IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 朱乃碩の特許一覧

特許7006968腫瘍壊死因子αの高親和性ペプチド及びその適用
<>
  • 特許-腫瘍壊死因子αの高親和性ペプチド及びその適用 図1
  • 特許-腫瘍壊死因子αの高親和性ペプチド及びその適用 図2
  • 特許-腫瘍壊死因子αの高親和性ペプチド及びその適用 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】腫瘍壊死因子αの高親和性ペプチド及びその適用
(51)【国際特許分類】
   C12N 15/11 20060101AFI20220203BHJP
   C07K 14/00 20060101ALI20220203BHJP
   G01N 33/532 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 38/08 20190101ALI20220203BHJP
   A61K 38/10 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20220203BHJP
   A61K 9/08 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 29/00 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 19/02 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 17/06 20060101ALI20220203BHJP
   A61P 43/00 20060101ALI20220203BHJP
   C07K 7/06 20060101ALN20220203BHJP
   C07K 7/08 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C12N15/11 Z ZNA
C07K14/00
G01N33/532 A
A61K38/08
A61K38/10
A61K38/16
A61K9/08
A61P29/00
A61P19/02
A61P29/00 101
A61P17/06
A61P43/00 111
C07K7/06
C07K7/08
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019559138
(86)(22)【出願日】2018-01-11
(65)【公表番号】
(43)【公表日】2020-02-20
(86)【国際出願番号】 CN2018072194
(87)【国際公開番号】W WO2018130170
(87)【国際公開日】2018-07-19
【審査請求日】2019-08-15
(31)【優先権主張番号】201710019149.8
(32)【優先日】2017-01-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】CN
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】519253959
【氏名又は名称】朱乃碩
【氏名又は名称原語表記】ZHU,Naishuo
(74)【代理人】
【識別番号】110001508
【氏名又は名称】特許業務法人 津国
(72)【発明者】
【氏名】朱乃碩
(72)【発明者】
【氏名】胡昌武
【審査官】野村 英雄
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第104804069(CN,A)
【文献】特表2012-509312(JP,A)
【文献】特開2005-145884(JP,A)
【文献】CHEN,Z., et al.,"Discovery of peptide ligands for hepatic stellate cells using phage display.",MOL. PHARM.,2015年,Vo.12, No.6,pp.2180-2188
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00-15/90
C07K 1/00-19/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
UniProt/GeneSeq
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
TNF-αに高親和性を有するペプチドであって、該ペプチドが、配列番号4のアミノ酸配列からなる、該ペプチド。
