(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】シミュレーション方法、その装置およびプログラム
(51)【国際特許分類】
G06F 30/23 20200101AFI20220117BHJP
B60C 19/00 20060101ALI20220117BHJP
G06F 30/15 20200101ALI20220117BHJP
G06F 30/20 20200101ALI20220117BHJP
【FI】
G06F30/23
B60C19/00 H
G06F30/15
G06F30/20
(21)【出願番号】P 2017224697
(22)【出願日】2017-11-22
【審査請求日】2020-11-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100152984
【氏名又は名称】伊東 秀明
(74)【代理人】
【識別番号】100148080
【氏名又は名称】三橋 史生
(72)【発明者】
【氏名】宮島 弘行
【審査官】合田 幸裕
(56)【参考文献】
【文献】特開2017-045178(JP,A)
【文献】特開2006-256406(JP,A)
【文献】特開2015-125461(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G06F 30/23
B60C 19/00
G06F 30/15
G06F 30/20
IEEE Xplore
JSTPlus(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンピュータによる数値解析により実行されるタイヤのシミュレーション方法であって、
前記タイヤについて、前記コンピュータで数値解析可能なタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成工程と、
前記タイヤが接触する路面について、前記コンピュータで数値解析可能な路面モデルを作成する路面モデル作成工程と、
前記コンピュータにより、前記タイヤモデルと前記路面モデルとの接触解析を実施し、所定の貫入量におけるペナルティ剛性値を得る接触解析工程と、
前記コンピュータにより、前記接触解析工程で得られた前記ペナルティ剛性値を用いて前記タイヤモデルと前記路面モデルとの転動解析を実施する転動解析工程とを有し、
前記接触解析工程は、
予め複数設定された、前記タイヤモデルと前記路面モデルとの貫入量に比例した接触力に基づいて規定されるペナルティ剛性に対して、それぞれ前記タイヤモデルの位置と前記路面モデルの位置とで規定される貫入量を求める工程と、
前記ペナルティ剛性と前記貫入量との関係を表す回帰曲線を得る工程と、
前記回帰曲線を用いて、前記所定の貫入量における前記ペナルティ剛性値を求める工程とを有するタイヤのシミュレーション方法。
【請求項2】
前記所定の貫入量は、1.0×10
-5~5.0×10
-1(mm)である請求項1に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項3】
前記ペナルティ剛性は、要素面積、要素体積、およびペナルティ係数が少なくとも含まれた式にて定義され、前記要素面積、前記要素体積、および前記ペナルティ係数のうち、少なくとも1つを変えることにより、前記貫入量を調整する請求項1または2に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項4】
前記接触解析工程で設定される前記ペナルティ剛性の水準数は、少なくとも3水準である請求項1~3のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項5】
前記タイヤモデルは、タイヤ断面幅方向において複数の領域に分割されており、前記複数の領域毎にペナルティ剛性値が調整されて前記貫入量が定められる請求項1~4のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法。
【請求項6】
タイヤについて、コンピュータで数値解析可能なタイヤモデルと、前記タイヤが接触する路面について、前記コンピュータで数値解析可能な路面モデルを作成するモデル作成部と、
前記タイヤモデルと前記路面モデルとの接触解析を実施し、所定の貫入量におけるペナルティ剛性値を得て、得られた前記ペナルティ剛性値を用いて前記タイヤモデルと前記路面モデルとの転動解析を実施する解析部とを有し、
前記解析部は、予め複数設定された、前記タイヤモデルと前記路面モデルとの貫入量に比例した接触力に基づいて規定されるペナルティ剛性に対して、それぞれ前記タイヤモデルの位置と前記路面モデルの位置とで規定される貫入量を求め、前記ペナルティ剛性と前記貫入量との関係を表す回帰曲線を得て、前記回帰曲線を用いて、前記所定の貫入量における前記ペナルティ剛性値を求めるタイヤのシミュレーション装置。
【請求項7】
前記所定の貫入量は、1.0×10
-5~5.0×10
-1(mm)である請求項6に記載のタイヤのシミュレーション装置。
【請求項8】
前記ペナルティ剛性は、要素面積、要素体積、およびペナルティ係数が少なくとも含まれた式にて定義され、前記解析部は、前記要素面積、前記要素体積、および前記ペナルティ係数のうち、少なくとも1つを変えることにより、前記貫入量を調整する請求項6または7に記載のタイヤのシミュレーション装置。
