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特許7006873突然変異細胞遊離遺伝子分離キット及びそれを用いた突然変異細胞遊離遺伝子分離方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】突然変異細胞遊離遺伝子分離キット及びそれを用いた突然変異細胞遊離遺伝子分離方法
(51)【国際特許分類】
   C12Q 1/6886 20180101AFI20220203BHJP
   C12Q 1/686 20180101ALI20220203BHJP
   C12N 9/16 20060101ALI20220203BHJP
   C12Q 1/6869 20180101ALI20220203BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C12Q1/6886 Z
C12Q1/686 Z ZNA
C12N9/16 Z
C12Q1/6869 Z
C12N15/09 Z
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020530411
(86)(22)【出願日】2019-02-07
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-12-03
(86)【国際出願番号】 KR2019001518
(87)【国際公開番号】W WO2019156475
(87)【国際公開日】2019-08-15
【審査請求日】2020-02-10
(31)【優先権主張番号】10-2018-0014478
(32)【優先日】2018-02-06
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(31)【優先権主張番号】10-2019-0013912
(32)【優先日】2019-02-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】KR
(73)【特許権者】
【識別番号】520049341
【氏名又は名称】ジェネッカー カンパニー リミテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100079049
【弁理士】
【氏名又は名称】中島 淳
(74)【代理人】
【識別番号】100084995
【弁理士】
【氏名又は名称】加藤 和詳
(72)【発明者】
【氏名】イェ、スン ヒョク
【審査官】中野 あい
(56)【参考文献】
【文献】特表2018-500937(JP,A)
【文献】国際公開第2017/155416(WO,A1)
【文献】特表2017-516500(JP,A)
【文献】国際公開第2017/218512(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12Q 1/00- 3/00
C12N 15/00-15/90
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
i)少なくとも1つの野生型細胞遊離遺伝子及び少なくとも1つの突然変異細胞遊離遺伝子が含まれた分離された試料内の前記野生型細胞遊離遺伝子と突然変異細胞遊離遺伝子とを、予めホスホロチオエート結合で保護された5’末端を有する5’末端が保護されたプライマーを用いて最初に増幅する段階と、
ii)前記野生型細胞遊離遺伝子に特異的に結合するガイドRNA及びCasタンパク質を処理して、前記増幅された野生型細胞遊離遺伝子のみを切断する段階と、
iii)前記突然変異細胞遊離遺伝子と、前記切断された細胞遊離遺伝子と、が存在する試料エキソヌクレアーゼT7及びエキソヌクレアーゼTで処理して、前記切断された野生型細胞遊離遺伝子のみを除去する段階と、
iv)前記試料内に残っている突然変異細胞遊離遺伝子をさらに増幅する段階と、
v)前記増幅された突然変異細胞遊離遺伝子を分析する段階と、
を含む、突然変異遺伝子型分析方法。
【請求項2】
前記i)少なくとも1つの野生型細胞遊離遺伝子及び少なくとも1つの突然変異細胞遊離遺伝子が含まれた分離された試料は、癌の疑い個体から分離された血液、血しょうまたは尿試料である、請求項に記載の突然変異遺伝子型分析方法。
【請求項3】
前記突然変異細胞遊離遺伝子は、癌特異的な突然変異を含むDNAであり、
前記突然変異細胞遊離遺伝子の分析は、癌の診断のための情報を提供する、請求項に記載の突然変異遺伝子型分析方法。
【請求項4】
前記Casタンパク質は、Streptococcus pyogenes Cas9(SpCas9)、Streptococcus thermophilus Cas9(StCas9)、Streptococcus pasteurianus(SpaCas9)、Campylobacter jejuni Cas9(CjCas9)、Staphylococcus aureus(SaCas9)、Francisella novicida Cas9(FnCas9)、Neisseria cinerea Cas9(NcCas9)、Neisseria meningitis Cas9(NmCas9)Prevotella とFrancisella 1(Cpf1)である、請求項に記載の突然変異遺伝子型分析方法。
【請求項5】
前記ガイドRNAは、crRNA及びtracrRNAを含む二重RNAまたはsgRNAである、請求項に記載の突然変異遺伝子型分析方法。
【請求項6】
前記増幅は、PCRで行われる、請求項に記載の突然変異遺伝子型分析方法。
【請求項7】
前記ガイドRNAが、複数の野生型細胞遊離遺伝子に特異的な2以上のガイドRNAを含む、請求項1に記載の突然変異遺伝子型分析方法。
【請求項8】
予めホスホロチオエート結合で保護された5’末端を有する5’末端が保護されたプライマーを含む野生型細胞遊離遺伝子及び突然変異細胞遊離遺伝子増幅用組成物と、
前記野生型細胞遊離遺伝子に特異的なガイドRNAと、
前記野生型細胞遊離遺伝子を切断するためのCasタンパク質と、
前記野生型細胞遊離遺伝子を除去するためのエキソヌクレアーゼT7及びエキソヌクレアーゼTと、
を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の突然変異遺伝子型分析方法に使用するための、突然変異細胞遊離遺伝子分離用キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、突然変異細胞遊離遺伝子(mutant cell free DNA)分離キット及びそれを用いた突然変異細胞遊離遺伝子分離方法に関する。より具体的に、本発明は、CRISPR-Casシステム及びエキソヌクレアーゼを含む突然変異細胞遊離遺伝子分離キット及び分離方法に係り、微量の細胞遊離遺伝子試料内で突然変異遺伝子を検出するためのものである。
【背景技術】
【0002】
