(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】歯車加工装置
(51)【国際特許分類】
B23F 23/12 20060101AFI20220117BHJP
B23F 19/05 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B23F23/12
B23F19/05
(21)【出願番号】P 2018002037
(22)【出願日】2018-01-10
【審査請求日】2020-09-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000125853
【氏名又は名称】株式会社 神崎高級工機製作所
(74)【代理人】
【識別番号】100124039
【氏名又は名称】立花 顕治
(74)【代理人】
【識別番号】100179213
【氏名又は名称】山下 未知子
(74)【代理人】
【識別番号】100170542
【氏名又は名称】桝田 剛
(72)【発明者】
【氏名】泉 孝明
(72)【発明者】
【氏名】垣内 裕貴
【審査官】小川 真
(56)【参考文献】
【文献】特開2013-018080(JP,A)
【文献】実開平02-063905(JP,U)
【文献】特開昭58-084290(JP,A)
【文献】実開昭59-019204(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23F 23/12
B23F 19/05
B23B 31/117
F16L 37/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
環状のハウジングと、
前記ハウジングの内周側に回転自在に配置される環状の工具支持体と、
前記工具支持体の内周側に取り付けられ、被加工歯車に噛合する内歯車形状の工具と、
前記工具を前記工具支持体に固定するための固定機構と、
を備え、
前記固定機構は、
前記工具支持体に設けられ、外部からの油の流入及び外部への油の排出を行うための少なくとも1つのポート部と、
前記工具支持体の内周面に、周方向に沿って形成されるとともに、前記ポート部と連通する、環状流路と、
前記工具支持体の内周面に対し、前記環状流路を塞ぐように密着するとともに、該環状流路への油流入によって前記工具の外周面を押圧するように、変形可能に構成された変形部材と、
を備
え、
前記ポート部は、前記工具支持体における軸方向の一方の端面に設けられている、歯車加工装置。
【請求項2】
前記ポート部は、外部から押圧されると、前記環状流路と外部とを連通する開状態となり、前記外部からの押圧が解除されると、前記環状流路と外部との連通を遮断する閉状態となるように構成されている、請求項1に記載の歯車加工装置。
【請求項3】
前記ポート部を押圧可能に構成される押圧部材と、
前記押圧部材から前記ポート部へ油の供給、及び当該押圧部材から油の排出を行うため、当該押圧部材に連結されたフレキシブルなホースと、
をさらに備えている、請求項1または2に記載の歯車加工装置。
【請求項4】
前記押圧部材を着脱自在に固定し、当該押圧部材を前記ポート部に対して対向位置に位置決めするための位置決め部材をさらに備えている、請求項3に記載の歯車加工装置。
【請求項5】
前記ポート部を押圧可能に構成される押圧部材と、
前記押圧部材を前記工具支持体の軸方向に往復動可能に固定するとともに、当該押圧部材を、前記ポート部と対向する作動位置及び前記ポート部よりも径方向外方の待避位置に、移動させるように構成された位置決め部材と、
前記位置決め部材を前記作動位置と待避位置との間で往復動させるための第1駆動部と、
前記作動位置にある前記押圧部材を、前記軸方向に往復動させる第2駆動部と、
をさらに備えている、請求項1または2に記載の歯車加工装置。
【請求項6】
前記ポート部を押圧可能に構成される押圧部材を有する給油具と、
前記押圧部材から前記ポート部へ油の供給、及び当該押圧部材から油の排出を行うため、当該押圧部材に連結されたフレキシブルなホースと、
前記給油具を着脱自在に保持するホルダと、
