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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】ポット精紡機
(51)【国際特許分類】
   D01H 1/08 20060101AFI20220203BHJP
   D01H 7/78 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
D01H1/08
D01H7/78
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2018192364
(22)【出願日】2018-10-11
(65)【公開番号】P2020059951
(43)【公開日】2020-04-16
【審査請求日】2021-01-20
(73)【特許権者】
【識別番号】000003218
【氏名又は名称】株式会社豊田自動織機
(74)【代理人】
【識別番号】100110423
【弁理士】
【氏名又は名称】曾我 道治
(74)【代理人】
【識別番号】100111648
【弁理士】
【氏名又は名称】梶並 順
(74)【代理人】
【識別番号】100179936
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 明日香
(74)【代理人】
【識別番号】100195006
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 勇蔵
(72)【発明者】
【氏名】中村 祐介
(72)【発明者】
【氏名】槌田 大輔
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 江平
【審査官】▲高▼辻 将人
(56)【参考文献】
【文献】特開平8-60430(JP,A)
【文献】特開平11-256434(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
D01H 1/00ー17/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下向きに開口するポット開口部を有するポットと、
前記ポット内に糸を導くとともに、前記糸を排出する糸排出口を下端部に有する導糸管と、
下向きに開口するカバー開口部を有するとともに、前記ポットを囲む固定カバーと、
前記固定カバーの前記カバー開口部を開閉する蓋と、
を備え、
前記蓋は、前記カバー開口部を前記蓋で閉じた場合に、前記ポット開口部を通して前記ポット内に入り込んで配置され、糸切り時に前記導糸管の前記糸排出口から排出される糸を前記ポットの内壁に導く突出部を有する
ポット精紡機。
【請求項2】
前記カバー開口部を前記蓋で閉じた場合に、前記ポットの下端部を基準とする前記突出部の入り込み量が0.1mm以上である
請求項1に記載のポット精紡機。
【請求項3】
糸材料を引き伸ばすドラフト装置と、
前記ドラフト装置を駆動するドラフト駆動部と、
前記導糸管を駆動する導糸管駆動部と、
前記糸排出口が前記突出部の突端と同じ高さ位置に配置された状態、または前記糸排出口が前記突出部の突端よりも下方に配置された状態で糸切りを行うように、前記ドラフト駆動部および前記導糸管駆動部を制御する制御部と、
を備える請求項1または2に記載のポット精紡機。
【請求項4】
前記導糸管の下端部に設けられる台形円錐形状のガイド部材と、
前記導糸管に取り付けられるとともに、前記導糸管の中心軸方向で前記ガイド部材の上端に接して配置される円盤状のカッターと、
をさらに備え、
前記蓋は、前記突出部の内側に、前記ガイド部材および前記カッターとの干渉を避けるための凹部を有し、
前記突出部の突端を基準とする前記凹部の深さ寸法は、少なくとも前記突出部の突出寸法よりも大きく設定され、かつ、前記凹部の内径は、前記カッターの外径よりも大きく設定されている
請求項1~3のいずれか一項に記載のポット精紡機。
【請求項5】
前記カッターの外周には刃が形成され、
前記凹部の深さ寸法は、前記導糸管および前記ガイド部材のいずれかの下端部から前記カッターの刃までの高さ寸法よりも大きく設定されている
請求項4に記載のポット精紡機。
【請求項6】
前記ガイド部材の外周にはテーパー面が形成され、
前記凹部の底面には、前記ガイド部材のテーパー面との接触によって前記導糸管の位置ずれを補正するガイド孔が設けられている
請求項4または5に記載のポット精紡機。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポット精紡機に関する。
【背景技術】
【0002】
精紡機の1つとして、円筒形のポットを備えるポット精紡機が知られている。ポット精紡機では、まず、高速で回転するポット内に導糸管を通して糸を導入するとともに、導入した糸をポットの回転にともなう遠心力を利用してポットの内壁に巻き付ける。その際、導糸管をポットの中心軸方向に繰り返し往復移動させながら、導糸管の位置を徐々に下方に変位させることにより、ポットの内壁にケークを形成する。次いで、導糸管への糸の供給を停止すべく糸切りを行った後、ポット内に挿入したボビンに糸を巻き返す。その際、下向きに開口するポット開口部を有するポットを用いて、ポット開口部を開放したまま糸切りを行うと、巻き返しの起点となるべき糸の部分(以下、「巻き返し起点部」という。)がポット外に引き出され、巻き返しに失敗する可能性が高くなる。以下、詳しく説明する。
【0003】
まず、糸切りを行う前は、導糸管に導入される糸に所定の張力が付与されている。このため、糸切りを行うと、糸の張力が解放される。糸の張力が解放されると、糸切りによって生じた糸端部分がポットの内壁に張り付かずにポット外に排出され、かつ、排出された糸端部分に引っ張られてポット内の糸がポット外に引き出されてしまう。その結果、本来であればポットの内壁に張り付いて巻き返し起点部を形成すべき糸がポット外に引き出され、ボビンへの巻き返しに失敗する可能性が高くなる。巻き返しに失敗する例としては、たとえば、上述のようにポット外に引き出された糸が、導糸管に巻き付いてしまうことで、巻き返しに失敗する場合が考えられる。
【0004】
そこで、たとえば特許文献1には、下向きに開口するポット開口部を有する円筒形のポットと、下向きに開口するハウジング開口部を有する円筒形のハウジングと、ポット開口部を閉塞する内蓋と、ハウジング開口部を閉塞する外蓋と、を備えたポット精紡機が記載されている。このポット精紡機では、ポットと一体に内蓋が回転する構成になっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開平8-60430号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1に記載されたポット精紡機では、ポット内でケークを形成している糸をボビンに巻き返す場合に、それに先立ってポット内にボビンを挿入する必要があるが、その際に次のような不具合がある。
