(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】空気入りタイヤ
(51)【国際特許分類】
B60C 19/08 20060101AFI20220117BHJP
B60C 11/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B60C19/08
B60C11/00 C
B60C11/00 D
B60C11/00 B
(21)【出願番号】P 2018537080
(86)(22)【出願日】2017-08-07
(86)【国際出願番号】 JP2017028652
(87)【国際公開番号】W WO2018043058
(87)【国際公開日】2018-03-08
【審査請求日】2020-08-04
(31)【優先権主張番号】P 2016172198
(32)【優先日】2016-09-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006714
【氏名又は名称】横浜ゴム株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】特許業務法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岸添 勇
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2014/049862(WO,A1)
【文献】国際公開第2005/077680(WO,A1)
【文献】特開平09-143311(JP,A)
【文献】特開2009-144131(JP,A)
【文献】特開平11-020426(JP,A)
【文献】特開2000-016010(JP,A)
【文献】特開2007-203961(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60C 19/08
B60C 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
カーカス層と、前記カーカス層の径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層の径方向外側に配置されるトレッドゴムとを備えると共に、複数の主溝と、前記主溝に区画された複数のブロックとをトレッド面に備える空気入りタイヤであって、
前記トレッドゴムが、前記トレッド面を構成するキャップトレッドと、前記キャップトレッドの下層に配置されるアンダートレッドと、前記キャップトレッドおよび前記アンダートレッドを貫通して前記ブロックの踏面に露出すると共に前記ベルト層に接触するアーストレッドとを備え、
前記キャップトレッドの300[%]伸張時のモジュラスが、3.0[Mpa]以上7.0[Mpa]以下の範囲にあり、
前記アンダートレッドの300[%]伸張時のモジュラスが、10.0[Mpa]以上20.0[Mpa]以下の範囲にあり、
前記アーストレッドの300[%]伸張時のモジュラスが、10.0[Mpa]以上20.0[Mpa]以下の範囲にあり、
前記アーストレッドが、1×10^7[Ω・cm]以下の体積抵抗率をもつゴム材料から成り、
前記アンダートレッドが、前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域に増厚部を備え、且つ、
前記アンダートレッドのゲージが、前記増厚部により、前記アーストレッドから前記ブロックのエッジ部に向かって漸増す
る、
前記アーストレッドの300[%]伸張時のモジュラスM_eaが、10.0[Mpa]≦M_ea≦20.0[Mpa]の範囲にあり、
前記キャップトレッドのモジュラスM_capと前記アーストレッドのモジュラスM_eaとが、5.0[Mpa]≦M_ea-M_capの関係を有し、且つ、
前記キャップトレッドのゴム硬さH_capと前記アーストレッドのゴム硬さH_eaとが、5≦H_ea-H_capの関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】
前記キャップトレッドのカーボンブラック体積分率×ジブチルフタレート吸油量/100の数値R_capが、5≦R_cap≦15の範囲にあり、
前記アンダートレッドのカーボンブラック体積分率×ジブチルフタレート吸油量/100の数値R_utが、15≦R_ut≦35の範囲にある請求項1に記載の空気入りタイヤ。
【請求項3】
タイヤ子午線方向の断面視にて、前記主溝の最大溝深さ位置から前記主溝の最大溝深さの20[%]の位置にある点を通り前記ブロックの踏面に平行な仮想線Lを定義し、
前記ブロックの踏面全体の幅W1と、仮想線Lを超えてタイヤ径方向外側に突出する前記アンダートレッドの部分の総幅W2とが、0.60≦W2/W1の関係を有する請求項1
または2に記載の空気入りタイヤ。
【請求項4】
前記キャップトレッドと前記アンダートレッドとの境界面が、前記ブロックの踏面に対して平行な状態で、あるいはタイヤ径方向内側に向かって湾曲しつつ、前記アーストレッドに接続する請求項1~
3のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域にて、前記アンダートレッドのゲージが最大値を取るときの前記アンダートレッドの外周面上の点P1を定義し、
前記主溝の最大深さ位置から点P1までの前記主溝の溝深さ方向の距離H1と、前記主溝の最大溝深さH0とが、H1/H0≦0.50の関係を有する請求項1~
4のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域にて、前記アンダートレッドのゲージが最大値Ga1を取るときの前記アンダートレッドの外周面上の点P1を定義し、
前記アーストレッドと点P1との間の領域にて、前記アンダートレッドのゲージが最小値Ga2を取るときの前記アンダートレッドの外周面上の点P2を定義し、
前記主溝の最大深さ位置から点P2までの前記主溝の溝深さ方向の距離H2と、前記主溝の最大溝深さH0とが、0.20≦H2/H0の関係を有する請求項1~
5のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
点P1および点P2における前記アンダートレッドのゲージGa1およびGa2が、0.5[mm]≦Ga1-Ga2≦3.0[mm]の関係を有する請求項
6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域における前記ブロックの踏面の幅W3と、前記ブロックの踏面全体の幅W1とが、0.20≦W3/W1の関係を有する請求項1~
7のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域にて、前記アンダートレッドのゲージが最大値Ga1を取るときの前記アンダートレッドの外周面上の点P1を定義し、
点P1から前記ブロックのエッジ部までのタイヤ幅方向の距離D1と、前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域における前記ブロックの踏面の幅W3とが、0.02≦D1/W3≦0.15の関係を有する請求項
8に記載の空気入りタイヤ。
【請求項10】
前記アンダートレッドの前記増厚部の幅W4と、前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域における前記ブロックの踏面の幅W3とが、0.30≦W4/W3≦0.70の関係を有する請求項
8または9に記載の空気入りタイヤ。
【請求項11】
前記ブロックの踏面における前記アーストレッドの幅We1と、前記ベルト層との接触部における前記アーストレッドの幅We2とが、We1<We2の関係を有する請求項1~
10のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
前記ブロックが、複数のサイプを備え、且つ、
前記サイプの最大深さ位置が、前記キャップトレッドと前記アンダートレッドとの境界面よりもタイヤ径方向内側にある請求項1~
11のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
前記ブロックが、前記ブロックの踏面にて前記アーストレッドをタイヤ幅方向に貫通する複数の細浅溝を備える請求項1~
12のいずれか一つに記載の空気入りタイヤ。
【請求項14】
カーカス層と、前記カーカス層の径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層の径方向外側に配置されるトレッドゴムとを備えると共に、複数の主溝と、前記主溝に区画された複数のブロックとをトレッド面に備える空気入りタイヤであって、
前記トレッドゴムが、前記トレッド面を構成するキャップトレッドと、前記キャップトレッドの下層に配置されるアンダートレッドと、前記キャップトレッドおよび前記アンダートレッドを貫通して前記ブロックの踏面に露出すると共に前記ベルト層に接触するアーストレッドとを備え、
前記キャップトレッドの300[%]伸張時のモジュラスが、3.0[Mpa]以上7.0[Mpa]以下の範囲にあり、
前記アンダートレッドの300[%]伸張時のモジュラスが、10.0[Mpa]以上20.0[Mpa]以下の範囲にあり、
前記アーストレッドの300[%]伸張時のモジュラスが、10.0[Mpa]以上20.0[Mpa]以下の範囲にあり、
前記アーストレッドが、1×10^7[Ω・cm]以下の体積抵抗率をもつゴム材料から成り、
前記アンダートレッドが、前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域に増厚部を備え、且つ、
前記アンダートレッドのゲージが、前記増厚部により、前記アーストレッドから前記ブロックのエッジ部に向かって漸増す
る、
前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域における前記ブロックの踏面の幅W3と、前記ブロックの踏面全体の幅W1とが、0.20≦W3/W1の関係を有し、
前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域にて、前記アンダートレッドのゲージが最大値Ga1を取るときの前記アンダートレッドの外周面上の点P1を定義し、且つ、