最近、全世界的に癌疾患の早期診断重要性が大きく注目されており、したがって、癌早期診断方法についての研究比重が増加しつつある。しかし、現在のところ、癌診断方法は、組織サンプルの採取及び内視鏡検査などの侵襲的な方法が主をなしている。既存の方法は、疾病が疑われる部位の一部を摘出して顕微鏡で観察する方式でなされるために、患者が感じる煩わしさが少なくなく、傷跡が残り、回復にも時間がかかる。
【0003】
このような既存の侵襲的な診断及び検査方法の代案として、液体生体検査(Liquid Biopsy)を利用した分子診断法が注目を浴びている。液体生体検査は、非侵襲的な(non-invasive)方法を使用するために、検査結果、導出速度が早く、疾病の一部のみ分析することができた組織サンプルとは異なって、体液、すなわち、液体生体サンプルは、疾病に対して多角的分析を行うことができる。特に、液体生体検査は、癌の診断に卓越した効用性を発揮すると見込まれ、血液、小便などの体液検査のみで身体部位別の血液内に存在する癌細胞由来DNAを分析して、癌発生及び転移などに対する詳細な観察が可能であると予測される。
【0004】
最近、液体生体検査と関連して腫瘍から血流に放出されて、体内血液内に存在する細胞遊離DNA(cell-free DNA、cfDNA)についての研究が活発に進められている。血液、血しょうまたは小便などの多様な生物学的試料から由来したcfDNAを分離し、検出する技術が発展するにつれて、液体生体検査が癌危険群患者のモニタリングにおいて、より効果的であり、信頼できるツールになる。進行性膵臓癌、卵巣癌、大腸癌、膀胱癌、胃食道癌、乳癌、黒色腫、肝細胞癌、頭頸部癌を有した患者の75%以上、そして、腎臓、前立腺癌または甲状腺癌患者の50%以上でcfDNA上の癌由来遺伝子が確認された。転移性大腸癌患者を対象とした遺伝子臨床診断でKRAS遺伝子変異検出に対するcfDNAの敏感度は、87.2%であり、特異度は、99.2%であった。
【0005】
このような研究は、cfDNA分析を通じる癌診断の可能性を示すことにより、cfDNA内の癌由来遺伝子は、次世代バイオマーカーとして脚光を浴びている。癌患者由来のcfDNAから腫瘍特異的な遺伝子突然変異を確認することにより、初期段階腫瘍の診断を試みている。しかし、血液、小便など液体試料内のcfDNAを分析し、遺伝子で発生する変異を見つけて、癌を早期診断する方法には、現在の技術としては多くの限界がある(特許文献1)。特に、小便、脳脊髄液、血しょう、血液、または体液の試料内にcfDNAが非常に少ない濃度で存在し、cfDNAは、老化過程で自然な遺伝子変異が発生するが、患者血しょう内に存在するcfDNAのほとんどは、正常体細胞由来の野生型(wild type、wt)の遺伝子なので、現在のシーケンシング技術としては、cfDNAで癌細胞由来遺伝子の有無を正確に診断することは不可能に近い。したがって、初期段階の癌を微量のcfDNAで診断するためには、正常遺伝子を除去し、癌細胞由来遺伝子を特異的に増幅させる必要がある。これにより、検出敏感度の向上及び正確な癌早期診断のための方法が切実に要求されている実情である。
【0006】
一方、最近開発された遺伝子ハサミ(RNA-guided CRISPR)(clustered regularly interspaced short palindrome repeats)-関連したヌクレアーゼCasタンパク質に基づいた誘電体矯正(genome editing)は、標的ノックアウト、転写活性化及びシングルガイドRNA(single guide RNA、sgRNA)(すなわち、crRNA-tracrRNA融合転写体)を利用した抑制に対する画期的な技術を提供し、当該技術は、多様な遺伝子位置を標的することにより、拡張性を立証した。CRISPR-Casシステムは、標的する遺伝子または核酸に相補的な配列を有するガイドRNA(guide RNA、gRNA)と標的する遺伝子または核酸を切断することができるヌクレアーゼであるCRISPR酵素とで構成され、gRNAとCRISPR酵素は、CRISPR複合体を形成し、該形成されたCRISPR複合体によって標的する遺伝子または核酸を切断または変形させる。CRISPRシステムは、原核生物、高細菌の免疫システムであって、最近、遺伝子ハサミの1つとしてその活用性についての研究が急増しているが(非特許文献1、非特許文献2)、それをゲノムシーケンシングにおいて、使われる塩基配列捕獲方法及び疾病診断に活用しようとする試みはなかった。
【0007】
これにより、本発明者らは、cfDNA上で突然変異遺伝子を分離する方法を探すために鋭意努力した結果、CRISPR-Cas systemで微量のcfDNAの正常遺伝子を特異的に切断させる技術と切断されていない突然変異遺伝子を特異的に増幅させる技術とを用いて、本発明を完成した。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】大韓民国公開特許10-2016-0129523
【非特許文献】
【0009】
【文献】Jinek et al.Science,2012,337,816-821
【文献】Zalatan et al.Cell,2015,160,339-350
【文献】Tian J,Ma K,Saaem I.,Mol Biosyst,2009,5(7),714-722
【文献】Michael,L..Metzker,Nature Reviews Genetics,2010,11,31-46
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明の目的は、突然変異細胞遊離遺伝子分離用キットを提供するところにある。
【0011】
本発明の他の目的は、突然変異遺伝子型分析方法を提供するところにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、次を含む突然変異細胞由来遺伝子分離用キットを提供する:
5’末端が保護されたプライマーを含む野生型細胞遊離遺伝子(wild type cell free DNA)及び突然変異細胞遊離遺伝子増幅用組成物;前記野生型細胞遊離遺伝子特異的ガイドRNA;前記野生型細胞遊離遺伝子を切断するためのCasタンパク質;及び前記野生型細胞遊離遺伝子を除去するためのエキソヌクレアーゼ。
【0013】
前記突然変異細胞遊離遺伝子は、癌特異的な突然変異を含むDNAでもある。
【0014】
本発明において、用語、「細胞遊離遺伝子(cell-free DNA;cfDNA)」は、腫瘍細胞で起因して癌患者から由来の血液、血しょうまたは小便などの生物学的試料から発見される癌細胞由来遺伝子を意味し、壊死、細胞死または泌尿器官の正常細胞及び/または癌細胞で活性化されて、多様な細胞生理学的過程を通じて小便、血液などに放出される。小便、脳脊髄液(cerebrospinal fluid;CSF)、血しょう、血液、または体液は、容易に得られる試料なので、反復的なサンプリングを通じて大量の単純であり、非侵襲的な検体の収集が可能である。
【0015】
本発明において、用語、「CRISPR-Casシステム」は、遺伝子または核酸に相補的な配列を有するガイドRNA(gRNA)と標的する遺伝子または核酸を切断することができるヌクレアーゼであるCRISPR酵素で構成され、gRNAとCRISPR酵素は、CRISPR-Cas複合体を形成し、該形成されたCRISPR-Cas複合体によって標的する遺伝子または核酸を切断または変形させる。
