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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-15
(54)【発明の名称】フィルタユニットおよび排水処理装置
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/44 20060101AFI20220207BHJP
   B01D 63/06 20060101ALI20220207BHJP
   B01D 69/12 20060101ALI20220207BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20220207BHJP
   B01D 29/11 20060101ALI20220207BHJP
【FI】
C02F1/44 A
B01D63/06
B01D69/12
B01D71/02
C02F1/44 F
B01D29/10 510E
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021036986
(22)【出願日】2021-03-09
【審査請求日】2021-08-03
(31)【優先権主張番号】P 2020156215
(32)【優先日】2020-09-17
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006105
【氏名又は名称】株式会社明電舎
(74)【代理人】
【識別番号】100114775
【弁理士】
【氏名又は名称】高岡 亮一
(74)【代理人】
【識別番号】100121511
【弁理士】
【氏名又は名称】小田 直
(74)【代理人】
【識別番号】100116001
【弁理士】
【氏名又は名称】森 俊秀
(74)【代理人】
【識別番号】100208580
【弁理士】
【氏名又は名称】三好 玲奈
(72)【発明者】
【氏名】加藤 直樹
【審査官】片山 真紀
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-161817(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0236295(US,A1)
【文献】特開2015-009189(JP,A)
【文献】特開昭61-238305(JP,A)
【文献】特開2016-043294(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0198278(US,A1)
【文献】特開2014-091070(JP,A)
【文献】特開2013-202524(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102172477(CN,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/44
B01D 53/22,61/00-71/82
B01D 23/00-35/04,35/08-37/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の板状のセラミック膜体を、互いの平面が対向した状態で間隔をあけて並列に配置したフィルタユニットであって、
前記セラミック膜体は、ろ過水を通す集水チャンネルが内部に形成された支持体と、前記支持体の表面に形成されて固液分離を行うろ過層とを有し、
各々の前記セラミック膜体は、平面上の第1方向の端部が固定部で固定され、
前記セラミック膜体の前記固定部に臨む領域に、前記ろ過層の外側に積層されて前記ろ過層の固液分離を阻害する被覆部が形成され、
前記被覆部は、前記セラミック膜体の第1方向の端部において、前記第1方向と直交する第2方向の両隅に部分的に形成される
フィルタユニット。
【請求項2】
前記被覆部は、前記セラミック膜体の表面に形成された樹脂層である
請求項1に記載のフィルタユニット。
【請求項3】
前記被覆部と前記ろ過層の間に、前記樹脂層の樹脂が前記ろ過層に浸透した複合層が形成されている
