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  • 特許-重荷重用空気入りタイヤ 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】重荷重用空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
   B60C 1/00 20060101AFI20220117BHJP
   B60C 9/18 20060101ALI20220117BHJP
   B60C 9/20 20060101ALI20220117BHJP
   C08L 7/00 20060101ALI20220117BHJP
   C08L 9/00 20060101ALI20220117BHJP
   C08K 3/04 20060101ALI20220117BHJP
   C08K 5/098 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B60C1/00 C
B60C9/18 G
B60C9/20 G
C08L7/00
C08L9/00
C08K3/04
C08K5/098
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2017179787
(22)【出願日】2017-09-20
(65)【公開番号】P2019055623
(43)【公開日】2019-04-11
【審査請求日】2020-09-14
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001368
【氏名又は名称】清流国際特許業務法人
(74)【代理人】
【識別番号】100129252
【弁理士】
【氏名又は名称】昼間 孝良
(74)【代理人】
【識別番号】100155033
【弁理士】
【氏名又は名称】境澤 正夫
(72)【発明者】
【氏名】相武 慶介
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-095017(JP,A)
【文献】特開2008-088245(JP,A)
【文献】特開2013-067736(JP,A)
【文献】特開2007-083703(JP,A)
【文献】特開2012-236958(JP,A)
【文献】特開2013-122038(JP,A)
【文献】特開2014-080475(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
C08L 1/00-101/14
C08K 3/00- 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における該カーカス層の外周側に配置された4層以上のベルト層とを有し、各ベルト層が複数本のベルトコードをベルトコートゴムで被覆して構成された空気入りタイヤにおいて、
前記ベルトコートゴムを構成するベルトコート用ゴム組成物は、天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムからなるゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック45質量部~55質量部と、コバルト含有量が15質量%以上である有機酸コバルト塩がコバルト換算で0.06質量部~0.08質量部配合され、且つ、前記有機酸コバルト塩に含まれる有機酸成分および該有機酸成分以外の他の有機酸の合計が前記ゴム成分100質量部に対して0.6質量部~0.9質量部になるように配合されたことを特徴とする重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記4層以上のベルト層のうち、前記ベルト層のうち前記トレッド部における最内周側に配置された最内ベルト層のベルトコードとその外周側に隣接したベルト層のベルトコードとの間に位置するベルトコートゴムの部分を層間ゴムAとし、前記トレッド部における最外周側に配置された最外ベルト層のベルトコードとその内周側に隣接したベルト層のベルトコードとの間に位置するベルトコートゴムの部分を層間ゴムBとしたとき、前記層間ゴム層Aの損失正接tanδAと前記層間ゴム層Bの損失正接tanδBとがtanδA/tanδB≦1.20の関係を満たし、前記層間ゴム層Aの破断強度TSAと前記層間ゴム層Bの破断強度TSBとがTSA/TSB≧0.90の関係を満たすことを特徴とする請求項1に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【請求項3】
