(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】液体噴射装置
(51)【国際特許分類】
B05B 3/02 20060101AFI20220117BHJP
B05B 13/04 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B05B3/02 G
B05B13/04
(21)【出願番号】P 2018126655
(22)【出願日】2018-07-03
【審査請求日】2021-03-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000000099
【氏名又は名称】株式会社IHI
(74)【代理人】
【識別番号】100161207
【氏名又は名称】西澤 和純
(74)【代理人】
【識別番号】100175802
【氏名又は名称】寺本 光生
(74)【代理人】
【識別番号】100169764
【氏名又は名称】清水 雄一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100167553
【氏名又は名称】高橋 久典
(72)【発明者】
【氏名】前野 潤
(72)【発明者】
【氏名】定木 啓
(72)【発明者】
【氏名】山崎 晶登
【審査官】市村 脩平
(56)【参考文献】
【文献】実開平05-037360(JP,U)
【文献】特開2009-061354(JP,A)
【文献】特開2007-253040(JP,A)
【文献】実開昭53-014071(JP,U)
【文献】特開昭55-078863(JP,A)
【文献】特開2015-010713(JP,A)
【文献】特開2013-181577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05B1/00-17/08
F16J15/40-15/453
15/54-15/56
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
回転軸心を中心に回転される回転体と、前記回転軸心の径方向外側から前記回転体に対して隙間を空けて前記回転体を囲うケーシングと、前記回転軸心に沿った方向に流体を噴射するノズルとを備える液体噴射装置であって、
前記流体の噴射方向における前記隙間の前方あるいは前記隙間の内部に配置されると共に、基部より径方向に張り出して設けられることで前記隙間の奥部への異物の侵入を抑止する鍔部を有
し、
前記回転体が前記隙間の先端開口よりも前記流体の噴射方向における前方まで延出され、前記鍔部は、前記回転軸心に沿う方向から見て前記隙間を覆って前記回転体の前端に設けられている
ことを特徴とする液体噴射装置。
【請求項2】
前記ノズルに前記流体を供給する供給チューブが通過される貫通孔が前記回転体の先端壁に設けられ、
前記供給チューブを軸支すると共に、前記流体の噴射方向における貫通孔の前方に配置される前記鍔部を有するチューブ保持機構を備える
ことを特徴とする請求項
1記載の液体噴射装置。
【請求項3】
前記隙間に対して圧縮エアを供給する圧縮エア供給部を備えることを特徴とする請求項1
または2記載の液体噴射装置。
【請求項4】
圧縮エアを供給することにより前記回転体を回転させる動力を生成するエアドリルを備え、前記圧縮エア供給部は、前記エアドリルと前記隙間とに前記圧縮エアを供給することを特徴とする請求項
3記載の液体噴射装置。
【請求項5】
前記隙間の内部に配置され、前記隙間の奥部側から前記隙間の先端開口に向けて空気を圧送する回転翼列を備えることを特徴とする請求項1~
4いずれか一項に記載の液体噴射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液体噴射装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ノズルから噴射する流体をより広範囲に噴き付けることを可能とするために、ノズルがシャフトの先端に取り付けられた液体噴射装置が用いられている。例えば、特許文献1においては、チューブを回転軸心から変位した位置にて回転体に対して軸支し、回転軸心を中心として回転体を回転させることでチューブの先端に接続されたノズルを回動させている。