(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】流路デバイスおよびそれを用いた試験装置、試験方法
(51)【国際特許分類】
G01N 35/10 20060101AFI20220203BHJP
G01N 37/00 20060101ALI20220203BHJP
G01N 35/08 20060101ALI20220203BHJP
【FI】
G01N35/10 A
G01N37/00 101
G01N35/08 D
(21)【出願番号】P 2021511116
(86)(22)【出願日】2020-01-09
(86)【国際出願番号】 JP2020000493
(87)【国際公開番号】W WO2020202688
(87)【国際公開日】2020-10-08
【審査請求日】2021-05-25
(31)【優先権主張番号】P 2019070836
(32)【優先日】2019-04-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001993
【氏名又は名称】株式会社島津製作所
(74)【代理人】
【識別番号】110001081
【氏名又は名称】特許業務法人クシブチ国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】岩田 祐士
【審査官】岡村 典子
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-82772(JP,A)
【文献】特開2010-78508(JP,A)
【文献】特開2015-123012(JP,A)
【文献】特開2017-215288(JP,A)
【文献】特開2018-96703(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 35/00-37/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウェルを有するウェルプレート内に存在する検査液を観察するための流路デバイスであって、
主面を有する板状の本体部と、
前記本体部に設けられ、前記本体部の前記主面に対して垂直な方向に沿って延び、前記ウェル内に挿入するための挿入体と、を備え、
前記挿入体は、前記ウェル内の検査液を吸い上げ可能な寸法を有する細孔を備え、
前記本体部は、前記細孔に連通し、前記本体部の主面方向に沿って延びる観察流路と、を備える
流路デバイス。
【請求項2】
請求項1に記載の流路デバイスであって、
前記本体部は第1の板材と第2の板材とを備え、前記観察流路は第1の板材と第2の板材との界面に形成されている流路デバイス。
【請求項3】
請求項2に記載の流路デバイスであって、
所定の領域に複数の観察流路を接近して配置して観察部とし、
複数の挿入体の各々の先端から前記観察部に至るまでの流路長が等しくされている流路デバイス。
【請求項4】
請求項3に記載の流路デバイスであって、
前記観察部の前記複数の観察流路は並列配置されている流路デバイス。
【請求項5】
請求項1から4のいずれかに記載の流路デバイスであって、
前記細孔が延びる方向と前記観察流路とが直交する流路デバイス。
【請求項6】
光透過性を有するテーブルと、前記テーブルの下方に配置された光源と、前記テーブル上に位置決めされる試験容器の上方に配置された顕微鏡と、を備え、
前記試験容器は、ウェルプレートと、前記ウェルプレートの上に配置された請求項1から5のいずれか1項に記載の流路デバイスとを備え、
前記テーブルは、X軸方向およびY軸方向の少なくとも一方に移動自在とされる、
試験装置。
【請求項7】
ウェルを有するウェルプレート内に存在する検査液を観察するための流路デバイスであって、
主面を有する板状の本体部と、
前記本体部に設けられ、前記ウェル内に挿入するための挿入体と、を備え、
前記挿入体は、前記ウェル内の検査液を吸い上げ可能な寸法を有する細孔を備え、
前記本体部は、主面方向に沿って延びる観察流路を備え、
前記観察流路は前記細孔に連通する、流路デバイスを準備し、
前記ウェル内で検査液を作る工程と、
前記ウェルプレートの上に前記流路デバイスを重ね合わせ、前記挿入体を前記検査液中に没入する工程と、
少なくとも前記観察流路に前記検査液を移動させる工程と、