【請求項9】
前記解析部で設定される前記ペナルティ剛性の水準数は、少なくとも3水準である請求項6~8のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション装置。
【請求項10】
前記モデル作成部は、タイヤ断面幅方向において複数の領域に分割された前記タイヤモデルを作成し、前記解析部は、前記複数の領域毎にペナルティ剛性値を調整して前記貫入量を定める請求項6~9のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション装置。
【請求項11】
請求項1~5のいずれか1項に記載のタイヤのシミュレーション方法の各工程を手順としてコンピュータに実行させるためのプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンピュータを用いたタイヤのシミュレーション方法、その装置およびプログラムに関し、特に、転動解析のようにタイヤと路面間のような剛性差の大きな接触問題における解析結果を向上させたタイヤのシミュレーション方法、その装置およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
現在、コンピュータが解析可能なタイヤモデル等を作成し、有限要素法(FEM)により、タイヤ等の性能をシミュレーションする方法が提案されている。タイヤ等の性能シミュレーションでは、タイヤを有限個の要素に分割して得られたタイヤモデルを作成し、この有限要素で構成されたタイヤモデルを、路面を模した仮想路面で転動させている。タイヤの性能シミュレーションを用いてタイヤを設計する場合、最適化設計手法に基づき複数のタイヤ形状についてシミュレーションを行っている。
【0003】
タイヤの有限要素法のシミュレーションにおいて、転動解析のようにタイヤと路面のような剛性差の大きなものの接触問題においては、接触面の貫入が問題になることがある。そのため、接触反力を与え貫入量の調節、または貫入を防ぐことにより解析結果の精度を向上させている。例えば、特許文献1には、タイヤサイズの変化に伴い発生する、接触前における路面モデルのタイヤモデルへの貫入を防ぐことにより、路面モデル等との接触解析を含む形状最適化計算のような繰返し計算において、モデルの配置位置を起因とする計算の破綻を防ぐために好適なタイヤのシミュレーション方法が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上述の特許文献1においては、路面モデルが予めタイヤモデルに貫入しているのを防ぐことが提案されている。しかしながら、接触後における貫入量はトレッド形状、材料物性、およびメッシュサイズ等に依存するが、これらを考慮していない。このため、より高い信頼性およびより高い解析精度を得ようとする場合には、計算方法として十分ではないことが懸念される。
【0006】
本発明の目的は、前述の従来技術に基づく問題点を解消し、接触時における適切な貫入量を設定し、信頼性の高い計算結果を得られるタイヤのシミュレーション方法、その装置およびプログラムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明は、コンピュータによる数値解析により実行されるタイヤのシミュレーション方法であって、タイヤについて、コンピュータで数値解析可能なタイヤモデルを作成するタイヤモデル作成工程と、タイヤが接触する路面について、コンピュータで数値解析可能な路面モデルを作成する路面モデル作成工程と、コンピュータにより、タイヤモデルと路面モデルとの接触解析を実施し、所定の貫入量におけるペナルティ剛性値を得る接触解析工程と、コンピュータにより、接触解析工程で得られたペナルティ剛性値を用いてタイヤモデルと路面モデルとの転動解析を実施する転動解析工程とを有し、接触解析工程は、予め複数設定された、タイヤモデルと路面モデルとの貫入量に比例した接触力に基づいて規定されるペナルティ剛性に対して、それぞれタイヤモデルの位置と路面モデルの位置とで規定される貫入量を求める工程と、ペナルティ剛性と貫入量との関係を表す回帰曲線を得る工程と、その回帰曲線を用いて、所定の貫入量におけるペナルティ剛性値を求める工程とを有するタイヤのシミュレーション方法を提供するものである。
【0008】
所定の貫入量は、1.0×10-5~5.0×10-1(mm)であることが好ましい。
ペナルティ剛性は、要素面積、要素体積、およびペナルティ係数が少なくとも含まれた式にて定義され、要素面積、要素体積、およびペナルティ係数のうち、少なくとも1つを変えることにより、貫入量を調整することができる。
接触解析工程で設定されるペナルティ剛性の水準数は、少なくとも3水準であることが好ましい。
タイヤモデルは、タイヤ断面幅方向において複数の領域に分割されており、複数の領域毎にペナルティ剛性値が調整されて貫入量が定められることが好ましい。
【0009】
