(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】真空ポンプおよび診断システム
(51)【国際特許分類】
F04D 19/04 20060101AFI20220117BHJP
F04D 29/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
F04D19/04 G
F04D29/00 B
(21)【出願番号】P 2018113745
(22)【出願日】2018-06-14
【審査請求日】2020-09-29
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100121382
【氏名又は名称】山下 託嗣
(72)【発明者】
【氏名】橋本 寿文
(72)【発明者】
【氏名】森山 伸彦
【審査官】大瀬 円
(56)【参考文献】
【文献】欧州特許出願公開第0851127(EP,A2)
【文献】特表2012-530875(JP,A)
【文献】国際公開第2010/007975(WO,A1)
【文献】登録実用新案第3172822(JP,U)
【文献】中国特許出願公開第102155425(CN,A)
【文献】特開2003-021093(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04D 19/04
F04D 29/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ロータと、
ステータと、
前記ロータが設けられた回転軸を支持する転がり軸受と、
前記転がり軸受の振動を検出する振動センサと、
前記転がり軸受が設けられるベースと、
前記ベースに直接または他の部材を介して固定され、前記振動センサが搭載される回路基板と、を備え
、
前記回路基板の共振周波数は、前記転がり軸受の振動の周波数域よりも高く設定されており、
前記回路基板が金属により形成されている、真空ポンプ。
【請求項2】
ロータと、
ステータと、
前記ロータが設けられた回転軸を支持する転がり軸受と、
前記転がり軸受の振動を検出する振動センサと、
前記転がり軸受が設けられるベースと、
前記ベースに固定され、裏蓋本体と、絶縁層と、配線層とを有する裏蓋
と、を備え、
前記振動センサは、前記裏蓋の前記配線層に搭載され、
前記裏蓋の共振周波数は、前記転がり軸受の振動の周波数域よりも高く設定されている
真空ポンプ。
【請求項3】
請求項1
または2に記載の真空ポンプに設けられた前記振動センサから出力される振動検出情報に基づいて前記転がり軸受の劣化の有無を診断する診断部を備える、診断システム。
【請求項4】
請求項
3に記載の診断システムにおいて、
前記振動センサから出力されるデータをFFT処理することで、ロータ回転周波数におけるピークと、前記転がり軸受を構成する部品に関するベアリング振動周波数におけるピークとを取得するFFT部をさらに備え、
前記診断部は、前記FFT部によって取得されたピークのうち、前記ベアリング振動周波数におけるピークに基づいて前記転がり軸受の劣化の有無を診断する、診断システム。
【請求項5】
請求項
4に記載の診断システムにおいて、
前記ロータ回転周波数と前記ベアリング振動周波数との関係である周波数相関情報を記憶する記憶部をさらに備え、
前記診断部は、現在のロータ回転周波数と前記記憶部に記憶されている周波数相関情報とに基づいて、前記ベアリング振動周波数を特定し、特定された前記ベアリング振動周波数におけるピークに基づいて前記転がり軸受の劣化の有無を診断する、診断システム。
【請求項6】
請求項
4または
5に記載の診断システムにおいて、
閾値を記憶する記憶部をさらに備え、
前記診断部は、前記ベアリング振動周波数におけるピークが前記記憶部に記憶されている前記閾値以上であると判断した際に、前記転がり軸受が劣化していると診断する、診断システム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空ポンプおよび診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ロータを転がり軸受で支持する構成の真空ポンプが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に記載の真空ポンプはターボ分子ポンプであって、一般に、毎分数万回転のように高速回転で運転される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述のように、高速回転で運転されるターボ分子ポンプでは、ロータを支持する転がり軸受を、劣化により寿命となる前に定期的に交換するようにしている。