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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】黒色顔料の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 3/02 20060101AFI20220117BHJP
   C09C 3/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C01G3/02
C09C3/00
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2021509939
(86)(22)【出願日】2020-11-25
(86)【国際出願番号】 JP2020043752
(87)【国際公開番号】W WO2021106907
(87)【国際公開日】2021-06-03
【審査請求日】2021-03-08
(31)【優先権主張番号】P 2019215897
(32)【優先日】2019-11-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】598151544
【氏名又は名称】カサイ工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】304000836
【氏名又は名称】学校法人 名古屋電気学園
(74)【代理人】
【識別番号】100095577
【弁理士】
【氏名又は名称】小西 富雅
(72)【発明者】
【氏名】小林 雄一
【審査官】佐藤 慶明
(56)【参考文献】
【文献】米国特許出願公開第2001/0051103(US,A1)
【文献】中国特許出願公開第102320644(CN,A)
【文献】特開平08-012327(JP,A)
【文献】特開平09-029266(JP,A)
【文献】特開昭57-137366(JP,A)
【文献】特開2010-150353(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 3/02
C09C 1/00 - 3/12
C09D 17/00
CAplus/REGISTRY/WPIX(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第二銅の水溶液へこれとモル中和当量以上のアルカリ水溶液を混合して混合液を得る混合ステップと、
前記混合液を攪拌して水酸化銅を合成し、これがL*値30以下の黒色の酸化第二銅になるまで攪拌を継続する攪拌ステップと、
該撹拌ステップで得られた酸化第二銅の分散液を固液分離する分離ステップと、
を含む酸化第二銅からなる黒色顔料の製造方法であって、
前記撹拌ステップにおいて少なくとも黒色の酸化第二銅を得るときの攪拌温度は20℃~70℃とする黒色顔料の製造方法
【請求項2】
前記第二銅の水溶液は塩化第二銅の水溶液であり、前記アルカリ水溶液は水酸化ナトリウムの水溶液である、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
塩化第二銅の水溶液へこれとモル中和当量以上のアルカリ水溶液を混合して混合液を得る混合ステップと、
前記混合液を攪拌して水酸化銅を合成し、これがL*30以下の黒色の酸化第二銅となるまで攪拌を継続する攪拌ステップと、
該撹拌ステップで得られた酸化第二銅の分散液を固液分離する分離ステップと、
前記分離ステップの前に実行される、分散剤を導入する分散剤導入ステップと、
を含む黒色顔料の製造方法であって、
前記撹拌ステップにおいて少なくとも黒色の酸化第二銅を得るときの攪拌温度は20℃~70℃とする黒色顔料の製造方法
【請求項4】
前記第二銅の水溶液は塩化第二銅の水溶液であり、前記アルカリ水溶液は水酸化ナトリウムの水溶液である、請求項3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記分散剤はポリアクリル酸アンモニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、p-トルエンスルホン酸ナトリウム又はポリエチレンイミンである、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項6】