をさらに備えている、請求項1または2に記載の歯車加工装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯車加工装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より、歯車に対する仕上げ加工として、例えばホーニング加工が知られている。これらの加工においては、加工対象となる被加工歯車と砥石用歯車とを互いに噛み合わせた状態で、回転させて仕上げ加工を行っている。
【0003】
例えば、特許文献1には、ホーニング加工を行う歯車加工装置が記載されている。この装置では、加工対象となる歯車は、一対の固定具により軸方向の両端から挟むことで支持されており、この歯車を内歯車状の工具を有する環状の工具に噛み合わせる。そして、この状態で工具と歯車とを連れ周り回転させることにより、歯車の仕上げを行っている。
【0004】
ところで、上記特許文献1に記載のような装置では、内歯車状の工具が環状の支持体に取付けられているが、工具の取付は、次のような固定機構により行われている。すなわち、環状の支持体の内壁面に筒状の変形部材が取付けられており、この変形部材の内壁面に工具が取付けられる。また、支持体には、周方向に所定間隔をおいて複数の挿入孔が形成されており、この挿入孔にはそれぞれ、支持体に螺着したピンの先端が差し込まれている。また、挿入孔には、支持体の内周面に通じる連通孔が形成されており、挿入孔及び連通孔には作動油が充填されている。
【0005】
以上の構成により、ピンをねじ込んで挿入孔に進入させると、作動油の圧力が高まり、これにより、作動油は、連通孔を介して変形部材を径方向内方に押圧する。その結果、工具が押圧され、支持体に固定される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、複数のピンを人為的にねじ込んで進入させる作業には時間を要するため、工具の着脱を容易に行うことができる改良が要望されていた。本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、工具の着脱を効率的に行うことが可能な歯車加工装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る歯車加工装置は、環状のハウジングと、前記ハウジングの内周側に回転自在に配置される環状の工具支持体と、前記工具支持体の内周側に取り付けられ、被加工歯車に噛合する内歯車形状の工具と、前記工具を前記工具支持体に固定するための固定機構と、を備え、前記固定機構は、前記工具支持体に設けられ、外部からの油の流入及び外部への油の排出を行うための少なくとも1つのポート部と、前記工具支持体の内周面に、周方向に沿って形成されるとともに、前記ポート部と連通する、環状流路と、前記工具支持体の内周面に対し、前記環状流路を塞ぐように密着するとともに、該環状流路への油流入によって前記工具の外周面を押圧するように、変形可能に構成された変形部材と、を備えている。
【0009】
上記歯車加工装置において、前記ポート部は、外部から押圧されると、前記環状流路と外部とを連通する開状態となり、前記外部からの押圧が解除されると、前記環状流路と外部との連通を遮断する閉状態となるように構成することができる。
【0010】
上記各歯車加工装置においては、前記押圧部材から前記ポート部へ油の供給、及び当該押圧部材から油の排出を行うため、当該押圧部材に連結されたフレキシブルなホースと、をさらに備えることができる。
【0011】
上記各歯車加工装置においては、前記押圧部材を着脱自在に固定し、当該押圧部材を前記ポート部に対して対向位置に位置決めするための位置決め部材をさらに備えることができる。
【0012】
上記各歯車加工装置においては、前記ポート部を押圧可能に構成される押圧部材と、前記押圧部材を前記工具支持体の軸方向に往復動可能に固定するとともに、当該押圧部材を、前記ポート部と対向する作動位置及び前記ポート部よりも径方向外方の待避位置に、移動させるように構成された位置決め部材と、前記位置決め部材を前記作動位置と待避位置との間で往復動させるための第1駆動部と、前記作動位置にある前記押圧部材を、前記軸方向に往復動させる第2駆動部と、をさらに備えることができる。
【0013】
上記各歯車加工装置において、前記ポート部は、前記工具支持体における軸方向の一方の端面に設けることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る歯車加工装置によれば、工具の着脱を効率的に行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の一実施形態に係る歯車加工装置の斜視図である。
