(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2022-01-11
(45)【発行日】2022-02-10
(54)【発明の名称】構造タンパク質微小体及びその製造方法、ナノファイバーの製造方法、並びにタンパク質構造体の製造方法
(51)【国際特許分類】
C07K 14/435 20060101AFI20220203BHJP
D01F 4/02 20060101ALI20220203BHJP
C07K 1/30 20060101ALI20220203BHJP
C07K 17/02 20060101ALI20220203BHJP
C12N 15/10 20060101ALN20220203BHJP
C12N 15/12 20060101ALN20220203BHJP
【FI】
C07K14/435
D01F4/02 ZNA
C07K1/30
C07K17/02
C12N15/10 200Z
C12N15/12
(21)【出願番号】P 2021522869
(86)(22)【出願日】2020-05-28
(86)【国際出願番号】 JP2020021171
(87)【国際公開番号】W WO2020241769
(87)【国際公開日】2020-12-03
【審査請求日】2021-08-16
(31)【優先権主張番号】P 2019100615
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019100616
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(31)【優先権主張番号】P 2019100617
(32)【優先日】2019-05-29
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成30年度、内閣府、革新的研究開発推進プログラム、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】508113022
【氏名又は名称】Spiber株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100088155
【氏名又は名称】長谷川 芳樹
(74)【代理人】
【識別番号】100128381
【氏名又は名称】清水 義憲
(74)【代理人】
【識別番号】100211100
【氏名又は名称】福島 直樹
(72)【発明者】
【氏名】上久保 裕生
(72)【発明者】
【氏名】林 有吾
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 健大
【審査官】天野 皓己
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/054506(WO,A1)
【文献】国際公開第2014/175179(WO,A1)
【文献】米国特許出願公開第2016/0215103(US,A1)
【文献】特表2013-512265(JP,A)
【文献】国際公開第2018/034111(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/030197(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00 - C07K 19/00
D01F 1/00 - D01F 6/96
D01F 9/00 - D01F 9/04
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
構造タンパク質から構成され、下記(i)~(iii)の
全てを満た
し、
前記構造タンパク質がフィブロイン様タンパク質である、構造タンパク質微小体。
(i)チオフラビンT染色による蛍光強度測定で、480~500nmの範囲内にピークを有する。(ii)小角X線散乱(SAXS)のModified Kratky Plotにおいて、Qが0.15以下の領域にピークを有
し、且つ、Qが0.15以上0.3以下の領域における変化幅が±10%以下である。(iii)2
~10の構造タンパク質分子の会合体である。
【請求項2】
動的光散乱法によって測定される平均粒子径が、1~50nmである、請求項
1に記載の構造タンパク質微小体。
【請求項3】
小角X線散乱(SAXS)のModified Kratky Plotにおいて、前記ピークの大きさが、Qが0.15以上0.3以下の領域における平均値の1.1倍以上である、請求項1
又は2に記載の構造タンパク質微小体。
【請求項4】
Guinier解析により求められる重量濃度で規格化した原点散乱強度が、未会合の前記構造タンパク質分子の原点散乱強度の1.5倍以上である、請求項1~
3のいずれか一項に記載の構造タンパク質微小体。
【請求項5】
前記構造タンパク質が、改変フィブロインを含む、請求項1~
4のいずれか一項に記載の構造タンパク質微小体。
【請求項6】
前記構造タンパク質が、改変クモ糸フィブロインを含む、請求項
5に記載の構造タンパク質微小体。
【請求項7】
構造タンパク質と可溶化剤とを含む構造タンパク質溶液を得る第一工程と、
前記構造タンパク質溶液に、前記構造タンパク質溶液中の溶媒と相溶性のある有機溶媒を添加して、前記構造タンパク質の前記構造タンパク質溶液に対する溶解度を下げることにより、請求項1~
6のいずれか一項に記載の構造タンパク質微小体を形成させる第二工程と、を含
み、前記構造タンパク質がフィブロイン様タンパク質である、構造タンパク質微小体の製造方法。
【請求項8】
前記可溶化剤が、ジメチルスルホキシド、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、塩酸グアニジン(GuHCl)、チオシアン酸グアニジン、ヨウ化ナトリウム及び過塩素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいる、請求項
7に記載の、構造タンパク質微小体の製造方法。
【請求項9】
遠心分離により前記構造タンパク質微小体を回収する第三工程を更に含む、請求項
7又は8に記載の、構造タンパク質微小体の製造方法。
【請求項10】
前記構造タンパク質が、改変フィブロインを含む、請求項
7~9のいずれか一項に記載の、構造タンパク質微小体の製造方法。
【請求項11】
前記構造タンパク質が、改変クモ糸フィブロインを含む、請求項
10に記載の、構造タンパク質微小体の製造方法。
【請求項12】
フィブロイン様タンパク質が溶解したタンパク質溶液を準備するA工程と、
前記タンパク質溶液と請求項1~
6のいずれか一項に記載の構造タンパク質微小体とを混合して、タンパク質ナノファイバーを得る第B工程と、を含む、ナノファイバーの製造方法。
【請求項13】
前記タンパク質溶液が、第一の溶媒を含み、
前記第一の溶媒が、有機溶媒、塩溶液、酸性溶液、塩基性溶液及びカオトロピック溶液からなる群より選択される一つである、請求項
12に記載の、ナノファイバーの製造方法。
【請求項14】
前記第一の溶媒が、有機溶媒、塩溶液、酸性溶液及び塩基性溶液からなる群より選択される一つである、請求項
13に記載の、ナノファイバーの製造方法。
【請求項15】
前記第一の溶媒が、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される一つである、請求項
14に記載の、ナノファイバーの製造方法。
【請求項16】
前記
フィブロイン様タンパク質が、改変フィブロインを含む、請求項
12~15のいずれか一項に記載の、ナノファイバーの製造方法。
【請求項17】
前記
フィブロイン様タンパク質が、改変クモ糸フィブロインを含む、請求項
16に記載の、ナノファイバーの製造方法。
【請求項18】
タンパク質構造体の製造方法であって、
フィブロイン様タンパク質から構成された繊維状物質を含有する構造前駆体を準備する(ア)工程と、
前記構造前駆体に異方性応力を作用させることにより前記繊維状物質を一方向に配向させて、前記タンパク質構造体を得る(イ)工程と、を含み、
前記繊維状物質が、請求項1~
6のいずれか一項に記載の構造タンパク質微小体と
、前記構造タンパク質微小体を核としてフィブロイン様タンパク質が自己組織化してなるタンパク質ナノファイバーのうちの少なくともいずれか一方を含んでいる、タンパク質構造体の製造方法。
【請求項19】
前記タンパク質ナノファイバーが、アミロイド様結晶を有する、請求項
18に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【請求項20】
前記アミロイド様結晶が、前記繊維状物質の配向方向に対して垂直に配向している、請求項
19に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【請求項21】
前記繊維状物質の太さが3nm以上である、請求項
18~20のいずれか一項に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【請求項22】
前記(イ)工程において、前記構造前駆体の一方向における両端を固定し、乾燥収縮させることで前記異方性応力を作用させる、請求項
18~21のいずれか一項に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【請求項23】
前記構造前駆体が、ハイドロゲル、繊維、フィルムからなる群より選択される少なくとも一つである、請求項
18~22のいずれか一項に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【請求項24】
前記
フィブロイン様タンパク質が、改変フィブロインを含む、請求項
18~23のいずれか一項に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【請求項25】
前記
フィブロイン様タンパク質が、改変クモ糸フィブロインを含む、請求項
24に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、構造タンパク質微小体及びその製造方法とナノファイバーの製造方法とタンパク質構造体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属分子を用いたナノ構造体は、色素増感太陽電池(酸化チタン)、導電インク(銀ナノワイヤー)等実用化されている、あるいは実用化に近い状況にある。
【0003】
バイオテクノロジー分野においてもナノ構造体は注目されており、タンパク質ナノファイバーは機械特性を望んだとおりにデザインした細胞の足場シート、生体分子デバイス、細胞工学デバイス、再生医療・組織工学、バイオセンサー・アクチュエーターとしての利用並びに軽量・高強度材料、グリーンナノハイブリッド、環境浄化材料、自己修復材料、フィルタ、紡糸、コーティング、構造・物性解析関連の高精度精密機器等の材料として期待されている。
【0004】
しかしながら、タンパク質ナノファイバーは実用化には至っていない(非特許文献1)。
【0005】
また、ナノファイバーからなる、高度に配向した高分子材料には、導電性、熱伝導性、耐摩耗性などにおいて優れた物性を示すものがあり、こうした材料は非常に有用性が高い。
【0006】
例えば、天然のクモが作る糸については、その高度な配向性が原子間力顕微鏡AFMの測定により確認されている。しかし、人工的にこのような高度な配向性をタンパク質ナノファイバーに与えることは困難であった。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【文献】L. Wang, Y. Sun, Z. Li, A. Wu, and G. Wei, Materials (Basel)., vol. 9, no. 1, 2016“Bottom-up synthesis and sensor applications of biomimetic nanostructures”
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上述の事情を背景にして為されたものであって、その第1の課題とするところは、タンパク質ナノファイバーを形成するための核として機能する、構造タンパク質微小体を提供することにある。
【0009】
本発明の第2の課題とするところは、上記のような特徴的な構造タンパク質微小体を有利に製造し得る方法を提供することにある。
【0010】
本発明の第3の課題とするところは、タンパク質から構成されるナノファイバーを容易に製造可能な、ナノファイバーの製造方法を提供することにある。
【0011】
本発明の第4の課題とするところは、複数のタンパク質ナノファイバーが高度に配向した構造体を製造可能な、タンパク質構造体の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記第1の課題を解決する本発明(第1の発明)は、例えば、以下の各発明に関する。[1-1]構造タンパク質から構成され、 下記(i)~(iii)のうち少なくとも2つを満たす、構造タンパク質微小体。(i)チオフラビンT染色による蛍光強度測定で、480~500nmの範囲内にピークを有する。(ii)小角X線散乱(SAXS)のModified Kratky Plotにおいて、Qが0.15以下の領域にピークを有する。(iii)2つ以上の構造タンパク質分子の会合体である。
【0013】
このような構造タンパク質微小体は、タンパク質ナノファイバーを形成するための核として機能する。このため、例えば、上記構造タンパク質微小体をタンパク質溶液に添加することで、タンパク質ナノファイバーを容易に形成することができる。
【0014】
[1-2]上記(i)~(iii)の全てを満たす、[1-1]に記載の構造タンパク質微小体。
【0015】
[1-3]動的光散乱法によって測定される平均粒子径が1~50nmである、[1-1]又は[1-2]に記載の構造タンパク質微小体。
【0016】
[1-4]少なくとも上記(ii)を満たし、小角X線散乱(SAXS)のModified Kratky Plotにおいて、前記ピークの大きさが、Qが0.15以上0.3以下の領域における平均値の1.1倍以上である、[1-1]~[1-3]の何れか一つに記載の構造タンパク質微小体。
【0017】
[1-5]少なくとも上記(iii)を満たし、Guinier解析により求められる重量濃度で規格化した原点散乱強度は、未会合の上記構造タンパク質分子の原点散乱強度の1.5倍以上である、[1-1]~[1-4]の何れか一つに記載の構造タンパク質微小体。
【0018】
[1-6]上記構造タンパク質が、改変フィブロインを含む、[1-1]~[1-5]の何れか一つに記載の構造タンパク質微小体。
【0019】
[1-7] 上記構造タンパク質が、改変クモ糸フィブロインを含む、[1-6]に記載の構造タンパク質微小体。
【0020】
上記第2の課題を解決する本発明(第2の発明)は、例えば、以下の各発明に関する。
【0021】
[2-1] 構造タンパク質と可溶化剤とを含む構造タンパク質溶液を得る第一工程と、上記構造タンパク質の上記構造タンパク質溶液に対する溶解度を下げることにより、[1-1]~[1-7]のいずれか一つに記載の構造タンパク質微小体を形成させる第二工程と、を含む、構造タンパク質微小体の製造方法。
【0022】
このような製造方法によれば、タンパク質ナノファイバーを形成するための核として機能する構造タンパク質微小体を容易に製造することができる。
【0023】
[2-2] 上記第二工程が、温度の調節、水の添加、界面活性剤の添加、有機溶媒の添加及び無機塩の添加からなる群より選択される少なくとも1つの方法により、上記溶解度を下げる工程である、[2-1]に記載の、構造タンパク質微小体の製造方法。
【0024】
[2-3] 上記第二工程が、温度の調節、水の添加、界面活性剤の添加、有機溶媒の添加及び無機塩の添加からなる群より選択される2つ以上の方法を組み合わせて、上記溶解度を下げる工程である、[2-2]に記載の、構造タンパク質微小体の製造方法。
【0025】
[2-4] 上記第二工程が、上記構造タンパク質溶液に対してせん断応力を印加することにより、上記溶解度を下げる工程である[2-1]に記載の、構造タンパク質微小体の製造方法。
【0026】
[2-5]上記可溶化剤が、ジメチルスルホキシド、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、塩酸グアニジン(GuHCl)、チオシアン酸グアニジン、ヨウ化ナトリウム及び過塩素酸塩からなる群より選択される少なくとも一種を含んでいる、[2-1]~[2-4]の何れか一つに記載の、構造タンパク質微小体の製造方法。
【0027】
[2-6]遠心分離により上記構造タンパク質微小体を回収する第三工程を更に含んでいる、[2-1]~[2-5]の何れか一つに記載の、構造タンパク質微小体の製造方法。
【0028】
[2-7]上記構造タンパク質が、改変フィブロインを含んでいる[2-1]~[2-6]の何れか一つに記載の、構造タンパク質微小体の製造方法。
【0029】
[2-8]上記構造タンパク質が、改変クモ糸フィブロインを含んでいる[2-7]に記載の、構造タンパク質微小体の製造方法。
【0030】
上記第3の課題を解決する本発明(第3の発明)は、例えば、以下の各発明に関する。
【0031】
[3-1] タンパク質が溶解したタンパク質溶液を準備するA工程と、上記タンパク質溶液と[1-1]~[1-7]のいずれか一つに記載の構造タンパク質微小体とを混合して、タンパク質ナノファイバーを得るB工程と、を含む、ナノファイバーの製造方法。
【0032】
このような製造方法では、タンパク質溶液と構造タンパク質微小体とを混合することで、構造タンパク質微小体を核としてタンパク質が自己組織化し、タンパク質から構成されたナノファイバーを容易に形成することができる。
【0033】
[3-2] 上記タンパク質溶液が、第一の溶媒を含み、上記第一の溶媒が、有機溶媒、塩溶液、酸性溶液、塩基性溶液及びカオトロピック溶液からなる群より選択される一つである、[3-1]に記載の、ナノファイバーの製造方法。
【0034】
[3-3] 上記第一の溶媒が、有機溶媒、塩溶液、酸性溶液及び塩基性溶液からなる群より選択される一つである、[3-2]に記載の、ナノファイバーの製造方法。
【0035】
[3-4] 上記第一の溶媒が、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール及びジメチルスルホキシドからなる群より選択される一つである、[3-3]に記載の、ナノファイバーの製造方法。
【0036】
[3-5] 上記タンパク質が、構造タンパク質を含む、[3-1]~[3-4]のいずれか一つに記載の、ナノファイバーの製造方法。
【0037】
[3-6] 上記構造タンパク質が、改変フィブロインを含む、[3-5]に記載の、ナノファイバーの製造方法。
【0038】
[3-7] 上記構造タンパク質が、改変クモ糸フィブロインを含む、[3-6]に記載の、ナノファイバーの製造方法。
【0039】
上記第4の課題を解決する本発明(第4の発明)は、例えば、以下の各発明に関する。[4-1] タンパク質構造体の製造方法であって、タンパク質から構成された繊維状物質を含有する構造前駆体を準備する(ア)工程と、上記構造前駆体に異方性応力を作用させることにより上記繊維状物質を一方向に配向させて、上記タンパク質構造体を得る(イ)工程と、を含み、上記繊維状物質が、[1-1]~[1-7]のいずれか一つに記載の構造タンパク質微小体とタンパク質ナノファイバーのうちの少なくともいずれか一方を含んでいる、タンパク質構造体の製造方法。
【0040】
このような製造方法によれば、タンパク質ナノファイバーが高度に配向したタンパク質構造体を容易に製造することができる。
【0041】
[4-2] 上記タンパク質ナノファイバーが、上記構造タンパク質微小体を核としてタンパク質が自己組織化してなるものである、[4-1]に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【0042】
[4-3] 上記タンパク質ナノファイバーが、アミロイド様結晶を有する、[4-1]又は[4-2]に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【0043】
[4-4] 上記アミロイド様結晶が、上記繊維状物質の配向方向に対して垂直に配向している、[4-3]に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【0044】
