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  • 特許-金属粒子分散液 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-01-24
(54)【発明の名称】金属粒子分散液
(51)【国際特許分類】
   B22F 1/102 20220101AFI20220117BHJP
   B22F 9/00 20060101ALI20220117BHJP
   H01B 1/22 20060101ALI20220117BHJP
   H01B 1/00 20060101ALI20220117BHJP
【FI】
B22F1/102
B22F9/00 B
H01B1/22 A
H01B1/00 E
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2018239250
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2020100867
(43)【公開日】2020-07-02
【審査請求日】2020-12-10
(73)【特許権者】
【識別番号】000162434
【氏名又は名称】協立化学産業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100103894
【弁理士】
【氏名又は名称】家入 健
(72)【発明者】
【氏名】小山 優
(72)【発明者】
【氏名】川名 泰仁
(72)【発明者】
【氏名】地曳 智広
【審査官】坂口 岳志
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2015/064700(WO,A1)
【文献】特開2009-226400(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 1/00- 1/18
B22F 9/00- 9/30
H01B 1/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属含有率が40質量%以下の金属粒子分散液であって、
金属粒子表面に、脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドより選択される1種以上の被覆分子が被覆する被覆金属粒子(A)と、
脂肪族基と極性基とを有する分散剤(B)と、
主鎖骨格の炭素原子数が3以上であって、当該主鎖骨格の一方の末端に極性基を有する極性溶媒(C)と、を含有し、
前記極性溶媒(C)が、脂肪族アルコール類、脂肪族アミノアルコール類、脂肪族カルボン酸類、脂肪族アミン類、脂肪族エーテル類、脂肪族アセテート類、脂肪族チオール類、及び脂肪族シラノール類からなる群から選択される1種以上を含む、
金属粒子分散液。
【請求項2】
金属含有率が40質量%以下の金属粒子分散液であって、
金属粒子表面に、脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドより選択される1種以上の被覆分子が被覆する被覆金属粒子(A)と、
脂肪族基と極性基とを有する分散剤(B)と、
主鎖骨格の炭素原子数が3以上であって、当該主鎖骨格の一方の末端に極性基を有する極性溶媒(C)と、を含有し、
前記分散剤(B)の極性基が、カルボキシ基及びアミノ基から選択される1種以上である、
金属粒子分散液。
【請求項3】
金属含有率が40質量%以下の金属粒子分散液であって、
金属粒子表面に、脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドより選択される1種以上の被覆分子が被覆する被覆金属粒子(A)と、
脂肪族基と極性基とを有する分散剤(B)と、
主鎖骨格の炭素原子数が3以上であって、当該主鎖骨格の一方の末端に極性基を有する極性溶媒(C)と、を含有し、
前記被覆金属粒子(A)の表面における前記被覆分子の密度が、2.5~5.2個/nm である、
金属粒子分散液。
【請求項4】
前記極性溶媒(C)の沸点が、100℃以上200℃以下である、
請求項1~3のいずれか1項に記載の金属粒子分散液。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属粒子分散液に関する。
【背景技術】
【0002】
金属粒子を含有する分散液を、インクジェットなど各種の印刷法により、配線パターン状に直接印刷することで、露光によるパターニングを必要としない、プリンタブルエレクトロニクスが注目されている。
数十nm以下の金属粒子は、粒子径が小さくなるにつれて、バルクの金属とは異なる種々の物理的、化学的特性を示すことが知られている。例えば、金属粒子の融点は、粒子径が小さくなると、バルクの金属の融点よりも低くなることが知られている。そのため、焼結時の温度を低温化する点から、粒子径の小さい金属粒子を用いることが検討されている。
【0003】
本発明者らは特許文献1において、銅粒子表面に脂肪族カルボン酸が被覆する被覆銅粒子を含有する銅ペースト組成物を開示している。当該銅ペースト組成物は、低温焼結においても高導電性の導電体を形成することが可能であるとされている。
また、本発明者らは特許文献2において、銀粒子表面に脂肪族カルボン酸が被覆する被覆銀粒子を含有する導電性組成物を開示している。当該導電性組成物は、粒子分散性及び焼結性に優れるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2017-095780号公報
【文献】特開2017-179403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
電子回路の小型化に伴って、導電パターンを更に薄膜化したいという要望がある。そこで本発明者らは、特許文献1及び2に記載の組成物を希薄化し、金属含有率の低い金属粒子分散液を作製することを試みた。しかしながら、被覆金属粒子の含有率を下げた場合、当該被覆金属粒子の分散性が低下することがあった。
【0006】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであり、金属含有率が低い場合でも被覆金属粒子の分散性に優れた金属粒子分散液を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係る金属粒子分散液の一実施形態は、金属含有率が40質量%以下の金属粒子分散液であって、金属粒子表面に、脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドより選択される1種以上の被覆分子が被覆する被覆金属粒子(A)と、脂肪族基と極性基とを有する分散剤(B)と、主鎖骨格の炭素原子数が3以上であって、当該主鎖骨格の一方の末端に極性基を有する極性溶媒(C)と、を含有する。
【0008】
前記金属粒子分散液の一実施形態は、前記極性溶媒(C)が、脂肪族アルコール類、脂肪族アミノアルコール類、脂肪族カルボン酸類、脂肪族アミン類、脂肪族エーテル類、脂肪族アセテート類、脂肪族チオール類、及び脂肪族シラノール類からなる群から選択される1種以上を含む。
【0009】
前記金属粒子分散液の一実施形態は、前記極性溶媒(C)の沸点が、100℃以上200℃以下である。
【0010】
前記金属粒子分散液の一実施形態は、前記分散剤(B)の極性基が、カルボキシ基及びアミノ基から選択される1種以上である。
【0011】
前記金属粒子分散液の一実施形態は、前記被覆金属粒子(A)の表面における前記被覆分子の密度が、2.5~5.2個/nmである。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、金属含有率が低い場合でも被覆金属粒子の分散性に優れた金属粒子分散液を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、分散剤に高分子を用いた場合の、被覆金属粒子と分散剤の相溶状態を表す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[金属粒子分散液]
本実施形態に係る金属粒子分散液は、金属含有率が40質量%以下の金属粒子分散液であって、金属粒子表面に、脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドより選択される1種以上の被覆分子が被覆する被覆金属粒子(A)と、脂肪族基と極性基とを有する分散剤(B)と、主鎖骨格の炭素原子数が3以上であって、当該主鎖骨格の一方の末端に極性基を有する極性溶媒(C)と、を含有する。このような構成では、金属含有率が低い場合であっても、被覆金属粒子(A)の分散性に優れる。その作用は、以下のように推定される。