請求項2に記載のフィルタユニット。
【請求項4】
前記被覆部は、前記セラミック膜体の表面に取り付けた板状部材または膜状部材で構成される
請求項1に記載のフィルタユニット。
【請求項5】
前記被覆部は、前記固定部と一体に形成された板状部材で構成され、前記セラミック膜体を前記固定部に取り付けたときに前記セラミック膜体の表面を覆う
請求項1に記載のフィルタユニット。
【請求項6】
前記被覆部は、前記セラミック膜体の外縁部において、前記第1方向に沿って形成される
請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のフィルタユニット。
【請求項7】
処理対象水を含む汚泥を貯留する処理槽と、
前記処理槽内に配置され、前記汚泥の固液分離を行う請求項1から請求項6のいずれか一項に記載のフィルタユニットと、
を備える排水処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水処理の固液分離に適用されるセラミック膜体のフィルタユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、例えば活性汚泥法の水処理における固液分離ろ過に用いるフィルタとして、セラミック膜体を用いたフィルタユニットが知られている。セラミック膜体は、処理対象水に浸漬され、二次側からのポンプの吸引により処理対象水の水分をフィルタ内側に引き込むことで処理対象水のろ過を行う。また、セラミック膜体に対しては、ろ過運転により発生する膜の目詰まりを抑制するために、ろ過水あるいは次亜塩素酸ナトリウムなどの薬剤を膜内部から表面に送り出す逆洗が適宜行われる(特許文献1参照)。
【0003】
また、上記のフィルタユニットは、複数のセラミック膜体を等間隔に並列に配置して構成される。フィルタユニットのセラミック膜体の間には、固液分離で活性汚泥などの濃縮が進行すると固体の汚泥ケーキが形成される。そのため、フィルタユニットの下方に散気装置を配置して、セラミック膜体の間に空気を連続的または間欠的に送ることが行われる。これにより、空気の上昇でセラミック膜体の表面にせん断力が作用して膜の目詰まりが防止されるとともに、濃縮された汚泥が上方に発散してセラミック膜体の周囲で汚泥の入れ替えが生じる(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2015-112527号公報
【文献】特開2015-9203号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、フィルタユニットの下方に配置される散気装置において、例えば、散気管の目詰まり、装置の運転トラブル、災害発生などの事象により、空気の供給が停止することや空気の供給に偏りが生じることがある。かかる場合にフィルタユニットで固液分離を継続すると、セラミック膜体の間に汚泥が堆積して凝縮固化し、汚泥ケーキが形成されることがある。
【0006】
フィルタユニットにおいて、隣り合うセラミック膜体が同じ汚泥ケーキを両側から吸引すると、隣り合うセラミック膜体が汚泥ケーキを介して引っ張り合う状態となる。これにより、フィルタユニットにおいて、セラミック膜体の固定端近傍でセラミック膜体に亀裂などが生じる可能性がある。また、ろ過と逆洗の切り替え時には、流速の急激な変化により管内圧力が過渡的に上昇または下降するウォータハンマー現象が発生する。この種のセラミック膜体の亀裂は、セラミック膜体の逆洗洗浄時の加減圧によっても生じる場合がある。
【0007】
本発明は、上記の状況に鑑みてなされたものであって、汚泥ケーキの吸引および逆洗洗浄時の加減圧によるセラミック膜体の破損を抑制できるフィルタユニットを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、複数の板状のセラミック膜体を、互いの平面が対向した状態で間隔をあけて並列に配置したフィルタユニットである。セラミック膜体は、ろ過水を通す集水チャンネルが内部に形成された支持体と、支持体の表面に形成されて固液分離を行うろ過層とを有する。各々のセラミック膜体は、平面上の第1方向の端部が固定部で固定される。セラミック膜体の固定部に臨む領域に、ろ過層の外側に積層されてろ過層の固液分離を阻害する被覆部が形成されている。被覆部は、セラミック膜体の第1方向の端部において、第1方向と直交する第2方向の両隅に部分的に形成される
