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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】シート
(51)【国際特許分類】
   C08J 5/18 20060101AFI20220117BHJP
   C08L 1/02 20060101ALI20220117BHJP
   C08L 101/02 20060101ALI20220117BHJP
   C08L 33/26 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C08J5/18 CEP
C08L1/02
C08L101/02
C08L33/26
【請求項の数】 11
(21)【出願番号】P 2017566991
(86)(22)【出願日】2017-02-09
(86)【国際出願番号】 JP2017004663
(87)【国際公開番号】W WO2017138589
(87)【国際公開日】2017-08-17
【審査請求日】2019-11-14
(31)【優先権主張番号】P 2016023532
(32)【優先日】2016-02-10
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000122298
【氏名又は名称】王子ホールディングス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000109
【氏名又は名称】特許業務法人特許事務所サイクス
(72)【発明者】
【氏名】酒井 紅
(72)【発明者】
【氏名】盤指 豪
(72)【発明者】
【氏名】砂川 寛一
(72)【発明者】
【氏名】伏見 速雄
【審査官】磯部 洋一郎
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-127141(JP,A)
【文献】特開2014-095008(JP,A)
【文献】特開2008-303361(JP,A)
【文献】特開平11-338129(JP,A)
【文献】特開2004-158214(JP,A)
【文献】国際公開第2014/192634(WO,A1)
【文献】特開2010-168716(JP,A)
【文献】特開2010-168572(JP,A)
【文献】特開2013-064029(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J5/00-5/02
5/12-5/22
C08K3/00-13/08
C08L1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、カチオン樹脂と、を含み、
前記繊維状セルロースは、イオン性官能基を有し、前記イオン性官能基はリン酸基またはリン酸基に由来する置換基、もしくは、スルホン基またはスルホン基に由来する置換基であり、
前記カチオン樹脂は、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを含み、
JIS K 7136に準拠して測定したヘーズが6%以下であるシート。
【請求項2】
前記シートをイオン交換水に24時間浸漬した後の質量をWとし、前記シートを23℃、相対湿度50%で24時間調湿した後の質量をWとした場合、(W-W)/W×100で表される吸水率が5000%以下である請求項に記載のシート。
【請求項3】
全光線透過率が85%以上である請求項1又は2に記載のシート。
【請求項4】
23℃、相対湿度50%の条件下で24時間調湿した後の引張弾性率が5GPa以上である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
【請求項5】
前記繊維状セルロース100質量部に対して、前記ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを0.1質量部以上15質量部以下含む請求項1~いずれか1項に記載のシート。
【請求項6】
ポリアクリルアミド系樹脂をさらに含む請求項1~いずれか1項に記載のシート。
【請求項7】
前記ポリアクリルアミド系樹脂は、イオン性のポリアクリルアミド系樹脂である請求項に記載のシート。
【請求項8】
前記ポリアクリルアミド系樹脂は、ノニオン性のポリアクリルアミド系樹脂である請求項に記載のシート。
【請求項9】
前記イオン性官能基はリン酸基である請求項1~8のいずれか1項に記載のシート。
【請求項10】
JIS K 7373に準拠して測定した黄色度が1.2以下である請求項1~のいずれか1項に記載のシート。
【請求項11】
粒状の樹脂を含む請求項1~10のいずれか1項に記載のシート。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シートに関する。具体的には、本発明は、微細繊維状セルロースを含むシートに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、石油資源の代替及び環境意識の高まりから、再生産可能な天然繊維を利用した材料が着目されている。天然繊維の中でも、繊維径が10μm以上50μm以下の繊維状セルロース、特に木材由来の繊維状セルロース(パルプ)は、主に紙製品としてこれまで幅広く使用されてきた。
【0003】
繊維状セルロースとしては、繊維径が1μm以下の微細繊維状セルロースも知られている。また、このような微細繊維状セルロースから構成されるシートや、微細繊維状セルロース含有シートと樹脂を含む複合シートが開発されている。微細繊維状セルロースを含有するシートや複合シートにおいては、繊維同士の接点が著しく増加することから、引張強度等が大きく向上することが知られている。また、各種添加剤を添加することによってシートの強度を高めることも検討されている(例えば特許文献1~3)。
【0004】
特許文献1及び2には、微細繊維状セルロースと、ポリアクリルアミド系樹脂を含むシートが開示されている。特許文献1では、主にポリアクリルアミド系樹脂としてアニオン性ポリアクリルアミド樹脂が用いられている。特許文献2では、カルボキシル基を有する微細繊維状セルロースと、ノニオン性ポリアクリルアミド樹脂等を含むシートが開示されている。また、特許文献3には、カルボキシル基を有する微細繊維状セルロースと、カチオン性水性樹脂を含むシートが開示されている。ここでは、カチオン性水性樹脂として、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリン樹脂、ポリアミンエピハロヒドリン樹脂及びポリアクリルアミド樹脂が用いられている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】国際公開WO2014/192634号公報
【文献】特開2014-095008号公報
【文献】特開2008-303361号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したように微細繊維状セルロース含有シートに樹脂類を添加することにより、シートの機械的強度を高めることが提案されている。また、特許文献3においては、特定のカチオン性水性樹脂を添加することにより、シートの耐水性を向上させることが検討されている。
しかしながら、特許文献1及び2で得られた微細繊維状セルロース含有シートにおいては、耐水性が十分ではない場合があり改善が求められていた。また、特許文献3の実施例で得られた微細繊維状セルロース含有シートにおいては、透明性が低下することが本発明者らの検討により明らかとなった。すなわち、従来技術で得られた微細繊維状セルロース含有シートにおいては、耐水性と透明性が両立されておらず改善が求められていた。
【0007】
そこで本発明者らは、このような従来技術の課題を解決するために、透明性の高いシートにおいて、耐水性を向上させた微細繊維状セルロース含有シートを提供することを目的として検討を進めた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記の課題を解決するために鋭意検討を行った結果、本発明者らは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースを含むシートに、カチオン樹脂を添加し、さらにシートのヘーズを所定値以下に制御することにより、透明性と耐水性に優れたシートが得られることを見出した。
具体的に、本発明は、以下の構成を有する。
【0009】
[1] 繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、カチオン樹脂と、を含み、ヘーズが6%以下であるシート。
[2]カチオン樹脂が、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを含む[1]に記載のシート。
[3] シートをイオン交換水に24時間浸漬した後の質量をWとし、シートを23℃、相対湿度50%で24時間調湿した後の質量をWdとした場合、(W-Wd)/Wd×100で表される吸水率が5000%以下である[1]又は[2]に記載のシート。
[4] 全光線透過率が85%以上である[1]~[3]のいずれかに記載のシート。
[5] 23℃、相対湿度50%の条件下で24時間調湿した後の引張弾性率が5GPa以上である[1]~[4]のいずれかに記載のシート。
[6] 繊維状セルロース100質量部に対して、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを0.1質量部以上15質量部以下含む[1]~[5]いずれかに記載のシート。
[7] ポリアクリルアミド系樹脂をさらに含む[1]~[6]いずれかに記載のシート。
[8] ポリアクリルアミド系樹脂は、イオン性のポリアクリルアミド系樹脂である[7]に記載のシート。
[9] ポリアクリルアミド系樹脂は、ノニオン性のポリアクリルアミド系樹脂である[7]に記載のシート。
[10] 繊維状セルロースは、イオン性官能基を有する[1]~[9]のいずれかに記載のシート。
[11] イオン性官能基はリン酸基である[10]に記載のシート。
[12] JIS K 7373に準拠して測定した黄色度が1.2以下である[1]~[11]のいずれかに記載のシート。
[13] 粒状の樹脂を含む[1]~[12]のいずれかに記載のシート。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、透明性と耐水性に優れたシートを得ることができる。本発明のシートは、上記特性を有するシートであるため、様々な用途に適用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、リン酸基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
図2図2は、カルボキシル基を有する繊維原料に対するNaOH滴下量と電気伝導度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下において、本発明について詳細に説明する。以下に記載する構成要件の説明は、代表的な実施形態や具体例に基づいてなされることがあるが、本発明はそのような実施形態に限定されるものではない。
【0013】
(シート)