前記観察流路を顕微鏡で観察する工程と、
を備える試験方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、流路デバイスおよびそれを用いた試験装置、試験方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、抗菌薬の有効性検査である薬剤感受性試験では、ウェルプレートを用いて微量液体希釈法により行われる(例えば、特許文献1参照)。例示的な微量液体希釈法では、異なる抗菌薬について2倍ずつの薬剤濃度希釈系列を準備し、18時間程度の菌培養時間後、どの濃度までの薬剤中で細菌が増殖して白濁したかを評価し、抗菌薬の発育阻止濃度(有効薬剤濃度)を検査する。
【0003】
一方、近年マクロに見た細菌の増殖ではなく、細菌一つ一つの分裂や形態変化を観察することによって、数時間で薬剤感受性検査を行う手法が提案されている。この手法では、1μm程度の細菌観察のため顕微鏡を用いるので、観察領域の上下方向の平行性、液高さ、複数ポイント同時観察性を有する集積型のマイクロ流路が用いられることがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、従来のように集積型のマイクロ流路を用いた場合には、集積型のマイクロ流路への薬剤固定化技術が課題であり、菌液注入後、乾燥薬剤が溶出、拡散する速度の安定性、薬剤力価の保持に課題がある。
形態観察法では、検査結果となる細菌の形態変化が生じないうちに観察が終了することが望ましい。例えば、1~3時間程度で検査結果となる細菌の形態変化が生じる場合、観察時間スパンは30分程度が望ましい。
しかし、市販のウェルプレートを用いて細菌の形態観察を行う場合、ウェルプレートに注入された菌液の体積(液体高さ)に応じて顕微鏡の焦点距離が変化するため、各ウェル一つ一つで焦点位置を変化させる必要が生じうる。このとき、例えば、位相差顕微鏡による観察を行うとき、対物レンズと位相差コンデンサの2つの部品を上下両方向からフォーカス合わせする必要があり、時間がかかる。
例えば、96ウェルプレート(24薬剤×4濃度)の場合、観察点が多く、観察を30分程度で行うのも困難になる場合がある。
【0006】
そこで、本発明の目的は、薬剤感受性試験を迅速に行うことを可能にする流路デバイスおよびそれを用いた試験装置、試験方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
この明細書には、2019年4月2日に出願された日本国特許出願・特願2019-70836の全ての内容が含まれる。
本発明の第1の態様は、ウェルを有するウェルプレート内に存在する検査液を観察するための流路デバイスであって、主面を有する板状の本体部と、前記本体部に設けられ、前記本体部の前記主面に対して垂直な方向に沿って延び、前記ウェル内に挿入するための挿入体と、を備え、前記挿入体は、前記ウェル内の検査液を吸い上げ可能な寸法を有する細孔を備え、前記本体部は、前記細孔に連通し、前記本体部の主面方向に沿って延びる観察流路と、を備える流路デバイスに関する。
【0008】
本発明の第2の態様は、光透過性を有するテーブルと、前記テーブルの下方に配置された光源と、前記テーブル上に位置決めされる試験容器の上方に配置された顕微鏡と、を備え、前記試験容器は、ウェルプレートと、前記ウェルプレートの上に配置された上記の流路デバイスとを備え、前記テーブルは、X軸方向およびY軸方向の少なくとも一方に移動自在とされる試験装置に関する。
【0009】
本発明の第3の態様は、ウェルを有するウェルプレート内に存在する検査液を観察するための流路デバイスであって、主面を有する板状の本体部と、前記本体部に設けられ、前記ウェル内に挿入するための挿入体と、を備え、前記挿入体は、前記ウェル内の検査液を吸い上げ可能な寸法を有する細孔を備え、前記本体部は、主面方向に沿って延びる観察流路を備え、前記観察流路は前記細孔に連通する、流路デバイスを準備し、前記ウェル内で検査液を作る工程と、前記ウェルプレートの上に前記流路デバイスを重ね合わせ、前記挿入体を前記検査液中に没入する工程と、少なくとも前記観察流路に前記検査液を移動させる工程と、前記観察流路を顕微鏡で観察する工程と、を備える試験方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明の第1の態様によれば、薬剤感受性試験を迅速に行うことを可能にする流路デバイスを提供できる。