【0009】
被覆部は、セラミック膜体の表面に形成された樹脂層であってもよい。また、被覆部とろ過層の間に、樹脂層の樹脂がろ過層に浸透した複合層が形成されていてもよい。
また、被覆部は、セラミック膜体の表面に取り付けた板状部材または膜状部材で構成されていてもよい。
また、被覆部は、固定部と一体に形成された板状部材で構成され、セラミック膜体を固定部に取り付けたときにセラミック膜体の表面を覆うものでもよい。
【0010】
また、被覆部は、セラミック膜体の外縁部において、第1方向に沿って形成されてもよい。
本発明の他の態様である排水処理装置は、処理対象水を含む汚泥を貯留する処理槽と、処理槽内に配置され、汚泥の固液分離を行う上記のフィルタユニットと、を備える。
【発明の効果】
【0011】
本発明の一態様のフィルタユニットによれば、汚泥ケーキの吸引および逆洗洗浄時の加減圧によるセラミック膜体の破損を抑制できる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本実施形態の排水処理装置の構成例を示す図である。
図2】セラミック膜体の構造例を示す部分斜視図である。
図3】(a)は第1実施形態のセラミック膜体を示す正面図であり、(b)は図3(a)の被覆部の位置におけるセラミック膜体の断面図である。
図4】(a)は第1実施形態のフィルタユニットでの荷重モデルを示す図であり、(b)は比較例のフィルタユニットでの荷重モデルを示す図である。
図5】第2実施形態のセラミック膜体の断面図である。
図6】(a)は第2実施形態の被覆部を有するろ過層に対して曲げ応力が作用した場合を示す図である。(b)は第2実施形態の比較例のろ過層に対して曲げ応力が作用した場合を示す図である。
図7】第3実施形態のセラミック膜体の構成例を示す図である。
図8】セラミック膜体に応力がかかった状態の構造解析例を示す模式図である。
図9】第4実施形態の固定部の構成例を示す図である。
図10】第4実施形態の構成によるフィルタユニットでの荷重モデルを示す図である。
図11】被覆部の変形例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
実施形態では説明を分かり易くするため、本発明の主要部以外の構造や要素については、簡略化または省略して説明する。また、図面において、同じ要素には同じ符号を付す。なお、図面に示す各要素の形状、寸法などは模式的に示したもので、実際の形状、寸法などを示すものではない。
【0014】
<第1実施形態>
図1は、第1実施形態の排水処理装置1の構成例を示す図である。
排水処理装置1は、活性汚泥3が滞留されるとともに、処理対象水が流入する処理槽2を備えている。処理槽2内には、散気装置4と、複数のセラミック膜体10を有し、活性汚泥3を固液分離処理するフィルタユニット5とが設置されている。散気装置4およびフィルタユニット5は、処理槽2内において処理対象水と合流した活性汚泥3に浸漬される。なお、処理槽2の後段には、フィルタユニット5でろ過されたろ過水を貯留するろ過水槽(不図示)がさらに配置される。
【0015】
散気装置4は、フィルタユニット5の下方に設置され、ブロアBから導入される空気6を処理槽2内に供給する。これにより、処理槽2内では、曝気された処理対象水が活性汚泥法によって処理される。また、散気装置4は、フィルタユニット5のセラミック膜体10の間に、連続的または間欠的にエアスクラビング用の空気6を送る機能も担う。なお、処理対象水を曝気する散気装置と、フィルタユニット5のエアスクラビング用の散気装置は異なる装置であってもよい。
【0016】