【0015】
図1は、本実施形態に係る金属粒子分散液の模式図である。図1において、極性基は丸、疎水基は折れ線で模式的に図示している。
本実施形態の金属粒子分散液は、金属含有率が40質量%以下の金属粒子分散液であって、図1に示すように、金属粒子(A1)の表面に、脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドより選択される1種以上の被覆分子(A2)が被覆する被覆金属粒子(A)と、脂肪族基(B1)と極性基(B2)とを有する分散剤(B)と、主鎖の骨格の炭素原子数が3以上であって、当該主鎖の骨格の一方の末端に極性基を有する極性溶媒(C)と、を含有する。
【0016】
本実施形態の金属粒子分散液において、金属粒子は、表面に脂肪族カルボン酸又は脂肪族アルデヒドが被覆した被覆金属粒子(A)を用いる。当該被覆金属粒子(A)は、図1に示されるように表面に脂肪族基が配置される。当該脂肪族基は、分散剤(B)の有する脂肪族基に吸着するため、被覆金属粒子表面に更に分散剤(B)が被覆した複合的なミセルが形成されると推定される。当該ミセルは、表面に分散剤(B)が有する脂肪族基や極性基が配置されるため、主鎖骨格の炭素原子数が3以上であって、片末端に極性基を有する極性溶媒(C)との相溶性に優れている。この結果、本発明の金属粒子分散液においては、被覆金属粒子(A)は極性溶媒(C)に対する分散性及び分散安定性が優れる。したがって、本実施形態の金属粒子分散液は、金属含有率が40%以下と低い場合であっても、分散性に優れている。また、本実施形態の金属粒子分散液は、粒径の小さい被覆金属粒子(A)であっても、分散性及び分散安定性に優れている。
【0017】
<被覆金属粒子>
本実施形態で用いられる被覆金属粒子(A)は、金属粒子(A1)表面に、脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドより選択される1種以上の被覆分子(A2)が被覆した粒子である。被覆分子(A2)は、親水基側が金属粒子(A1)の表面に吸着して単分子膜を形成していると考えられる。このため、金属粒子(A1)の表面は、被覆分子(A2)によって保護されて酸化が抑制され、高い耐酸化性を有するものと推定される。例えば、上記の金属粒子(A1)として銀粒子を用いた被覆銀粒子においては、製造後2ヶ月経過後における酸化銀及び水酸化銀の含有割合を、被覆銀粒子中の銀粒子100質量%に対して5質量%以下に抑制することも可能である。なお、被覆金属粒子(A)中における金属酸化物の生成は、被覆金属粒子(A)のX線回折(XRD)測定により確認することができる。
【0018】
また、被覆分子(A2)は金属粒子(A1)と物理吸着等により結合しているため、比較的低温で拡散・脱離すると考えられる。したがって、各金属粒子(A1)の表面は加熱によって容易に露出され、金属粒子(A1)の表面同士の接触が可能になるため、被覆金属粒子(A)は低温での焼結性に優れている。
【0019】
(金属粒子)
本実施形態で用いられる金属粒子(A1)の平均一次粒子径は、低温焼結性及び薄膜化の観点から、300nm未満であることが好ましく、250nm以下であることがより好ましく、200nm以下であることが更により好ましい。本実施形態に係る金属粒子分散液は、金属粒子(A1)の平均一次粒子径が300nm未満であるような小さな粒子であっても、分散性及び分散安定性に優れている。また、焼結体のひび割れを抑制する観点から、金属粒子(A1)の平均一次粒子径は、通常、1nm以上であり、5nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましい。なお、当該金属粒子(A1)の平均一次粒子径は、走査型電子顕微鏡(SEM)により観察された任意の20個の金属粒子の一次粒子径の算術平均値である。
【0020】
金属粒子(A1)の材質は特に限定されるものではなく、例えば、金、銀、銅、白金、アルミニウム、鉄、クロム、スズ、ニッケル、亜鉛、鉛、インジウム、ビスマス、ゲルマニウム、アンチモン、コバルト、パラジウム、ロジウム、モリブデン、タングステン、チタン、ジルコニウム、ガリウム、ヒ素、ホウ素、ケイ素、及び、これらの合金の中から1種以上を適宜選択して用いることができる。また、金属粒子(A1)の材質は、焼結後に導電性を示す金属であることが好ましく、中でも、金、銀、又は銅であることがより好ましく、銀、又は銅であることが更により好ましい。これらの金属を用いることで、例えば電子回路の印刷等に本実施形態の金属粒子分散液を適用することができる。また、本実施形態で用いられる被覆金属粒子(A)は、耐酸化性に優れていることから、金属粒子(A1)として銅を好適に用いることができる。被覆金属粒子(A)が複数ある場合、含まれる各金属粒子(A1)は、互いに同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0021】
金属粒子(A1)は、本発明の効果を損なわない範囲で、金属酸化物、金属水酸化物、及びその他の不純物を含んでいてもよい。金属酸化物及び金属水酸化物の含有割合は、導電性の点から、金属粒子(A1)に対して5質量%以下であることが好ましく、3質量%以下であることがより好ましく、1質量%以下であることが更により好ましい。また、導電性の点から、金属粒子(A1)中の金属の含有割合は、95質量%以上であることが好ましく、97質量%以上であることがより好ましく、99質量%以上であることが更により好ましい。
【0022】
金属粒子(A1)の形状は、用途等に応じて適宜選択することができる。当該形状は、真球状を含む略球状、板状、棒状などが挙げられ、中でも、略球状であることが好ましい。なお、後述する被覆金属粒子(A)の製造方法によれば、おおよそ球状に近似可能な略球状の金属粒子(A1)が得られる。なお、被覆金属粒子(A)の粒子径は、SEM観察により決定できる。
【0023】
(脂肪族カルボン酸)
本実施形態において脂肪族カルボン酸は、単独で、又は後述する脂肪族アルデヒドと組み合わせて、前記金属粒子(A1)の表面に被覆し、金属粒子(A1)の酸化を抑制する。また、焼結時においては、当該脂肪族カルボン酸は容易に金属粒子(A1)表面から除去され、または分解あるいは揮発するため、焼結体中の残留が抑制される。これにより、電気伝導性に優れた導電体が得られる。
【0024】
脂肪族カルボン酸は、脂肪族化合物に1個又は2個以上のカルボキシ基が置換された構造を有する化合物であり、本実施形態においては、通常、金属粒子(A1)表面に、脂肪族カルボン酸のカルボキシ基が配置される。本実施形態においては、脂肪族化合物に1個のカルボキシ基が置換された構造、即ち、脂肪族炭化水素基と、1個のカルボキシ基を有する化合物が好ましい。
【0025】
脂肪族カルボン酸を構成する脂肪族炭化水素基は、直鎖、分枝、又は環状構造を有する炭化水素基であって、不飽和結合を有していてもよい。本実施形態においては、金属粒子(A1)表面に所定の密度で単分子膜を形成しやすい点から、分枝及び環状構造を有しない、直鎖脂肪族炭化水素基を用いることが好ましい。不飽和結合は、二重結合であっても三重結合であってもよいが、二重結合であることが好ましい。また、脂肪族炭化水素基が不飽和結合を有する場合、その個数は、1分子中に1~3個有することが好ましく、1~2個有することがより好ましく、1個であることが更により好ましい。
【0026】
本実施形態において脂肪族カルボン酸は、中でも、直鎖脂肪族炭化水素基の末端にカルボキシ基を有することが好ましい。脂肪族炭化水素基を直鎖構造とすることで、被覆金属粒子(A)と分散剤(B)との親和性を高め、被覆金属粒子(A)の分散性を向上することができる。また、当該脂肪族カルボン酸において、脂肪族基の炭素原子数は3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、7以上であることが更により好ましい。炭素原子数が3以上であることにより、被覆金属粒子(A)の耐酸化性や分散剤(B)との親和性を向上することができる。一方、脂肪族基の炭素原子数が17以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましく、11以下であることが更により好ましい。炭素原子数が17以下であることにより、被覆金属粒子(A)の焼結時に除去されやすく、電気伝導性に優れた導電体を得ることができる。なお、本実施形態において、脂肪族基の炭素原子数には、カルボキシ基を構成する炭素原子は含まないものとする。
【0027】
