン状態に維持しつつ他方のハーフブリッジ回路を構成するローサイドスイッチSL2(SL1)をオン・オフ操作することによって、モータ32に印加される電圧を調整したがこれに限らない。たとえば、一方のハーフブリッジ回路を構成するローサイドスイッチSL1(SL2)をオン状態に維持しつつ他方のハーフブリッジ回路を構成するハイサイドスイッチSH2(SH1)をオン・オフ操作してもよい。
【0075】
・「挟み込み検出処理について」
上記実施形態では、回転速度ωの落ち込みが2度連続して検出されることにより、挟み込みを検出したが、これに限らない。たとえば、3回以上連続で回転速度ωの落ち込みが検出される場合に挟み込みを検出してもよく、またたとえば回転速度ωの落ち込みが1回検出される場合に挟み込みを検出してもよい。
【0076】
・「記憶装置について」
記憶装置としては、不揮発性メモリ66に限らない。たとえば、不揮発性メモリ66とROM64とを備えた装置であってもよい。この場合、基準量MffRをROM64に記憶し、学習補正量MffLを不揮発性メモリ66に記憶すればよい。
【0077】
・「車両用開閉体について」
車両用開閉体としては、可動パネル14に限らない。たとえば、車両の窓ガラスやスライドドアであってもよい。
【0078】
・「駆動回路について」
駆動回路としては、Hブリッジ回路50に限らない。たとえばモータを3相ブラシレスモータとし、駆動回路を3相インバータとしてもよい。この場合たとえば、周知の120°通電方式による通電期間において、ローサイドスイッチおよびハイサイドスイッチのいずれか一方を周期的にオン・オフ操作し、その時比率Dを可変とすればよい。
【0079】
・「制御装置について」
制御装置としては、CPU62とROM64とを備えて、ソフトウェア処理を実行するものに限らない。たとえば、上記実施形態においてソフトウェア処理されたものの少なくとも一部を、ハードウェア処理する専用のハードウェア回路(たとえばASIC等)を備えてもよい。すなわち、制御装置は、以下の(a)~(c)のいずれかの構成であればよい。(a)上記処理の全てを、プログラムに従って実行する処理装置と、プログラムを記憶するROM等のプログラム格納装置とを備える。(b)上記処理の一部をプログラムに従って実行する処理装置およびプログラム格納装置と、残りの処理を実行する専用のハードウェア回路とを備える。(c)上記処理の全てを実行する専用のハードウェア回路を備える。ここで、処理装置およびプログラム格納装置を備えたソフトウェア処理回路や、専用のハードウェア回路は複数であってもよい。すなわち、上記処理は、1または複数のソフトウェア処理回路および1または複数の専用のハードウェア回路の少なくとも一方を備えた処理回路によって実行されればよい。
【符号の説明】
【0080】
10…車両、12…開口部、14…可動パネル、20…ガイドレール、22…移動体、24…開閉駆動機構、30…アクチュエータ、32…モータ、34…ベルト、40…ディフレクタ、50…Hブリッジ回路、52…バッテリ、54…操作スイッチ、56…回転角度センサ、58…温度センサ、60…制御装置、62…CPU、64…ROM、66…不揮発性メモリ、70…通信線、72…他ECU。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7