(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】車載器、風状況送信方法、及び風状況送信プログラム
(51)【国際特許分類】
B60W 40/02 20060101AFI20220203BHJP
B60W 30/02 20120101ALI20220203BHJP
B60W 50/14 20200101ALI20220203BHJP
G08G 1/13 20060101ALI20220203BHJP
G01W 1/02 20060101ALI20220203BHJP
B62D 6/00 20060101ALI20220203BHJP
B62D 101/00 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
B60W40/02
B60W30/02
B60W50/14
G08G1/13
G01W1/02 A
B62D6/00
B62D101:00
(21)【出願番号】P 2018051021
(22)【出願日】2018-03-19
【審査請求日】2020-07-09
(31)【優先権主張番号】P 2017191153
(32)【優先日】2017-09-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003609
【氏名又は名称】株式会社豊田中央研究所
(73)【特許権者】
【識別番号】000002967
【氏名又は名称】ダイハツ工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】中川 雅樹
(72)【発明者】
【氏名】河上 充佳
(72)【発明者】
【氏名】村田 收
(72)【発明者】
【氏名】委細 尚史
(72)【発明者】
【氏名】村上 泰史
(72)【発明者】
【氏名】内田 勝也
【審査官】山本 賢明
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-028068(JP,A)
【文献】実開平06-044644(JP,U)
【文献】国際公開第2017/111126(WO,A1)
【文献】特開2006-220547(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B60W 40/02
B60W 30/02
B60W 50/14
G08G 1/13
G01W 1/02
B62D 6/00
B62D 101:00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動体の現在位置を示す位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記移動体前方の左右方向に離れた一対の個所各々の風圧を検出する検出部と、
前記検出部で検出された左右各々の風圧に基づいて、前記移動体の周辺における風に関する物理量を推定する風推定部と、
前記風推定部で推定された前記風に関する物理量を、前記移動体の前記位置情報に対応付けて送信する送信部と、
を備え、
前記検出部は、前記移動体の前方に左右対称に配置された一対の圧力センサであり、
前記風推定部は、前記一対の圧力センサで検出された風圧の差及び風圧の和に基づいて、前記風に関する物理量としての風向及び風速を推定する
車載器。
【請求項2】
前記風推定部は、前記一対の圧力センサで検出された風圧の差を風圧の和で除算した圧力係数を用いて、前記風に関する物理量としての風向を推定する
請求項1に記載の車載器。
【請求項3】
移動体に搭載されたコンピュータが、
前記移動体の現在位置を示す位置情報を取得し、
前記移動体前方の左右方向に離れた一対の個所各々の風圧を検出し、
検出された左右各々の風圧の差及び風圧の和に基づいて、前記移動体の周辺における風に関する物理量としての風向及び風速を推定し、
推定された前記風に関する物理量を、前記移動体の前記位置情報に対応付けて送信する
ことを含む風状況送信方法。
【請求項4】
コンピュータを、請求項1又は請求項2に記載された車載器の各部として機能させるための風状況送信プログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載器、風状況送信方法、及び風状況送信プログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
自動車等の移動体が移動する移動経路の探索を行う場合に、気象情報を用いて強風に関する情報を報知する技術が知られている。例えば、気象庁等の団体により提供された気象情報に基づいた強風エリアを地図上に設定し、設定された強風エリアを通過する移動体の乗員に対して強風に関する情報の報知を行う技術が提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、移動経路の探索を行う場合に、風向及び風速を示す気象情報を用いる技術が知られている。例えば、風向及び風速を示す気象情報を用いて、風による走行負荷を考慮した移動経路を探索する技術も提案されている(例えば、特許文献2参照)。
【0003】
ところで、気象情報は、予め定めた位置に設置された気象計測センサにより定点観測するが、少ない個数で広範囲の気象情報を得るために計測地点を散在させている。一方、近年、短時間に生じる急激な気象変動が注目されており、多くの地点における気象計測が求められている。そこで、計測センサを移動体に搭載し、気象情報に加えて、各種の環境計測を行い、移動体が移動する際の条件に反映させる技術が知られている。例えば、降水量センサ及びカメラ等の計測センサを車両に搭載し、計測結果を用いて移動体が走行路を移動する走行条件を推定する技術が提案されている(例えば、特許文献3参照)。また、移動体のふらつきが横風による影響であるかを判定し、移動体のふらつきが横風による影響である場合に、報知する技術が提案されている(例えば、特許文献4参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2011-133427号公報
【文献】特開2012-88204号公報
【文献】特表2015-535204号公報
【文献】特開2014-141191号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、多くの地点における気象計測を行う、例えば風に関する物理量を取得するために、特別な計測センサを複数の移動体に搭載して計測することは、移動体に特別な構成が要求されると共に、システム全体が複雑になる。従って、簡単な構成で移動体に作用する風による影響を把握するために風に関する物理量を推定したり用いることには改善の余地がある。
【0006】
本発明は、上記事実を考慮してなされたもので、簡単な構成で、風に関する物理量を推定したり用いることができる車載器、風状況送信方法、及び風状況送信プログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本発明の車載器は、
移動体の現在位置を示す位置情報を取得する位置情報取得部と、
前記移動体前方の左右方向に離れた一対の個所各々の風圧を検出する検出部と、
前記検出部で検出された左右各々の風圧に基づいて、前記移動体の周辺における風に関する物理量を推定する風推定部と、
