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  • -サクションメーンの洗浄方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】サクションメーンの洗浄方法
(51)【国際特許分類】
   C10B 27/06 20060101AFI20220203BHJP
【FI】
C10B27/06 Z
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018068336
(22)【出願日】2018-03-30
(65)【公開番号】P2019178232
(43)【公開日】2019-10-17
【審査請求日】2020-10-27
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100130513
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 直也
(74)【代理人】
【識別番号】100074206
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 文二
(74)【代理人】
【識別番号】100130177
【弁理士】
【氏名又は名称】中谷 弥一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100117400
【弁理士】
【氏名又は名称】北川 政徳
(72)【発明者】
【氏名】雪田 忍
【審査官】齊藤 光子
(56)【参考文献】
【文献】実開昭50-151847(JP,U)
【文献】特開昭63-063787(JP,A)
【文献】特開2014-172997(JP,A)
【文献】特開昭52-030066(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C10B 27/00,43/00
B08B 9/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コークス炉からコークス炉ガスを排出するサクションメーンの洗浄方法であって、
このサクションメーンの上部の周面部に設けられた治具挿入部に、先端に噴射ノズルが連結された噴射部を有する治具が挿入され、
この噴射部の先端の噴射ノズルから、50~90℃の温度の水が前記サクションメーン内に噴射され、
前記噴射ノズルからの水の噴射は、前記サクションメーンの底部からサクションメーンの内径の1/12の高さの位置と、前記サクションメーンの底部からサクションメーンの内径の2/3の高さの位置との間の範囲内で行われ、
前記噴射ノズルの位置は、前記治具挿入部に配される前記噴射部又は前記噴射部に設けられた連結部材の位置の調整により調整可能である、
前記サクションメーン中のタール滓を除去するサクションメーンの洗浄方法
【請求項2】
前記噴射ノズルの径が、前記サクションメーンの内径の1/30~1/200である請求項1に記載のサクションメーンの洗浄方法。
【請求項3】
前記噴射ノズルを有する前記噴射部の先端部は、前記噴射部本体に対して30°以上60°以下の角度で屈曲する構造である請求項1又は2に記載のサクションメーンの洗浄方法。
【請求項4】
前記サクションメーンには、コークス炉ガスのガス成分、コークス炉ガス由来のダスト、スラッジ、コールタール、及び水を含むガス含有液が流れ、サクションメーン底部に、前記ダスト、スラッジ及びコールタールを含むタール滓が堆積し、この堆積物を前記治具からの水噴射により、前記サクションメーンを洗浄する請求項1~3のいずれか1項に記載のサクションメーンの洗浄方法。
【請求項5】
前記噴射ノズルに導入される水の圧力が0.3~3.0MPaである請求項1~4のいずれか1項に記載のサクションメーンの洗浄方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コークス炉からコークス炉ガスを排出するサクションメーンの洗浄方法に関する。より具体的には、本発明は、このサクションメーン中のタール滓の洗浄を、大型の設備を導入することなく、効率的に行うことのできるサクションメーンの洗浄方法に関する。
【背景技術】
【0002】
コークス炉では、炭化室に石炭を挿入し、炭化室に隣接する燃焼室内でのガスの燃焼熱によって、石炭をコークス炉で乾留してコークスを製造する。その際に主として石炭中の揮発成分及び熱分解ガスからなるコークス炉ガス(以下、「COG」と略することがある。)が発生する。