本発明は、タイヤについて、コンピュータで数値解析可能なタイヤモデルと、タイヤが接触する路面について、コンピュータで数値解析可能な路面モデルを作成するモデル作成部と、タイヤモデルと路面モデルとの接触解析を実施し、所定の貫入量におけるペナルティ剛性値を得て、得られたペナルティ剛性値を用いてタイヤモデルと路面モデルとの転動解析を実施する解析部とを有し、解析部は、予め複数設定された、タイヤモデルと路面モデルとの貫入量に比例した接触力に基づいて規定されるペナルティ剛性に対して、それぞれタイヤモデルの位置と路面モデルの位置とで規定される貫入量を求め、ペナルティ剛性と貫入量との関係を表す回帰曲線を得て、その回帰曲線を用いて、所定の貫入量におけるペナルティ剛性値を求めるタイヤのシミュレーション装置を提供するものである。
【0010】
所定の貫入量は、1.0×10-5~5.0×10-1(mm)であることが好ましい。
ペナルティ剛性は、要素面積、要素体積、およびペナルティ係数が少なくとも含まれた式にて定義され、解析部は、要素面積、要素体積、およびペナルティ係数のうち、少なくとも1つを変えることにより、貫入量を調整することができる。
解析部で設定されるペナルティ剛性の水準数は、少なくとも3水準であることが好ましい。
モデル作成部は、タイヤ断面幅方向において複数の領域に分割されたタイヤモデルを作成し、解析部は、複数の領域毎にペナルティ剛性値を調整して貫入量を定めることが好ましい。
【0011】
本発明のタイヤのシミュレーション方法の各工程を手順としてコンピュータに実行させるためのプログラムを提供するものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、適切な貫入量を設定し、信頼性の高い計算結果を得ることができるタイヤのシミュレーション方法およびタイヤのシミュレーション装置ならびにタイヤのシミュレーション用のプログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図1】本発明の実施形態のシミュレーション方法に用いられるシミュレーション装置を示す模式図である。
【
図2】本発明の実施形態のシミュレーション方法に用いられるタイヤモデルの一例を示す模式図である。
【
図3】本発明の実施形態のシミュレーション方法に用いられるタイヤモデルの一例の要部を示す模式図である。
【
図4】本発明の実施形態のシミュレーション方法を示すフローチャートである。
【
図5】接地中心部における貫入量とペナルティ剛性との関係を示すグラフである。
【
図6】タイヤモデルの摩耗エネルギーの一例を示す模式図である。
【
図7】タイヤモデルの摩耗エネルギーの他の例を示す模式図である。
【
図8】本発明の実施形態のシミュレーション方法に用いられるタイヤモデルの他の例を示す模式図である。
【
図9】実施例1および比較例1~5の貫入量とペナルティ剛性との関係を示すグラフである。
【
図10】実施例1のタイヤモデルの摩耗エネルギーの結果を示す模式図である。
【
図11】比較例3のタイヤモデルの摩耗エネルギーの結果を示す模式図である。
【
図12】実施例1のタイヤモデルの摩耗エネルギーの結果を示すグラフである。
【
図13】比較例3のタイヤモデルの摩耗エネルギーの結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に、添付の図面に示す好適実施形態に基づいて、本発明のシミュレーション方法、その装置およびプログラムを詳細に説明する。
図1は本発明の実施形態のシミュレーション方法に用いられるシミュレーション装置を示す模式図である。
図2は本発明の実施形態のシミュレーション方法に用いられるタイヤモデルの一例を示す模式図である。
【0015】
図1に示すシミュレーション装置10(以下、単に処理装置10という)は、本発明のタイヤのシミュレーション方法を実施する装置の一例である。処理装置10は、コンピュータ等のハードウェアを用いて構成される。本発明のタイヤのシミュレーション方法には、
図1に示す処理装置10が用いられるが、タイヤのシミュレーション方法をコンピュータ等のハードウェアまたはソフトウェアを用いて、数値解析により実行することができれば処理装置10に限定されるものではない。
【0016】
処理装置10は、処理部12と、入力部14と、表示部16とを有する。処理部12は、条件設定部20、モデル作成部22、解析部24、メモリ28、表示制御部30および制御部32を有する。この他に図示はしないがROM等を有する。
処理部12は、制御部32により制御される。また、処理部12において条件設定部20、モデル作成部22、解析部24、および表示制御部30はメモリ28に接続されており、条件設定部20、モデル作成部22および解析部24のデータがメモリ28に記憶される。
【0017】
入力部14は、マウスおよびキーボード等の各種情報をオペレータの指示により入力するための各種の入力デバイスである。表示部16は、例えば、本発明のタイヤのシミュレーション方法で得られた結果等を表示するものであり、公知の各種のディスプレイが用いられる。また、表示部16には各種情報を出力媒体に表示するためのプリンタ等のデバイスも含まれる。
【0018】
処理装置10は、メモリ28等に記憶されたプログラム(コンピュータソフトウェア)を、制御部32を用いて実行することにより、条件設定部20、モデル作成部22および解析部24の各部を機能的に形成する。処理装置10は、上述のように、プログラムが実行されることで各部位が機能するコンピュータによって構成されてもよいし、各部位が専用回路で構成された専用装置であってもよい。
