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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】人工芝
(51)【国際特許分類】
   E01C 13/08 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
E01C13/08
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2017162532
(22)【出願日】2017-08-25
(65)【公開番号】P2019039231
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-06-19
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【弁理士】
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【弁理士】
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【弁理士】
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】羽嶋 宏治
(72)【発明者】
【氏名】堀尾 孝志
【審査官】荒井 良子
(56)【参考文献】
【文献】特公昭54-003299(JP,B1)
【文献】特開平06-146155(JP,A)
【文献】特開平04-019135(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
E01C 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と、前記基材上に起立する芝葉を模した多数のパイルとを備える人工芝の製造方法であって、
第1シート上に接着剤を塗布し、前記接着剤を挟み込むように前記第1シートに第2シートを重ね合わせることにより、前記基材を製造する工程と、
前記接着剤が硬化する前に、前記基材に対し前記パイルを植設する工程と
を含む、
人工芝の製造方法。
【請求項2】
前記基材を製造する工程は、前記接着剤を介して前記第1シートと前記第2シートとを圧着させる工程を含む、
請求項1に記載の人工芝の製造方法。
【請求項3】
前記接着剤は、前記第1シートに化学的に接着する、
請求項1又は2に記載の人工芝の製造方法。
【請求項4】
前記接着剤は、前記第2シートに化学的に接着する、
請求項1から3のいずれかに記載の人工芝の製造方法。
【請求項5】
前記接着剤は、常温硬化型である、
請求項1から4のいずれかに記載の人工芝の製造方法。
【請求項6】
前記第1シートは、ポリオレフィン製である、
請求項1から5のいずれかに記載の人工芝の製造方法。
【請求項7】
基材と、
前記基材上に起立する芝葉を模した多数のパイルと
を備える人工芝であって、
前記基材は、第1シートと、前記第1シート上に形成された接着剤層と、前記接着剤層を挟み込むように前記第1シートに重ね合わせられた第2シートとを含み、
前記多数のパイルは、前記第1シート、前記接着剤層及び前記第2シートを順次貫通するように、前記基材に植設されており、
前記接着剤層は、前記パイルの根本部分に形成される隙間に入り込んでいる、
人工芝。
【請求項8】
前記接着剤層は、前記第1シートに化学的に接着している、
請求項に記載の人工芝。
【請求項9】
前記接着剤層は、前記第2シートに化学的に接着している、
請求項7又は8に記載の人工芝。
【請求項10】
前記第1シートは、ポリオレフィン製である、
請求項7からのいずれかに記載の人工芝。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、芝葉を模した多数のパイルを有する人工芝及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、サッカー場やラグビー場、野球場等の様々な運動競技施設において、人工芝が普及している。人工芝は、多くの場合、基材上に芝葉を模した多数のパイルを植設することにより製造される。しかしながら、単に植設するだけでは、パイルが基材から抜け落ちる虞がある。そのため、通常、基材においてパイルの根本部分が露出する下面側に、SBRラテックスやウレタン樹脂等のバッキング剤が塗布され、バッキング層が形成される(例えば、特許文献1,2等)
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2016-20574号公報