このような液体噴射装置によれば、回転シール等を用いずにノズルを回動させることができるため、極低温の液体窒素等の液体を噴射することに適している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、液体噴射装置は、コンクリートの加工やライニング材の剥離等の様々な用途に使用が可能であるが、一般的には作業者によって作業が行われる。このため、作業性の向上等のために、回転体の周囲がケーシングによって囲われている。回転体と異なりケーシングが回転しないことから、回転体とケーシングとの間には隙間が設けられることとなる。この隙間に作業により発生した粉塵等の異物が侵入すると、異物が回転体を軸支するベアリング等の円滑な動作を阻害する恐れがある。
【0005】
本発明は、上述する問題点に鑑みてなされたもので、回転体と回転体を囲むケーシングとを備える液体噴射装置において、回転体とケーシングとの隙間の奥部に異物が侵入することを防止することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するための手段として、以下の構成を採用する。
【0007】
第1の発明は、回転軸心を中心に回転される回転体と、上記回転軸心の径方向外側から上記回転体に対して隙間を空けて上記回転体を囲うケーシングと、上記回転軸心に沿った方向に流体を噴射するノズルとを備える液体噴射装置であって、上記流体の噴射方向における上記隙間の前方あるいは上記隙間の内部に配置されると共に、基部より径方向に張り出して設けられることで上記隙間の奥部への異物の侵入を抑止する鍔部を有するという構成を採用する。
【0008】
第2の発明は、上記第2の発明において、上記回転体が上記隙間の先端開口よりも上記流体の噴射方向における前方まで延出され、上記鍔部が、上記回転軸心に沿う方向から見て上記隙間を覆って上記回転体の前端に設けられているという構成を採用する。
【0009】
第3の発明は、上記第1または第2の発明において、上記ノズルに上記流体を供給する供給チューブが通過される貫通孔が上記回転体の先端壁に設けられ、上記供給チューブを軸支すると共に、上記流体の噴射方向における貫通孔の前方に配置される上記鍔部を有するチューブ保持機構を備えるという構成を採用する。
【0010】
第4の発明は、上記第1~第3いずれかの発明において、上記隙間に対して圧縮エアを供給する圧縮エア供給部を備えるという構成を採用する。
【0011】
第5の発明は、上記第4の発明において、圧縮エアを供給することにより上記回転体を回転させる動力を生成するエアドリルを備え、上記圧縮エア供給部は、上記エアドリルと上記隙間とに上記圧縮エアを供給するという構成を採用する。
【0012】
第6の発明は、上記第1~第5いずれかの発明において、上記隙間の内部に配置され、上記隙間の奥部側から上記隙間の先端開口に向けて空気を圧送する回転翼列を備えるという構成を採用する。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、回転体と回転体を径方向外側から囲うケーシングとの間の隙間の前方あるいは隙間の内部に、隙間の奥部への異物の侵入を防ぐ鍔部を備えている。このため、本発明によれば、隙間の奥部に異物が侵入することを防ぎ、異物の隙間への侵入による弊害を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の第1実施形態における液体噴射装置の断面図である。
【
図3】本発明の一実施形態における液体噴射装置が備えるチューブ保持機構を含む領域の拡大断面図である。
【
図4】本発明の第2実施形態における液体噴射装置の断面図である。
【
図5】本発明の第3実施形態における液体噴射装置の断面図である。
【
図6】本発明の第4実施形態における液体噴射装置の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、図面を参照して、本発明に係る液体噴射装置の一実施形態について説明する。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態の液体噴射装置1の断面図である。また、
図2は、液体噴射装置1の先端領域(