点P1から前記ブロックのエッジ部までのタイヤ幅方向の距離D1と、前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域における前記ブロックの踏面の幅W3とが、0.02≦D1/W3≦0.15の関係を有することを特徴とする空気入りタイヤ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、空気入りタイヤに関し、さらに詳しくは、タイヤの氷上性能を維持しつつ、タイヤの耐セパレーション性能を向上できる空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
スタッドレスタイヤでは、タイヤの氷上性能および雪上性能だけでなく、ウェット性能や転がり抵抗を向上させるべき要請がある。このため、近年では、キャップトレッドのゴムコンパウンドにおけるシリカ含有量を増加させたトレッド構造が採用されている。
【0003】
一方、シリカは絶縁特性が高いため、キャップトレッドのシリカ含有量が増加すると、キャップトレッドの電気抵抗値が増加する。すると、タイヤから路面への放電性が低下して、タイヤの帯電抑制性能が低下する。このため、近年のスタッドレスタイヤでは、アーストレッドを含む帯電抑制構造が採用されている。かかる構造を採用する従来の空気入りタイヤとして、特許文献1、2に記載される技術が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特許第3964511号公報
【文献】特許第4220569号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、キャップトレッドのシリカ含有量が増加すると、アーストレッドとキャップトレッドとの間のモジュラスの差が大きくなる。すると、アーストレッドとキャップトレッドとの間の接地圧の差が大きくなり、アーストレッドとキャップトレッドとの境界面でセパレーションが生じ易いという課題がある。
【0006】
そこで、この発明は、上記に鑑みてなされたものであって、タイヤの氷上性能を維持しつつ、タイヤの耐セパレーション性能を向上できる空気入りタイヤを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、この発明にかかる空気入りタイヤは、カーカス層と、前記カーカス層の径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層の径方向外側に配置されるトレッドゴムとを備えると共に、複数の主溝と、前記主溝に区画された複数のブロックとをトレッド面に備える空気入りタイヤであって、前記トレッドゴムが、前記トレッド面を構成するキャップトレッドと、前記キャップトレッドの下層に配置されるアンダートレッドと、前記キャップトレッドおよび前記アンダートレッドを貫通して前記ブロックの踏面に露出すると共に前記ベルト層に接触するアーストレッドとを備え、前記キャップトレッドの300[%]伸張時のモジュラスが、3.0[Mpa]以上7.0[Mpa]以下の範囲にあり、前記アンダートレッドの300[%]伸張時のモジュラスが、10.0[Mpa]以上20.0[Mpa]以下の範囲にあり、前記アーストレッドの300[%]伸張時のモジュラスが、10.0[Mpa]以上20.0[Mpa]以下の範囲にあり、前記アーストレッドが、1×10^7[Ω・cm]以下の体積抵抗率をもつゴム材料から成り、前記アンダートレッドが、前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域に増厚部を備え、且つ、前記アンダートレッドのゲージが、前記増厚部により、前記アーストレッドから前記ブロックのエッジ部に向かって漸増する、前記アーストレッドの300[%]伸張時のモジュラスM_eaが、10.0[Mpa]≦M_ea≦20.0[Mpa]の範囲にあり、前記キャップトレッドのモジュラスM_capと前記アーストレッドのモジュラスM_eaとが、5.0[Mpa]≦M_ea-M_capの関係を有し、且つ、前記キャップトレッドのゴム硬さH_capと前記アーストレッドのゴム硬さH_eaとが、5≦H_ea-H_capの関係を有することを特徴とする。
また、この発明にかかる空気入りタイヤは、カーカス層と、前記カーカス層の径方向外側に配置されるベルト層と、前記ベルト層の径方向外側に配置されるトレッドゴムとを備えると共に、複数の主溝と、前記主溝に区画された複数のブロックとをトレッド面に備える空気入りタイヤであって、前記トレッドゴムが、前記トレッド面を構成するキャップトレッドと、前記キャップトレッドの下層に配置されるアンダートレッドと、前記キャップトレッドおよび前記アンダートレッドを貫通して前記ブロックの踏面に露出すると共に前記ベルト層に接触するアーストレッドとを備え、前記キャップトレッドの300[%]伸張時のモジュラスが、3.0[Mpa]以上7.0[Mpa]以下の範囲にあり、前記アンダートレッドの300[%]伸張時のモジュラスが、10.0[Mpa]以上20.0[Mpa]以下の範囲にあり、前記アーストレッドの300[%]伸張時のモジュラスが、10.0[Mpa]以上20.0[Mpa]以下の範囲にあり、前記アーストレッドが、1×10^7[Ω・cm]以下の体積抵抗率をもつゴム材料から成り、前記アンダートレッドが、前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域に増厚部を備え、且つ、前記アンダートレッドのゲージが、前記増厚部により、前記アーストレッドから前記ブロックのエッジ部に向かって漸増する、前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域における前記ブロックの踏面の幅W3と、前記ブロックの踏面全体の幅W1とが、0.20≦W3/W1の関係を有し、前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域にて、前記アンダートレッドのゲージが最大値Ga1を取るときの前記アンダートレッドの外周面上の点P1を定義し、且つ、点P1から前記ブロックのエッジ部までのタイヤ幅方向の距離D1と、前記アーストレッドと前記ブロックのエッジ部との間の領域における前記ブロックの踏面の幅W3とが、0.02≦D1/W3≦0.15の関係を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
この発明にかかる空気入りタイヤでは、キャップトレッドの300[%]伸張時のモジュラスが3.0[Mpa]以上7.0[Mpa]以下の範囲にあることにより、キャップトレッドのモジュラスM_capが適正化されて、タイヤの氷上性能(特に氷上制動性能)が向上する利点がある。また、アンダートレッドの増厚部が、アーストレッドからブロックのエッジ部に向かってアンダートレッドのゲージGaを漸増させるので、アーストレッドとキャップトレッドとの境界部におけるブロック踏面の接地圧差が均一化されて、上記境界部におけるセパレーションの発生が抑制される利点がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。
【
図2】
図2は、
図1に記載した空気入りタイヤのブロックを示す平面図である。
【
図3】
図3は、
図2に記載したブロックの内部構造を示す説明図である。
【
図4】
図4は、
図2に記載したブロックの内部構造を示す説明図である。
【
図5】
図5は、
図2に記載したブロックの内部構造を示す説明図である。
【
図6】
図6は、
図3に記載したブロックの変形例を示す説明図である。
【
図7】
図7は、
図3に記載したブロックの変形例を示す説明図である。
【
図8】
図8は、
図3に記載したブロックの変形例を示す説明図である。
【
図9】
図9は、
図3に記載したブロックの変形例を示す説明図である。
【
図10】
図10は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、この発明につき図面を参照しつつ詳細に説明する。なお、この実施の形態によりこの発明が限定されるものではない。また、この実施の形態の構成要素には、発明の同一性を維持しつつ置換可能かつ置換自明なものが含まれる。また、この実施の形態に記載された複数の変形例は、当業者自明の範囲内にて任意に組み合わせが可能である。
【0011】
[空気入りタイヤ]
図1は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤを示すタイヤ子午線方向の断面図である。同図は、タイヤ径方向の片側領域を示している。また、同図は、空気入りタイヤの一例として、乗用車用ラジアルタイヤを示している。なお、符号CLは、タイヤ赤道面である。また、タイヤ幅方向とは、タイヤ回転軸(図示省略)に平行な方向をいい、タイヤ径方向とは、タイヤ回転軸に垂直な方向をいう。
【0012】
この空気入りタイヤ1は、タイヤ回転軸を中心とする環状構造を有し、一対のビードコア11、11と、一対のビードフィラー12、12と、カーカス層13と、ベルト層14と、トレッドゴム15と、一対のサイドウォールゴム16、16と、一対のリムクッションゴム17、17とを備える(
図1参照)。
【0013】
一対のビードコア11、11は、環状構造を有し、左右のビード部のコアを構成する。一対のビードフィラー12、12は、一対のビードコア11、11のタイヤ径方向外周にそれぞれ配置されてビード部を補強する。
【0014】
カーカス層13は、左右のビードコア11、11間にトロイダル状に架け渡されてタイヤの骨格を構成する。また、カーカス層13の両端部は、ビードコア11およびビードフィラー12を包み込むようにタイヤ幅方向外側に巻き返されて係止される。また、カーカス層13は、スチールあるいは有機繊維材(例えば、アラミド、ナイロン、ポリエステル、レーヨンなど)から成る複数のカーカスコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で80[deg]以上95[deg]以下のカーカス角度(タイヤ周方向に対するカーカスコードの繊維方向の傾斜角)を有する。なお、
図1の構成では、カーカス層13が単一のカーカスプライから成る単層構造を有するが、これに限らず、カーカス層13が複数のカーカスプライを積層して成る多層構造を有しても良い。
【0015】