【0016】
Casタンパク質は、CRISPR-Casシステムで必須的なタンパク質要素を意味し、CRISPR RNA(crRNA)及びトランス活性化crRNA(trans-activating crRNA、tracrRNA)と呼ばれる2つのRNAと複合体を形成する時、活性エンドヌクレアーゼを形成する。Casタンパク質遺伝子及びタンパク質の情報は、大韓民国の国立生命工学情報センター(national center for biotechnology information、NCBI)のGenBankで求めうるが、これに制限されるものではない。
【0017】
本発明において、用語、「ガイドRNA」は、標的DNAに特異的なRNAであって、細胞内に伝達された線形二本鎖DNAの転写を通じて発現されて標的遺伝子配列を認識し、Casタンパク質と複合体を形成し、Casタンパク質を標的DNAに持って来るRNAである。前記「標的遺伝子配列」は、標的遺伝子または核酸内に存在するヌクレオチド配列であって、具体的には、標的遺伝子または核酸内に標的領域の一部ヌクレオチド配列であり、この際、「標的領域」は、標的遺伝子または核酸内にガイド核酸-エディタータンパク質によって変形される部位である。
【0018】
本発明において、用語、「PAM(PAM ; protospacer adjacent motif) 配列(sequence)」は、目標配列横に位置する3bp~6bp程度サイズの配列であって、CRISPR-Cas複合体が認識するターゲット配列を意味し、CRISPR-Cas複合体は、PAM配列を認識した後、特定の位置を切断する。
【0019】
前記キットは、癌の疑い個体から分離された液体試料(血液、血しょうまたは尿試料など)に含まれた野生型細胞遊離遺伝子及び突然変異細胞遊離遺伝子から突然変異細胞遊離遺伝子を分離するためのものである。
【0020】
前記Casタンパク質は、Streptococcus pyogenes Cas9(SpCas9)、Streptococcus thermophilus Cas9(StCas9)、Streptococcus pasteurianus(SpaCas9)、Campylobacter jejuni Cas9(CjCas9)、Staphylococcus aureus(SaCas9)、Francisella novicida Cas9(FnCas9)、Neisseria cinerea Cas9(NcCas9)、Neisseria meningitis Cas9(NmCas9)Prevotella とFrancisella 1(Cpf1)であり得るが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0021】
前記Casタンパク質または遺伝子情報は、NCBI(National Center for Biotechnology Information)のGenBankのような公知のデータベースから得られるが、これに制限されるものではない。
【0022】
前記ガイドRNAは、crRNA(CRISPR RNA)及びtracrRNA(trans-activating crRNA)を含む二重RNA(dualRNA)またはsgRNA(single-chain RNA)でもある。
【0023】
前記ガイドRNAは、複数個の野生型細胞遊離遺伝子特異的な2種類以上のガイドRNAを含みうる。すなわち、本発明のキットは、マルチプレクシングが可能なキットである。
【0024】
前記ガイドRNA製作方法は、当該技術分野に広く知られている。
【0025】
前記5’末端が保護されたプライマーは、前記プライマーの5’末端がホスホロチオエート結合(phosphothioate bond)で保護されたものである。
【0026】
前記遺伝子増幅用組成物は、PCR組成物でもある。
【0027】
本発明において、用語「増幅反応」は、ターゲット核酸配列を増幅する反応を意味し、PCR(polymerase chain reaction、重合酵素連鎖反応)によって実施される。前記PCRは、逆転写(reverse transcription)重合酵素連鎖反応(RT-PCR)、マルチプレックス(multiplex)PCR、リアルタイム(real-time)PCR、アセンブリー(Assembly)PCR、フュージョン(Fusion)PCR、リガーゼ連鎖反応(Ligase chain reaction;LCR)を含むが、これに制限されるものではない。
【0028】
本明細書において、用語「プライマー(primer)」は、一本鎖のオリゴヌクレオチドの1つであって、リボヌクレオチドも含み、望ましくは、デオキシリボヌクレオチドでもある。前記プライマーは、鋳型(template)の一部位に混成化またはアニーリングされて、二本鎖構造を形成する。本発明において、プライマーは、NGSシーケンシングアダプタ配列に混成化(hybridization)またはアニーリング(annealing)される。アニーリングは、鋳型核酸にオリゴヌクレオチドまたは核酸が並置(apposition)されることを意味し、前記並置は、重合酵素(polymerase)がヌクレオチドを重合させて、鋳型核酸またはその一部に相補的な核酸分子を形成させる。混成化は、2個の一本鎖核酸が相補的な塩基配列のペアリング(pairing)によって二重層構造(duplex structure)を形成することを意味する。前記プライマーは、鋳型に相補的なプライマー延長産物の合成が誘導される条件で合成の開始点として作用する。
【0029】
前記PCR組成物は、野生型細胞遊離遺伝子及び突然変異細胞遊離遺伝子のそれぞれに特異的な5’末端が保護されたプライマー以外に、当該技術分野に広く知られた成分を含みうる。具体的に、PCRバッファ(PCR buffer)、dNTP、DNAポリメラーゼ(DNA Polymerase)などを含みうる。
【0030】
本発明において、用語、「エキソヌクレアーゼ(Exonuclease)」は、DNAシーケンスでポリヌクレオチド鎖の3’末端または5’末端からヌクレオチドを順次に分解する酵素である。3’-5’エキソヌクレアーゼは、3’末端でホスホジエステル(phospho-diester)結合を分解する酵素であり、5’-3’エキソヌクレアーゼは、5’末端でホスホジエステル結合を分解する酵素である。
【0031】
前記エキソヌクレアーゼは、当該技術分野に知られたエキソヌクレアーゼであれば、如何なるものも使用することができる。具体的に、エキソヌクレアーゼは、3’→5’エキソヌクレアーゼ及び/または5’→3’エキソヌクレアーゼを含みうる。具体的に、エキソヌクレアーゼIII、エキソヌクレアーゼI、T5エキソヌクレアーゼ、T7エキソヌクレアーゼ、エキソヌクレアーゼT、エキソヌクレアーゼV、Lambdaエキソヌクレアーゼ、及びエキソヌクレアーゼVIIなどを含みうる。望ましくは、エキソヌクレアーゼT7及びエキソヌクレアーゼT(一本鎖特異的ヌクレアーゼ)であり得るが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0032】
