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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】金属酸化物ナノ粒子及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 25/02 20060101AFI20220117BHJP
   C01B 13/32 20060101ALI20220117BHJP
   C01G 23/053 20060101ALI20220117BHJP
   C09C 1/36 20060101ALI20220117BHJP
   C09C 3/08 20060101ALI20220117BHJP
   C09C 1/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
C01G25/02
C01B13/32
C01G23/053
C09C1/36
C09C3/08
C09C1/00
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2017161183
(22)【出願日】2017-08-24
(65)【公開番号】P2019038713
(43)【公開日】2019-03-14
【審査請求日】2020-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】504258527
【氏名又は名称】国立大学法人 鹿児島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100168114
【弁理士】
【氏名又は名称】山中 生太
(74)【代理人】
【識別番号】100133592
【弁理士】
【氏名又は名称】山口 浩一
(74)【代理人】
【識別番号】100162259
【弁理士】
【氏名又は名称】末富 孝典
(72)【発明者】
【氏名】金子 芳郎
【審査官】神野 将志
(56)【参考文献】
【文献】特開2010-138020(JP,A)
【文献】特表2013-515603(JP,A)
【文献】特開2013-139386(JP,A)
【文献】特開2017-218377(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 25/02
C01B 13/32
C01G 23/053
C09C 1/36
C09C 3/08
C09C 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ジルコニウム又は酸化チタンを含有する粒子と、
前記粒子の表面に存在する、フルオロアルキル基を含む酸の共役塩基成分と、
を含む、金属酸化物ナノ粒子。
【請求項2】
前記粒子は、
酸化ジルコニウムを含有し、
ジルコニウム原子と前記共役塩基成分とのモル比が、
1:0.5~0.7である、
請求項1に記載の金属酸化物ナノ粒子。
【請求項3】
前記粒子は、
酸化チタンを含有し、
チタン原子と前記共役塩基成分とのモル比が、
1:0.2~0.5である、
請求項1に記載の金属酸化物ナノ粒子。
【請求項4】
平均粒径が2~7nmである、
請求項1から3のいずれか一項に記載の金属酸化物ナノ粒子。
【請求項5】
ジルコニウムアルコキシド又はチタンアルコキシドを、溶媒に含まれるフルオロアルキル基を含む酸を触媒として加水分解及び縮合反応させる反応ステップと、
前記溶媒を除去し、固体生成物を得る乾燥ステップと、
前記固体生成物を加熱する加熱ステップと、
を含
前記反応ステップでは、1.0当量の前記ジルコニウムアルコキシドに対して、1.0~20.0当量の前記フルオロアルキル基を含む酸を反応させ、1.0当量の前記チタンアルコキシドに対して、1.0~10.0当量の前記フルオロアルキル基を含む酸を反応させる、
金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項6】
前記フルオロアルキル基を含む酸は、
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである、
請求項5に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【請求項7】
前記反応ステップでは、
ジルコニウムアルコキシドを、溶媒に含まれるトリフルオロメタンスルホン酸又はトリフルオロ酢酸を触媒として加水分解及び縮合反応させる、
