(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】生体音測定装置、生体音測定支援方法、生体音測定支援プログラム
(51)【国際特許分類】
A61B 7/04 20060101AFI20220117BHJP
【FI】
A61B7/04 E
A61B7/04 R
A61B7/04 U
(21)【出願番号】P 2018078018
(22)【出願日】2018-04-13
【審査請求日】2021-02-26
(73)【特許権者】
【識別番号】503246015
【氏名又は名称】オムロンヘルスケア株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002505
【氏名又は名称】特許業務法人航栄特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】橋野 賢治
(72)【発明者】
【氏名】朝井 慶
(72)【発明者】
【氏名】大上 直人
(72)【発明者】
【氏名】松本 直樹
【審査官】▲高▼原 悠佑
(56)【参考文献】
【文献】特表2011-505997(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2007/0013509(US,A1)
【文献】特開2015-20030(JP,A)
【文献】国際公開第2011/114669(WO,A1)
【文献】特開2000-60847(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 7/00-7/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体の体表面に接触した接触状態で前記生体の生体音を測定する生体音測定装置であって、
前記接触状態において前記体表面によって密閉される空間に配置された、前記生体音を測定するための第一の音測定器と、
前記空間の外側に設けられた、前記生体音測定装置の周囲の音を測定するための第二の音測定器と、
前記第一の音測定器により測定された第一の音と、前記第二の音測定器により測定された第二の音の予め決められた特定周波数における強度の差に基づいて、前記第一の音測定器による前記生体音の測定精度を判定し、前記測定精度が所定値未満の場合に報知を行う制御部と、を備える生体音測定装置。
【請求項2】
請求項1記載の生体音測定装置であって、
前記特定周波数は、10Hz以上200Hz以下の周波数域から選ばれたものである生体音測定装置。
【請求項3】
請求項1記載の生体音測定装置であって、
前記特定周波数は、1kHzより大きく7kHz以下の周波数域から選ばれたものである生体音測定装置。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項記載の生体音測定装置であって、
前記制御部は、前記第一の音の前記特定周波数における強度と、前記第二の音の前記特定周波数における強度との差の絶対値が予め決められた閾値未満の場合に、前記測定精度が前記所定値未満であると判定し、前記絶対値が前記閾値以上の場合に、前記測定精度が前記所定値以上であると判定する生体音測定装置。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載の生体音測定装置であって、
前記制御部は、前記生体音測定装置の前記体表面に対する押し当て方の変更を促すメッセージを出力することで前記報知を行う生体音測定装置。
【請求項6】
生体の体表面に接触した接触状態で前記生体の生体音を測定する生体音測定装置による生体音の測定を支援する生体音測定支援方法であって、
前記生体音測定装置は、前記接触状態において前記体表面によって密閉される空間に配置された、前記生体音を測定するための第一の音測定器と、前記空間の外側に設けられた、前記生体音測定装置の周囲の音を測定するための第二の音測定器と、を有し、
前記第一の音測定器により測定された第一の音と、前記第二の音測定器により測定された第二の音の予め決められた特定周波数における強度の差に基づいて、前記第一の音測定器による前記生体音の測定精度を判定し、前記測定精度が所定値未満の場合に報知を行う制御ステップを備える生体音測定支援方法。
【請求項7】
生体の体表面に接触した接触状態で前記生体の生体音を測定する生体音測定装置による生体音の測定を支援する生体音測定支援プログラムであって、
前記生体音測定装置は、前記接触状態において前記体表面によって密閉される空間に配置された、前記生体音を測定するための第一の音測定器と、前記空間の外側に設けられた、前記生体音測定装置の周囲の音を測定するための第二の音測定器と、を有し、
