(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】切削装置
(51)【国際特許分類】
B28D 1/24 20060101AFI20220117BHJP
E01C 23/09 20060101ALI20220117BHJP
E04G 23/08 20060101ALI20220117BHJP
B28D 7/02 20060101ALI20220117BHJP
B24B 27/00 20060101ALI20220117BHJP
B24B 27/06 20060101ALI20220117BHJP
B24B 55/02 20060101ALI20220117BHJP
B24B 55/06 20060101ALI20220117BHJP
B24B 55/04 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B28D1/24
E01C23/09 Z
E04G23/08 D
B28D7/02
B24B27/00 L
B24B27/06 J
B24B55/02 D
B24B55/06
B24B55/04 Z
(21)【出願番号】P 2019213163
(22)【出願日】2019-11-26
【審査請求日】2021-01-29
(73)【特許権者】
【識別番号】591075641
【氏名又は名称】東鉄工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391059414
【氏名又は名称】コンクリートコーリング株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100200942
【氏名又は名称】岸本 高史
(72)【発明者】
【氏名】笹川 透
(72)【発明者】
【氏名】宇津木 浩行
(72)【発明者】
【氏名】安藤 康彦
【審査官】石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】実開昭56-2325(JP,U)
【文献】特開昭58-76602(JP,A)
【文献】特開昭62-288300(JP,A)
【文献】特開昭50-140977(JP,A)
【文献】特開2004-243539(JP,A)
【文献】特開昭60-260302(JP,A)
【文献】実開昭51-159443(JP,U)
【文献】米国特許第5540210(US,A)
【文献】中国特許出願公開第108488909(CN,A)
【文献】特開2020-176451(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B28D 1/24
E01C 23/09
E04G 23/08
B28D 7/02
B24B 27/00
B24B 27/06
B24B 55/02
B24B 55/06
B24B 55/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
1枚または複数の回転刃を回転駆動可能に回転軸上に配設した切削手段と、
前記回転軸を昇降可能に片持ち支持する支持昇降手段と、
前記回転刃をガイドレールに沿って移動可能とする移動手段とを備えた切削装置本体と、
前記切削装置本体の側方に配設されたブレードカバーを備え、
前記ブレードカバーは、前記回転刃の少なくとも下端側を除いて被覆するハウジングケースと、前記ハウジングケースに取り付けられた車輪とを備え、前記切削装置本体の傾斜を防止しながら前記回転刃とともに走行可能に構成されたことを特徴とする切削装置。
【請求項2】
前記ブレードカバーは、前記ハウジングケースの底部外周縁に沿って、可撓性部材により形成されたパッキン部が設けられたことを特徴とする請求項1に記載の切削装置。
【請求項3】
前記ブレードカバーは、前記ハウジングケースの内側へと張り出す内側フランジ部を底部に備え、
前記内側フランジ部は、接地面と僅かな隙間を生じる高さ位置に配設され、かつ、前記内側フランジ部に泥水を吸引する吸引口が形成されたことを特徴とする請求項2に記載の切削装置。
【請求項4】
前記切削装置本体は、前記ブレードカバーを着脱するための掛合フックを備え、
前記ブレードカバーは、前記掛合フックと係合する被掛合部を備えて前記切削装置本体に対し着脱可能に構成されたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか1項に記載の切削装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれか1項に記載の切削装置を用いて、コンクリート構造物の床面を掘削するコンクリート掘削方法であって、
前記コンクリート掘削方法は、コンクリート構造物の床面の掘削予定領域に、複数条の切削溝を形成する切削工程と、