5’末端が保護されているプライマーを含む遺伝子増幅用組成物として野生型細胞遊離遺伝子及び突然変異細胞遊離遺伝子が含まれた試料を反応させれば、野生型細胞遊離遺伝子及び突然変異細胞遊離遺伝子末端がホスホロチオエートで保護される。この保護されているDNAは、エキソヌクレアーゼを処理するとしても、ホスホロチオエート結合のために分解されない。
【0033】
野生型細胞遊離遺伝子特異的ガイドRNA及びCasタンパク質によって野生型細胞遊離DNA紙によって当該DNAが切断されれば、保護されていない核酸末端がエキソヌクレアーゼに露出され、これにより、野生型細胞遊離遺伝子DNAは、分解されて除去され、突然変異細胞遊離遺伝子のみ分離される(図1)。
【0034】
本発明の一実施例では、KRAS遺伝子を目標とするガイドRNAを使用した時、5’-NGG-3’PAMシーケンスを満足するwtKRASのみ選択的にCas9によって切られた。この際、T7エキソヌクレアーゼとエキソヌクレアーゼTとを処理することにより、Cas9によって切られたwtKRAS DNAが完全に除去されることを電気泳動を通じて確認することができた。
【0035】
他の側面において、本発明は、次の段階を含む突然変異遺伝子型分析方法を提供する:
i)少なくとも1つの野生型細胞遊離遺伝子及び少なくとも1つの突然変異細胞遊離遺伝子が含まれた分離された試料内の前記野生型細胞遊離遺伝子と突然変異細胞遊離遺伝子とを5’末端が保護されたプライマーを用いて増幅する段階;ii)前記野生型細胞遊離遺伝子に特異的に結合するガイドRNA及びCasタンパク質を処理して、前記増幅された野生型細胞遊離遺伝子のみを切断する段階;iii)前記突然変異細胞遊離遺伝子と、前記切断された細胞遊離遺伝子と、が存在する試料にエキソヌクレアーゼを処理して、前記切断された野生型細胞遊離遺伝子のみを除去する段階;iv)前記試料内に残っている突然変異細胞遊離遺伝子を増幅する段階;及びv)前記増幅された突然変異細胞遊離遺伝子を分析する段階。
【0036】
前記i)少なくとも1つの野生型細胞遊離遺伝子及び少なくとも1つの突然変異細胞遊離遺伝子が含まれた分離された試料は、癌の疑い個体から分離された液体試料(血液、血しょうまたは尿試料)でもある。
前記突然変異細胞遊離遺伝子は、癌特異的な突然変異を含むDNAでもある。
前記突然変異細胞遊離遺伝子分析は、癌の診断のための情報を提供するためのものである。
【0037】
本発明において、用語、「診断」は、特定疾病または疾患に対する一客体の感受性(susceptibility)を判定すること、一客体が特定疾病または疾患を現在有しているか否かを判定すること、特定疾病または疾患にかかった一客体の予後(prognosis)を判定すること、またはセラメトリックス(therametrics)(例えば、治療効能についての情報を提供するために、客体の状態をモニタリングすること)を含む。
【0038】
本発明において、前記診断は、癌の発病の有無を確認すること、及び/または癌の予後を確認することを含みうる。
前記癌は、初期癌でもある。
前記癌は、例えば、扁平細胞癌(squamous cell cancer、例えば、上皮の扁平細胞癌)、小型細胞肺癌、非小型細胞肺癌、肺癌、腹膜癌、結腸癌、胆道腫瘍、鼻咽頭癌、喉頭癌、気管支癌、口腔癌、骨肉腫、胆嚢癌、腎臓癌、白血病、膀胱癌、黒色腫、脳癌、神経膠腫、脳腫瘍、皮膚癌、膵臓癌、乳癌、肝癌、骨髓癌、食道癌、大腸癌、胃癌、子宮頸部癌、前立腺癌、卵巣癌、頭頸部癌、及び直腸癌からなる群から選択された1種以上であり得るが、これに限定されるものではない。
【0039】
前記5’末端が保護されたプライマーは、前記プライマーの5’末端がホスホロチオエート結合で保護されたものである。
【0040】
前記Casタンパク質は、Streptococcus pyogenes Cas9(SpCas9)、Streptococcus thermophilus Cas9(StCas9)、Streptococcus pasteurianus(SpaCas9)、Campylobacter jejuni Cas9(CjCas9)、Staphylococcus aureus(SaCas9)、Francisella novicida Cas9(FnCas9)、Neisseria cinerea Cas9(NcCas9)、Neisseria meningitis Cas9(NmCas9)Prevotella とFrancisella 1(Cpf1)であり得るが、必ずしもこれに制限されるものではない。
【0041】
前記ガイドRNAは、crRNA及びtracrRNAを含む二重RNAまたはsgRNAでもある。
【0042】
前記増幅は、PCRで行われ、PCR条件は、当該技術分野に広く知られた方法に基づいて設定することができる。
【発明の効果】
【0043】
本発明の突然変異細胞遊離遺伝子分離用キット及び突然変異細胞遊離遺伝子分離方法は、CRISPR-Casシステム及びエキソヌクレアーゼを利用したものであって、血液内のcfDNAでほとんどを占める正常体細胞由来遺伝子(>99.9%)を選択的に除去することができる。その結果、cfDNA上で突然変異細胞遊離遺伝子(癌細胞由来遺伝子)のみを分析することができて、初期癌診断に有用に使われる。
【0044】
また、本発明の突然変異細胞遊離遺伝子分離用キット及び突然変異細胞遊離遺伝子分離方法は、試料内の正常細胞由来の遺伝子を除去して、cfDNAに存在する突然変異細胞遊離遺伝子(癌細胞由来遺伝子)の比率に相応する極微量の遺伝子を分析することができる効果を提供する。
【0045】
しかも、本発明は、複数個の正常由来遺伝子特異的なガイドRNAを利用することができるので、多重化システム(multiplexing system)によって同時に2種以上の発癌遺伝子に対する同時検出が可能である。
【図面の簡単な説明】
【0046】
図1】本発明で試料内のwtDNA(wild type DNA)を選択的に除去することにより、mtDNA(mutant DNA)のみを増幅させる過程の模式図である。
図2A】本発明によるCRISPR-Casシステムを用いて試料内のwtDNAのみを選択的に切断した結果に関するものである。
図2B】同上
図3A】本発明によるCRISPR-Casシステムによって切断されたDNAが選択的にエキソヌクレアーゼによって分解される結果に関するものである。
図3B】同上
図4】本発明による CRISPR-Cas及びエキソヌクレアーゼを処理してKRAS wtDNAを除去したサンプルを次世代塩基配列分析を通じて分析した結果に関するものである。
図5】本発明による CRISPR-Cas及びエキソヌクレアーゼを処理してKRAS wtDNAを除去したサンプルをサンガーシーケンシングを通じて分析した結果に関するものである。
図6】本発明による CRISPR-Cas及びエキソヌクレアーゼを処理して多様な目標遺伝子をマルチプレクシング方法で除去することにより、多様な癌由来遺伝子を一回で増幅させる過程を示す具体的な模式図である。