そのため、軸受交換時期の管理が重要である。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の好ましい態様による真空ポンプは、ロータと、ステータと、前記ロータが設けられた回転軸を支持する転がり軸受と、前記転がり軸受の振動を検出する振動センサと、を備える。
さらに好ましい態様では、前記転がり軸受が設けられるベースと、前記ベースに直接または他の部材を介して固定され、前記振動センサが搭載される回路基板とをさらに備え、前記回路基板の共振周波数は、前記転がり軸受の振動の周波数域よりも高く設定されている。
さらに好ましい態様では、前記回路基板が金属により形成されている。
さらに好ましい態様では、前記転がり軸受が設けられるベースと、前記ベースに固定され、裏蓋本体と、絶縁層と、配線層とを有する裏蓋とをさらに備え、前記振動センサは、前記裏蓋の前記配線層に搭載され、前記裏蓋の共振周波数は、前記転がり軸受の振動の周波数域よりも高く設定されている。
本発明の好ましい態様による診断システムは、前記真空ポンプに設けられた前記振動センサから出力される振動検出情報に基づいて前記転がり軸受の劣化の有無を診断する診断部を備える。
さらに好ましい態様では、前記振動センサから出力されるデータをFFT処理することで、ロータ回転周波数におけるピークと、前記転がり軸受を構成する部品に関するベアリング振動周波数におけるピークとを取得するFFT部をさらに備え、前記診断部は、前記FFT部によって取得されたピークのうち、前記ベアリング振動周波数におけるピークに基づいて前記転がり軸受の劣化の有無を診断する。
さらに好ましい態様では、前記ロータ回転周波数と前記ベアリング振動周波数との関係である周波数相関情報を記憶する記憶部をさらに備え、前記診断部は、現在のロータ回転周波数と前記記憶部に記憶されている周波数相関情報とに基づいて、前記ベアリング振動周波数を特定し、特定された前記ベアリング振動周波数におけるピークに基づいて前記転がり軸受の劣化の有無を診断する。
さらに好ましい態様では、閾値を記憶する記憶部をさらに備え、前記診断部は、前記ベアリング振動周波数におけるピークが前記記憶部に記憶されている前記閾値以上であると判断した際に、前記転がり軸受が劣化していると診断する。
【発明の効果】
【0006】
本発明によれば、転がり軸受の劣化を正確に認識するための振動情報を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0007】
【
図1】
図1は、本発明に係る真空ポンプの第1の実施の形態を示す図である。
【
図2】
図2は、回路基板配置に関する他の例を示す図である。
【
図3】
図3は、油潤滑式ボールベアリングを用いた場合の回路基板配置例を示す図である。
【
図4】
図4は、電源一体型のターボ分子ポンプの場合の回路基板配置例を示す図である。
【
図5】
図5は、振動測定結果の一例を示す図である。
【
図6】
図6は、劣化診断システムの一例を示すブロック図である。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、図を参照して本発明を実施するための形態について説明する。
-第1の実施の形態-
図1は本発明に係る真空ポンプの第1の実施の形態を示す図であり、ターボ分子ポンプ1の断面図である。なお、ターボ分子ポンプ1には電力を供給する電源装置が接続されるが、
図1では図示を省略した。
【0009】
図1に示すターボ分子ポンプ1は、排気機能部として、タービン翼を備えたターボポンプ部P1と、螺旋型の溝を備えたHolweckポンプ部P2とを備えている。もちろん、本発明は、排気機能部にターボポンプ部P1およびHolweckポンプ部P2を備えた真空ポンプに限らず、タービン翼のみを備えた真空ポンプや、ジーグバーンポンプやHolweckポンプなどのドラッグポンプのみを備えた真空ポンプや、それらを組み合わせた真空ポンプにも適用することができる。
【0010】