【
図6】
図4におけるハウジングの部分断面図である。
【
図11】給油具に設けられた押圧部材の断面図である。
【
図12】給油具に設けられた押圧部材の断面図である。
【
図13】給油具による作動油の給油を説明する断面図である。
【
図14】位置決め部材が待避位置にある状態を示す正面図である。
【
図15】位置決め部材が作動位置にある状態を示す正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る歯車加工装置の一実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1、
図2、及び
図3は、それぞれ本実施形態に係る歯車加工装置の斜視図、正面図、及び平面図である。なお、以下の説明では、
図1の左右をX軸方向または左右方向、
図1の上下をZ軸または上下方向、
図2の上下をY軸方向または前後方向と称し、これを基準に説明をしていく。但し、本発明はこれらの方向に限定されるものではない。
【0017】
図1~
図3に示すように、本実施形態に係る歯車加工装置は、基台1上に配置された工具ユニット2及びワーク支持ユニット3を備えている。工具ユニット2は、環状に形成され工具4が固定された環状のハウジング21を有しており、その軸方向が、概ねX軸方向に向くように配置されて、ワークWである歯車と噛合するようになっている。ワーク支持ユニット3は、ワークWを挟持する主軸台31と心押し台32とで構成されており、これらは、工具ユニット2を挟んで、基台1のX軸方向の両側に配置されている。
【0018】
まず、ワーク支持ユニット3について説明する。
図1~
図3に示すように、ワーク支持ユニット3は、上述した主軸台31と、心押し台32とで構成されており、これらは、X軸方向に互いに近接離間し、ワークWを回転自在に挟持するようになっている。
【0019】
次に、主軸台31について説明する。主軸台31は、工具ユニット2を挟んで基台1上の左側に配置された第1支持フレーム311上に配置されている。第1支持フレーム311上には、両レール312に支持されY軸方向に傾斜して移動可能な第1支持ブロック313が配置されている。この第1支持ブロック313の下面にはナット(図示せず)が連結されており、このナットに、レール312と平行に延びるボールネジ(図示せず)が螺合している。このボールネジには、モータ316が連結されている。したがって、モータ316によりボールネジが回転すると、これによって、第1支持ブロック313が第1支持フレーム311の傾斜面310に沿ってY軸方向に移動する。
【0020】
第1支持ブロック313の上面には、X軸方向に平行に延びる一対のレール317が配置されており、これらレールに沿って主軸台31がX軸方向に移動可能となっている。主軸台31の下面にはナット(図示せず)が連結されており、このナットに、レール317と平行に延びるボールネジ(図示せず)が螺合している。このボールネジは、モータ3190が連結されている。したがって、モータ3190によりボールネジが回転すると、これによって、主軸台31が、第1支持ブロック313上をX軸方向に移動する。
【0021】
主軸台31の先端には、X方向に突出しワークWを支持する軸部材3101が回転自在に設けられており、内蔵されているモータ(図示省略)によって回転駆動する。
【0022】
次に、心押し台32について説明する。心押し台32も主軸台31と同様に構成されている。すなわち、心押し台32は、工具ユニット2を挟んで基台1上の右側に配置された第2支持フレーム321上に配置されている。第2支持フレーム321上には、両レール322に支持されY軸方向に傾斜して移動可能な第2支持ブロック323が配置されている。この第2支持ブロック323の下面にはナット(図示せず)が連結されており、このナットに、レール322と平行に延びるボールネジ(図示せず)が螺合している。このボールネジは、モータ326が連結されている。したがって、モータ326によりボールネジが回転すると、これによって、第2支持ブロック323が第2支持フレーム321の傾斜面320に沿ってY軸方向に移動する。
【0023】