図7A】本発明による CRISPR-Cas及びエキソヌクレアーゼを処理し、マルチプレクシングシステムを用いて目標遺伝子(wtDNA)のみ選択的に除去することができるということをアガロースゲル電気泳動を通じて立証した結果に関するものである。
図7B】同上
図8】本発明による CRISPR-Cas及びエキソヌクレアーゼを処理し、マルチプレクシングシステムを用いてKRAS wtDNAとEGFR wtDNAとを除去したサンプルを次世代塩基配列分析を通じて分析した結果に関するものである。
図9】本発明でCas9オーソログ(othologue)を活用したマルチプレクシングシステムが結合された遺伝子除去方法を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
目標遺伝子を選択的に切断させるCRISPR-Casシステムは、非常に高い正確度を有したエンドヌクレアーゼ(endonuclease)であって、Cas9オーソログは、それぞれ異なるPAM領域配列を有している。PAMシーケンスは、Cas9タンパク質が目標遺伝子を認識する時、必須的な遺伝子シーケンスであって、目標遺伝子と完璧に相補的なガイドRNAと結合しているとしても、PAM配列が満足されなければ、CRISPR-Casシステムは作動しない。また、ガイドRNAが標的遺伝子と非常補的な遺伝子配列が多ければ、CRISPR/Casは、標的遺伝子を正常に認識することができなくなる。ヌクレオチド置換(nucleotide substitution)によって発生した癌遺伝子を確認するために、野生型遺伝子に相補的なガイドRNAをデザインした。ガイドRNAの目標を選定する時、大きく2種の基準にデザインした。置換が起こる前の塩基配列がPAMサイトに該当する場合、PAMサイトを基準にガイドRNAを設計し、PAMサイトに該当しない場合には、シード領域(seed region)にミスマッチ(mismatch)を追加してガイドRNAを設計した。Cas9のシード領域は、標的遺伝子を認識する時、ガイドRNAと標的遺伝子とのミスマッチに敏感に反応する位置に、シード領域に1~2ntミスマッチがある場合には、目標遺伝子を明確に認知することができなくなる。
【0048】
本発明で使われるガイドRNAは、野生型の遺伝子を選択的に認識できるように設計されている。
【0049】
本発明において、Cas9で標的遺伝子を切断した後、PCR増幅を行えば、Cas9によって切られた野生型細胞遊離DNAは、突然変異細胞遊離DNAよりも増幅された量が少なかった。しかし、Cas9で野生型DNAを切り、突然変異DNAに対するPCRを行う単純な方式としては、極微量の突然変異遺伝子を確認するための検出限界に到逹することができなかった。これは、Cas9によって切断される野生型DNA切片がPCRされる過程でプライマーの役割ができるために、最終的に増幅されたPCR産物に野生型由来の遺伝子配列が含まれうる。Cas9の正確度を借りて野生型遺伝子を選択的に切断させても、切られたDNA切片が背景信号を上昇させて、極微量存在する癌由来遺伝子を検出することができる検出限界に到逹できないようにした(図1の下段左側ボックスの図参照)。
【0050】
しかし、本発明では、PCR過程で背景信号を生成する野生型DNAの切られた切片を除去することにより、微量の標的遺伝子に対しても、十分な検出能を有するようにした。微量のcfDNA遺伝子分析の最終過程で分析対象遺伝子をPCRを通じて増幅する時、5’末端がホスホロチオエート結合で保護されたプライマーを使用して増幅を行うか、既に増幅されたPCRアンプリコンの両末端にホスホロチオエート結合を含んでいるアダプダ(adatpor)をライゲーション(ligation)させる。ヌクレオチドを連結するホスホジエステル結合(phophodiester bond)をホスホロチオエート結合に置き換えれば、ヌクレアーゼは、当該結合が存在するヌクレオチドの間を切断することができなくなる。
【0051】
標的遺伝子が、両末端がホスホロチオエート結合で保護されている時、エキソヌクレアーゼを処理すれば、当該標的遺伝子は、エキソヌクレアーゼによって分解されない。しかし、Cas9によって目標遺伝子が切断されれば、ホスホロチオエートで保護されていない新たなDNA末端がエキソヌクレアーゼに露出されて、Cas9によって切られたDNAは、エキソヌクレアーゼによって除去される。
【0052】
したがって、本発明の基盤となる遺伝子切断と除去技術は、相互補完的な役割を行って、従来には不可能であった微量のcfDNA内の癌由来遺伝子の明確な検出が可能であった。
【0053】
本発明の一態様では、分離精製されたSpCas9タンパク質とガイドRNA複合体は、5’-NGG-3’のPAMシーケンスを満足した遺伝子目標地点のみを正確に切断を起こすことを確認した。
【0054】
本発明において、KRAS遺伝子の変異は、癌遺伝子の主要変異の1つであって、cfDNA上で重要なバイオマーカーである。特に、KRASの変異は、cDNA上の35番目の核酸がGがTに置換されて、タンパク質上で12番目のアミノ酸がアスパラギン酸(asparatate)からバリン(valine)に置き換えられる変異が主に発生する。このように35番目のグアノシン(guanosine)がチミジン(thymidine)に置換されたmtDNAは、ターゲット遺伝子上でCas9のPAMに該当する塩基配列がNGTに変わる。PAMシーケンスでNGGを特異的に認識するSpCas9は、wtKRASとmtKRAS(35G>T)とのうち、wtKRASのみを特異的に認識してDNAを切断した(図2)。
【0055】
以下、実施例を通じて本発明をさらに詳しく説明する。これら実施例は、単に本発明を例示するためのものであって、本発明の範囲が、これら実施例によって制限されるものと解釈されないことは当業者にとって自明である。
【0056】
実施例1:SpCas9の分離及び精製
N末端にHisx6標識(tag)を含んでいる組換え化膿性連鎖球菌Cas9(streptococcus pyogenes Cas9、spCas9)のタンパク質発現のために、spCas9遺伝情報(Hisx6を含んだタンパク質の全体配列、配列番号1)を有しているプラスミド(plasmid)を感応細胞(Competent cell)であるBL21-DE3種に形質転換を実施した。前記形質転換されたBL21-DE3が増殖している液体培地にIPTG(Isopropyl b-D-ThioGalactoside)を処理した後、18℃で16時間培養した。細胞を5000xgで15分間遠心分離した後、NaHPO 50mM(pH8)、NaCl 400mM、イミダゾール(imidazole)10mM、PMSF 1mM、DTT 1mM、トリトンX-100(Triton X-100)1%、リゾチーム(lysozyme)1mg/mlを含んだ溶解緩衝液(lysis buffer)で細胞を融解させた。超音波粉砕機を用いて細胞を粉砕した後、15000xg 30分間遠心分離して、上澄み液と細胞滓とを分離した。上澄み液にニッケル-ニトリロ三酢酸レジン(Ni-NTA resin、Invitrogen、Carlsbad、CA)を添加して、4℃で1時間反応させた後、NaHPO 50mM(pH8)、NaCl 400mM、イミダゾール20mMの洗浄緩衝液(wash buffer)でNi-NTAレジンを2回繰り返して洗浄した。最後に、当該レジンにNaHPO 50mM(pH8)、NaCl 400mM、イミダゾール250mMの溶出緩衝液(elution buffer)を添加することにより、spCas9をNi-NTAレジンから分離した。spCas9が含まれた緩衝液をamicon ultra centrifugal filterを用いてHEPES 20mM(pH7.5)、NaCl 400mM、DTT 1mM、グリセロール(glycerol)40%を含む緩衝液に置き換えた。