本発明は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、カチオン樹脂とを含むシートに関する。本発明のシートは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンとを含むシートに関するものであることが好ましい。ここで、本発明のシートのヘーズは6%以下である。
本発明のシートは上記構成を有するため、透明性の高いシートにおいて優れた耐水性を発揮するものである。また、本発明のシートは透明性と耐水性に加えて、十分な強度を有するものであり、十分な引張強度と引張弾性率を有するものである。
【0014】
本発明のシートのヘーズは6%以下であればよく、5%以下であることが好ましく、3%以下であることがより好ましく、2%以下であることがさらに好ましく、1.5%以下であることが特に好ましく、ヘーズは0%であってもよい。本発明においては、シートのヘーズを上記範囲とすることにより、シートの透明性をより高めることができる。ここで、シートのヘーズは、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
【0015】
本発明のシートは、吸水率が小さい。本発明においてシートの吸水率が小さいことは、耐水性に優れていることを意味する。本発明では、シートをイオン交換水に24時間浸漬した後の質量をWとし、シートを23℃、相対湿度50%、24時間調湿した後の質量をWdとした場合、吸水率(%)は、(W-Wd)/Wd×100で表される値となる。吸水率は、5000%以下であることが好ましく、3000%以下であることがより好ましく、1000%以下であることがさらに好ましく、500%以下であることがよりさらに好ましく、300%以下であることが特に好ましい。なお、シートの吸水率は0%であってもよい。
【0016】
また、本発明のシートは全光線透過率が高い点にも特徴がある。本発明のシートの全光線透過率は、85%以上であることが好ましく、89%以上であることがより好ましく、91%以上であることがさらに好ましい。本発明においては、シートの全光線透過率を上記範囲とすることにより、シートの透明性をより高めることができる。ここで、シートの全光線透過率は、JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて測定される値である。
【0017】
本発明のシートの黄色度は、2.5以下であることが好ましく、1.5以下であることがより好ましく、1.2以下であることがさらに好ましく、1.0以下であることが特に好ましい。黄色度は、JIS K 7373に準拠して測定した値であり、黄色度を上記範囲とすることにより、シートの透明性をより高めることができ、高品質のシートを得ることができる。
【0018】
本発明のシートの引張強度は、50MPa以上であることが好ましく、70MPa以上であることがより好ましく、75MPa以上であることがさらに好ましい。引張強度の上限値は、特に限定されないが、たとえば500MPa以下とすることができる。
本発明のシートの引張弾性率は、5GPa以上であることが好ましく、6GPa以上であることがより好ましく、7GPa以上であることがさらに好ましい。引張弾性率の上限値は、特に限定されないが、たとえば50GPa以下とすることができる。
本発明のシートの伸度は、1%以上であることが好ましく、2%以上であることがより好ましく、3%以上であることがさらに好ましい。シートの伸度は、20%以下であることが好ましく、15%以下であることがより好ましい。
上記引張強度、引張弾性率及び伸度は、シートを23℃、相対湿度50%の条件下に24時間置いた後にJIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて測定をした値である。本願明細書においては、23℃、相対湿度50%の条件は調湿条件(乾燥条件)であり、上記引張強度、引張弾性率及び伸度は調湿条件下に24時間静置した後の引張強度、引張弾性率及び伸度である。
【0019】
本発明のシートの密度は、1.0g/cm3以上であることが好ましく、1.2g/cm3以上であることがより好ましく、1.5g/cm3以上であることがさらに好ましい。また、シートの密度は、7.0g/cm3以下であることが好ましい。シートの密度は、シートの坪量と厚さから、JIS P 8118に準拠して算出される。シートの坪量は、JIS P 8124に準拠し、算出することができる。なお、シートの密度は、微細繊維状セルロース以外の他の成分を含む密度である。
【0020】
本発明のシートの厚みは特に限定されるものではないが、5μm以上とすることが好ましく、10μm以上とすることがより好ましく、20μm以上とすることがさらに好ましい。またシートの厚みの上限値は、特に限定されないが、たとえば1000μm以下とすることができる。
【0021】
(カチオン樹脂)
本発明のシートは、カチオン樹脂を含む。本発明のシートにおいては、カチオン樹脂がセルロース繊維に定着し、当該カチオン樹脂の疎水部分によってシートの耐水性が向上すると考えられる。
【0022】
カチオン樹脂としては、例えば、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリン、ポリエチレンポリアミンやポリプロピレンポリアミン等のポリアルキレンポリアミン類またはその誘導体;第2級または第3級アミノ基や第4級アンモニウム基を有するアクリル重合体、またはそれらのアクリルアミドの共重合体;ポリビニルアミン類およびポリビニルアミジン類、ジシアンジアミド-ホルマリン共重合体に代表されるジシアン系カチオン性化合物;ジシアンジアミド-ポリエチレンアミン共重合体に代表されるポリアミン系カチオン性化合物;エピクロルヒドリン-ジメチルアミン共重合体、ジアリルジメチルアンモニウム-SO2重縮合体、ジアリルアミン塩-SO2重縮合体、ジアリルジメチルアンモニウムクロライド重合体、アリルアミン塩の共重合体、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート4級塩共重合体、アクリルアミド-ジアリルアミン共重合体、5員環アミジン構造を有するカチオン性樹脂等を挙げることができる。カチオン樹脂としては、上述した樹脂を1種のみ用いてもよく、2種以上を組み合わせて用いてもよい。
【0023】
中でも、シートの耐水性及び透明性の両方を効果的に高める観点から、カチオン性樹脂はポリアミンポリアミドエピハロヒドリンであることが好ましく、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンであることが特に好ましい。
ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンは、脂肪族二塩基性カルボン酸又はその誘導体と、ポリアルキレンポリアミンを加熱縮合させてポリアミドポリアミンを合成し、次いで該ポリアミドポリアミンとエピハロヒドリンを反応させることで得られるカチオン性熱硬化性樹脂である。なお、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンは水性樹脂であり、シートを製造する際にはポリアミンポリアミドエピハロヒドリンは水溶液として添加することが好ましい。
【0024】
ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンとしては、例えば、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン、ポリアミンポリアミドエピブロモヒドリン、ポリアミンポリアミドエピヨードヒドリン等を挙げることができる。中でも、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンは好ましく用いられる。
ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンが特に好ましい理由は、次のとおりと考えられる。ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンは、ポリアミンポリアミド樹脂とエピクロロヒドリンを付加反応させることにより得られる。ポリアミンポリアミド樹脂は、カチオン基と疎水基を有するため、セルロース繊維に定着し、耐水性を発揮することが出来る。また、エピクロロヒドリンも、セルロースと結合し、耐水性を高めることに寄与する。このようなポリアミンポリアミド樹脂とエピクロロヒドリンを付加反応させることにより得られるポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンは、水性樹脂であり、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンを水溶液として微細繊維セルロースに添加することにより、微細繊維セルロースの透明性を阻害することなく、耐水性を発揮することが出来る。
【0025】
ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンの含有量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、2質量部以上であることがさらに好ましく、5質量部以上であることが特に好ましい。また、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンの含有量は、15質量部以下であることが好ましく、12質量部以下であることがより好ましい。ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンの含有量を上記範囲内とすることにより、シートのヘーズ値を所望の範囲内とすることができる。また、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンの含有量を上記範囲内とすることにより、シートの耐水性及び透明性の両方を効果的に高めることができる。
なお、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンの含有量は、例えば、NMR測定やMSのフラグメント解析、UV解析などを用いて分析することができる。
【0026】
本発明のシートに含まれるポリアミンポリアミドエピハロヒドリンの構造としては、例えば、下記の構造が挙げられる。下記構造式中のAはハロゲン原子を表す。
【化1】
【0027】
(微細繊維状セルロース)
本発明のシートは、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース(以下、微細繊維状セルロースともいう)を含む。シートに含まれる微細繊維状セルロースの含有量は、シートの全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。
【0028】