前記複数条のいずれかに、膨張で加圧可能な圧力破砕機を挿入し、前記複数条の切削溝によって形成されたコンクリート構造物の凸形状部であるコンクリートブロックを前記圧力破砕機で加圧して亀裂を発生させてコンクリート構造物から分離する掘削工程とを備えることを特徴とするコンクリート掘削方法。
【請求項6】
前記掘削工程において、前記複数条の切削溝のいずれかに、膨張で加圧可能な圧力破砕機を挿入した後、両端を除く残りの複数条の切削溝のいずれかに、コンクリート掘削用冶具が備えた剛性の嵌合板を挿入して、前記圧力破砕機によって前記コンクリートブロックを加圧することを特徴とする請求項5に記載のコンクリート掘削方法。
【請求項7】
前記コンクリート掘削用冶具は、矩形板状の基部の片側又は両側に前記嵌合板を備えたことを特徴とする請求項6に記載のコンクリート掘削方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コンクリート構造物の床等を切削する切削装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、コンクリート構造物の床等(以下、被切削物という。)の切削に用いられる切削装置として、モータにより回転駆動される複数の円盤状の回転刃を切削手段として備えたものが知られている。例えば、特許文献1には、モータにより回転駆動される二枚の回転刃(ダイヤモンドブレード)を、ガイドレール上を移動可能とした支持枠に片持ち支持するよう構成した切削装置が開示されている。
【0003】
また、特許文献2には、走行用の車体に複数枚の回転刃を取り付けて複数条の切削を可能とした切削装置が開示されている。このように、複数の回転刃を備えた切削装置によれば、複数条の切削を行う場合に効率よく切削を行うことができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平9―300340号公報
【文献】特開2017―190562号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載された切削装置のように、支持枠に複数の回転刃を片持ち支持する構成によれば、回転刃の重量により装置全体の重心が回転刃側に移動するため、回転刃が傾斜しやすくなり、その結果として切削精度が低下する問題があった。特に、切削効率を向上させるために回転刃の枚数を増やすほど、回転刃全体の重量が増し、回転刃がより傾斜しやすくなるため、この問題は顕著なものとなっていた。
【0006】
また、特許文献2に記載された切削装置のように、走行用の車体に複数枚の回転刃を取り付けた構成によれば、車体の重量により装置全体の重心を安定させて、回転刃の傾斜を抑え易いものの、装置全体のサイズや重量が増大するため、屋内等の狭い場所での使用が制限されたり、切削装置の運搬に係る作業負担が増大したりする等のデメリットが存在する。
【0007】
そこで、本発明は、装置全体のサイズや重量の増大を抑止したコンパクトな構成によって、切削精度及び切削効率を向上することができる切削装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的は、1枚または複数の回転刃を回転駆動可能に回転軸上に配設した切削手段と、
前記回転軸を昇降可能に片持ち支持する支持昇降手段と、
前記回転刃をガイドレールに沿って移動可能とする移動手段とを備えた切削装置本体と、
前記切削装置本体の側方に配設されたブレードカバーを備え、
前記ブレードカバーは、前記回転刃の少なくとも下端側を除いて被覆するハウジングケースと、前記ハウジングケースに取り付けられた車輪とを備え、前記切削装置本体の傾斜を防止しながら前記回転刃とともに走行可能に構成されたことを特徴とする切削装置によって達成される。
【0009】
本発明によれば、切削装置本体に装着されたブレードカバーが、切削装置全体の重心を安定させ、切削装置本体が傾斜することを防止して姿勢を維持する機能を果たすため、回転刃の傾斜が防止される。これにより、切削装置全体のサイズや重量の増大を抑止したコンパクトな構成によって、切削精度及び切削効率を向上することができる。
【0010】
本発明の好ましい実施形態においては、
前記ブレードカバーは、前記ハウジングケースの底部外周縁に沿って、可撓性部材により形成されたパッキン部が設けられたことを特徴とする。
【0011】
本発明のこの好ましい実施形態によれば、パッキン部が、接地面に弾発接触することで、ハウジングケースの下端に生じる接地面との隙間をシールする機能を果たし、これにより、切粉などの切削屑が混ざった冷却水(泥水)が、ハウジングケースの外部に漏れることを好適に防止することができる。
【0012】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、
前記ブレードカバーは、前記ハウジングケースの内側へと張り出す内側フランジ部を底部に備え、
