(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】OCTシステム及びOCT方法
(51)【国際特許分類】
A61B 3/10 20060101AFI20220117BHJP
G01N 21/17 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
A61B3/10 100
A61B3/10 ZDM
G01N21/17 630
(21)【出願番号】P 2020570568
(86)(22)【出願日】2019-07-02
(86)【国際出願番号】 EP2019067676
(87)【国際公開番号】W WO2020011593
(87)【国際公開日】2020-01-16
【審査請求日】2021-02-16
(32)【優先日】2018-07-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】EP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】520446894
【氏名又は名称】ハーグ―ストレイト アーゲー
【氏名又は名称原語表記】HAAG-STREIT AG
(74)【代理人】
【識別番号】100107456
【氏名又は名称】池田 成人
(74)【代理人】
【識別番号】100162352
【氏名又は名称】酒巻 順一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100123995
【氏名又は名称】野田 雅一
(72)【発明者】
【氏名】ロブレド, ルチオ
(72)【発明者】
【氏名】スタルダー, ピーター
(72)【発明者】
【氏名】ヒューバー‐メッツナリク, アンドレ
【審査官】冨永 昌彦
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-150158(JP,A)
【文献】特開2018-086408(JP,A)
【文献】国際公開第2016/196463(WO,A1)
【文献】特開2017-219376(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61B 3/00 - 3/18
G01N 21/00 - 21/61
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
OCT光(15)を物体ビーム経路(23)及び基準ビーム経路(24)
からなるOCTビーム経路に放射するためのOCT光源(16)を備え、前記物体ビーム経路(23)及び前記基準ビーム経路(24)から生成された干渉信号をピックアップするための検出器(25、52、53)を備えるOCTシステムであって、波長依存ビームスプリッタ(35、36、54、57)が、第1のスペクトル部分ビーム(32)がより長い経路距離に沿って誘導され、第2のスペクトル部分ビーム(33)がより短い経路距離に沿って誘導されるように、前記OCTビーム経路に配置され、前記OCT光源(16)が、前記第1のスペクトル部分ビーム(32)及び前記第2のスペクトル部分ビーム(33)のための前記OCT光(15)を提供する統合されたOCT光源(16)であり、前記OCT光源(16)は、統合された調整過程によって、前記第1のスペクトル部分ビーム(32)及び前記第2のスペクトル部分ビーム(33)を生成する、OCTシステム。
【請求項2】
前記OCTビーム経路が並列区間(30)を含み、前記第1のスペクトル部分ビーム(32)が第1の並列経路(66)に沿って誘導され、前記第2のスペクトル部分ビーム(33)が第2の並列経路(67)に沿って誘導されることを特徴とする、請求項1に記載のOCTシステム。
【請求項3】
第1の波長依存ビームスプリッタ(35、54)が、前記並列区間(30)の入力に配置され、第2の波長依存ビームスプリッタ(36、57)が前記並列区間(30)の出力に配置されていることを特徴とする、請求項2に記載のOCTシステム。
【請求項4】
前記第1の並列経路(66)と前記第2の並列経路(67)との間の経路長差が調整可能であることを特徴とする、請求項2又は3に記載のOCTシステム。
【請求項5】
前記並列区間に配置された部分ビームミラー(37、38)と前記波長依存ビームスプリッタ(35、36)との間の距離が調整可能であることを特徴とする、請求項4に記載のOCTシステム。
【請求項6】
第1の状態では、波長依存ビームスプリッタ(35、36)が前記OCTビーム経路に配置され、第2の状態では、前記波長依存ビームスプリッタ(35、36)が前記OCTビーム経路に配置されていないことを特徴とする、請求項1~5のいずれか一項に記載のOCTシステム。
【請求項7】
前記部分ビームミラー(37、38)と前記波長依存ビームスプリッタ(35、36)との間の前記距離を調整するために使用され、前記波長依存ビームスプリッタ(35、36)の前記第1の状態と前記第2の状態とを替えるために使用されるアクチュエータ(61)を特徴とする、請求項6に記載のOCTシステム。
【請求項8】
前記第1のスペクトル部分ビーム(32)の軸線方向焦点位置が、前記第2のスペクトル部分ビーム(33)の軸線方向焦点位置からずれていることを特徴とする、請求項1~7のいずれか一項に記載のOCTシステム。
【請求項9】
前記第1のスペクトル部分ビーム(32)が、前記第2のスペクトル部分ビーム(33)とは異なる角度で前記測定物体(14)に当たることを特徴とする、請求項1~8のいずれか一項に記載のOCTシステム。
【請求項10】
前記並列区間(30)に配置された部分ビームレンズ(43、48)を特徴とする、請求項1~9のいずれか一項に記載のOCTシステム。
【請求項11】
前記部分ビームレンズ(43、48)が調整可能であることを特徴とする、請求項10に記載のOCTシステム。
【請求項12】
前記並列区間(30)の外側に配置された全ビームレンズ(45)であって、前記第1のスペクトル部分ビーム(32)を前記並列区間(30)内の第1の焦点(46)に集束させ、前記第2のスペクトル部分ビーム(33)を前記並列区間(30)内の第2の焦点(47)に集束させる、全ビームレンズ(45)を特徴とする、請求項1~11のいずれか一項に記載のOCTシステム。
【請求項13】
前記全ビームレンズ(45)が走査装置(27、28)と前記並列区間(30)との間に配置されていることを特徴とする、請求項12に記載のOCTシステム。
【請求項14】
OCT光(15)が放射され、物体ビーム経路(23)と基準ビーム経路(24)とに分割されるOCT方法であって、前記物体ビーム経路(23)及び前記基準ビーム経路(24)から生成された干渉信号が検出器(25、52、53)によってピックアップされ、波長依存ビームスプリッタ(35、36、54、57)が、前記OCT光(15)の第1のスペクトル部分ビーム(32)がより長い経路距離に沿って誘導され、前記OCT光(15)の第2のスペクトル部分ビーム(33)がより短い経路距離に沿って誘導されるように、前記OCT光の前記
