(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】タイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 9/18 20060101AFI20220117BHJP
B60C 9/22 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B60C9/18 Q
B60C9/18 K
B60C9/18 J
B60C9/22 B
B60C9/22 C
B60C9/22 D
(21)【出願番号】P 2018058487
(22)【出願日】2018-03-26
【審査請求日】2021-01-22
(73)【特許権者】
【識別番号】000183233
【氏名又は名称】住友ゴム工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100104134
【氏名又は名称】住友 慎太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100156225
【氏名又は名称】浦 重剛
(74)【代理人】
【識別番号】100168549
【氏名又は名称】苗村 潤
(74)【代理人】
【識別番号】100200403
【氏名又は名称】石原 幸信
(72)【発明者】
【氏名】加藤 智規
【審査官】赤澤 高之
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-280709(JP,A)
【文献】特表2010-534159(JP,A)
【文献】特開平02-267003(JP,A)
【文献】特開2018-140717(JP,A)
【文献】特開2017-177842(JP,A)
【文献】特開2016-210305(JP,A)
【文献】特開2015-107563(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 1/00- 19/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タイヤであって、
トロイド状のカーカスと、前記カーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたトレッド補強層とを含み、
前記トレッド補強層は、少なくとも1本の補強コードがトッピングゴムにより被覆された長尺の帯状プライが巻き付けられているプライ補強部を含み、
前記プライ補強部は、前記帯状プライがタイヤ周方向に対して一方側に傾斜する複数の第1傾斜部と、前記帯状プライがタイヤ周方向に対して前記複数の第1傾斜部とは逆向きに傾斜する複数の第2傾斜部とを含み、前記複数の第1傾斜部の側縁が互いに接触することなく配され、かつ、前記複数の第2傾斜部の側縁が互いに接触することなく配されることにより、これらが菱形状の空間部を残して交差する格子状部を含み、
前記空間部のタイヤ周方向の長さは、前記タイヤが正規リムにリム組みされ、かつ、正規内圧が充填されしかも正規荷重の下でキャンバー角0度で平面に接地させた正規荷重負荷状態での前記トレッド部の接地面のタイヤ周方向の最大長さの2/3倍未満である、
タイヤ。
【請求項2】
前記空間部のタイヤ周方向の長さは、前記接地面のタイヤ周方向の最大長さの2/5倍以上である、請求項1記載のタイヤ。
【請求項3】
前記空間部のタイヤ軸方向の長さは、前記接地面のタイヤ軸方向の最大長さの2/3倍未満である、請求項1又は2に記載のタイヤ。
【請求項4】
前記空間部のタイヤ軸方向の長さは、前記接地面のタイヤ軸方向の最大長さの2/5倍以上である、請求項3記載のタイヤ。
【請求項5】
前記格子状部は、タイヤ赤道とトレッド端との間のミドル領域に配される、請求項1ないし4のいずれかに記載のタイヤ。
【請求項6】
前記プライ補強部は、前記タイヤ赤道を含むクラウン領域に、前記帯状プライがタイヤ周方向に螺旋状に1周以上延びている第1螺旋状部を含む、請求項5記載のタイヤ。