前記内側フランジ部は、接地面と僅かな隙間を生じる高さ位置に配設され、かつ、前記内側フランジ部に泥水を吸引する吸引口が形成されたことを特徴とする。
【0013】
本発明のこのさらに好ましい実施態様によれば、吸引口から泥水の吸引が開始されると、内側フランジ部と接地面との間が略真空状態となり、これにより、内側フランジ部周辺の泥水が吸着されて集水されるため、吸引口から効率よくハウジングケース内部の泥水を吸引することができる。
【0014】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、
前記切削装置本体は、前記ブレードカバーを着脱するための掛合フックを備え、
前記ブレードカバーは、前記掛合フックと係合する被掛合部を備えて前記切削装置本体に対し着脱可能に構成されたことを特徴とする。
【0015】
この本発明のさらに好ましい実施態様によれば、ブレードカバーを切削装置本体に対し着脱可能に設けたことにより、回転刃のメンテナンスが容易となり、利便性が向上する。
【0016】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、上記の切削装置を用いて、コンクリート構造物の床面を掘削するコンクリート掘削方法であって、
前記コンクリート掘削方法は、コンクリート構造物の床面の掘削予定領域に、複数条の切削溝を形成する切削工程と、
前記複数条のいずれかに、膨張で加圧可能な圧力破砕機を挿入し、前記複数条の切削溝によって形成されたコンクリート構造物の凸形状部であるコンクリートブロックを前記圧力破砕機で加圧して亀裂を発生させてコンクリート構造物から分離する掘削工程とを備えることを特徴とする。
【0017】
この本発明のさらに好ましい実施態様によれば、従来よりもコンクリート掘削時の騒音や振動を格段に抑えることができる。これにより、防音シートの設置や取外作業等による作業負担を削減して掘削作業を迅速化及び能率化することができる。
【0018】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記掘削工程において、前記複数条の切削溝のいずれかに、膨張で加圧可能な圧力破砕機を挿入した後、両端を除く残りの複数条の切削溝のいずれかに、コンクリート掘削用冶具が備えた剛性の嵌合板を挿入して、前記圧力破砕機によって前記コンクリートブロックを加圧することを特徴とする。
【0019】
この本発明のさらに好ましい実施態様によれば、圧力破砕機による加圧時、嵌合板の作用によって、破砕・除去対象となるコンクリートブロックの側面部分に加えられる面圧を平準化でき、大きな面圧が部分的に発生することを防止できる。その結果、それぞれの切削溝の下端から、水平方向に、コンクリートブロックに亀裂を発生させて、好適にコンクリートブロックをコンクリート構造物から分断させることができる。その結果、作業精度が向上する。
【0020】
本発明のさらに好ましい実施態様においては、前記コンクリート掘削用冶具は、矩形板状の基部の片側又は両側に前記嵌合板を備えたことを特徴とする。
【0021】
この本発明のさらに好ましい実施態様によれば、基部の両側に設けられた嵌合板の作用により、コンクリートブロックの側面部分に加えられる面圧をより良好に平準化できるため、それぞれの切削溝の下端から、水平方向により良好に亀裂を発生させてコンクリートブロックをコンクリート構造物から分断させることができる。その結果、作業精度がさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】
図1は、本発明の実施の形態に係る切削装置の斜視図である。
【
図5】
図5は、
図1に示されるブレードカバーBを取り外した切削装置の正面図である。
【
図7】
図7は、
図1に示されるブレードカバーを底面側から見た外観図である。
【
図8】
図8は、
図1に示されるブレードカバー周辺の概略縦断面図である。
【
図9】
図9(a)は、本発明の実施の形態に係るコンクリート掘削用冶具の正面図であり、
図9(b)は、本発明の実施の形態に係るコンクリート掘削用冶具の左側面図である。
【
図10】
図10は、コンクリート掘削用冶具の使用方法を説明するための説明図である。
【
図11】
図11は、本発明の実施形態に係るコンクリート掘削方法のフローチャートである。
【
図12】
図12は、本発明の実施形態に係るコンクリート掘削方法の説明図である。
【
図16】
図16(a)は、本発明の別の実施形態に係るコンクリート掘削用冶具の正面図であり、
図16(b)は、本発明の別の実施形態に係るコンクリート掘削用冶具の左側面図である。
【
図17】
図17は、本発明の別の実施形態に係るコンクリート掘削用冶具の使用方法を説明するための説明図である。
【
図18】
図18は、偶数条の切削溝に対して本発明の実施の形態に係るコンクリート掘削用冶具を使用する場合の掘削方法の説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面に基づいて、本発明の好ましい実施態様につき、詳細に説明を加える。なお、以下の説明において、