[4-5] 上記繊維状物質の太さが3nm以上である、[4-1]~[4-4]のいずれか一項に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【0045】
[4-6] 上記(イ)工程において、上記構造前駆体の一方向における両端を固定し、乾燥収縮させることで上記異方性応力を作用させる、[4-1]~[4-5]のいずれか一項に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【0046】
[4-7] 上記構造前駆体が、ハイドロゲル、繊維、フィルムからなる群より選択される少なくとも一つである、[4-1]~[4-6]のいずれか一項に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【0047】
[4-8] 上記タンパク質が、改変フィブロインを含む、[4-1]~[4-7]のいずれか一項に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【0048】
[4-9] 上記タンパク質が、改変クモ糸フィブロインを含む、[4-8]に記載の、タンパク質構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0049】
第一の発明によれば、タンパク質ナノファイバーを形成するための核として機能する、構造タンパク質微小体を提供することができる。
【0050】
第二の発明によれば、タンパク質ナノファイバーを形成するための核として機能する、構造タンパク質微小体の有利な製造方法を提供することができる。
【0051】
第三の発明によれば、タンパク質から構成されるナノファイバーを容易に製造可能な、ナノファイバーの製造方法を提供することができる。
【0052】
第四の発明によれば、複数のタンパク質ナノファイバーが高度に配向した構造体を製造可能な、
タンパク質構造体の製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【
図1】タンパク質の構造の変化を示す模式図である。(a)は溶解したタンパク質を示し、(b)は円柱状のナノファイバーを形成したタンパク質を示す。
【
図2】
図2は、SAXS測定の測定原理を説明するための図である。
【
図3】
図3は、構造タンパク質微小体のThT染色による蛍光強度測定の結果の一例を示す図である。
【
図4】
図4は、構造タンパク質微小体のModified Kratky Plotの一例を示す図である。
【
図5】
図5は、改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図6】
図6は、天然由来のフィブロインのz/w(%)の値の分布を示す図である。
【
図7】
図7は、天然由来のフィブロインのx/y(%)の値の分布を示す図である。
【
図8】
図8は、改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図9】
図9は、改変フィブロインのドメイン配列の一例を示す模式図である。
【
図10】
図10は、ナノファイバーの形成を確認するための蛍光強度測定の結果の一例を示す図である。
【
図11】
図11は、ナノファイバーの形成を確認するための蛍光強度測定の結果の別の例を示す図である。
【
図12】
図12(a)は、実施例4のタンパク質構造体の製造工程を説明するための図であり、
図12(b)は、比較例2のタンパク質構造体の製造工程を説明するための図である。
【
図13】
図13は、実施例4のタンパク質構造体の2次元X線回折プロファイルを示す図である。
【
図14】比較例2のタンパク質構造体の2次元X線回折プロファイルを示す図である。
【
図15】
図15(a)は、実施例4のタンパク質構造体のAFM像を示す図であり、
図15(b)は、比較例2のタンパク質構造体のAFM像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0054】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。ただし、本発明は以下の実施形態に限定されるものではない。
【0055】
(構造タンパク質微小体) 本実施形態に係る構造タンパク質微小体は、タンパク質から構成されており、下記(i)~(iii)のうち少なくとも2つ(好ましくは3つ全て)を満たすことを特徴とする。(i)チオフラビンT染色による蛍光強度測定で、480~500nmの範囲内にピークを有する。(ii)小角X線散乱(SAXS)のModified Kratky Plotにおいて、Qが0.15以下の領域にピークを有する。(iii)2つ以上の構造タンパク質分子の会合体である。
【0056】
本実施形態に係る構造タンパク質微小体は、タンパク質ナノファイバーを形成するための核として機能する。このため、例えば、本実施形態に係る構造タンパク質微小体とタンパク質溶液とを混合することで、タンパク質ナノファイバーを容易に形成することができる。以下、(i)~(iii)について詳述する。
【0057】
<(i)チオフラビンT染色(ThT染色)による蛍光強度測定> チオフラビンT(ThT)はβシート構造に強く反応する蛍光色素であり、構造タンパク質微小体をThTで染色し、蛍光強度を測定することで、構造タンパク質微小体中のβシート構造の有無を確認することができる。
【0058】
蛍光強度は、蛍光光度計により測定することができる。蛍光光度計としては、例えば、JASCO FP-8200(日本分光株式会社製)等が挙げられる。測定は機器付属のマニュアルに準じて行えばよい。
【0059】
蛍光強度の測定は、具体的には、以下の条件で行うことができる。なお、測定試料には、構造タンパク質微小体を分散液(6M尿素、10mM TrisHCl(トリスヒドロキシメチルアミノメタン塩酸塩)、5mM DTT(ジチオトレイトール)の水溶液、pH7.0)中に、5mg/mLの濃度で分散させ、更にThTを4μMとなるように添加したものを用いる。また、3回の測定の平均値を測定値とする。 測定機器:JASCO FP-8200(日本分光株式会社製) 測定範囲:440~600nm 励起波長:450nm スキャンスピード:Medium 測定回数:3回
【0060】
なお、蛍光強度の測定には、プレートリーダー(例えば、SYNERGY HTX(バイオテック株式会社))を用いることもできる。プレートリーダーにより、蛍光強度の経時変化を追うことができる。測定は機器付属のマニュアルに準じて行えばよい。
【0061】
本実施形態では、ThTによる蛍光強度測定で得られる蛍光強度スペクトルにおいて、480~500nmの範囲内にピークがあることが好ましい。この場合、構造タンパク質微小体がβシート構造を有しており、このような構造タンパク質微小体は、タンパク質ナノファイバーを形成するための核として特に機能しやすい。
【0062】
図3は、構造タンパク質微小体のThT染色による蛍光強度測定の結果の一例を示す図である。
図3のA1(
図3に実線で示したグラフ)は、測定試料として、構造タンパク質微小体を第一の分散液(6M尿素、10mM TrisHCl及び5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に5mg/mLの濃度で分散させたものを用いた測定結果である。
図3のA1は、480~500nmの範囲内にピークを有しており、これにより、構造タンパク質微小体がβシート構造を有していることが確認される。
【0063】
なお、
図3のX1(
図3に破線で示したグラフ)は、測定試料として、構造タンパク質微小体を第二の分散液(5M GdmSCN(グアニジンチオシアン酸)、10mM trisHCl、5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に5mg/mLの濃度で分散した後、透析により第二の分散液を第一の分散液に置換したものを用いた測定結果である。本発明者の知見によれば、構造タンパク質微小体は、第一の分散液中では、その構造を維持できるが、第二の分散液中では、その構造が維持されず、溶解して、未会合のランダムコイルの構造タンパク質分子として振る舞う。このため、
図3のX1では、480~500nmの範囲内にピークが無く、この結果から、第二の分散液中にβシート構造を有する構造タンパク質微小体が存在していないことが分かる。
【0064】
<(ii)小角X線散乱(SAXS)のModified Kratky Plot> SAXSの測定は、具体的には、以下の条件で行うことができる。なお、測定試料には、構造タンパク質微小体を分散液(6M尿素、10mM TrisHCl及び5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に、5mg/mLの濃度で分散させたものを用いる。 測定装置:X線小角散乱測定装置NANO-Viewer (リガク社製)、X線発生装置MicroMAX007(リガク社製)、検出器PILATUS 200K(DECTRIS社製) 測定条件:X線波長1.5418Å(CuKα)、室温(20℃)、露光時間30分
【0065】
上記条件での測定後、円周平均を行い、1次元プロファイルを得る。1次元プロファイルを、IgorProソフトウェア(WaveMetrics社製)を用いて解析することで、Modified Kratky Plotを得ることができる。なお、本明細書中、Modified Kratky Plotとは、横軸をQ(=4πsinθ/λ)(単位:Å-1)、縦軸をI(Q)×Q5/3(単位:無次元)、としてグラフ化したものを示す。
【0066】
本実施形態において、「Qが0.15以下の領域にピークが存在する」という特徴は、構造タンパク質微小体が、電子密度の高い球状コア部を有していることを示すと考えられる。このことから、上記(ii)を満たす構造タンパク質微小体は、電子密度が高いコア部を有していると考えられる。このような構造タンパク質微小体は、タンパク質ナノファイバーを形成するための核として特に機能しやすい。
【0067】
本実施形態において、構造タンパク質微小体のModified Kratky Plotは、Qが0.15以上0.3以下の領域における変化幅が±10%以下であることが好ましい。このような特徴は、構造タンパク質微小体が、自己排除ランダムウォーク鎖(Self-avoiding random walk chain)を有していることを示すと考えられる。すなわち、上記(ii)とこの特徴とを併せ持つ構造タンパク質微小体は、電子密度が高いコア部と、当該コア部を囲むように配置されたランダムコイルと、から構成されていると考えられる。このような構造タンパク質微小体は、タンパク質ナノファイバーを形成するための核として特に機能しやすい。
【0068】
本実施形態において、小角X線散乱(SAXS)のModified Kratky Plotにおける上記ピークの大きさは、Qが0.15以上0.3以下の領域における平均値の1.1倍以上であることが好ましく、1.15倍以上であることがより好ましい。また、上記ピークの大きさは、例えば、Qが0.15以上0.3以下の領域における平均値の2倍以下であってよい。
【0069】
図4は、構造タンパク質微小体のModified Kratky Plotの一例を示す図である。
図4のA2(
図4に実線で示したグラフ)は、測定試料として、構造タンパク質微小体を第一の分散液(6M尿素、10mM TrisHCl及び5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に5mg/mLの濃度で分散させたものを用いた測定結果である。
図4のA2は、Qが0.15以下の領域にピークを有している。また、Qが0.15以上0.3以下の領域における変化幅が±10%以下となっている。この結果から、構造タンパク質微小体が、電子密度が高いコア部と、当該コア部を囲むように配置されたランダムコイルと、を備えていることが確認される。
【0070】
なお、
図4のX2(
図4に破線で示したグラフ)は、測定試料として、構造タンパク質微小体を第二の分散液(5M GdmSCN(グアニジンチオシアン酸)、10mM trisHCl、5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に5mg/mLの濃度で分散した後、透析により第二の分散液を第一の分散液に置換したもの用いた測定結果である。本発明者の知見によれば、構造タンパク質微小体は、第一の分散液中では、その構造を維持できるが、第二の分散液中では、その構造が維持されず、溶解して、未会合のランダムコイルの構造タンパク質分子として振る舞う。このため、
図4のX2では、Qが0.15以下の領域にピークが無く、電子密度が高いコア部を備える構造タンパク質微小体が存在していないことが分かる。
【0071】
<(iii)構造タンパク質分子の会合> 本実施形態の構造タンパク質微小体は、2つ以上の構造タンパク質分子が会合した会合体であることが好ましい。構造タンパク質微小体における構造タンパク質分子の会合数は、好ましくは2~10であり、より好ましくは2~5であり、更に好ましくは3である。
【0072】
構造タンパク質微小体における会合数は、例えば、未会合の構造タンパク質分子の分子量と、会合体の分子量とを比較することで確認することができる。具体的には、例えば、Guinier解析により求められる重量濃度で規格化した原点散乱強度によって、構造タンパク質微小体における会合数を確認することができる。原点散乱強度は、測定試料の分子量に比例することが知られているため、例えば、構造タンパク質微小体の原点散乱強度が、未会合の構造タンパク質分子の原点散乱強度の2.5倍以上3.5倍未満であれば、構造タンパク質微小体の会合数は3となる。
【0073】
すなわち、本実施形態において、構造タンパク質微小体のGuinier解析により求められる原点散乱強度は、未会合の構造タンパク質分子の原点散乱強度の1.5倍以上であることが好ましく、1.5倍以上10.5倍未満であることがより好ましく、1.5倍以上5.5倍未満であることが更に好ましく、2.5倍以上3.5倍未満であってもよい。
【0074】
なお、Guinier解析は、具体的には、以下の方法で行うことができる。 まず、第一の測定
試料群として、構造タンパク質微小体を第一の分散液(6M尿素、10mM TrisHCl及び5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に、2mg/mL、4mg/mL、6mg/mL、8mg/mL、10mg/mLの濃度で分散させたものを準備する。 次いで、第二の測定試料群として、構造タンパク質微小体を第二の分散液(5M GdmSCN(グアニジンチオシアン酸)、10mM trisHCl、5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に分散した後、透析により第二の分散液を第一の分散液に置換して、2mg/mL、4mg/mL、6mg/mL、8mg/mL、10mg/mLの濃度の測定試料を準備する。 第一の測定試料群及び第二の測定試料群について、それぞれ、以下の測定装置及び測定条件により、SAXS測定を行う。 測定装置:X線小角散乱測定装置NANO-Viewer (リガク社製)、X線発生装置MicroMAX007(リガク社製)、検出器PILATUS 200K(DECTRIS社製) 測定条件:X線波長1.5418Å(CuKα)、室温(20℃)、露光時間30分
【0075】
SAXS測定により得られた各試料の散乱曲線をGuinier解析し、その結果から濃度0mg/mlでの濃度で規格化した原点散乱強度(I(0))を求める。第一の測定試料群から求められた濃度で規格化した原点散乱強度と、第二の測定試料群から求められた濃度で規格化した原点散乱強度と、を比較することで、構造タンパク質微小体における会合数が確認できる。なお、第一の測定試料群から求められた濃度で規格化した原点散乱強度が、構造タンパク質微小体の分子量に相当し、第二の測定試料群から求められた濃度で規格化した原点散乱強度が、未会合の構造タンパク質分子の分子量に相当する。
【0076】
本発明者の知見によれば、構造タンパク質微小体は、第一の分散液中では、その構造を維持できるが、第二の分散液中では、その構造が維持されず、溶解して、未会合のランダムコイルの構造タンパク質分子として振る舞う。このため、上記方法によって、構造タンパク質微小体における会合数を確認することができる。
【0077】
以下、X線小角散乱(SAXS)、Guinier解析及びModified Kratky Plotについて詳述する。
【0078】
SAXS測定 SAXS測定は、X線を物質に照射して散乱したX線のうち、2θ<10°以下の小角側に現れるものを測定し、物質の構造を評価することができる手法である。
【0079】
図2は、SAXS測定の測定原理を説明するための図である。1つの物体からの散乱を考えた場合、
図2で示すA点で散乱されたX線とB点で散乱されたX線が散乱角(入射方向と散乱方向の間の角度)2θの方向でどのように強めあうかは、光路長の差と波長の関係で決定される。入射ベクトルをQ
0、散乱角2θ方向のベクトルをQ
1とすると、光路長による位相差はr・Q
0-r・Q
1で表される。弾性散乱の場合、波長は不変であるため、
【数1】
である。 散乱ベクトルを
【数2】
と定義すると、
【数3】
となり、2つの波の位相差はrQとなる。 タンパク質溶液は水に対して電子密度が高いので、タンパク質溶液からの散乱から水の散乱を差し引くと、タンパク質構造のみに起因する散乱を得ることができる。溶液散乱の場合、タンパク質は溶液中で等方的に存在するので、散乱は同心円状となる。
【0080】
物体1個からの散乱振幅F
1(Q)は、物体内r点での水の電子密度との差をΔρ(r)とすると、
【数4】
となる。すなわち散乱振幅は電子密度のフーリエ変換である。溶液中では粒子が不規則に存在するために、全配向について平均化された個々の粒子からの散乱が等方的な散乱強度として観測される。個々の粒子からの散乱強度をi
1(Q)、N個の粒子からの散乱をI(Q)とすると、
【数5】
【数6】
となる。理想的な単分散系では、N個の蛋白質分子からの散乱は空間平均された1分子からの散乱強度のN倍となる。
【数7】
【0081】
φ(r)のフーリエ変換FT[φ(r)]とΨ(r)のフーリエ変換FT[Ψ(r)]の積FT[φ(r)]・FT[Ψ(r)]はφ(r)とΨ(r)のコンボリューションφ(r)*Ψ(r)のフーリエ変換FT[φ(r)*Ψ(r)]と等しい(convolution theorem)ことから、1分子の散乱強度i
1(Q)を次のように表すことができる。
【数8】
【0082】
ここで自己相関関数γ(r)
【数9】
を導入すると、
【数10】
となり、更に、
【数11】
【数12】
と表される。式(A-1)のP(r)関数を動径分布関数という。
【0083】
タンパク質1分子からの散乱を、タンパク質を構成する原子の散乱の総和と考えると、
【数13】
ここでf
i(Q)はi番目の原子からの散乱で、空間平均された散乱はDebyeにより、
【数14】
である。連続的な電子密度を考えると、
【数15】
と表現できる。
【0084】
Guinier解析 Guinierプロットは、散乱ベクトルの二乗に対して散乱強度の対数をプロットするもので、小角領域では直線近似できる。 式(A-1)において、散乱角が非常に小さな領域を考える。
【数16】
というようにTaylor展開でき、
【数17】
と近似される。ここで、
【数18】
である。
【0085】
同様に、式(A-2)ついて、溶液中の構造タンパク質分子全体からの散乱に拡張したI(Q)に関してTaylor展開を行うと、
【数19】
となり、この場合、
【数20】
である。
【0086】
座標を交換してr
0を原点とすると、
【数21】
と計算できる。r
0は分子の重心と一致させることができるため、上式第2項はゼロとなり、
【数22】
となる。従って、
【数23】
を得る。これをGuinierの法則という。式(A-3)で回転半径Rg
2を次のように定義した。
【数24】
式(A-3)で両辺の自然対数をとると、
【数25】
となる。
【0087】
横軸にQ
2、縦軸にln[I(Q)]をプロットしたものをGuinierプロットと呼ぶ。散乱曲線の小角領域には直線領域が存在し、その傾きから慣性半径Rg
2を、その直線を原点に外挿して得られるY切片から原点散乱強度I(0)が求められる。 式(A-1)においてQ=0すなわち原点での散乱強度は、
【数26】
である。
【0088】
水よりも電子密度の高いタンパク質電子数の総和に関する式となるから、
【数27】
となる。ここでm、m
0はタンパク質1分子の占める体積内のタンパク質と水の電子数、M、ν
pはそれぞれタンパク質の分子量と偏比容、ρ、ρ