【文献】特開2016-950号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、SBRラテックスやウレタン樹脂等のバッキング剤は、硬化させるために長時間、乾燥工程に曝す必要がある。このとき、バッキング剤が硬化するまで、人工芝を巻き取ることが困難であるため、人工芝は広げられたままの状態に維持されなければならない。その結果、製造ラインが長くなる、或いは製造設備が大型化してしまう。
【0005】
本発明は、製造ラインを短縮する、或いは製造設備を簡略化することが可能な人工芝及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
第1観点に係る人工芝の製造方法は、基材と、前記基材上に起立する芝葉を模した多数のパイルとを備える人工芝の製造方法であり、以下の(1)及び(2)の工程を含む。
(1)第1シート上に接着剤を塗布し、前記接着剤を挟み込むように前記第1シートに第2シートを重ね合わせることにより、前記基材を製造する工程。
(2)前記接着剤が硬化する前に、前記基材に対し前記パイルを植設する工程。
【0007】
第2観点に係る人工芝の製造方法は、第1観点に係る人工芝の製造方法であって、上記(2)の工程は、前記接着剤を介して前記第1シートと前記第2シートとを圧着させる工程を含む。
【0008】
第3観点に係る人工芝の製造方法は、第1観点又は第2観点に係る人工芝の製造方法であって、前記接着剤は、前記第1シートに化学的に接着する。
【0009】
第4観点に係る人工芝の製造方法は、第1観点から第3観点のいずれかに係る人工芝の製造方法であって、前記接着剤は、前記第2シートに化学的に接着する。
【0010】
第5観点に係る人工芝の製造方法は、第1観点から第4観点のいずれかに係る人工芝の製造方法であって、前記接着剤は、常温硬化型である。
【0011】
第6観点に係る人工芝の製造方法は、第1観点から第5観点のいずれかに係る人工芝の製造方法であって、前記第1シートは、ポリオレフィン製である。
【0012】
第7観点に係る人工芝は、基材と、前記基材上に起立する芝葉を模した多数のパイルとを備える。前記基材は、第1シートと、前記第1シート上に形成された接着剤層と、前記接着剤層を挟み込むように前記第1シートに重ね合わせられた第2シートとを含む。前記接着剤層は、前記パイルの根本部分に形成される隙間に入り込んでいる。
【0013】
第8観点に係る人工芝は、第7観点に係る人工芝であって、前記多数のパイルは、前記第1シート、前記接着剤層及び前記第2シートを貫通するように、前記基材に植設されている。
【0014】
第9観点に係る人工芝は、第7観点又は第8観点に係る人工芝であって、前記接着剤層は、前記第1シートに化学的に接着している。
【0015】
第10観点に係る人工芝は、第7観点から第9観点のいずれかに係る人工芝であって、前記接着剤層は、前記第2シートに化学的に接着している。
【0016】
第11観点に係る人工芝は、第7観点から第10観点のいずれかに係る人工芝であって、前記第1シートは、ポリオレフィン製である。
【発明の効果】
【0017】
第1観点によれば、第1シート上に接着剤を塗布し、接着剤を挟み込むように第1シートに第2シートを重ね合わせることにより、人工芝の基材が製造される。そして、接着剤が硬化する前に、基材に対しパイルが植設される。従って、接着剤がパイルの根本部分に形成される隙間に入り込み、接着剤が硬化した後には、基材からのパイルの脱落を効果的に防止することができる。さらに、この接着剤は、2枚のシート(第1シート及び第2シート)に挟み込まれているため、パイルの植設後、接着剤の硬化前であっても、人工芝を直ぐに巻き取ることができる。従って、製造ラインを短縮する、或いは製造設備を簡略化することができる。
【0018】
第7観点によれば、接着剤層がパイルの根本部分に形成される隙間に入り込んでいるため、基材からのパイルの脱落を効果的に防止することができる。さらに、接着剤層が2枚のシート(第1シート及び第2シート)に挟み込まれているため、パイルの植設後、接着剤層の硬化前であっても、人工芝を直ぐに巻き取ることができる。従って、製造ラインを短縮する、或いは製造設備を簡略化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】本発明の一実施形態に係る人工芝の側面図。
図2】人工芝を製造するための製造ラインの一部を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0020】
以下、図面を参照しつつ、本発明の一実施形態に係る人工芝及びその製造方法について説明する。