前記風推定部で推定された前記風に関する物理量を、前記移動体の前記位置情報に対応付けて送信する送信部と、
を備えている。
【0008】
本発明の車載器によれば、風推定部は、検出部によって検出された左右各々の風圧に基づいて、移動体の周辺における風に関する物理量を推定する。送信部は、風推定部で推定された風に関する物理量を、位置情報取得部で取得された移動体の位置情報に対応付けて送信する。この車載器を移動体に取り付けることで、移動体の移動に伴って時々刻々と変化する移動体の周辺における風に関する物理量を移動体の外部へ送信することができる。これによって、移動体の外部で、複数の位置における風に関する物理量を用いて特定領域の風の状況を把握することができる。
【0009】
前記車載器では、
前記検出部は、前記移動体の前方に左右対称に配置された一対の圧力センサとすることができ、前記風推定部は、前記一対の圧力センサで検出された風圧の差及び風圧の和に基づいて、前記風に関する物理量を推定することができる。
前記検出部は、移動体前方の風圧を検出するので、圧力を示す物理量を検出可能であることが好ましい。また、例えば左方向又は右方向から同じ空気力が作用する場合には、一対のセンサで検出される各々の風圧の和が同じ値で検出されることが好ましい。そこで、移動体の前方に左右対称に配置された一対の圧力センサにより移動体前方の風圧を検出することで、移動体に作用する空気力に影響する風に関する物理量を、左右の方向に偏ることなく推定することができる。
【0010】
前記車載器では、
前記風に関する物理量は、風向及び風速に関する物理量とすることができる。
このように、風向及び風速に関する物理量を用いることで風に関する物理量として風の状況を詳細に推定することができる。
【0011】
また、本発明の移動体運動制御装置は、
移動体の周辺における風に関する物理量を取得する風状況取得部と、
前記風状況取得部で取得された前記風に関する物理量に基づいて、前記移動体の挙動を変化させる方向に作用する空気力を推定する空気力推定部と、
前記空気力推定部で推定された空気力に基づいて、前記空気力の作用に応じて変化する前記移動体の挙動を予測する挙動予測部と、
前記移動体が、前記挙動予測部で予測された挙動を打ち消す挙動を行うように前記移動体の運動を制御する運動制御装置を制御する制御部と、
を備えている。
【0012】
本発明の移動体運動制御装置によれば、空気力推定部は、風状況取得部で取得された移動体の周辺における風に関する物理量に基づいて、移動体の挙動を変化させる方向に作用する空気力を推定する。挙動予測部は、空気力推定部で推定された空気力から空気力の作用に応じて変化する移動体の挙動を予測する。そして、制御部は、移動体が、挙動予測部で予測された挙動を打ち消す挙動を行うように移動体を制御する運動制御装置を制御する。このように、移動体の周辺における風に関する物理量を取得して空気力を精度よく推定し、その推定した空気力を用いて移動体の挙動を打ち消す挙動を行うように移動体を制御するので、簡単な構成でかつ短時間で移動体に作用する空気力に応じて移動体の挙動として生じる影響を抑制することができる。
【0013】
前記移動体運動制御装置は、
前記風状況取得部で風に関する物理量を表示する表示部をさらに備え
ることができる。
前記表示部に風に関する物理量を表示することにより、風が移動体の挙動に作用する可能性のあることを移動体の乗員が容易に把握することができる。
【0014】
前記移動体運動制御装置では、
前記風に関する物理量は、風向及び風速に関する物理量とすることができる。
このように、風向及び風速に関する物理量を用いることで風に関する物理量として風の状況を詳細に予測することができる。
【0015】
さらに、本発明の風情報予測装置は、
複数の移動体各々から送信された前記複数の移動体各々の位置情報及び前記複数の移動体各々の周辺における風に関する物理量を取得する風物理量取得部と、
前記風物理量取得部で取得された前記複数の移動体各々の前記位置情報及び前記風に関する物理量に基づいて、前記複数の移動体の位置を含む特定領域における風に関する物理量を示す風情報を予測する風予測部と、
前記風予測部で予測された前記風情報を前記特定領域に対応付けて記憶する記憶部と、
を備えている。
【0016】
本発明の風情報予測装置によれば、風物理量取得部は、複数の移動体各々から送信された複数の移動体各々の位置情報及び複数の移動体各々の周辺における風に関する物理量を取得する。風予測部は、風物理量取得部で取得された複数の移動体各々の位置情報及び風に関する物理量に基づいて、複数の移動体の位置を含む特定領域における風に関する物理量を示す風情報を予測する。そして、記憶部は、風予測部で予測された風情報を特定領域に対応付けて記憶する。このように、複数の移動体各々からの位置情報及びその周辺における風に関する物理量を取得することで、風情報を容易に予測することができる。
【0017】
前記風情報予測装置では、
前記風物理量取得部で取得された前記複数の移動体各々の前記位置情報及び前記風に関する物理量を蓄積する蓄積部をさらに備え、前記風予測部は、前記蓄積部で蓄積された前記複数の移動体各々の前記位置情報及び前記風に関する物理量を用いて、前記風情報を予測する
ことができる。
位置情報及び風に関する物理量を蓄積することで、位置情報に対する風に関する物理量の総量を増加させることができ、風情報を予測する場合の基となるデータを増加でき、予測精度を向上させることができる。
【0018】
また、前記風情報予測装置では、
指定された領域の風情報の出力要求を受け付ける受付部と、
前記記憶部に記憶され、かつ前記受付部で受け付けた前記指定された領域に対応する特定領域に対応付けられた前記風情報を出力する出力部と、
をさらに備えることができる。
或る特定領域の風情報、例えば、局所的な風情報は、その特定領域を走行する移動体の乗員及びその特定領域の風情報の入手を希望するユーザにとって、有効な情報である。そこで、指定された領域の風情報の出力要求を受け付け、記憶部に記憶されている、指定された領域に対応する特定領域に対応付けられた風情報を出力することで、移動体の乗員及びユーザが風情報を入手可能にすることができる。
【0019】
前記風情報予測装置では、
前記風に関する物理量は、風向及び風速に関する物理量とすることができる。
このように、風向及び風速に関する物理量を用いることで風に関する物理量として風の状況を詳細に推定することができる。
【0020】
本発明の風状況送信方法は、
移動体に搭載されたコンピュータが、
前記移動体の現在位置を示す位置情報を取得し、
前記移動体前方の左右方向に離れた一対の個所各々の風圧を検出し、
検出された左右各々の風圧に基づいて、前記移動体の周辺における風に関する物理量を推定し、
推定された前記風に関する物理量を、前記移動体の前記位置情報に対応付けて送信する
ことを含む。
【0021】
本発明の移動体運動制御方法は、
移動体に搭載されたコンピュータが、
前記移動体の周辺における風に関する物理量を取得し、
取得された前記風に関する物理量に基づいて、前記移動体の挙動を変化させる方向に作用する空気力を推定し、
推定された空気力に基づいて、前記空気力の作用に応じて変化する前記移動体の挙動を予測し、
前記移動体が、前記挙動予測部で予測された挙動を打ち消す挙動を行うように前記移動体の運動を制御する運動制御装置を制御する
ことを含む。
【0022】
本発明の風情報予測方法は、