物体ビーム経路
(23)又は前記基準ビーム経路(24)に配置され、前記第1のスペクトル部分ビーム(32)及び前記第2のスペクトル部分ビーム(33)のための前記OCT光(15)が、統合されたOCT光源(16)によって提供され、前記OCT光源(16)は、統合された調整過程によって、前記第1のスペクトル部分ビーム(32)及び前記第2のスペクトル部分ビーム(33)を生成する、OCT方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、OCT光を物体ビーム経路及び基準ビーム経路に放射するためのOCT光源を含むOCTシステムに関する。物体ビーム経路及び基準ビーム経路から生成された干渉信号は、検出器によってピックアップされる。本発明はさらに、OCT方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光コヒーレンス断層撮影(OCT)は、画像化測定法である。OCT光は、物体、特に人体組織に誘導される。物体の散乱中心は、光の反射部分から推定される。この目的のために、物体から反射されて戻った物体ビーム経路が基準ビーム経路と重ね合わされる。画像情報は、2つのビーム経路の干渉信号を評価することによって得られる。
【0003】
軸線方向の測定深度は、一般に、OCT測定では制限されている。干渉信号は、基準ビーム経路の光路長と物体ビーム経路の光路長とが同じ場合に、最も高い信号強度を有する。これが当てはまる物体領域内の点は、OCT測定の基準点と呼ばれる。フーリエドメインOCT(FD-OCT)を用いて、基準点から離れた散乱中心を特定することもできる。しかしながら、物体点と基準点との間の軸線方向の距離が大きいほど、この場合の干渉信号は弱くなり、干渉信号から導出される画像情報の品質は低下する。
【0004】
OCT装置が眼科測定に使用される場合、前眼部及び後眼部がしばしば対象となる。前眼部は、角膜及び水晶体を含む。後眼部は、網膜を含む。前眼部及び後眼部にわたる測定が行われる場合、画像データのかなりの部分は、前眼部と後眼部との間に位置する領域に関するものである。画像データのこの部分には、関連する情報内容はない。
【0005】
2つの別個のOCT干渉計を設けることが知られており、1つの干渉計が前眼部に使用され、1つの干渉計が後眼部に使用される(欧州特許出願公開第2719324号)。この解決策は、OCTシステムの必須の構成要素が2倍存在しなければならないため、コストがかかる。このことは、測定領域ごとに別々の光源及び別々の検出器ユニットを用いる解決策にも当てはまる(国際公開第2001/038820号)。また、前眼部用の経路と後眼部用の経路とを機械的に切り替えるOCTシステムも知られている(米国特許第7,480,059号)。機械的な切り替えには、切り替えに時間を要し、その間に測定物体が移動する可能性があるという欠点を有する。この移動により、測定データの空間的割り当てが不正確になる。切り替え中は測定データを取得することができないため、測定時間が切り替え時間だけ長くなる。さらに、機械的な測定領域の切り替えでは、切り替えの時点を干渉測定の検出と同期させる必要がある。国際公開第2016/196463号は、1つの波長を有する第1のビームが第1の光源によって放射され、第2の波長を有する第2のビームが第2の光源によって放射されるOCTシステムを開示している。 一変形例では、第1のビーム及び第2のビームは、1つの光源によって生成される。
【発明の概要】
【0006】
本発明は、2つの別個の測定領域をわずかな支出で検出することができるように、OCTシステム及びOCT方法を提示するという目的に基づいている。引用された先行技術から出発して、本目的は、独立請求項の特徴によって達成される。有利な実施形態は、従属請求項に明記されている。
【0007】
本発明によるOCTシステムでは、第1のスペクトル部分ビームがより長い経路距離に沿って誘導され、第2のスペクトル部分ビームがより短い経路距離に沿って誘導されるように、波長依存ビームスプリッタがOCTビーム経路に配置されている。
【0008】
OCTシステムは、第1のスペクトル部分ビーム及び第2のスペクトル部分ビームのためのOCT光を提供する統合されたOCT光源を含む。OCTシステムは、第1のスペクトル部分ビームから生成された干渉信号及び第2のスペクトル部分ビームから生成された干渉信号をピックアップする統合された検出器を含む。
【0009】
波長依存ビームスプリッタによってOCT光を分割することにより、機械的に切り替えることなく、異なる周波数範囲のOCT光を2つの異なる経路距離に沿って誘導することが可能になる。したがって、互いに分離された2つの測定領域を、1つの統合された測定過程で検出することができる。
【0010】
OCTシステムは、OCT光源によって放射されたOCT光を物体ビーム経路と基準ビーム経路とに分割する分離ビームスプリッタを含むことができる。分離ビームスプリッタは、物体ビーム経路と基準ビーム経路への分割がOCT光源によって放射されるスペクトル全体を包含するように、波長依存性がないことが好ましい。
【0011】
OCTシステムは、物体ビーム経路からのOCT光と基準ビーム経路からのOCT光とを干渉させる干渉ビームスプリッタを含むことができる。分離ビームスプリッタ及び干渉ビームスプリッタは、相互に分離した2つの光学部品とすることができる。一実施形態では、分離ビームスプリッタ及び干渉ビームスプリッタは、1つの光学部品で実現される。この場合、物体ビーム経路と基準ビーム経路への分割は、OCT光が一方向で光学部品に当たるときに行うことができる。干渉信号は、OCT光が別の方向、特に反対方向で光学部品に当たるときに生成することができる。
【0012】
物体ビーム経路は、分離ビームスプリッタから測定物体を介して干渉ビームスプリッタまで延在することができる。基準ビーム経路は、分離ビームスプリッタから基準ミラーを介して干渉ビームスプリッタまで延在することができる。基準ビーム経路は、光導波路に沿って分離ビームスプリッタから干渉ビームスプリッタまで延在することも可能である。
【0013】
OCTビーム経路は、第1のスペクトル部分ビームが第1の並列経路に沿って誘導され、第2のスペクトル部分ビームが第2の並列経路に沿って誘導される並列区間を含むことができる。第1の並列経路は、第2の並列経路よりも長くすることができる。並列区間から出射した後、第1のスペクトル部分ビームと第2のスペクトル部分ビームとを再結合することができ、2つのスペクトル部分ビームは、並列区間から出射した後、同軸又は非同軸とすることができる。並列区間は、物体ビーム経路の区間を形成することができ、又は基準ビーム経路の区間を形成することができる。OCTビーム経路という用語は、物体ビーム経路及び基準ビーム経路の総称として使用される。