前記第一の音測定器により測定された第一の音と、前記第二の音測定器により測定された第二の音の予め決められた特定周波数における強度の差に基づいて、前記第一の音測定器による前記生体音の測定精度を判定し、前記測定精度が所定値未満の場合に報知を行う制御ステップをコンピュータに実行させるための生体音測定支援プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生体の体表面に接触させて用いられる生体音測定装置と、この生体音測定装置による生体音の測定を支援する生体音測定支援方法及びプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
気道及び肺胞を換気するための気流の音としての呼吸音、喘鳴又は胸膜摩擦音等の病的状態で発生する呼吸時の異常音である副雑音、又は心音等の生体音をマイクロフォンを利用して電気信号として取り出す装置が知られている。
【0003】
特許文献1には、体表面との密着状態を、装置の体表面との接触部位に設けられた光源及び光測定器によって判定することが記載されている。
【0004】
特許文献2には、体表面への押し当て状態を、装置の体表面との接触部位に設けられた接触センサによって判定することが記載されている。
【0005】
特許文献3には、1つのマイクロフォンによって異なる位置にて測定した複数の音の比較、又は、異なる位置に貼られた複数のマイクロフォンにより測定した複数の音の比較によって、装置の最適な装着位置を判定することが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-74190号公報
【文献】特開2015-20030号公報
【文献】特開2012-24391号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
生体の診断に必要な生体音を測定する生体音測定装置においては、生体音の測定精度の向上が求められる。特許文献1及び特許文献2では、装置と生体との接触状態が測定精度を確保できる状態になっているか否かを、光源及び光測定器、或いは、接触センサ等の物理的な手段を用いて判定している。しかし、これら手段を装置に設けると装置の大型化が避けられない。また、装置の製造コストが増大する。
【0008】
特許文献3では、装置の最適な装着位置の判定を、2つの測定音の比較により行っている。しかし、装置の装着位置が最適であっても、その装着状態によっては外部からの音の混入が多くなり、生体音の測定を精度よく行えない場合がある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、装置の大型化と製造コストの増大を招くことなく、生体音の正確な測定を支援することのできる生体音測定装置、生体音測定支援方法、及び生体音測定支援プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
(1)
生体の体表面に接触した接触状態で前記生体の生体音を測定する生体音測定装置であって、
前記接触状態において前記体表面によって密閉される空間に配置された、前記生体音を測定するための第一の音測定器と、
前記空間の外側に設けられた、前記生体音測定装置の周囲の音を測定するための第二の音測定器と、
前記第一の音測定器により測定された第一の音と、前記第二の音測定器により測定された第二の音の予め決められた特定周波数における強度の差に基づいて、前記第一の音測定器による前記生体音の測定精度を判定し、前記測定精度が所定値未満の場合に報知を行う制御部と、を備える生体音測定装置。
【0011】
(1)によれば、第一の音と第二の音の特定周波数における強度の差に基づいて、生体音の測定精度が判定され、測定精度が所定値未満の場合には報知がなされる。この報知を受けた使用者は、例えば、装置の体表面への接触状態を変更する等の対応を行って、測定精度が所定値以上の状態を得ることが可能になるため、生体音の正確な測定を支援することができる。また、測定精度の判定のために、体表面と接触する部分に光測定器や接触センサ等を設ける必要がなく、装置の大型化とコスト増大を防ぐことができる。
【0012】
(2)
(1)記載の生体音測定装置であって、
前記特定周波数は、10Hz以上200Hz以下の周波数域から選ばれたものである生体音測定装置。
【0013】
(2)によれば、第一の音と第二の音の特定周波数の強度を比較することで、第一の音測定器が10Hz以上200Hz以下の周波数域の音を主体的に測定しているか否かを判定することができる。このため、10Hz以上200Hz以下の周波数域を含む生体音の測定精度を正確に判定することができる。
【0014】
(3)
(1)又は(2)記載の生体音測定装置であって、
前記特定周波数は、1kHzより大きく7kHz以下の周波数域から選ばれたものである生体音測定装置。