コンピュータが、
複数の移動体各々から送信された前記複数の移動体各々の位置情報及び前記複数の移動体各々の周辺における風に関する物理量を取得し、
取得された前記複数の移動体各々の前記位置情報及び前記風に関する物理量に基づいて前記複数の移動体の位置を含む特定領域における風に関する物理量を示す風情報を予測し、
予測された前記風情報を前記特定領域に対応付けて記憶する
ことを含む。
【0023】
本発明の風状況出力プログラムは、
コンピュータを、前記車載器の各部として機能させる。
【0024】
本発明の移動体運動制御プログラムは、
コンピュータを、前記移動体運動制御装置の各部として機能させる。
【0025】
本発明の風情報予測プログラムは、
コンピュータを、前記風情報予測装置の各部として機能させる。
【発明の効果】
【0026】
以上説明したように本発明によれば、簡単な構成で、風に関する物理量を推定したり用いることができる、という効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】実施形態に係る情報通信システムの構成の一例を示すブロック図である。
【
図2】実施形態に係る車両に搭載された電子機器の配置例及び空気力に関する座標系の一例を示すイメージ図である。
【
図3】実施形態に係る車両に設置された車載器の一例を示す機能ブロック図である。
【
図4】圧力係数と風向との関係の一例を示すイメージ図である。
【
図5】差圧と和圧の対応関係の一例を示すイメージ図である。
【
図6】風洞実験による差圧と和圧の対応関係の一例を示すイメージ図である。
【
図7】予測式による差圧と和圧の対応関係の一例を示すイメージ図である。
【
図8】コンピュータにより実現した車載器の構成の一例を示すブロック図である。
【
図9】車載器における風況演算処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図10】実施形態に係る車両に設置された運動制御装置の一例を示す機能ブロック図である。
【
図11】コンピュータにより実現した運動制御装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図12】運動制御装置における車両挙動制御処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図13】実施形態に係るクラウド部に設置された風情報予測装置の構成の一例を示すブロック図である。
【
図14】コンピュータにより実現した風情報予測装置45の構成の一例を示すブロック図である。
【
図15】風情報予測装置における風況マップ処理の流れの一例を示すフローチャートである。
【
図16】楕円曲線で表される差圧と和圧との対応関係の一例を示すイメージ図である。
【
図17】風向と、差圧及び和圧により得られる角度φとの対応関係の一例を示すイメージ図である。
【
図18】走行中に取得した差圧及び和圧の実測値と、風速100km/hの風洞実験により取得した差圧及び和圧の楕円近似曲線とを示すイメージ図である。
【
図19】風向の実測値の時間特性と、差圧及び和圧による風向の推定値の時間特性とを示すイメージ図である。
【
図20】風速の実測値の時間特性と、差圧及び和圧による風速の推定値の時間特性とを示すイメージ図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、図面を参照して本発明に係る実施形態を説明する。
本実施形態は、移動体の周辺における風に関する物理量を推定したり、風によって移動体に作用する空気力により変化する移動体の挙動を相殺するように移動体の運動を制御したりする場合の一例を説明する。また、本実施形態では、移動体の一例として、自動車等の車両の運動を制御する場合を説明する。
【0029】
図1に、本実施形態に係る車両に搭載された電子機器を含む複数の電子機器間で、情報を授受する情報通信システム1の構成の一例を示す。
【0030】
図1に示すように、情報通信システム1は、車両2に搭載された電子機器、及びクラウド部4に設置された電子機器とを備え、車両2側の電子機器とクラウド部4側の電子機器との間で、相互に情報を授受する。
【0031】
車両2は、電子機器の一例として、車載器21及び運動制御装置22を搭載可能である。車載器21は、無線通信アンテナ等を含む通信部23に接続されており、通信部23を介して車両2の外部装置との通信を行うことができる。また、運動制御装置22も無線通信アンテナ等を含む通信部23に接続されており、通信部23を介して車両2の外部装置との通信を行うことができる。なお、以下の説明では、車載器21及び運動制御装置22を搭載した移動体を車両2とし、運動制御装置22を搭載した一般的な移動体を車両3として説明する。また、車両2及び車両3を区別する必要がない場合には、車両2と総称して説明する場合がある。
【0032】
クラウド部4は、無線通信網41、及びクラウド44内に設けられた風情報予測装置45を備えている。無線通信網41は、ネットワーク43を介して風情報予測装置45に接続されている。なお、
図1では、ネットワーク43が1つの風情報予測装置45に接続された場合を模式的に示したものである。つまり、クラウド44は、所謂クラウドと呼ばれるサーバ等の電子機器及びそれらの電子機器と通信する通信機器の集合体であり、風情報予測装置45の総体として機能するが、
図1では、1つの風情報予測装置45の接続を代表的に示したものである。
【0033】
無線通信網41は、アクセスポイント(AP)42を含んでいる。無線通信網41は、アクセスポイント(AP)42を介して車両2(無線通信アンテナによる通信部23)に対して無線通信により情報を授受する。風情報予測装置45は、クラウド44側において風情報の予測を行う装置である。
【0034】
図2に、車両2に搭載された電子機器の配置例を示す。
【0035】
図2に示すように、車両2には、車載器21、運動制御装置22、通信部23、車速を計測する車速センサ24、風圧を計測する圧力センサ25、位置センサ26、車両の運動を制御する車両運動制御部28、及び表示部29が搭載されている。本実施形態では、一対の圧力センサ25の一例として、車両の前方でかつ車両幅方向の左右2か所に圧力センサを設置した場合を説明する。具体的には、一対の圧力センサ25は、車両幅方向の左右2か所、つまり車両前方のフロントバンパFBP付近で、かつ左右の異なる位置に、前方左側設置の圧力センサ25L、及び前方右側設置の圧力センサ25Rを設置した場合を説明する。なお、車両2は、車両周囲の大気圧及び温湿度を計測する大気圧センサを搭載するようにしてもよい。
【0036】
一対の圧力センサ25は、左右の異なる位置に設置する場合、左右のバランスを考慮して、左右対称な位置またはその近傍の位置に設置することが好ましい。また、一対の圧力センサ25は表面圧力を時系列で計測できればよい。このため、一対の圧力センサ25は、車両表面に直接配置して表面圧力を直接計測しても良く、車両内部に配置し(埋め込み)、車両表面の孔から一対の圧力センサ25各々まで連通管を介して計測しても良い。車両内部に配置して計測する場合は、車両表面に設けられる孔は、直接計測する場合と同様の左右対称な位置またはその近傍の位置に設けることが好ましい。さらに、一対の圧力センサ25は、雨天時及び高温環境においても機能することが好ましい。
【0037】