0はそれぞれタンパク質と水の電子密度である。 X線の照射体積V(ml)中にN個の構造タンパク質分子が存在する系からの散乱では、下記式:
【数28】
のタンパク質濃度cを用いて、
【数29】
となる。 標準試料と目的タンパク質の原点散乱強度を濃度で規格化し比較することで、構造タンパク質分子の見かけの分子量を見積もることができる。このことから、溶液中の構造タンパク質の会合数を求めることも可能である。
【0089】
Kratky Plot Kratky Plotは、Q2に散乱強度I(Q)をかけたものI(Q)・Q2を、Qに対してプロットするものである。コンパクトな球状構造からの散乱曲線は、I(Q)がQ-4に従う領域を持つ(Porod則)、すなわちI(Q)・Q2がQ-2に従う領域が存在し、Kratkyプロットには必ずピークが現れる。より小角側に存在するピークはより大きな慣性半径を、より中角領域側に存在するピークの存在はより小さな慣性半径を示す。また、良溶媒中に存在する理想的なランダムコイル(ガウス鎖)からの散乱曲線はQ-2に従うようになる。よってそのKratkyプロットは横軸に平行な直線に漸近する。実際のランダムな鎖状分子内には持続長と呼ばれる直線にみなすことのできるセグメントが存在する。故に広角側の散乱曲線は針状分子からの散乱曲線I(Q)∝Q-1に比例し、Kratkyプロットは原点を通る直線に漸近する。 タンパク質のKratky Plotを比較することで、タンパク質の球状性やコンパクトさについて観測することができる。 Modified Kratky plotは自己排除ランダムウォーク鎖(Self-avoiding random walk chain)を考慮したKratkyプロットである。自己排除ランダムウォーク鎖の場合、広角領域はQ-5/3に比例する。例えばDendrimerやStar polymerのような電子密度が高いコア部分とそれを囲むようにランダムコイルが配置された構造持つ高分子のModified Kratky plotでは、小角領域にピークが、広角領域には水平な領域が観測される。
【0090】
本実施形態に係る構造タンパク質微小体の平均粒子径は、1~50nmであることが好ましく、3~30nmであることがより好ましく、9~15nmであることが更に好ましい。
【0091】
なお、本明細書中、構造タンパク質微小体の平均粒子径は、動的散乱法によって測定
される体積平均径を示す。より具体的には、構造タンパク質微小体の平均粒子径は、以下の方法で測定される。
【0092】
まず、測定試料群として、構造タンパク質微小体を第一の分散液(6M尿素、10mM TrisHCl及び5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に、2mg/mL、4mg/mL、6mg/mL、8mg/mL、10mg/mLの濃度で分散させたものを準備する。 次いで、各測定試料について、以下の条件で動的光散乱法による粒度分布の測定を行い、体積平均径を求める。 測定装置:ZETASIZER nano-ZS(マルバーン社製) 測定温度:20℃ 各測定試料について5回ずつ上記測定を行い、得られた測定値の平均値を求める。 各測定試料の濃度及び測定値(平均値)から、濃度に対する平均粒子径のプロットを取り、分子間相互作用を排除した0濃度外挿を行う。0濃度外挿により得られた値を、構造タンパク質微小体の平均粒子径とする。
【0093】
構造タンパク質微小体を構成する構造タンパク質について、以下に詳述する。
【0094】
構造タンパク質としては、天然構造タンパク質と改変構造タンパク質(人工構造タンパク質)とを挙げることができる。また、改変構造タンパク質としては、工業規模での製造が可能な任意の構造タンパク質を挙げることができる。そのような構造タンパク質の具体例としては、スパイダーシルク、カイコシルク、ミノムシシルク、ホーネットシルク、ケラチン、コラ-ゲン、エラスチン及びレシリン、並びにこれら由来のタンパク質等を挙げることができる。
【0095】
構造タンパク質微小体を構成する構造タンパク質としては、フィブロイン様タンパク質(以下、単に「フィブロイン」ともいう。)が好ましく、改変フィブロインがより好ましく、改変クモ糸フィブロインが更に好ましい。
【0096】
(改変フィブロイン) 本実施形態に係る改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。改変フィブロインは、ドメイン配列のN末端側及びC末端側のいずれか一方又は両方に更にアミノ酸配列(N末端配列及びC末端配列)が付加されていてもよい。N末端配列及びC末端配列は、これに限定されるものではないが、典型的には、フィブロインに特徴的なアミノ酸モチーフの反復を有さない領域であり、100残基程度のアミノ酸からなる。
【0097】
本明細書において「改変フィブロイン」とは、人為的に製造されたフィブロイン(人造フィブロイン)を意味する。改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列とは異なるフィブロインであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列と同一であるフィブロインであってもよい。本明細書でいう「天然由来のフィブロイン」もまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。
【0098】
「改変フィブロイン」は、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列をそのまま利用したものであってもよく、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列に依拠してそのアミノ酸配列を改変したもの(例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列を改変することによりアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、また天然由来のフィブロインに依らず人工的に設計及び合成したもの(例えば、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより所望のアミノ酸配列を有するもの)であってもよい。
【0099】
本明細書において「ドメイン配列」とは、フィブロイン特有の結晶領域(典型的には、アミノ酸配列の(A)nモチーフに相当する。)と非晶領域(典型的には、アミノ酸配列のREPに相当する。)を生じるアミノ酸配列であり、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるアミノ酸配列を意味する。ここで、(A)nモチーフは、アラニン残基を主とするアミノ酸配列を示し、アミノ酸残基数は2~27である。(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、2~20、4~27、4~20、8~20、10~20、4~16、8~16、又は10~16の整数であってよい。また、(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数の割合は40%以上であればよく、60%以上、70%以上、80%以上、83%以上、85%以上、86%以上、90%以上、95%以上、又は100%(アラニン残基のみで構成されることを意味する。)であってもよい。ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフは、少なくとも7つがアラニン残基のみで構成されてもよい。REPは2~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列を示す。REPは、10~200アミノ酸残基から構成されるアミノ酸配列であってもよい。mは2~300の整数を示し、10~300の整数であってもよい。複数存在する(A)nモチーフは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。複数存在するREPは、互いに同一のアミノ酸配列でもよく、異なるアミノ酸配列でもよい。
【0100】
本実施形態に係る改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列に対し、例えば、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行うことで得ることができる。アミノ酸残基の置換、欠失、挿入及び/又は付加は、部分特異的突然変異誘発法等の当業者に周知の方法により行うことができる。具体的には、Nucleic Acid Res.10,6487(1982)、Methods in Enzymology,100,448(1983)等の文献に記載されている方法に準じて行うことができる。
【0101】
天然由来のフィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質であり、具体的には、例えば、昆虫又はクモ類が産生するフィブロインが挙げられる。昆虫が産生するフィブロインとしては、例えば、ボンビックス・モリ(Bombyx mori)、クワコ(Bombyx mandarina)、天蚕(Antheraea yamamai)、柞蚕(Anteraea pernyi)、楓蚕(Eriogyna pyretorum)、蓖蚕(Pilosamia Cynthia ricini)、樗蚕(Samia cynthia)、栗虫(Caligura japonica)、チュッサー蚕(Antheraea mylitta)、ムガ蚕(Antheraea assama)等のカイコが産生する絹タンパク質、及びスズメバチ(Vespa simillima xanthoptera)の幼虫が吐出するホーネットシルクタンパク質が挙げられる。
【0102】
昆虫が産生するフィブロインのより具体的な例としては、例えば、カイコ・フィブロインL鎖(GenBankアクセッション番号M76430(塩基配列)、及びAAA27840.1(アミノ酸配列))が挙げられる。
【0103】
クモ類が産生するフィブロインとしては、例えば、クモ目(Araneae)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。より具体的には、オニグモ、ニワオニグモ、アカオニグモ、アオオニグモ及びマメオニグモ等のオニグモ属(Araneus属)に属するクモ、ヤマシロオニグモ、イエオニグモ、ドヨウオニグモ及びサツマノミダマシ等のヒメオニグモ属(Neoscona属)に属するクモ、コオニグモモドキ等のコオニグモモドキ属(Pronus属)に属するクモ、トリノフンダマシ及びオオトリノフンダマシ等のトリノフンダマシ属(Cyrtarachne属)に属するクモ、トゲグモ及びチブサトゲグモ等のトゲグモ属(Gasteracantha属)に属するクモ、マメイタイセキグモ及びムツトゲイセキグモ等のイセキグモ属(Ordgarius属)に属するクモ、コガネグモ、コガタコガネグモ及びナガコガネグモ等のコガネグモ属(Argiope属)に属するクモ、キジロオヒキグモ等のオヒキグモ属(Arachnura属)に属するクモ、ハツリグモ等のハツリグモ属(Acusilas属)に属するクモ、スズミグモ、キヌアミグモ及びハラビロスズミグモ等のスズミグモ属(Cytophora属)に属するクモ、ゲホウグモ等のゲホウグモ属(Poltys属)に属するクモ、ゴミグモ、ヨツデゴミグモ、マルゴミグモ及びカラスゴミグモ等のゴミグモ属(Cyclosa属)に属するクモ、及びヤマトカナエグモ等のカナエグモ属(Chorizopes属)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質、並びにアシナガグモ、ヤサガタアシナガグモ、ハラビロアシダカグモ及びウロコアシナガグモ等のアシナガグモ属(Tetragnatha属)に属するクモ、オオシロカネグモ、チュウガタシロカネグモ及びコシロカネグモ等のシロカネグモ属(Leucauge属)に属するクモ、ジョロウグモ及びオオジョロウグモ等のジョロウグモ属(Nephila属)に属するクモ、キンヨウグモ等のアズミグモ属(Menosira属)に属するクモ、ヒメアシナガグモ等のヒメアシナガグモ属(Dyschiriognatha属)に属するクモ、クロゴケグモ、セアカゴケグモ、ハイイロゴケグモ及びジュウサンボシゴケグモ等のゴケグモ属(Latrodectus属)に属するクモ、及びユープロステノプス属(Euprosthenops属)に属するクモ等のアシナガグモ科(Tetragnathidae科)に属するクモが産生するスパイダーシルクタンパク質が挙げられる。スパイダーシルクタンパク質としては、例えば、MaSp(MaSp1及びMaSp2)、ADF(ADF3及びADF4)等の牽引糸タンパク質、MiSp(MiSp1及びMiSp2)、AcSp、PySp、Flag等が挙げられる。
【0104】
クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のより具体的な例としては、例えば、fibroin-3(adf-3)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47010(アミノ酸配列)、U47855(塩基配列))、fibroin-4(adf-4)[Araneus diadematus由来](GenBankアクセッション番号AAC47011(アミノ酸配列)、U47856(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 1[Nephila clavipes由来](GenBankアクセッション番号AAC04504(アミノ酸配列)、U37520(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Latrodectus hesperus由来](GenBankアクセッション番号ABR68856(アミノ酸配列)、EF595246(塩基配列))、dragline silk protein spidroin 2[Nephila clavata由来](GenBankアクセッション番号AAL32472(アミノ酸配列)、AF441245(塩基配列))、major ampullate spidroin 1[Euprosthenops australis由来](GenBankアクセッション番号CAJ00428(アミノ酸配列)、AJ973155(塩基配列))、及びmajor ampullate spidroin 2[Euprosthenops australis](GenBankアクセッション番号CAM32249.1(アミノ酸配列)、AM490169(塩基配列))、minor ampu
llate silk protein 1[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14589.1(アミノ酸配列))、minor ampullate silk protein 2[Nephila clavipes](GenBankアクセッション番号AAC14591.1(アミノ酸配列))、minor ampullate spidroin-like protein[Nephilengys cruentata](GenBankアクセッション番号ABR37278.1(アミノ酸配列)等が挙げられる。
【0105】
天然由来のフィブロインのより具体的な例としては、更に、NCBI GenBankに配列情報が登録されているフィブロインを挙げることができる。例えば、NCBI GenBankに登録されている配列情報のうちDIVISIONとしてINVを含む配列の中から、DEFINITIONにspidroin、ampullate、fibroin、「silk及びpolypeptide」、又は「silk及びprotein」がキーワードとして記載されている配列、CDSから特定のproductの文字列、SOURCEからTISSUE TYPEに特定の文字列の記載された配列を抽出することにより確認することができる。
【0106】
本実施形態に係る改変フィブロインは、改変絹(シルク)フィブロイン(カイコが産生する絹タンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよく、改変クモ糸フィブロイン(クモ類が産生するスパイダーシルクタンパク質のアミノ酸配列を改変したもの)であってもよい。改変フィブロインとしては、難燃性により優れることから、改変クモ糸フィブロインが好ましい。
【0107】
改変フィブロインの具体的な例として、クモの大瓶状腺で産生される大吐糸管しおり糸タンパク質に由来する改変フィブロイン(第1の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第2の改変フィブロイン)、(A)nモチーフの含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第3の改変フィブロイン)、グリシン残基の含有量、及び(A)nモチーフの含有量が低減された改変フィブロイン(第4の改変フィブロイン)、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むドメイン配列を有する改変フィブロイン(第5の改変フィブロイン)、並びにグルタミン残基の含有量が低減されたドメイン配列を有する改変フィブロイン(第6の改変フィブロイン)が挙げられる。
【0108】
第1の改変フィブロインとしては、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質が挙げられる。第1の改変フィブロインにおいて、(A)nモチーフのアミノ酸残基数は、3~20の整数が好ましく、4~20の整数がより好ましく、8~20の整数が更に好ましく、10~20の整数が更により好ましく、4~16の整数が更によりまた好ましく、8~16の整数が特に好ましく、10~16の整数が最も好ましい。第1の改変フィブロインは、式1中、REPを構成するアミノ酸残基の数は、10~200残基であることが好ましく、10~150残基であることがより好ましく、20~100残基であることが更に好ましく、20~75残基であることが更により好ましい。第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列中に含まれるグリシン残基、セリン残基及びアラニン残基の合計残基数がアミノ酸残基数全体に対して、40%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、70%以上であることが更に好ましい。
【0109】
第1の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるアミノ酸配列の単位を含み、かつC末端配列が配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列又は配列番号1~3のいずれかに示されるアミノ酸配列と90%以上の相同性を有するアミノ酸配列であるポリペプチドであってもよい。
【0110】
配列番号1に示されるアミノ酸配列は、ADF3(GI:1263287、NCBI)のアミノ酸配列のC末端の50残基のアミノ酸からなるアミノ酸配列と同一であり、配列番号2に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から20残基取り除いたアミノ酸配列と同一であり、配列番号3に示されるアミノ酸配列は、配列番号1に示されるアミノ酸配列のC末端から29残基取り除いたアミノ酸配列と同一である。
【0111】
第1の改変フィブロインのより具体的な例として、(1-i)配列番号4(recombinant spider silk protein ADF3KaiLargeNRSH1)で示されるアミノ酸配列、又は(1-ii)配列番号4で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0112】
配列番号4で示されるアミノ酸配列は、N末端に開始コドン、His10タグ及びHRV3Cプロテアーゼ(Human rhinovirus 3Cプロテアーゼ)認識サイトからなるアミノ酸配列(配列番号5)を付加したADF3のアミノ酸配列において、第1~13番目の反復領域をおよそ2倍になるように増やすとともに、翻訳が第1154番目アミノ酸残基で終止するように変異させたものである。配列番号4で示されるアミノ酸配列のC末端のアミノ酸配列は、配列番号3で示されるアミノ酸配列と同一である。
【0113】