前記分散剤はポリアクリル酸アンモニウムである、請求項3又は4に記載の製造方法。
【請求項7】
0.6モル/リットルの塩化第二銅水溶液の200体積部に対して、0.04~4.00体積部のポリアクリル酸アンモニウムを導入する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
0.6モル/リットルの塩化第二銅水溶液の200体積部に対して、0.04~0.40体積部のポリアクリル酸アンモニウムを導入する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかの製造方法で得られた前記黒色顔料を得る黒色顔料合成ステップと、
前記黒色顔料を、その赤外線反射率(NIR)が失活する温度未満の温度条件下で処理する処理ステップと、
を含む黒色顔料の使用方法。
【請求項10】
前記黒色顔料合成ステップでは請求項5の製造方法を採用し、
前記処理ステップでは、前記黒色顔料を120℃以下の温度条件下で処理する、
請求項9に記載の使用方法。
【請求項11】
前記黒色顔料合成ステップでは請求項6の製造方法を採用し、
前記処理ステップでは、前記黒色顔料を150℃以下の温度条件下で処理する、
請求項9に記載の使用方法。
【請求項12】
請求項1~6のいずれかの製造方法で得られた前記黒色顔料とバインダとを含む黒色系組成物を得る黒色顔料合成ステップと、
該黒色系組成物を積層するステップと、を含む遮熱層の製造方法であって、
全工程において前記黒色顔料はその赤外線反射率(NIR)を失活する温度未満の温度に維持される、遮熱層の製造方法。
【請求項13】
前記黒色顔料合成ステップでは請求項5の製造方法を採用し、
全工程において前記黒色顔料は120℃以下に維持される、請求項12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記黒色顔料合成ステップでは請求項6の製造方法を採用し、
全工程において前記黒色顔料は150℃以下に維持される、請求項12に記載の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、黒色顔料の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
酸化第二銅(以下、単に酸化銅ということがある)はCuOと表記される銅の酸化物であって、一般的に顔料としての使用が知られている。
かかる酸化銅の湿式の製造方法の一例が特許文献1に開示されている。
この製造方法によれば、塩化第二銅(CuCl)と水酸化ナトリウム(NaOH)とを混合して40~50℃に保持して60分以上攪拌する(実施例では80分)。その後、更に水酸化ナトリウム(NaOH)を加えてpH10~13の範囲で70~80℃に昇温し、20~30分保持して酸化を促進させる。得られた酸化第二銅は500℃以上の温度で焼成されて、その結晶成長が図られる。
【0003】
このようにして得られる酸化第二銅は、実際には暗い青緑色となる。試薬として販売されている酸化第二銅のL*値のほとんどは30を超えている。表1を参照されたい。
【表1】
表1において、L*値及び赤外線反射率(NIR)は市販の試薬(Nos.1-5)を赤外線反射率が最大となる温度で熱処理して、得たものである。

上記においてNo.5の試薬のL*値は30以下を示す。濃い黒色であるため赤外線の反射率が低く(赤外線反射率(NIR):40%)、即ち赤外線も効率よく吸収するので、遮熱材としては不適なものである。
その他、本願発明に関係示する技術を開示する先行技術文献として特許文献2~4を参照されたい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開平5-319825号公報
【文献】特表平11-507982号公報
【文献】特開2019-142726号公報
【文献】特開2010-150354号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
昨今の温暖化対策として、L*値が30以下の黒色を維持しつつ高い赤外線反射率(NIR)を備えた黒色系顔料が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねてきた結果、L*値が30以下かつ赤外線反射率(NIR)が60%以上となる酸化第二銅の製造方法を見出した。この酸化第二銅は黒色顔料となりうる。