【0011】
本発明の第2の態様および第3の態様によれば、第1の態様の流路デバイスを用いることにより、市販のウェルプレートを用いた場合でも、薬剤感受性試験を迅速に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【
図1】
図1は、本発明の実施形態に係る薬剤感受性試験装置の概略を示す側面図である。
【
図5】
図5は、流路デバイスを説明するための概略を示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
[薬剤感受性試験装置の構成]
以下、図面を参照して本発明の一実施形態について説明する。
図1は、薬剤感受性試験装置の概略を示す側面図、
図2は、同じく正面図である。
符号1は、薬剤感受性試験装置のテーブルを示す。
このテーブル1は光透過性を有する素材で形成されている。テーブル1には、市販のウェルプレート2の上に、本実施形態の流路デバイス10を重ね合わせた試験容器20が、位置決めされた状態で載置されている。試験容器20の上方には、光学顕微鏡7の対物レンズ71が配置される。対物レンズ71の下方の、薬剤感受性試験装置の基台40の上面には、光源8が配置される。テーブル1は、平面上の直交座標系における、
図1および
図2のX軸方向およびY軸方向に移動自在である。
テーブル1の駆動機構は、テーブル1の下に設けられている。駆動機構は、テーブル1の下面に固定されたX軸方向移動手段50と、基台40の上面の上面に固定されたY軸方向移動手段60とを備え、Y軸方向移動手段60の上にX軸方向移動手段50が固定されている。Y軸方向移動手段60は、
図2に示すように、Y軸方向に延びる一対の第1ボールねじ61と、第1ボールねじ61の回転に応じてスライドする第1ナット62と、第1ボールねじ61を支持する第1支持体63と、第1支持体63に固定され第1ボールねじ61を回転させる第1ステッピングモータ64とを備えている。そして、第1支持体63が、基台40の上面に固定されている。X軸方向移動手段50は、
図1に示すように、X軸方向に延びる一対の第2ボールねじ51と、第2ボールねじ51の回転に応じてスライドする第2ナット52と、第2ボールねじ51を支持する第2支持体53と、第2支持体53に固定され第2ボールねじ51を回転させる第2ステッピングモータ54とを備えている。そして、第1ナット62の上に、第2支持体53が固定されている。
【0014】
[試験容器の構成]
図3は、試験容器20の平面図、
図4は、同じく側面図である。
図3では、マイクロ流路17、ウェル21を部分的に省略して図示している。
図4では、挿入体14、フランジ15、ウェル21を部分的に省略して図示している。
試験容器20は、一般に市販されるウェルプレート2の上に、本実施形態の流路デバイス10を重ね合わせて構成されている。ウェルプレート2は、例えば96ウェルプレート(24薬剤×4濃度)であれば、縦横に8×12の、96個のウェル21を有し、すべてのウェル21において、細菌と抗菌薬とが混合されている。その混合液は、数時間を経て、検査対象の検査液となる。
【0015】
[流路デバイスの構成]
つぎに、流路デバイス10を説明する。
図5は、流路デバイス10を説明するための概略を示す断面図、
図6は、同じく平面図である。
図5では、左側のウェル21から連通する1つの流路に沿って断面をとっており、右側のウェル21から連通する流路では、マイクロ流路17の途中までしか図示していない。本実施形態では、試験を行うに際し、4つのウェル21内の検査液の変化を、顕微鏡7(
図1参照)により同時に観察が可能である。
流路デバイス10は、光透過性を有する、厚さtが1mmほどの、第1の板材11および第2の板材12を、上下に重ね合わせた本体部13と、本体部13に設けられた、直径D1が2mmほどの挿入体14とを備える。第1の板材11の下面から挿入体14の先端面までの長さHは9mmほどであり、流路デバイス10をウェルプレート2の上に重ね合わせたとき、挿入体14の先端が、ウェル21内の検査液の中に没入するとともに、ウェルの21底に着かないようになっている。なお、本実施形態では本体部13は矢印A方向と直交する上下面が主面となる。