好ましい脂肪族カルボン酸の具体例としては、酪酸、カプロン酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、ステアリン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸などが挙げられる。脂肪族カルボン酸は1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0028】
(脂肪族アルデヒド)
本実施形態においては、前記脂肪族カルボン酸の代わりに、又は、前記脂肪族カルボン酸と組み合わせて、前記金属粒子(A1)表面に脂肪族アルデヒドを配置することができる。この場合であっても、脂肪族カルボン酸と同様に、電気伝導性に優れた導電体を形成可能な被覆金属粒子(A)が得られる。
【0029】
脂肪族アルデヒドは、脂肪族化合物に1個又は2個以上のアルデヒド基が置換された構造を有する化合物である。本実施形態に用いられる脂肪族アルデヒドは、脂肪族化合物に1個のアルデヒド基が置換された構造、即ち、脂肪族炭化水素基と1個のアルデヒド基とを有する化合物が好ましい。本実施形態においては、通常、金属粒子(A1)表面に、脂肪族アルデヒドのアルデヒド基が配置される。金属粒子(A1)表面にアルデヒド基が配置されることにより、脂肪族アルデヒドの還元作用による、金属粒子(A1)表面の酸化抑制や、汚染物質の洗浄効果が得られる。また、金属粒子(A1)表面にアルデヒド基が配置されることにより、基材表面の異物や酸化物を除去する効果を有するものと推定される。
【0030】
脂肪族アルデヒドを構成する脂肪族炭化水素基は、前記脂肪族カルボン酸と同様のものを選択することができる。
好ましい脂肪族アルデヒドの具体例としては、ブチルアルデヒド、ヘキシルアルデヒド、オクチルアルデヒド、ノニルアルデヒド、オクタデシルアルデヒド、ヘキサデセニルアルデヒドなどが挙げられる。脂肪族アルデヒドは1種単独で、又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0031】
被覆金属粒子(A)の表面における被覆分子(A2)の密度は特に限定されるものではないが、分散剤(B)の脂肪族基(B1)との相互作用との観点から、2.5~5.2個/nmであることが好ましく、3.0~5.2個/nmであることがより好ましく、3.5~5.2個/nmであることが更により好ましい。被覆分子(A2)の密度を2.5個/nm以上とすることで、分散剤(B)の脂肪族基(B1)と相互作用できる被覆分子(A2)の個数が多くなり、被覆金属粒子(A)と分散剤(B)との親和性を高めることができると考えられる。また、被覆分子(A2)の密度を5.2個/nm以下とすることで、被覆分子(A2)同士の間に分散剤(B)の脂肪族基(B1)が入り込む隙間が生じるため、被覆金属粒子(A)が分散剤(B)に対して効率よく付着できるものと考えられる。
【0032】
金属粒子(A1)表面における被覆分子(A2)の密度は以下のようにして算出することができる。被覆金属粒子(A)について、特開2012-88242号公報に記載される方法に従って、液体クロマトグラフィー(LC)を用いて表面に付着している有機成分を抽出し、成分分析を行う。また、TG-DTA測定(熱重量測定・示差熱分析)を行い、被覆金属粒子(A)に含まれる有機成分量を測定する。次いでLCの分析結果と合わせて被覆金属粒子(A)に含まれる被覆分子(A2)の量を算出する。また、SEM画像観察により金属粒子(A1)の平均一次粒子径を測定する。
以上の分析結果から、被覆金属粒子(A)1gに含まれる被覆分子(A2)の分子数は下記式(a)で表される。
[被覆分子(A2)の分子数]=M/(M/N) ・・・(a)
ここで、Mは被覆金属粒子1gに含まれる被覆分子(A2)の質量[g]であり、Mは被覆分子(A2)の分子量であり、Nはアボガドロ定数である。2種以上の被覆分子(A2)が含まれる場合には、各成分ごとに分子数を算出し、合計する。
金属粒子(A1)の形状を球体と近似して、被覆金属粒子(A)の質量から有機成分量を差し引いて金属粒子(A1)の質量M[g]を求める。被覆金属粒子(A)1g中の金属粒子(A1)の数は下式(b)で表される。
[金属粒子(A1)の数]=M/[(4πr/3)×d×10-21] ・・・(b)
ここで、Mは被覆金属粒子(A)1gに含まれる金属粒子(A1)の質量[g]であり、rはSEM画像観察により算出した一次粒子径の半径[nm]であり、dは金属の密度[g/cm]である(銅の場合d=8.94)。被覆金属粒子(A)1gに含まれる金属粒子(A1)の表面積は式(b)から、下式(c)で表される。
[金属粒子(A1)の表面積(nm)]=[金属粒子(A1)の数]×4πr ・・・(c)
以上から、被覆分子(A2)による金属粒子(A1)の被覆密度[個/nm]は、式(a)及び式(c)を用いて、下記式(d)で算出される。
[被覆密度]=[被覆分子(A2)の分子数]/[金属粒子(A)の表面積]・・・(d)
【0033】
被覆金属粒子(A)における被覆分子(A2)と金属粒子(A1)との結合状態は、イオン性結合であっても物理吸着であってもよい。被覆分子(A2)は、被覆金属粒子(A)の焼結性の観点から、金属粒子(A1)の表面に物理吸着していることが好ましく、金属粒子(A1)の表面にカルボキシ基、又はアルデヒド基で物理吸着していることが好ましい。
【0034】
被覆分子(A2)が金属粒子(A1)に物理吸着していることは、被覆金属粒子(A)の表面組成を分析することで確認できる。具体的には、被覆金属粒子(A)について飛行時間型二次イオン質量分析法(ToF-SIMS)表面分析を行い、実質的に遊離の被覆分子(A2)のみが検出され、金属原子と結合している被覆分子(A2)が実質的に検出されないことで確認することができる。ここで、金属原子と結合している被覆分子(A2)が実質的に検出されないとは、金属粒子(A1)に付着している被覆分子(A2)のシグナル量が、遊離の被覆分子(A2)のシグナル量に対して5%以下であること意味し、1%以下であることが好ましい。
【0035】
また、被覆分子(A2)が、カルボキシ基、又はアルデヒド基で金属粒子(A1)の表面に物理吸着していることは、被覆金属粒子(A)について、赤外吸収スペクトル測定を行い、実質的にC-O-金属塩由来の伸縮振動ピークのみが観測され、遊離のカルボン酸等に由来する伸縮振動ピークが実質的に観測されないことで確認することができる。
【0036】
被覆金属粒子(A)の粒子径は、用途等に応じて適宜選択することができる。被覆金属粒子(A)の平均一次粒子径は、分散性、導電性、及びひび割れ抑制の観点から、0.02μm以上5μm以下であることが好ましく、0.03μm以上5μm以下であることがより好ましく、0.04μm以上2.5μm以下であることが更により好ましい。
被覆金属粒子(A)の平均一次粒子径は、SEM観察による任意の20個の被覆金属粒子の一次粒子径の算術平均値DSEMとして算出される。
また、被覆金属粒子(A)の粒度分布の変動係数(標準偏差SD/平均一次粒子径DSEM)の値は例えば、0.01~0.5であり、0.05~0.3が好ましい。特に、後述する被覆金属粒子の製造方法で製造されていることで、粒度分布の変動係数が小さく、粒子径の揃った状態とすることができる。被覆金属粒子(A)の粒度分布の変動係数が小さいことで、分散性に優れ、高濃度の分散物を得ることが可能となる。
【0037】
本実施形態で用いられる被覆金属粒子(A)は、耐酸化性と焼結性に優れ、得られる焼結体は高い接合強度及び電気伝導性を示す。そのため、基材上に印刷して配線パターン等を形成する金属粒子分散液に好適に用いることができる。
【0038】
本実施形態の金属粒子分散液に含まれる被覆金属粒子(A)の割合は、金属含有率が40質量%以下となる範囲で適宜変更することができる。例えば、金属粒子分散液の全量に対する金属含有率を5~40質量%とすることができ、好ましくは10~35質量%とすることができ、より好ましくは15~30質量%とすることができる。上記の含有量とすることで、薄膜化した焼結体を得ることができる。
【0039】
<被覆金属粒子の製造方法>
本実施形態で用いられる被覆金属粒子(A)は、上記特定の金属粒子(A1)となる金属を含む金属カルボン酸塩と、上記特定の脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドから選択される1種以上の分子を用いて製造される。例えば、前記特許文献2の段落0052から段落0101、及び、段落0110~0114等の記載を参考にして製造することができる。あるいは、特開2016-069716号公報の段落0031から段落0066まで、及び段落0085等の記載を参考にして製造することができる。
被覆金属粒子(A)の好ましい製造方法においては、金属カルボン酸塩と、被覆分子(A2)と、媒体を含む反応液を準備し、当該反応液中で生成する錯化合物を熱分解処理して、被覆金属粒子(A)を得ることができる。当該製造方法では、金属粒子(A1)の表面に被覆分子(A2)が2.5~5.2個/nmの密度で被覆された被覆金属粒子(A)を得ることができる。
