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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】送信回路、送信機器、歪み補正方法
(51)【国際特許分類】
   H04L 27/01 20060101AFI20220117BHJP
   H04L 27/26 20060101ALI20220117BHJP
   H03F 1/32 20060101ALI20220117BHJP
   H04B 1/04 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
H04L27/01
H04L27/26 310
H03F1/32
H04B1/04 R
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2016182301
(22)【出願日】2016-09-16
(65)【公開番号】P2018046534
(43)【公開日】2018-03-22
【審査請求日】2019-06-24
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】505196303
【氏名又は名称】株式会社エディックシステムズ
(74)【代理人】
【識別番号】100137338
【弁理士】
【氏名又は名称】辻田 朋子
(72)【発明者】
【氏名】門脇 良悦
(72)【発明者】
【氏名】芹澤 充男
【審査官】吉江 一明
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-086440(JP,A)
【文献】特開2008-252256(JP,A)
【文献】特開2010-045791(JP,A)
【文献】特表2011-521508(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2009/0129257(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04L 27/01
H04L 27/26
H03F 1/32
H04B 1/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
送信機器のRF部で生じる歪みを補正処理する送信回路であって、
送信データを、QAM変調方式を用いてマッピングし、周波数方向に一定間隔で配置されたパイロットシンボルを付加したOFDMシンボルを生成して、送信信号を生成する信号発生部と、
前記送信信号に基づくRF信号を受け取るデータ格納部と、
前記RF信号に配置された複数のパイロットシンボル毎に、基準となる信号点である基準点にパイロットシンボルを移動させる歪み補正係数として、IQ平面における前記基準点及び前記パイロットシンボルの電力比並びに、同様の前記基準点及び前記パイロットシンボルの位相角の差分である位相角差分を算出し、前記送信信号を前記歪み補正係数に基づいて補正する歪み補正部と、を備え、
前記RF信号は、前記送信信号を、RF部のパワーアンプで電力増幅した信号であり、
前記歪み補正部は、前記送信信号に配置され、前記補正係数の算出に用いた前記パイロットシンボルと時間方向又は周波数方向で連続したパイロットシンボルの信号点を、前記補正係数の算出に用いた前記パイロットシンボルの歪み補正係数に基づいて補正すると共に、前記送信信号に配置された前記パイロットシンボルと周波数方向で連続するキャリアの信号点を、前記歪み補正係数に基づいて補正することを特徴とする送信回路。
【請求項2】
前記歪み補正部は、あるパイロットシンボルであるOFDMシンボルについて生成された前記歪み補正係数を用いて、後続のデータシンボル及び後続のパイロットシンボルを含む複数のOFDMシンボルに対して、歪み補正処理を行うことを特徴とする請求項1に記載の送信回路。
【請求項3】
前記歪み補正部は、OFDMシンボルについて再度前記歪み補正係数の生成を行って歪み補正係数を更新し、更新された前記歪み補正係数を用いて、後続のOFDMシンボルに対して、歪み補正処理を行うことを特徴とする請求項2に記載の送信回路。
【請求項4】
請求項1~3の何れかに記載の送信回路と、前記送信信号をパワーアンプで増幅してRF信号を出力するRF部と、を備えた送信機器。
【請求項5】