符号15は、直径Dがウェル21の開口内径(7mm)よりも少し小さい5mmほどのフランジである。フランジ15は、流路デバイス10をウェルプレート2の上に重ね合わせたとき、ウェル21内に挿入され、流路デバイス10とウェルプレート2との相対的な大きなずれを防止するものとなっている。
【0016】
挿入体14とフランジ15とは、図示は省略したが、ウェル21の数と配置とに対応して設けられる。ウェルプレート2は、市販の96ウェルプレート(24薬剤×4濃度)であり、本体部13の第1の板材11には96個の挿入体14とフランジ15とが設けられている。
【0017】
すべての挿入体14は、ウェル21内の検査液を毛細管現象により吸い上げる細孔16を備えている。この細孔16は、フランジ15と、第1の板材11とを貫通している。細孔16には、マイクロ流路17が連通する。マイクロ流路17は、第1の板材11における第2の板材12との接合面(第1の板材11と第2の板材12との界面)に形成されている。マイクロ流路17は垂直に延びる排気孔18を介して、流路デバイス10の外部に連通する開口19と連通している。マイクロ流路17は、
図6に示すように、本体部13の主面方向に沿って延びて設けられ、観察流路17aと導入流路17bとにより構成される。導入流路17bにより細孔16と観察流路17aとが繋がれる。そして、観察流路17aに排気孔18が繋がれる。
【0018】
本実施形態では、
図5の矢印A方向に、流路デバイス10を寸法H1だけ下げて、ウェルプレート2の上に、流路デバイス10を重ね合わせたとき、挿入体14とフランジ15とが、ウェル21内に挿入され、挿入体14が、ウェル21の検査液の中に没入する。そして、挿入体14の細孔16を通して、毛細管現象により吸い上げた検査液が、排気孔18に至るほどに吸い上げられ、検査液がマイクロ流路17に満たされる。
したがって、市販のウェルプレート2を用いて細菌の形態観察を行う場合、ウェルプレート2の96個のウェル21内の検査液の体積(液体高さ)にバラつきがあったとしても、マイクロ流路17内の検査液を観察することになるため、顕微鏡7の焦点距離が変化することはない。各ウェル21一つ一つで焦点位置を変化させる必要がなく、例えば、位相差顕微鏡による観察を行うとき、対物レンズ、位相差コンデンサという上下両方向からの焦点合わせの必要がなくなり、焦点合わせに時間がかかることがない。
【0019】
図6は、4つのウェル21内の検査液の変化を、顕微鏡7により同時に観察が可能な状態を示す。本実施形態では、ウェル21の数に対応し、96個の挿入体14を備えるが、
図6では、4つの挿入体14についてのみ説明し、そのほかの挿入体14については構成が同じであるので説明を省略する。
【0020】
各挿入体14は、それぞれ細孔16を有し、各細孔16に連通する4つのマイクロ流路17の観察流路17aは、略水平面S内に並列に接近してまとめて配置される。観察流路17aがまとめられた略水平面Sは、検査液の観察部30とされている。
観察部30は、4つのマイクロ流路17に導かれた検査液の変化を、顕微鏡7により同時に観察できるように、狭い範囲とされている。
流路デバイス10は、各挿入体14の先端から観察部30に至るまでの流路長が、すべての挿入体14において、等しく設定されている。
本実施形態では、4つのマイクロ流路17に導かれた検査液の変化を、顕微鏡7により同時に観察できるようになっている。したがって、複数(本実施形態では4つ)の観察ポイントを顕微鏡7の1つの視野内に収めることができ、撮像回数を減らすことができる。また、複数の観察ポイントを顕微鏡7の1つの視野内に収めることにより、複数の観察ポイントの比較を容易にすることができる。
【0021】
細孔16およびマイクロ流路17の内径は、通常、1μm~1mmの範囲内に設定される。この内径は、検査液の粘度などにより決められる。なかでも、観察流路17aの内径は、細菌の形態を観察しやすい観点から、50μm以下であることが好ましい。観察流路17aは、細菌の形態を観察しやすい観点から、直線状であることが好ましい。観察部30の長さLは3mmほどである。
【0022】