即ち、この発明の第1の局面は次のように規定される。
第二銅の水溶液へこれとモル中和当量以上のアルカリ水溶液を混合して混合液を得る混合ステップと、
前記混合液を攪拌して水酸化銅を合成し、これがL*30以下の黒色の酸化第二銅になるまで攪拌を継続する攪拌ステップと、
該攪拌ステップで得られた酸化第二銅の分散液を固液分離する分離ステップと、
を含む酸化第二銅からなる黒色顔料の製造方法。
【0007】
このようにして得られた酸化第二銅はおしなべて深い黒色を備える(L*値は30以下)。そして、高い赤外線反射率(NIRは50以上)を備える。
なお、本発明者らが現有する測定装置では、得られた酸化第二銅と上記試薬の酸化第二銅とを峻別する結晶構造上の相違点を特定することはできなかった。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1はこの発明の酸化第二銅のNIRと後処理温度との関係を示すグラフである。
図2図2は酸化第二銅をポリアクリル酸アンモニウムで被覆してなる黒色顔料のNIRと後処理温度との関係を示すグラフである。
図3図3は後処理温度を80℃としたときの酸化第二銅を被覆するポリアクリル酸アンモニウムの量とNIR等各種特性との関係を示すグラフである。
図4図4は後処理温度を150℃としたときの酸化第二銅を被覆するポリアクリル酸アンモニウムの量とNIR等各種特性との関係を示すグラフである。
図5図5は後処理温度を200℃としたときの酸化第二銅を被覆するポリアクリル酸アンモニウムの量とNIR等各種特性との関係を示すグラフである。
図6図6は酸化第二銅を各種の分散剤で被覆してなる黒色顔料のNIRと後処理温度との関係を示すグラフである。
【発明の実施の形態】
【0009】
本発明者らの検討によれば第二銅の水溶液として塩化第二銅の水溶液を選択し、アルカリ水溶液として水酸化ナトリウム水溶液を選択したとき、水酸化ナトリウムは、モル中和当量(前者の1モルに対して後者の2モルが中和トル当量)において、塩化第二銅の1.0~4.0倍(モル中和当量)とする。好ましくは1.0~3.0倍である。更に好ましくは、1.5~3.0倍である。
塩化第二銅に対する水酸化ナトリウムの量が1.0倍(モル中和当量)未満となると、得られる酸化第二銅は濃青緑色となる。他方、その量が4.0倍(モル中和当量)を超えると、粘度が高くなり過ぎて不適である。
塩化第二銅の水溶液と水酸化ナトリウム水溶液との混合液は攪拌開始後に白濁する。このとき水酸化銅が合成されたと考えられる。その後、攪拌を継続すると酸化第二銅に変化する。本発明者らの検討によれば、攪拌条件を制御することで得られた酸化第二銅は黒色(L*が30以下)となり、かつ高いNIRを備えることとなる。
本発明者らの検討によれば、攪拌時の温度は20℃~70℃とする。好ましくは、20℃~50℃、更に好ましくは30℃~40℃である。当該温度が20℃未満であると、酸化第二銅のL*値を十分下げることができなかった。他方、攪拌時の温度が70℃を超えても、L*値を十分さげることができなかった。
攪拌に要する時間や攪拌の方式は、得られる酸化第二銅のL*値が30以下となり、かつ赤外線反射率(NIR)が50%以上となれば、特に限定されるものではないが、3時間以上、6時間以上、更には24時間以上の連続攪拌(第ニ銅の水溶液とアルカリ水溶液との混合開始から)とすることが好ましい。攪拌時間が3時間未満であると、L*値を30以下とし難くなる。
攪拌の方式はプロペラ式が好ましい。
【0010】
水酸化銅を合成するまでは汎用的な条件、例えば70℃を超える温度で、第二銅の水溶液とアルカリ水溶液との混合液を攪拌してもよい(合成攪拌)。
このようにして水酸化銅が合成された後、当該水酸化銅を分散させた分散液を20℃~70℃の温度で黒色の酸化第二銅となるまで攪拌する(黒色化攪拌)。黒色化攪拌の時間は、当該分散液が黒色化しかつその赤外線反射率(NIR)が50%を超えるものとなれば特に限定されないが、2時間以上の連続攪拌とすることが好ましい。
合成攪拌と黒色化攪拌とは連続して行っても、非連続的に行ってもよい。
【0011】
熟成攪拌の完了後、即ち、得られた黒色の酸化第二銅の分散液を固液分離する。固液分離の方法は特に限定されるものではないが、ろ過、遠心分離、その他の汎用的な方法を用いることができる。
得られた固体成分は、水洗した後、乾燥させる。