前記ベルト層を6層以上備えることを特徴とする請求項1または2に記載の重荷重用空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、4層以上のベルト層を備えトレッド部のゲージが厚い重荷重用空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
鉱山や建設現場で用いられる重荷重用空気入りタイヤは、例えば4層以上のベルト層を備えて、トレッド部のトータルゲージが厚い構造を有する(例えば特許文献1を参照)。このような重荷重用空気入りタイヤは、乗用車用タイヤやトラック・バス用タイヤに比べて低空気圧で使用され、ベルト層の歪が大きくなるため、ベルト層を構成するベルトコードを被覆するベルトコートゴムは、低発熱性、接着性、高破断特性等の物性が優れることが求められる。
【0003】
しかしながら、重荷重用空気入りタイヤは、上記のようにトレッド部のトータルゲージが厚いことで、これら物性を良好に発揮することが難しい傾向がある。即ち、トレッド部のトータルゲージが厚いことで、その内部に埋め込まれた複数層のベルト層のうちの内周側(ブラダー側)の層と外周側(トレッド表面側)の層とで加硫時の熱の伝わり方が異なり、加硫温度を高くして加硫速度を速くすると熱源(ブラダー)に近い内周側のベルト層が過加硫になって破断特性や発熱性が悪化し易く、加硫温度を低くして加硫速度を遅くするとタイヤ全体の加硫時間が長くなってタイヤ全体での発熱性や耐久性が悪化する虞があった。そのため、ベルトコートゴムを構成するゴム組成物の配合を最適化して、ベルトコートゴムの低発熱性、接着性、高破断特性をバランスよく高度に両立することが求められている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015‐189254号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、4層以上のベルト層を備えトレッド部のゲージが厚い重荷重用空気入りタイヤであって、ベルトコートゴムの低発熱性、接着性、高破断特性をバランスよく高度に両立し、タイヤ耐久性を向上した重荷重用空気入りタイヤを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成する本発明の重荷重用空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部と、これらサイドウォール部のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部とを備え、該一対のビード部間に装架されたカーカス層と、前記トレッド部における該カーカス層の外周側に配置された4層以上のベルト層とを有し、各ベルト層が複数本のベルトコードをベルトコートゴムで被覆して構成された空気入りタイヤにおいて、前記ベルトコートゴムを構成するベルトコート用ゴム組成物は、天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムからなるゴム成分100質量部に対して、カーボンブラック45質量部~55質量部と、コバルト含有量が15質量%以上である有機酸コバルト塩がコバルト換算で0.06質量部~0.08質量部配合され、且つ、前記有機酸コバルト塩に含まれる有機酸成分および該有機酸成分以外の他の有機酸の合計が前記ゴム成分100質量部に対して0.6質量部~0.9質量部になるように配合されたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明では、ベルトコート用ゴム組成物が有機酸コバルト塩を含有することで、ベルトコードとの接着性を良好にすることができる。また、ベルトコート用ゴム組成物が有機酸コバルト塩や他の有機酸を含むことで加硫が進行し易くなる一方で、これら有機酸成分の合計量が低く抑えられているので加硫が過度に促進されることがなく、リバージョン(加硫温度が高過ぎたり加硫時間が長過ぎた際に加硫ゴムが再び柔らかくなる現象)を抑制して、リバージョンに起因する破断強度や発熱性の悪化を抑制することができ、接着性や低発熱性を良好に維持することができる。これにより、4層以上のベルト層の内周側(ブラダー側)の層と外周側(トレッド表面側)の層とで加硫時の熱の伝わり方が異なっていても、上述のベルトコート用ゴム組成物をベルトコートゴムに使用した本発明の重荷重用空気入りタイヤでは、トレッド部内の位置(内周側または外周側)に依らず加硫が適正に行われて、ベルトコートゴムが低発熱性、接着性、高破断特性をバランスよく高度に発揮することができる。その結果、重荷重用空気入りタイヤとして優れた耐久性を発揮することができる。
【0008】