従来のように集積型のマイクロ流路を用いた場合と比較し、薬剤拡散による濃度変化を無視することができる。市販の感受性試験用ウェルプレート2を用いて迅速検査を行うことができ、コスト面で有利であり、薬剤濃度などの信頼性を損なうことがない。
【0023】
[試験方法]
つぎに、試験方法について説明する。
まず、ウェルプレート2のウェル21において、細菌と抗菌薬とを混合し、その後、数時間を経て、その混合液を検査対象の検査液にする。
次いで、ウェルプレート2の上に流路デバイス10を重ね合わせて、その流路デバイス10の挿入体14を検査液に没入させる。
次に、毛細管現象を利用して、検査液を、挿入体14の細孔16を通して、排気孔18に至るほどに吸い上げ、検査液でマイクロ流路17を満たす。
そして、ウェルプレート2の上に流路デバイス10を重ね合わせた試験容器20を、薬剤感受性試験装置のテーブル1の上に載置する。
次いで、第1の観察部30が顕微鏡7の下方に位置するよう、テーブル1の駆動機構によりテーブル1を移動させ、顕微鏡7により、第1の観察部30を撮像し、第1の観察部30のマイクロ流路17内の細菌を形態観察する。
その後、テーブル1を再度移動させ、同様にして、第2の観察部30のマイクロ流路17内の細菌を形態観察する。これを順次繰り返し、複数の観察部30において、細菌を形態観察する。
【0024】
[効果]
以上のように、本実施形態の流路デバイス10は、市販のウェルプレート2の上に重ね合わせて使用できるため、形態観察のコストを低減することができる。
【0025】
また、本実施形態の流路デバイス10は、ウェルプレート2の上に重ね合わせることにより、ウェル21内の検査液を、流路デバイス10のマイクロ流路17における観察部30まで移動させ、観察部30内の細菌を顕微鏡7により形態観察することができる。そのため、ウェル21内の検査液を顕微鏡7により形態観察するのと異なり、検査液の体積(検査液面の高さ)のバラつきおよび検査液面の曲率という、焦点合わせに時間を要する要因がなく、細菌の形態観察に要する時間を短縮することができる。
【0026】
また、本実施形態の流路デバイス10は、観察部30が略水平面Sにあるため、顕微鏡7で観察しやすくなっている。
さらに、マイクロ流路17が第1の板材11における第2の板材12との接合面に形成されていることから、すべての観察部30は、同じ高さ位置にある。そのため、顕微鏡7の焦点合わせの時間を短縮することができる。
【0027】
特に、本実施形態の流路デバイス10は、4つのマイクロ流路17が並列に接近してまとめて配置される領域を観察部30としているため、4つの観察ポイントを顕微鏡7の1つの視野内に収めることができ、撮像回数を減らすことができる。
【0028】
本実施形態の流路デバイス10は、マイクロ流路17内で細菌と抗菌薬などの薬剤とを混合するものではないため、薬剤拡散による検査液の濃度変化がなく、検査の信頼性に優れている。
【0029】
[他の実施形態]
上述した実施形態では、4つのマイクロ流路17をまとめて配置して観察部30としたが、まとめるマイクロ流路17の数は、2つでも3つでもよいし、5つ以上でもよい。
ただし、上述した実施形態のように、まとめるマイクロ流路17は、4個のウェル21からとし、それら4個のウェルの中央部に、観察部30を配置することが好ましい。その理由は、挿入体14の先端から観察部30までの流路長をすべての流路において等しくしやすく、検査液が観察部30まで移動する時間を等しくできるからである。
一方、複数の観察ポイントを近接させることなく、各観察ポイントを離して配置してもよい。
【0030】
また、上述した実施形態では、毛細管現象を利用して、検査液を観察部30まで移動させたが、他の手段を利用してもよい。例えば、排気孔18の開口19がある第1空間と、ウェルプレート2の検査液の液面がある第2空間とに仕切り、第1空間の気圧を低くし、排気孔18の開口19に負圧をかけることにより、検査液を吸い上げるようにして観察部30まで移動させてもよい。または、第2空間の気圧を高くし、検査液の液面を加圧することにより、検査液を押し出すようにして観察部30まで移動させてもよい。または、その両方(第1空間の気圧を低くするとともに、第2空間の気圧を高くする)を利用してもよい。
【0031】
なお、上述した実施形態は、あくまでも本発明の態様の例示であり、本発明の主旨を逸脱しない範囲において任意に変形および応用が可能である。