位置センサ26は、車両2の現在位置を検出するセンサユニットである。位置センサ26の一例には、GPS(Global Positioning System)ユニットが挙げられる。GPSユニットは、複数のGPS衛星からの電波を受信して、各々のGPS衛星との距離を割り出すことにより、緯度及び経度等の座標値を測定するユニットである。
【0038】
(車載器)
図3に、車両2に設置された車載器21の構成の一例をブロック図で示す。
車両2に設置された車載器21は、車両2の周辺における風況について、風に関する物理量として風向及び風速を示す物理量を、圧力センサ25のセンサ出力値に基づいて推定する。
【0039】
車載器21は、情報取得部211、圧力演算部212、相対風況演算部213、及び風況演算部214を備えている。情報取得部211の入力側は、車両2に設置された車速センサ24、圧力センサ25、及び位置センサ26に接続されている。情報取得部211の出力側は、圧力演算部212、相対風況演算部213、及び風況演算部214を介して車両2に設置された通信部23に接続されている。
【0040】
情報取得部211は、車速センサ24、圧力センサ25、及び位置センサ26からの各々のセンサ出力を取得し、圧力演算部212へ出力する機能部である。
【0041】
圧力演算部212は、圧力センサ25に含まれる左側設置の圧力センサ25L及び右側設置の圧力センサ25Rの差圧及び和圧を演算して、演算された差圧及び和圧を各センサ出力と共に相対風況演算部213へ出力する機能部である。
【0042】
本実施形態では、圧力演算部212は、ノイズ除去のために予め定めたカットオフ周波数を有する図示しないローパスフィルタを備えており、図示しないローパスフィルタでノイズが除去されたセンサ出力の圧力値を用いる。すなわち、圧力演算部212は、図示しないローパスフィルタでノイズが除去された圧力センサ25の出力である圧力値を用いる。詳細には、圧力演算部212は、圧力センサ25Lの圧力値pL及び圧力センサ25Rの圧力値pRを用いて、次に示す(1)式により和圧psumを演算し、(2)式により差圧pdiffを演算する。
psum =pL+pR ・・・(1)
pdiff =pL-pR ・・・(2)
【0043】
また、本実施形態では、車速と外乱風速による合成風速に基づく動圧を考慮するため、次に示す(3)式を用いて、圧力値を無次元化する。すなわち、圧力センサ25Lの圧力値pL及び圧力センサ25Rの圧力値pRの和圧psumを動圧とみなし、(2)式を用いて演算された差圧pdiffを、(1)式を用いて演算された和圧psumで除算して圧力係数Cpdiffを演算する。
Cpdiff =pdiff/psum ・・・(3)
【0044】
このように、和圧psumを動圧とみなすことにより、車速[m/s]及び車両周囲の大気圧、並びに温湿度から算出する気流密度[kg/m3]を用いる必要はない。このため、大気圧センサ等のセンサの搭載は必須のものではない。
【0045】
相対風況演算部213は、(3)式を用いて無次元化された圧力値を用いて、風向βを、また差圧pdiffと和圧psumを用いて風速Uを導出する。なお、以下の説明を簡単にするため、風向及び風速の導出は、車両2が直進する走行中の直進状態を前提とした場合を説明する。
【0046】
(風向β)
まず、風向βの導出について説明する。
風向βは、前記圧力係数Cp
diffを用いて、次に示す(4)式で表すことができる。
【数1】
・・・(4)
【0047】
すなわち、風向βと、圧力係数Cpdiffと、には関係性が存在する。
【0048】
図4に、風洞実験によって導出された圧力係数Cp
diffと、風向βとの関係を示す。また、
図4には、前記(4)式による風向βと、圧力係数Cp
diffとの関係性も示した。
図4に示すように、前記(4)式による風向βと、圧力係数Cp
diffとの対応関係が風洞実験によって導出された圧力係数Cp
diffと、風向βとの関係に相当することが理解できる。従って、車両2の走行中に検出された圧力センサ25L及び圧力センサ25Rの差圧p
diff、を和圧p
sumで除算した圧力係数Cp
diffを、前記(4)式に代入することで、圧力センサ25の圧力値検出時点の風向βを導出できる。
【0049】
次に、風速Uの導出について説明する。なお、ここでは、車速と外乱風速による合成風速について説明する。
風速Uは、左右の圧力センサ25の差圧pdiff、及び和圧psumと、風速Uとの対応関係を用いて導出する。すなわち、風速Uは、左右の圧力センサ25の差圧pdiff、及び和圧psumの対応関係を予め導出しておき、導出された対応関係を用いて演算する。差圧pdiff、及び和圧psumの対応関係は、風洞実験及び流れのシミュレーション演算により予め導出することができる。
【0050】
図5に、予め風洞実験から得られた差圧p
diff、及び和圧p
sumの対応関係の一例を示す。
図5に示す例では、差圧p
diff、及び和圧p
sumの対応関係を、次の(5)式に示す楕円方程式で表すことができる。
【数2】
【0051】
なお、(5)式で示される楕円の中心点(x0 、y0 )、及び定数a、bは、左右の圧力センサ25の位置及び間隔と、車両2の形状に依存する。従って、楕円の中心点(x0 、y0 )、及び定数a、bは、車両2に設置した左右の圧力センサ25の位置及び間隔と、車両2の形状に対応するように、予め実験を行って設定することが好ましい。
【0052】
ここで、車両2の走行中の或る時刻に検出された圧力センサ25L及び圧力センサ25Rの差圧をp
diff(t) とし、和圧をp
sum(t) とした風状況を考える。
図5には風状況として点Xを打点した場合を示している。この場合、点O(x
o ,0)と、風状況を示す点Xとを通る直線OXは、次に示す(6)式で表すことができる。
p
sum=α・(p
diff-x
o ) ・・・(6)
ただし、α=p
sum(t)/(p
diff(t) -x
o )である。
【0053】
この直線OXと、(5)式で表される曲線との交点Y(pdiff_ref、psum_ref)を求める。
【0054】
ここで、点O(x
o 、0)から交点Yまでの距離OYに対する距離OXの比は、車両2の走行中の或る時刻における風速Uと、予め測定した所定風速U
ref での動圧の比に相当する。従って、次に示す(7)式の関係を有することになる。
【数3】
【0055】
従って、次に示す(8)式を用いて風速Uを導出することができる。
【数4】
【0056】
図6に、相違する車速による風速で偏揺角を変化させて行った風洞実験から得られた差圧p
diff、及び和圧p
sum、の対応関係の一例を示す。また、
図7に、(7)式による予測式を用いて導出した差圧p
diff、及び和圧p
sum、の対応関係の一例を示す。
図7に示す例は、車速が100[km/h]による実験データで(5)式を同定し、その他の曲線を(7)式を用いて決定したものである。
図6及び
図7に示されるように、予め風洞実験から得られた差圧p
diff、及び和圧p
sumの対応関係と、(7)式を用いて導出した差圧p
diff、及び和圧p
sum、の対応関係とが近似しており、(8)式を用いて風速Uを推定することの有効性が高いことが確認できる。
なお、車載の大気圧センサ及び温湿度計を用いて、走行時の車両周辺の気流密度ρを計測し、風洞実験時の気流密度ρ
ref との比(ρ
ref /ρ)