図1の矢印Fで示される方向を前方、その反対方向を後方、前方を向いて、右側方向を右方、左側方向を左方という。
図1は、本発明の好ましい実施態様に係る切削装置1の斜視図であり、
図2はその正面図、
図3はその左側面図、
図4は平面図である。また、
図5は、
図1に示されるブレードカバーBを取り外した切削装置1の正面図、
図6は、その左側面図である。
【0024】
(全体構成)
図1ないし
図4に示されるように、切削装置1は、ガイドレールa11と、ガイドレールa11上に配設されたスライドステージa12と、スライドステージa12上に立設された支柱a13,13と、この支柱a13,13上に取り付けられた上部フレームa14と、この上部フレームa14上面に配設された電動アクチュエータa15と、この電動アクチュエータa15の下部に垂設されたスクリューロッドa16と、このスクリューロッドa16が挿通されて連結された昇降台a17と、この昇降台a17に一体的に固定された油圧モータa18と、この油圧モータa18と連結され、油圧モータa18の駆動により回転する回転刃a19とを有する切削装置本体Aと、回転刃a19を覆うブレードカバーBを備えている。このブレードカバーBは、切削装置本体Aに着脱可能となっている。なお、電動アクチュエータa15及び油圧モータa18の駆動は、図示しないコントローラにより操作可能となっている。
【0025】
(切削手段)
切削装置1は、被切削物を切削する切削手段を備える。この切削手段は、
図5及び
図6に示されるように、油圧モータa18と連結され、油圧モータa18の駆動により回転する回転軸a20上に、複数の回転刃a19,a19,・・・と、複数のスペーサa21,a21,・・・とを順次嵌挿して構成されている。
図5に示されるように、切削手段は、回転刃a19を配した回転軸a19の一端を、油圧モータa18を介し、昇降台a17に支持させる片持ち支持構造を有している。なお、本実施形態においては、五枚の回転刃a19を回転軸a20上に配設した構成を示したが、回転刃a19上の枚数は、これに限られず、一枚以上の任意の枚数を用いることが可能である。
【0026】
回転刃a19は、それぞれ、一定間隔ごとにスリットが設けられた円板状の基板の外周に、ダイヤモンド砥粒を金属粉末で焼結して形成されたセグメントチップが固着されて形成されている。
【0027】
油圧モータa18の上部には、作動油の供給を受ける圧油供給口a27が配設されており、昇降台a17には、冷却水貯留槽等の装置と接続されて、冷却水の供給を受ける給水口a22が取り付けられている。
【0028】
この給水口a22に供給された冷却水は、ウォータースイベル(図示せず)を介して給水口a22と連通する回転軸a20の内部の流水路(図示せず)を通過して、回転軸a20の表面に設けられた孔a23から放出され、各回転刃a19の基板の両面に給水されるように構成されている。
【0029】
(移動手段)
切削装置1は、回転刃a19を予定する切削ラインに沿って移動させる移動手段を備える。この走行手段は、予定する切削ラインに沿って被切削物に固定されたガイドレールa11と、走行モータa24を駆動源とするピニオンギア・ラック機構(図示せず)によりガイドレールa11上を走行して進退可能に構成されたスライドステージa12とを備えており、このスライドステージa12の進退により、回転刃a19が予定する切削ライン上を移動して、被切削物を切削可能となっている。なお、走行モータa24の駆動は、図示しないコントローラにより操作可能となっている。
【0030】
(支持昇降手段)
切削装置1は、回転刃a19を昇降可能に片持ち支持する支持昇降手段を備え、この支持昇降手段は、スライドステージa12上に、前後の支柱a13,a13が、スライドステージa12に対して垂直に立設されている。さらに、スライドステージa12上に、略門型が形成されるようにして、この支柱a13,a13上に、所定の厚みを有する水平板状の上部フレームa14が架設されている。なお、上部フレームa14には、切削装置本体Aの持ち運びを容易にするためのハンドルa26が設けられている。
【0031】
支柱a13,a13には、
図2及び
図3に示されるように、昇降台a17が取り付けられている。この昇降台a17は、上部フレームa14の下方に配され、その両端が支柱a13,a13に上下に滑動自在に取り付けられており、これにより、支柱a13,a13に沿って昇降可能に構成されている。さらに、この昇降台a17には、上部フレームa14上面に配設された電動アクチュエータa15に垂設されたスクリューロッドa16が螺合して挿通されている。これにより、電動アクチュエータa15が駆動してスクリューロッドa16が回転すると、スクリューロッドa16の回転力を上下方向に変換して昇降台a17が昇降する仕組みとなっている。