第2支持ブロック323の上面には、X軸方向に平行に延びる一対のレール327が配置されており、これらレール327に沿って心押し台32がX軸方向に移動可能となっている。心押し台32の下面にはナット(図示せず)が連結されており、このナットに、レール327と平行に延びるボールネジ(図示せず)が螺合している。このボールネジは、モータ3290が連結されている。したがって、モータ3290によりボールネジが回転すると、これによって、心押し台32が、第2支持ブロック323上をX軸方向に移動する。
【0024】
また、心押し台32の先端には、ワークWを支持する軸部材3201が回転自在に設けられており、主軸台31の軸部材3101との間で、ワークWを挟持するようになっている。主軸台31と心押し台32とは、一体的にX軸方向及びY軸方向に移動するように制御されており、両者がワークWを狭持した状態でX軸方向及びY軸方向に移動し、ワークWを工具ユニット2の工具に対して近接離間するようになっている。
【0025】
次に、工具ユニット2について、
図4及び
図5を詳細に説明する。
図4は
図1の工具ユニットの側面図、
図5は
図1の工具ユニットの斜視図である。
図4及び
図5に示すように、工具ユニット2のハウジング21は、環状に形成されており、ワークWに対して交差角を形成したりクラウニングを施すために、Y軸方向に移動可能で、且つYZ平面内でY軸と傾斜する回転軸S周りに回転可能となっている。そのため、工具ユニット2は、基台1上に配置され、上述したハウジング21を支持する支持体23を備えている。また、ハウジング21は、上述した回転軸Sの両端で、支持体23によって回転可能に支持されている。すなわち、ハウジング21の回転軸Sの両端には、前端側に第1軸端部材41が取り付けられ、後端側に第2軸端部材42が取り付けられている。そして、これら第1及び第2軸端部材41,42が支持体23によって、支持されている。以下、支持体23について詳細に説明する。
【0026】
図4に示すように、この支持体23は基台1上をY軸方向に移動可能な基部231と、この基部231の前端部に設けられ、ハウジング21の第1軸端部材41を支持する第1支持部232と、基部231の後端部に設けられ、ハウジング21の第2軸端部材42を支持する第2支持部233と、を備えている。基部231は、側面視において、上方に向かって傾斜した前端面2311、この前端面2311に連続し円弧状に形成された中央面2312、及び中央面2312の後端に連続し上方に向かって傾斜した後端面2313を有しており、これらの面が、前方から後方へこの順で並んでいる。前端面2311と後端面2313の傾斜角度は、ワーク支持ユニット3の傾斜面と同じである。この構成において、後端面2313は、前端面2311よりも高い位置にあり、前端面2311には第1支持部232が取り付けられ、後端面2313に第2支持部233が取り付けられる。
【0027】
そして、ハウジング21の第1軸端部材41が第1支持部232によって回転可能に支持されるとともに、第2軸端部材42が第2支持部233によって回転自在に支持される。これにより、ハウジング21は、上記傾斜角度で延びる回転軸S周りに回転可能となっている。なお、中央面2312の円弧形状は、ハウジング21に外周面に沿うようにしたものである。
【0028】
次に、ハウジング21を含む、工具ユニット2における工具の取付構造等について、
図6及び
図7を参照しつつ説明する。
図6は
図4におけるハウジングの部分断面図、
図7は工具周辺の部分拡大断面図である。
【0029】
図6及び
図7に示すように、工具ユニット2は、全体として環状のハウジング21と、このハウジング21の内周側に一対のベアリング241、242を介して回転自在に設けられた工具支持体25と、この工具支持体25の内周面に取り付けられた、内歯車状の工具4と、を備えている。また、工具ユニット2には、工具支持体25をハウジング21に対して回転させるためのモータ(図示せず)が設けられている。以下、各部材について、詳細に説明する。
【0030】
ハウジング本体211における、軸方向の中央付近に位置する中央部位2110の内周面には、上述した一対のベアリング241,242が軸方向に所定間隔をおいて取り付けられている。なお、各ベアリング241,242は、外輪、内輪、及びこれらの間の保持される転動体(ボールまたはコロ)を備えた公知のものである。
【0031】