【0040】
前記金属カルボン酸塩におけるカルボン酸は、金属の種類や金属カルボン酸塩の製造容易性などの観点から適宜選択することができる。用いられるカルボン酸としては、ギ酸、シュウ酸、クエン酸等が挙げられる。また金属の種類に応じて、カルボン酸の代わりに炭酸を用いてもよい。金属として銅を用いる場合には、金属カルボン酸塩としてギ酸銅を用いることが好ましい。また、金属として銀を用いる場合には、金属カルボン酸塩として、ギ酸銀、シュウ酸銀、炭酸銀、クエン酸銀などを用いることができ、中でも熱分解温度が高いことから、シュウ酸銀を用いることが好ましい。金属カルボン酸塩を構成する金属については、前記金属粒子(A1)と同様とすることができる。
【0041】
上記反応液中に、金属カルボン酸塩と錯形成可能なアミノアルコールを含有することが好ましい。金属カルボン酸塩とアミノアルコールとが錯形成することで、後述する媒体への溶解性が向上する。
アミノアルコールは、少なくとも1つのアミノ基を有するアルコール化合物であればよい。アミノアルコールは、モノアミノモノアルコール化合物であることが好ましく、アミノ基が無置換のモノアミノモノアルコール化合物であることがより好ましい。またアミノアルコールは、単座配位性のモノアミノモノアルコール化合物であることも好ましい。好ましいアミノアルコールの具体例としては、2-アミノエタノール、3-アミノ-1-プロパノール、5-アミノ-1-ペンタノール、DL-1-アミノ-2-プロパノール、N-メチルジエタノールアミン等が挙げられる。
【0042】
反応液を構成する媒体は、金属カルボン酸塩の金属の還元を阻害しないものの中から、適宜選択して用いることができる。当該媒体は、通常、有機溶媒である。媒体は、少なくともアミノアルコールと相溶性の低い主媒体を有し、必要に応じて、アミノアルコールと相溶可能な補助媒体を有していてもよい。
【0043】
好ましい主媒体としては、エチルシクロへキサン、C9系シクロへキサン[丸善石油製、商品名:スワクリーン#150]、n-オクタン等が挙げられる。媒体は、1種単独で、又は2種以上を組合せて用いることができる。
好ましい補助媒体としては、EO(エチレンオキサイド)系グリコールエーテル、PO(プロピレンオキサイド)系グリコールエーテル、ジアルキルグリコールエーテルなどのグリコールエーテルを挙げることができる。
主媒体、及び、補助媒体は、各々独立に、1種単独で、又は2種以上を併用して用いることができる。
【0044】
反応液中に生成する錯化合物としては、金属イオンと、配位子としてカルボン酸及びアミノアルコールを含むことが好ましい。配位子としてアミノアルコールを含むことで、錯化合物の熱分解温度が低下する。
反応液中に生成した錯化合物は、熱分解処理によって還元された金属を生成する。熱分解処理の温度は、上述の通りアミノアルコールが配位した錯化合物の熱分解温度を考慮して適宜調整すればよい。熱分解処理の温度を低く設定することにより、被覆分子(A2)とアミノアルコールとの脱水反応による酸アミドの生成が抑制され、得られる被覆金属粒子(A)の洗浄性が向上する傾向がある。
【0045】
錯化合物の熱分解処理により還元された金属が生成して成長し、得られた金属粒子(A1)の表面に反応液中に存在する被覆分子(A2)が吸着することで、被覆分子(A2)で表面が被覆された被覆金属粒子(A)が得られる。金属粒子(A1)の表面への被覆分子(A2)の吸着は、物理吸着であることが好ましい。これにより被覆金属粒子(A)の焼結性が向上する。錯化合物の熱分解処理において金属酸化物の生成を抑制することで、被覆分子(A2)の物理吸着が促進される。
【0046】
被覆金属粒子(A)の製造方法において、生成する被覆金属粒子(A)の粒度分布を制御する因子としては、例えば、被覆分子(A2)の種類と添加量、金属カルボン酸塩の濃度及び媒体の比率(主媒体/補助媒体)等で決定される。被覆金属粒子(A)の大きさを制御する因子は、金属核発生数を支配する昇温速度、すなわち反応系への投入熱量とミクロ反応場の大きさと関係する攪拌速度を適切に保つことで揃えることができる。
【0047】
<分散剤>
本実施形態で用いられる分散剤(B)は、脂肪族基(B1)と極性基(B2)とを有する。分散剤(B)は、脂肪族基(B1)と極性基(B2)とを有していれば、低分子であっても高分子であってもよい。分散剤(B)の分子量は特に限定されるものではないが、被覆分子(A2)と十分な相互作用を得られる点から、100以上であることが好ましく、200以上であることがより好ましく、220以上であることがさらにより好ましい。また、金属粒子(A1)と相互作用して被覆金属粒子(A)の分散性を向上させる点から、分散剤(B)の分子量は、10000以下であることが好ましく、5000以下であることがより好ましく、1000以下であることがさらにより好ましい。
【0048】
分散剤(B)の熱分解温度又は気化する温度は、特に限定されないが、常温よりも高く、金属粒子分散液の塗膜の焼結温度よりも低いことが好ましい。例えば、分散剤(B)の熱分解温度又は気化する温度が100℃より高いことが好ましく、150℃より高いことがより好ましく、200℃より高いことが更により好ましい。また、分散剤(B)の熱分解温度又は気化する温度は、500℃以下であることが好ましく、450℃以下であることがより好ましく、400℃以下であることが更により好ましい。
このような条件においては、常温において分散剤(B)が気化しないため、金属粒子分散液の取り扱い性に優れる。また、金属粒子分散液の塗膜の焼結温度において分散剤(B)が熱分解又は気化するため、焼結体内に分散剤(B)が残留しにくく、電気伝導性に優れるとともに膜厚が薄い焼結体を形成することができる。
【0049】
脂肪族基(B1)は、被覆金属粒子(A)の被覆分子(A2)と相互作用する基であって、例えば、直鎖、分枝、若しくは環状構造を有する炭化水素基、またはポリオキシアルキレン基等が挙げられる。本実施形態においては、被覆金属粒子(A)の被覆分子(A2)と相互作用しやすい点から、脂肪族基(B1)は、分枝及び環状構造を有しない、直鎖脂肪族炭化水素基であることが好ましい。また、脂肪族基(B1)は、不飽和結合として二重結合又は三重結合を有していてもよいが、被覆金属粒子(A)の被覆分子(A2)と相互作用しやすい点から、不飽和結合を有していないことが好ましい。脂肪族炭化水素基が不飽和結合を有する場合、当該不飽和結合は二重結合であることが好ましい。また、その個数は、1分子中に1~3個であることが好ましく、1~2個であることがより好ましく、1個であることが更により好ましい。
【0050】
分散剤(B)の有する脂肪族基(B1)は、炭素原子数が3以上であることが好ましく、5以上であることがより好ましく、7以上であることが更により好ましい。脂肪族基(B1)の炭素原子数が3以上であることにより、被覆分子(A2)との親和性が向上する。一方、脂肪族基(B1)の炭素原子数は20以下であることが好ましく、19以下であることがより好ましく、17以下であることが更により好ましい。炭素原子数が20以下であることにより、分散剤(B)が金属粒子分散液の塗膜の焼結時に除去されやすく、電気伝導性に優れるとともに膜厚が薄い焼結体を得ることができる。
【0051】
分散剤(B)1分子あたりの脂肪族基(B1)の個数は、特に限定されないが、2つ以上であることが好ましい。分散剤(B)が2つ以上の脂肪族基(B1)を有する場合、分散剤(B)と被覆金属粒子(A)との相互作用が得られやすく、被覆金属粒子(A)と分散剤(B)との親和性が向上する。したがって、被覆金属粒子(A)の沈降が抑制され、被覆金属粒子(A)の分散性が向上する。
さらに、分散剤(B)が2つ以上の脂肪族基(B1)を有する場合、一部の脂肪族基(B1)は極性溶媒(C)の主鎖とファンデルワールス相互作用などによって親和することができる。したがって、分散剤(B)と極性溶媒(C)との相溶性をさらに高めることができる。
【0052】
分散剤(B)1分子あたりの脂肪族基(B1)の個数が1つである場合は、脂肪族基(B1)の炭素原子数は8以上であることが特に好ましい。脂肪族基(B1)の炭素原子数が12以上であることによって、被覆分子(A2)との相互作用が得られやすく、被覆金属粒子(A)と分散剤(B)との親和性が向上する。したがって、脂肪族基(B1)の個数が1つであっても十分に被覆金属粒子(A)の沈降が抑制され、被覆金属粒子(A)の分散性が向上する。
【0053】