まず、ポット内にボビンを挿入するには、ハウジング開口部を閉塞している外蓋と、ポット開口部を閉塞している内蓋を順に開ける必要がある。また、内蓋を開けるには、ポットから内蓋を取り外す必要があるが、その際に、ポットの回転を停止したり、ポットの回転速度を過度に低下させたりすると、遠心力の消滅または低下によってケークが崩れてしまう。また、ケークの崩れを避けるためにポットの回転速度を所定のレベル以上に維持したまま、ポットから内蓋を取り外すことは技術的にきわめて困難である。また、ポットに内蓋を取り付けずにポット開口部を開放したまま糸切りを行うと、糸切りによって生じる糸端部分がポット開口部を通してポット外に排出されるため、上記と同様にボビンへの巻き返しに失敗する可能性が高くなる。
【0007】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その目的は、回転中のポットから内蓋を取り外すという技術的な困難をともなうことなく、ボビンへの巻き返しの成功率を向上させることができるポット精紡機を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係るポット精紡機は、下向きに開口するポット開口部を有するポットと、前記ポット内に糸を導くとともに、前記糸を排出する糸排出口を下端部に有する導糸管と、下向きに開口するカバー開口部を有するとともに、前記ポットを囲む固定カバーと、前記固定カバーの前記カバー開口部を開閉する蓋と、を備え、前記蓋は、前記カバー開口部を前記蓋で閉じた場合に、前記ポット開口部を通して前記ポット内に入り込んで配置され、糸切り時に前記導糸管の前記糸排出口から排出される糸を前記ポットの内壁に導く突出部を有する。
【0009】
本発明に係るポット精紡機は、前記カバー開口部を前記蓋で閉じた場合に、前記ポットの下端部を基準とする前記突出部の入り込み量が0.1mm以上であることが好ましい。
【0010】
本発明に係るポット精紡機は、糸材料を引き伸ばすドラフト装置と、前記ドラフト装置を駆動するドラフト駆動部と、前記導糸管を駆動する導糸管駆動部と、前記糸排出口が前記突出部の突端と同じ高さ位置に配置された状態、または前記糸排出口が前記突出部の突端よりも下方に配置された状態で糸切りを行うように、前記ドラフト駆動部および前記導糸管駆動部を制御する制御部と、を備えるものであってもよい。
【0011】
本発明に係るポット精紡機は、前記導糸管の下端部に設けられる台形円錐形状のガイド部材と、前記導糸管に取り付けられるとともに、前記導糸管の中心軸方向で前記ガイド部材の上端に接して配置される円盤状のカッターと、をさらに備え、前記蓋は、前記突出部の内側に、前記ガイド部材および前記カッターとの干渉を避けるための凹部を有し、前記突出部の突端を基準とする前記凹部の深さ寸法は、少なくとも前記突出部の突出寸法よりも大きく設定され、かつ、前記凹部の内径は、前記カッターの外径よりも大きく設定されていることが好ましい。
【0012】
本発明に係るポット精紡機において、前記カッターの外周には刃が形成され、前記凹部の深さ寸法は、前記導糸管および前記ガイド部材のいずれかの下端部から前記カッターの刃までの高さ寸法よりも大きく設定されていることが好ましい。
【0013】
本発明に係るポット精紡機において、前記ガイド部材の外周にはテーパー面が形成され、前記凹部の底面には、前記ガイド部材のテーパー面との接触によって前記導糸管の位置ずれを補正するガイド孔が設けられていることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、回転中のポットから内蓋を取り外すという技術的な困難をともなうことなく、ボビンへの巻き返しの成功率を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
図1】本発明の第1実施形態に係るポット精紡機の構成を示す概略図である。
図2】本発明の第1実施形態に係る蓋の平面図である。
図3】本発明の第1実施形態に係る蓋の側面図である。
図4図2におけるIV-IV断面図である。
図5】本発明の第1実施形態に係るポット精紡機の駆動制御系の構成例を示すブロック図である。
図6】本発明の第1実施形態に係るポット精紡方法の基本的な流れを示す図である。
図7】本発明の第1実施形態に係るポット精紡機の第1の状態を示す図である。
図8】ケーク形成ステップにおける導糸管の動作を説明する図である。
図9】本発明の第1実施形態に係るポット精紡機の第2の状態を示す図である。
図10】本発明の第1実施形態に係るポット精紡機の第3の状態を示す図である。
図11】本発明の第1実施形態に係るポット精紡機の第4の状態を示す図である。
図12】本発明の第1実施形態に係るポット精紡機の第5の状態を示す図である。
図13】本発明の第1実施形態に係るポット精紡機の第6の状態を示す図である。
図14】本発明の第1実施形態に係るポット精紡機の第7の状態を示す図である。
図15】本発明の第2実施形態に係るポット精紡機の構成を示す概略図である。
図16】ポット開口部を通してポット内を見た図である。
図17】本発明の第2実施形態に係るポット精紡機の各部の寸法を説明するための図である。
図18】弦糸をカッターで切断するときの状況を説明する図である。
図19】本発明の第3実施形態に係るポット精紡機の構成を示す概略図である。
図20】本発明の第3実施形態に係るポット精紡機の効果を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0017】
[第1実施形態]
<ポット精紡機の構成>
図1は、本発明の第1実施形態に係るポット精紡機の構成を示す概略図である。
図1に示すように、ポット精紡機1は、ドラフト装置10と、吸篠管12と、導糸管14と、ポット16と、固定カバー18と、ボビン支持部20と、蓋50と、を備えている。なお、これらの構成要素は、紡績の一単位となる1つの紡錘を構成するものである。ポット精紡機1は複数の紡錘を備えるものであるが、ここではそのうちの1つの紡錘の構成について説明する。
【0018】
(ドラフト装置)
ドラフト装置10は糸材料を引き伸ばす装置である。ドラフト装置10は、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23からなる複数のローラ対を用いて構成されている。複数のローラ対は、糸材料の送り方向の上流側から下流側に向かって、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23の順に配置されている。