図1の領域A)の拡大図である。本実施形態において、液体噴射装置1は、液体窒素Xを噴射する。ただし、本発明の液体噴射装置が噴射する流体は液体窒素に限定されるものではない。
図1に示すように、本実施形態の液体噴射装置1は、ケーシング2と、回転ユニット3と、供給チューブ4と、ノズルユニット5と、チューブ保持機構6と、エアドリル7と、動力伝達機構8とを備えている。
【0017】
ケーシング2は、回転ユニット3や供給チューブ4を収容しており、例えば少なくとも一部が作業者によって把持可能とされた部位である。本実施形態においてケーシング2は、回転体収容部2aと、伝達機構収容部2bと、チューブ挿入部2cとを有している。回転体収容部2aは、内部に回転ユニット3が収容された筒状の部位である。この回転体収容部2aは、回転ユニット3の回転軸心Lに中心軸が重ねて配置されており、根本側が伝達機構収容部2bに固定され、先端側が開放端とされている。このような回転体収容部2aと回転ユニット3の後述する回転筒3cとの間には、後述する先端側軸受3aや後端側軸受3bが収容される隙間Sが設けられている。この隙間Sは、回転軸心Lに沿って設けられており、回転軸心Lに沿った方向で液体窒素Xがノズルから噴射される方を前方とした場合に、前方に向けて開口された先端開口S1(
図2参照)を有している。
【0018】
伝達機構収容部2bは、動力伝達機構8を収容する部位である。この伝達機構収容部2bは、
図1に示すように、上端部に回転体収容部2aが固定されており、下端部がエアドリル7の取付箇所とされている。また、伝達機構収容部2bの上端部には、供給チューブ4が通過可能な開口部2b1が設けられている。
【0019】
チューブ挿入部2cは、内部に供給チューブ4が挿通された筒状の部位であり、伝達機構収容部2bの上端部に対して伝達機構収容部2bと反対側から固定されている。このチューブ挿入部2cは、後端側の端部が閉塞端とされ、先端側の端部が開放端とされ、回転軸心Lに沿った方向から見て伝達機構収容部2bと同芯状に配置されている。このチューブ挿入部2cは、先端側の開放端が開口部2b1と接続されるようにして伝達機構収容部2bに対して固定されている。また、チューブ挿入部2cの後端側の閉塞端は、供給チューブ4を保持している。つまり、供給チューブ4は、途中部位がケーシング2のチューブ挿入部2cの後端部分に固定されている。
【0020】
このような回転体収容部2aと、伝達機構収容部2bと、チューブ挿入部2cとを有するケーシング2は、例えば断熱性を有する樹脂材料によって形成されており、供給チューブ4を流れる液体窒素Xの冷熱が作業者に伝熱されることを抑制している。
【0021】
回転ユニット3は、ケーシング2の回転体収容部2aの内部に収容されており、先端側軸受3aと、後端側軸受3bと、回転筒3c(回転体)と、カウンタマスユニット3dとを備えている。先端側軸受3aは、後端側軸受3bよりも回転体収容部2aの先端寄りに配置された軸受である。この先端側軸受3aは、外輪が回転体収容部2aの内周面に固定され、内輪が回転筒3cの外周面に固定されており、回転軸心Lを中心として回転筒3cを回転可能に支持している。後端側軸受3bは、先端側軸受3aよりも回転体収容部2aの根本寄りに配置された軸受である。この後端側軸受3bは、外輪が回転体収容部2aの内周面に固定され、内輪が回転筒3cの外周面に固定されており、回転軸心Lを中心として回転筒3cを回転可能に支持している。
【0022】
回転筒3cは、先端側の端部が先端壁3c1によって閉塞された閉塞端とされ、後端側の端部が開放端とされた筒状の部位である。この回転筒3cは、先端壁3c1が回転体収容部2aの先端から僅かに前方に配置され、後端側の端部がケーシング2の伝達機構収容部2bに設けられた開口部2b1と対向するように先端側軸受3a及び後端側軸受3bによって軸支されている。この回転筒3cには、
図1に示すように供給チューブ4が挿通されている。
【0023】
図2に示すように、先端壁3c1には、供給チューブ4が通過可能とされ、さらにチューブ保持機構6が取り付けられる貫通部3c2が設けられている。この貫通部3c2は、先端壁3c1を貫通して設けられており、供給チューブ4が回転筒3cの内部から外部に通過可能とされている。また、先端壁3c1には、カウンタマスユニット3dを固定するための取付部3c3が設けられている。この取付部3c3には、カウンタマスユニット3dの後述する基体部3d1が螺合される雌ネジが設けられている。