【0014】
第1の波長依存ビームスプリッタは、並列区間の入力に配置することができる。OCT光の第1のスペクトル部分は、第1の波長依存ビームスプリッタによって第1の並列経路に誘導され得て、一方、OCT光の第2のスペクトル部分は、第2の並列経路上に誘導される。
【0015】
第2の波長依存ビームスプリッタは、並列区間の出力に配置することができる。並列区間から出射すると、2つのスペクトル部分ビームは、第2の波長依存ビームスプリッタによって再結合されて、共通のOCTビーム経路を形成することができる。2つの波長依存ビームスプリッタの光学特性は、同一にすることができる。
【0016】
OCTビーム経路は、光が並列区間を2回通過するように構成することができる。OCT光が波長依存ビームスプリッタに当たる順序は、2回目の通過の場合は、1回目の通過と比較して逆にすることができる。2回目の通過の場合、第2の波長依存ビームスプリッタにおいてOCTビーム経路を分割することができ、第1の波長依存ビームスプリッタにおいて2つの部分ビームを結合することができる。
【0017】
並列区間内で2つのスペクトル部分ビームに対する経路距離を異なる長さで構成するために、部分ビームミラーを並列区間内に配置することができる。部分ビームミラーという用語は、一方のスペクトル部分ビームのビーム経路には配置されているが、もう一方のスペクトル部分ビームのビーム経路には配置されていないミラーを意味する。ミラーという用語は、一般に、ビーム経路の方向を偏向させる光学素子を意味する。
【0018】
並列区間は、波長依存ビームスプリッタ間で第1のスペクトル部分ビームを180°偏向させる2つの部分ビームミラーを含むことができる。第2のスペクトル部分ビームは、2つの波長依存ビームスプリッタ間の直線経路をとることができる。
【0019】
第1の並列経路と第2の並列経路との間の経路長の差は、調整可能とすることができる。これは、並列区間の部分ビームミラーと波長依存ビームスプリッタとの間の距離を変えることによって実現することができる。部分ビームミラーは、固定位置に配置することができ、波長依存ビームスプリッタは、移動させることができる。代替として、波長依存ビームスプリッタを固定位置に配置することができ、部分ビームミラーを変位可能とすることができる。いずれの場合も、第1のスペクトル部分ビームのより長い経路距離又は第2のスペクトル部分ビームのより短い距離のいずれかは、長さ調整可能とすることができる。2つの要素を互いに独立して変位させることも可能である。距離の調整は、手動又はモータによって駆動することができる。
【0020】
一実施形態では、並列区間は、第1の部分ビームミラー及び第2の部分ビームミラーを含む。経路長差を調整するために、第1の部分ビームミラーと第1の波長依存ビームスプリッタとの間の距離、及び第2の部分ビームミラーと第2の波長依存ビームスプリッタとの間の距離を同時に変えることができる。同時に調整可能とは、2つの距離がそれぞれ同じ大きさだけ変化することを意味する。これらの距離は、同一にすることができる。
【0021】
OCTシステムが使用される測定物体は、眼、特に人間の眼とすることができる。OCTビーム経路の並列区間における光学素子の調整範囲は、並列区間の第1の構成では、第1のスペクトル部分ビームによって検査される第1の物体領域及び第2のスペクトル部分ビームによって検査される第2の物体領域が両方とも前眼部に配置されるように寸法決めすることができる。第1の物体領域は、眼の角膜を含むことができる。第2の物体領域は、眼の水晶体を含むことができる。並列区間の第2の構成では、第1の物体領域を前眼部に配置することができ、第2の物体領域を後眼部に配置することができる。
【0022】
OCTシステムは、第1の状態では波長依存ビームスプリッタがOCTビーム経路に配置され、第2の状態では波長依存ビームスプリッタがOCTビーム経路に配置されないように構成することができる。このことは、第1の状態でOCTビーム経路に配置されたすべての波長依存ビームスプリッタに適用されるのが好ましい。OCTビーム経路内に波長依存ビームスプリッタがない場合、並列区間は省略され、OCT光のスペクトル全体が同じ経路距離を進む。その場合、単一の物体領域をOCTシステムによって検査することができ、2つの物体領域の並列検査と比較して軸線方向の分解能が向上する。
【0023】
OCTシステムは、波長依存ビームスプリッタを含むスイッチングモジュールを備えることができ、このスイッチングモジュールを使用して、OCTシステムの第1の状態と第2の状態とを切り替える。状態間の変化中の切り替え移動は、光軸に対する横方向の移動とすることができる。この場合、スイッチングモジュールは、枢動移動及び/又は並進移動を実行することができる。この移動は、手動又はモータによって駆動することができる。スイッチングモジュールは、2つのスペクトル部分ビーム間の光路長差を調整するために、光軸に沿ってさらに変位可能とすることができる。
【0024】
一実施形態では、第1の状態と第2の状態との間の変化中の切り替え移動は、光軸に平行な移動であり、スイッチングモジュールは、光軸に平行な移動が波長依存ビームスプリッタの横方向移動に変換されるように設計されている。これは、光路長差を調整するためにも、第1の状態と第2の状態とを変化させるためにも、単一のアクチュエータで十分であり得るという利点を有する。例として、光路長差を調整するために光軸に平行に変位させたスイッチングモジュールは、調整範囲の端部でストッパに当接することができ、その結果、スイッチングモジュールがさらに変位すると、スイッチングモジュール内で移動がトリガーされ、この移動によって、波長依存ビームスプリッタがOCTビーム経路から取り外される。移動は、2つの波長依存ビームスプリッタを含むビームスプリッタユニットの枢動移動とすることができる。波長依存ビームスプリッタがOCTビーム経路に配置される場合、ビームスプリッタユニットは、正確に規定された位置を有することが望ましい。例として、ビームスプリッタユニットは、ばね及び/又は磁石によって、スイッチングモジュール内のその位置に保持することができる。
【0025】
OCTビーム経路は、第1の波長依存ビームスプリッタに当たるとコリメート状態になることができる。OCTビーム経路をこの状態にするコリメーション光学ユニットは、分離ビームスプリッタと第1の波長依存ビームスプリッタとの間に配置することができる。OCTビーム経路の並列区間は、ビーム経路を偏向させるが、その形状を変えないように構成することができる。2つのスペクトル部分ビームは、並列区間を離れる際に依然としてコリメート状態とすることができる。並列区間が物体ビーム経路に配置されている場合、2つのスペクトル部分ビームを物体領域に集束させる対物レンズを、並列区間と測定物体との間に配置することができる。2つのスペクトル部分ビームの焦点は、同じ物体平面内に位置することができる。