【請求項7】
前記プライ補強部は、前記トレッド端を含むショルダー領域に、前記帯状プライがタイヤ周方向に螺旋状に1周以上延びている第2螺旋状部を含む、請求項5又は6に記載のタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トレッド補強層を有するタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
下記特許文献1には、バンドを含む空気入りタイヤが記載されている。このバンドは、コードを備える帯体が周方向に対して傾斜する第一主部と、第一主部とは逆向きに傾斜する第二主部とが交差する交差部を有する。このような交差部は、バンドの剛性を高めて、大きなコーナリングパワーを生じさせるので旋回性能を向上する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、種々の実験の結果、特許文献1の空気入りタイヤでは、旋回性能に関して改善の余地があることが分かった。
【0005】
発明者らは、特許文献1の空気入りタイヤについて検討したところ、前記第一主部と前記第二主部とで囲まれる菱形の隙間が、旋回性能の向上に作用することを突き止めた。
【0006】
本発明は、以上のような実状に鑑み案出されたもので、旋回性能を向上し得るタイヤを提供することを主たる目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、タイヤであって、トロイド状のカーカスと、前記カーカスのタイヤ半径方向外側かつトレッド部の内部に配されたトレッド補強層とを含み、前記トレッド補強層は、少なくとも1本の補強コードがトッピングゴムにより被覆された長尺の帯状プライが巻き付けられているプライ補強部を含み、前記プライ補強部は、前記帯状プライがタイヤ周方向に対して一方側に傾斜する複数の第1傾斜部と、前記帯状プライがタイヤ周方向に対して前記複数の第1傾斜部とは逆向きに傾斜する複数の第2傾斜部とを含み、前記複数の第1傾斜部の側縁が互いに接触することなく配され、かつ、前記複数の第2傾斜部の側縁が互いに接触することなく配されることにより、これらが菱形状の空間部を残して交差する格子状部を含み、前記空間部のタイヤ周方向の長さは、前記タイヤが正規リムにリム組みされ、かつ、正規内圧が充填されしかも正規荷重の下でキャンバー角0度で平面に接地させた正規荷重負荷状態での前記トレッド部の接地面のタイヤ周方向の最大長さの2/3倍未満である。
【0008】
本発明に係るタイヤは、前記空間部のタイヤ周方向の長さが、前記接地面のタイヤ周方向の最大長さの2/5倍以上であるのが望ましい。
【0009】
本発明に係るタイヤは、前記空間部のタイヤ軸方向の長さが、前記接地面のタイヤ軸方向の最大長さの2/3倍未満であるのが望ましい。
【0010】
本発明に係るタイヤは、前記空間部のタイヤ軸方向の長さが、前記接地面のタイヤ軸方向の最大長さの2/5倍以上であるのが望ましい。
【0011】
本発明に係るタイヤは、前記格子状部が、タイヤ赤道とトレッド端との間のミドル領域に配されるのが望ましい。
【0012】
本発明に係るタイヤは、前記プライ補強部が、前記タイヤ赤道を含むクラウン領域に、前記帯状プライがタイヤ周方向に螺旋状に1周以上延びている第1螺旋状部を含むのが望ましい。
【0013】
本発明に係るタイヤは、前記プライ補強部が、前記トレッド端を含むショルダー領域に、前記帯状プライがタイヤ周方向に螺旋状に1周以上延びている第2螺旋状部を含むのが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明のタイヤは、トレッド補強層が、帯状プライを巻き付けられているプライ補強部を含んでいる。前記プライ補強部は、前記帯状プライが一方側に傾斜する複数の第1傾斜部と、前記帯状プライが前記複数の第1傾斜部とは逆向きに傾斜する複数の第2傾斜部とによって、菱形状の空間部を残して交差する格子状部を含んでいる。このような菱形状の空間部を有する格子状部は、トレッド部の捻れ方向の力に対して大きなタガ効果を発揮するので、スムーズな旋回を可能にする。