【0015】
(3)によれば、例えば生体音として測定し得る周波数よりも高い周波数を特定周波数とすることで、例えば第一の音の強度が低くなり、第一の音と第二の音とで強度の差が大きくなる場合に、第一の音測定器が生体音を主体的に測定していると判定することができる。このため、第一の音と第二の音の比較によって生体音の測定精度を判定することができる。
【0016】
(4)
(1)から(3)のいずれか1つに記載の生体音測定装置であって、
前記制御部は、前記第一の音の前記特定周波数における強度と、前記第二の音の前記特定周波数における強度との差の絶対値が予め決められた閾値未満の場合に、前記測定精度が前記所定値未満であると判定し、前記絶対値が前記閾値以上の場合に、前記測定精度が前記所定値以上であると判定する生体音測定装置。
【0017】
(4)によれば、生体音の測定精度を正確に判定することができる。
【0018】
(5)
(1)から(4)のいずれか1つに記載の生体音測定装置であって、
前記制御部は、前記生体音測定装置の前記体表面に対する押し当て方の変更を促すメッセージを出力することで前記報知を行う生体音測定装置。
【0019】
(5)によれば、押し当て方の変更を促すことで、測定精度を向上させた状態を得ることが可能となり、生体音の正確な測定を支援することができる。
【0020】
(6)
生体の体表面に接触した接触状態で前記生体の生体音を測定する生体音測定装置による生体音の測定を支援する生体音測定支援方法であって、
前記生体音測定装置は、前記接触状態において前記体表面によって密閉される空間に配置された、前記生体音を測定するための第一の音測定器と、前記空間の外側に設けられた、前記生体音測定装置の周囲の音を測定するための第二の音測定器と、を有し、
前記第一の音測定器により測定された第一の音と、前記第二の音測定器により測定された第二の音の予め決められた特定周波数における強度の差に基づいて、前記第一の音測定器による前記生体音の測定精度を判定し、前記測定精度が所定値未満の場合に報知を行う制御ステップを備える生体音測定支援方法。
【0021】
(6)によれば、第一の音と第二の音の特定周波数における強度の差に基づいて、生体音の測定精度が判定され、測定精度が所定値未満の場合には報知がなされる。この報知を受けた使用者は、例えば、装置の体表面への接触状態を変更する等の対応を行って、測定精度が所定値以上の状態を得ることが可能になるため、生体音の正確な測定を支援することができる。また、測定精度の判定のために、体表面と接触する部分に光測定器や接触センサ等を設ける必要がなく、生体音測定装置の大型化とコスト増大を防ぐことができる。
【0022】
(7)
生体の体表面に接触した接触状態で前記生体の生体音を測定する生体音測定装置による生体音の測定を支援する生体音測定支援プログラムであって、
前記生体音測定装置は、前記接触状態において前記体表面によって密閉される空間に配置された、前記生体音を測定するための第一の音測定器と、前記空間の外側に設けられた、前記生体音測定装置の周囲の音を測定するための第二の音測定器と、を有し、
前記第一の音測定器により測定された第一の音と、前記第二の音測定器により測定された第二の音の予め決められた特定周波数における強度の差に基づいて、前記第一の音測定器による前記生体音の測定精度を判定し、前記測定精度が所定値未満の場合に報知を行う制御ステップをコンピュータに実行させるための生体音測定支援プログラム。
【0023】
(7)によれば、第一の音と第二の音の特定周波数における強度の差に基づいて、生体音の測定精度が判定され、測定精度が所定値未満の場合には報知がなされる。この報知を受けた使用者は、例えば、装置の体表面への接触状態を変更する等の対応を行って、測定精度が所定値以上の状態を得ることが可能になるため、生体音の正確な測定を支援することができる。また、測定精度の判定のために、体表面と接触する部分に光測定器や接触センサ等を設ける必要がなく、生体音測定装置の大型化とコスト増大を防ぐことができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、装置の大型化と製造コストの増大を招くことなく、生体音の正確な測定を支援することのできる生体音測定装置、生体音測定支援方法、及び生体音測定支援プログラムを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の生体音測定装置の一実施形態である生体音測定装置1の概略構成例を示す側面図である。
【
図2】
図1に示す生体音測定装置1におけるA-A線に沿った断面模式図である。
【
図3】