ターボポンプ部P1は、ポンプロータ3に形成された複数段の回転翼30とベース2側に配置された複数段の固定翼20とで構成される。一方、ターボポンプ部P1の排気下流側に設けられたHolweckポンプ部P2は、ポンプロータ3に形成された円筒部31とベース2側に配置されたステータ21とで構成されている。円筒状のステータ21の内周面には螺旋溝が形成されている。複数段の回転翼30と円筒部31とが回転側排気機能部を構成し、複数段の固定翼20とステータ21とが固定側排気機能部を構成する。
【0011】
ポンプロータ3はシャフト10に締結されており、そのシャフト10はモータ4により回転駆動される。モータ4には例えばDCブラシレスモータが用いられ、ベース2にモータステータ4bが設けられ、シャフト10側にはモータロータ4aが設けられている。シャフト10とポンプロータ3とから成る回転体ユニットRは、永久磁石6a,6bを用いた永久磁石磁気軸受6と転がり軸受であるボールベアリング8とにより回転自在に支持されている。
【0012】
永久磁石6a,6bは、軸方向に磁化されたリング状の永久磁石である。ポンプロータ3に設けられた複数の永久磁石6aは、同極同士が対向するように軸方向に複数配置されている。一方、固定側の複数の永久磁石6bは、ポンプケーシング12に固定された磁石ホルダ11に装着されている。これらの永久磁石6bも、同極同士が対向するように軸方向に複数配置されている。ポンプロータ3に設けられた永久磁石6aの軸方向位置は、その内周側に配置された永久磁石6bの位置よりも若干上側となるように設定されている。すなわち、回転側の永久磁石の磁極は、固定側の永久磁石の磁極に対して軸方向に所定量だけずれている。この所定量の大きさによって、永久磁石磁気軸受6の支持力が異なる。
図1に示す例では、永久磁石6aの方が図示上側に配置されているため、永久磁石6aと永久磁石6bとの反発力により、ラジアル方向の支持力と軸方向上向き(ポンプ排気口側方向)の力とが回転体ユニットRに働いている。
【0013】
磁石ホルダ11の中央には、ボールベアリング9を保持するベアリングホルダ13が固定されている。ボールベアリング8にはグリースが封入されている。ボールベアリング9は、シャフト上部のラジアル方向の振れを制限するタッチダウンベアリングとして機能するものである。定常回転状態ではシャフト10とボールベアリング9とが接触することはなく、大外乱が加わった場合や、回転の加速時または減速時にシャフト10の振れ回りが大きくなった場合に、シャフト10がボールベアリング9に接触する。
【0014】
ボールベアリング8の内輪はナット14によってシャフト10に固定され、ボールベアリング8の外輪はナット16によってベース2に固定されている。ボールベアリング8の外周側には、リング状のラジアルダンパー15が設けられている。ラジアルダンパー15の材料にはゴム等のエラストマーが用いられる。
【0015】
ボールベアリング8が収容されるベース2の収容空間は、裏蓋17およびシール材18によって封止される。裏蓋17の内周面には回路基板100がビス止めされている。回路基板100には、ボールベアリング8の振動を検出する振動センサとしての加速度センサ101およびマイコン102等の回路部品が搭載されている。ボールベアリング8の振動は、ベース2および裏蓋17を介して回路基板100上の加速度センサ101に伝達される。
【0016】
回路基板100には、メタルベース基板と呼ばれる金属製のプリント基板が用いられる。メタルベース基板とは、アルミや銅のベースメタルの上に絶縁層を形成し、さらにその上に銅箔で外層回路を形成したものである。メタルベース基板は、通常のガラスエポキシ樹脂基板に比べて剛性が高い。回路基板100の大きさは、回路部品(加速度センサ101、マイコン102等)を搭載した回路基板100の共振周波数がより小さくなるように、可能な限り小さく設定される。例えば、一辺が約30mm程度の正方形とされる。
【0017】
図1では、ボールベアリング8の外輪がベース2に直接設けられる構成の場合について示したが、
図2に示すようにボールベアリング8の外輪をベース2とは別に設けられたベアリングハウジング200に固定するような構成であっても良い。
図2では、加速度センサ101が搭載された回路基板100は、ベアリングハウジング200に取り付けられるカバー201の内周面にビス止めされている。ボールベアリング8の振動はベアリングハウジング200およびカバー201を介して回路基板100上の加速度センサ101に伝達される。