【0019】
各々のローラ対21,22,23は、後述するドラフト駆動部の駆動に従って回転するものである。各々のローラ対21,22,23の単位時間あたりの回転数(rpm)を比較すると、ミドルローラ対22の回転数はバックローラ対21の回転数よりも高く、フロントローラ対23の回転数はミドルローラ対22の回転数よりも高い。このように各々のローラ対21,22,23の回転数は互いに異なり、この回転数の違い、すなわち回転速度差を利用して、ドラフト装置10は糸材料を細く引き伸ばす。
【0020】
(吸篠管)
吸篠管12は、ドラフト装置10から供給される糸25を吸い込むとともに、吸い込んだ糸25を導糸管14へと送り出すものである。吸篠管12は、ドラフト装置10で引き伸ばされた糸25を、空気の旋回流を利用して吸篠管12内に吸い込む。
【0021】
(導糸管)
導糸管14は、ドラフト装置10から吸篠管12を経由して搬送された糸25をポット16内に導くものである。導糸管14は、細長い管状に形成されている。導糸管14を長さ方向と直交する方向に断面したときの形状は円形になっている。導糸管14は、ドラフト装置10よりも下流側に、吸篠管12およびポット16と同軸に配置されている。導糸管14は、ポット16の上部を貫通してポット16内に挿入されている。導糸管14の上端部は糸導入口14aとして開口し、同下端部は糸排出口14bとして開口している。導糸管14の糸導入口14aから導入された糸25は、導糸管14の内部を通して、導糸管14の糸排出口14bから排出される。
【0022】
(ポット)
ポット16は、撚りかけとケーク24の形成と糸の巻き返しに用いられるものである。ケーク24は、ポット16の内壁29に形成される糸の積層体である。ポット16は、円筒形に形成されている。ポット16は、ポット16の中心軸Kまわりに回転可能に設けられている。ポット16の中心軸Kは、鉛直方向と平行に配置されている。このため、ポット16の中心軸方向の一方は上方、他方は下方となっている。ポット16の下端にはポット開口部26が形成されている。ポット開口部26は、ポット16の内径と同じ径で下向きに開口している。
【0023】
(固定カバー)
固定カバー18は、ポット16を囲むようにポット16の外側に配置されている。固定カバー18は、固定部27に固定されている。固定カバー18は、ポット16よりも大きな直径で円筒形に形成されている。固定カバー18はポット16と同軸に配置されている。固定カバー18の上端側の開口部は固定部27によって閉塞されている。一方、固定カバー18の下端部にはカバー開口部28が設けられている。カバー開口部28は、固定カバー18の内径と同じ径で下向きに開口している。また、カバー開口部28はポット開口部26よりも下方に配置されている。
【0024】
(ボビン支持部)
ボビン支持部20は、ポット16の下方でボビン30を支持するものである。ボビン支持部20は、昇降レール31と、ボビン支持部材32と、エアーノズル33と、を有している。昇降レール31は、後述するレール駆動部によって昇降可能に設けられている。ボビン支持部材32は昇降レール31に取り付けられている。ボビン支持部材32は、ボビン30が着脱自在に装着される部分となる。ボビン支持部材32は、ポット16の中心軸Kで導糸管14と対向するように、導糸管14およびポット16と同軸に配置されている。このため、ボビン支持部材32にボビン30を装着すると、ボビン30はポット16の中心軸K上で導糸管14と対向して配置される。
【0025】
ボビン30は、ボビン外周径がボビン中心軸方向の一端側から他端側に向かって連続的に変化するテーパー構造になっている。ボビン30は、ボビン支持部材32から垂直に起立して支持される。ボビン30の外周径は、ポット16の内壁29に形成されるケーク24の最小径よりも小さく設定されている。これにより、ポット16のポット開口部26を通してポット16内にボビン30を挿入して配置するときに、ボビン30とケーク24の接触を避けることができる。
【0026】
エアーノズル33は、ポット16の内壁領域29aに巻かれる糸に空気を吹き付けるためのものである。ポット16の内壁領域29aは、ポット16の内壁29の一部を構成する領域であって、ポット16の内壁29に形成されるケーク24の巻き終わり側の端部24bよりもポット開口部26側に位置する領域である。ポット16の内壁領域29aには、ボビン30への巻き返し起点部となる糸部が巻かれる。これに対し、エアーノズル33は、ボビン30への巻き返し起点部となる糸部を、圧縮空気の吹き付けによってポット16外に排出する。
【0027】
巻き返し起点部は、ケーク24を形成する糸をボビン30に巻き返す際に、ボビン30に最初に巻き付けられる糸の部分である。このため、ボビン30への巻き返しは、巻き返し起点部となる糸部がボビン30に巻き付いたときに始まる。本実施形態においては、ポット16の内壁29に巻き付けられる糸のうち、ポット16の中心軸方向においてケーク24の巻き終わり側の端部24bとポット開口部26との間に巻かれる糸の部分が、巻き返し起点部となる。また、ケーク24の巻き終わり側の端部24bは、ポット16の中心軸K方向でみると、ポット開口部26側のケーク端部に相当する。
【0028】
エアーノズル33は、ボビン支持部20において、昇降レール31に取り付けられている。また、エアーノズル33は、昇降レール31から垂直に起立するように、ボビン支持部材32の近傍に配置されている。
【0029】
エアーノズル33は、圧縮空気を噴出する噴出口33aを有する。エアーノズル33の噴出口33aは、エアーノズル33の上端部近傍に配置されている。エアーノズル33の噴出口33aから噴出する圧縮空気は、後述するエアーノズル駆動部の駆動により、ポット16の内壁領域29aに斜めに吹き付けられるようになっている。
【0030】
(蓋)
蓋50は、固定カバー18のカバー開口部28を開閉するためのものである。蓋50は、後述する蓋駆動部の駆動により、カバー開口部28を閉塞する閉塞位置と、カバー開口部28を開放する開放位置とに配置可能に設けられている。蓋駆動部は、たとえば、図示はしないが、ポット16の中心軸K方向と平行な方向である鉛直方向、すなわち上下方向に蓋50を移動させる昇降機構と、ポット16の中心軸K方向と直交する方向である水平方向に蓋50を移動させる水平移動機構と、によって構成される。また、これ以外にも、蓋駆動部は、たとえば、図示はしないが、固定カバー18のカバー開口部28の近傍で蓋50を開閉自在に支持する支持軸を有するヒンジ部と、ヒンジ部の支持軸を中心に蓋50を開閉動作させるアクチュエータ部と、によって構成される。いずれの構成を採用する場合でも、固定カバー18のカバー開口部28を開放してボビン30をポット16に挿入したり、挿入したボビン30をポット16から取り出したりする際には、蓋駆動部は、蓋50とボビン30とが干渉しないよう、蓋50を退避させる。