【0015】
一般に、旋回走行の初期では、タイヤ赤道を含むトレッド部も接地する。このため、旋回走行の初期から終期を含めると、トレッド部は、旋回走行において、いずれかの領域が接地することになる。
【0016】
本発明では、前記空間部のタイヤ周方向長さが、正規荷重負荷状態でのトレッド部の接地面のタイヤ周方向の最大長さの2/3倍未満である。これにより、走行時の接地面に格子状部が位置する場合、その接地面には、実質的に空間部が形成されることになる。したがって、本発明のタイヤは、格子状部が設けられる接地面では、空間部による大きなタガ効果が発揮されてスムーズな旋回が可能となるので、旋回性能が向上する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【
図1】本発明のタイヤの一実施形態を示す断面図である。
【
図4】(a)は、接地面の一例を示す平面図、(b)は、接地面の他の例を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施の一形態が図面に基づき説明される。
図1は、本実施形態のタイヤ1の正規状態におけるタイヤ回転軸(図示省略)を含むタイヤ子午線断面図である。本発明は、例えば、乗用車用、自動二輪車用、重荷重用等の空気入りタイヤの他、空気が充填されない非空気式タイヤなど、様々なカテゴリーのタイヤ1に用いることができる。
図1には、自動二輪車用の空気入りタイヤが示される。
【0019】
前記「正規状態」は、タイヤ1が正規リム(図示省略)にリム組みされ、かつ、正規内圧が充填され、しかも無負荷の状態である。本明細書では特に断りがない限り、タイヤ1の各部の寸法は、正規状態で測定された値である。
【0020】
前記「正規リム」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めているリムであり、例えばJATMAであれば"標準リム" 、TRAであれば"Design Rim" 、ETRTOであれば"Measuring Rim" である。
【0021】
前記「正規内圧」は、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば"最高空気圧" 、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば"INFLATION PRESSURE" である。
【0022】
図1に示されるように、本実施形態のタイヤ1は、路面に接地する踏面2aを有するトレッド部2と、トロイド状のカーカス6と、カーカス6のタイヤ半径方向外側かつトレッド部2の内部に配されたトレッド補強層7とを有している。
【0023】
トレッド部2は、タイヤ半径方向外側に凸の円弧状に湾曲しており、トレッド端TE、TEがタイヤ1のタイヤ軸方向の最も外側に位置している。本実施形態のトレッド部2は、タイヤ赤道Cを含むクラウン領域2C、トレッド端TEを含む一対のショルダー領域2S、2S、及び、クラウン領域2Cとショルダー領域2Sとに挟まれる一対のミドル領域2M、2Mを含んでいる。クラウン領域2Cは、主に直進走行時に接地する領域である。ミドル領域2Mは、主に旋回走行の初期から終期にかけて接地する領域である。ショルダー領域2Sは、主に、フルバンク走行を含む旋回走行の終期に接地する領域である。
【0024】
カーカス6は、例えば、少なくとも1枚のカーカスプライ6Aにより形成されている。カーカスプライ6Aは、例えば、タイヤ赤道Cに対して75~90°の角度で傾けて配列されたカーカスコードを未加硫のトッピングゴムにより被覆して形成されている。カーカスプライ6Aは、例えば、トレッド部2からサイドウォール部3を経て両側のビード部4、4のビードコア5に至る本体部6aと、本体部6aに連なる1対の折り返し部6bとを含んでいる。
【0025】