【0057】
実施例2.インビトロ転写によるガイドRNAの合成
T7プロモーター及びガイドRNA情報が含まれているDNA鋳型とT7 RNA重合酵素とを40mM Tris-HCl(pH7.9)、6mM MgCl、10mM DTT、10mM NaCl、2mM スペルミジン(spermidine)、NTP、そして、Rnase阻害剤が含まれた緩衝液で37℃で18時間反応させることにより、インビトロ(in vitro)でガイドRNAを合成した(配列番号2及び配列番号3)。合成されたガイドRNAは、RNA精製キットを使用して精製した。
【0058】
実施例3.インビトロ切断(in vitro Cleavage)
前記実施例1によって分離精製された500ng SpCas9(以下、Cas9と表示)と前記実施例2によって製造された100ng ガイドRNAとを37℃で5分間結合させ、酢酸カリウム(Potassium acetate)50mM(pH7.9)、トリス-酢酸(Tris-acetate)20mM、酢酸マグネシウム(Magnesium acetate)10mM、DTT 1mMで構成された緩衝液で150ng 二本鎖DNA(dsDNA)である野生型KRAS遺伝子(配列番号4)及び突然変異KRAS遺伝子(KRAS D12V、配列番号6)と37℃で60分間反応させた。KRAS遺伝子及びアミノ酸配列情報は、次の表1のようである。
【0059】
【表1-1】

【表1-2】
【0060】
Cas9によって切断されたDNA切片は、1.5%アガロースゲル(agarose gel)で電気泳動を行った後、EtBrで染色して確認した。実験の結果、分離精製されたCas9タンパク質とガイドRNA複合体は、5’-NGG-3’のPAMシーケンスを満足した遺伝子目標地点のみを正確に切断を起こすことを確認した(図2参照)。
【0061】
癌遺伝子の主要変異の1つであるKRAS遺伝子の変異は、cfDNA上で検出することができる重要なバイオマーカーである。特に、KRASの変異は、cDNA上の35番目の核酸がGがTに置換されて、KRASタンパク質内の12番目のアミノ酸がグリシン(glycine、G)からバリン(V)に置き換えられる変異が重要である(配列番号5及び配列番号7)。このように35番目のグアノシンがチミジンに置換されたmtDNAは、ターゲット遺伝子上でCas9のPAMに該当する塩基配列がNGTに変わる。PAMシーケンスとしてNGGを特異的に認識するCas9は、wtKRASとmtKRAS(35G>T)とのうち、wtKRASのみを特異的に認識してDNAを切断する(配列番号8)。
【0062】
ガイドRNAは、野生型KRAS遺伝子(配列番号4)を含んだ2787ntのDNA上で1572nt位置に相応する目標シーケンスを有している。ガイドRNAと結合したCas9は、2787ntのDNA上でKRAS遺伝子を切断させて、1572ntの長い切片と、1215ntの短い切片と、を作ることを電気泳動の結果で確認した(図2Bの上段及び図3Bの上段参照)。しかし、当該ガイドRNAを使用するとしても、PAMシーケンスが5’-NGT-3’に変わったmtKRAS遺伝子は、Cas9によって切断されないことを確認した(図2Bの下段及び図3Bの下段参照)。
【0063】
実施例4.野生型細胞遊離DNAのみの選択的除去
野生型細胞遊離遺伝子が選択的に切断され、このような選択的切断がエキソヌクレアーゼによって選択的に進行することを確認するための実験を実施した。
【0064】
ホスホロチオエート結合を使用して5’末端が保護されたプライマー(表2)とphusionポリメラーゼとを使用して、標的遺伝子(癌患者血液から分離した野生型細胞遊離DNA及び癌特異的な細胞由来DNA)をPCR増幅させる。PCR精製キット(Quiagen Cat ID:28104)を使用して野生型DNA(wtDNA)と突然変異DNA(mtDNA)とを分離精製した後、wtDNAとmtDNAとを90:10(wtDNA ratio 90%;mtDNA ratio 10%)、99:1(wtDNA ratio 99%;mtDNA ratio 1%)、99.9:0.1(wtDNA ratio 99.9%;mtDNA ratio 0.1%)、99.99:0.01(wtDNA ratio 99.99%;mtDNA ratio 0.01%)、99.999:0.001(wtDNA ratio 99.999%;mtDNA ratio 0.001%)の比率で混ぜて、DNA試料(sample)を準備した。500ng SpCas9と100ng guide RNAとを37℃で5分間結合させ、酢酸カリウム50mM(pH7.9)、トリス-酢酸20mM、酢酸マグネシウム10mM、DTT(ジチオトレイトール、還元剤)1mMで構成された緩衝液から精製された100ng 二本鎖DNA(double strand DNA、dsDNA)と37℃で60分間反応させた。
【0065】
【表2】
【0066】
反応後に、エキソヌクレアーゼT7、エキソヌクレアーゼTを添加して、37℃で60分間追加的に反応を実施した。Cas9とエキソヌクレアーゼとが処理されたDNA切片は、1.5%アガロースゲルで電気泳動で確認するか、PCR増幅を行って、サンガーシーケンシング(sanger sequencing)と次世代シーケンシング(next generation sequencing)とで塩基配列を確認した。
【0067】
KRAS遺伝子を含んでいる2787nt DNAは、両末端がホスホロチオエート結合で保護されている(図3Aの段階1参照)。両末端がホスホロチオエート結合によって保護されているDNAは、エキソヌクレアーゼを処理するとしても分解されない。しかし、cas9によって当該DNAが切断されれば、保護されていない核酸末端がエキソヌクレアーゼに露出され、これにより、DNAは分解された(図3Aの段階2及び段階3参照)。KRAS遺伝子を標的とするガイドRNAを使用した時、5’-NGG-3’PAMシーケンスを満足するwtKRAS遺伝子のみが選択的にCas9によって切られる。この際、エキソヌクレアーゼT7とエキソヌクレアーゼTとを処理することにより、Cas9によって切られたwtKRAS DNAが完全に除去されることを電気泳動を通じて確認した(図3Bの上段最右側ライン参照)。しかし、Cas9によって切られていないmtKRAS DNAは、エキソヌクレアーゼが処理されているにも拘らず、両末端のホスホロチオエート結合のために保護されて分解されないことを確認した(図3Bの下段最右側ライン参照)。