また、分散剤(B)は、極性基(B2)を1つまたは複数有している。分散剤(B)の有する極性基(B2)としては、例えば、カルボキシ基、アミノ基、ヒドロキシ基、アルデヒド基、カルボニル基、ニトロ基、スルホン基、及びこれらの塩や、エステル結合等が挙げられる。中でも、極性溶媒(C)との相溶性の観点から、極性基(B2)はカルボキシ基及びアミノ基から選択される1種以上であることが好ましい。さらに、極性基(B2)がアミノ基である場合は、極性溶媒(C)との相溶性の観点から、一級アミンまたは二級アミンであることが好ましい。
【0054】
分散剤(B)1分子あたりの極性基(B2)の個数は、特に限定されないが、2つ以上であることが好ましい。分散剤(B)が複数の極性基(B2)を有する場合、それぞれの極性基(B2)に極性溶媒(C)の極性基が配位できる。したがって分散剤(B)と極性溶媒(C)との相互作用が大きくなり、分散剤(B)と極性溶媒(C)との相溶性をさらに高めることができる。
【0055】
低分子の分散剤(B)としては、例えば、ラウリルアミン、トリデシルアミン、ミリスチルアミン、ペンタデシルアミン、セチルアミン、ヘプタデシルアミン、ステアリルアミン、ノナデシルアミン、オレイルアミン、ラウリル酸、トリデシル酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、ヘプタデシル酸、ステアリン酸、ノナデシル酸、アラキジン酸、オレイン酸、及びそれらの誘導体から選択される1種以上を用いることができ、中でも、被覆金属粒子(A)及び後述する極性溶媒(C)との相溶性に優れる点から、ラウリルアミン、オレイン酸、及びそれらの誘導体から選択される1種以上を用いることが好ましい。ラウリルアミンの誘導体としては、例えばラウリルモノエタノールアミン(C1225NHCOH)やラウリルジエタノールアミン(C1225N(COH))を用いることができる。また、オレイン酸の誘導体としては、例えばオレオイルザルコシン(CH(CHCH=CH(CHCON(CH)CHCOOH)を用いることができる。
【0056】
高分子の分散剤(B)としては、例えば、図1に示すように、ポリマー主鎖(B0)から脂肪族基(B1)及び極性基(B2)が分岐した構造を有する高分子を用いることができる。図1は、分散剤(B)に高分子を用いた場合の、被覆金属粒子(A)と分散剤(B)との相溶体を表す模式図である。
具体的な高分子の分散剤(B)としては、例えば、アミン化合物、ポリカルボン酸、ポリビニルアルコール、ポリアルデヒド、ポリエステル、及びそれらの塩から選択される1種以上を用いることができ、中でも、被覆金属粒子(A)及び後述する極性溶媒(C)との相溶性に優れる点から、ポリアミン、及びポリカルボン酸から選択される1種以上を用いることが好ましい。ポリアミンとしては、エスリームAD-508E(日油株式会社製)を用いることができる。例えばポリカルボン酸としては、例えばマリアリムSC-0708Aやエスリーム221J(いずれも日油株式会社製)を用いることができる。
【0057】
被覆金属粒子(A)に対する分散剤(B)の含有割合は、特に制限されないが、0.1質量%以上とすることが好ましく、1質量%以上とすることがより好ましい。このような条件においては、分散剤(B)によって被覆金属粒子(A)がよく分散される。また、被覆金属粒子(A)に対する分散剤(B)の含有割合は、50質量%以下とすることが好ましく、30質量%以下とすることがより好ましい。このような条件においては、被覆金属粒子(A)の濃度が十分に保たれるため、高い電気伝導性を有する焼結体を形成することができる。
【0058】
<極性溶媒>
本実施形態で用いられる極性溶媒(C)は、主鎖の骨格の炭素原子数が3以上であって、当該主鎖の骨格の一方の末端に極性基を有する溶媒である。極性溶媒(C)は、25℃、1気圧のもとで液体である。極性溶媒(C)の分子量は特に限定されるものではないが、焼結時に容易に揮発する点から、300未満であることが好ましく、250未満であることがより好ましく、220未満であることが更により好ましい。
【0059】
極性溶媒(C)は、極性基を主鎖の末端に有しているため、分散剤(B)の極性基(B2)に対して効率よく配位することができる。また、主鎖の骨格の炭素原子数が3以上であるため、分散剤(B)の脂肪族基(B1)との間で生じるファンデルワールス力が大きい。したがって、分散剤(B)と極性溶媒(C)との相溶性を向上させることができ、被覆金属粒子(A)の分散性を向上できる。
【0060】
極性溶媒(C)の沸点は、特に限定されないが、常温よりも高く、金属粒子分散液の塗膜の焼結温度よりも低いことが好ましい。例えば、極性溶媒(C)の沸点が30℃以上であることが好ましく、50℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることが更により好ましい。また、極性溶媒(C)の沸点が300℃以下であることが好ましく、250℃以下であることがより好ましく、200℃以下であることが更により好ましい。
このような条件においては、常温において極性溶媒(C)が気化しないため、金属粒子分散液の取り扱い性に優れる。また、金属粒子分散液の塗膜の焼結温度において極性溶媒(C)が気化するため、焼結体内に極性溶媒(C)が残留しにくく、電気伝導性及び熱伝導性に優れた焼結体を形成することができる。
【0061】
極性溶媒(C)の主鎖は、直鎖、分枝、又は環状構造を有する炭化水素基である。本実施形態においては、分散剤(B)の脂肪族基(B1)と相互作用しやすい点から、主鎖は、分枝及び環状構造を有しない、直鎖脂肪族炭化水素基であることが好ましい。また、主鎖は、不飽和結合として二重結合又は三重結合を有していてもよいが、分散剤(B)の脂肪族基(B1)と相互作用しやすい点から、不飽和結合を有していないことが好ましい。脂肪族炭化水素基が不飽和結合を有する場合、当該不飽和結合は二重結合であることが好ましい。また、その個数は、1分子中に1~3個であることが好ましく、1~2個であることがより好ましく、1個であることが更により好ましい。
【0062】
極性溶媒(C)の有する主鎖の炭素原子数は、3以上であれば特に限定されないが、4以上であることが好ましく、6以上であることがより好ましい。一方、主鎖の炭素原子数は18以下であることが好ましく、16以下であることがより好ましく、14以下であることが更により好ましい。炭素原子数が18以下であることにより、極性溶媒(C)が金属粒子分散液の塗膜の焼結時に除去されやすく、電気伝導性に優れた導電体を得ることができる。
【0063】
極性溶媒(C)の有する極性基は、特に限定されないが、分散剤(B)との相溶性の観点から、極性が比較的高い極性基であることが好ましい。具体的には、極性溶媒(C)は、脂肪族アルコール類、脂肪族アミノアルコール類、脂肪族カルボン酸類、脂肪族アミン類、脂肪族エーテル類、脂肪族アセテート類、脂肪族チオール類、及び脂肪族シラノール類からなる群から選択される1種以上を含むことが好ましく、特に、脂肪族アルコール類、脂肪族アミノアルコール類、脂肪族アミン類からなる群から選択される1種以上を含むことがより好ましく、脂肪族アルコール類から選択される1種以上を含むことが更により好ましい。これらの極性溶媒(C)は比較的高い極性を有するため、分散剤(B)との相溶性が高い。
【0064】
極性溶媒(C)として脂肪族アルコールを用いる場合、例えば、1-プロパノール、1-ブタノール、1-ペンタノール、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-テトラデカノール、1-ペンタデカノール、1-ヘキサデカノール、1-ヘプタデカノール、1-オクタデカノール、及びこれらの混合物から選択されることが好ましく、特に、分散剤(B)との相溶性の観点から、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、1-ノナノール、1-デカノール、1-ウンデカノール、1-ドデカノール、1-トリデカノール、1-テトラデカノール、及びこれらの混合物から選択されることがより好ましく、1-ヘキサノール、1-ヘプタノール、1-オクタノール、及びこれらの混合物から選択されることが更により好ましい。
【0065】
また、極性溶媒(C)の種類は、分散剤(B)との組み合わせにより適宜選択することができる。例えば、分散剤(B)の極性基(B2)がカルボニル基等の酸性を示す官能基である場合、極性溶媒(C)には脂肪族アミン類等の塩基性の溶媒を用いることが好ましい。この場合、分散剤(B)と極性溶媒(C)との間でイオン結合が生じるため、より分散剤(B)と極性溶媒(C)との相溶性を高めることができる。また、分散剤(B)の極性基(B2)がアミノ基等の塩基性を示す官能基である場合、極性溶媒(C)には脂肪族カルボン酸等の酸性の溶媒を用いることが好ましい。この場合にも、分散剤(B)と極性溶媒(C)との間でイオン結合が生じるため、より分散剤(B)と極性溶媒(C)との相溶性を高めることができる。
【0066】