本発明においては、前記4層以上のベルト層のうち、前記ベルト層のうち前記トレッド部における最内周側に配置された最内ベルト層のベルトコードとその外周側に隣接したベルト層のベルトコードとの間に位置するベルトコートゴムの部分を層間ゴムAとし、前記トレッド部における最外周側に配置された最外ベルト層のベルトコードとその内周側に隣接したベルト層のベルトコードとの間に位置するベルトコートゴムの部分を層間ゴムBとしたとき、前記層間ゴム層Aの損失正接tanδAと前記層間ゴム層Bの損失正接tanδBとがtanδA/tanδB≦1.20の関係を満たし、前記層間ゴム層Aの破断強度TSAと前記層間ゴム層Bの破断強度TSBとがTSA/TSB≧0.90の関係を満たすことが好ましい。これにより、過加硫になり易い内周側の層間ゴムAと、加硫の進行が遅くなり易い外周側の層間ゴムBとの物性差を抑制することができ、ベルトコートゴムの低発熱性、接着性、高破断特性をバランスよく高度に両立して、タイヤの耐久性を高めるには有利になる。
【0009】
本発明は、ベルト層を6層以上備える重荷重用空気入りタイヤに適用することが好ましい。このような空気入りタイヤでは、トレッド部のトータルゲージが特に厚くなり、トレッド部の内周側(ブラダー側)と外周側(トレッド表面側)とで加硫度に差が生じ易いため、上述の本発明を適用することで、この加硫度の差に起因する不具合を抑制して、ベルトコート五部の低発熱性、接着性、高破断特性を効果的に両立することができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】本発明の実施形態からなる重荷重用空気入りタイヤの子午線半断面図である。
図2】本発明の重荷重用空気入りタイヤのベルト層を模式的に示す説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の構成について添付の図面を参照しながら詳細に説明する。
【0012】
図1に示すように、本発明の空気入りタイヤは、タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部1と、このトレッド部1の両側に配置された一対のサイドウォール部2と、サイドウォール部2のタイヤ径方向内側に配置された一対のビード部3とを備えている。図1において、符号CLはタイヤ赤道を示す。
【0013】
左右一対のビード部3間にはカーカス層4が装架されている。このカーカス層4は、タイヤ径方向に延びる複数本の補強コードを含み、各ビード部3に配置されたビードコア5の廻りに車両内側から外側に折り返されている。また、ビードコア5の外周上にはビードフィラー6が配置され、このビードフィラー6がカーカス層4の本体部と折り返し部とにより包み込まれている。一方、トレッド部1におけるカーカス層4の外周側には複数層(図1では4層)のベルト層7が埋設されている。各ベルト層7は、図2に拡大して示すように、複数本の補強コード(ベルトコード11)がベルトコートゴム12で被覆されて構成される。複数本の補強コードは、各層においてタイヤ周方向に対して傾斜して配列され、且つ、層間で補強コードが互いに交差するように配置されている。これらベルト層7において、補強コードのタイヤ周方向に対する傾斜角度は例えば10°~40°の範囲に設定されている。
【0014】
本発明は、このような一般的な重荷重用空気入りタイヤに適用されるが、その断面構造は上述の基本構造に限定されるものではない。
【0015】
本発明のベルトコートゴム12を構成するゴム組成物(以下、「ベルトコート用ゴム組成物」と言う。)において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、天然ゴムおよび/またはイソプレンゴムが必ず配合される。天然ゴム、イソプレンゴムは、ベルトコート用ゴム組成物に通常用いられるゴムを使用することができる。天然ゴムとイソプレンゴムとを併用する場合は、天然ゴムとイソプレンゴムとからなるゴム成分100質量部において、天然ゴムを80質量部~100質量部、イソプレンゴムを0質量部~20質量部にするとよい。天然ゴムやイソプレンゴム以外のゴム(例えばブチルゴム)が配合されると、ゴム成分の破断強度が悪化し、タイヤにしたときの耐久性が低下する。
【0016】
本発明のベルトコート用ゴム組成物は、カーボンブラックが必ず配合される。カーボンブラックを配合することでゴム組成物の強度を高めることができる。カーボンブラックの配合量は、上述のゴム成分100質量部に対して、45質量部~55質量部、好ましくは50質量部~55質量部である。カーボンブラックの配合量が45質量部未満であると、ゴム組成物の破断強度が悪化し、タイヤにしたときの耐久性が低下する。カーボンブラックの配合量が55質量部を超えると、ゴム組成物の発熱性が大きくなりタイヤにしたとき耐久性が低下する。