【0032】
昇降台a17には、油圧モータa18が一体的に固定されており、昇降台a17が昇降すると、これに応じて、油圧モータa18と連結された回転軸a20とともに回転刃a19も昇降し、その高さ位置が変更できるよう構成されている。その結果、切削装置1は、昇降台a17の高さ調節により、回転刃a19による切削深さDを所望の深さに調節することができる。
【0033】
(着脱手段)
図1ないし
図6に示されるように、スライドステージa12及び上部フレームa14には、それぞれ、ブレードカバーBを切削装置本体Aに着脱するための掛合フックa25が設けられている。この掛合フックa25は、略L字状に形成された係止片である。切削装置本体AにブレードカバーBを装着するときは、回転刃a19の上方からブレードカバーBを被せるようにして、ブレードカバーBに断面略コの字状に突出するように形成された被掛合部b15に、掛合フックa25の先端を差し込んで係合させることで、ブレードカバーBを切削装置本体Aに装着することができる。
【0034】
本実施形態においては、スライドステージa12及び上部フレームa14に、それぞれ2つの掛合フックa25が配され、これと対応する位置に計4つの被掛合部b15がブレードカバーBに設けられている(
図7参照)。これにより、切削装置本体Aのスライドステージa12及び上部フレームa14に対して、ブレードカバーBを4点で係止して位置ズレしない状態で固定できるように構成されている。さらに、それぞれの被掛合部b15には、固定用のボルトb16が挿通されて取り付けられており、固定用ボルトb16の締結により、ブレードカバーBの固定状態を維持できるようになっている。このようにして、ブレードカバーBを切削装置本体Aに着脱可能に設けたことにより、回転刃a19のメンテナンスが容易となり、利便性が向上する。
【0035】
(ブレードカバー)
図1ないし
図4に示されるように、ブレードカバーBは、切削装置本体Aの側方に配設され、回転刃a19を覆う平面視矩形状のハウジングケースb11と、このハウジングケースb11の四隅にそれぞれ取り付けられた従動輪からなる四輪の車輪b12と、ハウジングケースb11の上部に設けられた前後の持ち手b20,b20を備えており、ハウジングケースb11の前面下部には、ハウジングケースb11内部と連通するバキュームポンプ接続用のジョイント口b13,b13が左右に設けられている。ハウジングケースb11の左側側面(切削装置本体A側側面)には、回転軸a20との干渉を避けるために下端から上方に向けて開口するように形成された開口部b14と、掛合フックa25と係合する4つの被掛合部b15が設けられている(
図7参照)。
【0036】
ハウジングケースb11は、回転刃a19の少なくとも下端側を除いて被覆するとともに、四輪の車輪b12によって、被切削物の接地面(以下、単に接地面という。)上を滑動するように走行可能となっている。
【0037】
また、被掛合部b15によってスライドステージa12及び上部フレームa14に固定されたブレードカバーBは、スライドステージa12が進退すると、車輪b12の回動によってスライドステージa12とともに進退する。このとき、切削装置本体Aに装着されたブレードカバーBは、接地した四輪の車輪b12により切削装置1全体の重心を安定させ、切削装置本体Aが傾斜する方向に働く力を側方から受け止めながら、スライドステージa12から推進力を得て、回転刃a19の移動とともに走行可能に構成されており、これにより、切削装置本体Aが傾斜することを防止して姿勢を維持する機能を果たす。その結果、回転刃a19の傾斜も防止されるため、切削装置1全体のサイズや重量の増大を抑止したコンパクトな構成によって、切削精度及び切削効率を向上することができる。
【0038】
(吸引構造)
図7は、
図1に示されるブレードカバーBを底面側から見た外観図である。
図7に示されるように、ハウジングケースb11は、その底部外周縁に沿って、ゴム等の可撓性部材により形成されたパッキン部b21が取り付けられている。このパッキン部b21が、接地面と弾発接触することで、ハウジングケースb11の下端に生じる接地面との隙間をシールする機能を果たし、これにより、切粉などの切削屑が混ざった冷却水(泥水)が、ハウジングケースb11の外部に漏れることを好適に防止することができる。
【0039】
また、ハウジングケースb11の底部外周縁には、前後にそれぞれ、ハウジングケースb11の内側へと張り出す内側フランジ部b17,b18が形成されており、前方の内側フランジ部b17の下面には、左右のバキュームポンプ接続用のジョイント口b13,b13とそれぞれ連通する左右の吸引口b19,b19が形成されている。
【0040】
この左右の吸引口b19,b19は、切削装置1の切削時において、泥水を吸引する機能を果たす。ここで、切削装置1は、切削時において、