【0021】
<1.人工芝>
本実施形態に係る人工芝1は、サッカー場やラグビー場、野球場等の各種運動競技施設において、アスファルト面や地面等の設置面上に敷き広げるようにして設置される。図1に示すように、人工芝1は、基材2と、基材2の上面2a上に起立する芝葉を模した多数のパイル3とを有する。基材2は、シート状に形成されており、パイル3は、基材2上に所定の間隔をあけて植設されている。なお、本章(<1.人工芝>)の説明においては、特に断らない限り、「上下」とは、人工芝1の施工時の鉛直上下を意味するものとする。
【0022】
パイル3の材質及び形態は、芝葉の外観を実現することができる限り、特に限定されないが、例えば、パイル3は、合成樹脂からなる糸(ヤーン)を用いて形成することができる。ヤーンは、例えば、モノフィラメント糸であっても、スプリットヤーンであってもよい。また、ヤーンは、ストレートヤーンであってもよいし、捲縮ヤーンであってもよい。合成樹脂としては、典型的には、熱可塑性樹脂を選択することができ、好ましくは、ポリエチレンやポリプロピレン等のポリオレフィンや、ナイロンが選択される。本実施形態のパイル3は、ポリエチレン製のヤーンから形成される。また、本実施形態のパイル3は、タフティングマシンを用いて、パイル3となるヤーンを基材2に縫い込むことにより、基材2に対して固定されている。
【0023】
基材2の上面2aからパイル3の先端までの長さW1(平均値)は、特に限定されないが、20mm≦W1<50mmと比較的短くすることもできるし(一般にショートパイルと呼ばれる)、50mm≦W1≦70mmと比較的長くすることもできる(一般にロングパイルと呼ばれる)。なお、パイル3は、基材2上で自重や踏みつけ等により大なり小なり傾くが、ここでいう芝長さW1とは、それぞれパイル3を直線状に伸ばしたときの長さである。パイル3の横断面形状は、三角形、四角形、楕円形、星形等の様々な形状とすることができる。
【0024】
本実施形態のパイル3は、基材2上の各植設点P1において、複数本ずつ(図1の例では、8本ずつ)植設されている。しかしながら、1つの植設点P1におけるパイル3の本数は、適宜変更することができる。
【0025】
図1に示すとおり、基材2は、下部基布22、接着剤層4及び上部基布21がこの順に下から積み上げられたような三層構造を有している。つまり、上部基布21と下部基布22とが、両者の間に接着剤層4を挟み込んだ態様で重ね合わされており、接着剤層4を介して互いに接着されている。
【0026】
パイル3は、下部基布22、接着剤層4及び上部基布21を上下方向に貫通するように、基材2に植設されている。すなわち、基材2の上面2a(上部基布21の上面)からは、多数本のパイル3が突出しており、基材2の下面2b(下部基布22の下面)からは、パイル3の根本部分の一部が露出している。この露出部分は、略U字状(図2参照)に延びており、言い換えると、基材2の下面2bから出た後、下面2bに沿って延び、さらに下面2b内に戻るヤーンにより形成される。
【0027】
上部基布21の材質及び形態は、特に限定されないが、例えば、上部基布21は、合成樹脂からなる織布として形成することができる。織り方としては、平織や綾織等が考えられる。合成樹脂としては、典型的には、熱可塑性樹脂を選択することができ、好ましくは、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンが選択される。本実施形態の上部基布21は、ポリプロピレン製の平織布である。
【0028】
下部基布22の材質及び形態も、特に限定されないが、例えば、下部基布22も、合成樹脂からなる織布として形成することができる。織り方としては、平織や綾織等が考えられる。下部基布22を構成する合成樹脂についても同様に、典型的には、熱可塑性樹脂を選択することができ、好ましくは、ポリプロピレンやポリエチレン等のポリオレフィンが選択される。また、別の好ましい例を挙げると、下部基布22は、ポリエステルやPVCコーティングされたガラス繊維等から形成することもできる。本実施形態の下部基布22は、ポリプロピレン製の平織布である。
【0029】
接着剤層4は、パイル3が基材2から抜け落ちるのを防止するために、上部基布21の表面上に塗布された接着剤が硬化して形成された層である。接着剤の種類は、特に限定されず、例えば、従来のバッキング剤ように、SBRラテックス、ウレタン樹脂又はアクリル樹脂、或いはこれらの混合品とすることもできる。ただし、この種の接着剤が選択される場合には、主として物理的な接着によりパイル3が固定されることになる。つまり、接着剤が、基布21,22の織り目の開口やパイル3の根本部分の隙間等に入り込み、絡まることにより、接着剤の硬化後には、基布21,22及びパイル3が物理的に接着される。一方で、この種の接着剤は、ポリオレフィン製の基布21,22及びパイル3に化学的に接着しない。