【0018】
また、
図1,2ではボールベアリング8はグリース潤滑であったが、
図3はボールベアリング8が油潤滑の場合の構成を示したものである。ボールベアリング8は、ベース2にボルト固定されるベアリングハウジング200に保持されている。ボールベアリング8は油潤滑式の転がり軸受であり、ボールベアリング8に潤滑油を供給するための潤滑油貯蔵部であるウィック60を備えている。ウィック60は、潤滑油が保持可能なフェルト状やスポンジ状の部材で構成され、潤滑油を保持している。ウィック60は保持部61に設けられている。
【0019】
ボールベアリング8の内輪は、コーン型のナット62によりシャフト10に固定される。ナット62の外周面は、ボールベアリング8の内輪に当接する側から先端に向けて先細りのテーパ面となっている。ウィック60の内周側には内側に突出した接触部60aが形成されており、この接触部60aがナット62の外周面に接触している。シャフト10と共にナット62が高速回転すると、ナット62の外周面に付着した潤滑油は遠心力によりテーパ状外周面をボールベアリング8方向に移動し、最終的にはボールベアリング8の内輪内に供給されることになる。
【0020】
このような油潤滑式のボールベアリング8を備える場合も、加速度センサ101が搭載された回路基板100は、ベアリングハウジング200に取り付けられるカバー201にビス止め等により固定される。ボールベアリング8の振動はベアリングハウジング200およびカバー201を介して回路基板100上の加速度センサ101に伝達される。
【0021】
図4は、電源装置40がターボ分子ポンプ1のベース2に固定される電源一体型のターボ分子ポンプの場合の、回路基板100の配置の一例を示したものである。電源装置40の筐体400はベース2にボルト固定されている。筐体400内には、基板401、402が設けられており基板401にはマイコン403が搭載されている。基板402は筐体400の内周面に固定されており、基板402には比較的発熱量の大きな電子部品が搭載されている。筐体400の外周面には複数の放熱フィン404が形成されている。
【0022】
加速度センサ101が搭載された回路基板100は、ベース2の外表面で、かつ、筐体400が対向する面に固定されている。そのため、回路基板100は筐体400の陰に隠れてしまい、外観上は見えない構成となっている。
図4に示す例では回路基板100には振動センサ用のマイコン102を搭載しておらず、マイコン102の機能は電源装置40に設けられたマイコン403によって兼用される。
【0023】
図5は、ポンプロータ3を高速回転したときのボールベアリング8の振動測定結果の一例を示す図である。
図5において横軸は周波数を表し、縦軸は振動の加速度を表している。周波数f0はロータ回転数に対応する周波数(以下では、ロータ回転周波数と呼ぶことにする)であり、ポンプ回転数をN(rpm)とすればN=60×f0である。例えば、ロータ回転数が6万(rpm)であればf0=1(kHz)である。
図5に示すデータはボールベアリング8の劣化が進んでいる場合の振動データであり、ロータ回転周波数f0のピーク以外に、符号A,B,C,Dで示すようなピークが現れている。
【0024】
加速度センサ101から出力されるデータをマイコン102でFFT処理すると、ロータ回転数に対応する周波数とその周波数の倍数およびボールベアリング8を構成する部品(外輪、内輪、転動体および保持器)に関する周波数にピークが見られる。
図5のピークA~Dは、ボールベアリング8を構成する部品に起因する振動の加速度ピークであり、以下では、加速度ピークA~Dの周波数fa~fdをベアリング振動周波数と呼ぶことにする。ピーク位置の周波数(ベアリング振動周波数)fa~fdはロータ回転周波数f0に依存しており、加速度ピークA~Dおよびロータ回転周波数f0を含む限られた周波数範囲に現れる。
【0025】
図5に示す例では周波数f2以下の周波数範囲にベアリング振動周波数fa~fdが現れている。ロータ回転周波数f0が変化すると、それに応じてベアリング振動周波数fa~fdも変化する。f0=1(kHz)の場合、周波数f2は10(kHz)程度である。加速度センサ101で検出される振動に基づいてボールベアリング8の劣化を診断する場合、例えば、周波数f2を診断対象周波数の上限周波数に設定する。