送信機器のRF部で生じる歪みを補正処理するRF信号の歪み補正方法であって、
信号発生部において、送信データを、QAM変調方式を用いてマッピングし、時間及び周波数方向に一定間隔で配置されたパイロットシンボルを付加したOFDMシンボルを生成して、送信信号を生成する処理と、
前記送信信号をRF部に出力し、RF部から前記送信信号に基づくRF信号を受け取る処理と、
歪み補正部において、前記RF信号に配置された複数のパイロットシンボル毎に、パイロットシンボルを基準となる信号点である基準点に移動させる歪み補正係数として、IQ平面における前記基準点及び前記パイロットシンボルの電力比並びに、同様の前記基準点及び前記パイロットシンボルの位相角の差分である位相角差分を算出し、前記送信信号を前記歪み補正係数に基づいて補正する処理と、を備え、
前記RF信号は、前記送信信号を、RF部のパワーアンプで電力増幅した信号であり、
前記歪み補正部は、前記送信信号に配置され、前記補正係数の算出に用いた前記パイロットシンボルと時間方向又は周波数方向で連続したパイロットシンボルの信号点を、前記補正係数の算出に用いた前記パイロットシンボルの歪み補正係数に基づいて補正すると共に、前記パイロットシンボルに隣接するキャリアの信号点を、前記歪み補正係数に基づいて補正することを特徴とするRF信号の歪み補正方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、RF部において生じる歪みを補正する送信回路、送信機器に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、伝送容量拡大のため、QAM(Quadrature Amplitude Modulation)変調方式での多値化が進んでいる。多値化が進むことで平均電力に対する信号点間隔が狭くなるため、誤り率が高くなってしまう。
【0003】
誤り率の低減に向け、誤り訂正方式の高度化や位相雑音による伝送品質の劣化防止等の技術向上が行われている。例えば、信号レベル調整装置、通信装置及び信号レベル調整方法として、FFT(Fast Fourier Transform)による高速フーリエ変換後、不平衡成分を算出して各キャリアの送信レベルの制御を行う方法が知られている(特許文献1)。
【0004】
また、ループバック遅延推定装置及びループバック遅延推定方法として、複素演算処理を用いて元信号とフィードバック信号の位相差を検出して初期位相を補正する技術が知られている(特許文献2)。
【0005】
また、デジタル無線受信機複素演算処理を用いて元信号とフィードバック信号の位相差を検出して初期位相を補正する技術が知られている(特許文献3)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2005-159940号公報
【文献】特開2006-186863号公報
【文献】特開2008-199200号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、前述した従来の技術は、受信機側での補正を目的としたものであり、送信機側での伝送品質の向上にそのまま適用することはできない。
【0008】
送信信号は、送信機器のRF部におけるパワーアンプや伝送線等で発生する歪の影響を受ける。前述のように、QAM数を増大させることで、平均電力に対する信号点間隔が狭くなるため、誤り率が高くなってしまう。そのため、QAM数を増大させる為に、高い精度を備えた送信機器が要求されている。しかしながら、誤り率を低下させるためには、高品質なパワーアンプなどを使用してRF部での歪みの影響を抑える必要がある。
【0009】
本発明は、このような従来の問題点に鑑みてなされたものであり、RF部のパワーアンプ品質等に寄らず、送信機器における伝送品質を効果的に向上するための歪み補正方法を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題を解決するために、本発明は、RF信号を受け取り、送信機器のRF部で生じる歪みを補正するための補正処理を行う送信回路であって、送信データに基づいて送信信号を生成する信号発生部と、前記送信信号に基づくRF信号を受け取るデータ格納部と、前記RF信号に基づいて歪み補正係数を生成し、前記送信信号を補正する歪み補正部と、を備えることを特徴とする。
【0011】