このCOGは、コークス炉の各炭化室上部に設置されている上昇管からコレクチングメーン(ドライメーン、コークス炉ガス集合管)に排出される。COGは、コークス炉から高温状態で排出されるため、コレクチングメーン上部から工業用水(以下、「安水」と称する場合がある。)をスプレーし、COGを約80~90℃に冷却する。冷却されたCOGは、ガス、コールタール及び安水を含むガス含有液となる。このガス含有液には、コールタール及び安水の他にダストや乾留中のスラッジ(以下、「スラッジ等」と称する場合がある。)が含まれる。COGやガス含有液は、サクションメーン(コークス炉ガス吸引管)を経由するが、ガス含有液は精製装置(例えば、スラッジ等、コールタール、安水を沈降分離させるタールデカンター)にてガス液中に含まれているスラッジ等、コールタール、安水を分離し、コールタールは副生物処理設備へ送られ、安水はコークス炉ガスの冷却用として再利用され、一部は排水処理設備へ送られる。
【0003】
前記COGは、含まれる成分を各々分離して回収される。COGから回収された各成分は、燃料や各種原料として活用される。COGの主成分は水素、メタン、一酸化炭素、二酸化炭素等であるが、これらの主要成分の他に、タール分やアンモニア、硫化水素、メタン以外の炭化水素ガス、粗軽油分、シアン化水素、その他多数の成分が含まれている。
【0004】
コークス炉から排出された高温のCOGをコレクチングメーンで冷却する代表的な方法として、安水をコークス炉ガスに噴霧する方法が採用されており、冷却されたCOGはサクションメーンを流れていく。COGを冷却した際に発生するCOG由来のスラッジ等、コールタール、安水は、サクションメーン内の底部を流れていく。そして、ガス成分は、圧力調整弁によって圧力を調整しながら、前記精製装置に送られ、また、スラッジ等、コールタール、安水等は、圧力調整弁の下方に設けられた隙間を通って、前記精製装置に送られる。
【0005】
このサクションメーンは傾斜があるため安水は流れていくが、スラッジ等はサクションメーン内の底部に徐々に堆積し、そして固着する。また、コールタールも安水に比べて粘度が高いため、スラッジ等と同様にサクションメーン内の底部には徐々にタールが堆積する。これらの堆積物はペースト状であり、タール滓と呼ばれる。このタール滓は、サクションメーン内底部にとどまり、安水の流れを阻害し、通ガス抵抗の増加やサクションメーン内にある圧力制御弁の駆動部の抵抗増加を生じ、コークス炉ガスの排出が滞る等の問題がある。
【0006】
前記のスラッジ類の除去技術としては、例えば、原油タンク内のスラッジを処理するものとして、炭化水素油を含む溶解液を供給してスラッジを溶解させる方法が提案されている(特許文献1参照)。
また、コークス炉のコレクチングメーンにおけるスラッジ等の堆積物に対処する方法として、予めコレクチングメーンの底部に傾斜板を設けることでガス液やスラッジを流れやすくする方法が提案されている(特許文献2参照)。
さらに、コークス炉のコレクチングメーンのガス流速を上げて浮遊粉塵の沈降をしにくくし、さらに、100~180℃の温度の蒸気をコレクチングメーンに導入し、スラッジを洗い流す方法が提案されている(特許文献3参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2005-349240号公報
【文献】特開2009-249438号公報
【文献】特開2014-172997号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、コークス炉のサクションメーンのスラッジ対策として、上記特許文献1のように、炭化水素系あるいはそれに準ずる溶解液、薬剤等を投与した場合、確かにスラッジの除去はできるかもしれないが、後工程で回収する軽油やタール等の成分に影響を及ぼす可能性が考えられる。また、既存の設備に適用する場合には、薬剤投与装置を新たに建設する必要が発生するため効率的でなく、また、非常にコストのかかるものと思われる。
【0009】
また、特許文献2のように、コレクチングメーン内に傾斜板を設ける方法は、コレクチングメーンには有効かもしれないが、制御弁を配管内に有するサクションメーンにおいては、傾斜があっても圧力制御弁付近でタール滓が堆積するため、効果は限られたものとなる。
【0010】
さらに、特許文献3のように、流量を調整する方法は、浮遊物質の沈降は抑えられるかもしれないが、圧力制御弁の調整等運転管理に負担がかかり、さらに、蒸気を導入する方法は、既存の設備に適用する場合には、蒸気用のノズルを新たに設置する必要が発生し、蒸気を供給する配管が近くにない場合には、新たに配管を敷設する等が必要となり、効率的でなく、また、非常にコストがかかるものと思われる。
【0011】
そこで、この発明は、コークス炉からコークス炉ガスを排出するサクションメーン中のタール滓の洗浄を、大型の設備を導入することなく、効率良く行うことのできるサクションメーンの洗浄方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
すなわち、本発明は以下を要旨とする。
[1]コークス炉からコークス炉ガスを排出するサクションメーンの洗浄方法であって、このサクションメーンの内部に、下記(1)及び(2)の条件を満たす治具を導入し、この治具の先端の噴射ノズルから水を噴射することにより、前記サクションメーン中のタール滓を除去するサクションメーンの洗浄方法。