(1-i)の改変フィブロインは、配列番号4で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0114】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第2の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0115】
第2の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中のGGX及びGPGXX(但し、Gはグリシン残基、Pはプロリン残基、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)から選ばれる少なくとも一つのモチーフ配列において、少なくとも1又は複数の当該モチーフ配列中の1つのグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0116】
第2の改変フィブロインは、上述のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたモチーフ配列の割合が、全モチーフ配列に対して、10%以上であってもよい。
【0117】
第2の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の全REPに含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列中の総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが30%以上、40%以上、50%以上又は50.9%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0118】
第2の改変フィブロインは、GGXモチーフの1つのグリシン残基を別のアミノ酸残基に置換することにより、XGXからなるアミノ酸配列の含有割合を高めたものであることが好ましい。第2の改変フィブロインは、ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が30%以下であることが好ましく、20%以下であることがより好ましく、10%以下であることが更に好ましく、6%以下であることが更により好ましく、4%以下であることが更によりまた好ましく、2%以下であることが特に好ましい。ドメイン配列中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合は、下記XGXからなるアミノ酸配列の含有割合(z/w)の算出方法と同様の方法で算出することができる。
【0119】
z/wの算出方法を更に詳細に説明する。まず、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる全てのREPから、XGXからなるアミノ酸配列を抽出する。XGXを構成するアミノ酸残基の総数がzである。例えば、XGXからなるアミノ酸配列が50個抽出された場合(重複はなし)、zは50×3=150である。また、例えば、XGXGXからなるアミノ酸配列の場合のように2つのXGXに含まれるX(中央のX)が存在する場合は、重複分を控除して計算する(XGXGXの場合は5アミノ酸残基である)。wは、ドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列に含まれる総アミノ酸残基数である。例えば、
図5に示したドメイン配列の場合、wは4+50+4+100+4+10+4+20+4+30=230である(最もC末端側に位置する(A)
nモチーフは除いている。)。次に、zをwで除すことによって、z/w(%)を算出することができる。
【0120】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるz/wについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列を含み、フィブロイン中のGGXからなるアミノ酸配列の含有割合が6%以下である天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、z/wを算出した。その結果を
図6に示す。
図6の横軸はz/w(%)を示し、縦軸は頻度を示す。
図6から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるz/wは、いずれも50.9%未満である(最も高いもので、50.86%)。
【0121】
第2の改変フィブロインにおいて、z/wは、50.9%以上であることが好ましく、56.1%以上であることがより好ましく、58.7%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、80%以上であることが更によりまた好ましい。z/wの上限に特に制限はないが、例えば、95%以下であってもよい。
【0122】
第2の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、グリシン残基をコードする塩基配列の少なくとも一部を置換して別のアミノ酸残基をコードするように改変することにより得ることができる。このとき、改変するグリシン残基として、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフにおける1つのグリシン残基を選択してもよいし、またz/wが50.9%以上になるように置換してもよい。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記態様を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中のグリ
シン残基を別のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0123】
上記の別のアミノ酸残基としては、グリシン残基以外のアミノ酸残基であれば特に制限はないが、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、メチオニン(M)残基、プロリン(P)残基、フェニルアラニン(F)残基及びトリプトファン(W)残基等の疎水性アミノ酸残基、グルタミン(Q)残基、アスパラギン(N)残基、セリン(S)残基、リシン(K)残基及びグルタミン酸(E)残基等の親水性アミノ酸残基が好ましく、バリン(V)残基、ロイシン(L)残基、イソロイシン(I)残基、フェニルアラニン(F)残基及びグルタミン(Q)残基がより好ましく、グルタミン(Q)残基が更に好ましい。
【0124】
第2の改変フィブロインのより具体的な例として、(2-i)配列番号6(Met-PRT380)、配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)若しくは配列番号9(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-ii)配列番号6、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0125】
(2-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号6で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列のREP中の全てのGGXをGQXに置換したものである。配列番号7で示されるアミノ酸配列は、配列番号6で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号8で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列の各(A)nモチーフのC末端側に2つのアラニン残基を挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、配列番号7の分子量とほぼ同じとなるようにC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号9で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中に存在する20個のドメイン配列の領域(但し、当該領域のC末端側の数アミノ酸残基が置換されている。)を4回繰り返した配列のC末端に所定のヒンジ配列とHisタグ配列が付加されたものである。
【0126】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)におけるz/wの値は、46.8%である。配列番号6で示されるアミノ酸配列、配列番号7で示されるアミノ酸配列、配列番号8で示されるアミノ酸配列、及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ58.7%、70.1%、66.1%及び70.0%である。また、配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のギザ比率(後述する)1:1.8~11.3におけるx/yの値は、それぞれ15.0%、15.0%、93.4%、92.7%及び89.8%である。
【0127】
(2-i)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0128】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0129】
(2-ii)の改変フィブロインは、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0130】
第2の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0131】
タグ配列として、例えば、他の分子との特異的親和性(結合性、アフィニティ)を利用したアフィニティタグを挙げることができる。アフィニティタグの具体例として、ヒスチジンタグ(Hisタグ)を挙げることができる。Hisタグは、ヒスチジン残基が4から10個程度並んだ短いペプチドで、ニッケル等の金属イオンと特異的に結合する性質があるため、金属キレートクロマトグラフィー(chelating metal chromatography)による改変フィブロインの単離に利用することができる。タグ配列の具体例として、例えば、配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含むアミノ酸配列)が挙げられる。
【0132】
また、グルタチオンに特異的に結合するグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)、マルトースに特異的に結合するマルトース結合タンパク質(MBP)等のタグ配列を利用することもできる。
【0133】
さらに、抗原抗体反応を利用した「エピトープタグ」を利用することもできる。抗原性を示すペプチド(エピトープ)をタグ配列として付加することにより、当該エピトープに対する抗体を結合させることができる。エピトープタグとして、HA(インフルエンザウイルスのヘマグルチニンのペプチド配列)タグ、mycタグ、FLAGタグ等を挙げることができる。エピトープタグを利用することにより、高い特異性で容易に改変フィブロインを精製することができる。
【0134】
さらにタグ配列を特定のプロテアーゼで切り離せるようにしたものも使用することができる。当該タグ配列を介して吸着したタンパク質をプロテアーゼ処理することにより、タグ配列を切り離した改変フィブロインを回収することもできる。
【0135】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(2-iii)配列番号12(PRT380)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(2-iv)配列番号12、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0136】
配列番号16(PRT313)、配列番号12、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号10、配列番号6、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0137】
(2-iii)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0138】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(2-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0139】
(2-iv)の改変フィブロインは、配列番号12、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつREP中に含まれるXGX(但し、Xはグリシン以外のアミノ酸残基を示す。)からなるアミノ酸配列の総アミノ酸残基数をzとし、上記ドメイン配列中のREPの総アミノ酸残基数をwとしたときに、z/wが50.9%以上であることが好ましい。
【0140】
第2の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0141】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。第3の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。
【0142】
第3の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインから(A)nモチーフを10~40%欠失させたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0143】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって1~3つの(A)nモチーフ毎に1つの(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0144】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つ連続した(A)nモチーフの欠失、及び1つの(A)nモチーフの欠失がこの順に繰り返されたことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0145】
第3の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、少なくともN末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってもよい。
【0146】
第3の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、N末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが20%以上、30%以上、40%以上又は50%以上であるアミノ酸配列を有するものであってもよい。(A)nモチーフ中の全アミノ酸残基数に対するアラニン残基数は83%以上であってよいが、86%以上であることが好ましく、90%以上であることがより好ましく、95%以上であることが更に好ましく、100%であること(アラニン残基のみで構成されることを意味する)が更により好ましい。
【0147】
x/yの算出方法を
図5を参照しながら更に詳細に説明する。
図5には、改変フィブロインからN末端配列及びC末端配列を除いたドメイン配列を示す。当該ドメイン配列は、N末端側(左側)から(A)
nモチーフ-第1のREP(50アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第2のREP(100アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第3のREP(10アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第4のREP(20アミノ酸残基)-(A)
nモチーフ-第5のREP(30アミノ酸残基)-(A)nモチーフという配列を有する。
【0148】
隣合う2つの[(A)
nモチーフ-REP]ユニットは、重複がないように、N末端側からC末端側に向かって、順次選択する。このとき、選択されない[(A)
nモチーフ-REP]ユニッ
トが存在してもよい。
図5には、パターン1(第1のREPと第2のREPの比較、及び第3のREPと第4のREPの比較)、パターン2(第1のREPと第2のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン3(第2のREPと第3のREPの比較、及び第4のREPと第5のREPの比較)、パターン4(第1のREPと第2のREPの比較)を示した。なお、これ以外にも選択方法は存在する。
【0149】
次に各パターンについて、選択した隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニット中の各REPのアミノ酸残基数を比較する。比較は、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときの、他方のアミノ酸残基数の比を求めることによって行う。例えば、第1のREP(50アミノ酸残基)と第2のREP(100アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第1のREPを1としたとき、第2のREPのアミノ酸残基数の比は、100/50=2である。同様に、第4のREP(20アミノ酸残基)と第5のREP(30アミノ酸残基)の比較の場合、よりアミノ酸残基数の少ない第4のREPを1としたとき、第5のREPのアミノ酸残基数の比は、30/20=1.5である。
【0150】
図5中、よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの組を実線で示した。本明細書中、この比をギザ比率と呼ぶ。よりアミノ酸残基数の少ない方を1としたときに、他方のアミノ酸残基数の比が1.8未満又は11.3超となる[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの組は破線で示した。
【0151】
各パターンにおいて、実線で示した隣合う2つの[(A)
nモチーフ-REP]ユニットの全てのアミノ酸残基数を足し合わせる(REPのみではなく、(A)
nモチーフのアミノ酸残基数もである。)。そして、足し合わせた合計値を比較して、当該合計値が最大となるパターンの合計値(合計値の最大値)をxとする。
図5に示した例では、パターン1の合計値が最大である。
【0152】
次に、xをドメイン配列の総アミノ酸残基数yで除すことによって、x/y(%)を算出することができる。
【0153】
第3の改変フィブロインにおいて、x/yは、50%以上であることが好ましく、60%以上であることがより好ましく、65%以上であることが更に好ましく、70%以上であることが更により好ましく、75%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、例えば、100%以下であってよい。ギザ比率が1:1.9~11.3の場合には、x/yは89.6%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.8~3.4の場合には、x/yは77.1%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~8.4の場合には、x/yは75.9%以上であることが好ましく、ギザ比率が1:1.9~4.1の場合には、x/yは64.2%以上であることが好ましい。
【0154】
第3の改変フィブロインが、ドメイン配列中に複数存在する(A)nモチーフの少なくとも7つがアラニン残基のみで構成される改変フィブロインである場合、x/yは、46.4%以上であることが好ましく、50%以上であることがより好ましく、55%以上であることが更に好ましく、60%以上であることが更により好ましく、70%以上であることが更によりまた好ましく、80%以上であることが特に好ましい。x/yの上限に特に制限はなく、100%以下であればよい。
【0155】
ここで、天然由来のフィブロインにおけるx/yについて説明する。まず、上述のように、NCBI GenBankにアミノ酸配列情報が登録されているフィブロインを例示した方法により確認したところ、663種類のフィブロイン(このうち、クモ類由来のフィブロインは415種類)が抽出された。抽出された全てのフィブロインのうち、式1:[(A)