微細繊維状セルロースを得るための繊維状セルロース原料としては特に限定されないが、入手しやすく安価である点から、パルプを用いることが好ましい。パルプとしては、木材パルプ、非木材パルプ、脱墨パルプを挙げることができる。木材パルプとしては例えば、広葉樹クラフトパルプ(LBKP)、針葉樹クラフトパルプ(NBKP)、サルファイトパルプ(SP)、溶解パルプ(DP)、ソーダパルプ(AP)、未晒しクラフトパルプ(UKP)、酸素漂白クラフトパルプ(OKP)等の化学パルプ等が挙げられる。また、セミケミカルパルプ(SCP)、ケミグラウンドウッドパルプ(CGP)等の半化学パルプ、砕木パルプ(GP)、サーモメカニカルパルプ(TMP、BCTMP)等の機械パルプ、等が挙げられるが、特に限定されない。非木材パルプとしてはコットンリンターやコットンリント等の綿系パルプ、麻、麦わら、バガス等の非木材系パルプ、ホヤや海草等から単離されるセルロース、キチン、キトサン等が挙げられるが、特に限定されない。脱墨パルプとしては古紙を原料とする脱墨パルプが挙げられるが、特に限定されない。本実施態様のパルプは上記の1種を単独で用いてもよいし、2種以上混合して用いてもよい。上記パルプの中で、入手のしやすさという点で、セルロースを含む木材パルプ、脱墨パルプが好ましい。木材パルプの中でも化学パルプはセルロース比率が大きいため、繊維微細化(解繊)時の微細繊維状セルロースの収率が高く、またパルプ中のセルロースの分解が小さく、軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースが得られる点で好ましい。中でもクラフトパルプ、サルファイトパルプが最も好ましく選択される。軸比の大きい長繊維の微細繊維状セルロースを含有するシートは高強度が得られる傾向がある。
【0029】
微細繊維状セルロースの平均繊維幅は、電子顕微鏡で観察して、1000nm以下である。平均繊維幅は、好ましくは2nm以上1000nm以下、より好ましくは2nm以上100nm以下であり、より好ましくは2nm以上50nm以下であり、さらに好ましくは2nm以上10nm以下であるが、特に限定されない。微細繊維状セルロースの平均繊維幅が2nm未満であると、セルロース分子として水に溶解しているため、微細繊維状セルロースとしての物性(強度や剛性、寸法安定性)が発現しにくくなる傾向がある。なお、微細繊維状セルロースは、たとえば繊維幅が1000nm以下である単繊維状のセルロースである。
【0030】
微細繊維状セルロースの電子顕微鏡観察による繊維幅の測定は以下のようにして行う。濃度0.05質量%以上0.1質量%以下の微細繊維状セルロースの水系懸濁液を調製し、この懸濁液を親水化処理したカーボン膜被覆グリッド上にキャストしてTEM観察用試料とする。幅の広い繊維を含む場合には、ガラス上にキャストした表面のSEM像を観察してもよい。構成する繊維の幅に応じて1000倍、5000倍、10000倍あるいは50000倍のいずれかの倍率で電子顕微鏡画像による観察を行う。但し、試料、観察条件や倍率は下記の条件を満たすように調整する。
【0031】
(1)観察画像内の任意箇所に一本の直線Xを引き、該直線Xに対し、20本以上の繊維が交差する。
(2)同じ画像内で該直線と垂直に交差する直線Yを引き、該直線Yに対し、20本以上の繊維が交差する。
【0032】
上記条件を満足する観察画像に対し、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を目視で読み取る。こうして少なくとも重なっていない表面部分の画像を3組以上観察し、各々の画像に対して、直線X、直線Yと交錯する繊維の幅を読み取る。このように少なくとも20本×2×3=120本の繊維幅を読み取る。微細繊維状セルロースの平均繊維幅(単に、「繊維幅」ということもある。)はこのように読み取った繊維幅の平均値である。
【0033】
微細繊維状セルロースの繊維長は特に限定されないが、0.1μm以上1000μm以下が好ましく、0.1μm以上800μm以下がさらに好ましく、0.1μm以上600μm以下が特に好ましい。繊維長を上記範囲内とすることにより、微細繊維状セルロースの結晶領域の破壊を抑制でき、また微細繊維状セルロースのスラリー粘度を適切な範囲とすることができる。なお、微細繊維状セルロースの繊維長は、TEM、SEM、AFMによる画像解析より求めることができる。
【0034】
微細繊維状セルロースはI型結晶構造を有していることが好ましい。ここで、微細繊維状セルロースがI型結晶構造をとっていることは、グラファイトで単色化したCuKα(λ=1.5418Å)を用いた広角X線回折写真より得られる回折プロファイルにおいて同定できる。具体的には、2θ=14°以上17°以下付近と2θ=22°以上23°以下付近の2箇所の位置に典型的なピークをもつことから同定することができる。
微細繊維状セルロースに占めるI型結晶構造の割合は30%以上であることが好ましく、より好ましくは50%以上、さらに好ましくは70%以上である。
【0035】
微細繊維状セルロースが含有する結晶部分の比率は、本発明においては特に限定されないが、X線回折法によって求められる結晶化度が60%以上であるセルロースを使用することが好ましい。結晶化度は、好ましくは65%以上であり、より好ましくは70%以上であり、この場合、耐熱性と低線熱膨張率発現の点でさらに優れた性能が期待できる。結晶化度については、X線回折プロファイルを測定し、そのパターンから常法により求められる(Seagalら、Textile Research Journal、29巻、786ページ、1959年)。
【0036】
本発明において微細繊維状セルロースは、イオン性官能基を有する繊維であることが好ましく、この場合イオン性官能基は、アニオン性官能基(以下、アニオン基ともいう)であることが好ましい。アニオン基としては、例えば、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基(単にリン酸基ということもある)、カルボキシル基又はカルボキシル基に由来する置換基(単にカルボキシル基ということもある)、及び、スルホン基又はスルホン基に由来する置換基(単にスルホン基ということもある)から選択される少なくとも1種であることが好ましく、リン酸基で及びカルボキシル基から選択される少なくとも1種であることがより好ましく、リン酸基であることが特に好ましい。
【0037】
微細繊維状セルロースは、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基を有するものであることが好ましい。リン酸基はリン酸からヒドロキシル基を取り除いたものにあたる、2価の官能基である。具体的には-PO32で表される基である。リン酸基に由来する置換基は、リン酸基が縮重合した基、リン酸基の塩、リン酸エステル基などの置換基が含まれ、イオン性置換基であっても、非イオン性置換基であってもよい。
【0038】
本発明では、リン酸基又はリン酸基に由来する置換基は、下記式(1)で表される置換基であってもよい。
【化2】
【0039】
式(1)中、a、b、m及びnはそれぞれ独立に整数を表す(ただし、a=b×mである);αn(n=1~nの整数)及びα’はそれぞれ独立にR又はORを表す。Rは、水素原子、飽和-直鎖状炭化水素基、飽和-分岐鎖状炭化水素基、飽和-環状炭化水素基、不飽和-直鎖状炭化水素基、不飽和-分岐鎖状炭化水素基、芳香族基、又はこれらの誘導基である;βは有機物または無機物からなる1価以上の陽イオンである。
【0040】
<リン酸基導入工程>
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(以下、「リン酸化試薬」又は「化合物A」という)を反応させることにより行うことができる。このようなリン酸化試薬は、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に粉末や水溶液の状態で混合してもよい。また別の例としては、繊維原料のスラリーにリン酸化試薬の粉末や水溶液を添加してもよい。
【0041】
リン酸基導入工程は、セルロースを含む繊維原料に対し、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種(リン酸化試薬又は化合物A)を反応させることにより行うことができる。なお、この反応は、尿素及びその誘導体から選択される少なくとも1種(以下、「化合物B」という)の存在下で行ってもよい。
【0042】
化合物Aを化合物Bの共存下で繊維原料に作用させる方法の一例としては、乾燥状態または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を混合する方法が挙げられる。また別の例としては、繊維原料のスラリーに化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が挙げられる。これらのうち、反応の均一性が高いことから、乾燥状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの水溶液を添加する方法、または湿潤状態の繊維原料に化合物A及び化合物Bの粉末や水溶液を添加する方法が好ましい。また、化合物Aと化合物Bは同時に添加してもよいし、別々に添加してもよい。また、初めに反応に供試する化合物Aと化合物Bを水溶液として添加して、圧搾により余剰の薬液を除いてもよい。繊維原料の形態は綿状や薄いシート状であることが好ましいが、特に限定されない。
【0043】
本実施態様で使用する化合物Aは、リン酸基を有する化合物及びその塩から選択される少なくとも1種である。
リン酸基を有する化合物としては、リン酸、リン酸のリチウム塩、リン酸のナトリウム塩、リン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩などが挙げられるが、特に限定されない。リン酸のリチウム塩としては、リン酸二水素リチウム、リン酸水素二リチウム、リン酸三リチウム、ピロリン酸リチウム、またはポリリン酸リチウムなどが挙げられる。リン酸のナトリウム塩としてはリン酸二水素ナトリウム、リン酸水素二ナトリウム、リン酸三ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、またはポリリン酸ナトリウムなどが挙げられる。リン酸のカリウム塩としてはリン酸二水素カリウム、リン酸水素二カリウム、リン酸三カリウム、ピロリン酸カリウム、またはポリリン酸カリウムなどが挙げられる。リン酸のアンモニウム塩としては、リン酸二水素アンモニウム、リン酸水素二アンモニウム、リン酸三アンモニウム、ピロリン酸アンモニウム、ポリリン酸アンモニウムなどが挙げられる。
【0044】
これらのうち、リン酸基の導入の効率が高く、後述する解繊工程で解繊効率がより向上しやすく、低コストであり、かつ工業的に適用しやすい観点から、リン酸、リン酸のナトリウム塩、またはリン酸のカリウム塩、リン酸のアンモニウム塩が好ましい。リン酸二水素ナトリウム、またはリン酸水素二ナトリウムがより好ましい。
【0045】
また、反応の均一性が高まり、かつリン酸基導入の効率が高くなることから化合物Aは水溶液として用いることが好ましい。化合物Aの水溶液のpHは特に限定されないが、リン酸基の導入の効率が高くなることから7以下であることが好ましく、パルプ繊維の加水分解を抑える観点からpH3以上pH7以下がさらに好ましい。化合物Aの水溶液のpHは例えば、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものとアルカリ性を示すものを併用し、その量比を変えて調整してもよい。化合物Aの水溶液のpHは、リン酸基を有する化合物のうち、酸性を示すものに無機アルカリまたは有機アルカリを添加すること等により調整してもよい。
【0046】