また、極性溶媒(C)がプロトン性の溶媒であるとき、分散剤(B)は水に可溶であることが好ましい。この場合、プロトン性の溶媒である極性溶媒(C)と、水に可溶な分散剤(B)との間で水素結合等が生じるため、分散剤(B)と極性溶媒(C)との相溶性をより高めることができる。
プロトン性の極性溶媒(C)としては、例えば脂肪族アルコール類、脂肪族アミノアルコール類、脂肪族カルボン酸類、脂肪族アミン類、脂肪族チオール類、及び脂肪族シラノール類からなる群から選択される1種以上を含む溶媒が挙げられる。
また、水に可溶な分散剤(B)の例としては、例えばラウリルモノエタノールアミン(C1225NHCOH)やラウリルジエタノールアミン(C1225N(COH))等のポリオキシエチレン-ラウリルアミン系化合物、アミン化合物、ポリカルボン酸、ポリビニルアルコール、ポリアルデヒド、及びそれらの塩からなる群から選択される1種以上を含む分散剤が挙げられる。
また、分散剤(B)が水に可溶である場合、分散剤(B)の溶解量は、20℃の水100gに対して0.5g以上であることが好ましく、1g以上であることがより好ましく、5g以上であることが更により好ましい。
【0067】
金属粒子分散液の全量に対する極性溶媒(C)の含有割合は、特に制限されないが、40質量%以上95質量%以下とすることが好ましく、50質量%以上95質量%以下とすることがより好ましい。このような条件においては、被覆金属粒子(A)がよく分散されるとともに、金属含有率を抑えることができるため、薄膜の焼結体を形成することができる。
【0068】
<他の成分>
本発明に係る金属粒子分散液は、上述した被覆金属粒子(A)と、分散剤(B)と、極性溶媒(C)と、を含有するものであり、本発明の効果を損なわない範囲で、必要に応じて更に他の成分を含有してもよいものである。他の成分としては例えば、分散剤(B)以外の分散剤、極性溶媒(C)以外の溶媒、増粘剤、硬化性化合物等が挙げられる。これらの溶媒や分散剤、及び増粘剤を組み合わせることにより、例えば金属粒子分散液のレオロジー特性等を調整することができる。また、硬化性化合物を組み合わせることにより、例えば金属粒子分散液を光や熱で硬化させ、任意の形状で固定させることができる。
【0069】
分散剤(B)、極性溶媒(C)、分散剤(B)以外の分散剤、極性溶媒(C)以外の溶媒、及び増粘剤の混合物の粘度は、例えば、25℃、10rpmにおける粘度を0.01Pa・s以上500Pa・s以下の範囲で適宜調整することができ、0.01Pa・s以上50Pa・s以下であることが好ましい。
【0070】
(他の溶媒)
本実施形態に係る金属粒子分散液に含有できる溶媒としては、前記極性溶媒(C)と相溶性の高い溶媒が挙げられる。当該溶媒としては、例えば、炭化水素系溶媒のような無極性有機溶媒や、主鎖骨格の炭素原子数が2以下の脂肪族アルコール類、脂肪族アミノアルコール類、脂肪族カルボン酸類、脂肪族アミン類、脂肪族エーテル類、脂肪族アセテート類、脂肪族チオール類、及び脂肪族シラノール類のような極性有機溶媒等が挙げられ、これらから選択される1種または2種以上の混合物を用いることができる。
【0071】
(増粘剤)
本実施形態に係る金属粒子分散液は、ポリメタクリル酸系増粘剤等の、公知の増粘剤を含有してもよい。ただし、焼結時の熱伝導性を保つ観点から、金属粒子分散液に含まれる増粘剤の含有量は全量の0.3質量%以下であることが好ましく、全量の0.1質量%以下であることがより好ましく、増粘剤を実質的に含有しないことが更により好ましい。なお、増粘剤を実質的に含有しないとは、例えば、増粘剤が全量の0.01質量%以下であることをいい、好ましくはゲル浸透クロマトグラフィー測定において検出限界以下であることをいう。
【0072】
(硬化性化合物)
本実施形態に係る金属粒子分散液は、光硬化性を備える光硬化性ポリマー、光硬化性オリゴマー、又は光硬化性モノマー(光硬化性化合物)や熱硬化性を備える熱硬化性ポリマー、熱硬化性オリゴマー、又は熱硬化性モノマー(熱硬化性化合物)、あるいはそれらの混合物等の、公知の硬化性化合物を含有してもよい。例えば、特開2012-077383号公報、特開2012-144641号公報、特開2016-194641号公報等に記載の硬化性化合物を使用することができる。
【0073】
熱硬化性化合物としては、例えば、例えば、エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、ジアリルフタレート樹脂、グアナミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン樹脂、アミノアルキド樹脂、ケイ素樹脂、ポリシロキサン樹脂等を用いることができる。
【0074】
熱硬化性化合物としては、例えば、分子内にエポキシ基を有するエポキシ樹脂が好ましい。エポキシ基としては、グリシジル基のような脂肪族エポキシ基であっても、エポキシシクロヘキシル基のような脂環式エポキシ基であってもよい。当該エポキシ樹脂は、特に限定されず、ビスフェノールA型エポキシ樹脂、ビスフェノールF型エポキシ樹脂、ビスフェノールS型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、クレゾールノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールAノボラック型エポキシ樹脂、ビスフェノールFノボラック型エポキシ樹脂、脂環式エポキシ樹脂、脂肪族鎖状エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ヒダントイン型エポキシ樹脂、イソシアヌレート型エポキシ樹脂、トリフェノールメタン骨格を有するフェノールノボラック型エポキシ樹脂が挙げられる。その他、二官能フェノール類のジグリシジルエーテル化物、二官能アルコール類のジグリシジルエーテル化物及びそれらのハロゲン化物、水素添加物等も使用することができる。多官能エポキシ樹脂も使用することができ、例えば、三官能及び四官能エポキシ樹脂等が挙げられる。
【0075】
また、光硬化性化合物としては、例えば、(メタ)アクリル系ポリマー、オリゴマー、若しくはモノマー、またはビニル系ポリマー、オリゴマー、若しくはモノマー、またはアリル系ポリマー、オリゴマー、若しくはモノマー、またはスチレン系ポリマー、オリゴマー、若しくはモノマー、及びこれらの混合物や、これらとエポキシ系化合物との反応により得られるポリマー、オリゴマー、若しくはモノマー等が挙げられ、単独または2種以上を混合して使用することができる。なお、本明細書中において、(メタ)アクリルとは、アクリル及びメタアクリルの各々を表し、(メタ)アクリレートとは、アクリレート及びメタアクリレートの各々を表す。
【0076】
硬化性化合物としては、中でも、(メタ)アクリレート系ポリマー、オリゴマー、若しくはモノマー、又は(メタ)アクリル化エポキシ系ポリマー、オリゴマー、若しくはモノマー、が好ましい。
【0077】
(メタ)アクリレート系オリゴマーは、(メタ)アクリレート基を分子末端または側鎖に1つ以上有するオリゴマーであり、例えば、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート、ポリエステル(メタ)アクリレート、メラミン(メタ)アクリレート等が挙げられる。
【0078】
また、(メタ)アクリレート系モノマーは、(メタ)アクリレート基を分子末端または側鎖に1つ以上有するモノマーであり、例えば、ジシクロペンタジエンモノ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタジエンエトキシ(メタ)アクリレート、イソボニル(メタ)アクリレート、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、N-ビニルピロリドン、2-エチルヘキシル(メタ)アクリレート、ブトキシエチル(メタ)アクリレート、シクロペンタニル(メタ)アクリレート、ベンジル(メタ)アクリレート、メトキシエチレングリコール(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド付加物のジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールAジグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸付加物、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、グリセリンジ(メタ)アクリレート、ジグリセリンエチレンオキサイド変性(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンーエチレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル・(メタ)アクリル酸付加物、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ジペンタエリスリトールヒドロキシペンタ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレートなどの(メタ)アクリレートモノマー、等が挙げられる。