【0017】
本発明で使用するカーボンブラックとしては、例えば窒素吸着比表面積N2 SAが65m2 /g~130m2 /gのものを用いることができる。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAが65m2 /g未満であると破断強度が低下する。カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAが130m2 /gを超えると加工性、発熱性が低下する。本発明において、カーボンブラックの窒素吸着比表面積N2 SAは、JIS K6217-2に準拠して測定するものとする。
【0018】
本発明のベルトコート用ゴム組成物は、コバルト含有量が15質量%以上である有機酸コバルト塩が必ず配合される。このような有機酸コバルト塩を配合することで、ベルトコードに対する接着性を向上することができる。有機酸コバルト塩の配合量は、ゴム成分100質量部に対してコバルト換算で0.06質量部~0.10質量部、より好ましくは0.06質量部~0.08質量部である。有機酸コバルト塩の配合量が0.06質量部未満であると、ベルトコードに対する接着性を高める効果が充分に得られない。また、有機酸コバルト塩が少ないことでゴム組成物に含まれる有機酸の総量が少なくなって加硫速度が遅くなり生産性が低下する。有機酸コバルト塩の配合量が0.10質量部を超えると過加硫時の接着性が低下する。
【0019】
本発明で使用する有機酸コバルト塩としては、上記のようにコバルト含有量が15質量%以上のものを用いるが、好ましくはコバルト含有量が20質量%~25質量%であるとよい。また、有機酸コバルト塩としては、例えば、ナフテン酸コバルト、ネオデカン酸コバルト、ステアリン酸コバルト、ロジン酸コバルト、バーサチック酸コバルト、トール油酸コバルト、ホウ酸ネオデカン酸コバルト、アセチルアセトナートコバルト等を例示することができる。また、これらの有機酸コバルト塩のなかでも、ホウ素を含む有機酸コバルト塩が好ましく、例えば有機酸の一部をホウ酸等で置き換えた複合塩であるとよい。ホウ素を含有する有機酸コバルト塩としては、例えばDIC CORPORATION社製DICNATE NBC‐II等を例示することができる。
【0020】
本発明のベルトコート用ゴム組成物は、上述の有機酸コバルト塩と共に他の有機酸が必ず配合される。但し、他の有機酸の配合量は、有機酸コバルト塩に含まれる有機酸成分との合計がゴム成分100質量部に対して0.5質量部~1.0質量部、好ましくは0.6質量部~0.9質量部になるように制限される。言い換えると、有機酸コバルト塩に含まれる有機酸成分および該有機酸成分以外の他の有機酸の合計がゴム成分100質量部に対して0.5質量部~1.0質量部、好ましくは0.6質量部~0.9質量部である。このように有機酸(有機酸コバルト塩に含まれる有機酸成分と他の有機酸の両方)が適量配合することで、有機酸成分によってゴム組成物の加硫を促進しながら、加硫が過度に促進されることを回避することができ、これによりリバージョンを抑制して、リバージョンに起因する破断強度や発熱性悪化を抑制し、接着性や低発熱性を良好に維持することができる。有機酸の合計が0.5質量部未満であると加硫速度を速くする作用が不充分になり、架橋密度が低下して破断強度が低下し、タイヤにしたときの耐久性が悪化する。有機酸の合計が1.0質量部を超えると、加硫が過度に促進されて破断強度や発熱性や接着性が悪化する。他の有機酸としては、ベルトコート用ゴム組成物に通常用いられる有機酸、例えばステアリン酸、リノール酸、パルミチン酸等を使用することができる。
【0021】
本発明のベルトコート用ゴム組成物には、上記以外の他の配合剤を添加することができる。他の配合剤としては、カーボンブラック以外の充填材、加硫促進剤、老化防止剤、液状ポリマー、熱硬化性樹脂、熱可塑性樹脂など、一般的に空気入りタイヤ用ゴム組成物に使用される各種配合剤を例示することができる。これら配合剤の配合量は本発明の目的に反しない限り、従来の一般的な配合量にすることができる。また混練機としは、通常のゴム用混練機械、例えば、バンバリーミキサー、ニーダー、ロール等を使用することができる。
【0022】
本発明のベルトコート用ゴム組成物は、上記のように有機酸コバルト塩を含有することでベルトコードに対する接着性を良好にすることができ、適量の有機酸を含むことで適度に加硫を促進すると共に、リバージョンに起因する破断強度や発熱性の悪化を抑制し、接着性や低発熱性を良好に維持することができる。そのため、4層以上のベルト層を備えた重荷重用空気入りタイヤに使用した場合に、内周側(ブラダー側)のベルト層と外周側(トレッド表面側)のベルト層とで加硫時の熱の伝わり方が異なっていても、トレッド部内の位置(内周側または外周側)に依らず加硫が適正に行われ、加硫後のベルトコートゴムは低発熱性、接着性、高破断特性をバランスよく高度に発揮することができる。