【0024】
これらの貫通部3c2と取付部3c3とは、回転軸心Lを中心とした点対称な位置に配置されている。このため、貫通部3c2取り付けられるチューブ保持機構6に保持された供給チューブ4と、取付部3c3に取り付けられるカウンタマスユニット3dとは、回転軸心Lに沿った方向から見て、回転軸心Lを挟んで配置されている。つまり、回転軸心Lに沿った方向から見て、回転軸心Lを挟んで供給チューブ4と反対側の位置に、回転筒3cに固定されたカウンタマスユニット3dが配置されている。
【0025】
また
図2に示すように、先端壁3c1は、回転軸心Lに沿った方向において、ケーシング2の回転体収容部2aのよりも前方に配置されている。つまり、回転筒3cは、隙間Sの先端開口S1よりも液体窒素Xの噴射方向における前方まで延出されている。このような先端壁3c1の外縁部は、回転筒3cの周壁よりも回転軸心Lを中心とした径方向外側に膨出する鍔部3c4とされている。つまり、先端壁3c1は、鍔部3c4が設けられていない部位(基部3c5と称する)より径方向外側に張り出して設けられた鍔部3c4を有している。また、鍔部3c4は、回転軸心Lを中心として回転筒3cの全周に渡って設けられている。このような鍔部3c4は、ケーシング2の外側から見て、回転筒3cとケーシング2の回転体収容部2aとの隙間Sを覆うように設けられており、回転筒3cの回転中を含め常に回転筒3cと回転体収容部2aと隙間Sの奥部に外部から異物が侵入することを防止する。
【0026】
カウンタマスユニット3dは、基体部3d1と、着脱ウェイト3d2と、ウェイト固定ボルト3d3とを備えている。基体部3d1は、回転筒3cの先端壁3c1に設けられた取付部3c3に対して螺合されている。この基体部3d1は、カウンタマスユニット3dの主要部となる重量部材である。この基体部3d1の質量は、回転筒3cが回転した際に、供給チューブ4及びチューブ保持機構6の質量によって回転筒3cに作用する遠心力と、カウンタマスユニット3dの質量によって回転筒3cに作用する遠心力とが略同一となるように設定されている。このような基体部3d1は、略円柱状とされており、回転筒3cから回転筒3cの前方に向けて突出するように回転筒3cの先端壁3c1に固定されている。このような基体部3d1の先端面には、ウェイト固定ボルト3d3を螺合するためのボルト孔3d4が設けられている。
【0027】
着脱ウェイト3d2は、回転軸心Lに沿った方向から見て、基体部3d1と略同一径の円板状の部材であり、中央部にウェイト固定ボルト3d3が通過可能な開口を有している。この着脱ウェイト3d2は、ウェイト固定ボルト3d3によって基体部3d1に対して着脱可能とされており、着脱を選択することによりカウンタマスユニット3dの総質量(すなわち回転筒3cの回転時にカウンタマスユニット3dの質量によって作用する遠心力)を調整可能とする。
【0028】
ウェイト固定ボルト3d3は、軸部が基体部3d1のボルト孔3d4に螺合され、頭部にて着脱ウェイト3d2を基体部3d1に押し当てることによって、着脱ウェイト3d2を基体部3d1に対して締結する。
【0029】
供給チューブ4は、液体窒素Xを不図示の供給源からノズルユニット5まで案内するための可撓性の金属チューブである。この供給チューブ4は、ケーシング2のチューブ挿入部2cの内部から伝達機構収容部2bの開口部2b1を通じて回転ユニット3の回転筒3cの内部(すなわち回転体収容部2aの内部)に挿通されている。供給チューブ4は、先端部が回転筒3cの先端壁3c1に設けられた貫通部3c2を通じて回転筒3cの外部に引き出されており、貫通部3c2にてチューブ保持機構6によって回転軸心Lから径方向に変位した位置で軸支されると共に先端部にノズルユニット5が接続されている。また、供給チューブ4は、チューブ挿入部2cの後端部分に固定されている。このような供給チューブ4は、回転筒3cが回転軸心Lを中心として回転されると、途中部位がチューブ挿入部2cに固定された状態で、先端部が回転軸心Lを中心として旋回するように回動される。なお、後述するように、供給チューブ4の先端部は、チューブ保持機構6によって回転筒3cに対して相対的に回転可能に支持されている。このため、供給チューブ4は、回転筒3cの回転によって大きく捩じられることがなく、常に先端部が回転軸心Lを中心として旋回するように回動可能とされている。