(1)前記水として、50~90℃の温度の水を前記サクションメーン内に噴射することができること。
(2)前記水の噴射を、前記サクションメーン内部において、サクションメーンの底部からその内径の1/12以上2/3以下の高さの範囲内で行うことができること。
【0013】
[2]前記噴射ノズルの径が、前記サクションメーンの内径の1/30~1/200である[1]に記載のサクションメーンの洗浄方法。
[3]前記噴射ノズルを有する前記噴射部の先端部は、前記噴射部本体に対して30°以上60°以下の角度で屈曲する構造である[1]又は[2]に記載のサクションメーンの洗浄方法。
【0014】
[4]前記サクションメーンには、コークス炉ガス、コークス炉ガス由来のダスト、スラッジ、コールタール、及び水を含むガス含有液が流れ、サクションメーン底部に、前記ダスト、スラッジ及びコールタールを含むタール滓が堆積し、この堆積物を前記治具からの水噴射により、前記サクションメーンを洗浄する[1]~[3]のいずれか1項に記載のサクションメーンの洗浄方法。
[5]前記噴射ノズルに導入される水の圧力が0.3~3.0MPaである[1]~[4]のいずれか1項に記載のサクションメーンの洗浄方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、コークス炉からコークス炉ガスを排出するサクションメーン中のタール滓の洗浄を、大型の設備を導入することなく、簡便な方法で効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】この発明にかかるコークス炉から排出されるコークス炉ガス(COG)の流れを示す模式図
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本発明は、以下の説明に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々変形して実施することができる。
【0018】
本発明は、コークス炉からコークス炉ガス(COG)を排出するサクションメーンの洗浄方法に係る発明である。
まず、コークス炉から排出されるCOGの流れについて、図1を用いて説明する。
【0019】
〔コークス炉から排出されるCOGの流れ〕
前記コークス炉11は、炉団100窯程度の多数の炭化室(図示せず)を備えた炉であり、炭化室で石炭を乾留すると、石炭の乾留中にCOGが発生する。各炭化室上部には、COGを回収する上昇管12があり、上昇管12に集められたCOGは、上昇管12から連結管13を経由してコレクチングメーン14に排出される。この連結管13及びコレクチングメーン14の上部には、連結配管15を介して工業用水(安水)のライン16と連結された安水ノズル17が設置され、安水を安水ノズル17から連結管13やコレクチングメーン14内のCOGに噴射する。これにより、COGは80~90℃に冷却される。
そして、この安水噴射により、COGは、COGのガス成分、コールタール及び安水のガス含有液となる。このガス含有液の流動物には、コールタール及び安水の他に、ダストや乾留中のスラッジ(以下、あわせて「スラッジ等」と称する場合がある。)が含まれる。
そして、このガス含有液は、サクションメーン18の内部を流れ、精製装置(例えば、ガス精製装置やガス液分離装置)へと吸引される。
【0020】
このサクションメーン18は、コレクチングメーン14にて冷却されたガス含有液が流れるコークス炉ガス吸引管であり、円筒状の配管からなり、配管の一端部でコレクチングメーン14が連結され、このコレクチングメーン14を連結した一端部から、他端部にかけて下方に傾斜を有しており、ガス含有液が傾斜に沿って流れるような構造となっている。
【0021】
前記ガス含有液は、このサクションメーン18を経由した後、精製装置にてスラッジ等、コールタール、安水を分離し、コールタールは副生物処理設備へ送られ、安水はコークス炉ガスの冷却用として再利用され、一部は排水処理設備へ送られる。
また、サクションメーン18の内部には、その途中に、コークス炉11から発生したCOGやCOGを冷却して得られたガス含有液のガス成分の圧力を制御するための圧力制御弁19が設けられており、コークス炉11を微加圧制御する。さらに、圧力制御弁19の下方には、隙間が設けられ、ガス含有液のガス成分以外の流動体を流す。
【0022】
[コークス炉ガス(COG)]
前記COGは、石炭からコークスを製造する際にコークス炉内から発生するガスである。具体的には、石炭を600℃以上の温度で加熱乾留してコークスを製造する際に発生するガスで、一般的な組成として、水素10~70体積%、メタン20~70体積%、メタン以外の炭化水素(エチレン等のオレフィン類等)1~15体積%、一酸化炭素4~9体積%、二酸化炭素1~6体積%、窒素1~13体積%、酸素0~0.5体積%、硫化水素等の硫黄化合物0.3~1.5体積%、アンモニア等の窒素化合物0.3~1.8体積%、ベンゾール類0.1~1.8体積%、及びその他の石炭由来のスラッジ等の微量成分を含む。