【請求項2】
コア配列として請求項1に記載のTNF-αに高親和性を有するペプチドを含み、抗原又は薬物と連結するか又はそのC末端、N末端又は側鎖基においてPEGによって修飾されるか又は他の分子基によって共有結合によって修飾された構造的に特徴のある分子である、生物学的材料又は化学基によって修飾されたペプチド。
【請求項3】
請求項1に記載のTNF-αに高親和性を有するペプチドを含む、修飾されたペプチドであって、該修飾されたペプチドが、TNF-α検出のためのFITCフルオロフォア、アイソトープ、化学発光基又は酵素試薬でラベルされている、該修飾されたペプチド。
【請求項4】
TNF-αアンタゴニストの調製における、TNF-αに高親和性を有するペプチドの使用であって、該ペプチドが、配列番号1、配列番号3又は配列番号4のアミノ酸配列からなる、使用。
【請求項5】
TNF-α発現の検出のための薬剤又は臨床試験薬剤の調製における、TNF-αに高親和性を有するペプチドの使用であって、該ペプチドが、配列番号1、配列番号3又は配列番号4のアミノ酸配列からなる、使用。
【請求項6】
TNF-αアンタゴニストの調製又はトレーサー検出における、配列番号2に記載のヌクレオチド配列からなり、TNF-αに高親和性を有するペプチドをコードする遺伝子の使用。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、生物工学の分野に属する。本発明は、特に、腫瘍壊死因子アルファ(TNF-α)に高親和性を有するペプチド、TNF-αアンタゴニストペプチド、及びその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
1975年にエンドトキシン注射によって最初に誘導された腫瘍壊死因子は、マウスに移植した腫瘍のアポトーシスを誘導する血清活性因子として同定され、それゆえに腫瘍壊死因子と命名される。研究が進むにつれて、TNF-αは、極めて重要な炎症性因子であることが見出された。免疫介在性疾患において、組織におけるTNF-αの発現は、増加し、一連の病原性反応及び関連する炎症性因子の発現を誘導し、究極的には、組織損傷(たとえば、骨破壊、軟骨分解、線維芽細胞増殖、ケラチノサイト増殖等)をもたらす。よって、TNF-αは、多様な炎症性疾患の処置のために重要な標的である。
【0003】
現存するTNF-αアンタゴニストは、主にモノクローナル抗体及びその誘導体に焦点を合わせている。しかしながら、モノクローナル抗体ベースの薬物は、高度に免疫原性であり、薬物の治療有効性に疑いの余地なく影響する、インビボで抗薬物抗体(すなわち、抗-抗体)の産生を誘導することができる。一方、モノクローナル抗体ベース薬物は、抗-抗体の産生によって生じる有効性の減少に加えて身体に対する損傷や副作用を生じ得る、抗体依存性細胞介在性細胞傷害(ADCC)及び補体依存性抗体介在性細胞傷害を誘導し得る。異なる分子構造が、分子の免疫原性を決定する。抗体と比べて、ペプチドは、その分子サイズが小さいために、免疫原性が小さく、より組織透過性である。したがって、ペプチドは、より有利なTNF-αアンタゴニストである。ペプチドが配列特異的ペプチドを合成し、ELISAを用いてTNF-αに対するアンタゴニストペプチドの親和性を検出し、そして炎症を有する動物内にアンタゴニストペプチドを注入することによって炎症に対する阻害効果を有するか否かを観察することは好都合である。
【発明の概要】
【0004】
本発明の課題は、腫瘍壊死因子αに高い結合親和性を有するペプチド及び腫瘍壊死因子αの機能をアンタゴナイズすることにおけるペプチドの使用を提供することである。本開示は、配列番号1に記載のアミノ酸配列を有する、TNF-αに高親和性を有するペプチドを提供する。該ペプチドは、ペプチド632又はTNF-αアンタゴニストペプチドと呼ばれる。該ペプチドは、以下の機能的特徴を有する:(1)TNF-αに高い親和性、及び138nMの解離定数Kd(Kd値は、レセプターの半分がリガンドによって結合されたときのリガンドの濃度を示し、Kd値が小さければ小さいほど、リガンドに対するレセプター親和性が高くなる);(2)炎症の動物モデル内に注入された後の炎症の発症を有効に阻害し、炎症障害を予防することができる。
【0005】
本開示は、また、配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有する、(対応するアミノ酸の縮重コドンからなる)TNF-αに高親和性を有するペプチドをコードする遺伝子も提供する。
【0006】
本開示は、また、配列番号3に記載のアミノ酸配列を有し、ペプチド636と呼ばれる、生物工学的修飾によってTNF-αに高親和性を有するペプチドと同一の機能を有するペプチドを得る。