【0030】
ノズルユニット5は、供給チューブ4の先端部に固定されている。このノズルユニット5は、
図2に示すように、ベース部5aと、第1ノズル5bと、第2ノズル5cとを有している。ベース部5aは、供給チューブ4と接続されており、第1ノズル5bと第2ノズル5cとに接続された内部流路を有したブロック体である。このベース部5aの内部流路は、ベース部5aの根本側(供給チューブ4側)において単一であり、先端側で複数に分岐している。なお、内部流路の分岐数は任意である。また、内部流路を分岐させない構成も採用可能である。
【0031】
第1ノズル5bは、内部流路に接続されるようにベース部5aに固定されている。この第1ノズル5bは、ベース部5aの内部流路を介して供給チューブ4から供給される液体窒素Xを外部に向けて噴射する。第2ノズル5cは、内部流路に接続されるようにベース部5aに固定されている。この第2ノズル5cは、ベース部5aの内部流路を介して供給チューブ4から供給される液体窒素Xを外部に向けて噴射する。つまり、本実施形態においては、第1ノズル5bと第2ノズル5cとから液体窒素Xが外部に向けて噴射される。
【0032】
図3は、チューブ保持機構6を含む拡大断面図である。チューブ保持機構6は、回転筒3cの先端壁3c1に設けられた貫通部3c2に取り付けられている。
図3に示すように、チューブ保持機構6は、断熱スリーブ6aと、第1軸受6bと、第2軸受6cと、クランプ6dとを備えている。
【0033】
断熱スリーブ6aは、供給チューブ4が摺動可能に挿入された略筒状の部材であり、樹脂材料によって形成されていることで供給チューブ4よりも高い断熱性を有している。この断熱スリーブ6aは、供給チューブ4が挿通される貫通孔を有する筒状の軸部6a1と、軸部6a1の端部に設けられると共に軸部6a1(基部)の径方向外側に環状に張り出した鍔部6a2とを有している。このような断熱スリーブ6aは、鍔部6a2が設けられた端部が供給チューブ4の先端側に向くように、供給チューブ4が挿入されている。このような鍔部6a2は、回転筒3cの貫通部3c2よりも大径とされており、貫通部3c2を覆うことによって外部の異物が貫通部3c2を介して回転筒3cの内部に侵入することを防止する。
【0034】
また、鍔部6a2は、回転筒3cが回転軸心Lを中心として回転することによって、回転軸心Lを中心として旋回するように回転される。このように旋回する鍔部6a2は、前方側から回転筒3cに向けて飛散する粉塵等の異物の進行を止め、断熱スリーブ6aに鍔部6a2が設けられていない場合と比較して、異物が回転筒3cに到達する割合を減少させることができる。つまり、鍔部6a2は、回転筒3cと回転体収容部2aとの間に形成された隙間Sに向かう異物の少なくとも一部の進行を止めることができ、回転筒3cと回転体収容部2aと隙間Sに外部から異物が侵入することを防止する。
【0035】
第1軸受6bは、第2軸受6cよりも供給チューブ4の先端側に配置されている。第2軸受6cは、第1軸受6bよりも供給チューブ4の後端側に配置されている。これらの第1軸受6b及び第2軸受6cは、断熱スリーブ6aを介して、供給チューブ4を回転可能に保持している。また、第1軸受6b及び第2軸受6cは、供給チューブ4の長手方向において断熱スリーブ6aの軸部6a1に対して摺動可能とされている。
【0036】
クランプ6dは、断熱スリーブ6aよりも供給チューブ4の先端側に配置されており、供給チューブ4を挟持することによって供給チューブ4に対して固定されている。このようなクランプ6dは、断熱スリーブ6aの先端面と当接することによって、供給チューブ4に対して摺動可能とされた断熱スリーブ6aがクランプ6dよりも供給チューブ4の先端側に移動することを防止する。このようなクランプ6dによって、断熱スリーブ6aの軸部6a1が第1軸受6b及び第2軸受6cから抜けることを防止している。
【0037】