トレッド補強層7は、タイヤ子午線断面において、トレッド部2に沿って湾曲してのびており、トレッド部2のほぼ全幅にわたって形成されている。これにより、トレッド補強層7は、トレッド部2の剛性をトレッド部2の全域にわたって高めることができる。このような観点より、トレッド補強層7の踏面2aに沿った幅Wtは、トレッド端TE、TE間の踏面2aに沿った幅(以下、本明細書では、「トレッド展開幅」という場合がある。)TWの75%~95%であるのが望ましい。
【0026】
本実施形態のトレッド補強層7は、帯状プライ9がカーカス6に巻き付けられて形成されたプライ補強部8を含んでいる。
【0027】
図2には、帯状プライ9の斜視図が示されている。
図2に示されるように、帯状プライ9は、少なくとも1本、本実施形態では、複数本の補強コード10をトッピングゴム11により被覆して形成されている。補強コード10は、例えば、スチールコードや有機繊維コードが好適に用いられる。
【0028】
帯状プライ9は、例えば、長手方向に延びる両側縁9s、9sを含み、略矩形状の断面を有している。帯状プライ9の幅W1は、例えば、2.5~12.0mmの範囲であるのが望ましい。帯状プライ9の厚さt1は、例えば、0.6~3.0mmの範囲であるのが望ましい。補強コード10は、本実施形態では、側縁9sに沿って延びている。
【0029】
図1に示されるように、本実施形態のプライ補強部8は、帯状プライ9が交差する格子状部13を含んでいる。
【0030】
図3は、格子状部13を平面に展開した展開図である。
図3に示されるように、本実施形態の格子状部13は、複数の第1傾斜部16と複数の第2傾斜部17とを含んでいる。各第1傾斜部16は、帯状プライ9がタイヤ周方向に対して一方側(図では右上がり)に傾斜している。各第2傾斜部17は、帯状プライ9がタイヤ周方向に対して第1傾斜部16とは逆向きに傾斜(図では左上がり)している。
【0031】
格子状部13は、本実施形態では、複数の第1傾斜部16の側縁16sが互いに接触することなく配され、かつ、複数の第2傾斜部17の側縁17sが互いに接触することなく配されることにより、これらが菱形状の空間部19を残して交差して形成されている。このような菱形状の空間部19を有する格子状部13は、トレッド部2の捻れ方向の力に対して大きなタガ効果を発揮するので、スムーズな旋回を可能にする。また、第1傾斜部16と第2傾斜部17とが交差する交差部20は、トレッド補強層7の剛性を高めるので、旋回性能を向上する。なお、「菱形状」とは、本明細書では、4辺の長さが同じ直線で形成されるものを含むのは勿論、上述の作用を発揮させる範囲において、4辺が円弧を含む曲線状に延びるもの等の態様を含む。
【0032】
空間部19のタイヤ周方向の長さLaは、前記正規状態のタイヤ1に正規荷重が負荷され、キャンバー角0度で平面に接地させた正規荷重負荷状態でのトレッド部2の接地面S(
図5に示す)のタイヤ周方向の最大長さLAの2/3倍未満に規定される。
図4(a)には、走行時の接地面Saの平面図の一例が示される。空間部19の長さLaがこのように規定されると、走行時の接地面Saに格子状部13が位置する場合、
図4(a)に示されるように、その接地面Saには、実質的に空間部19が形成される。これにより、その接地面Saでは、空間部19による大きなタガ効果が発揮されるので、よりスムーズな旋回が可能となる。したがって、本発明では、旋回性能が、一層向上する。なお、本実施形態のように、自動二輪車用のタイヤ1では、トレッド部2のタイヤ軸方向の内外において、接地面の形状の相違が特に小さくなる。
【0033】
前記「実質的に」とは、
図4(a)に示されるように、第1傾斜部16及び第2傾斜部17が、1つの空間部19の4つの辺21を形成する菱形状の完全な空間部19aを含む。また、「実質的に」とは、
図4(b)に示されるように、接地面Sa内において、タイヤ周方向に隣接する空間部19b、19bが不完全な菱形状であっても、第1傾斜部16及び第2傾斜部17が、各空間部19b、19bのタイヤ軸方向に向き合う2つの辺21の全長を構成するような態様を含む。