このような構成とすることで、信号発生部とRF部から構成される送信機器において、RF部の伝送路の伝送線に依存した歪みを送信機器の信号発生部で補正し、RF部を通じて送信される信号を、より高い伝送品質で送出することができる。
【0012】
本発明の好ましい形態では、前記RF信号は、少なくとも、前記送信回路からの出力信号を、RF部のパワーアンプで電力増幅した信号であることを特徴とする。
このような構成とすることで、RF部の伝送路の伝送線に依存した歪み及び/又はパワーアンプの特性に依存した歪を送信機器の信号発生部で補正し、RF部を通じて送信される信号を、より高い伝送品質で送出することができる。
【0013】
本発明の好ましい形態では、前記歪み補正部は、前記RF信号の直交成分及び同相成分をフーリエ変換するフーリエ変換部と、前記フーリエ変換部での処理結果から得られた少なくとも一部の信号点における電力及び位相に基づいて、前記歪み補正係数を生成する歪み補正係数生成部と、前記歪み補正係数に基づいて、前記送信信号の各信号点に補正を行う歪み補正係数付加部と、を備えることを特徴とする。
【0014】
本発明の好ましい形態では、前記歪み補正係数生成部は、補正を行うための基準点の電力及び位相と、前記フーリエ変換部での処理結果から得られた少なくとも一部の信号点における電力及び位相と、に基づいて、歪み補正係数として前記信号点を移動させる為の電力比及び位相角差分を算出することを特徴とする。
【0015】
本発明の好ましい形態では、前記信号発生部で生成した生成した信号種に応じた基準単位には複数のパイロットが備えられ、前記歪み補正係数付加部は、前記基準点の電力及び位相と、前記パイロットの信号における電力及び位相と、に基づいての前記歪み補正係数を算出し、前記歪み補正係数付加部は、前記歪み補正係数を用いて、前記送信信号の各信号点に補正処理を行うことを特徴とする。
このような構成とすることで、コンスタレーションにおいて、予め挿入位置が決定されているパイロットシンボルの位置に応じて補正が必要な電力比及び位相角差分を算出することができ、より正確かつ効率的に補正を行うことができる。
【0016】
本発明の好ましい形態では、前記歪み補正係数付加部は、ある時点において前記基準単位に含まれる信号を用いて算出された歪み補正係数に基づいて、その後に生成された基準単位における対応する信号の補正処理を行うことを特徴とする。
このような構成とすることで、補正係数を、信号を生成する都度算出する必要がなくなり、効率的に信号の歪みを補正することができる。
【0017】
本発明の好ましい形態では、前記歪み補正部は、所定のタイミングで歪み補正係数の更新を行うことを特徴とする。
このような構成とすることで、伝送線やパワーアンプにおける歪みの影響が、周辺の気温や湿度など変化によって変化した際に、補正係数をより適切な最新の値に更新することができる。例えば所定の時間間隔で更新を行うことで、周囲の環境変化に対応した補正係数を算出することができる。
【0018】
本発明の好ましい形態では、前記基準単位の送信信号は、OFDMシンボルであって、
パイロットキャリアに基づいて算出された歪み補正係数の少なくも一部は、前記パイロットキャリアと隣接するキャリアの少なくとも一方のキャリアの補正に利用されることを特徴とする。
このような構成とすることで、信号発生部においてどの位置にマッピングされていたかわからないデータシンボル等を補正することができる。また、すべてのキャリアのシンボルについて補正係数を算出する必要がなくなるため、効果的に補正係数を算出することができる。
【0019】
本発明は、送信機器であって、前記送信回路と、RF部と、を備えることを特徴とする。
【0020】
本発明は、RF信号を受け取り、RF部で生じる歪みを補正するための補正処理を行うRF信号の歪み補正方法であって、
信号発生部において、送信データに基づいて送信信号を生成する処理と、
生成した送信信号をRF部に出力し、RF部からRF信号を受け取る処理と、
歪み補正部において、受け取ったRF信号に基づいて歪み補正係数を生成し、前記歪み補正係数に基づいて前記送信信号に補正を加える処理と、を備えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、送信機器における伝送品質を効果的に向上するための歪み補正方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】従来の一実施形態に関る送信機器の機能ブロック図である。