なお、チューブ保持機構6による供給チューブ4の保持位置及び保持角度と、供給チューブ4の長さは、供給チューブ4に対して局所的に大きな応力が作用しないように設定されている。例えば、ノズルユニット5が供給チューブ4の接続端における軸心の延長線上に液体窒素Xを噴射する単一の噴射開口を有する構造であると仮定する。さらに、回転筒3cの回転軸心Lを中心とした径方向における回転軸心Lからノズルユニット5の先端位置までの距離をδとする。また、ノズルユニット5の噴射軸心(接続端における供給チューブ4の軸心)と回転軸心Lとが成す角度をαとする。また、回転軸心Lに沿った方向におけるチューブ挿入部2cの供給チューブ4の保持位置からノズルユニット5の先端位置までの距離をdとする。この場合、まず液体噴射装置1に要求される仕様に基づいて、距離δと角度αを設定する。さらに、供給チューブ4に作用する最大曲げ応力が供給チューブ4の疲労限界値の半分以下となるように距離dを設定する。このようにして設定された距離δ、角度α及び距離dが実現されるように、チューブ保持機構6による供給チューブ4の保持位置及び保持角度と、供給チューブ4の長さを設定する。このように、チューブ保持機構6による供給チューブ4の保持位置及び保持角度と、供給チューブ4の長さを設定することによって、供給チューブ4が疲労により損傷することをより確実に防止することができる。
【0038】
図1に戻り、エアドリル7は、外部から供給される圧縮エアを受けて回転筒3cを回転させるための回転動力を生成するものであり、ケーシング2の伝達機構収容部2bの下端に接続されている。このようなエアドリル7は、
図2に示すように、出力軸7aが伝達機構収容部2bの内部に配置されており、この出力軸7aが動力伝達機構8と接続されている。
【0039】
動力伝達機構8は、エアドリル7と回転筒3cとを接続し、エアドリル7から回転筒3cに回転動力を伝達する機構である。この動力伝達機構8は、
図2に示すように、エアドリル7の出力軸7aに固定された駆動ギア8aと、回転筒3cの周面に固定されて駆動ギア8aと噛合された従動ギア8bとを有している。
【0040】
このような構成を採用する本実施形態の液体噴射装置1では、エアドリル7に外部から圧縮エアが供給されると、エアドリル7にて回転動力が生成される。エアドリル7で生成された回転動力は、動力伝達機構8によって回転ユニット3の回転筒3cに伝達される。この結果、回転筒3cが回転軸心Lを中心として回転される。
【0041】
回転筒3cが回転されると、供給チューブ4は、ケーシング2のチューブ挿入部2cとの接続箇所が固定された状態で、回転筒3cに伴って回転されるチューブ保持機構6に保持された部位が回転軸心Lを中心として回動(旋回)される。このとき、供給チューブ4は、チューブ保持機構6によって回転可能に保持されているため、供給チューブ4が大きく捩じれることなく先端部が連続して回転される。この結果、供給チューブ4の先端に接続されたノズルユニット5が回転軸心Lを中心として回動される。
【0042】
さらに、不図示の供給装置から液体窒素Xが供給チューブ4に供給されると、液体窒素Xは、回転されるノズルユニット5に供給され、第1ノズル5b及び第2ノズル5cから噴射される。例えば、液体窒素がコンクリートに噴射される場合には、液体窒素がコンクリートのポーラスに入り込み、噴射後に液体窒素が気化するときの膨張力によって、コンクリートを加工することができる。このように回転されるノズルユニット5から液体窒素Xを噴射することによって、作業者が液体噴射装置1を移動させなくても、広い範囲に液体窒素Xを噴射することが可能となる。
【0043】
ここで、本実施形態の液体噴射装置1においては、回転筒3cと回転筒3cを径方向外側から囲うケーシング2との間の隙間Sの前方に配置されると共に、基部より径方向外側に張り出して設けられることで隙間Sの奥部への異物の侵入を抑止する鍔部(回転筒3cの鍔部3c4及びチューブ保持機構6の鍔部6a2)を有している。このため、隙間Sの奥部に異物が侵入することを防ぎ、異物の隙間Sへの侵入による弊害を防止することができる。
【0044】
また、本実施形態の液体噴射装置1においては、回転筒3cが隙間Sの先端開口S1よりも前方まで延出され、鍔部3c4が回転軸心Lに沿う方向から見て隙間Sを覆って回転筒3cの前端に設けられている。このため、鍔部3c4を回転筒3cと一体化することができ、鍔部3c4を別部品として設置する必要がない。したがって、本実施形態の液体噴射装置1によれば、簡素な構成で隙間Sに異物が侵入することを防止できる。