本実施形態のタイヤのシミュレーション方法では、タイヤの接触解析およびタイヤの転動解析を行うため、処理装置10はタイヤの接触解析およびタイヤの転動解析を実施する機能を有する。
【0019】
条件設定部20は、本実施形態のタイヤのシミュレーション方法において必要な各種の条件および情報が入力されて設定するものである。条件設定部20は、例えば、タイヤのサイズ、タイヤを構成する各部材の大きさ、配置位置および弾性係数等の物理特性等の各種の条件および情報が入力され、これらを設定する。各種の条件および情報は、例えば、入力部14を介して入力される。条件設定部20で設定する各種の条件および情報はメモリ28に記憶される。
【0020】
条件設定部20に設定される特性値は評価しようとする物理量である。目的関数は、評価しようとする物理量を求めるための関数である。
タイヤの場合、特性値はタイヤの特性値である。特性値としては、例えば、タイヤ性能として評価しようとする物理量であり、操縦安定性の指標となるスリップ角ゼロ近傍における横力であるCP(コーナリングパワー)、乗心地性の指標となるタイヤの1次固有振動数、低燃費性能の指標となる転がり抵抗、操縦安定性の指標となる横剛性、縦剛性、たわみ量、接地圧分布、コーナリングフォース、摩擦係数および耐摩耗性の指標となるタイヤトレッド部材の摩耗エネルギー等が挙げられる。
【0021】
また、タイヤの負荷荷重、タイヤの転動速度を初めとする走行条件、タイヤが走行する路面条件、例えば、凹凸形状、摩擦係数等、車両の走行シミュレーションに用いるための車両諸元の情報等が設定される。
【0022】
モデル作成部22は、タイヤについてコンピュータで数値解析可能なタイヤモデルと、タイヤが接触する路面についてコンピュータで数値解析可能な路面モデルを作成するものであり、路面はタイヤを転動させる対象である。
タイヤモデルとしては、タイヤが装着されるリム、ホイール、およびタイヤ回転軸を再現するものをタイヤモデルとしてもよい。また、必要に応じて、タイヤが装着される車両を再現するモデルをタイヤモデルに組み込んでもよい。この際、タイヤモデル、リムモデル、ホイールモデル、およびタイヤ回転軸モデルを、予め設定された境界条件に基づいて一体化したモデルを作成することもできる。
解析に用いるタイヤモデルの形態は、特に限定されるものではなく、例えば、
図2に示すタイヤモデル40が例示される。
図2に示すようにタイヤモデル40は複数の要素41で構成されている。また、解析に用いるタイヤモデルの形態は、溝のないスムースタイヤでも主溝のみのものでもパターン付きであってもよい。
【0023】
なお、モデル作成部22で作成されるタイヤモデルの作成には公知の作成方法を用いることができる。例えば、タイヤを複数の節点で構成される有限個の要素に分割して、タイヤモデル40を作成する。
路面モデル42はタイヤモデル40と同様に作成してもよいし、弾性体として解析モデル化してもよいし、さらには剛体として解析モデル化してもよい。また、路面モデル42は、3次元離散化モデルでもよいし、サーフェスとして解析モデル化してもよい。
タイヤモデル40または路面モデル42を構成する要素は、例えば、2次元平面では四辺形要素、3次元体では四面体ソリッド要素、五面体ソリッド要素、六面体ソリッド要素等のソリッド要素、三角形シェル要素、四角形シェル要素等のシェル要素、面要素等のコンピュータで数値解析可能な要素とする。このようにして分割された要素は、解析の過程においては、3次元モデルでは3次元座標を用いて、2次元モデルでは2次元座標を用いて逐一特定される。
【0024】
モデル作成部22で作成されるタイヤモデルおよび路面モデルは、数値解析のための数値計算可能な離散化モデルであればよく、例えば、公知の有限要素法(FEM)に用いるための有限要素モデル等で構成される。
なお、タイヤモデルを用いて、例えば、タイヤウエット性能を初めとするタイヤ性能を求める場合等、路面モデルとタイヤモデルの他に、路面上に存在する介在物を再現するモデルを生成しておけばよい。例えば、介在物モデルとして、路面上の水、雪、泥、砂、砂利および氷等を再現する各種モデルを、数値計算可能な離散化モデルで生成しておけばよい。
なお、路面モデルも、表面が平坦な路面を再現するモデルに限らず、必要に応じて、表面に凹凸を有する路面形状を再現するモデルであってもよい。
【0025】
解析部24は、タイヤモデル40と路面モデル42との接触解析を実施し、所定の貫入量におけるペナルティ剛性値を得て、得られたペナルティ剛性値を用いてタイヤモデルと路面モデルとの転動解析を実施するものである。
解析部24では、予め複数設定された、タイヤモデルと路面モデルとの接触力に基づいて規定されるペナルティ剛性に対して、それぞれタイヤモデルの位置と路面モデルの位置とで規定される貫入量を求める。これにより、ペナルティ剛性のデータと貫入量のデータとの組を複数得る。
【0026】
次に、複数のペナルティ剛性のデータと貫入量のデータとの組を用いて、ペナルティ剛性と貫入量との関係を表す回帰曲線を得る。この回帰曲線を用いて、所定の貫入量におけるペナルティ剛性値を求める。得られた複数のペナルティ剛性のデータと貫入量のデータとは、組にしてメモリ28に記憶される。