ベルト層14は、一対の交差ベルト141、142と、ベルトカバー143とを積層して成り、カーカス層13の外周に掛け廻されて配置される。一対の交差ベルト141、142は、スチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードをコートゴムで被覆して圧延加工して構成され、絶対値で20[deg]以上40[deg]以下のベルト角度を有する。また、一対の交差ベルト141、142は、相互に異符号のベルト角度(タイヤ周方向に対するベルトコードの繊維方向の傾斜角)を有し、ベルトコードの繊維方向を相互に交差させて積層される(クロスプライ構造)。ベルトカバー143は、コートゴムで被覆されたスチールあるいは有機繊維材から成る複数のベルトコードを圧延加工して構成され、絶対値で-10[deg]以上10[deg]以下のベルト角度を有する。また、ベルトカバー143は、交差ベルト141、142のタイヤ径方向外側に積層されて配置される。
【0016】
トレッドゴム15は、カーカス層13およびベルト層14のタイヤ径方向外周に配置されてタイヤのトレッド部を構成する。また、トレッドゴム15は、キャップトレッド151と、アンダートレッド152と、左右のウイングチップ153、153とを備える。キャップトレッド151は、トレッドパターンを有し、トレッドゴム15の露出部分(トレッド踏面など)を構成する。アンダートレッド152は、キャップトレッド151とベルト層14との間に配置されて、トレッドゴム15のベース部分を構成する。ウイングチップ153は、キャップトレッド151のタイヤ幅方向の左右の端部にそれぞれ配置されて、バットレス部の一部を構成する。
【0017】
例えば、
図1の構成では、キャップトレッド151がアンダートレッド152をベルト層14との間に挟み込みつつアンダートレッド152の全体を覆って積層されている。また、ウイングチップ153、153が、キャップトレッド151の左右の端部と左右のサイドウォールゴム16、16との境界部にそれぞれ配置されて、バットレス部の表面に露出している。
【0018】
一対のサイドウォールゴム16、16は、カーカス層13のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて左右のサイドウォール部を構成する。例えば、
図1の構成では、サイドウォールゴム16のタイヤ径方向外側の端部が、トレッドゴム15の下層に挿入されて、トレッドゴム15とカーカス層13との間に挟み込まれて配置されている。
【0019】
一対のリムクッションゴム17、17は、左右のビードコア11、11およびビードフィラー12、12のタイヤ幅方向外側にそれぞれ配置されて、左右のビード部を構成する。例えば、
図1の構成では、リムクッションゴム17のタイヤ径方向外側の端部が、サイドウォールゴム16の下層に挿入されて、サイドウォールゴム16とカーカス層13との間に挟み込まれて配置されている。
【0020】
[トレッドのブロック]
図2は、
図1に記載した空気入りタイヤのブロックを示す平面図である。同図は、後述するアーストレッド7を有するブロック5を示している。なお、タイヤ周方向とは、タイヤ回転軸周りの方向をいう。
【0021】
空気入りタイヤ1は、タイヤ周方向に延在する複数の周方向溝21~24と、これらの周方向溝に区画された複数の陸部31~33とをトレッド面に備える(
図1参照)。また、これらの陸部31~33が、タイヤ幅方向に延在する複数のラグ溝4と、これらのラグ溝4に区画されて成る複数のブロック5(
図2参照)とを備える。
【0022】
主溝とは、JATMAに規定されるウェアインジケータの表示義務を有する溝であり、一般に、5.0[mm]以上の溝幅および6.5[mm]以上の溝深さを有する。また、ラグ溝とは、タイヤ幅方向に延在する横溝であり、一般に1.0[mm]以上の溝幅および3.0[mm]以上の溝深さを有する。また、後述するサイプとは、トレッド踏面に形成された切り込みであり、一般に1.0[mm]未満のサイプ幅および2.0[mm]以上のサイプ深さを有することにより、タイヤ接地時に閉塞する。
【0023】
溝幅は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、溝開口部における左右の溝壁の距離の最大値として測定される。陸部が切欠部や面取部をエッジ部に有する構成では、溝長さ方向を法線方向とする断面視にて、トレッド踏面と溝壁の延長線との交点を基準として、溝幅が測定される。また、溝がタイヤ周方向にジグザグ状あるいは波状に延在する構成では、溝壁の振幅の中心線を基準として、溝幅が測定される。
【0024】
溝深さは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、トレッド踏面から溝底までの距離の最大値として測定される。また、溝が部分的な凹凸部やサイプを溝底に有する構成では、これらを除外して溝深さが測定される。
【0025】
サイプ幅は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、陸部の踏面におけるサイプの開口幅の最大値として測定される。
【0026】
サイプ深さは、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を充填した無負荷状態にて、トレッド踏面からサイプ底までの距離の最大値として測定される。また、サイプが部分的な凹凸部を溝底に有する構成では、これらを除外してサイプ深さが測定される。
【0027】
規定リムとは、JATMAに規定される「適用リム」、TRAに規定される「Design Rim」、あるいはETRTOに規定される「Measuring Rim」をいう。また、規定内圧とは、JATMAに規定される「最高空気圧」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「INFLATION PRESSURES」をいう。また、規定荷重とは、JATMAに規定される「最大負荷能力」、TRAに規定される「TIRE LOAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES」の最大値、あるいはETRTOに規定される「LOAD CAPACITY」をいう。ただし、JATMAにおいて、乗用車用タイヤの場合には、規定内圧が空気圧180[kPa]であり、規定荷重が最大負荷能力の88[%]である。
【0028】
例えば、
図1の構成では、タイヤ赤道面CLを境界とする一方の領域(図面左側の領域)が2本の周方向主溝21、22を備え、他方の領域(図面右側の領域)が1本の周方向主溝23と1本の周方向細溝24とを備えている。また、周方向細溝24が、他方の領域にてタイヤ幅方向の最も外側にある。また、これらの周方向溝21~24により、5列の陸部31~33が区画されている。また、これらの陸部31~33が、左右一対のショルダー陸部31、31と、左右一対のセカンド陸部32、32と、センター陸部33とから構成されている。また、センター陸部33が、タイヤ赤道面CL上にある。また、
図2に示すように、センター陸部33が、一対の周方向主溝22、23と、一対のラグ溝4、4とに区画されて成るブロック5を備えている。また、ブロック5が矩形状ないしは平行四辺形状の踏面を有している。
【0029】
なお、上記に限らず、3本あるいは5本以上の周方向溝が配置されても良いし、
図1の周方向細溝24に代えて周方向主溝が配置されても良い(図示省略)。また、1つの周方向溝がタイヤ赤道面CL上に位置することにより、センター陸部33がタイヤ赤道面CLから外れた位置に配置されても良い(図示省略)。
【0030】
また、
図2の構成では、センター陸部33を区画する左右の周方向主溝22、23が、ストレート形状を有している。しかし、これに限らず、周方向主溝22、23が、タイヤ幅方向に振幅を有するジグザグ形状、波状形状あるいはステップ形状を有しても良い(図示省略)。
【0031】
また、
図1および
図2の構成では、上記のように、空気入りタイヤ1が、タイヤ周方向に延在する周方向溝21~24を備え、また、センター陸部33が、隣り合う周方向主溝22、23とラグ溝4、4とに区画されて成るブロック5を備えている。しかし、これに限らず、空気入りタイヤ1が、周方向溝21~24に代えて、タイヤ周方向に対して所定角度で傾斜しつつ延在する複数の傾斜主溝を備えても良い(図示省略)。例えば、空気入りタイヤ1が、タイヤ周方向に凸となるV字形状を有すると共に、タイヤ幅方向に延在して左右のトレッド端に開口する複数のV字傾斜主溝と、隣り合うV字傾斜主溝を接続する複数のラグ溝と、これらのV字傾斜主溝およびラグ溝に区画された複数の陸部とを備えても良い(図示省略)。かかる構成においても、隣り合う傾斜主溝に区画されたブロックを定義できる。
【0032】
また、空気入りタイヤ1が、タイヤの車両装着時にて、周方向細溝24(
図1参照)側を車幅方向外側にして車両に装着すべき指定を有することが好ましい。かかる装着方向表示部は、例えば、タイヤのサイドウォール部に付されたマークや凹凸によって構成される。例えば、ECER30(欧州経済委員会規則第30条)が、車両装着状態にて車幅方向外側となるサイドウォール部に装着方向表示部を設けることを義務付けている。
【0033】
また、空気入りタイヤ1が、スノータイヤ、特にスタッドレスタイヤであることが好ましい。スタッドレスタイヤである旨の表示部は、例えば、タイヤのサイドウォール部に付されたマークや凹凸によって構成される。
【0034】
[アーストレッドを含む帯電抑制構造]
スタッドレスタイヤでは、タイヤの氷上性能および雪上性能だけでなく、ウェット性能や転がり抵抗を向上させるべき要請がある。このため、近年では、キャップトレッドのゴムコンパウンドにおけるシリカ含有量を増加させたトレッド構造が採用されている。
【0035】
一方、シリカは絶縁特性が高いため、キャップトレッドのシリカ含有量が増加すると、キャップトレッドの電気抵抗値が増加する。すると、タイヤから路面への放電性が低下して、タイヤの帯電抑制性能が低下する。このため、近年のスタッドレスタイヤでは、アーストレッドを含む帯電抑制構造が採用されている。
【0036】
