(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】正極活物質、正極活物質の製造方法、正極および二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 4/58 20100101AFI20220203BHJP
C01G 31/00 20060101ALI20220203BHJP
H01M 10/054 20100101ALN20220203BHJP
H01M 10/052 20100101ALN20220203BHJP
【FI】
H01M4/58
C01G31/00
H01M10/054
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2017177820
(22)【出願日】2017-09-15
【審査請求日】2020-08-05
(73)【特許権者】
【識別番号】390039929
【氏名又は名称】三桜工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】591267855
【氏名又は名称】埼玉県
(73)【特許権者】
【識別番号】592197418
【氏名又は名称】株式会社田中化学研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100192773
【氏名又は名称】土屋 亮
(72)【発明者】
【氏名】新井 善行
(72)【発明者】
【氏名】杉田 和幸
(72)【発明者】
【氏名】本多 敦
(72)【発明者】
【氏名】滝本 裕一郎
(72)【発明者】
【氏名】栗原 英紀
(72)【発明者】
【氏名】稲本 将史
(72)【発明者】
【氏名】堂前 京介
【審査官】宮田 透
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-071531(JP,A)
【文献】特開2012-116737(JP,A)
【文献】特開2011-054389(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107500355(CN,A)
【文献】米国特許出願公開第2015/228969(US,A1)
【文献】特開2010-031235(JP,A)
【文献】特開2009-263158(JP,A)
【文献】化学大事典,第1版,日本,株式会社 東京化学同人,1989年10月20日,pp.881-882(「酸化バナジウム」の欄)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/00- 4/62
H01M 10/05-10/0587
C01G 31/00-31/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マグネシウム二次電池またはリチウムイオン二次電池用の正極活物質であり、
チタン化合物、鉄化合物、グラファイトから選ばれる少なくとも1種から形成されている核を起点とする長軸方向の最大長さが5μm以下に成長を抑制された
バナジン酸アンモニウムの結晶を含む粒子であることを特徴とする正極活物質。
【請求項2】
請求項1に記載の正極活物質を含む正極。
【請求項3】
リチウムイオン二次電池またはマグネシウム二次電池であり、
請求項2に記載の正極を含むことを特徴とする二次電池。
【請求項4】
マグネシウム二次電池またはリチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法であり、
チタン化合物、鉄化合物、グラファイトから選ばれる少なくとも1種である核形成材料が溶解または分散した核材料溶液と、バナジウム化合物溶液とを混合して混合溶液とする工程(1)と、
前記混合溶液を酸性に調製する工程(2)と、
バナジン酸アンモニウムの結晶を析出させる析出工程(3)とを含み、
前記析出工程が、前記混合溶液中で核を析出させて、前記核を起点として
バナジン酸アンモニウムを析出させる工程(3a)、または前記混合溶液中に分散している核形成材料を起点として
バナジン酸アンモニウムを析出させる工程(3b)であることを特徴とする正極活物質の製造方法。
【請求項5】
前記析出工程を50~100℃の温度で行うことを特徴とする
請求項4に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項6】
前記混合溶液が炭酸塩化合物を含むことを特徴とする
請求項4または請求項5に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項7】
前記炭酸塩化合物が、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする
請求項6に記載の正極活物質の製造方法。
【請求項8】
前記析出工程で析出させた
バナジン酸アンモニウムの結晶を260~315℃の温度で焼成する工程を含むことを特徴とする
請求項4~
請求項7のいずれか1項に記載の正極活物質の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、正極活物質、正極活物質の製造方法、正極および二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
二次電池用の正極活物質として、バナジウム酸化物を含むものがある。バナジウム酸化物を含む二次電池用の正極活物質は、高容量の二次電池の実現が期待できる正極材料の1つである。特に、バナジウム酸化物は、マグネシウムイオンの挿入脱離が可能な数少ない正極材料である。このため、バナジウム酸化物を、マグネシウム二次電池用の正極材料として用いることが検討されている。
【0003】
例えば、非特許文献1には、五酸化バナジウムの層状構造の層間に水が挿入されて、層間が拡がった五酸化バナジウムキセロゲルが、安定してマグネシウムイオンを挿入脱離できることが報告されている。
特許文献1には、バナジウムと炭素材料とを混合した混合材料を調製する混合工程と、前記混合工程で得られた混合材料を酸化雰囲気において275℃以上で熱処理する熱処理工程と、を含む正極の製造方法が記載されている。特許文献1には、熱処理によりバナジウム酸化物の層間などに存在する水分を除去することによって、水との反応により生じる負極の劣化を抑制することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、ルテニウム化合物と、バナジウム化合物と、タングステン化合物とを電極母材に混合して混合物を得る工程と、前記混合物を熱処理する工程とを含む電気化学蓄電デバイス用電極の製造方法が記載され、バナジウム化合物が、バナジウム酸化物を含むことが記載されている。
【0005】
非特許文献2および非特許文献3には、バナジウム酸化物を溶解したアルカリ溶液を酸性にしてバナジウム酸化物の結晶を析出させる時に、過剰のカチオン(アンモニウムイオン、銅イオン、鉄イオン等)を添加すると、バナジウム酸化物の棒状結晶が成長することが記載されている。非特許文献2および非特許文献3には、バナジウム酸化物の棒状結晶を高温で焼成した材料が、リチウムイオン電池用の正極活物質として高い性能を発揮することが報告されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2011-054389号公報
【文献】特開2003-282371号公報
【文献】特開2013-58348号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】M.Hibino,Y.Ikeda,Y.Noguchi,T.Kudo;生産研究,52,516(2000).