1/2を(8)式の右辺に係数として乗算することでさらに高い精度での風速推定も可能である。
【0057】
以上のようにして、
図3に示す相対風況演算部213は、風向β及び風速Uを導出する。
【0058】
次に、風況演算部214を説明する。
相対風況演算部213で導出した風向β及び風速Uは、車両2を基準とした相対的な風向β及び風速Uである。そこで、風況演算部214は、例えば地表を基準とした固定座標系に対する風向β
w 及び風速U
w を、車速U
car を用いて導出する。固定座標系に対する風向β
w 及び風速U
w は、次に示す(9)式及び(10)式で表すことができる。
【数5】
【数6】
【0059】
従って、風況演算部214は、(9)式及び(10)式を用いて、風向βw 及び風速Uw を導出する。そして、風況演算部214は、導出した風向βw 及び風速Uw を通信部23へ出力する。
【0060】
この場合、風況演算部214は、位置センサ26で検出された位置情報を、導出した風向βw 及び風速Uw に対応付けて出力する。これは、導出した風向βw 及び風速Uw の位置を特定するためである。
【0061】
通信部23は、風況演算部214から入力された位置情報が対応付けられた風向βw 及び風速Uw を外部へ、すなわち、風情報予測装置45へ向けて送信する。風情報予測装置45では、車載器21から送信された位置情報が対応付けられた風向βw 及び風速Uw を用いて風況のダイナミックマップを作成する(詳細は後述)。
【0062】
このように、車載器21は、一対の圧力センサ25による風圧の差圧pdiff及び和圧psumを用いて風向βw 及び風速Uw を導出できるので、専用の計測装置を用いる必要なく、車両2の周辺の風状況を車両2の外部へ報知することができる。
【0063】
なお、以上の説明では、風向及び風速の導出は、車両2が直進する走行中の直進状態を前提とした場合を説明したが、車両2の直進状態の場合における風向及び風速の導出に限定するものではない。例えばレーンチェンジ等のように車両2が走行路に沿わずに走行する場合、カメラ等のセンサによって車両2が走行路に沿わずに走行していることを検出し、検出したずれ量をδβw として取得し、(9)式により補正することが可能である。
【0064】
以上説明した車載器21は、コンピュータによる構成で実現することができる。
図8に、本実施形態に係る車載器21を、コンピュータにより実現する構成の一例を示す。
図8に示すように、車載器21として動作するコンピュータは、CPU(Central Processing Unit)21A、RAM(Random Access Memory)21B、およびROM(Read Only Memory)21Cを備えた装置本体21Xを含んで構成されている。ROM21Cは、圧力センサ25からのセンサ出力を用いて風向β
w 及び風速U
w を導出する風況演算プログラム21Pを含んでいる。装置本体21Xは、入出力インタフェース(I/O)21Dを備えており、CPU21A、RAM21B、ROM21C、及びI/O21Dは各々コマンド及びデータを授受可能なようにバス21Eを介して接続されている。また、I/O21Dには、車速を計測する車速センサ24、風圧を計測する左右一対の圧力センサ25、不揮発性メモリ22M、及び通信部23が接続されている。
【0065】
装置本体21Xは、風況演算プログラム21PがROM21Cから読み出されてRAM21Bに展開され、RAM21Bに展開された風況演算プログラム21PがCPU21Aによって実行されることで、車載器21として動作する。なお、風況演算プログラム21Pは、圧力センサ25からのセンサ出力を用いて風向βw 及び風速Uw を導出する各種機能を実現するためのプロセスを含む(詳細は後述)。
【0066】
図9には、コンピュータにより実現した車載器21における風況演算プログラム21Pによる処理の流れの一例が示されている。装置本体21Xでは、風況演算プログラム21PがROM21Cから読み出されてRAM21Bに展開され、RAM21Bに展開された風況演算プログラム21PをCPU21Aが実行する。
【0067】
まず、ステップS100では、車速センサ24により計測された車速、一対の圧力センサ25により計測された圧力、及び位置センサ26で計測されたセンサ出力の取得処理が実行される。ステップS100の処理は、
図3に示す情報取得部211の動作に対応する。
【0068】
次のステップS102では、圧力演算処理が実行される。すなわち、ステップS102では、一対の圧力センサ25の差圧及び和圧を演算する処理が実行される。具体的には、(1)式を用いて和圧p
sumを演算し、(2)式を用いて差圧p
diffを演算し、(3)式を用いて圧力係数Cp
diffを演算する。ステップS102の処理は、
図3に示す圧力演算部212の動作に対応する。
【0069】
次のステップS104では、車両2を基準とした相対的な風向β及び風速Uを導出する。具体的には、(4)式を用いて風向βを導出し、(8)式を用いて風速Uを導出する。ステップS104の処理は、
図3に示す相対風況演算部213の動作に対応する。
【0070】
次のステップS106では、地面固定座標系に対する風向β
w 及び風速U
w を導出する。具体的には、(9)式を用いて風向β
w を導出し、(10)式を用いて風速U
w を導出する。ステップS106の処理は、
図3に示す風況演算部214の動作に対応する。また、ステップS106では、位置センサ26で検出された位置情報を、導出した風向β
w 及び風速U
w に対応付ける処理も実行される。
【0071】
次のステップS108では、位置情報を対応付けた風向βw 及び風速Uw を出力する。具体的には、位置センサ26で検出された位置情報を対応付けた風向βw 及び風速Uw を、通信部23から送信することによって車載器21の外部へ出力する。
【0072】
ステップS110では、電源遮断等による終了指示がなされたかを判断し、否定判断された場合には、ステップS100へ処理を戻す。ステップS110で肯定判断された場合には、本処理ルーチンを終了する。
【0073】
このように、本実施形態の車載器21によれば、車両前方で計測する左右の異なる位置に設置された一対の圧力センサ25による圧力を用いて、風向βw 及び風速Uw を導出できるので、専用の計測装置を用いる必要なく、車両2の周辺の風状況を車両2の外部へ報知することができる。
【0074】
なお、本実施形態に係る車載器21は、構成する各構成要素を、上記で説明した各機能を有する電子回路等のハードウェアにより構築してもよく、構成する各構成要素の少なくとも一部を、コンピュータにより当該機能を実現するように構築してもよい。
【0075】
また、本実施形態に係る一対の圧力センサ25は、車両前方のフロントバンパFBP付近で、かつ左右の異なる位置に設置された圧力センサ25L及び圧力センサ25Rに限定されるものではない。
【0076】
(運動制御装置)
次に、車両2に設置された運動制御装置22について説明する。
図10に、車両2に設置された運動制御装置22の構成の一例をブロック図で示す。
運動制御装置22は、風によって車両2に作用する空気力により変化する車両2の挙動を抑制するように車両2の運動を制御する装置である。なお、本実施形態では、詳細を後述する風情報予測装置45からの風向β
w 及び風速U
w を用いて車両2の運動を制御する場合を説明する。