図2】従来の一実施形態に関る送信機器の信号発生部において生成したIF信号のコンスタレーションである。
図3】従来の一実施形態に関る送信機器の信号発生部において生成したIF信号の電力スペクトルである。
図4】従来の一実施形態に関る送信機器のRF部におけるRF信号のコンスタレーションである。
図5】従来の一実施形態に関る送信機器のRF部におけるRF信号の電力スペクトルである。
図6】本発明の実施形態に関る送信機器の機能ブロック図である。
図7】本発明の実施形態に関るCPキャリアのコンスタレーションである。
図8】本発明の実施形態に関る信号点を補正する際のコンスタレーションを示す図である。
図9】本発明の実施形態に関る歪み補正係数テーブルの一例である。
図10】本発明の実施形態に関る送信回路の処理フローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、図面を用いて、本発明の実施形態に関る送信機器について説明する。なお、以下に示す実施形態は本発明の一例であり、本発明を以下の実施形態に限定するものではなく、様々な構成を採用することもできる。
【0024】
例えば、本実施形態では送信機器の構成、動作などについて説明するが、同様の構成の送信回路、送信方法なども、同様の作用効果を奏することができる。
【0025】
具体例を述べるにあたり、本例では、OFDM(Orthogonal Frequency Division Multiplexing)によるマルチキャリア通信を行うための送信キャリアとして、周波数軸上の1721個のキャリアによって送信波を構成する場合について例示する。なお、ARIB STD-B57 2.0版に基づいて、伝送パラメータは規格フルモードのFFTポイント数2048ポイントで、キャリア変調方式が16QAM、パイロットはCP(Continual Pilot)の場合について例示する。規格、伝送パラメータ、パイロットは任意であり、本発明は上記の構成に限定されない。
【0026】
また、本実施形態では、信号発生部から出力されたデジタル信号に歪み補正を行う場合について例示するが、アナログ信号に対して歪み補正を行っても構わない。
【0027】
<従来の送信機器>
図1は、一実施形態における従来技術の送信機器の機能ブロック図である。送信機器1Cは、信号発生部2Cと、RF部3Cと、アンテナANTと、を備えている。
【0028】
信号発生部2Cは、信号生成部4と、ガードインターバル付加部6と、逆フーリエ変換部7と、DAコンバータ8と、変調部9と、を備えている。
【0029】
信号生成部4は、入力された送信データを、BPSKやQAMなどのデジタル変調を用いて各OFDMサブキャリアへマッピングし、OFDMパイロットを追加する。そしてガードインターバル付加部6においてガードインターバルを付加して、逆フーリエ変換部7へ出力する。
【0030】
逆フーリエ変換部7は、入力された周波数領域の信号に逆フーリエ変換を適用して時間領域の信号に変換する。変換された信号は、DAコンバータ8及び変調部9を通じてIF(Intermediate Frequency)信号に変換され、RF部3Cに出力される。
【0031】
RF部3Cは、アンプ31と、バンドパスフィルタ32と、アップコンバータ33と、パワーアンプ34と、を備えている。信号発生部2Cにおいて逆フーリエ変換部7にて逆フーリエ変換後、変調して出力されたIF信号は、RF部3Cに入力される。入力されたIF信号は、RF部3Cの伝送路の伝送線を通して、アップコンバータ33及びパワーアンプ34を経由して出力信号に変換され、アンテナANTから送信される。IF信号は、アップコンバータ33において周波数変換され、パワーアンプ34において電力増幅される。
【0032】
図2及び図3は、送信機器1Cの信号発生部2Cにおいて生成したIF信号のコンスタレーション及び電力スペクトルである。また、図4及び図5は、RF部3Cの伝送線、アップコンバータ33、パワーアンプ34を通過した出力信号(RF信号)のコンスタレーション及び電力スペクトルである。
【0033】