しかしながら、キャップトレッドのシリカ含有量が増加すると、キャップトレッドのモジュラスが低下し、アーストレッドとキャップトレッドとの間のモジュラスの差が大きくなる。すると、アーストレッドの接地圧が増加し、アーストレッドとキャップトレッドとの間の接地圧の差が大きくなる。このため、アーストレッドとキャップトレッドとの境界面におけるセパレーションや、アーストレッドとキャップトレッドとの間の段差摩耗などが生じ易いという課題がある。特に、スタッドレスタイヤでは、氷上性能および雪上性能を確保するために、多数のサイプおよび深い溝深さをもつブロックパターンが広く採用され、同時に、ブロック剛性を確保するために、アンダートレッドのゲージがサマータイヤと比較して厚く設定されている。このため、上記したセパレーションや段差摩耗が発生し易い傾向にある。
【0037】
そこで、この空気入りタイヤ1は、タイヤの氷上性能および帯電抑制性能を確保しつつ、ブロック踏面におけるセパレーションや段差摩耗を抑制するために、以下の構成を採用している。
【0038】
キャップトレッド151は、1×10^10[Ω・cm]以上の体積抵抗率をもつゴム材料から成る。かかるキャップトレッド151は、例えば、ゴム基材100重量部中に、シリカを65重量部以上で配合し、カーボンブラックを30重量部以下、好ましくは10重量部以下、さらに好ましくは実質的に含まない絶縁性ゴム材が採用される。なお、ゴム基材は、例えば、天然ゴム(NR)、スチレン・ブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、イソプレインゴム(IR)等のジエン系ゴムの一種類もしくは複数種類を組み合わせて生成され得る。また、例えば、硫黄、加硫促進剤、老化防止剤等の公知の添加剤が添加されても良い。
【0039】
体積抵抗率は、JIS-K6271規定の「加硫ゴム及び熱可塑性ゴム-体積抵抗率及び表面抵抗率の求め方」に基づいて測定される。一般に、電気抵抗率が1×10^8[Ω・cm]未満の範囲にあれば、部材が静電気の帯電を抑制できる導電性を有するといえる。
【0040】
また、キャップトレッド151の300[%]伸張時のモジュラスM_capが、3.0[Mpa]≦M_cap≦7.0[Mpa]の範囲にあることが好ましく、4.0[Mpa]≦M_cap≦6.0[Mpa]の範囲にあることがより好ましい。これにより、キャップトレッド151のモジュラスM_capが適正化されて、タイヤの氷上性能が高められ、また、タイヤのウェット性能および低転がり抵抗性が確保される。
【0041】
モジュラス(破断強度)は、JIS-K6251(3号ダンベル使用)に準拠して、ダンベル状試験片を用いた温度20[℃]での引張試験により測定される。
【0042】
また、キャップトレッド151のカーボンブラック体積分率×ジブチルフタレート吸油量/100の数値R_capが、5≦R_cap≦15の範囲にあることが好ましく、7≦R_cap≦10の範囲にあることがより好ましい。これにより、キャップトレッド151のモジュラス数値R_capが適正化されて、タイヤの氷上性能が確保される。
【0043】
カーボンブラック体積分率は、混合物中のすべての成分の体積の合計に対するカーボンブラックの体積の割合として定義される。ジブチルフタレート吸油量は、カーボンブラックにおけるジブチルフタレートの吸収量として定義され、JIS-K6217-4吸油量A法に準拠して測定される。
【0044】
また、キャップトレッド151のゴム硬さH_capが、45≦H_cap≦70の範囲にあることが好ましく、46≦H_cap≦55の範囲にあることがより好ましい。したがって、キャップトレッド151のゴム硬さH_capが、一般的なサマータイヤよりも低い範囲に設定される。これにより、キャップトレッド151のゴム硬さH_capが適正化されて、タイヤの氷上性能および雪上性能が高められ、また、タイヤのウェット性能および低転がり抵抗性が確保される。
【0045】
ゴム硬さHsは、JIS-K6253に準拠したJIS-A硬度として測定される。
【0046】
また、キャップトレッド151の損失正接tanδ_capが、0.05≦tanδ_cap≦0.30の範囲内にあることが好ましく、0.12≦tanδ_cap≦0.20の範囲にあることがより好ましい。これにより、キャップトレッド151の損失正接tanδ_capが適正化されて、タイヤのウェット性能および低転がり抵抗性が確保される。
【0047】
損失正接tanδは、(株)東洋精機製作所製の粘弾性スペクトロメーターを用いて、温度60[℃]、剪断歪み10[%]、振幅±0.5[%]および周波数20[Hz]の条件で測定される。
【0048】
アンダートレッド152は、1×10^10[Ω・cm]以下の体積抵抗率をもつゴム材料から成る。アンダートレッド152がかかる低い抵抗率を有することにより、ベルト層14からアンダートレッド152を介してアーストレッド7に至る導電経路が確保される。
【0049】
また、アンダートレッド152の300[%]伸張時のモジュラスM_utが、10.0[Mpa]≦M_ut≦20.0[Mpa]の範囲にあることが好ましく、13.0[Mpa]≦M_ut≦18.0[Mpa]の範囲にあることがより好ましい。したがって、アンダートレッド152のモジュラスM_utが、キャップトレッド151のモジュラスM_capよりも大きい。具体的には、キャップトレッド151のモジュラスM_capとアンダートレッド152のモジュラスM_utとが、7.0[Mpa]≦M_ut-M_cap≦14.0[Mpa]の関係を有する。
【0050】
また、アンダートレッド152のカーボンブラック体積分率×ジブチルフタレート吸油量/100の数値R_utが、15≦R_ut≦35の範囲にあることが好ましく、16≦R_ut≦25の範囲にあることがより好ましい。また、アンダートレッド152の数値R_utが、キャップトレッド151の数値R_capよりも大きい。具体的には、キャップトレッド151の数値R_capとアンダートレッド152の数値R_utとが、5≦R_ut-R_cap≦18の関係を有する。
【0051】
また、アンダートレッド152のゴム硬さH_utが、53≦H_ut≦78の範囲にあることが好ましく、55≦H_ut≦70の範囲にあることがより好ましい。また、アンダートレッド152のゴム硬さH_utが、キャップトレッド151のゴム硬さH_capよりも高い。具体的には、キャップトレッドのゴム硬さH_capとアンダートレッド152のゴム硬さH_utとが、5≦H_ut-H_cap≦25の関係を有する。これにより、ブロック5の剛性が、アンダートレッド152により適正に確保される。
【0052】
また、アンダートレッド152の損失正接tanδ_utが、0.03≦tanδ_ut≦0.25の範囲内にあることが好ましく、0.10≦tanδ_ut≦0.15の範囲にあることがより好ましい。また、アンダートレッド152の損失正接tanδ_utが、キャップトレッド151の損失正接tanδ_capよりも小さい。具体的には、キャップトレッド151の損失正接tanδ_capとアンダートレッド152の損失正接tanδ_utとが、0.01≦tanδ_cap-tanδ_utの関係を有することが好ましく、0.02≦tanδ_cap-tanδ_utの関係を有することがより好ましい。かかる構成では、低発熱性のアンダートレッド152が用いられることにより、アンダートレッド152とキャップトレッド151およびベルト層14との接触部におけるセパレーションが抑制される。
【0053】
その他、カーカス層13のコードゴム、ベルト層14の各ベルトプライ141~143のコートゴムの体積抵抗率、ならびに、リムクッションゴム17が、いずれも1×10^7[Ω・cm]以下の体積抵抗率をもつゴム材料から成る。
【0054】
アーストレッド7は、キャップトレッド151を貫通してトレッド踏面に露出する導電性ゴム部材であり、タイヤ内部から路面への導電経路を構成する。
【0055】
また、アーストレッド7は、キャップトレッド151よりも低い電気抵抗率をもつゴム材料から成る。具体的には、アーストレッド7が、1×10^7[Ω・cm]以下の体積抵抗率をもつゴム材料から成ることが好ましい。また、アーストレッド7が、アンダートレッド152よりも低い電気抵抗率をもつゴム材料から成ることが好ましい。かかるアーストレッド7は、例えば、ジエン系のゴム基材100重量部中に、カーボンブラックを40重量部以上、好ましくは45~70重量部配合することにより、生成される。また、導電性を高めるために、例えば、帯電抑制剤、導電性可塑剤、金属塩等の導電剤が添加されても良い。
【0056】
また、アーストレッド7の300[%]伸張時のモジュラスM_eaが、10.0[Mpa]≦M_ea≦20.0[Mpa]の範囲にあることが好ましく、13.0[Mpa]≦M_ea≦18.0[Mpa]の範囲にあることがより好ましい。したがって、アーストレッド7のモジュラスM_eaが、キャップトレッド151のモジュラスM_capよりも大きい。これにより、ブロック5の剛性が適正に確保される。また、キャップトレッド151のモジュラスM_capとアーストレッド7のモジュラスM_eaとが、7.0[Mpa]≦M_ea-M_cap≦14.0[Mpa]の関係を有する。
【0057】
また、アーストレッド7のカーボンブラック体積分率×ジブチルフタレート吸油量/100の数値R_eaが、15≦R_ea≦35の範囲にあることが好ましく、16≦R_ea≦25の範囲にあることがより好ましい。また、アーストレッド7の数値R_eaが、キャップトレッド151の数値R_capよりも大きい。具体的には、キャップトレッド151の数値R_capとアーストレッド7の数値R_eaとが、5≦R_ea-R_cap≦18の関係を有する。
【0058】
また、アーストレッド7のゴム硬さH_eaが、53≦H_ea≦78の範囲にあることが好ましく、55≦H_ea≦70の範囲にあることがより好ましい。また、アーストレッド7のゴム硬さH_eaが、キャップトレッド151のゴム硬さH_capよりも高い。具体的には、キャップトレッド151のゴム硬さH_capとアーストレッド7のゴム硬さH_eaとが、5≦H_ea-H_cap≦25の関係を有する。
【0059】
また、アーストレッド7の損失正接tanδ_eaが、0.03≦tanδ_ea≦0.25の範囲内にあることが好ましく、0.10≦tanδ_ea≦0.15の範囲にあることがより好ましい。また、アーストレッド7の損失正接tanδ_eaが、キャップトレッド151の損失正接tanδ_capよりも小さい。具体的には、キャップトレッド151の損失正接tanδ_capとアーストレッド7の損失正接tanδ_eaとが、0.01≦tanδ_cap-tanδ_eaの関係を有することが好ましく、0.02≦tanδ_cap-tanδ_eaの関係を有することがより好ましい。かかる構成では、低発熱性のアーストレッド7が用いられることにより、アーストレッド7とキャップトレッド151との接触部におけるセパレーションが抑制される。