【0068】
実施例5.標的DNAに対する検出限界の確認
標的DNAのみを選択的に除去した時、微量で存在する遺伝子をシーケンシングの結果で確認した。この際、微量遺伝子に対する検出限界を確認するために、wtDNAとmtDNAとを互いに異なる比率で混ぜて、実験を進行した。両先端がホスホロチオエート結合で保護されたwtKRAS DNAとmtKRAS DNAとを90:10(wtDNA ratio 90%;mtDNA ratio 10%)、99:1(wtDNA ratio 99%;mtDNA ratio 1%)、99.9:0.1(wtDNA ratio 99.9%;mtDNA ratio 0.1%)、99.99:0.01(wtDNA ratio 99.99%;mtDNA ratio 0.01%)、99.999:0.001(wtDNA ratio 99.999%;mtDNA ratio 0.001%)の比率で混ぜ、Casとエキソヌクレアーゼとを処理した後、最終的に得たサンプルに対するシーケンシングを実施した(図4参照)。
【0069】
図4に示すように、Cas9のみ処理したサンプルでも、mtDNAの比率が上昇することをNGSシーケンシングの結果で確認することができた。しかし、最初の分析サンプルでのmtDNAの比率が1%以下に下がる場合、最終的に検出されるmtDNA比率が著しく低くなる。一般的に、cfDNAでのmtDNAの比率は、0.01%以下である点を考慮した時、Cas9で標的遺伝子のみ切断する場合、mtDNAの存否に対する結果を確認することは容易ではない。これにより、本発明者らは、標的遺伝子の検出限界に対する確認を下記のように実施した。
【0070】
Cas9とエキソヌクレアーゼとを処理したサンプルをサンガーシーケンシングを通じて分析した時、KRAS c.35グアノシンに該当する部分がチミジンと読まれることを確認した。Cas9のみ処理した場合、最初のmtDNAの比率が1%であったサンプル(NGS result mtDNA:44%)で35番目の核酸に該当する部分でグアノシンとチミジンとのヒストグラムが同時に観測されることを確認し、mtDNAの比率が1%以下のサンプルでは、mtDNAのシーケンスを観測することができなかった(図5の左側、Cas_treatment参照)。しかし、Cas9、エキソヌクレアーゼT、エキソヌクレアーゼT7が処理された場合、mtDNAの比率が0.01%であったサンプルでも、突然変異シーケンスをサンガーシーケンシングの結果上で確認した(図5の右側、Cas+ExoT+ExoT7_treatment参照)。
【0071】
図5で確認したように、本発明において、Cas9とエキソヌクレアーゼT7、エキソヌクレアーゼTとを共に処理したサンプルの場合、最初ののmtDNAの比率が0.01%以下のサンプルでも、NGS結果でmtDNAの存否を明確に確認した(Cas9のみを使用して検出可能な試料のmtDNA比率は、1%)。したがって、本発明では、Cas9システムのみを用いて標的遺伝子を切断する方法に比べて、少なくとも100倍以上に検出限界を確張した。
【0072】
実施例6.マルチプレックスシステムを利用した多様な標的DNAの除去
下記の方法によって、マルチプレックスシステムを利用した多様な標的DNAの除去を確認した。EGFR配列は、次の表3のようである。
【0073】
【表3-1】

【表3-2】

【表3-3】
【0074】
ホスホロチオエート結合で5’末端が保護されたプライマー(表2)とphusionポリメラーゼとを使用して、複数個の標的遺伝子に対するPCR増幅を実施した。PCR精製キットを使用して分離精製されたKRAS DNAとEGFR DNAとを1:1で混ぜて、標的DNA試料を準備した。500ng Cas9とKRASとEGFRとを標的とするガイドRNA(配列番号3)をそれぞれ50ngずつ混ぜて、5分間結合させた。以後、酢酸カリウム50mM(pH7.9)、トリス-酢酸20mM、酢酸マグネシウム10mM、DTT 1mMで構成された緩衝液から精製された100ng 標的DNAサンプルと37℃で60分間反応させた。
【0075】
Cas9と反応させた後、エキソヌクレアーゼT7、エキソヌクレアーゼTを添加して、37℃、60分間追加的に反応させた。Cas9とエキソヌクレアーゼとが処理されたDNA切片は、1.5%アガロースゲルで電気泳動で確認するか、PCR増幅を行って、サンガーシーケンシングと次世代シーケンシングとで塩基配列を確認した。
【0076】
KRAS DNAを標的とするガイドRNAとEGFR DNAを標的とするガイドRNAとを混合してCas9と結合させた後、wtKRAS DNA(2787nt)とwtEGFR DNA(2813nt)とが1:1で混合されたDNAを切った時、それぞれの標的遺伝子は、当該ガイドRNAによって切られることを確認し、切られた遺伝子のみエキソヌクレアーゼによって完全に分解されることを電気泳動を通じて検証した(図7Bの中段参照)。一方、mtKRASとmtEGFRとが1:1で混じられたDNAサンプルは、Cas9によって切断されず、エキソヌクレアーゼによって分解されないことを確認した(図7Bの下段参照)。
【0077】
前記のように、それぞれ異なる遺伝子を標的とするガイドRNAを共に使用するマルチプレクシングシステムを適用して、複数個の標的遺伝子を同時に除去することができるということを電気泳動を通じて確認した。また、多様な遺伝子を同時に除去することにより、多種の極微量遺伝子をNGS結果上で一回で確認した。
【0078】
実施例7.マルチプレクシングシステムを利用した多様な標的DNAに対する検出限界の確認
KRAS遺伝子とEGFR遺伝子とに該当するwtDNAとmtDNAとを互いに異なる比率で混ぜたDNAサンプルを用いてマルチプレクシングシステムの検出限界をNGS分析を通じて確認した。両先端がホスホロチオエート結合で保護されたwtKRAS DNA、wtEGFR DNAとmtKRAS DNA、mtEGFR DNAとを90:10(KRAS mtDNA ratio:10%、EGFR mtDNA ratio:10%、wtKRAS DNA ratio及びwtEGFR DNA ratioは、それぞれ90%)、99:1(KRAS mtDNA ratio:1%、EGFR mtDNA ratio:1%、wtKRAS DNA ratio及びwtEGFR DNA ratioは、それぞれ99%)、99.9:0.1(KRAS mtDNA ratio:0.1%、EGFR mtDNA ration:0.1%、wtKRAS DNA ratio及びwtEGFR DNA ratioは、それぞれ99.9%)、99.99:0.01(KRAS mtDNA ratio:0.01%、EGFR mtDNA ratio:0.01%、wtKRAS DNA ratio及びwtEGFR DNA ratioは、それぞれ99.99%)、99.999:0.001(KRAS mtDNA ratio:0.001%、EGFR mtDNA ratio:0.001%、wtKRAS DNA ratio及びwtEGFR DNA ratioは、それぞれ99.999%)の比率で混ぜ、Cas9とエキソヌクレアーゼとを処理した後、最終的に得たサンプルをシーケンシングした。