【0045】
また、本実施形態の液体噴射装置1においては、ノズルユニット5に液体窒素Xを供給する供給チューブ4が通過される貫通部3c2が回転筒3cの先端壁3c1に設けられ、供給チューブ4を軸支すると共に貫通部3c2の前方に配置される鍔部3c4を有するチューブ保持機構6を備えている。このため、鍔部3c4によって、隙間Sのみならず、貫通部3c2への異物の侵入を防止することができる。したがって、本実施形態の液体噴射装置1によれば、第1軸受6bや第2軸受6cの円滑な動作を維持することが可能となる。
【0046】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態について、
図4を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0047】
図4は、本発明の第2実施形態の液体噴射装置1Aの断面図である。この図に示すように、本実施形態の液体噴射装置1Aは、エアドリル7及び隙間Sに対して圧縮エアYを供給する圧縮エア供給部9を備えている。
【0048】
エアドリル7は、圧縮エア供給部9から供給を受けた圧縮エアYの圧力を回転動力に変換することによって、回転筒3cを回転させる動力を生成する。また、本実施形態においては、ケーシング2の回転体収容部2aに対して、内部に圧縮エアYを供給するための供給ポート2dが設けられている。供給ポート2dには圧縮エア供給部9が接続されており、圧縮エア供給部9から回転体収容部2aの内部に圧縮エアYが供給される。
【0049】
なお、ケーシング2は、隙間Sの先端開口S1を除いて密閉されている。このため、供給ポート2dから回転体収容部2aの内部に供給された圧縮エアYは、隙間Sを回転軸心Lに沿って流れて隙間Sの先端開口S1から前方に向けて排出される。
【0050】
このような本実施形態の液体噴射装置1Aによれば、隙間Sに対して圧縮エア供給部9から圧縮エアYが供給され、隙間Sの内部に隙間Sの先端開口S1に向けた空気の流れが形成される。このため、仮に回転筒3cの鍔部3c4及びチューブ保持機構6の鍔部6a2によって隙間Sへの侵入を防げなかった異物が存在しても、隙間Sの内部に形成された空気流によって異物が隙間Sの奥部に至ることを防止することができる。
【0051】
さらに、本実施形態の液体噴射装置1Aにおいては、エアドリル7に圧縮エアYを供給する圧縮エア供給部9から隙間Sに圧縮エアを供給している。このため、本実施形態の液体噴射装置1Aは、隙間Sに圧縮エアYを供給する装置を圧縮エア供給部9と別に備える必要がなく、装置が小型化されている。
【0052】
なお、供給ポート2dの設置箇所は、
図1に示すような回転体収容部2aの先端側軸受3aと後端側軸受3bとの間に限られるものではない。例えば、ケーシング2の伝達機構収容部2bに供給ポート2dを設置して、伝達機構収容部2bの内部を介して隙間Sに圧縮エアYを供給することも可能である。また、回転体収容部2aの先端側軸受3aよりも回転体収容部2aの先端側に供給ポート2dを設置することも可能である。
【0053】
また、本実施形態においては、液体噴射装置1Aが圧縮エア供給部9を備える構成を採用した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、例えば外部の圧縮エア源から隙間Sやエアドリル7に圧縮エアYを供給するようにしても良い。この場合には、液体噴射装置1Aには、隙間Sに圧縮エアYを供給する供給ポート2dが設けられることになる。
【0054】
(第3実施形態)
次に、本発明の第3実施形態について、
図5を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0055】
図5は、本発明の第3実施形態の液体噴射装置1Bの断面図である。この図に示すように、本実施形態の液体噴射装置1Bは、隙間Sに対して設けられる回転翼列10を備えている。
【0056】
回転翼列10は、回転筒3cの周面上に回転軸心Lを中心として環状に配列された複数の翼によって形成されている。この回転翼列10は、