フィルタユニット5は、図1に示すように、それぞれ矩形の平板状である複数のセラミック膜体10を、互いの平面が対向した状態で、膜体の厚さ方向(図1の略左右方向)に等間隔で並列配置することで集積化したものである。フィルタユニット5のセラミック膜体10は、隣り合うセラミック膜体10と空間をあけた状態で、上側および下側がそれぞれ膜体の幅方向に延びる治具(固定部11,12)によって固定される。また、セラミック膜体10の上側の固定部11には、膜体の幅方向に延び、後述する各々の集水チャンネル15と接続された集水配管(不図示)が内蔵されている。なお、膜体の長手方向は第1方向の一例であり、膜体の幅方向は第2方向の一例である。
【0017】
図2は、セラミック膜体10の構造例を示す部分斜視図である。図3(a)は、第1実施形態のセラミック膜体10を示す正面図である。図3(b)は、図3(a)の被覆部16の位置におけるセラミック膜体10の断面図である。
【0018】
セラミック膜体10は、セラミックスからなる多孔質支持体13の外表面にろ過層14を形成したフィルタ要素である。図2に示すように、多孔質支持体13の内部には、膜体の長手方向に延びるろ過水取り出し用の貫通孔(集水チャンネル15)が並列に形成されている。セラミック膜体10の材料としては、酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化ジルコニウム等が挙げられる。また、ろ過層14の態様としては、MF膜、UF膜、NF膜等が挙げられる。
【0019】
セラミック膜体10のろ過層14には、透水孔として機能する微細な細孔が形成されている。活性汚泥3の水分は、ろ過層14の細孔を通過して多孔質支持体13内の集水チャンネル15に導かれる一方、活性汚泥3の固形分はろ過層14を通過できずにセラミック膜体10の外側に留まる。以上のようにして、セラミック膜体10により活性汚泥3の固液分離が行われる。
【0020】
また、第1実施形態のセラミック膜体10では、図3(a)に示すように、上側の固定部11に臨む上端部および下側の固定部12に臨む下端部に、セラミック膜体10の表面を外側から覆う被覆部16がそれぞれ形成されている。
【0021】
被覆部16は、例えば、エポキシ樹脂などの疎水性コーティング材をセラミック膜体10に塗布して形成された樹脂層である。被覆部16は、図3(b)に示すように、ろ過層14の外側に積層され、ろ過層14の細孔を外側から塞ぐことで固液分離を阻害する機能を担う。ろ過工程において、被覆部16の範囲は活性汚泥3の固液分離に寄与しない一方、固液分離による活性汚泥3の濃縮が生じにくい。そのため、被覆部16の範囲では汚泥ケーキの形成が抑制される。
【0022】
また、図3(a)に示すように、被覆部16は、セラミック膜体10の4隅に部分的に形成されている。各々の被覆部16の形状は、セラミック膜体10の上端または下端のいずれかと、セラミック膜体10の幅方向端とを二辺とする三角形状である。上記のように被覆部16を配置することで、汚泥ケーキの形成により破損が生じやすい隅部が被覆部16でカバーされるとともに、セラミック膜体10において固液分離に寄与しない被覆部16の占める面積を低減させることができる。
【0023】
ここで、被覆部16の構成は、被覆された範囲のろ過層14の細孔を塞いで固液分離を阻害できるものであればよく、被覆部16でのコーティングに用いる材料や被覆部16のコーティングの厚さなどは特に限定されない。
また、上記のように、被覆部16の範囲は活性汚泥3の固液分離に寄与しない。そのため、セラミック膜体10でのろ過性能を十分に確保する観点から、セラミック膜体10の表面における被覆部16の合計面積は、セラミック膜体10の有効面積の数%程度に設定することが好ましい。
【0024】
図1に戻って、フィルタユニット5の二次側には、集水配管と接続された吸引用配管21と、吸引用配管21から分岐する逆洗用配管22が設けられている。吸引用配管21は、バルブV1と、吸引ポンプP1とを備えている。バルブV1は、フィルタユニット5のろ過工程時には開に設定され、逆洗工程時には閉に設定される。吸引ポンプP1は、ろ過工程時に処理槽2内の活性汚泥3をフィルタユニット5の二次側から吸引し、フィルタユニット5でろ過されたろ過水をろ過水槽に導く。
【0025】