【0026】
2つのスペクトル部分ビームを使用して、軸線方向に互いに離間した2つの物体領域から画像情報を取得する場合、第1のスペクトル部分ビームの軸線方向焦点位置が第2のスペクトル部分ビームの軸線方向焦点位置からずれている場合に有利である可能性がある。軸線方向焦点位置という用語は、対物レンズの光軸に沿った焦点位置を意味する。OCTシステムは、2つのスペクトル部分ビームの一方のビーム経路に配置されるが、2つのスペクトル部分ビームのもう一方のビーム経路には配置されない部分ビームレンズを含むことができる。レンズという用語は、一般に、光を屈折させる光学部品を意味する。部分ビームレンズは、関連するスペクトル部分ビームの焦点位置を軸線方向に変位させることができるように調整可能とすることができる。例として、部分ビームレンズは、光軸に沿って変位可能とすることができる。固定位置に配置された、例えば液体レンズの形態の可変屈折力を有するレンズも可能である。
【0027】
部分ビームレンズは、対物レンズとともに、物体領域に位置する焦点を有さないビーム経路を形成するように配置することができる。例として、ビーム経路をコリメートすることができる。わずかに発散する形状又はわずかに収束する形状も可能であり、後者の場合、焦点は、物体領域の少なくとも20cm後方にある。特に、部分ビームレンズは、対物レンズの装置側焦点面にスペクトル部分ビームを集束させるように配置することができる。対物レンズだけでビーム経路を物体領域に集束させるのではなく、部分ビームレンズが対物レンズとともに、物体領域に集束する部分ビームを形成する反対の構成も可能である。
【0028】
このようなOCTシステムは、特に眼の測定に適している。前眼部の画像情報は、物体領域に集束する部分ビームを用いて得ることができる。非集束ビーム経路又はコリメートビーム経路は、眼に入り、角膜及び水晶体によって後眼部に集束することができる。このようにして、前眼部及び後眼部の両方を、1つの集束OCTビームを用いて検査することができる。
【0029】
OCTシステムは、物体ビーム経路を横方向に偏向させるために走査装置を備えることができる。横方向の偏向によって、測定物体の断面画像を生成することができる。走査装置が物体ビーム経路を2つの横方向(例えば、X方向、Y方向)に偏向させるように設計されている場合、複数の断面画像から3次元ボリューム画像を構成することができる。走査装置は、物体ビーム経路の全ビームに、すなわち並列区間の外側に配置することができる。
【0030】
走査装置は、例えば、互いに直交する軸線の周りに枢動可能な2つの走査ミラーを備えることができる。このような走査ミラーの配置は、測定物体を走査するために使用することができる走査装置の従来例である。代替として、走査装置は、2つの非平行の軸線に沿って傾斜可能な単一のミラーを備えることもできる。非平行の軸線は、互いに直交していても、又は互いに直交していなくてもよい。走査装置は、物体ビーム経路のコリメーション光学ユニットと対物レンズとの間に配置することができる。物体ビーム経路の光学ユニットは、走査装置が対物レンズの焦点に配置され、走査中に対物レンズと測定物体との間のビーム経路が平行に変位するように、テレセントリックに設計することができる。平行変位は、第1のスペクトル部分ビーム及び第2のスペクトル部分ビームに関連することができる。
【0031】
OCTシステムが人間の眼に使用される場合、並列区間でより長い距離を進む第1のスペクトル部分ビームは、通常、前眼部を走査するために使用される。並列区間のより短い距離を進む第2のスペクトル部分ビームは、後眼部を走査するために使用される。第2のスペクトル部分ビームが第1のスペクトル部分ビームと一緒に平行にオフセットされる場合、第2のスペクトル部分ビームは、平行変位にもかかわらず、角膜及び水晶体によって常に網膜の同じ領域上に誘導される。
【0032】
後眼部の画像化を同様に可能にするために、OCTシステムは、第2のスペクトル部分ビームが第1のスペクトル部分ビームとは異なる角度で測定物体に当たるように構成することができる。特に、第1のスペクトル部分ビームは、対物レンズの光軸に平行に測定物体上に誘導することができる。このことは、走査装置の任意の位置に適用することができる。第2のスペクトル部分ビームは、異なる角度で測定物体に当たることができる。この角度は、走査装置の位置に応じて変化することができる。第2のスペクトル部分ビームも対物レンズの光軸に平行に測定物体に当たる走査装置の位置があってもよい。
【0033】
この目的のために、OCTシステムは、並列区間の外側に配置された全ビームレンズを含むことができ、この全ビームレンズは、並列区間内で2つのスペクトル部分ビームを集束させる。これにより、第1のスペクトル部分ビームの並列経路に第1の焦点が生じ、第2のスペクトル部分ビームの並列経路に第2の焦点が生じる。全ビームレンズは、分離ビームスプリッタと並列区間との間に配置することができる。全ビームレンズは、OCTビーム経路がコリメート状態で全ビームレンズに当たるように配置することができる。
【0034】
一実施形態では、全ビームレンズは、走査装置と並列区間との間に配置される。さらに、全ビームレンズは、分離ビームスプリッタと並列区間との間に配置することができる。走査装置を作動させることによって、第1の焦点及び第2の焦点は、それぞれの場合に横方向に変位する。部分ビームレンズは、第1のスペクトル部分ビームの並列経路に配置することができ、この部分ビームレンズは、第1のスペクトル部分ビームを再びコリメート状態にする。第1のスペクトル部分ビームは、第1のスペクトル部分ビームを対物レンズによって物体領域に集束させるように、コリメート状態で対物レンズ上に誘導することができる。
【0035】
第2のスペクトル部分ビームは、発散状態で対物レンズに当たることができる。第2の焦点と対物レンズとの間の距離が対物レンズの焦点距離に相当する場合、第2のスペクトル部分ビームは、対物レンズによってコリメート状態になる。第2の焦点の横方向オフセットは、対物レンズによって方向の変化に変換される。走査装置によって第2の焦点を横方向に変位させることによって、第2のスペクトル部分ビームが測定物体に当たる方向が変化する。測定物体が眼である場合、異なる方向は、後眼部の異なる位置に変換される。
【0036】