【0034】
前記「正規荷重」とは、タイヤ1が基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば"最大負荷能力"、TRAであれば表"TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES" に記載の最大値、ETRTOであれば"LOAD CAPACITY" である。
【0035】
図3に示されるように、空間部19のタイヤ周方向の長さLaは、接地面Sのタイヤ周方向の長さLAの2/5倍以上であるのが望ましい。空間部19の前記長さLaが接地面Sの前記最大長さL1の2/5倍未満の場合、第1傾斜部16及び第2傾斜部17の本数が大きくなり、タイヤ1の質量が過度に増加して、かえって旋回性能が悪化するおそれがある。
【0036】
空間部19のタイヤ軸方向の長さWaは、接地面Sのタイヤ軸方向の最大長さWAの2/3倍未満であるのが望ましい。これにより、走行時の接地面Saに格子状部13が位置する場合、その接地面Saには、より確実に実質的に空間部19が形成されることになるので、旋回性能が向上する。タイヤ1の質量の過度の増加を抑制する観点より、空間部19のタイヤ軸方向の長さWaは、接地面Sのタイヤ軸方向の最大長さWAの2/5倍以上であるのが望ましい。
【0037】
特に限定されるものではないが、第1傾斜部16のタイヤ周方向に対する角度θ1及び第2傾斜部17のタイヤ周方向に対する角度θ2は、1度以上が望ましく、3度以上がさらに望ましく、5度以上が特に望ましい。また、第1傾斜部16の角度θ1及び第2傾斜部17の角度θ2は、20度以下が望ましく、15度以下がさらに望ましく、10度以下が特に望ましい。なお、帯状プライ9のタイヤ周方向に対する角度は、本明細書では、タイヤ1周の平均で表され、局所的に大きな角度で傾斜する部分は、除く趣旨である。
【0038】
旋回方向の左右両方で等しい大きさのコーナリングパワーを生じさせて、よりスムーズな旋回を可能にするために、第1傾斜部16の角度θ1及び第2傾斜部17の角度θ2は同じであるのが望ましい。
【0039】
本実施形態の格子状部13は、タイヤ周方向に延びる複数の周方向部18を含んでいる。このような周方向部18は、カーカス6の変形を拘束するので、高速安定性能を高める。
【0040】
周方向部18は、本実施形態では、格子状部13の幅方向の両端13s、13sに設けられている。周方向部18は、例えば、そのタイヤ周方向の両端に第1傾斜部16及び第2傾斜部17が繋がれている。このような周方向部18は、例えば、第1傾斜部16と第2傾斜部17とが直接に繋がれた場合に比して、帯状プライ9に作用する曲げ応力を小さくするので、その接続箇所の浮き上がりを抑制する。周方向部18は、本実施形態では、直線状に延びている。
【0041】
特に限定されるものではないが、周方向部18のタイヤ周方向に対する角度θ3は、例えば、5度以下が望ましく、2度以下がさらに望ましい。周方向部18の角度θ3は、本実施形態では、0度である。
【0042】
複数の周方向部18は、本実施形態では、タイヤ周方向に並んで形成されている。複数の周方向部18は、例えば、タイヤ周方向に連続して延びる1本のプライ辺18Aを形成している。このようなプライ辺18Aは、カーカス6を大きく拘束するので、その変形を大きく抑制する。とりわけ、プライ辺18Aは、本実施形態では、格子状部13の両側に設けられるので、上述の作用が一層発揮される。
【0043】
プライ辺18Aは、本実施形態では、格子状部13の内側に向かって凹む凹部22が設けられている。このような凹部22は、タイヤ周方向に隣接する周方向部18、18同士がタイヤ周方向に重なることによる剛性の過度の増加を抑制して、格子状部13の両端13s、13sの剛性バランスを高める。
【0044】