図1に示す生体音測定装置1の接触状態において第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2により測定された音のフーリエ変換結果を示す図である。
【
図4】
図1に示す生体音測定装置1の非接触状態において第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2により測定された音のフーリエ変換結果を示す図である。
【
図5】
図1に示す生体音測定装置1の動作例を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
(実施形態の生体音測定装置の概要)
まず、本発明の生体音測定装置の実施形態の概要について説明する。実施形態の生体音測定装置は、人の生体から生体音の一例としての肺音(呼吸音及び副雑音)を測定し、測定音に喘鳴が含まれると判定した場合に、その旨を報知等する。このようにすることで、被測定者への投薬の要否の判断、被測定者を病院に連れて行くかどうかの判断、又は医師による被測定者の診断等を支援するものである。
【0027】
実施形態の生体音測定装置は、肺音を測定するための第一の音測定器と、装置の周囲の音を測定するための第二の音測定器とを備え、第一の音測定器が収容される空間を体表面によって密閉することで、第一の音測定器によって生体の肺音の測定を行う。第二の音測定器は、例えば、第一の音測定器によって測定される音に含まれる肺音以外のノイズを除去するために用いられる。
【0028】
実施形態の生体音測定装置が生体の体表面に理想的な状態にて接触されていない状態(例えば、第一の音測定器の収容空間の密閉状態が不完全な状態)では、第一の音測定器と第二の音測定器とによって、ほぼ同じ音が測定される。このため、第一の音測定器によって測定される音の強度と、第二の音測定器によって測定される音の強度は、どの周波数においてもほぼ同じになる。
【0029】
一方、生体音測定装置が生体の体表面に理想的な状態にて接触されている最適状態(例えば、第一の音測定器の収容空間が体表面によって密閉された状態)では、第一の音測定器によって測定される音の強度と、第二の音測定器によって測定される音の強度は、周波数によっては違いが出てくる。
【0030】
具体的には、最適状態においては、第一の音測定器は主として肺音を測定することになるため、肺音の周波数については、最適状態ではない場合と比べて強度が高くなる。一方、第二の音測定器は、体表面との間で密閉状態になく、肺音の測定を行うことはできない。このため、第二の音測定器によって測定される音のうち、肺音の周波数については、最適状態においても強度は低い。
【0031】
したがって、第一の音測定器によって測定される特定周波数(例えば肺音の周波数域から選ばれる周波数)の音の強度と、第二の音測定器によって測定される該特定周波数の音の強度との差が大きい場合には、肺音の測定精度が十分に得られていると判定することができる。
【0032】
実施形態の生体音測定装置は、このことを利用して、肺音の測定精度を判定し、測定精度が所定値未満となる場合には、例えば装置の体表面への押し当て方の変更を促す報知を行うことで、肺音の正確な測定を支援するものである。以下、実施形態の生体音測定装置の具体的な構成例について説明する。
【0033】
(実施形態)
図1は、本発明の生体音測定装置の一実施形態である生体音測定装置1の概略構成例を示す側面図である。
【0034】
図1に示すように、生体音測定装置1は、樹脂又は金属等の筐体で構成された本体部1bを有し、この本体部1bの一端側にはヘッド部1aが設けられている。
【0035】
本体部1bの内部には、全体を統括制御する制御部4と、動作に必要な電圧を供給する電池5と、液晶表示パネル又は有機EL(Electro Luminescence)表示パネル等によって画像を表示する表示部6と、が設けられている。
【0036】
制御部4は、CPU(Central Processing Unit)、RAM(Random Access Memory)、及びROM(Read Only Memory)等を含み、プログラムにしたがって生体音測定装置1の各ハードウェアの制御を行う。制御部4のROMには、生体音測定支援プログラムを含むプログラムが記憶されている。
【0037】
ヘッド部1aには、生体音測定装置1の長手方向と略直交する方向の一方側(
図1において下方側)へ突出する測定ユニット3が設けられている。測定ユニット3の先端には、被測定者である生体の体表面Sに接触されて体表面Sからの圧力を受ける受圧部3aが設けられている。
【0038】
生体音測定装置1は、使用者の手Haの例えば人差し指がヘッド部1aにおける測定ユニット3の背面に置かれた状態で、測定ユニット3の受圧部3aがこの人差し指によって体表面Sに押圧されて使用される。
【0039】