【0077】
運動制御装置22は、情報取得部221、空気力演算部222、車両運動演算部223、及び表示制御部224を備えている。情報取得部221の入力側は、車両2に設置された車速センサ24、風情報予測装置45からの風向βw 及び風速Uw を受信する通信部23、及び位置センサ26に接続されている。情報取得部221の出力側は、空気力演算部222、及び車両運動演算部223を介して車両2に設置された車両運動制御部28に接続されている。また、情報取得部221の出力側は、表示制御部224を介して車両2に設置された表示部29にも接続されている。
【0078】
情報取得部221は、車速センサ24、風情報予測装置45からの風向βw 及び風速Uw を受信する通信部23、及び位置センサ26からの情報を取得し、空気力演算部222、及び表示制御部224へ出力する機能部である。
【0079】
空気力演算部222は、自車の車速Ucar と、クラウド側の風情報予測装置45から取得した風向βw 及び風速Uw を用いて、空気力を演算し、演算された空気力を示す情報を車両運動演算部223へ出力する機能部である。車両運動演算部223は、入力された空気力の作用に応じて変化する車両の挙動を相殺又は抑制する車両運動制御量を演算し、車両運動制御部28へ出力する機能部である。車両運動制御部28は、車両の挙動に作用する操舵制御、制動制御、及びエンジン制御等の車両運動制御を行う機能部である。
【0080】
本実施形態では、空気力演算部222は、自車の車速Ucar と、クラウド側の風情報予測装置45から取得した風向βw 及び風速Uw を用いて、例えば横力及びヨーモーメントを演算する。なお、車速Ucar と、風向βw 及び風速Uw を用いて横力及びヨーモーメント等を演算して車両運動制御量を演算する処理は、特開平7-47968号公報等に記載されているように周知の技術であるため、詳細な説明を省略する。
【0081】
また、本実施形態では、車両運動演算部223は、演算結果の車両運動制御量を車両運動制御部28へ出力することに加えて、演算結果の車両運動制御量が予め定めた閾値を超えた場合に車両運動制御部28を即時動作が可能なように活性化させる信号を出力する機能を有している。例えば、車両運動演算部223は、クラウド側の風情報予測装置45から取得した風向βw 及び風速Uw を示す位置と現在位置とを比較して、風向βw 及び風速Uw を示す位置に接近した場合に、車両運動制御部28を即時動作が可能なように活性化させる信号を事前に出力する。この場合、車両運動演算部223は、自車の車速Ucar と、クラウド側の風情報予測装置45から取得した風向βw 及び風速Uw により車両2の挙動変化が予め定めた量を超える場合に、車両運動制御部28で迅速に対応可能なように、車両運動制御部28を即時動作が可能なように活性化させる信号を事前に出力してもよい。従って、車両運動制御部28を具備した一般的な車両3において、自車の車速Ucar と、風情報予測装置45から風向βw 及び風速Uw を取得することで、車両運動制御部28で迅速に対応することができる。
【0082】
また、情報取得部221で取得された、車速センサ24、風情報予測装置45からの風向βw 及び風速Uw を受信する通信部23、及び位置センサ26からの情報は、表示制御部224にも出力される。表示制御部224は、表示部29に接続されており、情報取得部221で取得された情報を表示部29に表示するように制御を行う。例えば、表示制御部224が、クラウド側の風情報予測装置45から取得した風向βw 及び風速Uw が予め定めた閾値を超えた場合に、警告表示するように表示部29を制御することで、車両の乗員は風向βw 及び風速Uw による風が車両に対して作用されることを確認することができる。
【0083】
以上説明した運動制御装置22は、コンピュータによる構成で実現することができる。
図11に、本実施形態に係る運動制御装置22を、コンピュータにより実現する構成の一例を示す。
図11に示すように、運動制御装置22として動作するコンピュータは、CPU22A、RAM22B、およびROM22Cを備えた装置本体22Xを含んで構成されている。ROM22Cは、自車の車速U
car 、風向β
w 及び風速U
w に応じた処理を行う車両挙動制御プログラム22Pを含んでいる。装置本体22Xは、入出力インタフェース(I/O)22Dを備えており、CPU22A、RAM22B、ROM22C、及びI/O22Dは各々コマンド及びデータを授受可能なようにバス22Eを介して接続されている。また、I/O22Dには、不揮発性メモリ22M、車速を計測する車速センサ24、位置センサ26、車両運動制御部28、表示部29、及び通信部23が接続されている。
【0084】
装置本体22Xは、車両挙動制御プログラム22PがROM22Cから読み出されてRAM22Bに展開され、RAM22Bに展開された車両挙動制御プログラム22PがCPU22Aによって実行されることで、運動制御装置22として動作する。
【0085】
図12には、コンピュータにより実現した運動制御装置22における車両挙動制御プログラム22Pによる処理の流れの一例が示されている。装置本体22Xでは、車両挙動制御プログラム22PがROM22Cから読み出されてRAM22Bに展開され、RAM22Bに展開された車両挙動制御プログラム22PをCPU22Aが実行する。
【0086】
まず、ステップS200では、車速センサ24、風情報予測装置45からの風向β
w 及び風速U
w を受信する通信部23、及び位置センサ26からの情報取得処理が実行される。ステップS200の処理は、
図10に示す情報取得部221の動作に対応する。
【0087】
次のステップS202では、少なくとも風情報予測装置45からの風向β
w 及び風速U
w を受信したことを表示部29に表示する表示制御処理が実行される。すなわち、ステップS202では、例えば、取得した風向β
w 及び風速U
w が予め定めた閾値を超えた場合に、警告表示するように表示部29を制御する。これにより、車両の乗員は風向β
w 及び風速U
w による風が車両に対して作用されることを確認することができる。ステップS202の処理は、
図10に示す表示制御部224の動作に対応する。
【0088】
次のステップS204では、自車の車速U
car と、風向β
w 及び風速U
w を用いて、例えば車両に作用するモーメント及び空気力を導出する。ステップS204の処理は、
図10に示す空気力演算部222の動作に対応する。
【0089】
次に、ステップS206では、演算された空気力に応じて変化する車両の挙動を予測し、予測された車両の挙動を相殺又は抑制する車両の運動演算処理が実行される。本実施形態では、ステップS206は、演算結果の車両運動制御量が予め定めた閾値を超えた場合に車両運動制御部28を即時動作が可能なように活性化させる信号を出力する。例えば、取得した風向β
w 及び風速U
w を示す位置と現在位置とが比較され、風向β
w 及び風速U
w を示す位置に接近した場合に、車両運動制御部28を即時動作が可能なように活性化させる信号が事前に出力される。これによって、車両運動制御部28を具備した一般的な車両3においても、風情報予測装置45から風向β
w 及び風速U
w を取得することで、車両運動制御部28を迅速に活性化させることができる。ステップS206の処理は、
図10に示す車両運動演算部223の動作に対応する。