請求項5に記載の金属酸化物ナノ粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化物ナノ粒子及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
透明プラスチックは、エレクトロニクス分野において欠かせない光学材料である。しかし、透明プラスチックは、無機光学ガラスに比べると屈折率、熱膨張率及び耐熱性の面で劣ってしまう。そこで、屈折率の高い無機材料である酸化ジルコニウム(ZrO)又は酸化チタン(TiO)等の金属酸化物ナノ粒子を透明プラスチック中に分散させる、いわゆる有機-無機ハイブリッド材料が、主に屈折率の向上の点で期待されている。
【0003】
屈折率の異なる2種類の物質が可視光波長である数百nm程度の大きさで複合化されると、光学的な散乱が起こるために濁ってしまい透明材料として利用できない。光学的な散乱が起こらないハイブリッド材料を創製するためには、可視光波長よりも十分に小さい数nm~数十nmの粒径で、安定に分散する金属酸化物ナノ粒子の合成が非常に重要になる。
【0004】
ZrO及びTiO等の金属酸化物ナノ粒子は、表面自由エネルギーが大きく、水又は有機溶媒中で凝集しやすい。このため、金属酸化物ナノ粒子の分散性を向上させるために分散剤が用いられる。例えば、非特許文献1には、シランカップリング剤の加水分解及び縮合反応により得られるシルセスキオキサンが表面修飾されたTiO及びZrOのナノ粒子が開示されている。該ナノ粒子は、水に高度に分散する。さらに、ナノ粒子の分散剤として、非特許文献2及び非特許文献3では、それぞれ有機ホスホン酸及び界面活性剤が利用されている。
【0005】
特許文献1には、高度に分散され、凝集が少なく透明性が高い金属酸化物微粒子分散物が開示されている。該金属酸化物微粒子分散物は、金属酸化物微粒子と、強酸とを、アルコールを含む水溶液中で分散させることで得られる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2008-239461号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Yoshiro Kaneko、「Preparation of Highly Water-Dispersible Titanium-Silicon Binary Oxide Materials by Sol-Gel Method」、2011年、Journal of Nanoscience and Nanotechnology、11、2458
【文献】Shiori Takahashi、外5名、「Modification of TiO2 Nanoparticles with Oleyl Phosphate via Phase Transfer in the Toluene-Water System and Application of Modified Nanoparticles to Cyclo-Olefin-Polymer-Based Organic-Inorganic Hybrid Films Exhibiting High Refractive Indices」、2017年、ACS Applied Materials & Interfaces、9、1907
【文献】Pacia M、外2名、「UV and visible light active aqueous titanium dioxide colloids stabilized by surfactants」、2014年、Dalton Transactions、43、12480
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかし、特許文献1に開示された金属酸化物微粒子分散物は、有機溶媒中でも分散するか否かが不明である。また、当該金属酸化物微粒子分散物は、分散液中に「強酸」を含むため、水溶液のpHが強酸性であると考えられる。その場合、酸に弱い樹脂とのハイブリッド化は困難である。さらに、当該金属酸化物微粒子分散物は、固体生成物を単離した後でも再分散するかどうか不明である。このため、特許文献1に開示された金属酸化物微粒子分散物では、ハイブリッド材料の原料としての利用が制限されるおそれがある。
【0009】
非特許文献1~3に開示された分散剤は、炭化水素等の有機成分が含まれているため、耐熱性の面で課題がある。
【0010】
本発明は、上記実情に鑑みてなされたものであり、水及び有機溶媒の両方に分散し、かつ耐熱性に優れる金属酸化物ナノ粒子及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1の観点に係る金属酸化物ナノ粒子は、