解析部24では、予め複数設定されたペナルティ剛性に対して、それぞれ貫入量との関係を求める。具体的には、ペナルティ剛性と貫入量との回帰曲線を得る。解析部24では、回帰曲線を用いて、所定の貫入量におけるペナルティ剛性値を求める。
【0027】
回帰曲線は、ペナルティ剛性のデータと貫入量のデータとの組を複数用いた、公知の方法により得ることができ、回帰曲線を得る方法は、特に限定されるものではなく、回帰曲線には累乗または指数モデル等の非線形の関数を用いることが好ましい。
例えば、メモリ28に回帰曲線を得るためのプログラムが記憶されている。解析部24では、メモリ28からプログラム、およびペナルティ剛性のデータと貫入量のデータとの組を呼び出して、ペナルティ剛性のデータと貫入量のデータとの組を複数用いて回帰曲線を得る。
また、解析部24で設定されるペナルティ剛性の水準数は、回帰曲線の精度を高めるために少なくとも3水準設定することが好ましい。
【0028】
次に、接触解析について、ペナルティ剛性を含め説明する。
図3は本発明の実施形態のシミュレーション方法に用いられるタイヤモデルの一例の要部を示す模式図であり、
図3は
図2の要部を拡大して示している。
FEM(有限要素法)による接触問題の解法として、ペナルティ法が一般的に用いられる。ペナルティ法は接触する物体同士の侵入を許容し、侵入量に応じた力を接触力として物体に与える方法である。すなわち、接触する物体同士に仮想的なバネを張ったようにすることで接触を数値的に模擬する方法である。
【0029】
図3は、
図2に示すタイヤモデル40の要素41のうち、路面モデル42と接するものを示している。
図3では、要素41の表面41aが路面モデル42の表面42aに侵入している。また、要素41の表面41aに接触反力fを作用させている。
接触反力fは、f=-kLで表される。kは、ペナルティ剛性であり、Lは、貫入量である。貫入量Lは、
図3に示すように、要素41の表面41aと路面モデル42の表面42aとの距離である。なお、
図3は、タイヤモデル40が路面モデル42に侵入している状態を示している。
【0030】
また、汎用有限要素法ソフトウェアのひとつであるLS-DYNAを例にとると、ペナルティ剛性kは、要素がソリッド要素の場合、下記式で定義される。下記式のfsiはスケールファクター(ペナルティ係数)である。Kは体積弾性率であり、K=E/(3(1-2ν))で表される。Eはヤング率であり、νはポアソン比である。また、Aは要素面積であり、Vは要素体積である。
なお、要素がシェル要素の場合、下記式のV(要素体積)が、対角線長となる。
【0031】
【0032】
上述の式から、ペナルティ剛性kは、要素面積A、要素体積V、およびペナルティ係数(スケールファクター)fsiのうち、少なくとも1つを変えることにより、貫入量を調整することができる。これにより、ペナルティ剛性のチューニングパラメータとしては、ペナルティ係数に限定されず、メッシュサイズも考慮可能であることにより、解析対象および制約条件に応じたパラメータを選択することができる。
また、タイヤモデルのメッシュサイズを変更して、ペナルティ剛性を調整する場合は、要素の分割数を大きくする程、計算時間は多くなるが計算精度は高くなる。このため、計算時間とのバランスを考慮した上で要素分割の数をできるだけ多くすることが好ましい。
また、トレッド陸部の端部においては、一般的に摩耗エネルギーの変化が大きいことが知られていることから、ブロック端部の分割数を多くして評価精度の低下を抑制することが好ましい。このことから、摩耗エネルギー解析を目的として、トレッド部の幅方向断面位置によってメッシュサイズが変化する場合は、ペナルティ剛性を調整して貫入量が同一断面の幅方向位置によって大きく変化しないようにすることが好ましい。
【0033】
また、接触解析は、効率よくデータを取得するために静的接地解析が好ましい。また、静的接地解析では、材料構成則に粘弾性を用いる場合、定常状態となり安定した貫入量を取得するために、十分な時間または運動方程式に減衰項を与えることが好ましい。
また、貫入量は同一断面上におけるタイヤ幅方向の接地領域で同じ値であることが好ましく、少なくとも所定の値との誤差が50%以内であることが望ましい。例えば、貫入量の所定値として接地中心部における貫入量を定め、その値が0.01mmであった場合、接地中心を含むタイヤ幅方向断面の各位置における貫入量は0.005mm~0.015mmに収まることが望ましい。
【0034】
解析部24では、上述のように、得られたペナルティ剛性値を用いてタイヤモデルと路面モデルとの転動解析を実施する。例えば、路面上を転動するタイヤの転動を再現するシミュレーション条件を、モデル作成部22で生成したタイヤモデル、または路面モデル等に与えたときの、タイヤモデルの挙動、またはタイヤモデルに作用する力等の物理量を時系列に求める。解析部24は、例えば、公知の有限要素ソルバーによるサブルーチンを実行することで機能するものである。
また、解析部24では、上述の特性値を算出する。特性値としては、例えば、摩耗エネルギーが算出される。なお、転動解析は、特に限定されるものではなく、公知の方法を適宜用いることができる。
また、転動解析の解析対象は、特に限定されるものではなく、直進状態やコーナリング等の旋回状態に加え、加速度を付与した制動状態や駆動状態の解析がなされる。