nモチーフ-REP]
mで表されるドメイン配列で構成される天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、上述の算出方法により、x/yを算出した。ギザ比率が1:1.9~4.1の場合の結果を
図8に示す。
【0156】
図7の横軸はx/y(%)を示し、縦軸は頻度を示す。
図7から明らかなとおり、天然由来のフィブロインにおけるx/yは、いずれも64.2%未満である(最も高いもので、64.14%)。
【0157】
第3の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列から、x/yが64.2%以上になるように(A)nモチーフをコードする配列の1又は複数を欠失させることにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から、x/yが64.2%以上になるように1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から(A)nモチーフが欠失したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0158】
第3の改変フィブロインのより具体的な例として、(3-i)配列番号17(Met-PRT399)、配列番号7(Met-PRT410)、配列番号8(Met-PRT525)若しくは配列番号9(Met-PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-ii)配列番号17、配列番号7、配列番号8若しくは配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0159】
(3-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号17で示されるアミノ酸配列は、天然由来のフィブロインに相当する配列番号10(Met-PRT313)で示されるアミノ酸配列から、N末端側からC末端側に向かって2つおきに(A)nモチーフを欠失させ、更にC末端配列の手前に[(A)nモチーフ-REP]を1つ挿入したものである。配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列は、第2の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0160】
配列番号10で示されるアミノ酸配列(天然由来のフィブロインに相当)のギザ比率1:1.8~11.3におけるx/yの値は15.0%である。配列番号17で示されるアミノ酸配列、及び配列番号7で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、いずれも93.4%である。配列番号8で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、92.7%である。配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるx/yの値は、89.8%である。配列番号10、配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列におけるz/wの値は、それぞれ46.8%、56.2%、70.1%、66.1%及び70.0%である。
【0161】
(3-i)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0162】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0163】
(3-ii)の改変フィブロインは、配列番号17、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3(ギザ比率が1:1.8~11.3)となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0164】
第3の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方に上述したタグ配列を含んでいてもよい。
【0165】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(3-iii)配列番号18(PRT399)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(3-iv)配列番号18、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0166】
配列番号18、配列番号13、配列番号14及び配列番号15で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号17、配列番号7、配列番号8及び配列番号9で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0167】
(3-iii)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0168】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(3-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0169】
(3-iv)の改変フィブロインは、配列番号18、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつN末端側からC末端側に向かって、隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのREPのアミノ酸残基数を順次比較して、アミノ酸残基数が少ないREPのアミノ酸残基数を1としたとき、他方のREPのアミノ酸残基数の比が1.8~11.3となる隣合う2つの[(A)nモチーフ-REP]ユニットのアミノ酸残基数を足し合わせた合計値の最大値をxとし、ドメイン配列の総アミノ酸残基数をyとしたときに、x/yが64.2%以上であることが好ましい。
【0170】
第3の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0171】
第4の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、(A)nモチーフの含有量が低減されたことに加え、グリシン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有するものである。第4の改変フィブロインのドメイン配列は、天然由来のフィブロインと比較して、少なくとも1又は複数の(A)nモチーフが欠失したことに加え、更に少なくともREP中の1又は複数のグリシン残基が別のアミノ酸残基に置換されたことに相当するアミノ酸配列を有するものということができる。すなわち、第4の改変フィブロインは、上述した第2の改変フィブロインと、第3の改変フィブロインの特徴を併せ持つ改変フィブロインである。具体的な態様等は、第2の改変フィブロイン、及び第3の改変フィブロインで説明したとおりである。
【0172】
第4の改変フィブロインのより具体的な例として、(4-i)配列番号7(Met-PRT410)、配
列番号8(Met-PRT525)、配列番号9(Met-PRT799)、配列番号13(PRT410)、配列番号14(PRT525)若しくは配列番号15(PRT799)で示されるアミノ酸配列、又は(4-ii)配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14若しくは配列番号15で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。配列番号7、配列番号8、配列番号9、配列番号13、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインの具体的な態様は上述のとおりである。
【0173】
第5の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0174】
局所的に疎水性指標の大きい領域は、連続する2~4アミノ酸残基で構成されていることが好ましい。
【0175】
上述の疎水性指標の大きいアミノ酸残基は、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましい。
【0176】
第5の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に、天然由来のフィブロインと比較して、1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0177】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基を疎水性アミノ酸残基に置換したこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変を行ってもよい。
【0178】
第5の改変フィブロインは、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含み、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフから上記ドメイン配列のC末端までの配列を上記ドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であるアミノ酸配列を有してもよい。
【0179】
アミノ酸残基の疎水性指標については、公知の指標(Hydropathy index:Kyte J,&Doolittle R(1982)“A simple method for displaying the hydropathic character of a protein”,J.Mol.Biol.,157,pp.105-132)を使用する。具体的には、各アミノ酸の疎水性指標(ハイドロパシー・インデックス、以下「HI」とも記す。)は、下記表1に示すとおりである。
【0180】
【0181】
p/qの算出方法を更に詳細に説明する。算出には、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列から、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列を除いた配列(以下、「配列A」とする)を用いる。まず、配列Aに含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値を算出する。疎水性指標の平均値は、連続する4アミノ酸残基に含まれる各アミノ酸残基のHIの総和を4(アミノ酸残基数)で除して求める。疎水性指標の平均値は、全ての連続する4アミノ酸残基について求める(各アミノ酸残基は、1~4回平均値の算出に用いられる。)。次いで、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域を特定する。あるアミノ酸残基が、複数の「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」に該当する場合であっても、領域中には1アミノ酸残基として含まれることになる。そして、当該領域に含まれるアミノ酸残基の総数がpである。また、配列Aに含まれるアミノ酸残基の総数がqである。
【0182】
例えば、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が20カ所抽出された場合(重複はなし)、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、連続する4アミノ酸残基(重複はなし)が20含まれることになり、pは20×4=80である。また、例えば、2つの「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が1アミノ酸残基だけ重複して存在する場合、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域には、7アミノ酸残基含まれることになる(p=2×4-1=7。「-1」は重複分の控除である。)。例えば、
図8に示したドメイン配列の場合、「疎水性指標の平均値が2.6以上となる連続する4アミノ酸残基」が重複せずに7つ存在するため、pは7×4=28となる。また、例えば、
図8に示したドメイン配列の場合、qは4+50+4+40+4+10+4+20+4+30=170である(C末端側の最後に存在する(A)
nモチーフは含めない)。次に、pをqで除すことによって、p/q(%)を算出することができる。
図8の場合28/170=16.47%となる。
【0183】
第5の改変フィブロインにおいて、p/qは、6.2%以上であることが好ましく、7%以上であることがより好ましく、10%以上であることが更に好ましく、20%以上であることが更により好ましく、30%以上であることが更によりまた好ましい。p/qの上限は、特に制限されないが、例えば、45%以下であってもよい。
【0184】
第5の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインのアミノ酸配列を、上記のp/qの条件を満たすように、REP中の1又は複数の親水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がマイナスであるアミノ酸残基)を疎水性アミノ酸残基(例えば、疎水性指標がプラスであるアミノ酸残基)に置換すること、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性アミノ酸残基を挿入することにより、局所的に疎水性指標の大きい領域を含むアミノ酸配列に改変することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列から上記のp/qの条件を満たすアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。いずれの場合においても、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のアミノ酸残基が疎水性指標の大きいアミノ酸残基に置換されたこと、及び/又はREP中に1又は複数の疎水性指標の大きいアミノ酸残基が挿入されたことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当する改変を行ってもよい。
【0185】
疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、特に制限はないが、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)が好ましく、バリン(V)、ロイシン(L)及びイソロイシン(I)がより好ましい。
【0186】
第5の改変フィブロインのより具体的な例として、(5-i)配列番号19(Met-PRT720)、配列番号20(Met-PRT665)若しくは配列番号21(Met-PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-ii)配列番号19、配列番号20若しくは配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0187】
(5-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号19で示されるアミノ酸配列は、配列番号7(Met-PRT410)で示されるアミノ酸配列に対し、C末端側の端末のドメイン配列を除いて、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入し、更に一部のグルタミン(Q)残基をセリン(S)残基に置換し、かつC末端側の一部のアミノ酸を欠失させたものである。配列番号20で示されるアミノ酸配列は、配列番号8(Met-PRT525)で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を1カ所挿入したものである。配列番号21で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列に対し、REP一つ置きにそれぞれ3アミノ酸残基からなるアミノ酸配列(VLI)を2カ所挿入したものである。
【0188】
(5-i)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0189】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0190】
(5-ii)の改変フィブロインは、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0191】
第5の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。
【0192】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(5-iii)配列番号22(PRT720)、配列番号23(PRT665)若しくは配列番号24(PRT666)で示されるアミノ酸配列、又は(5-iv)配列番号22、配列番号23若しくは配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む、改変フィブロインを挙げることができる。
【0193】
配列番号22、配列番号23及び配列番号24で示されるアミノ酸配列は
、それぞれ配列番号19、配列番号20及び配列番号21で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。
【0194】
(5-iii)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0195】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(5-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]mで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0196】
(5-iv)の改変フィブロインは、配列番号22、配列番号23又は配列番号24で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有し、かつ最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、連続する4アミノ酸残基の疎水性指標の平均値が2.6以上となる領域に含まれるアミノ酸残基の総数をpとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれるアミノ酸残基の総数をqとしたときに、p/qが6.2%以上であることが好ましい。
【0197】
第5の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0198】
第6の改変フィブロインは、天然由来のフィブロインと比較して、グルタミン残基の含有量が低減されたアミノ酸配列を有する。
【0199】
第6の改変フィブロインは、REPのアミノ酸配列中に、GGXモチーフ及びGPGXXモチーフから選ばれる少なくとも一つのモチーフが含まれていることが好ましい。
【0200】
第6の改変フィブロインが、REP中にGPGXXモチーフを含む場合、GPGXXモチーフ含有率は、通常1%以上であり、5%以上であってもよく、10%以上であるのが好ましい。GPGXXモチーフ含有率の上限に特に制限はなく、50%以下であってよく、30%以下であってもよい。
【0201】
本明細書において、「GPGXXモチーフ含有率」は、以下の方法により算出される値である。 式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるGPGXXモチーフの個数の総数を3倍した数(即ち、GPGXXモチーフ中のG及びPの総数に相当)をsとし、最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、GPGXXモチーフ含有率はs/tとして算出される。