【文献】J.C.Trombe,etc,J.Solid State Chem.180 2102-2109(2007).
【文献】N.Wang,J.Soild State Chem.181, 652-657(2008).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、いずれの文献に記載されているバナジウム酸化物を用いたマグネシウム二次電池およびリチウムイオン二次電池においても、電池性能の改善が必要であった。
本発明者は、バナジウム酸化物の結晶が成長した結果、イオンの移動が阻害されているものと推測した。
【0009】
バナジウム酸化物の結晶は、酸性溶液中、50℃以上の温度で析出させることができ、60℃以上の温度で析出させることが好ましい。バナジウム酸化物を析出させる温度が60℃以上であると、バナジウム酸化物がゲル状になることを抑制できる。
しかしながら、以下に示すように、析出温度を高くすると、バナジウム酸化物の棒状結晶が成長する。バナジウム酸化物の棒状結晶を正極活物質として用いたマグネシウム二次電池は、正極の電池容量、サイクル維持率が不十分である。また、バナジウム酸化物の棒状結晶を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池では、十分なレート特性が得られない。
【0010】
バナジウム酸化物を析出させる温度を低くすると、棒状結晶の成長を抑制できる。しかし、以下に示すように、バナジウム酸化物の析出温度を低くすると、バナジウム酸化物の収率が低くなるため、改善が要求されていた。
【0011】
[実験1~実験6]
以下に示すバナジウム化合物溶液と、以下に示すカチオンが溶解した溶液とを混合して混合溶液とした。
次に、硫酸を用いて混合溶液をpH3の酸性溶液とした。その後、酸性溶液を50℃(実験1)、55℃(実験2)、60℃(実験3)、70℃(実験4)、75℃(実験5)、80℃(実験6)のいずれかの温度で5時間、バナジウム酸化物の結晶を析出させた。
次いで、析出させたバナジウム酸化物の結晶を濾過し、洗浄して、乾燥させ、290℃の温度で焼成した。
以上の工程により、実験1~実験6の正極活物質を得た。
【0012】
(バナジウム化合物溶液)
メタバナジン酸アンモニウム(太陽鉱工株式会社製):1.17g
アンモニア水(30%):1ml
純水:35ml
(カチオンが溶解した溶液)
フッ化アンモニウム:2.22g
純水:10ml
【0013】
実験1~実験6の正極活物質を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果を
図9~
図14に示す。
図9は実験1の写真、
図10は実験2の写真、
図11は実験3の写真、
図12は実験4の写真、
図13は実験5の写真、
図14は実験6の写真である。
図9に示すように、50℃でバナジウム酸化物の結晶を析出させた実験1では、長軸方向の最大長さが5μmを超える五酸化バナジウムの結晶が析出した。この結晶は、酸性溶液中で生成したゲル状のバナジウム酸化物を焼成したことにより得られた。
図10~
図13に示すように、55℃~75℃でバナジウム酸化物の結晶を析出させた実験2~5では、析出した結晶が5μm以上に成長していない。
図14に示すように、80℃でバナジウム酸化物の結晶を析出させた実験6では、長軸方向の最大長さが5μmを超える棒状結晶が析出した。
【0014】
「マグネシウム二次電池」
実験1~実験6の各正極活物質を用いて、以下に示す方法によりマグネシウム二次電池の三極式評価セルを形成し、充放電特性を評価した。
各正極活物質と、導電剤としてのアセチレンブラックと、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、質量比で7:2:1で使用し、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とともに混合してスラリーとした。得られたスラリーを正極集電体としてのカーボンペーパーに塗工し、130℃で乾燥させることにより正極を得た。
【0015】
対極および参照極としては、マグネシウムリボンを用いた。
電解液としては、マグネシウムトリフルオロメタンスルホニルアミド0.3mol/lと、無水コハク酸0.6mol/lとを含む、トリエチレングリコールジメチルエーテル(商品名;トリグライム、三共化学株式会社製)からなるものを用いた。
上記の正極と、対極と、参照極と、電解液を密封型のビーカーセルにアルゴン雰囲気で設置することにより、実験1~実験6の三極式評価セルを得た。
【0016】
得られた三極式評価セルを充放電装置(商品名TOSCAT3100:東洋システム社製)に設置して複数回充放電試験を行い、正極の電池容量と電位との関係(充放電曲線)を調べた。その結果を
図7及び
図15~
図19に示す。
図15は実験1の結果、
図16は実験2の結果、
図17は実験3の結果、
図18は実験4の結果、
図19は実験5の結果、
図7は実験6の結果である。
図15中の矢印は、充放電回数の増加に対する充放電曲線のおよその遷移方向を示している。本明細書における充放電曲線のグラフに記載の矢印については、他の図面においても同様である。
【0017】
図15に示すように、50℃でバナジウム酸化物の結晶を析出させた実験1では、サイクル維持率が低かった。実験1の走査型電子顕微鏡写真(SEM像(
図9))から計測すると、このバナジウム酸化物の結晶は、長軸方向の最大長さが5μm以上であった。
図16~
図19に示すように、55℃~75℃でバナジウム酸化物の結晶を析出させた実験2~5では、高いサイクル維持率が得られた。実験2~5のSEM像(
図10~
図13)から計測すると、これらのバナジウム酸化物の結晶の長軸方向の最大長さは、実験2では1μm、実験3では2μm、実験4では3μm、実験5では3μmであり、いずれも5μm以下であった。