【0035】
解析部24では、接触解析後、摩耗エネルギー、接触圧、タイヤ剛性および転動特性等の物理量を解析することもできる。
上述の接触解析および転動解析では、例えば、タイヤモデルに対して所定の内圧を付与して内圧充填処理(インフレート処理とも言う)を施し、内圧充填処理後のタイヤモデルを用いてもよく、内圧充填処理後に内圧を除去した状態、すなわち、タイヤがパンクした状態を模擬したタイヤモデルを用いてもよい。また、タイヤモデルは、リムに嵌められたコンピュータで数値解析可能なタイヤモデルでもよいが、例えば、リム接触部を拘束したようなリムがないモデルでもよい。
解析部24では、例えば、
図2に示す状態でタイヤモデル40の回転軸(図示せず)および路面モデル42のいずれか一方を拘束して接触解析を行う。また、解析部24では、モデル作成部22で作成された各種のモデルを用いて特性値を算出する。
【0036】
表示制御部30は、タイヤモデル、路面モデル、数値計算の結果、および最適解を表示部16に表示させるものであり、例えば、タイヤモデル、路面モデルをメモリ28から読み出し、表示部16に表示させる。
【0037】
次に、本実施形態のタイヤのシミュレーション方法について説明する。
図4は、本発明の実施形態のシミュレーション方法を示すフローチャートである。
図5は接地中心部における貫入量とペナルティ剛性との関係を示すグラフである。
本実施形態では、例えば、サイズが195/65R15のタイヤをシミュレーションの対象とする。
シミュレーションの前に、タイヤの形状、タイヤのサイズ、およびタイヤのパターン等を条件設定部20に設定する。本実施形態では、例えば、接触部におけるタイヤブロックのせん断力とすべり量の積にて定義される摩耗エネルギーを求めるため、特性値(目的関数)として摩耗エネルギーを設定する。タイヤの形状パラメータが条件設定部20に設定される。特性値(目的関数)を求める際に用いる非線形応答を定める。
【0038】
シミュレーション方法では、条件設定部20に設定された情報を用いて、モデル作成部22でメッシュモデル等のタイヤモデル40(
図2参照)を作成する(ステップS10)。ステップS10がタイヤモデル作成工程である。
次に、条件設定部20に設定された情報を用いて、モデル作成部22で路面モデル42(
図2参照)を作成する(ステップS12)。ステップS12が路面モデル作成工程である。
次に、回帰曲線を得るために、複数のペナルティ剛性を条件設定部20に設定する(ステップS14)。ステップS14で設定される複数のペナルティ剛性の設定値は、ペナルティ剛性の変化が予め設定した任意の値に対して離散的に設定することが望ましく、例えば、任意の値に対して大きくなる、小さくなる、または所定の値に近づくように設定する。
【0039】
次に、解析部24で、ステップS14で設定した複数のペナルティ剛性を用いてタイヤモデル40(
図2参照)と路面モデル42(
図2参照)との接触解析を実施する(ステップS16)。ステップS16が接触解析工程であり、ステップS16では、タイヤモデル40と路面モデル42のいずれか一方を拘束し、その状態で接触処理を実施する。接触解析としては、例えば、上述のように静的接地解析がなされる。
ステップS16の接触解析により、貫入量Lを取得する(ステップS18)。ステップS18により、ペナルティ剛性に対する貫入量が得られ、ペナルティ剛性のデータと貫入量のデータとの組が得られ、メモリ28に記憶される。なお、取得する貫入量はタイヤモデルのトレッド部において、路面と接触する領域のメッシュサイズや材料物性が同一であれば、代表的な位置、例えば、接地中心における貫入量のみ対象にする判定条件をプログラムとして設定されていてもよい。
【0040】
ステップS14において、複数のペナルティ剛性が設定されている。設定したペナルティ剛性について対応する全ての貫入量を取得したかを判定し(ステップS20)、全てのペナルティ剛性の貫入量を求めるまで、上述のステップS14~ステップS18を繰り返し実行する(ステップS20)。これにより、設定した全てのペナルティ剛性について、ペナルティ剛性のデータと貫入量のデータとの組み合わせが得られる。
【0041】
回帰曲線を求めるため、同一箇所におけるペナルティ剛性データと貫入量のデータとの組は、少なくとも3組あることが好ましい。このため、予め設定されるペナルティ剛性の水準数は少なくとも3水準であることが好ましい。ペナルティ剛性データと貫入量のデータとの組が少なくとも3組あれば、精度の良い回帰曲線を得ることができる。
上述のペナルティ剛性データと貫入量のデータとの組、すなわち、予め設定されるペナルティ剛性の数の上限は、特に限定されるものではないが、計算時間、要求される貫入量の精度等から適宜決定されるものである。
また、例えば、回帰係数または残差二乗和の変化を判定条件として定め、値に変化が生じなければ、上述のステップS14~ステップS18を繰り返すことを、打ち切る設定をプログラムに組み込んでもよい。
【0042】
次に、得られたペナルティ剛性のデータと貫入量のデータとの組を複数用いて、回帰分析により、
図5に示すように回帰曲線50を得る(ステップS22)。回帰曲線50を得る方法は上述のとおりである。なお、
図5に示す符号51は、ペナルティ剛性のデータと貫入量のデータとの組で表されるデータ点である。