【0030】
従って、本実施形態では、以上のような接着剤に代えて、基布21,22及びパイル3に化学的に接着する接着剤が用いられる。また、本実施形態では、接着剤は、常温硬化型である。これにより、接着剤層4は、基布21への接着剤の塗布後、高温環境下に曝さずとも硬化し、基布21,22及びパイル3に化学的に接着する。同時に、基布21,22及びパイル3は、接着剤が基布21,22の織り目の開口やパイル3の根本部分の隙間等に入り込み、絡まることにより、接着剤の硬化後には、化学的に接着されるのみならず、物理的にも接着される。これにより、パイル3の引き抜きに対する強度が高められる。
【0031】
また、人工芝1は、通常、グラウンド等に施工される前においては、ロール状に巻き取られた状態で保管され、搬送される。従って、接着剤層4は、人工芝1の巻き取りを容易にする観点からは、硬化後においてもゴム弾性を有する弾性接着剤から構成されることが好ましい。弾性接着剤としては、変性シリコーン樹脂系の接着剤を選択することができ、好ましくは、アクリル変性シリコーン樹脂系の接着剤を選択することができる。
【0032】
接着剤層4を構成する接着剤は、例えば、一液湿気硬化型であってもよいし、二液反応硬化型であってもよい。また、可使時間が20分~30分程度の接着剤が選択されることが好ましい。接着剤層4は、好ましくは1mm程度の厚み、より好ましくは、0.5mm~0.7mm程度の厚みを有する。
【0033】
なお、シリコーン樹脂系の接着剤が使用される場合には、SBRラテックスやウレタン樹脂、アクリル樹脂等の接着剤が使用される場合に比べ、経時劣化に対する耐久性に優れる。すなわち、シリコーン樹脂系の接着剤は、耐候性が高いため、徐々に硬くなり、ひび割れや剥がれが発生したり、雨水による加水分解により結合が崩壊したり等の問題が生じ難い。
【0034】
また、基材2の上面2a上においてパイル3間には、充填材5が充填される。この充填材5は、芝葉を保護する他、プレーヤーがプレー中に怪我をしないようにするためのクッション材としての役割を果たすこともできる。また、充填材5は、競技に使用されるボールの弾み具合を調整したり、選手の走り易さをコントロールすることも可能であり、人工芝1上での競技のプレー性能を向上させることもできる。なお、このような充填材5は、省略することも可能であるが、パイル3がロングパイルと呼ばれる比較的高さのあるパイルである場合に、特に好ましく使用される。
【0035】
充填材5としては、弾性充填材5a及び硬質充填材5bの少なくとも一方を用いることができる。弾性充填材5aとしては、例えば、廃タイヤの破砕品等からなるゴムチップを用いることができる。硬質充填材5bとしては、例えば、砂を用いることができる。図1の例では、パイル3間に、硬質充填材5b及び弾性充填材5aの両方が充填されている。
【0036】
<2.製造方法>
次に、人工芝1の製造方法の一例について説明する。なお、本章(<2.製造方法>)の説明においては、特に断らない限り、「上下」とは、人工芝1の製造時の鉛直上下を意味するものとする。
【0037】
まず、パイル3を構成するための材料(以下、パイル材料という)として、緑色の着色剤が混合された合成樹脂(本実施形態では、ポリエチレン)を用意し、パイル材料からパイル3を構成するためのヤーンを製造する。具体的には、パイル材料を押出機に投入し、所定の温度条件下で溶融押出し成形を行う。これにより、押出機の開口から、糸状のパイル材料が押し出される。続いて、押出機から押し出された糸状のパイル材料を水槽内で冷却固化し、この糸を一軸延伸加工する。一軸延伸加工の方法としては、ロール延伸法を用いることができる。さらにその後、熱水槽内で弛緩熱処理を行うことで、パイル材料からなるヤーンが製造される。弛緩熱処理後、ヤーンはボビンに巻き取られる。
【0038】
続いて、基材2を製造する。まず、上部基布21、下部基布22及び接着剤層4を形成するための接着剤を用意する。接着剤は、基布21,22(及びパイル3)の表面に対するプライマーの塗布やコロナ放電等の前処理を省略するべく、当該前処理なしに、基布21,22(及びパイル3)に対し化学的に接着するものが選択されることが好ましい。
【0039】
図2は、人工芝1を製造するための製造ラインの一部6を示す図である。図2中、参照符号61は、上部基布21が巻き取られたロールを示しており、参照符号62は、下部基布22が巻き取られたロールを示している。ロール61は、ロール62によりも下方に配置されている。
【0040】