【0026】
ところで、加速度センサ101は回路基板100に搭載され、その回路基板100は
図1~4に示したようにベース2やベース2に固定される裏蓋17、ベアリングハウジング200に固定されるカバー201等にビス止め等により固定されている。そのため、回路基板100が振動すると、加速度センサ101はその基板自体の振動も検出してしまうことになる。
【0027】
回路基板100には加速度センサ101と加速度センサ101から出力された振動データを処理するマイコン102が搭載されており、少なくとも加速度センサ101およびマイコン102を搭載可能なスペースが必要である。回路基板100として一般的なガラスエポキシ樹脂基板を用いた場合、基板自体の剛性が比較的低いため、回路部品を搭載した状態での回路基板100の共振周波数が
図5の周波数f2よりも低くなってしまうおそれがある。また、基板厚さを厚くすれば共振周波数を高くできるが、
図1~4に示すようにターボ分子ポンプ1における回路基板100の配置スペースが限られるため、基板厚さを必要な厚さまで厚くするのは難しい。
【0028】
そこで、本実施の形態では、回路基板100を剛性の高いメタルベース基板を用いることで、基板厚さを抑えつつ必要な剛性を得るようにした。回路基板100の剛性を高めることで、高い共振周波数を維持しつつより広い基板面積が可能となり、加速度センサ101およびマイコン102の搭載スペースに余裕を持たせることができる。メタルベース基板の厚さや寸法は、
図5の周波数f2に応じて設定される。
【0029】
図6は、加速度センサ101で検出された振動情報を利用したボールベアリング8の劣化診断システムの一例を示すブロック図である。加速度センサ101のアナログ出力信号は、AD変換部121によりマイコン102に取り込まれる。AD変換された信号はFFT部でフーリエ変換処理されて
図5に示すような振動データが得られる。診断部123は、フーリエ変換処理後の振動データに基づいてボールベアリング8の劣化診断を行う。例えば、ピークA~Dの加速度の大きさが閾値β以上となった場合に、ボールベアリング8の交換時期と診断する。
【0030】
マイコン102の記憶部124には、ターボ分子ポンプ1のロータ回転周波数f0とボールベアリング8に起因するベアリング振動周波数fa~fdとの関係である周波数相関情報や、ベアリング劣化の診断に用いる上述した閾値βなどが記憶されている。診断部123には、電源装置40のポンプ制御部410からロータ回転周波数f0が入力される。なお、診断部123が、FFT部122から入力される振動データに基づいてロータ回転周波数f0を抽出するようにしても良い。ターボ分子ポンプ1の使用回転数が定格回転数と異なっている場合でも、そのときのロータ回転周波数f0に応じたベアリング振動周波数fa~fdが抽出される。
【0031】
診断部123は、ロータ回転周波数f0と記憶部124に入力されている周波数相関情報とに基づいて、振動データからベアリング振動周波数fa~fdを抽出し、それらを常に監視する。ボールベアリング8の劣化が進むと、ボールベアリング8に起因する振動が大きくなり、
図5に示すベアリング振動周波数fa~fdのピークの高さが増加する。そこで、診断部123は、監視しているベアリング振動周波数fa~fdの加速度値が閾値β以上となった場合、ベアリング劣化に関するアラーム信号を出力する。
【0032】
図5に示す例ではアラーム信号は電源装置40に入力されているが、ターボ分子ポンプ1が装着されている真空装置のメインコントローラへと出力しても良いし、インターネット等を介してサーバーに送るようにしても良い。また、
図5では劣化診断を回路基板100のマイコン102で行うような構成としているが、診断部123で行っている診断処理をポンプ制御部410やサーバーで行うようにしても良い。その場合、マイコン102からはFFT部122の処理結果(すなわち、
図5に示す振動データ)が出力され、ポンプ制御部410やサーバーでベアリング劣化の診断処理を行う。
【0033】
-第2の実施の形態-
図7は、第2の実施の形態を示す図である。上述した第1の実施の形態では、加速度センサ101やマイコン102が搭載される回路基板100にメタルベース基板を用いることで、加速度センサ101の振動データへの回路基板の振動の影響を排除するようにした。一方、