図2は、
図1に示す生体音測定装置1におけるA-A線に沿った断面模式図である。
【0040】
測定ユニット3は、音を測定する第一の音測定器M1と、第一の音測定器M1を収容する収容空間SP1を形成しかつ開口31hを有する第一ハウジング31と、開口31hを収容空間SP1の外側から閉じると共に第一ハウジング31を覆うハウジングカバー32と、音を測定する第二の音測定器M2と、第二の音測定器M2を収容する収容空間SP2を形成しかつ開口34hを有する第二ハウジング34と、を備える。
【0041】
測定ユニット3は、ハウジングカバー32の一部が露出された状態にて、ヘッド部1aを構成する筐体2に形成された開口部に嵌合されて、筐体2に固定されている。
【0042】
ハウジングカバー32の筐体2からの露出部分の先端部は平面となっており、この平面が
図1の受圧部3aを構成している。筐体2は、音を透過可能な樹脂等によって構成されている。
【0043】
第一の音測定器M1は、生体音測定装置1が測定対象とする肺音を測定するためのものであり、例えば、肺音の周波数域(一般的には10Hz以上1kHz以下)よりも広い帯域(例えば10Hz以上10kHz以下の周波数域)の音を測定するMEMS(Micro Electro Mechanical Systems)型マイクロフォン又は静電容量型マイクロフォン等で構成されている。
【0044】
第一の音測定器M1は、図示省略のリード線等によって
図1に示す制御部4と電気的に接続されており、測定した音の情報を制御部4に伝達する。
【0045】
生体音測定装置1の使用時においては、ハウジングカバー32の受圧部3aが体表面Sに接触し、体表面Sからの圧力によって収容空間SP1が体表面Sにより密閉された状態(以下、この状態を接触状態という)になる。
【0046】
そして、生体から体表面Sに伝わる肺音によって受圧部3aが振動すると、この振動によって収容空間SP1の内圧が変動し、この内圧変動によって、肺音に応じた電気信号が第一の音測定器M1によって測定されることになる。
【0047】
第一ハウジング31は、
図2中の下方向に向かって略凸型の形状であり、樹脂又は金属等の空気より音響インピーダンスが高くかつ剛性の高い材料によって構成されている。第一ハウジング31は、接触状態において、収容空間SP1の内部に、外部から音が伝わらないように、第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2の測定周波数帯の音を反射する材料にて構成されている。
【0048】
ハウジングカバー32は、有底筒状の部材であり、その中空部の形状は、第一ハウジング31の外壁形状とほぼ一致している。
【0049】
ハウジングカバー32は、音響インピーダンスが人体、空気、又は、水に近い素材でかつ生体適合性の良い可撓性を有する材料によって構成される。ハウジングカバー32の材料としては、例えばシリコン又はエラストマ等が用いられる。
【0050】
第二の音測定器M2は、生体音測定装置1の周囲で発生する音(人の声等の環境音、或いは、本体部1bと生体又は衣服との間の擦れ音等)を測定するためのものであり、例えば、肺音の周波数域よりも広い帯域(例えば10Hz以上10kHz以下の周波数域)の音を測定するMEMS型マイクロフォン又は静電容量型マイクロフォン等で構成されている。
【0051】
第二の音測定器M2は、図示省略のリード線等によって
図1に示す制御部4と電気的に接続されており、測定した音の情報を制御部4に伝達する。
【0052】
第二の音測定器M2は、第一ハウジング31の受圧部3a側と反対側の面に固定されている。第二の音測定器M2の周囲は、第二ハウジング34によって覆われている。第二ハウジング34は、生体音測定装置1の周囲で発生する音が第二の音測定器M2を収容する収容空間SP2に侵入できるような素材(例えば樹脂)によって構成されている。
【0053】
なお、第二ハウジング34には開口34hが形成されている。このため、この開口34hからも生体音測定装置1の周囲で発生する音が侵入しやすい構造となっている。
【0054】
第二の音測定器M2は、
図2の例では測定ユニット3に設けられているが、生体音測定装置1の周囲で発生する音を測定することができればよく、設置個所は特に限定されるものではない。例えば、ヘッド部1a以外の本体部1bのうち、使用時において使用者が触れる可能性が低い場所に第二の音測定器M2が設けられていてもよい。
【0055】
図1に示す制御部4は、第一の音測定器M1により測定された第一の音と、第二の音測定器M2により測定された第二の音の予め決められた特定周波数における強度の差に基づいて、第一の音測定器Mによる肺音の測定精度を判定する。
【0056】