【0202】
GPGXXモチーフ含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としているのは、「最もC末端側に位置する(A)nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列」(REPに相当する配列)には、フィブロインに特徴的な配列と相関性の低い配列が含まれることがあり、mが小さい場合(つまり、ドメイン配列が短い場合)、GPGXXモチーフ含有率の算出結果に影響するので、この影響を排除するためである。なお、REPのC末端に「GPGXXモチーフ」が位置する場合、「XX」が例えば「AA」の場合であっても、「GPGXXモチーフ」として扱う。
【0203】
図9は、改変フィブロインのドメイン配列を示す模式図である。
図9を参照しながらGPGXXモチーフ含有率の算出方法を具体的に説明する。まず、
図9に示した改変フィブロインのドメイン配列(「[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフ」タイプである。)では、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図9中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、sを算出するためのGPGXXモチーフの個数は7であり、sは7×3=21となる。同様に、全てのREPが「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」(
図9中、「領域A」で示した配列。)に含まれているため、当該配列から更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数tは50+40+10+20+30=150である。次に、sをtで除すことによって、s/t(%)を算出することができ、
図9の改変フィブロインの場合21/150=14.0%となる。
【0204】
第6の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましく、7%以下であることがより好ましく、4%以下であることが更に好ましく、0%であることが特に好ましい。
【0205】
本明細書において、「グルタミン残基含有率」は、以下の方法により算出される値である。 式1:[(A)
nモチーフ-REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図9の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域に含まれるグルタミン残基の総数をuとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、グルタミン残基含有率はu/tとして算出される。グルタミン残基含有率の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0206】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、又は他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を有するものであってよい。
【0207】
「他のアミノ酸残基」は、グルタミン残基以外のアミノ酸残基であればよいが、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基であることが好ましい。アミノ酸残基の疎水性指標は表1に示すとおりである。
【0208】
表1に示すとおり、グルタミン残基よりも疎水性指標の大きいアミノ酸残基としては、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)アラニン(A)、グリシン(G)、スレオニン(T)、セリン(S)、トリプトファン(W)、チロシン(Y)、プロリン(P)及びヒスチジン(H)から選ばれるアミノ酸残基を挙げることができる。これらの中でも、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)、フェニルアラニン(F)、システイン(C)、メチオニン(M)及びアラニン(A)から選ばれるアミノ酸残基であることがより好ましく、イソロイシン(I)、バリン(V)、ロイシン(L)及びフェニルアラニン(F)から選ばれるアミノ酸残基であることが更に好ましい。
【0209】
第6の改変フィブロインは、REPの疎水性度が、-0.8以上であることが好ましく、-0.7以上であることがより好ましく、0以上であることが更に好ましく、0.3以上であることが更により好ましく、0.4以上であることが特に好ましい。REPの疎水性度の上限に特に制限はなく、1.0以下であってよく、0.7以下であってもよい。
【0210】
本明細書において、「REPの疎水性度」は、以下の方法により算出される値である。 式1:[(A)
nモチーフ-REP]
m、又は式2:[(A)
nモチーフ-REP]
m-(A)
nモチーフで表されるドメイン配列を含むフィブロイン(改変フィブロイン又は天然由来のフィブロイン)において、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列(
図9の「領域A」に相当する配列。)に含まれる全てのREPにおいて、その領域の各アミノ酸残基の疎水性指標の総和をvとし、最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除き、更に(A)
nモチーフを除いた全REPのアミノ酸残基の総数をtとしたときに、REPの疎水性度はv/tとして算出される。REPの疎水性度の算出において、「最もC末端側に位置する(A)
nモチーフからドメイン配列のC末端までの配列をドメイン配列から除いた配列」を対象としている理由は、上述した理由と同様である。
【0211】
第6の改変フィブロインは、そのドメイン配列が、天然由来のフィブロインと比較して、REP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当する改変に加え、更に1又は複数のアミノ酸残基を置換、欠失、挿入及び/又は付加したことに相当するアミノ酸配列の改変があってもよい。
【0212】
第6の改変フィブロインは、例えば、クローニングした天然由来のフィブロインの遺伝子配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失させること、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換することにより得ることができる。また、例えば、天然由来のフィブロインのアミノ酸配列からREP中の1又は複数のグルタミン残基を欠失したこと、及び/又はREP中の1又は複数のグルタミン残基を他のアミノ酸残基に置換したことに相当するアミノ酸配列を設計し、設計したアミノ酸配列をコードする核酸を化学合成することにより得ることもできる。
【0213】
第6の改変フィブロインのより具体的な例として、(6-i)配列番号25(Met-PRT888)、配列番号26(Met-PRT965)、配列番号27(Met-PRT889)、配列番号28(Met-PRT916)、配列番号29(Met-PRT918)、配列番号30(Met-PRT699)、配列番号31(Met-PRT698)、配列番号32(Met-PRT966)、配列番号41(Met-PRT917)若しくは配列番号42(Met-PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6-ii)配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41若しくは配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
【0214】
(6-i)の改変フィブロインについて説明する。配列番号25で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号26で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQ
を全てTSに置換し、かつ残りのQをAに置換したものである。配列番号27で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。配列番号28で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVIに置換し、かつ残りのQをLに置換したものである。配列番号29で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0215】
配列番号30で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列(Met-PRT525)中のQQを全てVLに置換したものである。配列番号31で示されるアミノ酸配列は、配列番号8で示されるアミノ酸配列中のQQを全てVLに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0216】
配列番号32で示されるアミノ酸配列は、配列番号7で示されるアミノ酸配列(Met-PRT410)中に存在する20個のドメイン配列の領域を2回繰り返した配列中のQQを全てVFに置換し、かつ残りのQをIに置換したものである。
【0217】
配列番号41で示されるアミノ酸配列(Met-PRT917)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てLIに置換し、かつ残りのQをVに置換したものである。配列番号42で示されるアミノ酸配列(Met-PRT1028)は、配列番号7で示されるアミノ酸配列中のQQを全てIFに置換し、かつ残りのQをTに置換したものである。
【0218】
配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率は9%以下である(表2)。
【0219】
【0220】
(6-i)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0221】
(6-ii)の改変フィブロインは、配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41又は配列番号42で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-ii)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0222】
(6-ii)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-ii)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0223】
第6の改変フィブロインは、N末端及びC末端のいずれか一方又は両方にタグ配列を含んでいてもよい。これにより、改変フィブロインの単離、固定化、検出及び可視化等が可能となる。
【0224】
タグ配列を含む改変フィブロインのより具体的な例として、(6-iii)配列番号33(PRT888)、配列番号34(PRT965)、配列番号35(PRT889)、配列番号36(PRT916)、配列番号37(PRT918)、配列番号38(PRT699)、配列番号39(PRT698)、配列番号40(PRT966)、配列番号43(PRT917)若しくは配列番号44(PRT1028)で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロイン、又は(6-iv)配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43若しくは配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含む改変フィブロインを挙げることができる。
【0225】
配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、それぞれ配列番号25、配列番号26、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号41及び配列番号42で示されるアミノ酸配列のN末端に配列番号11で示されるアミノ酸配列(Hisタグ配列及びヒンジ配列を含む)を付加したものである。N末端にタグ配列を付加しただけであるため、グルタミン残基含有率に変化はなく、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43及び配列番号44で示されるアミノ酸配列は、いずれもグルタミン残基含有率が9%以下である(表3)。
【0226】
【0227】
(6-iii)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列からなるものであってもよい。
【0228】
(6-iv)の改変フィブロインは、配列番号33、配列番号34、配列番号35、配列番号36、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号43又は配列番号44で示されるアミノ酸配列と90%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含むものである。(6-iv)の改変フィブロインもまた、式1:[(A)nモチーフ-REP]m、又は式2:[(A)nモチーフ-REP]m-(A)nモチーフで表されるドメイン配列を含むタンパク質である。上記配列同一性は、95%以上であることが好ましい。
【0229】
(6-iv)の改変フィブロインは、グルタミン残基含有率が9%以下であることが好ましい。また、(6-iv)の改変フィブロインは、GPGXXモチーフ含有率が10%以上であることが好ましい。
【0230】
第6の改変フィブロインは、組換えタンパク質生産系において生産されたタンパク質を宿主の外部に放出するための分泌シグナルを含んでいてもよい。分泌シグナルの配列は、宿主の種類に応じて適宜設定することができる。
【0231】
改変フィブロインは、第1の改変フィブロイン、第2の改変フィブロイン、第3の改変フィブロイン、第4の改変フィブロイン、第5の改変フィブロイン、及び第6の改変フィブロインが有する特徴のうち、少なくとも2つ以上の特徴を併せ持つ改変フィブロインであってもよい。
【0232】
改変フィブロインとしては、親水性改変フィブロインであってもよく、疎水性改変フィブロインであってもよい。本明細書において、「親水性改変フィブロイン」とは、改変フィブロインを構成する全てのアミノ酸残基の疎水性指標(HI)の総和を求め、次にその総和を全アミノ酸残基数で除した値(平均HI)が0以下である改変フィブロインである。疎水性指標は表1に示したとおりである。また、「疎水性改変フィブロイン」とは、平均HIが0超である改変フィブロインである。親水性改変フィブロインは、特に難燃性に優れている。疎水性改変フィブロインは、特に吸湿発熱性及び保温性に優れている。
【0233】
親水性改変フィブロインとしては、例えば、配列番号4で示されるアミノ酸配列、配列番号6、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号13、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号18、配列番号7、配列番号8又は配列番号9で示されるアミノ酸配列、配列番号17、配列番号11、配列番号14又は配列番号15で示されるアミノ酸配列、配列番号19、配列番号20又は配列番号21で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
【0234】
疎水性改変フィブロインとしては、例えば、配列番号27、配列番号28、配列番号29、配列番号30、配列番号31、配列番号32、配列番号33又は配列番号43で示されるアミノ酸配列、配列番号35、配列番号37、配列番号38、配列番号39、配列番号40、配列番号41又は配列番号44で示されるアミノ酸配列を含む改変フィブロインが挙げられる。
【0235】
本実施形態に係るタンパク質は、当該タンパク質をコードする核酸を使用して、常法により製造することができる。当該タンパク質をコードする核酸は、塩基配列情報に基づいて、化学合成してもよく、PCR法等を利用して合成してもよい。
【0236】
(構造タンパク質微小体の製造方法) 本実施形態に係る構造タンパク質微小体の製造方法は、構造タンパク質と可溶化剤とを含む構造タンパク質溶液(構造タンパク質含有溶液)を得る第一工程と、構造タンパク質溶液のタンパク質に対する溶解度を下げることにより、構造タンパク質微小体を形成させる第二工程と、を含む。この製造方法によれば、上述の構造タンパク質微小体を効率良く製造することができる。
【0237】
なお、第一工程で、構造タンパク質と可溶化剤とを含む構造タンパク質溶液を得る具体的方法は特に限定されるものではない。すなわち、例えば、所定の溶媒に可溶化剤が溶解する溶解液を用い、この溶解液に構造タンパク質を添加(投入)して溶解させる方法や、所定の溶媒に構造タンパク質を添加した後、それに可溶化剤を添加して、可溶化剤と構造タンパク質とを溶解させる方法、更には所定の溶媒に構造タンパク質と可溶化剤とを同時に加えて、それらを溶解させる方法等が挙げられる。
【0238】
第一工程で得られる構造タンパク質溶液は、構造タンパク質がランダムコイル構造を有するように溶解されていることが好ましい。すなわち、構造タンパク質は、溶液中でランダムコイル構造を形成するものであることが好ましい。また、構造タンパク質と共に構造タンパク質溶液に溶解するか可溶化剤は、構造タンパク質を、ランダムコイル構造を形成させ得るように、溶媒に溶解させ得るものであることが好ましい。更に、溶媒は、構造タンパク質をランダムコイル構造が形成されるように溶解し得るものであることが好ましい。これにより、第二工程でタンパク質微小体がより効率良く形成される。
【0239】
また、第一工程で得られる構造タンパク質溶液は、構造タンパク質が、単量体(会合体を形成していない状態)となるように溶解されていることが好ましい。すなわち、構造タンパク質は、溶液中で、単量体(会合体を形成していない状態)として溶解されるものであることが好ましい。また、可溶化剤は、構造タンパク質を単量体となるように、溶媒に溶解させ得るものであることが好ましい。更に、溶媒は、構造タンパク質をラ単量体となるように溶解し得るものであることが好ましい。これにより、第二工程でタンパク質微小体がより効率良く形成される。
【0240】
ここで、構造タンパク質溶液の溶媒は、特に限定されないが、タンパク質の溶解性を調整しやすい観点から、水が好ましい。すなわち、第一工程は、可溶化剤を含む水溶液にタンパク質を溶解させる工程であることが好ましい。
【0241】
また、かかる溶媒としては、構造タンパク質が、可溶化剤によって、十分に且つランダムコイル構造を形成するように溶解するものが、好適に用いられる。これは、以下の理由による。
【0242】
すなわち、特別な可溶化剤なしで構造タンパク質を容易に且つ十分に溶解し得る溶媒、所謂良溶媒を用いる場合、構造タンパク質がランダムコイル構造を形成するように溶解されるものの、第二工程での構造タンパク質微小体の効率的な形成が難しくなる場合があることが、本発明者等の研究により判明した。具体的には、例えば、構造タンパク質として改変フィブロインを用いる場合、第一工
程で、ジメチルスルホキシドや、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、ギ酸等のような、改変フィブロインに対する良溶媒を用いてタンパク質溶液を形成すると、第二工程で、目的とする構造タンパク質微小体を形成することが容易でなくなる可能性があることが分かったのである。従って、第一工程では、溶媒として、構造タンパク質に対する貧溶媒を用いることが好適に用いられるのである。このような溶媒としては、例えば、ジメチルスルホキシドや、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、ギ酸を除く有機溶媒、或いは水等が挙げられる。これらの溶媒は、構造タンパク質として改変フィブロインや改変クモ糸フィブロインが用いられる場合に、特に好適に使用される。
【0243】