図8のブレードカバーB周辺の概略縦断面図に示されるように、図中の矢印Fで示される方向へ回転刃a19をアッパー方向に回転させながら進行する。なお、車輪b12の下端が接地している状態において、内側フランジ部b17,b18は、接地面に対して僅かな隙間を生じる高さ位置(例えば、0.5~1.0cm)となるように構成されている。これにより、図示しないバキュームポンプにより吸引口b19,b19から泥水の吸引が開始されると、前方の内側フランジ部b17と接地面との間(
図8の空間S)が略真空状態となり、これにより、前方の内側フランジ部b17周辺の泥水が吸着されて集水されるため、矢線Qの方向に従って、左右の吸引口b19,b19から効率よくハウジングケースb11内部の泥水を吸引することが可能となっている。
【0041】
(コンクリート掘削用冶具)
図9(a)は、コンクリート掘削用冶具40の正面図であり、
図7(b)は、コンクリート掘削用冶具40の左側面図である。このコンクリート掘削用冶具40は、切削装置Aによって、被切削物に複数条の切削溝を形成した後、コンクリート掘削面が平坦となるようにコンクリート構造物を破砕・除去して掘削するために用いる。
【0042】
コンクリート掘削用冶具40は、
図9(a)に示されるように、所定の厚みを有する矩形板状の基部401の片側に、コンクリートの切削溝に嵌合する矩形の形成された剛性の嵌合板402が取り付けられ、
図9(b)に示されるように、基部401上面に作業用の取手403が取り付けられている。なお、上記切削装置Aを用いる場合において、基部401の幅は、複数の回転刃a19同士の間隔幅wと略同一となるように設けられることが望ましい。加えて、基部401下面から嵌合板402の下端までの寸法は、切削深さDと一致するように設けられることが望ましい。
【0043】
図10は、コンクリート掘削用冶具40の使用方法を説明するための説明図である。
図10において、該コンクリート構造物Cの床面には、上記切削装置Aによって形成された、切削深さD、全体の左右幅をXとする5条の切削溝Gが所定間隔で形成されている。ここに、以下の説明において、切削溝Gによって形成され、破砕・除去対象となるコンクリート構造物Cの凸形状部を、コンクリートブロックC1という。
【0044】
まず、両端の切削溝Gを除く、いずれかの切削溝Gに、膨張で加圧可能な圧力破砕機41を挿入するとともに、両端の切削溝Gを除く残りの切削溝Gに、それぞれ、コンクリート掘削用冶具40の嵌合板402を挿入する。ここに、圧力破砕機41としては、例えば、特開2007-8601に示されるような油圧式の板ジャッキを用いることができる。なお、圧力破砕機41としては、水圧式の板ジャッキを用いてもよい。また、圧力破砕機41を挿入する切削溝Gは、それぞれのコンクリートブロックC1に均等に膨張圧を加えるため、両端の切削溝Gの中央付近に位置する切削溝Gを選択することが望ましい。
【0045】
次に、圧力破砕機41の膨張圧によってコンクリートブロックC1の側面部分に左右方向の力を加えると、嵌合板402の作用によって、コンクリートブロックC1の側面部分に加えられる面圧を平準化でき、大きな面圧が部分的に発生することを防止できる。その結果、それぞれの切削溝Gの下端から、コンクリートブロックC1に、水平方向に亀裂を発生させて、コンクリートブロックC1を切削溝Gの下端からコンクリート構造物Cと分断できる。その結果、
図11(b)に示されるように、コンクリートブロックC1をその底部から分離して除去することができるとともに、コンクリート掘削面が平坦となるようにして良好に掘削することができる。また、コンクリートブロックC1除去後の掘削面を平坦とできることによって、作業精度を向上できる。
【0046】
なお、コンクリート掘削用冶具40を用いず、圧力破砕機41の膨張圧によって左右方向に力を加えると、除去対象となるコンクリートブロックC1の中途部で亀裂が発生して、切削溝Gの下端よりも上方でコンクリートブロックC1が折れて分断されてしまう事態が生じうる。その結果、除去後の掘削面に凹凸が生じてしまい、作業精度が低下するとともに、掘削作業を継続する場合に支障が生じることとなるが、コンクリート掘削用冶具41を用いることにより、このような事態を好適に防止することができる。
【0047】
(コンクリート掘削方法について)
次に、本発明の実施形態に係るコンクリート掘削方法について説明する。
図11は、本発明の実施形態に係るコンクリート掘削方法のフローチャートである。以下では、切削装置A及び上記コンクリート掘削用冶具40を用いたコンクリート掘削方法について説明する。なお、
図12ないし
図14において、網掛けされた部分が掘削対象となるコンクリート構造物の掘削予定領域Tを示している。ここでは、
図12に示されるように、掘削予定領域Tを左右幅X´、コンクリート構造物の床面からの深さd、前後方向における奥行Yの略直方体形状として掘削を行うものとする。なお、掘削予定領域Tの形状に関しては、略直方体形状に限定されるものではない。