繊維原料に対する化合物Aの添加量は特に限定されないが、化合物Aの添加量をリン原子量に換算した場合、繊維原料(絶乾質量)に対するリン原子の添加量は0.5質量%以上100質量%以下が好ましく、1質量%以上50質量%以下がより好ましく、2質量%以上30質量%以下が最も好ましい。繊維原料に対するリン原子の添加量が上記範囲内であれば、微細繊維状セルロースの収率をより向上させることができる。繊維原料に対するリン原子の添加量が100質量%を超えると、収率向上の効果は頭打ちとなり、使用する化合物Aのコストが上昇する。一方、繊維原料に対するリン原子の添加量を上記下限値以上とすることにより、収率を高めることができる。
【0047】
本実施態様で使用する化合物Bとしては、尿素、ビウレット、1-フェニル尿素、1-ベンジル尿素、1-メチル尿素、1-エチル尿素などが挙げられる。
【0048】
化合物Bは化合物A同様に水溶液として用いることが好ましい。また、反応の均一性が高まることから化合物Aと化合物Bの両方が溶解した水溶液を用いることが好ましい。繊維原料(絶乾質量)に対する化合物Bの添加量は1質量%以上500質量%以下であることが好ましく、10質量%以上400質量%以下であることがより好ましく、100質量%以上350質量%以下であることがさらに好ましく、150質量%以上300質量%以下であることが特に好ましい。
【0049】
化合物Aと化合物Bの他に、アミド類またはアミン類を反応系に含んでもよい。アミド類としては、ホルムアミド、ジメチルホルムアミド、アセトアミド、ジメチルアセトアミドなどが挙げられる。アミン類としては、メチルアミン、エチルアミン、トリメチルアミン、トリエチルアミン、モノエタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、ピリジン、エチレンジアミン、ヘキサメチレンジアミンなどが挙げられる。これらの中でも、特にトリエチルアミンは良好な反応触媒として働くことが知られている。
【0050】
リン酸基導入工程においては加熱処理を施すことが好ましい。加熱処理温度は、繊維の熱分解や加水分解反応を抑えながら、リン酸基を効率的に導入できる温度を選択することが好ましい。具体的には50℃以上300℃以下であることが好ましく、100℃以上250℃以下であることがより好ましく、130℃以上200℃以下であることがさらに好ましい。また、加熱には減圧乾燥機、赤外線加熱装置、マイクロ波加熱装置を用いてもよい。
【0051】
加熱処理の際、化合物Aを添加した繊維原料スラリーに水が含まれている間において、繊維原料を静置する時間が長くなると、乾燥に伴い水分子と溶存する化合物Aが繊維原料表面に移動する。そのため、繊維原料中の化合物Aの濃度にムラが生じる可能性があり、繊維表面へのリン酸基の導入が均一に進行しない恐れがある。乾燥による繊維原料中の化合物Aの濃度ムラ発生を抑制するためには、ごく薄いシート状の繊維原料を用いるか、ニーダー等で繊維原料と化合物Aを混練又は攪拌しながら加熱乾燥又は減圧乾燥させる方法を採ればよい。
【0052】
加熱処理に用いる加熱装置としては、スラリーが保持する水分及びリン酸基などの繊維の水酸基への付加反応で生じる水分を常に装置系外に排出できる装置であることが好ましく、例えば送風方式のオーブン等が好ましい。装置系内の水分を常に排出すれば、リン酸エステル化の逆反応であるリン酸エステル結合の加水分解反応を抑制できることに加えて、繊維中の糖鎖の酸加水分解を抑制することもでき、軸比の高い微細繊維を得ることができる。
【0053】
加熱処理の時間は、加熱温度にも影響されるが繊維原料スラリーから実質的に水分が除かれてから1秒以上300分以下であることが好ましく、1秒以上1000秒以下であることがより好ましく、10秒以上800秒以下であることがさらに好ましい。本発明では、加熱温度と加熱時間を適切な範囲とすることにより、リン酸基の導入量を好ましい範囲内とすることができる。
【0054】
リン酸基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上3.65mmol/g以下であることが好ましく、0.14mmol/g以上3.5mmol/g以下がより好ましく、0.2mmol/g以上3.2mmol/g以下がさらに好ましく、0.4mmol/g以上3.0mmol/g以下が特に好ましく、最も好ましくは0.6mmol/g以上2.5mmol/g以下である。リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にし、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。また、リン酸基の導入量を上記範囲内とすることにより、微細化が容易でありながらも、微細繊維状セルロース同士の水素結合も残すことが可能で、良好な強度発現が期待できる。
【0055】
リン酸基の繊維原料への導入量は、伝導度滴定法により測定することができる。具体的には、解繊処理工程により微細化を行い、得られた微細繊維状セルロース含有スラリーをイオン交換樹脂で処理した後、水酸化ナトリウム水溶液を加えながら電気伝導度の変化を求めることにより、導入量を測定することができる。
【0056】
伝導度滴定では、アルカリを加えていくと、図1に示した曲線を与える。最初は、急激に電気伝導度が低下する(以下、「第1領域」という)。その後、わずかに伝導度が上昇を始める(以下、「第2領域」という)。さらにその後、伝導度の増分が増加する(以下、「第3領域」という)。すなわち、3つの領域が現れる。なお、第2領域と第3領域の境界点は、伝導度の2回微分値、すなわち伝導度の増分(傾き)の変化量が最大となる点で定義される。このうち、第1領域で必要としたアルカリ量が、滴定に使用したスラリー中の強酸性基量と等しく、第2領域で必要としたアルカリ量が滴定に使用したスラリー中の弱酸性基量と等しくなる。リン酸基が縮合を起こす場合、見かけ上弱酸性基が失われ、第1領域に必要としたアルカリ量と比較して第2領域に必要としたアルカリ量が少なくなる。一方、強酸性基量は、縮合の有無に関わらずリン原子の量と一致することから、単にリン酸基導入量(またはリン酸基量)、または置換基導入量(または置換基量)と言った場合は、強酸性基量のことを表す。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とする。
【0057】
リン酸基導入工程は、少なくとも1回行えば良いが、複数回繰り返すこともできる。この場合、より多くのリン酸基が導入されるので好ましい。
【0058】
<カルボキシル基の導入>
本発明においては、微細繊維状セルロースがカルボキシル基を有するものである場合、たとえばTEMPO酸化処理などの酸化処理やカルボン酸由来の基を有する化合物、その誘導体、またはその酸無水物もしくはその誘導体によって処理することで、カルボキシル基を導入することができる。
【0059】
カルボキシル基を有する化合物としては特に限定されないが、マレイン酸、コハク酸、フタル酸、フマル酸、グルタル酸、アジピン酸、イタコン酸等のジカルボン酸化合物やクエン酸、アコニット酸等トリカルボン酸化合物が挙げられる。
【0060】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物としては特に限定されないが、無水マレイン酸、無水コハク酸、無水フタル酸、無水グルタル酸、無水アジピン酸、無水イタコン酸等のジカルボン酸化合物の酸無水物が挙げられる。
【0061】
カルボキシル基を有する化合物の誘導体としては特に限定されないが、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体が挙げられる。カルボキシル基を有する化合物の酸無水物のイミド化物としては特に限定されないが、マレイミド、コハク酸イミド、フタル酸イミド等のジカルボン酸化合物のイミド化物が挙げられる。
【0062】
カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の誘導体としては特に限定されない。例えば、ジメチルマレイン酸無水物、ジエチルマレイン酸無水物、ジフェニルマレイン酸無水物等の、カルボキシル基を有する化合物の酸無水物の少なくとも一部の水素原子が置換基(例えば、アルキル基、フェニル基等)で置換されたものが挙げられる。
【0063】
<カルボキシル基の導入量>
カルボキシル基の導入量は、微細繊維状セルロース1g(質量)あたり0.1mmol/g以上であることが好ましく、0.2mmol/g以上であることがより好ましく、0.3mmol/g以上であることがさらに好ましく、0.5mmol/g以上であることが特に好ましい。また、カルボキシル基の導入量は3.5mmol/g以下であることが好ましく、3.0mmol/g以下であることがより好ましく、2.5mmol/g以下であることがさらに好ましく、2.0mmol/g以下であることが特に好ましい。カルボキシル基の導入量を上記範囲内とすることにより、繊維原料の微細化を容易にすることができ、微細繊維状セルロースの安定性を高めることができる。
【0064】
<カチオン性置換基導入>
本実施形態においては、イオン性官能基としてカチオン性置換基が微細繊維状セルロースに導入されていてもよい。例えば繊維原料にカチオン化剤及びアルカリ化合物を添加して反応させることにより、繊維原料にカチオン性置換基を導入することができる。
カチオン化剤としては、4級アンモニウム基を有し、かつセルロースのヒドロキシル基と反応する基を有するものを用いることができる。セルロースのヒドロキシル基と反応する基としては、エポキシ基、ハロヒドリンの構造を有する官能基、ビニル基、ハロゲン基等が挙げられる。カチオン化剤の具体例としては、グリシジルトリメチルアンモニウムクロリド、3-クロロ-2-ヒドロキシプロピルトリメチルアンモニウムクロリドなどのグリシジルトリアルキルアンモニウムハライド或いはそのハロヒドリン型の化合物が挙げられる。
アルカリ化合物は、カチオン化反応の促進に寄与するものである。アルカリ化合物は、アルカリ金属の水酸化物またはアルカリ土類金属の水酸化物、アルカリ金属の炭酸塩またはアルカリ土類金属の炭酸塩、アルカリ金属のリン酸塩またはアルカリ土類金属のリン酸塩などの無機アルカリ化合物であってもよいし、アンモニア、脂肪族アミン、芳香族アミン、脂肪族アンモニウム、芳香族アンモニウム、複素環式化合物及びその水酸化物、炭酸塩、リン酸塩等の有機アルカリ化合物であってもよい。カチオン性置換基の導入量の測定は、たとえば元素分析等を用いて行うことができる。
【0065】
<アルカリ処理>
微細繊維状セルロースを製造する場合、イオン性官能基導入工程と、後述する解繊処理工程の間にアルカリ処理を行ってもよい。アルカリ処理の方法としては、特に限定されないが、例えば、アルカリ溶液中に、リン酸基導入繊維を浸漬する方法が挙げられる。
アルカリ溶液に含まれるアルカリ化合物は、特に限定されないが、無機アルカリ化合物であってもよいし、有機アルカリ化合物であってもよい。アルカリ溶液における溶媒としては水または有機溶媒のいずれであってもよい。溶媒は、極性溶媒(水、またはアルコール等の極性有機溶媒)が好ましく、少なくとも水を含む水系溶媒がより好ましい。
また、アルカリ溶液のうちでは、汎用性が高いことから、水酸化ナトリウム水溶液、または水酸化カリウム水溶液が特に好ましい。
【0066】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液の温度は特に限定されないが、5℃以上80℃以下が好ましく、10℃以上60℃以下がより好ましい。