原料構造タンパク質は、上述の構造タンパク質微小体を構成する構造タンパク質として例示した構造タンパク質であってよい。原料構造タンパク質の形態は特に限定されない。溶解性の観点からは、原料構造タンパク質は、粉末状、液状等であることが好ましい。
【0244】
可溶化剤は、構造タンパク質を可溶化できるものであればよい。可溶化剤としては、ランダムコイル構造が形成されるように構造タンパク質を可溶化できるものが好ましく、また、単量体として溶解されるように構造タンパク質を可溶化できるものが好ましい。このような可溶化剤としては、例えば、ジメチルスルホキシド、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、塩酸グアニジン(GuHCl)、チオシアン酸グアニジン(GuSCN)、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸塩、尿素等を好適に用いることができる。構造タンパク質を効率的に単量体とするためには凝集して溶けにくくなった状態の構造タンパク質をも溶かすことが望ましく、可溶化剤として、ジメチルスルホキシド、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、塩酸グアニジン(GuHCl)、チオシアン酸グアニジン(GuSCN)、ヨウ化ナトリウム、過塩素酸塩が特に好ましい。
【0245】
可溶化剤の量は特に限定されない。溶解液中の可溶化剤の濃度は、例えば1M~8Mであってよく、好ましくは3M~7Mであり、より好ましくは4M~6Mである。
【0246】
構造タンパク質の溶解方法は特に限定されず、公知の方法から適宜選択してよい。例えば、タンパク質の溶解は、振とう、撹拌、超音波処理、加熱等により行ってよい。
【0247】
構造タンパク質溶液中の構造タンパク質の濃度は、例えば0.1~700mg/mLとしてよく、好ましくは1~500mg/mLであり、より好ましくは3~300mg/mLである。
【0248】
以下、可溶化剤としてチオシアン酸グアニジンを用いた場合を例にとり、第一工程を具体的に説明する。まず、構造タンパク質の粉末100mgに、5Mチオシアン酸グアニジン水溶液を1000μL加え、5分間振とう(1800rpm)させる。必要に応じて超音波処理(例えば、20~30%、10秒、4~5回、インターバル5~10分)を行ってもよい。構造タンパク質が溶解しているか否かは、例えば、紫外・可視吸収測定等により確認できる。
【0249】
第一工程では、構造タンパク質の溶解後、フィルタ濾過等によって不純物を除去してもよい。フィルタ濾過の方法は特に限定されないが、例えば、フィルタ(Ultrafree-MC-GV、Durapore PVDF 0.22μm)を用いた濾過を挙げることができる。目詰まりを避けるため、フィルタ濾過での処理は、例えば50μL/秒以下で行ってよい。
【0250】
<第二工程> 第二工程では、構造タンパク質溶液の構造タンパク質に対する溶解度を下げることにより、構造タンパク質微小体を形成させる。ここで、構造タンパク質微小体の形成メカニズムは必ずしも明らかではないが、構造タンパク質溶液の溶解度が低下することで、構造タンパク質溶液中に含まれる構造タンパク質(特に、ランダムコイル構造を有する構造タンパク質)が会合し、その会合体によって構造タンパク質微小体が形成されると推察される。
【0251】
第二工程で、構造タンパク質溶液の構造タンパク質に対する溶解度を下げる方法としては、例えば、構造タンパク質溶液の温度を低下乃至上昇させるように調節する方法、或いは水や界面活性剤、有機溶媒、無機塩等を構造タンパク質溶液に添加する方法等が例示できる。
【0252】
また、別の方法としては、構造タンパク質溶液中の可溶化剤の濃度を低下させることにより、構造タンパク質に対する溶解度を下げることが好ましい。なお、水の添加、有機溶媒の添加等によって、可溶化剤の濃度を低下させることができる。
【0253】
第二工程は、上記した温度の調節、水の添加、界面活性剤の添加、有機溶媒の添加及び無機塩の添加からなる群より選択される2つ以上の方法を組み合わせて、構造タンパク質溶液の構造タンパク質に対する溶解度を下げることが好ましい。このように、複数の方法を組み合わせることで、溶解度をより細かく調整でき、上述の構造タンパク質微小体が得られやすくなる。より具体的には、溶解度の下げ幅が小さすぎると得られる構造タンパク質微小体の量が少なく、溶解度の下げ幅が大きすぎると凝集によって得られる構造タンパク質微小体の量が少なくなることから、溶解度をより細かく調整できる上記の方法が好ましい。第二工程では、水の添加、界面活性剤の添加、有機溶媒の添加及び無機塩の添加のうち2つ以上の方法を組み合わせることがより好ましく、少なくとも水の添加及び有機溶媒の添加を行うことが更に好ましい。
【0254】
有機溶媒は、構造タンパク質溶液中の溶媒(例えば水)と相溶性のある溶媒であることが好ましい。有機溶媒としては、例えば、メタノール、エタノール、2-プロパノール等のアルコール類;アセトン、2-ブタノン等のケトン類;テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類;アセトニトリル等のニトリル類が挙げられる。
【0255】
無機塩としては、例えば、硫酸アンモニウム、酢酸カリウム、塩化ナトリウム等が挙げられる。
【0256】
界面活性剤としては、例えば、オクチルフェノールエトキシレート(例えば、シグマ・アルドリッチ社製の「Triton X-100」等)、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)等が挙げられる。
【0257】
上述の水、界面活性剤、有機溶媒及び無機塩は、溶解抑制剤と総称することもできる。溶解抑制剤の添加量は、例えば、目的とする構造タンパク質微小体の生成量がより大きくなるように、構造タンパク質溶液中の構造タンパク質の濃度、可溶化剤の濃度、可溶化剤の種類、溶解抑制剤の種類、溶解抑制剤の種類等に応じて適宜調整してよい。
【0258】
溶解抑制剤の添加後は、撹拌、振とう等によって溶液を均一にさせることが好ましい。例えば、溶解抑制剤の添加後、1800rpm、5分間の条件で振とうさせて、溶液を均一化することができる。また、均一化後の溶液は、所定時間、静置することで、より構造タンパク質微小体が形成されやすくなる。静置時間は特に限定されないが、例えば、一日程度であってよい。
【0259】
構造タンパク質溶液の構造タンパク質に対する溶解度が下がることで、構造タンパク質微小体が形成され、構造タンパク質微小体を含む分散液が得られる。
【0260】
第二工程で、構造タンパク質溶液の構造タンパク質溶解度を低下させる方法としては、上述の方法の他に、例えば、構造タンパク質溶液に対して、剪断応力や圧縮応力等の物理的な力を印加する方法も例示できる。このような剪断応力や圧縮応力等を印加する手法では、例えば、上述した抑制剤を用いる場合とは異なって、後の工程で溶解抑制剤を除去する必要がなく、より簡便に構造タンパク質微小体を得ることができる。
【0261】
構造タンパク質溶液に剪断応力を印加する手法は特に限定されないが、例えば構造タンパク質溶液を、ボルテックスミキサー等を用いて、高速旋回させ強く攪拌してもよく、溶液を攪拌羽で回転させ強く攪拌してもよく、また、溶液をキャピラリー(毛細管)等狭い空間内で速度を与えて通過させてよい。なお、構造タンパク質溶液を高速回転させることでせん断応力を印加する場合には、回転数が高い程、回転時間を短縮することができるが、例えば、構造タンパク質溶液を500rpm以上、78時間以上回転させることが好ましく、1800rpm以上、2時間以上回転させることがより好ましく、3400rpm以上、30分間以上回転させることが更に好ましい。
【0262】
なお、構造タンパク質微小体の形成の有無は、例えば、ThT染色による蛍光強度測定により確認できる。具体的には、例えば、構造タンパク質溶液にThTを添加したものを測定試料として、蛍光光度計により蛍光強度を測定することで、構造タンパク質溶液中の構造タンパク質微小体の形成状況を確認することができる。
【0263】
ThTの添加量は、例えば、4μMとなる量であってよい。
【0264】
蛍光強度測定の条件は、例えば、上述の<(i)チオフラビンT染色(ThT染色)による蛍光強度測定>で示した条件であってよい。
【0265】
プレートリーダーにより、蛍光強度の経時変化を追うことができる。プレートリーダーとしては、例えば、SYNERGY HTX(バイオテック株式会社製)等を用いて行うことができる。測定は機器付属のマニュアルに準じて行えばよい。
【0266】
βシート構造の形成に基づくチオフラビンTの蛍光強度の上昇を蛍光光度計により確認することで、構造タンパク質微小体の形成が確認される。また、βシート構造の経時的な形成をプレートリーダーで追うこともできる。さらに、この解析により最適な希釈条件を決定することもできる。
【0267】
形成された構造タンパク質微小体は、分散液中で分散又は沈殿しており、遠心分離、フィルタ濾過等の公知の方法で回収することができる。すなわち、本実施形態に係る製造方法は、構造タンパク質微小体を含む分散液から、構造タンパク質微小体を回収する回収工程を更に含んでいてよい。
【0268】
回収工程は、分散液を、構造タンパク質微小体と上清とに分離する工程であってよい。上清には、構造タンパク質微小体を形成しなかったタンパク質が、ランダムコイルとして含まれていてよい。
【0269】
回収工程は、遠心分離、フィルタ濾過等の公知の方法で行うことができる。回収工程における条件は特に限定されない。回収工程を遠心分離で行う場合の一例として、遠心分離機(KUBOTA 3740、株式会社久保田製作所製)を用い、20℃、14500rpmの条件で、30分間遠心分離して、構造タンパク質微小体と上清とを分離し、構造タンパク質微小体を回収できる。
【0270】
回収された構造タンパク質微小体は、乾燥させて、分散媒中に分散させて保存してもよい。分散媒としては、例えば、尿素水溶液等を好適に用いることができる。
【0271】
(ナノファイバーの製造方法) 本実施形態に係る構造タンパク質微小体は、タンパク質ナノファイバーを形成するための核として機能する。このため、例えば、構造タンパク質微小体とタンパク質が溶解した溶液とを接触させることで、構造タンパク質微小体を核としてタンパク質が自己組織化して、タンパク質ナノファイバーが形成される。すなわち、本実施形態に係るナノファイバーの製造方法は、タンパク質が溶解したタンパク質溶液を準備するA工程と、タンパク質溶液と上述のタンパク質微小体とを混合して、タンパク質ナノファイバーを得るB工程と、を含む。
【0272】
図1に示すように、構造タンパク質は、完全に溶解している状態では立体構造を形成しておらず、構造タンパク質同士が部分的に接触(
図1(a)の破線による丸で示した箇所)しているにすぎない。構造タンパク質微小体の存在下で自己組織化させることで、
図1(b)に示すような円柱状のナノファイバーが形成されると考えられる。
【0273】
なお、本明細書中、ナノファイバーとは、直径が1nm~100nm、長さが直径より大きい(例えば長さが直径の10倍以上)の繊維状物質を意味する。ナノファイバーは、フィブリル、ナ
ノロッド等と称される場合もある。
【0274】
A工程は、タンパク質を第一の溶媒に溶解させて、タンパク質溶液を得る工程であってよい。また、A工程は、既存のタンパク質溶液を準備する工程であってもよい。ここで用いられるタンパク質としては、上述の構造タンパク質微小体を構成する構造タンパク質が挙げられる。また、かかる構造タンパク質に加えて、工業用又は医療用に利用できるタンパク質が挙げられる。そのようなタンパク質の具体例としては、酵素、制御タンパク質、受容体、ペプチドホルモン、サイトカイン、膜又は輸送タンパク質、予防接種に使用する抗原、ワクチン、抗原結合タンパク質、免疫刺激タンパク質、アレルゲン、完全長抗体又は抗体フラグメント若しくは誘導体を挙げることができる。第一の溶媒は、タンパク質を溶解可能な溶媒であればよく、例えば、有機溶媒、塩溶液、酸性溶液、塩基性溶液、カオトロピック溶液等であってよい。
【0275】
有機溶媒としては、例えば、1,1,1,3,3,3-ヘキサフルオロ-2-プロパノール、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等が挙げられる。
【0276】
塩溶液は、例えば、塩を含有する水溶液であってよい。塩としては、例えば、塩化ナトリウム、塩化亜鉛、塩化リチウム等が挙げられる。
【0277】
酸性溶液は、例えば、酸を含有する水溶液であってよい。酸としては、例えば、塩酸、酢酸等が挙げられる。
【0278】
塩基性溶液は、例えば、塩基を含有する水溶液であってよい。塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、アンモニア等が挙げられる。
【0279】
カオトロピック溶液は、例えば、カオトロピック剤を含有する水溶液であってよい。カオトロピック剤としては、例えば、尿素、塩酸グアニジン、グアニジンチオシアン酸等が挙げられる。
【0280】
タンパク質溶液におけるタンパク質の濃度は特に限定されない。タンパク質溶液におけるタンパク質の濃度は、例えば0.01質量%以上であってよく、好ましくは0.1質量%以上、より好ましくは1質量%以上である。また、タンパク質溶液におけるタンパク質の濃度は、例えば50質量%以下であってよく、好ましくは30質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。
【0281】
B工程では、タンパク質溶液とタンパク質微小体とが混合され、これにより、タンパク質微小体を核としてタンパク質が自己組織化し、ナノファイバーが形成される。
【0282】
B工程において、混合方法は特に限定されない。B工程は、例えば、タンパク質溶液と粉末状のタンパク質微小体とを混合する工程であってよく、タンパク質溶液とタンパク質微小体を含有する分散液とを混合する工程であってもよい。
【0283】
B工程において、タンパク質溶液中のタンパク質の含有量C0に対する、タンパク質微小体の含有量C1の質量比(C1/C0)は、例えば0.01以上であってよく、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上である。また、質量比(C1/C0)は、例えば100以下であってよく、好ましくは10以下、より好ましくは1以下である。
【0284】
B工程では、タンパク質溶液とタンパク質微小体とを混合した混合液を所定時間静置してもよい。これにより、ナノファイバーの収率がより向上する。静置する時間は特に限定されず、例えば3分以上であってよく、好ましくは10分以上である。
【0285】
B工程では、タンパク質溶液とタンパク質微小体とを混合した混合液を必要に応じて静置した後、当該混合液中に溶解抑制剤を加えてもよい。これにより、ナノファイバーが沈殿しやすくなり、ナノファイバーの回収がより容易となる。溶解抑制剤としては、例えば、エタノール、硫酸アンモニウム等が挙げられる。
【0286】
B工程において、混合液中に形成されたナノファイバーを回収する方法は特に限定されない。例えば、ナノファイバーは、遠心分離、フィルターろ過等の方法により回収することができる。
【0287】
(タンパク質構造体の製造方法) 本実施形態に係るタンパク質構造体の製造方法は、タンパク質から構成された繊維状物質を含有する構造前駆体を準備する(ア)工程と、構造前駆体に異方性応力を作用させて、タンパク質構造体を得る(イ)工程と、を含む。このような製造方法によれば、一方向に配向した複数のタンパク質ナノファイバーを含有するタンパク質構造体を容易に製造することができる。
【0288】
繊維状物質は、(a)上述した構造タンパク質微小体からなるものであってもよく、(b)かかる構造タンパク質微小体を核としてタンパク質が自己組織化したものからなるものであってよく、或いはそれら(a)と(b)の両方を含むものであってもよい。換言すれば、繊維状物質は、タンパク質ナノファイバー(上記(b)に相当する)であってよく、タンパク質ナノファイバーの前駆体(上記(a)に相当する)であってもよく、それらの両方を含んでいてもよい。繊維状物質がタンパク質ナノファイバーの前駆体である場合、繊維状物質に更にタンパク質が凝集・自己組織化することで、タンパク質ナノファイバーが形成される。
【0289】
なお、上記(b)繊維状物質を構成する、構造タンパク質微小体を核として自己組織化するタンパク質や、繊維状物質に更に凝集・自己組織化するタンパク質は、前述した構造タンパク質微小体を構成する構造タンパク質と、それに加えて、前述した、工業用又は医療用に利用できるタンパク質が挙げられる。
【0290】
構造タンパク質微小体は、繊維状物質を形成するための核として機能するものであればよい。例えば、構造タンパク質微小体とタンパク質が溶解した溶液とを接触させることで、構造タンパク質微小体を核としてタンパク質が自己組織化して、繊維状物質が形成される。また、構造タンパク質溶液中に構造タンパク質微小体を生じさせることで、当該構造タンパク質微小体を核とする繊維状物質を形成させることもできる。
【0291】
(構造前駆体) (ア)工程では、繊維状物質を含有する構造前駆体を準備する。構造前駆体は、異方性応力を作用させることが可能な形態であれば特に制限はなく、例えば、ハイドロゲル、繊維、凝集体、フィルム等であってよい。
【0292】
構造前駆体は、異方性応力を容易に作用させることができる観点から、経時的に収縮するものであることが好ましい。
【0293】
以下に、構造前駆体として、繊維状物質を含有するハイドロゲルを得る方法について詳述する。
【0294】
ハイドロゲルは、例えば、タンパク質含有溶液(好ましくは、上述のタンパク質微小体の製造方法の(ア)工程におけるタンパク質含有溶液)を、透析によって希釈することで、作製することができる。
【0295】
透析における希釈には、可溶化剤の濃度がタンパク質含有溶液より低い低濃度溶液、可溶化剤を含まない希釈液、等を用いることができる。低濃度溶液及び希釈液は、いずれも、バッファー(緩衝液)であってよい。
【0296】
タンパク質含有溶液を透析により段階的に希釈させていく過程で、ハイドロゲルが形成される。このとき、タンパク質含有溶液中には希釈によって、タンパク質微小体を核として繊維状物質が形成される。
【0297】
ハイドロゲルは、繊維状物質を含む。また、ハイドロゲルは、自己組織化していないランダムコイル状のタンパク質を更に含んでいてもよい。
【0298】
(イ工程) (イ)工程では、構造前駆体に異方性応力を作用させる。これにより、複数のタンパク質ナノファイバーが一方向に配向したタンパク質構造体が形成される。
【0299】
異方性応力を作用させる方法は特に限定されないが、例えば、経時的な収縮を利用する方法、引張試験機を用いる方法、延伸機を用いる方法等が挙げられる。
【0300】
経時的な収縮を利用する場合、例えば、構造前駆体の一方向における両端を固定して、固定を維持したまま構造前駆体を収縮させることで、構造前駆体に異方性応力を作用させることができる。
【0301】
例えば、構造前駆体がハイドロゲルである場合、ハイドロゲルの一方向における両端を固定した状態で乾燥させることで、ハイドロゲルが収縮し、ハイドロゲルに異方性応力が作用する。
【0302】
(イ)工程で形成されたタンパク質構造体は、広角X線回折XRDによって、構造体中のタンパク質ナノファイバーの配向状態を確認することができる。タンパク質ナノフィバーの配向によって、1次元X線回折プロファイルではシャープなピークが観察され、2次元X線回折プロファイルではシャープな回折線が観察される。また、特定の回折角に対して円環積した強度の方位角度分布から、特定の方位角にピークが観察される。当該ピークによって、タンパク質構造体中のタンパク質の結晶構造等を確認することができる。
【0303】
広角X線回折XRDの測定は、例えば、以下の条件で行うことができる。測定装置:X線発生装置MicroMAX007(リガク社製)、R-AXIS-IV(リガク社製) 測定条件:X線波長1.5418Å(CuKα)、室温(20℃)、カメラ長80mm、露光時間15分
【0304】
また、タンパク質構造体中のタンパク質ナノファイバーの配向状態は、原子間力顕微鏡(AFM)を用いて観察することもできる。換言すると、本実施形態に係る製造方法によれば、AFMで観察できる水準で、高度にタンパク質ナノファイバーが配向したタンパク質構造体を得ることができる。
【0305】