【0048】
本発明のコンクリート掘削方法は、
図11に示されるように、設置工程(STEP1)と、第1の切削工程(STEP2)と、第1の掘削工程(STEP3)と、第2の切削工程(STEP5)と、第2の掘削工程(STEP6)とを備えている。
【0049】
設置工程(STEP1)は、コンクリート構造物の床面に、切削装置Aを位置決めして設置する工程である。設置工程(STEP1)は、具体的には、切削装置Aを掘削予定領域T上まで移動させてコンクリート構造物の床面上に固定する作業を行う。
【0050】
第1の切削工程(STEP2)は、コンクリート構造物の床面の掘削予定領域Tに、複数条の切削溝Gを形成する工程である。なお、本実施形態では、5条の切削溝Gを形成するものとする。また、5条の切削溝Gの溝同士の幅wは、切削装置Aの回転刃a19同士の間隔幅と略同一となっている。
【0051】
第1の切削工程(STEP2)は、具体的には、
図12に示されるように、掘削予定領域Tの後端(位置S)において、切削装置Aの複数の回転刃a19を回転させながら、支持昇降手段によって下降させ、所定の切削深さdとなるまで、コンクリート構造物の床面を切削し(STEP2-1)、次に、複数の回転刃a19を、掘削予定領域Tの後端(位置S)から前端(位置E)まで前進させて、掘削予定領域Tに切削深さdの5条の切削溝Gを形成する(STEP2-2)。
【0052】
第1の掘削工程(STEP3)は、第1の切削工程(STEP2)の後、5条の切削溝Gによって形成されたコンクリート構造物Cの凸形状部であるコンクリートブロックC1を破砕・除去することにより、コンクリート構造物の床面を掘削する工程である。
【0053】
具体的には、
図13(a)に示されるように、両端の切削溝G1を除くいずれかの切削溝G1に、圧力破砕機41を挿入するともに、両端の切削溝G1を除く残りの切削溝G1に、それぞれ、コンクリート掘削用冶具40の嵌合板402を挿入する。なお、圧力破砕機41を挿入する切削溝G1は、それぞれのコンクリートブロックC1に均等に膨張圧を加えるため、両端の切削溝G1の略中央に位置する切削溝G1が選択されることが望ましい。
【0054】
次に、圧力破砕機41の膨張圧によってコンクリートブロックC1の側面部分に左右方向の力を加え、それぞれの切削溝G1の下端から、水平方向に、コンクリートブロックC1に亀裂を発生させ、コンクリート構造物Cから分断する(STEP3-1)。なお、切削溝G1によって形成されるコンクリートブロックC1の幅寸法wと高さ寸法dの比は、1対2以上の範囲であることが、コンクリートブロックC1の底部に亀裂を水平方向に発生させて分断するために好ましい。
【0055】
次に、
図13(b)に示されるように、コンクリート構造物CからコンクリートブロックC1を分離・除去する(STEP3-2)。これにより、第1の掘削工程における掘削溝(深さd、左右の幅X、前後方向における奥行Y)の掘削溝の形成が完了する。
【0056】
第2の切削工程(STEP3)の後、コンクリート構造物の床面の掘削予定領域Tの掘削が完了した場合は、掘削作業が終了となり(STEP4でYES)、掘削が完了していない場合は、第2の切削工程(STEP5)に進む(STEP4でNO)。
【0057】
第2の切削工程(STEP5)は、具体的には、
図14に示されるように、第1の切削工程において形成した掘削溝の右隣における掘削予定領域Tの前端(位置E´)において、切削装置Aの複数の回転刃a19を回転させながら、支持昇降手段によって下降させ、第1の掘削工程によって形成された掘削面からさらに所定の切削深さdとなるまで、コンクリートブロックC1除去後の掘削面を切削する(STEP5-1)。次に、複数の回転刃a19を、掘削予定領域Tの前端(位置E´)から後端(位置S´)まで後進させて、掘削予定領域Tに5条の切削溝G2を形成する(STEP5-2)。なお、第1の切削工程(STEP2)との相違は、第1の掘削工程(STEP2)において形成した掘削溝の右隣における掘削予定領域Tの前端(位置E´)から切削を開始する点、第1の掘削工程(STEP2)と前後方向における反対方向に複数の回転刃a19を進行させる点である。
【0058】
第2の掘削工程(STEP6)は、第2の切削工程(STEP5)の後、5条の切削溝G2によって形成されたコンクリート構造物Cの凸形状部であるコンクリートブロックC2を破砕・除去することによりコンクリート構造物Cの床面を掘削する工程である。
【0059】
第2の掘削工程(STEP6)は、具体的には、
図15(a)に示されるように、両端の切削溝G2を除く何れかの切削溝G2に、圧力破砕機41を挿入するともに、両端の切削溝G2を除く残りの切削溝G2に、それぞれ、コンクリート掘削用冶具40の嵌合板402を挿入する。なお、第1の掘削工程(STEP3)と同様、圧力破砕機41を挿入する切削溝G2は、それぞれのコンクリートブロックC2に均等に膨張圧を加えるため、両端の切削溝G2の略中央に位置する切削溝G2が選択されることが望ましい。また、コンクリートブロックC2の好ましい幅寸法wと高さ寸法dの比についても、第1の掘削工程(STEP3)と同様である。