【0031】
図2は、本発明の第1実施形態に係る蓋の平面図であり、図3は同側面図である。また、図4は、図2におけるIV-IV断面図である。
蓋50は、閉塞位置に配置されることにより、固定カバー18のカバー開口部28を閉塞した状態に保持する。また、蓋50は、糸切りしたときに糸端部分がポット開口部26を通してポット16外に排出されないよう、糸をガイドする機能を有する。本明細書で記載する「糸端部分」とは、糸切りによって生じる糸の末端を含む部分であって、糸切りが行われる糸切り位置から導糸管14の糸排出口14bまでの長さを有する糸の部分をいう。本実施形態においては、ドラフト装置10の各ローラ対の回転を制御することによって糸切りが行われるため、糸切り位置はドラフト装置10のローラ位置に対応して設定される。
【0032】
蓋50は、板状の本体部51と、円環状の突出部52と、を備えている。蓋50は、好ましくは、樹脂の一体成形品によって構成される。ただし、蓋50を構成する材料は樹脂に限らず、たとえば、金属やセラミックスなどでもよい。すなわち、蓋50を構成する材料は特定の材料に限定されない。
【0033】
本体部51は、平面視円形の平らな板状に形成されている。本体部51の直径D1(図3参照)は、固定カバー18のカバー開口部28を蓋50によって閉塞できるよう、固定カバー18の外径に対応して設定されている。カバー開口部28を蓋50によって閉塞するには、本体部51の直径D1が固定カバー18の内径以上に設定されていればよい。本実施形態においては、一例として、本体部51の直径D1が固定カバー18の外径と同じ寸法に設定されている。
【0034】
蓋50を閉塞位置に配置すると図1のようになる。この状態では、本体部51の上面51aの外周部が固定カバー18の下端部に接触して配置される。また、本体部51の上面51aは、ポット16の下端部16aに対向して配置され、本体部51の下面51bは、ボビン支持部材32に対向して配置される。
【0035】
突出部52は、本体部51の上面51aに設けられている。突出部52は、本体部51の上面51aから蓋50の厚み方向に突出寸法Laだけ突出している。突出部52の内側には凹部53(図4参照)が形成されている。突出部52の外径D2(図3参照)は、ポット開口部26の開口径よりも小さく設定されている。突出部52の突端52aは、図4に示すように断面円弧状に丸みをつけて形成されている。また、突出部52の突端52aは、突出部52の円周方向の全周にわたって一様に同じ高さに形成されている。ただし、突出部52の突端52aは必ずしも全周にわたって一様に同じ高さに形成されていなくてもよい。
【0036】
突出部52は、図1に示すように、蓋50を閉塞位置に配置してカバー開口部28を蓋50で閉じた場合に、ポット開口部26を通してポット16に入り込んで配置される。この配置状態において、突出部52は、糸切り時に導糸管14の糸排出口14bから排出される糸をポット16の内壁29に導くように機能する。
【0037】
また、カバー開口部28を蓋50で閉じた場合、ポット16の下端部16aを基準とする突出部52の入り込み量Lb(図1参照)は、0.1mm以上である。突出部52の入り込み量Lbを0.1mm以上確保することにより、糸切りによって生じる糸端部分がポット16外に排出されることを突出部52によって効果的に抑制することができる。なお、突出部52の入り込み量Lbは、突出部52の突出寸法Laを変更することにより増減可能である。ただし、突出部52の入り込み量Lbが過度に大きくなると、ポット16の下端部16a近傍において巻き返し起点部を形成するための領域を充分に確保できなくなるおそれがある。このため、突出部52の入り込み量Lbの上限は、巻き返し起点部の形成に必要な領域を確保し得る範囲内で設定するとよい。
【0038】
図5は、本発明の第1実施形態に係るポット精紡機の駆動制御系の構成例を示すブロック図である。
図5に示すように、ポット精紡機1は、制御部61と、ドラフト駆動部62と、導糸管駆動部63と、ポット駆動部64と、レール駆動部65と、ノズル駆動部66、蓋駆動部67と、を備えている。
【0039】
(制御部)
制御部61は、ポット精紡機1全体の動作を統括的に制御するものである。制御部61には、制御の対象として、ドラフト駆動部62、導糸管駆動部63、ポット駆動部64、レール駆動部65、ノズル駆動部66および蓋駆動部67が電気的に接続されている。
【0040】
(ドラフト駆動部)
ドラフト駆動部62は、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23をそれぞれ所定の回転数で回転させるものである。ドラフト駆動部62は、制御部61からドラフト駆動部62に与えられるドラフト駆動信号に基づいて駆動することにより、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23を回転させる。
【0041】
(導糸管駆動部)
導糸管駆動部63は、導糸管14を動作させるものである。導糸管駆動部63は、導糸管14を上下方向に移動させるように動作させる。導糸管駆動部63は、制御部61から導糸管駆動部63に与えられる導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、導糸管14を上下方向に移動させる。
【0042】
(ポット駆動部)
ポット駆動部64は、ポット16を回転させるものである。ポット駆動部64は、制御部61から与えられるポット駆動信号に基づいて駆動することにより、ポット16の中心軸Kを回転中心としてポット16を回転させる。
【0043】
(レール駆動部)
レール駆動部65は、昇降レール31を昇降動作させるものである。レール駆動部65は、ボビン支持部材32に装着されるボビン30を、エアーノズル33と一体に上下方向に移動させるように、昇降レール31を昇降動作させる。レール駆動部65は、制御部61から与えられるレール駆動信号に基づいて駆動することにより、昇降レール31を昇降動作させる。
【0044】
(ノズル駆動部)
ノズル駆動部66は、エアーノズル33を動作させるものである。ノズル駆動部66は、エアーノズル33の噴出口33aから圧縮空気を噴出させるようにエアーノズル33を動作させる。ノズル駆動部66は、制御部61から与えられるノズル駆動信号に基づいて駆動することにより、エアーノズル33の噴出口33aから圧縮空気を噴出させる。
【0045】
(蓋駆動部)