送信機器1Cの信号発生部2Cから発生したIF信号のコンスタレーションは、歪みが無く、また、電力スペクトルから周波数特性が見られない、品質の良い信号となっている。一方で、RF部3Cで変換された出力信号では、RF部3Cを構成する伝送線、パワーアンプ等の周波数特性の影響を受ける。そのため、コンスタレーションに歪みが生じ、電力スペクトルには周波数特性が見られる品質の悪い信号となっている。
【0034】
<本発明の送信機器>
図6は、本発明の実施形態に関る送信機器の機能ブロック図である。送信機器1は、信号発生部2と、RF部3と、アンテナANTと、を備えている。
【0035】
信号発生部2は、信号生成部4と、歪み補正部5と、ガードインターバル付加部6と、逆フーリエ変換部7と、DAコンバータ8と、変調部9と、データ格納部10と、を備えている。
【0036】
RF部3は、アンプ31と、バンドパスフィルタ32と、アップコンバータ33と、パワーアンプ34と、方向性結合器35と、ダウンコンバータ36と、ADコンバータ37と、を備えている。
【0037】
<歪み補正部>
歪み補正部5は、フーリエ変換部51と、歪み補正係数生成部52と、歪み補正係数付加部53と、を備えている。
【0038】
信号発生部2から逆フーリエ変換部7にて逆フーリエ変換後、変調して出力された信号(基準単位の信号)はRF部3に送られる。RF部3のパワーアンプ34から出力された出力信号(RF信号)は、方向性結合器35によってダウンコンバータ36に入力され、ダウンコンバータ36にてダウンコンバートされ、ADコンバータ37によってデジタル変換され、信号発生部2に入力される。
【0039】
<歪み補正係数の算出>
方向性結合器35を通じて返送された出力信号(RF信号)の直交成分及び同相成分のデータは、データ格納部10に格納される。そして、出力信号データをフーリエ変換部51に入力し、周波数領域の信号にフーリエ変換して、歪み補正係数生成部52で歪み補正係数を生成する。
【0040】
フーリエ変換部51では、2048ポイントで出力信号データ(基準単位の信号データ)がフーリエ変換され、キャリアインデックス0~1720までの各キャリアの周波数成分が算出される。ここで、キャリアインデックス0、8、16、24・・・1712、1720のキャリアは、CPキャリアである。
【0041】
図7は、出力信号データのうち、CPキャリアを抜き出して、IQ平面上にプロットした際の図である。図示例のように、出力信号データの各キャリアは、RF部3の周波数特性によって、振幅変動及び位相回転が生じてプロットされる。CPはプロットされたパイロットを示し、P0は、歪みを補正するための基準点を示す。
【0042】
本例では、算出した各CPキャリアの出力信号データのうち、同相成分が最大となる点を基準点とする。基準点の決定方法は任意であり、例えば、各CPキャリアの出力信号データのうち、直交成分の絶対値が最小となる点を基準点としたり、各CPキャリアのキャリアインデックスと規定の振幅に基づいて、規格として指定されたパイロットの座標(本例では、±4/3)を基準点としてもよい。
【0043】
歪み補正係数生成部52は、この基準点に対して、各パイロットの歪みを算出する。図8を用いて、I-Q平面上の信号点Cに対して、信号点Aを移動させる場合について説明する。図8は、信号点を補正する際のコンスタレーションを示す図である。信号点Aを信号点Cに移動させる為に、フーリエ変換部51において出力信号データをフーリエ変換後、各信号点の電力並びに位相角を求める。
【0044】
式(1)はI-Q平面における原点から信号点Aまでの距離(D)、即ち信号点の電力を示している。ここで、REは信号点AのRE軸の値を、IMは信号点AのIM軸の値を示している。式(2)はI-Q平面における原点から信号点Cまでの距離(D)を示している。ここで、REは信号点CのRE軸の値を、IMは信号点CのIM軸の値を示している。式(3)は、信号点Aの電力を信号点Cの電力に補正するための電力比αCAを表している。
【0045】
【数1】
【0046】
【数2】
【0047】
【数3】
【0048】
式(4)は、信号点Aの位相角を信号点Cの位相角に補正する為の位相角差分θCAを表している。ここで、θは信号点Cの位相角を、θは信号点Aの位相角を示している。
【0049】
【数4】
【0050】
式(5)は、信号点Aを信号点Cに回転させる場合の行列式である。式(5)を展開し、式(3)で求めた電力比αCA及び、式(4)で求めた位相角差分θCAを用いることで、信号点Aを信号点Cに移動することができる。式(6)は、信号点Aを信号点C移動させる際の同相データの移動量の式を示している。式(7)は、信号点Aを信号点C移動させる際の直交データの移動量の式を示している。