波長依存ビームスプリッタは、限界波長を上回る波長が一方のスペクトル部分ビームに誘導され、限界波長を下回る波長がもう一方のスペクトル部分ビームに誘導されるように、限界波長を有することができる。限界波長は、OCT光の周波数帯域内のほぼ中央に位置することができる。これにより、両方のスペクトル部分ビームによって検査される物体領域のほぼ等しく良好な軸線方向分解能が得られる。一方の物体領域の分解能をもう一方の物体領域の分解能を犠牲にして高くするように、周波数帯域内に偏心して配置された限界波長も可能である。調整可能な限界波長を有するビームスプリッタを使用することも可能であり、したがって、2つの物体領域間で分解能を変えることができる。
【0037】
OCTビーム経路は、自由ビームとして波長依存ビームスプリッタに当たることができる。波長依存ビームスプリッタは、OCT光の周波数の一部を反射し、OCT光の周波数の別の部分を透過するダイクロイックスプリッタミラーとして具現化することができる。このようなビームスプリッタは、周波数に応じてOCT光を反射又は透過する誘電体コーティングを有するガラス基板である。ダイクロイックスプリッタミラーは、通常、45°の入射角用に設計されている。OCT光のスペクトル内に正確に1つの透過帯域と正確に1つの反射帯域を有するダイクロイックスプリッタミラーが特に適している。透過帯域は、ビームスプリッタが主に透過する波長間隔であり、同様に、反射帯域は、ビームスプリッタが主に反射する波長間隔である。ダイクロイックビームスプリッタの限界波長は、透過帯域と反射帯域との間で、透過光出力が反射光出力とほぼ同じになる波長に相当する。透過帯域は、限界波長よりも長い波長を含むことができ、その場合、反射帯域は、限界波長よりも短い波長を含む(「ロングパス」)。逆の構成(「ショートパス」)も可能である。エッジ急峻度の高いダイクロイックビームスプリッタ、すなわち、非常に小さい波長間隔で高透過から高反射に遷移するダイクロイックビームスプリッタが特に適している。ビームスプリッタは、例えば、カットオフ波長の最大2%以内で、20%透過から80%透過に遷移することができる。有利な一実施形態では、ビームスプリッタは、カットオフ波長の最大0.7%以内で、10%透過から90%透過に遷移する。
【0038】
ダイクロイックスプリッタミラーが透過帯域で可能な限り反射が低く、反射帯域で可能な限り透過が低い場合、さらに有利である。ビーム経路のスペクトル分離コントラストが低すぎる場合、2つのOCT測定領域の信号は、不十分にしか分離されない。良好なダイクロイックスプリッタミラーは、反射帯域で1%未満の透過、及び透過帯域で5%未満の反射を達成する。
【0039】
自由ビーム配置の代替として、OCTビーム経路及び/又はスペクトル部分ビームを光導波路内で誘導することもできる。並列区間は、異なる長さの2つの相互に並列の光導波路を含むことができ、これらの光導波路間で、OCT光が波長選択切り替えスイッチによって分割される。波長選択切り替えスイッチは、波長依存ビームスプリッタの代替の実施形態である。このようなファイバベースのOCTシステムは、並列区間をバイパスするバイパス光導波路を含むことができる。光ファイバスイッチング素子を用いて、並列区間とバイパス光導波路との間でOCTビーム経路を切り替えることができる。OCTビーム経路が並列区間を通過する場合、2つの物体領域をより低い分解能で検査することができる。OCTビーム経路がバイパス光導波路を通過する場合、1つの物体領域をより高い分解能で検査することができる。
【0040】
OCTシステムの光源は、狭帯域OCT光が調整時間内にスペクトル調整範囲にわたって調整される掃引光源(掃引光源OCT、SS-OCT)とすることができる。掃引光源は、統合された調整過程によって、第1のスペクトル部分ビーム及び第2のスペクトル部分ビームを生成する。次いで、第1のスペクトル部分ビームによって生成された干渉信号は、第2のスペクトル部分ビームによって生成された干渉信号から時間的に分離される。フォトダイオードによって時間分解された方法でピックアップされた2つの干渉信号は、互いに別々にスペクトル分解することができる。フォトダイオードの光電流を電圧に変換してデジタル化することができる。スペクトル分解の後、空間信号への変換は、両方の干渉信号に対して別々に行うことができる。走査装置による物体ビーム経路の横方向の偏向と組み合わせて、スペクトル的に分離された測定物体領域のそれぞれについて、測定物体の断面画像を作成することができる。
【0041】
SS-OCT干渉計のデータ取得は、干渉信号が等距離の波長間隔δkで検出されるように構成することができる(例えば、米国特許出願公開第2008/0175465号参照)。調整範囲Δkを有する調整可能な光源の場合、調整過程内で検出された各測定値に波数ki=k0+i・δkを割り当てることができ、ここで、iは、0~n=Δk/δk-1の値をとることができる。逆に、干渉信号は、位置インデックスiを有する信号ベクトルとして記述することができる。次いで、干渉信号を2つのスペクトルチャネル(部分ビームに対応する)に分離するために、ダイクロイックミラーの限界波長の波数Kd又は信号ベクトルにおける位置jd=(Kd-K0)/δkが決定される。部分ビーム1に対するスペクトル的に分解された信号は、i=0...jd-1の信号ベクトルであり、部分ビーム2に対しては、対応してi=jd…nが当てはまる。次いで、2つのスペクトル的に分解された信号は、既知の方法を使用して、互いに独立してさらに処理することができる。処理ステップは、通常、少なくとも窓関数による乗算、複素数値ベクトルによる乗算、及びそれに続くフーリエ変換を含む。ダイクロイックビームスプリッタの特性に応じて、スペクトル的に分解された信号の一部のみを処理することが好都合な場合もある。特に、ダイクロイックビームスプリッタの遷移領域の干渉信号は、チャネル分離が不十分になるのを回避するために破棄することができる。
【0042】
代替として、OCTシステムの光源は、広帯域光源であってもよい。その場合、分光計が検出器として使用される(スペクトルドメインOCT、SD-OCT)。第1のスペクトル部分ビームによって生成された干渉信号を第2のスペクトル部分ビームによって生成された干渉信号から分離するために、分光計によって検出された干渉信号から基準アームスペクトルを差し引いたものが、まず、既知の方法に従って波数に関して線形化された表現に変換される。その後の評価には、掃引光源OCTの場合の手順に対応する手順を採用することができる。フーリエドメインOCTという用語は、SS-OCT及びSD-OCTの総称として使用される。
【0043】
本発明はさらに、OCT光が放射され、物体ビーム経路と基準ビーム経路とに分割されるOCT方法に関する。物体ビーム経路及び基準ビーム経路から生成された干渉信号は、検出器によってピックアップされる。波長依存ビームスプリッタは、第1のスペクトル部分ビームがより長い経路距離に沿って誘導され、第2のスペクトル部分ビームがより短い経路距離に沿って誘導されるように、OCTビーム経路に配置されている。
【0044】