蓋駆動部67は、カバー開口部28を蓋50で開閉すべく、蓋50を動作させるものである。蓋駆動部67は、固定カバー18のカバー開口部28を閉じる場合はこれに対応する閉塞位置に蓋50を配置し、固定カバー18のカバー開口部28を開放する場合はこれに対応する開放位置に蓋50を配置するように蓋50を動作させる。蓋駆動部67は、制御部61から与えられる蓋開閉駆動信号に基づいて駆動することにより、蓋50を動作させる。
【0046】
<ポット精紡方法>
図6は、本発明の第1実施形態に係るポット精紡方法の基本的な流れを示す図である。
図6に示すように、ポット精紡方法は、引き伸ばしステップS1と、ケーク形成ステップS2と、巻き返しステップS3と、を備える。
【0047】
引き伸ばしステップS1は、粗糸などの糸材料を所定の細さに引き伸ばすステップである。ケーク形成ステップS2は、引き伸ばしステップS1で所定の細さに引き伸ばされた糸をポット16の内壁29に巻き付けてケーク24を形成するステップである。巻き返しステップS3は、ケーク24を形成している糸をボビン30へと巻き返すステップである。以下、各ステップに基づくポット精紡機1の動作について説明する。
【0048】
なお、ポット精紡機1を動作させる前は、吸篠管12に導糸管14が近接して配置されるとともに、ボビン支持部20のボビン支持部材32にボビン30が装着され、かつ、ボビン30がポット16よりも下方に退避して配置される。また、蓋50は閉塞位置に配置される。このため、固定カバー18のカバー開口部28は蓋50によって閉じられる。また、蓋50の突出部52は、ポット16の内側に入り込んで配置される。
【0049】
(引き伸ばしステップ)
引き伸ばしステップS1は、ドラフト装置10を用いて行われる。ドラフト駆動部62は、制御部61から与えられるドラフト駆動信号に基づいて駆動することにより、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23をそれぞれ所定の回転速度で回転させる。これにより、粗糸などの糸材料は、各々のローラ対21,22,23の回転に従って搬送される。
【0050】
その際、制御部61は、バックローラ対21の回転速度をミドルローラ対22の回転速度よりも低速に設定するとともに、ミドルローラ対22の回転速度をフロントローラ対23の回転速度よりも低速に設定する。これにより、バックローラ対21とミドルローラ対22との間では、それらのローラ対の回転速度差によって糸が引き伸ばされる。同様に、ミドルローラ対22とフロントローラ対23との間でも、それらのローラ対の回転速度差によって糸が引き伸ばされる。
【0051】
その結果、粗糸などの糸材料は、バックローラ対21、ミドルローラ対22およびフロントローラ対23を順に通過しながら所定の細さに引き伸ばされる。こうして引き伸ばされた糸25は、その後、空気の旋回流を利用して吸篠管12に引き込まれた後、糸導入口14aを通して導糸管14に導入される。
【0052】
また、制御部61は、引き伸ばしステップS1の開始に先立って、ポット駆動部64にポット駆動信号を与えることにより、ポット16を所定の回転数で回転させる。これに対し、固定カバー18は、ポット16が回転しているか否かにかかわらず常に停止している。
【0053】
(ケーク形成ステップ)
ケーク形成ステップS2は、導糸管14とポット16を用いて行われる。導糸管駆動部63は、制御部61から与えられる導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、導糸管14を所定量だけ下方に移動させる。また、ポット駆動部64は、制御部61から与えられるポット駆動信号に基づいて駆動することにより、ポット16の回転を継続する。なお、導糸管14を下方に移動させると、吸篠管12から導糸管14が離間した状態となる。また、吸篠管12から導糸管14に導入された糸25は、導糸管14の糸排出口14bから排出される。
【0054】
導糸管14の糸排出口14bから排出される糸25には、ポット16の回転によって遠心力が働き、この遠心力によって糸25がポット16の内壁29に押し付けられる。また、ポット16の内壁29に押し付けられる糸25は、ポット16の回転によって撚られる。その結果、導糸管14の糸排出口14bから排出される糸25は、ポット16の回転によって撚りを加えられた状態でポット16の内壁29に巻き付けられる。
【0055】
また、導糸管駆動部63は、上記導糸管駆動信号に基づいて駆動することにより、図7に示すように、導糸管14を所定の周期で繰り返し上下方向に往復移動させながら、導糸管14の位置を相対的に下方に変位させる。これにより、ポット16の内壁29に糸25が巻き付けられるとともに、その巻き付け位置をずらしながら糸25が積層される結果、ポット16の内壁29にケーク24が形成される。
【0056】
図8は、ケーク形成ステップにおける導糸管の動作を説明する図である。図中の縦軸は、ポット中心軸方向における導糸管の位置を示し、横軸は時間を示す。
図8において、導糸管14は、まず、P1位置まで下降した後、P2位置まで上昇し、次いでP3位置まで下降した後、P4位置まで上昇する。つまり、導糸管14は繰り返し上下方向に往復移動する。この場合、導糸管14がP1位置に到達してからP3位置に到達するまでの期間T1、および、導糸管14がP2位置に到達してからP4位置に到達するまでの期間T2が、それぞれ一周期となる。また、導糸管14の位置を相対的に下方に変位させるため、P3位置はP1位置よりも低位となり、P4位置はP2位置よりも低位となる。P1位置とP3位置との上下方向のズレ量H1、および、P2位置とP4位置との上下方向のズレ量H2は、それぞれ一周期における導糸管14の変位ステップ量となる。つまり、導糸管14は、一定の周期で繰り返し上下方向への往復移動を繰り返しながら、一定の変位ステップ量ずつ下方に変位する。このような導糸管14の動作は、導糸管14がPm位置に到達するまで続く。この場合、P1位置は、図1に示すケーク24の巻き始め側の端部24aを規定し、Pm位置は、同図に示すケーク24の巻き終わり側の端部24bを規定する。
【0057】
制御部61は、導糸管駆動部63に導糸管駆動信号を与えることにより、図7および図8に示すように導糸管14を動作させる。これにより、ポット16の内壁29には図7に示すような形状でケーク24が形成される。本実施形態では、ケーク形成ステップS2において、導糸管14の動作によりケーク24を形成した後、さらに次のような動作を行う。
【0058】