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液への浸漬時間は特に限定されないが、5分以上30分以下が好ましく、10分以上20分以下がより好ましい。
アルカリ処理におけるアルカリ溶液の使用量は特に限定されないが、リン酸基導入繊維の絶対乾燥質量に対して100質量%以上100000質量%以下であることが好ましく、1000質量%以上10000質量%以下であることがより好ましい。
【0067】
アルカリ処理工程におけるアルカリ溶液使用量を減らすために、アルカリ処理工程の前に、リン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄しても構わない。アルカリ処理後には、取り扱い性を向上させるために、解繊処理工程の前に、アルカリ処理済みリン酸基導入繊維を水や有機溶媒により洗浄することが好ましい。
【0068】
<解繊処理>
リン酸基導入繊維は、解繊処理工程で解繊処理される。解繊処理工程では、通常、解繊処理装置を用いて、繊維を解繊処理して、微細繊維状セルロース含有スラリーを得るが、処理装置、処理方法は、特に限定されない。
解繊処理装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザーや超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミルなどを使用できる。あるいは、解繊処理装置としては、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、またはビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできる。解繊処理装置は、上記に限定されるものではない。好ましい解繊処理方法としては、粉砕メディアの影響が少なく、コンタミの心配が少ない高速解繊機、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザーが挙げられる。
【0069】
解繊処理の際には、繊維原料を水と有機溶媒を単独または組み合わせて希釈してスラリー状にすることが好ましいが、特に限定されない。分散媒としては、水の他に、極性有機溶剤を使用することができる。好ましい極性有機溶剤としては、アルコール類、ケトン類、エーテル類、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ジメチルホルムアミド(DMF)、またはジメチルアセトアミド(DMAc)等が挙げられるが、特に限定されない。アルコール類としては、メタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、またはt-ブチルアルコール等が挙げられる。ケトン類としては、アセトンまたはメチルエチルケトン(MEK)等が挙げられる。エーテル類としては、ジエチルエーテルまたはテトラヒドロフラン(THF)等が挙げられる。分散媒は1種であってもよいし、2種以上でもよい。また、分散媒中に繊維原料以外の固形分、例えば水素結合性のある尿素などを含んでも構わない。
【0070】
本発明の微細繊維状セルロース含有スラリーは、解繊処理により得られた微細繊維状セルロース含有スラリーを、一度濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊処理を行って得てもよい。この場合、濃縮、乾燥の方法は特に限定されないが、例えば、微細繊維状セルロースを含有するスラリーに濃縮剤を添加する方法、一般に用いられる脱水機、プレス、乾燥機を用いる方法等が挙げられる。また、公知の方法、例えばWO2014/024876、WO2012/107642、及びWO2013/121086に記載された方法を用いることができる。また、微細繊維状セルロース含有スラリーをシート化することで濃縮、乾燥し、該シートに解繊処理を行い、再度微細繊維状セルロース含有スラリーを得ることもできる。
【0071】
微細繊維状セルローススラリーを濃縮及び/又は乾燥させた後に、再度解繊(粉砕)処理をする際に用いる装置としては、高速解繊機、グラインダー(石臼型粉砕機)、高圧ホモジナイザー、超高圧ホモジナイザー、高圧衝突型粉砕機、ボールミル、ビーズミル、ディスク型リファイナー、コニカルリファイナー、二軸混練機、振動ミル、高速回転下でのホモミキサー、超音波分散機、ビーターなど、湿式粉砕する装置等を使用することもできるが特に限定されない。
【0072】
上述した方法で得られたリン酸基を有する微細繊維状セルロース含有物は、微細繊維状セルロース含有スラリーであり、所望の濃度となるように、水で希釈して用いてもよい。
【0073】
(ポリアクリルアミド系樹脂)
本発明のシートは、ポリアクリルアミド系樹脂をさらに含むことが好ましい。ポリアクリルアミド系樹脂としては、例えば、アクリルアミドの単独重合体(ポリアクリルアミド)や、アクリルアミドを主成分とする共重合体が挙げられる。中でも、ポリアクリルアミド系樹脂はアクリルアミドを主成分とする共重合体であることが好ましく、共重合体を構成する単位のうち、アクリルアミドに由来する単位が50質量%以上含まれているものであることが好ましい。アクリルアミドと共重合可能なモノマーとしては、例えば、ノニオン性モノマー、アニオン性モノマー、カチオン性モノマーが挙げられる。
【0074】
ノニオン性モノマーとしては、例えば、ジアセトンアクリルアミド、アルキルアクリレート、ヒドロキシアクリレート、酢酸ビニル、スチレン、α-メチルスチレン等を挙げることができる。
【0075】
アニオン性モノマーとしては、例えば、モノカルボン酸系モノマー(例えば、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸など)、ジカルボン酸系モノマー(例えば、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸、シトラコン酸など)、ビニル基を有するスルホン酸系モノマー(例えば、ビニルスルホン酸、スチレンスルホン酸、2-アクリルアミド-2-メチルプロパン酸など)などの有機酸系モノマー等を挙げることができる。また、これらの有機酸系モノマーのナトリウム塩、カリウム塩などの塩も用いることができる。
【0076】
カチオン性モノマーとしては、例えば、第三級アミノ基を有するモノマーを挙げることができる。具体的には、第三級アミノ基を有する(メタ)アクリル酸エステル誘導体(例えば、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリレート(例えば、ジメチルアミノエチルアクリレートなど)、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリレートなど)、第三級アミノ基を有する(メタ)アクリルアミド誘導体(例えば、ジアルキルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、ジアルキルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリルアミド-3-メチルブチルジメチルアミンなど)等を挙げることができる。また、上記第三級アミノ基を有するモノマーの塩も用いることができる。塩としては、例えば、塩酸塩、硫酸塩などの無機塩、例えば、ギ酸塩、酢酸塩などの有機塩が挙げられる。さらに、例えば、メチルクロリド(塩化メチル)、メチルブロミド、ベンジルクロリド、ベンジルブロミド、ジメチル硫酸、エピクロルヒドリンなどで第三級アミノ基を四級化した第四級塩を挙げることができる。
【0077】
アクリルアミドと共重合させるモノマーとして、ノニオン性モノマーを用いれば、ノニオン性のポリアクリルアミド系樹脂が得られ、また、アニオン性モノマーを用いれば、アニオン性のポリアクリルアミド系樹脂が得られる。さらに、アクリルアミドと共重合させるモノマーとして、アニオン性モノマーおよびカチオン性モノマーを併用すれば、両イオン性のポリアクリルアミド系樹脂が得られる。本発明においては、ポリアクリルアミド系樹脂は、イオン性のポリアクリルアミド系樹脂であることが好ましく、アニオン性のポリアクリルアミド系樹脂であることがより好ましい。
【0078】
ポリアクリルアミド系樹脂の含有量は、微細繊維状セルロース100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることがさらに好ましく、5質量部以上であることが特に好ましい。また、ポリアクリルアミド系樹脂の含有量は、50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましい。ポリアクリルアミド系樹脂の含有量を上記範囲内とすることにより、シートの耐水性及び透明性を高め、さらにシートの強度をより効果的に高めることができる。
なお、ポリアクリルアミド系樹脂の含有量は、例えば、NMR測定やMSのフラグメント解析、UV解析などを用いて分析することができる
【0079】
(その他の樹脂)
本発明のシートは、たとえば上述した樹脂を除くその他の樹脂をさらに含むことができる。
【0080】
その他の樹脂としては、例えば、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂(熱硬化性樹脂の前駆体が加熱により重合硬化した硬化物)、又は光硬化性樹脂(光硬化性樹脂の前駆体が放射線(紫外線や電子線等)の照射により重合硬化した硬化物)等が挙げられる。本発明のシートがその他の樹脂を含有することによって、シートの耐水性を更に向上させることができる。
【0081】
その他の樹脂のうち熱可塑性樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えば、オレフィン系樹脂(例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、エチレン-プロピレン共重合体、エチレン-αオレフィン共重合体、プロピレン-αオレフィン共重合体等)、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリ酢酸ビニル、ポリ(メタ)アクリル酸アルキルエステル重合体又は共重合体、スチレン系樹脂(例えば、ポリスチレン、スチレン-アクリロニトリル共重合体、スチレン-(メタ)アクリル酸アルキルエステル共重合体、ABS樹脂)、ポリエステル系樹脂(例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリ乳酸、ポリブチレンサクシネート、不飽和ポリエステル等)、ポリウレタン、天然ゴム、スチレン-ブタジエン共重合体、アクリロニトリル-ブタジエン共重合体、ポリイソプレン、ポリクロロプレン、スチレン-ブタジエン-メチルメタクリレート共重合体、ポリビニルアルコール、エチレン-酢酸ビニル共重合体けん化物、ポリアミド系樹脂(例えば、ナイロン6、ナイロン66、ナイロン10、ナイロン11、ナイロン12、ナイロン610、ポリメタキシリレンアジパミド等)、ポリカーボネート、ポリアセタール、ポリフェニレンオキシド、フッ素樹脂等を挙げることができる。中でも、ポリプロピレンを好ましい一例として挙げることができる。
【0082】
熱硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、エポキシ樹脂、アクリル樹脂、オキセタン樹脂、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、珪素樹脂、ポリウレタン樹脂、シルセスキオキサン樹脂、またはジアリルフタレート樹脂等が挙げられる。