図7に示すように、80℃でバナジウム酸化物の結晶を析出させた実験6では、サイクル維持率が低かった。実験6のバナジウム酸化物の結晶の長軸方向の最大長さを、SEM像(
図14)から計測すると、5μm以上であった。
【0018】
これらのことから、バナジウム酸化物の結晶の長軸方向の最大長さが5μmを超えて成長すると、マグネシウム二次電池のサイクル特性が著しく低下すると結論付けられる。これは、結晶成長によりイオンの移動抵抗が増大するためと考えられる。この移動抵抗の増大は、固体中の移動が遅いマグネシウムイオンではサイクル劣化、移動の早いリチウムイオンでもレート特性の低下をもたらす。したがって、良好な電池性能を得るには、バナジウム酸化物の長軸方向の最大長さを5μm以下に制御しなければならないことが推察される。
【0019】
実験1~実験6の各正極活物質について、以下の式により収率を算出した。
収率(%)={回収量(g)/理論合成量(g)}×100
その結果、実験2~5のバナジウム酸化物の結晶は、いずれも収率がおよそ30%であり、収率の改善が必要であった。
【0020】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、高い収率で製造でき、かつ電池容量の高い正極を形成できる正極活物質であって、これを用いた正極を有するマグネシウム二次電池のサイクル維持率が高く、これを用いた正極を有するリチウムイオン二次電池のレート特性が高い正極活物質およびその製造方法を提供することを課題とする。
また、上記の正極活物質を含む電池容量の高い正極、およびこの正極を含む二次電池を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明は、以下の発明に関わる。
〔1〕マグネシウム二次電池またはリチウムイオン二次電池用の正極活物質であり、
核を起点とする長軸方向の最大長さが5μm以下に成長を抑制されたバナジウム酸化物の結晶を含む粒子であることを特徴とする正極活物質。
【0022】
〔2〕前記核が、チタン化合物、鉄化合物、グラファイトから選ばれる少なくとも1種から形成されていることを特徴とする〔1〕に記載の正極活物質。
〔3〕〔1〕または〔2〕に記載の正極活物質を含む正極。
【0023】
〔4〕リチウムイオン二次電池またはマグネシウム二次電池であり、〔3〕に記載の正極を含むことを特徴とする二次電池。
【0024】
〔5〕マグネシウム二次電池またはリチウムイオン二次電池用の正極活物質の製造方法であり、
核形成材料が溶解または分散した核材料溶液と、バナジウム化合物溶液とを混合して混合溶液とする工程(1)と、
前記混合溶液を酸性に調製する工程(2)と、
バナジウム酸化物の結晶を析出させる析出工程(3)とを含み、
前記析出工程が、前記混合溶液中で核を析出させて、前記核を起点としてバナジウム酸化物を析出させる工程(3a)、または前記混合溶液中に分散している核形成材料を起点としてバナジウム酸化物を析出させる工程(3b)であることを特徴とする正極活物質の製造方法。
【0025】
〔6〕前記核形成材料が、チタン化合物、鉄化合物、グラファイトから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする〔5〕に記載の正極活物質の製造方法。
〔7〕前記析出工程を50~100℃の温度で行うことを特徴とする〔5〕または〔6〕に記載の正極活物質の製造方法。
〔8〕前記混合溶液が炭酸塩化合物を含むことを特徴とする〔5〕~〔7〕のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
【0026】
〔9〕前記炭酸塩化合物が、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする〔5〕~〔8〕のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
〔10〕前記析出工程で析出させたバナジウム酸化物の結晶を260~315℃の温度で焼成する工程を含むことを特徴とする〔5〕~〔9〕のいずれかに記載の正極活物質の製造方法。
【発明の効果】
【0027】
本発明の正極活物質は、マグネシウム二次電池またはリチウムイオン二次電池用の正極活物質であり、核を起点とする長軸方向の最大長さが5μm以下に成長を抑制されたバナジウム酸化物の結晶を含む粒子であるので、電池容量の高い正極を形成できる。
本発明の正極活物質は、核形成材料が溶解した核材料溶液と、バナジウム化合物溶液とを混合し、酸性に調製した混合溶液中で、核を析出させて、核を起点としてバナジウム酸化物の結晶を析出させる方法により、高い収率で製造できる。
また、正極活物質は、核形成材料が分散した核材料溶液と、バナジウム化合物溶液とを混合した混合溶液を、酸性に調製し、混合溶液中に分散している核形成材料を起点としてバナジウム酸化物を析出させる方法によっても、高い収率で製造できる。
【0028】
本発明の正極活物質を含む正極を有するマグネシウム二次電池は、高いサイクル維持率を有する。
本発明の正極活物質を含む正極を有するリチウムイオン二次電池は、高いレート特性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【
図1】本実施形態の二次電池100の一例を説明するための模式図である。
【
図2】実施例1の正極活物質を用いて形成したマグネシウム二次電池における正極材料の容量と電圧との関係を示したグラフである。
【
図3】実施例1の正極活物質を用いて形成したリチウムイオン二次電池における正極材料の容量と電圧との関係を示したグラフである。
【
図4】実施例2の正極活物質を用いて形成したマグネシウム二次電池における正極材料の容量と電圧との関係を示したグラフである。
【
図5】実施例2の正極活物質を用いて形成したリチウムイオン二次電池における正極材料の容量と電圧との関係を示したグラフである。