制御部61は、導糸管14がPm位置に到達した後、導糸管14を所定量Lhだけ下方に移動させる。これにより、ポット16の内壁29には、図9に示すように、ケーク24の巻き終わり側の端部24bよりもポット開口部26側の内壁領域29aに、ボビン30への巻き返し起点部となる糸部25aが巻き付けられる。この糸部25aは、1層で巻き付けてもよいし、複数層で巻き付けてもよい。糸部25aを1層で巻き付ける場合は、導糸管14をPm位置からPn位置へと下降させた段階で糸切りを行えばよい。また、糸部25aを複数層で巻き付ける場合は、導糸管14をPm位置からPn位置へと下降させてから、Pn位置よりも高い位置まで上昇させる動作を、少なくとも1回行った段階で糸切りを行えばよい。なお、所定量Lhは、好ましくは、3mm以上7mm以下である。
【0059】
ここで、「糸切り」と「糸切れ」の違いについて説明する。
糸切りは、ポット16の内壁29に予め決められた所定量の糸25が巻かれた段階で意図的に行われるものである。これに対し、糸切れは、ポット16の内壁29に所定量の糸25が巻かれる前に何らかの理由によって途中で糸25が切れてしまう現象である。
【0060】
糸切りは、制御部61の制御下で行われる。具体的には、制御部61は、フロントローラ対23の回転を継続したまま、バックローラ対21およびミドルローラ対22の回転を共に停止するように、ドラフト駆動部62の駆動を制御する。これにより、ミドルローラ対22の下流側で糸25が強制的に切られる。ケーク形成ステップS2は、上述のようにケーク形成および糸切りが行われた段階で終了となる。
【0061】
(蓋の技術的な意義について)
ここで、蓋50の技術的な意義について説明する。
蓋50は、ポット16の回転中に固定カバー18のカバー開口部28を蓋50で閉じることにより、以下の(1)~(3)の効果を発揮する。
(1)ポット16の風損を低減する。
(2)ポット16周囲の安全性を確保する。
(3)ポット16内への風綿の吸い込みを抑制する。
【0062】
また、蓋50は、糸切り時に導糸管14の糸排出口14bから排出される糸がポット16外に排出されることを抑制する機能と、糸切り時に導糸管14の糸排出口14bから排出される糸がポット16の内壁領域29aに張り付くように糸を導く機能を発揮する。以下、詳しく説明する。
【0063】
まず、ケーク形成を開始してから糸切りが行われるまでの間、蓋50は閉塞位置に配置されたままとなる。このため、ケーク形成と糸切りは、カバー開口部28を蓋50によって閉じた状態で行われる。また、カバー開口部28を蓋50によって閉じた状態では、蓋50の突出部52がポット16内に入り込んで配置される。
【0064】
このような状況のもとで糸切りを行うと、糸切りによって生じる糸端部分が下方向に急加速される。そして、糸に張力が働いている間は、導糸管14の糸排出口14bから排出される糸端部分がポット16の内壁に順に張り付くが、糸に働く張力が消滅すると図10に示すように導糸管14の糸排出口14bから糸端部分25bが飛び出す。このとき、蓋50の突出部52は、ポット開口部26を通してポット16内に入り込んで配置されているため、糸排出口14bから飛び出した糸端部分25bは、一旦、突出部52内側の凹部53に受け入れられる。
【0065】
次に、糸端部分25bは、突出部52によってポット16の内壁29に導かれる。具体的には、突出部52の内側に受け入れられた糸端部分25bが、ポット16の回転に連れ回りながら突出部52の突端52aを乗り越えてポット16の内壁29に張り付く。このとき、突出部52の突端52aを乗り越える糸端部分25bは、突端52aに沿ってポット16の内壁29に導かれる。このため、ポット16の内壁29に対して糸端部分25bが張り付く位置は、突出部52の突端52aとほぼ同じ高さ位置になる。これにより、図11に示すように、ポット16の内壁領域29a、すなわち糸の巻き返し基端部を形成すべき位置に糸端部分25bが張り付く。したがって、糸切りによって生じる糸端部分25bを含めて、巻き返し基端部を形成する糸をポット16の内壁領域29aに確実に巻き付けることができる。
【0066】
また、糸切りを行うにあたって、制御部61は、導糸管14の糸排出口14bが蓋50の突出部52の突端52aと同じ高さ位置に配置された状態、または糸排出口14bが突端52aよりも下方に配置された状態で糸切りを行うよう、ドラフト駆動部62および導糸管駆動部63を制御することが好ましい。このように制御することにより、糸切りによって生じる糸端部分25bを突出部52内側の凹部53に確実に受け入れることができる。したがって、ポット16の内壁29に対して糸端部分25bが張り付く位置を安定させることができる。
【0067】
なお、本発明を実施するにあたっては、導糸管14の糸排出口14bが蓋50の突出部52の突端52aよりも上方に配置された状態で糸切りを行ってもよい。その場合、固定カバー18のカバー開口部28を蓋50で閉じておけば、蓋50の突出部52がポット16内に入り込んで配置されるため、糸切りによって生じた糸端部分25bがポット16外に排出されることはない。ただし、ポット16の内壁29に対して糸端部分25bが張り付く位置を安定させるうえでは、導糸管14の糸排出口14bが蓋50の突出部52の突端52aと同じ高さ位置に配置された状態、あるいは突端52aよりも下方に配置された状態で糸切りを行うことが好ましい。
【0068】
(巻き返しステップ)
巻き返しステップS3は、ポット16とボビン30とエアーノズル33を用いて行われる。巻き返しステップS3は、ポット16の回転を継続した状態で行われる。巻き返しステップS3では、まず、制御部61から与えられる蓋駆動信号に基づいて蓋駆動部67が駆動することにより、蓋50を閉塞位置から開放位置へと移動させる。これにより、図12に示すように、固定カバー18のカバー開口部28が開放された状態になる。
【0069】
また、巻き返しステップS3では、制御部61から与えられる導糸管駆動信号に基づいて導糸管駆動部63が駆動するとともに、導糸管14を上方に移動させる。これにより、導糸管14は、ボビン30の進入に先立って、ボビン30と接触しない位置に退避する。また、巻き返しステップS3では、制御部61から与えられるレール駆動信号に基づいてレール駆動部65が駆動することにより、昇降レール31を上方に移動させる。これにより、ボビン支持部材32に装着されているボビン30と、昇降レール31に取り付けられているエアーノズル33は、共に上方に移動する。また、ボビン30とエアーノズル33は、カバー開口部28とポット開口部26とを順に通してポット16内に進入する。
【0070】
次に、制御部61は、上述したレール駆動部65の駆動によりポット16内へのボビン30の挿入を終えた後、ノズル駆動部66にノズル駆動信号を与えることにより、図13に示すように、エアーノズル33から圧縮空気34を噴出させる。圧縮空気34の噴出時間は、たとえば、0.2秒以上2秒以下の範囲内に設定するとよい。これにより、エアーノズル33から噴出された圧縮空気34が、ポット16の内壁29に対して斜め下向きに吹き付けられる。また、圧縮空気34は、ポット16の内壁領域29aに巻かれている糸部、すなわちボビン30への巻き返し起点部となる糸端部分25bに吹き付けられる。そうすると、糸端部分25bが圧縮空気34に押されてポット開口部26からポット16外に排出される。