【0083】
光硬化性樹脂としては、特に限定されるものではないが、上述の熱硬化性樹脂として例示したエポキシ樹脂、アクリル樹脂、シルセスキオキサン樹脂、またはオキセタン樹脂等が挙げられる。
【0084】
さらに、上記その他の樹脂である熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂、および光硬化性樹脂に用いられる樹脂の具体例としては、特開2009-299043号公報に記載のものが挙げられる。
【0085】
本発明において、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリン、ポリアクリルアミド系樹脂及びその他の樹脂はエマルジョンとして添加することができる。これらの樹脂がエマルジョンとして添加される場合、得られるシートにおいては、たとえば加熱によりエマルジョンは溶融するが、一部に粒状の樹脂を残存させることができる。なお、本実施形態においては、たとえ上記その他の樹脂をエマルジョンとして添加することが好ましい態様として挙げられる。
【0086】
添加される樹脂エマルジョンの粒子径は10nm以上10μm以下であることが好ましく、10nm以上1μm以下であることがより好ましく、20nm以上200nm以下であることがさらに好ましい。樹脂エマルジョンの粒子径が10μm以下とすることで、シートの透明性を向上させることができる。一方で、樹脂エマルジョンの粒子径を10nm以上とすることにより、配合する乳化剤の量を抑えて、シート表面にはじき等が生じることを抑制することができる。また、樹脂エマルジョンの粒子径を均一にすることが容易となり、シートの透明性や機械的強度の向上に寄与することも可能である。
【0087】
(任意成分)
シートには、上述した成分以外の任意成分が含まれていてもよい。任意成分としては、たとえば、消泡剤、潤滑剤、紫外線吸収剤、染料、顔料、安定剤、界面活性剤等を挙げることができる。また、任意成分としては、例えば、親水性高分子や有機イオン等が挙げられる。親水性高分子は、親水性の含酸素有機化合物(但し、上記セルロース繊維は除く)であることが好ましい。含酸素有機化合物は非繊維状であることが好ましく、このような非繊維状の含酸素有機化合物には、微細繊維状セルロースや熱可塑性樹脂繊維は含まれない。
【0088】
含酸素有機化合物は、親水性の有機化合物であることが好ましい。親水性の含酸素有機化合物は、繊維層の強度、密度及び化学的耐性などを向上させることができる。親水性の含酸素有機化合物は、たとえばSP値が9.0以上であることが好ましい。また、親水性の含酸素有機化合物は、たとえば100mlのイオン交換水に含酸素有機化合物が1g以上溶解するものであることが好ましい。
【0089】
含酸素有機化合物としては、例えば、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、カゼイン、デキストリン、澱粉、変性澱粉、ポリビニルアルコール、変性ポリビニルアルコール(アセトアセチル化ポリビニルアルコール等)、ポリエチレンオキサイド、ポリビニルピロリドン、ポリビニルメチルエーテル、ポリアクリル酸塩類、アクリル酸アルキルエステル共重合体、ウレタン系共重合体、セルロース誘導体(ヒドロキシエチルセルロース、カルボキシエチルセルロース、カルボキシメチルセルロース等)等の親水性高分子;グリセリン、ソルビトール、エチレングリコール等の親水性低分子が挙げられる。これらの中でも、繊維層の強度、密度、化学的耐性などを向上させる観点から、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキサイド、グリセリン、ソルビトールが好ましく、ポリエチレングリコール及びポリエチレンオキサイドから選択される少なくとも1種であることがより好ましい。
【0090】
含酸素有機化合物は、分子量が5万以上800万以下の有機化合物高分子であることが好ましい。含酸素有機化合物の分子量は、10万以上500万以下であることも好ましいが、例えば分子量が1000未満の低分子であってもよい。
【0091】
繊維層に含まれる含酸素有機化合物の含有量は、繊維層に含まれる微細繊維状セルロース100質量部に対して、1質量部以上40質量部以下であることが好ましく、10質量部以上30質量部以下であることがより好ましく、15質量部以上25質量部以下であることがより好ましい。含酸素有機化合物の含有量を上記範囲内とすることにより、高い透明性と強度を有する積層体を形成することができる。
【0092】
有機イオンとしては、テトラアルキルアンモニウムイオンやテトラアルキルホスホニウムイオンを挙げることができる。テトラアルキルアンモニウムイオンとしては、例えば、テトラメチルアンモニウムイオン、テトラエチルアンモニウムイオン、テトラプロピルアンモニウムイオン、テトラブチルアンモニウムイオン、テトラペンチルアンモニウムイオン、テトラヘキシルアンモニウムイオン、テトラヘプチルアンモニウムイオン、トリブチルメチルアンモニウムイオン、ラウリルトリメチルアンモニウムイオン、セチルトリメチルアンモニウムイオン、ステアリルトリメチルアンモニウムイオン、オクチルジメチルエチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルエチルアンモニウムイオン、ジデシルジメチルアンモニウムイオン、ラウリルジメチルベンジルアンモニウムイオン、トリブチルベンジルアンモニウムイオンが挙げられる。テトラアルキルホスホニウムイオンとしては、例えばテトラメチルホスホニウムイオン、テトラエチルホスホニウムイオン、テトラプロピルホスホニウムイオン、テトラブチルホスホニウムイオン、およびラウリルトリメチルホスホニウムイオンが挙げられる。また、テトラプロピルオニウムイオン、テトラブチルオニウムイオンとして、それぞれテトラn-プロピルオニウムイオン、テトラn-ブチルオニウムイオンなども挙げることができる。
【0093】
(シートの製造方法)
シートの製造工程は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、カチオン樹脂とを含むスラリーを得る工程と、このスラリーを基材上に塗工する工程、又は、スラリーを抄紙する工程を含む。中でも、シートの製造工程は、微細繊維状セルロースと、カチオン樹脂とを含むスラリー(以下、単にスラリーということもある)を基材上に塗工する工程を含むことが好ましく、微細繊維状セルロースと、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンとを含むスラリーを基材上に塗工する工程を含むことがより好ましい。
【0094】
スラリーを得る工程では、スラリーに含まれる繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース100質量部に対して、カチオン樹脂を0.1質量部以上添加することが好ましく、0.5質量部以上添加することがより好ましく、2質量部以上添加することがさらに好ましく、5質量部以上添加することが特に好ましい。また、カチオン樹脂の添加量は、15質量部以下であることが好ましく、12質量部以下であることがより好ましい。
【0095】
スラリーを得る工程では、スラリーに含まれる繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース100質量部に対して、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを0.1質量部以上添加することが好ましく、0.5質量部以上添加することがより好ましく、2質量部以上添加することがさらに好ましく、5質量部以上添加することが特に好ましい。また、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンの添加量は、15質量部以下であることが好ましく、12質量部以下であることがより好ましい。ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンの添加量を上記範囲内とすることにより、シートの耐水性及び透明性の両方を効果的に高めることができる。
【0096】
スラリーを得る工程では、ポリアクリルアミド系樹脂をさらに添加してもよい。この場合、ポリアクリルアミド系樹脂は、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを添加する前に添加することが好ましい。また、ポリアクリルアミド系樹脂を添加する場合は、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンをポリアクリルアミド系樹脂が均一に分散した後に添加することが好ましい。具体的には、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンはポリアクリルアミド系樹脂を添加後、30秒以上経過後に添加することが好ましい。
【0097】
スラリーを得る工程でポリアクリルアミド系樹脂を添加する場合は、ポリアクリルアミド系樹脂の添加量は、スラリーに含まれる繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロース100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることがさらに好ましく、5質量部以上であることが特に好ましい。また、ポリアクリルアミド系樹脂の添加量は、50質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましい。
【0098】
また、スラリーを得る工程では、例えば、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリン及びポリアクリルアミド系樹脂を樹脂エマルジョンとして添加してもよい。また、スラリーを得る工程では、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリン及びポリアクリルアミド系樹脂を除く樹脂を添加してもよく、該樹脂は樹脂エマルジョンとして添加してもよい。他の樹脂を添加する場合は、他の樹脂は、ポリアミンポリアミドエピハロヒドリンを添加する前に添加することが好ましい。
【0099】
<塗工工程>
塗工工程は、繊維幅が1000nm以下の繊維状セルロースと、カチオン樹脂とを含むスラリーを基材上に塗工し、これを乾燥して形成されたシートを基材から剥離することによりシートを得る工程である。塗工装置と長尺の基材を用いることで、シートを連続的に生産することができる。
【0100】
塗工工程で用いる基材の質は、特に限定されないが、スラリーに対する濡れ性が高いものの方が乾燥時のシートの収縮等を抑制することができて良いが、乾燥後に形成されたシートが容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板が好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を用いることができる。
【0101】