【0007】
本開示は、また、配列番号1及び配列番号3に記載のTNF-αに高親和性のペプチドのアミノ酸配列を含む、ペプチドであって、該ペプチドは、単一リピート又は複数リピートのタンデム又は分岐ペプチド分子配列であり、これらのコア配列特徴を含む分子(すなわち、70%を超える相同性を有する)であり、該分子は、配列番号4に記載のアミノ酸配列を有する、該ペプチドを提供する。
【0008】
本開示は、また、コア配列としてTNF-αに高親和性を有する配列番号1及び配列番号3のペプチドを含む生物学的材料又は化学基によって修飾され、抗原又は薬物と連結した構造的特徴分子であるか、又はPEGで修飾されるか又はそのC末端(又はN末端、又は側鎖)基上の他の分子基によって共有結合で修飾されたペプチドも提供する。
【0009】
本開示は、また、TNF-αに高親和性を有する上記ペプチドを含む、修飾ペプチドであって、該修飾ペプチドが、TNF-α検出のためのFITCフルオロフォア、アイソトープ、化学発光基又は酵素試薬でラベルされている、該修飾ペプチドも提供する。
【0010】
本開示は、また、TNF-αアンタゴニストの調製におけるTNF-αに高親和性を有する上記ペプチドの使用も提供する。
【0011】
本開示は、また、TNF-α発現の検出のための薬剤又は臨床試験試薬の調製におけるTNF-αに高親和性を有する上記ペプチドの使用も提供する。
【0012】
本開示は、TNF-αアンタゴニストの調製におけるか又はトレーサー検出における配列番号2に記載のヌクレオチド配列を有する遺伝子の使用も提供する。
【0013】
配列番号1のアミノ酸配列を有する本発明のペプチドは、TNF-αアンタゴニスト薬物として用いることができる。
【0014】
配列番号1のアミノ酸配列を有する本発明のペプチドは、TNF-αアンタゴニスト薬物として用いることができる。このペプチドは、TNF-αに高親和性を有し、TNF-αの生物学的活性を阻害し、そしてTNF-α誘導炎症傷害を予防する。配列番号3のアミノ酸配列を有する本発明のペプチドは、また、有望なTNF-αアンタゴニスト薬物として用いることができ、また、TNF-αに高親和性を有し、TNF-αの生物学的活性を阻害する。
【0015】
TNF-αに対するペプチドの親和性アッセイ
【0016】
96ウェルELISAプレートを2μg/mlTNF-α溶液を用いて、4℃で、一晩コートした。FITCでラベルした異なる濃度のペプチド632を各ウェルに加え、2時間インキュべーションした。インキュベーション後に、HRPコンジュゲート抗FITCモノクローナル抗体を加え、1時間インキュベーションし、次に、ABTSコントロール溶液を加えた。1時間の発色の後、410nmでのODをマイクロプレートリーダーを用いて測定し、GraphPadPrism5をプロッティング及びアナリシスのために用いた。この結果は、ペプチド632が138nMの解離定数を有し、TNF-αタンパク質に強い親和性を有することを立証した。
【0017】
炎症の動物モデルにおける炎症インデックスに対するペプチドの効果
【0018】
実験動物をブランク群、非関連ペプチド対照群及びアンタゴニストペプチド(ペプチド632)群の3群に分けた。実施例としてマウスを用い、6週齢、雄の昆明マウスに連続3日間、右腹部に皮下注射した。最後の注射の後、各群のマウスの右の耳介の両側にp-キシレンをスメアした。処理の1時間後に、マウスを屠殺し、マウスの左右の耳を切断した。耳膨張パンチャーを用いて、耳を切り詰め、耳断片を得た。マウス耳の膨張度を右耳断片の重量から左耳断片の重量を減算することによって得た。異なる群間の差を比較すると、アンタゴニストペプチドがマウス耳の膨張を有意に阻害することができることが見出され、このペプチドが炎症誘導障害を予防することができることを示した。
【0019】
本願で提供されるペプチドは、TNF-αタンパク質に強い親和性を有し、TNF-α誘導炎症性障害を予防することができることが分かる。よって、このペプチドは、TNF-αの生物学的活性を阻害するために用いることができ、TNF-αと強く関連する炎症性疾患を治療することができる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1図1は、TNF-αタンパク質へのペプチド632の結合親和性を示す。
図2図2は、TNF-αタンパク質へのペプチド636の結合親和性を示す。
図3図3は、炎症の昆明マウスモデルにおける炎症をペプチド632が阻害する程度を示す。
【0021】
実施態様の詳細な説明
1.ペプチド配列の取得と修飾