【0071】
このように、エアーノズル33からの圧縮空気34の吹き付けによって糸端部分25bをポット16外に排出すると、糸端部分25bは、ポット16の回転に遅れて連れ回り、やがてボビン30に巻き付き始める。これにより、ポット16に対してボビン30の挿入を確実に終えた後に、ボビン30への巻き返しを開始することができる。
【0072】
その後、図14に示すように、ケーク24を形成していたすべての糸25がボビン30に巻き返されると、制御部61は、レール駆動部65にレール駆動信号を与えることにより、昇降レール31を下方に移動させる。これにより、巻き返しステップS3が終了となる。
【0073】
以上の動作により、所定量の糸25が巻き返されたボビン30、すなわち満管のボビン30が得られる。その後、満管のボビン30はボビン支持部材32から取り外された後、空のボビン30がボビン支持部材32に装着される。また、蓋50は、蓋駆動部67の駆動により閉塞位置に配置される。以降は、上記と同様の動作が繰り返される。
【0074】
<第1実施形態の効果>
本発明の第1実施形態においては、固定カバー18のカバー開口部28を開閉する蓋50を設けるとともに、カバー開口部28を蓋50で閉じた場合に、ポット16内に入り込んで配置される突出部52を利用して、糸をポット16の内壁29に導く構成を採用している。これにより、巻き返し基端部となる糸をポット16の内壁領域29aに確実に巻き付けることができる。したがって、回転中のポットから内蓋を取り外すなどの技術的な困難をともなうことなく、ボビン30への巻き返しの成功率を向上させることができる。
【0075】
また、本発明の第1実施形態においては、固定カバー18のカバー開口部28を蓋50で閉じた場合、ポット16の下端部16aを基準とする突出部52の入り込み量Lbが0.1mm以上確保されている。これにより、糸切りによって生じる糸端部分25bがポット16外に排出されることを突出部52によって効果的に抑制することができる。
【0076】
また、本発明の第1実施形態においては、導糸管14の糸排出口14bが蓋50の突出部52の突端52aと同じ高さ位置に配置された状態、または糸排出口14bが突出部52の突端52aよりも下方に配置された状態で糸切りを行うように、制御部61がドラフト駆動部62および導糸管駆動部63を制御する。これにより、ポット16の内壁29に対して糸端部分25bが張り付く位置を安定させることができる。
【0077】
[第2実施形態]
ところで、上述のように糸切りした場合、導糸管14の糸排出口14bから飛び出した糸の一部がポット16の内壁29から離れたまま、ポット16内の空間に存在する場合がある。このように、ポット16の内壁29から離れて存在する糸は「弦」と呼ばれる。本明細書では、弦を形成する糸を「弦糸」という。弦糸は、ポット16の回転にともなう遠心力を受けて湾曲するが、ポット16の内壁29に巻かれる糸からは離れて孤立して存在する。
【0078】
上述のようにポット16内の空間に弦糸が存在すると、たとえば、弦糸が導糸管14の外周面に接触することにより、弦糸が導糸管14に巻き付いてしまうことがある。また、これ以外にも、たとえば、ポット16内にボビン30を挿入する途中で弦糸がボビン30の外周面に接触し、これによってボビン30への巻き返しが想定よりも早く始まってしまうことがある。その結果、いずれの場合もボビン30への巻き返しに失敗してしまう。
【0079】
<ポット精紡機の構成>
そこで、本発明の第2実施形態においては、図15に示すように、弦糸の発生に起因する巻き返しの失敗を避けるために導糸管14にカッター71を設け、糸切れ時に糸端が導糸管14に巻き付くことを防止するためにガイド部材72を設け、これに対応して蓋50に所定寸法の凹部53を設けた構成を採用している。なお、本発明の第2実施形態においては、上述した第1実施形態と同様の構成部分に同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0080】
(カッター)
カッター71は、ポット16の内壁29から離れてポット16内の空間に存在する弦糸25c(図16参照)を切断するために設けられたものである。カッター71は円盤状に形成されている。カッター71の外周部には全周にわたって刃71aが形成されている。カッター71の刃71aは、導糸管14の中心軸方向から見て円形に形成されている。また、カッター71の刃71aは、糸25を切断できるように鋭利に形成されている。カッター71は、たとえば、超硬合金などの金属材料によって構成することができる。
【0081】
カッター71の中心部には、導糸管14の外径に対応する孔が形成され、この孔に導糸管14が挿入されている。カッター71の外周径は、カッター71の刃71aがケーク24に接触しないよう、ケーク24の最小内径よりも小さく設定されている。
【0082】
(ガイド部材)
ガイド部材72は、導糸管14の下端部に設けられている。ガイド部材72は、導糸管14の中心軸方向において、下側の直径が上側の直径よりも小さい台形円錐形状に形成されている。このため、ガイド部材72の外周面はテーパー面72aとなっている。ガイド部材72の上面はカッター71の下面に密着して配置されている。テーパー面72aは、糸切れ時に糸端が導糸管14に巻き付くことを防止するために形成された面である。
【0083】
ガイド部材72は、たとえば、セラミックス、金属などによって構成することができる。導糸管14とガイド部材72を共に金属材料によって構成する場合は、両者を一体構造で形成することができる。その場合の金属材料には、たとえばステンレス鋼などを適用することができる。また、導糸管14とガイド部材72を別構造とする場合は、導糸管14の外径に対応する径の貫通孔をガイド部材72に形成し、導糸管14に対して、たとえば接着、ネジ止め、圧入等によってガイド部材72を固定すればよい。一方、カッター71に関しては、導糸管14と一体構造とされたガイド部材72、あるいは、導糸管14に固定されたガイド部材72に対し、たとえば、ネジ止め、接着等によってカッター71を固定すればよい。また、カッター71を導糸管14に直接、固定してもよい。
【0084】
(蓋)