塗工工程において、スラリーの粘度が低く、基材上で展開してしまう場合、所定の厚み、坪量のシートを得るため、基材上に堰止用の枠を固定して使用してもよい。堰止用の枠の質は特に限定されないが、乾燥後に付着するシートの端部が容易に剥離できるものを選択することが好ましい。中でも樹脂板または金属板を成形したものが好ましいが、特に限定されない。例えばアクリル板、ポリエチレンテレフタレート板、塩化ビニル板、ポリスチレン板、ポリ塩化ビニリデン板等の樹脂板や、アルミ板、亜鉛版、銅版、鉄板等の金属板及び、それらの表面を酸化処理したもの、ステンレス板、真ちゅう板等を成形したもの用いることができる。
【0102】
スラリーを塗工する塗工機としては、例えば、ロールコーター、グラビアコーター、ダイコーター、カーテンコーター、エアドクターコーター等を使用することができる。厚みをより均一にできることから、ダイコーター、カーテンコーター、スプレーコーターが好ましい。
【0103】
塗工温度は特に限定されないが、20℃以上45℃以下であることが好ましく、25℃以上40℃以下であることがより好ましく、27℃以上35℃以下であることがさらに好ましい。塗工温度が上記下限値以上であれば、スラリーを容易に塗工でき、上記上限値以下であれば、塗工中の分散媒の揮発を抑制できる。
【0104】
塗工工程においては、シートの仕上がり坪量が10g/m2以上100g/m2以下、好ましくは20g/m2以上50g/m2以下になるようにスラリーを塗工することが好ましい。坪量が上記範囲内となるように塗工することで、強度に優れたシートが得られる。
【0105】
塗工工程は、基材上に塗工したスラリーを乾燥させる工程を含むことが好ましい。乾燥方法としては、特に限定されないが、非接触の乾燥方法でも、シートを拘束しながら乾燥する方法の何れでもよく、これらを組み合わせてもよい。
【0106】
非接触の乾燥方法としては、特に限定されないが、熱風、赤外線、遠赤外線または近赤外線により加熱して乾燥する方法(加熱乾燥法)、真空にして乾燥する方法(真空乾燥法)を適用することができる。加熱乾燥法と真空乾燥法を組み合わせてもよいが、通常は、加熱乾燥法が適用される。赤外線、遠赤外線または近赤外線による乾燥は、赤外線装置、遠赤外線装置または近赤外線装置を用いて行うことができるが、特に限定されない。加熱乾燥法における加熱温度は特に限定されないが、20℃以上150℃以下とすることが好ましく、25℃以上105℃以下とすることがより好ましい。加熱温度を上記下限値以上とすれば、分散媒を速やかに揮発させることができ、上記上限値以下であれば、加熱に要するコストの抑制及び微細繊維状セルロースが熱によって変色することを抑制できる。
【0107】
<抄紙工程>
本発明のシートの製造工程は、スラリーを抄紙する工程を含んでもよい。抄紙工程で抄紙機としては、長網式、円網式、傾斜式等の連続抄紙機、これらを組み合わせた多層抄き合わせ抄紙機等が挙げられる。抄紙工程では、手抄き等公知の抄紙を行ってもよい。
【0108】
抄紙工程では、スラリーをワイヤー上で濾過、脱水して湿紙状態のシートを得た後、プレス、乾燥することでシートを得る。スラリーを濾過、脱水する場合、濾過時の濾布としては特に限定されないが、微細繊維状セルロースやポリアミンポリアミドエピハロヒドリンといったカチオン樹脂は通過せず、かつ濾過速度が遅くなりすぎないことが重要である。このような濾布としては特に限定されないが、有機ポリマーからなるシート、織物、多孔膜が好ましい。有機ポリマーとしては特に限定されないが、ポリエチレンテレフタレートやポリエチレン、ポリプロピレン、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のような非セルロース系の有機ポリマーが好ましい。具体的には孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリテトラフルオロエチレンの多孔膜、孔径0.1μm以上20μm以下、例えば1μmのポリエチレンテレフタレートやポリエチレンの織物等が挙げられるが、特に限定されない。
【0109】
スラリーからシートを製造する方法としては、特に限定されないが、例えばWO2011/013567に記載の製造装置を用いる方法等が挙げられる。この製造装置は、微細繊維状セルロースを含むスラリーを無端ベルトの上面に吐出し、吐出されたスラリーから分散媒を搾水してウェブを生成する搾水セクションと、ウェブを乾燥させて繊維シートを生成する乾燥セクションとを備えている。搾水セクションから乾燥セクションにかけて無端ベルトが配設され、搾水セクションで生成されたウェブが無端ベルトに載置されたまま乾燥セクションに搬送される。
【0110】
採用できる脱水方法としては特に限定されないが、紙の製造で通常に使用している脱水方法が挙げられ、長網、円網、傾斜ワイヤーなどで脱水した後、ロールプレスで脱水する方法が好ましい。また、乾燥方法としては特に限定されないが、紙の製造で用いられている方法が挙げられ、例えば、シリンダードライヤー、ヤンキードライヤー、熱風乾燥、近赤外線ヒーター、赤外線ヒーターなどの方法が好ましい。
【0111】
(積層体)
本発明は、シートにさらに他の層を積層した構造を有する積層体に関するものであってもよい。このような他の層は、シートの両表面上に設けられていてもよいが、シートの一方の面上にのみ設けられていてもよい。シートの少なくとも一方の面上に積層される他の層としては、例えば、樹脂層や無機層を挙げることができる。
【0112】
<樹脂層>
樹脂層は、天然樹脂や合成樹脂を主成分とする層である。ここで、主成分とは、樹脂層の全質量に対して、50質量%以上含まれている成分を指す。樹脂の含有量は、樹脂層の全質量に対して、60質量%以上であることが好ましく、70質量%以上であることがより好ましく、80質量%以上であることがさらに好ましく、90質量%以上であることが特に好ましい。なお、樹脂の含有量は、100質量%とすることもでき、95質量%以下であってもよい。
【0113】
天然樹脂としては、例えば、ロジン、ロジンエステル、水添ロジンエステル等のロジン系樹脂を挙げることができる。
【0114】
合成樹脂としては、例えば、ポリカーボネート樹脂、ポリエチレンテレフタレート樹脂、ポリエチレンナフタレート樹脂、ポリエチレン樹脂、ポリプロピレン樹脂、ポリイミド樹脂、ポリスチレン樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましい。中でも、合成樹脂はポリカーボネート樹脂及びアクリル樹脂から選択される少なくとも1種であることが好ましく、ポリカーボネート樹脂であることがより好ましい。なお、アクリル樹脂は、ポリアクリロニトリル及びポリ(メタ)アクリレートから選択される少なくともいずれか1種であることが好ましい。
【0115】
樹脂層を構成するポリカーボネート樹脂としては、例えば、芳香族ポリカーボネート系樹脂、脂肪族ポリカーボネート系樹脂が挙げられる。これらの具体的なポリカーボネート系樹脂は公知であり、例えば特開2010-023275号公報に記載されたポリカーボネート系樹脂が挙げられる。
【0116】
樹脂層を構成する樹脂は1種を単独で用いてもよく、複数の樹脂成分が共重合または、グラフト重合してなる共重合体を用いてもよい。また、複数の樹脂成分を物理的なプロセスで混合したブレンド材料として用いてもよい。
【0117】
シートと樹脂層の間には、接着層が設けられていてもよく、また接着層が設けられておらず、シートと樹脂層が直接密着をしていてもよい。シートと樹脂層の間に接着層が設けられる場合は、接着層を構成する接着剤として、例えば、アクリル系樹脂を挙げることができる。また、アクリル系樹脂以外の接着剤としては、例えば、塩化ビニル樹脂、(メタ)アクリル酸エステル樹脂、スチレン/アクリル酸エステル共重合体樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニル/(メタ)アクリル酸エステル共重合体樹脂、ウレタン樹脂、シリコーン樹脂、エポキシ樹脂、エチレン/酢酸ビニル共重合体樹脂、ポリエステル系樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、エチレンビニルアルコール共重合体樹脂や、SBR、NBR等のゴム系エマルジョンなどが挙げられる。
【0118】
シートと樹脂層の間に接着層が設けられていない場合は、樹脂層が密着助剤を有してもよく、また、樹脂層の表面に親水化処理等の表面処理を行ってもよい。
密着助剤としては、例えば、イソシアネート基、カルボジイミド基、エポキシ基、オキサゾリン基、アミノ基及びシラノール基から選択される少なくとも1種を含む化合物や、有機ケイ素化合物が挙げられる。中でも、密着助剤はイソシアネート基を含む化合物(イソシアネート化合物)及び有機ケイ素化合物から選択される少なくとも1種であることが好ましい。有機ケイ素化合物としては、例えば、シランカップリング剤縮合物や、シランカップリング剤を挙げることができる。
表面処理の方法としては、コロナ処理、プラズマ放電処理、UV照射処理、電子線照射処理、火炎処理等を挙げることができる。
【0119】
<無機層>
無機層を構成する物質としては、特に限定されないが、例えばアルミニウム、ケイ素、マグネシウム、亜鉛、錫、ニッケル、チタン、白金、金、銀;これらの酸化物、炭化物、窒化物、酸化炭化物、酸化窒化物、もしくは酸化炭化窒化物;またはこれらの混合物が挙げられる。高い防湿性が安定に維持できるとの観点からは、酸化ケイ素、窒化ケイ素、酸化炭化ケイ素、酸化窒化ケイ素、酸化炭化窒化ケイ素、酸化アルミニウム、窒化アルミニウム、酸化炭化アルミニウム、酸化窒化アルミニウム、酸化インジウムスズ(ITO)またはこれらの混合物が好ましい。
【0120】
無機層の形成方法は、特に限定されない。一般に、薄膜を形成する方法は大別して、化学的気相成長法(Chemical Vapor Deposition、CVD)と物理成膜法(Physical Vapor Deposition、PVD)とがあるが、いずれの方法を採用してもよい。CVD法としては、具体的には、プラズマを利用したプラズマCVD、加熱触媒体を用いて材料ガスを接触熱分解する触媒化学気相成長法(Cat-CVD)等が挙げられる。PVD法としては、具体的には、真空蒸着、イオンプレーティング、スパッタリング等が挙げられる。
【0121】
また、無機層の形成方法としては、原子層堆積法(Atomic Layer Deposition、ALD)を採用することもできる。ALD法は、形成しようとする膜を構成する各元素の原料ガスを、層を形成する面に交互に供給することにより、原子層単位で薄膜を形成する方法である。成膜速度が遅いという欠点はあるが、プラズマCVD法以上に、複雑な形状の面でもきれいに覆うことができ、欠陥の少ない薄膜を成膜することが可能であるという利点がある。また、ALD法には、膜厚をナノオーダーで制御することができ、広い面を覆うことが比較的容易である等の利点がある。さらにALD法は、プラズマを用いることにより、反応速度の向上、低温プロセス化、未反応ガスの減少が期待できる。
【0122】
(用途)
本発明のシートは、透明性と耐水性に優れたシートである。上記の特性を活かす観点から、各種のディスプレイ装置、各種の太陽電池、等の光透過性基板の用途に適している。また、電子機器の基板、家電の部材、各種の乗り物や建物の窓材、内装材、外装材、包装用資材等の用途にも適している。さらに、糸、フィルタ、織物、緩衝材、スポンジ、研磨材などの他、シートそのものを補強材として使う用途にも適している。
【実施例
【0123】