【0051】
【数5】
【数6】
【数7】
【0052】
算出した歪み補正係数は、図9に示すように、歪み補正係数テーブルとして保持される。歪み補正係数付加部53は、信号生成部4で生成された送信データに符号化を行い、マッピングしてパイロットを付加した後、歪み補正係数を付加する。
【0053】
キャリアインデックスが0~7のキャリアには、キャリアインデックスが0のパイロットキャリア(CPキャリア)の歪み補正係数(図示例におけるα0及びθ0)を用いて、キャリアインデックスが8~15のキャリアには、キャリアインデックスが8のパイロットキャリア(CPキャリア)の歪み補正係数(図示例におけるα1及びθ1)を用いて、歪み補正係数の付加が行われる。
【0054】
歪み補正係数が付加された信号は、ガードインターバル付加部6においてGIを付加後、逆フーリエ変換部7で逆フーリエ変換後、変調部9で変調され、IF信号としてRF部3に送信される。歪み補正が行われた信号に基づくRF信号のコンスタレーションは、図2に示すようなIF信号のコンスタレーションに近い信号点となる。
【0055】
次いで、図10を用いて、歪み補正部を備えた送信回路の動作について説明する。ステップS1では、送信機器1が起動される。送信機器が起動されると、送信データが発生して信号生成部4に入力される(ステップS2)。
【0056】
信号生成部4に送信データが入力されると、送信データがコンスタレーションにマッピングされ(ステップS3)、OFDMフォーマットパイロットとしてCPを有するOFDMシンボルが構成される(ステップS4)。
【0057】
ステップS5では、歪み補正係数の算出条件にあたるか否かが判断される。歪み補正係数の算出を行う場合とは、例えば、送信機器1の起動後(最初の歪み補正係数を算出する場合)や、歪み補正係数の更新を行う場合である。歪み補正係数の更新は、例えば、一定時間経過後に、温度や湿度などの変化による歪みの振幅変動や位相回転の変化に対応する為に行われる。
【0058】
歪み補正係数の算出条件に該当する場合(ステップS5でYes)、ステップS6に進む。歪み補正係数を算出する場合、方向性結合器35、ダウンコンバータ36、ADコンバータ37を通じて、ステップS4で生成したOFDMシンボルの出力信号を変換し(ステップS6)、基準単位の出力信号データとしてデータ格納部へ格納する(ステップS7)。
【0059】
そして格納した基準単位の出力信号データに基づいて、歪み補正係数を算出する(ステップS8)。歪み補正係数が算出されたならば、信号生成部4で生成されたOFDMシンボルに、歪み補正係数を付加する(ステップS9)。
【0060】
歪み補正係数が付加されたならば、ガードインターバル付加部6においてガードインターバルを付加して、逆フーリエ変換部7において逆フーリエ変換を適用して時間領域の信号に変換する。変換された信号は、DAコンバータ8及び変調部9を通じてIF信号に変換され、RF部3Cに出力される(ステップS10)。
【0061】
送信機器1が停止した場合(ステップS11でYes)、処理を終了する。送信機器1が起動している場合(ステップS11でNo)、S2~S10の処理を繰り返し、RF部3に基準単位ごとに補正処理が行われたIF信号を送出する。また、所定の時間間隔で歪み補正係数を更新し(ステップS5)、更新された歪み補正係数を用いてステップS9における歪み補正係数の付加が行われる。
【符号の説明】
【0062】
1 送信機器
1C 従来の送信機器
2 信号発生部
2C 従来の信号発生部
3 RF部
3C 従来のRF部
31、31a、31b アンプ
32、32a、32b、32c バンドパスフィルタ
33 アップコンバータ
34 パワーアンプ
35 方向性結合器
36 ダウンコンバータ
37 ADコンバータ
4 信号生成部
5 歪み補正部
51 フーリエ変換部
52 歪み補正係数生成部
53 歪み補正係数付加部
6 ガードインターバル付加部
7 逆フーリエ変換部
8 DAコンバータ
9 変調部
10 データ格納部
ANT アンテナ
CP パイロット(CP)
P0 基準点
A,B 信号点
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10