【
図6】実施例3の正極活物質を用いて形成したマグネシウム二次電池における正極材料の容量と電圧との関係を示したグラフである。
【
図7】実験6の正極活物質を用いて形成したマグネシウム二次電池における正極材料の容量と電圧との関係を示したグラフである。
【
図8】比較例1の正極活物質を用いて形成したリチウムイオン二次電池の正極材料の容量と電圧との関係を示したグラフである。
【
図15】実験1の正極活物質を用いて形成したマグネシウム二次電池の正極材料の容量と電位との関係を示したグラフである。
【
図16】実験2の正極活物質を用いて形成したマグネシウム二次電池の正極材料の容量と電位との関係を示したグラフである。
【
図17】実験3の正極活物質を用いて形成したマグネシウム二次電池の正極材料の容量と電位との関係を示したグラフである。
【
図18】実験4の正極活物質を用いて形成したマグネシウム二次電池の正極材料の容量と電位との関係を示したグラフである。
【
図19】実験5の正極活物質を用いて形成したマグネシウム二次電池の正極材料の容量と電位との関係を示したグラフである。
【
図21】実験7~実験9のバナジウム酸化物の結晶のX線回折の結果を示したグラフである。
【
図22】実験7~実験9および比較例1のバナジウム酸化物の結晶のX線回折の結果を示したグラフである。
【
図23】実施例1(実験7)の走査型電子顕微鏡写真である。
【
図26】実験8の正極活物質を用いて形成したリチウムイオン二次電池の正極材料の容量と電圧との関係を示したグラフである。
【
図27】実験9の正極活物質を用いて形成したリチウムイオン二次電池の正極材料の容量と電圧との関係を示したグラフである。
【
図29】実施例1および実施例2の正極活物質におけるX線回折の結果を示したグラフである。
【
図30】実験9の正極活物質を用いて形成したマグネシウム二次電池の正極材料の容量と電圧との関係を示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明者は、上記課題を解決するために、以下に示すように鋭意検討を重ねた。
本発明者は、バナジウム酸化物の結晶を正極活物質として用いたマグネシウム二次電池に着目し、正極の電池容量、サイクル維持率が不十分である理由について、検討した。その結果、上記二次電池では、正極活物質であるバナジウム酸化物の結晶の長軸方向端部から、拡散性の低いマグネシウムイオンが挿入する。このため、結晶が成長してしまうと、マグネシウムイオンが結晶の内部まで挿入されないことが分かった。
また、バナジウム酸化物の結晶を正極活物質として用いたリチウムイオン二次電池では、十分なレート特性が得られない理由についても検討した。その結果、結晶が成長してしまうと、バナジウム酸化物の結晶におけるリチウムイオンの拡散性が不十分であるためであると推察された。
【0031】
そこで、本発明者は、バナジウム酸化物の結晶が成長するのを抑制すべく、検討を行った。その結果、核形成材料が溶解または分散した核材料溶液と、バナジウム化合物溶液とを混合して得た混合溶液を酸性に調製し、混合溶液中で核を析出させて、前記核を起点としてバナジウム酸化物を析出させる方法、または混合溶液中に分散している核形成材料を起点としてバナジウム酸化物を析出させる方法により、バナジウム酸化物の結晶を析出させればよいことが分かった。
【0032】
上記の酸性溶液中で核を起点としてバナジウム酸化物の結晶を成長させると、結晶の成長が妨げられ、核を起点とする長軸方向の最大長さが5μm以下のバナジウム酸化物の結晶からなる粒子が得られる。この粒子を形成しているバナジウム酸化物の結晶は、長軸方向の最大長さが5μm以下であり、長軸方向の最大長さが5μmを超える結晶を含む場合と比較して、イオンが挿入脱離しやすい。よって、この粒子を正極活物質として用いたマグネシウム二次電池およびリチウムイオン二次電池は、長軸方向の最大長さが5μmを超える結晶を正極活物質として用いた場合と比較して、正極のレート特性およびサイクル維持率が高いものとなる。
【0033】
本実施形態において、バナジウム酸化物の結晶における「核を起点とする長軸方向の最大長さ」とは、正極活物質の表面を、任意に走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した時の結晶の長軸方向の最大長さを意味する。
【0034】
また、核形成材料を含む酸性溶液中で、核を起点としてバナジウム酸化物の結晶を析出させているので、回収しやすい大きさの粒子が得られる。加えて、核形成材料を含む酸性溶液中で、核を起点としてバナジウム酸化物の結晶を析出させた場合、50%以上の高い収率で粒子を製造できる。
これに対し、例えば、核形成材料を含まない酸性溶液中、50℃以上80℃未満の温度で、バナジウム酸化物の結晶を析出させた場合、結晶の成長は防止できるものの、バナジウム酸化物の結晶の大きさが小さく、回収しにくいものとなる。更に酸性溶液中のバナジウム化合物の析出が十分でないため、収率は30%程度となる。
【0035】
次に、本発明の正極活物質、正極活物質の製造方法、正極および二次電池の実施形態について、詳細に説明する。
「正極活物質」
本実施形態の正極活物質は、マグネシウム二次電池またはリチウムイオン二次電池用の正極活物質である。本実施形態の正極活物質は、核を起点とするバナジウム酸化物の結晶を含む粒子である。バナジウム酸化物の結晶は、長軸方向の最大長さが5μm以下に成長を抑制されている。バナジウム酸化物の結晶が長軸方向の最大長さが5μm以下であるので、イオンが挿入脱離しやすい正極活物質となる。よって、この粒子を正極活物質として用いたマグネシウム二次電池は、正極の電池容量およびサイクル維持率が高いものとなる。
バナジウム酸化物の結晶は、バナジン酸アンモニウムの結晶であることが好ましい。
【0036】