特定周波数としては、接触状態において第一の音測定器M1によって検出される音の強度が、非接触状態のときよりも顕著に高くなる又は低くなる周波数等が用いられる。
【0057】
図3は、
図1に示す生体音測定装置1の接触状態において第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2により測定された音のフーリエ変換結果を示す図である。
【0058】
図4は、
図1に示す生体音測定装置1の非接触状態において第一の音測定器M1及び第二の音測定器M2により測定された音のフーリエ変換結果を示す図である。
【0059】
図3と
図4には、第一の音測定器M1により測定された第一の音をフーリエ変換して得たグラフm1と、第二の音測定器M2により測定された第二の音をフーリエ変換して得たグラフm2とが示されている。
図3及び
図4の横軸は周波数を対数にて示している。
【0060】
図4に示すように、非接触状態においては、第一の音測定器M1と第二の音測定器M2によってほぼ同じ音が測定される。このため、グラフm1とグラフm2とには差があまり生じていない。
【0061】
一方、接触状態においては、第一の音測定器M1の収容空間SP1に肺音が伝わり、収容空間SP2には肺音が伝わらない。このため、
図3に示すように、20Hz以上200Hz以下の周波数域において、第一の音測定器M1によって測定された音の強度と、第二の音測定器M2によって測定された音の強度との差は大きくなる。
【0062】
このように、第一の音測定器M1によって検出される20Hz以上200Hz以下の周波数域の音は、接触状態においては強度が顕著に高くなる。なお、
図3及び
図4の例では、20Hz未満の周波数域において、第一の音測定器M1によって測定された音の強度と、第二の音測定器M2によって測定された音の強度との差が小さくなっている。しかし、これは一例であり、接触状態においては、肺音の周波数域のうちの収容空間SP1の外部にて生じにくい低周波数域(例えば10Hz以上200Hz以下)の音の強度が顕著に高くなる。このため、例えば、10Hz以上200Hz以下の周波数域から選ばれる任意の周波数(例えば50Hz、100Hz等)を上記の特定周波数として設定することができる。なお、
図3及び
図4の結果に基づくと、20Hz以上200Hz以下の周波数域から選ばれる任意の周波数を上記の特定周波数として設定することが好ましく、2つのグラフの差がより顕著になる30Hz以上150Hz以下の周波数域から選ばれる任意の周波数を上記の特定周波数として設定することが更に好ましい。
【0063】
また、接触状態においては、第一の音測定器M1の収容空間SP1に対し、外部からの音の侵入が極端に減る。このため、
図3に示すように、肺音の周波数域よりも高い1kHzより大きく7kHz以下の周波数域において、第一の音測定器M1によって測定された音の強度と、第二の音測定器M2によって測定された音の強度との差が大きくなる。
【0064】
このように、第一の音測定器M1によって検出される1kHzより大きく7kHz以下の周波数域の音は、接触状態においては強度が顕著に低くなる。このため、例えば、1kHzより大きく7kHz以下の周波数域から選ばれる任意の周波数(例えば1.5kHz、2kHz等)を上記の特定周波数として設定することもできる。
【0065】
なお、これらの特定周波数とそれを選び出す周波数域は、測定対象とする生体音の種類によって適宜決められるものであり、上述した値には限定されない。
【0066】
このように特定周波数を設定すると、接触状態においては、第一の音測定器M1により測定された第一の音と、第二の音測定器M2により測定された第二の音の該特定周波数における強度の差が、接触状態ではない場合(第一の音測定器M1と第二の音測定器M2によってほぼ同じ音を測定している状態)よりも格段に大きくなる。
【0067】
したがって、制御部4は、第一の音の特定周波数における強度と、第二の音の特定周波数における強度との差の絶対値が予め決められた閾値未満の場合に、第一の音の測定精度が所定値未満であると判定し、この絶対値が該閾値以上の場合に、第一の音の測定精度が所定値以上であると判定する。
【0068】
また、制御部4は、上記の測定精度が所定値未満であると判定した場合に報知を行う。例えば、制御部4は、受圧部3aの体表面Sへの押し当て方を変更するよう促すメッセージを表示部6に表示させることで報知を行う。制御部4は、このメッセージを、不図示のスピーカから出力させることで報知を行ってもよい。
【0069】
なお、生体音測定装置1と例えばスマートフォンとを接続可能に構成し、スマートフォンのディスプレイ又はスピーカを使ってメッセージの表示や音声出力を行ってもよい。
【0070】