本方法は、本発明によるシステムの文脈で説明されるさらなる特徴を用いて開発することができる。本システムは、本発明による方法の文脈で説明されるさらなる特徴を用いて開発することができる。
【0045】
本発明は、添付の図面を参照して有利な実施形態に基づいて、以下に例として説明される。
【図面の簡単な説明】
【0046】
【
図1】本発明によるOCTシステムの第1の実施形態を示す図である。
【
図2】別の状態の
図1のOCTシステムを示す図である。
【
図3】さらに別の状態の
図1のOCTシステムを示す図である。
【
図4】本発明によるOCTシステムの代替の実施形態を示す図である。
【
図5】本発明によるOCTシステムの詳細を示す図である。
【
図6】代替の実施形態の場合の
図5に従った図である。
【
図7】本発明の代替の実施形態の場合の本発明によるOCTシステムの詳細を示す図である。
【
図8】本発明の代替の実施形態の場合の本発明によるOCTシステムの詳細を示す図である。
【
図9】本発明の代替の実施形態の場合の本発明によるOCTシステムの詳細を示す図である。
【
図10】本発明によるOCTシステムの測定物体の一例を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0047】
図1に示すOCTシステムは、例えば、人間の眼の形態の測定物体14を検査するのに役立つ。OCT光15を測定物体14上に向けることによって、OCTビームの軸線に沿って測定物体14の深部まで延在する画像情報が得られる。OCTビームを測定物体14に垂直な方向に測定物体14上を走査することによって、複数の個々の測定記録から測定物体14の3次元画像を得ることができる。
【0048】
OCTシステムは、掃引光源として具現化されたOCT光源16を備える。掃引光源16は、スペクトル的に調整可能な狭帯域光を生成する。すなわち、掃引光源が調整時間中に周波数範囲にわたって調整されるように、各瞬間に、狭帯域光が放射され、その周波数が時間とともに変化する。
【0049】
OCT光源16によって放射されたOCT光15は、単一モード光導波路として具現化された第1の光導波路17に供給される。第1の光導波路17は、ファイバカプラの形態の分離ビームスプリッタ18まで延在し、ここで、第1の光導波路17からのOCT光15が物体ビーム経路23と基準ビーム経路24とに分割される。物体ビーム経路23は、分離ビームスプリッタ18から物体アーム19に沿って測定物体14まで延在する。基準ビーム経路24は、分離ビームスプリッタ18から基準アーム20に沿って干渉ビームスプリッタ25まで延在する。
【0050】
物体アーム19は、ファイバカプラ18から出口端22まで延在する第2の光導波路21を含む。出口端22において、物体ビーム経路23は、発散状態で第2の光導波路21から出射し、コリメーションレンズ26によってコリメート状態にされる。
【0051】
走査装置は、互いに直交する2つの軸線の周りに枢動可能な2つの走査ミラー27、28を備える。物体ビーム経路23は、走査装置27、28を介して対物レンズ29に誘導される。物体ビーム経路23は、対物レンズ29を通過し、測定物体14の領域に集束する。対物レンズ29と第2の走査ミラー28との間の距離は、対物レンズ29の焦点距離に対応し、その結果、測定物体40は、対物レンズ29に対する距離とは無関係に、横方向にオフセットされた測定ビームによって走査される。このような対物レンズ29及び走査装置27、28の配置は、テレセントリックと呼ばれる。
【0052】
物体ビーム経路23が対物レンズ29に当たる方向は、走査ミラー27、28の枢動によって変化する。第2の走査ミラー28は、対物レンズ29の焦点に配置されているため、ビーム経路23は、対物レンズ29と測定物体14との間で、走査装置27、28の位置とは無関係に、対物レンズ29の光軸に平行に延在する。
【0053】
コリメーションレンズ26と走査装置27、28との間には、物体ビーム経路23の並列区間30が配置され、この並列区間30では、物体ビーム経路の第1のスペクトル部分ビーム32及び第2のスペクトル部分ビーム33が、異なる長さの経路に沿って誘導される。並列区間30に入る前と、並列区間30を出た後とでは、2つのスペクトル部分ビーム32、33の経路は、同一である。
【0054】
測定物体14から反射されて戻ってきたOCT光は、物体アーム19に沿って分離ビームスプリッタ18に戻り、分離ビームスプリッタ18を通って第3の光導波路34に沿って干渉ビームスプリッタ25に至るまで逆の伝搬方向で移動する。
【0055】
基準アーム20は、分離ビームスプリッタ18から干渉ビームスプリッタ25まで延在する第4の光導波路31を含む。
図1に短縮して示されている第4の光導波路31は、分離ビームスプリッタ18と干渉ビームスプリッタ25との間の光路長が、物体アーム19と基準アーム20とで同じ長さになるように寸法決めされている。物体ビーム経路23及び基準ビーム経路24は、干渉ビームスプリッタ25において再結合され、その結果、干渉信号が生じる。測定物体14内の特定の構造から反射されて戻るOCT光が多いほど、それだけ干渉信号が強くなる。したがって、干渉信号を評価することによって、測定物体14内の散乱中心を識別することができる。
【0056】
散乱中心が物体ビーム経路の基準点に正確に配置されている場合、物体ビーム経路23の光路長と基準ビーム経路24の光路長とは正確に等しく、したがって、定在干渉信号が生じる。散乱中心が基準点から離れている場合、干渉信号は(スペクトル表現で)振動し、基準点からの距離が大きいほど、それだけ周波数が大きくなる。
【0057】
干渉ビームスプリッタ25からの180°位相シフトされた干渉信号は、本発明の意味の範囲内で統合された検出器の一部である2つの検出器要素52、53によってピックアップされる。2つの検出器要素52、53間の差を形成することによって、信号の定常部分を除去することができ、したがって、高分解能を有する有用な信号が得られる。検出器要素52、53の光電流の差は、電圧に変換され、デジタル化される。走査装置27、28によるOCTビームの横方向の偏向によって、測定物体14の断面画像を作成することができる。
【0058】
物体アーム19の並列区間30において、物体ビーム経路23は、ダイクロイックスプリッタミラーの形態の波長依存スプリッタミラー35に45°の角度で当たる。ダイクロイックスプリッタミラー35ではOCT光15のスペクトル分割が行われる。ダイクロイックスプリッタミラー35の限界波長よりも周波数が大きい光部分が反射される。ダイクロイックスプリッタミラー35の限界波長よりも周波数が小さい光部分が透過する。OCT光15の透過部分は、第1のスペクトル部分ビーム32を形成する。OCT光15の反射部分は、第2のスペクトル部分ビーム33を形成する。
【0059】