粒子を形成している核としては、チタン、鉄などの遷移金属、炭素を含むものが挙げられ、チタン化合物、鉄化合物、グラファイトから選ばれる少なくとも1種から形成されていることが好ましい。核が、チタン化合物、鉄化合物、グラファイトから選ばれる少なくとも1種から形成されている粒子は、容易に製造できるため、好ましい。
【0037】
「正極活物質の製造方法」
本実施形態の正極活物質は、例えば、以下に示す製造方法により製造できる。
まず、核形成材料が溶解または分散した核材料溶液と、バナジウム化合物溶液とを混合して混合溶液とする(工程(1))。次に、混合溶液を酸性に調製する(工程(2))。続いて、バナジウム酸化物の結晶を析出させる(析出工程(3))。
【0038】
核形成材料が溶解または分散した核材料溶液に含まれる核形成材料は、チタン化合物、鉄化合物、グラファイトから選ばれる少なくとも1種であることが好ましい。
核形成材料が溶解または分散した核材料溶液としては、例えば、核としてチタン化合物を用いる場合には硫酸チタン水溶液、核として鉄化合物を用いる場合には硫酸鉄水溶液、核として炭素を用いる場合にはグラファイト分散水溶液などが挙げられる。
バナジウム化合物溶液としては、バナジウム酸化物を水酸化ナトリウム、アンモニア水などのアルカリを添加して溶解した水溶液が挙げられる。
【0039】
本実施形態では、核材料溶液と、バナジウム化合物溶液とを混合して得た混合溶液に、カチオンが含まれていることが好ましい。混合溶液にカチオンが含まれていることにより、バナジウム酸化物の結晶成長が促進される。カチオンとしては、例えば、アンモニウムイオン、銅イオン、鉄イオンなどが挙げられる。混合溶液にカチオンを添加する方法としては、特に限定されないが、混合溶液と、カチオンが溶解した溶液とを混合することが好ましい。
カチオンが溶解した溶液としては、硫酸アンモニウム水溶液、フッ化アンモニウム水溶液、硫酸銅水溶液、硫酸鉄水溶液などが挙げられる。
更に、本実施形態では、核材料溶液、バナジウム化合物溶液または混合溶液に炭酸塩が含まれていることが望ましい。炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウムなどがあげられ、これが含まれていることにより低温での収率が向上する。
【0040】
本実施形態では、混合溶液が炭酸塩化合物を含むことが好ましい。混合溶液として炭酸塩化合物を含むものを用いると、バナジウム酸化物の収率が向上する。この効果は、析出工程を、例えば50~80℃の低温で行った場合に特に効果的である。
炭酸塩化合物としては、炭酸ナトリウム、炭酸アンモニウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素アンモニウム、炭酸水素カリウムから選ばれる少なくとも1種を用いることが好ましく、特に炭酸ナトリウムを用いることが好ましい。
炭酸塩化合物は、核材料溶液中に含まれていてもよいし、バナジウム化合物溶液中に含まれていてもよいし、核材料溶液とバナジウム化合物溶液とを混合して得られた混合溶液中に添加してもよい。
【0041】
本実施形態では、混合溶液を酸性に調製する。混合溶液を酸性に調製する際には、従来公知の方法を用いて、核として用いる材料に応じた適切なpHとなるようにする。具体的には、硫酸などの酸と、水酸化ナトリウム水溶液、アンモニア水などのアルカリとを用いて、適切なpHとなるように調製する。
核としてチタン化合物を用いる場合、酸性溶液のpHは3以下とすることが好ましい。核として鉄化合物を用いる場合、酸性溶液のpHは5~6とすることが好ましい。核として炭素を用いる場合、酸性溶液のpHは3以下とすることが好ましい。
【0042】
次に、本実施形態では、析出工程(3)として、撹拌ならびに加温しながら混合溶液中で核を析出させて、前記核を起点としてバナジウム酸化物を析出させる工程(3a)、または撹拌ならびに加温しながら混合溶液中に分散している核形成材料を起点としてバナジウム酸化物を析出させる工程(3b)を行う。
混合溶液中に核形成材料が溶解している場合には、析出工程として、(3a)の工程を行う。また、混合溶液中に核形成材料が分散している場合には、析出工程として、(3b)の工程を行う。
【0043】
析出工程(3)は50~100℃の温度で行うことが好ましい。析出工程(3)を上記温度範囲で行うことで、核を起点とする長軸方向の長さが5μm以下のバナジウム酸化物の結晶を含む粒子をより高い収率で析出させることができる。
析出工程(3)では、バナジウム酸化物を析出させる混合溶液を50~100℃の温度範囲で保持することが好ましく、バナジウム酸化物の収率をより一層向上させるために、60~95℃の温度範囲で保持することがより好ましく、70~90℃の温度範囲で保持することが特に好ましい。
【0044】
本実施形態では、析出させたバナジウム酸化物の結晶は、濾過し、洗浄し、乾燥させることが好ましい。
【0045】
その後、本実施形態では、析出させたバナジウム酸化物の結晶を260~315℃の温度で焼成することが好ましい。本実施形態では、焼成温度を270~315℃とすることがより好ましく、280~315℃とすることが更に好ましい。
焼成温度が260℃以上であると、バナジウム酸化物の層間に存在する水分を十分に除去できる。本実施形態において析出させたバナジウム酸化物の結晶は、260℃以上の温度で焼成しても、成長が抑制される。一方、焼成温度が320℃以上であると、五酸化バナジウムの結晶成長が生じる。
【0046】
析出工程(3)で析出させたバナジウム酸化物の結晶の層間に水が存在していると、バナジウム酸化物の結晶を正極活物質として用いた二次電池において、負極を劣化させる恐れがある。バナジウム酸化物の結晶を焼成すると、バナジウム酸化物の層間に存在する水分が除去される。よって、バナジウム酸化物の結晶を正極活物質として用いた二次電池において、正極に含まれる水との反応により生じる負極の劣化を抑制できる。
【0047】
「二次電池」