【0023】
[サクションメーンにおけるタール滓の堆積]
前記ガス含有液は、COGのガス成分、コールタール及び安水を含有するが、それ以外に、ダスト及び乾留中のスラッジ、すなわち、スラッジ等が含まれる。このうち、コールタール、安水及びスラッジ等を主とする流動体は、前記サクションメーン18の内部の底部を流れる。
サクションメーン18は、前記の通り傾斜を有するので、安水は流れていくが、スラッジ等はサクションメーン内の底部に徐々に堆積し、そして固着する。また、コールタールも安水に比べて粘度が高いため、スラッジ等と同様にサクションメーン内の底部には徐々にタールが堆積する。このような、スラッジ等及びコールタールを含むタール滓20は、ペースト状物質であり、サクションメーン18の内部の底部にとどまり堆積するため、安水の流れを阻害し、通ガス抵抗の増加やサクションメーン内にある圧力制御弁の駆動部の抵抗増加を生じ、COGの排出が滞る等の問題を生じさせる。
【0024】
[治具]
このタール滓20を除去するため、サクションメーン18の上部の周面部に設けられた治具挿入部21に挿入する噴射部23を有する治具22が用いられる。この治具22のうち、サクションメーン18に挿入される噴射部23は筒状であり、その後端部で水の供給ラインからの水を供給する連結配管(図示せず)と連結される。また、この噴射部23の先端部には噴射ノズル23aが連結される。このため、水のラインからの水を噴射部23の先端の噴射ノズル23aから噴射することができ、これにより、タール滓20を除去し、サクションメーン18を洗浄することができる。
この治具の挿入本数は任意であるが、サクションメーン18内でタール滓20が堆積しやすい圧力制御弁19近傍に少なくとも1本挿入することが好ましい。また、水としては、安水を用いることができ、前記した、コークス炉ガス冷却用に利用している安水を使用すると、経済的であり好ましい。
【0025】
この治具22は、前記タール滓20を除去するため、少なくとも次の特徴を有することが必要である。
まず、50~90℃の温度の水を前記サクションメーン内に噴射することができることが必要である。これは、タール滓20を温めることにより、流動性が生じるので、除去しやすくなるからである。
前記水の温度を、所定範囲内とする方法としては、次の方法があげられる。使用する安水等の水の温度がその所定範囲内にあるときは、特別な方法は不要となり、その水を噴射部23に導入すればよい。一方、使用する安水等の水の温度がその所定範囲から外れるときは、水の供給ラインと噴射部23を連結する連結配管に加熱装置又は冷却装置を配し、所定範囲内の温度に調整する。
【0026】
さらに、前記噴射ノズル23aからの水の噴射を、サクションメーン18内部の所定範囲内に少なくとも行うこと、すなわち、噴射ノズル23aの位置を、サクションメーン18内部の所定範囲内に少なくとも配することが必要である。
その範囲は、サクションメーン18の底部から、サクションメーン18の内径(図1のd)の1/12の高さの位置(図1のAの位置)とすると、タール滓20に水をさらに強く噴射することができ、これの除去が容易となり、この観点からは1/8以上の高さがより好ましく、1/5以上の高さが更に好ましい。サクションメーンの底部からサクションメーン18の内径(d)の高さの2/3の位置(図1のBの位置)との間である。この範囲内の位置とすることにより、サクションメーン18の底部に堆積しているタール滓20に水を噴射する領域を広くすることができるために効率良くタール滓20を除去することができる。この観点からは、サクションメーンの底部から、1/2以下の高さが好ましい。
この位置の調整は、噴射ノズル23aがその範囲内に配されるように、噴射部23に目印を付けたり、噴射部23に連結部材(図示せず)を設け、この連結部材を治具挿入部21と接続して固定する場合、この連結部材を設ける位置を調整することにより、前記噴射ノズル23aの位置を調整することができる。
【0027】
また、この治具22は、前記の特徴以外に次のような特徴を有すると、タール滓20の除去がより容易となり好ましい。
まず、前記噴射ノズル23aの径を、サクションメーン18の内径の1/30~1/200とすることが好ましく、1/25~1/180とすることがより好ましく、1/20~1/160とすることが更に好ましい。この範囲内とすることにより、噴射ノズル23aから噴射される水の広がる範囲が適度な広さになり、タール滓20の除去を効率的に行うことができる。
【0028】