【0060】
上記の構成では、車両走行時に車体で発生した静電気が、リム10からリムクッションゴム17およびカーカス層13を通ってベルト層14に流れ、ベルト層14からアンダートレッド152およびアーストレッド7を通って路面に放出される。これにより、車両の帯電が抑制される。また、リムクッションゴム17、カーカス層13のコートゴムおよびベルト層14のコートゴムが導電経路となるため、これらの電気抵抗率が低く設定されることが好ましい。
【0061】
また、上記のように、この空気入りタイヤ1では、アーストレッド7とアンダートレッド152とが相互に異なるゴム材料から成る。例えば、アーストレッド7が、上記した導電材を含むことにより、アンダートレッド152よりも低い電気抵抗率を有する。なお、この実施の形態では、上記のように、アーストレッド7の物性値の範囲がアンダートレッド152の物性値の範囲に重複する。一方で、アーストレッド7の物性値(特に、モジュラスM_ea、数値R_ea、ゴム硬さH_eaおよび損失正接tanδ_ea)の一部あるいは全部が、アンダートレッド152の物性値に対して相違しても良い。
【0062】
[アンダートレッドの増厚部]
図3~
図5は、
図2に記載したブロックの内部構造を示す説明図である。これらの図において、
図3は、
図2に記載したセンター陸部33のブロック5のタイヤ子午線方向の断面図を示し、
図4および
図5は、
図3に記載したブロックの要部拡大図を示している。
【0063】
この空気入りタイヤ1では、スタッドレスタイヤで多く採用されるブロックパターンを備え、また、各ブロック5が複数のサイプ6(
図2参照)を有することにより、タイヤの氷上性能および雪上性能が高められている。
【0064】
例えば、
図2の構成では、センター陸部33(
図1参照)のブロック5がタイヤ周方向に長尺な矩形状ないしは平行四辺形状を有している。また、ブロック5が、実質的にタイヤ幅方向に延在する複数のサイプ6を備えている。
【0065】
また、アーストレッド7が、キャップトレッド151およびアンダートレッド152を貫通してセンター陸部33のブロック5の踏面に露出し(
図1参照)、また、タイヤ全周に渡って連続的に延在する環状構造を有している。このとき、アーストレッド7がタイヤ赤道面CLから外れた位置に配置されても良いし、タイヤ赤道面CL上に位置しても良い。また、アーストレッド7が、タイヤ子午線方向の断面視にて、全体として幅狭な矩形状あるいは台形状を有している。また、アーストレッド7が、ベルト層14に対する接続部にて、ベルト層14(具体的には、最外層であるベルトカバー143)に向かって緩やかに拡幅している。また、
図2に示すように、アーストレッド7が、ブロック5をタイヤ周方向に貫通している。これにより、アーストレッド7が、タイヤ接地時に常に路面に接触するように構成されている。
【0066】
また、
図3に示すように、アンダートレッド152のゲージが、一般的なサマータイヤと比較して、大きく設定される。すなわち、キャップトレッド151とアンダートレッド152との境界面が、ブロック5の接地領域にて、主溝22、23の最大溝深さ位置よりもタイヤ径方向外側にある。また、上記のように、アンダートレッド152のゴム硬さH_utが、キャップトレッド151のゴム硬さH_capよりも高い。これにより、ブロックパターンの採用に起因するブロック剛性の低下が抑制されている。
【0067】
具体的には、タイヤ子午線方向の断面視にて、主溝22、23の最大溝深さ位置から主溝23の最大溝深さH0の20[%]の位置にある点を通りブロック5の踏面に平行な仮想線L(図中の一点鎖線)を定義する。ブロック5の左右の主溝22、23の溝深さが相異する場合には、深い方の主溝の最大溝深さH0を基準として、仮想線Lが定義される。このとき、ブロック5の踏面全体の幅W1と、仮想線Lを超えてタイヤ径方向外側に突出するアンダートレッド152の部分の総幅W2とが、0.60≦W2/W1の関係を有することが好ましく、0.70≦W2/W1の関係を有することが好ましい。比W2/W1の上限は、特に限定がないが、最大溝深さH0の20[%]の位置におけるブロック5の幅により制約を受ける。
【0068】
また、主溝21~23の最大溝深さH0が、6.5[mm]≦H0の範囲にあることが好ましく、7.5[mm]≦H0の範囲にあることがより好ましい。したがって、主溝21~23の深さが、一般的なサマータイヤよりも深い。H0の上限は、特に限定がないが、主溝23の溝底がベルト層14に到達しないことが要件となるため、トレッドゲージとの関係により制約を受ける。
【0069】
ブロック5の踏面全体の幅W1は、タイヤを規定リムに装着してタイヤに規定内圧を付与すると共に無負荷状態としたときのブロックの接地領域の幅として測定される。
【0070】
ブロック5の接地領域は、タイヤを規定リムに装着して規定内圧を付与すると共に静止状態にて平板に対して垂直に置いて規定荷重に対応する負荷を付与したときのタイヤと平板との接触面として定義される。
【0071】
仮想線Lを超えて突出するアンダートレッド152の部分が複数ある場合には、アンダートレッド152の部分の総幅W2が各部分の幅の総和として算出される。
【0072】
また、
図3に示すように、アンダートレッド152が、アーストレッド7とブロック5の一方のエッジ部との間の領域に増厚部1521を備える。また、アンダートレッド152のゲージGaが、アーストレッド7からブロック5の一方のエッジ部に向かって増厚部1521により漸増する。同時に、キャップトレッド151のゲージ(図中の寸法記号省略)が、アーストレッド7からブロック5の一方のエッジ部に向かって漸減する。
【0073】
アンダートレッド152のゲージGaは、タイヤ子午線方向の断面視にて、主溝22、23の溝深さ方向(すなわち、ブロック5の高さ方向)にかかるアンダートレッド152の厚さとして測定される。また、アンダートレッド152のゲージGaが、アーストレッド7の左右の領域でそれぞれ定義される。
【0074】
例えば、
図3の構成では、タイヤ子午線方向の断面視にて、アンダートレッド152が、アーストレッド7を中心として、概ね左右対称な構造を有している。また、アーストレッド7が、ブロック5の踏面からタイヤ径方向内側に向かって延在し、キャップトレッド151およびアンダートレッド152を貫通して、ベルト層14に接触している。また、アーストレッド7が、ベルト層14との接触部で裾を広げるように拡幅して、ベルト層14に対して滑らかに接続されている。また、キャップトレッド151とアンダートレッド152との境界面が、アーストレッド7との接続部でブロック5の踏面に対して平行となっている(後述する
図5を参照)。
【0075】
また、アンダートレッド152が、アーストレッド7とブロック5の左右のエッジ部との間の領域に、増厚部1521、1521をそれぞれ有している。また、増厚部1521が、タイヤ径方向外側に凸となる円弧形状の頂面を有している。また、アーストレッド7のブロック踏面に対する露出部と、増厚部1521の最大突出部とが、ブロック幅方向で相互に異なる位置にある。また、キャップトレッド151とアンダートレッド152との境界線が、アーストレッド7と増厚部1521との間でタイヤ径方向内側に向かって滑らかに凹んだ形状を有し、また、ブロック5の踏面に平行な領域を部分的に含んでいる。また、アンダートレッド152が、アーストレッド7の左右でタイヤ径方向外側に隆起した怒り肩形状を有している。
【0076】
また、アンダートレッド152が、増厚部1521の最大突出位置からブロック5の左右のエッジ部に向かって徐々に薄くなり、周方向主溝22(23)に至っている。このため、アンダートレッド152の外周面(すなわち、キャップトレッド151との境界面)が、増厚部1521から周方向主溝22(23)の溝底に向かって緩やかなS字状に湾曲している。また、周方向主溝22、23の溝壁および溝底には、キャップトレッド151が露出し、アンダートレッド152は露出していない。
【0077】
また、
図4に示すように、アーストレッド7とブロック5のエッジ部との間の領域にて、アンダートレッド152のゲージGaが最大値Ga1を取るときのアンダートレッド152の外周面上の点P1を定義する。タイヤ接地領域では、アンダートレッド152の内周面(ここでは、アンダートレッド152とベルト層14の最外層143との境界面)がブロック5の踏面に対して実質的に平行であるため、点P1が増厚部1521の頂部に位置する。また、ブロック5の接地領域におけるキャップトレッド151のゲージが、この点P1で最小となる。
【0078】
また、アーストレッド7と点P1との間の領域にて、アンダートレッド152のゲージGaが最小値Ga2を取るときのアンダートレッド152の外周面上の点P2を定義する。点P2は、ブロック5内部におけるアーストレッド7の付け根の近傍、すなわちアーストレッド7とアンダートレッド152との接続部の近傍に位置する。
【0079】
例えば、
図4の構成では、アンダートレッド152のゲージGaが、アーストレッド7から周方向主溝23(22)に向かって次のように変化している。まず、アンダートレッド152のゲージGaが、アーストレッド7とアンダートレッド152との接続部にある点P2で極小値(上記した最小値Ga2)をとる。したがって、ブロック踏面に着目すると、アーストレッド7の露出位置の近傍で、アンダートレッド152のゲージGaが極小となり、逆にキャップトレッド151のゲージが極大となる。次に、アンダートレッド152のゲージGaが、点P2からブロック5のエッジ部に向かって緩やかに単調増加して、ブロック5のエッジ部の近傍で極大値(上記した最大値Ga1)をとる。その後、アンダートレッド152のゲージGaが、点P1から周方向主溝23(22)の溝底に向かって単調減少して、周方向主溝23(22)の溝底で最小値をとる。
【0080】
図3に示す構成では、上記のように、アーストレッド7が、ブロック5の踏面に露出してタイヤ周方向に延在する(
図2参照)。また、キャップトレッド151のゴム材料とアーストレッド7のゴム材料との物性の差に起因して、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界面におけるセパレーションやアーストレッド7とキャップトレッド151との間の段差摩耗などが生じ易いという課題がある。例えば、アーストレッド7のモジュラスがキャップトレッド151のモジュラスよりも大きいことに起因して、ブロック5の接地時に、アーストレッド7の露出部における接地圧が高くなり、アーストレッド7とキャップトレッド151との間で段差摩耗が生じる傾向にある。