酸化ジルコニウム又は酸化チタンを含有する粒子と、
前記粒子の表面に存在する、フルオロアルキル基を含む酸の共役塩基成分と、
を含む。
【0012】
この場合、前記粒子は、
酸化ジルコニウムを含有し、
ジルコニウム原子と前記共役塩基成分とのモル比が、
1:0.5~0.7である、
こととしてもよい。
【0013】
また、前記粒子は、
酸化チタンを含有し、
チタン原子と前記共役塩基成分とのモル比が、
1:0.2~0.5である、
こととしてもよい。
【0014】
また、上記本発明の第1の観点に係る金属酸化物ナノ粒子は、
平均粒径が2~7nmである、
こととしてもよい。
【0015】
本発明の第2の観点に係る金属酸化物ナノ粒子の製造方法は、
ジルコニウムアルコキシド又はチタンアルコキシドを、溶媒に含まれるフルオロアルキル基を含む酸を触媒として加水分解及び縮合反応させる反応ステップと、
前記溶媒を除去し、固体生成物を得る乾燥ステップと、
前記固体生成物を加熱する加熱ステップと、
を含み、
前記反応ステップでは、1.0当量の前記ジルコニウムアルコキシドに対して、1.0~20.0当量の前記フルオロアルキル基を含む酸を反応させ、1.0当量の前記チタンアルコキシドに対して、1.0~10.0当量の前記フルオロアルキル基を含む酸を反応させる
【0016】
この場合、前記フルオロアルキル基を含む酸は、
ビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドである、
こととしてもよい。
【0017】
また、前記反応ステップでは、
ジルコニウムアルコキシドを、溶媒に含まれるトリフルオロメタンスルホン酸又はトリフルオロ酢酸を触媒として加水分解及び縮合反応させる、
こととしてもよい。
【発明の効果】
【0018】
本発明に係る金属酸化物ナノ粒子は、水及び有機溶媒の両方に分散し、かつ耐熱性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0019】
図1】実施例1で合成したZrOナノ粒子の赤外吸収(IR)スペクトルを示す図である。
図2】実施例1で合成したZrOナノ粒子のエネルギー分散型X線(EDX)スペクトルを示す図である。
図3】実施例1で合成したTiOナノ粒子のIRスペクトルを示す図である。
図4】実施例1で合成したTiOナノ粒子のEDXスペクトルを示す図である。
図5】実施例1で合成したZrOナノ粒子の分散液の写真を示す図である。
図6】実施例1で合成したZrOナノ粒子の種々の溶媒における分散液の可視・紫外吸収(UV-Vis)スペクトルを示す図である。
図7】実施例1で合成したTiOナノ粒子の分散液の写真を示す図である。
図8】実施例1で合成したTiOナノ粒子の種々の溶媒における分散液のUV-Visスペクトルを示す図である。
図9】実施例1で合成したZrOナノ粒子のアセトン分散液に関する動的光散乱法(DLS)で得られたヒストグラムを示す図である。(a)及び(c)は、それぞれ0.5w/v%及び1.0w/v%の濃度の分散液の散乱強度の分布を示す図である。(b)及び(d)は、それぞれ0.5w/v%及び1.0w/v%の濃度の分散液の個数分布を示す図である。
図10】実施例1で合成したTiOナノ粒子のアセトン分散液に関するDLSで得られたヒストグラムを示す図である。(a)及び(c)は、それぞれ0.5w/v%及び1.0w/v%の濃度の分散液の散乱強度の分布を示す図である。(b)及び(d)は、それぞれ0.5w/v%及び1.0w/v%の濃度の分散液の個数分布を示す図である。
図11】実施例1及び実施例5で合成したZrOナノ粒子のEDXスペクトルを示す図である。(a)、(b)、(c)及び(d)は、ジルコニウムテトラn-ブトキシド(ZTB)にビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(HNTf)をそれぞれ1.0、2.0、5.0及び10.0当量加えて合成したZrOナノ粒子のEDXスペクトルを示す図である。
図12】実施例1及び実施例6で合成したTiOナノ粒子のEDXスペクトルを示す図である。(a)、(b)、(c)及び(d)は、チタンテトラn-ブトキシド(TTB)に、HNTfをそれぞれ2.0、3.0、4.0及び5.0当量加えて合成したTiOナノ粒子のEDXスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明に係る実施の形態について説明する。なお、本発明は下記の実施の形態によって限定されるものではない。