【0090】
次のステップS208では、電源遮断等による終了指示がなされたかを判断し、否定判断された場合には、ステップS200へ処理を戻す。ステップS208で肯定判断された場合には、本処理ルーチンを終了する。
【0091】
このように、本実施形態の運動制御装置22によれば、風情報予測装置45からの風向βw 及び風速Uw を取得することで、車両2の周辺の風状況を乗員へ報知することができ、また、車両運動制御部28を迅速に活性化させることができる。
【0092】
なお、本実施形態に係る運動制御装置22は、構成する各構成要素を、上記で説明した各機能を有する電子回路等のハードウェアにより構築してもよく、構成する各構成要素の少なくとも一部を、コンピュータにより当該機能を実現するように構築してもよい。
【0093】
(風情報予測装置)
次に、クラウド部4に設置された風情報予測装置45について説明する。
図13に、クラウド部4に設置された風情報予測装置45の構成の一例をブロック図で示す。
風情報予測装置45は、車両2から送信された風状況、すなわち、風向β
w 及び風速U
w を蓄積して、風況のダイナミックマップを作成する機能を有する装置である。また、風情報予測装置45は、作成した風況のダイナミックマップを用いて車両2及び車両3へ走行地域周辺の風向β
w 及び風速U
w を報知する機能も有している。
【0094】
風情報予測装置45は、情報取得部451、判定部452、登録部453、及び抽出部454を備えている。情報取得部451の入力側は、無線通信網41に接続されている。情報取得部451の入力側に接続されている無線通信網41は、情報が入力される入力部41Aとして機能する。
【0095】
入力部41Aとして機能する無線通信網41は、風況情報の提供を示す情報47、すなわち、車両2からの風向βw 及び風速Uw を示す情報を受信して情報取得部451へ出力するようになっている。また、入力部41Aとして機能する無線通信網41は、風況情報の要請を示す情報48を受信して情報取得部451へ出力するようになっている。風況情報の要請を示す情報48の一例には、走行中の車両2から走行地点の周辺領域の風向βw 及び風速Uw を示す情報を要請する要請情報が挙げられる。また、風況情報の要請を示す情報48の他例には、アクセスポイント(AP)42が設置された地点周辺の周辺領域の風向βw 及び風速Uw を示す情報の提供を定期的に要請する要請情報が挙げられる。
【0096】
情報取得部451の出力側は、判定部452、及び抽出部454を介して無線通信網41に接続されている。抽出部454を介して接続されている無線通信網41は、情報が出力される出力部41Bとして機能する。出力部41Bとして機能する無線通信網41は、詳細を後述するダイナミックマップから抽出された風況情報49、すなわち、風向βw 及び風速Uw を示す情報を出力するようになっている。また、判定部は、登録部453を介して風況のダイナミックマップを記憶する記憶部46に接続されており、この記憶部46は、抽出部454にも接続されている。
【0097】
情報取得部451は、入力部41Aとして機能する無線通信網41から風況情報の提供を示す情報47又は風況情報の要請を示す情報48を取得し、判定部452へ出力する機能部である。
【0098】
判定部452は、風情報予測装置45に入力された情報が、風況情報の提供を示す情報47か、風況情報の要請を示す情報48かを判定する機能部である。
【0099】
風情報予測装置45に入力された情報が、風況情報の提供を示す情報47である場合、情報47、すなわち、車両2からの風向βw 及び風速Uw を示す情報は、判定部452及び登録部453を介して記憶部46に記憶される。詳細には、判定部452は、風況情報の提供を示す情報47を、登録部453へ出力する。登録部453は、車両2からの位置情報を対応付けた風向βw 及び風速Uw を示す情報を記憶部46に登録し、風況のダイナミックマップを作成する。すなわち、登録部453は、位置と、その位置の風向βw 及び風速Uw とを関連付けたレコードをデータベース登録する。そして、登録されたレコードのうち、予め定めた領域に含まれる風向βw 及び風速Uw の平均化や最大値又は最小値の特定、或いはカルマンフィルタ等の推定処理等の処理を行って、2次元面上に展開した予め定めた領域毎の風向βw 及び風速Uw を示す、風況のダイナミックマップを作成(更新)する。
【0100】
一方、風情報予測装置45に入力された情報が、風況情報の要請を示す情報48である場合、情報48に基づく風向βw 及び風速Uw を示す風況情報49が要請された箇所、すなわち、情報48の要請元へ出力される。詳細には、判定部452は、風況情報の要請を示す情報48に含まれる(風況情報が要請された)位置情報を、抽出部454へ出力する。抽出部454は、判定部452からの位置情報をキーとして、記憶部46に記憶された風況のダイナミックマップを検索し、該当する風向βw 及び風速Uw を示す風況情報49を、出力部41Bとして機能する無線通信網41へ出力する。これによって、車両2から取得した風向βw 及び風速Uw を示す風況情報を、要請に応じて容易に提供することが可能となる。
【0101】
以上説明した風情報予測装置45は、コンピュータによる構成で実現することができる。
図14に、本実施形態に係る風情報予測装置45を、コンピュータにより実現する構成の一例を示す。
図14に示すように、風情報予測装置45として動作するコンピュータは、CPU45A、RAM45B、およびROM45Cを備えた装置本体45Xを含んで構成されている。ROM45Cは、風況のダイナミックマップを作成(更新)したり、参照したりする処理を行う風況マッププログラム45Pを含んでいる。装置本体45Xは、入出力インタフェース(I/O)45Dを備えており、CPU45A、RAM45B、ROM45C、及びI/O45Dは各々コマンド及びデータを授受可能なようにバス45Eを介して接続されている。また、I/O45Dには、記憶部46、及び無線通信網41が接続されている。
【0102】
装置本体45Xは、風況マッププログラム45PがROM45Cから読み出されてRAM45Bに展開され、RAM45Bに展開された風況マッププログラム45PがCPU45Aによって実行されることで、風情報予測装置45として動作する。
【0103】
図15には、コンピュータにより実現した風情報予測装置45における風況マッププログラム45Pによる処理の流れの一例が示されている。装置本体45Xでは、風況マッププログラム45PがROM45Cから読み出されてRAM45Bに展開され、RAM45Bに展開された風況マッププログラム45PをCPU45Aが実行する。
【0104】
まず、ステップS400は、入力部41Aとして機能する無線通信網41から情報、すなわち、情報47及び情報48を取得する情報取得処理を実行する。ステップS400の処理は、
図13に示す情報取得部451の動作に対応する。
【0105】
次のステップS402では、ステップS400で取得した情報が、風況情報の提供を示す情報47か否かを判断し、肯定判断の場合は、ステップS404へ処理を移行する。ステップS402の処理は、
図13に示す判定部452の動作に対応する。
【0106】