OCT光源16によって放射されたOCT光15は、例えば、λ=1000nm~λ=1100nmの波長スペクトルにわたって延在することができる。第1のダイクロイックスプリッタミラー35は、λ=1045nm未満の波長を有するOCT光に対して高い反射率を有し、λ=1055nmを超える波長を有するOCT光に対して高い透過率を有するように具現化することができる。
【0060】
第2のスペクトル部分ビーム33は、同様にダイクロイックビームスプリッタとして具現化された第2の波長依存スプリッタミラー36に当たる。第2のダイクロイックスプリッタミラー36は、第1のダイクロイックスプリッタミラー35と同じ光学特性を有する。したがって、第2のスペクトル部分ビーム33は、第2のダイクロイックスプリッタミラー36でも反射され、走査装置27、28の方向に偏向される。
【0061】
第1のスペクトル部分ビーム32は、2つのミラー37、38を介して第2のダイクロイックスプリッタミラー36に誘導され、その結果、並列区間30内で、第1のスペクトル部分ビーム32は、第2のスペクトル部分ビーム33よりも長い距離を進む。第2のスペクトル部分ビーム33ではなく、第1のスペクトル部分ビーム32のみを偏向するミラー37、38は、本発明の意味の範囲内で部分ビームミラー37、38である。2つのスペクトル部分ビーム32、33は、第2のダイクロイックスプリッタミラー36において再結合される。測定物体14から干渉ビームスプリッタ25への戻り経路上で、第2のスペクトル部分ビーム33は、2つのダイクロイックスプリッタミラー35、36間の直接経路を再びとり、一方、第1のスペクトル部分ビーム32は、部分ビームミラー37、38を介してより長い経路を再びとる。したがって、2つのスペクトル部分ビーム32、33間の経路長差は、並列区間30を2回通過することで2倍になる。
【0062】
第1のスペクトル部分ビーム32と第2のスペクトル部分ビーム33との間の経路長差は、干渉信号が、軸線方向に互いに離間した測定物体14の構造に関連するという効果を有する。並列区間30においてより長い距離を進む第1のスペクトル部分ビーム32は、対物レンズ29からより短い距離にある第1の物体領域40から干渉信号を生成する。並列区間30においてより短い距離を進む第2のスペクトル部分ビーム33は、対物レンズ29からより遠い距離にある第2の物体領域41から干渉信号を生成する。掃引光源16は、異なる周波数をある時間にわたって分散して放射するため、物体領域40、41からの干渉信号は、互いに時間的に分離されている。画像情報は、時間的な分離に応じて別々に評価することができる。この目的のために、干渉信号は、まずスペクトル分解されてデジタル化され、次いで空間信号に変換される。すべての周波数が同時に物体に入射するSD-OCTの場合、分光計によって検出された干渉信号から基準アームのスペクトルを差し引いたものが、物体領域に応じて分離された評価が行われる前に、既知の方法に従って波数に関して線形化された表現に変換される。
【0063】
2つのダイクロイックスプリッタミラー35、36を備えるスイッチングモジュール42は、2つのダイクロイックスプリッタミラー35、36と2つの部分ビームミラー37、38との間の距離が調整可能となるように、変位可能に取り付けられている。スイッチングモジュール42は、手動又はモータによって変位させることができる。
図2は、2つのダイクロイックスプリッタミラー35、36が、
図1の場合よりも2つの部分ビームミラー37、38からより遠い距離にあるOCTシステムの状態を示す。第1のスペクトル部分ビーム32によって走査される第1の物体領域40の位置は、変化しないままである。第2のスペクトル部分ビーム33によって走査される第2の物体領域の位置は、2つの物体領域40、41間の距離が増大するように、後方に向かって変位している。
図1及び
図2の両方において、2つの物体領域40、41間の距離は、第1のダイクロイックスプリッタミラー35と第1の部分ビームミラー37との間の距離に第2のダイクロイックスプリッタミラー36と第2の部分ビームミラー38との間の距離を加えたものに相当する。
【0064】
図10は、OCTシステムの測定物体14として機能することができる人間の眼を示す。OCTシステムの第1の物体領域40は、第1の物体領域40が眼の角膜63を包含するように配置される。
図1及び
図2による2つの変形形態が、第2の物体領域41について示されている。2つの物体領域40、41が
図1に従って互いに直接隣り合っている場合、第2の物体領域41は、水晶体62を包含する。
図2に示すように、2つの物体領域40、41が互いに離間している場合、第2の物体領域41によって眼の網膜64を検査することができる。スイッチングモジュール42を位置間で変位させるために使用することができる変位機構61が
図10に概略的に示されている。変位機構61がストッパを越えて作動する場合、スプリッタミラーユニット42は、枢動運動によって物体ビーム経路23から取り外される。
【0065】
図3は、スプリッタミラーユニット42が物体ビーム経路23から取り外された状態のOCTシステムを示す。OCT光は、全体として、普通ならば、ダイクロイックスプリッタミラー35、36によって透過された光のみがとる第1のスペクトル部分ビーム32の経路をとる。干渉信号は、第1の物体領域40から後方散乱された光の結果としてのみ生じる。OCT光のより高い帯域幅のために、画像分解能は、第1のスペクトル部分ビーム32のみから導出される画像情報と比較して改善される。スイッチングモジュール42を物体ビーム経路23内に、及び物体ビーム経路23から外に枢動させることを可能にする枢動機構を設けることができる。スイッチングモジュール42の枢動移動は、手動又はモータによって駆動することができる。
【0066】
図4に示すOCTシステムの場合、第1の物体領域40は、人間の前眼部に対応し、第2の物体領域41は、人間の後眼部に対応する。OCTシステムは、第1のスペクトル部分ビーム32が前眼部40上に集束するように眼の前に配置される。
【0067】
第2のスペクトル部分ビーム33では、部分ビームレンズ43が2つのダイクロイックスプリッタミラー35、36間に配置されており、第2のスペクトル部分ビーム33を、この例では2つの走査ミラー27、28間に配置された焦点44上に集束させる。焦点44と対物レンズ29との間の距離は、対物レンズ29の焦点距離に対応し、その結果、第2のスペクトル部分ビーム32は、対物レンズ29を通過するとコリメート状態になる。眼14の角膜及び水晶体の屈折力によって、第2のスペクトル部分ビーム33を後眼部41上に集束させる。したがって、このOCTシステムにより、前眼部40及び後眼部41の両方から鮮明に分解された測定値を得ることが可能になる。部分ビームレンズ43は、例えば液体レンズの形態の、可変屈折力を有するレンズとして構成することができる。これにより、測定領域の位置に応じて、ビーム経路の焦点を前眼部40又は後眼部41に配置することが可能になる。