【0021】
(実施の形態)
本実施の形態に係る金属酸化物ナノ粒子は、ZrO又はTiOを含有する粒子と、当該粒子の表面に存在する、フルオロアルキル基を含む酸の共役塩基成分と、を含む。
【0022】
上記粒子は、より詳細には、ZrO又はTiOを含むナノ粒子である。当該粒子は、TiO及びZrOのいずれか一方を含有してもよいし、両方を含有してもよい。
【0023】
フルオロアルキル基を含む酸としては、例えば、ビス(フルオロスルホニル)イミド、ビス(ジフルオロホスホニル)イミド、HNTf、フルオロメタンスルホン酸、ジフルオロメタンスルホン酸、トリフルオロメタンスルホン酸(TFSA)、フルオロ酢酸、ジフルオロ酢酸、トリフルオロ酢酸(TFA)、ヘキサフルオロリン酸及びテトラフルオロホウ酸等が挙げられる。
【0024】
より具体的には、フルオロアルキル基を含む酸がHNTf(化学式(CFSONH)の場合、当該酸の共役塩基成分は化学式(CFSOで表される成分である。
【0025】
フルオロアルキル基を含む酸の共役塩基成分がZrO又はTiOを含有する粒子の表面に存在するとは、共役塩基成分が粒子の少なくとも一部を被覆している状態、又は共役塩基成分の少なくとも一部が粒子から露出している状態を含む。好ましくは、金属酸化物ナノ粒子において、共役塩基成分の少なくとも一部が粒子に含まれる分子と結合して、粒子表面に露出している。
【0026】
粒子に含まれる金属酸化物の金属原子と共役塩基成分とのモル比は特に限定されない。粒子がZrOを含有する場合、例えば、ジルコニウム原子と共役塩基成分とのモル比は、1:0.2~1、好ましくは1:0.5~0.7、より好ましくは1:0.6である。
【0027】
粒子がTiOを含有する場合、例えば、チタン原子と共役塩基成分とのモル比は、1:0.2~1、好ましくは1:0.2~0.5、より好ましくは1:0.3である。
【0028】
粒子に含まれる金属酸化物の金属原子と上記共役塩基成分とのモル比は、公知の方法で決定できる。好ましくは、金属原子と共役塩基成分とのモル比は、EDXを用いて決定される。
【0029】
本実施の形態に係る金属酸化物ナノ粒子の平均粒径は、数十nm以下であれば特に限定されないが、例えば、0.1~80nm、0.5~50nm、1~30nm又は2~20nmである。好適には、金属酸化物ナノ粒子の平均粒径は、2~7nmである。より詳細には、粒子がZrOを含有する場合、金属酸化物ナノ粒子の平均粒径は、1~5nm、好ましくは2~4nmである。一方、粒子がTiOを含有する場合、金属酸化物ナノ粒子の平均粒径は、4~7nm、好ましくは5~6nmである。
【0030】
金属酸化物ナノ粒子の粒径は、公知の方法、例えば、ふるい分け法、沈降法、顕微鏡法、光散乱法、DLS、レーザー回折・散乱法及び電気的抵抗試験等で測定できる。粒径は、測定方法に応じて、ストーク相当径、円相当径、球相当径で表すことができる。また、粒径は、複数の粒子を測定対象として、その平均で表した個数平均粒径、体積平均粒径、面積平均粒径等であってもよい。例えば、個数平均粒径は、レーザー回折・散乱法等の測定に基づく個数分布等から算出される平均粒径である。具体的には、粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒径である50%径(D50)を平均粒径としてもよい。
【0031】
次に、本実施の形態に係る金属酸化物ナノ粒子に好ましい製造方法の一例について説明する。金属酸化物ナノ粒子の製造方法は、反応ステップと、乾燥ステップと、加熱ステップと、を含む。反応ステップでは、ジルコニウムアルコキシド又はチタンアルコキシドを、溶媒に含まれるフルオロアルキル基を含む酸を触媒として加水分解及び縮合反応させる。
【0032】
ジルコニウムアルコキシドは、一般式Zr(OR)で示され、加水分解によってZrOを生じさせるものであれば特に限定されない。式中の(OR)の一部がアセチルアセトネート(C)やエチルアセトアセテート(C)で置換されていてもよい。好ましくは、ジルコニウムアルコキシドは、アルコキシドのR部分が低級(好ましくはC1-6)アルキル基のものである。
【0033】
より具体的には、ジルコニウムアルコキシドとしては、ジルコニウムテトラエトキシド、ジルコニウムテトライソプロポキシド、ZTB、ジルコニウムトリブトキシモノアセチルアセトネート、ジルコニウムジブトキシビス(エチルアセトアセテート)、ジルコニウムモノブトキシアセチルアセトネートビス(エチルアセトアセテート)及びそれらの混合物が挙げられる。好適には、ジルコニウムアルコキシドは、ZTBである。