乾燥条件も特に限定されるものでないが、例えば、80℃に保った乾燥機中で24時間程度乾燥させた。乾燥空気を導入すればさらに短い時間で乾燥させる事ができる。
得られた固体成分は黒色の酸化第二銅からなり、その平均粒径は1~10μmである。
【0012】
上記のようにして得られた酸化第二銅について検討を重ねてきた本発明者らは、この酸化第二銅は加熱されるとその赤外反射率が低下することに気が付いた。
図1は後述する実施例4の試料の熱処理温度とその赤外線反射率(NIR)との関係を示す。図1より、熱処理温度が120℃を超えると赤外線反射率(NIR)の低下がみられた。なお、熱処理によりL*値が変わることはなかった。
他方、この試料をポリマーで被覆すると赤外線反射率(NIR)の低下が抑制された。
かかるポリマーは酸化第二銅の周囲に薄い被膜を形成できるものであればよく、汎用的な分散剤(界面活性剤)を用いることができる。
実施例では、ポリアクリル酸アンモニウム、カルボキシメチルセルロースナトリウム、p-トルエンスルホン酸ナトリウム、ポリエチレンイミンについて耐熱性向上の効果を確認している(図6参照)。
【0013】
かかる分散剤は、酸化第二銅の製造プロセスにおいて、最初から導入しても、製造後に導入してもよい(図2参照)。また、製造の途中で導入してもよい。
分散剤の配合量は酸化第二銅の表面に被膜を形成できればよい。
図4の結果では、0.6モル/リットルの塩化第二銅水溶液の200体積部に対して、40質量%のポリアクリル酸アンモニウムを含む分散剤(中京油脂株式会社製、セルナD-305)を0.1体積部から10.0体積部としたとき、耐熱性の向上がみられていることがわかる。分散剤の配合量が0.1体積部未満となると、分散しているすべての酸化第二銅に被膜を形成できないおそれがある。他方、10.0体積部を超えると酸化第二銅を製造する溶液の粘度が高くなりすぎて、攪拌の支障となる。また,酸化第二銅を得ることに要する時間が長くなる。図4から、分散剤の量は0.6モル/リットルの塩化第二銅水溶液の200体積部に対して、0.1~1体積部とすることがより好ましいことがわかる。
【実施例
【0014】
次に、実施例について説明する。
<試料の調製>
1.2モル/リットル(M)の水酸化ナトリウム水溶液200ミリリットルと0.6モル/リットル(M)の塩化銅水溶液200ミリリットルを調製し、(1)水酸化ナトリウム水溶液を撹拌しながら塩化銅水溶液を滴下する方法と、(2)塩化銅水溶液を撹拌しながら水酸化ナトリウム水溶液を滴下するいずれかの方法により短時間で水酸化銅を生成させ、その後撹拌を続けた。24時間後、得られた試料を沈殿させるため1時間放置し、吸引ろ過をしながらpH7になるまで蒸留水で洗浄した。取り出した試料を80℃に保った乾燥器中で水分が無くなるまで乾燥させた。乾燥した試料はメノウ乳鉢で解砕して粉末試料とした。
塩化第二銅をポリマーで被覆する場合、最初からポリアクリル酸アンモニウムなどの分散剤を水酸化ナトリウム水溶液及び/又は塩化銅水溶液へ予め導入しておくか、又は、酸化第二銅の形成が完了した後に導入する。
得られた試料をアルミナるつぼに投入し、電気炉を用いて所定の温度で24時間熱処理(後処理)を行った。
後処理後の酸化第二銅のメジアン径は4.58μm、平均径は6.77μmであった。粒径の測定は堀場製作所の粒度分布測定装置LA-960による。
また、酸化第二銅の赤外線反射率(NIR)の測定は次のようにして行った。
【0015】
分光光度測定
紫外可視近赤外(UV-Vis-NIR)分光光度計SolidSpece-3700 (株式会社島津製作所)
<測定条件>
波長範囲:240~2600nm
スキャンスピード:中速
サンプリングピッチ:オートサンプリングピッチ
測定モード:シングル
測定値:反射率
検出器ユニット:積分球
スリット幅 (nm):(20)
光源:自動
時定数(s):0.1
グレーティング切り替え波長 (nm):720
光源切り替え波長(nm):310
S/R 切り替え:標準
スリットプログラム:標準
ベースライン:リファレンス光・標準白標板、サンプル光・標準白標板
標準白標板:SRS-99-020 labsphere社
【0016】
<測定方法>
粉末試料を付属のセルに充填し、紫外可視近赤外(UV-Vis-NIR)分光光度計SolidSpece-3700を用いて分光光度測定および反射率を測定した。R光、S光ともに標準白標板をベースラインに測定した。
日射反射率の測定は,JIS K5602「塗膜の日射反射率の求め方」に従った。