蓋50は、本体部51、突出部52および凹部53を一体に有している。凹部53は、カッター71およびガイド部材72と蓋50との干渉を避けるために突出部52の内側に形成されている。凹部53は、図17に示すように、本体部51の上面51aおよび下面51bよりも下方にへこんで形成されている。これにより、突出部52の突端52aを基準とする凹部53の深さ寸法Lcは、突出部52の突出寸法Laよりも大きく設定されている。また、導糸管14の下端部からカッター71の刃71aまでの高さ寸法をLdとすると、凹部53の深さ寸法Lcは上記高さ寸法Ldよりも大きく設定されている。また、凹部53の内径D3は、カッター71の外径D4よりも大きく設定されている。なお、ガイド部材72の下端部が導糸管14の下端部よりも下方に配置される場合は、ガイド部材72の下端部からカッター71の刃までの高さ寸法で上記Ldが規定されるものとする。
【0085】
<ポット精紡機の動作>
本発明の第2実施形態においては、ケーク形成ステップS2で図7および図8に示すように導糸管14を動作させた後、糸切りする。このとき、図16に示すように、導糸管14の糸排出口14bから飛び出した糸の一部が弦糸25cとなってポット16内に存在する場合がある。弦糸25cの両端は、ポット16の内壁29に巻かれる糸25に引っ掛かるかたちで支持される。このように、ポット16内に弦糸25cが存在すると、前述したとおり、弦糸25cが導糸管14の外周面に接触したり、あるいは、弦糸25cがボビン30の外周面に接触したりして、巻き返しに失敗するおそれがある。そこで、本第2実施形態のポット精紡機1では、ドラフト装置10によって糸切りした後、カッター71によって弦糸25cを切断するために導糸管14を所定量だけ下方に移動させる。
【0086】
ここで、カッター71が弦糸25cを切断するときの状況について説明する。
まず、ポット16内に弦糸25cが存在する状態で、導糸管14を下降させていくと、弦糸25cは、ガイド部材72のテーパー面72aに導かれて図18のようにカッター71に接触し、最終的にカッター71の刃71aによって切断される。こうして弦糸25cが切断されると、それまで弦糸25cを形成していた糸は、ポット16の回転にともなう遠心力によってポット16の内壁29に押し当てられる。その結果、ポット16内の空間から弦糸25cが消滅する。また、カッター71による弦糸25cの切断は、固定カバー18のカバー開口部28を蓋50で閉じた状態で行われる。このため、カッター71によって切断された弦糸25cがポット16外に排出されるおそれもない。
【0087】
また、弦糸25cは、蓋50の突出部52の突端52aよりも少し上方の位置、あるいは突端52aとほぼ同じ高さ位置に形成される。このため、弦糸25cをカッター71で切断するには、糸切りした後で導糸管14をさらに下方に移動させる必要がある。このとき、仮に凹部53の深さ寸法Lcが突出部52の突出寸法Laと同一に設定されていると、弦糸25cを切断する際に、導糸管14の下端部が凹部53の底面に突き当たり、カッター71を弦糸25cに接触させることができないおそれがある。
【0088】
これに対して、凹部53の深さ寸法Lcを少なくとも突出部52の突出寸法Laよりも大きく設定しておけば、弦糸25cを切断する際に、導糸管14の下降量をより大きく確保することができる。このため、カッター71の刃71aに弦糸25cを接触させやすくなる。また、凹部53の内径D3をカッター71の外径D4よりも大きく設定しておけば、蓋50の突出部52とカッター71の刃71aとの干渉を避けることができる。さらに、凹部53の深さ寸法Lcを上記高さ寸法Ldよりも大きく設定した場合には、突出部52の突端52aよりも下方位置までカッター71を下降させることができる。このため、突出部52の突端52aで弦糸25cを支持しながらカッター71の刃71aに弦糸25cを確実に接触させることができる。
【0089】
[第3実施形態]
<ポット精紡機の構成>
次に、本発明の第3実施形態に係るポット精紡機について説明する。
本発明の第3実施形態においては、図19に示すように、蓋50の凹部53の底面にガイド孔75を設けた構成を採用している。ガイド孔75は、ガイド部材72のテーパー面72aとの接触によって導糸管14の位置ずれを補正するものである。導糸管14の位置ずれは、ポット16の中心軸Kに対する導糸管14の芯ずれや傾きなどによって生じるものである。なお、本発明の第3実施形態においては、上述した第1実施形態および第2実施形態と同様の構成部分に同じ符号を付し、重複する説明は省略する。
【0090】
ガイド孔75は、凹部53の底面の中央部にすり鉢状に形成されている。ガイド孔75は、固定カバー18のカバー開口部28を蓋50で閉じた場合に、ポット16の中心軸Kと同軸状に配置される。ガイド孔75の内周には、ガイド部材72のテーパー面72aに対応するテーパーガイド面75aが形成されている。テーパーガイド面75aは、ガイド部材72のテーパー面72aと同じ方向に傾斜している。
【0091】
<ポット精紡機の動作>
本発明の第3実施形態においては、弦糸25cを切断するために導糸管14を下降動作させる場合に、導糸管14の位置がポット16の中心軸Kからずれていると、カッター71の刃71aが蓋50の突出部52に接触するおそれがある。これに対して、凹部53の底面にガイド孔75を形成しておけば、図20に示すように、ガイド部材72のテーパー面72aがガイド孔75のテーパーガイド面75aに接触することにより、導糸管14の位置がポット16の中心軸K側に寄せられる。これにより、導糸管14の位置ずれが補正される。このため、カッター71の刃71aが蓋50の突出部52に接触することを抑制することができる。
【0092】
<変形例等>
本発明の技術的範囲は上述した実施形態に限定されるものではなく、発明の構成要件やその組み合わせによって得られる特定の効果を導き出せる範囲において、種々の変更や改良を加えた形態も含む。
【0093】
たとえば、上記実施形態においては、ポット16を固定カバー18で直接囲む構成を例示したが、これに限らず、ポット16を図示しない回転カバーで囲み、この回転カバーを介してポット16を固定カバー18で囲む構成を採用してもよい。回転カバーは、ポット16と一体に回転するものである。
【0094】
また、固定カバー18のカバー開口部28を閉塞する蓋50の中心部には孔が形成されていてもよい。
【符号の説明】
【0095】
1 ポット精紡機、10 ドラフト装置、14 導糸管、14b 糸排出口、16 ポット、18 固定カバー、26 ポット開口部、28 カバー開口部、50 蓋、52 突出部、52a 突端、53 凹部、61 制御部、62 ドラフト駆動部、63 導糸管駆動部、71 カッター、71a 刃、72 ガイド部材、72a テーパー面、75 ガイド孔、75a テーパーガイド面、La 突出寸法、Lb 入り込み量、Lc 深さ寸法、Ld 高さ寸法。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11
図12
図13
図14
図15
図16
図17
図18
図19
図20