【0034】
チタンアルコキシドは、一般式:Ti(OR)で示され、加水分解によってTiOを生じさせるものであれば特に限定されない。式中の(OR)の一部がアセチルアセトネート(C)やエチルアセトアセテート(C)で置換されていてもよい。好ましくは、チタンアルコキシドは、アルコキシドのR部分が低級(好ましくはC1-6)アルキル基であるものである。
【0035】
より具体的には、チタンアルコキシドとしては、チタンテトラエトキシド、チタンテトライソプロポキシド、チタンテトラn-プロポキシド、TTB、チタンテトラメトキシド、チタンジイソプロポキシビス(アセチルアセトネート)、チタンジイソプロポキシビス(エチルアセトアセテート)及びそれらの混合物が挙げられる。好適には、チタンアルコキシドはTTBである。
【0036】
反応ステップで用いられる溶媒は、ジルコニウムアルコキシド又はチタンアルコキシドの加水分解及び縮合反応を妨げない限り特に限定されない。例えば、水とアルコールとの混合溶媒を用いることができる。混合溶媒のアルコールとしては、アルキル基が短いアルコール、例えばメタノール、エタノール及びプロパノールが挙げられる。アルコールとしてメタノールを用いる場合、水とメタノールの割合は体積比で1:15~25、1:18~22、好ましくは1:19である。
【0037】
フルオロアルキル基を含む酸の濃度は特に限定されず、適宜調整すればよく、例えば0.1~1mol/L、0.2~0.8mol/L、好ましくは0.5mol/Lである。ジルコニウムアルコキシドを用いる場合、ジルコニウムアルコキシドに対して、例えば1.0~20.0当量のフルオロアルキル基を含む酸が混合される。好ましくは、ジルコニウムアルコキシドに対するフルオロアルキル基を含む酸は、1.0~8.0当量、1.0~7.0当量、より好ましくは2.0~5.0当量である。
【0038】
反応ステップにおいてジルコニウムアルコキシドを用いる場合、溶媒に含まれるフルオロアルキル基を含む酸として特に好ましいのは、HNTf、TFSA又はTFAである。
【0039】
チタンアルコキシドを用いる場合、チタンアルコキシドに対して、例えば1.0~10.0当量のフルオロアルキル基を含む酸が混合される。好ましくは、チタンアルコキシドに対するフルオロアルキル基を含む酸は、2.0~10.0当量、3.0~8.0当量、より好ましくは5.0~7.0当量である。
【0040】
反応ステップにおいてチタンアルコキシドを用いる場合、溶媒に含まれるフルオロアルキル基を含む酸として特に好ましいのは、HNTfである。
【0041】
反応ステップは、加水分解及び縮合反応(すなわちゾル-ゲル反応)が進行する条件で行われる。例えば、溶媒中で、ジルコニウムアルコキシド又はチタンアルコキシド及びフルオロアルキル基を含む酸を、室温で所定時間、例えば1~6時間、好ましくは1~3時間、撹拌すればよい。
【0042】
乾燥ステップでは、溶媒を除去することで固体生成物を得る。乾燥ステップでは、溶媒の除去を促進するために、反応ステップで生成した生成物を含む溶媒を適宜加熱してもよい。この場合、例えば、溶媒が50~60℃になるように加熱すればよい。加熱ステップは、溶媒除去後にさらに生成物を150℃程度に加熱してもよい。こうすることで、生成物の反応をさらに進行させることができる。
【0043】
続いて、加熱ステップでは、固体生成物を加熱する。これにより、本実施の形態に係る金属酸化物ナノ粒子が得られる。加熱ステップでは、100~200℃、好ましくは130~180℃、好適には150℃で固体生成物が加熱されればよい。加熱時間は、適宜調整すればよいが、例えば150℃に加熱する場合は、2時間程度である。
【0044】
なお、フルオロアルキル基を含む酸等を除去するために、当該加熱ステップの前に、乾燥ステップによって得られた粗生成物をクロロホルム等の有機溶剤で洗浄し、デカンテーションした後で減圧乾燥してもよい。
【0045】
以上詳細に説明したように、本実施の形態に係る金属酸化物ナノ粒子は、下記実施例2に示すように、水及び有機溶媒のいずれにも良好に分散し、極めて透明性が高い。また、当該金属酸化物ナノ粒子は、炭化水素を含まないので耐熱性に優れる。
【0046】
当該金属酸化物ナノ粒子は、実施例4に示すように、ZrOを含む場合、水、メタノール及びアセトンを溶媒として析出と分散とを複数回繰り返しても、再分散が可能である。また、TiOを含む場合、アセトンを溶媒として析出と分散とを複数回繰り返しても、再分散が可能である。よって、本実施の形態に係る金属酸化物ナノ粒子は、容易に再分散させることができるため、再利用可能で実用化において有利である。