ロール61からは、上部基布21が所定の速度で繰り出され、所定の搬送方向A1に搬送される。このとき、上部基布21には搬送方向A1に張力が加えられており、上部基布21は、直線状にたるむことなく搬送方向A1に沿って進んでいく。本実施形態では、搬送方向A1は、水平方向である。また、このとき、最終的に基材2の上面2aとなる面は、下方を向いている。
【0041】
同時に、ロール61の上方に配置されているロール62からは、下部基布22が所定の速度で繰り出され、所定の搬送方向B1に搬送される。このとき、下部基布22にも搬送方向B1に張力が加えられており、下部基布22も、直線状にたるむことなく搬送方向B1に沿って進んでいく。また、このとき、最終的に基材2の下面2bとなる面は、上方を向いている。図2に示すとおり、下部基布22は、ロール62から繰出された直後においては、斜め下方に向かって進む。その後、下部基布22は、搬送方向A1に沿ってロール61から一定距離進んだ合流点D1において、上部基布21と合流する。
【0042】
また、搬送方向A1に沿って合流点D1の上流側には、接着剤を排出するフィーダー63が配置されている。フィーダー63からは、上部基布21の最終的に上面2aとなる面と反対側の面(製造ラインにおいては、上面)に対し、接着剤が一定の速度で排出され、塗布される。なお、接着剤は、上部基布21の表面に対し概ね均一に塗布されることが好ましい。以上より、上部基布21が合流点D1に達したとき、上部基布21において下部基布22と対面する側の表面には、接着剤が塗布されている。
【0043】
合流点D1には、基布21,22及び接着剤を挟み込むように、これらの部材の上下に分かれて配置される一対の圧着部材64a,64bが配置されている。この圧着部材64a,64bは、基布21,22に加わる張力を調整する他、接着剤を介して基布21,22どうしを圧着する役割を果たす。従って、最終的に形成される接着剤層4は、概ね均一の厚みを有することになる。また、圧着部材64a,64bを通過する前において、上部基布21の表面に塗布されている接着剤に多少のムラがあったとしても、当該ムラは、圧着部材64a,64bの圧着により解消されることになる。なお、圧着部材64a,64bは、例えば、一対のロール部材として実現される。
【0044】
以上の構成により、合流点D1では、上部基布21と下部基布22とが接着剤を挟み込むように重ね合わせられ、基材2が形成される。その結果、基材2は、上部基布21及び下部基布22が接着剤を介して密着した状態の1枚のシートとなる。また、合流点D1では、下部基布22の搬送方向B1が、圧着部材64aに沿って折れ曲がる。そして、下部基布22は、合流点D1を通過した後は、上部基布21よりも上方において、上部基布21と一体となって、搬送方向A1と平行に搬送方向B1に沿って進んでゆく。
【0045】
合流点D1の下流側では、基材2に対するパイル3の植設が行われる。具体的には、合流点D1の下流側には、一列に並ぶ複数本の針65を有するタフティングマシンが配置されている。なお、これらの針65は、図2の紙面に垂直な方向に一列に配列されている。本実施形態では、ヤーン(図2に、参照符号3aで示す)が巻き取られたボビン(図示せず)が複数個用意され、各々から繰り出される複数本のヤーン3aを一束に撚り合わせた後、この撚り合わされたヤーン3aがタフティングマシンにより基材2に縫い付けられる。なお、図2においては、簡単のため、1本のヤーン3aのみが図示されている。
【0046】
より具体的には、針65は、針先が下方を向いており、タフティングしていないときの基本位置にあるとき、基材2の上方に配置されている。針65の針先には、開口が形成されており、この開口には、撚り合わされたヤーン3aが挿入されている。その後、針65が下方へ移動し、基材2に突き刺さり、針先が基材2の上面2a(製造ラインにおいて、下面)から突出する。このとき、ヤーン3aも針65に運ばれて、基材2の上面2aからループ状に突出する。そして、基材2の下方に配置されているカッター66により、基材2の上面2aから突出するヤーン3aのループが中央でカットされる。その結果、基材2上の同じ箇所(植設点P1)からは、複数本ずつ、より正確には、撚り合わされたヤーン3aの本数の2倍の本数のパイル3が起立することになる。その後、針65が上方へ移動し、基材2から引き抜かれる。なお、このとき、針65の水平方向の位置は移動しないが、上述したとおり、基材2が所定の速度で水平方向に移動している。そのため、針65がこのような上下の往復運動を繰り返すことにより、基材2の表面に多数のパイル3が連続的に植設されることになる。
【0047】