図7に示す第2の実施の形態では、ターボ分子ポンプ1のベース2に設けられた裏蓋17の内周面17aに、加速度センサ101やマイコン102等の電子部品を直接搭載するようにした。
【0034】
裏蓋17の内周面17aには、メタルベース基板の場合と同様の絶縁層50が形成され、その絶縁層50の上には銅箔による配線層51が形成されている。メタルベース基板の場合のベースメタルに相当する裏蓋17には、ターボ分子ポンプ1においては一般的にアルミ合金材やステンレス材など用いられ、裏蓋17の厚さも10mm程度を有する。そのため、第1の実施の形態で用いられるメタルベース基板と比較しても、十分大きな剛性を有している。その結果、加速度センサ101が搭載される裏蓋17に振動が生じた場合であっても、振動の周波数は
図5に示した上限周波数f2よりも高周波数側となり、監視すべき周波数範囲における裏蓋17に振動の影響は防止することができる。
【0035】
上述した実施形態で説明した真空ポンプをまとめて説明すると以下のとおりである。
(1)転がり軸受であるボールベアリング8によりポンプロータ3が設けられたシャフト10を支持するターボ分子ポンプ1において、ボールベアリング8の振動を検出する振動センサとしての加速度センサ101が設けられている。その結果、加速度センサ101から出力される振動情報に基づいて、ボールベアリング8の劣化状態を知ることが可能となり、ボールベアリング8のメンテナンスを適切に行うことができる。
【0036】
(2)
図4に示すように、加速度センサ101は、例えばメタルベース基板のように基板ベース材料に金属が用いられる回路基板100に搭載され、その回路基板100はボールベアリング8が設けられたベース2に固定される。加速度センサ101が搭載される回路基板100の共振周波数は、ボールベアリング8に起因する振動の周波数域(
図5における周波数f2以下の周波数域)よりも高く設定されている。その結果、ボールベアリング8に起因する振動の周波数域に回路基板100の振動ピークが現れることがないので、回路基板100の振動の影響を受けること無く、加速度センサ101の振動データからボールベアリング8に起因する振動を容易に識別することができる。
【0037】
なお、
図4に示すように回路基板100をベース2に直接固定する構成に限定されず、
図1のようにベース2に固定される裏蓋17に回路基板100を固定しても良いし、
図2,3のようにベアリングハウジング200に固定されるカバー201に回路基板100を固定しても良い。
【0038】
(3)また、
図7に示すように、加速度センサ101を、ベース2の一部を構成する裏蓋17に搭載するようにしても良い。裏蓋17の内周面17aには絶縁層50が形成され、加速度センサ101やマイコン102は絶縁層50の上に形成された配線層51に実装されている。加速度センサ101が搭載された裏蓋17の共振周波数は、ボールベアリング8のベアリング振動周波数fa~fdが含まれる周波数域よりも高く設定されているので、加速度センサ101の振動データからボールベアリング8に起因する振動を容易に識別することができる。
【0039】
(4)
図6に示す診断システムでは、診断部123は、ターボ分子ポンプ1に設けられた加速度センサ101から出力される振動検出情報に基づき、ボールベアリング8の劣化を診断する。その結果、適切なタイミングでボールベアリング8の交換作業を行うことができる。
【0040】
さらに、加速度センサ101が搭載された回路基板100や
図7の裏蓋17の共振周波数は、ボールベアリング8のベアリング振動周波数fa~fdが含まれる周波数域よりも高く設定されていて、加速度センサ101から出力される振動検出情報にはボールベアリング8に起因する振動の影響が含まれない。その結果、ボールベアリング8の劣化診断を容易に行うことができる。
【0041】
上記では、種々の実施の形態および変形例を説明したが、本発明はこれらの内容に限定されるものではない。本発明の技術的思想の範囲内で考えられるその他の態様も本発明の範囲内に含まれる。
【符号の説明】
【0042】
1…ターボ分子ポンプ、2…ベース、3…ポンプロータ、8,9…ボールベアリング、10…シャフト、17…裏蓋、17a…内周面、40…電源装置、100…回路基板、101…加速度センサ、102,403…マイコン、121…AD変換部、122…FFT部、123…診断部、124…記憶部、201…カバー、410…ポンプ制御部