【0068】
図5は、部分ビームレンズ43が、第2のスペクトル部分ビーム33ではなく、第1のスペクトル部分ビーム32に配置されている変形形態を示す。部分ビームレンズ43のこの位置は、物体ビーム経路23内の他のレンズの特性及び配置によっては有利な場合がある。
【0069】
図6によるさらなる変形形態の場合、ダイクロイックスプリッタミラー35、36の場合の状況が逆になっている。第1のスペクトル部分ビーム32は、ダイクロイックスプリッタミラー35、36で反射され、第2のスペクトル部分ビーム33は、ダイクロイックスプリッタミラー35、36によって透過される。部分ビームミラー37、38を含むユニット42を変位させることによって、第1のスペクトル部分ビーム32の光路長を変えることが可能である。したがって、第2の物体領域41の位置は、変化しないままであるが、第1の物体領域40の位置は、変位する。この変形形態では、2つのダイクロイックスプリッタミラー35、36がビーム経路から取り外された場合、後方物体領域41の軸線方向の分解能を高めた測定が可能になる。
【0070】
図7は、物体アーム19の構成がいくぶん異なる変形形態を示す。走査装置27、28は、第1のダイクロイックスプリッタミラー35の上流に配置され、レンズ45は、走査装置27、28と第1のダイクロイックスプリッタミラー35との間に置かれ、物体ビーム経路23全体が前記レンズを通過する。レンズ45は、本発明の意味の範囲内での全ビームレンズである。
【0071】
全ビームレンズ45は、第1のスペクトル部分ビーム32が、第1のダイクロイックスプリッタミラー35と第1の部分ビームミラー37との間に配置された第1の焦点46に集束するように配置されている。部分ビームミラー37、38間の部分ビームレンズ48は、第1のスペクトル部分ビーム32が部分ビームレンズ48を通過するとコリメート状態になるように配置されている。対物レンズ19によって、第1の部分ビーム32は、前眼部40上に集束する。
【0072】
第2のスペクトル部分ビーム33は、第1のダイクロイックスプリッタミラー35と第2のダイクロイックスプリッタミラー36との間に配置された第2の焦点47に集束する。第1の焦点46と対物レンズ49との間の距離は、対物レンズ19の焦点距離に対応し、その結果、第2のスペクトル部分ビーム33は、対物レンズ19を通過するとコリメート状態になる。角膜及び水晶体を通過すると、第2のスペクトル部分ビームは、後眼部41上に集束する。
【0073】
画像化を目的として物体領域40、41を横方向に走査するために、物体ビーム経路23は、走査ミラー27、28によってシステムの光軸からある角度だけ偏向される。全ビームレンズ45は、ビームを集束させ、その際に、ビームの角度を、そのそれぞれの焦点面において焦点46、47の横方向のオフセットに変換する。第2のスペクトル部分ビーム33の場合、第2の焦点47の横方向位置が、対物レンズ19によって、第2のスペクトル部分ビーム33が眼の瞳孔に向けられるビーム角に変換される。衝突時にコリメートされた部分ビーム33は、角膜及び水晶体によって網膜上に集束する。走査ミラー27、28の角度を変えることによって、第2のスペクトル部分ビーム33は、眼の網膜を走査する。したがって、第2のスペクトル部分ビーム33により後眼部41の画像化が可能になる。
【0074】
同様に、第1のスペクトル部分ビーム32の場合、第1の焦点46は、その焦点面において横方向に走査される。部分ビームレンズ48は、第1のスペクトル部分ビーム32をコリメートし、次いで、対物レンズ19によってこの第1のスペクトル部分ビーム32を前眼部40上に集束させる。部分ビームレンズ48は、第1の焦点46の横方向位置をビーム角に変換し、このビーム角が、対物レンズ19によって横方向位置に変換される。このように、走査ミラー27、28を作動させることによって、第1のスペクトル部分ビーム32によって前眼部40を走査することができ、したがって、前眼部40の画像化が可能になる。
【0075】
第2のダイクロイックスプリッタミラー36、第2の部分ビームミラー38、及び対物レンズ19が、第1のスペクトルスプリッタミラー35及び第1の部分ビームミラー37に対して第2の部分ビーム経路33のビーム方向に沿って変位し、その過程で、対物レンズ19と眼14との間の距離が維持される場合、後眼部41に対する第2のスペクトル部分ビーム33の焦点位置は、変化するが、前眼部40に対する第1のスペクトル部分ビーム32の焦点位置は、変化しないままである。したがって、視力に欠陥がある患者の場合でさえ、第2のスペクトル部分ビーム33を後眼部41に集束させることが可能になる。
【0076】
これまで説明した例示的な実施形態では、波長依存ビームスプリッタは、ダイクロイックスプリッタミラー35、36として構成されており、その結果、OCT光15の周波数の一部は、反射され、OCT光15の周波数の別の部分は、透過される。本発明は、他のタイプの波長依存ビームスプリッタを用いて実現することもできる。
【0077】
図8は、物体ビーム経路23の並列区間30が、異なる長さの光導波路によって実現されている例示的な実施形態を示す。物体ビーム経路のOCT光は、ファイバカプラ54に当たり、ファイバカプラ54は、OCT光を周波数に応じて第1のファイバ55又は第2のファイバ56のいずれかに誘導する。異なる長さの経路距離を進んだ後、第1のスペクトル部分画像32及び第2のスペクトル部分画像33は、第2のファイバカプラ57において再結合される。第1のファイバカプラ54は、その機能の点で、第1のスペクトルスプリッタミラー35に対応し、第2のファイバカプラ57は、その機能の点で、第2のスペクトルスプリッタミラー36に対応する。上述したすべての変形形態とまったく同様に、並列区間30は、物体ビーム経路23又は基準ビーム経路24のいずれかに配置することができる。
【0078】
図9によるさらなる変形形態の場合、第3のファイバ60が設けられており、この第3のファイバ60は、物体ビーム経路23を並列区間30のそばを通り過ぎて誘導することができる。OCT光のスペクトル全体が物体領域上に誘導される場合、これにより、軸線方向の分解能が向上した測定が得られる。並列区間30と第3のファイバ60との間の切り替えは、光ファイバスイッチング素子54、57によって行われ、これらの光ファイバスイッチング素子54、57は、スイッチと同様に、一方の側の経路をもう一方の側の2つの経路のうちの1つに光誘導的に接続する。2つの経路間の切り替えは、デジタル電気信号によって行われる。第3のファイバ60への切り替えは、上述した例示的な実施形態において、ダイクロイックスプリッタミラー35、36を含むユニット42がビーム経路からスイングアウト(swing out)されることに対応する。