以下に実施例と比較例を挙げて本発明の特徴をさらに具体的に説明する。以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明の範囲は以下に示す具体例により限定的に解釈されるべきものではない。
【0124】
〔実施例1〕
<リン酸基導入セルロース繊維の作製>
針葉樹クラフトパルプとして、王子製紙製のパルプ(固形分93% 坪量208g/m2シート状 離解してJIS P 8121に準じて測定されるカナダ標準濾水度(CSF)700ml)を使用した。上記針葉樹クラフトパルプ(絶乾質量)100質量部に、リン酸二水素アンモニウムと尿素の混合水溶液を含浸し、リン酸二水素アンモニウム49質量部、尿素130質量部となるように圧搾し、薬液含浸パルプを得た。得られた薬液含浸パルプを105℃の乾燥機で乾燥し、水分を蒸発させてプレ乾燥させた。その後、140℃に設定した送風乾燥機で、10分間加熱し、パルプ中のセルロースにリン酸基を導入し、リン酸化パルプを得た。
得られたリン酸化パルプの絶乾質量として100質量部に対して10000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、リン酸変性セルロース繊維を得た。次いで、リン酸基を導入したセルロースに5000mlのイオン交換水を加え、撹拌洗浄後、脱水した。脱水後のパルプを5000mlのイオン交換水で希釈し、撹拌しながら、1Nの水酸化ナトリウム水溶液をpHが12~13になるまで少しずつ添加して、パルプ分散液を得た。その後、このパルプ分散液を脱水し、5000mlのイオン交換水を加えて洗浄を行った。この脱水洗浄をさらに1回繰り返した。
得られたリン酸変性セルロース繊維は、リン酸基の導入量が0.98mmol/gであった。
【0125】
<機械処理>
洗浄脱水後に得られたパルプにイオン交換水を添加して、固形分濃度が1.0質量%のパルプ懸濁液にした。このパルプ懸濁液を、湿式微粒化装置(スギノマシン社製:アルティマイザー)を用いて処理し、微細繊維状セルロース分散液を得た。湿式微粒化装置を用いた処理においては、245MPaの圧力にて処理チャンバーを5回通過させた。微細繊維状セルロース分散液に含まれる微細繊維状セルロースの平均繊維幅は3~4nmであった。
【0126】
<シート化>
微細繊維状セルロース分散液にポリエチレングリコール(和光純薬社製、分子量400万)を微細繊維状セルロース100質量部に対し、20質量部になるように添加した。その後、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリン(星光PMC株式会社製、湿潤紙力剤WS4030)を微細繊維状セルロース100質量部に対し、0.5質量部になるように添加した。その後、固形分濃度が0.6質量%となるよう濃度調整を行った。シートの仕上がり坪量が45g/m2になるように分散液を計量して、市販のアクリル板に塗工し70℃の乾燥機で24時間乾燥した。なお、所定の坪量となるようアクリル板上には堰止用の板を配置した。以上の手順によりシートが得られ、その厚みは30μmであった。
【0127】
〔実施例2〕
ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンの添加量を2.5質量部とした以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
【0128】
〔実施例3〕
ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンの添加量を5質量部とした以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
【0129】
〔実施例4〕
ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンの添加量を10質量部とした以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
【0130】
〔実施例5〕
実施例1の微細繊維状セルロース分散液にポリエチレングリコールを20質量部添加した。その後、分散液にアニオン性のポリアクリルアミド(星光PMC株式会社製、紙力剤DA4104)を微細繊維状セルロース100質量部に対し、1.0質量部になるように添加した。ポリアクリルアミドを添加した30秒後に、ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンを微細繊維状セルロース100質量部に対し、0.5質量部になるように添加した。この分散液からシート化した以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
【0131】
〔実施例6〕
ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンの添加量を2.5質量部、ポリアクリルアミドの添加量を5質量部とした以外は、実施例5と同様にしてシートを得た。
【0132】
〔実施例7〕
ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンの添加量を5質量部、ポリアクリルアミドの添加量を10質量部とした以外は、実施例5と同様にしてシートを得た。
【0133】
〔実施例8〕
ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンの添加量を10質量部、ポリアクリルアミドの添加量を20質量部とした以外は、実施例5と同様にしてシートを得た。
【0134】
〔実施例9〕
ポリアクリルアミドをノニオン性(星光PMC株式会社製、紙力剤DH4162)とした以外は、実施例6と同様にしてシートを得た。
【0135】
〔実施例10〕
ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンの添加量を5質量部、ポリアクリルアミドの添加量を10質量部とした以外は、実施例9と同様にしてシートを得た。
【0136】
〔実施例11〕
ポリアクリルアミドをカチオン性(星光PMC株式会社製、紙力剤DS4433)とした以外は、実施例9と同様にしてシートを得た。
【0137】
〔実施例12〕
ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンの添加量を5質量部、ポリアクリルアミドの添加量を10質量部とした以外は、実施例11と同様にしてシートを得た。
【0138】
〔実施例13〕
ポリアクリルアミドの代わりにポリプロピレン樹脂のエマルジョン(東邦化学工業株式会社、HYTEC P-5060P、粒子径30nm)を使用した以外は、実施例6と同様にしてシートを得た。
【0139】
〔実施例14〕
乾燥質量100質量部相当の未乾燥の針葉樹晒クラフトパルプと、TEMPO(2,2,6,6-テトラメチルピペリジン 1-オキシル)1.6質量部と、臭化ナトリウム10質量部を、水10000質量部に分散させた。次いで、13質量%次亜塩素酸ナトリウム水溶液を、1.0gのパルプに対して次亜塩素酸ナトリウムの量が3.5mmolになるように加えて反応を開始した。反応中は1.0Mの水酸化ナトリウム水溶液を滴下してpHを10以上11以下に保ち、pHに変化が見られなくなった時点で反応終了と見なし、パルプにカルボキシル基を導入した。このパルプスラリーを脱水し、脱水シートを得た後、5000質量部のイオン交換水を注ぎ、攪拌して均一に分散させた。その後、濾過脱水して、脱水シートを得る工程を2回繰り返し、カルボキシル基変性セルロース繊維を得た。得られたカルボキシル基変性セルロース繊維は、カルボキシル基の導入量が1.01mmol/gであった。これを原料として用いた以外は、実施例3と同様にしてシートを得た。
【0140】
〔比較例1〕
ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンを添加しなかった以外は、実施例1と同様にしてシートを得た。
【0141】
〔比較例2〕
ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンを添加しなかった以外は、実施例14と同様にしてシートを得た。
【0142】
〔比較例3〕
アニオン性ポリアクリルアミドを10質量部添加した以外は、比較例2と同様にしてシートを得た。
【0143】
〔比較例4〕
ポリアミンポリアミドエピクロロヒドリンの添加量を20質量部とした以外は、実施例14と同様にしてシートを得た。
【0144】
〔評価〕
<方法>
実施例及び比較例で作製したシートについて、以下の評価方法に従って評価を実施した。
【0145】
(1)セルロース表面の置換基量測定(滴定法)
リン酸基の導入量は、セルロースをイオン交換水で含有量が0.2質量%となるように希釈した後、イオン交換樹脂による処理、アルカリを用いた滴定によって測定した。イオン交換樹脂による処理では、0.2質量%セルロース含有スラリーに体積で1/10の強酸性イオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバージェット1024:コンディショング済)を加え、1時間振とう処理を行った。その後、目開き90μmのメッシュ上に注ぎ、樹脂とスラリーを分離した。アルカリを用いた滴定では、イオン交換後の繊維状セルロース含有スラリーに、0.1Nの水酸化ナトリウム水溶液を加えながら、スラリーが示す電気伝導度の値の変化を計測した。すなわち、図1に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。
なお、カルボキシル基導入量は、図2(カルボキシル基)に示した曲線の第1領域で必要としたアルカリ量(mmol)を、滴定対象スラリー中の固形分(g)で除して、置換基導入量(mmol/g)とした。
【0146】
(2)シートの全光線透過率
JIS K 7361に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いて全光線透過率を測定した。
【0147】
(3)シートのヘーズ
JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(村上色彩技術研究所社製、HM-150)を用いてヘーズを測定した。
【0148】
(4)黄色度
JIS K 7373に準拠し、Colour Cute i(スガ試験機株式会社)を用いてシート加熱前後の黄色度を測定した。
【0149】
(5)シートの引張物性
JIS P 8113に準拠し、引張試験機テンシロン(エー・アンド・デイ社製)を用いて引張強度、引張弾性率および引張伸度を測定した。
なお、測定においては、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したものを試験片とした。
【0150】
(6)シートの吸水率
50mm角のシートをイオン交換水に24時間浸漬し、23℃、相対湿度50%で24時間調湿したシートの質量をWd(g)、浸漬後のシート質量をW(g)とし、下記の式から吸水率を求めた。
吸水率(%)=(W-Wd)/Wd×100
【0151】
【表1】
【0152】
表1から明らかなように、実施例で得られたシートにおいては、吸水率が抑制されており、かつ、ヘーズ値が小さく、全光線透過率も高い。すなわち、実施例で得られたシートは耐水性及び透明性に優れていることがわかる。
一方、比較例においては、吸水率の抑制と、低ヘーズは両立されておらず、耐水性と透明性の両方を兼ね備えたシートが得られていない。
図1
図2