本実施形態の二次電池は、本実施形態のいずれかの正極活物質を含む正極を備える。二次電池は、リチウムイオン二次電池であってもよいし、マグネシウム二次電池であってもよい。
【0048】
図1は、本実施形態の二次電池100の一例を説明するための模式図である。
図1に示す二次電池100は、正極110と、セパレータ120と、負極130とを備えている。
セパレータ120は、正極110と負極130とを隔離する。また、セパレータ120は、保液能力を有しており、電解液125を保持している。このことにより、セパレータ120は、正極110と負極130との間のイオン伝導性を維持する。
【0049】
電解液125としては、水系電池または非水系電池に一般に用いられている電解液を用いることができる。電解液125は、陽イオンを含んでいる。電解液125中の陽イオンとしては、例えば、マグネシウムイオン、リチウムイオンが挙げられる。
【0050】
負極130の材料としては、例えば、マグネシウム、リチウムなどを用いることができる。
【0051】
正極110は、正極集電体(図示せず)と、正極集電体上に形成された正極活物質層115とを有している。正極集電体は、正極活物質層115とともに正極110を構成し、放電時に正極活物質に電子を供与する。
正極活物質層115は、正極活物質と、バインダーと、導電剤とを含む。正極活物質としては、上述した実施形態の正極活物質を用いる。
【0052】
バインダーとしては、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等の非水系バインダーなどを用いることができる。
導電剤としては、例えば、黒鉛、カーボンブラック、アセチレンブラックなどの炭素材料を用いることができる。
【0053】
正極110は、例えば、正極活物質と、バインダーと、導電剤と、溶媒とを混合したスラリーを、正極集電体上に塗布し、乾燥させる方法により形成できる。溶媒としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、メチルエチルケトン、ジメチルホルムアミドなどを用いることができる。
本実施形態の二次電池100は、従来公知の方法により製造できる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例および比較例により本発明をさらに具体的に説明する。なお、本発明は、以下の実施例のみに限定されない。
【0055】
[実施例1]
核形成材料が溶解または分散した以下に示す核材料溶液と、以下に示すバナジウム化合物溶液と、以下に示すカチオンが溶解した溶液とを混合して混合溶液とした。
次に、硫酸を用いて混合溶液をpH2の酸性に調製し、酸性溶液とした。その後、酸性溶液を70℃の温度で保持し、酸性溶液中で核を析出させて、核を起点としてバナジウム酸化物を析出させた。
次いで、析出させたバナジウム酸化物の結晶を濾過し、洗浄して、乾燥させ、295℃の温度で焼成した。
以上の工程により、実施例1の正極活物質を得た。
【0056】
実施例1の正極活物質の収率は90%であった。
収率は、以下の式により算出した。
収率(%)={回収量(g)/理論合成量(g)}×100
また、実施例1の正極活物質を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。SEMによる観察は、カーボンテープに正極活物質を固定し、加速電圧5kVで観察した。その結果を
図23に示す。
図23は、実施例1の正極活物質の走査型電子顕微鏡写真であり、(b)の写真は(a)の写真の一部を拡大して示したものである。
図23(b)に示すように、実施例1の正極活物質は、核を起点とするバナジウム酸化物の結晶からなる粒子であり、バナジウム酸化物の結晶が長軸方向の最大長さが5μm以下であった。
【0057】
(核材料溶液)
硫酸チタン溶液(関東化学株式会社製、40164-10)32ml
炭酸ナトリウム(関東化学株式会社製、37141-00):8g
硫酸(和光純薬工業株式会社製、198-09595):170.08g
純水:55.2g
(バナジウム化合物溶液)
メタバナジン酸アンモニウム(太陽鉱工株式会社製):25.2g
水酸化ナトリウム水溶液(32wt%):13ml
純水:600g
(カチオンが溶解した溶液)
硫酸アンモニウム(関東化学株式会社製、01322-00):98g
硫酸(和光純薬工業株式会社製、198-09595):170g
純水:140g
【0058】
「マグネシウム二次電池」
実施例1の正極活物質を用いて、以下に示す方法によりマグネシウム二次電池を形成し、充放電特性を評価した。
実施例1の正極活物質と、導電剤としてのアセチレンブラックと、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、質量比で8:1:1で使用し、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とともに混合してスラリーとした。得られたスラリーを正極集電体としてのカーボンペーパーに塗工し、130℃で乾燥させることにより正極を得た。
【0059】
負極としては、マグネシウムリボンを用いた。
電解液としては、マグネシウムトリフルオロメタンスルホニルアミド0.3mol/lと、無水コハク酸0.6mol/lとを含む、トリエチレングリコールジメチルエーテル(商品名;トリグライム、三共化学株式会社製)からなるものを用いた。
上記の正極と、負極と、電解液を密封型のビーカーセルにアルゴン雰囲気で設置することにより、実施例1のマグネシウム二次電池を得た。
【0060】
得られたマグネシウム二次電池を充放電装置(商品名TOSCAT3100:東洋システム社製)に設置して、温度35℃、容量300mAh/g、充放電レート0.1Cの条件で、複数回(
図2では5回)繰り返し充放電試験を行い、正極材料の容量と電圧との関係(充放電曲線)を調べた。その結果を
図2に示す。