【0081】
この点において、
図3の構成では、アンダートレッド152がアーストレッド7とブロック5のエッジ部との間の領域に増厚部1521を有し、アンダートレッド152のゲージGaがアーストレッド7からブロック5の一方のエッジ部に向かって徐々に増加する(
図4参照)。また、相対的に、キャップトレッド151のゲージ(図中の寸法記号省略)がアーストレッド7からブロック5の一方のエッジ部に向かって徐々に減少する。一般に、アーストレッド7がキャップトレッド151よりも高いモジュラスを有するので、ブロック5の接地領域における接地圧分布が、アーストレッド152の配置位置にて高く、他の接地領域にて低くなる傾向にある。このとき、上記の構成では、アンダートレッド152のゲージGaがアーストレッド7からブロック5の一方のエッジ部に向かって徐々に増加するので、ブロック5全体の接地圧が均一化される。これにより、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界部における、上記セパレーションや段差摩耗の発生が抑制される。
【0082】
また、
図4において、周方向主溝23(22)の最大深さ位置から点P1(アンダートレッド152のゲージGaが最大値Ga1をとる点として定義される。)までの周方向主溝22(23)の溝深さ方向の距離H1と、周方向主溝23(22)の最大溝深さH0とが、H1/H0≦0.50の関係を有することが好ましく、H1/H0≦0.40の関係を有することがより好ましい。これにより、アンダートレッド152の増厚部1521のゲージGaが適正に確保されて、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界部におけるブロック踏面の接地圧差が均一化される。なお、比H1/H0の下限は、特に限定がないが、他の条件との関係により制約を受ける。
【0083】
また、周方向主溝23(22)の最大深さ位置から点P2(アーストレッド7と点P1との間の領域にてアンダートレッド152のゲージGaが最小値Ga2をとる点として定義される。)までの周方向主溝22(23)の溝深さ方向の距離H2と、周方向主溝23(22)の最大溝深さH0とが、0.20≦H2/H0の関係を有することが好ましく、0.30≦H2/H0の関係を有することがより好ましい。これにより、アーストレッド7と増厚部1521との間のアンダートレッド152のゲージGaが適正に低減されて、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界部におけるブロック踏面の接地圧差が均一化される。なお、比H2/H0の上限は、特に限定がないが、他の条件との関係により制約を受ける。
【0084】
距離H1、H2は、タイヤを規定リムに装着すると共にタイヤに規定内圧を付与した無負荷状態にて測定される。
【0085】
また、アーストレッド7とブロック5のエッジ部との間の領域におけるアンダートレッド152のゲージGaの最大値Ga1と、アーストレッド7と点P1との間の領域におけるアンダートレッド152のゲージGaの最小値Ga2とが、0.5[mm]≦Ga1-Ga2≦3.0[mm]の関係を有することが好ましく、1.0[mm]≦Ga1-Ga2≦2.0[mm]の関係を有することがより好ましい。これにより、アンダートレッド152の増厚部1521の凸量(ゲージ差Ga1-Ga2)が適正化される。
【0086】
また、アーストレッド7とブロック5の左右のエッジ部との間の領域におけるブロック5の踏面の幅W3(W31、W32)と、ブロック5の踏面全体の幅W1(
図3参照)とが、0.20≦W3/W1の関係を有することが好ましく、0.30≦W3/W1の関係を有することが好ましい。これにより、アーストレッド7からブロック5のエッジ部までの距離が確保されて、アンダートレッド152の増厚部1521を適正に形成できる。比W3/W1の上限は、特に限定がないが、アーストレッド7とブロック5の左右のエッジ部との位置関係、ならびに、アーストレッド7の幅により制約を受ける。
【0087】
また、点P1からブロック5のエッジ部までのタイヤ幅方向の距離D1と、アーストレッド7とブロック5のエッジ部との間の領域におけるブロック5の踏面の幅W3とが、0.02≦D1/W3≦0.25の関係を有することが好ましく、0.05≦D1/W3≦0.20の関係を有することがより好ましい。これにより、アンダートレッド152のゲージGaが最大となる点P1の位置が、適正化される。
【0088】
また、アンダートレッド152の増厚部1521の幅W4と、アーストレッド7とブロック5のエッジ部との間の領域におけるブロック5の踏面の幅W3とが、0.30≦W4/W3≦0.70の関係を有することが好ましく、0.50≦W4/W3≦0.60の関係を有することが好ましい。これにより、増厚部1521の幅W4が適正化される。
【0089】
増厚部1521の幅W4は、以下の定義に基づいて測定される。すなわち、
図4に示すように、タイヤ子午線方向の断面視にて、アンダートレッド152のゲージが極小となる点P2を通り、ブロック5の踏面に平行な仮想線M(図中の破線)を定義する。そして、仮想線Mを超えてブロック5の踏面側に突出するアンダートレッド152の外周面の部分の最大幅W4を定義する。なお、仮想線Mにより区画されたアンダートレッド152の外周面の部分には、アンダートレッド152のゲージが極大となる点P1が含まれる。
【0090】
また、
図5において、ブロック5の踏面におけるアーストレッド7の幅We1と、ベルト層14との接触部におけるアーストレッド7の幅We2とが、We1<We2の関係を有する。また、幅We1、We2が、0.5[mm]≦We1≦5.0[mm]および1.0[mm]≦We2≦10.0[mm]の範囲にあることが好ましい。これにより、アーストレッド7の幅が適正化される。例えば、We1<0.5[mm]となると、アーストレッド7の導電性が低下するおそれがあり、5.0[mm]<We1となると、キャップトレッド151の接地面積が小さくなり、タイヤのドライ性能およびウェット性能が低下するため、好ましくない。
【0091】
幅We1は、ブロック5の踏面におけるアーストレッド7の露出部のタイヤ幅方向の幅として測定される。
【0092】
幅We2は、アーストレッド7とベルト層14との接触面のタイヤ幅方向の幅として測定される。
【0093】
[ブロックのサイプ]
図2に示すように、ブロック5は、複数のサイプ6を備える。また、これらのサイプ6が、ブロック5の踏面にてタイヤ幅方向に延在してアーストレッド7を貫通する。
【0094】
上記のように、アーストレッド7とキャップトレッド151との物性の差が大きい場合には、タイヤ接地時に両者に作用する接地圧の差が大きくなり、両者の境界にセパレーションや段差摩耗が生じ易いという課題がある。この点において、上記の構成では、サイプ6がブロック5の踏面にてアーストレッド7を貫通することにより、アーストレッド7とキャップトレッド151との接地圧の差が緩和される。これにより、上記したセパレーションや段差摩耗の発生が抑制される。
【0095】
例えば、
図2の構成では、アーストレッド7が、ブロック5の踏面に露出し、また、ブロック5をタイヤ周方向に貫通している。また、サイプ6が実質的にタイヤ幅方向に延在し、また、複数のサイプ6がタイヤ周方向に所定間隔を隔てて配列されている。また、ブロック5のタイヤ周方向の中央領域に配置された複数のサイプ6が、ブロック5の左右のエッジ部に開口するオープン構造を有し、タイヤ周方向の前後に配置された一対のサイプ6が、ブロックの内部で終端するクローズド構造を有している。また、各サイプ6が、タイヤ周方向に振幅を有するジグザグ形状を有している。そして、これらのサイプ6が、ブロック5の踏面にてアーストレッド7をタイヤ幅方向に貫通している。
【0096】
また、
図3に示すように、サイプ6の底部と、キャップトレッド151およびアンダートレッド152の境界面とが、タイヤ径方向に相互にオフセットして配置される。また、これらのオフセット量が、1.0[mm]以上であることが好ましい。
【0097】
サイプ6の底部と、キャップトレッド151およびアンダートレッド152の境界面とが同位置にある構成では、サイプ6の底部を起点としたクラックが発生し易いという課題がある。この点において、上記の構成では、サイプ6の底部とキャップトレッド151およびアンダートレッド152の境界面とがタイヤ径方向に相互にオフセットして配置されるので、上記クラックの発生が抑制される。
【0098】
例えば、
図3の構成では、オープン構造を有するサイプ6が、ブロック5の左右のエッジ部に対する開口部に、底上部(図中の符号省略)をそれぞれ有している。このため、サイプ6の深さが、ブロック5のタイヤ幅方向の中央部で深く、ブロック5の左右のエッジ部で浅い。また、サイプ6の最大深さ(図中の寸法記号省略)が周方向主溝23の最大溝深さH0の80[%]以上であることにより、サイプ6の最大深さ位置が仮想線Lよりもタイヤ径方向内側にある。さらに、ブロック5の中央部にて、サイプ6の最大深さ位置が、キャップトレッド151とアンダートレッド152との境界面よりもタイヤ径方向内側にあり、アンダートレッド152の内部に位置している。また、サイプ6が、上記のようにアーストレッド7をタイヤ幅方向に貫通し、さらに、
図3に示すように、アーストレッド7をタイヤ径方向に貫通している。
【0099】
[ブロックの細浅溝]
図2に示すように、ブロック5は、ブロック踏面にてアーストレッド7をタイヤ幅方向に貫通する複数の細浅溝8を備える。また、複数の細浅溝8が、ブロック踏面の全域に配置される。細浅溝8は、ブロック踏面に施された表面加工であり、0.2[mm]以上0.7[mm]以下の溝幅および0.2[mm]以上0.7[mm]以下の溝深さを有する。したがって、細浅溝8は、サイプ6と比較して非常に浅い。また、細浅溝8は、直線形状、波状形状、円弧形状などの任意の形状を有し得る。また、細浅溝8は、ブロック5の踏面を横断してブロック5の左右のエッジ部に開口しても良いし、一方あるいは双方の端部にてブロック5の内部で終端しても良い。また、複数の細浅溝8が相互に交差して配置されても良い。