【0023】
本発明の重荷重用空気入りタイヤでは、図2に示すように、4層以上のベルト層7のうち、トレッド部1における最内周側に配置されたベルト層7(最内ベルト層)とその外周側に隣接したベルト層7との間に位置するゴムを層間ゴムA(図中の破線で囲んだ斜線部分のゴム12A)とし、トレッド部1における最外周側に配置されたベルト層7(最外ベルト層)とその内周側に隣接したベルト層7との間に位置するゴムを層間ゴムB(図中の破線で囲んだ斜線部分のゴム12B)とすると、層間ゴム層Aの損失正接tanδAと層間ゴムBの損失正接tanδBとが好ましくはtanδA/tanδB≦1.20の関係、より好ましくはtanδA/tanδB≦1.15の関係を満たし、層間ゴム層Aの破断強度TSAと層間ゴム層Bの破断強度TSBとが好ましくはTSA/TSB≧0.90の関係、より好ましくはTSA/TSB≧0.95の関係を満たすとよい。尚、図2において、図の下側が内周側(ブラダー側)であり、図の上側が外周側(トレッド表面側)である。これにより、加硫時の熱源側に位置して過加硫になり易い層間ゴムAと、加硫時の熱源から離れて加硫の進行が遅くなり易い層間ゴムBとの物性差を抑制することができ、ベルトコートゴムの低発熱性、接着性、高破断特性をバランスよく高度に両立し、タイヤの耐久性を高めるには有利になる。損失正接や破断強度が上述の関係から外れると層間ゴムAと層間ゴムBとの物性差が大きくなり、ベルトコートゴムの低発熱性、接着性、高破断特性をバランスよく両立することが難しくなり、タイヤにしたときの耐久性が悪化する。
【0024】
本発明は、上述のようにベルト層7を4層以上備えた重荷重用空気入りタイヤに適用されるが、好ましくはベルト層7を6層以上備えた重荷重用空気入りタイヤに適用するとよい。即ち、6層以上のベルト層7を備えた重荷重用空気入りタイヤでは、トレッド部1のトータルゲージが著しく厚くなり、トレッド部1の内周側(ブラダー側)と外周側(トレッド表面側)とでベルト層7(ベルトコートゴム12)の加硫度に差が生じ易いため、上述の本発明を好適に適用することができる。その結果、トレッド部内の位置(内周側または外周側)に依らず加硫を適正に行うことができ、ベルトコートゴムの低発熱性、接着性、高破断特性をバランスよく高度に両立し、重荷重用空気入りタイヤとして優れた耐久性を発揮することができる。
【0025】
以下、実施例によって本発明を更に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【実施例
【0026】
表1に示す配合からなる17種類のゴム組成物(標準例1、比較例1~7、実施例1~9)を、それぞれ加硫促進剤および硫黄を除く配合成分を秤量し、1.7Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練し、温度150℃でマスターバッチを放出し室温冷却した。その後、このマスターバッチを同じ1.7Lの密閉式バンバリーミキサーに供し、加硫促進剤及び硫黄を加え2分間混合してゴム組成物を調製した(尚、コバルト金属量が本発明の条件を満たさない実施例5、有機酸量が本発明の条件を満たさない実施例1,2は参考例である)
【0027】
各ゴム組成物について、下記に示す方法により、接着性の評価を行った。
【0028】
接着性
ASTM D1871に準拠して、各ゴム組成物にブラスめっきスチールコードを埋め込み、150℃×120分の条件で加硫することで最内ベルト層とその外周側に隣接したベルト層との間に位置する層間ゴムAに相当する試験片を作製し、150℃×45分の条件で加硫することで最外ベルト層とその内周側に隣接したベルト層との間に位置する層間ゴムBに相当する試験片を作製した。そして、ASTM D1871に準拠して、各試験片からブラスめっきスチールコードを引き抜き、ブラスめっきスチールコード(ワイヤ)のゴム被覆率を測定し、層間ゴムAおよび層間ゴムBのそれぞれの接着性を評価した。得られた結果は、標準例1の値を100とする指数として、表1の「接着性」の欄に示した。この指数値が大きいほどゴム被覆率が高く、層間ゴムの接着性が優れることを意味する。
【0029】
【表1】
【0030】
表1において使用した原材料の種類を下記に示す。
・NR:天然ゴム、RSS#3
・BR:ブタジエンゴム、日本ゼオン社製 Nipol BR1220
・CB:カーボンブラック、東海カーボン社製 シースト300(HAF‐LS)