図5に示すように先端側軸受3aよりも回転筒3cの先端側に配置されており、回転筒3cの回転に伴って回転軸心Lを中心として回転される。このような回転翼列10は、回転されることによって、奥部側から先端開口S1に向けて空気を圧送することで隙間Sの内部に空気流を形成する。
【0057】
また、本実施形態の液体噴射装置1Bにおいては、隙間Sへの外部からの空気の流入が可能となるように、ケーシング2の回転体収容部2aに対して貫通孔2eが設けられている。この貫通孔2eは、回転翼列10よりも後端側に設けられている。このような貫通孔2eによって、空気が隙間Sに外部から流入可能となるため、回転翼列10の回転によって隙間Sに流れる空気流の流量を十分に確保することが可能となる。
【0058】
なお、回転翼列10の設置箇所は、先端側軸受3aよりも先端側とすることによって空気流の流れ抵抗を小さくすることができる。ただし、先端側軸受3aと後端側軸受3bとの間、また後端側軸受3bよりも後端側に設置スペースが確保できる場合には後端側軸受3bよりも後端側に設置することも可能である。
【0059】
(第4実施形態)
次に、本発明の第4実施形態について、
図6を参照して説明する。なお、本実施形態の説明において、上記第1実施形態と同様の部分については、その説明を省略あるいは簡略化する。
【0060】
図6は、本発明の第4実施形態の液体噴射装置1Cの断面図である。この図に示すように、本実施形態の液体噴射装置1Cは、上記第2実施形態の圧縮エア供給部9及び供給ポート2dを備え、さらに上記第3実施形態の回転翼列10を備えている。
【0061】
このような本実施形態の液体噴射装置1Cによれば、圧縮エア供給部9及び回転翼列10によって隙間Sに対して空気流を形成することができる。
【0062】
以上、添付図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されないことは言うまでもない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の趣旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0063】
例えば、上記実施形態においては、回転筒3cに設けられた鍔部3c4を隙間Sの先端開口S1よりも前方に配置する構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではない。例えば、隙間Sの内部に鍔部3c4を設置するようにしても良い。また、回転体収容部2aの内壁面から回転軸心Lの径方向内側に張り出すように鍔部を設けることも可能である。
【0064】
また、上記実施形態においては、カウンタマスユニット3dを備える構成について説明した。しかしながら、本発明はこれに限定されるものではなく、カウンタマスユニット3dを備えない構成を採用することも可能である。
【0065】
また、上記実施形態においては、液体噴射装置1が噴射する流体が液体窒素である構成について説明した。しかしながら、本発明は限定されるものではない。噴射する流体としては、液体窒素以外の極低温の液体、水、ブラスト剤等を用いることができる。つまり、本発明の液体噴射装置1は、ウォータジェット装置や研磨装置に適用することも可能である。
【符号の説明】
【0066】
1……液体噴射装置
1A……液体噴射装置
1B……液体噴射装置
1C……液体噴射装置
2……ケーシング
2a……回転体収容部
2b……伝達機構収容部
2b1……開口部
2c……チューブ挿入部
2d……供給ポート
2e……貫通孔
3……回転ユニット
3a……先端側軸受
3b……後端側軸受
3c……回転筒(回転体)
3c1……先端壁
3c2……貫通部
3c3……取付部
3c4……鍔部
3c5……基部
3d……カウンタマスユニット
3d1……基体部
3d2……着脱ウェイト
3d3……ウェイト固定ボルト
3d4……ボルト孔
4……供給チューブ(チューブ)
5……ノズルユニット
5a……ベース部
5b……第1ノズル
5c……第2ノズル
6……チューブ保持機構
6a……断熱スリーブ
6a1……軸部
6a2……鍔部
6b……第1軸受
6c……第2軸受
6d……クランプ
7……エアドリル
7a……出力軸
8……動力伝達機構
8a……駆動ギア
8b……従動ギア
9……圧縮エア供給部
10……回転翼列
L……回転軸心
S……隙間
S1……先端開口
X……液体窒素
Y……圧縮エア