次に、工具支持体25へ工具4を取付けるための固定機構について説明する。
図6及び
図7に示すように、支持本体251の内周面には、その全周に亘って薄板により筒状に形成された変形部材502が取り付けられている。この変形部材502は、厚みが、例えば、2.4~2.5mmの金属材料により形成されている。具体的には、例えば、クロムモブリデン鋼等の金属により形成することができる。
【0032】
支持本体251の内周面には、帯状に延びる浅い第1凹部(環状流路)503が形成されており、その両端には、深い第2凹部504が形成されている。第1凹部503の深さは、例えば、0.2~0.3mmとすることができる。そして、第2凹部504にはOリング505が収容されている。これにより、第1凹部503は、変形部材502、及び一対のOリング505との間で密閉された空間となっている。
【0033】
また、
図7に示すように、第1凹部503には、支持本体251の内部へ延びる連通路506が形成されている。より詳細には、この連通路506は、第1凹部503から径方向外方に延びた後、軸方向に右側に延び、端部部位2511に形成された収容部507に連通している。収容部507は、円筒状の凹部であり、支持本体251の右端部から外部に開放されている。そして、この収容部507には、第1凹部503へ作動油の注入を行うためのポート部7が配置されている。以下、
図8及び
図9を参照しつつポート部7について説明する。
図8及び
図9はポート部の拡大断面図である。
【0034】
図8に示すように、ポート部7は、収容部507に収容される円筒状のポート本体71と、このポート本体71の内部に収容される円筒状の可動部材72と、この可動部材72の内部に挿通される栓部材73と、を備えている。ポート本体71は収容部507の内壁面に固定されており、内部に円筒状の空間を有している。そして、可動部材72は、ポート本体71の内壁面に接しつつ、ポート本体71の軸方向に移動可能となっている。また、可動部材72は、バネ部材74によって軸方向に支持本体251の外部側へ付勢されており、外部から軸方向へ左側に押圧されると、支持本体251の内部側へ移動するようになっている。
【0035】
栓部材73は、可動部材72の内部で軸方向に延びる棒状の本体部731と、この本体部731の先端、つまり外部側へ向く右端に取付けられた先端部732とを有している。また、本体部731の左端部は、ポート本体71の内部に固定されており、本体部731の外周面とポート本体71の内周面との間には隙間が形成されている。そして、この隙間は、収容部507の内部空間及び連通路506に繋がっている。
【0036】
栓部材73の先端部732は、本体部731よりも径の大きい円柱状に形成されており、可動部材72がバネ部材74に付勢されて右側に位置しているときには、可動部材72の内周面に係合している。すなわち、可動部材72と先端部732とは隙間なく密着している。そして、この状態で作動油は、ポート部7、収容部507、連通路506、及び第1凹部503に亘って充填されている。
【0037】
この状態で、可動部材72が外部から押圧されると、
図9に示すように、可動部材72と先端部732との間には隙間が形成される。この隙間はポート本体71の内部に繋がっているため、ポート部7の外部と内部とが連通し、さらにポート部7の内部は収容部507を介して連通路506に連通する。これにより、外部からポート部7を介して、第1凹部503に作動油を供給したり(
図9中の点線)、あるいは作動油を外部に排出することができる。
【0038】
次に、このポート部7に作動油を供給するための供給ユニットについて、説明する。
図5に示すように、供給ユニット8は、歯車加工装置の外部に設けられた油圧発生ユニット(図示省略)から中継部材81を介して連結されたフレキシブルなホース82と、ホース82の先端に取付けられた給油具83と、を備えており、給油具83は、ハウジング21の外周面に設けられたホルダ84に着脱自在に取付けられる。ホルダ84は、ハウジング21の外周面において、第1軸端部材41付近に取付けられている。
【0039】
また、ハウジング21の軸方向の右側の端面において、ポート部7と対応する位置には、板状の位置決め部材85が取付けられている。位置決め部材85は、ハウジング21の端面から径方向内方に延び、ポート部7と対応する位置には円形の貫通孔851が形成されている。そして、後述するように、この貫通孔851に給油具83が固定される。