凹部22のタイヤ周方向長さLbが過度に大きくなると、上述の通り、カーカス6の拘束力が小さくなるおそれがある。また、菱形状の空間部19の形成が、格子状部13の幅方向の内側に移動するので、タガ効果が発揮される範囲が小さくなるおそれがある。このため、凹部22のタイヤ周方向の長さLbは、凹部22とタイヤ軸方向に隣接する空間部19cの前記長さLaの5%以上が望ましく、10%以上がさらに望ましい。また、凹部22のタイヤ周方向の長さLbは、前記空間部19cの前記長さLaの25%以下が望ましく、20%以下がさらに望ましい。
【0045】
このような格子状部13は、例えば、1本の帯状プライ9で形成されても良いし、複数本の帯状プライ9を継いで形成されても良い。
【0046】
図5は、本実施形態のプライ補強部8の全体を示す平面図である。プライ補強部8は、本実施形態では、格子状部13と、帯状プライ9がタイヤ周方向に螺旋状に1周以上延びている螺旋状部14を含んでいる。このような螺旋状部14は、カーカス6に対して大きな拘束力を発揮する。前記「タイヤ周方向に螺旋状に」とは、螺旋状部14の帯状プライ9のタイヤ周方向に対する角度θ4が、第1傾斜部16の角度θ1及び第2傾斜部17の角度θ2よりも小さければ良く、例えば、5度以下が望ましく、2度以下がさらに望ましく、0度を含む。
【0047】
格子状部13は、本実施形態では、主に、旋回走行の初期から終期に掛けて接地する各ミドル領域2M、2Mに形成されている。これにより、旋回性能が大きく向上する。
【0048】
本実施形態の各格子状部13は、トレッド部2の踏面2aに沿った幅Wmが、トレッド展開幅TWの20%以上が望ましく、25%以上がさらに望ましい。また、各格子状部13の幅Wmは、トレッド展開幅TWの48%以下が望ましく、40%以下がさらに望ましい。
【0049】
螺旋状部14は、クラウン領域2Cに形成された第1螺旋状部24と、各ショルダー領域2Sに形成された一対の第2螺旋状部25、25とを含んでいる。第1螺旋状部24は、主に高速走行となる直進走行時に接地するクラウン領域2Cに対して大きな拘束力を発揮するので、高速安定性能を向上する。第2螺旋状部25は、ショルダー領域2Sのねじり剛性を小さくして、小さなコーナリングパワーを生じさせる。このため、例えば、路面のギャップ等による反力や振動が小さくなるので、接地感が高められる。これにより、第2螺旋状部25は、安定したフルバンク走行を可能とするので、旋回性能を高める。本実施形態では、第2螺旋状部25のタイヤ軸方向の外端25eが、トレッド補強層7の外端7eを形成している。
【0050】
第1螺旋状部24及び各第2螺旋状部25、25は、それぞれ1本の帯状プライ9で形成されている。これにより、上述の作用が効果的に発揮される。なお、第1螺旋状部24及び各第2螺旋状部25、25は、複数本の帯状プライ9で形成されても良い。
【0051】
螺旋状部14の帯状プライ9は、本実施形態では、タイヤ周方向に隣接する帯状プライ9の側縁9s、9s同士が接して配されている。なお、このような態様に限定されるものではなく、例えば、タイヤ周方向に隣接する帯状プライ9の側縁9s、9s同士は、タイヤ半径方向に重なって形成されていても良い。
【0052】
螺旋状部14と格子状部13とは、タイヤ軸方向に離間している。これにより、帯状プライ9がタイヤ周方向に延びる周方向部18と、螺旋状部14との間において、剛性の過度の増加が抑制される。本実施形態では、第1螺旋状部24と格子状部13とがタイヤ軸方向に離間している。第2螺旋状部25と格子状部13とがタイヤ軸方向に離間している。
【0053】
クラウン領域2Cは、ショルダー領域2Sよりも直進走行時に大きな接地圧が作用する。このため、クラウン領域2Cは、ショルダー領域2Sよりも相対的にタイヤ周方向に大きな剛性が求められる。したがって、第1螺旋状部24と格子状部13との間の最短距離W3は、第2螺旋状部25と格子状部13と間の最短距離W4よりも小さいのが望ましい。最短距離W3は、第1螺旋状部24のタイヤ軸方向の外端24eと格子状部13のタイヤ軸方向の内端13iとの間のタイヤ軸方向の距離である。最短距離W4は、第2螺旋状部25のタイヤ軸方向の内端25iと格子状部13のタイヤ軸方向の外端13eと間のタイヤ軸方向の距離である。前記最短距離W3と前記最短距離W4との差(W4-W3)が大きい場合、ショルダー領域2Sとミドル領域2Mとの間の剛性が過度に低下して、フルバンク走行時の旋回性能が低下するおそれがある。このような観点より、前記差(W4-W3)は、1mm以上が望ましく、4mm以下が望ましい。