【0047】
当該金属酸化物ナノ粒子は、ZrO又はTiOを含有する。ZrO及びTiOは屈折率が高い材料であるため、当該金属酸化物ナノ粒子を透明樹脂とハイブリッド化させることで、発光ダイオード(LED)封止材、薄型レンズ及び光ファイバー等の材料として利用できる。また、TiOを含有する金属酸化物ナノ粒子は光触媒としても利用可能である。
【実施例
【0048】
以下の実施例により、本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例によって限定されるものではない。
【0049】
(実施例1:ZrOナノ粒子及びTiOナノ粒子の合成)
以下のようにZrOナノ粒子を合成した。50mLサンプル瓶中の85%ZTB1-ブタノール溶液(0.9028g、2.0mmol)に、水/メタノール(1:19、v/v)混合溶媒で0.5mol/Lに希釈したHNTfの溶液をZTB(mol)に対して5.0当量(20mL、10mmol)加え、室温で1時間撹拌した。
【0050】
次に、得られた溶液をディスポーザルトレー(AS ONE社製、フィラー入りポリプロピレン製、100mm×70mm×13mm)に移し、開放系で加熱(約50~60℃)し溶媒を留去した後、さらに150℃のオーブンで2時間加熱した。その後、得られた粗生成物をクロロホルムで洗浄、デカンテーション、減圧乾燥し、再び150℃のオーブンで2時間加熱することで生成物としてZrOナノ粒子(ZrO-NTf-NP)を得た(0.6237g)。
【0051】
また、以下のようにTiOナノ粒子を合成した。50mLサンプル瓶中でTTB(0.6090g、2.0mmol)と1-ブタノール(0.1075g)をTTB/1-ブタノール(85:15、w/w)で混合し、そこにHNTfの水/メタノール(1:19、v/v)混合溶媒で0.5mol/Lに希釈した溶液をTTB(mol)に対して5.0当量(20mL、10mmol)加え、室温で1時間撹拌させた。
【0052】
続いて、得られた溶液をディスポーザルトレー(AS ONE社製、フィラー入りポリプロピレン製、100mm×70mm×13mm)に移し、開放系で加熱(約50~60℃)し溶媒を留去した後、さらに150℃のオーブンで2時間加熱した。その後、得られた粗生成物をクロロホルムで洗浄し、デカンテーションに続いて、減圧乾燥し、再び150℃のオーブンで2時間加熱することで生成物としてTiOナノ粒子(TiO-NTf-NP)を得た(0.3050g)。
【0053】
ZrO-NTf-NP及びTiO-NTf-NPの構造をフーリエ変換赤外分光法(FT-IR)及びEDXで確認した。FT-IR測定用サンプルは、赤外線吸収測定用KBrと少量のZrO-NTf-NP又はTiO-NTf-NPをメノウ乳鉢内で十分にすり潰し、錠剤成型器を用いて圧力をかけ、ペレット状にしたものを用いた。FT-IRの分析機器としてFT/IR-4200 type A(日本分光社製)を使用した。
【0054】
EDX測定用サンプルとして、アルミ板にカーボンテープを張り、その上にZrO-NTf-NP又はTiO-NTf-NPを付着させたものを用いた。EDXの分析機器としてQuanta400(日本FEI社製)を使用した。
【0055】
(結果)
図1は、ZrO-NTf-NPのIRスペクトルを示す。該IRスペクトルにおいてNTfのスルホニル基及びトリフルオロメチル基由来の吸収ピークが観測された。図2は、ZrO-NTf-NPのEDXスペクトルを示す。該EDXスペクトルによって、ZrとSの原子数比が1.00対1.17であり、Zr原子とNTf成分のモル比は約1:0.59であった。以上の結果より、HNTfの良溶媒であるクロロホルムで洗浄したにも関わらず、ZrO-NTf-NPにはZrOに加えてNTf成分も含まれていることが示された。
【0056】
図3は、TiO-NTf-NPのIRスペクトルを示す。該IRスペクトルにおいてNTfのスルホニル基及びトリフルオロメチル基由来の吸収ピークが観測された。図4は、TiO-NTf-NPのEDXスペクトルを示す。該EDXスペクトルによって、TiとSの原子数比が1.00対0.57であり、Ti原子とNTf成分のモル比は約1:0.29であった。以上の結果より、HNTfの良溶媒であるクロロホルムで洗浄したにも関わらず、TiO-NTf-NPにはTiOに加えてNTf成分も含まれていることが示された。
【0057】
(実施例2:ZrO-NTf-NP及びTiO-NTf-NPの分散性評価)