【0060】
次に、圧力破砕機41の膨張圧によってコンクリートブロックC2の側面部分に左右方向の力を加え、それぞれの切削溝G2の下端から、水平方向に、コンクリートブロックC2に亀裂を発生させ、コンクリート構造物Cから分断する(STEP6-2)。これにより、第2の掘削工程における掘削溝(深さd、左右の幅約X+w、前後方向における奥行Y)の形成が完了する。
【0061】
第2の掘削工程(STEP6)の後、コンクリート構造物の床面の掘削予定領域Tの下端まで掘削が完了した場合は、掘削作業が終了となり(STEP7でYes)、掘削予定領域Tが残存し、掘削が完了していない場合は、第1の切削工程STEP2に戻る(STEP7でNo)。なお、このとき、第2の掘削工程(STEP4)における掘削溝の右隣における掘削予定領域Tの前端から第1の切削工程(STEP1)を開始する。
【0062】
このように構成された本発明のコンクリート掘削方法によれば、複数の回転刃a19による被切削物の切削作業時及び圧力破砕機41によるコンクリート構造物Cの破砕・除去時に生じる騒音及び振動は、従来のブレーカによる床面の破砕、あるいは大型の破砕機による床面の破砕時と比べて大幅に小さいものであるから、従来よりもコンクリート掘削時の騒音や振動を格段に抑えることができる。これにより、防音シートの設置や取外作業等による作業負担を削減して掘削作業を迅速化及び能率化することができる。さらに切削装置Aによって複数の切削溝Gを形成した上で、圧力破砕機41を用いて掘削作業を行うことにより、従来よりも作業精度を向上できる。
【0063】
図16(a)は、本発明の別の実施の形態に係るコンクリート掘削用冶具40´の正面図であり、
図16(b)は、本発明の別の実施の形態に係るコンクリート掘削用冶具40´の左側面図である。
【0064】
図9において、コンクリート掘削用冶具40の基部401の片側に嵌合板402を備えるように構成されているが、
図16に示されたコンクリート掘削用冶具40´のように、基部401´の両側に、コンクリートの切削溝に嵌合する剛性の嵌合板402´が取り付けて構成してもよい。
【0065】
このように構成されたコンクリート掘削用冶具40´は、
図17において7条の切削溝Gが形成されたコンクリ-ト構造物Cにおける使用例を示すように、破砕・除去対象となるコンクリートブロックC1の両側面を挟むようにして固定し、圧力破砕機41による膨張圧によってコンクリートブロックC1の側面部分に加えられる面圧をより良好に平準化できるため、それぞれの切削溝Gの下端から、水平方向に、より良好に亀裂を発生させてコンクリートブロックC1をコンクリート構造物Cから分断させることができる。
【0066】
図18は、偶数条の切削溝Gに対して本発明の実施の形態に係るコンクリート掘削用冶具40,40´を使用する場合の掘削方法の説明図である。
図18に示されるように、複数の切削溝Gに、基部401の片側に嵌合板402を備えたコンクリート掘削用冶具40と、基部401の両側に嵌合板402を備えたコンクリート掘削用冶具40´を組み合わせて使用することも可能であり、本発明のコンクリート掘削方法を、偶数条の切削溝Gに対して使用する場合に、特に好適に掘削を行うことが可能となる。なお、
図18においては、コンクリート構造物Cに、6条の切削溝Gを形成した場合が示されている。
【0067】
また、
図11のフローチャートにおいて、第1の切削工程(STEP2)、第1の掘削工程(STEP3)、第2の切削工程(STEP5)、第2の掘削工程(STEP6)の順に行うコンクリート掘削方法を示したが、これに限られず、第1の切削工程(STEP2)、第2の切削工程(STEP5)、第1の掘削工程(STEP3)、第2の掘削工程(STEP6)の順に行ってもよく、この場合において、第1の掘削工程(STEP3)及び第2の掘削工程(STEP6)は同時に行われてもよい。
【符号の説明】
【0068】
1 切削機
A 切削装置本体
a11 ガイドレール
a12 スライドステージ
a13 支柱
a14 上部フレーム
a15 電動アクチュエータ
a16 スクリューロッド
a17 昇降台
a18 油圧モータ
a19 回転刃
a20 回転軸
a21 スペーサブロック
a22 給水口
a23 孔
a24 走行モータ
a25 掛合フック
a26 ハンドル
a27 圧油供給口
B ブレードカバー
b11 ハウジングケース
b12 車輪
b13 ジョイント口
b14 開口部
b15 被掛合部
b16 固定用のボルト
b17 前方の内側フランジ部
b18 後方の内側フランジ部
b19 吸引口
b20 持ち手
b21 パッキン部
40 コンクリート掘削用冶具
41 圧力破砕機