図2中の矢印は、充放電回数の増加に対する充放電曲線のおよその遷移方向を示している。本明細書における充放電曲線のグラフに記載の矢印については、他の図面においても同様である。また、
図2に示すグラフにおける線の色の濃淡は、充放電試験を行った順序を示し、色が薄いほど先に行ったデータであり、色が濃いほど後に行ったデータである。
図4、
図6、
図7に示すグラフにおける線の色の濃淡も同様に、充放電試験を行った順序を示す。
【0061】
「リチウムイオン二次電池」
実施例1の正極活物質を用いて、以下に示す方法によりリチウムイオン二次電池の評価用セルを形成し、充放電特性を評価した。
実施例1の正極活物質と、導電剤としてのアセチレンブラックと、バインダーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)とを、質量比で8:1:1で使用し、溶媒としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)とともに混合してスラリーとした。
また、正極集電体として、縦20mm、横31mm、厚み30μmの粗化アルミ箔(日本蓄電器工業株式会社製)を用意した。そして、正極集電体の横方向一端から縦20mm、横20mmの領域にスラリーを塗工し、130℃で乾燥させて正極活物質層を形成し、正極を得た。
【0062】
負極としては、縦20mm、横31mm、厚み400μmの金属リチウム板を用いた。
セパレータとしては、ポリエチレン(PE)膜とポリプロピレン(PP)膜との積層体からなる市販のリチウムイオン電池用セパレータを用いた。
電解液としては、エチレンカーボネート(EC)とエチルメチルカーボネート(EMC)とを体積比で3:7(EC:EMC)の割合で混合した溶液中に、1mol/Lの6フッ化燐リチウム(LiPF6)を含むもの(キシダ化学株式会社製)を用いた。
【0063】
特許文献3に記載の二次電池評価治具の収容部における下側容器に、上記の負極を配置し、負極上の電極端子部を除く領域を覆うようにセパレータを配置した。次いで、セパレータに電解液を含浸させた。次に、セパレータを介して、負極上に正極活物質層が重なるように、正極を配置した。その後、収容部の上側容器を被せてボルトを用いて固定し、正極および負極の電極端子部をそれぞれ外部測定装置(商品名EF-7100P:(株)エレクトロフィールド社製)と接続し、評価用セルとした。その後、放電レートを0.1C、0.2C、0.5C、1C、2C、3Cとした場合の正極材料の容量と電圧との関係を調べた。その結果を
図3に示す。
【0064】
[実施例2]
以下に示す核材料溶液を用い、硫酸と、水酸化ナトリウム水溶液とを用いて混合溶液をpH6の酸性に調製したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の正極活物質を得た。
(核材料溶液)
硫酸第一鉄七水和物(関東化学株式会社製、16038-01):12.6g
純水:55.2g
【0065】
実施例2の正極活物質の収率を、実施例1の正極活物質と同様にして算出した。その結果、実施例2の正極活物質の収率は50%であった。
また、実施例2の正極活物質を、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果を
図28に示す。
図28は、実施例2の正極活物質の走査型電子顕微鏡写真であり、(b)の写真は(a)の写真の一部を拡大して示したものである。
図28(b)に示すように、実施例2の正極活物質は、核を起点とするバナジウム酸化物の結晶からなる粒子であり、バナジウム酸化物の結晶は長軸方向の最大長さが5μm以下であった。
【0066】
「マグネシウム二次電池」
実施例2の正極活物質を用いて、実施例1と同様にしてマグネシウム二次電池を形成し、充放電特性を評価した。その結果を
図4に示す。
「リチウムイオン二次電池」
実施例2の正極活物質を用いて、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池の評価用セルを形成し、充放電特性を評価した。その結果を
図5に示す。
【0067】
実施例1および実施例2の正極活物質についてX線回折を行った。X線回折は、X線回折装置(商品名JDX-3530:日本電子(株)社製)を用い、測定角5~70°、ステップ角0.04°、積算時間1秒の条件で行った。その結果を
図29に示す。
図29において、横軸は回折角2θであり、縦軸はX線強度である。
図29における「c-V
2O
5」は五酸化バナジウムの結晶を示し、「NVO」はバナジン酸アンモニウムを示す。
図29に示すように、実施例1および実施例2の正極活物質では、回折ピークの位置に差はなかった。また、
図29より、実施例1および実施例2の正極活物質では、バナジン酸アンモニウムの結晶が高純度で析出していることが確認できた。
【0068】
[実施例3]
以下に示す核材料溶液を用いたこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の酸性溶液を得た。
その後、酸性溶液を60℃の温度で保持し、分散している核形成材料を起点としてバナジウム酸化物を析出させた。
次いで、析出させたバナジウム酸化物の結晶を濾過し、洗浄して、乾燥させ、295℃の温度で焼成した。
以上の工程により、実施例3の正極活物質を得た。
【0069】
(核材料溶液)
グラファイト(関東化学株式会社製):0.26g
純水:55.2g
【0070】
実施例3の正極活物質の収率を、実施例1の正極活物質と同様にして算出した。その結果、実施例3の正極活物質の収率は70%であった。
【0071】
「マグネシウム二次電池」
実施例3の正極活物質を用いて、実施例1と同様にしてマグネシウム二次電池を形成し、充放電特性を評価した。その結果を
図6に示す。
【0072】
[比較例1]