【0079】
また、(メタ)アクリル化エポキシ系ポリマーは、エポキシ系ポリマーと(メタ)アクリル酸の反応により得るポリマーである。具体的には、エポキシ系ポリマーに所定の当量比の(メタ)アクリル酸と触媒(例えば、ベンジルジメチルアミン、トリエチルアミン、ベンジルトリメチルアンモニウムクロライド、トリフェニルホスフィン、トリフェニルスチビン等)と、重合防止剤(例えば、メトキノン、ハイドロキノン、メチルハイドロキノン、フェノチアジン、ジブチルヒドロキシトルエン等)を添加して、例えば80~110℃でエステル化反応を行うことにより、エポキシ基の全部を(メタ)アクリル化することができる。原料となるエポキシ系ポリマーは、特に限定されず、2官能以上のエポキシ系ポリマーが好ましい。具体的には、例えば前記熱硬化性化合物として用いられる前記エポキシ樹脂で例示したもの等があげられる。
【0080】
また、硬化性化合物は、光硬化性及び熱硬化性の両方を備えるポリマー、オリゴマー、若しくはモノマーであってもよい。光硬化性及び熱硬化性の両方を備えるポリマー、オリゴマー、若しくはモノマーとしては、中でも、分子内にエチレン性不飽和結合とエポキシ基とを有する化合物が好ましい。光硬化性及び熱硬化性を備える硬化性化合物におけるエチレン性不飽和結合としては、ビニル基、アリル基、(メタ)アクリロイル基などが挙げられる。
【0081】
なお、硬化性化合物として光硬化性化合物を用いる場合は、併せて、当該光硬化性化合物の光重合を促進する光重合開始剤を含めることが好ましい。当該光重合開始剤は、紫外や可視光等の光の照射により、前記光硬化性化合物の重合反応を促進するものであれば特に限定されず、公知の光重合開始剤の中から適宜選択して用いることができる。例えば、光照射によってラジカルを発生させる化合物を光重合開始剤として用いることができる。
【0082】
紫外光に反応する光重合開始剤としては、ベンゾイン系化合物、ベンゾフェノン系化合物、アセトフェノン系化合物等を用いることができる。具体的には、ベンゾフェノン、4-フェニルベンゾフェノン、ベンゾイル安息香酸、及びビスジエチルアミノベンゾフェノンなどのベンゾフェノン系重合開始剤;2,2-ジエトキシアセトフェノンなどのアセトフェノン系重合開始剤;ベンジル、ベンゾイン、及びベンゾインイソプロピルエーテルなどのベンゾイン系重合開始剤;ベンジルジメチルケタールなどのアルキルフェノン系重合開始剤;チオキサントンなどのチオキサントン系重合開始剤;1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、1-(4-イソプロピルフェニル)2-ヒドロキシ-2-メチルプロパン-1-オン、1-(4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル)-2-ヒドロキシ-2-メチル-1―プロパン-1-オン、及び2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニルプロパン-1-オンなどのヒドロキシアルキルフェノン系重合開始剤が挙げられる。
【0083】
また、可視光に反応する光重合開始剤としては、アシルホスフィンオキサイド系化合物、チオキサントン系化合物、メタロセン系化合物、キノン系化合物等を用いることができる。具体的には、2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルホスフィンオキサイド、及びビス(2,6-ジメトキシベンゾイル)-2,4,4-トリメチル-ペンチルホスフィンオキサイドなどのアシルホスフィンオキサイド系光開始剤;カンファーキノン、2-メチル-1-(4-(メチルチオ)フェニル)-2-モルフォリノプロパン-1-オン、及び2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン-1などのケトン系重合開始剤等が挙げられる。
【0084】
[金属粒子分散液の用途]
本発明の金属粒子分散液は、金属含有率が比較的小さいため、例えば塗膜して焼結させることによって、薄膜の導電体を形成することができる。また、本発明の金属粒子分散液の焼結体は被覆金属粒子(A)の分散性にも優れるため、導電性インクとしても好適に用いることができる。
【実施例
【0085】
以下、本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0086】
<SEM画像観察>
測定装置:日本電子製FE-EPMA JXA-8500F
測定条件:加速電圧 15~20kV
観察倍率 ×1,500~×30,000
【0087】
<平均一次粒子径及び変動率の計算>
測定装置:日本電子製FE-EPMA JXA-8500F
平均一次粒子径:サンプル20点の平均値
変動率:サンプル20点の標準偏差/平均値で計算される値
【0088】
<熱重量・示差熱(TG-DTA)分析>
測定装置:リガク社製TG8120
昇温速度:10℃/min
測定温度範囲:25~500℃
測定雰囲気:窒素(250ml/min)
【0089】
<粉末X線回折(XRD)分析>
測定装置:リガク社製Smartlab
管電圧:45kV
管電流:200mA
【0090】
[被覆金属粒子及び金属粒子分散液の製造]
【0091】
(製造例1)被覆銅粒子Cu1の製造
攪拌機、温度計、還流冷却管、および窒素導入管を備えた3000mLガラス製四ツ口フラスコを150℃のオイルバス内に設置した。
上記フラスコ内に、ギ酸銅無水物484g(3.1モル)と、カプリル酸(関東化学社製)98g(0.2当量/ギ酸銅無水物)と、媒体(補助媒体)としてのトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製)150g(0.2当量/ギ酸銅無水物)と、媒体(主媒体)としての石油系炭化水素(C9アルキルシクロヘキサン混合物)(ゴードー社製「スワクリーン150」)562g(1.4当量/ギ酸銅無水物)とを仕込んだ。窒素雰囲気下、上記フラスコ内の内容物をオイルバスで加温しながら、液温度が50℃になるまで、攪拌しながら、混合した。
上記混合物に対して、錯化剤として3-アミノ-1-プロパノール(東京化成社製)712g(3.0当量/ギ酸銅無水物)をゆっくり滴下した。滴下終了後、フラスコの内容物をオイルバスで加温して、液温度が120℃付近になるまで、攪拌しながら、混合した。液温度の上昇に伴って、反応液は濃青色から茶褐色に変化し、炭酸ガスの発泡が生じた。炭酸ガスの発泡が収まった時点を反応終点として、オイルバス温調を停止し、室温まで自然冷却した。
室温まで冷却した上記反応液に対して、メタノール(関東化学社製)1200gを添加し、混合した。得られた混合液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。上記沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)1200gと、アセトン(関東化学社製)390gとを添加し、混合した。得られた混合液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。これらの操作(メタノールおよびアセトンの添加とデカンテーション)をさらにもう一回繰り返した。
得られた沈殿物を、メタノール(関東化学社製)400gを用いて500mLナスフラスコに移した。これを30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションした。
得られた沈殿物に対して、イソ酪酸3-ヒドロキシ-2,2,4-トリメチルペンチル18gを添加し、混合した。その後、ナスフラスコを回転式エバポレータに設置し、内容物を減圧乾燥(真空乾燥)した。減圧乾燥(真空乾燥)後、室温まで自然冷却した後、ナスフラスコ内を窒素置換しながら減圧解除した。以上のようにして、200gの茶褐色粘稠体の被覆銅粒子Cu1を得た。
【0092】
(製造例2)被覆銀粒子Ag1の製造
スターラーバー、温度計、および還流冷却管を備えた300mLガラス製ナスフラスコを100℃のオイルバス内に設置した。