以上のタフティングは、基材2の2枚の基布21,22に挟まれている接着剤が硬化する前に行われる。そのため、本実施形態では、タフティングマシンは、合流点D1の下流側であって、合流点D1の近傍に配置されている。従って、ヤーン3aが接着剤を上下方向に貫通した後も、接着剤は流動性を有しているため、パイル3の根本部分に形成される微細な隙間に入り込む。なお、ここでいう微細な隙間には、撚り合わされた複数本のヤーン3aの間に形成される隙間、タフティングにより基材2に形成されたヤーン3aが通り抜ける貫通孔、及び基布21,22の編み目が含まれる。そして、この状態で接着剤が硬化することにより、パイル3の根本部分、基布21,22及び接着剤が一体化し、互いに強固に接着される。また、本実施形態では、パイル3、基布21,22及び接着剤が上述した材料で形成されているため、これらは物理的にも化学的にも強固に接着される。以上の観点からは、接着剤は、非速乾性のものが使用されることが好ましい。
【0048】
タフティングが終わると、人工芝1(充填材5を除く)が形成される。本実施形態では、こうして形成された人工芝1は、接着剤が硬化する前に、保管又は搬送に適するように、ロール状に巻き取られる。このとき、接着剤は、2枚の基布21,22により挟み込まれており、硬化前であっても基布21,22の間から殆ど抜け出すことができない。従って、接着剤が、人工芝1の意図せぬ部位どうしを接着してしまうことがない。そのため、人工芝1の巻き取り前に接着剤の硬化を待つ必要がないため、製造ラインが短縮され、或いは製造設備が簡略化される。なお、勿論、接着剤がある程度硬化するまで、人工芝1を敷き広げた状態で製造ライン中を搬送し、或いはどこかに静置した後、人工芝1を巻き取るようにしてもよい。このような場合であっても、人工芝1の巻き取り前に接着剤の完全な硬化を待つ必要がないため、製造ラインが短縮され、或いは製造設備が簡略化される。また、本実施形態では、接着剤が常温硬化型であるため、タフティング後、製造ラインにおいて加熱処理が行われず、これによっても、製造ラインが短縮され、或いは製造設備が簡略化される。また、加熱処理が省略されることにより、パイル3の収縮や湾曲等の形状変化が起こらず、人工芝1の外観を長期に亘り良好に維持することができる。
【0049】
<3.変形例>
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて、種々の変更が可能である。例えば、以下の変更が可能である。また、以下の変形例の要旨は、適宜組み合わせることができる。
【0050】
<3-1>
人工芝1の巻き取り前に接着剤の硬化を促進する各種処理を行ってもよい。ここでいう処理としては、例えば、乾燥空気を基材2に送風するといった乾燥処理、熱風、熱板を基材2に当てるといった加熱処理等が考えられる。このような場合であっても、人工芝1の巻き取り前に完全な硬化を待つ必要がないため、製造ラインを短縮、或いは製造設備を簡略化することができる。
【0051】
また、上記実施形態では、常温硬化型の接着剤が用いられたが、これに限らず、例えば、加熱硬化型のものが用いられてもよい。この場合には、パイル3のタフティング後、製造ラインに沿って加熱処理を行う、及び/又は巻き取られた人工芝1に対し加熱処理を行えばよい。加熱処理としては、熱風、熱板を基材2に当てる等が考えられる。このような場合であっても、人工芝1の巻き取り前に完全な硬化を待つ必要がないため、製造ラインを短縮、或いは製造設備を簡略化することができる。
【0052】
<3-2>
下部基布22は、メッシュ状に形成することもできる。この場合、硬化前の接着剤の垂れを防止するために、下部基布22の下側(接着剤と反対側)に第3の基布を重ね合わせることもできる。また、下部基布22がメッシュ状であるか否かに関わらず、3枚以上の基布を重ね合わせて基材2とすることができる。
【0053】
<3-3>
上記実施形態では、上部基布21に接着剤を塗布した後、接着剤を下部基布22で覆ったが、下部基布22に接着剤を塗布した後、接着剤を上部基布21で覆うようにしてもよい。
【0054】
また、上記実施形態では、基布21,22及び接着剤を全て重ね合わせた後に、ヤーン3aのタフティングを行ったが、基布21の下面(人工芝1の状態での下面)に接着剤を塗布した後にヤーン3aのタフティングを行い、その後、基布22を接着剤に張り付けてもよい。或いは、基布21にヤーン3aをタフティングした後、基布21の下面(人工芝1の状態での下面)に接着剤を塗布し、その後、基布22を接着剤に張り付けてもよい。
【符号の説明】
【0055】
1 人工芝
2 基材
21 上部基布(第1シート)
22 下部基布(第2シート)
3 パイル
4 接着剤層
図1
図2