ZrO-NTf-NP及びTiO-NTf-NPの分散性を目視及びUV-Visにより行った。ZrO-NTf-NP又はTiO-NTf-NPを1.0w/v%で種々の溶媒に加え、目視で分散性を評価した。
【0058】
UV-Visの測定では、測定用サンプルとしてZrO-NTf-NP又はTiO-NTf-NPの分散液(1.0w/v%)を10mm角の石英セルに2.5mLほど滴下して透過率モードで測定した。UV-Visの測定には、V-630 spectrophotometer(日本分光社製)を使用した。
【0059】
(結果)
ZrO-NTf-NPは、水、ジメチルスルホキシド(DMSO)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、メタノール、エタノール及びアセトンに良好な分散性を示した(図5参照)。これらの分散液は透明で、ややオレンジ色に着色していた。一方、ZrO-NTf-NPは、酢酸エチル、クロロホルム、トルエン、ヘキサンには分散性を示さなかった。
【0060】
図6は、ZrO-NTf-NPの水、DMSO、DMF、メタノール、エタノール及びアセトン分散液のUV-Visスペクトルを示す。いずれの分散液も高い透過率を示し、分散液の高い透明性を支持した。さらに、これらの分散液のUV-Visスペクトルにより、分散液の色であるオレンジ色の補色である青色の波長領域で光を吸収していることが確認された。
【0061】
TiO-NTf-NPは、水、DMSO、DMF及びアセトンに良好な分散性を示した(図7参照)。これらの分散液は透明で、ややオレンジ色に着色していた。一方、TiO-NTf-NPは、メタノール、エタノール、酢酸エチル、クロロホルム、トルエン、ヘキサンには分散性を示さなかった。
【0062】
図8は、TiO-NTf-NPの水、DMSO、DMF及びアセトン分散液のUV-Visスペクトルを示す。いずれの分散液も高い透過率を示し、分散液の高い透明性を支持した。さらに、これらの分散液のUV-Visスペクトルにより、分散液の色であるオレンジ色の補色である青色の波長領域で光を吸収していることが確認された。さらに、紫外光波長領域で光の透過率がほぼ0%であることから、TiO-NTf-NPは、TiOの特徴である紫外吸収特性を有することが確認された。
【0063】
(実施例3:ZrO-NTf-NP及びTiO-NTf-NPの粒径評価)
ZrO-NTf-NP及びTiO-NTf-NPの粒径をDLSにより評価した。
【0064】
DLS測定用サンプルとして、ZrO-NTf-NP又はTiO-NTf-NPのアセトン分散液(0.5w/v%および1.0w/v%)を10mm角の石英セルに1~1.5mLほど滴下したものを用いた。DLS測定装置として、Nano-ZS90(Malvern社製)を用いた。
【0065】
(結果)
図9は、ZrO-NTf-NPのアセトン分散液に関するDLSヒストグラムを示す。ZrO-NTf-NPの個数平均粒径を求めたところ、分散液の濃度に依存することはなく、約3nmであった(図9(b)、(d)参照)。図9(a)、(c)に示す散乱強度の分布からは、100nm未満の凝集体を形成していたが、図9(b)、(d)に示す個数分布においてその凝集体の数が非常に少ないことが示された。このことからZrO-NTf-NPのアセトン分散液は、高い透明性を有していると考えられる。
【0066】
図10は、TiO-NTf-NPのアセトン分散液に関するDLSヒストグラムを示す。TiO-NTf-NPの個数平均粒径を求めたところ、分散液の濃度に依存することはなく、約6nmであった(図10(b)、(d)参照)。図10(a)、(c)に示す散乱強度の分布からは、約130nmの凝集体を形成していたが、図10(b)、(d)に示す個数分布においてその凝集体の数が非常に少ないことが示された。このことからTiO-NTf-NPのアセトン分散液は、高い透明性を有していると考えられる。
【0067】
(実施例4:ZrO-NTf-NP及びTiO-NTf-NPの再分散性の検討)
ZrO-NTf-NPの水分散液、メタノール分散液及びアセトン分散液(すべて1.0w/v%)で、析出と分散とを3回繰り返し、再分散が可能であるか否かを検討した。また、TiO-NTf-NPの水分散液及びアセトン分散液(1.0w/v%)について同様に再分散を検討した。
【0068】
(結果)
ZrO-NTf-NPはすべての分散液で3回目の分散後でも良好な分散性を示した。一方、TiO-NTf-NPに関しては、水分散液は析出と分散とを1回繰り返した時点で白濁したが、アセトン分散液は析出と分散とを3回繰り返しても良好な分散性を示した。
【0069】