本実施形態において、タンパク質構造体中のタンパク質ナノファイバーは、アミロイド様結晶を有していてよい。タンパク質ナノファイバーがアミロイド様結晶を有していることは、タンパク質構造体のXRD測定によって確認することができる。具体的には、タンパク質構造体中のタンパク質ナノファイバーがアミロイド様結晶を有している場合、XRD測定による回折強度プロファイルにおいて、アミロイド線維と近いピーク(例えば、2θ=8°~10°、18°~19.5°のピーク)が観測される。
【0306】
また、本実施形態において、タンパク質構造体中のタンパク質ナノファイバーは、poly-Ala様結晶を有していてよい。タンパク質ナノファイバーがpoly-Ala様結晶を有していることは、タンパク質構造体のXRD測定によって確認することができる。具体的には、タンパク質構造体中のタンパク質ナノファイバーが、poly-Ala様結晶を有している場合、XRD測定による回折強度プロファイルにおいて、poly-Ala様結晶の特徴的なピーク(例えば、2θ=15°~17、18.5°~20.5°、22.5°~25.5°のピーク)が観測され、且つ、アジマス角強度プロファイルにおいてそれぞれピーク(例えば、β=75°~105°、255°~285°、β=75°~105°、255°~285°、β=30°~60°、120°~150°、210°~240°、300°~330°のピーク)が観測される。
【0307】
タンパク質ナノファイバーがアミロイド様結晶を有している場合、当該アミロイド様結晶中のβストランドは、タンパク質ナノファイバーの配向方向に対して垂直に配向していることが好ましい。また、タンパク質ナノファイバーがpoly-Ala様結晶を有している場合、当該poly-Ala様結晶中のβストランドは、タンパク質ナノファイバーの配向方向に対して平行に配向していることが好ましい。このような構造となっていることは、例えば、XRD測定の2次元回折像における、特定の回折角に対して円環積した強度の方位角度分布により確認することができる。
【0308】
タンパク質構造体中のタンパク質ナノファイバーの太さ(直径)は、例えば1nm以上であってよく、好ましくは3nm以上である。また、タンパク質ナノファイバーの太さ(直径)は、例えば1000nm以下であってよく、好ましくは500nm以下である。
【0309】
タンパク質構造体中のタンパク質ナノファイバーの長さは、例えば10nm以上であってよく、好ましくは30nm以上である。
【0310】
なお、タンパク質構造体中、タンパク質ナノファイバーは互いに連結して長繊維化していてもよく、互いに結着して繊維束を形成していてもよい。
【0311】
本実施形態に係る製造方法により製造されたタンパク質構造体は、例えば、細胞シート、生体分子デバイス、フィルタ、紡糸、化粧品等の様々な分野に適用することができる。
【0312】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。
【実施例】
【0313】
以下、実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0314】
(実施例1) 配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むフィブロインの粉末試料を準備した。粉末試料300mgに、チオシアン酸グアニジンバッファー(5Mチオシアン酸グアニジン、10mM TrisHCl、pH7.0)を3mL加え、5分間振とう(1800rpm)させ、構造タンパク質溶液(フィブロイン溶液)を得た。得られたフィブロイン溶液の紫外・可視吸収を、NanoDrop(登録商標)で測定した。測定の結果、紫外・可視吸収スペクトルは280nmを極大とする吸収スペクトルを示し、顕著な散乱は見られなかった。この結果から、フィブロインが完全に溶解していることが確認された。
【0315】
次いで、構造タンパク質溶液に、終濃度が75体積%となるように(すなわち、4倍希釈となるように)、ボルテックスミキサーで撹拌(1800rpm、5分間)しながらエタノール9mLを加えた。これにより、溶液中に構造タンパク質微小体が形成された。遠心分離機(KUBOTA3740、株式会社久保田製作所製)を用いて、15000g、10分、20℃の条件で遠心分離を行い、構造タンパク質微小体を沈殿画分として回収した。その後、超純水で洗浄し、凍結乾燥を行って、253.8mgの構造タンパク質微小体を得た。
【0316】
得られた構造タンパク質微小体について、以下の方法で、ThT染色による蛍光強度測定、小角X線散乱(SAXS)の解析、Guinier解析、動的光散乱法による平均粒子径の測定を行った。
【0317】
<ThT染色による蛍光強度測定> 測定試料として、構造タンパク質微小体を分散液(6M尿素、10mM TrisHCl、5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に、5mg/mLの濃度で分散させ、更にThTを4μMとなるように添加したものを用いた。測定条件は、以下のとおりとした。 測定機器:JASCO FP-8200(日本分光株式会社製) 測定範囲:440~600nm 励起波長:450nm スキャンスピード:Medium 測定回数:3回
【0318】
ThT染色による蛍光強度測定の結果を、
図3にA1(実線)として示す。
図3のA1は、480~500nmの範囲内にピークを有しており、これにより、実施例1で得られた構造タンパク質微小体がβシート構造を有していることが確認された。
【0319】
<SAXSの測定> 測定試料として、構造タンパク質微小体を分散液(6M尿素、10mM TrisHCl、5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に、5mg/mLの濃度で分散させ、更にThTを4μMとなるように添加したものを用いた。測定条件は、以下のとおりとした。 測定装置:X線小角散乱測定装置NANO-Viewer (リガク社製)、X線発生装置MicroMAX007(リガク社製)、検出器PILATUS 200K(DECTRIS社製) 測定条件:X線波長1.5418Å(CuKα)、室温(20℃)、露光時間30分
【0320】
上記条件での測定後、円周平均を行い、1次元プロファイルを得た。1次元プロファイルを、IgorProソフトウェア(WaveMetrics社製)を用いて解析することで、Modified Kratky Plotを得た。得られたModified Kratky Plotを、
図4のA2(実線)で示す。
図4のA2は、Qが0.15以下の領域にピークを有している。また、Qが0.15以上0.3以下の領域における変化幅が±10%以下となっている。この結果から、構造タンパク質微小体が、電子密度が高いコア部と、当該コア部を囲むように配置されたランダムコイルと、を備えていることが確認された。
【0321】
<Guinier解析> (iii)構造タンパク質分子の会合の項に記載のとおり、Guinier解析を行った。その結果、第一の測定試料群から求められた原点散乱強度は20.617、第二の測定試料群から求められた原点散乱強度は7.38であり、構造タンパク質微小体が、3つの構造タンパク質分子の会合体であることが確認された。
【0322】
<動的光散乱法による平均粒子径の測定> 測定試料群として、構造タンパク質微小体を第一の分散液(6M尿素、10mM TrisHCl及び5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に、2mg/mL、4mg/mL、6mg/mL、8mg/mL、10mg/mLの濃度で分散させたものを準備した。 次いで、各測定試料について、以下の条件で動的光散乱法による粒度分布の測定を行い、体積平均径を求めた。 測定装置:ZETASIZER nano-ZS(マルバーン社製) 測定温度:20℃ 各測定試料について5回ずつ上記測定を行い、得られた測定値の平均値を求めた。 各測定試料の濃度及び測定値(平均値)から、濃度に対する平均粒子径のプロットを取り、分子間相互作用を排除した0濃度外挿を行った。0濃度外挿により得られた値を、構造タンパク質微小体の平均粒子径とした。
【0323】
上記の測定の結果、構造タンパク質微小体の平均粒子径は13.225nmであった。
【0324】
次に、得られた構造タンパク質微小体を用いて、ナノファイバーの製造を行った。
【0325】
具体的には、まず、グアニジンチオシアン酸水溶液(5M グアニジンチオシアン酸、10mM TrisHCl、5mM DTT、pH7.0)1mlに対し、タンパク質粉末(配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むフィブロインの粉末)8.33mgを加え、1分間、ボルテックスミキサーで撹拌した。この操作を6回繰り返し、投入した粉末量を50mgにした。その後、室温で一日静置させた。静置後、遠心分離機(KUBOTA 3740)を用いて遠心分離(20000g、20分、20℃)を行い、上清を回収した。その後、試料溶液を透析チューブ(BioDesign社製、#D100)に入れ、6M Urea溶液で二日透析(外液交換三回)した。これにより、構造タンパク質微小体を含まないタンパク質溶液(S0)(タンパク質の濃度:7.5mg/mL)を得た。次いで、構造タンパク質微小体を、分散液(6M尿素、10mM TrisHCl及び5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に、7.5mg/mLの濃度で分散させて、構造タンパク質微小体を含むタンパク質溶液(S1)を得た。
【0326】
溶液(S0)と溶液(S1)とをS0:S1=1:2(体積比)で混合し、希釈液(10mM TrisHCl、5mM DTT、pH7.0)で2倍希釈することで、ナノファイバーが得られた。
【0327】
なお、溶液(S
0)及び溶液(S
1)を用いて、S
0:S
1=1:0の測定試料(1)、S
0:S
1=0:2の測定試料(2)、及び、S
0:S
1=1:2の測定試料(3)を調製し、各測定試料について、ThT染色による蛍光強度の経時変化を測定した。結果を
図10に示す。
図10に示すとおり、測定試料(3)(
図10の実線)では、測定試料(1)(
図10の二点鎖線)の測定値及び測定試料(2)(
図10の長破線)の測定値の和(
図10中の(1+2)(
図10の短破線))と比較して、大幅に蛍光強度が増加した。このことから、溶液(S
0)中のタンパク質が、単独ではナノファイバーを形成していないにも関わらず、構造タンパク質微小体の存在下では、ナノファイバーの形成に寄与していることが確認された。
【0328】
(実施例2) 実施例1と同様にして、構造タンパク質溶液を得た。次いで、構造タンパク質溶液に、チオシアン酸グアニジンの濃度が1Mとなるまで水を添加し、その後、終濃度が75体積%となるように(すなわち、4倍希釈となるように)エタノールを加えた。これにより、溶液中に構造タンパク質微小体が形成された。遠心分離機(KUBOTA3740、株式会社久保田製作所製)を用いて、15000g、10分、20℃の条件で遠心分離を行い、構造タンパク質微小体を沈殿画分として回収した。その後、超純水で洗浄し、凍結乾燥を行って、構造タンパク質微小体を収率80%で得た。
【0329】
得られた構造タンパク質微小体について、実施例1と同様にThT染色による蛍光強度測定、小角X線散乱(SAXS)の解析、Guinier解析を行った。その結果、実施例1と同様の構造タンパク質微小体が得られていることが確認された。
【0330】
(実施例3) 配列番号13で示されるアミノ酸配列を含むフィブロインの粉末試料を準備した。粉末試料10mgに、尿素バッファー(3M尿素、10mM TrisHCl、pH7.0)を1mL加え、5分間振とう(1800rpm)させ、構造タンパク質溶液を得た。次いで、構造タンパク質溶液を1.5mLチューブに分注した。その後、これをボルテックスミキサーを用いて3400rpm、30分間振とうし、構造タンパク質溶液を高速回転させることで、構造タンパク質溶液にせん断応力を作用させた。これにより、溶液中に構造タンパク質微小体を形成し、構造タンパク質微小体が分散した分散液を得た。
【0331】
次いで、上記のようにして得られた構造タンパク質微小体分散液に、ThTを4μMとなるように添加し、実施例1と同様の分析条件で蛍光強度測定を行った。ThT染色による蛍光強度測定の結果を、
図11に実線で示す。
図11に実線で示されたグラフは、480~500nmの範囲内にピークを有していることから、構造タンパク質微小体の特徴を有していることが確認された。
【0332】
(比較例1) 剪断応力を作用させていないことを除いて実施例3と同様に調整したタンパク質溶液について、ThT染色による蛍光強度測定の結果を、
図11に破線で示す。蛍光極大波長は512nmであり、スペクトルはブロードな形状を示した。比較の結果より、単量体に剪断応力を作用させることで、構造タンパク質微小体が得られることが確認された。
【0333】
(実施例4) 配列番号13示されるアミノ酸配列を含むフィブロインの粉末試料を準備した。フィブロインの粉末試料5.1mgに、尿素バッファー(6M尿素、10mMtrisHCl、5mM DTT、pH7.0)を222μL加え、5分間振とう(1800rpm)後、超音波処理(20%、10秒、4回、インターバル10分)を行い、フィブロインを完全に溶解させた。次いで、フィブロインが溶解した溶液を、フィルタ(Ultrafree-MC-GV、DuraporePVDF0.22μm)を用いて濾過して不純物を取り除き、構造タンパク質溶液(フィブロイン溶液)を得た。得られた構造タンパク質溶液の紫外・可視吸収を、NanoDrop(登録商標)で測定した。測定の結果、紫外・可視吸収スペクトルは280nmを極大とする吸収スペクトルを示し、顕著な散乱は見られなかった。この結果から、フィブロインが完全に溶解していることが確認された。
【0334】
次いで、構造タンパク質溶液を、半透膜からなる透析チューブ(BioDesign社製、商品名#D100)に入れ、外溶液を3M尿素バッファー(3M尿素、10mMtrisHCl、2.5mMDTT、pH7.0)として透析を24時間行った。その後、外溶液をmiliQ(メルクミリポア社製)に変更して、更なる透析を行うことで、構造タンパク質ゲル(ハイドロゲル)を得た。なお、ここでは、かかる透析操作により、得られた構造タンパク質ゲル中に構造タンパク質微小体が形成されると共に、形
成された構造タンパク質微小体がナノファイバーに成長している。すなわち、ここで得られた構造タンパク質ゲル中には、繊維状物質として、構造タンパク質微小体やナノファイバーが含まれている。
【0335】
図12(a)に示すように、得られたタンパク質ゲルの一方向における両端を固定し、異方性応力が加わる形で乾燥させて、タンパク質構造体を得た。
【0336】
得られたタンパク質構造体の配向性を、X線回折(XRD)により確認した。具体的には、X線発生装置MicroMAX007(リガク社製)、検出器R-AXIS-IV(リガク社製)を用い、X線波長1.5418Å(CuKα)、室温(20℃前後)、カメラ長80mm、露光時間15分の条件で、X線回折パターンを得た。得られた2次元X線回折プロファイルを
図13に示す。
図13中、(1)~(4)は特定の回折角に対して円環積した強度の方位角度分布を示しており、(5)は子午線方向の回折強度プロファイルを示している。
図13に示すとおり、回折パターンが弧を描いており、且つスポット状に観察される部分があることから、タンパク質構造体中でタンパク質ナノファイバーが高度に配向していることが確認された。
【0337】
また、タンパク質構造体の配向性を、原子間力顕微鏡(AFM)により確認した。具体的には、SPM-9700(島津製作所製)、カンチレバー(オリンパス社製、OMCL-AC240TS-R3)を用い、ダイナミックモードで測定することにより、AFM像を得た。得られたAFM像を
図15(a)に示す。
図15(a)に示すとおり、AFM像において一方向に配向した繊維状物質が観察され、タンパク質構造体における高度な配向性が確認された。
【0338】
(比較例2) 実施例4と同様にしてタンパク質ゲルを調製した。ついで、
図12(b)に示すように、タンパク質ゲルを規則性無く固定して、乾燥させ、タンパク質構造体を得た。
【0339】
得られたタンパク質構造体について、実施例1と同様にX線回折(XRD)の解析及び原子間力顕微鏡(AFM)による観察を行った。得られた2次元X線回折プロファイルを
図14に示し、得られたAFM像を
図15(b)に示す。
図14に示すとおり、回折パターンはぼんやりとしたハローであり、タンパク質構造体に配向性が無いことが確認された。また、
図15(b)に示すとおり、AFM像において繊維状物質の配向は観察されなかった。
【0340】
(参考試験) タンパク質ゲルの製造過程で形成されるタンパク質微小体について、以下の方法で、ThT染色による蛍光強度測定、小角X線散乱(SAXS)の解析、Guinier解析、動的光散乱法による平均粒子径の測定を行った。
【0341】
<ThT染色による蛍光強度測定> 測定試料として、タンパク質微小体を分散液(6M尿素、10mM TrisHCl、5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に、5mg/mLの濃度で分散させ、更にThTを4μMとなるように添加したものを用いた。測定条件は、以下のとおりとした。 測定機器:JASCO FP-8200(日本分光株式会社製) 測定範囲:440~600nm 励起波長:450nm スキャンスピード:Medium 測定回数:3回
【0342】
ThT染色による蛍光強度測定の結果を、
図3にA1として示す。
図3のA1は、480~500nmの範囲内にピークを有しており、これにより、タンパク質微小体がβシート構造を有していることが確認された。
【0343】
<SAXSの測定> 測定試料として、タンパク質微小体を分散液(6M尿素、10mM TrisHCl、5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に、5mg/mLの濃度で分散させ、更にThTを4μMとなるように添加したものを用いた。測定条件は、以下のとおりとした。 測定装置:X線小角散乱測定装置NANO-Viewer (リガク社製)、X線発生装置MicroMAX007(リガク社製)、検出器PILATUS 200K(DECTRIS社製) 測定条件:X線波長1.5418Å(CuKα)、室温(20℃)、露光時間30分
【0344】
上記条件での測定後、円周平均を行い、1次元プロファイルを得た。1次元プロファイルを、IgorProソフトウェア(WaveMetrics社製)を用いて解析することで、Modified Kratky Plotを得た。得られたModified Kratky Plotを、
図4にA2(実線)として示す。
図4のA2は、Qが0.15以下の領域にピークを有している。また、Qが0.15以上0.3以下の領域における変化幅が±10%以下となっている。この結果から、タンパク質微小体が、電子密度が高いコア部と、当該コア部を囲むように配置されたランダムコイルと、を備えていることが確認された。
【0345】
<Guinier解析> (iii)タンパク質分子の会合の項に記載のとおり、Guinier解析を行った。その結果、第一の測定試料群から求められた原点散乱強度は20.617、第二の測定試料群から求められた原点散乱強度は7.38であり、タンパク質微小体が、3つのタンパク質分子の会合体であることが確認された。
【0346】
<動的光散乱法による平均粒子径の測定> 測定試料群として、タンパク質微小体を第一の分散液(6M尿素、10mM TrisHCl及び5mM DTTの水溶液、pH7.0)中に、2mg/mL、4mg/mL、6mg/mL、8mg/mL、10mg/mLの濃度で分散させたものを準備した。 次いで、各測定試料について、以下の条件で動的光散乱法による粒度分布の測定を行い、体積平均径を求めた。 測定装置:ZETASIZER nano-ZS(マルバーン社製) 測定温度:20℃ 各測定試料について5回ずつ上記測定を行い、得られた測定値の平均値を求めた。 各測定試料の濃度及び測定値(平均値)から、濃度に対する平均粒子径のプロットを取り、分子間相互作用を排除した0濃度外挿を行った。0濃度外挿により得られた値を、タンパク質微小体の平均粒子径とした。
【0347】
上記の測定の結果、タンパク質微小体の平均粒子径は13.225nmであった。
【産業上の利用可能性】
【0348】
天然の綿、絹、羊毛等は高精度に制御されたナノ構造の集合体である。一方、本発明により、高度に制御された構造をとるタンパク質ナノファイバーを人工的に工業規模で製造することが期待できる。また、本発明により製造されるタンパク質ナノファイバーは、細胞シート、生体分子デバイス、フィルタ、紡糸、化粧品等への応用も期待される。
【配列表】