また、噴射ノズル23aを有する前記噴射部23の先端部が、噴射部23の本体に対して、所定の角度(図1のθ)を有するように屈曲させる構造を有することが好ましい。このθは、30°以上60°以下がよく、32°以上58°以下が好ましく、34°以上56°以下がより好ましい。この角度で屈曲させると、水の噴射の範囲と噴射ノズル23aからの水の噴射圧力との観点から、タール滓20の除去をより効率に行うことができる。さらに、噴射部23の本体である筒部を長さ方向に回転させることが可能な場合は、前記治具22の噴射部23の先端部が大きく回転し、より大きな範囲のタール滓20の除去が可能となる。
【0029】
さらに、サクションメーン18の径の大きさは通常、0.5m以上4m以下である。また、サクションメーン18の径の大きさは好ましくは0.7m以上3m以下である。
【0030】
また、噴射ノズル23aに導入される水の圧力を、0.3~3.0MPaの範囲内とすることが好ましい。これにより、タール滓20の除去を効率的に行うことができる。この水の圧力を所定範囲内とする方法としては、次の方法があげられる。使用する水の圧力がその所定範囲内にあるときは、特別な方法は不要となり、その水をそのまま噴射部23に導入すればよい。一方、使用する水の圧力がその所定範囲から外れるときは、水の供給ラインと噴射部23を連結する連結配管の部分に、圧力調整装置を配し、所定範囲内の圧力に調整すればよい。
【0031】
前記した治具の各特徴に加え、タール滓20の除去をさらに効率的に行う手段がある。
例えば、サクションメーン18の横断断面積を0.2~12mの範囲内とする方法があげられ、また、好ましくは0.38~7.1mの範囲内とする方法があげられる。この範囲とすると、タール滓20の除去をさらに効率的に行うことが可能となる。
【0032】
さらに、治具22の噴射部23が治具挿入部21と接する部分にシール装置(図示せず)を設けることにより、治具挿入部21でCOGがサクションメーン18から外部に漏れるのを防止することができ、作業者の安全を図ることができる。
【実施例
【0033】
[実施例1]
本発明の効果を確認するため、既存コークス炉の実際のサクションメーンについて、本願発明を試し、タール滓の堆積変化を測定した。
まず、既存コークス炉のサクションメーン内部は、次の通りとなっていた。すなわち、既存コークス炉で生じるコークス炉ガスを安水で冷却し、これにより、コークス炉ガスのガス成分、コークス炉ガス由来のダスト、スラッジ、コールタール、及び水を含むガス含有液が生じ、これが、サクションメーン内部を流れ、コレクチングメーンの出口から圧力制御弁近傍までの位置に、ダスト、スラッジ、コールタールを含むタール滓が堆積し、山状体を形成していた。
また、サクションメーン内部に噴射する安水の温度を70℃に調整した。
さらに、このサクションメーン内にある圧力制御弁近傍にタール滓の堆積が多かったことから、圧力制御弁近傍に安水の噴射ノズルを先端部に配した噴射部を有する治具を設置した。
噴射位置は、該圧力制御弁から約2m、コレクチングメーン側に離した位置とした。また、噴射ノズルの位置を、タール滓があるサクションメーン底部からサクションメーンの内径の1/4の高さの位置とし、噴射ノズルを有する噴射部先端部の噴射部本体に対する角度θを45°とした。
使用する安水は、3.0MPaGの安水とし、噴射ノズルとしては、噴射角が圧力3.0MPaGで35°となるサイズが内径の1/107の均等扇形ノズルを用いた。
これらの条件下で、3.0MPaGの安水を1分間噴射した結果(124L/分)、サクションメーンの底部に堆積していたタール滓は、ノズル高さをサクションメーンの底部から内径の1/4の高さとすることにより、ノズルから水が噴射された位置からサクションメーンの出口までタール滓がすべて除去されたことが赤外線サーモグラフィ装置(NEC三栄社製)におる温度測定により確認された。
【0034】
[実施例2]
ノズル高さをサクションメーンの底部から内径の1/3.2の高さとした以外は実施例1と同様に実施した。この場合においてもノズルから水が噴射された位置からサクションメーンの出口までタール滓がすべて除去されたことが確認された。
【0035】
[実施例3]
ノズル高さをサクションメーンの底部から内径の1/2.7の高さとした以外は実施例1と同様に実施した。この場合においてもノズルから水が噴射された位置からサクションメーンの出口までタール滓がすべて除去されたことが確認された。
【0036】
[実施例4]
使用する安水を0.3MPaGの安水とし、噴射角が圧力3.0MPaGで35°となるサイズが内径の1/107の均等扇形ノズルを用いた以外は実施例1と同様に実施した。
0.3MPaGの安水を1時間噴射した結果、サクションメーンの底部に堆積していたタール滓は、ノズル高さをサクションメーンの底部から内径の1/4の高さとすることにより、タール滓が除去されたことが確認された。
【符号の説明】
【0037】
11 コークス炉
12 上昇管
13 連結管
14 コレクチングメーン
15 連結配管
16 安水ライン
17 安水ノズル
18 サクションメーン
19 圧力制御弁
20 タール滓
21 治具挿入部
22 治具
23 噴射部
23a 噴射ノズル
図1