近紫外及び可視光域(300nm~780nm)
近赤外域(780nm~2500nm)
全波長域(300nm~2500nm)
【0017】
得られた結果を表2に示す。
【表2】

表2において、実施例、比較例とも後処理時間は24時間である。
【0018】
表2の比較例1に示すように、水酸化ナトリウムの量が1.0モル中和当量未満となると、酸化第二銅が黒色にならないことがわかる。
同様に比較例2の結果から、攪拌時の温度が20℃未満となると、酸化第二銅のL*値が30を超えることがわかる。
実施例5と比較例3の結果から、攪拌時の温度が70℃を超えると、酸化第二銅の黒色化を達成できないおそれがある。
比較例4の結果から、攪拌の時間が不足すると、酸化第二銅が黒色にならないことがわかる。この比較例4と実施例11との比較から、塩化第二銅と水酸化ナトリウムとを混合した後の連続攪拌時間は3時間以上とすることが好ましい。さらに他の実施例より攪拌時間は6時間以上、更に好ましくは24時間以上とする。
比較例5、6の結果より、後処理温度が200℃を超えると、赤外反射率(NIR)の値が極端に低下している。
【0019】
図1は、実施例4の試料について後処理温度を変化させたときの赤外反射率(NIR)の変化を示す。
図1の結果から、実施例4の試料である酸化第二銅は120℃以上の熱履歴がかかると、その赤外線反射率(NIR)が低下することがわかる。
図2には実施例4の試料である酸化第二銅をポリアクリル酸アンモニウムで被覆した場合の後処理温度と赤外線反射率(NIR)との関係を示す。
図2の結果から、被覆用ポリマーの導入のタイミングの如何にかかわらず、150℃を超えても高い赤外線反射率(NIR)が維持されることが分かった。
【0020】
図4は、後処理温度を150℃としたとき、ポリアクリル酸アンモニウムの導入量と各種パラメータとの関係を示す。図4の結果は、0.6モル/リットルの塩化第二銅水溶液の200体積部に最初から各量のポリアクリル酸アンモニウム(中京油脂製、セルナD-305)を導入して得られたものである。
後処理温度の如何にかかわらず、L*値は30以下であり、黒色が維持されていることがわかる。
セルナD-305の導入量が0.1~1.0体積部(即ち、ポリアクリル酸アンモニウムの導入量が0.04~0.40体積部)において、赤外線反射率(NIR)が高くなっていることがわかる。なお、セルナD-305の導入量が10体積部(即ち、ポリアクリル酸アンモニウムの導入量が4.0体積部)を超えると、溶液の粘度が高くなり、反応に必要な時間も長くなるので好ましくない。
【0021】
セルナD-305以外の分散剤を用いたときの結果を図6に示す。
図中CMC(CMCダイセル1330)はダイセルファインケム社製のカルボキシメチルセルロースナトリウムを主成分とする分散剤である。p-トルエンスルホン酸ナトリウムは富士フィルム和光純薬製の試薬、ポリエチレンイミンは富士フィルム和光純薬製の試薬である。それぞれ、水酸化銅を合成する前の0.6モル/リットルの塩化第二銅水溶液の200体積部に対して10体積部を導入している。
図6の結果から、各種の分散剤を用いても塩化第二銅の耐熱性が向上していることがわかる。
【0022】
以上より、この発明で得られる酸化第二銅はそのNIR特性において温度感受性が高いことがわかる。換言すれば、この酸化第二銅はそのNIR特性において比較的低い温度で失活する。
よって、この発明の酸化第二銅を顔料として使用する場合、バインダ等他の原料との混合工程や、当該混合工程で得られた組成物を賦形する際に、例えば赤外線反射率(NIR)を失活する温度を超える温度に晒さないようにする。ここに、賦形とは塗装表面層の形成に限られず、当該組成物を用いた三次元的造形物も含まれる。
本発明の酸化第二銅を顔料に含んだ遮熱材は、黒色を維持しつつ、優れた赤外線反射能力を備えるものとなる。
【0023】
以上、塩化第二銅を出発原料として説明をしてきたが、硝酸銅,酢酸銅,硫酸銅においても同様な結果が得られると考えられる。反応させるアルカリは水酸化ナトリウムに限定されるものではなく、水酸化カリウムその他の汎用的なアルカリを用いることができる。
【0024】
この発明は、上記発明の実施の形態及び実施例の説明に何ら限定されるものではない。特許請求の範囲の記載を逸脱せず、当業者が容易に想到できる範囲で種々の変形態様もこの発明に含まれる。
図1
図2
図3
図4
図5
図6