・コバルト塩A:DIC CORPORATION社製 ナフテン酸コバルト(コバルト含有量:10%)
・コバルト塩B:DIC CORPORATION社製 DICNATE NBC‐II(コバルト含有量:22.5%)
・亜鉛華:正同化学工業社製 酸化亜鉛3種
・ステアリン酸:NOFコーポレーション社製 ステアリン酸YR
・老化防止剤:Solutia Europe社製 Santoflex 6PPD
・加硫促進剤:大内新興化学工業社製 ノクセラーDZ
・硫黄:軽井沢精錬所社製 油処理イオウ
【0031】
更に、得られた17種類のゴム組成物(標準例1、比較例1~7、実施例1~9)を用いて、タイヤサイズが27.00R49であり、図1に例示する基本構造を有し、ベルトコートゴムに使用したゴム組成物の種類、ベルト層の枚数、層間ゴムAと層間ゴムBとの損失正接の比tanδA/tanδBおよび破断強度の比TSA/TSBをそれぞれ表23のように設定した34種類の重荷重用空気入りタイヤ(標準タイヤ1~2、比較タイヤ1~14、実施タイヤ1~17)を作製した(尚、前述の参考例に該当する実施例1,2,5のゴム組成物を用いた実施タイヤ1,2,5、10,11,14は参考タイヤである)
【0032】
尚、損失正接(tanδA,tanδB)は、作製した各タイヤ(新品)の解体物から層間ゴムAおよび層間ゴムBを抜き出し、それぞれ2mm厚にスライスして測定サンプルを得て、レオメトリックス社製RDA‐IIを用いて、1%ねじれ、20Hz、60℃の条件で測定した。破断強度(TSA,TSB)についても、同様の方法で測定サンプルを得て、JIS K6251に準拠して、破断点での引張強度を測定した。
【0033】
各重荷重用空気入りタイヤについて、下記に示す方法により、タイヤ耐久性(耐ベルトエッジセパ性)の評価を行った。
【0034】
各重荷重用空気入りタイヤを標準リム(リムサイズ19.5-4.0)に組み付けて、空気圧を700kPaとして、室内ドラム試験機に取り付け、初期速度5km/h、初期荷重をJATMA規定の最大荷重の60%とし、36時間毎に速度を2km/hずつ増加し、12時間毎に荷重を最大荷重の120%に達するまで最大荷重の10%ずつ増加し、タイヤが破壊するまでの走行距離を測定した。評価結果は、表2については標準例1の値を100とする指数とし、表3については標準例2の値を100とする指数とし、それぞれ表2,3の「タイヤ耐久性」の欄に示した。この指数値が大きいほど、タイヤが破壊するまでの走行距離が長く、タイヤ耐久性に優れることを意味する。
【0035】
【表2】
【0036】
【表3】
【0037】
表1から明らかなように、実施例1~9のゴム組成物は標準例1のゴム組成物に対して、層間ゴムAおよび層間ゴムBの接着性を改善した。また、表2~3から明らかなように、これら実施例1~9のゴム組成物をベルトコートゴムに用いた実施タイヤ1~17は、各ゴム組成物の優れた接着性を得ながら、更に、標準タイヤ1または2に対して層間ゴムAと層間ゴムBとの損失正接(発熱性)や破断強度の物性差を抑制し、タイヤ耐久性を改善した。
【0038】
一方、比較例1のゴム組成物は、有機酸量が過多であるため、層間ゴムAおよびBの接着性が共に悪化し、これを用いた比較タイヤ1,8はタイヤ耐久性が悪化した。比較例2のゴム組成物は、有機酸量が過少であるため、架橋密度が低下し、層間ゴムAおよびBの破断強度が共に悪化し、これを用いた比較タイヤ2,9はタイヤ耐久性が悪化した。比較例3のゴム組成物は、カーボンブラックの配合量が過多であるため、層間ゴムAおよびBの発熱性が共に悪化し、これを用いた比較タイヤ3,10はタイヤ耐久性が悪化した。比較例4のゴム組成物は、カーボンブラックの配合量が過少であるため、層間ゴムAおよびBの破断強度が共に悪化し、これを用いた比較タイヤ4,11はタイヤ耐久性が悪化した。比較例5のゴム組成物は、有機酸コバルト塩の配合量が過多であるため、層間ゴムAの接着性が悪化し、これを用いた比較タイヤ5,12はタイヤ耐久性が悪化した。比較例6のゴム組成物は、有機酸コバルト塩の配合量が過少であるため、層間ゴムBの接着性が悪化し、これを用いた比較タイヤ6,13はタイヤ耐久性が悪化した。比較例7のゴム組成物は、ブタジエンゴムを含むため、層間ゴムAおよびBの破断強度が共に悪化し、これを用いた比較タイヤ7,14はタイヤ耐久性が悪化した。比較タイヤ15は、実施例7のゴム組成物を用いているが、ベルト層の枚数が過小であるため、ベルト部の剛性が悪化し、タイヤ耐久性が低下した。
【符号の説明】
【0039】
1 トレッド部
2 サイドウォール部
3 ビード部
4 カーカス層
5 ビードコア
6 ビードフィラー
7 ベルト層
11 ベルトコード
12 ベルトコートゴム
12A 層間ゴムA
12B 層間ゴムB
CL タイヤ赤道
図1
図2