逆洗用配管22は、バルブV2と、逆洗ポンプP2とを備えている。バルブV2は、フィルタユニット5のろ過工程時には閉に設定され、逆洗工程時には開に設定される。逆洗ポンプP2は、フィルタユニット5の逆洗工程時に薬液供給源(不図示)から次亜塩素酸ナトリウムなどの薬液をフィルタユニット5の二次側に供給する。なお、逆洗ポンプP2は、逆洗工程時にろ過水槽内のろ過水をフィルタユニット5の二次側に供給してもよい。
【0026】
次に、第1実施形態のフィルタユニット5の作用を説明する。
排水処理装置1のろ過工程では、フィルタユニット5のセラミック膜体10により活性汚泥3の固液分離が行われる。かかるろ過工程では、フィルタユニット5の下方の散気装置4からセラミック膜体10の間に空気6が連続的または間欠的に供給される。これにより、セラミック膜体10に堆積する汚泥は気泡のせん断力で引きはがされ、セラミック膜体10の表面での汚泥ケーキの発生が抑制される。
しかしながら、例えば、散気管の目詰まり、装置の運転トラブル、災害発生などの事象により、散気装置4による空気供給の停止や空気供給の偏りが生じると、ろ過工程においてセラミック膜体10の表面、特に隣り合うセラミック膜体10の間に汚泥ケーキが形成されうる。
【0027】
ここで、図4を参照しつつ、汚泥ケーキ7の形成時にセラミック膜体10にかかる荷重について説明する。図4(a)は、第1実施形態のフィルタユニット5での荷重モデルを示す図である。図4(b)は、比較例のフィルタユニット5aでの荷重モデルを示す図である。
図4(a)では被覆部16を有するセラミック膜体10が適用され、図4(b)では被覆部を有しないセラミック膜体10が適用されている。図4(b)の比較例は、被覆部を有しない点を除いて図4(a)と同様の構成である。
【0028】
図4(a)、(b)では、簡単のため、フィルタユニット5,5aのうち隣り合う2枚のセラミック膜体10を部分的に示している。また、図4(a)では、2枚のセラミック膜体10において互いに対向する面(汚泥ケーキ7の形成面)の被覆部16のみを示し、汚泥ケーキ7の形成面とは裏面側の被覆部の図示はいずれも省略している。
【0029】
セラミック膜体10の間に汚泥ケーキ7が形成された状態でろ過工程の運転を継続すると、隣り合うセラミック膜体10が同じ汚泥ケーキ7を両側から吸引する。すると、隣り合うセラミック膜体10が汚泥ケーキ7を介して厚さ方向に引っ張り合う状態となり、2枚のセラミック膜体10には互いが近づく方向に荷重Fがかかる。また、セラミック膜体10の上側および下側はいずれも固定部11,12で固定され、長手方向の両端が支持された状態にある。
そのため、セラミック膜体10が汚泥ケーキ7を吸引したときには、汚泥ケーキ7の吸引による荷重Fと固定部11、12からの反力とによって、セラミック膜体10には汚泥ケーキ7に臨む面が凸となるように曲げ応力が作用する。
【0030】
ここで、比較例のフィルタユニット5aの場合、セラミック膜体10の全面が活性汚泥3の固液分離に寄与するので、図4(b)に示すようにセラミック膜体10の長手方向の端部近傍まで汚泥ケーキ7が形成されうる。図4(b)に示すように、汚泥ケーキ7の吸引が生じている箇所から固定部(11)までの長手方向間隔L2が小さい場合、長手方向のセラミック膜体10の曲げ角度θ2が大きくなって曲げによる応力が集中し、脆性部材であるセラミック膜体10に亀裂などの破損が生じやすくなる。
【0031】
一方、第1実施形態のフィルタユニット5の場合、セラミック膜体10の上端近傍または下端近傍にはそれぞれ被覆部16が形成される。被覆部16の範囲は活性汚泥3の固液分離に寄与しないので、図4(a)に示すように、セラミック膜体10の被覆部16には汚泥ケーキ7が形成されない。
【0032】
したがって、第1実施形態では、長手方向の端部近傍での汚泥ケーキ7の形成が被覆部16で抑制されるので、汚泥ケーキ7の吸引が生じている箇所から固定部(11)までの長手方向間隔L1が図4(b)の比較例と比べて長くなる(L1>L2)。これにより、図4(a)では、長手方向のセラミック膜体10の曲げ角度θ1が図4(b)の比較例(θ2)と比べて小さくなり(θ1<θ2)、曲げによる応力集中も緩和されるので、比較例よりもセラミック膜体10に亀裂などの破損が生じにくくなる。以上のように、第1実施形態の構成によれば、汚泥ケーキ7の吸引によるセラミック膜体10の破損を抑制できる。