【0040】
次に、給油具83について、
図10~
図12を参照しつつ説明する。
図10は給油具とポート部付近の断面図、
図11及び
図12は、給油具に設けられた押圧部材の断面図である。
図10に示すように、給油具83は、ホース82の先端に取付けられた給油具本体831と、この給油具本体831の先端に取付けられた押圧部材9と、を備えている。給油具本体831は、先端が外部に開放する内部空間832を有しており、この内部空間832の基端部側がホース82と連通している。図外の油圧発生ユニットを手動で作動させると、ホース82から供給される作動油は、内部空間832に流れ込むようになっている。また、この内部空間832に、上述した押圧部材9が取付けられており、外部に突出している。さらに、この内部空間832と対応する給油具本体831の外周面には雄ネジ833が形成されている。また、給油具本体831の後端部、つまり内部空間832と反対側の端部には、レンチを挿入可能なレンチ孔834が設けられており、ここに嵌め込まれたレンチにより、給油具本体831を回転できるようになっている。
【0041】
図11に示すように、押圧部材9は、円筒状の本体部91と、この本体部91の内部に配置される閉鎖部材92とを備えている。本体部91は、内部空間832の内周面に固定されるとともに、その先端部が外部に突出している。また、閉鎖部材92は、本体部91に対して軸方向に挿入され、且つ軸方向に移動可能に支持されている。閉鎖部材92は本体部91の先端側へバネ部材93によって付勢されており、この状態では、閉鎖部材92の先端部の外周面と、本体部91の先端部の内周面とが隙間なく密着している。一方、
図12に示すように、閉鎖部材92が本体部91の先端側から押圧されると、閉鎖部材92は、バネ部材93の付勢力に抗して本体部91の基端側(
図12の右側)に移動する。これにより、閉鎖部材92と、本体部91の内周面との間に隙間が形成され、給油具本体831の内部空間832、本体部91の内部空間、及び外部が連通し、ホース82から作動油が押圧部材9から外部に排出される(
図12の点線)。なお、押圧部材9が閉じられている状態では、ホース82からの作動油は内部空間832及び押圧部材9内に充満され、圧力が作用した状態となっている。したがって、押圧部材9が開くと、押圧部材9から外部へ作動油が排出されるようになっている。
【0042】
続いて、この固定機構による工具4の取付について、
図13も参照しつつ説明する。
図13は、給油具による作動油の給油を説明する断面図である。まず、変形部材502の内周面に工具4を取り付ける。これにより、変形部材502の内周面と工具4の外周面とが密着する。次に、ホルダ84から給油具83を取り外し、給油具本体831を位置決め部材85の貫通孔851にねじ込む。すなわち、給油具本体831のレンチ孔834にレンチを嵌め込み、給油具本体831の外周面の雄ネジ833を貫通孔851の雌ネジにねじ込む。
【0043】
これにより、
図13に示すように、給油具本体831がポート部7に向かって前進し、押圧部材9の本体部91がポート部7の可動部材72を押圧する。その結果、可動部材72は、
図9に示すように、ポート部7の内部へ押し込まれる。一方、押圧部材9の閉鎖部材92は、ポート部7の栓部材73によって押し込まれる。これにより、給油具本体831の内部空間832、押圧部材9、ポート部7、及び収容部507が連通する。そして、手動で図外の油圧発生ユニットを、作動油吐出方向に作動させると、給油具83の作動油が支持本体251内の作動油に対して圧力を付与する。これにより、作動油は、第1凹部503を介して、変形部材502を押圧する。こうして、変形部材502が工具4の外周面を押圧するため、工具4は変形部材502に固定される。
【0044】
これに続いて、位置決め部材85に対する給油具本体831のねじ込みを解除し、給油具本体831をポート部7から離れる方向に移動させると、可動部材72の押し込みが解除され、可動部材72は外部に移動する。これにより、ポート部7が閉じられ、第1凹部503に続く作動油の流路は外部から遮断され、密閉された状態となる。一方、押圧部材9の閉鎖部材92も押し込みが解除され、押圧部材9の先端側に移動する。これにより、押圧部材9が閉じられ、給油具本体831から外部への作動油の供給が停止される。こうして、位置決め部材85から取り外された給油具83をホルダ84に再び取付けると、工具4の取付が完了しワークWを加工できる状態となる。