ステップS404では、車両2からの位置情報を対応付けた風向βw及び風速Uwを示す風況情報が取得され、次のステップS406で、位置情報を対応付けた風向βw及び風速Uwを示す風況情報が記憶部46に記憶され、本処理ルーチンを終了する。ステップS404及びS406の処理は、
図13に示す登録部463の動作に対応する。
【0107】
一方、ステップS402で否定判断の場合は、ステップS408へ処理を移行する。ステップS408では、ステップS400で取得した情報が、風況情報の要請を示す情報48か否かを判断し、肯定判断の場合は、ステップS410へ処理を移行し、否定判断の場合はそのまま本処理ルーチンを終了する。ステップS408の処理は、
図13に示す判定部452の動作に対応する。
【0108】
ステップS410では、風況情報の要請を示す情報48に含まれる(風況情報が要請された)位置情報を取得し、次のステップS412で、位置情報に対応する風向β
w 及び風速U
w を示す風況情報49を取得する。そして、取得した風況情報49を、要請元へ出力する。すなわち、ステップS412では、位置情報をキーとして、記憶部46に記憶された風況のダイナミックマップを検索し、該当する風向β
w 及び風速U
w を示す風況情報を検索し、検索結果の風況情報49を出力する。ステップS410からステップS414の処理は、
図13に示す抽出部454の動作に対応する。
【0109】
このように、本実施形態の風情報予測装置45によれば、車両2から風向βw 及び風速Uw を示す情報が提供され、記憶部46にデータベース登録し、登録されたレコードを用いて、予め定めた領域の風向βw 及び風速Uw を特定することで、2次元面上に展開した風況のダイナミックマップを作成することができる。また、位置情報をキーとして、記憶部46に記憶された風況のダイナミックマップを検索することで、車両2から取得した風向βw 及び風速Uw を示す風況情報を、要請に応じて容易に提供することができる。
【0110】
(変形例)
次に、本実施形態の変形例を説明する。
上記実施形態では、圧力センサ25L及び圧力センサ25Rの差圧pdiffと和圧psum とから導出した圧力係数Cpdiffにより、風向βと圧力係数Cpdiffとの関係式((4)式も参照)を用いて、風向βを導出した。しかし、開示の技術は、圧力係数Cpdiffを導出してから関係式を用いて風向βを導出することに限定されるものではない。変形例は、圧力センサ25L及び圧力センサ25Rの差圧pdiff及び和圧psum を用いて風向βを導出する。
【0111】
上述したように、楕円曲線で表される差圧p
diffと和圧p
sum との対応関係では(
図5~
図7も参照)、点Oからの距離は、風速Uの2乗に比例する((7)式及び(8)式も参照)。
【0112】
図16に、楕円曲線で表される差圧p
diffと和圧p
sum との対応関係の一例を示す。
図16に示す例では、圧力センサにより検出された差圧p
diff及び和圧p
sum の関係が点Xpとして得られた場合を示している。この場合、100km/hの風速において測定した差圧p
diffと和圧p
sum との対応関係を、基準(ref)とすると、点Oから点Xpまでの距離L及び基準までの距離L
ref が風速の2乗に比例する。
【0113】
ここで、点Xpへ向かう方向は、風向βに対応する。すなわち、風向βは、差圧pdiff及び和圧psum によるベクトルと、和圧psum の値を0とする差圧pdiffの軸との成す角度φに対応する。風向βと角度φとの対応は、予め実験又は解析処理により求めることができる。求めた風向βと角度φとの異なる複数の対応について、例えば、多項式で近似して、次の(11)に示すように風向βと角度φとの対応関係を定める。
【0114】
β=f(φ) ・・・(11)
【0115】
図17に、風向βと角度φとの対応関係の一例を示す。
図17に示す例では、予め実験又は解析処理により得られた対応関係に適合するように、上記(11)式の関数fが設定される。
【0116】
図18に、差圧p
diff及び和圧p
sum による楕円近似曲線と、実測値の関係を示す。
図18の例では、向かい風を受けながら100km/hで定常走行する車両において取得したデータ(
図18では実走行データと表記している。)と、風洞実験による差圧p
diff及び和圧p
sum から楕円近似した対応関係を曲線Ovalで示した。
図18に示すように、楕円近似曲線と実走行データの対応関係が理解される。
【0117】
図19に、向かい風を受けながら100km/hで定常走行する車両において取得した風向βの実測値の時間特性と、同時に取得した差圧p
diff及び和圧p
sum により算出した風向βの推定値の時間特性とを示す。
図19の例では、実測値の時間特性をβreal、推定値の時間特性をβestで示した。
図19に示すように、差圧p
diff及び和圧p
sum による風況から推定した風向βが実測値に適合することが理解される。
【0118】
図20に、向かい風を受けながら100km/hで定常走行する車両において取得した風速Uの実測値の時間特性と、同時に取得した差圧p
diff及び和圧p
sum により算出した推定値の時間特性とを示す。
図20の例では、実測値の時間特性をUreal、推定値の時間特性をUestで示した。
図20に示すように、差圧p
diff及び和圧p
sum による風況から推定した風速Uが実測値に適合することが理解される。
【0119】
以上説明したように、圧力係数Cpdiffを用いて風向βを導出する方法((4)式参照)は、検出された差圧pdiff及び和圧psum で示されるベクトルの角度φから風向βを導出することと等価である。また、風速Uも、差圧pdiff及び和圧psum によるベクトルのスカラ量である点Oからの距離から導出することができる。
【0120】
なお、本実施形態に係る風情報予測装置45は、構成する各構成要素を、上記で説明した各機能を有する電子回路等のハードウェアにより構築してもよく、構成する各構成要素の少なくとも一部を、コンピュータにより当該機能を実現するように構築してもよい。
【0121】
また、本発明を実施の形態を用いて説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施の形態に記載の範囲には限定されない。発明の要旨を逸脱しない範囲で上記実施の形態に多様な変更または改良を加えることができ、当該変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれる。
【符号の説明】
【0122】
1 情報通信システム
2、3 車両
4 クラウド部
21 車載器
21P 風況演算プログラム
22 運動制御装置
22P 車両挙動制御プログラム
23 通信部
24 車速センサ
25 圧力センサ
25L、25R 圧力センサ
26 位置センサ
28 車両運動制御部
29 表示部
41 無線通信網
45 風情報予測装置
45P 風況マッププログラム
46 記憶部
47、48 情報
49 風況情報
211 情報取得部
212 圧力演算部
213 相対風況演算部
214 風況演算部
221 情報取得部
222 空気力演算部
223 車両運動演算部
224 表示制御部
451 情報取得部
452 判定部
453 登録部
454 抽出部
463 登録部
β 風向(車両固定座標系)
βw 風向(地面固定座標系)
U 風速(車両固定座標系)
Uw 風速(地面固定座標系)
Ucar 車速
pdiff 差圧
psum 和圧