【0033】
なお、幅方向におけるセラミック膜体10の亀裂は、相対的に強度の低い幅方向端部から中央に向けて生じやすい。第1実施形態では、セラミック膜体10の4隅に被覆部16を形成することで、セラミック膜体10の幅方向端部の破損を効果的に抑制できる。
【0034】
また、有限要素法に基づく構造解析により、セラミック膜体10の間に汚泥ケーキ7が形成された構造モデルでの応力を求めた。上記の構造解析では、図4(b)と同様にセラミック膜体10の4隅に汚泥ケーキが存在する場合と、図4(a)と同様に被覆部16によりセラミック膜体10の4隅に汚泥ケーキが形成されない場合とを比較した。被覆部16のコーティング面積は、セラミック膜体10の有効面積の2%とした。
上記の構造解析の結果、被覆部16によりセラミック膜体10の4隅に汚泥ケーキ7が形成されない場合、セラミック膜体10の4隅に汚泥ケーキ7が形成される場合と比べて、曲げにより発生する応力が約30%減少することが確認された。
【0035】
<第2実施形態>
図5は、第2実施形態の被覆部の位置におけるセラミック膜体10の断面図である。以下の説明において、第1実施形態と同様の構成には同じ符号を付して重複説明を省略する。
【0036】
第2実施形態は、セラミック膜体10のろ過層14に対して浸透性を有するコーティング材を用いて、セラミック膜体10の表面に被覆部16aを形成した構成例である。第2実施形態では、一例として、被覆部16aの材料として2液性エポキシ樹脂を適用し、液状の本剤をろ過層14に浸透させた後、本剤に硬化剤を混合することで被覆部16aを形成する。そのため、図5に示すように、第2実施形態では、被覆部16aのコーティング層とろ過層14との境界に、セラミックに樹脂が浸透して充填された複合層17が形成される。
【0037】
一般に、荷重Fの負荷により物体に曲げ応力が発生すると、一面側では物体に圧縮応力が発生し、一面側と対向する他面側では物体に引張応力が発生する。図6(b)は、第2実施形態の比較例として、被覆部16aのないろ過層14aに対し、荷重Fによる曲げ応力が作用した場合を示している。荷重Fによる曲げ応力がろ過層14aに作用すると、ろ過層14aは引張応力TSの発生場所から亀裂18aが進展して破断する。ろ過層14aは無数の細孔18を有する多孔質の構造であるので、上記の亀裂18aはろ過層14aにおいて機械的強度の低い細孔18の部位から進展しやすい。
【0038】
一方、図6(a)は、第2実施形態の被覆部16aを有するろ過層14に対し、荷重Fによる曲げ応力が作用した場合を示している。第2実施形態の複合層17では、ろ過層14の細孔18に樹脂が浸透して閉塞された状態で樹脂が硬化し、ろ過層14のセラミックと被覆部16aの樹脂が複合化されている。これにより、複合層17では、多孔質のろ過層14と比べて機械的強度が高くなり、引張応力TSの発生場所での亀裂の発生および進展を抑制できる。例えば、セラミック膜体10の表面に2液性エポキシ樹脂をコーティングすることで、曲げ強度が50%以上向上することが確認されている。
【0039】
第2実施形態の構成を実現する上で、被覆部16aの樹脂は、ろ過層14の細孔18に浸透可能な粘度の材料を選択する必要がある。一例として、ろ過層14の細孔18の大きさが約0.1μmである場合、被覆部16aの樹脂をろ過層14に浸透させるためには、被覆部16aの樹脂の粘度を30Pa・s以下にすることが好ましい。なお、2液性エポキシ樹脂(粘度8Pa・s)を被覆部16aのコーティング材の樹脂として使用した場合、ろ過層14にコーティング材が浸透することでセラミック膜体10の強度向上に繋がった。
【0040】
以上のように、第2実施形態の構成によれば、第1実施形態と同様の効果に加えて、被覆部16aの形成によりセラミック膜体10の機械的強度を向上させることができる。そのため、ろ過工程の運転中にセラミック膜体10の破損するおそれがさらに低減する。
【0041】
<第3実施形態>