ここではメッセージの出力を行っているがこれに限らない。例えばLED(Light Emitting Diode)を生体音測定装置1に搭載しておき、制御部4は、測定精度が所定値以上であると判定した場合には、LEDを例えば青色に発光させ、測定精度が所定値未満であると判定した場合には、LEDを例えば赤色に発光させることで、押し当て方が良好か否かを利用者に報知してもよい。
【0071】
このようにした場合でも、生体音測定装置1に付属する説明書等にLEDの発光色の意味を記載しておくことで、押し当て方の変更を利用者に促すことができる。
【0072】
(生体音測定装置1の動作例)
【0073】
図5は、
図1に示す生体音測定装置1の動作例を説明するためのフローチャートである。
【0074】
生体音測定装置1の電源が投入されると、制御部4は、第一の音測定器M1と第二の音測定器M2による音の測定を開始させる(ステップS1)。第一の音測定器M1と第二の音測定器M2によって測定された音の情報は、制御部4のRAMに記憶されていく。
【0075】
そして、一定時間が経過すると、制御部4は、RAMに記憶されたこの一定時間分の第一の音と第二の音をそれぞれフーリエ変換する(ステップS2)。
【0076】
次に、制御部4は、フーリエ変換して得られた第一の音の特定周波数の強度と、フーリエ変換して得られた第二の音の特定周波数の強度との差の絶対値を求め、この絶対値が予め決められた閾値TH1以上であるか否かを判定する(ステップS3)。
【0077】
例えば、特定周波数が、20Hz以上200Hz以下の周波数域から選ばれたものであった場合について説明する。この場合には、閾値TH1は、例えば、
図4に示したグラフm1の20Hz以上200Hz以下の範囲の各周波数の強度と、
図4に示したグラフm2の20Hz以上200Hz以下の範囲の各周波数の強度との差のうちの最も大きい値又はこの差の平均値等が設定される。
【0078】
また、特定周波数が、1kHzより大きく7kHz以下の周波数域から選ばれたものであった場合について説明する。この場合には、閾値TH1は、例えば、
図4に示したグラフm1の1kHzより大きく7kHz以下の範囲の各周波数の強度と、
図4に示したグラフm2の1kHzより大きく7kHz以下の範囲の各周波数の強度との差のうちの最も大きい値又はこの差の平均値等が設定される。
【0079】
制御部4は、上記の絶対値が閾値TH1未満であった場合(ステップS3:NO)には、第一の音測定器M1による音の測定精度が低い(所定値未満である)と判定する(ステップS4)。
【0080】
ステップS4の後、制御部4は、例えば受圧部3aの押し当て方の変更を促す報知を行う(ステップS5)。ステップS5の後は、ステップS2に処理が戻り、再び一定時間分の音が測定された時点にてステップS2の処理が行われる。
【0081】
制御部4は、上記の絶対値が閾値TH1以上であった場合(ステップS3:YES)には、第一の音測定器M1による音の測定精度が高い(所定値以上である)と判定する(ステップS6)。
【0082】
ステップS6の後、制御部4は、内蔵する測定タイマのカウント値のアップカウントを開始し、喘鳴の有無の判定処理を開始する(ステップS7)。
【0083】
具体的には、制御部4は、第一の音測定器M1により測定された第一の音に混入する肺音以外のノイズを、第二の音測定器M2により測定された第二の音に基づいて除去する。そして、制御部4は、ノイズ除去後の第一の音が、例えば、喘鳴と判断できる程度の強度以上となった場合に、“喘鳴あり”と判定する。
【0084】
制御部4は、ステップS7にて喘鳴の有無の判定処理を開始した後、測定タイマのカウント値が、喘鳴の有無を判定するために必要とされる予め決められた所定時間に達したか否かを判定する(ステップS8)。
【0085】
カウント値がこの所定時間に達していない場合(ステップS8:NO)には、制御部4は、前回に測定精度の判定を行って以降にRAMに蓄積された音のデータに基づいて、ステップS2、ステップS3、ステップS4、及びステップS6にて説明した測定精度の判定処理を実行する(ステップS9)。
【0086】
ステップS9の判定処理の結果、測定精度が所定値未満であった場合(ステップS10:NO)には、制御部4は、測定タイマのアップカウントを一時停止し(ステップS11)、その後、受圧部3aの押し当て方の変更を促す報知を行う(ステップS12)。ステップS12の後はステップS9に処理が戻る。
【0087】
ステップS9の判定処理の結果、測定精度が所定値以上であった場合(ステップS10:YES)には、制御部4は、測定タイマのカウント値のアップカウントを再開する(ステップS13)。なお、ステップS13の処理は、ステップS8の判定がNOとなった後にステップS11の処理が行われた場合にのみ実行される。ステップS13の後は、ステップS8に処理が戻る。