核材料溶液を含まないことと、酸性溶液を90℃の温度で保持してバナジウム酸化物の結晶を析出させたこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の正極活物質を得た。
比較例1の正極活物質の収率は85%であった。また、比較例1の正極活物質を、実施例1と同様にして走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果を
図20に示す。
図20に示すように、比較例1の正極活物質は、長軸方向の最大長さが5μmを超えるバナジウム酸化物の結晶を含むものであった。
【0073】
「リチウムイオン二次電池」
比較例1の正極活物質を用いて、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池の評価用セルを形成し、充放電特性を評価した。その結果を
図8に示す。
【0074】
図3に示すように、実施例1の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の評価用セルは、比較例1の正極活物質を用いた
図8と比較して、レート特性が良好であった。
図5に示す実施例2の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の評価用セルも、比較例1の正極活物質を用いた
図8と比較して、レート特性が良好であった。
【0075】
[実験7~実験9]
70℃でバナジウム酸化物の結晶を析出させた実施例1の正極活物質を、実験7の正極活物質として用いた。
また、酸性溶液の温度を、80℃(実験8)、90℃(実験9)のいずれかの温度にしたこと以外は実施例1と同様にして、実験8および実験9の正極活物質を得た。
【0076】
実験7~実験9で析出させたバナジウム酸化物の結晶についてX線回折を行った。X線回折は、X線回折装置(商品名JDX-3530:日本電子(株)社製)を用い、測定角5~70°、ステップ角0.04°、積算時間1秒の条件で行った。その結果を
図21に示す。
図21において、横軸は回折角2θであり、縦軸はX線強度である。
図21における「NVO」はバナジン酸アンモニウムを示し、「c-V
2O
5」は五酸化バナジウムの結晶を示す。
図21に示すように、実験7~実験9のバナジウム酸化物の結晶では、回折ピークの位置に差はなかった。また、
図21より、実験7~実験9では、バナジン酸アンモニウムの結晶が高純度で析出していることが確認できた。
【0077】
比較例1で析出させたバナジウム酸化物の結晶について、実験7と同様にして、X線回折を行った。その結果を、実験7~実験9の結果とともに
図22に示す。
図22において、横軸は回折角2θであり、縦軸はX線強度である。
図22に示すように、比較例1のバナジウム酸化物の結晶と、実験7~実験9のバナジウム酸化物の結晶とでは、回折ピークの位置が異なっていた。
また、
図22より、比較例1では、五酸化バナジウムの結晶が成長していることが確認できた。
【0078】
実験7~実験9および比較例1の正極活物質を、走査型電子顕微鏡(SEM)を用いて観察した。その結果を
図20、
図23~
図25に示す。
図23は、実験7の正極活物質の写真であり、
図24は、実験8の正極活物質の写真であり、
図25は、実験9の正極活物質の写真であり、
図20は、比較例1の正極活物質の写真である。
図20、
図23~
図25において、(b)の走査型電子顕微鏡写真は(a)の走査型電子顕微鏡写真の一部を拡大して示したものである。
【0079】
図23~
図25に示すように、70℃~90℃でバナジウム酸化物の結晶を析出させた実験7~9では、いずれも核を起点とするバナジウム酸化物の結晶からなる粒子が形成されており、バナジウム酸化物の結晶の長軸方向の最大長さは5μm以下であった。
また、
図23~
図25に示すように、70℃~90℃でバナジウム酸化物の結晶を析出させた実験7~9では、結晶を析出させる温度が高くなる程、結晶が大きくなる傾向は見られるが、いずれも結晶の長軸方向の最大長さは0.5μm以下であった。
【0080】
これに対し、核形成材料を含まない酸性溶液中でバナジウム酸化物の結晶を析出させた場合、
図14(80℃でバナジウム酸化物の結晶を析出させた実験6)および
図20(90℃でバナジウム酸化物の結晶を析出させた比較例1)に示すように、長軸方向の長さが5μmを超えるバナジウム酸化物の結晶が析出した。
これは、実験8および実験9では、核材料溶液を含むことにより、結晶の成長が妨げられたためであると推定される。
【0081】
実験8~実験9および比較例1の正極活物質の収率を、実施例1(実験7)の正極活物質と同様にして算出した。その結果、実験7の正極活物質の収率は90%、実験8の正極活物質の収率は98%、実験9の正極活物質の収率は98%、比較例1の正極活物質の収率は85%であった。
実験7~比較例1のバナジウム酸化物の結晶は、いずれも収率が良好であった。
【0082】
「マグネシウム二次電池」
実験9の正極活物質を用いて、実施例1と同様にしてマグネシウム二次電池を形成し、充放電装置(商品名TOSCAT3100:東洋システム社製)を用いて、温度35℃、容量140mAh/g、充放電レート0.2Cの条件で、3回繰り返し充放電試験を行い、正極材料の容量と電圧との関係(充放電曲線)を調べた。その結果を
図30に示す。
【0083】
「リチウムイオン二次電池」
実験8、実験9の正極活物質を用いて、実施例1と同様にしてリチウムイオン二次電池の評価用セルを形成し、充放電特性を評価した。実験8の結果を
図26に示し、実験9の結果を
図27に示す。
【0084】
図26、
図27に示すように、実験8、実験9の正極活物質を用いたリチウムイオン二次電池の正極材料は、比較例1の正極活物質を用いた
図8と比較して、レート特性が良好であった。
【符号の説明】
【0085】
100 二次電池
110 正極
115 正極活物質
120 セパレータ
125 電解液
130 負極