第3実施形態は、第1実施形態または第2実施形態の変形例であって、セラミック膜体10の表面の外縁部において、幅方向端部および長手方向端部の少なくともいずれかに連続的に被覆部16を形成した例である。
【0042】
第3実施形態では、セラミック膜体10の四隅を含めて、対向する二辺または四辺に被覆部16が形成されている。図7(a)は、セラミック膜体10の上端側と下端側の二辺において、幅方向の全域に被覆部16を帯状に形成した例を示している。図7(b)は、セラミック膜体10の左端側と右端側の二辺において、長手方向の全域に被覆部16を帯状に形成した例を示している。また、図7(c)は、セラミック膜体10の四辺において、幅方向および長手方向の全域に被覆部16を矩形枠状に形成した例を示している。
【0043】
図7(a)~(c)のいずれの態様でも、被覆部16のコーティングはセラミック膜体10の表面を被覆するに留まり、内部の集水チャンネル15に影響しない。そのため、図中矢印で示すセラミック膜体10の内部の水流が阻害されることはない。
【0044】
板状のセラミック膜体10を四隅で固定する場合、応力に対して各辺の中央部の変形量が大きくなりやすい。その結果として、固定により変位が抑制される四隅に対して中央部の曲げ角度が大きくなると、セラミック膜体10が破断しやすくなる。第3実施形態では、上記のようにセラミック膜体10の辺の中央部も含むように被膜部16を形成することで、辺の中央部において荷重の因子となる汚泥ケーキの形成を抑制できる。
【0045】
また、第3実施形態においても、第2実施形態と同様の被膜部16aを形成した場合には、被膜部16aでコーティングされた領域の機械的強度が向上する。これにより、辺の中央部でのセラミック膜体10の変形を抑制することができる。
【0046】
図8は、セラミック膜体10に応力がかかった状態の構造解析例を示す模式図である。
図8(a)は、比較例として被覆部16aが形成されていないセラミック膜体10での構造解析結果を示す。図8(b)は、被覆部16aを四辺に形成したセラミック膜体10での構造解析結果を示す。
【0047】
図8の各図は、セラミック膜体10の四隅をそれぞれ固定端とし、セラミック膜体10に応力がかかったときの各辺の変位を示している。図8(a)の比較例では、セラミック膜体10の各辺の中央部(図8(a)の破線部)で比較的大きな変位が生じていることが分かる。これに対し、図8(b)では、セラミック膜体10の四辺に被覆部16aが形成されているので、セラミック膜体10の各辺の中央部での変位が、図8(b)中一点鎖線で輪郭を示す比較例の変位よりも小さい。
図8(b)のように被覆部16aを形成した場合のセラミック膜体10の変位量は、被覆部16aで強化された幅に依存して小さくなる。もっとも、被覆部16aでコーティングされた領域は固液分離には寄与しなくなるので、当該領域の合成面積はできるだけ少なくする方が好ましい。
【0048】
<第4実施形態>
第4実施形態は、第1実施形態の変形例であって、固定部11、12と被覆部16を一体的に形成し、これらをセラミック膜体10に取り付ける例である。
【0049】
第1実施形態で述べた通り、セラミック膜体10の表面の一部を選択的に覆うことができれば、覆われた領域において汚泥ケーキの形成を抑制することができる。例えば、固定部11、12でセラミック膜体10の四隅を部分的に覆うようにしてもよい。
【0050】
具体的には、図9に示すように、固定部11、12の両端形状を変更し、セラミック膜体10の隅部を覆う突起部16cが固定部11、12と一体的に形成されている。突起部16cは、固定部11、12の長手方向の両端に一対形成されている。各々の突起部16cは、セラミック膜体10の厚さ分の間隔をあけて三角形状の2つの薄板が対向配置された構成である。そのため、突起部16cの間にはセラミック膜体10を差し込むことが可能である。上記の固定部11、12にセラミック膜体10を取り付けることで、セラミック膜体10の幅方向の両隅が突起部16cの三角形状の薄板で覆われ、被覆部16が形成される。
【0051】