上記フラスコ内に、シュウ酸銀無水物30g(0.1モル)と、ウンデカン酸(関東化学社製)6g(0.3当量/シュウ酸銀無水物)と、媒体(補助媒体)としてのトリプロピレングリコールモノメチルエーテル(東京化成社製)10g(0.5当量/シュウ酸銀無水物)と、媒体(主媒体)としての石油系炭化水素(C9アルキルシクロヘキサン混合物)(ゴードー社製「スワクリーン150」)54g(4.3当量/シュウ酸銀無水物)とを仕込んだ。窒素雰囲気下、上記フラスコ内の内容物をオイルバスで加温しながら、液温度が50℃になるまで、攪拌しながら混合した。
上記混合物に対して、錯化剤として3-アミノ-1-プロパノール(東京化成社製)52g(7.0当量/シュウ酸銀無水物)をゆっくり滴下した。滴下終了後、フラスコの内容物をオイルバスで加温して、液温度が85℃付近になるまで、攪拌しながら混合し、さらにこの温度での加熱攪拌を続けた。滴下終了後から3時間後にオイルバスの加熱を停止して反応を終了し、反応液を室温まで自然冷却した。
室温まで冷却した上記反応液に対して、メタノール(関東化学社製)160gを添加し、混合した。得られた混合液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。上記沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)80gと、アセトン(関東化学社製)80gとを添加し、混合した。得られた混合液を30分間以上静置した後、上澄み液をデカンテーションして、沈殿物を得た。これらの操作(メタノールおよびアセトンの添加とデカンテーション)をさらにもう一回繰り返した。
得られた沈殿物に対して、メタノール(関東化学社製)80gとイソ酪酸3-ヒドロキシ-2,2,4-トリメチルペンチル1.7gとを添加し、混合した。これをナスフラスコに入れ、回転式エバポレータに設置し、内容物を減圧乾燥(真空乾燥)した。減圧乾燥(真空乾燥)後、室温まで自然冷却した後、ナスフラスコ内を窒素置換しながら減圧解除した。以上のようにして、18gの銀色の被覆銀粒子Ag1を得た。
【0093】
(被覆金属粒子の評価)
被覆金属粒子の物性評価は、TG-DTA測定、XRD測定、SEM観測によって実施した。各被覆金属粒子の平均一次粒子径、被覆分子の被覆量及び被覆密度の結果を表1に示す。
【0094】
【表1】
【0095】
(実施例1)
製造例1で得られた被覆銅粒子Cu1を4.8質量部と、分散剤(マリアリムSC-0708A:日油株式会社製)0.2質量部と、極性溶媒であるヘキサノール(関東化学株式会社製)15.0質量部と、を配合して、実施例1の金属粒子分散液を得た。
なお、分散剤として用いたマリアリムSC-0708Aはポリカルボン酸であって、カルボニル基を極性基として有する。また、極性溶媒として用いたヘキサノールの主鎖骨格の炭素原子数は6である。
【0096】
(実施例2~9及び比較例1~4)
各成分及び配合量を下表2のように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例2~9、及び比較例1~4の金属粒子分散液を得た。
なお、表2中、ナイミーンL201(日油株式会社製)の主成分はラウリルモノエタノールアミンであって、アミノ基を極性基として有する。また、エスリームAD508E(日油株式会社製)はポリアミンであって、アミノ基を極性基として有する。また、エスリーム221J(日油株式会社製)は、ポリカルボン酸であって、カルボニル基を極性基として有する。
また、表2中、PGMEA(プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート)(東京化成株式会社製)は主鎖骨格の炭素原子数が3で脂肪族アセテート類の極性溶媒である。ヘキシルカルビトール(東京化成株式会社製)は主鎖骨格の炭素原子数が6で脂肪族エーテル類の極性溶媒である。オクタノール(関東化学株式会社製)は主鎖骨格の炭素原子数が8で脂肪族アルコール類の極性溶媒である。
また、表2中、銀フィラーにはSL01(三井金属鉱業株式会社製)を用いた。SL01は、平均一次粒子径が1.2μmの銀粉であり、被覆分子を有している。
また、表2中、ハイコールK-140N(カネダ株式会社製)、及びデカン(関東化学株式会社製)は、便宜上「極性溶媒」の欄に記載されているが、ハイコールK-140N及びデカンは脂肪族アルカン類であって、いずれも無極性溶媒である。比較例1、2の金属粒子分散液は、極性溶媒を含有していない。
【0097】
【表2】
【0098】
(実施例10
各成分及び配合量を下表3のように変更した以外は、実施例1と同様にして、実施例10の金属粒子分散液を得た。
なお、表3中、アクリレート/スチレン共重合体にはUC-3900(東亞合成株式会社製、平均分子量4600)を用いた。また、トリメチロールプロパントリメタクリレートにはNKエステル(新中村化学工業株式会社製)を用いた。いずれも光重合化合物である。
また、表3中、イルガキュアー184(BASF社製)は、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンを主成分とする光重合開始剤である。
【0099】
【表3】
【0100】
<分散性評価>
実施例1~10、及び比較例1~4で得られた金属粒子分散液に対して、製造直後における分散性を目視にて評価した。結果を表4に示す。表4において、被覆金属粒子が分散していた場合は「○」、被覆金属粒子が分散せずに、凝集あるいは沈殿していた場合は「×」として示している。
【0101】
<分散安定性評価>
実施例1~10、及び比較例1~4で得られた金属粒子分散液に対して、製造から2時間後における分散性(分散安定性)を目視にて評価した。結果を表4に示す。表4において、被覆金属粒子が分散していた場合は「○」、液全体では相分離があるものの被覆金属粒子の分散性が保たれていた場合は「△」、被覆金属粒子が分散せずに、凝集あるいは沈殿していた場合は「×」として示している。
【0102】
<薄膜形成性評価>
厚さが1μm以下の薄膜パターンを形成する目的で、実施例2及び実施例9で得られた金属粒子分散液をガラス基板上で薄膜化して350℃で焼結させた。実施例2の金属粒子分散液を用いた場合、1μm以下の厚さの焼結体を形成することができた。一方、実施例9の金属粒子分散液を用いて作製した場合、1μm以下の厚さの焼結体を形成することはできなかった。
【0103】
【表4】
【0104】
[結果のまとめ]
表4に示されるように、前記分散性評価の結果から、実施例1~10の金属粒子分散液は、分散剤と極性溶媒とを含有するため、分散性に優れていたことが分かった。一方、極性溶媒を含まない比較例1、2の金属粒子分散液と、分散剤を含まない比較例3、4の金属粒子分散液は、分散性を有していないことが分かった。
【0105】
また、表4に示されるように、前記分散安定性評価の結果から、本発明に係る接合用組成物は、2時間放置した後においても分散性を保つことが分かった。これは、本発明に係る金属粒子分散液が分散剤と極性溶媒とを含有し、当該分散剤と極性溶媒によって被覆金属粒子の分散性が向上したからであると考えられる。
【0106】
さらに、実施例1~8の中でも、極性溶媒として脂肪族アルコール類であるヘキサノール、オクタノールを用いたもの(実施例1~3、6~8)が特に優れた分散安定性を示した。これは、ヘキサノール及びオクタノールが比較的高い極性を有するため、極性基を有する分散剤との相溶性に優れたからであると考えられる。
【0107】
また、極性溶媒としてオクタノールを用いた実施例6~8の中でも、低分子量かつ水に可溶なナイミーンL201(分子量:229.4)を分散剤として用いたもの(実施例6)が、特に優れた分散安定性を示した。これは、分子量の小さいナイミーンL201が金属と高い相互作用を示すため、被覆金属粒子の分散性が向上したものと考えられる。さらに、プロトン性の溶媒であるオクタノールと、水に可溶なナイミーンL201とが高い相溶性を有するため、被覆金属粒子の分散性が向上したものと考えられる。
【0108】
また、光重合化合物及び光重合開始剤を含んだ実施例10の金属粒子分散液も、優れた分散性及び分散安定性を有することがわかった。この結果は、本発明によって、光硬化性を備え、かつ優れた分散性及び分散安定性を有する金属粒子分散液を作製可能であることを示している。
【0109】
以上の結果から、金属含有率が40質量%以下の金属粒子分散液であって、金属粒子表面に、脂肪族カルボン酸及び脂肪族アルデヒドより選択される1種以上の被覆分子が被覆する被覆金属粒子(A)と、脂肪族基と極性基とを有する分散剤(B)と、主鎖骨格の炭素原子数が3以上であって、当該主鎖骨格の一方の末端に極性基を有する極性溶媒(C)と、を含有する本実施の金属粒子分散液は、金属含有率が低い場合でも被覆金属粒子の分散性に優れることが示された。
【符号の説明】
【0110】
A 被覆金属粒子
A1 金属粒子
A2 被覆分子
B 分散剤
B0 ポリマー主鎖
B1 脂肪族基
B2 極性基
C 極性溶媒
図1