【0054】
なお、第1螺旋状部24と格子状部13との間の前記最短距離W3は、0mmであっても良い。即ち、第1螺旋状部24と格子状部13とが接する態様であっても良い。このような態様では、クラウン領域2Cとミドル領域2Mとの間のタイヤ周方向の剛性が高くなり、優れた高速安定性能が発揮される。
【0055】
第1螺旋状部24の踏面2aに沿った幅Wcは、トレッド展開幅TWの3%以上が望ましく、10%以上がさらに望ましく、30%以下が望ましく、25%以下がさらに望ましい。
【0056】
第2螺旋状部25の踏面2aに沿った幅Wsは、トレッド展開幅TWの2%以上が望ましく、7%以上がさらに望ましく、20%以下が望ましく、15%以下がさらに望ましい。
【0057】
格子状部13は、本実施形態では、ミドル領域2Mに配されている。しかしながら、本発明の格子状部13は、このような態様に限定されるものではなく、例えば、クラウン領域2Cやショルダー領域2Sのそれぞれに設けることもできるし、複数の領域に跨って形成されても良い。
【0058】
以上、本発明の特に好ましい実施形態について詳述したが、本発明は図示の実施形態に限定されることなく、種々の態様に変形して実施し得る。
【実施例】
【0059】
図1に示す基本構造及び
図5に示すプライ補強部のトレッド補強層を有する自動二輪車用タイヤが、表1の仕様に基づいて試作された。これらのタイヤについて、高速安定性能及び旋回性能が評価された。各タイヤの共通仕様やテスト方法は、以下の通りである。
【0060】
<高速安定性能>
各試供タイヤが、下記の条件で、排気量1000ccの自動二輪車の全輪に装着された。テストライダーは、上記車両を乾燥アスファルト路面のテストコースを走行させた。このときの各試供タイヤのハンドル安定性、グリップ等に関する高速走行特性がテストライダーの官能により評価された。結果は、比較例1を100とする評点で表示されている。数値が大きいほど良好である。
タイヤサイズ:120/70ZR17(前輪) 180/55ZR17(後輪)
リム:17M/CxMT3.50(前輪)/17M/CxMT5.50(後輪)
内圧(全輪):250kPa
帯状プライ:幅4.0mm、厚さ1.0mm、補強コード3本
トレッド補強層の幅(Wt/TW):90%
格子状部の幅(Wm/TW):40%
第1螺旋状部の幅(Wc/TW):6.0%
第2螺旋状部の幅(Ws/TW):2.0%
【0061】
<旋回性能(コーナリングパワー)>
各試供タイヤを、下記条件下で、室内試験器を用いてコーナリングフォースを測定してコーナリングパワーを求めた。結果は、比較例1の値を100とする指数によって表示されている。数値が大きいほどコーナリングパワーが高く、良好である。コーナリングパワーは、スリップ角+1゜の時のコーナリングフォース値CF(+1゜)から、スリップ角-1゜の時のコーナリングフォース値CF(-1゜)を引いた値を2で割って得た次式で示すスリップ角1度当たりのコーナリングフォースである。
{CF(+1゜)-CF(-1゜)}/2
タイヤサイズ:120/70ZR17
内圧:250kPa
荷重:1.3kN
テストの結果は、表1に示される。
【0062】
【0063】
テストの結果、各実施例のタイヤは、比較例のタイヤに対し、優れた旋回性能を有していることが確認された。また、格子状部、螺旋状部の幅を好ましい範囲で変更したタイヤを用いてテストを行ったが、同様の結果となった。
【符号の説明】
【0064】
1 タイヤ
2 トレッド部
7 トレッド補強層
8 プライ補強部
9 帯状プライ
13 格子状部
16 第1傾斜部
17 第2傾斜部
19 空間部
S 接地面