【0088】
ステップS8において、カウント値が所定時間に達した場合(ステップS8:YES)には、制御部4は、喘鳴の有無の判定処理を終了し、その判定結果を例えば表示部6に表示して(ステップS14)、測定を終了する。
【0089】
(生体音測定装置1の効果)
以上のように、生体音測定装置1によれば、第一の音測定器M1により測定された音と、第二の音測定器M2により測定された音の特定周波数における強度の差に基づいて、第一の音測定器M1による肺音の測定精度を判定することができる。
【0090】
第二の音測定器M2は、受圧部3aの付近に設ける必要がないため、受圧部3a付近の構造が複雑且つ大型になるのを防ぐことができる。また、第二の音測定器M2は、密閉状態で収容する等の制約はないため、装置の小型化を阻害することもない。
【0091】
更に、第二の音測定器M2は、肺音測定時のノイズ除去にも利用することができるため、測定精度の判定のために専用の音測定器を設ける場合と比較して、装置の製造コストの増大を防ぐことができる。
【0092】
なお、第二の音測定器M2は、上記の例ではノイズ除去のためにも用いられているが、測定精度の判定のためだけに設けられていてもよい。
【0093】
また、生体音測定装置1によれば、制御部4によって測定精度が高いと判定された場合に、喘鳴の有無の判定処理が開始されるため、喘鳴の有無を高精度に判定することができる。
【0094】
また、喘鳴の有無の判定処理が開始された後に、測定精度が低下したと判定された場合には、再度、報知が行われる。このため、利用者は、この報知にしたがって装置の押し当て方を変えて、測定精度が高い状態に戻すことができる。
【0095】
また、この測定精度が低下したと判定されている期間は、喘鳴の有無の判定処理が一時的に停止され、測定精度が高い状態に復帰したときに、この判定処理が再開される。このため、喘鳴の有無の判定処理のやり直しは不要となり、喘鳴の有無の判定結果が出力されるまでの時間を短縮することができる。
【0096】
(生体音測定装置1の変形例)
図5のステップS3においては、特定周波数を1つとして、測定精度の判定が行われるが、この特定周波数は複数設定されていてもよい。
【0097】
例えば、10Hz以上200Hz以下の周波数域から選ばれた任意の周波数(例えば100Hz等)と、1kHzより大きく7kHz以下の周波数域から選ばれた任意の周波数(例えば2kHz等)と、をそれぞれ上記の特定周波数として設定することもできる。
【0098】
このように2つの特定周波数を設定した場合、10Hz以上200Hz以下の周波数域から選ばれた特定周波数と比較する閾値TH1は、例えば、
図4に示したグラフm1の20Hz以上200Hz以下の範囲の各周波数の強度と、
図4に示したグラフm2の20Hz以上200Hz以下の範囲の各周波数の強度との差のうちの最も大きい値又はこの差の平均値等が設定される。
【0099】
また、1kHzより大きく7kHz以下の周波数域から選ばれた特定周波数と比較する閾値TH1は、例えば、
図4に示したグラフm1の1kHzより大きく7kHz以下の範囲の各周波数の強度と、
図4に示したグラフm2の1kHzより大きく7kHz以下の範囲の各周波数の強度との差のうちの最も大きい値又はこの差の平均値等が設定される。
【0100】
このように、2つの特定周波数が設定されている場合には、2つの特定周波数の各々と比較される閾値TH1が異なる値に設定されていてもよい。
【0101】
特定周波数が2つ設定される場合には、
図5のステップS3において、制御部4は、この2つの特定周波数の各々における第一の音と第二の音の強度の差が閾値TH1以上となっている場合に、ステップS6にて測定精度が高いと判定する。また、制御部4は、この2つの特定周波数のいずれか一方における第一の音と第二の音の強度の差が閾値TH1未満となっている場合には、ステップS4にて測定精度が低いと判定する。
【0102】
このように特定周波数を複数設定することで、測定精度の判定をより正確に行うことが可能になる。
【0103】
以上、本発明の実施形態とその変形例について説明したが、本発明はこれに限るものではなく、適宜変更できる。例えば、上記実施形態及び変形例では、第一の音測定器M1が生体音としての肺音を測定するためのものとしたが、例えば、生体音としての心音を測定するためのものとしてもよい。
【符号の説明】
【0104】
1 生体音測定装置
1b 本体部
1a ヘッド部
2 筐体
3 測定ユニット
3a 受圧部
4 制御部
5 電池
6 表示部
S 体表面
Ha 手
31 第一ハウジング
31h 開口
SP1 収容空間
32 ハウジングカバー
34 第二ハウジング
34h 開口
SP2 収容空間
M1 第一の音測定器
M2 第二の音測定器
m1、m2 グラフ