(実施例5:ZrO-NTf-NPの分散性及びNTf成分の被覆率への当量変動による影響の検討)
上記実施例1のZrO-NTf-NPの合成におけるZTB(2.0mmol)に加えるHNTf溶液(0.5mol/L)を1.0当量(4mL、2mmol)、2.0当量(8mL、4mmol)及び10.0当量(40mL、20mmol)として、ZrO-NTf-NPを実施例1と同様に合成した。得られたZrO-NTf-NPの分散性を評価した。また、ZrO-NTf-NPの構造をEDXで確認した。
【0070】
(結果)
実施例1で合成したZrO-NTf-NP(ZTBに対するHNTfが5.0当量)に加えて、本実施例で検討した各当量で合成したZrO-NTf-NPの分散性を表1に示す。この結果から、当量を減らしてもある程度の分散性が維持されることが示された。
【0071】
【表1】
【0072】
図11(a)~(d)は、それぞれ1.0、2.0、5.0及び10.0当量で合成したZrO-NTf-NPのEDXスペクトルを示す。当量を変動させてもNTf成分による被覆率はほとんど変化せず、Zr原子とNTf成分のモル比が約1:0.52~0.56であることが示された。
【0073】
(実施例6:TiO-NTf-NPの分散性及びNTf成分の被覆率への当量変動による影響の検討)
上記実施例1のTiO-NTf-NPの合成におけるTTB(2.0mmol)に加えるHNTf溶液(0.5mol/L)を2.0当量(8mL、4mmol)、3.0当量(12mL、6mmol)及び4.0当量(16mL、8mmol)として、TiO-NTf-NPを実施例1と同様に合成した。得られたTiO-NTf-NPの分散性を評価した。また、TiO-NTf-NPの構造をEDXで確認した。
【0074】
(結果)
実施例1で合成したTiO-NTf-NP(TTBに対するHNTfが5.0当量)に加えて、本実施例で検討した各当量で合成したTiO-NTf-NPの分散性を表2に示す。この結果から、当量を減らすと分散性は低下することが判明した。
【0075】
【表2】
【0076】
図12(a)~(d)は、それぞれ2.0、3.0、4.0及び5.0当量で合成したTiO-NTf-NPのEDXスペクトルを示す。TTBに対するHNTfの量を少なくするとNTf成分による被覆率が低下した。以上の結果より、優れた分散性を維持するには、Ti原子とNTf成分のモル比が少なくとも約1:0.29である必要があり、これよりもNTf成分が少ないと優れた分散性が得られないことが示された。
【0077】
(実施例7:トリフルオロメチル基の分散性への影響の検討)
トリフルオロメチル基の有無が実施例1で合成されたナノ粒子の分散性に影響を与えるか否かを検討した。実施例1と同様に、50mLサンプル瓶中のZTB(0.9028g、2mmol)又はTTB(0.6090g、2mmol)に、TFSA、TFA又は塩酸(HCl)の水/メタノール(1:19、v/v)混合溶媒で0.5mol/Lに希釈した溶液を、ZTB又はTTB(mol)に対して5.0当量(20mL、10mmol)加え、ゾル-ゲル反応を行うことによりZrO-NP及びTiO-NPを得た。
【0078】
(結果)
ZrO-NP及びTiO-NPの各溶媒に対する分散性を目視観察により評価した。ZrO-NP及びTiO-NPの分散性を表3に示す。この結果から、ZrOにおいてはHNTfのみならずTFSA及びTFAを用いても分散性を示し、一方HClを用いた場合は分散性を示さなかったことから、トリフルオロメチル基の存在が生成物の分散に重要であることがわかった。TiOにおいてはHNTfでは分散性を示したが、TFSA、TFA及びHClを用いた場合は分散性を示さなかったことから、HNTfが特異的に生成物の分散性に影響を与えることがわかった。
【0079】
【表3】
【0080】
上述した実施の形態は、本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲を限定するものではない。すなわち、本発明の範囲は、実施の形態ではなく、特許請求の範囲によって示される。そして、特許請求の範囲内及びそれと同等の発明の意義の範囲内で施される様々な変形が、本発明の範囲内とみなされる。
【産業上の利用可能性】
【0081】
本発明は、種々の溶媒に安定に分散する金属酸化物ナノ粒子の製造に好適である。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
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図10
図11
図12