【0079】
KRASに該当するガイドRNAのみを利用した実験(単独標的DNAに対する実験)のように、マルチプレクシングシステムを導入した時、Cas9のみを使用した場合、1%以下のmtDNAが存在するサンプルで正常に突然変異シーケンスを検出することができなかった。しかし、Cas9とエキソヌクレアーゼとが共に処理された場合、マルチプレクシングシステムでも、mtDNAを効果的に検出することを確認することができた(図8及び図9参照)。
【0080】
図9について説明すれば、次の通りである。Cas9オーソログは、互いに異なる配列のPAMを認識する。spCas9の場合、標的遺伝子3’隣接部分に5’-NGG-3’のシーケンスを保有した遺伝子のみを切断させ、遺伝子上の当該NGG塩基配列部分をspCas9のPAM配列と呼ぶ。nmCas9、saCas9、cjCas9、AsCpf1、FnCpf1のPAM配列は、それぞれ5’-NNNGMTT-3’、5’-NNGRRT-3’、5’-NNNVRYAC-3’、5’-TTTN-3’、5’-KYTV-3’と認知される。このように、他種のCas9オーソログは、PAM配列を保有しており、PAM配列を満足しなければならないが、正常に作動することができる。Cas9のオーソログをマルチプレクシングとして使用する場合、PAM配列の制約から始まった標的可能遺伝子の多様性の限界を乗り越えることができる。当該図式に示されたように、多様なCas9オーソログを使用して遺伝子診断を試みれば、spCsa9で標的可能な遺伝子の限界を外れて多種の癌突然変異を検出することができる。
【0081】
以上、本発明の内容の特定の部分を詳しく記述したところ、当業者において、このような具体的記述は、単に望ましい実施態様であり、これにより、本発明の範囲が制限されるものではないという点は明白である。したがって、本発明の実質的な範囲は、下記の特許請求の範囲とそれらの等価物とによって定義される。 また、本発明は以下の態様を含む。
<1>5’末端が保護されたプライマーを含む野生型細胞遊離遺伝子及び突然変異細胞遊離遺伝子増幅用組成物と、
前記野生型細胞遊離遺伝子特異的ガイドRNAと、
前記野生型細胞遊離遺伝子を切断するためのCasタンパク質と、
前記野生型細胞遊離遺伝子を除去するためのエキソヌクレアーゼと、
を含む、突然変異細胞遊離遺伝子分離用キット。
<2>前記突然変異細胞遊離遺伝子は、癌特異的な突然変異を含むDNAであり、
前記キットは、癌の疑い個体から分離された血液、血しょうまたは尿試料に含まれた野生型細胞遊離遺伝子及び突然変異細胞遊離遺伝子から突然変異細胞遊離遺伝子を分離する、前記<1>に記載の突然変異細胞遊離遺伝子分離用キット。
<3>前記Casタンパク質は、Streptococcus pyogenes Cas9(SpCas9)、Streptococcus thermophilus Cas9(StCas9)、Streptococcus pasteurianus(SpaCas9)、Campylobacter jejuni Cas9(CjCas9)、Staphylococcus aureus(SaCas9)、Francisella novicida Cas9(FnCas9)、Neisseria cinerea Cas9(NcCas9)、Neisseria meningitis Cas9(NmCas9)Prevotella とFrancisella 1(Cpf1)である、前記<1>に記載の突然変異細胞遊離遺伝子分離用キット。
<4>前記ガイドRNAは、crRNA及びtracrRNAを含む二重RNAまたはsgRNAである、前記<1>に記載の突然変異細胞遊離遺伝子分離用キット。
<5>前記ガイドRNAは、複数個の野生型細胞遊離遺伝子特異的な2種類以上のガイドRNAを含む、前記<1>に記載の突然変異細胞遊離遺伝子分離用キット。
<6>前記5’末端が保護されたプライマーは、前記プライマーの5’末端がホスホロチオエート結合で保護されたものであり、前記遺伝子増幅用組成物は、PCR組成物である、前記<1>に記載の突然変異細胞遊離遺伝子分離用キット。
<7>i)少なくとも1つの野生型細胞遊離遺伝子及び少なくとも1つの突然変異細胞遊離遺伝子が含まれた分離された試料内の前記野生型細胞遊離遺伝子と突然変異細胞遊離遺伝子とを5’末端が保護されたプライマーを用いて増幅する段階と、
ii)前記野生型細胞遊離遺伝子に特異的に結合するガイドRNA及びCasタンパク質を処理して、前記増幅された野生型細胞遊離遺伝子のみを切断する段階と、
iii)前記突然変異細胞遊離遺伝子と、前記切断された細胞遊離遺伝子と、が存在する試料にエキソヌクレアーゼを処理して、前記切断された野生型細胞遊離遺伝子のみを除去する段階と、
iv)前記試料内に残っている突然変異細胞遊離遺伝子を増幅する段階と、
v)前記増幅された突然変異細胞遊離遺伝子を分析する段階と、
を含む、突然変異遺伝子型分析方法。
<8>前記i)少なくとも1つの野生型細胞遊離遺伝子及び少なくとも1つの突然変異細胞遊離遺伝子が含まれた分離された試料は、癌の疑い個体から分離された血液、血しょうまたは尿試料である、前記<7>に記載の突然変異遺伝子型分析方法。
<9>前記突然変異細胞遊離遺伝子は、癌特異的な突然変異を含むDNAであり、
前記突然変異細胞遊離遺伝子分析は、癌の診断のための情報を提供する、前記<7>に記載の突然変異遺伝子型分析方法。
<10>前記5’末端が保護されたプライマーは、前記プライマーの5’末端がホスホロチオエート結合で保護された、前記<7>に記載の突然変異遺伝子型分析方法。
<11>前記Casタンパク質は、Streptococcus pyogenes Cas9(SpCas9)、Streptococcus thermophilus Cas9(StCas9)、Streptococcus pasteurianus(SpaCas9)、Campylobacter jejuni Cas9(CjCas9)、Staphylococcus aureus(SaCas9)、Francisella novicida Cas9(FnCas9)、Neisseria cinerea Cas9(NcCas9)、Neisseria meningitis Cas9(NmCas9)Prevotella とFrancisella 1(Cpf1)である、前記<7>に記載の突然変異遺伝子型分析方法。
<12>前記ガイドRNAは、crRNA及びtracrRNAを含む二重RNAまたはsgRNAである、前記<7>に記載の突然変異遺伝子型分析方法。
<13>前記増幅は、PCRで行われる、前記<7>に記載の突然変異遺伝子型分析方法。
図1
図2A
図2B
図3A
図3B
図4
図5
図6
図7A
図7B
図8
図9
【配列表】
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