【0043】
次に、ステップS22で得られた回帰曲線を用いて所定の貫入量におけるペナルティ剛性値を得る(ステップS24)。ステップS24では、例えば、
図5に示す回帰曲線50を用いて所定の貫入量Dでのペナルティ剛性値を得る。
次に、ステップS24で得たペナルティ剛性値を用いて、解析部24にて、タイヤモデル40(
図2参照)と路面モデル42(
図2参照)との転動解析を実施する(ステップS26)。ステップS26が転動解析工程であり、ステップS26の転動解析は、例えば、特性値として摩耗エネルギーを求める。ステップS26で得られた摩耗エネルギーの結果は、例えば、メモリ28に記憶される。
【0044】
ステップS26で得られたタイヤの摩耗エネルギーの結果を
図6に示す。タイヤモデルの
図6に示すトレッド部60における摩耗エネルギーの分布は、第1の領域61a、第2の領域61b、第3の領域62aおよび第4の領域62bのいずれにおいても、タイヤ周方向のばらつきが殆どない。すなわち、適切な貫入量が設定されタイヤモデル40(
図2参照)と路面モデル42(
図2参照)とが均一に接触した状態で転動解析がなされたことを示す。
【0045】
一方、本発明の方法を用いない場合、タイヤモデルの
図7に示すトレッド部100における摩耗エネルギーの分布は、
図6に比して、第1の領域101a、第2の領域101b、第3の領域102aおよび第4の領域102bのいずれの領域でも、タイヤ周方向の摩耗エネルギーにばらつきがある。本来、周方向のメッシュ分割が均一であり、ラグ溝等を持たない
図6および
図7のようなタイヤモデルであれば、粘弾性材料の応答遅れや主溝エッジ部の振動等があっても、定常状態下における摩耗エネルギーは周方向にほぼ均一な分布となるはずである。摩耗エネルギーのばらつきは、ペナルティ剛性が大きすぎること、もしくは小さすぎること、すなわち、適切な貫入量が設定されていないことに大きく起因するものである。本発明のように適切な貫入量を設定することにより、
図6に示すようにばらつきが小さい摩耗エネルギーの分布が得られ、信頼性の高い計算結果を得ることができる。
なお、物性値としては、摩耗エネルギーに限定されるものではなく、タイヤと路面間における摩擦係数をパラメータとして、摩耗エネルギー試験結果と計算結果を合わせこむ際に上述の手法を用いることにより推定可能である。
【0046】
なお、ペナルティ剛性値を得るための所定の貫入量Dは1.0×10
-5~5.0×10
-1(mm)であることが好ましい。所定の貫入量Dとしては、上述の範囲が実用上の範囲であり、より精度の良いタイヤの転動解析結果を得ることができる。
上述のシミュレーション方法では、1つのタイヤモデルに対して、所定の貫入量を1つ設定するものとしたが、これに限定されるものではない。例えば、
図8に示すタイヤモデル40では、トレッド部44が、タイヤ断面幅方向Wにおいて複数の領域44a~44cに分割されている。複数の領域44a~44c毎にペナルティ剛性を調整して貫入量を決定するようにしてもよい。これにより、貫入量を領域毎に細かくコントロールすることが可能となり、タイヤモデルのメッシュサイズを修正することなく効率的に精度の高いタイヤの転動解析の結果を得ることができる。
【0047】
領域の分割としては、例えば、タイヤの周方向溝を境界とした陸部(ショルダー部またはセンター部等)に分類することが挙げられる。
図8に示す領域44aおよび領域44bはセンター部と呼ばれる領域であり、領域44cはショルダー部と呼ばれる領域である。
図8に示すタイヤモデル40の場合でも、貫入量は同一断面の幅方向領域で同じ値であることが望ましい。陸部毎に貫入量を大きく変えてしまうと接地圧やすべり量に影響するため正確な摩耗エネルギー分布を評価できない。このため、同一断面の幅方向領域における貫入量は、少なくとも所定の貫入量の値との誤差が50%以内であることが好ましい。
【0048】
本実施形態においては、適切な貫入量を設定し、信頼性の高い計算結果を得ることができる。また、タイヤモデルのメッシュサイズ、およびタイヤの材料物性等に影響されずにタイヤの性能をより正確に評価することができる。
上述のタイヤのシミュレーション方法は、上述の処理装置10で実行することができる。また、上述のシミュレーション方法の各工程を手順としてコンピュータに実行させるためのプログラムを用いて、上述のシミュレーション方法を実行することもできる。
【0049】
本実施形態においては、
図2に示す2次元タイヤ断面モデルのタイヤモデル40を周方向に展開して作成した3次元有限要素モデルを例にして説明したが、これに限定されるものではない。例えば、実際の製品におけるパターンデザインを用いる場合、複雑な溝形状のため同一断面上に有限要素モデルの節点が揃わない場合がある。その場合は所定の断面、例えば、接地中心部に最も近傍な節点を中心とし、その幅方向断面線からの周方向距離が近傍な節点あるいは要素群を抽出し、それらの貫入量を用いて評価するようなプログラムを処理装置10に与えておいてもよい。
【0050】
本発明は、基本的に以上のように構成されるものである。以上、本発明のシミュレーション方法、その装置およびプログラムについて詳細に説明したが、本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の主旨を逸脱しない範囲において、種々の改良または変更をしてもよいのはもちろんである。