図10は、第4実施形態の構成によるフィルタユニット5での荷重モデルを示す図であり、図4(a)に対応する。図10は、一対の突起部16cにより、セラミック膜体10の両面にそれぞれ被覆部16が形成されている。図10の例においても、被覆部16の範囲は活性汚泥3の固液分離に寄与しないので、図4(a)の場合と同様に被覆部16には汚泥ケーキ7が形成されない。そのため、第4実施形態においても、汚泥ケーキ7の吸引が生じている箇所から固定部までの長手方向間隔L1’が長くなる。したがって、図10の例においても、長手方向のセラミック膜体10の曲げ角度θ1’が小さくなり、曲げによる応力集中も緩和される。よって、上記の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
また、第4実施形態の構成では、セラミック膜体10に固定部11、12を取り付けるときに被覆部16を同時に形成できるので、コーティングの手間を軽減することも可能である。
【0052】
なお、被覆部16の構成は上記に限定されない。例えば、図11に示すように、薄板状部材(あるいは薄膜状部材)16bをセラミック膜体10に接着等で取り付けて被覆部16を形成してもよい。かかる構成によっても、セラミック膜体10の表面に汚泥ケーキの形成が抑制できるので、上記の第1実施形態と同様の効果を得ることができる。
【0053】
本発明は、上記実施形態に限定されることなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、種々の改良並びに設計の変更を行ってもよい。
【0054】
上記実施形態では、ろ過工程の運転中に汚泥ケーキを吸引することでセラミック膜体10に曲げ応力が作用する場合を説明した。しかし、上記実施形態のように、被覆部を有するセラミック膜体10の構成は、汚泥ケーキ存在下の逆洗洗浄時の加圧、あるいはろ過と逆洗の切り替え時に発生し、管内圧力が過渡的に上昇または下降するウォータハンマー現象によってセラミック膜体10に曲げ応力が作用する場合にも、セラミック膜体10の破損を抑制するために有効に機能しうる。
【0055】
逆洗洗浄時には、逆洗用配管22を介してセラミック膜体10に二次側から薬液等が供給され、逆洗洗浄時の加減圧でセラミック膜体10に曲げ応力が作用しうる。このとき、被覆部の領域は薬液等を通しにくいので、逆洗洗浄時による加減圧は被覆部のない領域でより大きく作用する。換言すれば、被覆部を設けると、逆洗洗浄時の加減圧の作用する箇所から固定部までの長手方向間隔を長くできる。そのため、逆洗洗浄時の加減圧による曲げの場合においても、セラミック膜体10の曲げ角度が小さくなり、曲げによる応力集中も緩和できる。
【0056】
また、排水処理装置の構成は図1の構成に限定されるものではない。例えば、排水処理装置は、活性汚泥法で被処理水を処理する好気槽と、好気槽の液相を固液分離する膜分離槽をそれぞれ有する構成であってもよい。
【0057】
加えて、今回開示された実施形態は、全ての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は、上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0058】
1…排水処理装置、2…処理槽、3…活性汚泥、4…散気装置、5…フィルタユニット、7…汚泥ケーキ、10…セラミック膜体、11,12…固定部、13…多孔質支持体、14…ろ過層、15…集水チャンネル、16,16a,16b…被覆部、17…複合層、18…細孔

【要約】
【課題】汚泥ケーキの吸引および逆洗洗浄時の加減圧によるセラミック膜体の破損を抑制できるフィルタユニットを提供する。
【解決手段】フィルタユニットは、複数の板状のセラミック膜体を、互いの平面が対向した状態で間隔をあけて並列に配置されている。セラミック膜体は、ろ過水を通す集水チャンネルが内部に形成された支持体と、支持体の表面に形成されて固液分離を行うろ過層とを有する。各々のセラミック膜体は、平面上の第1方向の端部が固定部で固定される。セラミック膜体の固定部に臨む領域に、ろ過層の外側に積層されてろ過層の固液分離を阻害する被覆部が形成されている。
【選択図】図3

図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11