【0100】
かかる構成では、タイヤ接地時にて、細浅溝8が氷路面とブロック踏面との間に介在する水膜を吸い取って除去することにより、タイヤの氷上制動性能が向上する。また、細浅溝8がブロック5の踏面にてアーストレッド7を貫通することにより、アーストレッド7とキャップトレッド151との接地圧の差が緩和される。これにより、上記したセパレーションや段差摩耗の発生が抑制される。
【0101】
例えば、
図2の構成では、細浅溝8が、長尺な直線形状を有し、タイヤ周方向に対して長手方向を傾斜させて配置されている。また、細浅溝8が、ブロック5の踏面を貫通してブロック5のエッジ部に開口している。また、細浅溝8が、ブロック5の踏面にて、サイプ6およびアーストレッド7と交差している。また、複数の細浅溝8が、相互に所定間隔を隔てて並列に配置され、また、ブロック5の踏面の全域に配置されている。
【0102】
また、上記のように、細浅溝8が直線形状を有する構成では、細浅溝8の長手方向とタイヤ周方向とのなす角θが、20[deg]≦θ≦90[deg]の範囲にあることが好ましく、40[deg]≦θ≦60[deg]の範囲にあることがより好ましい。また、細浅溝8の配置間隔が、0.5[mm]以上1.5[mm]以下の範囲にあることが好ましく、0.7[mm]以上1.2[mm]以下の範囲にあることがより好ましい。これにより、細浅溝8による水膜除去作用が適正に確保され、また、ブロック5の接地面積が確保される。
【0103】
[変形例]
図6~
図9は、
図3に記載したブロックの変形例を示す説明図である。これらの図において、
図3に記載した構成要素と同一のものには、同一の符号を付し、その説明を省略する。
【0104】
図3の構成では、アーストレッド7が、ブロック5の中央部に配置され、アンダートレッド152が、アーストレッド7を境界とする左右の領域に増厚部1521をそれぞれ備えている。
【0105】
しかし、これに限らず、アーストレッド7が、ブロック5の一方のエッジ部に偏って配置されても良い(
図6および
図7参照)。また、アンダートレッド152が、アーストレッド7を境界とする左右の領域の一方のみに増厚部1521を備えても良いし(
図6および
図7参照)、増厚部1521を備えていなくとも良い(
図8参照)。
【0106】
例えば、
図6および
図7の構成では、アーストレッド7が、ブロック5の一方(図中左側)のエッジ部に偏って配置されている。このため、アーストレッド7からブロック5の一方のエッジ部までの踏面の幅W32が、
図3の構成と比較して狭い。踏面の幅W32が狭い領域では、アーストレッド7とキャップトレッド151との接地圧の差が小さくなり、上記したセパレーションや段差摩耗が生じ難い。したがって、アンダートレッド152の増厚部1521が省略されても良い。このとき、狭い幅W32をもつ領域にて、
図6に示すように、アンダートレッド152の外周面がブロック5の踏面に対して平行な区間を有しても良いし、
図7に示すように、アンダートレッド152のゲージGaがアーストレッド7からブロック5のエッジ部に向かって単調減少しても良い。
【0107】
また、
図2の構成では、
図5に示すように、キャップトレッド151とアンダートレッド152との境界面が、増厚部1521とアーストレッド7との間の領域にブロック5の踏面に対して平行な区間を有し、また、アーストレッド7との接続部でブロック5の踏面に対して平行となっている。
【0108】
しかし、これに限らず、キャップトレッド151とアンダートレッド152との境界線が、増厚部1521とアーストレッド7との間の領域にブロック5の踏面に対して傾斜あるいは湾曲しても良いし、また、アーストレッド7との接続部で湾曲しても良い。
【0109】
例えば、
図8の構成では、キャップトレッド151とアンダートレッド152との境界面が、タイヤ径方向内側に向かって湾曲しつつアーストレッド7に接続している。このため、高いモジュラスをもつアンダートレッド152のゲージGaが、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界部付近で小さくなっている。これにより、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界部におけるブロック踏面の接地圧差がより均一化されて、上記セパレーションや段差摩耗の発生が抑制される。
【0110】
一方、
図9の構成では、キャップトレッド151とアンダートレッド152との境界面が、タイヤ径方向外側に向かって湾曲しつつアーストレッド7に接続している。かかる構成としても、キャップトレッド151とアンダートレッド152との境界面が、アーストレッド7と増厚部1521との間でタイヤ径方向内側に凹となる領域を有することにより、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界部におけるブロック踏面の接地圧差の均一化作用が得られる。
【0111】
[効果]
以上説明したように、この空気入りタイヤ1は、カーカス層13と、カーカス層13の径方向外側に配置されるベルト層14と、ベルト層14の径方向外側に配置されるトレッドゴム15とを備えると共に、複数の主溝21~23と、主溝21~23に区画された複数のブロック5とをトレッド面に備える(
図1参照)。また、トレッドゴム15が、トレッド面を構成するキャップトレッド151と、キャップトレッド151の下層に配置されるアンダートレッド152と、キャップトレッド151およびアンダートレッド152を貫通してブロック5の踏面に露出すると共にベルト層14に接触するアーストレッド7とを備える(
図2参照)。また、キャップトレッド151の300[%]伸張時のモジュラスM_capが、3.0[Mpa]以上7.0[Mpa]以下の範囲にあり、アンダートレッド152の300[%]伸張時のモジュラスM_utが、10.0[Mpa]以上20.0[Mpa]以下の範囲にあり、アーストレッド7の300[%]伸張時のモジュラスM_eaが、10.0[Mpa]以上20.0[Mpa]以下の範囲にある。また、アーストレッド7が、1×10^7[Ω・cm]以下の体積抵抗率をもつゴム材料から成る。また、アンダートレッド152が、アーストレッド7とブロック5のエッジ部との間の領域に増厚部1521を備える(
図3参照)。また、アンダートレッド152のゲージGaが、増厚部1521により、アーストレッド7からブロック5のエッジ部に向かって漸増する。
【0112】
かかる構成では、(1)タイヤが所定の体積抵抗率をもつアーストレッド7を備えることにより、タイヤ内部からブロック踏面への導電経路が形成される。これにより、タイヤの帯電抑制性能が確保される利点がある。
【0113】
また、(2)キャップトレッド151の300[%]伸張時のモジュラスが3.0[Mpa]以上7.0[Mpa]以下の範囲にあることにより、キャップトレッド151のモジュラスM_capが適正化される利点がある。すなわち、キャップトレッド151のモジュラスが3.0[Mpa]以上の範囲にあることにより、タイヤのウェット性能および低転がり抵抗性が確保される。また、キャップトレッド151のモジュラスが7.0[Mpa]以下の範囲にあることにより、タイヤの氷上性能(特に氷上制動性能)が向上する。
【0114】
また、(3)キャップトレッド151のモジュラスが上記のような低い範囲にある構成では、キャップトレッド151とアーストレッド7との境界面で、セパレーションが発生するという課題がある。特に、スタッドレスタイヤは、氷上性能および雪上性能を確保するために、多数のサイプをもつブロックパターンを備え、同時に、ブロック剛性を確保するために、アンダートレッド152のゲージが、サマータイヤと比較して厚く設定されている。このため、上記のセパレーションが発生し易い傾向にある。この点において、上記の構成では、アンダートレッド152の増厚部1521が、アーストレッド7からブロック5のエッジ部に向かってアンダートレッド152のゲージGaを漸増させる(
図3および
図4参照)。このため、高いモジュラスをもつアンダートレッド152のゲージGaが、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界部付近で小さく、また、増厚部1521により、ブロック5のエッジ部に向かって漸増する。これにより、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界部におけるブロック踏面の接地圧差が均一化されて、上記セパレーションの発生が抑制される利点がある。
【0115】
また、この空気入りタイヤ1では、キャップトレッド151のカーボンブラック体積分率×ジブチルフタレート吸油量/100の数値R_capが、5≦R_cap≦15の範囲にあり、アンダートレッド152のカーボンブラック体積分率×ジブチルフタレート吸油量/100の数値R_utが、15≦R_ut≦35の範囲にある。これにより、キャップトレッド151およびアンダートレッド152の上記数値が適正化される利点がある。
【0116】
また、この空気入りタイヤ1では、キャップトレッド151のモジュラスM_capとアーストレッド7のモジュラスM_eaとが、5.0[Mpa]≦M_ea-M_capの関係を有する。キャップトレッド151とアーストレッド7との物性の差が大きい構成では、両者の接地圧差に起因して、両者の境界面におけるセパレーションや両者の間の段差摩耗が生じ易いという課題がある。したがって、かかる構成を適用対象とすることにより、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界面におけるセパレーション、ならびに、アーストレッド7とキャップトレッド151との間の段差摩耗にかかる抑制効果が顕著に得られる利点がある。
【0117】
また、この空気入りタイヤ1では、キャップトレッド151のゴム硬さH_capとアーストレッド7のゴム硬さH_eaとが、5≦H_ea-H_capの関係を有する。キャップトレッド151とアーストレッド7との物性の差が大きい構成では、両者の接地圧差に起因して、両者の境界面におけるセパレーションや両者の間の段差摩耗が生じ易いという課題がある。したがって、かかる構成を適用対象とすることにより、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界面におけるセパレーション、ならびに、アーストレッド7とキャップトレッド151との間の段差摩耗にかかる抑制効果が顕著に得られる利点がある。