【0045】
一方、メンテナンスや交換の際に工具4を取り外すには、給油具83を位置決め部材85に取付け、ポート部7と給油具本体831とを連通させた後、手動で図外の油圧発生ユニットを、作動油をドレンする方向に作動させる。これにより、第1凹部503の作動油の内圧が低下し、作動油による変形部材502の押圧が解除される。したがって、この状態で工具4を取り外すことができる。
【0046】
次に、上記のように構成された歯車加工装置の動作について説明する。まず、
図2に示すように、ワークWを主軸台31の軸部材3101に取り付けた後、主軸台31及び心押し台32を互いに近接させ、ハウジング21の内方でワークWを挟持する。この状態で、主軸台31の軸部材3101をワークWとともに回転させる。これと並行して、モータ(図示せず)を駆動し工具ユニット2の工具4をワークWと同期するように、回転させる。続いて、主軸台31及び心押し台32を一体的にY軸方向に移動させ、ワークWを工具4に近接させる。そして、ワークWと工具4とを噛み合わせ、連れ廻りさせることで、ワークWの加工を行う。また、必要に応じて支持体23とともにハウジング21をY軸方向に移動させ、ワークWにクラウニングを施す。また、このような加工作業と同時に、工具4とワークWとの噛み合わせ部分に切削油を噴射し、加工部位の冷却、潤滑、切り屑除去を行う。こうして、所定時間加工を行った後、各モータの駆動を停止し、加工されたワークWを取り外す。
【0047】
以上のように、本実施形態では、上述した固定機構により、工具4を固定している。工具4を固定するための変形部材502は、支持本体251に形成されている第1凹部503の作動油によって押圧され、工具4を固定する。ここで、第1凹部503は、連通路506を介して外部に開放する収容部507に連通し、この収容部507にはポート部7が配置されている。そのため、ポート部7から作動油を供給すれば、第1凹部503の作動油の圧力を高めることができるため、変形部材502によって工具4を押圧することができる。すなわち、一度の操作で変形部材502を変形させることができるため、工具4の取付け作業を容易に行うことができる。
【0048】
また、作動油を供給するに当たって、上記のようなポート部7と押圧部材9を用いると、押圧部材9でポート部7を押圧するだけで、ポート部7及び押圧部材9が開状態となり、給油具83から工具支持体25の内部へ作動油を供給できるため、作業をより容易に行うことができる。
【0049】
以上、本発明の一実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、その趣旨を逸脱しない限りにおいて種々の変更が可能である。なお、以下の変形例は適宜、組合せ可能である。
【0050】
例えば、上記実施形態では、ポート部7は一箇所に設けているが、複数箇所に設けることもできる。すなわち、連通路506に通じ、外部に開放する収容部507を複数箇所に設け、各収容部507にポート部7を設けることができる。なお、収容部507を複数設ける場合には、工具支持体25の周方向に等間隔に設けることが好ましい。
【0051】
上記実施形態では、作業者のマニュアル操作によって作動油の供給を行っているが、これを自動で行うこともできる。これについて、
図14~
図17を参照しつつ説明する。
図14は位置決め部材が待避位置にある状態を示す正面図、
図15は位置決め部材が作動位置にある状態を示す正面図、
図16及び
図17は、給油具とポート部付近の断面図である。但し、
図14及び
図15では給油具を省略して示している。
【0052】
まず、位置決め部材の移動機構について
図14及び
図15を参照しつつ説明する。
図14に示すように、この例では、ハウジング21の外周面に、モータ86が取付けられ、モータ86の回転軸の先端に円筒ウォーム87が取付けられている。そして、この円筒ウォーム87にはウォームホイール88が噛み合っており、円筒ウォーム87の回転により、ウォームホイール88が回転するようになっている。ウォームホイール88は、ハウジング21の軸方向に延びる回転軸回りに回転するようになっている。そして、ウォームホイール88の回転軸には歯車881が取付けられており、ウォームホイール88とともに回転するようになっている。