【実施例】
【0051】
以下、本発明のシミュレーション方法の効果について具体的に説明する。
本実施例では、実施例1および比較例1~5のシミュレーション方法で、タイヤモデルと路面モデルとの接触解析および転動解析を実施し、タイヤの摩耗エネルギーを計算し、本発明のシミュレーション方法の効果を確認した。
【0052】
本実施例では、タイヤサイズ195/65R15のタイヤモデルを用いて、貫入量を調節し、コーナリング時における摩耗エネルギーを、有限要素法(FEM)を用いて算出した。また、比較のためにタイヤ実物の摩耗エネルギーを求めた。
タイヤモデルおよび実物のタイヤでは、空気圧を230kPaとし、荷重を4.0kNとし、コーナリング速度を20km/時とした。
【0053】
以下、実施例1および比較例1~5について説明する。
図9は実施例1および比較例1~5の貫入量とペナルティ剛性との関係を示すグラフである。
本実施例では、同一のメッシュを有するタイヤモデルを用いて、ペナルティ剛性の異なる5ケースの解析結果から回帰分析を行い、回帰曲線50を求め、実施例1として、所望の貫入量となるペナルティ剛性値を取得した。取得したペナルティ剛性値を用いて解析を行った。なお、タイヤモデルにおける断面幅方向の貫入量が、同一断面幅方向位置における貫入量の平均値との差分が±50%以内であったため、
図9は接地中心部における値を代表値として比較を行っている。
【0054】
また、回帰曲線を得るために、ペナルティ剛性の設定値を5ケース設定し、5ケースの貫入量とペナルティ剛性との組を、
図9に示すように比較例1~比較例5とした。また、
図9に示す回帰曲線50から、所定の貫入量の実施例1を得た。
タイヤモデルと路面モデルとの転動解析は、旋回力(横力)0.2Gを負荷した旋回状態において評価を実施した。このとき、出力間隔を1000Hzとし、微少時間ステップ毎に接触領域各節点のせん断力とすべり量を1.0秒分算出した。すなわち、1000個のデータを得た。そして、得られたせん断力の値とすべり量の値とを乗じることにより、実施例1および比較例1~5の摩耗エネルギーを算出した。
【0055】
実測値は、タイヤモデルと同じタイヤサイズ195/65R15の実物のタイヤを、上述のタイヤモデルと同じ走行状態(空気圧230kPa、荷重4.0kN、コーナリング速度20km/時)において所定の計測装置により計測した結果を用いた。実物のタイヤを転動させ、旋回力(横力)0.2Gを負荷した旋回状態において、せん断力とすべり量を計測し、せん断力とすべり量を得た。せん断力の値とすべり量の値とを乗じることにより、摩耗エネルギーの実測値を得た。
下記表1に実施例1および比較例1~5、ならびに実測値の摩耗エネルギーを示す。なお、下記表1では実測値の摩耗エネルギーを100として規格化している。
【0056】
【0057】
上記表1に示すように、実施例1は、比較例1~5よりも摩耗エネルギーが実測値に近く、信頼性の高い計算結果が得られた。
ここで、
図10は実施例1のタイヤモデルの摩耗エネルギーの結果を示す模式図であり、
図11は比較例3のタイヤモデルの摩耗エネルギーの結果を示す模式図である。
図12は実施例1のタイヤモデルの摩耗エネルギーの結果を示すグラフであり、
図13は比較例3のタイヤモデルの摩耗エネルギーの結果を示すグラフである。
図12において、符号70はデータ数1000の全平均値を示し、符号72はデータ数1000の中においてピークとなった値を示す。
図13において、符号110はデータ数1000の全平均値を示し、符号112はデータ数1000の中におけるピーク値を示す。
【0058】
図10と
図12は実施例1の摩耗エネルギーの結果を示し、
図11と
図13は比較例3の摩耗エネルギーの結果を示す。
図10にトレッド部64における摩耗エネルギーの分布を示す。
図10に示す実施例1のトレッド部64の領域65aは
図12の符号73aに対応し、領域65bは
図12の符号73bに対応し、領域65cは
図12の符号73cに対応し、領域65dは
図12の符号73dに対応している。
図11に比較例3のトレッド部105における摩耗エネルギーの分布を示す。
図11に示すトレッド部105の領域106aは
図13の符号114aに対応し、領域106bは
図13の符号114bに対応し、領域106cは
図13の符号114cに対応し、領域106dは
図13の符号114dに対応している。
【0059】
図12に示すように、実施例1はデータ数1000の全平均値と、データ数1000のピーク値とが殆ど同じであった。一方、比較例3はデータ数1000の全平均値と、データ数1000のピーク値とのずれが大きい、すなわち、データ間のばらつきが大きかった。このように同一断面の幅方向における貫入量の値のばらつきを抑制し、なおかつその貫入量を最適化することにより、解析精度が高く、なおかつ各陸部における値のばらつきが小さい結果を得ることができた。
【符号の説明】
【0060】
10 シミュレーション装置(処理装置)
12 処理部
14 入力部
16 表示部
20 条件設定部
22 モデル作成部
24 解析部
28 メモリ
30 表示制御部
32 制御部
40 タイヤモデル
42 路面モデル
50 回帰曲線