【0118】
また、この空気入りタイヤ1では、ブロック5の踏面全体の幅W1と、仮想線L(タイヤ子午線方向の断面視にて、主溝22、23の最大溝深さ位置から主溝22、23の最大溝深さH0の20[%]の位置にある点を通りブロック5の踏面に平行な仮想線Lが定義される。)を超えてタイヤ径方向外側に突出するアンダートレッド152の部分の総幅W2とが、0.60≦W2/W1の関係を有する(
図3参照)。かかる構成では、高いゴム硬さ(H_cap<H_ut)をもつアンダートレッド152のゲージおよび配置領域が適正化されるので、ブロック5の剛性が適正に確保される利点がある。また、低い体積抵抗率をもつアンダートレッド152のゲージが確保されるので、タイヤの電気抵抗が適正に低減される。
【0119】
また、この空気入りタイヤ1では、キャップトレッド151とアンダートレッド152との境界面が、ブロック5の踏面に対して平行な状態で(
図5参照)、あるいはタイヤ径方向内側に向かって湾曲しつつ(
図8参照)、アーストレッド7に接続する。これにより、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界部におけるブロック踏面の接地圧差が均一化されて、上記セパレーションや段差摩耗の発生が抑制される利点がある。
【0120】
また、この空気入りタイヤ1では、主溝23(22)の最大深さ位置から点P1(アーストレッド7とブロック5のエッジ部との間の領域にて、アンダートレッド152のゲージGaが最大値を取るときのアンダートレッド152の外周面上の点P1が定義される。)までの主溝23(22)の溝深さ方向の距離H1と、主溝23(22)の最大溝深さH0とが、H1/H0≦0.50の関係を有する(
図4参照)。これにより、アンダートレッド152の増厚部1521のゲージGaが適正に確保されて、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界部におけるブロック踏面の接地圧差が均一化される利点がある。
【0121】
また、この空気入りタイヤ1では、主溝23(22)の最大深さ位置から点P2(アーストレッド7と点P1との間の領域にてアンダートレッド152のゲージGaが最小値Ga2をとる点として定義される。)までの周方向主溝22(23)の溝深さ方向の距離H2と、主溝23(22)の最大溝深さH0とが、0.20≦H2/H0の関係を有する(
図4参照)。これにより、アーストレッド7と増厚部1521との間のアンダートレッド152のゲージGaが適正に低減されて、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界部におけるブロック踏面の接地圧差が均一化される利点がある。
【0122】
また、この空気入りタイヤ1では、点P1および点P2におけるアンダートレッド152のゲージGa1およびGa2が、0.5[mm]≦Ga1-Ga2≦3.0[mm]の関係を有する(
図4参照)。これにより、アンダートレッド152の増厚部1521の凸量(ゲージ差Ga1-Ga2)が適正化される利点がある。すなわち、0.5[mm]≦Ga1-Ga2であることにより、増厚部1521の凸量が確保されて、アーストレッド7とキャップトレッド151との境界部におけるブロック踏面の接地圧差の均一化作用が確保される。また、Ga1-Ga2≦3.0[mm]であることにより、増厚部1521の凸量が過大となることに起因するブロック5のエッジ部の接地圧の増加が抑制されて、ブロック5のエッジ部の偏摩耗が抑制される。
【0123】
また、この空気入りタイヤ1では、アーストレッド7とブロック5のエッジ部との間の領域におけるブロック5の踏面の幅W3と、ブロック5の踏面全体の幅W1とが、0.20≦W3/W1の関係を有する(
図3参照)。これにより、アーストレッド7からブロック5のエッジ部までの距離が確保されて、アンダートレッド152の増厚部1521を適正に形成できる利点がある。
【0124】
また、この空気入りタイヤ1では、点P1からブロック5のエッジ部までのタイヤ幅方向の距離D1と、アーストレッド7とブロック5のエッジ部との間の領域におけるブロック5の踏面の幅W3とが、0.02≦D1/W3≦0.15の関係を有する(
図4参照)。これにより、アンダートレッド152の増厚部1521が最大となる点P1の位置が適正化される利点がある。すなわち、0.02≦D1/W3であることにより、増厚部1521がブロック5のエッジ部に近接することに起因するブロック5のエッジ部の接地圧の増加が抑制される。また、D1/W3≦0.15であることにより、増厚部1521によるブロック踏面の接地圧差の均一化作用が適正に確保される。
【0125】
また、この空気入りタイヤ1では、アンダートレッド152の増厚部1521の幅W4と、アーストレッド7とブロック5のエッジ部との間の領域におけるブロック5の踏面の幅W3とが、0.30≦W4/W3≦0.70の関係を有する(
図4参照)。これにより、増厚部1521の幅W4が適正化される利点がある。すなわち、0.30≦W4/W3であることにより、増厚部1521の幅W4が確保されて、点P2から点P1に至る増厚部1521の勾配が緩やかになるので、増厚部1521によるブロック踏面の接地圧差の均一化作用が適正に確保される。また、W4/W3≦0.70であることにより、増厚部1521の幅W4が過大となることに起因するブロック5のエッジ部の接地圧の増加が抑制される。
【0126】
また、この空気入りタイヤ1では、ブロック5の踏面におけるアーストレッド7の幅We1と、ベルト層14との接触部におけるアーストレッド7の幅We2とが、We1<We2の関係を有する(
図5参照)。これにより、アンダートレッド152からブロック踏面へのアーストレッド7の導電性が向上する利点がある。
【0127】
また、この空気入りタイヤ1では、ブロック5が、複数のサイプ6を備え(
図2参照)、且つ、サイプ6の最大深さ位置が、キャップトレッド151とアンダートレッド152との境界面よりもタイヤ径方向内側にある(
図3参照)。これにより、サイプ6の底部を起点としたクラックの発生が抑制される利点がある。
【0128】
また、この空気入りタイヤ1では、ブロック5が、ブロック5の踏面にてアーストレッド7をタイヤ幅方向に貫通する複数の細浅溝8を備える(
図2参照)。これにより、アーストレッド7とキャップトレッド151との接地圧の差が緩和されて、両者の境界部におけるセパレーションや段差摩耗の発生が抑制される利点がある。
【実施例】
【0129】
図10は、この発明の実施の形態にかかる空気入りタイヤの性能試験の結果を示す図表である。
図11は、従来例の試験タイヤを示す説明図である。
【0130】
この性能試験では、相互に異なる複数の空気入りタイヤについて、(1)氷上制動性能、(2)帯電抑制性能(電気抵抗値)、および、(3)耐セパレーション性能に関する評価が行われた(
図10参照)。この性能試験では、タイヤサイズ195/65R15 91Qの空気入りタイヤがリムサイズ15×6Jのリムに組み付けられ、この空気入りタイヤに空気圧210[kPa]およびJATMAの規定荷重が付与される。また、空気入りタイヤが、試験車両である排気量3.0[L]の四輪駆動車であるセダンに装着される。
【0131】
(1)氷上制動性能に関する評価では、試験車両が所定の氷路面を走行し、走行速度40[km/h]からの制動距離が測定される。そして、この測定結果に基づいて従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
【0132】
(2)帯電抑制性能に関する評価では、気温23℃、湿度50%の条件下にて1000[V]の電圧を印加して、トレッド踏面とリム間の抵抗値の電気抵抗値[Ω]が測定される。この評価は、数値が小さいほど放電性に優れており、好ましい。
【0133】
(3)耐セパレーション性能に関する評価では、室内ドラム試験機を用いた耐久試験が行われ、タイヤが破損したときの走行距離が測定される。そして、この測定結果に基づいて従来例を基準(100)とした指数評価が行われる。この評価は、数値が大きいほど好ましい。
【0134】
実施例1~9の試験タイヤは、
図1~
図5に記載した構造を有する。また、キャップトレッド151の体積抵抗率が1×10^10[Ω・cm]であり、アンダートレッド152の体積抵抗率が1×10^8[Ω・cm]であり、アーストレッド7の体積抵抗率が1×10^6[Ω・cm]である。また、カーカス層13のコードゴム、ベルト層14の各ベルトプライ141~143のコートゴムの体積抵抗率、ならびに、リムクッションゴム17が、いずれも1×10^7[Ω・cm]以下の体積抵抗率をもつゴム材料から成る。また、キャップトレッド151のカーボンブラック体積分率×ジブチルフタレート吸油量/100の数値R_capが7であり、アンダートレッド152およびアーストレッド7の数値R_ut、R_eaが18である。また、キャップトレッド151のゴム硬さH_capが50であり、アンダートレッド152およびアーストレッド7のゴム硬さH_ut、H_eaが65である。また、
図3に示すように、キャップトレッド151、アンダートレッド152およびアーストレッド7が左右対称な構造を有する。また、ブロック5の踏面全体の幅W1が25[mm]であり、アーストレッド7からブロック5の左右のエッジ部までのブロック5の踏面の幅W3(W31、W32)がそれぞれ12[mm](W3/W1=0.48)である。
【0135】
従来例および比較例の試験タイヤは、実施例1の試験タイヤにおいて、アンダートレッド152が増厚部1521を備えておらず、フラットな外周面を有する(
図11参照)。
【0136】
試験結果が示すように、実施例1~9の試験タイヤでは、タイヤの氷上制動性能、帯電抑制性能および耐セパレーション性能が向上することが分かる。
【符号の説明】
【0137】
1:空気入りタイヤ、21~23:周方向主溝、24:周方向細溝、31~33:陸部、4:ラグ溝、5:ブロック、6:サイプ、7:アーストレッド、8:細浅溝、10:リム、11:ビードコア、12:ビードフィラー、13:カーカス層、14:ベルト層、141、142:交差ベルト、143:ベルトカバー、15:トレッドゴム、151:キャップトレッド、152:アンダートレッド、1521:増厚部、153:ウイングチップ、16:サイドウォールゴム、17:リムクッションゴム