【0032】
[態様]
上述した実施形態は、以下の態様の具体例であることが当業者により理解される。
【0033】
(第1項)第1の態様に係る流路デバイス10は、ウェル21を有するウェルプレート2内に存在する検査液を観察するための流路デバイス10であって、主面を有する板状の本体部13と、前記本体部13に設けられ、前記本体部13の前記主面に対して垂直な方向に沿って延び、前記ウェル21内に挿入するための挿入体14と、を備え、前記挿入体14は、前記ウェル21内の検査液を吸い上げ可能な寸法を有する細孔16を備え、前記本体部13は、前記細孔16に連通し、前記本体部13の主面方向に沿って延びる観察流路17aと、を備えてよい。
【0034】
第1項に記載の流路デバイス10によれば、薬剤感受性試験を迅速に行うことを可能にする流路デバイスを提供できる。
【0035】
(第2項)第1項に記載の流路デバイス10であって、前記本体部13は第1の板材11と第2の板材12とを備え、前記マイクロ流路17は第1の板材11と第2の板材12との界面に形成されもよい。
【0036】
第2項に記載の流路デバイスによれば、マイクロ流路17の形成が簡単にできる。
【0037】
(第3項)第3項に記載の流路デバイス10であって、所定の領域に複数の観察流路17aを接近して配置して観察部30とし、複数の挿入体14の各々の先端から前記観察部30に至るまでの流路長が等しくされてもよい。
【0038】
第3項に記載の流路デバイス10によれば、検査液が観察部30まで移動する時間を等しくすることができる。
【0039】
(第4項)第3項に記載の流路デバイス10であって、前記観察部30の前記複数の観察流路17aは並列配置されてもよい。
【0040】
第4項に記載の流路デバイス10によれば、複数の観察ポイントを顕微鏡7の1つの視野内に収めやすくできる。そのため、複数の観察ポイントの比較がより容易にできるようになる。
【0041】
(第5項)第1項から第4項のいずれかに記載の流路デバイス10であって、前記細孔16が延びる方向と前記観察流路17aとが直交していてもよい。
【0042】
第5項に記載の流路デバイス10によれば、観察流路17aで検査液を保持しやすくできる。
【0043】
(第6項)第2の態様に係る試験装置は、光透過性を有するテーブル1と、前記テーブル1の下方に配置された光源8と、前記テーブル1上に位置決めされる試験容器20の上方に配置された顕微鏡7と、を備え、前記試験容器20は、ウェルプレート2と、前記ウェルプレート2の上に配置された第1項から第5項のいずれかに記載の流路デバイス10とを備え、前記テーブル1は、X軸方向およびY軸方向の少なくとも一方に移動自在とされてよい。
【0044】
第6項に記載の試験装置によれば、第1項から第5項のいずれかの流路デバイス10を用いることにより、市販のウェルプレート2を用いた場合でも、早く安定的に形態観察することができる。
【0045】
(第7項)第3の態様に係る試験方法は、ウェル21を有するウェルプレート2内に存在する検査液を観察するための流路デバイス10であって、主面を有する板状の本体部13と、前記本体部13に設けられ、前記ウェル21内に挿入するための挿入体14と、を備え、前記挿入体14は、前記ウェル21内の検査液を吸い上げ可能な寸法を有する細孔16を備え、前記本体部13は、主面方向に沿って延びる観察流路17aを備え、前記観察流路17aは前記細孔16に連通する、流路デバイス10を準備し、前記ウェル21内で検査液を作る工程と、前記ウェルプレート2の上に前記流路デバイス10を重ね合わせ、前記挿入体14を前記検査液中に没入する工程と、少なくとも前記観察流路17aに前記検査液を移動させる工程と、前記観察流路17aを顕微鏡7で観察する工程と、を備えてよい。
【0046】
第7項に記載の試験方法によれば、流路デバイス10を用いることにより、市販のウェルプレート2を用いた場合でも、早く安定的に形態観察することができる。
【符号の説明】
【0047】
1 テーブル
2 ウェルプレート
7 対物レンズ
8 光源
10 流路デバイス
11 第1の板材
12 第2の板材
13 本体部
14 挿入体
16 細孔
17 マイクロ流路
18 排気孔
19 開口
20 試験容器
21 ウェル
30 観察部