TNF-αタンパク質に親和性を有する所望のペプチドを化学的方法によって人工的に合成した。
【0022】
LYS(Dde)ワングレジンをDCM中に10分間浸漬し、DCMを排出した。3倍体積の25%ピペリジン(ピペリジン/DMF)をレジンに加え、20分間窒素を通気した後にピペリジンを排出した。DMFを加え、1分間ブローした。6サイクル後、DMFを排出し、レジンはニンヒドリンによって青であることが検出された。この生成物は、H-Lys(Dde)ワングレジンである。DMF中の3つの等価物Fmoc-Val-OH、HATU、DIEAをレジンに加えた。窒素で20分間ブローした後、DMF反応溶液を排出した。DMFを加え、排出の前に窒素で1分間ブローした。3サイクル後、レジンはニンヒドリンによって青であることが検出された。この生成物は、Fmoc-Val-Lys(Dde)ワングレジンである。この粗生成物を同様の方法によって得た。アセトニトリル及びMilli-Q水を用いるハンバン(Hanbang)YCM C18カラムで精製を行った。このように、高親和性及び高活性を有するペプチドを得た。
【0023】
3.TNF-αへのペプチド632の親和性アッセイ及びその動物モデルの炎症性インデックスに対する効果
(1)TNF-αタンパク質へのペプチド632の親和性の実験結果
96ウェルELISAプレートを4℃で一晩、2μg/mlTNF-αタンパク質でコートした。BSAでブロッキングした後、異なる濃度のFITCでラベルしたペプチド632を各ウェルに加え、2時間インキュベーションした。
インキュベーション後、HRP結合抗FITCモノクローナル抗体を加え、1時間インキュベーションし、ABTS着色溶液を加えた。1時間発色展開の後、410nmでのOD値をマイクロプレートリーダーを用いて測定し、GraphPad Prism5をプロッティング及び解析のために用いた。この結果は、ペプチド632が138nMの解離定数(Kd)を有し、TNF-αタンパク質に高親和性を有することを立証した。
【0024】
(2)炎症の動物モデルにおける炎症インデックスに対するペプチド632の効果
実験動物を3群:ブランク群、非関連ペプチド対照群、及びアンタゴニストペプチド(ペプチド632)群に分けた。6週齢の雄の昆明マウスに3日間連続で、ペプチドを右腹部に皮下注射した。最後の注射から30分後、各群のマウスの右の耳介の両側をp-キシレン(0.03ml/マウス)でスメアし炎症を誘導し、左の耳介は正常コントロールとした。炎症1時間後、動物を屠殺し、マウスの耳を完全に切断し、同一マウスの左右の耳を識別するためにマークした。マウスの耳の両側を同一の紙片でコートした。直径8mmの耳膨張パンチャーを用いて、左右の耳の同一部分を切断し、耳断片を得た。この耳断片を紙と一緒に重量を測定し、その結果を記録した。マウス耳の膨張度=炎症の誘導されている耳断片の重量-炎症のない耳断片の重量
図1及び図2に示されるとおり、ペプチド632は、TNF-αタンパク質に高い結合親和性を有する。動物実験は、ペプチド632を注射した実験群の耳膨張度が対照群に比べて有意に低かったことを示した。上記の結果は、ペプチド632がTNF-αの活性をアンタゴナイズすることによって炎症ダメージを防止する効果を達成することができることを示している。
【産業上の利用可能性】
【0025】
4.産業適用性
重要な炎症性因子として、TNF-αは、炎症の発生及び発達に重要な役割を奏している。炎症によって誘導された免疫疾患において、TNF-αの増加したレベルは、組織損傷を生じる、一連の病原性反応及び関連サイトカインの発現を誘導する。TNF-αの拮抗作用は、関節リウマチ及び乾癬のような種々の炎症性疾患における有効な処置であることが証明されている。しかしながら、現在のアンタゴニストは、モノクローナル抗体及びその誘導体に焦点を併せている。モノクローナル抗体及びその誘導体は、強い副作用、特に薬剤における用途を制限する高い免疫原性を有する。したがって、ここで提供されるTNF-αに高い親和性を有するペプチドは、TNF-αに強い親和性を有するのみならず、TNF-αの生物学的活性も阻害する。よって、本発明のペプチドは、関連する炎症性損傷を予防することができ、有望なTNF-αアンタゴニスト薬として用いることができる。さらに、修飾ペプチド632は、TNF-αタンパク質の発現を検出するための検出試薬として用いることができる。
【0026】
配列リスト
配列番号1(N末端→C末端):HYIDFRW
配列番号2:CATTATATTGATTTTAGGTGG
配列番号3(N末端→C末端):KASGSPSGFWPS
配列番号4(N末端→C末端):HYIDFRWDMKASGSPSGFWPS
図1
図2
図3
【配列表】
0007006968000001.app