【0053】
一方、位置決め部材80は、
図14及び
図16に示すように、ハウジング21の軸方向の端面に取付けられ、この端面に沿って延びる第1部位801と、この第1部位801の先端部から軸方向に延びる第2部位802と、第2部位802の先端部から第1部位801と平行に延びる第3部位803とを有している。そして、第3部位803には、上述した給油具83が取付けられている。
【0054】
また、位置決め部材80の第1部位801は、ハウジング21の軸方向の端面に揺動自在に固定されており、揺動中心を挟んで、第2部位802が取付けられる先端部、及びそれとは反対側の基端部804を有している。そして、第1部位801の基端部804は、上記歯車881と噛み合う歯が形成された円弧状に形成されている。したがって、上記モータ86が回転すると、位置決め部材80は、支点ピン805まわりに揺動するようになっている。すなわち、
図14に示すように、給油具83が取付けられた第3部位803が工具支持体25よりも径方向外方に待避する待避位置と、
図15に示すように、給油具83がポート部7と対向する作動位置との間を揺動するようになっている。なお、
図16は、位置決め部材80が待避位置から作動位置に移動した直後の状態を示すが、
図14から
図15に至る過程で給油具83が工具支持体25に干渉しないように、第2部位802は、軸方向にハウジング21から離れる方向に延びている。なお、上記モータ86、円筒ウォーム87、ウォームホイール88、歯車881、第1部位801の歯が、本発明に係る第1駆動部を構成する。
【0055】
また、給油具83は、次のように構成されている。
図16に示すように、給油具83の後端には、複動式の油圧シリンダ838(第2駆動部)が取付けられており、第3部位803に取付けられた給油具83を軸方向に往復動できるようになっている。すなわち、油圧シリンダ838を駆動すると、
図17に示すように、給油具83が軸方向に移動し、押圧部材9がポート部7を押圧できるようになっている。
【0056】
以上のような構成により、工具4を取付ける際には、モータ86を駆動して、位置決め部材80を揺動し、給油具83を待避位置から作動位置に移動する。これに続いて、油圧シリンダ838を駆動し、給油具83をポート部7側に前進させ、押圧部材9でポート部7を押圧する。これにより、給油具83とポート部7とが連通し、作動油を供給することができる。このように、モータ作動により給油具83を退避位置に移せるようにすることにより、ワークW加工の際に心押し台32がハウジング21に対して接近する際に干渉する恐れはなくなるのはもとより、ハウジング21に対する工具4の拘束と解放を自動化できるようになる。なお、給油具83を待避位置から作動位置へ移動する機構、及び給油具83を軸方向に進退させる機構は、上記以外でもよく、種々の構成が可能である。
【0057】
以上説明したポート部7は、外部から押圧されると開く構成であるが、これは一例であり、特には限定されない。すなわち、第1凹部503に対して外部から作動油を供給出るのであれば、ポート部7の構成は特には限定されない。また、ポート部7の位置も特には限定されず、工具支持体25の軸方向の端面以外であってもよく、外部から作動油が供給できる位置にあればよい。同様に、給油具83の構成も特には限定されず、ポート部7に対して作動油を供給できるのであればよい。
【0058】
工具支持体内の連通路の構成は、特には限定されず、ポート部から第1凹部までを連通する流路であればよい。
【0059】
上記実施形態では、ワーク支持ユニット3においては、主軸台31と心押し台32とでワークWを狭持しているが、主軸台31のみでワークWを支持するような形態であってもよい。
【0060】
上記実施形態で説明した工具ユニットの構成は一例であり、少なくとも上記のような工具の固定機構を有し、内歯車状の工具を支持する工具支持体、ハウジングが設けられていればよく、その他の構成は適宜変更可能である。例えば、モータ以外の駆動部で工具を回転させてもよい。
【0061】
また、工具ユニット2及びワーク支持ユニット3の少なくとも一方が移動し、歯車を加工できればよいため、これらの移動機構についても特には限定されない。
【符号の説明】
【0062】
4 工具
502 変形部材
506 連通路
7 ポート部
9 給油具